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特許7409588鉄筋コンクリート構造体貫通孔形成スリーブ保持機構
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  • 特許-鉄筋コンクリート構造体貫通孔形成スリーブ保持機構 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】鉄筋コンクリート構造体貫通孔形成スリーブ保持機構
(51)【国際特許分類】
   E04G 15/06 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
E04G15/06 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018131870
(22)【出願日】2018-06-26
(65)【公開番号】P2019011673
(43)【公開日】2019-01-24
【審査請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2017139459
(32)【優先日】2017-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【権利譲渡・実施許諾】特許権者において、実施許諾の用意がある。
(73)【特許権者】
【識別番号】517252336
【氏名又は名称】本間 広樹
(72)【発明者】
【氏名】本間 広樹
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】実開昭60-166744(JP,U)
【文献】実開昭58-100943(JP,U)
【文献】特開2005-344381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項4】
請求項1~3のいずれかの項記載のスリーブ保持機構を用いることを特徴とする、スリーブの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄筋コンクリート構造体の梁、床、壁に貫通孔を形成するためのスリーブを、型枠に保持する機構に関するものである。また、このスリーブ保持機構を利用した配管配線工事におけるルート識別法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建設工事において、鉄筋コンクリート構造体の梁、床、壁に設備配管、電気配線等を通す為の貫通孔形成にスリーブを用いている。このスリーブは一般に円筒形で、生コンクリート打設後、養生期間を経て後で取り除く紙製の筒体であるボイドや、そのまま構造体として使う亜鉛鋼板製の管、硬質ポリ塩化ビニル製の管などがある。
【0003】
貫通孔を梁、床、壁の所定位置に形成するためには、生コンクリート打設前にこのスリーブを型枠に固定しておく必要があるが、ボイドの場合は直接釘を斜めに打ち込んだり、亜鉛鋼板製、硬質ポリ塩化ビニル製の管の場合は、釘止め金具を介して固定するのが一般的施工方法であった。この方法は至ってシンプルで確実に固定できるという利点があったが、施工上いくつかの問題点もあった。その最大の難点は釘をハンマー等で型枠に打ち付ける時の作業性にあった。もう一つは、釘の後処理の問題であった。
【0004】
床や壁型枠に床スリーブ、壁スリーブを固定する場合、墨出し位置にスリーブを合わせ、それが動かないように手で押さえながら、さらに、ハンマーや釘打ち棒等の工具を用いて釘を打ち付けなければならず、所定の位置に正確に固定するのが容易ではなかった。梁型枠に、内筒、外筒から成るスライド式の梁スリーブを固定する場合、まず、梁型枠が完成した段階で取り付け位置に墨出しをする。次に、梁鉄筋構造体が梁型枠上部に組み立てられ、そこに梁スリーブを仮固定する。その後、梁鉄筋構造体が梁型枠内に落とし込まれる。その段階で初めて梁スリーブを所定の墨出し位置に固定してよいことになるのであるが、梁鉄筋構造体が空間的自由度を奪って、ハンマー等の工具を使う場合の障害となった。したがって作業性が落ち労力がかかった。
【0005】
生コンクリート打設後、型枠をばらした時に、スリーブを固定した釘はその先端を躯体上に飛び出させて残ることとなり危険であるため、それらはベビーサンダー等の工具を用いて切除しなければならなかった。さらに、釘の切断面には錆止めを塗るなどの手間がかかった。
【0006】
スライド式の梁スリーブを梁型枠に固定する場合の作業性を改善するために、セパレート型の梁スリーブが考案された(特許文献1参照)。梁スリーブを本体と固定部分に分けて、それらを互いに接続可能としたもので、梁鉄筋構造体が梁型枠内に落とし込まれる前に、スリーブ固定部分を梁型枠に釘打ちできるので作業性は向上したといえる。しかし固定に使った釘は躯体上に残ることになり、釘の後処理の問題は未解決のままであった。
【0007】
また同様の技術的課題に着目し、プレート型のスライド式梁スリーブ固定用補助金具が考案された(特許文献2参照)。円形に加工した金属板の中心に固定用孔を設け、その背面に長方形の板バネを取り付けたもので、粘着テープを用いて梁スリーブ一体化することによって前記課題を解決している。すなわち梁型枠内に梁鉄筋構造体が落とし込まれる前に、所定の取り付け位置に釘を一本打っておき、落とし込まれた後に、その釘に梁スリーブと一体化した補助金具の中心孔を押し込むことで固定できる。空間的自由度を奪われた状態での釘打ち作業がなくなった分、作業性は向上したといえる。しかし、固定用補助金具と梁スリーブを粘着テープで一体化したり、生コンクリート打設後はそれらを除去したりと、準備と後処理の手間がかかることになった。
【0008】
他に同様の技術的課題に対しては、リング型のスライド式梁スリーブ固定用金具が考案された(特許文献3参照)。スリーブ固定用リング金具に設けた傾斜型ツメ押さえと、スリーブに設けたツメ突起金具との回転差し込み方式による固定方法で、作業性は向上したといえる。しかし、傾斜型ツメ押さえやツメ突起金具は変形しやすく、特に生コンクリート打設時に問題となるスリーブの横ずれに対しては脆弱といえる。また、打設後型枠をばらした時に、リング金具がスリーブから離脱し型枠側に残ってしまう可能性が高い。そうなるとリング金具を型枠材から外す手間がかかることになる。
【0009】
さらに同様の技術的課題に対しては、ロック機構を備えたスライド式スリーブが考案された(特許文献4参照)。内筒、外筒から成るスリーブ本体の両端部内側に、それぞれはまり込む一対の筒状固定保持具を設け、それらとスリーブ本体の両端部が解除可能に固定できるロック機構を備えたものである。空間的自由度を奪われた状態での釘打ち作業がなくなったことや、釘の後処理の問題が解決したことで、作業性は向上したといえる。しかし固定保持具の形状が筒状であるため、これを床スリーブ施工用に応用しようとした場合には、不都合が生じる。すなわち、床型枠にあらかじめ固定保持具を取り付けておくと、鉄筋施工業者等の作業者に、足で引っ掛けられたり蹴飛ばされたりして、破損してしまう可能性が高くなってしまう。また梁や壁スリーブ施工用として用いた場合であっても、梁や壁の鉄筋構造体を組む時や、梁型枠内に梁鉄筋構造体を落とし込む時などに、固定保持具が引っ掛けられて破損してしまう可能性が高くなってしまう。
【0010】
スリーブ工事においては以上のような施工上の問題の他に、もう一つ改善すべき問題があった。すなわち、衛生、空調、消火、電気等、多種あるスリーブの識別上の問題である。生コンクリート打設後、型枠をばらした時に、躯体上に現れるスリーブはどれもが同じように見え、それぞれのスリーブがどの配管配線系統に属するものなのかが、視覚的に不明瞭であった。よって、スリーブを一つ一つ図面で確認しながら配管配線工事を進める必要があった。もし明瞭となれば配管配線工事におけるルート識別が一目瞭然となり、結果、施工イメージがしやすくなる。
【0011】
さらにもう一つ改善したい課題として、スリーブの墨出しの問題があった。スリーブを取り付ける場合には、配筋前にあらかじめ型枠等に墨出しをして、鉄筋施工業者等に、スリーブの施工予定情報を伝えなければならなかった。すなわち、マジック、スプレー等で型枠に直接表示する方法で、スリーブを取り付ける中心位置を出し、口径が分かるように口径サイズで丸く円を描き、さらに口径や配管配線系統の種別等を文字で表記しなければならず、手間がかかった。またせっかく墨出ししても、作業者によって表示の仕方が千差万別で統一性に欠け、情報が明瞭に伝わらないことが多々あった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】実用新案登録第3079850号公報
【文献】特開2004-250924号公報
【文献】特開2007-92488号公報
【文献】特開2009-144465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明が解決しようとする課題は、梁スリーブ施工用のみならず、床、壁スリーブ施工用としても広く応用が利き、破損しにくく強度的にも十分耐えうる、スリーブ工事全般に有用なスリーブ保持機構を提供する点にある。すなわち、梁スリーブを型枠に固定する際に、梁鉄筋構造体によって空間的自由度を奪われた状態であっても、容易に固定することができるスリーブ保持機構を提供する点にある。床スリーブや壁スリーブを型枠に固定する際に、スリーブを手で押さえながら釘打ちするような、煩雑な作業をしなくてもよいスリーブ保持機構を提供する点にある。また、生コンクリート打設後、型枠をばらした時に生じる、釘の後処理の問題が起こらないスリーブ保持機構を提供する点にある。さらに、配管配線工事におけるルート識別が一目瞭然となるスリーブ保持機構を提供する点にある。さらにまた、スリーブの墨出し時に、その手間が簡略化されると共に、統一的で明瞭に、スリーブの施工予定情報を伝達できるスリーブ保持機構を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るスリーブ保持機構は、これらの課題を解決したものであって次のようなものである。すなわち、請求項1に係るスリーブ保持機構は、スリーブと、その内部に収まる大きさの保持プレートとを別々に製作し、スリーブと保持プレートとを一体に連結したり連結を解除したりする回転方式の噛み合わせの手段を、スリーブ外端の内周側面部と保持プレートの外周側面部との間に設けており、その手段によって両者を連結したり又は両者の連結を解除したりするようにしたものであって、保持プレートは型枠に固定具によって固定され、さらに、スリーブとその保持プレートとを、上記回転方式の噛み合わせの手段によって一体に連結した状態で生コンクリートを打設するものであって、このとき固定具は、保持プレートを型枠にしっかりと固定でき、かつ型枠を解体する時に型枠から自然と外れやすいという機能を備えたものであって、一方、上記回転方式の噛み合わせの手段は、型枠の解体時に、保持プレートが固定具と共に型枠から外れてスリーブと一体となって躯体側に残るような保持力を発揮するものであって、これらの固定具に備わった機能と回転方式の噛み合わせの手段に備わった保持力の組み合わせによって、保持プレートを介してスリーブを型枠にしっかりと固定できると共に、生コンクリート打設後、型枠が解体されたときに、保持プレートが固定具と共に型枠から外れて、スリーブと一体となって躯体側に残るようにしたものである。
【0015】
その大きな特徴は、固定保持具を筒状ではなく、プレート状にした点にある。プレート状に薄くすることで、作業者に引っ掛けられたり、蹴飛ばされたりするリスクを、極力減らすことができる。またプレート状にすることで、例えばスリーブと固定保持具との連結の手段を、突起と溝の噛み合わせ方式とした場合などは、溝を深く掘ることができ、それに合わせてスリーブに設ける突起も、幅と嵩を広く高くすることができるので、結果、溝と面接触で噛み合わせることができ、耐衝撃性を向上させることができる。したがって、外筒、内筒から成るスライド式梁スリーブ施工用のみならず、スリーブ単体で取り付ける、床、壁スリーブ施工用としても広く応用が利く。
【0016】
さらに、プレート状にしたことで破損のリスクが減り、固定保持具を墨出しの手段として用いることが可能となる。すなわち、梁型枠のみならず、床、壁型枠にも、配筋前にあらかじめ保持プレートをスリーブの取り付け位置に打ちつけておくことで、鉄筋施工業者等に対して、スリーブの取り付け位置、口径、配管配線系統の種別等、スリーブの施工予定情報を視覚的に明瞭に伝えることができる。結果、現場の作業全体が円滑に流れてゆく。
【0017】
床スリーブや壁スリーブを型枠に固定する際には、例えば固定具として釘を用いた場合、鉄筋が組まれる前に、型枠の墨出し位置に保持プレートを釘で打ち付けておき、鉄筋が組まれたら、スリーブと保持プレートとを連結することで容易に固定することができる。スライド式梁スリーブを型枠に固定する際には次のようにする。まず、梁型枠の左右の墨出し位置に保持プレートをそれぞれ釘で打ち付けておく。次に、梁型枠上部に梁鉄筋構造体が組まれたら、梁スリーブを仮固定する。そして、梁スリーブが梁鉄筋構造体と共に梁型枠内に落とし込まれたら、仮固定を解除して、外筒と内筒を引き伸ばし、左右の保持プレートとそれぞれ連結することで固定することができる。梁鉄筋構造体によって空間的自由度を奪われた状態であっても、ハンマー等の工具を使わなくて済むので、作業性が向上する。
【0018】
請求項2に係るスリーブ保持機構は、スリーブと保持プレートとを一体に連結したり連結を解除したりする手段が、互いを回転方式で噛み合わせることのできる突起と溝を、スリーブ外端の内周側面部と保持プレートの外周側面部とにそれぞれ設けたものであることを特徴としている。このとき突起をスリーブに設け、溝を保持プレートに設けてもよいし、その逆の構成であってもよい。
【0019】
スリーブと保持プレートとを一体に連結したり連結を解除したりする手段としては、他にもいろいろ考えられる。例えば、互いを噛み合わせることのできる雄ねじと雌ねじを、スリーブ外端の内周側面部と保持プレートの外周側面部とにそれぞれ設けたり、互いをはめ合わせることのできる孔と板バネ式突起をそれぞれに設けたりする方法である。
【0020】
要は、生コンクリート打設後、型枠をばらした時に釘で固定しておいた保持プレートが型枠から外れて、スリーブと一体となって残るような保持力を発揮し、かつ容易に解除もできる何らかの連結の手段を、スリーブと保持プレートの双方に設けてやればよい。
【0021】
とはいえ、本発明は梁スリーブ施工用のみならず、床、壁スリーブ施工用としても、保持プレートを広くスリーブ工事全般に応用したいという意図があり、耐衝撃性を重視している。したがって、本発明はスリーブと保持プレートとの連結の手段を、耐衝撃性向上の観点から、突起と溝の噛み合わせ方式、あるいは、溝どうしの噛み合わせ方式、あるいは、ねじの噛み合わせ方式を主に念頭に置いて考案されたものである。すなわち、面接触可能な噛み合わせを実現できる突起と溝、あるいは溝と溝、あるいは雄ねじと雌ねじ等を、スリーブと保持プレートの双方に形成することが不可欠な条件である。したがって、スリーブの側面部に孔を設け、保持プレートの外周側面部に板バネ式突起を設けてはめ合わせる、孔と板バネ式突起のはめ合わせ方式は、面接触での噛み合わせの実現が困難であり、本発明のスリーブと保持プレートとの連結の手段としては適さないといえる。また、ねじの噛み合わせ方式は、全方位の耐衝撃性に優れているという利点はあるが、保持プレートに螺旋状の溝を形成できる程度の厚さが必要であり、保持プレートをできるだけ薄く製作したいという意図がある本発明においては、突起と溝の噛み合わせ方式、あるいは溝どうしの噛み合わせ方式に比べて勝るとは言い難い。
【0022】
保持プレートは外周側面部に溝や突起、ねじ等を形成できる程度の厚さがあり、それがスリーブと噛み合わさったときに内面から働いて、スリーブの横ずれ防止に強固な力を発揮する。したがって、生コンクリート打設時の衝撃や振動に耐えられる。生コンクリート打設後、型枠が解体されると、保持プレートは固定釘と共に型枠から自然と外れて、スリーブと一体となって躯体上に残る。したがって、保持プレートを後からわざわざ型枠材から外すような手間がかからない。また保持プレートは、スリーブとの連結を解除して簡単に取り外すことができる。そのとき固定釘も一緒に除去される。よって、保持プレートを使い回すことができて経済的であるし、釘の後処理の問題も起こらない。
【0023】
請求項3に係るスリーブ保持機構は、保持プレートを互いに色の異なる合成樹脂で製作し、保持プレートを配管配線系統別に色分けして、配筋前に型枠のスリーブ取り付け位置に固定具で固定することで、施工予定のスリーブがどの配管配線系統に属するものなのか、保持プレートが、施工予定のスリーブの種別情報を伝える墨出しの手段として使えるようにしたものであると共に、生コンクリート打設後、型枠が解体されたときに、スリーブと一体となって躯体側に残るようにした保持プレートが、配管配線工事におけるルート識別の手段としても使えるようにしたものであることを特徴としている。スリーブ工事で用いる保持プレートを、衛生、空調、消火、電気等の、配管配線系統別に色分けして施工することができ、それらは生コンクリート打設後、型枠をばらした時にスリーブと一体となって躯体内に残ることになるので、配管配線工事におけるルート識別が一目瞭然となる。またスリーブの墨出し時にも、保持プレートを型枠に打ちつけておくだけで、配管配線系統の種別情報を、文字ではなく色で伝えることができ、墨出しが視覚的に明瞭となる。
【0024】
本発明は、固定保持具を筒状ではなくプレート状にしたことで、梁施工用のみならず、床、壁施工用としても広く応用が利き、保持プレートを共通でスリーブ工事全般に使うことができる。よって需要が格段に見込まれ、保持プレートを例えば、ポリプロピレン、ABS等の熱可塑性樹脂で製作すれば、射出成形等の量産に向き、コストを大幅に削減できる。
【0025】
なお、本発明に係るスリーブ保持機構は、スリーブと保持プレートに設ける突起と溝を、円周上に等間隔で3か所以上設けたものである、あるいは、円周上の要所に3か所以上設けたものであることが望ましい。スリーブ工事では、特にスリーブ単体で取り付ける、床、壁用スリーブの場合、生コンクリート打設時にスリーブがバイブレーターのホースに絡まれて引っ張られたり、作業者に蹴飛ばされたりする等、横からの衝撃荷重を受けやすい。スリーブと保持プレートに設ける突起と溝が、円周上に等間隔で3か所以上、あるいは、円周上の要所に3か所以上の位置で互いに噛み合うことで、全方位の耐衝撃性を向上させることができる。
【0026】
また、保持プレートの要所に、一か所もしくは複数か所、固定具挿入孔を設けたものである、あるいは固定具挿入孔を設け、あらかじめ固定具を備え付けたものであることが望 ましい。例えば、固定具が釘である場合、釘孔を設けたり、そこにあらかじめ金属製釘、樹脂釘等を備え付けておくことで、作業性を向上させることができる。本発明において、固定具は主に釘を想定しているが、保持プレートを型枠にしっかりと固定でき、かつ型枠をばらす時に、型枠から自然と外れやすいという機能を備えたものであれば、任意で構わない。
【0027】
さらに、保持プレートの溝終点近傍に固定具挿入孔を設けたものである、あるいは固定具挿入孔を設け、あらかじめ固定具を備え付けたものであることが望ましい。本発明は、固定保持具が筒状ではなくプレート状なので、例えば、固定具が釘である場合、保持プレートを型枠に固定する際の釘の位置が非常に重要になってくる。すなわち、溝終点近傍で固定することで、衝撃による保持プレートの変形を極力抑えることができ、耐衝撃性を向上させることができる。また生コンクリート打設後、型枠をばらす時に、固定釘が型枠から自然と外れやすくなる。
【0028】
さらにまた、保持プレートの要所に一か所もしくは複数か所、開口部を設けたものである、あるいは、保持プレートがリング状のものであることが望ましい。生コンクリートを打設するにあたって、型枠を保持するためにセパが取り付けられるが、それがスリーブ内を貫通することもある。そのため保持プレートの要所に、一か所もしくは複数か所、開口部を設けてセパが通るようにしておいてもよい。それらの開口部は、保持プレートをスリーブから解除する時の手掛かりとしての役目も果たすし、設けることで材料の節約にもなる。
【0029】
保持プレートの形状は、スリーブの内部に収まる大きさで、スリーブ外端の内周側面部と連結できる機能を備えることができれば、任意で構わないが、特にリング状とすることで様々な利点が生まれる。例えば墨出し時にリング状の保持プレートを型枠に打ちつけておけば、鉄筋施工業者等に、円筒のスリーブがそこに取り付けられる予定である、というイメージを想起させやすくすると共に、スリーブの口径を視覚的に明瞭に伝えることができる。また特に大口径のスリーブに対応する保持プレートを製作する場合などは、リング状とすることで材料の大きな節約となる。さらにまた、開口部が大きい分セパを逃がす許容範囲が広くなり、施工しやすくなる。
【0030】
加えて、保持プレートの中央部分に開口部を設け、さらにその開口部には、保持プレートからその中心部に伸びる板状部材が設けてあり、その先端近傍はくり抜かれて、その中心が保持プレートの中心と一致するようになっており、墨合わせ孔としての機能を果たすようにしたものであることが望ましい。墨出し時に、スリーブの中心墨さえ出せば、あとはそれに墨合わせ孔を合わせて、保持プレートを打ちつけておくだけで墨出しが完了する。また、保持プレートの中心近傍の視界が最大限に確保されているので、墨合わせ作業がしやすい。
【0031】
求項3記載のスリーブ保持機構において、保持プレートを固定保持具に置き換えたものであってもよい。固定保持具の形状は、スリーブの内部に収まる大きさで、スリーブ外端の内周側面部と回転方式の噛み合わせの手段によって連結したり連結を解除したりできる機能を備えることができれば、プレート状、筒状、円柱状等、任意で構わない。
【0032】
本発明においては、固定保持具をプレート状にすることが、破損リスク低減、あるいは、耐衝撃性向上の観点から、最も汎用性に富むスリーブの施工方法であると考えている。しかし、固定保持具が他の形状、例えば、筒状、円柱状等であっても、互いに色の異なる合成樹脂で製作し、配管配線系統別に色分けして施工できるようにすることが、現場において有用であることに変わりはない。スリーブ工事に用いる梁、床、壁のすべての固定保持具が色分けされて施工されることが望ましいことである。現場で使われるスリーブのすべてが、どの配管配線系統に属するものなのかが一目で分かれば、各施工業者が配管配線工事を円滑に進めてゆく上での手助けとなる。それは現場全体の利益に適うものである。
【0033】
請求項に係るスリーブの施工方法は、請求項1~のいずれかの項記載のスリーブ保持機構を用いたものであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0034】
本発明に係るスリーブ保持機構を用いれば、スリーブを型枠の所定の位置に正確に容易に固定できるようになる。躯体上の釘の後処理の問題が起こらなくなる。保持プレートあるいは固定保持具が配管配線工事におけるルート識別の役割を果たし、施工イメージがしやすくなる。スリーブの墨出しの手間が簡略化されると共に、スリーブの施工予定情報を統一的で明瞭に伝達できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】本発明を実施するための形態を示すスリーブの斜視図である。
図2】同じく保持プレートの斜視図である。
図3】同じくスリーブ施工の説明図である。
図4】同じく梁スリーブの斜視図である。
図5】同じく梁スリーブ施工の手順説明図である。
図6】実施例1を示す保持プレートの斜視図である。
図7】実施例2を示す保持プレートの斜視図である。
図8】実施例3を示すスリーブの斜視図である。
図9】実施例3を示す保持プレートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明を実施するための形態を図1図5に基づいて説明する。図1の1は円筒状としたスリーブを示している。スリーブ1の外端内周側面部には3個の突起2を等間隔でそれぞれ設けている。図2の3は円盤状とした保持プレートを示している。保持プレート3の外周側面部には3か所の切欠き部4を等間隔でそれぞれ設けている。さらに切欠き部4から続く円弧状の溝5がそれぞれ設けてあり、溝導入部5aを介してスリーブ1の突起2と噛み合わせられるようになっている。一方、保持プレート3の中心には釘孔6が設けてある。
【0037】
図3はスリーブ1と保持プレート3を用いた、床・壁スリーブ取り付け工事の施工方法を示している。まず型枠7に鉄筋が組まれる前に墨出しし、保持プレート3を釘孔6を介して釘8で型枠7に打ちつけて固定しておく。次に鉄筋が組まれたら、保持プレート3の溝導入部5aにスリーブ1の突起2がはまり込むようにする。さらに溝終点5bに向かってスリーブ1を回転させることで、突起2と溝5が噛み合い連結が完了する。
【0038】
図4の9はスライド式の梁スリーブを示している。梁スリーブ9は、内筒9a、外筒9bから成り、互いに組み合わされてスライドし伸縮することができる。内筒9a、外筒9bの外端内周側面部にはそれぞれ3個の突起2が等間隔で設けてあり、スリーブ1と同様にして、保持プレート3と連結することができる。
【0039】
図5は実際の梁スリーブ取り付け工事の施工手順を示したものである。保持プレート3を2枚用いて施工する。図5のA~Fで順を追って説明すると、
A. 梁型枠10のスリーブ取り付け位置に墨出しし、梁鉄筋構造体11が組まれる前に、2枚の保持プレート3a、3bをそれぞれ釘8a、8bで固定する。
B. 梁型枠10上部に梁鉄筋構造体11が組まれたら、梁スリーブ9をその内部に仮固定する。
C. 梁スリーブ9が梁鉄筋構造体11と共に梁型枠10内に落とし込まれたら、仮固定を解除して引き伸ばし、内筒9a、外筒9bの突起2が保持プレート3a、3bの溝導入部5aにそれぞれはまり込むようにする。
D. 内筒9a、外筒9bをそれぞれ保持プレート3a、3bの溝終点5bに向かって回転し、連結が完了する。
E. 生コンクリート打設後、梁型枠10が解体されると、保持プレート3a、3bは釘8a、8bと共に梁型枠10から外れ、内筒9a、外筒9b内に残る。
F. 保持プレート3a、3bの溝導入部5aが内筒9a、外筒9bの突起2と一致するように回転して連結を解除し、梁スリーブ9から保持プレート3a、3bを取り外す。そのとき釘8a、8bも一緒に取り除かれる。
【実施例1】
【0040】
実施例1を図6に基づいて説明する。実施例1のものにおいては、保持プレート3の中央部分に開口部13を設けている。さらに開口部13には保持プレート3からその中心部に伸びる板状部材14が設けてあり、その先端近傍は円形にくり抜かれて、その中心が保持プレート3の中心と一致するようになっており、墨合わせ孔15としての機能を果たす。3か所ある溝終点5b近傍には釘孔6がそれぞれ設けてある。型枠を保持するためのセパがスリーブ内を貫通する場合、切欠き部4や開口部13を介してセパを逃がすことができる。
【実施例2】
【0041】
実施例2を図7に基づいて説明する。実施例2のものにおいては、保持プレート3はリング状のものとしている。開口部13が大きい分、セパを逃がす許容範囲が広くなる。また材料の節約にもなるので大口径のスリーブ工事に用いたときには経済的である。3か所ある溝終点5b近傍には、円柱状の釘受け座16と、その中心及び保持プレート3を貫通する釘孔6がそれぞれ設けてあり、そこに釘8が備え付けられている。
【実施例3】
【0042】
実施例3を図8図9に基づいて説明する。実施例3のものにおいては、図8のようにスリーブ1に設ける突起2を幅広にして、耐衝撃性をより向上させたものとしている。それに伴い保持プレート3も、図9のように切欠き部4を幅広にしている。ただし、型枠に固定する側の面は、保持プレート3を切欠かずに残して、生コンクリート等の侵入を極力抑えるようにしてある。スリーブ1は亜鉛鋼板を加工して製作している。3か所ある突起2は、突起2と突起支持片17を一体に成形した亜鉛鋼板製のL字状部材18を、スリーブ1外周側面部より突起はめ込み孔19を介してはめ込み、スポット溶接を要所に施して形成している。突起2の厚さは1mm程度であるが、亜鉛鋼板製であるため十分な強度を実現できている。これにより保持プレート3に設ける溝5の厚さも1mm程度で済み、保持プレート3の厚さは6mm程度で仕上がっている。この厚さにより、作業者に足で引っ掛けられたり蹴飛ばされたりして破損してしまうリスクを低減でき、保持プレート3が梁、床、壁のすべてのスリーブ工事で実用可能である。保持プレート3はポリプロピレン製で、多少弾性変形することで衝撃を吸収できるようになっている。
【0043】
スリーブ1に設ける突起2の成形方法は、前述のようにスリーブ1と突起2を亜鉛鋼板製の別部材として製作した後、一体化して形成してもよいし、張り出し成形加工等で直接スリーブ1に突出させてもよい。また、スリーブ1と突起2を一体にした形状で亜鉛鋼板を打ち抜き、その後、曲げ加工や各種の成形加工、スポット溶接等の諸工程を施して形成してもよい。あるいは、突起2を合成樹脂で製作し、突起はめ込み孔19を介してスリーブ1にはめ込んだり、接着したりして形成してもよい。スリーブ1の材質は前述のように亜鉛鋼板製でもよいし、硬質ポリ塩化ビニル製などのスリーブ工事に適したものであれば任意で構わない。
【符号の説明】
【0044】
1 スリーブ
2 突起
3,3a,3b 保持プレート
4 切欠き部
5 溝
5a 溝導入部
5b 溝終点
6 釘孔
7 型枠
8,8a,8b 釘
9 梁スリーブ
9a 内筒
9b 外筒
10 梁型枠
11 梁鉄筋構造体
12 コンクリート躯体
13 開口部
14 板状部材
15 墨合わせ孔
16 釘受け座
17 突起支持片
18 L字状部材
19 突起はめ込み孔
20 スポット溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9