(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】口唇保護シート及び保護シートの態様変換方法
(51)【国際特許分類】
A61C 5/90 20170101AFI20231226BHJP
A61C 19/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61C5/90
A61C19/00 L
(21)【出願番号】P 2020074512
(22)【出願日】2020-04-20
【審査請求日】2023-01-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000151427
【氏名又は名称】株式会社東京技研
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 啓介
(72)【発明者】
【氏名】森田 奈留
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-221123(JP,A)
【文献】登録実用新案第3214805(JP,U)
【文献】米国特許第04344758(US,A)
【文献】特表2015-504845(JP,A)
【文献】特開2011-254958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/90
A61C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状に形成され、
人の口を覆う基部と、
前記基部の第1の方向における第1の端部に、前記基部よりも狭い第1の幅で接続して外方に張り出した第1張り出し部と、
前記基部の前記第1の方向における前記第1の端部とは反対側の第2の端部に、前記基部よりも狭い第2の幅で接続して外方に張り出した第2張り出し部と、
前記基部に形成され、前記第1の方向に延びる基切込み部と、前記基切込み部の前記第1の方向の両端部又は前記両端部の近傍においてそれぞれ前記基切込み部と交差して形成された第1交差切込み部及び第2交差切込み部と、を有する切込み形成部と、を備えた口唇保護シート。
【請求項2】
前記第1交差切込み部は前記第1張り出し部の側に形成され、前記第2交差切込み部は前記第2張り出し部の側に形成されており、
前記第1交差切込み部の長さは前記第1の幅と略等しく、前記第2交差切込み部の長さは前記第2の幅と略等しいことを特徴とする請求項1記載の口唇保護シート。
【請求項3】
前記基切込み部は、前記基部の前記第1の方向に直交する方向の幅に対し、中央よりも第1の側に偏った位置に形成されていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の口唇保護シート。
【請求項4】
前記基切込み部は直状であり、前記基切込み部を含む仮想直線を設定したときに、前記第1張り出し部及び前記第2張り出し部は、前記仮想直線に対する前記第1の側の面積よりも前記第1の側とは反対側の第2の側の面積の方が大きいことを特徴とする請求項3記載の口唇保護シート。
【請求項5】
前記基切込み部は、中央位置に前記第1の方向と直交する第2の方向に延びる中央切込み部を有することを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の口唇保護シート。
【請求項6】
前記第1交差切込み部及び前記第2交差切込み部における前記基切込み部に対する一方側の部分が、前記基切込み部から離れるほど互いに接近するように形成されていることを特徴とする請求項1記載の口唇保護シート。
【請求項7】
保湿剤を含有していることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の口唇保護シート。
【請求項8】
前記基切込み部は、連結部を挟んで分割された複数の分割切込み部を含み、前記連結部は人の手で切断できることを特徴とする請求項1記載の口唇保護シート。
【請求項9】
保護シートの
態様変換方法であって、
前記保護シートを、
第1の方向に長い概ね四角形状の基部と、
前記基部の
前記第1の方向における第1の端部に前記基部よりも狭い第1の幅で接続して外方に張り出した第1張り出し部と、
前記基部の前記第1の端部に対し前記第1の方向における反対側となる第2の端部に前記基部よりも狭い第2の幅で接続して外方に張り出した第2張り出し部と、
前記基部に形成された前記第1の方向に延びる基切込み部を含む切込み形成部と、を有するシート状に形成して
第1態様とし、
前記第1張り出し部及び前記第2張り出し部を折り返し、前記切込み形成部を通して
反対側へ引き出して第2態様とする、
保護シートの
態様変換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、口唇保護シート及び保護シートの態様変換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、歯を漂白する施術において、開口器(開唇器)と共に用いられる開唇器カバーが記載されている。特許文献1において、開唇器カバーは、ガーゼ若しくはフレキシブルな布地などからなり、飛沫、照射光、漂白用ジェルの刺激から患者の顔を保護する前掛けとして機能するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯を漂白するというような美容目的の施術、並びに、歯科及び口腔外科などの治療は、通常、開口状態を維持して行われるので、口唇の粘膜を傷つけないよう注意が払われる。
特許文献1に記載された開唇器カバーは、開唇器を使用しない施術及び治療に用いることができないので、使い勝手の改善が望まれている。また、特許文献1に記載された開唇器カバーは、顔の表面における口唇の近傍部位を保護できるものの、口腔内も含めた口唇全体の粘膜を保護できないので、口唇を良好に保護できることが望まれている。
【0005】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、使い勝手がよく口唇を良好に保護できる口唇保護シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明は次の構成、手順を有する。
1) シート状に形成され、
人の口を覆う基部と、
前記基部の第1の方向における第1の端部に、前記基部よりも狭い第1の幅で接続して外方に張り出した第1張り出し部と、
前記基部の前記第1の方向における前記第1の端部とは反対側の第2の端部に、前記基部よりも狭い第2の幅で接続して外方に張り出した第2張り出し部と、
前記基部に形成され、前記第1の方向に延びる基切込み部と、前記基切込み部の両端部又は両端部の近傍においてそれぞれ前記基切込み部と交差して形成された第1交差切込み部及び第2交差切込み部と、を有する切込み形成部と、を備えた口唇保護シートである。
2) 前記第1交差切込み部は前記第1張り出し部の側に形成され、前記第2交差切込み部は前記第2張り出し部の側に形成されており、
前記第1交差切込み部の長さは前記第1の幅と略等しく、前記第2交差切込み部の長さは前記第2の幅と略等しいことを特徴とする1)に記載の口唇保護シートである。
3) 前記基切込み部は、前記基部の前記第1の方向に直交する方向の幅に対し、中央よりも第1の側に偏った位置に形成されていることを特徴とする1)又は2)に記載の口唇保護シートである。
4) 前記基切込み部は直状であり、前記基切込み部を含む仮想直線を設定したときに、前記第1張り出し部及び前記第2張り出し部は、前記仮想直線に対する前記第1の側の面積よりも前記第1の側とは反対側の第2の側の面積の方が大きいことを特徴とする3)に記載の口唇保護シートである。
5) 前記基切込み部は、中央位置に前記第1の方向と直交する第2の方向に延びる中央切込み部を有することを特徴とする1)~4)のいずれか一つに記載の口唇保護シートである。
6) 前記第1交差切込み部及び前記第2交差切込み部における前記基切込み部に対する一方側の部分が、前記基切込み部から離れるほど互いに接近するように形成されていることを特徴とする1)に記載の口唇保護シートである。
7) 保湿剤を含有していることを特徴とする1)~6)のいずれか一つに記載の口唇保護シートである。
8) 前記基切込み部は、連結部を挟んで分割された複数の分割切込み部を含み、前記連結部は人の手で切断可能であることを特徴とする1)に記載の口唇保護シートである。
9) 保護シートの態様変換方法であって、
前記保護シートを、
第1の方向に長い概ね四角形状の基部と、
前記基部の前記第1の方向における第1の端部に前記基部よりも狭い第1の幅で接続して外方に張り出した第1張り出し部と、
前記基部の前記第1の端部に対し前記第1の方向における反対側となる第2の端部に前記基部よりも狭い第2の幅で接続して外方に張り出した第2張り出し部と、
前記基部に形成された前記第1の方向に延びる基切込み部を含む切込み形成部と、を有するシート状に形成して第1態様とし、
前記第1張り出し部及び前記第2張り出し部を折り返し、前記切込み形成部を通して反対側へ引き出して第2態様とする、
保護シートの態様変換方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、使い勝手がよく口唇を良好に保護できる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る口唇保護シートの実施例である口唇保護シート91を示す平面図である。
【
図2】
図2は、口唇保護シート91を口82に装着する手順の中間段階を説明するための平面図である。
【
図3】
図3は、口唇保護シート91を口82に装着する手順を示す第1の正面図である。
【
図4】
図4は、口唇保護シート91を口82に装着する手順を示す第2の正面図である。
【
図5】
図5は、口唇保護シート91を口82に装着する手順を示す第3の正面図である。
【
図6】
図6は、口唇保護シート91を口82に装着する手順を示す第4の正面図である。
【
図7】
図7は、口唇保護シート91の
図6に示された状態を、口82の内側から見た図である。
【
図8】
図8は、口唇保護シート91を、第1の態様で口82に装着した状態を示す正面図である。
【
図9】
図9は、
図8におけるS9-S9位置での断面図である。
【
図11】
図11は、口唇保護シート91を、第2の態様で口82に装着した状態を示す正面図である。
【
図13】
図13は、口唇保護シート91を第2の態様で口82に装着した上に、さらに開口器7を取り付けた状態を示す正面図である。
【
図14】
図14は、歯肉保護ダム61の塗布作業を示す正面図である。
【
図15】歯肉保護ダム61,62を塗布した状態を示す
図4におけるS15-S15位置に相当する断面図である。
【
図16】口唇保護シート91の取り外し作業を説明する断面図である。
【
図17】変形例の口唇保護シート91Cを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施の形態に係る口唇保護シートを、実施例の口唇保護シート91により説明する。
【0010】
(実施例)
図1は、口唇保護シート91の正面図である。説明の便宜上、上下左右の各方向を、
図1に矢印で規定する。この上下左右方向は、顔の上下左右に対応させており、
図1及び
図2の左右方向は、
図3などの顔の正面図との整合のため紙面の実際の左右方向とは逆になっている。また、左右方向を第1の方向、上下方向を第2の方向とも称する。
【0011】
口唇保護シート91は、柔らかで折り曲げ可能なシート材で形成されたシート状部材である。シート材の例は、布であり、詳細例は不織布である。このシート材は、液剤或いはジェル剤を含浸可能であってもよい。
口唇保護シート91は、基部1と、基部1から左右にそれぞれ張り出した第1張り出し部2及び第2張り出し部3と、基部1に形成されたH字状の切込み形成部11とを有するものであり、以下に詳述する。
【0012】
口唇保護シート91は、左右に長い概ね四角形状の基部1と、基部1の右端部1c(第1の端部)からさらに右外方に張り出した第1張り出し部2と、基部1の左端部1d(第2の端部)からさらに左外方に張り出した第2張り出し部3とを有する。口唇保護シート91は、この例において、上下方向は非対称形状とされ、左右方向は上下に延びる中心線CL1に対して対称形状とされている。
【0013】
基部1は、外形形状が、左右方向の中央部から左端部1d及び右端部1cに向かうに従って上下方向の幅がわずかに小さくなるように形成されている。
基部1は、上縁の左右方向中央部に、下方を頂点とする三角形状で切り込まれた鼻逃げ部1aを有し、下縁の左右方向中央部に、上方にわずかに抉られた顎逃げ部1bを有する。
【0014】
基部1は、概ね中央となる部位に切込み形成部11を有する。切込み形成部11は、左右方向については基部1の中央位置に、上下方向については基部1の中央よりも少し上方よりの位置に設けられている。
【0015】
切込み形成部11は、基切込み部11a,第1交差切込み部11b,及び第2交差切込み部11cを有する。
基切込み部11aは、基部1の上下方向の中央から少し上側(第1の側)に偏った位置において、左右方向に長さL11aで、中心線CL1に対し左右均等に延びる切込みとして形成されている。基切込み部11aは、例えば直状に形成されている。
長さL11aは、平均的な人の口82(
図3参照)の幅と概ね同じ長さとなるように設定されている。
【0016】
切込み形成部11は、基切込み部11aの左右中央位置に接続し中心線CL1上に上方にわずかな長さで切り込まれた中央上切込み部11a1と、基切込み部11aの左右中央位置に接続し中心線CL1上に下方にわずかな長さで切り込まれた中央下切込み部11a2とを有する。
【0017】
切込み形成部11は、基切込み部11aの両端部又は両端部近傍に交差する、第1交差切込み部11b及び第2交差切込み部11cを有する。
具体的には、第1交差切込み部11bは、基切込み部11aの右端又は右端近傍に交差して接続すると共に、上下方向の上方に向け切り込まれた直状の第1交差上切込み部11b1と、左下方に向け角度θaで斜めに切り込まれた直状の第1交差下切込み部11b2とを有する。
詳しくは、第1交差下切込み部11b2は、下方に向かうに従って中央に向かうように上下方向に対して角度θaだけ傾いて形成されている。
第1交差切込み部11bは、基切込み部11aを上下方向の中心にして長さL11bで形成されている。
第1交差上切込み部11b1及び第1交差下切込み部11b2は、それぞれ直状に限定されず、曲状或いは直状と曲状との混合形状であってもよい。
【0018】
第2交差切込み部11cは、基切込み部11aの左端に交差して接続すると共に、上下方向の上方に向け直状に切り込まれた第2交差上切込み部11c1と、右下方に向け斜めに直状に切り込まれた第2交差下切込み部11c2とを有する。
第2交差下切込み部11c2は、下側に向かうに従って中央に向かうように上下方向に対して角度θbだけ傾いて形成されている。
第2交差切込み部11cは、基切込み部11aを上下方向の中心にして長さL11cで形成されている。
第2交差上切込み部11c1及び第2交差下切込み部11c2は、直状に限定されず、曲状であってもよい。
角度θaと角度θbとは、等しく設定される。角度θa及び角度θbは、例えば5°~30°の範囲で設定され、詳細例は10°である。
このように、第1交差下切込み部11b2と第2交差下切込み部11c2は、基切込み部11aから離れるほど互いに接近するように形成されている。
【0019】
第1張り出し部2は、基部1の右端部1cに接続部2sで接続し、さらに右方に張り出して形成されている。
第1張り出し部2は、上下方向の最大の幅L2が、接続部2sの上下方向の幅(第1の幅)である第1根本長さL2aよりも大きくなっている。
【0020】
基切込み部11a上に延びる仮想直線を直線CL2とすると、第1張り出し部2は、直線CL2に対して下側(第2の側)の面積が大きくなるように下方に偏って形成されている。直線CL2は中心線CL1に対し直交する。
詳しくは、第1張り出し部2の外形は、概ね円弧状に形成されており、第1張り出し部2の、直線CL2から最大上部位置P2aまでの距離L2maは、直線CL2から最大下部位置P2bまでの距離L2mbよりも短くなっている。換言するならば、円弧状の第1張り出し部2の中心位置Ct2が、直線CL2よりも下方にある。
【0021】
第2張り出し部3は、基部1の左端部1dに接続部3sで接続しさらに左方に張り出して形成されている。
第2張り出し部3は、上下方向の最大の幅L3が、接続部3sの上下方向の幅(第2の幅)である第2根本長さL3aよりも大きくなっている。
【0022】
第2張り出し部3は、直線CL2に対して下側の面積が大きくなるように下方に偏って形成されている。
詳しくは、第2張り出し部3の外形は、概ね円弧状に形成されており、第2張り出し部3の、直線CL2から最大上部位置P3aまでの距離L3maは、直線CL2から最大下部位置P3bまでの距離L3mbよりも短くなっている。換言するならば、円弧状の第2張り出し部3の中心位置Ct3が、直線CL2よりも下方にある。
【0023】
第1張り出し部2の上下方向の最大幅である幅L2は、接続部2sの幅である第1根本長さL2aよりも長く、第1根本長さL2aは、基部1の右端部1cの上下方向の幅よりも狭い。すなわち、口唇保護シート91は、接続部2sに対応して上方の切込み部2aと下方の切込み部2bとを有する。
直線CL2から切込み部2aまでの距離L2a1よりも、切込み部2bまでの距離L2a2の方が長い。
同様に、第2張り出し部3の上下方向の最大幅である幅L3が、接続部3sの幅である第2根本長さL3aよりも長く、第2根本長さL3aは、基部1の左端部1dの上下方向の幅よりも狭い。すなわち、口唇保護シート91は、接続部3sに対応して上方の切込み部3aと下方の切込み部3bとを有する。
直線CL2から切込み部3aまでの距離L3a1よりも、切込み部3bまでの距離L3a2の方が長い。
また、接続部2sの幅である第1根本長さL2aは、第1交差切込み部11bの長さL11bと等しい、又は略等しい。詳しくは、第1根本長さL2aは、長さL11bの±10%以内に設定されている。同様に、接続部3sの幅である第2根本長さL3aは、第2交差切込み部11cの長さL11cと等しい、又は略等しい。詳しくは、第1根本長さL2aは、長さL11bの±10%以内に設定され、第2根本長さL3aは、長さL11cの±10%以内に設定されている。この±10%の範囲が、略等しい範囲である。
【0024】
基部1の切込み形成部11において、基切込み部11a,第1交差上切込み部11b1,及び第2交差上切込み部11c1によって三方を囲まれた部分は、折り部LNcを山折り又は谷折りとして
図1の紙面の手前側又は奥側に折り曲げ可能な上フラップ12となっている。
また、基切込み部11a,第1交差下切込み部11b2,及び第2交差下切込み部11c2によって三方を囲まれた部分は、折り部LNdを山折り又は谷折りとして
図1の紙面の手前側又は奥側に折り曲げ可能な下フラップ13となっている。
【0025】
上述の口唇保護シート91は、被装着者81(
図3参照:以下、便宜的に患者81と称する)の口82(
図3)に対し、脱落しないように単体で装着可能である。
口唇保護シート91の口82への装着作業において、装着者は、第1張り出し部2及び第2張り出し部3を折り返し、それぞれ第1交差切込み部11b及び第2交差切込み部11cに通して反対側に引き出すようにする。
図2は、この作業を示している。すなわち、第1張り出し部2について、矢印DRaに示されるように折り部LNaを谷折りとして折り返し、第1交差切込み部11bに通すことが示されている。一方の第2張り出し部3は、折り部LNbを谷折りとして折り返し、第2交差切込み部11cを通して反対側に引き出した状態が示されている。
【0026】
この作業手順を念頭に、
図3~
図6を参照して、口唇保護シート91を患者81の口82に装着する装着方法を説明する。なお、
図3~
図6は、描画の簡略化のため、歯及び歯肉は不図示としてある。口唇保護シート91は、皮膚や粘膜に密着し易いように、水や保湿剤などで湿らせておいてもよい。
【0027】
図3は、患者81の頭部を正面から見た図である。
まず、
図3に示されるように、患者81が口82を開けた状態で、装着者は、口唇保護シート91の第1張り出し部2及び第2張り出し部3を指で掴み、基部1を弛みがないように左右に延ばしながら(矢印DRb参照)、患者81の口82に宛がう。このとき、基部1の位置は、基切込み部11aが、口82の幅方向に沿い、上口唇82aと下口唇82bとの間のほぼ中央に位置するようにする。
【0028】
次いで、装着者は、
図4に示されるように、第1張り出し部2及び第2張り出し部3を患者81の左右の頬に密着させると共に、基部1を口82の周りに密着させる。
この状態で、基部1に形成された鼻逃げ部1aが患者81の鼻83の位置に対応して、基部1と鼻83との干渉が回避される。そのため、基部1は、顔の広い範囲に安定して密着させることができる。
また、基部1に形成された顎逃げ部1bが患者81の顎84の位置に対応するので、基部1は、顎84の隆起の影響を受けにくく、口82の周辺の皮膚に良好に密着する。
【0029】
次に、装着者は、
図5に示されるように、まず一方の張り出し部として、第2張り出し部3及び基部1の左端側の部位を、折り部LNbを谷折りとして手前側に折り返す(矢印DRc参照)。基部1の折り部LNbで折り返した部分を第2折り返し部15とする。
【0030】
図6は、第1張り出し部2及び第2張り出し部3を折り返して口腔内に挿入した状態を示す図であり、
図7は
図6に示された状態を口82の中から外に向けて見たイメージ図である。
【0031】
図6及び
図7に示されるように、手前側に折り返した第2張り出し部3は、既述のように第2交差切込み部11cを通して紙面奥側へ引き出し、口82の中へ挿入して左頬82dの口腔内表面である左頬粘膜部82d1に密着させる。
同様に、他方の張り出し部として第1張り出し部23についても、折り部LNaを谷折りとして手前側に折り返し、第1交差切込み部11bを通して紙面奥側に引き出し、口82の中へ挿入して右頬82cの口腔内表面である右頬粘膜部82c1に密着させる。基部1の折り部LNaで折り返した部分を第1折り返し部14とする。
【0032】
図7に示されるように、第1張り出し部2は、右頬82cの口腔内表面である右頬粘膜部82c1に密着し、第2張り出し部3は、左頬82dの口腔内表面である左頬粘膜部82d1に密着する。
これにより、口唇保護シート91は、右頬82cとその口腔内表面の粘膜部位である右頬粘膜部82c1及び左頬82dとその口腔内表面の粘膜部位である左頬粘膜部82d1を、それぞれ第1張り出し部2及び第2張り出し部3によって広い範囲で覆い保護できる。
【0033】
次に、
図8に示されるように、口唇保護シート91の上フラップ12を、折り部LNcを山折りとして内側に折り返し、上口唇82aと上歯肉86との間に入れ込む。また、下フラップ13を、折り部LNdを山折りとして内側に折り返し、下口唇82bと下歯肉88との間に入れ込む。
これにより、口唇保護シート91の口82への装着が完了する。このように装着が完了した状態を、第1の装着状態と称する。
【0034】
図9は、
図8のS9-S9位置での断面図であり、
図10は、
図8のS10-S10位置での断面図である。
図9及び
図10に示されるように、口唇保護シート91の第1の装着状態において、基部1の上フラップ12は、上口唇82aを、顔の前面から口腔内の上歯肉86と対向する上歯肉対向部位82a1の根本にかけて切れ目なく覆う。
同様に、下フラップ13は、下口唇82bを、顔の前面から口腔内の下歯肉88と対向する下歯肉対向部位82b1の根本にかけて切れ目なく覆う。
【0035】
このように、口唇保護シート91は、上フラップ12及び下フラップ13によって、それぞれ上口唇82a及び下口唇82bの全体を良好に保護できる。
また、口唇保護シート91は、第1張り出し部2及び第2張り出し部3によって、それぞれ右頬粘膜部82c1及び左頬粘膜部82d1を良好に保護できる。
【0036】
口唇保護シート91は、第1の装着状態において、第1折り返し部14と第1張り出し部2とが右頬82cを挟み、第2折り返し部15と第2張り出し部3とが左頬82dを挟むようになっている。これにより、口唇保護シート91は、単体で良好に口82に装着することができる。また、上フラップ12が上口唇82aに沿って折り返され、下フラップ13が下口唇82bに沿って折り返されている。これらにより、口唇保護シート91は、より確実に口82に装着できる。
そのため、口唇保護シート91は、歯及び口腔に施す施術及び治療に単体で用いることができ、使い勝手がよい。
【0037】
次に、口唇保護シート91を歯の漂白施術に用いる場合の口82への装着態様について、
図11~
図16を参照して説明する。
図11は、既述の第1の装着状態に対し、上フラップ12及び下フラップ13の折り返し態様が異なる第2の装着状態を示す正面図である。
図12は、
図11におけるS12-S12位置での断面図であり、
図13は、第1装着状態にある口唇保護シート91の上に、さらに開口器7を取り付けた状態を示す正面図である。
図14は、上歯肉86及び下歯肉88を漂白の薬液から保護するダム61を、塗布具6により塗布している状態を示す正面図である。
図15は、
図14におけるS15-S15位置での断面図である。
図15において開口器7は不図示である。
図16は、口唇保護シート91を取り外す作業を示す断面図である。
歯の漂白施術に用いる口唇保護シート91は、不織布などの布で形成する。
【0038】
口唇保護シート91を漂白施術に用いる場合、上フラップ12及び下フラップ13は、先端部位を、口唇と歯肉との間に、奥まで入れ込まず、手前に折り戻すよう入れ込む。具体的には、
図11及び
図12に示されるように、上フラップ12及び下フラップ13の先端部位を途中で折り返して、上フラップ12の先端部位は上歯肉86を覆い、下フラップ13の先端部位は下歯肉88を覆うようにする。この装着状態を第2の装着状態とする。
【0039】
第2の装着状態において、上口唇82a及び下口唇82bの裏側の、上歯肉対向部位82a1及び下歯肉対向部位82b1は、上フラップ12及び下フラップ13に直接覆われないものの、各口唇と各歯肉との間の隙間は上フラップ12及び下フラップ13で塞がれるので、間接的に保護される。
【0040】
次に、
図13に示されるように、施術者によって開口器7が取り付けられる。
開口器7は、上口唇押さえ部71,下口唇押さえ部72,第1横口唇押さえ部73,及び第2横口唇押さえ部74と、隣接する押さえ部同士を接続するアーム713,714,723,724とを有する。口82に開口器7が装着されることで、口82は開いた状態で維持される。
開口器7の上口唇押さえ部71及び下口唇押さえ部72により、上口唇82a及び下口唇82bはそれぞれ上方及び下方に押しこまれて上フラップ12及び下フラップ13はより広範囲に露出する。
【0041】
次に、
図14に示されるように、施術者は、塗布具6を用い、上歯85と上歯肉86と上フラップ12とに跨ってダム61を塗布する。ダム61は、後の作業で歯に塗布する漂白剤の刺激から上歯肉86を保護するための保護剤である。
施術者は、上歯肉86と同様に、下歯87と下歯肉88と下フラップ13とに跨ってダム62(
図15参照)を塗布する。
図15は、ダム61及びダム62を塗布した状態を示す断面図である。
【0042】
この後、塗布されたダム61及びダム62の紫外線照射による硬化、上歯85及び下歯87への漂白薬液の塗布及び紫外線照射による漂白作用発現、などの作業を行った後、ダム61及びダム62の除去作業を行う。
【0043】
ダム61及びダム62は、それぞれ上フラップ12及び下フラップ13に跨って塗布されており、ダム61及びダム62の口唇保護シート91に対する密着力は、口唇保護シート91が布で形成されていることから、上歯85及び下歯87、並びに、上歯肉86及び下歯肉88に対する密着力よりも強い。
そのため、
図16に示されるように、口唇保護シート91を口82から取り外すと(矢印DRd参照)、ダム61及びダム62は口唇保護シート91に付着したまま除去することができる。そのため、ダム61,62の除去作業は、容易であると共に歯及び歯肉を痛めることなく行うことができる。
【0044】
口唇保護シート91の上フラップ12及び下フラップ13は、それぞれ中央上切込み部11a1及び中央下切込み部11a2を有することで左側と右側とが先端側で分離し、独立して変形し易くなっている。
そのため、上フラップ12及び下フラップ13を折り返して、湾曲した上口唇82a及び下口唇82bに沿わせて密着させる作業は、大変容易である。
【0045】
また、中央上切込み部11a1及び中央下切込み部11a2は、第1の装着状態において、それぞれ上唇小帯86a(
図9及び
図10参照)及び下唇小帯88a(
図10参照)の逃げとして機能する。これにより、装着者は、口唇保護シート91を、第1の装着状態において、上口唇82aの上歯肉86と対向する上歯肉対向部位82a1及び下口唇82bの下歯肉88と対向する下歯肉対向部位82b1に対し、確実に密着させることができる。
【0046】
口を開ける動作が、上顎に対し下顎が下がるように開く動作であることによって、上口唇82aと下口唇82bとの合わせ位置よりも下側の範囲に、口唇保護シート91によって保護すべき部分が広く存在する。
これに対応して、口唇保護シート91は、基部1の基切込み部11aが、基部1の上下方向の中央位置よりも上方側(第1の側)に偏った位置に形成されている。換言するならば、基切込み部11aは、基部1の幅方向の中央位置よりも第1の側に偏った位置に形成されている。
そのため、基部1は、顔の表面における、開いた口の下口唇82bよりも下側の顎に至る広い範囲を、良好に覆って保護できる。
【0047】
口唇保護シート91は、切込み形成部11において、第1交差下切込み部11b2及び第2交差下切込み部11c2が、下フラップ13の先端となる側(基切込み部11aに接続する側)の幅が広くなるように傾斜して形成されている。
これにより、第1の装着状態及び第2の装着状態において下口唇82bの口腔内側に折り返された下フラップ13は、下口唇82bにおける下歯肉88と対向する下歯肉対向部位82b1を、左右方向のより広い範囲で覆うことができる。そのため、口唇保護シート91は、下口唇82bをより良好に保護できる。
【0048】
本発明の実施例は、上述した構成及び手順に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において変形例としてもよい。
【0049】
口唇保護シート91を、液剤又はジェル剤を含浸可能な材料で形成し、保湿剤を浸して含有させてもよい。以下、保湿剤を含有させた口唇保護シート91を口唇保護シート91Aと称する。
口唇保護シート91Aを口82に装着すれば、開口状態を長時間維持する必要のある治療などにおいて、上口唇82a及び下口唇82bの粘膜、並びに、右頬粘膜部82c1及び左頬粘膜部82d1の乾燥が防止できる。これにより、患者の不快感及び負担が軽減すると共に粘膜の荒れが抑制される。
口唇保護シート91Aを商品として流通させる場合の商品態様は、例えば、左右方向に三つ折りしたものを複数枚重ね、保湿容器に収めてパッケージ化する。
【0050】
口唇保護シート91は、中心線CL1に対し左右対称で形成されるものに限定されるものではなく、左右非対称の口唇保護シート91Bとしてもよい。
例えば、第1張り出し部2が第2張り出し部3よりも大きい口唇保護シート91Bを作成し、治療において右頬粘膜部82c1をより広範囲に保護したい場合に、口唇保護シート91Bを、第1張り出し部2が右頬側となるように用いるとよい。口唇保護シート91Bの材質に、表裏区別なく反転して使用可能なものを用いれば、左頬粘膜部82d1をより広範囲に保護したい場合には、第1張り出し部2を左頬側となるように反転して用いることができる。
【0051】
口唇保護シート91は、基切込み部11aを分割形成した変形例の口唇保護シート91Cとしてもよい。
図17は、口唇保護シート91Cを示す平面図である。
【0052】
口唇保護シート91Cは、口唇保護シート91の基切込み部11aを分割して少なくとも2つの分割切込み部51a1と分割切込み部51a2としたものである。
すなわち、口唇保護シート91Cは、切込み形成部11に対応する切込み形成部51を有する。切込み形成部51は、基切込み部11aに対応する基切込み部51aを有する。
【0053】
基切込み部51aは、左右に延びる同じ直線上に切り込まれた分割切込み部51a1及び分割切込み部51a2を含む。分割切込み部51a1及び分割切込み部51a2の上側の部分と下側の部分とは、分割切込み部51a1と分割切込み部51a2に挟まれた連結部51a3で連結されている。連結部51a3は、左右方向の幅が人の手により容易に切断できる程度に設定されている。
【0054】
切込み形成部51は、n(nは2以上の整数)箇所の連結部51a3を有して(n+1)個の分割切込み部を有していてもよい。
切込み形成部51は、基切込み部51aの最も右側の端(最右端)又はその近傍に、切込み形成部11における第1交差切込み部11bと同様の第1交差切込み部51bを有する。また、切込み部51aの最も左側の端(最左端)又はその近傍に、切込み形成部11における第2交差切込み部11cと同様の、第1交差切込み部51b及び第2交差切込み部51cを有する。
【0055】
口唇保護シート91Cは、少なくとも一つの連結部51a3を有することにより、パッケージ化する場合などで折りたたんでも、分割切込み部51a1,51a2が開いたり、折り返されることがなく整然と取り扱うことができる。また、口唇保護シート91Cは、使用者が、連結部51a3を手で容易に切断して即時使用できるので、取り扱い性が高い。
【0056】
口唇保護シート91,91A,91B,91Cは、施術及び治療に用いるのみならず、種々の用途に使用可能である。例えば、教育訓練におけるデモンストレーション用途、商品説明のプレゼンテーション用途などである。
【符号の説明】
【0057】
1,5 基部
1a 鼻逃げ部
1b 顎逃げ部
1c 右端部
1d 左端部
11,51 切込み形成部
11a,51a 基切込み部
11a1 中央上切込み部
11a2 中央下切込み部
11b,51b 第1交差切込み部
11b1 第1交差上切込み部
11b2 第1交差下切込み部
11c,51c 第2交差切込み部
11c1 第2交差上切込み部
11c2 第2交差下切込み部
12 上フラップ
13 下フラップ
14 第1折り返し部
15 第2折り返し部
2 第1張り出し部
2a,2b 切込み部
2s 接続部
3 第2張り出し部
3a,3b 切込み部
3s 接続部
51a1,51a2 分割切込み部
51a3 連結部
6 塗布具
61,62 ダム
7 開口器
71 上口唇押さえ部
713,714,723,724 アーム
72 下口唇押さえ部
73 第1横口唇押さえ部
74 第2横口唇押さえ部
81 患者(被装着者)
82 口
82a 上口唇
82a1 上歯肉対向部位
82b 下口唇
82b1 下歯肉対向部位
82c 右頬
82c1 右頬粘膜部
82d 左頬
82d1 左頬粘膜部
83 鼻
84 顎
85 上歯
86 上歯肉
86a 上唇小帯
87 下歯
88 下歯肉
88a 下唇小帯
91,91A,91B 口唇保護シート
CL1 中心線
CL2 直線
Ct2,Ct3 中心位置
LNa,LNb,LNc,LNd 折り部
L11a,L11b,L11c 長さ
L2 幅
L2a 第1根本長さ
L2a1,L2a2,L2ma,L2mb 距離
L3 幅
L3a 第2根本長さ
L3a1,L3a2,L3ma,L3mb 距離
P2a,P3a 最大上部位置
P2b,P3b 最大下部位置
θa,θb 角度