(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】地盤施工機における制御方法および地盤施工機
(51)【国際特許分類】
E02D 3/12 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
E02D3/12 102
(21)【出願番号】P 2018218134
(22)【出願日】2018-11-21
【審査請求日】2021-08-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】390025759
【氏名又は名称】株式会社ワイビーエム
(74)【代理人】
【識別番号】100093687
【氏名又は名称】富崎 元成
(72)【発明者】
【氏名】平川 真吾
(72)【発明者】
【氏名】林 弘行
【合議体】
【審判長】前川 慎喜
【審判官】有家 秀郎
【審判官】佐藤 史彬
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-202027(JP,A)
【文献】特開平11-13054(JP,A)
【文献】特開2012-21275(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に硬化材の通路を備えるとともに先端部近傍に硬化材を噴射する噴射ノズル(81)を備えたロッド(8)と、
前記ロッド(8)を中心軸回りに回転および回動させる回転駆動部(6)と、
前記ロッド(8)を中心軸方向に移動させる上下移動部(5)と、
前記ロッド(8)の中心軸方向の
前記ロッド(8)および前記噴射ノズル(81)の位置を検出する上下位置検出器と、
前記ロッド(8)の中心軸方向の位置を制御する昇降制御部(41)とを備え、地盤中に地盤改良体を造成するための地盤施工機(1)における制御方法であって、
前記ロッド(8)を前記地盤改良体の下端位置まで下降させる手順と、
前記ロッド(8)を前記地盤改良体の下端位置から、順次上昇させて所定間隔毎の目標位置に停止させる手順と、
前記ロッド(8)の目標位置での停止時に、停止指令から実際に前記ロッドが停止するまでの移動距離を前回制動距離として記憶する手順と、
前記ロッド(8)の次の目標位置での停止時に、次の目標位置から前記前回制動距離だけ手前の位置で停止指令を出力する手順と有する地盤施工機における制御方法。
【請求項2】
請求項1に記載した地盤施工機における制御方法であって、
前記地盤施工機(1)は、
前記ロッド(8)の中心軸回りの
前記ロッド(8)および前記噴射ノズル(81)の角度位置を検出する角度位置検出器と、
前記ロッド(8)の中心軸方向の角度位置を制御する回転制御部(42)とを備えたものであり、
前記ロッド(8)を所定の目標角度位置まで回動させて停止させる手順と、
前記ロッド(8)の目標角度位置での停止時に、停止指令から実際に前記ロッドが停止するまでの移動角度を前回制動角度として記憶する手順と、
前記ロッド(8)の次の目標角度での停止時に、次の目標位置から前記前回制動角度だけ手前の位置で停止指令を出力する手順とを有する地盤施工機における制御方法。
【請求項3】
請求項2に記載した地盤施工機における制御方法であって、
前記地盤改良体の造成工程に関する複数の設定条件やパラメータをまとめて造成パターンとして複数記憶させる手順と、
複数種類の前記造成パターンを造成深度に応じて自動的に切り換えて前記地盤改良体の造成を行う手順とを有する地盤施工機における制御方法。
【請求項4】
内部に硬化材の通路を備えるとともに先端部近傍に硬化材を噴射する噴射ノズル(81)を備えたロッド(8)と、
前記ロッド(8)を中心軸回りに回転および回動させる回転駆動部(6)と、
前記ロッド(8)を中心軸方向に移動させる上下移動部(5)と、
前記ロッド(8)の中心軸方向の
前記ロッド(8)および前記噴射ノズル(81)の位置を検出する上下位置検出器と、
前記ロッド(8)の中心軸方向の位置を制御する昇降制御部(41)とを備え、
前記昇降制御部(41)は、
前記ロッド(8)を前記地盤改良体の下端位置まで下降させる手順と、
前記ロッド(8)を前記地盤改良体の下端位置から、順次上昇させて所定間隔毎の目標位置に停止させる手順と、
前記ロッド(8)の目標位置での停止時に、停止指令から実際に前記ロッドが停止するまでの移動距離を前回制動距離として記憶する手順と、
前記ロッド(8)の次の目標位置での停止時に、次の目標位置から前記前回制動距離だけ手前の位置で停止指令を
出力する手順とを
実行するものである地盤施工機。
【請求項5】
請求項4に記載した地盤施工機であって、
前記ロッド(8)の中心軸回りの
前記ロッド(8)および前記噴射ノズル(81)の角度位置を検出する角度位置検出器と、
前記ロッド(8)の中心軸方向の角度位置を制御する回転制御部(42)とを有し、
前記回転制御部(42)は、
前記ロッド(8)を所定の目標角度位置まで回動させて停止させる手順と、
前記ロッド(8)の目標角度位置での停止時に、停止指令から実際に前記ロッドが停止するまでの移動角度を前回制動角度として記憶する手順と、
前記ロッド(8)の次の目標角度での停止時に、次の目標位置から前記前回制動角度だけ手前の位置で停止指令を出力する手順とを実行するものである地盤施工機。
【請求項6】
請求項5に記載した地盤施工機であって、
前記地盤改良体の造成工程に関する複数の設定条件やパラメータをまとめて造成パターンとして複数記憶する記憶手段(43)と、
複数種類の前記造成パターンを造成深度に応じて自動的に切り換える制御部(4)とを有する地盤施工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロッド先端部の噴射ノズルから地盤中に固化材(グラウト)を高圧噴射して地盤改良体を造成する地盤施工機および地盤施工機における制御方法に関し、さらに詳しくは、ロッド停止位置を正確に制御して高品質の地盤改良体を造成することが可能な地盤施工機および地盤施工機における制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、比較的軟弱な地盤中にロッドを進入させ、ロッド先端部の噴射ノズルから地盤中にスラリー状の硬化材(グラウト)を高圧噴射して地盤改良体を造成する工法が行われている。このような工法は高圧噴射工法、高圧噴射撹拌工法、ジェットグラウト工法などと呼ばれてている。
【0003】
この高圧噴射工法では、ロッドを造成しようとする地盤改良体の最下端位置まで下降させ、ロッド先端部の噴射ノズルから水平方向に硬化材を高圧噴射しながらロッドを回転させて地盤改良体の最下層を造成する。その後、ロッドを所定の寸法だけ上昇させて同様に地盤改良体の一段上の層を造成する。このように、ロッドを所定間隔毎に順次上昇させて全体が円柱状の地盤改良体を造成するのである。
【0004】
この高圧噴射工法としては下記の特許文献1のようなものがある。特許文献1には、噴射管から硬化材を高圧噴射するとともに噴射管を段階的に上昇させて地盤改良体を造成することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の特許文献1のような工法においては、噴射ノズルを地盤改良体の最下端の位置から所定の間隔で段階的に引き上げる必要がある。噴射管および噴射ノズルを上昇させて停止させる際に、上昇部材の慣性により、停止指令を出してから部材が完全に停止するまでにある所定の距離(以下、制動距離という)だけ上昇を続けることになる。この制動距離は地盤の状態、上昇部材の速度、制動能力などによっても変化し一定ではない。
【0007】
このため噴射ノズルの停止位置が本来停止させたい位置からずれてしまい、地盤改良体の強度や均一性等の品質に悪影響を与えてしまうという問題点があった。また、前述のように制動距離は様々な要因によって変化するため、停止指令を本来の停止位置より一定値だけずらして出すという方法によっても、停止位置のばらつきを完全になくすことはできなかった。
【0008】
これに対して、制動距離を極力小さくして噴射ノズルを目標位置に正確に停止させるために、目標位置直前で上昇部材の速度を十分に減速させた後、停止指令を発するという方法が考えられる。しかし、この方法では、毎回の停止のたびに減速によるタイムロスが発生しまい、全体の施工時間が増大して施工効率が悪化してしまうという問題点がある。
【0009】
そこで、本発明は、先端部に噴射ノズルを備えたロッドを地盤改良体の下端位置から、順次上昇させて所定間隔毎の目標位置に停止させる際に、地盤の状態、上昇部材の速度、制動能力などの影響を極力減少させて目標位置に正確に停止させることのできる地盤施工機およびその地盤施工機における制御方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明の地盤施工機における制御方法は、内部に硬化材の通路を備えるとともに先端部近傍に硬化材を噴射する噴射ノズルを備えたロッドと、前記ロッドを中心軸回りに回転および回動させる回転駆動部と、前記ロッドを中心軸方向に移動させる上下移動部と、前記ロッドの中心軸方向の前記ロッドおよび前記噴射ノズルの位置を検出する上下位置検出器と、前記ロッドの中心軸方向の位置を制御する昇降制御部とを備え、地盤中に地盤改良体を造成するための地盤施工機における制御方法であって、前記ロッドを前記地盤改良体の下端位置まで下降させる手順と、前記ロッドを前記地盤改良体の下端位置から、順次上昇させて所定間隔毎の目標位置に停止させる手順と、前記ロッドの目標位置での停止時に、停止指令から実際に前記ロッドが停止するまでの移動距離を前回制動距離として記憶する手順と、前記ロッドの次の目標位置での停止時に、次の目標位置から前記前回制動距離だけ手前の位置で停止指令を出力する手順と有するものである。
【0011】
また、上記の地盤施工機における制御方法において、前記地盤施工機は、前記ロッドの中心軸回りの前記ロッドおよび前記噴射ノズルの角度位置を検出する角度位置検出器と、前記ロッドの中心軸方向の角度位置を制御する回転制御部とを備えたものであり、前記ロッドを所定の目標角度位置まで回動させて停止させる手順と、前記ロッドの目標角度位置での停止時に、停止指令から実際に前記ロッドが停止するまでの移動角度を前回制動角度として記憶する手順と、前記ロッドの次の目標角度での停止時に、次の目標位置から前記前回制動角度だけ手前の位置で停止指令を出力する手順とを有することが好ましい。
【0012】
また、上記の地盤施工機における制御方法において、前記地盤改良体の造成工程に関する複数の設定条件やパラメータをまとめて造成パターンとして複数記憶させる手順と、複数種類の前記造成パターンを造成深度に応じて自動的に切り換えて前記地盤改良体の造成を行う手順とを有することが好ましい。
【0013】
また、本発明の地盤施工機は、内部に硬化材の通路を備えるとともに先端部近傍に硬化材を噴射する噴射ノズルを備えたロッドと、前記ロッドを中心軸回りに回転および回動させる回転駆動部と、前記ロッドを中心軸方向に移動させる上下移動部と、前記ロッドの中心軸方向の前記ロッドおよび前記噴射ノズルの位置を検出する上下位置検出器と、前記ロッドの中心軸方向の位置を制御する昇降制御部とを備え、前記昇降制御部は、前記ロッドを前記地盤改良体の下端位置まで下降させる手順と、前記ロッドを前記地盤改良体の下端位置から、順次上昇させて所定間隔毎の目標位置に停止させる手順と、前記ロッドの目標位置での停止時に、停止指令から実際に前記ロッドが停止するまでの移動距離を前回制動距離として記憶する手順と、前記ロッドの次の目標位置での停止時に、次の目標位置から前記前回制動距離だけ手前の位置で停止指令を出力する手順とを実行するものである。
【0014】
また、上記の地盤施工機において、前記ロッドの中心軸回りの前記ロッドおよび前記噴射ノズルの角度位置を検出する角度位置検出器と、前記ロッドの中心軸方向の角度位置を制御する回転制御部とを有し、前記回転制御部は、前記ロッドを所定の目標角度位置まで回動させて停止させる手順と、前記ロッドの目標角度位置での停止時に、停止指令から実際に前記ロッドが停止するまでの移動角度を前回制動角度として記憶する手順と、前記ロッドの次の目標角度での停止時に、次の目標位置から前記前回制動角度だけ手前の位置で停止指令を出力する手順とを実行するものであることが好ましい。
【0015】
また、上記の地盤施工機において、前記地盤改良体の造成工程に関する複数の設定条件やパラメータをまとめて造成パターンとして複数記憶する記憶手段と、複数種類の前記造成パターンを造成深度に応じて自動的に切り換える制御部とを有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、以上のように構成されているので、以下のような効果を奏する。
【0017】
制動距離として前回の目標位置における実際の制動距離を使用することにより、地盤の状態が深度に応じて変化したとしても、直近の正確な制動距離により正確な目標位置にロッドを停止させることができる。これにより地盤改良体の強度や均一性等に係る品質を向上させることができる。
【0018】
制動角度として前回の目標角度位置における実際の制動角度を使用することにより、地盤の状態が深度に応じて変化したとしても、直近の正確な制動角度により正確な目標角度位置にロッドを停止させることができる。これにより地盤改良体の形状精度等に係る品質を向上させることができる。
【0019】
造成パターンを複数記憶させておき、それらの造成パターンを自動的に切り換えて施工することにより、地盤施工機の自動運転が可能となり、操作者の負担が大幅に軽減される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、本発明の地盤施工機1の全体構成を示す概略図である。
【
図2】
図2は、地盤改良体を造成する各工程を示す図である。
【
図3】
図3は、ロッド8の反転揺動動作を示す図である。
【
図4】
図4は、地盤改良体の造成パターンの切り換えを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明の地盤施工機1の全体構成を示す概略図である。地盤施工機1は、無端状の軌道帯輪を有し、自走可能な構成になっている。運転台2は地盤施工機1の操作者が搭乗する空間である。運転台2の内部には各種の表示パネル、操作パネル、操作スイッチ等が設置されており、地盤中に地盤改良体を造成するための各種操作が可能となっている。
【0022】
また、運転台2の内部には、外部とのデータ通信が可能なデータ通信部が設けられており、無線通信やインターネットを介して各種データの送受信が可能となっている。これにより、地盤施工機1の操作者が機外から各種条件や工程の設定、地盤施工機1の各種操作等を行うことが可能である。また、地盤施工機1が施工中の各工程の状態を、操作者が機外からモニターし施工状態を監視することが可能である。
【0023】
リーダー3はロッド8を支持し案内するための支柱である。ロッド8は中空の二重管からなる部材であり、内部の中空部を通して地盤改良のための硬化材、および、地盤掘削・撹拌のための超高圧水が供給される。
【0024】
ロッド8はその中心軸が鉛直方向となるように支持されており、ロッド8の先端側(下方側)には噴射ノズル81,82が設けられている。噴射ノズル81からは硬化材が噴射可能であり、噴射ノズル82からは超高圧水が噴射可能となっている。硬化材と超高圧水は、ロッド8の中心軸方向とほぼ垂直な方向(ほぼ水平方向)に噴射される。なお、硬化材としては、セメントミルク等が使用される。
【0025】
リーダー3を地盤に対して垂直な状態として、リーダー3上を上下方向に移動可能に上下移動部5が設けられており、上下移動部5には油圧モータ等による回転駆動部6が固定配置されている。回転駆動部6はロッド8を回転駆動するためのものである。回転駆動部6はロッド8を中心軸回りの正逆いずれの方向にも回転駆動することができる。また、回転駆動部6はロッド8を中心軸回りの所定の角度範囲で反転揺動させるように駆動することができる。回転駆動部6にはロッド8の回転角度位置を検出するための角度位置検出器(図示せず)が配置されている。角度位置検出器としては油圧モータ等に設けられたエンコーダ等が利用される。
【0026】
上下移動部5は、図示しない駆動機構によりリーダー3上を上下方向に移動することができる。上下移動部5が移動されれば、回転駆動部6とともにロッド8も同じ量だけ移動される。上下移動部5には、ロッド8の中心軸方向の位置を検出する上下位置検出器(図示せず)が配置されている。
【0027】
地盤施工機1には、上下移動部5および回転駆動部6の駆動制御を行うための制御部4が設けられている。制御部4には、ロッド8の中心軸方向の移動および位置の制御を行う昇降制御部41と、ロッド8の回転駆動および所定角度範囲の反転揺動駆動の制御を行う回転制御部42とが含まれている。
【0028】
次に、地盤施工機1を使用して地盤中に地盤改良体を造成する際の各工程について説明する。
図2は、地盤改良体を造成する各工程を示す図である。まず、
図2(a)に示すように、ロッド8の下端部が地盤改良体の下端位置に相当する位置となるようにロッド8を下降させる。次に、
図2(b)に示すように、噴射ノズル81から硬化材を噴射させ、噴射ノズル82からは超高圧水を噴射させて噴射テストを行う。この噴射テストは、それぞれの噴射流体が所定の圧力および流量に達するか否かをテストするものである。
【0029】
次に、
図2(c)に示すように、硬化材と超高圧水を噴射させながらロッド8を所定時間回転駆動し、地盤改良体の第1層を造成する。第1層の造成時間が経過したら、
図2(c)に示すように、ロッド8をステップ長Lだけ上昇させ、次の第2層の造成を開始する。このように、地盤改良体は、ロッド8を段階的に上昇させながら、順次各層の改良体を造成する。地盤改良体の全ての層の造成が完了すれば、
図2(d)に示すように、硬化材と超高圧水の噴射を停止してロッド8を地盤改良体の上方に上昇させる。
【0030】
このように、地盤改良体の造成には、ロッド8の上昇と停止が繰り返される。なお、地盤改良体の長さ(改良長)をKL、全ステップ回数をNとすれば、1ステップの長さ(ステップ長)Lは次式で表される。
L=KL/N
【0031】
ロッド8をステップ長Lだけ上昇させて目標位置に停止させる際に、上昇部材の慣性により、停止指令を出してから部材が完全に停止するまでにある所定の距離(以下、制動距離という)だけ上昇を続けることになる。この制動距離は地盤の状態、上昇部材の速度、制動能力などによっても変化し一定ではない。このため、目標位置でロッド8の停止指令を出したのでは制動距離だけ行き過ぎてしまう。
【0032】
また、前述のように制動距離は様々な要因によって変化するため、停止指令を本来の停止位置より一定値だけずらして出すという方法によっても、停止位置のばらつきを完全になくすことはできない。噴射ノズルの停止位置が本来の位置からずれてしまうと、地盤改良体の強度や均一性等の品質に悪影響を与えてしまうという問題点がある。
【0033】
そこで、本発明においては、以下に説明するような手順に従うことにより、ロッド8を目標位置に正確に停止させることができるようになったものである。なお、以下の手順は昇降制御部41において実行される。まず、ロッド8を目標深度(地盤改良体の下端位置に相当する位置)まで下降させ地盤改良体の第1層を造成する。第1層の造成時間が経過したら、ロッド8をステップ長Lだけ上昇させて第2層の目標位置に停止させる。その際、制動距離として初期値を設定し、目標位置より制動距離だけ手前で停止指令を発する。
【0034】
制動距離の初期値は、上昇部材の質量および速度、制動能力などの地盤施工機1固有の値と、地盤の状態としては推測値などを参考に適宜の値を設定する。第2層の目標位置をM1、制動距離の初期値をB0、停止指令を発する位置(以下、停止指令位置という)をS1とすると、停止指令位置S1は次式で表される。
S1=M1-B0
そして、ロッド8が実際に停止した位置がT1であったとする。目標位置M1における実際の制動距離B1は、次式によって計算される。
B1=T1-S1
そして、この実際の制動距離B1を前回制動距離として記憶する。
【0035】
第2層の造成時間が経過したら、ロッド8をステップ長Lだけ上昇させて第3層の目標位置に停止させる。その際、目標位置より前回制動距離だけ手前で停止指令を発する。第3層おける各位置を目標位置M2、前回制動距離B1、停止指令位置S2、停止位置T2とすると、停止指令位置S2、目標位置M2における実際の制動距離B2は、次式によって計算される。
S2=M2-B1
B2=T2-S2
そして、実際の制動距離B2を前回制動距離として記憶する。
【0036】
以下、同様に第4層、第5層、第6層・・・の目標位置に停止させ各層の造成を行うことができる。各層での停止指令は目標位置より前回制動距離だけ手前で発せられる。以上の手順によって地盤改良体を造成することにより、制動距離として前回の目標位置における実際の制動距離が使用されるので、地盤の状態が深度に応じて変化したとしても、直近の正確な制動距離により正確な目標位置に停止させることができる。これにより地盤改良体の強度や均一性等に係る品質を向上させることができる。
【0037】
次に、ロッド8の揺動動作の制御について説明する。ロッド8先端部の噴射ノズル81から硬化材を噴射させ、ロッド8を一方向に均一に回転させて断面円形の円柱状の地盤改良体を造成することができる。しかし、このような円柱状の地盤改良体ではなく、断面形状が扇形や長方形の改良体が要求される場合がある。このような断面非円形の地盤改良体を造成するために、噴射ノズル81から硬化材を噴射させながらロッド8を反転揺動させる。
【0038】
図3は、ロッド8の反転揺動動作を示す図である。ロッド8は、中心軸回りの所定の角度範囲で反転揺動するように回転駆動部6によって駆動することができる。揺動の起点である角度0度から正方向、負方向にそれぞれ揺動角度を設定することができる。
図3では-60度~+60度の範囲で反転揺動動作を行う場合を示している。まず、硬化材の噴射方向が0度から+60度となるまでロッド8を正方向に揺動させ、+60度に達したら揺動を停止して、次に噴射方向が-60度となるまで負方向に揺動させる。-60度に達したら揺動を停止して、再び噴射方向が+60度となるまで正方向に揺動させる。このような反転揺動動作を繰り返す。
【0039】
このような反転揺動動作においても、前述のようなロッド8の段階的上昇動作と同様な問題が発生する。ロッド8を回動させて目標角度位置で停止させる際に、回動部材の慣性により、停止指令を出してから部材が完全に停止するまでにある所定の角度(以下、制動角度という)だけ回動を続けることになる。この制動角度は地盤の状態、回動部材の回転速度、制動能力などによっても変化し一定ではない。このため、目標角度位置でロッド8の停止指令を出したのでは制動角度だけ行き過ぎてしまう。
【0040】
また、前述のように制動角度は様々な要因によって変化するため、停止指令を本来の停止角度位置より一定値だけずらして出すという方法によっても、停止角度位置のばらつきを完全になくすことはできない。噴射ノズルの停止角度位置が本来の位置からずれてしまうと、地盤改良体の形状精度等の品質に悪影響を与えてしまうという問題点がある。
【0041】
そこで、本発明においては、以下に説明するような手順に従うことにより、ロッド8を目標角度位置に正確に停止させることができるようになったものである。なお、以下の手順は回転制御部42において実行される。まず、反転揺動動作においてロッド8を正方向に回動させ正方向の目標角度位置に停止させる。その際、制動角度として初期値を設定し、目標角度位置より制動角度だけ手前で停止指令を発する。
【0042】
制動角度の初期値は、回動部材の慣性モーメントおよび回転速度、制動能力などの地盤施工機1固有の値と、地盤の状態としては推測値などを参考に適宜の値を設定する。正方向の目標角度位置をMp、制動角度の初期値をBz、停止指令を発する角度位置(以下、停止指令角度位置という)をSpとすると、停止指令角度位置Spは次式で表される。
Sp=Mp-Bz
そして、ロッド8が実際に停止した角度位置がTpであったとする。目標角度位置Mpにおける実際の制動角度Bpは、次式によって計算される。
Bp=Tp-Sp
そして、この実際の制動角度Bpを前回制動角度として記憶する。
【0043】
次に、ロッド8を負方向に回動させ負方向の目標角度位置に停止させる。その際、制動角度として前回制動角度を設定し、目標角度位置より前回制動角度だけ手前で停止指令を発する。負方向側での目標角度位置をMm、停止指令角度位置をSm、実際の停止角度位置をTmとする。前回制動角度はBpであるから、停止指令角度位置Sm、目標角度位置Mmにおける実際の制動角度Bmは、次式によって計算される。
Sm=Mm+Bp
Bm=Sm-Tm
なお、負方向側での角度位置は負の値となるので、数式の符号が正方向側とは変化している。また、制動角度Bmに関してもBmが正値となるよう数式の符号が選択されている。そして、この実際の制動角度Bmを前回制動角度として記憶する。
【0044】
次に、ロッド8を再び正方向に回動させ正方向の目標角度位置に停止させる。その際、制動角度として前回制動角度を設定し、目標角度位置より前回制動角度だけ手前で停止指令を発する。正方向側での目標角度位置Mpにおける前回制動角度はBmであり、正方向側での実際の停止角度位置をTpとすれば、正方向側での停止指令角度位置Sp、正方向側での実際の制動角度Bpは、次式によって計算される。
Sp=Mp-Bm
Bp=Tp-Sp
そして、この実際の制動角度Bpを前回制動角度として記憶する。
【0045】
以下、同様に正方向の目標角度位置と負方向の目標角度位置の範囲で順番に反転揺動を繰り返す。こような反転揺動動作は繰り返しの回数が予め設定されている。揺動回数が設定値に達するとその層の造成を終了してロッド8をステップ長だけ上昇させ、1段階上の層の造成に移行する。
【0046】
上述のように、反転揺動動作の正方向、負方向どちらの目標角度位置においても、停止指令は目標角度位置より前回制動角度だけ手前で発せられる。以上の手順によって地盤改良体を造成することにより、制動角度として前回の目標角度位置における実際の制動角度が使用されるので、地盤の状態が深度に応じて変化したとしても、直近の正確な制動角度により正確な目標角度位置に停止させることができる。これにより地盤改良体の形状精度等に係る品質を向上させることができる。
【0047】
次に、地盤施工機1の自動運転について説明する。前述のように、地盤施工機1の運転台2内部には各種の表示パネル、操作パネル、操作スイッチ等が設置されており、地盤中に地盤改良体を造成するための各種操作が可能となっている。地盤改良体の造成工程に関しては多数の設定条件やパラメータが必要となり、それらを全て設定するのは手間と時間のかかる作業となる。
【0048】
そこで、造成工程に関する複数の設定条件やパラメータをまとめて造成パターンとして記憶させておくと便利である。それらの造成パターンをパターン1,パターン2,パターン3・・・として複数記憶させておき、地盤改良体の要求仕様や地盤条件に応じて適切な造成パターンを選択するようにすれば、造成工程の設定作業が大幅に簡素化される。
【0049】
図4は、地盤改良体の造成パターンの切り換えを示す図である。地盤改良体の下端の深度をL0、上端の深度をL3として、それらの中間の深度L1,L2で造成パターンを自動的に切り換える。すなわち、深度L0~L1ではパターン1の造成工程で造成を行い、深度L1~L2ではパターン2の造成工程で造成を行い、深度L2~L3ではパターン3の造成工程で造成を行う。このような造成パターンの自動切り換えは制御部4によって行われる。
【0050】
造成工程を切り換える深度L0,L1,L2,L3と実行する造成パターン名は制御部4の工程メモリ43に記憶させておく。また、造成パターンとしてのパターン1,パターン2,パターン3・・・の設定内容も制御部4の工程メモリ43に記憶させておく。地盤施工機1の操作者は、運転台2内部の操作パネル等から各造成パターンの設定や変更を行うことができ、造成パターンの切換深度や実行する造成パターン名の設定や変更も行うことができる。造成パターンを自動的に切り換えて施工することにより、地盤施工機1の自動運転が可能となり、操作者の負担が大幅に軽減される。
【0051】
また、このような地盤施工機1の運転に関わる各種設定や変更は、操作者が地盤施工機1の機外から行うこともできる。そして、地盤施工機1が施工中の各工程の状態を、操作者が機外からモニターし施工状態を監視することが可能である。このような機外からの操作やモニターのための端末は、タブレット端末等の携帯端末、スマートグラスと呼ばれる人体装着型コンピュータ、AR(拡張現実)モニターなどが利用できる。スマートグラスやARモニターでは実際の現実映像とコンピュータ出力画像とを重ね合わせて表示可能であるため、施工状態や装置の状態を実際に見ながら各種操作や各種設定などを行うことができる。
【0052】
以上のように、本発明によれば、制動距離として前回の目標位置における実際の制動距離を使用することにより、地盤の状態が深度に応じて変化したとしても、直近の正確な制動距離により正確な目標位置にロッドを停止させることができる。これにより地盤改良体の強度や均一性等に係る品質を向上させることができる。
【0053】
反転揺動動作を行う場合は、制動角度として前回の目標角度位置における実際の制動角度を使用することにより、地盤の状態が深度に応じて変化したとしても、直近の正確な制動角度により正確な目標角度位置にロッドを停止させることができる。これにより地盤改良体の形状精度等に係る品質を向上させることができる。さらに、造成パターンを複数記憶させておき、それらの造成パターンを自動的に切り換えて施工することにより、地盤施工機の自動運転が可能となり、操作者の負担が大幅に軽減される。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明によれば、正確な目標位置および目標角度位置にロッドを停止させることにより、造成する地盤改良体の品質を向上させることができ、高品質の地盤改良体を造成可能な地盤施工機を提供することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 地盤施工機
2 運転台
3 リーダー
4 制御部
5 上下移動部
6 回転駆動部
8 ロッド
41 昇降制御部
42 回転制御部
43 工程メモリ
81,82 噴射ノズル