(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】抗菌性成形体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 7/00 20060101AFI20231226BHJP
C08J 5/00 20060101ALI20231226BHJP
A61L 31/04 20060101ALI20231226BHJP
A61L 31/06 20060101ALI20231226BHJP
A61L 27/16 20060101ALI20231226BHJP
A61L 27/18 20060101ALI20231226BHJP
A61L 29/04 20060101ALI20231226BHJP
A61L 29/06 20060101ALI20231226BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20231226BHJP
A61L 15/26 20060101ALI20231226BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20231226BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20231226BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20231226BHJP
A61L 15/48 20060101ALI20231226BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20231226BHJP
A61L 15/64 20060101ALI20231226BHJP
A61L 27/58 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C08J7/00 303
C08J7/00 CEZ
C08J5/00 CER
A61L31/04 110
A61L31/06
A61L27/16
A61L27/18
A61L29/04 100
A61L29/06
A61L15/24 100
A61L15/26 100
A61L31/14
A61L27/50
A61L29/14
A61L15/48 100
A61L15/42 100
A61L27/50 300
A61L15/64 100
A61L31/14 500
A61L27/58
A61L29/14 500
(21)【出願番号】P 2020021393
(22)【出願日】2020-02-12
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 昌博
(72)【発明者】
【氏名】鬼澤 香代子
(72)【発明者】
【氏名】高村 渓太
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英治
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 恵一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 亜希
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/123990(WO,A1)
【文献】特開平10-295802(JP,A)
【文献】特開2019-154252(JP,A)
【文献】特開2005-36106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/00
C08J 5/00
A61L 31/04
A61L 31/06
A61L 27/16
A61L 27/18
A61L 29/04
A61L 29/06
A61L 15/24
A61L 15/26
A61L 31/14
A61L 27/50
A61L 29/14
A61L 15/48
A61L 15/42
A61L 15/64
A61L 27/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成形体を含む抗菌性成形体であって、
前記樹脂成形体は、
全突起数に対する、高さが最大である最大突起の高さの半分以上の高さを有する卓越突起の突起数の割合である、卓越突起割合が3%以上25%以下である、抗菌領域をその表面に有
し、
前記抗菌領域は、JIS B 0601(2013年)で規定される最大高さ粗さが100nm以上200nm未満であり、
前記抗菌領域は、断面長さ10μmあたりの全突起数が20以上50以下であり、
前記卓越突起は、高さの標準偏差が20nm以上60nm以下である、
抗菌性成形体。
【請求項2】
前記樹脂成形体は、大気圧プラズマ処理により前記抗菌領域が形成されている、請求項
1に記載の抗菌性成形体。
【請求項3】
前記樹脂成形体は、ポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアセタール(POM)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル系重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、およびポリグリコール酸(PGA)からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂を含む樹脂成形体である、請求項
1または2に記載の抗菌性成形体。
【請求項4】
前記樹脂成形体は、ポリ塩化ビニリデンまたはポリイミドを含む成形体である、請求項
3に記載の抗菌性成形体。
【請求項5】
包装、建築物の設備、家電、電子機器もしくはその周辺機器、自動車用部品、各種コーティング、医療器具、農業用品、文房具または身体装具である、請求項
1~4のいずれか1項に記載の抗菌性成形体。
【請求項6】
鉗子、シリンジ、ステント、人工血管、カテーテル、創傷被覆材、再生医療用足場材、癒着防止材、またはペースメーカーである、請求項
1~5のいずれか1項に記載の抗菌性成形体。
【請求項7】
樹脂成形体を用意する工程と、
前記樹脂成形体の表面に大気圧プラズマ処理を施して、
全突起数に対する、高さが最大である最大突起の高さの半分以上の高さを有する卓越突起の突起数の割合である卓越突起割合が3%以上25%以下であ
り、
JIS B 0601(2013年)で規定される最大高さ粗さが100nm以上200nm未満であり、断面長さ10μmあたりの全突起数が20以上50以下であり、前記卓越突起の高さの標準偏差が20nm以上60nm以下である、抗菌領域を前記表面に形成する工程と、を有する、
抗菌性成形体の製造方法。
【請求項8】
樹脂成形体を含む抗菌性成形体であって、
前記樹脂成形体は、JIS B 0601(2013年)で規定される最大高さ粗さが100nm以上
200nm未満であり、
前記最大高さ粗さ(Rz)の半分以上の高さを有する捕捉突起を複数有し、
前記複数の捕捉突起間の平均距離が1.5μm以上7μm以下であ
り、
前記複数の捕捉突起の高さの標準偏差が20nm以上60nm以下である、抗菌領域をその表面に有する、
抗菌性成形体。
【請求項9】
樹脂成形体を用意する工程と、
前記樹脂成形体の表面に大気圧プラズマ処理を施して、
JIS B 0601(2013年)で規定される最大高さ粗さが100nm以上
200nm未満であり、
前記最大高さ粗さ(Rz)の半分以上の高さを有する捕捉突起を複数有し、
前記複数の捕捉突起間の平均距離が1.5μm以上7μm以下であ
り、
前記複数の捕捉突起の高さの標準偏差が20nm以上60nm以下である、抗菌領域を前記表面に形成する工程と、を有する、
抗菌性成形体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗菌性成形体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗菌性物品は、消費者意識の高まりから多く市場に出回っている。抗菌性物品は、抗菌剤を含むコーティングを施したものや、銀ナノ粒子を包埋させたものであることが多いが、前者は抗菌活性が経時的に消失することがあり、また、後者はその抗菌活性が高すぎたりして生体への安全性から使用環境に制限がある。
【0003】
近年、表面にナノオーダーの表面凹凸構造を形成し、物理的な穿刺によって抗菌性を発現するといった技術について特許出願・論文投稿がなされている。たとえば、特許文献1および特許文献2には、樹脂組成物の表面に複数のナノサイズの突起を形成して、当該表面に抗菌性を付与する方法が記載されている。これらの文献に記載の方法によれば、おそらくは当該突起に接触した細菌が、突起に突き刺さって死滅することにより、抗菌性が発揮されると考えられる。このメカニズムであれば、昨今問題となっている多剤耐性菌に対しても高い抗菌効果が期待できる。
【0004】
具体的には、特許文献1には、上記突起間の間隔を細菌の大きさに比べて十分に小さくして細胞と接触しやすくし、かつ、上記突起をアスペクト比が大きく細菌が突き刺さり得る針状の形状にすることにより、抗菌性能を発揮された、抗菌性物品が記載されている。なお、特許文献1には、上記抗菌性物品の表面における純水の静的接触角が30°以下であると、当該表面が親水性となり、細菌が微小突起に突き刺さりやすくなることから、抗菌性が向上すると記載されている。特許文献1によれば、上記抗菌性物品は、所望の凹凸形状を有する原板を液体状の樹脂組成物の表面に押圧しながら、当該液体状の樹脂組成物を硬化させる方法で、作製することができる。
【0005】
また、特許文献2には、複数の凸部を有する合成高分子膜であって、当該合成高分子膜の法線方向から見たとき、当該複数の凸部の2次元的な大きさが20nm超500nm未満の範囲にある、合成高分子膜が記載されている。なお、特許文献2には、上記合成高分子膜の表面のヘキサデカンへの接触角が51°以下であると殺菌性が良好であるが、水の接触角(親水性)は殺菌作用に直接には関係していないと記載されている。特許文献2によれば、上記合成高分子膜は、陽極酸化ポーラスアルミナ層を型として紫外線硬化樹脂の表面に押圧しながら、当該紫外線硬化樹脂を硬化させる方法で、作製することができる。
【0006】
また、特許文献3には、微小突起間の距離の平均が1μm以下であり、微小突起の高さが80nm以上1000nm以下であり、微小突起の先端近傍が底部よりも細い形状である、複数の微小突起が配置された抗菌・抗カビ性物品が記載されている。特許文献3によれば、細菌の大きさは一般的に1μmであるため、微小突起の形状および配置を上記のようにすることで、細菌およびカビが微小突起間に入り込まずに微小突起の先端と接触し、微小突起の先端に突き刺さることにより、死滅するとされている。
【0007】
また、特許文献4には、高さが0.125μm以上の微小突起間の距離の平均が0.5μm超かつ5.0μm以下である、複数の微小突起が配置された抗菌性物品が記載されている。特許文献4によれば、微小突起間の距離の平均を0.5μm超かつ5.0μm以下とすることで、細菌を付着させつつ、微小突起への突き刺し等により滅菌させることができ、かつ作製が容易であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2016-093939号公報
【文献】特開2016-120478号公報
【文献】特開2016-215622号公報
【文献】特開2017-132916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~特許文献4に記載のように樹脂組成物の成形体の表面に複数のナノサイズの突起を形成してなる樹脂成形体は、抗菌剤を成形体の表面に付与してなる樹脂成形体と比較して、抗菌剤の剥離および脱落などによる抗菌性の低下が生じにくいことから、より長い期間にわたって抗菌性能を維持できると期待される。
【0010】
しかし、抗菌性物品には、抗菌性能をより高めることに対する要望が常に存在する。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、抗菌性能をより高めることができる抗菌性成形体およびその製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一態様に関する抗菌性成形体は、樹脂成形体を含む抗菌性成形体である。上記樹脂成形体は、卓越突起割合が3%以上25%以下である、抗菌領域をその表面に有する。
【0013】
また、上記課題を解決するための本発明の別の態様に関する抗菌性成形体は、樹脂成形体を含む抗菌性成形体である。上記樹脂成形体は、前記樹脂成形体は、JIS B 0601(2013年)で規定される最大高さ粗さが100nm以上500nm未満であり、前記最大高さ粗さ(Rz)の半分以上の高さを有する捕捉突起を複数有し、前記複数の捕捉突起間の平均距離が1.5μm以上7μm以下である、抗菌領域をその表面に有する。
【0014】
また、上記課題を解決するための本発明の別の態様に関する抗菌性成形体の製造方法は、樹脂成形体を用意する工程と、前記樹脂成形体の表面に大気圧プラズマ処理を施して、卓越突起割合が3%以上25%以下である、抗菌領域を前記表面に形成する工程と、を有する。
【0015】
また、上記課題を解決するための本発明の別の態様に関する抗菌性成形体の製造方法は、樹脂成形体を用意する工程と、前記樹脂成形体の表面に大気圧プラズマ処理を施して、JIS B 0601(2013年)で規定される最大高さ粗さが100nm以上500nm未満であり、前記最大高さ粗さ(Rz)の半分以上の高さを有する捕捉突起を複数有し、前記複数の捕捉突起間の平均距離が1.5μm以上7μm以下である、抗菌領域を前記表面に形成する工程と、を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、抗菌性能をより高めることができる抗菌性成形体およびその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1Aは、大気圧プラズマ処理を施さなかったLLDPEの粗さ曲線の一例であり、
図1Bは、大気圧プラズマ処理を施したLLDPEの粗さ曲線の一例である。
【
図2】
図2Aは、大気圧プラズマ処理を施さなかったPIの粗さ曲線の一例であり、
図2Bは、大気圧プラズマ処理を施したPIの粗さ曲線の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[抗菌性成形体]
(抗菌領域の表面形状(その1))
上記本発明の一の実施形態は、樹脂成形体を含む抗菌性成形体であって、上記樹脂成形体が、以下の方法により算出される卓越突起割合が3%以上25%以下である抗菌領域を有する、抗菌性成形体に関する。
【0019】
上記卓越突起割合は、公知の方法で測定して得られた上記抗菌領域の粗さ曲線から算出することができる。まず、当該粗さ曲線によって表される全ての高さの値を正の値にするため、高さの最低値が0となるよう粗さ曲線を垂直方向に平行移動させるオフセット処理、すなわち高さの最低値が縦座標において0となるよう全ての高さに一律に同一値を加算する加算処理を行う(以下、加算後のデータを「加算後ピーク曲線」ともいう。)。この加算後ピーク曲線について、全突起数を求める。また、加算後ピーク曲線に含まれる突起のうち、高さが最大である突起(以下、単に「最大突起」ともいう。)を特定し、最大突起の高さの半分以上の高さを有する突起(以下、単に「卓越突起」ともいう。)の数を求める。そして、全突起数に対する卓越突起数の割合(卓越突起数/全突起数:卓越突起割合)を計算することにより、卓越突起割合を算出することができる。
【0020】
上記粗さ曲線を得るための抗菌領域の測定は、接触式および非接触式のいずれの方法で行ってもよいが、一定以上の硬さを有する表面形状を識別しやすくする観点からは、物理的に分解能が高い接触式で測定することが好ましく、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて一次元測定することがより好ましい。また、上記粗さ曲線を得る際の解析長さは、任意に定めることができるが、25600nm(25.6μm)程度とすることが好ましい。なお、測定対象表面における一次元測定する方向は任意である。測定のサンプリングは6.23nm刻みで行うことが好ましい。
【0021】
また、粗さ曲線を得るための測定を行った領域による誤差の影響を少なくするため、上記卓越突起割合は、複数箇所(たとえば20箇所)について粗さ曲線を測定して算出された卓越突起割合の平均値とすることが好ましい。
【0022】
上記卓越突起割合は、抗菌領域に存在する突起のうち、最大突起の高さ(JIS B 0601(2013年)に規定する「最大高さ粗さRz」に相当)の半分以上の高さを有する突起がどの程度の割合で存在するかを示す指標である。卓越突起割合が適度に小さいことは、他の多数の突起よりも抜きん出て高い突起が、適度にまばらに存在することを意味する。
【0023】
そして、本実施形態では、抗菌領域における上記卓越突起割合を3%以上として、適度に多い数の卓越突起を抗菌領域に存在させている。これにより、上記抗菌領域は、卓越突起により細菌の移動を阻害し、これにより当該細胞の代謝を阻害して抗菌領域に存在する細胞の数を減少させることができると考えられる。
【0024】
また、本実施形態では、上記卓越突起割合を25%以下として、多くなりすぎない数の卓越突起を抗菌領域に存在させ、卓越突起が抗菌領域に適度にまばらに配置されるようにしている。これにより、卓越突起の間に細菌を入り込ませて、まばらに配置された卓越突起により細菌の移動を阻害しやすくし、これにより当該細胞の代謝を阻害して抗菌領域に存在する細胞の数を減少させることができると考えられる。
【0025】
一方で、たとえば特許文献1~特許文献4に記載のように、樹脂組成物に型を押し当てる方法で複数の突起を形成しようとすると、すべての突起が略同一の高さになりやすい(上記卓越突起割合が限りなく0%または100%に近づきやすい)。このとき、当該突起が形成された領域の表面に存在する細菌は、突起の間に入り込みにくく、複数の突起の先端にまたがるようにこれらの突起に接触しつつ、ある突起の先端から隣の突起の先端へと、突起の先端を伝って移動できてしまう。そのため、これらの文献に記載された形状では、細菌の移動を阻害して当該細菌の代謝を阻害することによる、細菌数の減少効果が奏されず、そのため抗菌作用が十分に高められていなかったと考えられる。
【0026】
上記観点から、抗菌領域における上記卓越突起割合は、3%以上25%以下であることが好ましく、4%以上20%以下であることがより好ましく、5%以上15%以下であることがさらに好ましい。
【0027】
なお、本明細書において、「突起」とは、粗さ曲線のうち高さ方向に対する局所的最大値である。粗さ曲線を構成する1つのデータに対して、その前後に隣接する2つのデータよりも大きいかどうかを判断し、大きい場合を局所的最大値とする。
【0028】
また、上記抗菌領域は、最大突起の高さ(最大高さ粗さRz)が100nm以上500nm未満であることが好ましい。最大突起の高さが100nm以上であると、十分な高さを有する卓越突起が抗菌領域にまばらに配置されることになり、また、卓越突起の間に細菌が入り込める大きさ(深さ)の空間が生じやすくなる。そのため、細菌の移動を阻害して当該細菌の代謝を阻害することによる細菌数の減少効果がより顕著になると考えられる。また、最大突起の高さが100nm以上であると、抗菌領域に存在する突起に細菌がより突き刺さりやすくなり、これにより抗菌性成形体の抗菌性がより高まると考えられる。一方で、最大突起の高さが500nm未満であると、卓越突起が他の突起(または抗菌領域の底面)に比べて高くなりすぎず、卓越突起の側面と他の突起の先端(または抗菌領域の底面)の両方で細菌を捕捉でき、細菌を捕捉できる面積をより大きくできるため、細菌の移動をより効果的に抑制できると考えられる。また、使用時に卓越突起が摩耗しにくくなり、抗菌性効果を維持しやすくなるほか、抗菌性成形体の外観も良好となる。
【0029】
上記観点から、抗菌領域における最大突起の高さは、100nm以上500nm未満であることがより好ましく、100nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
上記最大突起の高さは、上記卓越突起割合の算出時に作成した加算後ピーク曲線における、高さ要素(縦座標値)の最大値と最小値との差を算出することにより、求めることができる。粗さ曲線を得るための測定を行った領域による誤差の影響を少なくするため、上記最大突起の高さも、複数箇所(たとえば20箇所)について粗さ曲線を測定して算出された最大突起の高さの平均値とすることが好ましい。
【0031】
また、上記抗菌領域は、断面長さ10μmあたりの全突起数が20以上50以下であることが好ましい。上記全突起数が20以上であると、抗菌領域に卓越突起を適度に密に存在させることにより、卓越突起の間に細菌を捕捉しやすくして、細菌の移動を阻害しやすくすることができると考えられる。また、上記全突起数が50以下であると、抗菌領域に突起を適度にまばらに存在させることにより、隣り合う卓越突起の間の距離を適度に長くして、卓越突起の先端を伝っての細菌の移動を阻害しやすくすることができると考えられる。
【0032】
上記観点から、抗菌領域における断面長さ10μmあたりの全突起数は、20以上100以下であることがより好ましく、20以上50以下であることがさらに好ましい。また、上記断面長さ10μmあたりの卓越突起数は1以上7以下であることが好ましく、4以上7以下であることがより好ましい。
【0033】
上記断面長さ10μmあたりの全突起数は、上記卓越突起割合の算出時に求めた全突起数を、単位長さ10μmあたりの数に換算した値として、求めることができる。粗さ曲線を得るための測定を行った領域による誤差の影響を少なくするため、上記断面長さ10μmあたりの全突起数も、複数箇所(たとえば20箇所)について粗さ曲線を測定して算出された最大突起の高さの平均値とすることが好ましい。
【0034】
また、上記複数の卓越突起は、その高さの標準偏差が10nm以上60nm以下であることが好ましい。上記標準偏差が10nm以上だと、隣り合う突起間に高低差が生じ、一方の突起にぶつかった細菌が突起間の隙間に落ちやすいと考えられる。また、上記標準偏差が60nm以下だと、卓越突起の高低差が生じすぎ、高低差の低い側の卓越突起を足掛かりとして、卓越突起を乗り越える菌の移動を阻害できると考えられる。上記観点から、上記標準偏差は、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0035】
上記抗菌領域は、算術平均粗さRaが4nm以上13nm以下であることが好ましい。上記Raが4nm以上であると、上記抗菌領域に十分な高さ(深さ)の凹凸形状が形成されるため、上記凹凸形状の凹部に細菌を捕捉しやすくして、細菌の移動を阻害しやすくできると考えられる。一方で、上記Raが13nm以下であると、上記抗菌領域に形成された凹凸の高さが高すぎないため、凸部および凹部の両方で(凹凸形状が有する斜辺および底部の両方で)で細菌を捕捉でき、細菌を捕捉できる面積をより大きくできるため、細菌の移動をより効果的に抑制できると考えられる。また、使用時に凸部が摩耗しにくくなり、抗菌性効果を維持しやすくなるほか、抗菌性成形体の外観も良好となる。また成形体の外観が良好である。上記観点から、上記Raは、5nm以上12nm以下であることがより好ましく、6nm以上11nm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
また、上記抗菌領域は、十点平均粗さRzjisが100nm以上150nm以下であることが好ましい。上記Rzjisが100nm以上であると、上記抗菌領域に十分な高さ(深さ)の凹凸形状が形成されるため、上記凹凸形状の凹部に細菌を捕捉しやすくして、細菌の移動を阻害しやすくできると考えられる。一方で、上記Rzjisが150nm以下であると、上記抗菌領域に形成された凹凸の高さが高すぎないため、凸部および凹部の両方で(凹凸形状が有する斜辺および底部の両方で)で細菌を捕捉でき、細菌を捕捉できる面積をより大きくできるため、細菌の移動をより効果的に抑制できると考えられる。また、使用時に凸部が摩耗しにくくなり、抗菌性効果を維持しやすくなるほか、抗菌性成形体の外観も良好となる。上記観点から、上記Rzjisは、100nm以上150nm以下であることがより好ましく、110nm以上140nm以下であることがさらに好ましい。
【0037】
また、上記抗菌領域は、切断レベルを最大高さ粗さ(Rz)の半分としたときの負荷長さ率(Rmr(c))が1%以上20%未満であることが好ましい。上記Rmr(c)が1%以上であると、抗菌領域に卓越突起を適度に密に存在させることにより、卓越突起の間に細菌を捕捉しやすくして、細菌の移動を阻害しやすくすることができると考えられる。また、上記Rmr(c)が20%未満であると、抗菌領域に突起を適度にまばらに存在させることにより、隣り合う卓越突起の間の距離を適度に長くして、卓越突起の先端を伝っての細菌の移動を阻害しやすくすることができると考えられる。上記観点から、上記Rmr(c)は、1%以上16%以下であることがより好ましく、1%以上13%以下であることが特に好ましい。
【0038】
また、上記抗菌領域は、二乗平均平方根高さRqが6nm以上25nm以下であることが好ましい。上記Rqが6nm以上であると、突起の高さの分布幅がより大きくなり、上記抗菌領域に十分な数の高い突起を配置させて、上記高い突起により細菌の移動を阻害する効果をより発現させやすくすることができる。一方で、上記Rqが25nm以下であると、突起の高さの分布幅が大きすぎないため、卓越突起が他の突起(または抗菌領域の底面)に比べて高くなりすぎず、卓越突起の側面と他の突起の先端(または抗菌領域の底面)の両方で細菌を捕捉でき、細菌を捕捉できる面積をより大きくできるため、細菌の移動をより効果的に抑制できると考えられる。また、使用時に卓越突起が摩耗しにくくなり、抗菌性効果を維持しやすくなるほか、抗菌性成形体の外観も良好となる。上記観点から、上記Rqは、8nm以上20nm以下であることがより好ましく、10nm以上16nm以下であることがさらに好ましい。
【0039】
(抗菌領域の表面形状(その2))
上記本発明の別の実施形態は、樹脂成形体を含む抗菌性成形体であって、最大高さ粗さ(Rz)が100nm以上500nm未満であり最大高さ粗さ(Rz)の半分以上の高さを有する突起(以下、単に「捕捉突起」ともいう。)を複数有し、上記複数の捕捉突起のうち隣り合う捕捉突起間の距離の平均値が1.5μm以上7μm以下である、抗菌領域を有する、抗菌性成形体である。なお、突起間の距離とは突起の頂点間の距離のことを言う。
【0040】
上記抗菌領域は、最大高さ粗さが100nm以上であり、かつ、捕捉突起間の平均距離が1.5μm以上、好ましくは2μm以上、および、7μm以下であることにより、複数の捕捉突起間に細菌が入り込みやすくなり、捕捉突起によりその移動を抑制することができるので、より高い抗菌効果を有すると考えられる。上記観点から、捕捉突起間の平均距離は、2μm以上7μm以下であることが好ましい。なお、上記抗菌領域の最大高さ粗さが500nm未満であると、使用時に捕捉突起が摩耗しにくくなり、抗菌性効果を維持しやすくなるほか、抗菌性成形体の外観も良好となり、200nm以下であると、肉眼で見た時の樹脂成形体表面がより平滑に近く、美観を損ねないので好ましい。
【0041】
また、上記複数の捕捉突起は、断面長さ10μmあたりに、隣り合う捕捉突起間の距離が1.5μm以上7μm以下である捕捉突起の組(好ましくは2μm以上7μm以下である捕捉突起の組)を、0.5個以上有することが好ましい。上記捕捉突起の組が0.5個以上であると、抗菌領域に細菌を捕捉できる捕捉突起の組がより多く配置されることになるため、より高い抗菌効果を有すると考えられる。上記観点から、断面長さ10μmあたりの捕捉突起の組は、1.0個以上であることがより好ましく、1.5個以上であることがさらに好ましい。なお、上記断面長さ10μmあたりの捕捉突起の組の個数の最大値は特に限定されないものの、9個以下とすることができる。
【0042】
また、上記複数の捕捉突起は、隣り合う捕捉突起間に存在する突起(最大高さ粗さ(Rz)の半分未満の高さを有する、捕捉突起ではない突起)の高さの最大値が、上記隣り合う2つの捕捉突起の高さの平均値の、5%以上60%以下であることが好ましい。上記最大値が5%以上だと、隙間に侵入した細菌を下から抑えて移動を阻害しやすいと考えられる。また、上記最大値が60%以下だと、捕捉突起間の隙間に菌が侵入しやすいと考えられる。上記観点から、上記最大値は、5%以上60%以下であることがより好ましく、10%以上50%以下であることがさらに好ましい。
【0043】
また、上記複数の捕捉突起は、その高さの標準偏差が10nm以上60nm以下であることが好ましい。上記標準偏差が10nm以上だと、隣り合う突起間に高低差が生じ、一方の突起にぶつかった細菌が突起間の隙間に落ちやすいと考えられる。また、上記標準偏差が60nm以下だと、卓越突起の高低差が生じすぎ、高低差の低い側の卓越突起を足掛かりとして、卓越突起を乗り越える菌の移動を阻害できると考えられる。上記観点から、上記標準偏差は、20nm以上50nm以下であることがより好ましい。
【0044】
(抗菌領域の表面形状の測定)
なお、本明細書において、算術平均粗さRa、十点平均粗さRzjis、負荷長さ率tpおよび二乗平均平方根高さRq、および各突起の高さは、JIS B 0601(2013年)に準拠して定められるパラメータである。また、捕捉突起間の平均距離は、切断レベルが最大高さ粗さ(Rz)の半分である負荷長さの平均値により求められるパラメータである。これらのパラメータを算出するための粗さ曲線は、卓越突起割合の算出時に作成した粗さ曲線である。粗さ曲線を得るための測定を行った領域による誤差の影響を少なくするため、上記算術平均粗さRa、十点平均粗さRzjis、負荷長さ率Rmr(c)および二乗平均平方根高さRqも、複数箇所(たとえば20箇所)について粗さ曲線を測定して算出された最大突起の高さの平均値とすることが好ましい。
【0045】
(抗菌領域の抗菌性)
上記表面形状を有する抗菌領域は、多種多様な細菌に対する抗菌性を有する。たとえば、上記抗菌領域は、大腸菌、黄色ブドウ球菌、乳酸菌、および緑膿菌のうち少なくともいずれかに対する抗菌性を有し、好ましくは、大腸菌、黄色ブドウ球菌、および緑膿菌のうち少なくともいずれかに対する抗菌性を有し、少なくとも大腸菌および黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を有する。
【0046】
なお、本明細書において、抗菌とは、その媒体に存在する細菌を死滅させること、および細菌を不活化して増殖を抑制させることの両方を意図している。また、本明細書において、抗菌性を有するとは、細菌を接種し、接種直後および接種から24時間後に、JIS Z 2801(2012年)に記載の方法と同様の方法で生菌数を測定して求められる、Δlog菌数(未加工サンプルの24時間後の生菌数の対数値-表面が上記抗菌領域である評価用サンプルの24時間後の生菌数の対数値)が2.0以上であることを意味する。なお、Δlogは、3.0以上であることがより好ましく、4.0以上であることがさらに好ましい。
【0047】
(樹脂成形体の形状)
上記樹脂成形体は、樹脂組成物が所定の形状あるいは不定の形状に成形されて、形状を付与されてなる成形体であればよい。上記樹脂成形体の形状は特に限定されず、上記抗菌性成形体の用途などに応じて任意に選択することができる。たとえば、上記成形体は、フィルム状、シート状、チューブ状、リング状、バルク状(たとえば、立方体、直方体、円柱状、および球状など)、板状、袋状、繊維状、網目状、ならびにこれらを加工してなる3次元立体構造などの所定の形状を有するか、または無定形の形状を有することができる。
【0048】
たとえば、フィルム状またはシート状であるとき、上記樹脂成形体の厚みは、1μm以上1000μm以下であることが好ましく、3μm以上800μm以下であることがより好ましく、5μm以上500μm以下であることがさらに好ましく、10μm以上300μm以下であることが特に好ましい。
【0049】
本発明は、樹脂成形体の表面に上記抗菌領域を形成することにより、射出成形等により大量生産が可能であり、設計の自由度が高く様々な形状に加工でき、柔軟であり様々な形状に張り付け付与でき、さらには金属と比較し抗菌性成形体を軽量化できるという利点がある。
【0050】
上記抗菌領域は、上記樹脂成形体の表面のうち少なくとも一部であればよいが、上記樹脂成形体の表面の全体が上記抗菌領域であってもよい。また、上記抗菌領域は、多面体などの複数の表面を有する上記樹脂成形体の、上記複数の表面のうち全ての表面に形成されていてもよいし、少なくとも1つの表面(当該表面の全体、または当該表面に含まれる一部の領域)に形成されていてもよい。あるいは、上記抗菌領域は、球状体などの1つの表面を有する上記樹脂成形体の、上記1つの表面の全体または当該1つの表面に含まれる一部の領域に形成されていてもよい。
【0051】
上記抗菌領域は、樹脂成形体のうち、抗菌性成形体の細菌が接触可能な表面となる面に形成されている。細菌が接触可能な表面とは、抗菌性成形体の使用時、待機時および保管時などに、外部の細菌が接触する可能性があるような、抗菌性成形体の表面を意味する。たとえば、上記抗菌領域は、抗菌性成形体を使用する際に使用者が接触する部位に形成されていてもよい。また、使用時に水流や気流があたる部位などのような、細菌との接触の機会が多いことが予測できる部位や、食品、医薬品または生体などと接触する部分などが予測できる部位があるときは、少なくとも当該部分に上記抗菌領域が形成されていてもよい。上記樹脂成形体が袋状および管状などの形状を有するときは、その内表面に上記抗菌領域が形成されていてもよい。また、シール処理や蓋などにより、非使用時には抗菌領域が外部に露出していなくてもよい。
【0052】
(樹脂成形体の材料)
上記樹脂成形体は、樹脂を含む組成物(樹脂組成物)を成形してなる成形体であればよい。上記樹脂組成物は、たとえばその全質量に対して30質量%以上の上記樹脂を含む。上記樹脂組成物は、上記抗菌性成形体の用途などに応じてその特性を調整するための添加剤を任意に含有してもよい。上記添加剤の例には、公知のフィラー(充填剤)、滑剤、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止材、抗酸化剤、着色剤(染料、顔料)などが含まれる。これらの添加剤は、本発明の効果を阻害しない範囲で最適な組み合わせを選択して用いればよい。また、用途や所望によっては、他の添加剤として有機物質(他の重合体でもよい)および金属ナノ粒子などの無機物質を用いてもよい。
【0053】
上記樹脂の種類は、上記抗菌性成形体の用途などに応じて任意に選択することができる。上記樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし、硬化性樹脂であってもよい。硬化性樹脂は、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化樹脂であってもよい。また、上記樹脂は、結晶性の樹脂であってもよいし、非結晶性の樹脂であってもよい。また、上記樹脂は、合成ゴムおよび天然ゴムなどのゴムであってもよい。なお、本発明者らの知見によれば、結晶性の樹脂を含む樹脂成形体は加工しやすく、非結晶性の樹脂を含む樹脂成形体と比べて、たとえば後述する大気圧プラズマ処理の条件が穏和であり、それによって抗菌性を付与されやすい。ただし、結晶性樹脂以外の樹脂を含む樹脂成形体であっても、大気圧プラズマ処理条件などを適切に調整すれば、十分に抗菌性を付与することは可能である。
【0054】
上記樹脂の例には、ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、および高密度ポリエチレン(HDPE)などを含む。)、ポリプロピレン、その他のポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、非芳香族ポリアミド(ナイロン6、ナイロン66およびナイロン12などを含む。)、非芳香族ポリイミド、ポリアセタール(POM)、ポリウレタン、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル系重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、およびポリグリコール酸(PGA)、ポリスチレン(PS)、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、およびポリブチレンナフタレート(PBN)などを含む。)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、半芳香族ポリアミド(ナイロン6Tおよびナイロン9Tなどを含む。)、全芳香族ポリアミド、半芳香族ポリイミド、全芳香族ポリイミド、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリフェノール系樹脂、エポキシ樹脂などが含まれる。
【0055】
上記合成ゴムの例には、イソプレンゴム(IR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、エチレン・プロピレンゴム(EPM)、およびその他の熱可塑性エラストマー(SEBS、SBS、およびSEPSなどを含む)などが含まれる。
【0056】
これらの樹脂のうち、ポリオレフィン系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアミド(PA)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアセタール(POM)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリウレタン、エチレン-ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル系重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリ乳酸(PLA)、ポリカプロラクトン(PCL)、およびポリグリコール酸(PGA)が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレートおよびポリフェニレンスルフィドがより好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリイミドおよびポリフェニレンスルフィドがさらに好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミドおよびポリ塩化ビニリデンがさらに好ましく、ポリイミドおよびポリ塩化ビニリデンが特に好ましい。
【0057】
(抗菌性成形体の態様)
上記抗菌性成形体は、上記抗菌領域を表面に有する樹脂成形体を含めばよく、その全体が上記樹脂成形体からなるものであってもよいし、上記樹脂成形体と上記抗菌領域を表面に有さない他の樹脂成形体との複合体であってもよいし、上記樹脂成形体と金属またはセラミックスとの複合体であってもよい。なお、「抗菌性成形体」とは、上記抗菌領域により抗菌性を付与された成形体であり、抗菌性成形体そのものが抗菌用途に用いられるものであってもよいし、抗菌性成形体が有する本来の用途に加えて、抗菌性が付与された成形体であってもよい。
【0058】
(抗菌性成形体の用途)
上記抗菌性成形体は、包装、建築物の設備、家電、電子機器およびその周辺機器、自動車用部品、各種コーティング、医療器具、農業用品、文房具ならびに身体装具などを含む、広汎な用途に使用可能である。なお、上記抗菌性成形体の使用の態様には、上記抗菌性成形体がこれらの用途に使用される物品であることや、上記抗菌性成形体をこれらの物品の一部として組み入れることなどが含まれる。
【0059】
たとえば、上記包装用途に使用するとき、上記抗菌性成形体は、他の物品の包装に用いるフィルムやシートなどの外表面または内表面に上記抗菌領域を形成して、包装される物品への細菌の侵入を予防し、上記包装される物品の保存性を高めることもできる。
【0060】
上記建築物の設備の例には、トイレおよび便座シート、洗面化粧台、上下水の配管、足拭きマット、内装材、ならびに扉などの把手、手すりおよびスイッチなどの日常的に人の手が触れる物品などが含まれる。
【0061】
上記家電の例には、炊飯器、電子レンジ、冷蔵庫、アイロン、ヘアードライヤー、エアコンおよび空気清浄機などが含まれる。
【0062】
上記電子機器およびその周辺機器の例には、ノートパソコン、スマートフォン、タブレット、デジタルカメラ、医療用電子機器、POSシステム、プリンター、テレビ、マウスおよびキーボードなどが含まれる。
【0063】
上記自動車用部品の例には、ハンドル、シート、シフトレバーおよび各種配管が含まれる。
【0064】
上記包装の例には、医薬品および食品などの包装が含まれる。
【0065】
上記コーティングの例には、工場、手術室、保存庫および輸送用コンテナなどの、壁面、床面および天井へのコーティングなどが含まれる。
【0066】
上記医療器具の例には、鉗子、シリンジ、ステント、人工血管、カテーテル、創傷被覆材、再生医療用足場材、癒着防止材、およびペースメーカーなどが含まれる。
【0067】
上記農業用品の例には、農業ハウス用の展張フィルムなどが含まれる。
【0068】
上記身体装具の例には、上着および下着などを含む衣類、帽子、靴、手袋、おむつ、ならびにナプキンおよびその収納袋などが含まれる。
【0069】
また、上記抗菌性成形体は、建築物の設備、身体装具、食器、飲料および食料品などに接触させて、これらに含まれる細菌を殺菌するために使用することができる。
【0070】
[抗菌性成形体の製造方法]
上記抗菌性成形体は、樹脂成形体の表面に、卓越突起割合が上述した範囲内となるように微小突起を形成する方法で、作製することができる。あるいは、成形後の樹脂成形体の表面における卓越突起割合が上述した範囲内となるように、樹脂成形体を成形する方法で、作製することができる。
【0071】
上記表面処理の方法は特に限定されないが、大気圧プラズマ、低圧プラズマ、ブラスト法、放電加工、原子状酸素照射、大気圧プラズマ処理が好ましく、低圧プラズマ、大気圧プラズマ処理が特に好ましい。
【0072】
具体的には、まず、表面に抗菌領域を形成すべき、樹脂組成物を含む成形体を用意する。上記樹脂成形体の材料および形状は、樹脂成形体について上述したとおりである。
【0073】
上記大気圧プラズマ処理は、放電空間(電極間)に配置した上記樹脂組成物を含む成形体の表面を直接的にプラズマ処理するダイレクト型の大気圧プラズマ処理でもよいし、放電空間で発生したプラズマを気流により上記樹脂組成物を含む成形体の表面に吹き付けるリモート型(吹き付け型)の大気圧プラズマ処理でもよい。これらのうち目的の微小突起を広範囲かつ均質に作製する観点から、ダイレクト型が好ましい。
【0074】
上記放電空間の圧力は、2701Pa以上であることが好ましく、大気圧であることがより好ましい。
【0075】
上記放電空間は、対向して配置した電極であり、この電極間に電圧を印加して放電させることにより、プラズマを発生させる。上記樹脂組成物を含む成形体の表面をこの発生したプラズマにさらすことにより、上述した抗菌領域を形成することができる。
【0076】
このとき印加する電圧は、通常は交流電源から印加される高電圧であり、たとえば周波数が50Hz以上、電圧が0.1~10kW程度であればよい。
【0077】
上記電極は、金属体または金属体の表面を誘電体で被覆したものであり、平板上、棒状、ワイヤー状、およびロール状などの任意の形状であってよい。
【0078】
上記対向した電極間の距離は、0.1~20mm程度であればよい。
【0079】
上記対向した電極間の空気(放電ガス)は、大気、窒素ガス、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノンおよびラドンなどの不活性ガスを主体とするガスであることが好ましい。また、大気圧プラズマ処理の効率を高める観点から、上記ガスは、0.1~50%程度の酸素を含有することが好ましい。
【0080】
上記大気圧プラズマ処理の時間は特に限定されず、たとえば1分以上60分とすることができる。
【0081】
なお、これらの諸条件は、樹脂成形体の材料となる樹脂組成物の種類等に応じて、卓越突起割合が上述した範囲内となるように適宜設定すればよい。
【0082】
また、表面の形状を調整した射出成形用の金型などを用いて、卓越突起割合が上述した範囲内となるように微小突起が表面に形成された樹脂成形体を成形してもよい。あるいは、成形後の樹脂成形体の表面に型を押しつけて、卓越突起割合が上述した範囲内となるように微小突起を当該樹脂成形体の表面に形成してもよい。
【0083】
[抗菌方法]
上記抗菌性成形体は、各種抗菌方法に使用することができる。
【0084】
具体的には、上記抗菌性成形体を、細菌を含む液体、固体または気体に接触させることにより、接触した液体中、固体表面または気体中に含まれる細菌を死滅させ、上記液体、固体または気体を殺菌することができる。
【0085】
上記接触は、公知の方法で行えばよい。たとえば、液体との接触は、流動または静止する当該液体への上記抗菌性成形体の浸漬、当該液体の上記抗菌性成形体への噴射または噴霧、および、当該液体の上記抗菌性成形体への塗布または滴下などの方法により行うことができる。また、固体との接触は、静止またはスライドする当該固体の表面への、静止またはスライドする上記抗菌性成形体の当接または押しつけなどの方法により行うことができる。また、気体との接触は、流動または静止する当該気体を含む雰囲気内への上記抗菌性成形体の静置、および、当該気体の上記抗菌性成形体への噴射などの方法により行うことができる。
【実施例】
【0086】
以下、本発明の具体的な実施例を比較例とともに説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
[実験1]
1-1.抗菌性成形体の作製
1-1-1.樹脂組成物の成形体の用意
樹脂組成物の成形体として、以下の基材フィルムを用意した。基材フィルムのサイズは、280mm×180mmの正方形状だった。
ポリエチレン(LLDPE): 三井化学東セロ株式会社製、TUS-TCS#60、厚さ53μm
ポリ塩化ビニリデン(PVDC): 株式会社クレハ製、厚さ45μm
ポリフッ化ビニリデン(PVDF): 株式会社クレハ製、厚さ16μm
ポリイミド(PI): 東レ・デュポン株式会社製、Kapton200H、厚さ53μm
【0088】
1-1-2.表面処理
上記基材フィルムの表面を、異なる条件で大気圧プラズマ処理した。
【0089】
1-2.評価
1-2-1.原子間力顕微鏡(AFM)による測定
大気圧プラズマ処理前および大気圧プラズマ処理後の各基材フィルムの表面形状を、原子間力顕微鏡(AFM)により以下の条件で測定した。
(測定機器)
セイコーインスツル株式会社製、原子間力顕微鏡、SPI3800N/SPA300HV
(測定条件)
走査範囲: 25.6μm×25.6μm
測定モード: コンタクトモード
サンプリング分解能: 6.23nm
雰囲気: 大気
温度: 室温
カンチレバー:
ばね定数: 0.1N/m
ねじればね定数: 227.2N/m
共振周波数: 19kHz
スキャナ感度:
X方向: 270nm/V
Y方向: 270nm/V
Z方向: 22nm/V
バイアス電圧: 0V
【0090】
上記測定により得られた表面形状から、以下の条件で粗さ曲線を導出した。
(ソフトウェア)
セイコーインスツル株式会社製、Nano Navi
(導出状件)
解析種類: 任意断面プロファイル
解析長さ(一次元): 25600nm(25.6μm)
カットオフ価: 3163nm(設定値:3000nm)
【0091】
matlab findpeaks数により、このようにして得られた粗さ曲線から、最大高さの値および全突起数を求めた。
【0092】
また、このようにして得られた粗さ曲線のデータの高さ要素(縦座標値)に対し、粗さ曲線の最低値を加算して全ての高さ要素の値を正の値とした(加算後ピーク曲線)。その後、matlab findpeaks数により、加算後ピーク曲線に存在するピーク数(全突起数)、および加算後ピーク曲線の最大値の半分以上の高さを有するピーク数(卓越突起数)を求めた。そして、全突起数に対する卓越突起数の割合(卓越突起数/全突起数:卓越突起割合)を算出した。
【0093】
任意の20断面について、表面形状の観察および粗さ曲線の導出を行い、得られた最大高さ、全突起数および卓越突起割合の平均値を求めた。
【0094】
任意の20断面について、表面形状の観察および粗さ曲線の導出を行い、算術平均粗さRa、十点平均粗さRzjis、負荷長さ率tpおよび二乗平均平方根高さRqの平均値を求めた。
【0095】
1-2-2.抗菌性
上記各サンプルの黄色ブドウ球菌に対する抗菌性を評価した。具体的には、JIS Z 2801(2012年)に記載の方法と同様に、以下の黄色ブドウ球菌を接種し、以下の条件で24時間培養した。なお、各評価用サンプルには、抗菌領域に黄色ブドウ球菌が付着するように、播種を行った。
(菌種)
黄色ブドウ球菌: Staphylococcus aureus, NBRC No. 12732
(培養条件)
温度: 35℃±1℃
(生菌数の測定)
使用培地: 標準寒天培地
【0096】
接種直後および接種から24時間後に、JIS Z 2801(2012年)に記載の方法を参考にして生菌数を測定し、Δlog菌数(比較用(未加工)サンプルの24時間後の生菌数の対数値-それぞれの評価用サンプルの24時間後の生菌数の対数値)を求めた。大腸菌または黄色ブドウ球菌のΔlogが2.0以上の場合、抗菌性ありと判断した。
【0097】
表1に、各基材フィルムの表面形状(最大高さ粗さRz、10μmあたりに換算した全突起数、10μmあたりに換算した卓越突起数、および卓越突起割合の平均値)ならびにΔlogを示す。
【0098】
【0099】
参考のため、各基材フィルムの他の表面形状(算術平均粗さRa、十点平均粗さRzjis、負荷長さ率Rmr(c)および二乗平均平方根高さRqの平均値)を表2に示す。
【0100】
【0101】
表3に、各基材フィルムの表面形状(捕捉突起間距離、および捕捉突起高さの標準偏差)ならびにΔlogを示す。
【0102】
【0103】
図1Aは、大気圧プラズマ処理を施さなかったLLDPEの粗さ曲線の一例であり、
図1Bは、大気圧プラズマ処理を施したLLDPEの粗さ曲線の一例である。また、
図2Aは、大気圧プラズマ処理を施さなかったPIの粗さ曲線の一例であり、
図2Bは、大気圧プラズマ処理を施したPIの粗さ曲線の一例である。
【0104】
表1から明らかなように、卓越突起割合が3%以上25%以下であるサンプルは、卓越突起割合が上記範囲から外れるサンプルよりも、抗菌性能に優れていた。
【0105】
また、
図1A、
図1Bおよび
図2Aと、抗菌性能に優れたサンプルの粗さ曲線を示す
図2Bとの比較により、他の突起よりも高さが高い突起(卓越突起)が適度にまばらに存在することで、抗菌性能が高まることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明の抗菌性成形体は、殺菌・抗菌作用が望まれる各種用途に使用することができる。