(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ワイヤ駆動マニピュレータ
(51)【国際特許分類】
A61B 1/008 20060101AFI20231226BHJP
A61B 1/005 20060101ALI20231226BHJP
G02B 23/24 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61B1/008 512
A61B1/005 522
G02B23/24 A
(21)【出願番号】P 2022036300
(22)【出願日】2022-03-09
(62)【分割の表示】P 2017037714の分割
【原出願日】2017-02-28
【審査請求日】2022-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】田中 悠輔
【審査官】永田 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特許第7039174(JP,B2)
【文献】特開平2-177931(JP,A)
【文献】特表2012-518447(JP,A)
【文献】米国特許第5531664(US,A)
【文献】米国特許第11617497(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 1/00
G02B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部と、
第1の結合部を有する遠位湾曲部と、
前記遠位湾曲部と前記基部の間に設けられ、第2の結合部を有する追従湾曲部と、
前記追従湾曲部と前記基部の間に設けられた長尺湾曲部と、
前記第1の結合部に一方の端部が結合され、前記遠位湾曲部および前記追従湾曲部および前記長尺湾曲部を挿通し、他方の端部が前記基部に案内された遠位用の可撓性線状部材と、
前記第2の結合部に一方の端部が結合され、前記遠位湾曲部は挿通せずに前記追従湾曲部および前記長尺湾曲部を挿通し、他方の端部が前記基部に案内された追従用の可撓性線状部材と、
前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材をそれぞれ駆動する駆動部と、を備え、
前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材の駆動により前記遠位湾曲部および前記追従湾曲部がそれぞれ湾曲するワイヤ駆動マニピュレータであって、
前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材を含む前記追従湾曲部は、前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材を含む前記長尺湾曲部と比較して曲げ剛性が低く、
前記遠位用の可撓性線状部材を含み前記追従用の可撓性線状部材を含まない前記遠位湾曲部は、前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材を含む前記追従湾曲部と比較して曲げ剛性が低く、
前記遠位湾曲部および前記追従湾曲部の外側表面を被覆する外皮、および前記遠位湾曲部および前記追従湾曲部の内側表面を被覆する内皮をさらに有するワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項2】
前記遠位湾曲部および前記追従湾曲部は、前記遠位用の可撓性線状部材の長手方向に連なった複数の環状部材と、前記複数の環状部材を連結する連結部材と、をそれぞれ含み、
前記遠位湾曲部および前記追従湾曲部は、前記複数の環状部材のうち、最も前記基部に近い側に設けられた環状部材よりも前記基部に対して遠位に設けられた環状部材が、前記第1の結合部および第2の結合部をそれぞれ有する請求項1に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項3】
前記長尺湾曲部は筒状部材を含み、
前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材が前記筒状部材の軸方向の壁面に沿って前記筒状部材を挿通する請求項1または2に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項4】
前記筒状部材は、前記軸方向に延在する複数の管腔を有する多腔管からなり、
前記管腔を前記遠位用の可撓性線状部材または前記追従用の可撓性線状部材が挿通する請求項3に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項5】
前記筒状部材は、主管と前記主管に固定された案内部材を有し、前記案内部材を前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材が挿通する請求項3に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項6】
前記案内部材は、前記主管の空洞部の外に設けられた請求項5に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項7】
前記案内部材は、前記主管に対して固定された請求項6に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項8】
前記案内部材は、前記主管に対して摺動可能に構成された請求項6に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項9】
3本の遠位用の可撓性線状部材が前記第1の結合部に結合されていて、前記3本の遠位用の可撓性線状部材の駆動により前記遠位湾曲部が湾曲する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項10】
2本の遠位用の可撓性線状部材が前記第1の結合部に結合されていて、前記2本の遠位用の可撓性線状部材の駆動により前記遠位湾曲部が湾曲する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項11】
3本の追従用の可撓性線状部材が前記第2の結合部に結合されていて、前記3本の追従用の可撓性線状部材の駆動により前記追従湾曲部が湾曲する請求項1乃至10のいずれか1項に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項12】
2本の追従用の可撓性線状部材が前記第2の結合部に結合されていて、前記2本の追従用の可撓性線状部材の駆動により前記追従湾曲部が湾曲する請求項1乃至10のいずれか1項に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【請求項13】
前記遠位用の可撓性線状部材が挿通する方向に沿って、前記遠位湾曲部の長さと前記追従湾曲部の長さの和より前記長尺湾曲部の長さのほうが長尺である請求項1乃至12のいずれか1項に記載のワイヤ駆動マニピュレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内視鏡可撓部等に利用可能なワイヤ駆動マニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
内視鏡装置の分野において、被検者の体内に挿入される先端部分に設けられた湾曲部の湾曲を操作可能な可撓性内視鏡が知られている。特許文献1には、ワイヤ等の制御素子を収容する内腔を有する構造が開示されている。特許文献1において、湾曲部には金属製の脊椎状器具が接続され、湾曲部の姿勢を基端側において制御する構造開示されている。また、特許文献2には、湾曲部と可撓管とを接続する管状の口金部の構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2007-527296
【文献】特開2007-298815
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したように、可撓管と湾曲部とが機械的に結合されていると、湾曲部を湾曲させるためにワイヤを押し引きした際の力が湾曲部及び口金を介して可撓管に伝わる。これにより可撓管が変形するので、これに伴って可撓管先端側の姿勢も変化してしまう。その結果、可撓管の先端側に設けられた湾曲部の位置や姿勢も変化してしまうので、姿勢を制御する際の誤差となってしまう。
【0005】
本発明は上記問題に鑑みてなされたもので、湾曲部の姿勢制御の精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の側面であるワイヤ駆動マニピュレータは、
基部と、
第1の結合部を有する遠位湾曲部と、
前記遠位湾曲部と前記基部の間に設けられ、第2の結合部を有する追従湾曲部と、
前記追従湾曲部と前記基部の間に設けられた長尺湾曲部と、
前記第1の結合部に一方の端部が結合され、前記遠位湾曲部および前記追従湾曲部および前記長尺湾曲部を挿通し、他方の端部が前記基部に案内された遠位用の可撓性線状部材と、
前記第2の結合部に一方の端部が結合され、前記遠位湾曲部は挿通せずに前記追従湾曲部および前記長尺湾曲部を挿通し、他方の端部が前記基部に案内された追従用の可撓性線状部材と、
前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材をそれぞれ駆動する駆動部と、を備え、
前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材の駆動により前記遠位湾曲部および前記追従湾曲部がそれぞれ湾曲するワイヤ駆動マニピュレータであって、
前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材を含む前記追従湾曲部は、前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材を含む前記長尺湾曲部と比較して曲げ剛性が低く、
前記遠位用の可撓性線状部材を含み前記追従用の可撓性線状部材を含まない前記遠位湾曲部は、前記遠位用の可撓性線状部材および前記追従用の可撓性線状部材を含む前記追従湾曲部と比較して曲げ剛性が低く、
前記遠位湾曲部および前記追従湾曲部の外側表面を被覆する外皮、および前記遠位湾曲部および前記追従湾曲部の内側表面を被覆する内皮をさらに有するワイヤ駆動マニピュレータである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、湾曲部の姿勢を制御する際の精度向上に有利なワイヤ駆動マニピュレータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第一実施例に係るワイヤ駆動マニピュレータの構成を示す図である。
【
図5】ワイヤ駆動マニピュレータの線状部材を駆動した際の変形を示す図である。
【
図6】複数の先端湾曲部を有するワイヤ駆動マニピュレータの構成を示す図である。
【
図7】第二実施例に係るワイヤ駆動マニピュレータの構成を示す図である。
【
図9】第二実施例に係るワイヤ駆動マニピュレータの構成の一例を示す図である。
【
図10】第二実施例に係るワイヤ駆動マニピュレータの構成の一例を示す図である。
【
図11】第三実施例に係るワイヤ駆動マニピュレータの構成の一例を示す図である。
【
図12】先端部外皮及び先端部内皮の断面図を示す図である。
【
図13】先端部外皮及び先端部内皮の断面図を示す図である。
【
図14】第四実施例に係るワイヤ駆動マニピュレータの構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面等を参照して説明する。
【0010】
(第一実施例)
まず、本発明の実施形態に係るワイヤ駆動マニピュレータについて説明する。
図1(a)は、本実施例に係るワイヤ駆動マニピュレータ1の構成を示す斜視図である。
図1(b)は、
図1(a)に示すワイヤ駆動マニピュレータの先端部の構成をより詳細に説明するための図である。
【0011】
ワイヤ駆動マニピュレータ1は、ワイヤの駆動により変形可能な先端湾曲部2、可撓性を有し、外力により受動的に変形可能な長尺湾曲部3、および基部4されたから構成されている。
【0012】
先端湾曲部2は、
図1(b)に示すように、複数の可撓性の線状部材5、先端部材6、複数の案内部材7を備える。複数の案内部材7および先端部材6は線状部材5を介して積層され、連結されている。線状部材5は、第1の部材である先端湾曲部2の長手方向に沿って延在し、一方の端部が先端部材6に結合部を介して結合される。結合部は、接着、ピン止め、ねじ止め等により、線状部材5を先端部材6に結合させる。線状部材5の他方の端部は、基部4と結合される。可撓性線状部材である線状部材5には、ピアノ線、ステンレス線やニッケル‐チタン合金線等の金属線を用いることができる。先端部材6は、先端湾曲部2の長手方向に沿った軸を中心とする環状形状(ここでは円環)をしており、複数の線状部材5が結合されている。結合の手段は、接着、ピン止め、ねじ止め等、どのような手段であってもよい。つまり、先端湾曲部2は、線状部材5を連結部材として、環状部材である先端部材6および複数の案内部材7が積層され、このうちのもっとも基端側にある環状部材よりも遠位端側にある先端部材6に、線状部材5が結合された構成となっている。
【0013】
図2に示すように、各案内部材7は先端部材6と同様に環状形状をしており、線状部材5を案内するための案内孔Gが形成されている。案内孔Gは、線状部材5が通るよう配されており、線状部材5のうち、少なくとも一つは、固定孔Fにおいて接着、ピン止め、ねじ止め等の手段で案内部材7と固定され、残りの線状部材5は、案内孔Gに対して摺動可能となっている。固定孔Fは、線状部材5が挿通されることで線状部材5と固定されるように、案内孔Gよりも小さな径の開口としてもよい。案内部材7は、案内孔Gを介して線状部材5と接触するため、摩擦係数の小さい樹脂などの部材が用いられる。先端湾曲部2において先端部材6および案内部材7はともに環状形状をしているため、空洞部である内腔9を利用して、先端湾曲部2内に撮像素子やカテーテル等のツールを通すことが可能となっている。案内孔Gと固定孔Fは、内腔9を貫く方向の軸を中心として同心円上に設けられ、特に、等角度間隔で設けられることが好ましい。
【0014】
第2の部材でもある本実施例に係る長尺湾曲部3は、長尺湾曲部3の長手方向を中心軸とする筒状形状をした多腔管である多腔案内管8を含んで構成される。
図3に、多腔案内管8の長手方向と直交する面における多腔案内管8の断面図を示す。多腔案内管8は、中心に内腔9を有しており、先端湾曲部2と同様にツールを通すことが可能となっている。また、多腔案内管8は、内腔9を規定する筒状部材の壁面を軸方向に延在する複数の案内管腔10が形成されている。案内管腔10には、線状部材5が挿通され、線状部材5と摺動可能に構成される。これにより、案内管腔10の中を通る線状部材5が長手方向に駆動された際に、線状部材5が座屈することなく力を伝達する機能を有する。多腔案内管8は、案内管腔10を介して線状部材5と接触するため、摩擦係数の小さい樹脂などの部材が用いられる。また、外力により湾曲変形することが要求されるため可撓性の高い材料が用いられる。長尺湾曲部3は、第1の部材である先端湾曲部2とは、機械的には結合されておらず、互いに独立した関係にある。また、長尺湾曲部3は、線状部材5とも独立しており、上述の案内管腔10を線状部材5が摺動する。
【0015】
図4に基部4の構造を示す。基部4には、多腔案内管8が接着、ピン止め、ねじ止め等の手段で固定されている。基部4には、線状部材5が接続される駆動部11が配置されている。駆動部は、不図示の制御部により制御される。
図4では、駆動部11は二つのみ図示されているが、駆動される各線状部材5に対して、ひとつの駆動部11が配置されており、各線状部材5を図中の左右方向に押し引き駆動することが可能である。
【0016】
次に、線状部材5を駆動した際のワイヤ駆動マニピュレータ1の湾曲動作について説明する。駆動部11を用いて各線状部材5を押し引き駆動すると、線状部材5は長尺湾曲部3内の多腔案内管8に設けられた案内管腔10内を、座屈することなく摺動する。この結果、先端湾曲部2の区間内における各線状部材5の長さに差が生じる。線状部材5は先端部材6に結合されているため、各線状部材5の先端湾曲部2における長さの差は先端湾曲部2の曲げ方向の力となり、
図5に示すように先端湾曲部2を湾曲させることが可能となる。
【0017】
図5は、変形した状態のワイヤ駆動マニピュレータ1を側面から見た図である。駆動部11が線状部材5を駆動することによって、先端湾曲部2および長尺湾曲部3はそれぞれ円弧状に変形して、曲率半径がそれぞれr1、r2となるとする。先端湾曲部2は、長尺湾曲部3よりも変形しやすいことが望ましく、r1とr2の間には、
r1<r2 (式1)
の関係が成り立つように構成される。
図5の例では、先端湾曲部2および長尺湾曲部3が円弧状に変形する例を示したが、必ずしも円弧状のみに変形する場合のみではない。その際には、先端湾曲部2における曲率分布の平均ρ1、長尺湾曲部3における曲率分布の平均ρ2が、
ρ1>ρ2 (式2)
の関係が成り立つように先端湾曲部2と長尺湾曲部3を設計すればよい。つまり、先端湾曲部2を湾曲させるための線状部材5を駆動した結果、長尺湾曲部3も湾曲するが、この線状部材5の駆動に伴う先端湾曲部2の平均曲率の変化量が、長尺湾曲部3の平均曲率の変化量よりも大きくなるように設計すればよい。
【0018】
図1(b)においては、3つの線状部材5が用いられているため、先端湾曲部2は任意の方向へと湾曲させることが可能であるが、線状部材5の数はこれに限られない。たとえば、線状部材5を2つのみとして、1つの平面内のみで湾曲させてもよいし、逆に線状部材5を4つ以上配置して冗長性を持たせてもよい。
【0019】
また、各線状部材5には駆動部11がそれぞれ結合されているが、平面内で動かす際には少なくとも1つ、立体的な駆動をさせる際には少なくとも2つの駆動部11があれば十分である。たとえば、3本の線状部材5を設けつつ、立体的な駆動をさせることを考えると、3本の線状部材5を駆動しなくてもよいため、線状部材5を基部4に固定するのみでもよい。基部4に、線状部材5が固定される固定部を設けてもよいし、基部4とは別に、支持部材を設けてもよい。固定方法は接着であったり、フック等の突起に線状部材5を引っ掛けたり、どのような方法であってもよい。また、
図1(b)において先端湾曲部2はひとつの湾曲部のみであったが、
図6に示すように、複数の先端湾曲部2a、2bを有してもよい。本例では、各先端湾曲部につき、3本の線状部材5が対応付けられている。各先端湾曲部に対応付けられた3本の線状部材のうち1本は、対応付けられた先端湾曲部を構成する案内部材7に結合されるとともに、対応付けられていない先端湾曲部の先端部材および案内部材に対しては、案内孔と摺動可能に構成される。残る2本の線状部材は、対応付けられた先端湾曲部の先端部材のみと結合され、他の先端湾曲部の先端部材および案内部材に対しては案内孔と摺動可能に構成される。また、3つ以上の先端湾曲区間部2を有してもよい。
【0020】
本実施例におけるワイヤ駆動マニピュレータ1の構造では、先端湾曲部2と長尺湾曲部3はお互いに直接固定されることなく、互いに独立している。特許文献2のように、先端湾曲部2と長尺湾曲部3が口金等により直接固定された場合には、線状部材5を押し引き駆動すると、線状部材5にかかる圧縮力または引張力が先端湾曲部2を介して長尺湾曲部3へと伝わるので、長尺湾曲部3も湾曲してしまう。その結果、長尺湾曲部3の先端の姿勢が変化してしまい、先端湾曲部2の姿勢推定や制御をおこなう際の誤差となってしまう。従って、本実施例で示すように先端湾曲部2と長尺湾曲部3の間で力が伝わらない構造にすることで、先端湾曲部2の先端形状の姿勢推定、制御精度を向上させることが可能となる。
【0021】
(第二実施例)
本発明の第二実施例に係るワイヤ駆動マニピュレータ1について
図8から
図12を用いて説明する。本実施例は、長尺湾曲部3が、複数の部品から構成される点で第一実施例とは相違する。
【0022】
図7に示すように、長尺湾曲部3は主管12及び長尺部案内部材13を含んで構成される。
図8は、長尺部案内部材13を含む断面を示しており、主管12は多腔案内管8と同様に中心に内腔9を持つ管状の構造をしている。長尺部案内部材13には、線状部材5を案内するための案内孔5が形成されており、線状部材5は案内孔を挿通するように配されている。長尺部案内部材13によって、各線状部材5の位置関係を維持した状態で先端湾曲部2に変位を伝達することが可能となる。言い換えると、第一実施例では、多腔案内管8の内腔9を規定する壁面内に設けられていた案内孔が、本実施例では長尺部案内部材13に置き換えられたと考えることができる。長尺部案内部材13は、線状部材5を押し引き駆動する際に線状部材5が座屈せず案内できるように所定の間隔をおいて主管12に接着、ピン止め、ねじ止め等の手段で固定されている。長尺部案内部材13は案内孔を介して線状部材5と接触するため、摩擦係数の小さい樹脂などの部材が用いられる。
【0023】
図8においては、長尺湾曲部3は主管12及び長尺案内部材13を含む構成であったが、
図9においては各長尺部案内部材13の間に線状部材5を案内するための案内管14が配置される。線状部材5は案内管14の中を通り摺動するように配されている。案内管14を配置することによって、長尺部案内部材13の数を減らすことが可能となる。案内管14は例えば、主管12に接着等の手段で固定されている。案内管14は線状部材5と接触するため、摩擦係数の小さい樹脂などの部材が用いられる。
【0024】
図10(a)は、案内管14を主管に対して固定する別の手段を示す図である。
図9においては、案内管14は主管12に固定されていたが、
図10(a)に示す構成では、案内管14が案内管保護部材15によって固定されている。
【0025】
図10(b)に、案内管保護部材15を含む断面の断面図を示す。ここでは、主管12の周囲に配された案内管14は案内管保護部材15によって主管12の周囲に固定され、各案内管14の位置関係が変化しないように各案内管14を保持する。この場合、案内管14は主管12に必ずしも接着されている必要はなく、案内管14と主管12は主管12の軸方向に摺動可能であってもよい。案内管保護部材15は例えば可撓性のある熱収縮性材料や粘着性の保護材を用いて、案内管14を主管12に圧着されてもよい。また、
図10(a)においては、長尺部案内部材13の間には、案内管保護部材15がそれぞれ一つ配置されているが、長尺案内部材13の長手方向の長さがより短い複数の案内管保護部材15を複数配置してもよい。
【0026】
図10において、長尺部案内部材13と案内管14の間に微小な間隙が設けられている。この構成によれば、長尺湾曲部3が外力等により湾曲した際に、長尺部案内部材13と案内管14が接触することで案内管14が圧縮力を受けて変形することを防ぐことが可能となる。
【0027】
本実施例で示した各構成によっても、第一実施例と同様の効果が得られる。
【0028】
(第三実施例)
本発明の第三実施例に係るワイヤ駆動マニピュレータ1について、
図11から
図13を用いて説明する。
図11(a)に示すワイヤ駆動マニピュレータ1は、先端湾曲部2を覆う先端部外皮16及び先端部内皮17を備える。
図11(b)は、
図11(a)に示すワイヤ駆動マニピュレータ1の断面図である。
【0029】
先端部外皮16および先端部内皮17は線状部材5、先端部材6、案内部材7、腔型案内管8の先端部の外側および内側を覆っており、ワイヤ駆動マニピュレータ1の保護、摩擦低減等の機能を有している。先端部外皮16及び先端部内皮17は、例えば蛇腹状の樹脂構造のように可撓性を有する構造であったり、ゴムのように低弾性材料であったりする。先端部外皮16及び先端部内皮17は先端部材6、案内部材7の少なくとも1か所以上において固定されている。ここで、先端部外皮16及び先端部内皮17は先端部材6、案内部材7と一体的に成型されていてもよく、さらには先端部外皮16と先端部内皮17が一体的に成型されていても良い。この場合、一体化によって湾曲部を薄肉化することが可能となる。また、先端部外皮16および先端部内皮17は、先端湾曲部に対して着脱可能であってもよい。また、先端部外皮16及び先端部内皮17は先端湾曲部2の湾曲動作を阻害することのないように、線状部材5、先端部材6、案内部材7からなる構造よりも曲げ剛性が十分に小さいことが望ましい。先端部外皮16及び先端部内皮17は多腔案内管8の先端部に摺動可能な状態で接触している。これにより、先端湾曲部2を湾曲させた際にも先端湾曲部2から長尺湾曲部3に湾曲時の反力の伝達を低減することが可能となり、湾曲時の駆動精度を向上させることができる。
【0030】
上記の例では、先端部外皮16および先端部内皮17は先端湾曲部2に固定されていたが、先端部外皮16および先端部内皮17を長尺湾曲部3に固定して、先端湾曲部2に対して摺動可能な状態で接触させてもよい。
【0031】
図12には、先端部外皮16及び先端部内皮17を
図11(b)とは異なる形状とした例を示す。先端部外皮16及び先端部内皮17は可撓性を有する弾性材料により形成され、先端湾曲部2と長尺湾曲部3の境界部分において蛇腹構造となっており、この境界部分における剛性がほかの部分よりも低くなるように設計されている。これにより、先端湾曲部2から長尺湾曲部3への反力の伝達を低減することが可能となる。先端湾曲部2と長尺湾曲部3の境界部分は、蛇腹構造に限らず、境界部分よりも剛性の低くなるその他のいかなる構造としてもよいし、境界部分を、それ以外の部分を構成する材料とは異なる材料を用いて形成することで、剛性を低くしてもよい。さらに、線状部材5、先端部材6、案内部材7からなる先端湾曲部の構造よりも、先端湾曲部2と長尺湾曲部3の境界部分における先端部外皮16及び先端部内皮17の剛性が十分に低い場合には、多腔案内管8の先端部に先端部外皮16及び先端部内皮17を接着等の手段で固定してもよい。
【0032】
図13(a)は、先端部外皮16、先端部内皮17に加えて長尺部外皮18及び長尺部内皮19を備えたワイヤ駆動マニピュレータ1の構成を示す断面図である。
図13(b)は
図13(a)中、矢印で示す面の断面を表す。
図13(a)に示すように、多腔案内管8の保護、摩擦低減等の機能を有する長尺部外皮18及び長尺部内皮19が設けられている。
図13(b)に示すように、先端部外皮16と長尺部外皮18、先端部内皮17と長尺部内皮19はそれぞれ多腔案内管8の先端部近傍において重なるように設けられ、境界部分が露出しないようになっている。先端部外皮16と長尺部外皮18、先端部内皮17と長尺部内皮19はそれぞれ摩擦係数の低い材質が用いられており、お互いに摺動可能となっている。もしくは、前述のように先端部外皮16及び先端部内皮17の剛性が十分に低い場合には、先端部外皮16と長尺部外皮18、先端部内皮17と長尺部内皮19がそれぞれ接着等の手段で固定されていてもよい。また、先端部材6、案内部材7、先端部外皮16、先端部内皮17、長尺部外皮18、長尺部内皮19は、その機能を奏する限り一体形成されていてもよい。
図13(a)においては、多腔案内管8を有するワイヤ駆動マニピュレータ1における例が図示されているが、多腔案内管8ではなく第二実施例に示すような主管12、長尺部案内部材13、案内管14、案内管保護部材15からなる構造にも適用可能である。
【0033】
本実施例に示す構成によっても、第一実施例と同様の効果が得られる。
【0034】
(第四実施例)
第一実施例から第三実施例においては、内視鏡等の器具を例とした実施例について述べたが、本発明におけるワイヤ駆動マニピュレータ1の用途は内視鏡等の器具に限定されるものではない。本実施例は、ワイヤ駆動マニピュレータを用いたロボットハンドである。
図14に、本実施例に係るロボットハンド20を示す。ロボットハンド20は、基部4に複数のワイヤ駆動マニピュレータ1が設けられた構成であり、複数のワイヤ駆動マニピュレータ1を駆動することにより、対象物を把持したり操作したりする。ワイヤ駆動マニピュレータ1の先端には、撮像素子や、圧力、温度等を感知する感知器を設け、対象物を観察しながら把持したり操作したりすることが可能である。本実施例に係るロボットハンド20に搭載されるワイヤ駆動マニピュレータ1は、第一乃至第三実施例で説明したワイヤ駆動マニピュレータのいずれの構成も利用できる。また、複数のワイヤ駆動マニピュレータ1は、基部4に対して着脱可能に構成され、用途に応じて交換できるようにしてもよい。
【0035】
以上では、具体的な例を示して本発明の実施形態を説明したが、本発明は、これらの実施形態に限定されず、本発明の技術思想を逸脱しない範囲で、種々の変更ならびに、複数の実施例を組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 ワイヤ駆動マニピュレータ
2 先端湾曲部
3 長尺湾曲部
4 基部
5 線状部材
6 先端部材
7 案内部材
8 多腔案内管
9 内腔
10 案内管腔
11 駆動部
12 主管
13 長尺部案内部材
14 案内管
15 案内管保護部材
16 先端部外皮
17 先端部内皮
18 長尺部外皮
19 長尺部内皮
20 ロボットハンド