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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20231226BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G02F1/1337
C08G73/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021530509
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2020019622
(87)【国際公開番号】W WO2021005888
(87)【国際公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019129596
(32)【優先日】2019-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】村上 嘉崇
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-137997(JP,A)
【文献】国際公開第2017/030170(WO,A1)
【文献】特開2007-145805(JP,A)
【文献】特開平07-270804(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スピロ環を有する単量体に由来する構造単位(M1)を有し、かつ桂皮酸構造含有基を有する重合体(A)を含有し、
前記重合体(A)は、スピロ環を主鎖中に有する、液晶配向剤。
【請求項2】
前記重合体(A)は、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリエナミン及びポリアミドよりなる群から選択される少なくとも一種である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
前記構造単位(M1)は、スピロ環を有する酸二無水物に由来する構造単位を含む、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記構造単位(M1)は、スピロ環を有するジアミンに由来する構造単位を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記重合体(A)は、スピロ環を有さず且つ桂皮酸構造含有基を有する構造単位(M2)を更に有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記構造単位(M1)は、桂皮酸構造含有基を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリウレアよりなる群から選択される少なくとも一種であって、かつ前記構造単位(M1)を有さない重合体(B)を更に含有する、請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項9】
請求項8に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【請求項10】
スピロ環を有する構造単位を有し、かつ桂皮酸構造含有基を有する重合体であって、スピロ環を主鎖中に有する、重合体。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年7月11日に出願された日本特許出願番号2019-129596号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0003】
液晶素子は、液晶分子を一定の方向に配向させる液晶配向膜を具備している。液晶配向膜は一般に、重合体成分が有機溶媒に溶解されてなる液晶配向剤を基板に塗布し、好ましくは加熱することにより形成される。液晶配向剤の重合体成分としては、機械的強度や液晶配向性、液晶との親和性に優れていることから、ポリアミック酸や可溶性ポリイミドが古くから使用されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
液晶配向剤によって形成された高分子薄膜に液晶配向能を付与する方法として、ラビング法に代わる技術として光配向法が提案されている。光配向法は、基板上に形成した感放射線性の有機薄膜に対し、偏光又は非偏光の放射線を照射することによって膜に異方性を与え、これにより液晶の配向を制御する方法である。光配向法によって液晶配向膜を形成するべく、従来、種々の液晶配向剤が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2011-257736号公報
【文献】特開2011-158835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶分子の長軸と基板面とのなす角度(プレチルト角)は、液晶素子の表示特性に大きく影響する。本発明者らは、光配向法により、液晶素子に電圧を印加していない初期状態において液晶分子の長軸が垂直方向よりも低い角度(例えば、プレチルト角が89度以下)で傾斜するように液晶の配向を制御し、これにより従来にも増して高精細な液晶素子を得ることを試みた。しかしながら、従来の配向膜材料を用いた場合、初期状態において液晶分子の長軸を垂直方向に対して十分に傾斜させることができず、低プレチルト化が困難であることが分かった。
【0007】
また、本発明者らは、光配向制御による低プレチルト化を図るために、液晶配向膜を構成する重合体成分の構造を剛直化することを検討した。しかしながら、重合体構造の剛直化と重合体の溶解性とはトレードオフの関係にあり、重合体構造を剛直化しようとすると、重合体の溶解性が低下する傾向がある。重合体成分が溶剤に均一に溶解されない場合、基板上に形成した液晶配向膜に塗布ムラが生じ、平坦な膜を形成できないおそれがある。この場合、製品歩留まりが低下したり、液晶配向性や電気特性等の表示性能に影響が及んだりすることが懸念される。
【0008】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、光配向法によって良好なプレチルト角特性を得ることができ、かつ基板に対する塗布性が良好な液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するべく鋭意検討し、スピロ骨格を重合体に導入することに着目し、スピロ環を有する単量体を用いたところ、上記課題を解決できることを見出した。具体的には、本開示によれば以下の手段が提供される。
[1] スピロ環を有する単量体に由来する構造単位(M1)を有し、かつ光配向性基を有する重合体(A)を含有する、液晶配向剤。
[2] 上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[3] 上記[2]の液晶配向膜を具備する液晶素子。
[4] スピロ環を有する構造単位を有し、かつ光配向性基を有する重合体。
【発明の効果】
【0010】
上記重合体(A)を液晶配向剤に含有させることにより、液晶配向剤の基板に対する良好な塗布性を確保しつつ、光配向法によって良好なプレチルト角特性を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示に関連する事項について詳細に説明する。
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、スピロ環を有する単量体に由来する構造単位(M1)を有し、かつ光配向性基を有する重合体(A)を含有する。
【0012】
<重合体(A)>
・光配向性基
重合体(A)が有する光配向性基は、光照射による光異性化反応、光二量化反応、光フリース転位反応、又は光分解反応によって膜に異方性を付与する官能基である。重合体(A)は、光配向性基を側鎖に有することが好ましい。光配向性基の具体例としては、アゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有基、桂皮酸又はその誘導体(桂皮酸構造)を基本骨格として含む桂皮酸構造含有基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含むベンゾフェノン含有基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有基、フェニルベンゾエート又はその誘導体を基本骨格として含むフェニルベンゾエート含有基、シクロブタン又はその誘導体を基本骨格として含むシクロブタン含有構造等が挙げられる。
【0013】
重合体(A)が有する光配向性基は、光感度が高い点で、上記のうち桂皮酸構造含有基であることが好ましい。具体的には、下記式(2)で表される桂皮酸構造を基本骨格として含む基であることが好ましい。
【化1】
(式(2)中、R11及びR12は、それぞれ独立して水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~3のフルオロアルキル基である。R13は、炭素数1~10のアルキル基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基で置換された炭素数1~10の置換アルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基で置換された炭素数1~10の置換アルコキシ基、フッ素原子、又はシアノ基である。aは0~4の整数である。aが2以上の場合、複数のR13は同一の基又は異なる基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0014】
上記式(2)で表される構造において、R11及びR12は、光反応性をより高くできる点で、共に水素原子であるか、又は一方が水素原子であって、他方(好ましくはR12)が炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。
13は、好ましくは炭素数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。aは、0~2が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0015】
得られる液晶素子のプレチルト角制御をより好適に行うことができる点で、上記式(2)中の2つの結合手「*」のうち一方は、環を有する基に結合していることが好ましい。具体的には、上記式(2)中の2つの結合手「*」の一方は、下記式(3)で表される基との結合手であることが好ましい。
【化2】
(式(3)中、X1Aは、式(2)中のフェニル基に結合している場合には、単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、酸素原子、硫黄原子、-CH=CH-、-NH-、-COO-又は-OCO-であり、式(2)中のカルボニル基に結合している場合には、単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、酸素原子、硫黄原子又は-NH-である。R14及びR15は、それぞれ独立して、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロヘキシレン基である。X1Bは、単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、酸素原子、硫黄原子、-CH=CH-、-NH-、-COO-又は-OCO-である。R16は、炭素数1~20のアルキル基、炭素数1~20のアルコキシ基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基で置換された炭素数1~20の置換アルキル基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基で置換された炭素数1~10の置換アルコキシ基、フッ素原子、シアノ基、フェニル基又はシクロヘキシル基である。rは0~3の整数である。rが2以上の場合、複数のR15は、互いに同一の基又は異なる基であり、複数のX1Bは、互いに同一の基又は異なる基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0016】
上記式(3)において、フェニレン基及びシクロヘキシレン基の環に結合する置換基は、炭素数1~3のアルキル基、フッ素原子又はシアノ基が好ましい。rは、0~2が好ましい。R16が炭素数1~20のアルキル基又はアルコキシ基である場合、R16は、炭素数2以上であることが好ましく、炭素数3以上であることがより好ましい。
【0017】
・構造単位(M1)
構造単位(M1)は、スピロ環を有する単量体(以下、「単量体A」ともいう。)に由来する構造単位である。単量体Aが有するスピロ環は、複数の単環を組み合わせてなる骨格を有していてもよいし、構成成分の少なくとも1個が縮合環又は橋かけ環である骨格を有していてもよい。また、スピロ環を構成する環は、炭化水素環及び複素環のいずれであってもよい。プレチルト角の低角化と、重合体の溶解性との両立を図る観点から、スピロ結合を形成している成分環のそれぞれの環員数は、4~20であることが好ましく、4~13であることがより好ましい。
【0018】
単量体Aが有するスピロ環は、環部分に置換基を有していてもよい。当該置換基としては、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のハロゲン化アルキル基、水酸基、オキソ基、ハロゲン原子等が挙げられる。単量体Aが有するスピロ原子の数は、低プレチルト化と重合体の溶解性とのバランスの観点から、好ましくは1又は2個、より好ましくは1個である。
【0019】
・その他の構造単位
重合体(A)は、構造単位(M1)のみからなる重合体であってもよいが、重合体(A)の溶解性をより良好にする観点から、構造単位(M1)とは異なる構造単位(以下、「その他の構造単位」ともいう。)を更に有していることが好ましい。重合体(A)が構造単位(M1)とその他の構造単位とを有する場合、構造単位(M1)が光配向性基を有していてもよいし、その他の構造単位が光配向性基を有していてもよい。単量体Aの選択の自由度を高くできる点、及び重合体における光配向性基の含有割合を調整しやすい点で、重合体(A)は、その他の構造単位として、スピロ環を有さず且つ光配向性基を有する構造単位(M2)を有していることが好ましい。
【0020】
重合体(A)において、構造単位(M1)の含有割合は、プレチルト角の低角化の効果を十分に得る観点から、重合体(A)を構成する単量体に由来する構造単位の全量に対して、5モル%以上であることが好ましく、10モル%以上であることがより好ましく、20モル%以上であることが更に好ましい。また、構造単位(M1)の含有割合は、重合体の溶解性を確保する観点から、重合体(A)を構成する単量体に由来する構造単位の全量に対して、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更に好ましい。
【0021】
・主骨格について
重合体(A)の主骨格は特に限定されない。プレチルト角の低角化の効果を十分に得ることができる点で、重合体(A)は、スピロ原子と2個の重合性基とを主鎖に有する単量体を用いた重合(例えば、重縮合、重付加又は求核置換重合)によって得られる重合体であることが好ましい。これらのうち、液晶分子との親和性や液晶配向性、機械的強度の観点から、重合体(A)は、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリエナミン及びポリアミンよりなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、ポリアミック酸、ポリイミド及びポリアミック酸エステルよりなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
【0022】
重合体(A)は、その主骨格に応じて、有機化学の定法に従い合成することができる。重合体(A)がポリアミック酸である場合、当該ポリアミック酸(以下、「ポリアミック酸(A)」ともいう。)は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。具体的には、単量体Aとして、スピロ環を有するテトラカルボン酸二無水物(以下、「特定酸二無水物」ともいう。)及びスピロ環を有するジアミン化合物(以下、「特定ジアミン」ともいう。)のうち一方又は両方を用いることにより、スピロ環を有する構造単位及び光配向性基を有するポリアミック酸を得ることができる。
【0023】
・特定酸二無水物
特定酸二無水物は、スピロ環と、2個の酸無水物基(*-CO-O-CO-*(ただし、2個の「*」はそれぞれ、同一の炭素原子又は異なる炭素原子に結合する結合手であることを表す。))とを有する限り、その分子構造は特に限定されない。なお、特定酸二無水物が有する2個の酸無水物基のうち少なくとも一方は、スピロ環内に含まれていてもよい。
【0024】
特定酸二無水物は、下記式(4)で表される化合物、下記式(5)で表される化合物及び下記式(6)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【化3】
(式(4)中、W~Wは、それぞれ独立して単結合又は炭素数1~10のアルカンジイル基である。)
【化4】
(式(5)中、W~Wは、それぞれ独立して単結合又は炭素数1~10のアルカンジイル基である。Xは、炭素数1~3のアルカンジイル基、酸素原子又は-NH-である。)
【化5】
(式(6)中、Y~Yは、それぞれ独立して、単結合、酸素原子又は炭素数1~10のアルカンジイル基である。ただし、Y及びYのうち一方が酸素原子又は単結合の場合、他方は炭素数1~10のアルカンジイル基であり、Y及びYのうち一方が酸素原子又は単結合の場合、他方は炭素数1~10のアルカンジイル基である。X及びXは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、-COO-、-OCO-、-NHCO-又は-CONH-である。R~Rは、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、フェニル基、ハロゲン原子又は水酸基である。n1及びn2は、それぞれ独立して0又は1である。t1~t4は、それぞれ独立して0~2の整数である。R~Rは、式中に複数存在する場合、複数の基は同一の基又は異なる基である。)
【0025】
上記式(4)~式(6)において、W~W、W~W、Y~Yが炭素数1~10のアルカンジイル基である場合、当該アルカンジイル基は直鎖状でも分岐状でもよい。その具体例としては、例えばメチレン基、エチレン基、1,3-プロパンジイル基、2,2-プロパンジイル基、1,4-ブタンジイル基、1,2-ブタンジイル基、3,3-ペンタンジイル基等が挙げられる。W~W、W~Wは、好ましくは単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。
~Yについて、Y、Y、及びYとYとが結合する3個の炭素原子によって形成される環、並びに、Y、Y、及びYとYとが結合する3個の炭素原子によって形成される環はそれぞれ、環員数5~7が好ましく、環員数5又は6がより好ましい。
は、メチレン基又はエチレン基が好ましい。
n1及びn2は、重合体の溶解性の観点から、n1及びn2の少なくとも一方が0であることが好ましく、n1及びn2が0であることがより好ましい。
【0026】
特定酸二無水物の具体例としては、上記式(4)で表される化合物として、下記式(4-1)~式(4-5)のそれぞれで表される化合物等を;上記式(5)で表される化合物として、下記式(5-1)~式(5-3)のそれぞれで表される化合物等を;上記式(6)で表される化合物として、下記式(6-1)~式(6-6)のそれぞれで表される化合物等を、それぞれ挙げることができる。
【化6】
【化7】
【0027】
ポリアミック酸(A)の合成に際しては、テトラカルボン酸二無水物として、スピロ環を有さないテトラカルボン酸二無水物(以下、「その他の酸二無水物」ともいう。)を使用してもよい。なお、ポリアミック酸(A)の合成に際し、単量体Aとして特定ジアミンを使用する場合、当該合成に際しては、テトラカルボン酸二無水物としてその他の酸二無水物のみを使用してもよい。その他の酸二無水物としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0028】
その他の酸二無水物の具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物等を;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、例えば1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、2,4,6,8-テトラカルボキシビシクロ[3.3.0]オクタン-2:4,6:8-二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物等を;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、例えばピロメリット酸二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、エチレングリコールビスアンヒドロトリメート、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、プロパン-1,3-ジイルビス(1,3-ジオキソ-1,3-ジヒドロイソベンゾフラン-5-カルボキシレート)等を、それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。その他の酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0029】
ポリアミック酸(A)の合成に際して特定酸二無水物を使用する場合、使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対する特定酸二無水物の使用割合は、特定酸二無水物によるプレチルト角の低角化を十分に図る観点から、合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対し10モル%以上とすることが好ましく、20モル%以上とすることがより好ましく、40モル%以上とすることがさらに好ましい。なお、特定酸二無水物としては、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
特定酸二無水物は、Bulletin of the Chemical Society of Japan, 72, 5, 1075-1081 (1999)、Journal of the Chemical Society, 121, 1644 (1922)、Justus Liebigs Annalen der Chemie, 593, 1-17 (1955)、Journal of Materials Chemistry, 7, 4, 589-592 (1997)、特許第4035365号公報、米国特許第5216173号明細書、米国特許出願公開第2018/371168号明細書、台湾特許出願公開第2017/31851号明細書等の記載に従って合成することができる。また、上記式(6)中のn1及びn2が1である化合物(すなわち、下記式(6A)で表される化合物)は、例えば、スピロ環を有するビスフェノールと無水トリメリット酸ハライドとを3級アミンの存在下、必要に応じて有機溶媒中で反応させることにより得ることができる。なお、特定酸二無水物の合成方法は上記に限定されるものではない。
【化8】
(上記式(6A)中、Y~Y、X、X、R~R及びt1~t4は、それぞれ上記式(6)と同義である。)
【0031】
・特定ジアミン
特定ジアミンは、スピロ環と、2個のアミノ基(1級アミノ基又は2級アミノ基)とを有する限り、その分子構造は特に限定されない。液晶素子の電気特性を良好にできる点、及び分子設計の自由度を高くできる点で、特定ジアミンは、好ましくは芳香族ジアミンであり、具体的には、下記式(7)で表される化合物であることが好ましい。
【化9】
(式(7)中、Y~Yは、それぞれ独立して、単結合、酸素原子又は炭素数1~10のアルカンジイル基である。ただし、Y及びYのうち一方が酸素原子又は単結合の場合、他方は炭素数1~10のアルカンジイル基であり、Y及びYのうち一方が酸素原子又は単結合の場合、他方は炭素数1~10のアルカンジイル基である。X及びXは、それぞれ独立して、酸素原子、硫黄原子、-COO-、-OCO-、-NHCO-又は-CONH-である。R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、フェニル基、ハロゲン原子又は水酸基である。R及びRは、それぞれ独立して、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、フェニル基、光配向性基を有する1価の基、ハロゲン原子又は水酸基である。n3及びn4は、それぞれ独立して0又は1である。t5~t8は、それぞれ独立して0~2の整数である。R~Rは、式中に複数存在する場合、複数の基は同一の基又は異なる基である。)
【0032】
上記式(7)において、Y~Yが炭素数1~10のアルカンジイル基である場合の説明は、上記式(6)中のY~Yの説明が適用される。
~Yについて、Y、Y、及びYとYとが結合する3個の炭素原子によって形成される環、並びに、Y、Y、及びYとYとが結合する3個の炭素原子によって形成される環はそれぞれ、環員数5~7が好ましく、環員数5又は6がより好ましい。
n3及びn4は、重合体の溶解性の観点から、少なくとも一方が0であることが好ましく、n3及びn4が共に0であることがより好ましい。
【0033】
及びRが光配向性基を有する1価の基(以下、「基R」ともいう。)である場合について、基Rが有する光配向性基の説明は、重合体(A)が有する光配向性基に関する上記説明が適用される。プレチルト角の低角化をより十分に図る観点から、基Rは、下記式(8)で表される基であることが好ましい。
【化10】
(式(8)中、Xは、酸素原子又は-NH-である。R21及びR22は、それぞれ独立して水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~3のフルオロアルキル基である。R23は置換基である。R24は炭素数1~30の1価の有機基である。a1は0~4の整数である。a1が2以上の場合、複数のR23は同一の基又は異なる基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0034】
上記式(8)において、R24は、上記式(3)で表される基であることが好ましい。
23の置換基は、炭素数1~3のアルキル基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基で置換された炭素数1~3の置換アルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基で置換された炭素数1~10の置換アルコキシ基、フッ素原子、又はシアノ基が好ましい。
21及びR22の説明は、上記式(2)中のR11及びR12の説明が適用される。
【0035】
特定ジアミンの具体例としては、例えば下記式(7-1)~式(7-12)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化11】
【化12】
(式(7-9)~式(7-12)中、nは1~20の整数である。)
【0036】
ポリアミック酸(A)の合成に際しては、ジアミン化合物として、スピロ環を有さないジアミン化合物(以下、「その他のジアミン」ともいう。)を使用してもよい。なお、ポリアミック酸(A)の合成に際し、単量体Aとして特定酸二無水物を使用する場合、当該合成に際しては、ジアミン化合物としてその他のジアミンのみを使用してもよい。その他のジアミンとしては、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミン等が挙げられる。
【0037】
その他のジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、メタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等を;
脂環式ジアミンとして、1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステニル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン、2,4-ジアミノ-N,N-ジアリルアニリン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、1,1-ビス(4-((アミノフェニル)メチル)フェニル)-4-ブチルシクロヘキサン、3,5-ジアミノ安息香酸=5ξ-コレスタン-3-イル、下記式(E-1)
【化13】
(式(E-1)中、XI及びXIIは、それぞれ独立に、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はXとの結合手を示す。)である。Rは炭素数1~3のアルカンジイル基である。RIIは単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。aは0又は1である。bは0~2の整数である。cは1~20の整数である。dは0又は1である。但し、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物、光配向性基を側鎖に有するジアミン等の側鎖型ジアミン:
【0038】
p-フェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-アミノフェニル-4-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,2-ビス(4-アミノフェノキシ)エタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、1,4-ビス-(4-アミノフェニル)-ピペラジン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-ベンジジン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、1,3-ビス(4-アミノフェネチル)ウレア、1,3-ビス(4-アミノベンジル)ウレア、1,4-ビス(4-アミノフェニル)-ピペラジン、N,N’-ビス-(4-アミノフェニルエチル)-N-メチルアミン、N,N’-ビス(4-アミノフェニル)-N,N’-ジメチルベンジジン、N4,N4’-ビス-(4-アミノフェニル)-N4,N4’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン等の主鎖型ジアミン等を;
ジアミノオルガノシロキサンとして、例えば、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を、それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンを用いることができる。なお、その他のジアミンとしては、1種を単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0039】
ポリアミック酸(A)の合成に際して特定ジアミンを使用する場合、使用するジアミン化合物の全量に対する特定ジアミンの使用割合は、特定ジアミンによるプレチルト角の低角化を十分に図る観点から、合成に使用するジアミン化合物の全量に対し10モル%以上とすることが好ましく、20モル%以上とすることがより好ましく、40モル%以上とすることがさらに好ましい。なお、特定ジアミンとしては、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
特定ジアミンは、Bulletin of the Chemical Society of Japan, 44, 496-505, 617-623, 2177-2181 (1971)、Journal of the American Chemical Society; vol.122; nb.9; (2000); p.2053-2061、Bulletin of the Korean Chemical Society; vol.34; nb.12; (2013); p.3888-3890等の記載に従って合成することができる。また、上記式(7)で表される化合物において、R及びRのうち少なくとも一方が光配向性基を有する1価の基であるジアミン化合物(下記式(7A)で表される化合物)は、例えば、光配向性基を有するカルボン酸を適当な塩素化剤で酸クロリド化した後に、スピロ環を有するビスフェノールと必要に応じて有機溶媒中で反応させることにより得ることができる。なお、特定ジアミンの合成方法は上記に限定されるものではない。
【化14】
(式(7A)中、Y~Y、X、Xは、R、R、n3、n4、及びt5~t8は、上記式(7)と同義である。R17は、炭素数1~5のアルキル基、炭素数1~5のアルコキシ基、フェニル基、光配向性基を有する1価の基、ハロゲン原子又は水酸基である。R18は、光配向性基を有する1価の基である。)
【0041】
低プレチルト化の改善効果をより高くできる点で、重合体(A)は、主鎖中にスピロ環を有していることが好ましい。この観点から、液晶配向剤に配合するポリアミック酸(A)は、構造単位(M1)として、上記式(6)で表される化合物及び上記式(7)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の化合物に由来する構造単位(以下、「構造単位U」ともいう。)を有していることが好ましい。ポリアミック酸(A)が有する構造単位Uの割合は、ポリアミック酸(A)の合成に際し使用される単量体に由来する構造単位の全量に対し、5モル%以上とすることが好ましく、10モル%以上とすることがより好ましく、20モル%以上とすることがさらに好ましい。また、ポリアミック酸(A)が有する構造単位Uの割合は、ポリアミック酸(A)の合成に際し使用される単量体に由来する構造単位の全量に対し、90モル%以下とすることが好ましく、80モル%以下とすることがより好ましい。
【0042】
・ポリアミック酸の合成
ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤(例えば、酸一無水物やモノアミン等)とともに反応させることにより得ることができる。ポリアミック酸の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が0.2~2当量となる割合が好ましい。
【0043】
ポリアミック酸の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と、他の有機溶媒(例えばブチルセロソルブ、ジエチレングリコールジエチルエーテルなど)との混合物を使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0044】
・ポリアミック酸エステル
重合体(A)がポリアミック酸エステルである場合、当該ポリアミック酸エステル(以下、「ポリアミック酸エステル(A)」ともいう。)は、例えば、[I]上記合成反応により得られたポリアミック酸(A)とエステル化剤とを反応させる方法、[II]テトラカルボン酸ジエステルと、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法、[III]テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物とを反応させる方法、などによって得ることができる。ポリアミック酸エステル(A)は、アミック酸エステル構造のみを有していてもよく、アミック酸構造とアミック酸エステル構造とが併存する部分エステル化物であってもよい。
【0045】
・ポリイミド
重合体(A)がポリイミドである場合、当該ポリイミド(以下、「ポリイミド(A)」ともいう。)は、上記の如くして合成されたポリアミック酸(A)を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドのイミド化率は、99%以下であることが好ましく、20~95%であることがより好ましい。なお、イミド化率は、ポリイミドのアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。
【0046】
ポリアミック酸(A)の脱水閉環は、好ましくは、ポリアミック酸(A)を有機溶媒に溶解し、その重合体溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加し、必要に応じて加熱する方法により行われる。この方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸などの酸無水物が挙げられる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸(A)のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、コリジン、ルチジン、トリエチルアミン等の3級アミンを用いることができる。合成に際しては、脱水閉環触媒の使用量を、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒が挙げられる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~180℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間である。
【0047】
プレチルト角の低角化の改善効果をより高くできる点で、ポリイミド(A)は、主鎖中にスピロ環を有していることが好ましい。重合体の主鎖中にスピロ環を有するポリイミド(A)は、例えば、[1]上記式(6)で表される酸二無水物及び上記式(7)で表されるジアミン化合物よりなる群から選択される少なくとも一種を用いて重合することにより重合体の主鎖中にスピロ環を導入した後、脱水閉環してイミド化する方法;[2]上記式(4)で表される酸二無水物及び上記式(5)で表される酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも一種を用いて重合し、脱水閉環してイミド化することに重合体の主鎖中にスピロ環を形成する方法(下記スキームA参照)、などが挙げられる。
【化15】
(スキームA中、R30は2価の有機基である。)
【0048】
・ポリエナミン
ポリエナミンは、ポリアミンのアミノ基の隣接位に炭素-炭素二重結合を有する重合体であり、例えばポリエナミノケトン、ポリエナミノエステル、ポリエナミノニトリル、ポリエナミノスルホニル等が挙げられる。重合体(A)がポリエナミンである場合、当該ポリエナミン(以下、「ポリエナミン(A)」ともいう。)は、α,β-不飽和化合物と、特定ジアミンを含むジアミン化合物との反応により得ることができる。ポリエナミン(A)の合成に使用するα,β-不飽和化合物としては、下記式(e-1)~式(e-8)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化16】
【0049】
ポリエナミンの合成方法は特に限定されないが、例えば、ビニル求核置換重合により合成することができる。この合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。反応に使用する有機溶媒としては、非プロトン性極性溶媒(N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド等)、フェノール系溶媒(フェノール、クレゾール等)、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。合成に際し、反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。上記反応は、必要に応じて、トリフルオロ酢酸等の触媒の存在下で行ってもよい。
【0050】
・ポリアミド
重合体(A)がポリアミドである場合、当該ポリアミド(以下、「ポリアミド(A)」ともいう。)は、ジカルボン酸又は無水ジカルボン酸と、特定ジアミンを含むジアミン化合物との反応により得ることができる。ポリアミド(A)の合成に使用するジカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。これらのジカルボン酸は、塩化チオニル等の適当な塩素化剤を用いて酸クロリド化した後にジアミン化合物との反応に供することが好ましい。無水ジカルボン酸としては、下記式(f-1)~式(f-8)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化17】
【0051】
ポリアミドの合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒(N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド等)、フェノール系溶媒(フェノール、クレゾール等)、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。合成に際し、反応温度は-20℃~150℃が好ましく、反応時間は0.1~24時間が好ましい。
【0052】
重合体(A)は、後述する条件で調製及び測定した溶液粘度が10~800mPa・sであることが好ましく、15~500mPa・sであることがより好ましい。なお、上記溶液粘度(mPa・s)は、重合体の良溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0053】
重合体(A)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~300,000であり、より好ましくは2,000~100,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。なお、液晶配向剤の調製に使用する重合体(A)は、1種のみでもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0054】
液晶配向剤中における重合体(A)の含有割合は、低プレチルト化を十分に図る観点から、液晶配向剤に含まれる重合体の全量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また、液晶配向剤の基板に対する塗布性をより良好にする観点から、重合体(A)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる全重合体に対し、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0055】
なお、重合体(A)を配合することによって、液晶配向剤の塗布性を確保しつつ、液晶素子の低プレチルト化を図ることができた理由は明らかではないが、一つの仮説として、スピロ環を有する単量体単位によって重合体の溶解性が確保されたと共に、主鎖配座の捻れによって主鎖が十分に固定化され、低プレチルト角形成能を発現できたものと推定される。なお、この推定は本開示を何ら限定するものではない。
【0056】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、必要に応じて、重合体(A)以外のその他の成分を含有していてもよい。
【0057】
(その他の重合体)
本開示の液晶配向剤には、重合体成分として、重合体(A)と共に、構造単位(M1)を有さない重合体(以下、「その他の重合体」ともいう。)が含有されていてもよい。その他の重合体は、特に限定されないが、得られる液晶配向膜の液晶配向性や電気特性、機械的強度の観点から、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリウレアよりなる群から選択される少なくとも一種の重合体(以下、「重合体(B)」ともいう。)を好ましく使用できる。重合体(B)は、より好ましくは、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0058】
重合体(B)の配合割合は、重合体(A)の配合によるプレチルト角の低角化の改善効果を十分に得る観点から、液晶配向剤の調製に使用する重合体(A)100質量部に対して、好ましくは100~2000質量部であり、より好ましくは200~1500質量部である。なお、重合体(B)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
重合体(B)につき、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。
【0059】
(架橋剤)
本開示の液晶配向剤は、架橋剤を含有していてもよい。架橋剤を液晶配向剤に配合することにより、プレチルト角の低角化の効果をより高めることができる点で好適である。架橋剤は、重合体(A)が有する官能基(例えば、アミノ基、カルボキシル基等)と反応可能な官能基を有する化合物であることが好ましく、具体的には、環状エーテル基、カルボキシル基、環状カーボネート基、アルコール性水酸基、アミノ基、保護アミノ基、保護イソシアネート基、トリアルコキシシリル基、及び重合性不飽和結合基よりなる群から選ばれる少なくとも一種を有する分子量1000以下の化合物であることが好ましい。これらのうち、エポキシ基を2個以上有する化合物を特に好ましく使用できる。架橋剤が有する架橋性基の数は、2個以上が好ましく、3個以上がより好ましい。
【0060】
架橋剤を配合する場合、液晶配向剤中における架橋剤の含有割合は、液晶配向剤中の重合体成分の全体量100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、架橋剤の含有割合は、過剰量の添加に起因する性能低下を抑制する観点から、液晶配向剤中の重合体成分の全体量100質量部に対し、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。なお、架橋剤としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0061】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体成分、及び必要に応じて任意に配合される成分が、好ましくは有機溶媒に溶解された溶液状の組成物として調製される。使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。溶剤成分は、これらの1種でもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0062】
溶剤成分としては、重合体の溶解性及びレベリング性が高い溶剤(以下、「第1溶剤」ともいう。)、濡れ広がり性が良好な溶剤(以下、「第2溶剤」ともいう。)、及びこれらの混合溶剤が挙げられる。
溶剤の具体例としては、第1溶剤として、例えばN-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジイソブチルケトン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、N-エチル-2-ピロリドン、N-(n-ペンチル)-2-ピロリドン、N-(t-ブチル)-2-ピロリドン、N-メトキシプロピル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド等を;
第2溶剤として、例えばエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、ダイアセトンアルコール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、3-メトキシ-1-ブタノール、シクロペンタノン、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、プロピレングリコールジアセテート、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル等を、それぞれ挙げることができる。これらのうち、第1溶剤と第2溶剤との混合溶剤を用いることが好ましい。
【0063】
液晶配向剤に含有させるその他の成分としては、上記のほか、例えば官能性シラン化合物、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0064】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上である場合には、十分な膜厚の塗膜を得ることができ、良好な液晶配向膜を得やすい。一方、固形分濃度が10質量%以下である場合には、塗膜の膜厚が過大となりすぎず、また、液晶配向剤の粘性を適度にすることができ、塗布性の低下を抑制することができる点で好適である。
【0065】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モード共通である。
【0066】
<工程1:塗膜の形成>
まず基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、フレキソ印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0067】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去すること等を目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~250℃であり、より好ましくは80~200℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0068】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、液晶配向能を更に高めるために、該塗膜に対し配向処理を施すとよい。配向処理としては、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。
【0069】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0070】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは400~50,000J/mであり、より好ましくは1,000~20,000J/mである。配向能付与のための光照射後において、基板表面を例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0071】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。PSAモードでは、液晶セルの構築後に、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。
【0072】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶素子とする。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0073】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなどの各種表示装置や、調光フィルム、位相差フィルム等に適用することができる。
【実施例
【0074】
以下、本開示を実施例により更に具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0075】
以下の例において、重合体溶液の溶液粘度、及びポリイミドのイミド化率は、以下の方法により測定した。
[重合体溶液の溶液粘度]
重合体溶液の溶液粘度(mPa・s)は、E型回転粘度計を用いて25℃で測定した。
[ポリイミドのイミド化率]
イミド化後の重合体を室温で減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解させ、テトラメチルシランを基準物質として室温でH-NMRを測定し、下記数式(I) で示される式により求めた。
イミド化率(%)=(1-A/A×α)×100 …(I)
(数式(I)中、Aは化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、Aはその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
【0076】
実施例で使用した化合物を下記に示す。なお、以下では、式(X)で表される化合物を単に「化合物(X)」と略すことがある。
【化18】
【化19】
【化20】
【化21】
【0077】
1.化合物の合成
[合成例1-1]
下記スキーム1に従って化合物(M-7)を合成した。
【化22】
【0078】
攪拌子を入れた500mlナスフラスコにトリメリット酸クロライド10.0g、脱水テトラヒドロフラン100mlを加え、氷浴で5℃以下に冷却した(これを混合液Aとする)。次に、攪拌子を入れた別の500mlナスフラスコに、3,3,3',3'-テトラメチル-2,2',3,3'-テトラヒドロ-1,1'-スピロビ[インデン]-6,6'-ジオール(Organic Letters 6, 2341-2343, (2004))14.6g、ピリジン3.8g、脱水テトラヒドロフラン100mlを加えてよく混合し、混合液Bを調製した。得られた混合液Bを、内温10℃以下を維持した状態で2時間かけて混合液Aに滴下した。滴下終了後、5℃以下で2時間、室温にゆっくり上昇させた後に6時間反応させた。その後、反応液に酢酸エチル100ml、THF100ml、純水100mlを加え、分液抽出を行った。続いて、有機層に純水100mlを加えて分液抽出する洗浄操作を2回実施した。有機層を回収し、エバポレーターにより濃縮することで固体を得た。
この析出固体に酢酸80ml、無水酢酸20mlを加え、110℃で3時間還流した。室温まで徐冷して得られた結晶をろ過、ヘキサン洗浄で洗浄した。真空乾燥後、目的化合物(M-7)8.2gを得た。
【0079】
[合成例1-2]
下記スキーム2に従って化合物(M-8)を合成した。
【化23】
【0080】
・中間体Aの合成
攪拌子を入れた2000mL三つ口フラスコに5,5’-ジアミノ-3,3,3’,3’-テトラメチル-2,2’,3,3’-テトラヒドロ-1,1’-スピロビ[インデン] -6,6’-ジオール(Bulletin of the Korean Chemical Society, 34, 12, 3888-3890 (2013))20.0g、テトラヒドロフランを1000g取り、トリエチルアミンを9.0g加え、氷浴した。そこに、二炭酸t-ブチル14.2gとテトラヒドロフラン150gからなる溶液を滴下し、室温で10時間攪拌した後、反応液に酢酸エチル450gを加え、蒸留水300gで4回分液洗浄した。その後、有機層を、内容量が100gになるまでロータリーエバポレーターによりゆっくり濃縮し、途中で析出してきた白色固体を濾過により回収した。この白色固体を真空乾燥することで化合物(中間体A)を30.2g得た。
・中間体Bの合成
攪拌子を入れた500mLナスフラスコに(E)-3-(4-((4-(4,4,4-トリフルオロブトキシ)ベンゾイル)オキシ)フェニル)アクリル酸30.0g、塩化チオニル90g、及びN,N-ジメチルホルムアミド0.02gを加え,80℃で1時間攪拌した。その後、過剰の塩化チオニルをダイヤフラムポンプで除去し、テトラヒドロフランを300g加え、溶液Dとした。
新たに、攪拌子を入れた2000mL三口フラスコに中間体Aを20.49g、テトラヒドロフラン400g、及びピリジン12.1gを加え、氷冷した。そこに溶液Dを滴下し、室温で3時間撹拌した。反応液を水7Lで再沈殿し、得られた白色固体を真空乾燥することで中間体Bを29.5g得た。
・化合物(M-8)の合成
攪拌子を入れた500mLナスフラスコに化合物(中間体B)を25.0g、トリフルオロ酢酸を6.0g取り、ジクロロメタンを200g加え、室温で1時間攪拌した。その後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液により中和した後、蒸留水100gで4回分液洗浄した。その後、有機層を内容量が50gになるまでロータリーエバポレーターによりゆっくり濃縮し、途中で析出してきた白色固体を濾過により回収した。この白色固体を真空乾燥することで目的化合物(M-8)を23.0g得た。
【0081】
化合物(M-1)~(M-6)、(M-9)及び(M-10)については、下記文献に記載の方法に従いそれぞれ合成した。
化合物(M-1):米国特許第5216173号明細書
化合物(M-2):Bulletin of the Chemical Society of Japan,72,5,1075-1081(1999)
化合物(M-3):Journal of the Chemical Society,121,1644(1922)
化合物(M-4):Justus Liebigs Annalen der Chemie,593,1-17(1955)
化合物(M-5):Bulletin of the Chemical Society of Japan,44,496-505(1971)
化合物(M-6):米国特許出願公開第2018/371168号明細書
化合物(M-9):台湾特許出願公開第2017/31851号明細書
化合物(M-10):Journal of Materials Chemistry,7,4,589-592(1997)
【0082】
2.重合体の合成
[合成例2-1]
化合物(M-1)50モル部、及び化合物(M-11)50モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、40℃で24時間反応させることにより重合体(PA-1)を20質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、γ-ブチロラクトンを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は28mPa・sであった。
[合成例2-2~2-4、2-7~2-15、2-17及び2-18]
使用する酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を下記表1に記載のとおり変更した点以外は合成例2-1と同様の操作を行うことにより、重合体(PA-2)~(PA-4)、(PA-7)~(PA-14)、(PR-1)、(PR-3)、(PR-4)を10質量%含有する溶液をそれぞれ得た。
【0083】
[合成例2-5]
化合物(M-4)50モル部、及び化合物(M-11)50モル部をNMPに溶解し、40℃で24時間反応させることによりポリアミック酸を20質量%含有する溶液を得た。次いで、得られたポリアミック酸溶液にNMPを追加して濃度10質量%の溶液とし、ピリジン300モル部及び無水酢酸300モル部を添加して110℃で4時間脱水閉環反応を行った。脱水閉環反応後、系内の溶媒を新たなγ-ブチロラクトンで溶媒置換し、さらに濃縮することにより、イミド化率約50%のポリイミド(これを「重合体(PA-5)」とする。)を20質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、γ-ブチロラクトンを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は37mPa・sであった。
【0084】
[合成例2-6]
モノマーとして化合物(M-4)50モル部、及び化合物(M-11)25モル部を用いたほかは合成例2-5と同様の操作を行うことによりイミド化率約50%のポリイミドを含有する溶液を得た。次いで、反応溶液中に化合物(M-14)25モル部を加えて溶解し、40℃で24時間反応させることにより重合体(PA-6)を10質量%含有する溶液を得た。この溶液を少量分取し、γ-ブチロラクトンを加えて濃度10質量%の溶液として測定した溶液粘度は31mPa・sであった。
[合成例2-16]
使用する酸無水物及びジアミンの種類及び量を下記表1に記載のとおり変更した点以外は合成例2-5と同様の操作を行うことにより、イミド化率約50%のポリイミド(これを「重合体(PR-2)」とする。)を20質量%含有する溶液を得た。
【0085】
【表1】
【0086】
表1中、酸二無水物及びジアミン化合物の数値は、各重合体の合成に使用したモノマーの全量に対する各化合物の使用割合(モル%)を表す。
【0087】
[合成例2-19]
1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CB)100モル部、及び2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(mTB)100モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、室温で6時間反応させることにより重合体(PAA-A)を10質量%含有する溶液を得た。
[合成例2-20]
2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物(TCA)100モル部、及びN4,N4’-ビス-(4-アミノフェニル)-N4,N4’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジアミン(DABzM)30モル部、及びジアミノジフェニルメタン(DDM)70モル部をNMPに溶解し、60℃で6時間反応させることにより重合体(PAA-B)を10質量%含有する溶液を得た。
[合成例2-21]
1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物(CB)100モル部、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン(BISP)30モル部、及び4,4’-ジアミノジフェニルメタン(DDM)70モル部をNMPに溶解し、60℃で6時間反応させることにより重合体(PAA-C)を10質量%含有する溶液を得た。
【0088】
[実施例1]
(1)液晶配向剤の調製
上記合成例2-17で得た重合体(PAA-A)を含む溶液に、上記合成例2-1で得た重合体(PA-1)を含む溶液、並びに溶剤としてNMP及びブチルセロソルブ(BC)を加え、重合体割合が重合体(PAA-A):重合体(PA-1)=80:20(質量比)、溶剤組成がNMP/BC=50/50(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0089】
(2)光垂直型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行い、膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて、313nmの輝線を含む偏光紫外線200J/mを、基板法線から40°傾いた方向から室温で照射した。次いで、庫内を窒素置換したオーブン中、160℃で40分間加熱(本焼成)して液晶配向膜とした。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を形成した基板を一対(2枚)作成した。
液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの1枚における、液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板に照射した紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように一対の基板を圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙に、ネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、液晶セルを150℃で加熱してから室温まで徐冷した。次いで、液晶セルにおける基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜形成時に照射した紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせた。
【0090】
(3)プレチルト角の評価
上記(2)で製造した液晶表示素子につき、非特許文献(T. J. Scheffer et. al. J. Appl. Phys. vo. 19. p2013(1980))に記載の方法に準拠してHe-Neレーザー光を用いる結晶回転法により測定した液晶分子の基板面からの傾き角の値をプレチルト角とした。このとき、プレチルト角が88.0度以下の場合に「良好(◎)」、88.0度よりも大きく89.0度未満の場合に「可(○)」、89.0°以上の場合に「不良(×)」とした。その結果、この実施例では「可(○)」の評価であった。
【0091】
(4)塗布均一性の評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した200℃のオーブンで1時間加熱(ポストベーク)することにより平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜の表面を原子間力顕微鏡(AFM)にて観察し、中心平均粗さ(Ra)を測定することにより塗膜表面の均一性を評価した。Raが5nm以下の場合を塗布均一性「良好(○)」、5nmよりも大きく10nm未満の場合を「可(△)」、10nm以上の場合を「不良(×)」と評価した。その結果、この実施例では「良好(○)」の評価であった。
【0092】
[実施例2~15、比較例1~4]
液晶配向剤の配合処方を下記表2の通りに変更した点以外は実施例1と同様にして液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、調製した各液晶配向剤を用い、実施例1と同様にして光垂直型液晶表示素子を製造するとともに、実施例1と同様にして各種評価を行った。それらの結果を下記表2に示した。なお、実施例2及び実施例5については、液晶配向剤に添加剤を、重合体成分の全量100質量部に対して5質量部ずつ配合した。
【0093】
【表2】
【0094】
なお、表2中、「ブレンド比」は、重合体1と重合体2との配合比率(質量比)を表す。添加剤の略称は以下の化合物を表す。
Add-A:下記式(Add-A)で表される化合物
Add-B:下記式(Add-B)で表される化合物
【化24】
【0095】
上記表2に示すように、重合体(A)を含有する液晶配向剤とした実施例1~15では、プレチルト角が89度未満であり、重合体(A)を含有しない比較例1~4に比べて、液晶分子の垂直方向からの傾斜角度を十分に大きくすることができた。なお、比較例4の液晶配向剤は光配向性を示さなかったため、プレチルト角評価の欄には「-」と示した。
また、実施例1~15の液晶配向剤は、基板に対する塗布性も「良好」又は「可」の評価であった。
特に、架橋剤を配合した実施例5、及びポリイミド(A)を用いた実施例6、7では、プレチルト角評価が「良好(◎)」であり、また液晶配向剤の塗布性も「良好(○)」であり、特に優れていた。また、重合体(PA-13)を用いた実施例14、重合体(PA-14)を用いた実施例15についても、プレチルト角評価が「良好(◎)」、液晶配向剤の塗布性が「良好(○)」であり、特に優れていた。
以上の結果から、重合体(A)を用いて液晶配向剤を調製することにより、基板に対する塗布性を良好に保ちつつ、プレチルト角特性に優れた液晶配向膜を形成できることが分かった。