(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】アクチュエータ
(51)【国際特許分類】
H02N 2/16 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
H02N2/16
(21)【出願番号】P 2020101925
(22)【出願日】2020-06-11
【審査請求日】2023-03-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390010250
【氏名又は名称】株式会社新生工業
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】弁理士法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高畠 大介
【審査官】三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-298793(JP,A)
【文献】特開2001-045774(JP,A)
【文献】特開2002-142473(JP,A)
【文献】特開2017-108619(JP,A)
【文献】実開昭63-127293(JP,U)
【文献】特開平03-015278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02N 2/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の凸部及び第1の凹部が複数形成された第1の面と、第2の凸部及び第2の凹部が複数形成された前記第1の面と反対側の第2の面とを有する弾性体と、
圧電体と複数の電極とを有し、前記弾性体の前記第2の面に接合しており、各々の電極に位相の異なる電圧が印加されることで前記弾性体に進行性の振動波を生じさせるように構成された圧電素子と、
前記弾性体の前記第1の面に加圧接触しており、前記振動波によって前記弾性体に対して相対的に動くように構成された対向部材と
を備え
、
前記第1の凹部の深さを第1の深さH1とし、
前記第2の凹部の深さを第2の深さH2とし、
前記第1の面と前記第2の面との間隔をHとしたときに、
H1>H2、かつ
H1+H2<H
である、
アクチュエータ。
【請求項2】
第1の凸部及び第1の凹部が複数形成された第1の面と、第2の凸部及び第2の凹部が複数形成された前記第1の面と反対側の第2の面とを有する弾性体と、
圧電体と複数の電極とを有し、前記弾性体の前記第2の面に接合しており、各々の電極に位相の異なる電圧が印加されることで前記弾性体に進行性の振動波を生じさせるように構成された圧電素子と、
前記弾性体の前記第1の面に加圧接触しており、前記振動波によって前記弾性体に対して相対的に動くように構成された対向部材と
を備え
、
少なくとも前記圧電体の分極の向きが互いに異なる区分と区分との境界に対応する位置には、前記第2の凹部が設けられている、
アクチュエータ。
【請求項3】
第1の凸部及び第1の凹部が複数形成された第1の面と、第2の凸部及び第2の凹部が複数形成された前記第1の面と反対側の第2の面とを有する弾性体と、
圧電体と複数の電極とを有し、前記弾性体の前記第2の面に接合しており、各々の電極に位相の異なる電圧が印加されることで前記弾性体に進行性の振動波を生じさせるように構成された圧電素子と、
前記弾性体の前記第1の面に加圧接触しており、前記振動波によって前記弾性体に対して相対的に動くように構成された対向部材と
を備え
、
前記第1の凹部の、前記第1の凸部を基準とした深さ、幅及びピッチは、概ね均一であり、
前記第2の凹部の、前記第2の凸部を基準とした深さ、幅又はピッチは、不均一である、
アクチュエータ。
【請求項4】
前記弾性体において、前記第1の凸部を基準とした前記第1の凹部の体積の合計である第1の体積は、前記第2の凸部を基準とした前記第2の凹部の体積の合計である第2の体積よりも大きい、請求項1
~3の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項5】
前記第1の凹部の、前記第1の凸部を基準とした深さ、幅及びピッチは、概ね均一であり、
前記第2の凹部の、前記第2の凸部を基準とした深さ、幅及びピッチは、概ね均一である、
請求項1又は2に記載のアクチュエータ。
【請求項6】
前記第1の凹部の深さを第1の深さH1とし、
前記第2の凹部の深さを第2の深さH2とし、
前記第1の面と前記第2の面との間隔をHとしたときに、
H1>H2、かつ
H1+H2<H
である、請求項
2又は3に記載のアクチュエータ。
【請求項7】
前記振動波の進行方向について、各々の前記第1の凹部の位置と、各々の前記第2の凹部の位置とはずれている、請求項1~
6の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項8】
前記振動波の進行方向について、前記第2の凹部の少なくとも何れか一つの位置は、前記第1の凹部の位置と一致している、請求項1~
6の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項9】
前記圧電体の分極の向きが互いに異なる区分と区分との境界の少なくとも何れか一か所に対応する位置には、前記第2の凹部が設けられている、請求項1~
8の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項10】
前記弾性体と前記圧電素子との接合に、熱硬化性接着剤
又はロウ付けが用いられている、請求項1~
9の何れかに記載のアクチュエータ。
【請求項11】
前記第1の凹部は、前記第1の凸部の頂部をつなぐ面において、前記振動波の進行方向に対して垂直な方向に設けられた断面形状が長方形の溝であり、
前記第2の凹部は、前記第2の凸部の頂部をつなぐ面において、前記振動波の進行方向に対して垂直な方向に設けられた断面形状が長方形の溝である、
請求項1~10の何れかに記載のアクチュエータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動型のアクチュエータに関する。
【背景技術】
【0002】
超音波モータなどとも呼ばれる振動型のアクチュエータが知られている。振動型のアクチュエータは、例えば、圧電素子と弾性体とが接合した振動子と、振動子に加圧接触した移動体とを備える。振動型のアクチュエータの一形態として、振動子及び移動体が円環形状をしたアクチュエータが知られている。このような円環形状の振動型のアクチュエータは、次のように動作する。圧電素子により弾性体に振動が励起される。この振動は、円環形状の弾性体において円周方向に進行する進行波を形成する。この振動により振動子に加圧接触した移動体が進行波の進行方向と逆向きに円周方向に回転する。例えば、特許文献1にもこのような円環形状のアクチュエータに関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
振動型のアクチュエータにおいて、動作の高効率化が求められている。本発明は、高効率に動作するアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、アクチュエータは、第1の凸部及び第1の凹部が複数形成された第1の面と、第2の凸部及び第2の凹部が複数形成された前記第1の面と反対側の第2の面とを有する弾性体と、圧電体と複数の電極とを有し、前記弾性体の前記第2の面に接合しており、各々の電極に位相の異なる電圧が印加されることで前記弾性体に進行性の振動波を生じさせるように構成された圧電素子と、前記弾性体の前記第1の面に加圧接触しており、前記振動波によって前記弾性体に対して相対的に動くように構成された対向部材とを備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高効率に動作するアクチュエータを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る超音波モータの構成例の概略を示す部分切断斜視図である。
【
図2】
図2は、ステータ及びロータの接触部近傍の円周方向に沿った縦断面の一例を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、分極用電極と駆動電極との構成の一例を示す平面図である。
【
図4】
図4は、変形例に係るロータの構成例の概略を示す図である。
【
図5】
図5は、変形例に係るステータとロータとの構成例の概略を示す直径方向に沿った縦断面の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[超音波モータの構成の概略]
本発明の一実施形態について図面を参照して説明する。本実施形態は、振動型アクチュエータの一形態である回転型の超音波モータに関する。
図1は、本実施形態に係る超音波モータ1の構成例の概略を示す図である。
図1は、超音波モータ1の構造が見えるように、各部が切断された状態を示している。
【0009】
超音波モータ1は、板状のベース2の上に構築されている。超音波モータ1の要部は、ベース2の上に設けられたカバー8の内部に収容されている。
図1においては、説明のため、カバー8は奥側半分だけが示されている。また、
図1においては、後述するステータ3、ロータ4、ベアリング6、皿バネ7などは、説明のため、手前側が切欠かれた状態で奥側の部分だけが示されている。これら部材の概形は、いずれも略円盤形状である。ベース2とカバー8とで囲まれた空間には、以下の構成が設けられている。
【0010】
ベース2の上には、円環板形状のステータ3が固定されている。ステータ3の中心部には、ベース2と垂直に、シャフト5が設けられている。シャフト5は、カバー8に固定されたベアリング6に回転可能に支持されている。シャフト5の長手軸に対して垂直方向に大きな負荷がかかる場合や超音波モータ1が高出力の場合には、安定化のために、ベース2に固定されてシャフト5を回転可能に支持する更なるベアリングが設けられてもよい。シャフト5に対して、円環板形状のロータ4が固定されている。ロータ4の外環部分には、接触部41が設けられている。ロータ4は、加圧部材としての例えば皿バネ7によってステータ3の方向に押し付けられており、接触部41は、ステータ3の上側の第1の面21に対して加圧接触している。
【0011】
後に詳述するように、ステータ3は、例えば金属材料で形成された弾性体11に圧電素子15が固定されたものである。ステータ3は、圧電素子15に高周波電圧が印加されると、圧電素子15の伸縮によって弾性体11に撓み振動が生じ、弾性体11には円周方向に沿って進行波が発生するように構成されている。弾性体11の第1の面21には、ロータ4の接触部41が加圧接触しているので、ロータ4は、発生した進行波と反対方向に回転する。ロータ4が回転すると、ロータ4に固定されたシャフト5がその軸周りに回転する。超音波モータ1では、シャフト5が出力軸とされており、シャフト5の回転がモータの回転として取り出される。
【0012】
[ステータ及びロータの構成]
ステータ3及びロータ4の構成について、
図2を参照してさらに詳しく説明する。
図2は、ステータ3及びロータ4の接触部41の一部分の円周方向に沿った縦断面の一例を模式的に示す図である。
図2では、各部の構成を模式的に示しており、寸法比などは実際と異なる。
【0013】
図2に示すように、ステータ3は、弾性体11と圧電素子15とを有する。弾性体11の一方の主面に圧電素子15が接合されており、弾性体11の他方の主面にロータ4の接触部41が押し付けられている。弾性体11の主面のうち、接触部41が加圧接触している側の面を第1の面21と称し、圧電素子15が接合されている側の面を第2の面22と称することにする。
【0014】
圧電素子15は、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)といった圧電体12の両面に電極が設けられた構成を有する。電極の一方は、分極用電極13となっており、電極の他方は、駆動電極14となっている。圧電素子15の分極用電極13側の面と弾性体11の第2の面22とが接合され、圧電素子15と弾性体11とが接合されている。
【0015】
図3(a)は、分極用電極13の構成の一例を示す平面図であり、
図3(b)は、駆動電極14の構成の一例を示す平面図である。この例は、ステータ3に円周方向に9波の進行波が生じる場合、すなわち、円周方向に40°周期の波が生じ、この波が進行波となる場合の例である。
【0016】
図3(a)に示すように、分極用電極13は、円周方向に並ぶ18個の電極13Aを含む。分極用電極13は、円周方向に、20°間隔で8個の電極が並び、10°の電極を挟んで、さらに20°間隔で8個の電極が並び、30°の電極を挟んで上述の8個の電極に連なるように、並んでいる。各々の電極13Aの間には、隙間28が設けられている。圧電体12は、各々の電極が設けられている位置に対応して円周方向に18個の区分に分けられている。
図3(a)に「+」及び「-」で示すように、圧電体12は、製造時に分極用電極13を用いて分極処理が行われることで、隣り合う区分が交互に厚み方向に逆向きとなるように分極されている。10°の電極の部分や30°の電極の部分は、グランド電極やフィードバック電極として用いられる場合がある。
図3に示すのは、10°の電極の部分をフィードバック電極に用い、30°の電極の部分をグランド電極に用いた例である。10°の電極の部分の分極は、「+」の向きでも「-」の向きでもよい。30°の電極の部分は、グランド電極のため、分極の有無はどちらでもよい。ここでは、円周方向に9波の進行波が生じる場合であり、進行波の波長をλとしたときに、20°、10°及び30°は、それぞれ、1/2λ、1/4λ及び3/4λに相当する。波数及び電極の角度などは適宜に変更され得る。
【0017】
図3(b)に示すように、駆動電極14は、圧電体12を挟んで分極用電極13の30°の電極の反対側に設けられたグランド電極14Gと、分極用電極13の10°の電極の反対側に設けられたフィードバック電極14Fと、グランド電極14Gとフィードバック電極14Fとの間にそれぞれ設けられたA相電極14A及びB相電極14Bとを有する。グランド電極14Gは、図示されていないが、引廻し電極又はスルーホールによって弾性体11と導通している。
【0018】
超音波モータ1の動作時に、A相電極14Aとグランド電極14G(弾性体11)との間及びB相電極14Bとグランド電極14G(弾性体11)との間に高周波電圧が印加されると、圧電体12の隣り合う区分は、互いに逆向きに分極されているため、一方は伸び、他方は縮む。これによって、圧電素子15に接合されている弾性体11には、撓み波が生じる。ここで、A相電極14AとB相電極14Bとは空間的に1/4波長分ずれているので、A相電極14AとB相電極14Bとに、sin波及びcos波といったように位相が90°異なる駆動信号が印加されることで、発生する波が相互に干渉して弾性体11には進行波が生じる。なお、フィードバック電極14Fは、ステータ3の振動による起電力を取得するために用いられ、これによってステータ3の特性変化が検出され、検出結果は超音波モータ1の回転数を設定された値に追従させるために用いられる場合がある。
【0019】
ここでは、圧電体12が連続体である例を示すが、これに限らない。分極用電極13が分割されていることに合わせて、圧電体12も分割されていてもよい。
【0020】
図2に戻って説明を続ける。弾性体11の第1の面21には、円環形状の弾性体11の半径方向、すなわち、振動波の進行方向に対して垂直な方向に伸びる第1の凸部23と、同様に弾性体11の半径方向に伸びる第1の凹部24とが、円周方向に繰り返し設けられている。このように、弾性体11の第1の面21は、円周方向に第1の凸部23と第1の凹部24とが交互に設けられた凹凸形状を有している。すなわち、第1の面21は、櫛歯形状を有している。
【0021】
第1の面21の形状が上述のような凹凸形状を有することで、接触部41と接する第1の凸部23の頂部の変位が大きくなる。このことは、超音波モータ1の動作の効率が向上することに貢献する。
【0022】
弾性体11の第2の面22には、円環形状の弾性体11の半径方向、すなわち、振動波の進行方向に対して垂直な方向に伸びる第2の凸部25と、同様に弾性体11の半径方向に伸びる第2の凹部26とが、円周方向に繰り返し設けられている。このように、弾性体11の第2の面22は、円周方向に第2の凸部25と第2の凹部26とが交互に設けられた凹凸形状を有している。
【0023】
第2の面22の形状が上述のような凹凸形状を有することで、圧電素子15の伸縮により、弾性体11が振動しやすくなる。すなわち、圧電素子15から弾性体11へのエネルギーの入力の効率がよくなる。このことは、超音波モータ1の動作の効率が向上することに貢献する。
【0024】
本実施形態では、第1の凸部23の頂部と第2の凸部25の頂部とは、互いに平行な平面になっており、第1の凹部24及び第2の凹部26は、ステータ3の円周方向の断面の形状が長方形である溝となっている。断面形状が長方形の溝は、例えばフライス盤を用いて容易に設計通りに形成することができる。したがって、本実施形態の弾性体11は、例えば、第1の面21と第2の面22とが互いに平行な円環形状の平板を用いて、第1の面21に溝を設けることで第1の凹部24を形成し、第2の面22に溝を設けることで第2の凹部26を形成することで、作製することができる。
【0025】
溝の断面形状は、長方形に限らず、三角形やU字型であってもよい。なお、第1の凹部24及び第2の凹部26といった溝を形成していると考えるのではなく、第1の凸部23及び第2の凸部25といった山を形成していると考えても、技術的意義は同様である。例えば、弾性体11は、一体として形成されていてもよいし、複数に分割して形成されたものが接合されて形成されてもよい。
【0026】
[第1の凹部及び第2の凹部の構成の詳細]
本実施形態では、第1の凹部24の、第1の凸部23を基準とした深さ、幅及びピッチは、均一であり、第2の凹部26の、第2の凸部25を基準とした深さ、幅及びピッチは、均一である。ここで、均一とは、実質的に均一であることを意味し、厳密に均一であることのみならず、概ね均一であることをも含む。これら深さ、幅及びピッチを均一にすることで、超音波モータ1の設計も製造も容易となる。しかしながら、これに限らず、これらは、不均一であってもよい。すなわち、複数ある第1の凹部24の各々は、深さ又は幅が互いに異なってもよいし、それらの間隔が場所によって異なってもよい。また、複数ある第2の凹部26の各々は、深さ又は幅が互いに異なってもよいし、それらの間隔が場所によって異なってもよい。これら不均一な場所があることで振動系の共振のピークを減衰させたり分散させたりする調節ができるので、可聴域の耳障りな音を低減させることなどができる。
【0027】
また、
図2に示す例は、第1の凹部24と第2の凹部26との数が一致している例であるがこれに限らない。第1の凹部24と第2の凹部26との数は異なっていてもよい。特に、後述の通り、第1の凹部24の合計体積が第2の凹部26の合計体積よりも大きい方が好ましいので、第2の凹部26の数は、第1の凹部24の数より少なくてもよい。
【0028】
また、本実施形態では、第1の凹部24と第2の凹部26とについて次のような関係がある。
〈第1の凹部及び第2の凹部の体積〉
第1の凸部23の頂部の面を基準とした第1の凹部24の体積の合計、すなわち、第1の凹部24の溝部分の体積の合計を、第1の体積とする。第2の凸部25の頂部の面を基準とした第2の凹部26の体積の合計、すなわち、第2の凹部26の溝部分の体積の合計を、第2の体積とする。このとき、第1の体積は、第2の体積よりも大きい。このような構成により、弾性体11は、おおよそ第1の面21側で低弾性となり、第2の面22側で高弾性となり、弾性体11内で弾性が不均一となる。
【0029】
本実施形態では、複数ある第1の凹部24の何れもが同じ形状を有しているので、第1の体積は、1個の第1の凹部24の体積に第1の凹部24の個数を乗じた値となる。しかしながらこれに限らず、第1の凹部24の各々は異なる形状及び体積を有していてもよい。同様に、本実施形態では、複数ある第2の凹部26の何れもが同じ形状を有しているので、第2の体積は、1個の第2の凹部26の体積に第2の凹部26の個数を乗じた値となる。しかしながらこれに限らず、第2の凹部26の各々が異なる形状及び体積を有していてもよい。本実施形態では、1個の第1の凹部24の体積は、1個の第2の凹部26の体積よりも大きい。
【0030】
弾性体11に円周方向に進行する振動波が生じているときの、弾性体11の撓み振動について考える。この撓み振動では、ある位置における弾性体11の厚さ方向に着目すると、第1の面21側と第2の面22側とのうち一方が縮み他方が伸びる。すなわち、第1の面21側が縮んでいるとき、第2の面22側が伸びる。また、第1の面21側が伸びているとき、第2の面22側が縮む。第1の面21と第2の面22との間には、伸縮しない中立面が存在する。
【0031】
上述の第1の体積と第2の体積とが等しいとき、中立面は第1の面21と第2の面22との中間に位置すると考えられる。本実施形態のように第1の体積が第2の体積よりも大きいとき、中立面は第1の面21と第2の面22との中間よりも第2の面22側に位置すると考えられる。逆に、第2の体積が第1の体積よりも大きいとき、中立面は第1の面21と第2の面22との中間よりも第1の面21側に位置すると考えられる。
【0032】
図2では、中立面61の位置を模式的に示し、また、第1の面21側の変位量と第2の面22側の変位量とを矢印によって模式的に示している。この図に示すように、本実施形態では、中立面61が第2の面22側に偏っているため、第2の面22側の変位よりも第1の面21側の変位が大きくなっている。ロータ4の接触部41は第1の面21に接触しているので、例えば中立面61が第1の面21と第2の面22との中間にある場合よりも、本実施形態では接触部41の大きな変位が得られる。
【0033】
本実施形態では、ロータ4の接触部41と接触する第1の面21の変位が大きくなるように、第1の面21に第1の凹部24が設けられている。また、圧電素子15から弾性体11にエネルギーが入りやすいように、すなわち、圧電素子15の伸縮によって弾性体11が撓みやすいように、第2の面22に第2の凹部26が設けられている。一方で、第2の凹部26を設けることで第1の面21の変位が小さくなりすぎないように、第1の体積は第2の体積よりも大きくなっている。
【0034】
〈第1の凹部及び第2の凹部の深さ〉
第1の凸部23の頂部を基準とした第1の凹部24の深さを第1の深さH1とし、第2の凸部25の頂部を基準とした第2の凹部26の深さを第2の深さH2とし、第1の面21と第2の面22との間隔を高さHとする。このとき、
図2に示す本実施形態の場合のように、
H1>H2、かつ
H1+H2<H
が成り立つことが好ましい。
【0035】
このようにすることで、上述のように、第1の体積を第2の体積よりも大きくしている。さらに、第1の凹部24の溝の底部と第2の凹部26の溝の底部との間に十分な厚さの弾性部材が存在することで、弾性体11の強度も確保される。
【0036】
〈第1の凹部及び第2の凹部の幅〉
第1の凹部24又は第2の凹部26は、体積が同じであれば、幅が大きいよりも深さが深い方が、第1の凸部23又は第2の凸部25が振動しやすくなるので好ましい。したがって、幅が広い溝が少数あるよりも、幅が狭い溝が多数ある方が好ましい。
【0037】
〈第1の凹部及び第2の凹部の位置〉
本実施形態のように、振動波の進行方向、すなわち、弾性体11の円周方向について、第1の凹部24の位置と第2の凹部26の位置とはずれており、第1の凹部24と第2の凹部26とが弾性体11の厚さ方向に向き合って配置されることが少ないことが好ましい。このようなずれた配置にすることで、弾性体11の強度が確保される。
【0038】
しかしながら、これに限らない。円周方向の進行波の数と圧電素子15の分極用電極13の数との間には関連がある。分極用電極13の隙間28に弾性体11の第2の凹部26が設けられるとき、設計のしやすさや凹部の加工の割り振りのしやすさから、第1の凹部24の数は第2の凹部26の整数倍になることが多くなる。ここで、第1の凹部24の位置と第2の凹部26の位置とは、それらの一部又は全部が互いに向き合って配置されていてもよい。
【0039】
また、本実施形態のように、第2の凹部26は、分極用電極13の隣り合う電極の間の隙間28に対応する位置に設けられていることが好ましい。上述のとおり、分極用電極13によって圧電体12は分極させられており、隙間に対応する位置は、互いに逆向きに分極された区分と区分との境界位置に対応する。隙間28は、電極13A間の絶縁のために必要である。隙間28を設けていることで、隙間28に対応する位置では、圧電体12は分極していない。したがって、駆動電極14に電圧を印加しても、隙間28に対応する位置では、圧電体12は、撓み波を発生させるようには機能しない。そこで、本実施形態では、弾性体11の撓みやすさを実現するために設ける第2の凹部26を、この隙間28に対応した位置に設けている。これにより、第2の凹部26の存在で弾性体11が失われることによる弾性体11の伸縮の損失を小さくすることができる。
【0040】
隙間28は複数あり、複数ある第2の凹部26の少なくとも一つが何れかの隙間28に対応した位置に設けられていれば、上述の効果が得られる。また、複数の第2の凹部26を設ける場合に、複数ある隙間28の全てに対応して第2の凹部26を設けることで、第2の凹部26の数を増やしても、弾性体11の伸縮の損失を最小化することができる。
【0041】
なお、第2の凹部26の数は、隙間28の数よりも多くてもよい。この場合、第2の凹部26は、隙間28に対応する位置以外にも設けられる。第2の凹部26の数は、隙間28の数よりも少なくてもよい。この場合には、全ての隙間28に第2の凹部26が対応して設けられていなくてもよい。
【0042】
[その他]
弾性体11と圧電素子15との接合に、熱硬化性接着剤が用いられてもよい。熱硬化性接着剤が用いられるとき、ステータ3の製造において、熱硬化性接着剤を介して弾性体11と圧電素子15とが重ね合わされた後、これらは加熱される。弾性体11の熱膨張係数と圧電素子15の熱膨張係数とは異なる。加熱による変形は、圧電素子15よりも弾性体11の方が大きいので、加熱により接着剤が硬化した後、ステータ3を冷却すると歪みが生じることになる。本実施形態では、弾性体11の接合面である第2の面22に第2の凹部26が設けられていることで、弾性体11の変形がある程度吸収されるので、熱膨張係数の差による歪みが小さくなる。その結果、圧電体12が割れることが防止されたり、接着後の歪みを除去するための加工時間が短縮されて製造効率が向上したりする。また、本実施形態によれば、圧電体12に時々発生する製造工程で発見が難しいマイクロクラックの発生率が大幅に低減するため、超音波モータ1の信頼性や寿命が向上する。弾性体11と圧電素子15との接合に、ロウ付け等が用いられても同様である。
【0043】
上述の実施形態では、
図4(a)に示すように、ロータ4は、中心部に孔43を有する円板状の支持体42の外環部分に接触部41が設けられた形状を有している。しかしながらこれに限らない。例えば、ロータ4は、円板状の支持体42及び外環部分の接触部41の一部が切欠かれたようなプロペラのような形状を有していてもよい。例えば、
図4(b)に示すように、ロータ4aは、円板状の支持体42及び外環部分の接触部41の四方が切欠かれた形状であってもよい。すなわち、ロータ4aは、中心部に孔43aを有する十字状の支持体42aとその端部に設けられた接触部41aとを有する形状を有していてもよい。また、例えば、
図4(c)に示すように、ロータ4bは、中央部に孔43bを有する棒状の支持体42bとその端部に設けられた接触部41aとを有する形状を有していてもよい。また、例えば、
図4(d)に示すように、ロータ4cは、孔43cから片側に伸びる棒状の支持体42cとその端部に設けられた接触部41cとを有する形状を有していてもよい。その他、ロータ4は、種々の形状を取り得る。
【0044】
また、接触部41の形状も種々に変更され得る。一例を
図5に示す。
図5は、ステータ3dとロータ4dとの直径に沿った縦断面を示す図である。
図5に示すように、ロータ4dは、その外環部分で、ステータ3dの圧電素子15dが設けられている弾性体11dをまたぐように構成されている。すなわち、ロータ4dは、中心部に孔43dを有する円板状の支持体42dの外環部分に、弾性体11dの第1の面21dに接触する接触部41dを有している。さらに、接触部41dの外周側と内周側に、弾性体11dの側面に沿って設けられた垂下部44dが設けられている。また、このような例においても、ロータ4dの支持体42d、接触部41d及び垂下部44dは、
図4を参照して説明したように、プロペラのような形状に変更されてもよい。
【0045】
なお、上述の実施形態では、弾性体11及び圧電素子15を有するステータ3がベース2及びカバー8に対して固定されており、ロータ4がベース2及びカバー8に対して回転する例を挙げて説明したがこれに限らない。弾性体11及び圧電素子15を有する振動子が、ステータとして備えられるのではなく、ベース2及びカバー8に対して回転してもよい。すなわち、上述のステータ3とロータ4とは、互いに相対的に動くように構成されていればよい。言い換えると、ロータ4は、弾性体11及び圧電素子15を有する振動子の弾性体11に対して、加圧接触している接触部材であり、対向している対向部材として機能すればよい。
【0046】
また、上述の実施形態では、超音波モータ1が円環形状をしている例を挙げて説明したが、アクチュエータの形状はこれに限らない。例えば、アクチュエータは、楕円形状、直線形状など、他の形状を有していてもよい。
【0047】
以上、本発明について、好ましい実施形態を示して説明したが、本発明は、前述した実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲で種々の変更実施が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0048】
1 超音波モータ
2 ベース
3 ステータ
4 ロータ
5 シャフト
6 ベアリング
7 皿バネ
8 カバー
11 弾性体
12 圧電体
13 分極用電極
14 駆動電極
15 圧電素子
21 第1の面
22 第2の面
23 第1の凸部
24 第1の凹部
25 第2の凸部
26 第2の凹部
28 隙間
41 接触部
61 中立面