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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/1337 20060101AFI20231226BHJP
   C08F 22/40 20060101ALI20231226BHJP
   C08F 20/34 20060101ALI20231226BHJP
   C08F 32/08 20060101ALI20231226BHJP
   C08F 12/26 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G02F1/1337 520
G02F1/1337 525
C08F22/40
C08F20/34
C08F32/08
C08F12/26
G02F1/1337 530
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021550451
(86)(22)【出願日】2020-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2020032937
(87)【国際公開番号】W WO2021070515
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2019187165
(32)【優先日】2019-10-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】廣▲瀬▼ 陽一
(72)【発明者】
【氏名】岡田 敬
【審査官】磯崎 忠昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-101999(JP,A)
【文献】特開2012-180482(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1337
C08F 26/00
C08L 39/00
C08L 79/02
C08L 79/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の単量体に由来する構造単位を有する重合体(A)を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)及び式(2)中、R及びRは、R及びRのうち一方が重合性基を有する1価の基であり、他方が水素原子若しくは1価の有機基であるか、又は、R及びRが互いに合わせられR及びRが結合する窒素原子と共に構成される環構造を表す。ただし、前記環構造は、重合性炭素-炭素不飽和結合を有する。Aは1価の有機基であり、Aは水酸基又は1価の有機基である。n1及びn2は、それぞれ独立に、0≦n1+n2≦8を満たす整数である。)
【請求項2】
前記Aは、光配向性基を有する1価の基である、請求項1に記載の液晶配向剤。
【請求項3】
ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリウレアよりなる群から選択される少なくとも一種である重合体(B)を更に含有する、請求項1又は2に記載の液晶配向剤。
【請求項4】
前記重合体(A)は、環状エーテル構造及び環状カーボネート構造よりなる群から選択される少なくとも一種を有する単量体に由来する構造単位を有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項5】
前記重合体(A)は、カルボキシル基及び保護カルボキシル基よりなる群から選択される少なくとも一種を有する単量体に由来する構造単位を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項6】
前記重合体(A)又は添加剤成分として、光照射により増感作用を示す光増感機能を発現可能な部分構造を有する化合物を含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の液晶配向剤。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
【請求項8】
請求項7に記載の液晶配向膜を具備する液晶素子。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2019年10月10日に出願された日本特許出願番号2019-187165号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、液晶配向剤、液晶配向膜及び液晶素子に関する。
【背景技術】
【0003】
液晶素子は、液晶分子を一定の方向に配向させる液晶配向膜を具備している。液晶配向膜は一般に、重合体成分が有機溶媒に溶解されてなる液晶配向剤を基板に塗布し、好ましくは加熱することにより形成される。液晶配向剤の重合体成分としては、機械的強度や液晶配向性、液晶との親和性に優れていることから、ポリアミック酸や可溶性ポリイミドが古くから使用されている。
【0004】
液晶配向剤によって形成された高分子薄膜に液晶配向能を付与する方法として、ラビング法に代わる技術として光配向法が提案されている。光配向法は、基板上に形成した感放射線性の有機薄膜に対し、偏光又は非偏光の放射線を照射することによって膜に異方性を与え、これにより液晶の配向を制御する方法である。
【0005】
光配向法によって液晶配向膜を形成するための液晶配向剤として、ポリアミック酸及び可溶性ポリイミドとは異なる主骨格からなる重合体を含有する液晶配向剤が提供されている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。特許文献1には、無水マレイン酸構造を有する重合体と、光配向性基を有する1級アミン化合物との反応生成物を含有する光配向性組成物が開示されている。特許文献2には、ポリ(マレイミド)、ポリ(マレイミド-スチレン)を主鎖とし、側鎖に感光性基が導入された第1高分子と、側鎖に長鎖アルキル基を有する第2高分子とを含む光配向性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第2015-138548号公報
【文献】特許第2962473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
液晶分子の長軸と基板面とのなす角度(プレチルト角)は、液晶素子の表示特性に大きく影響する。本発明者らは、液晶分子の長軸が垂直方向に対して適度な角度で傾斜するように(例えば、垂直配向型の液晶素子においてプレチルト角が89度以下となるように)液晶の配向制御を行うことにより、従来にも増して高精細な液晶素子を得ることを試みた。しかしながら、特許文献1や特許文献2の配向膜材料を用いて液晶配向膜を形成した場合、垂直方向に対して液晶分子の長軸を十分に傾斜できず、プレチルト角が所望とする角度よりも高くなることが分かった。
【0008】
また近年、膜形成時の加熱工程において低温焼成を可能にすること等を目的として、液晶配向剤の溶剤成分として低沸点溶剤を使用することが求められることがある。重合体成分が溶剤に均一に溶解されない場合、基板上に形成した液晶配向膜に塗布ムラが生じ、平坦な膜を形成できない(塗布均一性に劣る)おそれがある。この場合、製品歩留まりが低下したり、液晶配向性や電気特性等の表示性能に影響が及んだりすることが懸念される。
【0009】
さらに、低温焼成により液晶配向膜を形成した場合、液晶配向膜のプレチルト角が、従来の高温焼成(例えば、230~250℃程度の温度による加熱処理)によって得られる液晶配向膜のプレチルト角からずれることがある。こうした膜形成時の加熱温度の相違によるプレチルト角のばらつき(以下、「ポストベークマージン」ともいう。)は、液晶素子の表示品位に影響するため、できるだけ小さいことが望まれる。
【0010】
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、塗布均一性が良好であり、かつプレチルト角特性に優れた液晶配向膜を形成することができる液晶配向剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上記課題を解決するべく、特定の構造を有する重合体を液晶配向剤の重合体成分として用いたところ、上記課題を解決できることを見出した。具体的には、本開示によれば以下の手段が提供される。
【0012】
[1]下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の単量体に由来する構造単位を有する重合体(A)を含有する、液晶配向剤。
【化1】
(式(1)及び式(2)中、R及びRは、R及びRのうち一方が重合性基を有する1価の基であり、他方が水素原子若しくは1価の有機基であるか、又は、R及びRが互いに合わせられR及びRが結合する窒素原子と共に構成される環構造を表す。ただし、前記環構造は、重合性炭素-炭素不飽和結合を有する。Aは1価の有機基であり、Aは水酸基又は1価の有機基である。n1及びn2は、それぞれ独立に、0≦n1+n2≦8を満たす整数である。)
[2]上記[1]の液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜。
[3]上記[2]の液晶配向膜を具備する液晶素子。
[4]上記式(1)で表される化合物及び上記式(2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の単量体に由来する構造単位を有する重合体。
[5]上記式(1)で表される化合物。
[6]上記式(2)で表される化合物。
【発明の効果】
【0013】
上記重合体(A)を液晶配向剤に含有させることにより、塗布均一性が良好な液晶配向剤を得ることができる。また、上記液晶配向剤を用いて液晶配向膜を形成することにより、液晶分子の垂直方向からの傾斜角度を十分に大きくすることができるとともに、膜形成時の加熱温度の相違によるプレチルト角のばらつきを小さくすることができる。すなわち、上記液晶配向剤によれば、プレチルト角特性に優れた液晶配向膜を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示に関連する事項について詳細に説明する。
≪液晶配向剤≫
本開示の液晶配向剤は、下記式(1)で表される化合物及び下記式(2)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種の単量体(R1)に由来する構造単位U1を有する重合体(A)を含有する。
【化2】
(式(1)及び式(2)中、R及びRは、R及びRのうち一方が水素原子又は1価の有機基であり、他方が重合性基を有する1価の基であるか、又は、R及びRが互いに合わせられR及びRが結合する窒素原子と共に構成される環構造を表す。ただし、前記環構造は、重合性炭素-炭素不飽和結合を有する。Aは1価の有機基であり、Aは水酸基又は1価の有機基である。n1及びn2は、それぞれ独立に、0≦n1+n2≦8を満たす整数である。)
【0015】
<重合体(A)>
(構造単位U1)
上記式(1)及び式(2)において、A及びAの1価の有機基としては、炭素数1~40の1価の炭化水素基、当該炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が、-O-、-CO-、-COO-、-NR10-又は-CONR10-(ただし、R10は水素原子又は1価の炭化水素基である。)で置換された基(以下、「基α」ともいう。)、炭素数1~40の1価の炭化水素基又は基αの少なくとも1個の水素原子がフッ素原子又はシアノ基で置換された基が挙げられる。
【0016】
ここで、本明細書において「炭化水素基」は、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
【0017】
本開示の液晶配向剤を、光配向膜を形成するための重合体組成物とする場合、上記式(1)中のAは、光配向性基を有する1価の基であることが好ましい。Aが有する光配向性基は、光照射による光異性化反応、光二量化反応、光フリース転位反応、又は光分解反応によって膜に異方性を付与する官能基であることが好ましい。
【0018】
が光配向性基を有する場合、その光配向性基の具体例としては、アゾベンゼン又はその誘導体を基本骨格として含むアゾベンゼン含有基、桂皮酸又はその誘導体(桂皮酸構造)を基本骨格として含む桂皮酸構造含有基、カルコン又はその誘導体を基本骨格として含むカルコン含有基、ベンゾフェノン又はその誘導体を基本骨格として含むベンゾフェノン含有基、クマリン又はその誘導体を基本骨格として含むクマリン含有基、フェニルベンゾエート又はその誘導体を基本骨格として含むフェニルベンゾエート含有基、シクロブタン又はその誘導体を基本骨格として含むシクロブタン含有構造等が挙げられる。光感度が高い点で、光配向性基は、これらのうち桂皮酸構造含有基であることが好ましい。具体的には、下記式(3)で表される桂皮酸構造を基本骨格として含む基であることが特に好ましい。
【化3】
(式(3)中、R11及びR12は、それぞれ独立して水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~3のアルキル基、又は炭素数1~3のフルオロアルキル基であり、R13は、フッ素原子若しくはシアノ基を有していてもよい炭素数1~10のアルキル基、フッ素原子若しくはシアノ基を有していてもよい炭素数1~10のアルコキシ基、フッ素原子、又はシアノ基である。aは0~4の整数である。aが2以上の場合、複数のR13は同一の基又は異なる基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0019】
上記式(3)で表される構造において、R11及びR12は、光反応性をより高くできる点で、共に水素原子であるか、又は一方が水素原子であって、他方(好ましくはR12)が炭素数1~3のアルキル基であることが好ましい。
13は、好ましくは炭素数1~5のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基である。aは、0~2が好ましく、0又は1がより好ましい。
【0020】
得られる液晶素子のプレチルト角制御をより好適に行うことができる点で、上記式(3)中の2つの結合手「*」のうち一方は、ベンゼン環及びシクロヘキサン環の少なくとも一方を合計1個以上有する基に結合していることが好ましく、ベンゼン環及びシクロヘキサン環の少なくとも一方を合計2個以上有する基に結合していることがより好ましい。具体的には、上記式(3)中の2つの結合手「*」の一方は、下記式(4)で表される基との結合手であることが好ましい。
【化4】
(式(4)中、Xは、式(3)中のフェニル基に結合している場合には、単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、酸素原子、硫黄原子、-CH=CH-、-NH-、-COO-又は-OCO-であり、式(3)中のカルボニル基に結合している場合には、単結合、炭素数1~3のアルカンジイル基、酸素原子、硫黄原子又は-NH-である。R14は、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロヘキシレン基であり、R15は、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロヘキシレン基である。R16は、フェニル基若しくはシクロヘキシル基であるか、又はフェニル基若しくはシクロヘキシル基の少なくとも1個の水素原子が、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基で置換された炭素数1~10の置換アルキル基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基によって置換された炭素数1~10の置換アルコキシ基、フッ素原子、又はシアノ基で置換された1価の基である。rは0~3の整数である。rが2以上の場合、複数のR15は、同一の基又は異なる基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0021】
上記式(4)において、フェニレン基及びシクロヘキシレン基の環に結合する置換基は、炭素数1~3のアルキル基、フッ素原子又はシアノ基が好ましい。rは、0又は1が好ましい。R16は、フェニル基若しくはシクロヘキシル基の少なくとも1個の水素原子が、置換又は無置換のアルキル基又はアルコキシ基によって置換された1価の基であることが好ましい。この場合、置換又は無置換のアルキル基又はアルコキシ基は、炭素数2以上であることが好ましく、炭素数3以上であることがより好ましい。
【0022】
上記式(1)及び式(2)中のAは、重合体(A)の溶剤に対する溶解性をより良好にする観点から、水酸基又は基「-OR17」(ただし、R17は炭素数1~10の1価の炭化水素基)が好ましく、水酸基又は炭素数1~3のアルコキシ基がより好ましく、水酸基又はメトキシ基が更に好ましい。
【0023】
単量体(R1)は、-CO-N(A)-CO-を含む飽和複素環、又は当該飽和複素環が開環した構造を有する。上記式(1)及び式(2)中のn1+n2は、1以上が好ましく、1~6の整数であることがより好ましい。単量体(R1)は、溶剤に対する溶解性により優れた重合体を得ることができる点で、上記式(2)で表される化合物、すなわち上記式(1)で表される化合物の開環体が好ましい。
【0024】
上記式(1)及び上記式(2)において、R及びRは、R及びRのうち一方が重合性基を有する1価の基であり、他方が水素原子又は1価の有機基であるか、又は、R及びRが互いに合わせられR及びRが結合する窒素原子と共に構成される環構造(以下、「環構造X」ともいう。)を表す。ただし、環構造Xは、環内に重合性炭素-炭素不飽和結合を有する。R及びRのうちの一方が有する重合性基、及び環構造Xが有する重合性炭素-炭素不飽和結合は、重合体(A)の主骨格に応じて選択することができる。重合体(A)は、単量体の付加重合により生成される重合体(以下、「付加重合体(A1)」ともいう。)であってもよく、単量体の縮合重合により生成される重合体(以下、「縮合重合体(A2)」ともいう。)であってもよい。
【0025】
(付加重合体)
付加重合体(A1)は、重合性基として炭素-炭素不飽和結合を含む基を有する単量体を用いて得られる重合体であればよく、その主骨格は特に限定されない。付加重合体(A1)は、重合性基が炭素-炭素不飽和結合を含む基である単量体(R1)を用いた付加重合により得ることができる。
【0026】
付加重合体(A1)の合成に使用される単量体(R1)において、R及びRのうち一方が重合性基を有する1価の基であり、他方が水素原子又は1価の有機基である場合、重合性基を有する1価の基は、下記式(5)で表される基であることが好ましい。
【化5】
(式(5)中、Yは、ビニルフェニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニル基、ビニルオキシ基、又はマレイミド基であり、R18は、単結合、炭素数1~20の2価の炭化水素基であり、Xは、単結合、-CO-、*-O-CO-、又は*-NH-CO-(ただし、「*」はR18との結合手を表す。)である。「*」は、式(1)又は式(2)中の窒素原子との結合手であることを表す。)
【0027】
付加重合体(A1)の合成に使用される単量体(R1)において、R及びRが、互いに合わせられて環構造Xを構成している場合、環構造Xは、単環でもよく多環(縮合環及び橋かけ環を含む。)でもよい。環構造Xは、炭素数4~15であることが好ましく、炭素数4~12であることがより好ましい。
【0028】
環構造Xの好ましい具体例としては、下記式(x1-1)~式(x1-4)のそれぞれで表される単環構造;下記式(x2-1)~式(x2-8)のそれぞれで表される多環構造等が挙げられる。
【化6】
(式中、「*」は結合手であることを表す。)
【0029】
付加重合体(A1)の合成に使用される単量体(R1)の具体例としては、上記式(1)で表される化合物として、下記式(r1-1)~式(r1-29)のそれぞれで表される化合物等を;上記式(2)で表される化合物として、例えば下記式(r1-1)~式(r1-29)のそれぞれで表される化合物が有するスクシンイミド環又はグルタルイミド環が開環した化合物(開環体)等を、それぞれ挙げることができる。
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
(式(r1-1)~(r1-29)中、R20は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基で置換された炭素数1~10の置換アルキル基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基によって置換された炭素数1~10の置換アルコキシ基、フッ素原子、又はシアノ基である。R21は、水素原子又はメチル基である。R22は、炭素数1~10のアルカンジイル基である。)
【0030】
単量体(R1)は、有機化学の定法に従って合成することができる。一例としては、アミノアルカン二酸(例えば、2-アミノブタン酸、2-アミノペンタン二酸等)を原料に用いて下記式(R-1)で表される化合物を合成し、さらに、下記式(R-1)で表される化合物と下記式(R-2)で表される化合物とを反応させることにより、上記式(2)で表される化合物を得ることができる。また、上記式(2)で表される化合物を、必要に応じて触媒(例えば、塩化亜鉛、シリル化剤等)の存在下で閉環させることにより、上記式(1)で表される化合物を得ることができる。ただし、単量体(R1)の合成方法は上記に限定されるものではない。
【化14】
(式(R-1)及び式(R-2)中、R、R、A、n1及びn2は、上記式(1)及び式(2)と同義である。)
【0031】
付加重合体(A1)における構造単位U1の含有割合は、プレチルト角特性(初期プレチルト角及びポストベークマージン)をより良好にする観点から、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対し、1モル%以上であることが好ましく、2モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることがさらに好ましい。また、構造単位U1の含有割合は、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対し、100モル%以下の範囲で任意に設定することができる。構造単位U1とは異なるその他の構造単位を導入する場合、構造単位U1の含有割合は、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対し、90モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがより好ましく、60モル%以下であることがさらに好ましく、50モル%以下であることが特に好ましい。なお、付加重合体(A1)が有する構造単位U1は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0032】
(その他の構造単位)
付加重合体(A1)は、構造単位U1のみを有していてもよいが、構造単位U1と共に、単量体(R1)とは異なる単量体に由来する構造単位(以下、「その他の構造単位」ともいう。)を有していてもよい。付加重合体(A1)は、その他の構造単位として、マレイミド構造含有化合物、(メタ)アクリル化合物、スチレン構造含有化合物、無水マレイン酸構造含有化合物、及び環状オレフィン化合物よりなる群から選択される少なくとも一種に由来する構造単位を有していることが好ましい。
【0033】
マレイミド構造含有化合物は、マレイミド環を有する化合物又はその開環体であればよく、特に限定されない。マレイミド構造含有化合物の具体例としては、下記式(z-1)で表される化合物及び下記式(z-2)で表される化合物等が挙げられる。
【化15】
(式(z-1)及び式(z-2)中、R31、R32、R34及びR35は、それぞれ独立して、水素原子又はメチル基である。R33及びR36は、それぞれ独立して1価の有機基である。)
【0034】
上記式(z-1)及び式(z-2)中、R33及びR36の1価の有機基としては、炭素数1~40の1価の炭化水素基、当該炭化水素基の少なくとも1個のメチレン基が、-O-、-CO-、-COO-、-NR26-又は-CONR26-(ただし、R26は水素原子又は1価の炭化水素基である。)で置換された基(以下、「基β」ともいう。)、炭素数1~40の1価の炭化水素基又は基βの少なくとも1個の水素原子が、フッ素原子、シアノ基、カルボキシル基、エポキシ基、水酸基又は環状カーボネート基等の置換基によって置換された基が挙げられる。R33及びR36の1価の有機基は、光配向性基を有する基、垂直配向性基を有する基、又は架橋性基を有する基であることが好ましい。R33及びR36の1価の有機基が光配向性基を有する基である場合、当該光配向性基を有する基は、上記式(3)で表される桂皮酸構造を有する基であることが好ましい。
【0035】
ここで、「垂直配向性基」とは、液晶配向剤を用いて形成した塗膜に対し、液晶分子に所望のプレチルト角を誘起させる機能を付与する官能基である。この垂直配向性基は、光照射によらずに液晶分子を垂直配向させる性質を示す。垂直配向性基の具体例としては、炭素数4~40のアルキル基、炭素数4~40のアルコキシ基、炭素数4~40のフルオロアルキル基、炭素数4~40のフルオロアルコキシ基、2個以上の環(好ましくは、1,4-フェニレン基及び1,4-シクロヘキシレン基)が単結合又は2価の連結基(-O-、-COO-、炭素数1~3のアルカンジイル基等)を介して結合された構造を有する炭素数12~50の基、ステロイド骨格を有する炭素数17~51の基等が挙げられる。
【0036】
マレイミド構造含有化合物の一例としては、例えばN-メチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、4-カルボキシフェニルマレイミド、2-メチルフェニルマレイミド、4-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-コレスタニルオキシカルボニルフェニルマレイミド、及びこれら化合物のマレイミド環が開環した化合物(開環体)等が挙げられる。
【0037】
(メタ)アクリル化合物は、(メタ)アクリロイル基を有していればよく、その余の構造は特に限定されない。(メタ)アクリル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、α-エチルアクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸アルキル、(メタ)アクリル酸シクロアルキル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸グリシジル、α-エチルアクリル酸グリシジル、α-n-プロピルアクリル酸グリシジル、α-n-ブチルアクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシブチル、α-エチルアクリル酸3,4-エポキシブチル、(メタ)アクリル酸3,4-エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸6,7-エポキシヘプチル、α-エチルアクリル酸6,7-エポキシヘプチル、アクリル酸4-ヒドロキシブチルグリシジルエーテル、(メタ)アクリル酸(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル、プロピレンカーボネート(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシ-1-アダマンチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0038】
スチレン構造含有化合物としては、スチレン、メチルスチレン、4-ビニル-1-グリシジルオキシメチルベンゼン、3-ビニル-1-グリシジルオキシメチルベンゼン、3-ビニル安息香酸、4-ビニル安息香酸等が挙げられる。無水マレイン酸構造含有化合物としては、無水マレイン酸、シトラコン酸無水物等が挙げられる。環状オレフィン化合物としては、シクロブテン、シクロペンチン、シクロヘキセン、ビシクロ[2.2.1]へプタ-2-エン等が挙げられる。
【0039】
付加重合体(A1)が有するその他の構造単位としては、上記のほか、例えばエチレン、ビニルアルコール、(メタ)アリルアルコール、3-メチル-3-ブテン-1-オール等のビニル基含有化合物;1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン等の共役ジエン化合物等が挙げられる。なお、付加重合体(A1)は、その他の構造単位を1種のみ有していてもよいし、2種以上を有していてもよい。
【0040】
構造単位U1中のAが光配向性基を有する1価の基である場合、液晶配向膜により発現されるプレチルト角が高くなり過ぎることを抑制する観点から、付加重合体(A1)は、構造単位U1と共に、マレイミド構造含有化合物、(メタ)アクリル化合物、スチレン構造含有化合物、無水マレイン酸構造含有化合物、及び環状オレフィン化合物よりなる群から選択される少なくとも一種であって、かつ光配向性基を有さない単量体に由来する構造単位(以下、「構造単位U2」ともいう。)を有していることが好ましい。
【0041】
が光配向性基を有する1価の基である場合、付加重合体(A1)における構造単位U2の含有割合は、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対し、50モル%以上であることが好ましく、55モル%以上であることがより好ましく、60モル%以上であることがさらに好ましい。また、構造単位U2の含有割合は、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対し、99モル%以下であることが好ましく、98モル%以下であることがより好ましく、95モル%以下であることがさらに好ましい。なお、付加重合体(A1)が有する構造単位U2は、1種のみでもよく、2種以上でもよい。
【0042】
(環状エーテル構造及び環状カーボネート構造)
膜形成時の加熱温度(ポストベーク温度)の違いに対するプレチルト角のばらつき(ポストベークマージン)をより低減できる点で、付加重合体(A1)は、環状エーテル構造及び環状カーボネート構造よりなる群から選択される少なくとも一種を有する単量体に由来する構造単位(以下、「構造単位U3」ともいう。)有していることが好ましい。環状エーテル構造としては、例えばオキセタン環構造、オキシラン環構造等が挙げられる。環状カーボネート構造としては、例えばエチレンカーボネート構造、プロピレンカーボネート構造等が挙げられる。これらのうち、構造単位U3は、環状エーテル構造を有する単量体に由来する構造単位であることが好ましく、オキセタン環構造又はオキシラン環構造を有する単量体に由来する構造単位であることがより好ましい。
【0043】
構造単位U3は、(メタ)アクリル化合物、マレイミド構造含有化合物、及びスチレン構造含有化合物よりなる群から選択される少なくとも一種に由来する構造単位であることが好ましい。これらのうち、モノマーの選択の自由度が高い点で、(メタ)アクリル化合物及びスチレン構造含有化合物よりなる群から選択される少なくとも一種に由来する構造単位であることがより好ましい。なお、構造単位U3が、付加重合体(A1)が有する構造単位U2の少なくとも一部を構成していてもよい。
【0044】
付加重合体(A1)が構造単位U3を有する場合、構造単位U3の割合は、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対して、2モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることがさらに好ましく、20モル%以上であることがよりさらに好ましい。また構造単位U3の含有割合は、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対し、90モル%以下であることが好ましく、85モル%以下であることがより好ましく、70モル%以下であることがさらに好ましい。なお、付加重合体(A1)が有する構造単位U3は、1種のみでもよく、2種以上でもよい。
【0045】
(反応性官能基)
ポストベークマージンの改善効果をより高くする観点から、付加重合体(A1)は、環状エーテル構造及び環状カーボネート構造の少なくとも一方と反応する官能基(以下、「反応性官能基」ともいう。)を有していることが好ましい。反応性官能基は、例えばカルボキシル基、水酸基、イソシアネート基及びアミノ基、並びにこれら各基が保護基で保護された基等が挙げられる。反応性官能基は、保存安定性が良好であり、かつ加熱による反応性が高い点で、中でも、カルボキシル基及び保護されたカルボキシル基(以下、「保護カルボキシル基」ともいう。)よりなる群から選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0046】
保護カルボキシル基は、熱によって脱離してカルボキシル基を生成するものであれば特に限定されない。保護カルボキシル基の好ましい具体例としては、下記式(6)で表される構造、カルボン酸のアセタールエステル構造、カルボン酸のケタールエステル構造等が挙げられる。
【化16】
(式(6)中、R41、R42及びR43は、下記(i)又は(ii)を満たす。
(i)R41、R42及びR43は、それぞれ独立して、炭素数1~10のアルキル基若しくは炭素数3~20の1価の脂環式炭化水素基である。
(ii)R41及びR42は、R41とR42とが互いに合わせられて、R41及びR42が結合する炭素原子と共に構成される炭素数4~20の2価の脂環式炭化水素基又は環状エーテル基を表す。R43は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基又は炭素数6~20のアリール基である。「*」は結合手であることを表す。)
【0047】
反応性官能基を有する単量体は、(メタ)アクリル化合物、マレイミド構造含有化合物、及びスチレン構造含有化合物よりなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。これらのうち、モノマーの選択の自由度が高い点で、(メタ)アクリル化合物及びスチレン構造含有化合物よりなる群から選択される少なくとも一種であることがより好ましい。
【0048】
付加重合体(A1)が、反応性官能基を有する単量体に由来する構造単位(以下、「構造単位U4」ともいう。)を有する場合、構造単位U4の割合は、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対し、2モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることがより好ましく、10モル%以上であることがさらに好ましい。また、構造単位U4の含有割合は、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対し、70モル%以下であることが好ましく、60モル%以下であることがより好ましく、50モル%以下であることがさらに好ましい。なお、構造単位U4が、付加重合体(A1)が有する構造単位U2の少なくとも一部を構成していてもよい。付加重合体(A1)が有する構造単位U4は、1種のみでもよく2種以上でもよい。
【0049】
(光増感構造)
重合体(A)は、光照射により増感作用を示す光増感機能を発現可能な部分構造(以下、「光増感構造」ともいう。)を有していてもよい。重合体(A)が光増感構造を有している場合、膜形成時の加熱温度の相違によるプレチルト角のばらつきがより小さい液晶配向膜を得ることができる点で好適である。ここで、「光増感機能」とは、光の照射によって一重項励起状態となった後、速やかに項間交差を起こして三重項励起状態へ遷移する機能をいう。この三重項状態において他の分子と衝突すると相手を励起状態に変え、自らは基底状態に戻る。
【0050】
重合体(A)が有する光増感構造としては、特に限定されないが、例えばアセトフェノン構造、ベンゾフェノン構造、アントラキノン構造、ビフェニル構造、テルフェニル構造、カルバゾール構造、ニトロアリール構造(ニトロベンゼン構造、1,3-ジニトロベンゼン構造等)、ナフタレン構造、フルオレン構造、アントラセン構造、9,10-ジヒドロアントラセン構造、アクリジン構造、インドール構造、1,4-ジオキソシクロヘキサ-2,5-ジエン構造等が挙げられる。重合体(A)は、光増感構造を側鎖に有していることが好ましい。
【0051】
付加重合体(A1)を、光増感構造を有する重合体とする場合、当該付加重合体(A1)を得る方法は特に限定されないが、単量体(R1)と共に光増感構造を有する単量体を用いて重合することが好ましい。光増感構造を有する単量体の具体例としては、下記式(9)で表される化合物が挙げられる。
-L-Y ・・・(9)
(式(9)中、Yは、ビニルフェニル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、(メタ)アクリロイルアミノ基、ビニル基、ビニルオキシ基、又はマレイミド基であり、Lは単結合又は2価の連結基であり、Yは、光増感構造を有する基である。)
【0052】
上記式(9)において、Yは、モノマーの選択の自由度を高くできる点で、(メタ)アクリロイルオキシ基又は(メタ)アクリロイルアミノ基が好ましく、(メタ)アクリロイルオキシ基がより好ましい。Lの2価の連結基は、炭素数1~10の2価の炭化水素基又は当該炭化水素基の炭素-炭素結合間に-O-を有する基が好ましい。Yは、アセトフェノン構造、ベンゾフェノン構造、アントラキノン構造、ビフェニル構造、テルフェニル構造、カルバゾール構造、ニトロアリール構造、ナフタレン構造、フルオレン構造、アントラセン構造、9,10-ジヒドロアントラセン構造、アクリジン構造、インドール構造、又は1,4-ジオキソシクロヘキサ-2,5-ジエン構造が好ましい。
【0053】
付加重合体(A1)が、光増感構造を有する単量体に由来する構造単位(以下、「構造単位U5」ともいう。)を有する場合、構造単位U5の割合は、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対し、1モル%以上であることが好ましく、2モル%以上であることがより好ましく、3モル%以上であることがさらに好ましい。また構造単位U5の含有割合は、付加重合体(A1)が有する全単量体単位に対し、50モル%以下であることが好ましく、40モル%以下であることがより好ましく、30モル%以下であることがさらに好ましい。なお、構造単位U5が、付加重合体(A1)が有する構造単位U2の少なくとも一部を構成していてもよい。付加重合体(A1)が有する構造単位U5は、1種のみでもよく、2種以上でもよい。
【0054】
付加重合体(A1)は、単量体(R1)及び必要に応じて使用されるその他の単量体を、好ましくは重合開始剤の存在下、有機溶媒中で重合することにより得ることができる。使用する重合開始剤としては、例えば2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物、ニッケル触媒等が挙げられる。重合開始剤の使用割合は、反応に使用する全モノマー100質量部に対して、0.01~30質量部であることが好ましい。使用する有機溶媒としては、例えばアルコール、エーテル、ケトン、アミド、エステル、炭化水素等が挙げられる。
【0055】
上記重合反応において、反応温度は30℃~120℃であることが好ましく、反応時間は1~36時間であることが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、反応に使用するモノマーの合計量(b)が、反応溶液の全体量(a+b)に対して、0.1~60質量%になるような量にすることが好ましい。重合体を溶解してなる反応溶液は、例えば、反応溶液を大量の貧溶媒中に注いで得られる析出物を減圧下乾燥する方法、反応溶液をエバポレーターで減圧留去する方法等の公知の単離方法を用いて、反応溶液中に含まれる付加重合体(A1)を単離したうえで液晶配向剤の調製に供するとよい。
【0056】
付加重合体(A1)のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~300,000であり、より好ましくは2,000~100,000である。Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。なお、液晶配向剤の調製に使用する付加重合体(A1)は、1種のみでもよく、2種以上を組み合わせてもよい。
【0057】
(縮合重合体)
縮合重合体(A2)は、重合性基として縮合重合可能な基を有する単量体を用いて得られる重合体であればよく、その主骨格は特に限定されない。得られる液晶配向膜の塗布均一性及びプレチルト角特性の改善効果が高い点で、縮合重合体(A2)は、構造単位U1を有するポリオルガノシロキサン(以下、「ポリオルガノシロキサン(A)」ともいう。)であることが好ましい。ポリオルガノシロキサン(A)は、単量体(R1)として、上記式(1)又は上記式(2)で表される加水分解性のシラン化合物(以下、「特定シラン化合物」ともいう。)を用いた加水分解・縮合反応により得ることができる。
【0058】
特定シラン化合物は、上記式(1)及び式(2)中のR及びRのうち一方が重合性基を有する1価の基であり、他方が水素原子若しくは1価の有機基である。当該重合性基は、アルコキシシリル基であることが好ましい。特定シラン化合物は、下記式(7)で表される化合物及び下記式(8)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましい。
【化17】
(式(7)及び式(8)中、R23は炭素数1~20の2価の炭化水素基であり、R24及びR25は、それぞれ独立して、炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R27は水素原子又は1価の有機基である。kは1~3の整数である。A、A、n1及びn2は、上記式(1)及び式(2)と同義である。)
【0059】
特定シラン化合物の具体例としては、下記式(s1-1)~式(s1-10)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化18】
【化19】
(上記式(s1-1)~式(s1-10)中、R23、R24、R25及びkは、上記式(7)と同義である。R20は、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基で置換された炭素数1~10の置換アルキル基、少なくとも1個の水素原子がフッ素原子若しくはシアノ基によって置換された炭素数1~10の置換アルコキシ基、フッ素原子、又はシアノ基である。)
【0060】
ポリオルガノシロキサン(A)の合成に際し、加水分解性シラン化合物としては、特定シラン化合物のみを使用してもよいが、特定シラン化合物以外の加水分解性シラン化合物(以下、「その他のシラン化合物」ともいう。)を併用してもよい。
【0061】
その他のシラン化合物は、特定シラン化合物と縮合重合可能であれば特に限定されないが、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン等のテトラアルコキシ又はアルキルアルコキシシラン化合物;シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン等のシクロアルキルアルコキシシラン化合物;フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン等のアリールアルコキシシラン化合物;3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、メルカプトメチルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(3-シクロヘキシルアミノ)プロピルトリメトキシシラン等の窒素・硫黄含有アルコキシシラン化合物;3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン等のエポキシ基含有シラン化合物;3-(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン等の不飽和結合含有アルコキシシラン化合物;トリメトキシシリルプロピルコハク酸無水物等の酸無水物基含有シラン化合物;3-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等のイソシアネート基含有シラン化合物、等を挙げることができる。その他のシラン化合物としては、これらのうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、「(メタ)アクリロ」は、「アクリロ」及び「メタクリロ」を包含する意味である。
【0062】
ポリオルガノシロキサン(A)における構造単位U1の含有割合は、プレチルト角特性(初期プレチルト角及びポストベークマージン)をより良好にする観点から、ポリオルガノシロキサン(A)が有する全単量体単位に対して、1モル%以上であることが好ましく、2モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることがさらに好ましい。また、構造単位U1の含有割合は、ポリオルガノシロキサン(A)が有する全単量体単位に対して、90モル%以下であることが好ましく、80モル%以下であることがより好ましく、60モル%以下であることがさらに好ましい。なお、ポリオルガノシロキサン(A)が有する構造単位U1は、1種でもよく2種以上でもよい。
【0063】
上記の加水分解・縮合反応は、上記の如き加水分解性のシラン化合物の1種又は2種以上と水とを、好ましくは適当な触媒及び有機溶媒の存在下で反応させることにより行う。反応に際し、水の使用割合は、シラン化合物(合計量)1モルに対して、好ましくは1~30モルである。使用する触媒としては、例えば酸、アルカリ金属化合物、有機塩基、チタン化合物、ジルコニウム化合物などを挙げることができる。触媒の使用量は、触媒の種類、温度などの反応条件などにより異なり、適宜に設定されるべきであるが、例えばシラン化合物の合計量に対して、好ましくは0.01~3倍モルである。使用する有機溶媒としては、例えば炭化水素、ケトン、エステル、エーテル、アルコールなどが挙げられ、これらのうち、非水溶性又は難水溶性の有機溶媒を用いることが好ましい。有機溶媒の使用割合は、反応に使用するシラン化合物の合計100質量部に対して、好ましくは10~10,000質量部である。
【0064】
上記の加水分解・縮合反応は、例えば油浴などにより加熱して実施することが好ましい。その際、加熱温度は130℃以下とすることが好ましく、加熱時間は0.5~12時間とすることが好ましい。反応終了後において、反応液から分取した有機溶媒層を、必要に応じて乾燥剤で乾燥した後、溶媒を除去することにより、目的とするポリオルガノシロキサンが得られる。なお、ポリオルガノシロキサンの合成方法は上記の加水分解・縮合反応に限らず、例えば加水分解性シラン化合物をシュウ酸及びアルコールの存在下で反応させる方法などにより行ってもよい。
【0065】
ポリオルガノシロキサン(A)につき、GPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、100~50,000の範囲にあることが好ましく、200~10,000の範囲にあることがより好ましい。
【0066】
本開示の液晶配向剤において、重合体(A)の含有割合は、基板に対する塗布性を十分に高くしつつ、プレチルト角特性(初期プレチルト角、ポストベークマージン)を優れたものとする観点から、液晶配向剤に含まれる全重合体に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また、重合体(A)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる全重合体に対し、100質量%以下の範囲内で適宜設定することができる。重合体(A)によれば、その使用量を少なくしても塗布均一性及びプレチルト角特性の改善効果を得ることができる。液晶配向剤のコスト低減を図りつつ信頼性の改善を十分に図る観点から、重合体(A)の含有割合は、液晶配向剤に含まれる重合体の全量に対して、90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。
【0067】
<その他の成分>
本開示の液晶配向剤は、必要に応じて、重合体(A)以外のその他の成分を含有していてもよい。
【0068】
(その他の重合体)
本開示の液晶配向剤には、重合体成分として、重合体(A)と共に、単量体(R1)に由来する構造単位を有さない重合体(以下、「その他の重合体」ともいう。)が含有されていてもよい。その他の重合体は、特に限定されないが、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド及びポリウレアよりなる群から選択される少なくとも一種の重合体(以下、「重合体(B)」ともいう。)を好ましく使用できる。重合体(B)を重合体(A)と併用することにより、得られる液晶素子の液晶配向性及び電気特性を担保することができる点で好ましい。重合体(B)は、より好ましくは、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル及びポリイミドよりなる群から選択される少なくとも一種である。
【0069】
重合体(B)がポリアミック酸の場合、当該ポリアミック酸は、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させることにより得ることができる。このとき、テトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物としては、ポリアミック酸の合成に使用される従来公知の化合物を用いることができる。ポリアミック酸エステルは、例えば、上記で得られたポリアミック酸と、エステル化剤(例えばメタノールやエタノール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール等)とを反応させる方法;テトラカルボン酸ジエステルとジアミン化合物とを適当な脱水触媒の存在下で反応させる方法;テトラカルボン酸ジエステルジハロゲン化物とジアミンとを適当な塩基の存在下で反応させる方法、等により得ることができる。ポリイミドは、例えば、上記で得られたポリアミック酸を脱水閉環してイミド化することにより得ることができる。ポリイミドは、そのイミド化率が20~90%であることが好ましく、30~80%であることがより好ましい。
【0070】
重合体(B)につき、GPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは7以下であり、より好ましくは5以下である。
【0071】
重合体成分として重合体(A)とともに重合体(B)を液晶配向剤に含有させる場合、重合体(B)の含有割合は、重合体(A)の配合によるプレチルト角特性の改善効果を十分に得つつ、液晶配向性を良好にする観点から、液晶配向剤中の重合体(A)100質量部に対して、100質量部以上とすることが好ましい。重合体(B)の含有割合は、より好ましくは100~2000質量部であり、さらに好ましくは200~1500質量部である。なお、重合体(B)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0072】
(光増感剤)
本開示の液晶配向剤は、光増感構造を有する化合物(以下、「光増感剤」ともいう。)を含有することが好ましい。光増感剤は、単量体(R1)に由来する構造単位と光増感構造とを有する重合体(A)であってもよいし、その他の重合体であってもよいし、重合体成分とは別に配合される添加剤成分(以下、「添加剤(S)」ともいう。)であってもよい。また、液晶配向剤は、重合体(A)及び添加剤(S)の両方を含有していてもよい。添加剤(S)は、光増感構造を有する分子量1000以下の化合物であることが好ましい。
【0073】
添加剤(S)の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、3-メチルアセトフェノン等のアセトフェノン構造含有化合物;ベンゾフェノン、4-ジエチルアミノ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシベンゾフェノン、4-メチルベンゾフェノン、3-(4-ベンゾイル-フェノキシ)プロピル、4,4’-ジメトキシベンゾフェノン、4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン(ミヒラーケトン)等のベンゾフェノン構造含有化合物;3,5-ジニトロベンゼン、4-メチル-3,5-ジニトロベンゼン、3-(3,5-ジニトロフェノキシ)プロピル、2-メチル-3,5-ジニトロベンゼン等のニトロアリール構造含有化合物;ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、テルフェニル、2,3-ベンゾフルオレン、ピレン、ペリレン、フルオレン、アントラキノン等の炭化水素類;9,10-ジオキソ-9,10-ジヒドロアントラセン、3-(9,10-ジオキソ-9,10-ジヒドロアントラセン-2-イル)プロピル、2-オキソ-9,10-ジヒドロアントラセン等のアントラセン誘導体;トリフェニルアミン、カルバゾール等のアミノ基含有化合物;チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オン等の硫黄含有化合物;2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス-(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルフォスフィンオキシド等のリン含有化合物が挙げられる。なお、添加剤(S)としては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0074】
光増感剤として添加剤(S)を使用する場合、液晶配向剤における添加剤(S)の含有割合は、ポストベークマージンの低減効果を一層高める観点から、液晶配向剤中の重合体成分の全体量100質量部に対し、0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。また、添加剤(S)の含有割合は、過剰量の添加に起因する性能低下を抑制する観点から、重合体成分の全体量100質量部に対し、30質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましい。
【0075】
(溶剤)
本開示の液晶配向剤は、重合体成分、及び必要に応じて任意に配合される成分が、好ましくは有機溶媒に溶解された溶液状の組成物として調製される。使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素等が挙げられる。溶剤成分は、これらの1種でもよく、2種以上の混合溶媒であってもよい。
【0076】
液晶配向剤の溶剤成分としては、下記式(D-1)で表される化合物、下記式(D-2)で表される化合物及び下記式(D-3)で表される化合物よりなる群から選ばれる少なくとも一種であって、かつ1気圧での沸点が180℃以下である溶剤(以下、「特定溶剤」ともいう。)を好ましく使用することができる。溶剤成分の少なくとも一部として特定溶剤を用いることにより、膜形成時の加熱を低温(例えば200℃以下)で行った場合にも液晶配向性及び電気特性に優れた液晶素子を得ることができる点で好ましい。
【化20】
(式(D-1)中、Rは、炭素数1~4のアルキル基又はCHCO-であり、Rは、炭素数1~4のアルカンジイル基又は-(CHCHO)n-CHCH-(ただし、nは1~4の整数)であり、Rは、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。)
【化21】
(式(D-2)中、Rは、炭素数1~3のアルカンジイル基である。)
【化22】
(式(D-3)中、R及びRは、それぞれ独立に炭素数4~8のアルキル基である。)
【0077】
特定溶剤の具体例としては、上記式(D-1)で表される化合物として、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等を;
上記式(D-2)で表される化合物として、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンを;
上記式(D-3)で表される化合物として、ジイソブチルケトン等を、それぞれ挙げることができる。なお、特定溶剤としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0078】
液晶配向剤の溶剤成分は、特定溶剤のみからなるものであってもよいが、特定溶剤以外のその他の溶剤と特定溶剤との混合溶媒であってもよい。その他の溶剤としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,2-ジメチル-2-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等の高極性溶剤;のほか、
4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、乳酸ブチル、酢酸ブチル、メチルメトキシプロピオネ-ト、エチルエトキシプロピオネ-ト、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、イソアミルプロピオネート、イソアミルイソブチレート、ジイソペンチルエーテル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、シクロヘキサン、オクタノール、テトラヒドロフラン等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0079】
液晶配向剤中に含まれる溶剤成分につき、特定溶剤の含有割合は、液晶配向剤中に含まれる溶剤の全体量に対して、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。
【0080】
液晶配向剤に含有させるその他の成分としては、上記のほか、例えば官能性シラン化合物、多官能(メタ)アクリレート、酸化防止剤、金属キレート化合物、硬化促進剤、界面活性剤、充填剤、分散剤、光増感剤等が挙げられる。その他の成分の配合割合は、本開示の効果を損なわない範囲で、各化合物に応じて適宜選択することができる。
【0081】
液晶配向剤における固形分濃度(液晶配向剤の溶媒以外の成分の合計質量が液晶配向剤の全質量に占める割合)は、粘性、揮発性などを考慮して適宜に選択されるが、好ましくは1~10質量%の範囲である。固形分濃度が1質量%以上である場合には、十分な膜厚の塗膜を得ることができ、良好な液晶配向膜を得やすい。一方、固形分濃度が10質量%以下である場合には、塗膜の膜厚が過大となりすぎず、また、液晶配向剤の粘性を適度にすることができ、塗布性の低下を抑制することができる点で好適である。
【0082】
≪液晶配向膜及び液晶素子≫
本開示の液晶配向膜は、上記のように調製された液晶配向剤により形成される。また、本開示の液晶素子は、上記で説明した液晶配向剤を用いて形成された液晶配向膜を具備する。液晶素子における液晶の動作モードは特に限定されず、例えばTN型、STN型、VA型(VA-MVA型、VA-PVA型などを含む。)、IPS(In-Plane Switching)型、FFS(Fringe Field Switching)型、OCB(Optically Compensated Bend)型、PSA型(Polymer Sustained Alignment)等の種々のモードに適用することができる。液晶素子は、例えば以下の工程1~工程3を含む方法により製造することができる。工程1は、所望の動作モードによって使用基板が異なる。工程2及び工程3は各動作モードで共通である。
【0083】
<工程1:塗膜の形成>
まず基板上に液晶配向剤を塗布し、好ましくは塗布面を加熱することにより基板上に塗膜を形成する。基板としては、例えばフロートガラス、ソーダガラスなどのガラス;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリ(脂環式オレフィン)などのプラスチックからなる透明基板を用いることができる。基板の一面に設けられる透明導電膜としては、酸化スズ(SnO)からなるNESA膜(米国PPG社登録商標)、酸化インジウム-酸化スズ(In-SnO)からなるITO膜などを用いることができる。TN型、STN型又はVA型の液晶素子を製造する場合には、パターニングされた透明導電膜が設けられている基板二枚を用いる。一方、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合には、櫛歯型にパターニングされた電極が設けられている基板と、電極が設けられていない対向基板とを用いる。基板への液晶配向剤の塗布は、電極形成面上に、好ましくはオフセット印刷法、フレキソ印刷法、スピンコート法、ロールコーター法又はインクジェット印刷法により行う。
【0084】
液晶配向剤を塗布した後、塗布した液晶配向剤の液垂れ防止などの目的で、好ましくは予備加熱(プレベーク)が実施される。プレベーク温度は、好ましくは30~200℃であり、プレベーク時間は、好ましくは0.25~10分である。その後、溶剤を完全に除去すること等を目的として焼成(ポストベーク)工程が実施される。このときの焼成温度(ポストベーク温度)は、好ましくは80~250℃であり、より好ましくは80~200℃である。ポストベーク時間は、好ましくは5~200分である。特に、上記で調製される液晶配向剤を用いた場合、特定溶剤のような低沸点溶剤に対する溶解性が良好であり、ポストベーク温度を、例えば200℃以下、好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下にした場合にも、プレベーク温度の相違に起因するプレチルト角のばらつきをより低減できる点で好ましい。このようにして形成される膜の膜厚は、好ましくは0.001~1μmである。
【0085】
<工程2:配向処理>
TN型、STN型、IPS型又はFFS型の液晶素子を製造する場合、上記工程1で形成した塗膜に液晶配向能を付与する処理(配向処理)を実施する。これにより、液晶分子の配向能が塗膜に付与されて液晶配向膜となる。垂直配向型の液晶素子を製造する場合には、上記工程1で形成した塗膜をそのまま液晶配向膜として使用することができるが、液晶配向能を更に高めるために、該塗膜に対し配向処理を施すとよい。配向処理としては、基板上に形成した塗膜に光照射を行って塗膜に液晶配向能を付与する光配向処理を用いることが好ましい。
【0086】
光配向のための光照射は、ポストベーク工程後の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程後であってポストベーク工程前の塗膜に対して照射する方法、プレベーク工程及びポストベーク工程の少なくともいずれかにおいて塗膜の加熱中に塗膜に対して照射する方法、等により行うことができる。塗膜に照射する放射線としては、例えば150~800nmの波長の光を含む紫外線及び可視光線を用いることができる。好ましくは、200~400nmの波長の光を含む紫外線である。放射線が偏光である場合、直線偏光であっても部分偏光であってもよい。用いる放射線が直線偏光又は部分偏光である場合には、照射は基板面に垂直の方向から行ってもよく、斜め方向から行ってもよく、又はこれらを組み合わせて行ってもよい。非偏光の放射線の場合の照射方向は斜め方向とする。
【0087】
使用する光源としては、例えば低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、メタルハライドランプ、アルゴン共鳴ランプ、キセノンランプ、エキシマーレーザー等が挙げられる。放射線の照射量は、好ましくは400~50,000J/mであり、より好ましくは1,000~20,000J/mである。配向能付与のための光照射後において、基板表面を例えば水、有機溶媒(例えば、メタノール、イソプロピルアルコール、1-メトキシ-2-プロパノールアセテート、ブチルセロソルブ、乳酸エチル等)又はこれらの混合物を用いて洗浄する処理や、基板を加熱する処理を行ってもよい。
【0088】
<工程3:液晶セルの構築>
上記のようにして液晶配向膜が形成された基板を2枚準備し、対向配置した2枚の基板間に液晶を配置することにより液晶セルを製造する。液晶セルを製造するには、例えば、液晶配向膜が対向するように間隙を介して2枚の基板を対向配置し、2枚の基板の周辺部をシール剤を用いて貼り合わせ、基板表面とシール剤で囲まれたセルギャップ内に液晶を注入充填し注入孔を封止する方法、ODF方式による方法等が挙げられる。シール剤としては、例えば硬化剤及びスペーサーとしての酸化アルミニウム球を含有するエポキシ樹脂等を用いることができる。液晶としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましい。PSAモードでは、液晶セルの構築後に、一対の基板の有する導電膜間に電圧を印加した状態で液晶セルに光照射する処理を行う。
【0089】
続いて、必要に応じて液晶セルの外側表面に偏光板を貼り合わせ、液晶素子とする。偏光板としては、ポリビニルアルコールを延伸配向させながらヨウ素を吸収させた「H膜」と称される偏光フィルムを酢酸セルロース保護膜で挟んだ偏光板又はH膜そのものからなる偏光板が挙げられる。
【0090】
本開示の液晶素子は種々の用途に有効に適用することができ、例えば、時計、携帯型ゲーム機、ワープロ、ノート型パソコン、カーナビゲーションシステム、カムコーダー、PDA、デジタルカメラ、携帯電話機、スマートフォン、各種モニター、液晶テレビ、インフォメーションディスプレイなどの各種表示装置や、調光フィルム、位相差フィルム等に適用することができる。
【実施例
【0091】
以下、実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0092】
以下の実施例及び比較例において、重合体の重量平均分子量及び数平均分子量は以下の方法により測定した。
[重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)]
重量平均分子量及び数平均分子量は、以下の条件におけるゲルパーミエーションクロマトグラフィーにより測定したポリスチレン換算値である。
カラム:東ソー(株)製、TSKgelGRCXLII
溶剤:テトラヒドロフラン
温度:40℃
圧力:68kgf/cm
【0093】
本実施例で使用した化合物の構造式を以下に示す。なお、以下では便宜上、「式(X)で表される化合物」を単に「化合物(X)」と略すことがある。
【化23】
【化24】
【化25】
【化26】
【0094】
<化合物の合成>
[合成例1-1:化合物(MA-2)の合成]
下記スキームに従って化合物(MA-2)を合成した。
【化27】
【0095】
ナスフラスコにアスパラギン酸13.3gとテトラヒドロフラン(THF)200mlを加え、溶解させた。そこに、マレイン酸9.81gを加え、1時間の攪拌後、エバポレーターで溶媒を留去した。得られた固体にトルエン300ml、ヘキサメチルジシラザン24.2g、塩化亜鉛27.3gを加え、80℃で4時間反応させた。反応後、反応溶液を塩酸(1N)で二回、水で二回分液精製した。次いで、有機層をエバポレーターで濃縮した。得られた固体をTHF/エタノール/水で晶析することにより、中間体1を14.2g得た。
中間体1をTHFに溶解させ、さらに上記式(CA)で表されるシンナメートアミン(以下、「化合物CA」という。)28.6gを加え、50℃で1時間反応させた。反応後、溶媒を留去することで化合物(MA-2)を42.5g得た。
【0096】
[合成例1-2:化合物(MA-1)の合成]
下記スキームに従って化合物(MA-1)を合成した。
【化28】
【0097】
化合物(MA-2)17.9gに、トルエン300ml、ヘキサメチルジシラザン7.26g、塩化亜鉛8.18gを加え、80℃で4時間反応させた。反応後、反応溶液を塩酸(1N)で2回、水で2回分液精製した。次いで、有機層をエバポレーターで濃縮した。得られた固体をTHF/エタノール/水で晶析することにより、化合物(MA-1)を7.34g得た。
【0098】
[合成例1-3:化合物(MA-3)の合成]
出発原料を3-アミノグルタル酸とした以外は、化合物(MA-2)と同様の方法で合成した。
【0099】
[合成例1-4:化合物(MA-4)の合成]
下記スキームに従って化合物(MA-4)を合成した。
【化29】
【0100】
三口ナスフラスコに窒素を流しながら、アスパラギン酸13.3gに脱水THF200mlを加え、溶解させた。そこに、「カレンズMOI」(昭和電工社製)15.5gを加え、50℃で8時間反応させ、溶媒を留去した。次いで、トルエン300ml、ヘキサメチルジシラザン24.2g、塩化亜鉛27.3g、ジブチルヒドロキシトルエン1gを加え、50℃で8時間反応させた。反応後、反応溶液を塩酸(1N)で2回、水で2回分液精製した。次いで、有機層をエバポレーターで濃縮した。得られた固体をTHF/エタノール/水で晶析することにより、中間体2を10.0g得た。
次いで、中間体2をTHFに溶解させ、さらに化合物CA14.5gを加え、50℃で1時間反応させた。反応後、溶媒を留去することで化合物(MA-4)を22.9g得た。
【0101】
[合成例1-5:化合物(MA-5)の合成]
出発原料を5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物とした以外は、化合物(MA-4)と同様の方法で合成した。
【0102】
[合成例1-6:化合物(MA-6)の合成]
下記スキームに従って化合物(MA-6)を合成した。
【化30】
【0103】
ナスフラスコに、アスパラギン酸13.3gとピリジン10ml、脱水THF150mlを加え、溶解させ氷冷した。そこに、脱水THF50mlに溶解させた4-ビニル安息香酸クロリドを徐々に滴下し、その後15時間反応させた。反応後、酢酸エチル100mlを加え、塩酸(1N)で2回、水で2回分液精製した。次いで、有機層をエバポレーターで濃縮した。得られた固体をTHF/エタノール/水で晶析することにより、中間体3を20.3g得た。
中間体3をTHFに溶解させ、さらに化合物CA32.4gを加え、50℃で1時間反応させた。反応後、溶媒を留去することで化合物(MA-6)を51.6g得た。
【0104】
[合成例1-7:化合物(MA-7)の合成]
下記スキームに従って化合物(MA-7)を合成した。
【化31】
【0105】
N-アリルアスパラギン酸3.46gにトルエン30ml、ヘキサメチルジシラザン4.84g、塩化亜鉛5.45gを加え、80℃で4時間反応させた。反応後、反応溶液を塩酸(1N)で2回、水で2回分液精製した。次いで、有機層をエバポレーターで濃縮した。得られた固体をTHF/エタノール/水で晶析することにより、中間体4を1.68g得た。
得られた中間体4をTHFに溶解させ、さらに化合物CA4.27gを加え、50℃で1時間反応させた。反応後、溶媒を留去することで中間体5を5.45g得た。
さらに、中間体5と0.01Mヘキサクロロ白金(IV)酸六水和物溶液300μlを窒素雰囲気下でTHF20mlに溶解させた。そこに、トリメトキシシラン1.26gをゆっくりと滴下し、その後70℃で3日間反応させた。反応後、溶媒を留去し、THF/エタノールで晶析することにより、化合物(MA-7)を3.71g得た。
【0106】
<重合体の合成>
[合成例2-1]
窒素下、100mL二口フラスコに、重合モノマーとして、化合物(MA-1)1.71g(3.00mmol)、化合物(MB-4)0.70g(7.00mmol)、ラジカル重合開始剤として2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)0.10g(0.41mmol)、連鎖移動剤として2,4-ジフェニル-4-メチル-1-ペンテン0.10g(0.44mmol)、並びに溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)15mlを加え、70℃で6時間重合した。メタノールに再沈殿した後、沈殿物を濾過し、室温で8時間真空乾燥することで目的の重合体(P-1)を得た。GPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwは30000、分子量分布Mw/Mnは2.8であった。
【0107】
[合成例2-2~2-5、2-7及び2-8]
使用するモノマーの種類及び量を下記表1に記載のとおり変更した点以外は合成例2-1と同様の方法により重合体(P-2)~(P-5)、(P-7)、(P-8)をそれぞれ合成した。なお、表1中、モノマー組成の数値の単位は「モル部」である。
【0108】
【表1】
【0109】
[合成例2-6]
撹拌機、温度計、滴下漏斗及び還流冷却管を備えた反応容器に、モノマーの合計量100モル部に対して化合物(MA-7)を40モル部、化合物(MS-1)を20モル部、及び化合物(MS-2)を40モル部仕込み、さらに、メチルイソブチルケトン50g、及びトリエチルアミン5gを仕込み、室温で混合した。次いで、脱イオン水35gを滴下漏斗より30分かけて滴下した後、還流下で混合しつつ、80℃で6時間反応させた。反応終了後、有機層を取り出し、0.2質量%硝酸アンモニウム水溶液により洗浄後の水が中性になるまで洗浄したのち、減圧下で溶媒及び水を留去することにより、ポリオルガノシロキサンである重合体(P-6)を粘調な透明液体として得た。得られた重合体(P-6)の重量平均分子量(Mw)は11000であった。
【0110】
[合成例2-9]
1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物100モル部、及び2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル100モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解し、40℃で3時間反応させることにより、ポリアミック酸である重合体(P-9)を10質量%含有する溶液を得た。
[合成例2-10]
2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物100モル部、3,5-ジアミノ安息香酸20モル部、及び2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル80モル部をNMPに溶解し、40℃で3時間反応させることにより、ポリアミック酸である重合体(P-10)を10質量%含有する溶液を得た。
【0111】
[合成例2-11]
韓国公開特許第2015-138548号公報に記載の製造例2の手順に従い、カルコン側鎖を有するマレイミド樹脂(これを「重合体(P-11)」とする。)を合成した。
[合成例2-12]
特許第2962473号公報に記載の実施例1の手順に従い、シンナモイル基を側鎖に有するマレイミド樹脂(これを「重合体(P-12)」とする。)を合成した。
[合成例2-13]
特開2015-152743号公報に記載の製造例1の手順に従い、シンナモイル基を側鎖に有するスチレン樹脂(これを「重合体(P-13)」とする。)を合成した。
[合成例2-14]
特許第5803915号公報に記載の実施例27の手順に従い、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物と(E)-3,5-ジアミノベンジル 3-(2-(4-ブトキシフェニル)-1,3-ジオキソイソインドリン-5-イル)アクリレートとを用いてポリアミック酸(これを「重合体(P-14)」とする。)を合成した。
【0112】
<液晶表示装置の製造及び評価>
[実施例1]
(1)液晶配向剤の調製
合成例2-1で得た重合体(P-1)100質量部が入った容器に、溶剤としてシクロペンタノン(CPN)及びブチルセロソルブ(BC)を加え、溶媒組成がCPN/BC=70/30(質量比)、固形分濃度が3.5質量%の溶液とした。この溶液を孔径1μmのフィルターで濾過することにより液晶配向剤(AL-1)を調製した。
【0113】
(2)光垂直型液晶表示素子の製造
ITO膜からなる透明電極付きガラス基板の透明電極面上に、上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)をスピンナーにより塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行い、膜厚0.08μmの塗膜を形成した。次いで、この塗膜表面に、Hg-Xeランプ及びグランテーラープリズムを用いて、313nmの輝線を含む偏光紫外線200J/mを、基板法線から40°傾いた方向から室温で照射した。次いで、庫内を窒素置換したオーブン中、160℃で40分間加熱(本焼成)して液晶配向膜とした。同じ操作を繰り返して、液晶配向膜を形成した基板を一対(2枚)作成した。
液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの1枚における、液晶配向膜を有する面の外周に、直径3.5μmの酸化アルミニウム球入りエポキシ樹脂接着剤をスクリーン印刷により塗布した後、一対の基板の液晶配向膜面を対向させ、各基板に照射した紫外線の光軸の基板面への投影方向が逆平行となるように一対の基板を圧着し、150℃で1時間かけて接着剤を熱硬化させた。次いで、液晶注入口より基板間の間隙に、ネマチック液晶(メルク社製、MLC-6608)を充填した後、エポキシ系接着剤で液晶注入口を封止し、液晶セルを得た。さらに、液晶注入時の流動配向を除くために、液晶セルを150℃で加熱してから室温まで徐冷した。次に、液晶セルにおける基板の外側両面に、偏光板を、その偏光方向が互いに直交し、かつ、液晶配向膜形成時に照射した紫外線の光軸の基板面への射影方向と45°の角度をなすように貼り合わせた。
【0114】
(3)プレチルト角の評価
上記(2)で製造した液晶表示素子につき、非特許文献(T. J. Scheffer et. al. J. Appl. Phys. vo. 19. p2013(1980))に記載の方法に準拠してHe-Neレーザー光を用いる結晶回転法により測定した液晶分子の基板面からの傾き角の値をプレチルト角とした。このとき、プレチルト角が89.0°未満の場合に「良好(○)」、89.0°以上の場合に「不良(×)」とした。その結果、この実施例ではプレチルト角は「良好(○)」の評価であった。
【0115】
(4)塗布均一性の評価
上記(1)で調製した液晶配向剤(AL-1)を、ガラス基板上にスピンナーを用いて塗布し、80℃のホットプレートで1分間プレベークを行った後、庫内を窒素置換した200℃のオーブンで1時間加熱(ポストベーク)することにより平均膜厚0.1μmの塗膜を形成した。得られた塗膜の表面を原子間力顕微鏡(AFM)にて観察し、中心平均粗さ(Ra)を測定することにより塗膜表面の均一性を評価した。Raが5nm以下の場合を塗布均一性「良好(○)」、5nmよりも大きく10nm未満であった場合を「可(△)」、10nm以上の場合を「不良(×)」と評価した。その結果、この実施例では「可(△)」の評価であった。
【0116】
(5)ポストベーク温度の違いに対するプレチルト角のばらつき特性(ポストベークマージン)の評価
上記(2)の方法に従い、異なるポストベーク温度(150℃及び200℃)により液晶配向膜を作製し、得られた2つの液晶表示素子のプレチルト角をそれぞれ測定した。ポストベーク温度を200℃とした液晶表示素子のプレチルト角の測定値θ200と、ポストベーク温度を150℃とした液晶表示素子のプレチルト角の測定値θ150との差Δθ(=|θ200-θ150|)により、ポストベーク温度の相違に対するプレチルト角のばらつき特性を評価した。Δθが小さいほど、プレベーク温度の違いに対するプレチルト角のばらつきが小さく優れているといえる。プレチルト角の測定は、上記の「(3)プレチルト角の評価」に記載の方法により行った。評価は、Δθが0.1°以下であった場合を「優良(◎)」、Δθが0.1°よりも大きく0.2°以下であった場合を「良好(○)」、0.2°よりも大きく0.5°未満であった場合を「可(△)」、0.5°以上であった場合を「不良(×)」とした。その結果、この実施例では「可(△)」の評価であった。
【0117】
[実施例2~10、比較例1~4]
液晶配向剤の配合処方を下記表2の通りに変更した点以外は実施例1と同様にして液晶配向剤をそれぞれ調製した。また、調製した各液晶配向剤を用い、実施例1と同様にして光垂直型液晶表示素子を製造するとともに、実施例1と同様にして各種評価を行った。それらの結果を下記表2に示した。なお、実施例3~10及び比較例1~4では、2種類の重合体を配合した。実施例10では、液晶配向剤に添加剤(光増感剤)を配合した。
【0118】
【表2】
【0119】
表2中、重合体成分及び添加剤の欄の括弧内の数値は、液晶配向剤の調製に使用した重合体成分及び添加剤の各化合物の配合割合(単位:質量部)を示す。溶剤の欄の数値は、液晶配向剤の調製に使用した溶剤の全量に対する各溶剤の配合割合(質量比)を示す。溶剤の略称は以下のとおりである。
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
EDM:ジエチレングリコールメチルエチルエーテル
CPN:シクロペンタノン
MB:3-メトキシ-1-ブタノール
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BC:γ-ブチロラクトン
【0120】
表2に示すように、重合体(A)を含有する液晶配向剤とした実施例1~10では、プレチルト角が89度未満であり、重合体(A)を含有しない比較例1~4に比べて、液晶分子の垂直方向からの傾斜角度を十分に大きくすることができた。また、実施例1~10では、ポストベーク温度の違いによるプレチルト角のばらつきが小さかった。特に、光増感構造を有する重合体を配合した実施例8、9及び光増感構造を有する添加剤を配合した実施例10では、ポストベークマージンの評価が「優良」であり、特に優れていた。さらに、実施例1~10の液晶配向剤は、塗布均一性も良好であった。また、単量体(R1)として開環体を用いることにより、塗布均一性をより良好にできることが分かった。
これらの結果から、重合体(A)を用いることにより、塗布均一性が良好であり、かつプレチルト角特性に優れた液晶配向膜を形成することができることが分かった。