(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】光学ガラス、精密プレス成形用プリフォーム、及び光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/078 20060101AFI20231226BHJP
C03C 3/062 20060101ALI20231226BHJP
C03C 3/064 20060101ALI20231226BHJP
C03C 3/068 20060101ALI20231226BHJP
C03C 3/085 20060101ALI20231226BHJP
C03C 3/087 20060101ALI20231226BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20231226BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20231226BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20231226BHJP
C03C 3/095 20060101ALI20231226BHJP
C03C 3/097 20060101ALI20231226BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C03C3/078
C03C3/062
C03C3/064
C03C3/068
C03C3/085
C03C3/087
C03C3/089
C03C3/091
C03C3/093
C03C3/095
C03C3/097
G02B1/00
(21)【出願番号】P 2018247001
(22)【出願日】2018-12-28
【審査請求日】2021-10-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】391009936
【氏名又は名称】株式会社住田光学ガラス
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(72)【発明者】
【氏名】藤野 真臣
【合議体】
【審判長】日比野 隆治
【審判官】宮澤 尚之
【審判官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-107426(JP,A)
【文献】特開2008-254975(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C1/00-14/00
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で
SiO
2:30%以上60%以下、
B
2O
3:0%以上15%以下、
Li
2O:0%以上10%以下、
Na
2O:0%以上10%以下、
K
2O:0%以上15%以下、
Al
2O
3:0%以上7%以下、
CaO:0%以上15%以下、
BaO:23.00%以上40%以下、
Nb
2O
5:0%以上5%以下、
ZrO
2:0%以上7%以下、
TiO
2:0%以上4.5%以下、
Y
2O
3:0%以上5%以下、
La
2O
3:0%以上5%以下、
Gd
2
O
3
:0%以上5%以下、
を含有する組成を有し、
ZnO及びSrOを含有せず、
Li
2O、Na
2O及びK
2Oの合計の含有量が12%以上35%以下であり、
CaO及びBaOの合計の含有量が
23%以上55%以下であり、
d線(587.562nm)に関する相対屈折率の温度係数(40~60℃)が-5.0×10
-6℃
-1以上3.0×10
-6℃
-1以下であ
り、
屈折率(nd)が1.55以上1.63以下であり、且つ、アッベ数(νd)が50以上65以下である、ことを特徴とする、光学ガラス。
【請求項2】
ガラス転移温度(Tg)が540℃以下である、請求項
1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする、精密プレス成形用プリフォーム。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする、光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラス、精密プレス成形用プリフォーム、及び光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光学機器の普及及び発展に伴い、様々な特性を有する光学ガラスが求められている。特に、近年は、車載用の光学機器、監視カメラ等を念頭においた、製品の小型化及び高性能化を達成することが可能な光学ガラスの需要が一層高まっている。
【0003】
製品の小型化及び高性能化の達成に際しては、高屈折率のガラス(例えば、屈折率(nd)が1.80以上のガラス)と、かかる高屈折率のガラスの光学特性を補填し得るガラスとを組み合わせることが肝要となっている。
【0004】
ここで、高屈折率のガラスは、一般に分散性が高く、色収差をもたらし易い傾向にあるため、通常は、分散性が低いガラスと組み合わせて色収差を補正することが必要である。しかし一方で、低分散性のガラスは、屈折率が低い傾向にあるため、小型化の達成には不利となることが多い。そこで、現状、高屈折率のガラスと組み合わせるガラスとしては、ある程度屈折率が高く且つ低分散性が保持されたガラス、言い換えれば、中屈折率低分散性の光学ガラス(屈折率(nd):約1.55~1.63、アッベ数(νd):約50~65)に、ニーズがある。
【0005】
また、プロジェクター及び車載用の光学機器などに使用される光学ガラス(レンズ)は、激しい環境温度の変化に晒されることがあるため、温度変化に対する結像等への悪影響が少ないことが望まれる。この点、上述した高屈折率のガラスは、温度に対する屈折率の変化量が正に大きい傾向にある。そのため、かかる高屈折率のガラスと組み合わせるガラスとしては、温度に対する屈折率の変化量が小さいか、或いは負に大きいものを選択し、屈折率の温度依存性を相殺する又はできるだけ抑制することが求められる。
【0006】
中屈折率低分散性の光学ガラスとしては、例えば、特許文献1に、SiO2-B2O3-Al2O3-ZnO-BaO-Li2O系の所定の組成を有し、屈折率(nd)が1.55~1.63、アッベ数(νd)が55~63の範囲の光学恒数を有する光学ガラスが開示されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の光学ガラスは、温度に対する屈折率の変化量が正に大きいため、高屈折率のガラスと組み合わせた場合に、温度変化に応じて結像性が大きく悪化する虞がある。
【0008】
一方、特許文献2は、SiO2、B2O3、La2O3を含有し、温度変化による性能劣化が少ない光学ガラスを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平10-194772号公報
【文献】特開2007-106611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献2に記載の光学ガラスは、高屈折率成分であるLa2O3及びGd2O3を多く含むため、屈折率(nd)が1.63より大きい。また、上述したLa2O3及びGd2O3は、難熔解性であるため、多量に配合した場合には、ガラスの熔融性及び耐失透性等が悪化する虞もある。
【0011】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、中屈折率低分散性である上、熔融性が良好であり、且つ、他のガラスと組み合わせたときに結像の温度依存性を抑制可能な光学ガラスを提供することを目的とする。また、本発明は、上述した光学ガラスを用いた精密プレス成形用プリフォーム、及び光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記目的を達成するため、鋭意検討を重ねた結果、SiO2及びBaOを基本組成とするとともに、Li2O、Na2O及びK2Oの合計の含有量並びにCaO及びBaOの合計の含有量の適正化を図り、更に、ZnO及びSrOを含有させないことにより、温度(T)に対する屈折率(n)の変化量(相対屈折率の温度係数(dn/dT))が小さくなるか、或いは負に大きくなって結像の温度依存性を抑制できる上、熔融性が良好な光学ガラスが得られることを見出した。
【0013】
即ち、本発明の光学ガラスは、質量%で
SiO2:30%以上60%以下、
B2O3:0%以上15%以下、
Li2O:0%以上10%以下、
Na2O:0%以上10%以下、
K2O:0%以上15%以下、
Al2O3:0%以上7%以下、
CaO:0%以上15%以下、
BaO:12%以上40%以下、
Nb2O5:0%以上5%以下、
ZrO2:0%以上7%以下、
TiO2:0%以上5%以下、
Y2O3:0%以上5%以下、
La2O3:0%以上5%以下、
を含有する組成を有し、
ZnO及びSrOを含有せず、
Li2O、Na2O及びK2Oの合計の含有量が12%以上35%以下であり、
CaO及びBaOの合計の含有量が13%以上55%以下であり、
d線(587.562nm)に関する相対屈折率の温度係数(40~60℃)が-5.0×10-6℃-1以上3.0×10-6℃-1以下である、ことを特徴とする。かかる光学ガラスは、中屈折率低分散性である上、熔融性が良好であり、且つ、他のガラスと組み合わせたときに結像の温度依存性を抑制可能である。
【0014】
本発明の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.55以上1.63以下であり、且つ、アッベ数(νd)が50以上65以下であることが好ましい。
【0015】
本発明の光学ガラスは、ガラス転移温度(Tg)が540℃以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の精密プレス成形用プリフォームは、上記の光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする。かかる精密プレス成形用プリフォームは、他のガラスととともに、結像の温度依存性が抑制された製品を得るために用いることができる。
【0017】
本発明の光学素子は、上記の光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする。かかる光学素子は、他のガラスと組み合わせて、結像の温度依存性が抑制された製品を得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、中屈折率低分散性である上、熔融性が良好であり、且つ、他のガラスと組み合わせたときに結像の温度依存性を抑制可能な光学ガラスを提供することができる。また、本発明によれば、上述した光学ガラスを用いた精密プレス成形用プリフォーム、及び光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、実施形態を用いて具体的に説明する。
【0020】
(光学ガラス)
本発明の一実施形態の光学ガラス(以下、「本実施形態の光学ガラス」と称することがある。)は、質量%で
SiO2:30%以上60%以下、
B2O3:0%以上15%以下、
Li2O:0%以上10%以下、
Na2O:0%以上10%以下、
K2O:0%以上15%以下、
Al2O3:0%以上7%以下、
CaO:0%以上15%以下、
BaO:12%以上40%以下、
Nb2O5:0%以上5%以下、
ZrO2:0%以上7%以下、
TiO2:0%以上5%以下、
Y2O3:0%以上5%以下、
La2O3:0%以上5%以下、
を含有する組成を有し、
ZnO及びSrOを含有せず、
Li2O、Na2O及びK2Oの合計の含有量が12%以上35%以下であり、
CaO及びBaOの合計の含有量が13%以上55%以下であり、
d線(587.562nm)に関する相対屈折率の温度係数(40~60℃)が-5.0×10-6℃-1以上3.0×10-6℃-1以下である、ことを特徴とする。
【0021】
なお、本実施形態の光学ガラスは、上述した成分以外のその他の成分(後述)を含んでもよい。但し、本実施形態の光学ガラスは、所望の光学恒数、熔融性の向上及び結像の温度依存性の抑制をより確実に発現させる観点から、上述した成分(SiO2、B2O3、Li2O、Na2O、K2O、Al2O3、CaO、BaO、Nb2O5、ZrO2、TiO2、Y2O3、La2O3)のみからなる組成を有することが好ましい。
ここで、「上述した成分のみからなる」とは、当該成分以外の不純物成分が不可避的に混入する、具体的には、不純物成分の割合が0.2質量%以下である場合を包含することとする。
【0022】
まず、本実施形態において、光学ガラスの組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。なお、成分に関する「%」表示は、特に断らない限り、質量%を意味するものとする。
【0023】
<SiO2>
SiO2は、本実施形態の光学ガラスにおける必須成分であり、ガラスの骨格となる網目構造を形成する主成分である。また、SiO2は、耐失透安定性及び化学的耐久性を高めることができる成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるSiO2の含有量が60%を超えると、屈折率の低下、熔融性の悪化、並びに、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)の上昇をもたらす。一方、光学ガラスにおけるSiO2の含有量が30%未満であると、化学的耐久性及び耐失透安定性の悪化をもたらす。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、SiO2の含有量を30%以上60%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるSiO2の含有量は、32%以上であることが好ましく、34%以上であることがより好ましく、また、58%以下であることが好ましく、56%以下であることがより好ましい。
【0024】
<B2O3>
B2O3は、本実施形態の光学ガラスにおいて、SiO2と同様にガラスの網目構造を形成する成分であるとともに、適量用いることにより、ガラスの均質化及び熔融性の向上に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるB2O3の含有量が15%を超えると、屈折率の低下、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)の上昇、並びに耐失透安定性の悪化をもたらす。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、B2O3の含有量を0%以上15%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるB2O3の含有量は、14.5%以下であることが好ましく、14%以下であることがより好ましい。
【0025】
<Li2O>
Li2Oは、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)の低下、熔融性の向上、並びに、相対屈折率の温度係数の低減に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるLi2Oの含有量が10%を超えると、化学的耐久性及び耐失透安定性の悪化をもたらす。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Li2Oの含有量を0%以上10%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるLi2Oの含有量は、9.5%以下であることが好ましく、9%以下であることがより好ましい。
【0026】
<Na2O>
Na2Oは、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)の低下、熔融性の向上、並びに、相対屈折率の温度係数の低減に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるNa2Oの含有量が10%を超えると、化学的耐久性及び耐失透安定性の悪化をもたらす。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Na2Oの含有量を0%以上10%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるNa2Oの含有量は、9.5%以下であることが好ましく、9%以下であることがより好ましい。
【0027】
<K2O>
K2Oは、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)の低下、熔融性の向上、並びに、相対屈折率の温度係数の低減に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるK2Oの含有量が15%を超えると、化学的耐久性及び耐失透安定性の悪化をもたらす。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、K2Oの含有量を0%以上15%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるK2Oの含有量は、14%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましい。
【0028】
<Li2O、Na2O及びK2Oの合計>
ここで、本実施形態の光学ガラスは、Li2O、Na2O及びK2Oの合計の含有量が12%以上35%以下であることを要する。上記合計の含有量が12%未満であると、熔融性の低下、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)の上昇、並びに、相対屈折率の温度係数の上昇をもたらす。一方、上記合計の含有量が35%を超えると、化学的耐久性及び耐失透安定性の悪化をもたらす。また、同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるLi2O、Na2O及びK2Oの合計の含有量は、12.5%以上であることが好ましく、13%以上であることがより好ましく、また、32%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましい。
【0029】
<Al2O3>
Al2O3は、Li2O及びNa2O等の酸化物とともに添加することで、ガラスの網目構造を形成し、ガラスの耐失透安定性及び化学的耐久性を高めることができる成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるAl2O3の含有量が7%を超えると、熔融性が悪化する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Al2O3の含有量を0%以上7%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるAl2O3の含有量は、6.5%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。
【0030】
<CaO>
CaOは、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)の低下、熔融性の向上、並びに、相対屈折率の温度係数の低減に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるCaOの含有量が15%を超えると、耐失透安定性が低下する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、CaOの含有量を0%以上15%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるCaOの含有量は、14%以下であることが好ましく、13%以下であることがより好ましい。
【0031】
<BaO>
BaOは、本実施形態の光学ガラスにおける必須成分であり、相対屈折率の温度係数の低減に有効な成分である。また、BaOは、屈折率の上昇及び熔融性の向上にも有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるBaOの含有量が40%を超えると、化学的耐久性及び耐失透安定性が低下する。一方、光学ガラスにおけるBaOの含有量が12%未満であると、屈折率の温度係数を効果的に低減することができない上、熔融性も悪化する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、BaOの含有量を12%以上40%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるBaOの含有量は、13%以上であることが好ましく、14%以上であることがより好ましく、また、38%以下であることが好ましく、36%以下であることがより好ましい。
【0032】
<CaO及びBaOの合計>
ここで、本実施形態の光学ガラスは、CaO及びBaOの合計の含有量が13%以上55%以下であることを要する。上記合計の含有量が13%未満であると、熔融性の低下、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)の上昇、並びに、相対屈折率の温度係数の上昇をもたらす。一方、上記合計の含有量が55%を超えると、化学的耐久性及び耐失透安定性の悪化をもたらす。また、同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるCaO及びBaOの合計の含有量は、13.5%以上であることが好ましく、14%以上であることがより好ましく、また、52%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0033】
<Nb2O5>
Nb2O5は、ガラスの屈折率の上昇、及び化学的耐久性の向上に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるNb2O5の含有量が5%を超えると、熔融性が悪下する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Nb2O5の含有量を0%以上5%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるNb2O5の含有量は、4.5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。
【0034】
<ZrO2>
ZrO2は、ガラスの屈折率の上昇、及び化学的耐久性の向上に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるZrO2の含有量が7%を超えると、熔融性が悪下する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、ZrO2の含有量を0%以上7%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるZrO2の含有量は、6.5%以下であることが好ましく、6%以下であることがより好ましい。
【0035】
<TiO2>
TiO2は、ガラスの屈折率の上昇、及び液相温度の低下に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるTiO2の含有量が5%を超えると、熔融性が悪下する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、TiO2の含有量を0%以上5%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるTiO2の含有量は、4.5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。
【0036】
<Y2O3>
Y2O3は、ガラスの屈折率の上昇、及び化学的耐久性の向上に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるY2O3の含有量が5%を超えると、熔融性が悪下する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、Y2O3の含有量を0%以上5%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるY2O3の含有量は、4.5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。
【0037】
<La2O3>
La2O3は、ガラスの屈折率の上昇、及び化学的耐久性の向上に有効な成分である。しかしながら、光学ガラスにおけるLa2O3の含有量が5%を超えると、熔融性が悪下する。そのため、本実施形態の光学ガラスにおいては、La2O3の含有量を0%以上5%以下の範囲とした。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスにおけるLa2O3の含有量は、4.5%以下であることが好ましく、4%以下であることがより好ましい。
【0038】
<ZnO(不含有成分)>
ZnOは、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)を低下させ得るものの、上述した成分を含有する光学ガラスでは、相対屈折率の温度係数を3.0×10-6℃-1以下に抑えることができない虞があることが判明した。そこで、本実施形態の光学ガラスは、ZnOを含有しないものとした。
ここで、本明細書において、ある成分について「含有しない」とは、当該成分を意図して含有させない、即ち、当該成分を実質的に含有しないことを意味する。
【0039】
<SrO(不含有成分)>
SrOは、ガラス転移温度(Tg)及び屈伏温度(At)を低下させ、相対屈折率の温度係数を低減するためには有効な成分である。しかしながら、市場で容易に入手可能なSrO原料には、不純物として、可視域に吸収を持つ、即ち、ガラスの着色を引き起こす遷移金属が一定程度含まれていることが多い。また、上記のようなSrO原料中の不純物を低減させるためには、多大なコストを要することとなる。よって、本実施形態の光学ガラスは、SrOを含有しないものとした。
【0040】
<その他の成分>
本実施形態の光学ガラスは、目的を外れない限り、上述した成分以外のその他の成分、例えば、MgO、Ga2O3、Sb2O3、Gd2O3、Bi2O3、GeO2、SnO2、P2O5、Ta2O5、MoO3、WO3などを少量(例えば、それぞれ5質量%以下となるような量で)含有することができる。
なお、本実施形態の光学ガラスは、環境への負荷及び人体への悪影響が高い成分、例えば、PbO、TeO2、As2O3、及びCdOを含有しないことが好ましい。
【0041】
次に、本実施形態の光学ガラスの諸特性について説明する。
【0042】
<屈折率(nd)及びアッベ数(νd)>
本実施形態の光学ガラスは、特定のニーズに応えるため、中屈折率低分散性であることが好ましい。より具体的に、本実施形態の光学ガラスは、屈折率(nd)が1.55以上1.63以下であり、且つ、アッベ数(νd)が50以上65以下であることが好ましい。また、本実施形態の光学ガラスの屈折率(nd)は、1.56以上であることがより好ましく、また、1.62以下であることがより好ましい。更に、本実施形態の光学ガラスのアッベ数(νd)は、51以上であることがより好ましく、53.5以上であることが更に好ましく、また、64以下であることがより好ましい。
なお、屈折率(nd)及びアッベ数(νd)は、実施例に記載の手順により測定することができる。また、本実施形態の光学ガラスの屈折率(nd)及びアッベ数(νd)の調整は、例えば、上述した各成分の含有量を、所定の範囲内において適宜調節することにより行うことができる。
【0043】
<相対屈折率の温度係数(dn/dT)>
本実施形態の光学ガラスは、d線(587.562nm)に関する相対屈折率の温度係数(40~60℃)が、-5.0×10-6℃-1以上3.0×10-6℃-1以下であることを要する。ここで、光学ガラスの成分組成を上述した通りとしつつ、上記温度係数を-5.0×10-6℃-1未満とすると、光学ガラスとしての最低限の化学的耐久性を担保することができない。また、光学ガラスの上記温度係数が3.0×10-6℃-1超であると、温度に対する屈折率の変化量が正に大きいため、他のガラスと組み合わせたときの結像の温度依存性を十分に抑制することができない。そして、本実施形態の光学ガラスの上記温度係数は、化学的耐久性を高める観点から、-4.0×10-6℃-1以上であることが好ましく、-3.5×10-6℃-1以上であることがより好ましい。また、本実施形態の光学ガラスの上記温度係数は、結像の温度依存性をより効果的に抑制する観点から、2.7×10-6℃-1以下であることが好ましく、2.5×10-6℃-1以下であることがより好ましい。
なお、d線(587.562nm)に関する相対屈折率の温度係数(40~60℃)は、実施例に記載の手順により測定することができる。また、本実施形態の光学ガラスの上記温度係数の調整は、例えば、上述した各成分の含有量を、所定の範囲内において適宜調節することにより行うことができる。
【0044】
<ガラス転移温度(Tg)>
本実施形態の光学ガラスは、ガラス転移温度(Tg)が540℃以下であることが好ましい。光学ガラスのガラス転移温度(Tg)が540℃以下であることで、軟化温度も低くなり、精密プレス成形をより容易に行うことができる。同様の観点から、本実施形態の光学ガラスのガラス転移温度(Tg)は、535℃以下であることがより好ましく、530℃以下であることが更に好ましい。
なお、ガラス転移温度(Tg)は、実施例に記載の手順により測定することができる。また、本実施形態の光学ガラスのガラス転移温度(Tg)の調整は、例えば、上述した各成分の含有量を、所定の範囲内において適宜調節することにより行うことができる。
【0045】
<光学ガラスの製造方法>
次に、本実施形態の光学ガラスの製造方法について説明する。
ここで、本実施形態の光学ガラスは、各成分の組成が上述した範囲を満足していればよく、その製造方法については特に限定されることなく、従来の製造方法に従って製造することができる。
例えば、まず、本実施形態の光学ガラスに含まれ得る各成分の原料として、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩などを所定の割合で秤量し、十分混合したものをガラス調合原料とする。次いで、この原料を、ガラス原料等と反応性のない熔融容器(例えば白金等の貴金属製の坩堝)に投入して、電気炉にて1000~1500℃に加熱して熔融する。その後、適時撹拌して均質化を図り、清澄化してから、適当な温度に予熱した金型内に鋳込んだ後、電気炉内で徐冷して歪みを取り除くことで、本実施形態の光学ガラスを製造することができる。なお、脱泡のため、ごく少量(例えば、光学ガラス中において1質量%未満となるような量)のSb2O3等の清澄剤を加えることができる。
【0046】
(精密プレス成形用プリフォーム)
以下、本発明の一実施形態の精密プレス成形用プリフォーム(以下、「本実施形態のプリフォーム」と称することがある。)を具体的に説明する。
精密プレス成形用プリフォーム(Precision press-molding preform)は、周知の精密プレス成形法に用いられる予備成形されたガラス素材であり、即ち、加熱して精密プレス成形に供されるガラス予備成形体を意味する。
【0047】
ここで、精密プレス成形とは、周知のようにモールドオプティクス成形とも呼ばれ、最終的に得られる光学素子の光学機能面を、プレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。なお、光学機能面とは、光学素子における、制御対象の光を屈折したり、反射したり、回折したり、入出射させたりする面を意味し、例えば、レンズにおけるレンズ面などが、この光学機能面に相当する。
【0048】
そして、本実施形態のプリフォームは、上述した光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする。このように、本実施形態のプリフォームは、素材が上述した光学ガラスであるため、他のガラス(例えば、高屈折率のガラス)ととともに、結像の温度依存性が抑制された製品を得るために用いることができる。なお、本実施形態のプリフォームは、所望の光学恒数をより確実に得る観点から、本発明の光学ガラスについて既述した、各成分の組成に関する必須要件を満たすことが好ましく、本発明の光学ガラスについて既述した、好ましいとされる各種要件を満たすことがより好ましい。
【0049】
本実施形態のプリフォームの作製方法としては、特に限定されない。ただし、本実施形態のプリフォームは、上記光学ガラスの優れた特質を活かして、次の作製方法により作製することが望ましい。
【0050】
第1のプリフォームの作製方法(「プリフォーム製法I」とする。)は、素材としての光学ガラスを熔融し、得られた熔融ガラスを流出して熔融ガラス塊を分離し、該熔融ガラス塊を冷却する過程で、プリフォームに成形する方法である。
【0051】
第2のプリフォームの作製方法(「プリフォーム製法II」とする。)は、素材としての光学ガラスを熔融し、得られた熔融ガラスを成形してガラス成形体を作製し、該成形体を加工して、プリフォームを得る方法である。
【0052】
プリフォーム製法I、IIとも、素材としての光学ガラスから均質な熔融ガラスを得る工程を含む点において、共通する。この工程では、例えば、所望の特性が得られるように調合して製造した光学ガラス原料を白金製の熔融容器内に入れ、加熱、熔融、清澄、均質化して均質な熔融ガラスを用意し、温度調整された白金又は白金合金製の流出ノズル或いは流出パイプから流出することができる。なお、光学ガラス原料を粗熔解してカレットを作製し、このカレットを調合して加熱、熔融、清澄、均質化して均質な熔融ガラスを得、上記流出ノズル或いは流出パイプから流出するようにしてもよい。
【0053】
ここで、小型のプリフォームや球状のプリフォームを作製する場合は、例えば、熔融ガラスを流出ノズルから所望質量の熔融ガラス滴として滴下し、それを金型等で受けてプリフォームに成形する方法を採用することができる。或いは、同じく所望質量の熔融ガラス滴を流出ノズルより液体窒素などに滴下してプリフォームを成形する方法を採用することができる。
一方、中大型のプリフォームを作製する場合は、例えば、流出パイプより熔融ガラス流を流下させ、熔融ガラス流の先端部をプリフォーム成形型等で受け、熔融ガラス流のノズルとプリフォーム成形型との間にくびれ部を形成した後、プリフォーム成形型を真下に急降下して、熔融ガラスの表面張力によってくびれ部にて熔融ガラス流を分離し、受け部材に所望質量の熔融ガラス塊を受けてプリフォームに成形する方法を採用することができる。
【0054】
なお、キズ、汚れ、シワ、表面の変質などがない滑らかな表面、例えば自由表面を有するプリフォームを得るためには、プリフォーム成形型などの上で熔融ガラス塊に風圧を加えて浮上させながらプリフォームに成形したり、液体窒素などの常温、常圧下では気体の物質を冷却して液体にした媒体中に熔融ガラス滴を入れてプリフォームに成形したりする方法などが用いられる。
【0055】
ここで、熔融ガラス塊を浮上させながらプリフォームに成形する場合、熔融ガラス塊には、ガス(浮上ガスという)が吹きつけられ、上向きの風圧が加えられることになる。この際、熔融ガラス塊の粘度が低すぎると、浮上ガスがガラス中に入り込み、プリフォーム中に泡となって残ってしまう。しかし、熔融ガラス塊の粘度を3~60dPa・sにすることにより、浮上ガスがガラス中に入り込むことなく、ガラス塊を浮上させることができる。
【0056】
プリフォームに浮上ガスが吹き付けられる際に用いられるガスとしては、空気、N2ガス、O2ガス、Arガス、Heガス、水蒸気等が挙げられる。また、風圧は、プリフォームが成形型表面等の固体と接することなく浮上できれば、特に制限はない。
【0057】
プリフォームより製造される精密プレス成形品(例えば、光学素子)は、レンズのように回転対称軸を有するものが多いため、プリフォームの形状も回転対称軸を有する形状が望ましい。具体例としては、球或いは回転対称軸を一つ備えるものを示すことができる。回転対称軸を一つ備える形状としては、前記回転対称軸を含む断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつもの、例えば上記断面において短軸が回転対称軸に一致する楕円を輪郭線とするものなどがあり、球を扁平にした形状(球の中心を通る軸を一つ定め、前記軸方向に寸法を縮めた形状)を挙げることもできる。
【0058】
プリフォーム製法Iでは、光学ガラスを塑性変形可能な温度域で成形するので、ガラス塊をプレス成形することによりプリフォームを得てもよい。その場合、プリフォームの形状を比較的自由に設定することができるので、目的とする精密プレス成形品の形状に近似させ、例えば、対向する面の一方を凸、他方を凹形状にしたり、両方を凹面にしたり、一方の面を平面、他方の面を凸面にしたり、一方の面を平面、他方の面を凹面にしたり、両面とも凸面にしたりすることができる。
【0059】
プリフォーム製法IIでは、例えば、熔融ガラスを鋳型に鋳込んで成形した後、成形体の歪をアニールによって除去し、切断又は割断を行って、所定の寸法、形状に分割し、複数個のガラス片を作製し、ガラス片を研磨して表面を滑らかにするとともに、所定の質量のガラスからなるプリフォームを得ることができる。このようにして作製したプリフォームの表面にも、炭素含有膜を被覆して使用することが好ましい。プリフォーム製法IIは、研削、研磨を容易にすることができる球状のプリフォーム、平板状のプリフォームなどの製造に好適である。
【0060】
次に、精密プレス成形による光学素子等の成形品の量産性を更に高める上から、より好ましいプリフォームについて説明する。
【0061】
本実施形態のプリフォームの製造においては、精密プレス成形におけるガラスの変形量を減少させることにより、精密プレス成形時のガラスと成形型の温度の低下、プレス成形に要する時間の短縮化、プレス圧力の低減などが可能になる。その結果、ガラスと成形型の成形面との反応性が低下し、精密プレス成形時に発生する不具合が低減され、量産性がより高まる。
【0062】
ここで、プリフォームを精密プレス成形してレンズを作製する場合における好ましいプリフォームは、互いに反対方向を向く被プレス面(精密プレス成形時に対向する成形型成形面でプレスされる面)を有するプリフォームであり、更に2つの被プレス面の中心を貫く回転対称軸を有するプリフォームがより好ましい。こうしたプリフォームのうち、メニスカスレンズの精密プレス成形に好適なものは、被プレス面の一方が凸面、他方が凹面、平面、前記凸面より曲率が小さいと凸面のいずれかであるプリフォームである。
【0063】
また、両凹レンズの精密プレス成形に好適なプリフォームは、被プレス面の一方が凸面、凹面、平面のいずれかであり、他方が凸面、凹面、平面のいずれかであるプリフォームである。
一方、両凸レンズの精密プレス成形に好適なプリフォームは、被プレス面の一方が凸面であり、他方が凸面又は平面であるプリフォームである。
【0064】
いずれの場合においても、プリフォームは、精密プレス成形品の形状により近似する形状のプリフォームであることが好ましい。
【0065】
なお、プリフォーム成形型を用いて熔融ガラス塊をプリフォームに成形する場合、前記成形型上のガラスの下面は、成形型における成形面の形状によって概ね定まる。一方、前記ガラスの上面は、熔融ガラスの表面張力とガラスの自重とによって定まる形状となる。ここで、精密プレス成形時におけるガラスの変形量を低減するには、プリフォーム成形型において成形中のガラスの上面の形状も制御する必要がある。熔融ガラスの表面張力とガラスの自重とによって定まるガラス上面の形状は、凸面状の自由表面となるが、上面を平面、凹面或いは前記自由表面よりも曲率が小さい凸面にするには、前記ガラス上面に圧力を加えることができる。具体的には、ガラス上面を所望形状の成形面を有する成形型でプレスしたり、ガラス上面に風圧を加えて所望形状に成形したりすることができる。なお、成形型でガラス上面をプレスする際、成形型の成形面に複数のガス噴出口を設け、これらガス噴出口からガスを噴出して成形面とガラス上面の間にガスクッションを形成し、ガスクッションを介してガラス上面をプレスしてもよい。或いは、上記自由表面よりも曲率の大きい面にガラス上面を成形したい場合は、ガラス上面を近傍に負圧を発生させて上面を盛り上げるように成形してもよい。
【0066】
また、プリフォームは、精密プレス成形品の形状により近似する形状とするため、表面を研磨したプリフォームであることも好ましい。例えば、被プレス面の一方が平面又は球面の一部になるように研磨され、他方が球面の一部又は平面になるように研磨されたプリフォームが好ましい。ここで、球面の一部は凸面でも凹面でもよいが、凸面とするか凹面とするかは、上記のように精密プレス成形品の形状によって決めることが望ましい。
【0067】
上記各プリフォームは、直径が10mm以上のレンズの成形に好ましく用いることができ、直径が20mm以上のレンズの成形により好ましく用いることができる。また、中心肉厚が2mmを超えるレンズの成形にも好ましく用いることができる。
【0068】
(光学素子)
以下、本発明の一実施形態の光学素子(以下、「本実施形態の光学素子」と称することがある)を具体的に説明する。
本実施形態の光学素子は、上述した光学ガラスを素材として用いたことを特徴とする。このように、本実施形態の光学素子によれば、上述した光学ガラスを素材として用いているため、他のガラス(例えば、高屈折率のガラス)と組み合わせて、結像の温度依存性が抑制された製品を得ることができる。なお、本実施形態の光学素子は、所望の性能をより確実に得る観点から、本実施形態の光学ガラスについて既述した、各成分の組成に関する必須要件を満たすことが好ましく、本実施形態の光学ガラスについて既述した、好ましいとされる各種要件を満たすことがより好ましい。
また、本実施形態の光学素子は、上述した精密プレス成形用プリフォームを用いた光学素子を含むものとする。
【0069】
光学素子の種類は限定されないが、典型的なものとしては、非球面レンズ、球面レンズ、或いは平凹レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズなどのレンズ;マイクロレンズ;レンズアレイ;回折格子付きレンズ;プリズム;レンズ機能付きプリズム;などを例示することができる。光学素子として、好ましくは、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどのレンズ、プリズム、回折格子を例示することができる。上記各レンズは非球面レンズであってもよいし、球面レンズであってもよい。表面には必要に応じて反射防止膜や波長選択性のある部分反射膜などを設けてもよい。
【0070】
<光学素子の製造方法>
次に、本実施形態の光学素子の製造方法について説明する。
本実施形態の光学素子は、例えば、上記のプリフォームをプレス成形型を用いて精密プレス成形することにより、製造することができる。
【0071】
ここで、精密プレス成形では、予め成形面を所望の形状に高精度に加工されたプレス成形型を用いることができるが、成形面には、プレス時のガラスの融着を防止しつつ、成形面に沿ってガラスの延びが良好になるようにするため、離型膜を形成してもよい。離型膜としては、貴金属(白金、白金合金)の膜、酸化物(Si、Al、Zr、Yの酸化物など)の膜、窒化物(B、Si、Alの窒化物など)の膜、炭素含有膜が挙げられる。炭素含有膜としては、炭素を主成分とするもの(膜中の元素含有量を原子%で表したとき、炭素の含有量が他の元素の含有量よりも多いもの)が望ましく、具体的には、炭素膜や炭化水素膜などを例示することができる。炭素含有膜の成膜法としては、炭素原料を使用した真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法や、炭化水素などの材料ガスを使用した熱分解などの公知の方法を用いればよい。その他の膜については、蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、ゾルゲル法等を用いて成膜することが可能である。
【0072】
また、プレス成形型並びにプリフォームの加熱及び精密プレス成形工程は、プレス成形型の成形面或いは前記成形面に好適に設けられた離型膜の酸化を防止するため、窒素ガス、或いは窒素ガスと水素ガスの混合ガスなどのような非酸化性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性ガス雰囲気中では、プリフォームの表面を被覆する離型膜、特には炭素含有膜が酸化されずに、当該膜が、精密プレス成形された成形品の表面に残存することになる。この膜は、最終的には除去するべきものであるが、炭素含有膜等の離型膜を比較的容易に且つ完全に除去するには、精密プレス成形品を酸化性雰囲気、例えば大気中において加熱すればよい。炭素含有膜等の離型膜の除去は、精密プレス成形品が加熱により変形しないような温度で行うべきである。具体的には、炭素含有膜等の離型膜の除去は、ガラスの転移温度未満の温度範囲で行うことが好ましい。
【0073】
なお、本実施形態の光学素子の製造方法としては、特に限定されず、以下に示す2つの製造方法が挙げられる。ここで、本実施形態の光学素子の製造においては、上記の精密プレス成形用プリフォームを、同一のプレス成形型を用いて精密プレス成形する工程を繰り返すことが、光学素子の量産の観点で好ましい。
【0074】
第1の光学素子の製造方法(「光学素子製法I」とする。)は、プリフォームをプレス成形型に導入し、前記プリフォームとプレス成形型とを一緒に加熱して精密プレス成形し、光学素子を得る方法である。
第2の光学素子の製造方法(「光学素子製法II」とする。)は、加熱したプリフォームを予熱したプレス成形型に導入し、精密プレス成形し、光学素子を得る方法である。
【0075】
光学素子製法Iでは、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間にプリフォームを供給した後、ガラスの粘度が105~109dPa・s相当の温度まで成形型及びプリフォームの両者を加熱してプリフォームを軟化し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写することができる。光学素子製法Iは、面精度、偏心精度など成形精度の向上が重視される場合に、推奨される方法である。
【0076】
光学素子製法IIでは、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間に、予めガラスの粘度で104~108dPa・sに相当する温度に昇温したプリフォームを供給し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写することができる。光学素子製法IIは、生産性向上が重視される場合に、推奨される方法である。
【0077】
加圧時の圧力及び時間は、ガラスの粘度などを考慮して適宜決定することができ、例えば、プレス圧力は約5~15MPa、プレス時間は10~300秒とすることができる。プレス時間、プレス圧力などのプレス条件は成形品の形状、寸法に合わせて周知の範囲で適宜設定すればよい。
【0078】
この後、成形型と精密プレス成形品を冷却し、好ましくは歪点以下の温度となったところで、離型し、精密プレス成形品を取出す。なお、光学特性を精密に所望の値に合わせるため、冷却時における成形品のアニール処理条件、例えばアニール速度等を適宜調整してもよい。
【0079】
なお、本実施形態の光学素子は、プレス成形工程を経なくても作製することはできる。例えば、均質な熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラスブロックを成形し、アニールして歪を除去するとともに、ガラスの屈折率が所望の値になるようにアニール条件を調整して光学特性の調整を行ったのち、次にガラスブロックの切断又は割断を行ってガラス片を作り、更に研削、研磨して光学素子に仕上げることにより得ることができる。
【実施例】
【0080】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0081】
各成分の原料として、各々相当する酸化物、フッ化物、炭酸塩、硝酸塩を準備し、ガラス化した後の組成が表1~表4に示す通りとなるように秤量し、十分混合し、調合原料を得た。この調合原料を白金坩堝に投入し、電気炉にて熔融した。なお、熔融の際の温度は、十分な脱泡を図るため、1000~1500℃の範囲内で適宜調整した。その後、適時撹拌して均質化を図り、清澄化してから、適当な温度に予熱した金型内に鋳込んだ。次いで、電気炉内で徐冷することで、各例の光学ガラスを得た(ガラスが得られない例もあった)。
【0082】
なお、電気炉にて熔融する際に、熔融性の評価のため、1300℃で30分間加熱した後、撹拌せずに電気炉から白金坩堝を取り出して、ガラスにおける熔け残りの有無を確認した。そして、熔け残りが確認されなかった場合には「○」、熔け残りが確認された場合には「×」として、熔融性を評価した。結果を表1~表4に示す。
【0083】
次いで、得られた各例の光学ガラスについて、以下に示す手順に従い、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)、相対屈折率の温度係数(dn/dT)の測定を行った。なお、上記の熔融性の評価が「×」であった例、及びガラスが得られなかった例については、これらの測定を行わなかった。結果を表1~表4に示す。
【0084】
屈折率(nd)及びアッベ数(νd)の測定は、日本光学硝子工業会規格のJOGIS01-2003「光学ガラスの屈折率の測定方法」に記載された方法に従って行った。
【0085】
ガラス転移温度(Tg)の測定は、日本光学硝子工業会規格のJOGIS08-2003「光学ガラスの熱膨張の測定方法」に記載された方法に従って行った。
【0086】
相対屈折率の温度係数(dn/dT)の測定は、日本光学硝子工業会規格のJOGIS18-1994「光学ガラスの屈折率の温度係数の測定方法」に記載された方法に従って、d線(587.562nm)を用い、40~60℃の温度範囲で行った。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
表1及び表2から、実施例1~30の光学ガラスは、いずれも、熔融性が良好であることが分かる。また、実施例1~30の光学ガラスは、いずれも、屈折率(nd)が1.55以上1.63以下であり、アッベ数(νd)が50以上65以下である、即ち、中屈折率低分散性であることが分かる。更に、実施例1~30の光学ガラスは、いずれも、相対屈折率の温度係数が-5.0×10-6℃-1以上3.0×10-6℃-1以下であることが分かる。
【0092】
その上、実施例1~30の光学ガラスは、いずれも、ガラス転移温度(Tg)が540℃以下であることから、軟化温度が低く、精密プレス成形をより容易に行うことができることが分かる。
【0093】
これに対し、表3から、比較例1では、失透が生じ、ガラスを得ることができなかった。これは、SiO2が少なすぎること等によるものと考えられる。
また、比較例2の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、SiO2が多すぎること等によるものと考えられる。
また、比較例3の光学ガラスは、屈折率が1.55未満であった。更に、比較例3の光学ガラスは、ガラス転移温度(Tg)が540℃超であった。これらは、B2O3が多すぎること等によるものと考えられる。
【0094】
また、比較例4では、失透が生じ、ガラスを得ることができなかった。これは、Li2Oが多すぎること等によるものと考えられる。
また、比較例5では、失透が生じ、ガラスを得ることができなかった。これは、Na2Oが多すぎること等によるものと考えられる。
また、比較例6では、失透が生じ、ガラスを得ることができなかった。これは、K2Oが多すぎること等によるものと考えられる。
【0095】
また、比較例7の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、Al2O3が多すぎること等によるものと考えられる。
また、比較例8では、失透が生じ、ガラスを得ることができなかった。これは、CaOが多すぎること等によるものと考えられる。
また、比較例9の光学ガラスは、相対屈折率の温度係数が3.0×10-6℃-1より大きかった。これは、BaOが少なすぎること等によるものと考えられる。
【0096】
また、比較例10では、失透が生じ、ガラスを得ることができなかった。これは、BaOが多すぎること等によるものと考えられる。
また、表4から、比較例11の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、Nb2O5が多すぎること等によるものと考えられる。
また、比較例12の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、ZrO2が多すぎること等によるものと考えられる。
【0097】
また、比較例13の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、TiO2が多すぎること等によるものと考えられる。
また、比較例14の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、Y2O3が多すぎること等によるものと考えられる。
また、比較例15の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、La2O3が多すぎること等によるものと考えられる。
【0098】
また、比較例16の光学ガラスは、相対屈折率の温度係数が3.0×10-6℃-1より大きかった。これは、Li2O、Na2O及びK2Oの合計の含有量が少なすぎること等によるものと考えられる。
また、比較例17の光学ガラスは、相対屈折率の温度係数が3.0×10-6℃-1より大きかった。これは、CaO及びBaOの合計の含有量が少なすぎること等によるものと考えられる。
また、比較例18の光学ガラスは、少なくとも熔融性が不良であった。これは、Li2O、Na2O及びK2Oの合計の含有量が少なすぎること、並びに、CaO及びBaOの合計の含有量が少なすぎること等によるものと考えられる。
また、比較例19の光学ガラスは、相対屈折率の温度係数が3.0×10-6℃-1より大きかった。これは、ZnOを含有していること等によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明によれば、中屈折率低分散性である上、熔融性が良好であり、且つ、他のガラスと組み合わせたときに結像の温度依存性を抑制可能な光学ガラスを提供することができる。また、本発明によれば、上述した光学ガラスを用いた精密プレス成形用プリフォーム、及び光学素子を提供することができる。