(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】スキル出力装置、スキル出力方法およびスキル出力プログラム
(51)【国際特許分類】
G09B 19/00 20060101AFI20231226BHJP
G09B 7/02 20060101ALI20231226BHJP
G06Q 50/20 20120101ALI20231226BHJP
【FI】
G09B19/00 H
G09B7/02
G06Q50/20
(21)【出願番号】P 2022509832
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020013031
(87)【国際公開番号】W WO2021192037
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103090
【氏名又は名称】岩壁 冬樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124501
【氏名又は名称】塩川 誠人
(72)【発明者】
【氏名】玉野 浩嗣
(72)【発明者】
【氏名】片岡 俊幸
【審査官】西村 民男
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-61000(JP,A)
【文献】特開2017-90554(JP,A)
【文献】特開2008-58687(JP,A)
【文献】特開2005-250423(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0091859(US,A1)
【文献】八木 嵩大,パフォーマンス評価における多次元項目反応モデル,電子情報通信学会論文誌D,第J102-D巻 第10号,日本,電子情報通信学会,2019年10月01日,pp. 708-720
【文献】正規分布の基礎的な知識まとめ|高校数学の美しい物語 [オンライン],2018年05月07日,https://mathtrain.jp/gaussdistribution, [検索日 2020.06.08]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G09B 1/00- 9/56
17/00-19/26
G06Q 50/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定される前記スキルの習熟度とを対応付けて出力する出力手段を備え
、
前記
出力手段は、前記学習者が有すると想定されるスキルの習熟度と、当該習熟度の不確定度とを合わせて出力する
ことを特徴とするスキル出力装置。
【請求項2】
出力手段は、対象の問題を解くために必要とされる複数のスキルそれぞれについての閾値と、学習者が有すると想定される前記複数のスキルの習熟度とを、スキルごとに対応付けて出力する
請求項1記載のスキル出力装置。
【請求項3】
出力手段は、習熟度が閾値を充足しないスキルを特定し、特定されたスキルを必要とする問題の候補を出力する
請求項1
または請求項2記載のスキル出力装置。
【請求項4】
出力手段は、特定されたスキルを必要とする問題の候補を、当該スキルを必要とする程度に応じて順序付けて出力する
請求項
3記載のスキル出力装置。
【請求項5】
出力手段は、学習者のスキルの習熟度に応じた各問題の正解確率の分布を表わすモデルを用いて、指定された前記正解確率により算出される各スキルの閾値と、閾値に対する相対的な学習者のスキルの習熟度とを出力する
請求項1から請求項
4のうちのいずれか1項に記載のスキル出力装置。
【請求項6】
出力手段は、非補償型モデルを用いて、各スキルの閾値と習熟度とを出力する
請求項
5記載のスキル出力装置。
【請求項7】
出力手段は、ガウス分布で推定された学習者のスキルの状態を示す分布を用いて、当該ガウス分布の分散を習熟度の不確定度として出力する
請求項
5または請求項
6記載のスキル出力装置。
【請求項8】
コンピュータが、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定される前記スキルの習熟度とを対応付けて出力
し、
前記コンピュータが、前記学習者が有すると想定されるスキルの習熟度と、当該習熟度の不確定度とを合わせて出力する
ことを特徴とするスキル出力方法。
【請求項9】
コンピュータに、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定される前記スキルの習熟度とを対応付けて出力する出力処理を実行させ
、
前記出力処理で、前記学習者が有すると想定されるスキルの習熟度と、当該習熟度の不確定度とを合わせて出力させる
ためのスキル出力プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習者のスキルの状況を出力するスキル出力装置、スキル出力方法およびスキル出力プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
教育の効果をより高めるためには、個々の学習者に合わせた教育を提供することが重要である。このような仕組みは、アダプティブラーニングと呼ばれている。このような仕組みを実現するため、個々の学習者に合わせたスキルをコンピュータが自動的に提供することが求められている。具体的には、各学習者の知識の状態を常にトレースし、その知識の状態に合わせて適切な学びを提供する必要がある。このように、学習者の知識の状態をトレースして、適切な情報を提供する技術は、ナレッジトレースとも呼ばれている。
【0003】
ナレッジトレースでは、学習者のスキルを可視化して学習状況をリアルタイムに把握したり、問題を解けるか否か予測して、その学習者に合わせた最適な問題を提供したりすることが行われる。例えば、特許文献1には、生徒本人の学習内容ごとの習熟度を細かく把握して効果的な復習を支援すると共に、生徒本人の学習内容ごとの習熟度等に対して最適化された演習問題集を作成するテスト作成サーバが記載されている。
【0004】
なお、非特許文献1には、非補償型の項目応答モデルを持つ確率モデルによる、解釈可能なナレッジトレーシングが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】玉野浩嗣、持橋大地、“局所的変分法による非補償型時系列IRT”、信学技報、vol.119、no.360、IBISML2019-31、pp.91-98、2020年1月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されたテスト作成サーバのように、一般的には、AI(Artificial Intelligence )が学習者のスキルを判断して、適切な問題を提示する。このようにAIが提示した問題を学習者が一方的に解くような学習方法は、一見すると効率が良いとも考えられる。しかし、一方的に与えられる問題を解くだけの学習方法では、出題される問題を解く力は向上する可能性がある一方で、自身の不得意への対応を主体的に考える力が身につかない可能性もある。
【0008】
そこで、AIと対話しながら何を勉強すべきかを自分で決定できる学習方法、すなわち、学習者が主体的にAIを使いこなすような学習方法を提供できることが好ましい。そのためには、学習者自らが不得意への対応を主体的に考えることができるような情報をフィードバックすることが必要である。
【0009】
例えば、特許文献1に記載されたテスト作成サーバは、小単元にて出題された問題数に対する正答数の割合に応じて、「○(全問正解を示す丸)」「△(一部不正解を示す三角)」「×(全問不正解を示すバツ)」の三段階で学習達成率を表示する。しかし、特許文献1に記載された表示内容は、正解または不正解の実績を表示するだけのものであるため、出題された問題を解くためのスキルを、自身がどの程度充足しているか把握することはできない。
【0010】
そこで、本発明は、問題を解くために必要な学習者のスキルの充足状況を表わすことができるスキル出力装置、スキル出力方法およびスキル出力プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によるスキル出力装置は、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度とを対応付けて出力する出力手段を備え、出力手段が、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度と、その習熟度の不確定度とを合わせて出力することを特徴とする。
【0012】
本発明によるスキル出力方法は、コンピュータが、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度とを対応付けて出力し、コンピュータが、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度と、その習熟度の不確定度とを合わせて出力することを特徴とする。
【0013】
本発明によるスキル出力プログラムは、コンピュータに、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度とを対応付けて出力する出力処理を実行させ、出力処理で、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度と、その習熟度の不確定度とを合わせて出力させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、問題を解くために必要な学習者のスキルの充足状況を表わすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明によるスキル出力装置の一実施形態の構成例を示すブロック図である。
【
図2】問題と必要なスキルとを対応付ける例を示す説明図である。
【
図3】正解確率の尤度関数の例を示す説明図である。
【
図4】スキルの充足状況をグラフで出力した例を示す説明図である。
【
図5】スキルの充足状況をグラフで出力した他の例を示す説明図である。
【
図6】非補償型モデルの情報を模式的に表わす説明図である。
【
図7】閾値を算出する処理の例を示す説明図である。
【
図8】結果を可視化する処理の例を示す説明図である。
【
図10】スキル出力装置の動作例を示すフローチャートである。
【
図11】スキル出力装置を用いた学習方法の具体例を示す説明図である。
【
図12】本発明によるスキル出力装置の概要を示すブロック図である。
【
図13】少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
【0017】
図1は、本発明によるスキル出力装置の一実施形態の構成例を示すブロック図である。本実施形態のスキル出力装置100は、記憶部10と、入力部20と、出力部30とを備えている。
【0018】
記憶部10は、本実施形態のスキル出力装置100が処理に用いる各種情報を記憶する。具体的には、記憶部10は、各問題を解くために必要なスキルを記憶する。
図2は、問題と必要なスキルとを対応付ける例を示す説明図である。
図2に示す例では、問題とその問題を解くために必要なスキルとを表形式で対応付けた例を示す。
図2に例示するように、各問題で必要とされるスキルは1つであってもよく、2以上であってもよい。問題と必要なスキルの対応付けは、予めユーザ等により設定される。
【0019】
さらに、記憶部10は、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す値(以下、閾値と記す。)を特定するための情報を記憶する。なお、この閾値は、問題の難易度ということができる。記憶部10は、各問題を解くために必要なスキルそれぞれに対して、個別に設定された閾値そのものを記憶していてもよい。また、記憶部10は、学習者の過去の学習実績に基づいて学習されたモデルであって、学習者が有するスキルの習熟度に応じた正解確率の分布を表わす確率モデルを記憶していてもよい。このような確率モデルを記憶している場合、正解確率を任意の値(例えば、80%)に設定することで、閾値を特定することが可能になる。さらに、記憶部10は、学習者におけるスキルの習熟度を記憶していてもよい。
【0020】
以下、非特許文献1に記載された非補償型の項目応答モデルを例に、確率モデルを用いた閾値の特定方法を説明する。スキルをある問題に関連付ける場合、それらのスキルがすべて満たされることで解けるとすることが一般的である。非特許文献1に記載されたこのようなモデルは、多次元項目応答理論において非補償型モデルと呼ばれている。この非補償型モデルを用いた予測理由の説明は、自然であると言える。
【0021】
以下、具体例を用いて、非補償型モデルについて説明する。ここでは、分数を含む方程式に関する問題(例:x/5+3/10=2x)を解くことができるか否かを示す予測モデルを想定する。この問題を解くためには、分数のスキルs1と、方程式のスキルs2が必要であると考えられる。
【0022】
非補償型モデルでは、正解確率を予測するモデルが各スキルの積で表される。例えば、各スキルs1,s2の係数をそれぞれt1,t2とした場合、予測モデルは、シグモイド関数σを用いて、以下のように表すことができる。このような非補償型モデルでは、「分数と方程式の知識がなければ上記問題は解けない」と解釈されるため、説明性は高いと言える。
【0023】
正解確率=σ(t1s1)σ(t2s2)
【0024】
また、学習者の状態zと問題iが与えられたときに、学習者がその問題iを解ける確率を表わすモデルは、例えば、以下に例示する式1で定義できる。すなわち、式1に例示するモデルは、問題iの解決に学習者が必要とするスキルkの組み合わせで表わされ、各スキルの積により問題を解ける確率が算出されるモデルである。学習者の状態zは、ある時点において学習者が有する各スキルkの習熟度を表わす。
【0025】
【0026】
式1において、bi,kは、問題iで用いられるスキルkの難易度を表わし、ai,kは、問題iに関するスキルkの立ち上がりの程度(スロープ)を表わすパラメータである。すなわち、式1は、bi,kが示す難易度よりもスキルの習熟度zkが高ければ、高い確率で問題が解けることを表わす。
【0027】
図3は、正解確率の尤度関数の例を示す説明図である。
図3に例示するグラフは、縦方向の軸(z軸)が正解確率を示し、その他の軸(x軸およびy軸)が、その問題を解くために必要なスキルの習熟度を表わす。具体的には、
図3に例示する尤度関数は、上記に例示する式1で表される。例えば、
図3に例示するように、ある問題を解くために2つのスキルが必要であったとする。この場合、一方のスキルだけが高くても正解確率は増加しないが、両方のスキルが高くなると正解確率が増加することを示す。
【0028】
例えば、
図3に示す例において、問題が解けるために管理者が正解確率=80%になるようなスキルの習熟度が必要であると想定したとする。この場合、尤度関数の値である正解確率の軸に対して垂直に、正解確率=0.8の位置で切断したときの断面が、スキルの習熟度の範囲を表わしていると言える。
【0029】
このようなモデルを用いることで、閾値を特定することが可能になる。なお、このモデルを用いた閾値の特定方法については後述される。ただし、閾値を特定するために用いるモデルは、上述するような非補償型モデルに限定されず、各問題を解くために必要なスキルを特定可能なモデルであれば、その内容は任意である。
【0030】
また、記憶部10は、対象となる問題そのもの(例えば、問題文や図など)を記憶していてもよい。記憶部10は、磁気ディスク等により実現される。
【0031】
入力部20は、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度を特定するための情報の入力を受け付ける。入力部20は、記憶部10から対象の学習者におけるスキルの習熟度を取得してもよい。また、入力部20は、学習者が有するスキルの不確定度の入力も合わせて受け付けてもよい。なお、学習者のスキルを表わす状態がガウス分布に従うような場合、学習者が有するスキルの不確定度が、後述する出力部30によって算出されてもよい。
【0032】
また、入力部20は、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値を特定するための情報の入力を受け付ける。なお、入力部20は、記憶部10から閾値を取得してもよく、閾値の算出に用いられるモデルの情報を取得してもよい。
【0033】
出力部30は、問題を解くために必要な学習者のスキルの充足状況を出力する。具体的には、出力部30は、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度(すなわち、閾値)と、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度とを対応付けて出力する。なお、問題を解くために複数のスキルが必要な場合、出力部30は、対象の問題を解くために必要とされる複数のスキルそれぞれについての閾値と、学習者が有すると想定される複数のスキルの習熟度とを、スキルごとに対応付けて出力する。
【0034】
出力部30が、スキルの充足状況を出力する方法は任意である。出力部30は、例えば、グラフ形式でスキルの充足状況を出力してもよく、文章としてスキルの充足状況を出力してもよい。
図4は、スキルの充足状況をグラフで出力した例を示す説明図である。
図4に示す例では、点線101が閾値を表わし、棒グラフ102がスキルの習熟度を表わす。閾値は、例えば、「正解確率8割を満たす習熟度」などである。
【0035】
なお、
図4に示す例では、閾値がすべてのスキルに対して同じ習熟度の位置に出力されているが、閾値の位置が、それぞれ異なっていてもよい。また、グラフ形式は、
図4に例示するような棒グラフに限定されず、折れ線グラフやレーダーチャートなどであってもよい。このように、出力部30が、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度と閾値とを対応付けて出力することにより、問題を解くために必要な学習者のスキルの充足状況を表わすことができる。よって、学習者は、出題された問題を解くためのスキルを、自身がどの程度充足しているか把握することができる。
【0036】
さらに、出力部30は、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度と、その習熟度の不確定度とを合わせて出力してもよい。出力部30は、入力部20が受け付けた不確定度を出力してもよいし、学習者の状態の不確定度に基づいて、算出結果を出力してもよい。なお、学習者の不確定度の算出方法は後述される。
【0037】
図5は、スキルの充足状況をグラフで出力した他の例を示す説明図である。
図5に示す例では、スキルの可変状況を表わす不確定度を線103で示し、その線103を棒グラフ102に重畳させて表示していることを示す。出力部30は、このような方法によりスキルの習熟度と不確定度とを合わせて出力してもよい。
【0038】
また、出力部30は、学習者のスキルの習熟度に応じた各問題の正解確率の分布を表わすモデルを用いて、指定された正解確率により算出される各スキルの閾値と、閾値に対する相対的な学習者のスキルの習熟度とを出力してもよい。以下、上述する非補償型モデルを用いた場合の出力方法の一例を説明する。
図6は、非補償型モデルの情報を模式的に表わす説明図である。
図6に例示する情報は、例えば、分析エンジンの内部で非補償型モデルを扱う際の情報であり、対象とする問題に2つのスキル(「整数の減法」、「絶対値」)が必要であることを示す。また、ここでは、正解確率=80%になるようなスキルの習熟度が必要であるとして指定された場合を想定する。
【0039】
グラフの右上に斜線で示す領域111は、
図3に例示する尤度関数において、正解確率=80%を満たすスキルの習熟度の範囲を示す。なお、「0.8」と記載されている曲線112が、正解確率=80%を満たすために必要なスキルの習熟度の境界を示す。また、グラフの左下に示す×印113が、現時点での学習者のスキルの状態を示す。また、×印113を取り囲む楕円114は、学習者のスキルの状態の分布がガウス分布に従うとした場合における確率の等高線を示す。この場合、学習者のスキルの状態の位置は、ガウス分布における平均に対応する。
【0040】
この想定に基づいて、出力部30は、閾値を算出する。ここで算出される閾値は、
図4に例示する点線101が示す閾値に対応する。
図7は、閾値を算出する処理の例を示す説明図である。まず、出力部30は、各次元について座標z
k
*を算出する。出力部30は、例えば、上述する式1に基づき、以下に例示する式2を用いて、z
k
*を算出する。
【0041】
【0042】
なお、式2におけるpは正解確率を示し、a
iおよびb
iは、式1と同様、それぞれ、スロープおよび難易度を示す。ここで算出されるz
k
*は、
図3に例示する尤度関数に、外側から接する面の座標に相当し、
図7における長鎖線121および122に対応する。
【0043】
次に、出力部30は、境界線上の座標を変化させながら、Δ
1=Δ
2=…=Δ
K(Kは、必要なスキルの数)に最も近づく座標z^(zの上付きハット)を探索する。なお、Δは、各次元について算出されたz
k
*とz^との差分である。ここで算出されるz^は、
図3に例示する尤度関数に内側から接する面の座標に相当し、
図7における点123の座標に対応する。
【0044】
具体的には、出力部30は、座標z^を算出するに際し、以下の2つの処理を繰り返す。まず、第1の処理として、出力部30は、初期点として、
【数3】
を計算する。そして、出力部30は、このz
kに基づいて、各Δ
kの値を算出する。次に、出力部30は、第2の処理として、最も大きいΔ
kについての次元kについて、以下の式3に示す更新を行う。なお、δは、パラメータであり、予め定められる。
【0045】
zkmax←zkmax-δ (式3)
【0046】
そして、出力部30は、更新後のzkmaxをz´とし、最も小さいΔkについての次元kについて、以下の式4に示す更新を行う。出力部30は、この2つの処理を、予め定めた条件(例えば、変化量が閾値未満、予め定めた回数、など)を満たすまで繰り返す。
【0047】
【0048】
次に、出力部30は、各kについて、(z
^
k-z
k
*)/2を算出することで、領域を長方形近似する。ここで算出される値は、
図7における破線124および125の座標に対応する。
【0049】
そして、出力部30は、学習者のスキルの習熟度と、長方形近似された座標が示す値との比率に基づいて、棒グラフを出力する。具体的には、出力部30は、学習者のスキルの状態を示す座標126と、破線124および破線125が示す座標との比率に基づいて棒グラフを出力してもよい。さらに、出力部30は、学習者のスキルの状態の不確定度を合わせて出力してもよい。
【0050】
図8は、結果を可視化する処理の例を示す説明図である。例えば、スキル1(整数の減法)に対する学習者のスキルの状態がz
1
2と推定されており、ガウス分布におけるスキルの状態の分散±σが、それぞれ、z
1
1およびz
1
3であるとする。そして、
図7における破線124の座標がz
1
4と算出されたとする。このとき、出力部30は、学習者のスキル1の習熟度を、σ(a
i,1(z
1
2-b
i,1))/σ(a
i,1(z
1
4-b
i,1))で算出する。
【0051】
また、出力部30は、ガウス分布で推定された学習者のスキルの状態を示す分布を用いて、そのガウス分布の分散を習熟度の不確定度として出力してもよい。具体的には、出力部30は、不確定度の範囲を、σ(ai,1(z1
1-bi,1))/σ(ai,1(z1
4-bi,1))およびσ(ai,1(z1
3-bi,1))/σ(ai,1(z1
4-bi,1))で算出する。スキル2(絶対値)についても同様である。
【0052】
このように、出力部30は、閾値を1とした場合の、相対的なスキルの習熟度および不確定度を算出する。すなわち、出力部30が、スキル名と関連付けて、閾値に対する現在の学習者のスキルの習熟度および不確定度を相対値で表現する。よって、学習者のスキルの過不足を、学習者が理解可能なスキル名に基づいて提示できる。さらに、出力部30が、各スキルの不確定度を合わせて表現することで、学習者の納得感を向上させることも可能になる。
【0053】
さらに、出力部30は、習熟度が閾値を充足しないスキル(以下、原因スキルと記すこともある。)を特定し、特定されたスキルを必要とする問題の候補を、「お勧め問題」として出力してもよい。具体的には、出力部30は、原因スキルを必要とする問題の候補を、
図2に例示するような問題とその問題を解くために必要なスキルとを対応付けた表から特定してもよい。また、出力部30は、原因スキルのみ必要な問題だけでなく、間違えた問題と同じスキルの組み合わせを必要とする問題を候補として出力してもよい。
【0054】
さらに、出力部30は、特定した問題の候補のうち、所定の範囲の難易度を有する問題に限って出力してもよい。出力部30は、例えば、
図8に例示するz
1
1からz
1
4に相当する難易度の問題を、候補として出力してもよい。また、この応用として、出力部30は、所定の範囲(例えば、z
1
2からz
1
4)の難易度の問題に加え、その範囲の前後の難易度の問題を所定数出力してもよい。
【0055】
例えば、記憶部10が、スキルに基づく各問題の難易度を直接記憶している場合、出力部30は、その難易度に基づいて、問題の候補を出力してもよい。また、記憶部10が、上述するような非補償型モデルを記憶している場合、難易度がbiに相当することから、出力部30は、このbiに基づいて問題の候補を出力してもよい。
【0056】
図9は、お勧め問題の出力例を示す説明図である。
図9に示す例では、出力部30が、「整数の減法」に関するスキルが不足していると特定し、特定されたスキルを必要とする問題の候補(お勧め問題:Q
13、Q
18、Q
31)を、そのスキルを必要とする程度(すなわち、習熟度、難易度)に応じて順序付けて出力していることを示す。また、
図9に例示するように、出力部30は、学習者がマウスなどのポインティングデバイスでお勧め問題の番号をマウスオーバーした際、その番号に対応する問題を出力してもよい。
【0057】
入力部20と、出力部30とは、プログラム(スキル出力プログラム)に従って動作するコンピュータのプロセッサ(例えば、CPU(Central Processing Unit )、GPU(Graphics Processing Unit))によって実現される。
【0058】
例えば、プログラムは、記憶部10に記憶され、プロセッサは、そのプログラムを読み込み、プログラムに従って、入力部20および出力部30として動作してもよい。また、入力部20および出力部30の機能がSaaS(Software as a Service )形式で提供されてもよい。
【0059】
また、入力部20と、出力部30とは、それぞれが専用のハードウェアで実現されていてもよい。また、各装置の各構成要素の一部又は全部は、汎用または専用の回路(circuitry )、プロセッサ等やこれらの組合せによって実現されてもよい。これらは、単一のチップによって構成されてもよいし、バスを介して接続される複数のチップによって構成されてもよい。各装置の各構成要素の一部又は全部は、上述した回路等とプログラムとの組合せによって実現されてもよい。
【0060】
また、入力部20および出力部30の各構成要素の一部又は全部が複数の情報処理装置や回路等により実現される場合には、複数の情報処理装置や回路等は、集中配置されてもよいし、分散配置されてもよい。例えば、情報処理装置や回路等は、クライアントサーバシステム、クラウドコンピューティングシステム等、各々が通信ネットワークを介して接続される形態として実現されてもよい。
【0061】
次に、本実施形態のスキル出力装置100の動作を説明する。
図10は、本実施形態のスキル出力装置100の動作例を示すフローチャートである。入力部20は、閾値およびスキルの習熟度を特定するための情報の入力を受け付ける(ステップS11)。出力部30は、特定した閾値およびスキルの習熟度を対応付けて出力する(ステップS12)。
【0062】
次に、本実施形態のスキル出力装置100を用いた学習方法の具体例を説明する。
図11は、スキル出力装置100を用いた学習方法の具体例を示す説明図である。まず、スキル出力装置100(出力部30)が、学習者に対して問題を出力する(ステップS21)。学習者は、出力された問題に対して解答する。ここで、学習者が出題された問題に間違えたとする(ステップS22)。ここで、スキル出力装置100は、間違えた問題について、スキルの習熟度の閾値と学習者のスキルの習熟度とを対応付けて出力する(ステップS23)。学習者は、自身のスキルの習熟度を確認する(ステップS24)。また、スキル出力装置100は、不足すると判定されたスキルを必要とする問題の候補をお勧め問題として出力する(ステップS25)。学習者は、不足しているスキルを確認したうえで、提示されたお勧め問題の中から、自身が必要と判断する問題を選択する(ステップS26)。出力部30は、選択された問題を学習者に対して出力する(ステップS27)。以降、ステップS22以降の処理が繰り返される。
【0063】
このような学習方法を学習者に提示することで、学習者自らが不得意への対応を主体的に考えることができるようになると考えられる。
【0064】
以上のように、本実施形態では、出力部30が、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度とを対応付けて出力する。よって、問題を解くために必要な学習者のスキルの充足状況を表わすことができる。
【0065】
例えば、一般的なナレッジトレースの仕組みでは、1つの問題を解くために必要なスキルが複数存在するような場合に、どのスキルが足りないのかをスキルごとに数値化して明示することは困難である。一方、本実施形態では、出力部30が数値化された閾値とスキルの習熟度とを対応付けて出力する。そのため、学習者は、問題を解くために、どの程度のスキルの習熟度が必要とされており、また自身のスキルが、どの程度の習熟度に達しているか把握することができる。
【0066】
次に、本発明の概要を説明する。
図12は、本発明によるスキル出力装置の概要を示すブロック図である。本発明によるスキル出力装置80(例えば、スキル出力装置100)は、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定される前記スキルの習熟度とを対応付けて出力する出力手段81(例えば、出力部30)を備えている。
【0067】
そのような構成により、問題を解くために必要な学習者のスキルの充足状況を表わすことができる。
【0068】
また、出力手段81は、対象の問題を解くために必要とされる複数のスキルそれぞれについての閾値と、学習者が有すると想定される複数のスキルの習熟度とを、スキルごとに対応付けて出力してもよい。
【0069】
また、出力手段81は、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度と、その習熟度の不確定度とを合わせて出力してもよい。
【0070】
また、出力手段81は、習熟度が閾値を充足しないスキルを特定し、特定されたスキルを必要とする問題の候補を出力してもよい。
【0071】
その際、出力手段81は、特定されたスキルを必要とする問題の候補を、そのスキルを必要とする程度に応じて順序付けて出力してもよい。
【0072】
また、出力手段81は、学習者のスキルの習熟度に応じた各問題の正解確率の分布を表わすモデル(例えば、非補償型モデル)を用いて、指定された正解確率により算出される各スキルの閾値と、閾値に対する相対的な学習者のスキルの習熟度とを出力してもよい。
【0073】
具体的には、出力手段81は、非補償型モデルを用いて、各スキルの閾値と習熟度とを出力してもよい。
【0074】
また、出力手段81は、ガウス分布で推定された学習者のスキルの状態を示す分布を用いて、そのガウス分布の分散を習熟度の不確定度として出力してもよい。
【0075】
図13は、少なくとも1つの実施形態に係るコンピュータの構成を示す概略ブロック図である。コンピュータ1000は、プロセッサ1001、主記憶装置1002、補助記憶装置1003、インタフェース1004を備える。
【0076】
上述のスキル出力装置80は、コンピュータ1000に実装される。そして、上述した各処理部の動作は、プログラム(スキル出力プログラム)の形式で補助記憶装置1003に記憶されている。プロセッサ1001は、プログラムを補助記憶装置1003から読み出して主記憶装置1002に展開し、当該プログラムに従って上記処理を実行する。
【0077】
なお、少なくとも1つの実施形態において、補助記憶装置1003は、一時的でない有形の媒体の一例である。一時的でない有形の媒体の他の例としては、インタフェース1004を介して接続される磁気ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM(Compact Disc Read-only memory )、DVD-ROM(Read-only memory)、半導体メモリ等が挙げられる。また、このプログラムが通信回線によってコンピュータ1000に配信される場合、配信を受けたコンピュータ1000が当該プログラムを主記憶装置1002に展開し、上記処理を実行してもよい。
【0078】
また、当該プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、当該プログラムは、前述した機能を補助記憶装置1003に既に記憶されている他のプログラムとの組み合わせで実現するもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0079】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【0080】
(付記1)対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定される前記スキルの習熟度とを対応付けて出力する出力手段を備えたことを特徴とするスキル出力装置。
【0081】
(付記2)出力手段は、対象の問題を解くために必要とされる複数のスキルそれぞれについての閾値と、学習者が有すると想定される前記複数のスキルの習熟度とを、スキルごとに対応付けて出力する付記1記載のスキル出力装置。
【0082】
(付記3)出力手段は、学習者が有すると想定されるスキルの習熟度と、当該習熟度の不確定度とを合わせて出力する付記1または付記2記載のスキル出力装置。
【0083】
(付記4)出力手段は、習熟度が閾値を充足しないスキルを特定し、特定されたスキルを必要とする問題の候補を出力する付記1から付記3のうちのいずれか1つに記載のスキル出力装置。
【0084】
(付記5)出力手段は、特定されたスキルを必要とする問題の候補を、当該スキルを必要とする程度に応じて順序付けて出力する付記4記載のスキル出力装置。
【0085】
(付記6)出力手段は、学習者のスキルの習熟度に応じた各問題の正解確率の分布を表わすモデルを用いて、指定された前記正解確率により算出される各スキルの閾値と、閾値に対する相対的な学習者のスキルの習熟度とを出力する付記1から付記5のうちのいずれか1つに記載のスキル出力装置。
【0086】
(付記7)出力手段は、非補償型モデルを用いて、各スキルの閾値と習熟度とを出力する付記6記載のスキル出力装置。
【0087】
(付記8)出力手段は、ガウス分布で推定された学習者のスキルの状態を示す分布を用いて、当該ガウス分布の分散を習熟度の不確定度として出力する付記6または付記7記載のスキル出力装置。
【0088】
(付記9)コンピュータが、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定される前記スキルの習熟度とを対応付けて出力することを特徴とするスキル出力方法。
【0089】
(付記10)コンピュータが、対象の問題を解くために必要とされる複数のスキルそれぞれについての閾値と、学習者が有すると想定される前記複数のスキルの習熟度とを、スキルごとに対応付けて出力する付記9記載のスキル出力方法。
【0090】
(付記11)コンピュータに、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定される前記スキルの習熟度とを対応付けて出力する出力処理を実行させるためのスキル出力プログラムを記憶するプログラム記憶媒体。
【0091】
(付記12)コンピュータに、出力処理で、対象の問題を解くために必要とされる複数のスキルそれぞれについての閾値と、学習者が有すると想定される前記複数のスキルの習熟度とを、スキルごとに対応付けて出力させるためのスキル出力プログラムを記憶する付記11記載のプログラム記憶媒体。
【0092】
(付記13)コンピュータに、対象の問題を解くために必要とされるスキルの習熟度を示す閾値と、学習者が有すると想定される前記スキルの習熟度とを対応付けて出力する出力処理を実行させるためのスキル出力プログラム。
【0093】
(付記14)コンピュータに、出力処理で、対象の問題を解くために必要とされる複数のスキルそれぞれについての閾値と、学習者が有すると想定される前記複数のスキルの習熟度とを、スキルごとに対応付けて出力させる付記13記載のスキル出力プログラム。
【0094】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【符号の説明】
【0095】
10 記憶部
20 入力部
30 出力部
100 スキル出力装置