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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】シア脂分別画分
(51)【国際特許分類】
   A23D 9/00 20060101AFI20231226BHJP
   A23D 7/01 20060101ALI20231226BHJP
   C11B 3/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A23D9/00 518
A23D7/01
C11B3/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2023555854
(86)(22)【出願日】2023-02-22
(86)【国際出願番号】 JP2023006361
【審査請求日】2023-09-12
(31)【優先権主張番号】P 2022051117
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】アモア ジェローム
(72)【発明者】
【氏名】高野 寛
【審査官】厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/155490(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/206467(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/131862(WO,A1)
【文献】特開2000-336390(JP,A)
【文献】国際公開第2022/075137(WO,A1)
【文献】特表2004-524389(JP,A)
【文献】特開2018-157761(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D 7/00 - 9/06
C11B 1/00 - 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)~(C)を全て満たす、シア脂分別画分。
(A)ヨウ素価が55以下
(B)上昇融点が40℃以上
(C)ジグリセリド含有量が22重量%以上
【請求項2】
さらに、(D)構成脂肪酸としてステアリン酸とオレイン酸が一つずつ結合したジグリセリド含有量が10重量%以上である、請求項1記載のシア脂分別画分。
【請求項3】
請求項1又は2記載のシア脂分別画分を0.01~5重量%使用してなる油脂。
【請求項4】
請求項1又は2記載のシア脂分別画分を0.006~3重量%使用してなる油中水型乳化物。
【請求項5】
シア脂を分別し、低融点部を除去する工程を含み、かつ得られたシア脂分別画分が下記(A)~(C)を全て満たすことを特徴とする、シア脂分別画分の製造方法。
(A)ヨウ素価が55以下
(B)上昇融点が40℃以上
(C)ジグリセリド含有量が22重量%以上
【請求項6】
下記(A)~(C)を全て満たす、シア脂分別画分を配合することによる、油中水型乳化物中の乳化剤の量を削減又は代替する方法。
(A)ヨウ素価が55以下
(B)上昇融点が40℃以上
(C)ジグリセリド含有量が22重量%以上
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシア脂分別画分に関する。
【背景技術】
【0002】
マーガリンをはじめとする油中水型乳化物の製造は、油相と水相を乳化し、急冷捏和することで製造される。本工程において乳化を安定化させる目的で、一般に乳化剤が用いられる。乳化剤の使用は、乳化を安定させることで油中水型乳化物の物性(作製直後及び経時的な離水抑制、グレーニング耐性、展延性維持)の適切な制御が可能である。一方で効果を得るためには一定量以上の添加が必要であり異味の要因となり得ることが課題である。加えて近年の消費者の間の健康志向により、食品添加物の削減や、ひいては食品添加物不使用を謳えるクリーンラベルに対する関心が強く、乳化剤についても不使用とするニーズが高まってきている。
【0003】
油中水型乳化物中の乳化剤の機能を代替する技術として、卵黄油を使用する技術(特許文献1)や、油脂の晶析における加圧晶析技術(特許文献2)などが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-006108号公報
【文献】特開2006-254816号公報
【文献】特開昭52―063206号公報
【文献】特表2015-533482号公報
【文献】特開2001-98293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1については、卵黄油の使用でありアレルゲン物質と成り得ることが懸念といえるため、アレルゲン物質を有さない素材を使用することが望ましいと考えられる。特許文献2については、独自の製造設備を必要としており初期投資が高くなることが懸念されるため、簡便な方法による乳化剤代替できることが望ましいと考えられる。
【0006】
従い、独自の油中水型乳化物を製造する設備を必要とせず、油中水型乳化物に使用可能な乳化剤を削減または代替できる素材が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこの課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、意外にも、シア脂を分別して得られる特定のシア脂分別画分を任意の油脂へ配合することにより、油中水型乳化物の乳化剤に代替でき、加えて油中水型乳化物作製直後のみならず経時的な物性変化を抑えることが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち本発明は、下記の発明を包含するものである。
(1) 下記(A)~(C)を全て満たす、シア脂分別画分。
(A)ヨウ素価が55以下
(B)上昇融点が40℃以上
(C)ジグリセリド含有量が22重量%以上
(2) さらに、(D)構成脂肪酸としてステアリン酸とオレイン酸が一つずつ結合したジグリセリド含有量が10重量%以上である、(1)のシア脂分別画分。
(3) さらに、SOOトリグリセリド含有量が35重量%以下である、(1)又は(2)のシア脂分別画分。
ただしSOOトリグリセリドとは、構成脂肪酸としてステアリン酸が1分子、オレイン酸が2分子結合しているトリグリセリドを示す。
(4) さらに、不ケン化物含有量が0.5重量%以上である、(1)又は(2)のシア脂分別画分。
(5) さらに、不ケン化物含有量が0.5重量%以上である、(3)のシア脂分別画分。
(6) (1)のシア脂分別画分を0.01~5重量%使用してなる油脂。
(7) (2)のシア脂分別画分を0.01~5重量%使用してなる油脂。
(8) (3)のシア脂分別画分を0.01~5重量%使用してなる油脂。
(9) (4)のシア脂分別画分を0.01~5重量%使用してなる油脂。
(10) (5)のシア脂分別画分を0.01~5重量%使用してなる油脂。
(11) (1)のシア脂分別画分を0.006~3重量%使用してなる油中水型乳化物。
(12) (2)のシア脂分別画分を0.006~3重量%使用してなる油中水型乳化物。
(13) (3)のシア脂分別画分を0.006~3重量%使用してなる油中水型乳化物。
(14) (4)のシア脂分別画分を0.006~3重量%使用してなる油中水型乳化物。
(15) (5)のシア脂分別画分を0.006~3重量%使用してなる油中水型乳化物。
(16) シア脂を分別し、低融点部を除去する工程を含み、かつ得られたシア脂分別画分が下記(A)~(C)を全て満たすことを特徴とする、シア脂分別画分の製造方法。
(A)ヨウ素価が55以下
(B)上昇融点が40℃以上
(C)ジグリセリド含有量が22重量%以上
(17) (16)のシア脂分別画分の製造方法であって、得られたシア脂分別画分が、さらに、(D)構成脂肪酸としてステアリン酸とオレイン酸が一つずつ結合したジグリセリド含有量が10重量%以上であることを特徴とする、シア脂分別画分の製造方法。
(18) (16)又は(17)のシア脂分別画分の製造方法であって、得られたシア脂分別画分が、さらに、SOOトリグリセリド含有量が35重量%以下であることを特徴とする、シア脂分別画分の製造方法。
ただしSOOトリグリセリドとは、構成脂肪酸としてステアリン酸が1分子、オレイン酸が2分子結合しているトリグリセリドを示す。
(19) (16)又は(17)のシア脂分別画分の製造方法であって、得られたシア脂分別画分が、さらに、不ケン化物含有量が0.5重量%以上であることを特徴とする、シア脂分別画分の製造方法。
(20) (18)のシア脂分別画分の製造方法であって、得られたシア脂分別画分が、さらに、不ケン化物含有量が0.5重量%以上であることを特徴とする、シア脂分別画分の製造方法。
(21) 下記(A)~(C)を全て満たす、シア脂分別画分を配合することによる、油中水型乳化物中の乳化剤の量を削減又は代替する方法。
(A)ヨウ素価が55以下
(B)上昇融点が40℃以上
(C)ジグリセリド含有量が22重量%以上
(22) さらに、(D)構成脂肪酸としてステアリン酸とオレイン酸が一つずつ結合したジグリセリド含有量が10重量%以上である、(21)の方法。
(23) さらに、SOOトリグリセリド含有量が35重量%以下である、(21)又は(22)の方法。
ただしSOOトリグリセリドとは、構成脂肪酸としてステアリン酸が1分子、オレイン酸が2分子結合しているトリグリセリドを示す。
(24) さらに、不ケン化物含有量が0.5重量%以上である、(21)又は(22)の方法。
(25) さらに、不ケン化物含有量が0.5重量%以上である、請求項23記載の方法。
換言すれば、本発明は、下記の発明を包含するものである。
(1) 下記(A)~(C)を全て満たす、シア脂分別画分。
(A)ヨウ素価が55以下
(B)上昇融点が40℃以上
(C)ジグリセリド含有量が22重量%以上
(2) さらに、(D)構成脂肪酸としてステアリン酸とオレイン酸が一つずつ結合したジグリセリド含有量が10重量%以上である、(1)のシア脂分別画分。
(3) (1)又は(2)のシア脂分別画分を0.01~5重量%使用してなる油脂。
(4) (1)又は(2)のシア脂分別画分を0.006~3重量%使用してなる油中水型乳化物。
(5) シア脂を分別し、低融点部を除去する工程を含む、(1)又は(2)のシア脂分別画分の製造方法。
(6) (1)又は(2)のシア脂分別画分を配合する油中水型乳化物中の乳化剤の量を削減又は代替する方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、シア脂を分別して得られるシア脂分別画分を得ることができ、これを油中水型乳化物に使用した場合に、乳化剤に求められる機能を付与することができる。すなわち、シア脂分別画分を油中水型乳化物に使用することで、油中水型乳化物作製直後のみならず、経時的な物性変化を抑えることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明のシア脂分別画分の原料であるシア脂は、アフリカ北中部の通称シアベルトと呼ばれる地域に生息しているシアバターノキ(Butyrospermum parkii)の種子から得られる油脂の総称である。シア脂は常温で固形状であり、そのままの物性で利用される場合もあるが、カカオ脂の代用油脂として固体部の機能を高めるために、固体部と液状部に分別して利用される場合が多い。分別して得られた固体側は、カカオ脂の代用油脂として使用される他に、優れた特性を活かして、チョコレート製品の表面が白色化したり内部が粉状化したりする、いわゆるファットブルームを防止するなど、チョコレートの機能を高める目的で利用されることも多く、主にチョコレート製品に利用されている(特許文献3~5)。
【0012】
本発明のシア脂分別画分の原材料はシア脂である。好ましくはシアオレインであり、より好ましくはカカオ脂の代用油脂として固体部を得た後の液体側であるシアオレインであることが好ましい。また前記のシアオレインは、脱ガム、脱色および脱臭工程を含む、一般的な精製処理がされた精製シアオレインを用いることが好ましい。未精製シアオレインを原料として分別作業を行うと、遊離脂肪酸が多く存在するため分別が困難となる場合がある。
【0013】
本発明のシア脂分別画分の製造法は、分別により低融点部を除去する工程を含む。ここで言う低融点部とはその融点が14℃以下であり、好ましくは13℃以下、より好ましくは12℃以下である。
分別の方法として、溶剤分別、乾式分別、ディタージェント分別等が例示できるが、得られるシア脂分別画分の品質を満たす物であれば、いずれの方法の使用することができる。
【0014】
本発明のシア脂分別画分の製造法として溶剤分別を行う場合、油脂原料と溶剤の混合物の融解を行い、その後徐々に温度を低下させ、一定温度で一定時間保持して晶析を行うことより固体部分側を確保し、溶剤を除去し、必要ならば精製工程を経ることにより、目的のシア脂分別画分を得ることができる。
本発明のシア脂分別画分の製造法として溶剤分別を行う場合、溶剤分別に用いる溶剤として、ヘキサン及びアセトンを例示することができ、いずれの溶剤を用いた分別も可能であるが、ヘキサン分別により製造することが好ましい。アセトン分別により製造する場合、条件によっては有効成分とされるジグリセリドや不ケン化物成分がシア脂分別画分に十分濃縮或いは残存しない場合がある。
溶剤分別工程における油脂原料と溶剤の割合はそれぞれ5部~50部と95~50部であることが好ましく、さらに好ましくは10部~40部と90部~60部である。晶析を行う温度は―15℃~25℃であることが好ましく、より好ましくは―15℃~0℃である。また、晶析温度での保持時間は5分~200分であることが好ましく、より好ましくは10~150分であり、さらに好ましくは15~120分である。
【0015】
本発明のシア脂分別画分の製造法として乾式分別を行う場合、油脂原料の融解を行い、その後徐々に温度を低下させ、一定温度で一定時間保持して晶析を行うことより固体部分側を確保し、必要ならば精製工程を経ることにより、目的のシア脂分別画分を得ることができる。
晶析を行う温度は0℃~30℃であることが好ましく、より好ましくは5℃~25℃である。また、晶析温度での保持時間は10分~400分であることが好ましく、より好ましくは30~300分であり、さらに好ましくは60~200分である。
【0016】
推測ではあるが、本発明のシア脂分別画分に含まれるジグリセリド及び不ケン化物が共存することが、シア脂分別画分を油中水型乳化物に配合した際の乳化性を発揮する有効成分となっていると考えられる。
【0017】
本発明のシア脂分別画分のヨウ素価は、55以下である必要があり、好ましくは20~55であり、より好ましくは25~55であり、さらに好ましくは30~55であり、最も好ましくは35~52である。本発明のシア脂分別画分のヨウ素価が55を超えると、油中水型乳化物製造における冷却時の結晶化が遅くなり、グレーニングを引き起こしたり、或いは十分な展延性が得られなかったりする場合がある。
【0018】
本発明のシア脂分別画分の上昇融点は、40℃以上である必要があり、好ましくは43℃以上であり、より好ましくは45℃以上であり、さらに好ましくは48℃以上であり、最も好ましくは50℃以上である。本発明のシア脂分別画分の上昇融点が40℃を下回ると、油中水型乳化物製造における冷却時の結晶化が遅くなり、グレーニングを引き起こしたり、或いは十分な展延性が得られなかったりする場合がある。
【0019】
本発明のシア脂分別画分のジグリセリド含有量は、22重量%以上である必要があり、好ましくは25重量%以上であり、より好ましくは28重量%以上であり、さらに好ましくは30重量%以上である。本発明のシア脂分別画分のジグリセリド含有量が22重量%を下回ると、乳化性が不足し、保存時に離水を引き起こす場合がある。
【0020】
本発明のシア脂分別画分の、構成脂肪酸としてステアリン酸とオレイン酸が一つずつ結合したジグリセリド含有量は、10重量%以上であることが好ましく、より好ましくは11~90重量%であり、さらに好ましくは12~80重量%であり、最も好ましくは13~75重量%である。本発明のシア脂分別画分の、構成脂肪酸としてステアリン酸とオレイン酸が一つずつ結合したジグリセリド含有量が10重量%を下回ると、乳化性が不足し、保存時に離水を引き起こす場合がある。
【0021】
本発明のシア脂分別画分の、SOOトリグリセリド含有量は、35重量%以下であることが好ましく、より好ましくは33重量%以下であり、さらに好ましくは30重量%以下である。本発明のシア脂分別画分の、SOOトリグリセリド含有量が35重量%を超えると、相対的にジグリセリド含有量が低減することにより乳化性が不足し、保存時に離水を引き起こす場合がある。
なお、SOOトリグリセリドとは、構成脂肪酸としてステアリン酸が1分子、オレイン酸が2分子結合しているトリグリセリドを示す。
【0022】
本発明のシア脂分別画分の、不ケン化物含有量は、0.5重量%以上であることが好ましく、より好ましくは1重量%以上、さらに好ましくは1.5重量%以上である。本発明のシア脂分別画分の、不ケン化物含有量が0.5重量%未満であると、不ケン化物由来の乳化機能が十分でないため乳化性が不足し、保存時に離水を引き起こす場合がある。
【0023】
本発明の油脂及び油中水型乳化物に使用可能な油脂類は、シア脂を含有すれば良いが、シア脂以外の油脂類を使用しても良い。シア脂以外に使用することができる油脂類としては、ハイエルシン菜種油、菜種油(キャノーラ油)、大豆油、ヒマワリ種子油、綿実油、落花生油、米糠油、コーン油、サフラワー油、オリーブ油、カポック油、胡麻油、月見草油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、中鎖脂肪酸結合トリグリセリド(MCT)、サル脂等の植物性油脂、乳脂、牛脂、ラード、魚油、鯨油等の動物性油脂を挙げる事ができる。本発明においては、これらから選ばれる1以上の油脂を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の加工を施したもの等が例示できる。
【0024】
本発明の油脂は、シア脂分別画分を0.01~5重量%含有することが好ましく、より好ましくは0.03~4重量%であり、さらに好ましくは0.05~3重量%であり、最も好ましくは0.1~2重量%である。本発明の油脂に含まれる、シア脂分別画分が0.01重量%未満であると、シア脂分別画分による乳化機能が不足する場合がある。一方5重量%を超えると、シア脂分別画分による乳化機能が強すぎて、最終的に得られる油中水型乳化物としての一般的な性状を保てなくなる可能性がある。
本発明の油脂における、シア脂分別画分以外の構成については、特に限定されるものではないが、パーム油及び/又はパーム油を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の加工を施したものを少なくとも40重量%以上含むことが好ましい。さらに好ましくは、パーム油及び/又はパーム油を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の加工を施したものを少なくとも50重量%以上含むことである。最も好ましくは、パーム油及び/又はパーム油を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の加工を施したものを少なくとも60重量%以上含むことである。
【0025】
本発明の油中水型乳化物は、シア脂分別画分を0.006~3重量%含有することが好ましく、より好ましくは0.02~2.5重量%であり、さらに好ましくは0.04~2重量%であり、最も好ましくは0.08~1.6重量%である。本発明の油中水型乳化物に含まれる、シア脂分別画分が0.006重量%未満であると、シア脂分別画分による乳化機能が不足する場合がある。一方3重量%を超えると、シア脂分別画分による乳化機能が強すぎて、油中水型乳化物としての一般的な性状を保てなくなる可能性がある。
本発明の油中水型乳化物における、シア脂分別画分以外の構成については、特に限定されるものではない。
ただし油相については、パーム油及び/又はパーム油を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の加工を施したものを油中水型乳化物に対し少なくとも32重量%以上含むことが好ましい。より好ましくは、パーム油及び/又はパーム油を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の加工を施したものを油中水型乳化物に対し少なくとも40重量%以上含むことが好ましい。さらに好ましくは、パーム油及び/又はパーム油を分別、硬化、エステル交換から選ばれる1以上の加工を施したものを油中水型乳化物に対し少なくとも48重量%以上含むことが好ましい。
同様に水相については、水を油中水型乳化物に対し10~40重量%含むことが好ましい。より好ましくは、水を油中水型乳化物に対し12~30重量%含むことである。さらに好ましくは、水を油中水型乳化物に対し15~25重量%含むことである。最も好ましくは、水を油中水型乳化物に対し15~20重量%含むことである。
【0026】
本発明の油中水型乳化物は、水又は温水に水溶性の乳成分、大豆、アーモンド、ココア、オーツ麦由来の成分を含む水溶液や粉末などの風味原料を、加えて必要に応じて食塩、粉乳、食物繊維、糖類、増粘剤、乳化剤、無機塩類、保存料、日持ち向上剤、呈味剤、香料や色素など通常用いられる原材料を添加、溶解/分散させ調製することができる。
【0027】
本発明の油中水型乳化物の製造法については、特に限定されないが、常法通り油相と水相とを予備乳化した後、パーフェクター、ボテーター、コンビネーターなどで急冷捏和することにより製造することができる。
【0028】
本発明は、特定のシア脂分別画分を配合する油中水型乳化物中の乳化剤の量を削減又は代替する方法ととらえることもできる。具体的には、ヨウ素価が55以下、上昇融点が40℃以上、ジグリセリド含有量が22重量%以上であるシア脂分別画分を油中水型乳化物に配合することで、油中水型乳化物の乳化剤の量を削減又は代替することができる。好ましくは、ヨウ素価が55以下、上昇融点が40℃以上、ジグリセリド含有量が22重量%以上、構成脂肪酸としてステアリン酸とオレイン酸が一つずつ結合したジグリセリド含有量が10重量%以上であるシア脂分別画分を油中水型乳化物に配合することで、油中水型乳化物の乳化剤の量を削減又は代替することができる。
【実施例
【0029】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、特に明示しない限り、数値は重量基準を意味する。
【0030】
(ヨウ素価)
油脂のヨウ素価は、基準油脂分析試験法2.3.4.1-2013により測定した。
(融点)
油脂の融点は、基準油脂分析試験法2.2.4.2-1996により測定した。
(ジグリセリド及びトリグリセリド(TG)組成の測定方法)
油脂のジグリセリド及びトリグリセリド(TG)組成は、基準油脂分析法2.4.6.2-2013に準拠して高速液体クロマトグラフ法により測定した。測定条件は、(カラム;ODS、溶離液;アセトン/アセトニトリル=80/20、液量;0.9ml/分、カラム温度;25℃、検出器;示差屈折計)にて実施した。
(不ケン化物含量の測定方法)
油脂の不ケン化物含量の測定は、日本油化学会制定の基準油脂分析試験法2.4.6 トリアシルグリセリン組成(ガスクロマトグラフ法)に準じて実施し、不ケン化物由来のピーク面積からその含量を定量した。
【0031】
(実施例1)
融解した精製シアオレイン(不二製油株式会社製、以下同じ)とヘキサンをそれぞれ20部と80部となるように混合し、パドルミキサーで100rpmの攪拌を加えながら徐々に温度を下げ、-5℃に達したところで20分保持した。得られた混合液を濾過することで固体部分と液体部分に分け、得られた固体部分からヘキサンを除去することにより、本発明のシア脂分別画分が得られた。分別収率はヨウ素価基準で4.8重量%であった。
【0032】
(実施例2)
融解した精製シアオレインに対しパドルミキサーで100rpmの撹拌を加えながら徐々に温度を下げ、15℃に達したところで180分保持した。得られた混合液を濾過することで固体部分と液体部分に分け、得られた固体部分から、本発明のシア脂分別画分が得られた。分別収率は原料基準で9.9重量%であった。
【0033】
(比較例1)
実施例1及び実施例2の分別原料である精製シアオレインを用いた。
【0034】
実施例1、実施例2、比較例1の油脂のヨウ素価、融点、ジグリセリド組成、トリグリセリド組成及び不ケン化物含量の一部を以下に示す。
尚、ジグリセリド組成、トリグリセリド組成の略号の意味は以下の通りである。
・OO-DG:構成脂肪酸としてオレイン酸が2つ結合したジグリセリド
・SO-DG:構成脂肪酸としてステアリン酸とオレイン酸が1つずつ結合したジグリセリド
・SS-DG:構成脂肪酸としてステアリン酸が2つ結合したジグリセリド
・SOO:構成脂肪酸としてステアリン酸が1分子、オレイン酸が2分子結合しているトリグリセリド
・SOS:構成脂肪酸としてステアリン酸が2分子、オレイン酸が1分子結合しているトリグリセリド
・SSS:構成脂肪酸としてステアリン酸が3分子結合しているトリグリセリド
【0035】
(表1)

【0036】
実施例1、実施例2はいずれも、ヨウ素価が55以下、上昇融点が40℃以上、ジグリセリド含有量が22重量%以上であった。
一方で比較例1は、ヨウ素価が55を超えており、上昇融点が40℃未満、ジグリセリド含有量が22重量%未満であった。
【0037】
表2の配合と油中水型乳化物の調製法に従い、実施例3~4、比較例2~4、参考例1の油中水型乳化物を調製した。
【0038】
(表2)

【0039】
(油中水型乳化物の調製法)
1.油脂混合物及び乳化剤を60~70℃で融解し油相を調製した。
2.水に、水相原料に分類される原料を添加、溶解した。
3.攪拌中の油相へ水相を添加し、混合した。
4.混合液を撹拌しながら氷水にて急冷固化し、油中水型乳化物を得た。
【0040】
調製直後の油中水型乳化物の離水、グレーニング、展延性について、それぞれの評価方法と評価基準に従い、評価を実施した。それぞれの項目全てにおいて合格基準をみたすものを、総合評価合格とした。結果を表3に示す。
【0041】
(離水評価方法)
金属製ヘラで油中水型乳化物を割断した表面(断面を含む。以下同じ。)の離水の有無、油中水型乳化物を押し潰したときの離水発生有無を目視確認した。
【0042】
(離水評価基準)
評価は日々、油中水型乳化物の開発に従事し、油中水型乳化物の試作を行っているパネラー5名により下記の評価基準に基づき、実施した。パネラー5名による合議を経て4点以上を合格とした。
・5点:割断表面の水滴は全く見られず、押し潰しても離水は発生せず組織が均一。
・4点:割断表面の水滴は見られず押し潰しても離水は発生しないが、組織が不均一で離水しかけている箇所が一部みられる。
・3点:割断表面の水滴は見られないが、押し潰すと離水が発生する。
・2点:割断表面に少量の水滴が見られ、押し潰すと離水が発生する。
・1点:割断表面に滴るほどの多量の離水が見られ、押し潰すとさらに多量の離水が発生する。
【0043】
(グレーニング評価方法)
油中水型乳化物を押し潰して薄くした後、グレーニング有無を目視確認した。
【0044】
(グレーニング評価基準)
評価は日々、油中水型乳化物の開発に従事し、油中水型乳化物の試作を行っているパネラー5名により下記の評価基準に基づき、実施した。パネラー5名による合議を経て4点以上を合格とした。
・5点:グレーニングはみられず、均一な組織外観である。
・4点:粒状のグレーニングはみられないものの、表面に荒れやダマ状の塊がみられる。
・3点:わずかに粒状のグレーニングがみられる。
・2点:多数の粒状のグレーニングがみられる。
・1点:多数の粒状のグレーニングがみられる上、表面の荒れやダマ状の塊もみられる。
【0045】
(展延性評価方法)
金属製ヘラを油中水型乳化物に押し当てながら水平に動かしたとき、油中水型乳化物が滑らかに展延、変形するかを目視確認した。
【0046】
(展延性評価基準)
評価は日々、油中水型乳化物の開発に従事し、油中水型乳化物の試作を行っているパネラー5名により下記の評価基準に基づき、実施した。パネラー5名による合議を経て4点以上を合格とした。
・5点:均一かつ滑らかに展延、変形する。
・4点:展延、変形するが、不均一で表面が荒れている。
・3点:展延、変形するが、ダマ状の硬い箇所がみられる。
・2点:展延、変形はわずかに見られるが、油中水型乳化物がボロボロと細かく崩れる。
・1点:展延、変形はせず、油中水型乳化物が割れる。
【0047】
(表3)
【0048】
(表3の考察)
・実施例3、実施例4、比較例2は、離水、グレーニング、展延性全ての項目において合格基準の物性であった。
・参考例1は、乳化剤としてレシチンを多く配合していることもあり、離水、グレーニング、展延性全ての項目において合格基準の物性であった。
・比較例3のレシチン配合率は、実施例3、実施例4、比較例2においてシア脂分別画分として用いている実施例1、実施例2、比較例1の配合率と同様にしたが、離水及び展延性の項目において合格基準の物性が得られなかった。
・比較例4は、離水、グレーニング、展延性全ての項目において合格基準の物性が得られなかった。
【0049】
作製直後に合格基準の物性が得られた実施例3、実施例4、比較例2について、後述する油中水型乳化物の保存条件にて保存を行った後、既述の方法、基準に基づき、保存後の離水、グレーニング、展延性の評価を行った。保存後の油中水型乳化物の評価結果を表4に示す。
【0050】
(油中水型乳化物の保存条件)
油中水型乳化物の調製法により調製された油中水型乳化物約60重量gを金属トレイに乗せて、下記4条件における保存を行った。
・5℃温調庫にて1日保存
・20℃温調庫にて1日保存
・5℃温調庫にて3日保存
・20℃温調庫にて3日保存
【0051】
(表4)

【0052】
(表4の考察)
・実施例3、実施例4は、設定した4条件いずれの保存条件においても、離水、グレーニング、展延性全ての項目において合格基準の物性であり、保存前の物性基準を維持することができた。
・比較例2は、5℃1日保存、5℃3日保存にて、離水が合格基準の物性が得られず、保存前の物性基準を維持することができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
シア脂を特定の条件で分別することにより、特定のシア脂分別画分を得ることができ、これを油中水型乳化物に使用した場合に、乳化剤に求められる機能を付与することにより、乳化剤不使用、添加量を削減できる油中水型乳化物を好適に製造することができる。
【要約】
独自の油中水型乳化物を製造する設備を必要とせず、簡便な方法で油中水型乳化物に使用可能な乳化剤を代替できる植物油脂を提供することを課題とする。具体的な解決手段として、シア脂を特定の条件で分別し得られるシア脂分別画分を任意の油脂へ配合することにより、油中水型乳化物の乳化剤の機能を代替させることができる。加えて本方法により得られる油中水型乳化物は、乳化物作製直後のみならず、経時的な物性変化を抑えることが可能となる。