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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】セル多重インバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/49 20070101AFI20231226BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20231226BHJP
   H02J 3/26 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H02M7/49
H02M7/48 R
H02M7/48 M
H02J3/26
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022189747
(22)【出願日】2022-11-29
【審査請求日】2023-09-08
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2022年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 NEDO先導研究プログラム エネルギー・環境新技術先導研究プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】大井 一伸
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-111987(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125697(WO,A1)
【文献】特許第6797333(JP,B1)
【文献】特許第6861917(JP,B1)
【文献】特開2007-37355(JP,A)
【文献】特開2013-5694(JP,A)
【文献】特開2017-169272(JP,A)
【文献】特開2021-19481(JP,A)
【文献】特開2019-97366(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/49
H02M 7/48
H02J 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流系統の各相にスター結線で多重に接続した複数のセルと、基本波と同じ周波数の零相電圧を電圧指令値に重畳して補正電圧指令値を生成する補正電圧指令値生成部と、前記補正電圧指令値に基づいて前記セルのゲート信号を生成するゲート信号生成部と、を備えたセル多重インバータであって、
前記補正電圧指令値生成部は、
ある相の前記電圧指令値の振幅が他の相の前記電圧指令値の振幅よりも大きければ、ある相とは逆位相の正弦波を前記零相電圧として前記電圧指令値に重畳し、ある相の前記電圧指令値の振幅が他の相の前記電圧指令値の振幅よりも小さければ、ある相と同位相の正弦波を前記零相電圧として前記電圧指令値に重畳することを特徴とするセル多重インバータ。
【請求項2】
前記補正電圧指令値生成部は、
前記電圧指令値に前記零相電圧を加算して前記補正電圧指令値を出力する第1加算器と、
各相の前記補正電圧指令値の振幅を出力する振幅検出器と、
前記補正電圧指令値の前記振幅の三相平均値と前記補正電圧指令値の前記振幅との偏差を算出する第1減算器と、
前記三相平均値と前記振幅との偏差を増幅するアンプと、
前記アンプの出力と前記電圧指令値と同位相の正弦波を乗算する第3乗算器と、
三相の前記第3乗算器の出力を足し合わせて前記零相電圧として出力する第4加算器と、
を備えたことを特徴とする請求項1記載のセル多重インバータ。
【請求項3】
前記第1減算器で用いる前記振幅は、前記電圧指令値の前記振幅に故障したセル台数に基づいた係数を乗算した値とし、前記三相平均値は前記係数乗算後の前記振幅の三相平均値とすることを特徴とする請求項2記載のセル多重インバータ。
【請求項4】
前記電圧指令値の前記振幅は、前記電圧指令値の実効値とすることを特徴とする請求項1記載のセル多重インバータ。
【請求項5】
前記電圧指令値の前記振幅は、前記電圧指令値の基本波成分の振幅を抽出した値とすることを特徴とする請求項1記載のセル多重インバータ。
【請求項6】
前記電圧指令値の前記振幅は、前記電圧指令値の1周期あたりのピーク値とすることを特徴とする請求項1記載のセル多重インバータ。
【請求項7】
前記電圧指令値と同位相の正弦波は、三相のうち一相はPLLまたはロータリーエンコーダまたはレゾルバにより得られた位相、または、オブザーバで推定された位相とし、他の相は当該三相のうち一相の位相に固定値を加算した位相とすることを特徴とする請求項2記載のセル多重インバータ。
【請求項8】
前記補正電圧指令値生成部は、
系統の交流電圧に同期した位相ωtを出力する位相出力部と、
前記補正電圧指令値とcosωtを乗算する第4乗算器と、
前記第4乗算器の出力を2倍する第5乗算器と、
前記第5乗算器の出力から直流成分を抽出し、前記補正電圧指令値のうちcosωtに同期した同相成分を出力する第2ローパスフィルタと、
前記補正電圧指令値とsinωtを乗算する第6乗算器と、
前記第6乗算器の出力を2倍する第7乗算器と、
前記第7乗算器の出力から直流成分を抽出し、前記補正電圧指令値のうちsinωtに同期した直交成分を出力する第3ローパスフィルタと、
前記同相成分にcosωtを乗算する第8乗算器と、
前記直交成分にsinωtを乗算する第9乗算器と、
前記第8乗算器の出力と前記第9乗算器の出力を加算する第5加算器と、
を備え、前記第5加算器の出力を前記電圧指令値と同位相の正弦波とすることを特徴とする請求項2記載のセル多重インバータ。
【請求項9】
前記補正電圧指令値生成部は、
系統の交流電圧に同期した位相ωtを出力する位相出力部と、
相電圧検出信号または前記電圧指令値を系統周波数に同期した回転座標上の値に変換する第1dq変換器と、
前記相電圧検出信号または前記電圧指令値を前記系統周波数と逆向きに回転する回転座標上の値に変換する第2dq変換器と、
前記第1dq変換器の出力から直流成分を抽出した正相d軸成分,正相q軸成分と、前記第2dq変換器の出力から直流成分を抽出した逆相d軸成分,逆相q軸成分に基づいて、各前記セルの交流側出力電圧を均一にする零相電圧d軸成分、零相電圧q軸成分を演算する演算器と、
前記零相電圧d軸成分にcosωtを乗算する第10乗算器と、
前記零相電圧q軸成分にsinωtを乗算する第11乗算器と、
前記第10乗算器の出力と前記第11乗算器の出力を加算する第7加算器と、
前記電圧指令値に前記第7加算器の出力を加算する第8加算器と、
を備え、
前記第1加算器は、前記第8加算器で前記第7加算器の出力が加算された前記電圧指令値を用いることを特徴とする請求項2記載のセル多重インバータ。
【請求項10】
前記演算器は、(1)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする請求項9記載のセル多重インバータ。
【数1】

0d:零相電圧d軸成分
0q:零相電圧q軸成分
1d:正相電圧d軸成分
1q:正相電圧q軸成分
2d:逆相電圧d軸成分
2q:逆相電圧q軸成分
【請求項11】
前記演算器は、(2)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする請求項9記載のセル多重インバータ。
【数2】

0d:零相電圧d軸成分
0q:零相電圧q軸成分
1d:正相電圧d軸成分
1q:正相電圧q軸成分
2d:逆相電圧d軸成分
2q:逆相電圧q軸成分
【請求項12】
前記演算器は、(3)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする請求項9記載のセル多重インバータ。
【数3】

0d:零相電圧d軸成分
0q:零相電圧q軸成分
2d:逆相電圧d軸成分
2q:逆相電圧q軸成分
:電圧正相成分
【請求項13】
前記第1dq変換器と前記第2dq変換器で用いる前記相電圧検出信号または前記電圧指令値は、
前記相電圧検出信号または前記電圧指令値に、各相のセル台数を各相で故障せず動作しているセル台数で除算した係数を乗算した値とすることを特徴とする請求項9記載のセル多重インバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流系統の各相にスター結線で複数のセルを多重に接続したセル多重インバータに関する。
【背景技術】
【0002】
セル多重インバータの一例として、三相交流の系統に連系するシングルスター・ブリッジセル(SSBC)のモジュラー・マルチレベル・カスケード変換器(MMCC)が知られている。また、MMCC-SSBCのフルブリッジセルの直流側に別途電源やDC/DCコンバータなどが接続された構成も知られている。
【0003】
この構成の主な例としては、例えば特許文献1にあるようなソリッドステート・トランスフォーマー(SST)がある。図1にMMCC-SSBCとデュアルアクティブブリッジ(DAB)方式の双方向絶縁型DC/DCコンバータを組み合わせた1相あたりセル3台からなるSSTを示す。
【0004】
高圧の交流電力を直列接続したセルで直流電力に変換し、直流電力を高周波の交流電力に変換し、トランスで絶縁、整流することで直流電力に変換できる。逆向きの電力融通も可能である。SSTは高周波トランスを用いるため、従来の商用周波数トランスよりも小型にできる。
【0005】
また、別の用途としては特許文献2の高圧多重インバータも該当する。
【0006】
SSTで不平衡な三相交流系統に連系する場合、あるいは高圧多重インバータで意図的に不平衡な三相交流電圧を出力する場合では、ある相の相電圧振幅が増加し該当相に接続されるセルが出力すべき交流電圧も増加する。
【0007】
これに対応するためには、セルの直流電圧を増加する必要があるが、部品に要求される耐圧も増加する必要が生じてしまいコストやサイズ増加の原因となる。セルに耐圧の大きなスイッチングデバイスを使用すれば損失が増加する原因にもなる。
【0008】
また、装置によっては一部のセルが故障しても運転継続を求められる場合がある。
【0009】
特許文献1はSSTの主回路構成が、特許文献2は高圧多重インバータの構成が開示されている。
【0010】
特許文献3,4はセルが故障した際に運転を継続するための方法が開示されている。両方の文献にて最初に故障したセルの短絡を行う。ただし、これだけでは故障セルのある相の出力できる交流電圧振幅が低下してしまう。そこで、特許文献3では該当相にあらかじめ用意した予備セルを投入する。特許文献4では該当相の故障していないセルの直流電圧を増加する。
【0011】
特許文献5,6はMMCC-SSBCにおいて零相電圧を用いることで電圧不平衡に対応する技術が開示されている。この技術の目的は、各セルのコンデンサ電圧をバランスさせることである。
【0012】
特許文献7はセル多重を行わない単機の3相インバータの電圧指令値に零相電圧を重畳することで、電圧指令値のピークを下げる技術である。不平衡な三相交流電圧を出力する場合にも対応でき、各相の電圧指令値ピークを等しくすることができる。特許文献7の技術は、MMCC-SSBCや高圧多重インバータに適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開平10-75580号公報
【文献】特開平11-122943号公報
【文献】特開2012-147613号公報
【文献】WO2017/094379 A1
【文献】特開2013-5694号公報
【文献】特開2021-19481号公報
【文献】特開平3-107373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1,2では不平衡な系統への連系や不平衡電圧の出力、セルが故障したときの対処法は特に言及されていない。
【0015】
特許文献3では予備セルを装置に組み込む必要があり、また予備セルを投入するためのスイッチも必要になるため、コストやサイズが増加してしまう。故障が起こらなければ予備セルは使用されず、無駄になることもあり得る。
【0016】
特許文献4では該当相の他のセルの直流電圧を増加するため、それを踏まえたセルの設計が必要となりコストやサイズ、損失増加の問題が生じる。また、特許文献3,4ともに電圧不平衡への対応方法は記載されていない。
【0017】
特許文献5,6では各セルの直流側にはコンデンサのみが接続され無効電力補償装置など有効電力を扱わない用途が想定されている。しかし、高圧多重インバータやSSTでは別途有効電力の通過経路を有するため、この経路を用いてセル間の電力融通を行い、コンデンサ電圧をバランスさせることができる。そのため、特許文献5,6の技術の重要性は低下する。また、特許文献5,6ともにセルの故障への対応方法は記載されていない。
【0018】
特許文献7では、零相電圧として3の奇数倍の高調波を重畳する。しかし、重畳する零相電圧の周波数が高いほど回路の浮遊容量を通して大きなコモンモード電流が流れてしまう。これにより、部品の発熱増加、効率低下、地絡検出器の誤動作、高周波トランスの絶縁破壊、他の機器への電磁障害といった多くの問題を引き起こす恐れがある。そのため、重畳する零相電圧の周波数を下げる必要がある。また、特許文献7もセルの故障への対応方法は記載されていない。
【0019】
以上示したようなことから、交流系統の各相にスター結線で複数のセルを多重に接続したセル多重インバータにおいて、交流電圧に不平衡が生じた場合や意図的に不平衡な交流電圧を出力する場合でもセルの交流出力電圧を均等にすることが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、交流系統の各相にスター結線で多重に接続した複数のセルと、基本波と同じ周波数の零相電圧を電圧指令値に重畳して補正電圧指令値を生成する補正電圧指令値生成部と、前記補正電圧指令値に基づいて前記セルのゲート信号を生成するゲート信号生成部と、を備えたセル多重インバータであって、前記補正電圧指令値生成部は、ある相の前記電圧指令値の振幅が他の相の前記電圧指令値の振幅よりも大きければ、ある相とは逆位相の正弦波を前記零相電圧として前記電圧指令値に重畳し、ある相の前記電圧指令値の振幅が他の相の前記電圧指令値の振幅よりも小さければ、ある相と同位相の正弦波を前記零相電圧として前記電圧指令値に重畳することを特徴とする。
【0021】
また、その一態様として、前記補正電圧指令値生成部は、前記電圧指令値に前記零相電圧を加算して前記補正電圧指令値を出力する第1加算器と、各相の前記補正電圧指令値の振幅を出力する振幅検出器と、前記補正電圧指令値の前記振幅の三相平均値と前記補正電圧指令値の前記振幅との偏差を算出する第1減算器と、前記三相平均値と前記振幅との偏差を増幅するアンプと、前記アンプの出力と前記電圧指令値と同位相の正弦波を乗算する第3乗算器と、三相の前記第3乗算器の出力を足し合わせて前記零相電圧として出力する第4加算器と、を備えたことを特徴とする。
【0022】
また、その一態様として、前記第1減算器で用いる前記振幅は、前記電圧指令値の前記振幅に故障したセル台数に基づいた係数を乗算した値とし、前記三相平均値は前記係数乗算後の前記振幅の三相平均値とすることを特徴とする。
【0023】
また、その一態様として、前記電圧指令値の前記振幅は、前記電圧指令値の実効値とすることを特徴とする。
【0024】
また、他の態様として、前記電圧指令値の前記振幅は、前記電圧指令値の基本波成分の振幅を抽出した値とすることを特徴とする。
【0025】
また、他の態様として、前記電圧指令値の前記振幅は、前記電圧指令値の1周期あたりのピーク値とすることを特徴とする。
【0026】
また、その一態様として、前記電圧指令値と同位相の正弦波は、三相のうち一相はPLLまたはロータリーエンコーダまたはレゾルバにより得られた位相、または、オブザーバで推定された位相とし、他の相は当該三相のうち一相の位相に固定値を加算した位相とすることを特徴とする。
【0027】
また、他の態様として、前記補正電圧指令値生成部は、系統の交流電圧に同期した位相ωtを出力する位相出力部と、前記補正電圧指令値とcosωtを乗算する第4乗算器と、前記第4乗算器の出力を2倍する第5乗算器と、前記第5乗算器の出力から直流成分を抽出し、前記補正電圧指令値のうちcosωtに同期した同相成分を出力する第2ローパスフィルタと、前記補正電圧指令値とsinωtを乗算する第6乗算器と、前記第6乗算器の出力を2倍する第7乗算器と、前記第7乗算器の出力から直流成分を抽出し、前記補正電圧指令値のうちsinωtに同期した直交成分を出力する第3ローパスフィルタと、前記同相成分にcosωtを乗算する第8乗算器と、前記直交成分にsinωtを乗算する第9乗算器と、前記第8乗算器の出力と前記第9乗算器の出力を加算する第5加算器と、
を備え、前記第5加算器の出力を前記電圧指令値と同位相の正弦波とすることを特徴とする。
【0028】
また、その一態様として、前記補正電圧指令値生成部は、系統の交流電圧に同期した位相ωtを出力する位相出力部と、相電圧検出信号または前記電圧指令値を系統周波数に同期した回転座標上の値に変換する第1dq変換器と、前記相電圧検出信号または前記電圧指令値を前記系統周波数と逆向きに回転する回転座標上の値に変換する第2dq変換器と、前記第1dq変換器の出力から直流成分を抽出した正相d軸成分,正相q軸成分と、前記第2dq変換器の出力から直流成分を抽出した逆相d軸成分,逆相q軸成分に基づいて、各前記セルの交流側出力電圧を均一にする零相電圧d軸成分、零相電圧q軸成分を演算する演算器と、前記零相電圧d軸成分にcosωtを乗算する第10乗算器と、前記零相電圧q軸成分にsinωtを乗算する第11乗算器と、前記第10乗算器の出力と前記第11乗算器の出力を加算する第7加算器と、前記電圧指令値に前記第7加算器の出力を加算する第8加算器と、を備え、前記第1加算器は、前記第8加算器で前記第7加算器の出力が加算された前記電圧指令値を用いることを特徴とする。
【0029】
また、その一態様として、前記演算器は、(1)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする。
【0030】
【数1】
【0031】
0d:零相電圧d軸成分
0q:零相電圧q軸成分
1d:正相電圧d軸成分
1q:正相電圧q軸成分
2d:逆相電圧d軸成分
2q:逆相電圧q軸成分。
【0032】
また、他の態様として、前記演算器は、(2)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする。
【0033】
【数2】
【0034】
0d:零相電圧d軸成分
0q:零相電圧q軸成分
1d:正相電圧d軸成分
1q:正相電圧q軸成分
2d:逆相電圧d軸成分
2q:逆相電圧q軸成分。
【0035】
また、他の態様として、前記演算器は、(3)式に基づいて、前記零相電圧d軸成分と前記零相電圧q軸成分を算出することを特徴とする。
【0036】
【数3】
【0037】
0d:零相電圧d軸成分
0q:零相電圧q軸成分
2d:逆相電圧d軸成分
2q:逆相電圧q軸成分
:電圧正相成分。
【0038】
また、その一態様として、前記第1dq変換器と前記第2dq変換器で用いる前記相電圧検出信号または前記電圧指令値は、前記相電圧検出信号または前記電圧指令値に、各相のセル台数を各相で故障せず動作しているセル台数で除算した係数を乗算した値とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、交流系統の各相にスター結線で複数のセルを多重に接続したセル多重インバータにおいて、交流電圧に不平衡が生じた場合や意図的に不平衡な交流電圧を出力する場合でもセルの交流出力電圧を均等にすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】実施形態1~4の主回路構成を示す回路図。
図2】実施形態1の補正電圧指令値生成部を示すブロック図。
図3】実施形態2の補正電圧指令値生成部を示すブロック図。
図4】実施形態3の補正電圧指令値生成部を示すブロック図。
図5】実施形態4の補正電圧指令値生成部を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本願発明におけるセル多重インバータの実施形態1~4を図1図5に基づいて詳述する。
【0042】
[実施形態1]
まず、セル多重インバータの一例として、図1に示すMMCC-SSBCの主回路構成を説明する。
【0043】
図1(a)に示すように、交流系統ACのU相には、リアクトルLuを介して、セルcellu1,セルcellu2、セルcellu3が直列接続される。同様に、交流系統ACのV相には、リアクトルLvを介して、セルcellv1,セルcellv2、セルcellv3が直列接続され、交流系統ACのW相には、リアクトルLwを介して、セルcellw1,セルcellw2、セルcellw3が直列接続される。ここで、交流の相電圧(相電圧検出信号)をv,v,vとする。
【0044】
セルcellu1,セルcellu2、セルcellu3,セルcellv1,セルcellv2、セルcellv3,セルcellw1,セルcellw2、セルcellw3の直流端子は並列接続される。セルcellu1~cellw3の直流電圧をVDCとする。
【0045】
図1(b)にセル1台当たりの構成を示す。セルの一方の交流端子にはスイッチングデバイスS1,S3の一端が接続される。また、セルの他方の交流端子にはスイッチングデバイスS2,S4の一端が接続される。スイッチングデバイスS1,S2の他端は第1コンデンサC1の一端に接続される。スイッチングデバイスS3,S4の他端は第1コンデンサC1の他端に接続される。
【0046】
第1コンデンサC1の一端と他端との間にはスイッチングデバイスS5,S7が直列接続される。また、第1コンデンサC1の一端と他端との間にはスイッチングデバイスS6,S8が直列接続される。
【0047】
スイッチングデバイスS5,S7の接続点にはリアクトルL1の一端が接続される。スイッチングデバイスS6,S8の接続点にはリアクトルL2の一端が接続される。リアクトルL1の他端とリアクトルL2の他端との間にはトランスTrの一次巻線が接続される。
【0048】
セルの一方の直流端子と他方の直流端子との間には第2コンデンサC2が接続される。第2コンデンサC2の一端と他端との間にはスイッチングデバイスS9,S11が直列接続される。また、第2コンデンサC2の一端と他端との間にはスイッチングデバイスS10,S12が直列接続される。
【0049】
スイッチングデバイスS9,S11の接続点にはリアクトルL3の一端が接続される。スイッチングデバイスS10,S12の接続点にはリアクトルL4の一端が接続される。リアクトルL3の他端とリアクトルL4の他端との間にはトランスTrの二次巻線が接続される。なお、図1(b)のリアクトルL1~L4は省略してもよい。
【0050】
図2に本実施形態1の補正電圧指令値生成部のブロック図を示す。本実施形態1は、各セルの電力責務を均等にする必要がない用途において、各セルの電圧責務を均等にする。
【0051】
第1加算器1u,1v,1wは、電圧指令値v*,v*,v*に前回の演算周期で得られた零相電圧を重畳し、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’を出力する。電圧指令値v*,v*,v*は決められた振幅・周波数の正弦波として与えられる場合や、電圧や電流のフィードバック制御により得られる場合がある。
【0052】
補正電圧指令値v*’,v*’,v*’は、後段(ゲート信号生成部)でキャリア三角波比較などによりゲート信号(オンオフ指令信号)を生成し、各セルのスイッチングデバイスに入力される。
【0053】
振幅検出器2u,2v,2wは、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅を検出する。振幅検出器2u,2v,2wは、実施形態1では補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の実効値を求める例として以下により構成される。他にも、後述する実施形態3に示すように補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の基本波の振幅を求めてもよく、または補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の1周期あたりのピーク値を記憶して出力するようにしてもよい。
【0054】
第1乗算器3u,3v,3wは、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の自乗を求める。第1ローパスフィルタ4u,4v,4wは、第1乗算器3u,3v,3wの出力から1周期あたりの直流成分を抽出する。平方根演算器5u,5v,5wは、第1ローパスフィルタ4u,4v,4wの出力の平方根を求める。平方根演算器5u,5v,5wの出力が補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅となる。
【0055】
平方根演算器5u,5v,5wは演算負荷が高いため省略してもよい。この場合、後述のアンプ9u,9v,9wで増幅する対象は実効値の自乗となるためゲインが過剰になりやすくなる点に注意する必要がある。
【0056】
第2加算器6は、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅の和を求める。第2乗算器7は、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅の和(第2加算器6の出力)に1/3をかけ三相平均値を求める。第1減算器8u,8v,8wは、その三相平均値と、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅と、の偏差を求める。
【0057】
アンプ9u,9v,9wは、第1減算器8u,8v,8wの出力(三相平均値と振幅の偏差)を増幅する。ここでは例として比例積分器を使用する。
【0058】
位相出力部(例えば、PLL:Phase-Locked Loop)10は、交流系統ACの相電圧検出信号v,v,vから系統の交流電圧に同期した位相ωtを出力する。
【0059】
相電圧検出信号v,v,vは線間電圧を検出し計算により相電圧に変換してもよい。また、相電圧検出信号v,v,vの代わりに、電圧指令値v*,v*,v*を入力してもよい。位相出力部10に入力する系統交流電圧は、代表の1相のみでもよい。モータドライブ用途では、ロータリーエンコーダやレゾルバなどから位相ωtを検出してもよく、オブザーバなどで推定した位相を用いてもよい。以下、位相出力部10はPLL10と示す。
【0060】
発振器11uは、位相ωtから電圧指令値v*と同じ位相・振幅1の正弦波を出力する。第2減算器12vは、位相ωtから2π/3を減算する。発振器11vは、位相ωt-2π/3から電圧指令値v*と同じ位相・振幅1の正弦波を出力する。第3加算器12wは、位相ωtに2π/3を加算する。発振器11wは、位相ωt+2π/3から電圧指令値v*と同じ位相・振幅1の正弦波を出力する。
【0061】
第3乗算器13u,13v,13wは、各相のアンプ9u,9v,9wの出力と、各相の電圧指令値v*,v*,v*に同期した正弦波(発振器11u,11v,11wの出力)を乗算する。
【0062】
第4加算器14は、3つの第3乗算器13u,13v,13wの和を、各相の電圧指令値v*,v*,v*に重畳すべき零相電圧として出力する。第4加算器14の出力はバッファ15にいったん記憶され、次の演算周期で電圧指令値v*,v*,v*に加算され補正電圧指令値v*’,v*’,v*’を得る。
【0063】
本実施形態1では、三相の電圧指令値v*,v*,v*に零相電圧を重畳することで各相の電圧指令値の振幅を等しくすることを目的とする。
【0064】
本実施形態1では、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅を検出し、三相平均値との偏差を求める。補正電圧指令値v*’の振幅が三相平均値よりも小さければ、補正電圧指令値v*’と同じ位相の正弦波を零相電圧として加算し、補正電圧指令値v*’の振幅を増加させる。補正電圧指令値v*’の振幅が三相平均値よりも大きければ、補正電圧指令値v*’とは逆の位相の正弦波を零相電圧として加算し、補正電圧指令値v*’の振幅を減少させる。
【0065】
これを三相で行い重畳する零相電圧は三相分の総和とする。次の演算周期では、前回求めた零相電圧を重畳した補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅を検出し、アンプに積分要素があれば偏差が零になり補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅が等しくなるまで繰り返す。積分要素がなければ、偏差がゲインに応じた値まで小さくなるまでとなる。
【0066】
以上の動作により、交流電圧に不平衡がある場合、または意図的に不平衡な交流電圧を出力する場合において、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅を等しくすることができる。
【0067】
本実施形態1では、電圧指令値と同位相の正弦波が、三相のうち一相はPLLまたはロータリーエンコーダまたはレゾルバにより得られた位相、または、オブザーバで推定された位相とし、他の相は当該三相のうち一相の位相に固定値を加算した位相とする。すなわち、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’がそれぞれcosωt、cos(ωt-2π/3)、cos(ωt+2π/3)に同期していると仮定している。
【0068】
これは、PLL10が正常に動作している限り成立する。故障や負荷急変などで交流電圧の位相が急変すると、一時的に同期が外れることがある。
【0069】
位相差が大きくなるほど補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅が等しくなるまでに時間がかかり、特に位相差がπ/2を超えると補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅を増加させる零相電圧を重畳してしまうことになる。
【0070】
しかし、例えば事故時運転継続(FRT)要件では41°以内の位相跳躍に対して運転を継続することが求められており、この条件ならば本実施形態1を適用しても不安定にならない。
【0071】
以上示したように、本実施形態1によれば、MMCC-SSBCを始めスター結線のセル多重インバータにおいて、交流電圧に不平衡が生じた場合、あるいは意図的に不平衡な交流電圧を出力する場合でもセルの交流出力電圧を均等にできる。これにより、ある相の電圧振幅が増加した場合でも該当相にセルを投入する、該当相のみセル直流電圧を引き上げる、といった必要がなくなる。
【0072】
また、重畳する零相電圧は基本波成分のみであるため、コモンモード電流を抑えることができる。
【0073】
本実施形態1では、すべてのセルの直流電圧をあらかじめ高くしておく、あるいは引き上げる必要があるが、従来技術に比べて直流電圧の増加分を大幅に抑制でき、セルの耐圧増加を最小限に抑えコスト・サイズを減少させることができる。
【0074】
また、重畳する零相電圧はフィードバックにより求めるため、本実施形態1は交流電圧の検出誤差がある場合など外乱があってもセルの交流出力電圧を均等にできる。
【0075】
[実施形態2]
図3に本実施形態2の補正電圧指令値生成部のブロック図を示す。本実施形態2は実施形態1に対して以下の点が異なる。
【0076】
係数乗算器16u,16v,16wは、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅(振幅検出器2u,2v,2wの出力)に係数N/n,N/n,N/nをかける。係数の分子Nは、各相のセル台数である。係数の分母n,n,nは各相で故障せず動作しているセル台数である。
【0077】
前記第1減算器8u,8v,8wで用いる振幅は、振幅に係数を乗算した値とし、三相平均値は係数乗算後の振幅の三相平均値とする。
【0078】
本実施形態2は、実施形態1に対して故障したセルのある相の電圧責務を軽減する機能を追加した。検出した補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅に係数をかけ、故障したセルを含む相の交流電圧を故障セル台数に応じて大きく見せかけ平均値および偏差を求める。
【0079】
この偏差を増幅して得られた零相電圧を重畳することで、故障したセルのある相の電圧指令値の振幅を減少させることができる。
【0080】
なお、図3に基づいてゲート信号を生成するのは、故障をしていない健全なセルについてである。故障したセルについては、高圧交流側はスイッチングデバイスS1,S3をON、またはスイッチングデバイスS2,S4をONして零電圧を出力、または外付けスイッチで短絡処置を行う。スイッチングデバイスS5~S12はOFFする。
【0081】
以上示したように、本実施形態2により、実施形態1の効果に加えてセルの一部が故障し短絡処置を行った場合でもセルの交流出力電圧を均等にできる。従来技術よりも多くのセルが故障した場合においても運転を継続することができる。
【0082】
[実施形態3]
図4に本実施形態3の補正電圧指令値生成部のブロック図を示す。本実施形態3は実施形態2に対して以下の点が異なる。
【0083】
発振器17は、PLL10から出力された位相ωtを入力し、正弦波sinωtを出力する。発振器18は、PLL10から出力された位相ωtを入力し、余弦波cosωtを出力する。
【0084】
実施形態1では、電圧指令値v*がcosωtに同期、電圧指令値v*がcos(ωt-2π/3)に同期、v*がcos(ωt+2π/3)に同期すると仮定したが、本実施形態3では各相の電圧指令値に同期した(同位相の)正弦波を以下のブロックで用意する。
【0085】
第4乗算器19uは補正電圧指令値v*’と余弦波cosωtとの積を求める。第5乗算器20uは第4乗算器19uの出力を2倍する。第2ローパスフィルタ4uは、2v*’cosωtから直流成分を抽出する。第2ローパスフィルタ4uの出力が、補正電圧指令値v*’のうち余弦波cosωtに同期した成分(v*同相成分)である
第6乗算器21uは、補正電圧指令値v*’と正弦波sinωtとの積を求める。第7乗算器22uは第6乗算器21uの出力を2倍する。第3ローパスフィルタ4uは2v*’sinωtから直流成分を抽出する。第3ローパスフィルタ4uの出力が、補正電圧指令値v*’のうち正弦波sinωtに同期した成分(v*直交成分)である。
【0086】
第8乗算器23uは、v*同相成分と余弦波cosωtとの積を求める。第9乗算器24uはv*直交成分と正弦波sinωtとの積を求める。第5加算器25uは、2つの第8,第9乗算器23u,24uの出力を加算する。第5加算器25uの出力が、電圧指令値v*の基本波成分と同じ位相・振幅を持つ正弦波である。第3乗算器13uは、この正弦波をcosωtの代わりにU相アンプ9uの出力と乗算する。V相・W相も同様である。
【0087】
これに伴い補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅検出器2u,2v,2wを、上記ブロックの値を用いて基本波の振幅を求める以下の構成に変更している。実施形態2同様に実効値を用いてもよく、または1周期あたりのピーク値を記憶して出力するようにしてもよい。
【0088】
第10乗算器26uは、v*同相成分とv*直交成分それぞれ自乗を求める。第6加算器27uは、2つの第10乗算器26の出力を加算する。平方根演算器28uは、第6加算器27uの出力の平方根を求める。平方根演算器28uは演算負荷が高いため省略してもよい。この場合の注意点は実施形態1と同じである。V相・W相も同様である。
【0089】
本実施形態3は、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’に同期した正弦波を正確に求める点が実施形態1とは異なる。これにより、系統の位相跳躍が頻発する場合、FRT要件を超える位相跳躍での運転継続が求められる場合において、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅が等しくなるまでの時間短縮やフィードバック制御の不安定化を防ぐ効果を得られる。
【0090】
また、同期モータのドライブ用途では位相ωtの検出にロータリーエンコーダなどを用いるが、ロータリーエンコーダの位相と電圧位相が必ずしも一致するとは限らない。実施形態1,2では差が大きい場合には補正が必要になるが、本実施形態3ならば差が大きくても補正せずに適用することができる。
【0091】
本実施形態3により、系統が不安定で位相跳躍が頻発する場合、大きな位相跳躍に対しても運転継続が求められる場合において、実施形態1や実施形態2よりも収束時間を短縮でき、不安定化を防ぐことができる。また、モータドライブ用途にも容易に適用することができる。ただし、演算負荷は実施形態1や実施形態2の方が小さくなる。
【0092】
[実施形態4]
図5に本実施形態4の補正電圧指令値生成部のブロック図を示す。本実施形態4は実施形態3に対してフィードフォワード制御を組み合わせたものである。
【0093】
フィードフォワード制御の入力は電圧指令値v*,v*,v*としているが、これは零相電圧を加算する前の値を用いる必要がある。相電圧検出信号v,v,vを入力してもよい。フィードバック制御の入力は、前の演算周期のフィードバック制御による零相電圧の他に、フィードフォワードによる零相電圧も加算したものとする必要がある。
【0094】
第2係数乗算器29u,29v,29wにおいて、電圧指令値v*,v*,v*(または相電圧検出信号v,v,v)に係数N/n,N/n,N/nを乗算する。係数の分子Nは、各相のセル台数である。図1の例ではN=3である。係数の分母n,n,nは各相で故障せず動作しているセル台数である。そして、後述する第1dq変換器30と第2dq変換器31で用いる電圧指令値v*,v*,v*(または相電圧検出信号v,v,v)はこの係数を乗算した値を用いる。
【0095】
第1dq変換器30は、係数N/n,N/n,N/nを乗算した電圧指令値v*,v*,v*を位相ωtに基づいて、系統周波数に同期した回転座標上の値に変換する。
【0096】
第1dq変換器30の出力から直流成分のみを抽出すると、d軸成分が電圧指令値v*,v*,v*の正相d軸成分V1d、q軸成分が正相q軸成分V1qとなる。PLL10が正常に動作していれば正相q軸成分V1qは零であるため、使用しない。
【0097】
第2dq変換器31は、係数N/n,N/n,N/nを乗算した電圧指令値v*,v*,v*を位相-ωtに基づいて、系統の周波数とは逆向きに回転する回転座標上の値に変換する。
【0098】
第2dq変換器31の出力から直流成分のみを抽出すると、それぞれ電圧指令値v*,v*,v*の逆相d軸成分V2d,逆相q軸成分V2qとなる。
【0099】
演算器32は、得られた正相d軸成分V1d,正相q軸成分V1q,逆相d軸成分V2d,逆相q軸成分V2qから後述する(1)式を用いて零相電圧d軸成分V0d,零相電圧q軸成分V0qを求める。(1)式の代わりに(2)式や(3)式を用いて零相電圧d軸成分V0dと零相電圧q軸成分V0qを求めてもよい。この演算器32では、交流電圧の正相成分と逆相成分の振幅がほぼ等しい場合にはV0d=V0q=0を出力する。
【0100】
第11乗算器33は、零相電圧d軸成分V0dと余弦波cosωtの積を求める。第12乗算器34は、零相電圧q軸成分V0qと正弦波sinωtの積を求める。
【0101】
第7加算器35は、第11乗算器33が出力するV0dcosωtと第12乗算器34が出力するV0qsinωtの和を求める。
【0102】
第8加算器36u,36v,36wは、電圧指令値v*,v*,v*それぞれに、第7加算器35で求めたV0dcosωt+V0qsinωtを加算する。本実施形態4では、第8加算器36u,36v,36wの出力を第1加算器1u,1v,1wに出力する。第1加算器1u,1v,1wでは、第8加算器36u,36v,36wの出力に前回の演算周期で得られた零相電圧を重畳し、補正電圧指令値v*’,v*’,v*’を出力する。
【0103】
以下、(1)式~(3)式を示す。
【0104】
【数1】
【0105】
正相q軸成分V1qが零に近ければ、(1)式は(2)式に近似できる。
【0106】
【数2】
【0107】
正相q軸成分V1qが零に等しければ、(1)式は(3)式に簡略化できる。(3)式においてVは交流電圧の正相成分を示す。
【0108】
【数3】
【0109】
本実施形態4は、実施形態3に対して、フィードフォワードで補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅を等しくし、検出誤差などによるずれをフィードバックで補正する。そのため、フィードバックゲインを小さくしても補正電圧指令値v*’,v*’,v*’の振幅が等しくなるまでの時間を短縮でき、安定性も向上する。偏差を小さくできる(積分アンプを使用すれば零にできる)フィードバックの効果に加え、フィードフォワードによる効果も得ることができる。
【0110】
以上示したように、本実施形態4によれば、フィードフォワードとフィードバックを併用して重畳する零相電圧を決定する。フィードバックのゲインを下げても電圧変動に対する応答は高速であり、安定性を向上させつつ外乱があってもセルの交流出力電圧を均等にできる。
【0111】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0112】
AC…交流系統
1u,1v,1w…第1加算器
2u,2v,2w…振幅検出器
3u,3v,3w…第1乗算器
4u,4v,4w…第1ローパスフィルタ
5u,5v,5w…平方根演算器
6…第2加算器
7…第2乗算器
8u,8v,8w…第1減算器
9u,9v,9w…アンプ
10…位相出力部(PLL)
11u,11v,11w…発振器
12v…第2減算器
12w…第3加算器
13u,13v,13w…第2乗算器
14…第4加算器
15…バッファ
【要約】
【課題】交流系統の各相にスター結線で複数のセルを多重に接続したセル多重インバータにおいて、交流電圧に不平衡が生じた場合や意図的に不平衡な交流電圧を出力する場合でもセルの交流出力電圧を均等にする。
【解決手段】補正電圧指令値生成部は、ある相の電圧指令値の振幅が他の相の電圧指令値の振幅よりも大きければ、ある相とは逆位相の正弦波を零相電圧として電圧指令値に重畳し、ある相の電圧指令値の振幅が他の相の電圧指令値の振幅よりも小さければ、ある相と同位相の正弦波を零相電圧として電圧指令値に重畳する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5