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特許7409556窒化ガリウム単結晶基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】窒化ガリウム単結晶基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20231226BHJP
   C30B 25/18 20060101ALI20231226BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C30B25/18
C23C16/34
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2023507779
(86)(22)【出願日】2022-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2022019935
【審査請求日】2023-02-03
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡久 拓司
(72)【発明者】
【氏名】西野 俊佑
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-203811(JP,A)
【文献】特表2009-519202(JP,A)
【文献】特開2019-029568(JP,A)
【文献】特開2010-070430(JP,A)
【文献】特開2011-213512(JP,A)
【文献】特開2001-102307(JP,A)
【文献】特開2016-074549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/18
C23C 16/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の主表面および第2の主表面を備えた窒化ガリウム単結晶基板であって、
前記窒化ガリウム単結晶基板の直径は、50mm以上であり、
前記第1の主表面は、ガリウム極性面であり、
前記第2の主表面は、窒素極性面であり、
前記第1の主表面および前記第2の主表面は、円形状を有し、
前記窒化ガリウム単結晶基板において、これを構成する窒化ガリウム単結晶の(0001)面は、前記第1の主表面側から前記第2の主表面側へ向かって凸となる球面状の湾曲面であり、かつ6m以上の曲率半径を有し、
前記第1の主表面は、複数のピット痕跡を有し、
前記ピット痕跡の密度は、0.1個/cm2以上100個/cm2以下である、窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項2】
前記ピット痕跡の直径は、200μm以下であり、
前記第1の主表面における前記ピット痕跡に相当する領域の極性は、ガリウム極性である、請求項1に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項3】
前記(0001)面は、11m以上の曲率半径を有する、請求項1または請求項2に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項4】
前記ピット痕跡の密度は、1個/cm2以上100個/cm2以下である、請求項1または請求項2に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項5】
前記窒化ガリウム単結晶基板の直径は、50mm以上155mm以下である、請求項1または請求項2に記載の窒化ガリウム単結晶基板。
【請求項6】
第1の主表面および第2の主表面を備えた窒化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、
表面の少なくとも一部に窒化ガリウム膜を配置した下地基板を準備する工程と、
前記窒化ガリウム膜上に、遮蔽部と開口部とが交互に繰り返される構造を有するマスクを配置する工程と、
前記窒化ガリウム膜において、前記マスクの開口部を介してファセット構造を有する窒化ガリウム単結晶を第1成長条件の下で成長させることにより、前記窒化ガリウム膜上に第1層を形成する工程と、
前記第1層において、前記窒化ガリウム単結晶を第2成長条件の下で成長させることにより、前記第1層上に第2層を形成する工程と、
前記第2層を切り出すことによって前記窒化ガリウム単結晶基板を得る工程と、を含み、
前記第1層の成長面は、100個/cm2を超えるピット密度を有し、
前記第2層の成長面は、0.1個/cm2以上100個/cm2以下のピット密度を有し、
前記第1成長条件は、
0.1kPa以上20kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、
0.5kPa以上50kPa以下のアンモニアガス分圧と、
900℃以上1100℃以下の成長温度と、
10μm/時以上100μm/時以下の成長速度とを有し、
前記第2成長条件は、
1kPa以上50kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、
1kPa以上100kPa以下のアンモニアガス分圧と、
900℃以上1100℃以下の成長温度と、
50μm/時以上500μm/時以下の成長速度とを有し、
前記第1成長条件の成長温度は、前記第2成長条件の成長温度よりも低い、窒化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【請求項7】
前記第1成長条件は、
1kPa以上5kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、
5kPa以上20kPa以下のアンモニアガス分圧と、
950℃以上1050℃以下の成長温度と、
10μm/時以上100μm/時以下の成長速度とを有し、
前記第2成長条件は、
3kPa以上10kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、
5kPa以上50kPa以下のアンモニアガス分圧と、
1000℃以上1100℃以下の成長温度と、
50μm/時以上400μm/時以下の成長速度とを有する、請求項6に記載の窒化ガリウム単結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、窒化ガリウム単結晶基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化物半導体デバイスの形成に有用な窒化ガリウム単結晶基板の一つとして、窒化ガリウム単結晶のC面(以下、「(0001)面」とも記す)と平行または略平行な2つの主表面を有するC面窒化ガリウム単結晶基板(以下、これを単に「GaN単結晶基板」とも記す)が公知である。C面GaN単結晶基板の上記2つの主表面とは、それぞれ[0001]方向側の主表面であるガリウム極性面、および[000-1]方向側の主表面である窒素極性面をいう。C面GaN単結晶基板においては通常、上記ガリウム極性面上に各種の窒化物半導体デバイスが形成される。C面GaN単結晶基板は、一般に塩化ガリウム(GaCl)ガスおよびアンモニア(NH3)ガスを用いたHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法を適用することにより得られる窒化ガリウム単結晶(以下、「GaN単結晶」とも記す)から製造される。なお上記HVPE法によって、C面を成長面としてGaN単結晶を成長させた場合、上記成長面にピットと呼ばれる逆六角錐形状の凹みが形成されることが知られる。
【0003】
下記非特許文献1は、上記HVPE法を用い、上記ピットを残存させてGaN単結晶を得た場合、当該GaN単結晶は、結晶の構造欠陥である転位が上記ピットの底に集中することによって、上記ピットの周辺においては上記転位が低減することを報告している。特開2016-074549号公報(特許文献1)および国際公開第2005/050709号(特許文献2)は、上記HVPEを用いて窒化ガリウム単結晶を得る過程において、所定の成長条件によって成長面に転位が集中する上記ピットを形成した後、他の成長条件によって上記ピットのほぼすべてをGaN単結晶で埋込むことにより、低転位密度としたGaN単結晶基板を製造することを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-074549号公報
【文献】国際公開第2005/050709号
【非特許文献】
【0005】
【文献】元木健作、「窒化ガリウム基板の開発」、SEIテクニカルレビュー、第175号、2009年7月、pp.10-18
【発明の概要】
【0006】
本開示に係る窒化ガリウム単結晶基板は、第1の主表面および第2の主表面を備えた窒化ガリウム単結晶基板であって、上記窒化ガリウム単結晶基板の直径は、50mm以上であり、上記第1の主表面は、ガリウム極性面であり、上記第2の主表面は、窒素極性面であり、上記第1の主表面および上記第2の主表面は、円形状を有し、上記窒化ガリウム単結晶基板において、これを構成する窒化ガリウム単結晶の(0001)面は、上記第1の主表面側から上記第2の主表面側へ向かって凸となる球面状の湾曲面であり、かつ6m以上の曲率半径を有し、上記第1の主表面は、複数のピット痕跡を有し、上記ピット痕跡の密度は、0.1個/cm2以上100個/cm2以下である。
【0007】
本開示に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法は、第1の主表面および第2の主表面を備えた窒化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、表面の少なくとも一部に窒化ガリウム膜を配置した下地基板を準備する工程と、上記窒化ガリウム膜において、窒化ガリウム単結晶を第1成長条件の下で成長させることにより、上記窒化ガリウム膜上に第1層を形成する工程と、上記第1層において、上記窒化ガリウム単結晶を第2成長条件の下で成長させることにより、上記第1層上に第2層を形成する工程と、上記第2層を切り出すことによって上記窒化ガリウム単結晶基板を得る工程と、を含み、上記第1層の成長面は、100個/cm2を超えるピット密度を有し、上記第2層の成長面は、0.1個/cm2以上100個/cm2以下のピット密度を有し、
上記第1成長条件は、
0.1kPa以上20kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、
0.5kPa以上50kPa以下のアンモニアガス分圧と、
900℃以上1100℃以下の成長温度と、
10μm/時以上300μm/時以下の成長速度とを有し、
上記第2成長条件は、
1kPa以上50kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、
1kPa以上100kPa以下のアンモニアガス分圧と、
900℃以上1100℃以下の成長温度と、
50μm/時以上500μm/時以下の成長速度とを有し、
上記第1成長条件の成長温度は、上記第2成長条件の成長温度よりも低い。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板を説明する断面模式図である。
図2図2は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板に関し、これを構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径を求めるためのXRD解析に用いる測定箇所(つまりX線を照射する測定点の位置)について説明する説明図である。
図3図3は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板にピット痕跡が存する理由について説明する説明図である。
図4図4は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の第1の主表面に存するピット痕跡の分布を模式的に表した模式図である。
図5図5は、ピット痕跡の蛍光顕微鏡像を示す図面代用写真である。
図6図6は、図5のピット痕跡の蛍光顕微鏡像を拡大した図面代用写真である。
図7図7は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法において、窒化ガリウム膜上に第1層を形成する工程を実行するためにマスクを下地基板上に配置した様子を説明する断面模式図である。
図9図9は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法において、窒化ガリウム膜上に第1層(GaN単結晶)を形成した様子を説明する断面模式図である。
図10図10は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法において、第1層上に第2層(GaN単結晶)を形成した様子を説明する断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[本開示が解決しようとする課題]
上記非特許文献1、特許文献1および特許文献2は、いずれも主表面が低転位化されたGaN単結晶基板を提供することに注目している。とりわけ特許文献1および特許文献2は、上述のように転位が集中するピットを成長面に形成した後、他の成長条件によって上記ピットのほぼすべてにGaN単結晶を埋込むことにより、低転位化することを提案している。しかしながら上記ピットをGaN単結晶で埋込むと、ピット底に集中していた転位が周辺に拡散することによって応力(とりわけ引張応力)が発生するため、インゴットから切り出したGaN単結晶が反る、つまりGaN単結晶の(0001)面が湾曲するという現象が起こる。
【0010】
反ったGaN単結晶からは、その表面を研磨する等の表面加工によって平らな主表面を有するGaN単結晶基板を得ることができるが、当該GaN単結晶基板は、上述のようにGaN単結晶の(0001)面が湾曲しているため、上記主表面の領域毎に特性が変化する恐れがあり、もってデバイス特性に悪影響が及ぶ可能性がある。したがって、主表面の低転位化と、GaN単結晶の反りの抑制との両者を実現することによってデバイス特性を向上させることが可能なGaN単結晶基板は未だ得られておらず、その開発が切望されている。
【0011】
以上の点に鑑み、本開示は、GaN単結晶の反りを抑制することによってGaN単結晶の(0001)面の曲率半径を大きくし、もってデバイス特性を向上させることが可能な窒化ガリウム単結晶基板、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0012】
[本開示の効果]
上記によれば、GaN単結晶の反りを抑制することによってGaN単結晶の(0001)面の曲率半径を大きくし、もってデバイス特性を向上させることが可能な窒化ガリウム単結晶基板、およびその製造方法を提供することができる。
【0013】
[実施形態の概要]
まず、本開示の実施形態の概要について説明する。本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、本開示を完成させた。まず本発明者らは、GaN単結晶を上記HVPE法を用いて成長させる際の成長条件に着目した。具体的には、(0001)面である成長面に数多くのピットを形成させ、当該ピットの底に転位を集中させることによって上記ピットの周辺の転位を低減させる第1成長条件と、上記ピットをGaN単結晶で埋込む比率を制御しながら窒化ガリウム単結晶を成長させる第2成長条件を含む成長工程を採用することによって、GaN単結晶のインゴットを製造した。この場合、上記第2成長条件によってGaN単結晶の成長面に上記ピットが所定の密度で残るGaN単結晶のインゴットが得られた。さらに上記インゴットから切り出したGaN単結晶は、その反りが抑えられることを知見した。とりわけ反りが抑えられたGaN単結晶から、曲率半径が6m以上となる平らな(0001)面を有するGaN単結晶からなるGaN単結晶基板を得ることに到達し、本開示を完成させた。
【0014】
次に、本開示の実施態様を列記して説明する。
[1]本開示の一態様に係る窒化ガリウム単結晶基板は、第1の主表面および第2の主表面を備えた窒化ガリウム単結晶基板であって、上記窒化ガリウム単結晶基板の直径は、50mm以上であり、上記第1の主表面は、ガリウム極性面であり、上記第2の主表面は、窒素極性面であり、上記第1の主表面および上記第2の主表面は、円形状を有し、上記窒化ガリウム単結晶基板において、これを構成する窒化ガリウム単結晶の(0001)面は、上記第1の主表面側から上記第2の主表面側へ向かって凸となる球面状の湾曲面であり、かつ6m以上の曲率半径を有し、上記第の1主表面は、複数のピット痕跡を有し、上記ピット痕跡の密度は、0.1個/cm2以上100個/cm2以下である。このような特徴を有する窒化ガリウム単結晶基板は、上記第1の主表面の領域毎の特性がバラツキなく均一となるため、デバイス特性を向上させることができる。
【0015】
[2]上記ピット痕跡の直径は、200μm以下であり、上記第1の主表面における上記ピット痕跡に相当する領域の極性は、ガリウム極性であることが好ましい。これにより上記第1の主表面上の上記ピット痕跡に相当する領域に転位が過剰に集中することを避けることができるので、当該ピット痕跡に相当する領域にデバイスを形成することが可能となる。
【0016】
[3]上記(0001)面は、11m以上の曲率半径を有することが好ましい。これにより、デバイス特性をより向上させることができる。
【0017】
[4]上記ピット痕跡の密度は、1個/cm2以上100個/cm2以下であることが好ましい。これにより、デバイス特性をより向上させることができる。
【0018】
[5]上記窒化ガリウム単結晶基板の直径は、50mm以上155mm以下であることが好ましい。これにより上記直径が50mm以上155mm以下である窒化ガリウム単結晶基板において、デバイス特性を向上させることができる。
【0019】
[6]本開示の一態様に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法は、第1の主表面および第2の主表面を備えた窒化ガリウム単結晶基板の製造方法であって、表面の少なくとも一部に窒化ガリウム膜を配置した下地基板を準備する工程と、上記窒化ガリウム膜において、窒化ガリウム単結晶を第1成長条件の下で成長させることにより、上記窒化ガリウム膜上に第1層を形成する工程と、上記第1層において、上記窒化ガリウム単結晶を第2成長条件の下で成長させることにより、上記第1層上に第2層を形成する工程と、上記第2層を切り出すことによって上記窒化ガリウム単結晶基板を得る工程と、を含み、上記第1層の成長面は、100個/cm2を超えるピット密度を有し、上記第2層の成長面は、0.1個/cm2以上100個/cm2以下のピット密度を有し、上記第1成長条件は、0.1kPa以上20kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、0.5kPa以上50kPa以下のアンモニアガス分圧と、900℃以上1100℃以下の成長温度と、10μm/時以上300μm/時以下の成長速度とを有し、上記第2成長条件は、1kPa以上50kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、1kPa以上100kPa以下のアンモニアガス分圧と、900℃以上1100℃以下の成長温度と、50μm/時以上500μm/時以下の成長速度とを有し、上記第1成長条件の成長温度は、上記第2成長条件の成長温度よりも低い。このような特徴を有する窒化ガリウム単結晶基板の製造方法により、上記第1の主表面の領域毎の特性がバラツキなく均一となってデバイス特性を向上させることが可能な窒化ガリウム単結晶基板を得ることができる。
【0020】
[7]上記第1成長条件は、1kPa以上5kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、5kPa以上20kPa以下のアンモニアガス分圧と、950℃以上1050℃以下の成長温度と、10μm/時以上200μm/時以下の成長速度とを有し、上記第2成長条件は、3kPa以上10kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、5kPa以上50kPa以下のアンモニアガス分圧と、1000℃以上1100℃以下の成長温度と、50μm/時以上400μm/時以下の成長速度とを有することが好ましい。これにより、上記第1の主表面の領域毎の特性をよりバラツキなく均一とすることができる。
【0021】
[実施形態の詳細]
以下、本開示に係る一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す)についてさらに詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。以下では図面を参照しながら説明する場合があるが、本明細書および図面において同一または対応する要素に同一の符号を付すものとし、それらについて同じ説明は繰り返さない。さらに図面においては、各構成要素を理解しやすくするために縮尺を適宜調整して示しており、図面に示される各構成要素の縮尺と実際の構成要素の縮尺とは必ずしも一致しない。
【0022】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。さらに、本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「GaN」と表記する場合、GaNを構成する原子数の比は、従来公知のあらゆる原子比が含まれるものとする。このことは、「GaN」以外の化合物の記載についても同様である。
【0023】
本明細書においてGaN単結晶基板は、上述した所謂「C面GaN単結晶基板」であり、C面((0001)面)と平行または略平行な2つの主表面として第1の主表面および第2の主表面を有する。このうち第1の主表面は、[0001]方向側の主表面であって、ガリウム極性面である。第2の主表面は、[000-1]方向側の主表面であって、窒素極性面である。上記GaN単結晶基板は、第1の主表面上に各種の窒化物半導体デバイスが形成される場合がある。また本明細書において「面内」という用語にて用いられる「面」とは、以下において特記する場合を除いて、上記の「第1の主表面」を意味する。本明細書においてGaN単結晶基板の直径が「50mm」であると記す場合、上記直径は50mm前後(50~55.5mm程度)であることを意味し、あるいは2インチであることを意味する。上記直径が「100mm」であると記す場合、上記直径は100mm前後(95~105mm程度)であることを意味し、あるいは4インチであることを意味する。上記直径が「150mm」であると記す場合、上記直径は150mm前後(145~155mm程度)であることを意味し、あるいは6インチであることを意味する。なお上記主表面の直径は、ノギス等の従来公知の外径測定器を用いることにより測定することができる。
【0024】
上記GaN単結晶基板の第1の主表面および第2の主表面は、「円形状」を有する。本明細書において当該主表面の形状を表す「円形状」には、幾何学的な円形状が含まれるほか、上記主表面の外周にノッチ、オリエンテーションフラット(以下、「OF」とも記す)またはインデックスフラット(以下、「IF」とも記す)の少なくともいずれかが形成されることにより、主表面が幾何学的な円形状を形成しない場合の形状が含まれる。ここで「主表面が幾何学的な円形状を形成しない場合の形状」とは、主表面の外周上の任意の点から上記主表面の中心まで延びる線分のうち、上記ノッチ、OFおよびIF上の任意の点から主表面の中心まで延びる線分において長さが短くなる場合の形状を意味する。さらに「主表面が幾何学的な円形状を形成しない場合の形状」には、主表面の外周上の任意の点から上記主表面の中心まで延びる線分すべての長さが、GaN単結晶基板の原料となるGaN単結晶の形状に起因して、同一になるとは限らない場合の形状も含まれる。
【0025】
本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また結晶学上の指数が負であることは、通常、“-(バー)”を数字の上に付すことによって表現されるが、本明細書では数字の前に負の符号を付している。
【0026】
〔窒化ガリウム単結晶基板〕
本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板は、第1の主表面および第2の主表面を備えたGaN単結晶基板である。上記GaN単結晶基板の直径は、50mm以上である。上記第1の主表面は、ガリウム極性面であり、上記第2の主表面は、窒素極性面である。上記第1の主表面および上記第2の主表面は、円形状を有する。上記GaN単結晶基板において、これを構成するGaN単結晶の(0001)面は、上記第1の主表面側から上記第2の主表面側へ向かって凸となる球面状の湾曲面であり、かつ6m以上の曲率半径を有する。さらに第1の主表面は、複数のピット痕跡を有する。上記ピット痕跡の密度は、0.1個/cm2以上100個/cm2以下である。このような特徴を有するGaN単結晶基板は、これを構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径が6m以上と大きいため、上記第1の主表面の領域毎の特性がバラツキなく均一となり、もってデバイス特性を向上させることができる。
【0027】
本実施形態に係るGaN単結晶基板において、これを構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径を、6m以上と大きくすることができる理由は、次のとおりである。すなわち本開示において本発明者らは、上記GaN単結晶基板を構成するGaN単結晶に関し、次の第1成長条件および第2成長条件を含むHVPE法により成長させた。上記第1成長条件は、成長面に100個/cm2を超える密度でピットが形成されたGaN単結晶層を得る目的で、下地基板の表面の少なくとも一部に配置した窒化ガリウム膜において、所定の塩化ガリウムガス分圧、アンモニアガス分圧、成長温度および成長速度でGaN単結晶層(第1層)を成長させる条件である。上記第2成長条件は、成長面に0.1個/cm2以上100個/cm2以下の密度でピットが形成されたGaN単結晶層を得る目的で、上記第1層において、所定の塩化ガリウムガス分圧、アンモニアガス分圧、成長温度および成長速度でGaN単結晶層(第2層)を成長させる条件である。ここで本明細書において「成長面」とは、上記HVPE法を実行することによってGaN単結晶が成長していく成長方向(たとえば[0001]方向)に位置する上記GaN単結晶の表面をいう。
【0028】
上記第1成長条件により得られるGaN単結晶(第1層)は、上記ピットの底に転位が集中し、かつ上記ピットの周辺の転位が低減することによって単結晶全体として低転位化することができる。さらに上記第2成長条件により得られるGaN単結晶(第2層)は、その成長面に上述した密度でピットが残存するため、応力が発生しづらく、もって上記GaN単結晶(第2層)から切り出したGaN単結晶の反りを抑えることができる。とりわけ上記GaN単結晶(第2層)は、上記GaN単結晶(第1層)の転位密度を引き継ぎ、かつ成長に伴って更に低転位化される。したがって上記GaN単結晶(第2層)から切り出したGaN単結晶は、その反りが抑えられるとともに低転位であるという特徴を備えることができる。
【0029】
以上から本開示においては、第1成長条件および第2成長条件を採用したHVPE法を用いてGaN単結晶を製造することにより、低転位であって、かつその反りが抑えられるために、(0001)面の曲率半径を6m以上と大きくすることができる。これにより、上記GaN単結晶から第1の主表面の領域毎の特性がバラツキなく均一であるGaN単結晶基板を得ることができ、もって上記GaN単結晶基板においてデバイス特性を向上させることができる。
【0030】
(直径)
上記GaN単結晶基板の直径は、50mm以上である。上記GaN単結晶基板の直径は、50mm以上155mm以下であることが好ましい。換言すれば、GaN単結晶基板1の直径は、2~6インチであることが好ましい。ここで上記直径については、上記基板がOF、IF等の影響によって幾何学的な円形状とはならない場合の形状であっても、当該基板は上記OF、IF等が形成される前の円形状を有するとみなして、その大きさ(直径)を求めるものとする。
【0031】
<第1の主表面および第2の主表面>
(ガリウム極性面および窒素極性面)
図1は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板を説明する断面模式図である。図1に示すように、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板1は、第1の主表面11および第2の主表面21を備える。第1の主表面11は、ガリウム極性面であり、第2の主表面21は、窒素極性面である。つまり第1の主表面11は、窒化ガリウム単結晶基板1において、これを構成する窒化ガリウム単結晶の[0001]方向側に位置する主表面である。第2の主表面21は、窒化ガリウム単結晶基板1において、これを構成する窒化ガリウム単結晶の[000-1]方向側に位置する主表面である。上記窒化ガリウム単結晶基板1においては、第1の主表面11上に複数のピット痕跡を有する。とりわけ上記第1の主表面11における上記ピット痕跡に相当する領域の極性は、ガリウム極性であることが好ましい。換言すれば、上記第1の主表面11における上記ピット痕跡に相当する領域は、その製造工程において転位の集中等によって窒素極性面に反転することなく、ガリウム極性面で維持されることが好ましい。これにより第1の主表面11の領域が、ピット痕跡である領域か否かに関わらず、第1の主表面11上に各種の窒化物半導体デバイスを形成することが可能となる。なおピット痕跡については後述する。
【0032】
((0001)面)
図1示すようにGaN単結晶基板1において、これを構成するGaN単結晶の(0001)面31は、第1の主表面11側から第2の主表面21側へ向かって凸となる球面状の湾曲面であり、かつ6m以上の曲率半径を有する。上記(0001)面31は、11m以上の曲率半径を有することが好ましい。これにより第1の主表面11の領域毎の特性がバラツキなく均一となり、もってデバイス特性を向上させることができる。
【0033】
ここで本明細書において第1の主表面11側から第2の主表面21側へ向かって凸となる「球面状の湾曲面」とは、当該湾曲面が厳密な球面を呈するかどうかを問わず、第1の主表面11側から第2の主表面21側の中心へ向かって凸状となる湾曲した面であることを意味する。このため本明細書においてGaN単結晶の(0001)面31の曲率半径は、上記湾曲面が厳密な球面を呈する場合に求めることができる厳密値ではなく、次のような方法によって求められる近似値として示される。
【0034】
以下、上記GaN単結晶基板におけるGaN単結晶の(0001)面31の曲率半径を求める方法について、図2に基づいて説明する。図2は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板に関し、これを構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径を求めるためのXRD解析に用いる測定箇所(つまりX線を照射する測定点の位置)について説明する説明図である。なお上記「XRD解析」とは、X線回折法を用いた解析の略記である。
【0035】
まず、たとえば後述する製造方法に従って第1の主表面11および第2の主表面を備えるGaN単結晶基板1を得ることにより、測定対象とするGaN単結晶基板1を準備する。このGaN単結晶基板1に対し下記条件の下でX線回折法を用いた解析(XRD解析)を実行する。具体的には、下記条件のXRD解析を、当該GaN単結晶基板1の第1の主表面11の中心Oの測定点M0、上記中心Oから[1-100]方向の各外周端から5mm内側の2点の測定点M1およびM2、および上記中心Oから[11-20]方向の各外周端から5mm内側の2点の測定点M3およびM4の合計5点に対して実行することにより、上記5点におけるGaN単結晶の(0001)面に対する傾斜角を測定する。ここで上記「傾斜角」とは、GaN単結晶の<0001>方向と平行な方向に延びる直線(ベクトル)と、第1の主表面11の上記5点の測定点M0、M1、M2、M3およびM4それぞれにおける第1の主表面11に対する法線(ベクトル)との交差角を意味する。
【0036】
次いで、上記XRD解析から得られる上記測定点M0における傾斜角と、[1-100]方向および[11-20]方向の各外周端から5mm内側の4点の測定点M1、M2、M3およびM4における傾斜角それぞれとから、4つの曲率半径に対応する数値(曲率半径値)を、三角関数を用いた従来公知の計算式に基づいて算出する。つまり上記測定点M0および測定点M1における各傾斜角から上記の計算式に基づいて第1の曲率半径値を算出し、同じ要領にて上記測定点M0および測定点M2における各傾斜角から第2の曲率半径値を、上記測定点M0および測定点M3における各傾斜角から第3の曲率半径値を、ならびに上記測定点M0および測定点M4における各傾斜角から第4の曲率半径値を、それぞれ算出する。最後に、上記4つの曲率半径値(第1の曲率半径値~第4の曲率半径値)を平均化することにより得た数値を、上記GaN単結晶基板におけるGaN単結晶の(0001)面31の曲率半径として求めることができる。
【0037】
上記曲率半径を求めるのに用いるXRD解析の条件は、以下のとおりである。なお回折面は、(0002)面である。下記条件において(0001)面は、禁制反射によって現れないためである。上記傾斜角は、測定対象とするGaN単結晶基板1を、下記条件の下でθ方向に回転(ωスキャン)し、上記測定点M0~測定点M4の合計5点におけるX線回折ピークが得られる回折角度をそれぞれ特定することにより、当該回折角度に基づいて求めることができる。
解析装置: 商品名(品番)「X’pert PRO MDR」、PANalytical社製
X線光源: Cu-Kα線(波長:1.5405Å)
第1の主表面へのX線入射角: θ(17.28°)
入射スリット幅:0.1mm×0.1mm
モノクロメータ・コリメータ結晶:4個のGe(220)結晶を使用。
【0038】
(ピット痕跡)
上記第1の主表面は、複数のピット痕跡を有する。上記ピット痕跡の密度は、0.1個/cm2以上100個/cm2以下である。上記ピット痕跡の密度は、1個/cm2以上100個/cm2以下であることが好ましい。これによりGaN単結晶基板を構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径を6m以上とすることができる。
【0039】
本明細書において「ピット痕跡」という用語中の「ピット」とは、上記HVPE法によって(0001)面を成長面としてGaN単結晶を成長させた場合の上記成長面において、所謂ファセット構造の間に囲まれることによって形成される逆六角錐形状または逆十二角錐形状の凹みをいう。さらに「ピット痕跡」とは、上記GaN単結晶基板の第1の主表面を蛍光顕微鏡を用いて観察した場合において、上記成長面に形成されたピットに対応する上記第1の主表面上の領域に、上記ピットの痕跡として現れる略正六角形状または略正十二角形状の像をいう。ここで上記第1の主表面は、上記成長面に対し研削、研磨、ドライエッチング等の表面加工を実行することにより、上述のようにGaN単結晶基板における[0001]方向側の主表面であるガリウム極性面として得ることができる。以下、本実施形態に係るGaN単結晶基板における「ピット痕跡」の詳細について、図3図6を参照しつつ説明する。
【0040】
図3は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板にピット痕跡が存する理由について説明する説明図である。図4は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の第1の主表面に存するピット痕跡の分布を模式的に表した模式図である。図5は、ピット痕跡の蛍光顕微鏡像を示す図面代用写真である。図6は、図5のピット痕跡の蛍光顕微鏡像を拡大した図面代用写真である。
【0041】
本実施形態に係るGaN単結晶基板は、後述する〔窒化ガリウム単結晶基板の製造方法〕の項目において説明するように、HVPE法を用いた次の成長条件を含む製造工程を経ることによってGaN単結晶を得ることにより、当該GaN単結晶からなるGaN単結晶基板として得ることができる。上記製造工程は、ピットの底に転位を集中させることによって上記ピットの周辺の転位を低減させる第1成長条件と、上記ピットをGaN単結晶で埋込む比率を制御しながらGaN単結晶を成長させる第2成長条件とを含む。とりわけ図3中の2点鎖線で示すように、上記第2成長条件を経ることにより得られるGaN単結晶100(後述する〔窒化ガリウム単結晶基板の製造方法〕の項目における「第2層」に相当するもの)は、成長面(以下、第2層の成長面を「第2成長面」とも記す)10に0.1個/cm2以上100個/cm2以下の密度でピットPを有する。ここで図3において2点鎖線で示すGaN単結晶100は、第2成長条件による成長工程が実行された後に従来公知の手段により下地基板から切り離された状態を表している。
【0042】
さらに、GaN単結晶100の第2成長面10に対し研削、研磨、ドライエッチング等の表面加工を実行することにより、図3において実線で示す第1の主表面11および第2の主表面21を備えるGaN単結晶基板1を得ることができる。このGaN単結晶基板1は、第1の主表面11を蛍光顕微鏡を用いて観察した場合、第2成長面10に形成されたピットPに対応する第1の主表面11上の領域に、複数のピット痕跡Tを存する。とりわけ第1の主表面11上のピット痕跡Tは、第2成長面10に形成されたピットPに対応するので、第1の主表面11におけるピット痕跡Tの密度は、上記ピットPの密度に対応して0.1個/cm2以上100個/cm2以下となる。たとえば第1の主表面11においてピット痕跡Tは、図4に示すような分布を示す。上記ピット痕跡Tの密度が上述した範囲である場合、上述のようにGaN単結晶100に応力が発生しづらく、もってGaN単結晶100から切り出すことにより得たGaN単結晶基板1において、これを構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径を6m以上とすることができる。ピット痕跡Tの密度が0.1個/cm2未満である場合、GaN単結晶100に発生した応力によって、GaN単結晶基板1を構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径を6m以上とすることが困難となる。ピット痕跡Tの密度が100個/cm2を超える場合、GaN単結晶基板1を構成するGaN単結晶中のピットの多さに起因して転位密度が高くなるため、デバイス特性を向上させることが困難となる。
【0043】
ここでピット痕跡Tは、図5および図6に示すように略正六角形状または略正十二角形状を有する。ピット痕跡Tの直径は、200μm以下であることが好ましい。これによりピット痕跡Tに対応するGaN単結晶中のピットに転位が過剰に集中することがないため、デバイス特性を向上させることが容易となる。ピット痕跡Tの直径は、100μm以下であることがより好ましい。ピット痕跡Tの直径の下限については、特に制限されないがこの種のGaN単結晶基板1を得ることに鑑みれば、5μm以上であることが現実的である。本明細書においてピット痕跡Tの「直径」とは、ピット痕跡Tの略正六角形状または略正十二角形状の外郭線上において、最も離れた2点間の距離を意味するものとする。
【0044】
以下、GaN単結晶基板におけるピット痕跡とその直径との両者を特定するための測定方法(以下、「蛍光顕微鏡像マッピング測定」とも記す)について説明する。上記HVPE法を用いて製造されたGaN単結晶からなるGaN単結晶基板の主表面のうち、ガリウム極性面においてはピット痕跡が存する領域とその他の領域とで不純物の濃度が異なることが従来より知られる。このため上記蛍光顕微鏡像マッピング測定を用い、ガリウム極性面である第1の主表面上に対し下記条件の波長の蛍光を照射することにより、上記不純物の濃度の濃淡を指標として第1の主表面上のピット痕跡およびその直径を特定することが可能となる。
【0045】
まず、たとえば後述する製造方法に従って第1の主表面および第2の主表面を備えるGaN単結晶基板を得ることにより、測定対象とするGaN単結晶基板を準備する。次に上記GaN単結晶基板の第1の主表面を、蛍光顕微鏡像マッピング装置(たとえば商品名:「LEICA DM6000M」、ライカ社製)を用い、下記条件、かつ1視野の大きさが2.5mm×1.9mmとなる倍率にて観察する。上記の観察は、GaN単結晶基板を移動させること等によって重複がないように、かつ余すところなく視野を設定し、第1の主表面の全面すべてを対象とする。たとえばGaN単結晶基板の直径が105mmである場合、視野の総数は41×54(=2214視野)である。ただし、1視野内に第1の主表面の外周およびその外側が現れる場合、当該視野についてはピット痕跡とその直径との両者を特定する対象から除外するものとする。GaN単結晶基板の外周近傍の領域は、通常、半導体デバイスの材料として用いられない領域となるからである。
【0046】
上記蛍光顕微鏡像マッピング測定の各条件は、次のとおりである。
照射光:水銀ランプによる紫外励起(波長365nm)
蛍光波長領域:365~650nm
温度:室温(25℃)。
【0047】
以上により、各視野にて特定したピット痕跡の個数とその直径から、GaN単結晶基板の第1の主表面におけるピット痕跡の1cm2当たりの密度および直径を求めることができる。
【0048】
(転位密度)
本実施形態に係るGaN単結晶基板の第1の主表面における転位密度の最大値は、3.0×106 cm -2 以下であることが好ましい。上記GaN単結晶基板の第1の主表面における転位密度の最大値は、2.5×106 cm -2 以下であることがより好ましく、2.0×106 cm -2 以下であることがさらに好ましい。これにより、自らを構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径が6m以上と大きいGaN単結晶基板に対し、第1の主表面の低転位化を実現することができる。
【0049】
本明細書において「転位」および「転位密度」とは、第1の主表面に対し多光子励起フォトルミネッセンス法を適用することにより識別される貫通転位である「欠陥」、および「当該欠陥の第1の主表面1cm2当たりの個数」をそれぞれ意味する。上記「欠陥」は、多光子励起顕微鏡等によりGaN単結晶基板の第1の主表面を観察した場合に暗点として現れる。上記「欠陥」は、学術的には転位と同義ではないが、本技術分野において転位と等価なものとして捉えることができる。
【0050】
さらに上記欠陥の第1の主表面1cm2当たりの個数は、次の方法により求めることができる。まず後述する製造方法によりGaN単結晶基板を製造する。次にGaN単結晶基板の第1の主表面を、多光子励起顕微鏡を用いて観察する。上記の観察は、対物レンズ5倍でCCD上に結像することにより行うことができる。この場合、1視野の大きさが2.5mm×2.0mmとなるため、その中央部分(0.1mm×0.1mmのサイズ)の拡大した画像に現れた欠陥をカウントし、かつこれを単位面積となる1cm2の大きさに換算する(すなわち10000倍する)。ただし、拡大した上記画像の画質が悪い場合、上記対物レンズの倍率を100倍とすることによって高倍率画像を得、当該高倍率画像の中央部分(0.1mm×0.1mmのサイズ)の欠陥をカウントし、かつこれを単位面積となる1cm2の大きさに換算する。以上により、観察した視野の「欠陥の第1の主表面1cm2当たりの個数」を求めることができる。なお、欠陥を撮像するときの対物レンズの倍率は、たとえば1視野あたりの欠陥の数が100個程度になるように適宜変えることが好ましい。上記欠陥の第1の主表面1cm2当たりの個数は、GaN単結晶基板を移動させること等によって重複がないように、かつ余すところなく視野を設定し、主表面の全面すべてを対象として算出する。ただし、1視野内に第1の主表面の外周およびその外側が現れる場合、当該視野については欠陥の第1の主表面1cm2当たりの個数を算出する対象から除外するものとする。GaN単結晶基板の外周近傍の領域は、基板毎に欠陥の数の変動が大きく、かつ通常、半導体デバイスの材料として用いられない領域となるからである。
【0051】
以上により、各視野にて求めた欠陥の第1の主表面1cm2当たりの個数から、GaN単結晶基板における欠陥の第1の主表面1cm2当たりの個数の面内分布を把握することができ、もってGaN単結晶基板(第1の主表面)における転位密度の最大値を求めることができる。
【0052】
〔窒化ガリウム単結晶基板の製造方法〕
本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板(GaN単結晶基板)の製造方法は、上述した第1の主表面および第2の主表面を備えたGaN単結晶基板の製造方法であることが好ましい。上記製造方法は、表面の少なくとも一部に窒化ガリウム膜を配置した下地基板を準備する工程と、上記窒化ガリウム膜において、窒化ガリウム単結晶を第1成長条件の下で成長させることにより、上記窒化ガリウム膜上に第1層を形成する工程と、上記第1層において、上記窒化ガリウム単結晶を第2成長条件の下で成長させることにより、上記第1層上に第2層を形成する工程と、上記第2層を切り出すことによって上記窒化ガリウム単結晶基板を得る工程と、を含む。上記第1層の成長面は、100個/cm2を超えるピット密度を有する。上記第2層の成長面は、0.1個/cm2以上100個/cm2以下のピット密度を有する。上記第1成長条件は、0.1kPa以上20kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、0.5kPa以上50kPa以下のアンモニアガス分圧と、900℃以上1100℃以下の成長温度と、10μm/時以上300μm/時以下の成長速度とを有する。上記第2成長条件は、1kPa以上50kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、1kPa以上100kPa以下のアンモニアガス分圧と、900℃以上1100℃以下の成長温度と、50μm/時以上500μm/時以下の成長速度とを有する。上記第1成長条件の成長温度は、上記第2成長条件の成長温度よりも低い。
【0053】
とりわけ上記第1成長条件は、1kPa以上5kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、5kPa以上20kPa以下のアンモニアガス分圧と、950℃以上1050℃以下の成長温度と、10μm/時以上200μm/時以下の成長速度とを有することが好ましい。上記第2成長条件は、3kPa以上10kPa以下の塩化ガリウムガス分圧と、5kPa以上50kPa以下のアンモニアガス分圧と、1000℃以上1100℃以下の成長温度と、50μm/時以上400μm/時以下の成長速度とを有することが好ましい。このような特徴を有する製造方法により、上記第1の主表面の領域毎の特性がバラツキなく均一となってデバイス特性を向上させることが可能なGaN単結晶基板を得ることができる。
【0054】
上記GaN単結晶基板の製造方法は、上述した効果を有するGaN単結晶基板を歩留まりよく製造する観点から、たとえば図7のフローチャートに示すような工程を有することが好ましい。図7は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法の一例を示すフローチャートである。すなわち上記GaN単結晶基板の製造方法は、表面の少なくとも一部に窒化ガリウム膜を配置した下地基板を準備する工程S10(第1工程)と、上記窒化ガリウム膜において、GaN単結晶を第1成長条件の下で成長させることにより、上記窒化ガリウム膜上に第1層を形成する工程S20(第2工程)と、上記第1層において、上記GaN単結晶を第2成長条件の下で成長させることにより、上記第1層上に第2層を形成する工程S30(第3工程)と、上記第2層を切り出すことによって上記GaN単結晶基板を得る工程S40(第4工程)とを含む。以下、各工程について順に説明する。
【0055】
<第1工程>
第1工程は、表面の少なくとも一部に窒化ガリウム膜を配置した下地基板を準備する工程S10である。以下、本工程を、図8を用いて説明する。図8は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法において、窒化ガリウム膜上に第1層を形成する工程を実行するためにマスクを下地基板上に配置した様子を説明する断面模式図である。図8に示すように、第1工程においては、成長用基板41と、成長用基板41の表面の少なくとも一部に配置される窒化ガリウム膜(以下、「GaN膜」とも記す)42とからなる下地基板40が準備される。成長用基板41の材質としては、GaN膜42を成長させることができる材質である限り特に制限されない。たとえば成長用基板41としてはサファイア基板、ヒ化ガリウム(GaAs)基板などのGaNとは異なる材料(異種材料)を用いた異種基板を準備することができ、GaN(同種材料)を用いた同種基板を準備することもできる。その他、成長用基板41としては窒化アルミニウム(AlN)基板、炭化ケイ素(SiC)基板、ホウ化ジルコニウム(ZrB2)基板、酸化ケイ素/酸化アルミニウム(SiO2/Al23)焼結体基板、モリブデン(Mo)基板などを適用することもできる。これらの成長用基板41は、市場から入手することができ、あるいは従来公知の方法により製造することができる。GaN膜42については、これをMOCVD(有機金属化学気相堆積)法等の従来公知の方法により成長用基板41の少なくとも一部の表面上に配置することができる。
【0056】
さらに下地基板40のGaN膜42上には、後述する第1層となるGaN単結晶に、過剰数の転位が発生することを抑制するためのマスク43が配置される場合がある。マスク43は、従来公知の方法を用いてGaN膜42上に形成することができる。ここでマスク43のパターンは、上記GaN単結晶に過剰に多数の転位が発生することを抑制することができるパターンである限り特に制限されない。マスク43のパターンは、従来公知のパターンを採用することができ、たとえば遮蔽部と開口部とが交互に配置されることによって形成される格子状、水玉状またはストライプ状のパターン等を例示することができる。さらにマスク43は、たとえば次の方法により形成することができる。まず下地基板40の表面全面にプラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)法等により化学蒸着膜(たとえばシリコン系の化学蒸着膜)を形成する。その後、当該化学蒸着膜上にフォトリソグラフィー法によりパターニングされたレジストを形成し、当該レジストをエッチングマスクとしたエッチングを行うことによってマスク43を形成することができる。
【0057】
<第2工程>
第2工程は、上記GaN膜において、GaN単結晶を第1成長条件の下で成長させることにより、上記GaN膜上に第1層を形成する工程S20である。本工程においては、100個/cm2を超えるピット密度を成長面に有するGaN単結晶(第1層)を得ることを目的とし、上記GaN膜に対し、(0001)面である成長面(以下、第1層における成長面を「第1成長面」とも記す)に数多くのピットを形成し、当該ピットの底に転位を集中させることによって上記ピットの周辺の転位を低減させる第1成長条件を採用したHVPE法を実行する。
【0058】
上記第1成長条件に基づくHVPE法は、たとえば次の要領により行うことができる。まず、ホットウォール型反応炉内の石英製の試料ホルダ上に下地基板を設置し、この下地基板中の少なくともGaN膜を1000℃程度になるまで加熱する。次に、上記反応炉内の上流側ボート内に設置した金属Gaに対し、水素(H2)ガスをキャリアガスとして塩化水素(HCl)ガスを吹き付けることにより塩化ガリウムガスを生成する。さらに上記反応炉内にアンモニアガスを導入する。続いて、上記塩化ガリウムガスおよびアンモニアガスを、水素ガスをキャリアガスとして下地基板中のGaN膜にマスクの開口部を介して供給することにより、下地基板のマスクが形成された側に、GaN単結晶を次の第1成長条件にて成長させることができる。上記GaN単結晶(第1層)の厚みは、塩化ガリウムガスおよびアンモニアガスを供給する量、または時間を制御することにより調整することができる。
【0059】
具体的な第1成長条件は、次のとおりである。
塩化ガリウムガス分圧:0.1~20kPa
アンモニアガス分圧:0.5~50kPa
成長温度:900~1100℃
成長速度:10~300μm/時
V/III(アンモニアガス/塩化ガリウムガス)比:1~10。
【0060】
ここで上記第1成長条件における上記塩化ガリウムガス分圧は、1~5kPaであることが好ましく、上記アンモニアガス分圧は、5~20kPaであることが好ましい。上記第1成長条件における上記成長温度は、950~1050℃であることが好ましく、上記成長速度は、10~200μm/時であることが好ましい。
【0061】
さらに上記第1成長条件における上記塩化ガリウムガス分圧は、2~4kPaであることがより好ましく、上記アンモニアガス分圧は、10~15kPaであることがより好ましい。上記第1成長条件における上記成長温度は、950~1000℃であることがより好ましく、上記成長速度は、20~100μm/時であることがより好ましい。なお、上記第1成長条件の成長温度については、後述する第2成長条件の成長温度よりも低くするものとする。
【0062】
図9は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法において、窒化ガリウム膜上に第1層(GaN単結晶)を形成した様子を説明する断面模式図である。図9に示すように第2工程により、マスク43上に0.05~0.5mmの厚みを有するGaN単結晶からなる第1層44を形成することができる。上記第1層44の第1成長面5は、ピットPを数多く有し、ピット密度としては100個/cm2を超える。ここで第1層44の第1成長面5のピット密度は、上述した「ピット痕跡の密度」を求める方法と同じ要領によって求めることができる。
【0063】
<第3工程>
第3工程は、上記第1層において、上記GaN単結晶を第2成長条件の下で成長させることにより、上記第1層上に第2層を形成する工程S30である。本工程においては、0.1個/cm2以上100個/cm2以下のピット密度を成長面に有するGaN単結晶(第2層)を得ることを目的とし、100個/cm2を超えるピット密度を第1成長面に有する上記第1層に対し、そのピット密度を制御および低減する第2成長条件を採用したHVPE法を実行する。
【0064】
上記第2成長条件に基づくHVPE法は、下記の第2成長条件に基づく具体的なガス分圧、ならびに成長温度および成長速度の各条件を除いて、上記第1成長条件に基づくHVPE法と同じ要領により行うことができる。これにより上記第1層上、具体的には上記第1層の第1成長面側に、GaN単結晶(第2層)を成長させることができる。上記GaN単結晶(第2層)の厚みは、塩化ガリウムガスおよびアンモニアガスを供給する量、または時間を制御することにより調整することができる。
【0065】
具体的な第2成長条件は、次のとおりである。
塩化ガリウムガス分圧:1~50kPa
アンモニアガス分圧:1~100kPa
成長温度:900~1100℃
成長速度:50~500μm/時
V/III(アンモニアガス/塩化ガリウムガス)比:1~5
ただし上述のように、第2成長条件の成長温度については、上記第1成長条件の成長温度よりも高くするものとする。
【0066】
ここで上記第2成長条件における上記塩化ガリウムガス分圧は、3~10kPaであることが好ましく、上記アンモニアガス分圧は、5~50kPaであることが好ましい。上記第成長条件における上記成長温度は、1000~1100℃であることが好ましく、上記成長速度は、50~400μm/時であることが好ましい。
【0067】
さらに上記第2成長条件における上記塩化ガリウムガス分圧は、3~10kPaであることがより好ましく、上記アンモニアガス分圧は、5~50kPaであることがより好ましい。上記第2成長条件における上記成長温度は、1020~1080℃であることがより好ましく、上記成長速度は、50~300μm/時であることがより好ましい。
【0068】
図10は、本実施形態に係る窒化ガリウム単結晶基板の製造方法において、第1層上に第2層(GaN単結晶)を形成した様子を説明する断面模式図である。図10に示すように第3工程により、第1層44上に1~10mmの厚みを有するGaN単結晶からなる第2層45を形成することができる。上記第2層45の第2成長面10は、ピットPの数が制御されることにより、ピット密度としては0.1個/cm2以上100個/cm2以下となる。上記ピット密度は1個/cm2以上100個/cm2以下であることが好ましい。ここで第2層45の第2成長面10のピット密度も、上述した「ピット痕跡の密度」を求める方法と同じ要領によって求めることができる。
【0069】
<第4工程>
第4工程は、上記第2層を切り出すことにより上記GaN単結晶基板を得る工程S40である。本工程では、図10を参照し、まず成長用基板41、GaN膜42、マスク43、第1層44および第2層45を含む構造体において、第2層45の第1層44側を研削する。これにより上記構造体から成長用基板41、GaN膜42を含む下地基板、マスク43、ならびに第1層44を切り離すことができる。さらに、第2層45からなるインゴットから所定の厚みにて円盤状のGaN単結晶を切り出す。当該GaN単結晶基板の表面を研削により平坦化し、続いて研磨およびドライエッチングの両方または少なくともいずれかを行う。これにより、第1の主表面および第2の主表面を備えたGaN単結晶基板を得ることができる。上記GaN単結晶基板は、第2層45の第2成長面10に形成されたピットに対応する第1の主表面上の領域に、複数のピット痕跡を存する。つまり上記ピット痕跡の密度は、第2層45の第2成長面10のピット密度に対応し、0.1個/cm2以上100個/cm2以下である(図3も参照のこと)。
【0070】
<作用効果>
以上の工程により、本実施形態に係るGaN単結晶基板を製造することができる。上記GaN単結晶基板において、これを構成するGaN単結晶の(0001)面は、上記第1の主表面側から上記第2の主表面側へ向かって凸となる球面状の湾曲面であり、かつ6m以上の曲率半径を有することができる。もって上記製造方法により、GaN単結晶の(0001)面の曲率半径が大きいために、第1の主表面の領域毎の特性がバラツキなく均一となることから、デバイス特性を向上させたGaN単結晶基板を得ることができる。
【実施例
【0071】
以下、実施例を挙げて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらに限定されるものではない。本実施例では、以下のGaN単結晶基板の製造方法を実行することにより、GaN単結晶基板の試料をそれぞれ1枚得た。
【0072】
〔試料1:直径50.8mm(2インチ)GaN単結晶基板の製造〕
<第1工程>
市販の直径50.8mmのサファイア基板を入手し、当該サファイア基板上にMOCVD法を用いてGaN膜を形成することにより、下地基板を準備した。上記GaN膜の主表面の面方位は(0001)面であった。続いて上記下地基板のGaN膜側に、遮蔽部と開口部とが交互に繰り返される構造を有するマスクを形成した。具体的には、下地基板のGaN膜側にプラズマCVD法を適用し、酸化ケイ素からなる化学蒸着膜(厚み200nm)を形成した後、上記化学蒸着膜上にフォトリソグラフィー法によりパターニングされたレジストを形成し、当該レジストをエッチングマスクとしてエッチングを行うことによりマスクを形成した。
【0073】
<第2工程>
HVPE法を適用することによって下地基板の上記GaN膜において、上記マスクの開口部を介して所謂ファセット構造を有するGaN単結晶(第1層)を、次の第1成長条件にて成長させた。具体的には、ホットウォール型反応炉内の石英製の試料ホルダ上に下地基板を設置し、上記反応炉内を980℃まで加熱後、上記反応炉内の上流側ボート内に設置した金属Gaに対し、HClガスを吹き付けることによって塩化ガリウムガスを生成して供給し、続いてアンモニアガスを上記反応炉内に供給した。さらに上記反応炉を980℃にて2.5時間保持した。上記第1成長条件としては、塩化ガリウムガス分圧を3.0×103Paとし、アンモニアガス分圧を12×103Paとした。さらにGaN単結晶の成長面(第1成長面)の成長速度を40μm/時間とした。以上により、成長面(第1成長面)が(0001)面であり、触針式の膜厚計で測定した厚さが0.1mmのGaN単結晶(第1層)を得た。さらに上述した方法により測定した成長面におけるピット密度は、100個/cm2を超えた
【0074】
<第3工程>
HVPE法を引き続き適用することにより、上記第1層の第1成長面において、GaN単結晶(第2層)を次の第2成長条件にて成長させた。具体的には、ホットウォール型反応炉内の石英製の試料ホルダ上に設置された上記第1層の第1成長面に対し、上記反応炉内を1030℃まで加熱後、HClガスを1質量%のFeを添加したGaと反応させることにより生成した塩化ガリウムガスおよび塩化鉄ガスと、アンモニアガスとを上記反応炉内へ供給した。さらに上記反応炉を1030℃にて37.5時間保持した。上記第2成長条件としては、塩化ガリウムガス分圧を4.0×103Paとし、塩化鉄ガス分圧を上記塩化ガリウムガスの100分の1とし、アンモニアガス分圧を8.0×103Paとした。さらにGaN単結晶の成長面(第2成長面)の成長速度を80μm/時間とした。その後、上記反応炉内を室温まで降温し、上記第1層上にGaN単結晶(第2層)を得た。第2層は、成長面(第2成長面)が(0001)面であり、触針式の膜厚計で測定した厚さが3mmであった。さらに上述した方法により測定した第2成長面におけるピット密度は、0.1個/cm2であった。
【0075】
<第4工程>
上記下地基板、マスク、第1層および第2層を含む構造体において、第2層の第1層側(2つの主表面の一方であって、窒素極性面となる側)を研削することにより、当該第2層を下地基板、GaN膜およびマスクおよびから切り離した。さらに、上記第2層からなるインゴットから所定の厚みにて円盤状のGaN単結晶を切り出した。続いて当該GaN単結晶の表面(ガリウム極性面および窒素極性面の両者)を研削により平坦化し、続いて研磨を行った。以上により、直径50.8mm(2インチ)、厚み350μmで、円形状の第1の主表面および第2の主表面を備える実施例1のGaN単結晶基板を製造した。
【0076】
〔試料2:直径101.6mm(4インチ)GaN単結晶基板の製造〕
第1工程において市販の直径101.6mmのサファイア基板を入手し、当該サファイア基板上にMOCVD法によりGaN膜を形成したこと、第2工程における第1成長条件の成長温度、成長速度、塩化ガリウムガス分圧およびアンモニアガス分圧、ならびに第3工程における第2成長条件の成長温度、成長速度、塩化ガリウムガス分圧およびアンモニアガス分圧を表1に示すとおりに変更したこと以外、試料1と同じ要領によって、直径101.6mm(4インチ)、厚み450μmで、円形状の第1の主表面および第2の主表面を備える実施例2のGaN単結晶基板を製造した。試料2における第1層および第2層の厚み(mm)については、表1に示した。上述した方法により測定した試料2における第1成長面のピット密度は100個/cm2を超え、第2成長面におけるピット密度は0.2個/cm2であった。
【0077】
〔試料3~試料7:直径101.6mm(4インチ)GaN単結晶基板の製造〕
第2工程における第1成長条件の成長温度、成長速度、塩化ガリウムガス分圧およびアンモニアガス分圧、ならびに第3工程における第2成長条件の成長温度、成長速度、塩化ガリウムガス分圧およびアンモニアガス分圧を表1に示すとおりに変更したこと以外、試料2と同じ要領によって、直径101.6mm(4インチ)、厚み450μmで、円形状の第1の主表面および第2の主表面を備える試料3~試料7のGaN単結晶基板をそれぞれ製造した。試料3~試料7における第1層および第2層の厚み(mm)については、表1に示した。上述した方法により測定した試料3~試料7における第1成長面のピット密度は100個/cm2を超えた。試料3における第2成長面におけるピット密度は0.5個/cm2であり、試料4における第2成長面におけるピット密度は1個/cm2であり、試料5における第2成長面におけるピット密度は2.55個/cm2であり、試料6における第2成長面におけるピット密度は10個/cm2であり、試料7における第2成長面におけるピット密度は100個/cm2であった。
【0078】
試料8:直径152.4mm(6インチ)GaN単結晶基板の製造〕
第1工程において市販の直径152.4mmのサファイア基板を入手し、当該サファイア基板上にMOCVD法によりGaN膜を形成したこと、第2工程における第1成長条件の成長温度、成長速度、塩化ガリウムガス分圧およびアンモニアガス分圧、ならびに第3工程における第2成長条件の成長温度、成長速度、塩化ガリウムガス分圧およびアンモニアガス分圧を表1に示すとおりに変更したこと以外、試料1と同じ要領によって、直径152.4mm(6インチ)、厚み675μmで、円形状の第1の主表面および第2の主表面を備える試料8のGaN単結晶基板を製造した。試料8における第1層および第2層の厚み(mm)については、表1に示した。上述した方法により測定した試料8における第1成長面のピット密度は100個/cm2を超え、第2成長面におけるピット密度は90個/cm2であった。
【0079】
〔試料11および試料12:直径50.8mm(2インチ)GaN単結晶基板の製造〕
第2工程における第1成長条件の成長温度、成長速度、塩化ガリウムガス分圧およびアンモニアガス分圧、ならびに第3工程における第2成長条件の成長温度、成長速度、塩化ガリウムガス分圧およびアンモニアガス分圧を表1に示すとおりに変更したこと以外、試料1と同じ要領によって、直径50.8mm(2インチ)、厚み350μmで、円形状の第1の主表面および第2の主表面を備える試料11および試料12のGaN単結晶基板をそれぞれ製造した。試料11および試料12における第1層および第2層の厚み(mm)については、表1に示した。上述した方法により測定した試料11および試料12における第1成長面のピット密度は100個/cm2を超えた。試料11における第2成長面におけるピット密度は0.05個/cm2であり、試料12における第2成長面におけるピット密度は300個/cm2であった。
【0080】
〔試料13:直径50.8mm(2インチ)GaN単結晶基板の製造〕
上記特許文献1において実施例1として開示されるGaN単結晶基板の製法に関する記載にしたがって、ピット埋込領域(本明細書における「ピット痕跡」に相当)の密度が1.0×10-2個/cm2以上0.9個/cm2以下となるようにGaN単結晶基板を製造し、これを試料13のGaN単結晶基板とした。
【0081】
試料13のGaN単結晶基板の製造においては、上記特許文献1を参照することにより、成長の第1段階(本明細書における「第2工程」に相当)として、シリコン(Si)ドープ窒化ガリウム層(厚み700nm)とアンドープ窒化ガリウム層(厚み500nm)を交互に20層ずつ成長させた多層構造を有するGaN単結晶を製造した。さらに、成長の第2段階(本明細書における「第3工程」に相当)として、アンドープ窒化ガリウム層(厚み0.2mm)となるGaN単結晶を成長させた後、Siドープ窒化ガリウム層(厚み3mm)となるGaN単結晶を成長させた。
【0082】
その後、上記GaN単結晶を上記下地基板から切り離し、かつ上記GaN単結晶に対して表面加工を実行する(本明細書における「第4工程」に相当)ことにより、直径50.8mm(2インチ)、厚み350μm、かつ円形状である試料13のGaN単結晶基板を製造した。なお、上記成長の第1段階および第2段階における成長温度、成長速度、および各種のガス分圧等に関する条件は、表1に示すとおりである。さらに試料13における第1層および第2層の厚み(mm)については、表1に示した。上述した方法により測定した試料13における第1成長面のピット密度は100個/cm2を超え、第2成長面におけるピット密度は0.9個/cm2であった。
【0083】
〔試料14:直径50.8mm(2インチ)GaN単結晶基板の製造〕
上記特許文献1において比較例1として開示されるGaN単結晶基板の製法に関する記載にしたがって、ピット埋込領域(本明細書における「ピット痕跡」に相当)の密度が1個/cm2以上1.9個/cm2以下となるようにGaN単結晶基板を製造し、これを試料14のGaN単結晶基板とした。
【0084】
試料14のGaN単結晶基板の製造においては、上記特許文献1を参照することにより下地基板上に直接、Siドープ窒化ガリウム層(厚み3mm)となるGaN単結晶を成長させた(本明細書における「第3工程」に相当。したがって試料14において、本明細書における「第2工程」に相当する結晶成長は実行されない)。その後、上記GaN単結晶を上記下地基板から切り離し、かつ上記GaN単結晶に対して表面加工を実行する(本明細書における「第4工程」に相当)ことにより、直径50.8mm(2インチ)、厚み350μm、かつ円形状である試料14のGaN単結晶基板を製造した。なお、上記成長の第1段階および第2段階における成長温度、成長速度、および各種のガス分圧等に関する条件は、表1に示すとおりである。なお試料14における第2層の厚み(mm)については、表1に示した。また試料14におけるピット埋込領域の密度は1.9個/cm2であった。
【0085】
〔試料15:直径50.8mm(2インチ)GaN単結晶基板の製造〕
上記特許文献2において開示されるGaN単結晶基板の製造方法に関する記載にしたがって、ピット密度(本明細書における「ピット」の密度に相当)が10個/cm2以下なるようにGaN単結晶を製造し、さらに当該GaN単結晶からGaN単結晶基板を製造することにより、試料15のGaN単結晶基板を得た。
【0086】
試料15のGaN単結晶基板の製造においては、上記特許文献2を参照することにより、成長の第1段階(本明細書における「第2工程」に相当)および成長の第2段階(本明細書における「第3工程」に相当)として、表1に示すとおりの成長温度、成長速度、および各種のガス分圧、ならびにV/III比等の条件にてGaN単結晶を成長させた。
【0087】
その後、上記GaN単結晶を下地基板から切り離し、かつ表面加工を実行する(本明細書における「第4工程」に相当)ことにより、直径50.8mm(2インチ)、厚み350μm、かつ円形状である試料15のGaN単結晶基板を製造した。試料15における第1層および第2層の厚み(mm)については、表1に示した。上述した方法により測定した試料15における第1成長面のピット密度は100個/cm2を超え、第2成長面におけるピット密度は1個/cm2であった。
【0088】
【表1】
【0089】
〔GaN単結晶基板の評価〕
試料1~試料8および試料11~試料15のGaN単結晶基板に対し、上述した方法に基づいて、第1の主表面のピット痕跡の密度(個/cm2)、上記GaN単結晶基板を構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径(m)、上記ピット痕跡の直径(μm)、および転位密度の最大値(cm -2 )を算出した。結果を表2に示す。なお第1の主表面のピット痕跡の密度(個/cm2)は、第2成長面におけるピット密度(個/cm2)と同じ値となる。試料1~試料8が実施例であり、試料11~試料15が比較例である。
【0090】
【表2】
【0091】
〔考察〕
試料1~試料8のGaN単結晶基板は、これを構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径が6m以上と大きく、もって第1の主表面の領域毎に特性が均一となるものと示唆される。さらに試料1~試料8のGaN単結晶基板は、ピット痕跡の密度が0.1個/cm2以上100個/cm2以下であるので、GaN単結晶基板を構成するGaN単結晶中のピットの多さに起因して転位密度が高くなることもない。一方、試料11および試料13~試料15のGaN単結晶基板は、これを構成するGaN単結晶の(0001)面の曲率半径が5m以下であった。試料12のGaN単結晶基板は、ピット痕跡の密度が300個/cm2であって100個/cm2を超えた。
【0092】
したがって本実施例に係るGaN単結晶基板は、面内の比抵抗値がバラツキなく均一であることにより、良好なデバイス特性を供することができると示唆される。
【0093】
以上のように本開示の実施形態および実施例について説明を行ったが、上述の各実施形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0094】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態及び実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0095】
1 窒化ガリウム単結晶基板(GaN単結晶基板)、5 第1成長面、10 第2成長面、100 窒化ガリウム単結晶(GaN単結晶)、11 第1の主表面、21 第2の主表面、31 (0001)面、40 下地基板、41 成長用基板、42 窒化ガリウム膜(GaN膜)、43 マスク、M0~M4 測定点、P ピット、T ピット痕跡、S10 下地基板を準備する工程 S20 GaN膜上に第1層を形成する工程、S30 第1層上に第2層を形成する工程、S40 GaN単結晶基板を得る工程。
【要約】
窒化ガリウム単結晶基板は、第1の主表面および第2の主表面を備え、前記窒化ガリウム単結晶基板の直径は、50mm以上であり、前記第1の主表面は、ガリウム極性面であり、前記第2の主表面は、窒素極性面であり、前記第1の主表面および前記第2の主表面は、円形状を有し、前記窒化ガリウム単結晶基板において、これを構成する窒化ガリウム単結晶の(0001)面は、前記第1の主表面側から前記第2の主表面側へ向かって凸となる球面状の湾曲面であり、かつ6m以上の曲率半径を有し、前記第1の主表面は、複数のピット痕跡を有し、前記ピット痕跡の密度は、0.1個/cm2以上100個/cm2以下である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10