(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】排ガス浄化フィルタ用の洗浄剤
(51)【国際特許分類】
C11D 7/26 20060101AFI20231226BHJP
C11D 7/32 20060101ALI20231226BHJP
C11D 7/06 20060101ALI20231226BHJP
B08B 3/04 20060101ALI20231226BHJP
F01N 3/021 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C11D7/26
C11D7/32
C11D7/06
B08B3/04
F01N3/021
(21)【出願番号】P 2021151633
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】520049569
【氏名又は名称】KST株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】本村 幸太郎
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 和広
(72)【発明者】
【氏名】長坂 洋
(72)【発明者】
【氏名】山本 茂紀
【審査官】井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-270688(JP,A)
【文献】特開2019-044757(JP,A)
【文献】特開2009-275077(JP,A)
【文献】特開2008-266649(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0199500(US,A1)
【文献】特開2019-048275(JP,A)
【文献】特開2020-199486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00-19/00
F01N 3/01- 3/038
B08B 3/00- 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッシュ成分を含むPMを排ガス浄化フィルタから除去する洗浄剤であって、
(a)塩基性化合物と、
(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテルと、
(c)尿素と、
(d)水系溶媒と
を含有する、排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【請求項2】
前記(a)塩基性化合物として、アルカリ金属水酸化物を含む、請求項1に記載の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【請求項3】
前記排ガス浄化フィルタ用洗浄剤の総量を100wt%としたときの前記(a)塩基性化合物の含有量が0.5wt%~20wt%である、請求項1または2に記載の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【請求項4】
前記(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテルとして、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【請求項5】
前記排ガス浄化フィルタ用洗浄剤の総量を100wt%としたときの前記(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテルの含有量が0.1wt%~15wt%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【請求項6】
前記排ガス浄化フィルタ用洗浄剤の総量を100wt%としたときの前記(c)尿素の含有量が0.1wt%~10wt%である、請求項1~5のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【請求項7】
前記(d)水系溶媒は、水とアルコール類の混合溶媒である、請求項1~6のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【請求項8】
前記アルコール類として、メタノール、エタノール、ブタノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、バチルアルコールからなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項7に記載の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【請求項9】
(e)N-メチル-2-ピロリドンをさらに含有する、請求項1~8のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【請求項10】
前記排ガス浄化フィルタ用洗浄剤の総量を100wt%としたときの前記(e)N-メチル-2-ピロリドンの含有量が0.1wt%~10wt%である、請求項9に記載の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【請求項11】
界面活性剤を実質的に含有しない、請求項1~10のいずれか一項に記載の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示される技術は、洗浄剤に関する。詳しくは、排ガス浄化フィルタからPMを除去する洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(エンジン)から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害ガス成分の他に、粒子状物質(PM:Particulate Matter)が含まれている。かかるPMは、炭素系成分を主成分としており、硫酸カルシウム等のアッシュ成分や未燃焼の燃料(油分)なども含んでいる。そして、内燃機関の排気系には、排ガス中のPMを捕集する排ガス浄化フィルタ(以下、単に「フィルタ」ともいう。)が取り付けられている。この種の排ガス浄化フィルタの一例として、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)や、ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF:Gasoline Particulate Filter)などが挙げられる。
【0003】
ところで、排ガス浄化フィルタを用いてPMを捕集し続けると、目詰まりによってフィルタの前後における圧力損失(圧損)が大きくなり、内燃機関の稼働効率の低下などの不具合が生じる原因となる。このため、内燃機関の排気系では、フィルタに捕集されたPMを加熱して焼失させる再生処理が行われることがある。しかし、この再生処理において主に焼失するのはPM中の炭素系成分と油分であり、アッシュ成分は焼失せずにフィルタ内に残留する。このため、アッシュ成分が多量に堆積したフィルタは、内燃機関の排気系から取り外して洗浄処理を行う必要がある。かかる排ガス浄化フィルタの洗浄方法に関する従来技術が特許文献1、2に開示されている。これらの従来の洗浄方法では、クエン酸、クエン酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、および酒石酸などの酸系洗浄液にDPFを浸漬させ、当該洗浄液にアッシュ成分を溶解させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-48278号公報
【文献】特開2020-199486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の酸系洗浄液では、アッシュ成分を含むPMを十分に除去するために非常に長い時間が必要となる。フィルタの構造やPM堆積量などにも左右されるが、従来の酸系洗浄剤を使用した洗浄処理では、洗浄液への浸漬時間が数十時間(典型的には1日程度)になる可能性もある。このため、近年では、アッシュ成分を含むPMを短時間で十分に除去することができる洗浄剤の開発が求められている。
【0006】
ここに開示される技術は、かかる要求に応じてなされたものであり、アッシュ成分を含むPMを短時間で十分に除去できる排ガス浄化フィルタ用洗浄剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、ここに開示される技術によって下記の排ガス浄化フィルタ用洗浄剤(以下、「フィルタ用洗浄剤」ともいう。)が提供される。
【0008】
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、アッシュ成分を含むPMを排ガス浄化フィルタから除去するために用いられる。かかるフィルタ用洗浄剤は、(a)塩基性化合物と、(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテルと、(c)尿素と、(d)水系溶媒とを含有する。
【0009】
本発明者らが種々の検討を行った結果、上記成分(a)~(d)を含むフィルタ用洗浄剤は、驚くべきことに数十分~数時間という非常に短い時間でPMを十分に除去できることを発見した。ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、かかる発見に基づいてなされたものである。なお、ここに開示される技術を限定することを意図したものではないが、上述のような高い洗浄性能が発揮される主な理由は、アッシュ成分が(c)尿素によって錯化されて微細な破片となり、溶解しやすくなったためと推測される。
【0010】
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤の好ましい一態様では、(a)塩基性化合物として、アルカリ金属水酸化物を含む。これによって、PM中の炭素系成分と油分をより好適に分解させることができる。
【0011】
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤の好ましい一態様では、排ガス浄化フィルタ用洗浄剤の総量を100wt%としたときの(a)塩基性化合物の含有量が0.5wt%~20wt%である。これによって、他の成分の含有量を十分に確保した上で、炭素系成分と油分を好適に分解できる程度の(a)塩基性化合物を添加できる。
【0012】
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤の好ましい一態様では、(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテルとして、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルからなる群から選択される少なくとも一種を含む。これによって、PM中の炭素系成分と油分をより好適に溶解させることができる。
【0013】
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤の好ましい一態様では、排ガス浄化フィルタ用洗浄剤の総量を100wt%としたときの(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテルの含有量が0.1wt%~15wt%である。これによって、他の成分の含有量を十分に確保した上で、炭素系成分と油分を好適に溶解できる程度の(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテルを確保できる。
【0014】
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤の好ましい一態様では、排ガス浄化フィルタ用洗浄剤の総量を100wt%としたときの(c)尿素の含有量が0.1wt%~10wt%である。これによって、他の成分の含有量を十分に確保した上で、PM中のアッシュ成分を好適に除去できる程度の(c)尿素を確保できる。
【0015】
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤の好ましい一態様では、(d)水系溶媒は、水とアルコール類の混合溶媒である。これによって、(a)塩基性化合物によって分解され、(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテルに溶解した炭素系成分と油分を洗浄剤中に好適に分散できるため洗浄性能をさらに改善できる。
【0016】
また、(d)水系溶媒としてアルコール類を含む混合溶媒を使用する態様では、アルコール類として、メタノール、エタノール、ブタノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、バチルアルコールからなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。これによって、洗浄性能をさらに改善できる。
【0017】
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤の好ましい一態様では、(e)N-メチル-2-ピロリドンをさらに含有する。これによって、(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテルに溶解した炭素系成分や油分が乳化して(d)水系溶媒への分散が促進されるため、さらに好適な洗浄性能を得ることができる。
【0018】
また、(e)N-メチル-2-ピロリドンを含有する態様では、排ガス浄化フィルタ用洗浄剤の総量を100wt%としたときの(e)N-メチル-2-ピロリドンの含有量が0.1wt%~10wt%であることが好ましい。これによって、他の成分の含有量を十分に確保した上で、炭素系成分や油分をより好適に乳化させることができる。
【0019】
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤の好ましい一態様では、界面活性剤を実質的に含有しない。ここに開示されるフィルタ用洗浄剤に界面活性剤を添加すると、PMに対する洗浄性能が更に改善される。しかし、界面活性剤を含む洗浄剤は、フィルタの内部に残留しやすく、かつ、除去することが困難であるため、長時間の水洗い(リンス処理)が必要になるおそれがある。このため、フィルタの洗浄における作業効率を改善するという観点では、界面活性剤を実質的に含有しない洗浄剤を使用することが好ましい。ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、界面活性剤を含有していない場合でも、フィルタに捕集されたPMを十分に除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】ディーゼルパティキュレートフィルタの構造の一例を説明する断面模式図である。
【
図2】ここに開示される洗浄剤を用いたフィルタ洗浄装置の一例を説明する配管系統図である。
【
図3】第1の試験におけるサンプル1の試験結果を撮影した写真である。
【
図4】第1の試験におけるサンプル2の試験結果を撮影した写真である。
【
図5】第1の試験におけるサンプル3の試験結果を撮影した写真である。
【
図6】第2の試験におけるサンプル2の試験結果を撮影した写真である。
【
図7】第2の試験におけるサンプル3の試験結果を撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、ここに開示される技術の好適な一実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここに開示される技術の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここに開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術知識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を「A~B」と示す場合、「A以上B以下」を意味するものとする。
【0022】
1.フィルタ用洗浄剤
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、(a)塩基性化合物と、(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテルと、(c)尿素と、(d)水系溶媒とを含有する。かかる構成のフィルタ用洗浄剤は、PM中の炭素系成分と油分とアッシュ成分の各々を短時間で十分に除去できるため、フィルタ洗浄における作業効率を大幅に改善できる。以下、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤の各成分について具体的に説明する。
【0023】
(a)塩基性化合物
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、塩基性化合物を含有している。本明細書における「塩基性化合物」とは、水に溶解した際にアルカリ性を示す(pHを上昇させる)化合物を指す。ここに開示される技術を限定することを意図したものではないが、塩基性化合物を含むアルカリ系洗浄剤は、PM中の炭素系成分と油分を分解させる機能を有していると予想される。なお、塩基性化合物の一例として、アルカリ金属やアルカリ土類金属を含む無機アルカリ剤が挙げられる。かかる無機アルカリ剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;ケイ酸リチウム、炭酸リチウム、メタケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属弱酸塩;等が挙げられる。また、塩基性化合物は、上述の無機アルカリ剤に限定されず、第四級アンモニウム化合物、アンモニア、アミン等の窒素系塩基性化合物;炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム等の炭酸系塩基性化合物などであってもよい。また、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、上述の塩基性化合物を単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、PM中の炭素系成分や油分をより適切に分解させるという観点から、塩基性化合物は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、メタケイ酸ナトリウム等が特に好適である。
【0024】
また、塩基性化合物の含有量は、特に限定されず、洗浄対象のフィルタの構造やPM堆積の程度などを考慮して適宜調節することが好ましい。一例として、塩基性化合物の含有量は、0.1wt%以上とすることができる。なお、炭素系成分や油分をより適切に分解させるという観点から、塩基性化合物の含有量の下限は、0.5wt%以上が好ましく、1wt%以上がより好ましく、2.5wt%以上がさらに好ましく、5wt%以上が特に好ましい。また、塩基性化合物の含有量の上限も特に限定されず、25wt%以下でもよい。但し、他の成分の含有量を一定以上確保して総合的な洗浄性能を向上させるという観点から、塩基性化合物の含有量の上限は、20wt%以下が好ましく、17.5wt%以下がより好ましく、15wt%以下がさらに好ましく、12.5wt%以下が特に好ましい。なお、本明細書における「含有量」は、特に言及しない限りにおいて、フィルタ用洗浄剤の総重量を100wt%としたときの重量割合(wt%)のことを指すものとする。
【0025】
また、ここに開示される技術を限定することを意図したものではないが、フィルタ用洗浄剤のpHは、7.5以上が好ましく、8以上がより好ましく、8.5以上がさらに好ましく、9以上が特に好ましい。これによって、炭素系成分や油分をさらに好適に分解させることができる。一方、フィルタ用洗浄剤のpHの上限は、特に限定されず、14以下でもよく、13.5以下でもよく、13以下でもよい。
【0026】
(b)ジエチレングリコールモノアルキルエーテル
ジエチレングリコールモノアルキルエーテルは、ジエチレングリコールのヒドロキシ基(-OH)の1つがアルキル基に置換された化合物である。ジエチレングリコールモノアルキルエーテルは、極性分子と無極性分子の両方に対して一定の溶解力を発揮する溶剤であり、塩基性化合物によって分解された炭素系成分と油分を溶解する機能を有していると推測される。なお、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基の炭素数は特に限定されない。すなわち、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルとしては、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノペンチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘプチルエーテルなどが挙げられる。これらのなかでも、ジエチレングリコールモノブチルエーテルが特に好適である。なお、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、上述したジエチレングリコールモノアルキルエーテルを2種以上含有していてもよい。
【0027】
なお、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルの含有量は、特に限定されず、洗浄対象のフィルタの構造やPM堆積の程度などを考慮して適宜調節することが好ましい。例えば、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルの含有量は、0.05wt%以上とすることができる。なお、炭素系成分や油分を好適に溶解させるという観点から、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルの含有量は、0.1wt%以上が好ましく、1wt%以上がより好ましく、2.5wt%以上が特に好ましい。また、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルの含有量の上限も特に限定されず、20wt%以下でもよい。また、他の成分の含有量を一定以上確保するという観点から、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルの含有量の上限は、15wt%以下が好ましく、12.5wt%以下がより好ましく、10wt%以下がさらに好ましく、7.5wt%以下が特に好ましい。
【0028】
(c)尿素
次に、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、尿素(NH2CONH2)を含有している。ここに開示される技術を限定することを意図したものではないが、尿素は、PM中のアッシュ成分(特に硫酸カルシウム(CaSO4))を錯化するという機能を有していると予想される。そして、尿素の作用によって錯化したアッシュ成分は、フィルタ用洗浄剤の他の成分に容易に溶解する。このように、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、数十時間の浸漬によってアッシュ成分を溶解して除去する従来の酸系洗浄剤と異なり、アッシュ成分を短時間で錯体化して溶解しやすくしているため、排ガス浄化用フィルタの洗浄処理の効率化に大きく貢献できる。
【0029】
なお、他の成分と同様に、尿素の含有量も、特に限定されず、洗浄対象のフィルタの構造やPM堆積の程度などを考慮して適宜調節することが好ましい。例えば、尿素の含有量は、0.05wt%以上でもよい。なお、アッシュ成分の錯体化をより好適に生じさせるという観点から、尿素の含有量は、0.1wt%以上が好ましく、0.5wt%以上がより好ましく、1wt%以上が特に好ましい。また、尿素の含有量の上限も特に限定されず、15wt%以下でもよい。一方、他の成分の含有量を一定以上確保して総合的な洗浄性能を向上させるという観点から、尿素の含有量の上限は、10wt%以下が好ましく、7.5wt%以下がより好ましく、5wt%以下が特に好ましい。
【0030】
(d)水系溶媒
ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、上述の成分(a)~成分(c)を水系溶媒に添加して混合することによって調製される。かかる水系溶媒は、水を主成分として含有する溶媒である。この種の水系溶媒は、環境への負荷が小さく、かつ、管理や廃棄が容易であるという利点を有している。ここでの水としては、脱イオン水、純水、蒸留水等が挙げられる。なお、水系溶媒は、水のみを使用する態様に限定されず、親水性の有機溶媒と水を混合した混合溶媒を使用することもできる。この種の親水性の有機溶媒の一例として、アルコール類が挙げられる。このアルコール類としては、メタノール、エタノール、ブタノール、ラウリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、バチルアルコール等が挙げられる。この種のアルコール類と水とを混合した水系溶媒を使用することによって、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルに溶解した炭素系成分と油分を洗浄剤中に分散させやすくなるため洗浄性能をさらに改善できる。なお、この種の混合溶媒の総重量を100wt%としたときのアルコール類の含有量は、0.5wt%~10wt%が好ましく、1wt%~5wt%がより好ましい。
【0031】
(e)N-メチル-2-ピロリドン
また、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、上述した成分(a)~(d)の他に、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を含有していてもよい。NMPは、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルに溶解した炭素系成分や油分を乳化して水系溶媒への分散を促進するという機能を有している。これによって、一度除去した炭素系成分や油分がフィルタに再度付着することを防止できるため、洗浄性能をさらに向上できる。なお、NMPの含有量も、洗浄対象のフィルタの構造やPM堆積の程度などを考慮して適宜調節することが好ましい。例えば、NMPの含有量は、0.05wt%以上とすることができる。なお、NMPによる乳化作用をより好適に生じさせるという観点から、NMPの含有量は、0.1wt%以上が好ましく、0.5wt%以上がより好ましく、1wt%以上が特に好ましい。一方、NMPの含有量の上限も特に限定されず、15wt%以下でもよい。なお、他の成分の含有量を一定以上確保するという観点から、NMPの含有量の上限は、10wt%以下が好ましく、7.5wt%以下がより好ましく、5wt%以下が特に好ましい。
【0032】
(f)界面活性剤
また、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、界面活性剤を実質的に含有しないことが好ましい。近年では、アッシュ成分を含むPMに対する洗浄性能を向上させるために、フィルタ用洗浄剤に界面活性剤を添加することが提案されている。しかしながら、界面活性剤を含む洗浄剤は、洗浄後のフィルタ内部に残留しやすく、かつ、フィルタ内部から除去することが困難である。このため、界面活性剤を含むフィルタ用洗浄剤を使用した場合には、数時間の水洗い(リンス処理)が必要となり、洗浄処理の効率を却って低下させるおそれがある。これに対して、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤は、界面活性剤を添加しなくてもフィルタからPMを十分に除去できるため、洗浄処理の効率を低下させることなく、PMが適切に除去された排ガス浄化用フィルタを得ることができる。なお、ここでの説明は、界面活性剤の添加を禁止することを意図したものではない。例えば、フィルタの構造やPMの堆積量によっては、洗浄後に数時間程度のリンス処理が必要となったとしても、界面活性剤を添加して洗浄性能を大幅に向上させることが求められることもあり得る。このときの界面活性剤の含有量は、0.05wt%~5wt%(より好適には0.1wt%~2.5wt%)とすることが好ましい。
【0033】
なお、本明細書における「界面活性剤を実質的に含有しない」とは、界面活性剤の意図的な添加が行われていないことを指す。したがって、界面活性剤と解釈され得る成分が原料や製造工程等に由来して不可避的かつ微量に含まれるような場合は、本明細書における「界面活性剤を実質的に含有しない」の概念に包含される。例えば、界面活性剤の含有量が0.001wt%以下(好ましくは0.0005wt%以下、より好ましくは0.0001wt%以下、特に好ましくは0.00005wt%以下)である場合、「界面活性剤を実質的に含有しない」ということができる。また、本明細書における「界面活性剤」としては、例えば、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。アニオン界面活性剤としては、カルボン酸塩型アニオン界面活性剤、硫酸エステル塩型アニオン界面活性剤、スルホン酸塩型アニオン界面活性剤、リン酸塩型アニオン界面活性剤等が挙げられる。また、非イオン界面活性剤としては、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤、多価アルコール型非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0034】
(g)他の成分
また、フィルタ用洗浄剤には、ここに開示される技術の効果が著しく妨げられない範囲内で、従来公知の添加剤(例えば、防腐剤、防錆剤、消泡剤等)が添加されていてもよい。これらの添加剤については、ここに開示される技術を限定するものではないため、詳細な説明を省略する。
【0035】
2.洗浄方法
次に、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤を用いた洗浄方法の一例を説明する。本洗浄方法は、排ガス浄化用フィルタに捕集されたPMを除去する方法であって、少なくとも、洗浄液準備工程と洗浄工程を備えている。
【0036】
(1)洗浄対象
上述の通り、本洗浄方法は、排ガス浄化用フィルタを洗浄対象とする。かかる排ガス浄化用フィルタの一例として、
図1に示すような構造のディーゼルパティキュレートフィルタ1(DPF:Diesel Particulate Filter)が挙げられる。
図1に示すように、この種のDPF1は、ウォールフロー構造のDPF用基材10を備えている。具体的には、DPF用基材10は、排ガスの流通方向Aに沿って延びた筒状の部材であり、内部に複数のガス流路(入側セル12および出側セル14)を有している。そして、入側セル12は、排ガス流入側の端部がガス流入口12aとして開放されていると共に、排ガス流出側の端部が封止部12bによって封止された流路である。一方、出側セル14は、排ガス流入側の端部が封止部14aによって封止されていると共に、排ガス流出側の端部がガス流出口14bとして開放されている流路である。そして、入側セル12と出側セル14は、多孔質の隔壁16によって仕切られている。また、隔壁16の内部には、細孔径を所望の範囲に調節するためのコート層が形成されていてもよい。
【0037】
上記構成のDPF1に供給された排ガスは、
図1中の矢印Aに示すように、入側セル12に流入し、多孔質の隔壁16を通過した後に、出側セル14を通過してフィルタ外部に排出される。このとき、排ガスに含まれるPMは、多孔質の隔壁16に捕集される。しかしながら、PM堆積量、特に、再生処理で除去できないアッシュ成分の堆積量が増加し過ぎると、隔壁16が閉塞してDPF1の前後における圧損が増大するおそれがある。これに対して、本洗浄方法は、隔壁16に捕集されたPMを除去することを目的としている。
【0038】
なお、本明細書における「排ガス浄化用フィルタ」は、排ガス中のPMが付着し得るフィルタ状の部品全般を包含し得る概念であり、
図1に示す構成のDPFに限定されない。例えば、内燃機関の排気系には、DPFやGPFなどのPM捕集用フィルタだけでなく、三元触媒やSCR触媒などの有害ガス成分(HC、CO、NOx等)を浄化する排ガス浄化用触媒も設置される。これらの排ガス浄化用触媒もフィルタ状の部品であるため、PMが堆積して圧損が増大する可能性がある。ここに開示される洗浄剤は、これらの排ガス浄化用触媒の洗浄に使用することもできる。
【0039】
(2)洗浄液準備工程
次に、本洗浄方法では、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤を含む洗浄液を準備する。かかる洗浄液は、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤を所定の媒体(水など)で希釈して調製してもよいし、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤をそのまま使用してもよい。なお、希釈の要否および希釈倍率は、フィルタの構造やPMの堆積量などを考慮して適宜調節することが好ましい。かかる希釈倍率は、例えば、重量基準で2倍~100倍程度でもよく、5倍~30倍程度でもよい。また、洗浄対象や汚れの種類によっては、ここに開示される技術の効果が著しく妨げられない範囲内で、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤と他の洗浄剤とを混合した洗浄液を調製してもよい。
【0040】
(3)洗浄工程
本工程では、準備した洗浄液を排ガス浄化用フィルタの内部に供給する。本工程を実施する手段は、特に限定されず、フィルタの構造やPMの堆積量に応じた適切な手段を採用できる。以下、本工程の一例として、
図2に示すフィルタ洗浄装置100を使用した洗浄工程について説明する。
【0041】
先ず、
図2に示すフィルタ洗浄装置100の構造について説明する。このフィルタ洗浄装置100は、排ガス浄化用フィルタ(
図2ではDPF1)を収容する洗浄槽20と、洗浄槽20の上部に配置された供給装置60と、洗浄液を収容する洗浄液タンク40と、リンス水を収容する水タンク70と、洗浄液タンク40中の洗浄液と水タンク70のリンス水の一方を供給装置60に圧送するポンプ50と、供給装置60に温風を供給する温風ブロア80とを備えている。さらに、このフィルタ洗浄装置100では、洗浄槽20の底部に取り付けられた循環ラインがポンプ50に接続されている。これによって、洗浄槽20に供給された後の洗浄液(又はリンス水)を循環させ、供給装置60に再度供給することができる。また、
図2に示すフィルタ洗浄装置100では、循環ラインにバッファタンク55が設置されている。これによって、洗浄槽20中の洗浄液の水位が急激に変動することを抑制できる。また、図示は省略するが、循環ライン90には、洗浄液を濾過するフィルタが設けられていることが好ましい。これによって、DPF1から除去されたPMがポンプ50内に侵入することを防止できる。
【0042】
図2に示すフィルタ洗浄装置100を用いて洗浄工程を実施する場合、最初に、洗浄槽20の内部に排ガス浄化用フィルタ(
図2ではDPF1)を縦置きの状態で設置する。この状態で、洗浄液タンク40とポンプ50との間の第1バルブ31を開いてポンプ50を稼働させる。これによって、供給装置60から洗浄液が排出され、DPF1の上面に供給される。そして、DPF1の上面に供給された洗浄液は、入側セル12又は出側セル14(
図1参照)を通ってフィルタ内部に浸透する。そして、この洗浄工程の初期では、循環ライン90上の第2バルブ32を閉じた状態で供給装置60から洗浄液を供給する。そして、洗浄槽20における洗浄液の水位が一定以上となった際に、第1バルブ31を閉じて洗浄液タンク40とポンプ50とを遮断すると共に、第2バルブ32を開いて洗浄槽20とポンプ50とを連通させる。これによって、循環ラインを介して洗浄液を循環させ、DPF1の上面に洗浄液を供給し続けることができる。なお、洗浄液の循環を継続する時間は、30分以上3時間以下が好ましく、1時間以上2時間以下がより好ましい。ここに開示される洗浄剤を含む洗浄液を用いることによって、このような短時間でもDPF1に堆積したPMを十分に除去することができる。
【0043】
(4)リンス工程
ここに開示される技術を限定することを意図したものではないが、洗浄工程の後にリンス工程を実施すると好ましい。このリンス工程では、リンス水(例えば、脱イオン水、純水、超純水、蒸留水等)を洗浄対象に供給する。これによって、フィルタから剥離したPM(特にアッシュ成分)を好適に除去できると共に、洗浄液がフィルタ内に残留することを防止できる。
【0044】
図2に示すフィルタ洗浄装置100を使用してリンス工程を実施する場合、最初に、第2バルブ32を閉じると共にポンプ50を一時停止する。これによって、循環ライン90を介した洗浄液の循環が停止する。この状態で第3バルブ33を開いて洗浄槽20中の洗浄液を排出する。その後、第3バルブ33を閉じると共に、第4バルブ34を開いた状態でポンプ50を再稼働させる。これによって、供給装置60からDPF1の上面にリンス水が供給され、DPF1の内部にリンス水が浸透する。そして、洗浄槽20中のリンス水の水位が一定以上となった際に、第4バルブ34を閉じてリンス水タンク40とポンプ50とを遮断すると共に、第2バルブ32を開いて洗浄槽20とポンプ50を連通させる。これによって、循環ラインを介してリンス水を循環させ、DPF1にリンス水を供給し続けることができる。なお、界面活性剤を含まない洗浄剤を使用した場合には、本工程におけるリンス水の循環時間を10分~30分(例えば15分程度)に短縮できる。一方、洗浄剤に界面活性剤を添加した場合には、本工程におけるリンス水の循環時間を2時間以上に設定することが求められる。すなわち、本工程の処理時間を短縮して作業効率を向上させるという観点からは、洗浄剤は、界面活性剤を実質的に含まないことが好ましい。
【0045】
(5)乾燥工程
また、リンス工程を実施した後は、乾燥工程を実施すると好ましい。例えば、
図2に示すフィルタ洗浄装置100を使用する場合には、先ず、最初に、第2バルブ32を閉じると共にポンプ50を停止させる。これによって、循環ラインを介したリンス水の循環が停止する。この状態で第3バルブ33を開くことによって洗浄槽20中のリンス水が排出される。そして、第5バルブ35を開いて温風ブロア80と供給装置60とを連通させた状態で温風ブロア80を稼働させる。これによって、供給装置60からDPF1に温風が吹き付けられてDPF1の内部が乾燥される。
【0046】
以上、ここに開示されるフィルタ用洗浄剤および当該フィルタ用洗浄剤を使用した洗浄方法について説明した。しかし、上述の説明は、例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、上述のフィルタ用洗浄剤を様々に変更したものが含まれる。
【0047】
[試験例]
次に、ここに開示される技術に関する試験例を説明する。なお、以下の試験例は、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0048】
A.第1の試験
本試験では、成分の異なる3種類の洗浄液を準備し、アッシュ成分の主成分である硫酸カルシウムに対する作用を調べた。
【0049】
1.洗浄液の準備
(1)サンプル1
サンプル1では、5wt%の水酸化ナトリウムと、5wt%の水酸化カリウムと、2.5wt%のメタケイ酸ナトリウム9水和物と、5wt%のジエチレングリコールモノブチルエーテルと、2.5wt%のエタノールと、3wt%のNMPと、3wt%の尿素と、73wt%のイオン交換水とを混合したフィルタ用洗浄剤を調製した。そして、このフィルタ用洗浄剤を20ml採取し、300mlの水で希釈したものをサンプル1の洗浄液とした。すなわち、サンプル1の洗浄液には、0.2wt%の尿素が含まれている。
【0050】
(2)サンプル2
サンプル2では、サンプル1と同じ組成のフィルタ用洗浄剤を調製した。そして、このフィルタ用洗浄剤を40ml採取し、300mlの水で希釈したものをサンプル2の洗浄液とした。すなわち、サンプル2の洗浄液には、0.4wt%の尿素が含まれている。
【0051】
(3)サンプル3
サンプル3では、5wt%の水酸化ナトリウムと、5wt%の水酸化カリウムと、2.5wt%のメタケイ酸ナトリウム9水和物と、5wt%のジエチレングリコールモノブチルエーテルと、2.5wt%のエタノールと、3wt%のNMPと、76wt%のイオン交換水とを混合したフィルタ用洗浄剤を調製した。そして、このフィルタ用洗浄剤を20ml採取し、300mlの水で希釈したものをサンプル3の洗浄液とした。すなわち、サンプル3の洗浄液は、尿素を含有していない点を除いて、サンプル1の洗浄液と同じ組成である。
【0052】
2.評価試験
建材用の石膏ボード(硫酸カルシウム含有率:98wt%)を30mm×50mm×8mmの大きさの破片に破砕し、溶解試験用の試験片を準備した。そして、各サンプルの洗浄液に試験片を浸漬して1時間静置した後に試験片の状態を目視で観察した。
図3はサンプル1の試験結果を撮影した写真である。
図4はサンプル2の試験結果を撮影した写真である。
図5はサンプル3の試験結果を撮影した写真である。
【0053】
先ず、
図3及び
図4に示すように、サンプル1、2では、錯体化した硫酸カルシウムの微細粒子が洗浄液の水面に浮遊していた。そして、洗浄液を撹拌した結果、試験片が崩壊すると共に、微細な錯体が洗浄液に溶解した。一方、
図5に示すように、サンプル3では、洗浄液の水面には何も浮遊していなかった。そして、洗浄液を撹拌しても、試験片の形状が維持されたままであった。以上の結果から、サンプル1、2のような尿素を含む洗浄剤は、硫酸カルシウムを錯体化して溶解させやすくする機能を有しているため、排ガス浄化用フィルタの隔壁に詰まったアッシュ成分を好適に除去できると予想される。
【0054】
B.第2の試験
本試験では、第1の試験で調製したサンプル2、3を用いて、実際に排ガス浄化用フィルタを洗浄した。
【0055】
1.洗浄液の準備
本試験では、第1の試験で調製したサンプル2、3を使用した。すなわち、サンプル2は0.4wt%の尿素を含む洗浄液であり、サンプル3は尿素を含まない洗浄液である。
【0056】
2.評価試験
長期間の使用によって酸系洗浄剤への浸漬ではガス通気性が回復しない程にPM(主にアッシュ成分)が堆積したDPF(工場廃棄品)を準備し、これを50mm×50mm×100mmの角柱状に切り出した試験片を作成した。そして、サンプル2、3の洗浄液に試験片を常温で浸漬し、10分間静置した後に洗浄液の状態を目視で観察した。
図6は、サンプル2の試験結果を撮影した写真である。また、
図7は、サンプル3の試験結果を撮影した写真である。
【0057】
先ず、
図6に示すように、サンプル2では、洗浄液の全体が黒く濁ると共に、黒色の浮遊物と沈殿物が多量に生じた。これらの浮遊物と沈殿物は、錯体化した微小なアッシュ成分(硫酸カルシウム)に炭素系成分や油分が付着したものと推測される。一方、
図7に示すように、サンプル3では、洗浄液の色がサンプル2よりも薄く、沈殿物や浮遊物の量も少なかった。このことから、サンプル3では、DPFの隔壁からアッシュ成分が十分に除去されておらず、アッシュ成分に付着した状態の炭素系成分や油分がDPF内部に多量に残留していると予想される。以上の実験結果から、アッシュ成分を含むPMをDPFから短時間で適切に除去するには、尿素を含む洗浄剤を使用すべきであることが分かった。
【0058】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 DPF
10 DPF基材
12 入側セル
14 出側セル
16 隔壁
20 洗浄槽
31 第1バルブ
32 第2バルブ
33 第3バルブ
34 第4バルブ
35 第5バルブ
40 洗浄液タンク
50 ポンプ
60 供給装置
70 リンス水タンク
80 温風ブロア
90 循環ライン
95 バッファタンク