(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】腫瘍ワクチン
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20231226BHJP
A61K 39/39 20060101ALI20231226BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231226BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20231226BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61K39/00 H
A61K39/39
A61P35/00
A61P37/04
A61P43/00 121
(21)【出願番号】P 2019566701
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2019024397
(87)【国際公開番号】W WO2020255314
(87)【国際公開日】2020-12-24
【審査請求日】2022-05-19
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)一般社団法人日本脳神経外科学会 第77回学術総会、平成30年10月12日 (2)第36回日本脳腫瘍学会学術集会、平成30年12月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】502233964
【氏名又は名称】セルメディシン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】新田 雅之
(72)【発明者】
【氏名】村垣 善浩
(72)【発明者】
【氏名】丸山 隆志
(72)【発明者】
【氏名】大野 忠夫
【審査官】春田 由香
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-010961(JP,A)
【文献】村垣 善浩 ほか,グリオーマの最新治療と今後の展望,脳神経外科ジャーナル,2010年12月,第19巻, 第12号,p.892-898,ISSN 0917-950X
【文献】DING B et al.,Large-Pore Mesoporous-Silica-Coated Upconversion Nanoparticles as Multifunctional Immunoadjuvants with Ultrahigh Photosensitizer and Antigen Loading Efficiency for Improved Cancer Photodynamic Immunotherapy,Advanced Materials,2018年,Vol.30, No.52,e1802479,doi: 10.1002/adma.201802479, ISSN 0935-9648
【文献】大野 忠夫 ほか,現代医学的療法 自家がんワクチン,治療,2007年,第89巻, 増刊号,p.1517-1524,ISSN 0022-5207
【文献】新田 雅之 ほか,当院における悪性脳腫瘍に対する光線力学的療法(PDT),Pharma Medica,2016年,第34巻, 第1号,p.123-128
【文献】DING B et al.,Large-Pore Mesoporous-Silica-Coated Upconversion Nanoparticles as Multifunctional Immunoadjuvants wi,Advanced Materials,2018年,Vol.30, No.52,e1802479,doi: 10.1002/adma.201802479, ISSN 0935-9648
【文献】Ishikawa, E. et al.,Clinical trial of autologous formalin-fixed tumor vaccine for glioblastoma multiforme patients,Cancer Science,2007年,Vol.98, No.8,p.1226-1233,doi:10.1111/j.1349-7006.2007.00518.x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
A61K 38/00-38/58
A61K 45/00-45/08
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膠芽腫に対する光線力学的治療法
及びStuppレジメンによる標準療法と組み合わせて使用するための腫瘍ワクチンであって、光線力学的治療法を適用する患者から分離された腫瘍組織に由来するホルマリンで固定化された腫瘍抗原と
BCG及び/又はツベルクリンとを含む腫瘍ワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は腫瘍ワクチンに関する。
より具体的には、光線力学的治療法と組み合わせて使用するための腫瘍ワクチンに関する。
【背景技術】
【0002】
頭蓋骨に囲まれた内部にできる腫瘍(がん腫を含む)を総称して脳腫瘍というが、その中でも膠芽腫(glioblastoma multiforme)の治療には、他のがんの場合と同じく、まず手術による最大限の摘出が有効とされてきた。しかし、膠芽腫は脳内に浸潤性に発育するため、いかなる手術も「絶対非治癒摘出」(微小脳腫瘍が残存している状態)になることが広く知られている。
【0003】
その治療には、手術摘出に加え、放射線照射と抗がん剤テモゾロミド(TMZ)を使用する術後放射線化学療法(Stuppレジメン、2005年発表)(非特許文献1)が2019年5月現在でも標準療法とされている。しかし、Stuppの論文では全生存期間中央値(mOS)は14.6ヶ月、無増悪生存期間中央値(mPFS)は6.9ヶ月、2年生存率は26.5%にとどまる。2019年5月時点では、TMZをしのぐ低分子薬剤はなく、腫瘍血管新生阻害効果のある抗体医薬ベバシズマブを標準療法に追加併用しても、mOSは15.7~16.8ヶ月、mPFSは10.6~10.7ヶ月である(非特許文献2, 3)。初発膠芽腫を対象にした本邦のJCOG0911 INTEGRA study(標準療法に加えてinterferon betaの再発抑制効果が試された臨床試験)でも、対照群/interferon beta群で、それぞれmOSは20.3ヶ月/24.0ヶ月、mPFSは10.1ヶ月/8.5ヶ月にすぎない(非特許文献4)。その結果、ほとんどの症例で再発・増悪し、再発した場合、治癒に至る例はまれである。
【0004】
このように膠芽腫は極めて難治性であり、予後不良であることから、膵臓がん(発見が遅れやすいがため手遅れになることが多く、治療至難となる)とともに、悪性新生物の中でも最悪性であることは臨床家に周知されている。従って、膠芽腫に対して有効な治療法は、他の悪性腫瘍に対しても同様に有効となるものと考えられている。
【0005】
一方、がん治療方法の一つとして光線力学的治療法が知られている。日本光線力学学会のホームページ(http://square.umin.ac.jp/jpa/whatPDT.html)には、「光線力学的治療法(Photodynamic therapy: 以下、「PDT」と略す場合がある。)とは、がんに集積性を示す光感受性物質とレーザー光照射による光化学反応を利用した局所的治療法である。PDTは従来のレーザーによる光凝固や蒸散などの物理的破壊作用とは異なり、低いエネルギーで選択的にがん病巣を治療可能であり、正常組織への障害が非常に少ない低侵襲な治療法である。」と紹介されており、より詳しくは、「ポルフィリン関連化合物が有する腫瘍組織、新生血管への特異的な集積性と光の励起により発生する一重項酸素の強い細胞破壊効果を利用した治療法である。」(非特許文献5)と説明されている。
【0006】
PDTは腫瘍細胞に対し強い細胞破壊効果があることから、主にがんの局所療法に使用される。本邦では、既に健康保険対象として国の承認を受けており、早期肺がん、表在性食道がん、表在性早期胃がん、子宮頚部初期がん、加齢黄斑症、原発性悪性脳腫瘍、化学放射線療法又は放射線療法後の局所遺残再発食道がんが適応とされている。PDTはいわゆる免疫原性細胞死(immunogenic cell death)を引き起こし、腫瘍抗原が放出されるため、腫瘍細胞に対する免疫反応が誘導されると考えられている(非特許文献6)。
【0007】
本発明者らは、上記のPDTを脳腫瘍治療に応用する試みを続けてきた。第II相臨床試験において、あらかじめ22~27時間前に患者に光感受性物質タラポルフィンナトリウムを投与しておき、脳腫瘍の摘出手術時に残存脳腫瘍領域にレーザー光線を照射、以後、標準療法を施行した。その結果、22例の脳腫瘍症例(うち、初発膠芽腫が13例)で、術後12ヶ月全生存率95.5%、6ヶ月無増悪生存率91%を達成することができ、特に初発膠芽腫症例では、これら両者の指標とも100%となった。副作用が観察されたのは4例にすぎず、いずれも軽度であった。注目すべきは、膠芽腫症例において、mOSが24.8ヶ月、mPFSが12.0ヶ月となった点であり、標準療法を上回る好成績である(非特許文献7)。
【0008】
さらに症例を追加し長期フォローアップした結果、mOSは27.4ヶ月、mPFSは19.6ヶ月(PDTを施行していない標準療法のみの対照群のmOSは22.1ヶ月、mPFSは9.0ヶ月)となった。mOS、mPFSとも対照群に比べ統計的な有意差がある(非特許文献8)。
【0009】
もっとも、非特許文献7では最長32か月という短い観察期間内においてさえ、全生存期間、無増悪生存期間の2つのカプランマイヤー曲線が、ともに50%生存率ラインを割り込んでいることから、PDTによっても初発膠芽腫治療は困難である。このような観点から、PDT治療の有効性をさらに高める試みがなされており、PDTに加えて、作用原理の異なる治療法として別種の免疫療法、なかでも腫瘍ワクチンをさらに組み合わせる治療方法が検討されている(非特許文献9)。しかしながら、化学的に固定された自家腫瘍を抗原とした腫瘍ワクチンをPDTに加えて利用する方法は、これまでに試みられたことはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第5579586号
【文献】国際公開WO 2018/047797
【非特許文献】
【0011】
【文献】Radiotherapy plus concomitant and adjuvant temozolomide for glioblastoma, N. Engl. J. Med., 352, pp.987-996, 2005
【文献】Bevacizumab plus radiotherapy-temozolomide for newly diagnosed glioblastoma, N. Engl, J. Med., 370, pp.709-722, 2014
【文献】A randomized trial of bevacizumab for newly diagnosed glioblastoma, N. Engl. J. Med., 370, pp.699-708, 2014
【文献】JCOG0911 INTEGRA study: a randomized screening phase II trial of interferon beta plus temozolomide in comparison with temozolomide alone for newly diagnosed glioblastoma, J. Neurooncol., 138, pp.627-636, 2018
【文献】癌治療における光線力学的治療の現況 http://square.umin.ac.jp/jpa/whatPDT.html
【文献】Immunogenic cell death: can it be exploited in photo dynamic therapy for cancer? BioMed. Research International, Article ID 482160, 18 pages, 2013
【文献】Phase II clinical study on intraoperative photodynamic therapy with talaporfin sodium and semiconductor laser in patients with malignant brain tumors, J. Neurosurg., 119, pp.845-852, 2013
【文献】Role of photodynamic therapy using talaporfin sodium and a semiconductor laser in patients with newly diagnosed glioblastoma, J. Neurosurg., Dec 1, 1-8, 2018. doi: 10.3171/2018.7.JNS18422
【文献】Targeting antitumor immune response for enhancing the efficacy of photodynamic therapy of cancer: Recent advances and future perspectives, Oxidative Medicine and Cellular Longevity, Article ID 5274084, 11pages, 2016
【文献】Clinical trial of autologous formalin-fixed tumor vaccine for glioblastoma multiforme patients. Cancer Sci., 98, pp.1226-1233, 2007
【文献】Phase I/IIa trial of fractionated radiotherapy, temozolomide, and autologous formalin-fixed tumor vaccine for newly diagnosed glioblastoma. J. Neurosurg., 121, pp.543-553, 2014
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、光線力学的治療法の有効性を高める手段を提供することにある。
より具体的には、腫瘍ワクチンを用いて光線力学的治療法の有効性を高める手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記の課題を解決すべく鋭意研究を行った。その結果、生体にあらかじめ投与された光線感受性物質が集積した腫瘍部をレーザー光線で照射して腫瘍細胞を変性させた場合には、当該生体(自家)由来の腫瘍組織をホルマリンなどで固定化した腫瘍抗原を含む腫瘍ワクチンの腫瘍治療効果が顕著に高められることを見出した。本発明は上記の知見に基づいて完成されたものである。
【0014】
すなわち、本発明により、悪性腫瘍に対する光線力学的治療法と組み合わせて使用するための腫瘍ワクチンであって、光線力学的治療法を適用する患者から分離された腫瘍組織に由来する腫瘍抗原を含む腫瘍ワクチンが提供される。
【0015】
本発明の好ましい態様によれば、腫瘍抗原がホルマリンで固定化された腫瘍抗原である上記の腫瘍ワクチン;腫瘍抗原が、腫瘍組織、腫瘍細胞、及びこれらの成分からなる群から選ばれる固体化された腫瘍材料から調製された微粒子である上記の腫瘍ワクチン;固定化された腫瘍抗原とともに免疫刺激剤を含む上記の腫瘍ワクチン;免疫刺激剤がサイトカイン及びサイトカイン誘導剤からなる群から選ばれる少なくとも1種の免疫刺激剤である上記の腫瘍ワクチン;悪性腫瘍が脳腫瘍である上記の腫瘍ワクチン;脳腫瘍が膠芽腫である上記の腫瘍ワクチン;及び、皮内注射用の上記の腫瘍ワクチンが提供される。
【0016】
悪性腫瘍に対する光線力学的治療法の補助療法剤として用いるための腫瘍ワクチンであって、光線力学的治療法を適用する患者から分離された腫瘍組織に由来する固定化された腫瘍抗原を含む腫瘍ワクチン、及び悪性腫瘍に対する光線力学的治療法を適用する患者に対して投与するための腫瘍ワクチンであって、光線力学的治療法を適用する患者から分離された腫瘍組織に由来する固定化された腫瘍抗原を含む腫瘍ワクチンも本発明により提供される。
【0017】
別の観点からは、本発明により、光線力学的治療法を適用する患者から分離された腫瘍組織に由来する固定化された腫瘍抗原の上記腫瘍ワクチンの製造のための使用が提供される。
さらに別の観点からは、本発明により、悪性腫瘍の治療方法、再発予防方法、及び/又は転移阻害方法であって、悪性腫瘍を有する患者に対して光線力学的治療法を適用する工程、及び該患者から分離された腫瘍組織に由来する固定化された腫瘍抗原を含む腫瘍ワクチンを該患者に投与する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
光線力学的治療法と組み合わせて使用される本発明の腫瘍ワクチンを用いることにより、悪性腫瘍の治療、再発予防、及び/又は転移阻害において、従来の光線力学的治療法と比べて顕著に高い有効性を達成することができる。本発明の腫瘍ワクチンを用いることにより、生体における免疫能を刺激しつつ、適応範囲の広い光線力学的治療法の効果を一層強化できることから、現在の集約的がん治療でも十分な有効性が得られない高悪性度の腫瘍である膠芽腫に対して明らかに高い有効率での治療を達成できる(実施例参照)。
【0019】
本発明の腫瘍ワクチンの作用機序は、腫瘍の種類を問わず、原理的に同一の細胞性免疫反応により作用するものであり、光線力学的治療法も光線エネルギーによる物理的な腫瘍組織破壊であることから、本発明の腫瘍ワクチンによる悪性腫瘍の治療、再発予防、及び/又は転移阻害作用は、実施例において実証されている膠芽腫のみならず、他の固形腫瘍に対しても同様に高い有効性を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の腫瘍ワクチンが、in vitroで直接抗原提示細胞に作用し、サイトカインTNFaの産生を促進できることを示した図である。
【
図2】膠芽腫の治療において、標準療法(Stuppレジメン)に上乗せして、手術摘出時に光線力学的治療法を施行し、かつ、本発明の腫瘍ワクチンを皮内投与した症例群では、長期生存者が増え、最長40.6ヶ月の観察で全生存期間中央値が未達となっていることを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
光線力学的治療法は、日本光線力学学会のホームページや非特許文献5に紹介されているように、がんに集積性を示す光感受性の薬物(例えばポルフィリンやその誘導体など)及びレーザー光照射による光化学反応を利用した局所的治療法であり、がん治療のための標準的な治療方法として汎用されている。本発明の腫瘍ワクチンの適用対象となる光線力学的治療法は特に限定されず、光感受性薬物の種類や投与量、レーザー光の種類や照射強度などの治療条件は任意に選択可能である。光線力学的治療法は固形がんを対象として行われるが、原発がんのほか、転移がんも適用対象となる。
【0022】
本発明の腫瘍ワクチンは、光線力学的治療法に先立って、又は光線力学的治療を行うのと同時に、あるいは光線力学的治療を行った後のいずれか一つ又は二つ以上の時期に投与することができるが、一般的には、光線力学的治療法の後に、例えば数日から数週間の期間を空けて投与することが好ましい。
【0023】
本発明の腫瘍ワクチンは、がん治療の標準的な療法、例えば外科手術、がん化学療法、放射線療法、及びがん免疫療法のいずれか一つ又は二つ以上の療法を組み合わせて使用することができる。例えば、外科手術により悪性腫瘍を摘出した後に、必要に応じて標準的な化学療法を行いつつ、光線力学的療法を行って、その後に本発明の腫瘍ワクチンを投与する方法や、放射線療法を行い、必要に応じて標準的な化学療法を行いつつ、光線力学的療法を行って、その後に本発明の腫瘍ワクチンを投与する方法などを例示することができる。がん免疫療法として、例えば免疫チェックポイント阻害剤による治療と組み合わせることも可能である。もっとも、組み合わせ可能な他の療法はこれらに限定されるものではない。化学療法を行う際のレジメンや化学療法剤の種類は任意に選択可能であることは言うまでもない。
【0024】
光線力学的治療の対象となる固形がんの種類としては、例えば、皮膚癌、黒色腫、腎臓癌、胃癌、肺癌、肝臓癌、乳癌、子宮癌、膵臓癌、脳腫瘍などを挙げることができるが、これらに限定されることはない。難治療性の脳腫瘍である膠芽腫は本発明の腫瘍ワクチンの好適な適用対象であるが、対象は膠芽腫に限定されることはない。
【0025】
本発明の腫瘍ワクチンは、悪性腫瘍に対する光線力学的治療法と組み合わせて使用するための腫瘍ワクチンであって、光線力学的治療法を適用する患者から分離された腫瘍組織に由来する固定化された腫瘍抗原を含むことを特徴としている。本発明の腫瘍ワクチンは免疫刺激剤を含むことが好ましい。腫瘍抗原はホルマリンで固定化された腫瘍抗原であることが好ましく、腫瘍抗原は、腫瘍組織、腫瘍細胞、及びこれらの成分からなる群から選ばれる固体化された腫瘍材料から調製された微粒子であることが好ましい。あるいは、腫瘍組織、腫瘍細胞、及びこれらの成分からなる群から選ばれる固体化された腫瘍材料から調製された溶解物を腫瘍抗原として用いることもできる。
【0026】
本発明の腫瘍ワクチンは免疫刺激剤を含むことが好ましい。免疫には、大別して自然免疫と獲得免疫があり、生体に数分から数日の間に炎症反応を惹起する物質は主に自然免疫反応を刺激する。自然免疫反応以後は獲得免疫が誘導され、抗原となる物質に特異的な反応が起こる。その反応には主にB細胞による液性免疫反応(抗体産生)とT細胞による細胞性免疫反応(異常細胞の傷害除去)がある。抗原を生体に投与し、免疫を刺激して感染症等の疾病を予防(場合によっては治療)しようとするのがワクチンである。しかし、免疫反応を惹起することを期待されている抗原が、免疫刺激能力が弱い(抗原性が低い)場合、免疫刺激補助のために添加して抗原に対する免疫反応を増強させるのが免疫アジュバントである。これに対し、抗原をともなわずに単独で投与し、生体の免疫能を強化しようとするものが「生物反応修飾剤(biological response modifier、以下BRMと記載)」である。
【0027】
本明細書において、免疫刺激剤とは、特定の抗原に対する特異的な免疫反応の直接的な刺激作用にとどまらず、該抗原ではない他の抗原の有無にかかわらず、抗原非特異的な免疫反応に対しても刺激作用を示す薬剤を意味する。「免疫刺激剤」の中には、前述したように、(a)抗原とともに用いられ該抗原に対する特異的免疫反応の強化を期待する「免疫アジュバント」、及び、(b)抗原を伴わずに用いられ、免疫能の一般的な賦活のために用いられるBRMがある。また(b)には、(b-1)免疫反応経路を一部でも直接的に刺激する「免疫反応促進剤」、および(b-2)免疫反応経路の阻害による免疫反応抑制作用を逆に阻害する作用によって、間接的に免疫刺激をする「免疫反応抑制作用阻害剤」が含まれる。
【0028】
本発明の腫瘍ワクチンは免疫刺激剤としてサイトカインを含むことが好ましいが、その場合には、1種又は2種以上のサイトカインを用いることができる。例えば、TNFaが好ましく、TNFaの産生を促進できるIFNgも好ましい。さらに顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(以下、GM-CSFと略す)を用いることが好ましく、GM-CSFとIFNgとを組み合わせて用いることも好ましい。また、体内局所の免疫担当細胞を刺激し、結果的にTNFa、GM-CSF、及び/又はIFNgを投与した場合と同様な状況を実現できる免疫刺激剤、すなわちサイトカイン誘導剤を用いることもできるが、 これらに限定されるものではない。
【0029】
これらのサイトカインやサイトカイン誘導剤は、投与局所における濃度をなるべく長期間高い状態に保てるように徐放性製剤として調製されていることが好ましい。そのような徐放化手段は、当業界では種々の徐放化方法が知られており、いかなる方法を採用してもよい。
【0030】
本発明の腫瘍ワクチンは、非特異的免疫反応を惹起する免疫アジュバントを含んでいてもよい。アジュバントは一種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。アジュバントとして、例えば、Freund Complete Adjuvant、Freund Incomplete Adjuvant、BCG等の細菌製剤、ツベルクリン等の細菌成分製剤、keyhole limpet hemocyaninや酵母マンナン等の 天然高分子物質、Alum、TiterMax Gold、 Polyinosinic-polycytidylic acid stabilized with polylysine and carboxymethylcellulose (poly-ICLC)、CpGモチーフを含む合成オリゴヌクレオチド(CpG-ODN)等の合成アジュバント製剤等が挙げることができるが、これらの具体例に限定されることはなく、アジュバントとしての効果を有する物質であればいかなるものを用いてもよい。アジュバントを用いるか否かは、投与局所の炎症性反応の強さや、投与した結果として惹起される抗腫瘍効果の強さを指標として判断することができる。例えば、アジュバントを含む腫瘍ワクチンと、アジュバントを含まない腫瘍ワクチンを同一局所に交互に投与することも可能である。
【0031】
例えば、ホルマリンにより固体化された腫瘍組織及び/又は腫瘍細胞及び/又はそれらの溶解物由来の固体化された断片を抗原とし、免疫刺激剤として免疫アジュバントを添加した組成物であって、体内に残存する腫瘍治療を目的として当該患者自身に投与することが可能な腫瘍ワクチン(特許文献1、非特許文献10)は本発明の腫瘍ワクチンの好適な例である。例えば、上記の腫瘍ワクチンの一例について、初発膠芽腫に対する摘出術後の放射線化学療法に上乗せした第II相早期臨床試験が施行されており、mOS 22.2ヶ月及び2年生存率47%, 3年生存率38%という良好な成績が得られている(非特許文献11)。このワクチンは、本発明の腫瘍ワクチントして特に好ましい態様の一つであるが、本発明の腫瘍ワクチンはこの特定の腫瘍ワクチンに限定されることはない。
【0032】
本発明の腫瘍ワクチンとして、上記の腫瘍抗原と少なくとも一種類のサイトカイン及び/又はサイトカイン誘導剤とを組み合わせた組成物の形態の腫瘍ワクチンを患者に投与してもよいが、上記の腫瘍抗原、及び少なくとも一種類のサイトカイン及び/又はサイトカイン誘導剤を別々に患者に投与することも可能である。
【0033】
本発明の腫瘍ワクチンを調製するための腫瘍組織又は腫瘍細胞としては、例えば治療や予防の対象となる腫瘍の腫瘍抗原を含む組織又は細胞であって、光線力学的治療の対象となる患者から分離したもの(自家由来の組織又は細胞)であれば、いかなる種類のものを用いてもよく、特にその種類は限定されない。また、腫瘍組織又は腫瘍細胞の成分を用いる場合には、腫瘍抗原となりうる物質を含むものであればその種類は限定されない。固形がん組織、骨髄、末梢血白血球分画、腹水・胸水の細胞分画など、生体から分離又は採取された腫瘍細胞を含む生体試料であれば、腫瘍材料として用いることができる。腫瘍組織又は腫瘍細胞の成分としては、例えば、抗原タンパクや抗原ペプチドを用いることができる。腫瘍材料は、手術による癌腫の摘出により入手するか、あるいは生検により入手することが一般的である。
【0034】
固体化された腫瘍材料を調製するための固定方法は特に限定されず、当業者に利用可能ないかなる手段を採用してもよい。例えば、化学的な組織固定剤を用いる場合には、ホルマリン、グルタールアルデヒド、メタノール、エタノール等のアルコール類等を用いることができるが、これらの他にも生体組織若しくは細胞、又はそれらの成分を固体化できる方法であればどのような方法を用いてもよい。腫瘍材料をパラフィン包埋や凍結などの方法により固体化してもよい。骨組織など本来固体状態の組織を固体化腫瘍材料として用いる場合にも、適宜の固定方法を行なうことが望ましい。
【0035】
微粒子の調製方法は特に限定されないが、例えば、固体化した腫瘍組織を破砕して微細な断片である微粒子を調製する方法のほか、腫瘍組織の破砕断片や腫瘍細胞を溶解して固体微粒子に固定する方法、又は抗原ペプチドや抗原タンパクなどの溶解性腫瘍抗原を固体微粒子に固定する方法などを採用することができる。さらには、固体化された腫瘍材料から調製された溶解物を材料とする場合は、例えば熱変性により凝固しやすい血清アルブミン等を加えて均一に混合し、熱変性により凝固させることによって溶解物を凝固体に巻き込み、それを断片化することによって微粒子状に調製することもできる。固体微粒子としては、例えば、直径0.05ミクロンから1000ミクロン程度の鉄粉、炭粉、ポリスチレンビーズ等を用いることができる。また、組織の破砕断片、腫瘍細胞、又は溶解性腫瘍抗原をリポソーム等の脂質粒子に結合させ、抗原提示細胞が微粒子として認識して貪食し得るようにしたものや、溶解性腫瘍抗原自体を結合剤又は架橋剤によって相互に結合させて微粒子化したものを用いてもよい。
【0036】
微粒子の大きさは特に限定されないが、体内において貪食能力のある細胞が貪食可能なサイズであることが望ましい。本来微小な単個細胞状態の固定腫瘍細胞は特に破砕する必要はないが、細胞の固定化操作で凝集した場合には破砕又は分散処理を施すことが望ましい。破砕又は分散処理には、ホモジェナイザー処理、超音波処理、消化酵素による部分消化法等を用いることができる。また、空隙の大きさが1000ミクロン以下のメッシュ、好ましくは380ミクロン以下のメッシュを通過させることによって微粒子を調製することもできる。これらの微粒子の調製方法は当業者に周知であり、当業者は適宜の方法を単独で、又は複数の方法を組み合わせ微粒子を調製することができる。
【0037】
固体化された腫瘍材料から溶解物を調製する方法としては、例えば、タンパク分解酵素を用いる方法を採用することができる。タンパク分解酵素としては、例えばプロナーゼKが挙げられる。また、タンパク分解酵素以外の酵素、酸、又はアルカリ等を適宜組み合わせた方法でもよい。固体化された腫瘍材料を溶解できるものであればいかなる方法を採用してもよく、当業者が適宜の方法を選択することが可能である。溶解物を上記の固体微粒子に固定化してもよい。
【0038】
本明細書において用いられる「溶解物」という用語は、固体化された腫瘍材料が水、生理食塩水、緩衝液などの水性媒体中に肉眼で固形物が認められない程度に分散した状態を意味しており、その分散物が抗原提示細胞に貪食され得る程度のものであればよいが、いかなる意味においても限定的に解釈してはならない。なお、固体化された腫瘍材料の調製方法、微粒子の調製方法の詳細は特許文献1の実施例に具体的に示されているので、当業者は上記の一般的な説明及び実施例の具体的説明を参照しつつ、必要に応じてこれらの方法に適宜の修飾ないし改変を加え、所望の微粒子を調製することが可能である。また、溶解固定腫瘍細胞から作製した腫瘍ワクチンによる免疫刺激作用は、細胞傷害性T細胞誘導効果として、特許文献1に開示されている。
【0039】
本発明の腫瘍ワクチンの製剤形態は特に限定されないが、局所投与に適するような製剤形態であることが望ましい。製剤化の方法も特に限定されず、当業界で利用可能な方法を単独で、又は適宜組み合わせて用いることにより、所望の形態の製剤を調製することができる。製剤化にあたっては、注射用蒸留水や生理食塩水などの水性媒体のほか、当業界で利用可能な製剤用添加物を1種又は2種以上用いることができる。例えば、緩衝剤、pH調節剤、溶解補助剤、安定化剤、無痛化剤、及び防腐剤などを用いることができるが、これらの具体的成分は当業者に周知されている。また、腫瘍ワクチンを凍結乾燥製剤などの固体製剤として調製し、用時に注射用蒸留水などの懸濁溶媒を加えて注射剤を調製することもできる。
【0040】
本発明の腫瘍ワクチンを用いて光線力学的治療を行なうにあたっては、腫瘍ワクチンの単回のみ投与してもよいが、腫瘍抗原とサイトカイン又はサイトカイン誘導剤とをなるべく長い時間共存させるために、体内の同一局所に投与を繰り返すことが望ましい。例えば、投与局所の炎症性反応が惹起され、免疫細胞が集中してそこに存続する状態となるようにすることが望ましい。アジュバントを含まない腫瘍ワクチンを投与する場合には、アジュバントを同一局所に投与してもよい。一般的には、腫瘍材料の由来する患者に腫瘍ワクチンを投与することができるが、病理診断上、腫瘍材料に含まれる腫瘍抗原と同種又は近縁種の腫瘍抗原を含む腫瘍の患者に投与することも可能である。
【0041】
投与する局所は特に限定されないが、例えば投与物が容易には拡散消失しにくく、多数の抗原提示細胞(ランゲルハンス氏細胞)が常駐する皮内に注射する(intradermal injection)のが特に好ましい。また、PDT後に変性した腫瘍組織中に注射する(in situ injection)ことも好ましく、両者を組み合わせてもよい。他にも、皮下、筋肉内、リンパ節内、脾臓等の主要臓器内であって、サイトカイン等が簡単には拡散消失しにくい場所が好ましい。もっとも、腫瘍ワクチンの有効成分が容易に拡散しないような剤型を選択することにより任意の部位の局所投与が可能になる場合もあり、またドラッグ・デリバリー・システムを応用することによって全身投与が可能になる場合もある。本発明の腫瘍ワクチンの投与量及び投与期間は特に限定されないが、ワクチン療法の効果を確認しつつ、適宜投与量と投与期間を決定することが望ましい。
【0042】
本発明の腫瘍ワクチンは、腫瘍ワクチンを調製するための腫瘍材料が由来する患者自身(自家)に投与することが一般的であるが、他の患者(他家)の腫瘍であっても、自家の腫瘍と共通する腫瘍抗原が含まれていると合理的に推定できる場合は、当該他家の腫瘍材料で調製した腫瘍ワクチンを自家由来の腫瘍抗原を含む腫瘍ワクチンとみなして投与してもよい。上記の態様も本発明の範囲に包含されることは言うまでもない。腫瘍ワクチンがサイトカイン誘導剤を含む場合には、該腫瘍ワクチンが腫瘍抗原非特異的な免疫刺激作用(BRMとしての作用)も発揮することから、他家の腫瘍材料で調製したワクチンを使用する場合には、サイトカイン誘導剤を含むことが好ましい。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【0044】
本発明における用語や概念は、当該分野において慣用的に使用される用語の意味に基づくものであり、本発明を実施するために使用する技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。また、各種の分析などは、使用した分析機器又は試薬、キットの取り扱い説明書、カタログなどに記載の方法を用いて行っている。
【0045】
【0046】
例1:本発明の腫瘍ワクチンのサイトカイン誘導作用
本発明の腫瘍ワクチンの特徴を示す一端として、免疫担当細胞によるサイトカイン産生を直接刺激できるという点を以下の試験において確認した。
【0047】
ヒトマクロファージ様細胞株THP-1は、培養下でPhorbol 12-Myristate 13-Acetate(PMA)を作用させて分化誘導すると、貪食能を示すのみならず、抗原提示能も獲得し、抗原提示細胞となることが知られている。また、この細胞をサイトカインであるヒトIFNgで前処理すると、T細胞への抗原提示能が増強される。分化し貪食をしたTHP-1細胞はTNFaを産生する。TNFaの産生はマクロファージ(ないし、抗原提示細胞)が活性化したことを示しており、体内におけるマクロファージ(ないし、抗原提示細胞)の活性化は、それに続く炎症反応及び免疫反応の起点になっていることが知られている(特許文献2)。従って、THP-1細胞を抗原提示細胞に分化誘導した後に、培養液に本発明の腫瘍ワクチンを添加、産生されるTNFa量を測定すれば、該腫瘍ワクチンの体内における炎症反応及び免疫反応の刺激作用を体外における細胞培養系において測定できる。
【0048】
(1)サンプル1とした本発明の腫瘍ワクチンの調製法
膠芽腫患者(病院名:東京女子医大病院、患者カルテ番号:26254593)から摘出され(手術日:2014年12月26日)、常法によりホルマリン固定されパラフィン包埋ブロックに至るまで処理された膠芽腫組織を原材料として、非特許文献10に記載の方法に従って、自家腫瘍ワクチンを作製した。
なお、サンプル1及びその2倍濃度液では、エンドトキシンの含有量が、Kinetic-QCL 192 Test Kit (Lonza社)によるLAL試験法では、検出限界(0.5EU/mL、Lipopolysaccharide 換算では0.05ng/mL)以下であった。
【0049】
(2)Lipopolysaccharide (以下、LPSという) 標準液の作製
0.01%ヒト血清アルブミン入りDulbecco’s phosphate buffered saline (PBS, calcium-magnesium-free)(以下PBS-HSAという)を用い、LPS (Sigma-Aldrich, L4516-1MG)を1mg/mLとなるように溶解した。同じPBS-HSAにて指定されたLPS濃度になるように希釈した。
【0050】
(3)抗原提示細胞によるTNFa産生量のバイオアッセイ方法
常法に従って維持培養しているヒトマクロファージ様細胞株THP-1を、培養液にて50万個/mLに調整した。培養液は、常法による加熱処理済みウシ胎児血清を3%含むRPMI1640培養液である(以下、3%mediumという)。これにPMA溶液 (SIGMA社製PMAをdimethylsulfoxideに1.62mMとなるように溶解したもの)を終濃度0.16μMになるように添加し、24穴プレートに1穴あたり0.5mL播種して4日間培養、THP-1細胞を抗原提示細胞に分化誘導した。
【0051】
分化誘導培養後、アッセイ用培養液(PMA 0.016μM、及びヒトインターフェロンガンマ(hIFNg)0.5ng/mLを含む3%medium)に交換し一夜培養した。その後、新しいアッセイ用培養液に交換し、1ウエルあたり0.5mLのアッセイ用培養液に以下のサンプル液を添加し、22時間培養(以下、「アッセイ培養」という)した。
Sample 1. 本発明の腫瘍ワクチン(懸濁液製剤である)、32μL
Sample 2. PBS-HSA、32μL(このサンプルのTNFa産生量をブランク値とした。LPSは0 ng/mLである)
Sample 3. LPS(0.125 ng/mL)含有PBS-HSA、32μL
Sample 4. LPS (0.25 ng/mL)含有PBS-HSA、32μL
Sample 5. LPS (0.5 ng/mL)含有PBS-HSA、32μL
アッセイ培養後の培養液を冷却微量高速遠心機で、4℃、12000rpm(最大加速度11000G)、5分間遠心、上清を回収し、3%mediumでSample 1については2倍希釈し、他のSampleは10倍希釈してEnzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)法にて産生TNFa量を測定した。1つのサンプルについて2又は3ウエルを用い、平均値をデータとした。
【0052】
(4)TNFaの測定方法
市販のELISA法によるTNFa測定用キット(BD Biosciences社製OptEIA Set Human TNF, Cat. No. 555212)を使用した。ELISAの詳細方法はこのキット添付の取り扱い説明書に従った。このキット添付の標準TNFの濃度と最終的な発色反応(汎用されている市販のTMB基質液及び2N H2SO4反応停止液を用いたA450値)との直線性は非常に良いため、プレートリーダーにより得られた最終データは、サンプル1.のブランク値を差し引いたA450値のまま図に示した。
【0053】
(5)結果
TNFa産生量の結果を
図1に示す。ブランク値(Sample 2による)は差し引いてある。この結果から、本発明の腫瘍ワクチンは、抗原提示細胞によるサイトカインTNFaの産生を直接刺激できることがわかる。
【0054】
なお、患者自身に由来する膠芽腫組織によって作製した腫瘍ワクチンを自家に投与することによって、in vivoで細胞性免疫反応を刺激できる(すなわち、体内の抗原提示細胞を経由して免疫担当細胞の活性化を惹起する)ことは、非特許文献11に記載された遅延型過敏反応(delayed-type hypersensitivity response)によって示されている。
【0055】
例2:本発明の腫瘍ワクチンによる膠芽腫のPDTの効果増強
(1)対象患者
東京女子医科大学脳神経外科(以下、当院という)において、2009年4月から2016年12月までの間、常法による脳腫瘍摘出術が施行された初発膠芽腫患者を対象にした(なお、脳腫瘍治療にPDTが導入されたのは、臨床試験が2009年4月から2010年12月まで、保険診療によるPDTは2014年1月からである)。あらかじめインフォームドコンセントを得られた症例には当院にて術中にPDTを施行した。以後、いずれの症例にもStuppレジメンによる標準療法(非特許文献1)を施行した。また、さらに本発明の腫瘍ワクチン(以下、AFTVという)による追加治療を希望した症例には、AFTVが未だ国の未承認医薬品であるため、当院ではなく、当院関連医療施設において、患者自費負担によりAFTVを追加投与した。
【0056】
従って、患者は以下の3グループに分類できる。
(A)PDT + AFTV受診群
(B)PDT受診群
(C)AFTV 受診群
いずれも日常診療の範囲内における患者選択による治療であり、後述の結果は後ろ向きの解析によるものである。治療開始前にあらかじめ対象患者を絞り込んで治療法を設定した前向き臨床試験ではない。
【0057】
なお、Stuppレジメンによる標準療法のみの群に比較して、PDT追加治療群が膠芽腫の再発を強く抑制し治療効果を増大させることは既に判明しているため(非特許文献7)、本実施例では標準療法のみの群に係る解析はしていない。
【0058】
(2)対象患者の背景因子
対象患者の背景因子を表2に示す。
【表2】
【0059】
B群における当初のPDT対象11例を除き他はすべて日常診療における受診症例にもかかわらず、C群においてKPS中央値がやや高いことを除けば、患者背景因子に基本的な差はなく、患者群に大きな選択バイアスがかかっていることはない。
【0060】
(3)脳腫瘍のPDT治療プロトコールとStuppレジメンによる膠芽腫の標準療法
手術前日:
レーザー照射の20-24時間前と予想される時間に、タラポルフィンナトリウム(レザフィリ ン、Meiji Seikaファルマ)を40mg/m2の量で静脈注射にて投与する。以後、患者の遮光を開始する。
【0061】
手術当日:
開頭術にて脳腫瘍摘出終了後、摘出腔壁に半導体レーザー(パナソニックヘルスケア社、医療機器製造販売承認番号22700BZX00165000)を照射する。1回の照射時間は180秒で、照射ユニットは180秒間で自動停止する。レーザー光線の波長は664nm、照射範囲は直径15mmの円形である。照射強度密度(radiation power density)は150mW/cm2、照射エネルギー密度(radiation energy density)は27 J/cm2である。
照射は摘出腔壁に極力垂直に照射する。照射距離は2本のガイド光が1点になる距離で照射を行う。
照射の際には、照射部位に脳脊髄液や血液が極力ない状態で照射を行う。また、血管に直接照射しないよう注意する。
照射回数は摘出腔の大きさによって決定するが、各照射範囲が重複しないようにする。
【0062】
術後管理:
術後は、患者の遮光入院を継続し、1週間後に光線過敏テストを行う。具体的には2cm程度の穴が空いた厚手の手袋をして、手を直射日光下に5分程度露出し、発赤がなければ遮光解除、あれば引き続き遮光を継続する。術後3日以内、および2週間後に常法に従って脳MRI画像診断を施行し、照射部周囲の浮腫や出血などの合併症の有無を確認する。
【0063】
以後、Stuppレジメンによる標準療法を施行する(非特許文献1)。ここでは、放射線照射とテモゾロミド服用による6週間連続の付随治療と、一旦退院後に、テモゾロミドを用いた間欠的な維持治療を行う。維持治療の期間は原則として6ヶ月とするが、患者の状況を勘案して症例毎に異なっても良いものとする。
【0064】
(4)AFTV治療プロトコール
AFTVによる治療は、非特許文献11記載の方法に従った。投与回数は原則として1コース(AFTVを週1回、計3回皮内注射する)である。注射は、テモゾロミド服用中を避け、維持療法中の休薬期間内に行うことを原則とした。
【0065】
(5)結果
各群の症例について、累積全生存期間(Cumulative overall survival)のKaplan-Meierカーブを描いたのが
図2である。A、B、C群とも、術後12ヶ月を超えてから24ヶ月前後までは、生存率にほとんど差がなく漸減していくが、24ヶ月以後、明らかに差が開いてくる。特にB群、C群では、生存期間中央値(mOS)がそれぞれ24.4ヶ月、35.0ヶ月であるのに対し、A群では16ヶ月以後死亡例が出ておらず、長期生存者が増え、mOSが未達(N.R.)となっており、極めて良好な治療成績であった。
【0066】
A群の最長観察期間は40.6ヶ月と短いが(それでも非特許文献7のPDT治療最長観察期間32か月は超えている)、24ヶ月以上の生存例が16例中6例(38%)もあり、
図2の結果は安定していると解釈できる。また
図2からは、A群の3年生存率は67%と読み取れる。しかし、B群では3年生存率30%、C群では3年生存率49%であり、A群が明らかに高い。
【0067】
従って、ヒトの悪性新生物で最悪性とされている膠芽腫に有効な上記治療方法に習えば、悪性度が同等か又はより低い他の固形腫瘍の摘出術後の治療では、残留腫瘍細胞がある可能性が高い腫瘍摘出局所に光線力学的治療法を施行し、当該腫瘍の標準療法による抗がん剤投与中を避けて、自家腫瘍ワクチンを皮内注射すればよいことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の腫瘍ワクチンは、光線力学的治療法との組み合わせ治療により悪性腫瘍に対する治療有効性を顕著に高めることができ、最悪性とされている膠芽腫に対しても明らかに高い治療効果を示すことから、多種類の固形悪性腫瘍の治療、再発抑制、及び転移予防のために有用である。