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特許7409695細胞内相図をマッピングするためのハイスループット法およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】細胞内相図をマッピングするためのハイスループット法およびシステム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/06 20060101AFI20231226BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20231226BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20231226BHJP
   C12N 9/14 20060101ALN20231226BHJP
   C12N 11/16 20060101ALN20231226BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20231226BHJP
【FI】
C12Q1/06
C12N15/09 110
C12N15/113 Z ZNA
C12N9/14
C12N11/16
C07K19/00
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2021516393
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 US2019051827
(87)【国際公開番号】W WO2020061251
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】62/734,063
(32)【優先日】2018-09-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591003552
【氏名又は名称】ザ、トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100157923
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴喰 寿孝
(72)【発明者】
【氏名】ブラングウィン,クリフ
(72)【発明者】
【氏名】ブラチャ,ダン
(72)【発明者】
【氏名】ジャンパー,シャネル
(72)【発明者】
【氏名】アッカーマン,ポール
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/165293(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0251497(US,A1)
【文献】国際公開第2019/147611(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2016/0083786(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0219596(US,A1)
【文献】国際公開第2017/216123(WO,A1)
【文献】CELL,2016年12月29日,VOL:168,PAGE(S):159-171,E1-E7,https://dx.doi.org/10.1016/j.cell.2016.11.054
【文献】iSCIENCE,2018年06月05日,Vol.4,pp.216-235
【文献】SOFT MATTER,2011年02月21日,VOL:7,PAGE(S):3052-3059
【文献】Nat. Chem. Biol.,2015年,Vol.11, No.3,pp.198-200
【文献】BIORXIV[ONLINE],2018年03月16日,PAGE(S):1-16,https://dx.doi.org/10.1101/283655
【文献】BIORXIV[ONLINE],2019年08月21日,PAGE(S):737387(1-13),https://www.biorxiv.org/content/10.1101/737387v2
【文献】CELL,2018年11月29日,VOL:175,PAGE(S):1481-1491,E1-E6,https://doi.org/10.1016/j.cell.2018.10.057
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12N 15/
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞内相互作用をマッピングまたはスクリーニングするためのハイスループット法であって:
a. 複数の細胞を提供し、各細胞は、少なくとも1つの光波長によって制御可能な相分離または凝集システムを発現し、相分離または凝集システムは、(i)ターゲットタンパク質および(ii)該ターゲットタンパク質に融合した蛍光タンパク質または該ターゲットタンパク質に付着したフルオロフォアを含み;
b. 複数の細胞の少なくとも1つを、第一の温度でウェル中に入れ;
c. 少なくとも1つの化学的または生物学的剤を、第一の濃度でウェルに導入し;
d. ウェルを、一定のまたはパルス化方式で、少なくとも1つの光波長で照射し、そして相分離または凝集システムが、凝縮物を形成するのを可能にし;
e. さらなる光波長で、複数の細胞の少なくとも1つを照射して、蛍光タンパク質または付着したフルオロフォアに蛍光を生じさせ;
f. 第一の領域が凝縮物を含有し、そして第二の領域が凝縮物を含有しない、複数の細胞の第一の領域および第二の領域内の蛍光の量に基づいて、相分離または凝集を定量化し、細胞内相互作用をマッピングまたはスクリーニングする
工程を含む、前記方法。
【請求項2】
複数の細胞の少なくとも1つを固定し、そして染色する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
相分離または凝集システムが、optoDroplet、CasDrop、PixELLまたはCoreletシステムである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
細胞が:
2つまたはそれより多い反復配列に融合または付着した、酵素的に不活性である(dead)Cas9を含む第一の構築物であって、各反復配列が、少なくとも1つの光波長に感受性である受容体タンパク質を含む、前記第一の構築物、および
光感受性受容体タンパク質の同族(cognate)パートナーを含む、第二の構築物であって、該光感受性受容体タンパク質は、
少なくとも1つの蛍光タンパク質、および
全長または一部切除(truncated)低複雑性または天然変形タンパク質領域を有する少なくとも1つの遺伝子制御タンパク質、または
自己相互作用、ヘテロタイプ(非自己)相互作用のネットワーク、または相分離の少なくとも1つを促進することが知られる他のフォールディングタンパク質
に融合している、前記第二の構築物、
を含む相分離または凝集システムを発現するように設定されている、請求項1記載の方法。
【請求項5】
ウェルを、連続したまたはパルス化方式で、少なくとも1つの光波長で照射した後、少なくとも1つの化学的または生物学的剤をウェルに導入する、請求項1記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの化学的または生物学的剤が小分子ライブラリー由来の化合物である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの化学的または生物学的剤が遺伝子ノックアウトまたはノックダウンスクリーニングシステムの構成要素である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
遺伝子ノックアウトまたはノックダウンスクリーニングシステムが、TALEN、shRNA、siRNAおよびCRISPR-KOからなる群より選択される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
蛍光タンパク質または付着したフルオロフォアが蛍光を生じる間、複数の細胞の少なくとも1つの画像を捕捉する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1つの第一の領域および少なくとも1つの第二の領域を同定するため、画像プロセシングソフトウェアを利用する工程をさらに含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つの第一および第二の領域内でピクセル強度を測定する工程をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
相分離または凝集を定量化する工程が、測定されたピクセル強度の標準偏差を決定する工程を含む、請求項9記載の方法。
【請求項13】
相分離を定量化する工程が、画像パラメータの変化における閾値を決定して、所定のウェルにおける相分離する細胞の割合の決定を可能にする工程を含む、請求項9記載の方法。
【請求項14】
画像分析アルゴリズムによって、各ウェル内で検出される生存細胞の数で構成される測定値を調べることによって、アッセイ条件と関連する毒性を決定する、請求項9記載の方法。
【請求項15】
訓練される機械学習アルゴリズムに画像を送る、請求項9記載の方法。
【請求項16】
画像に基づき、第一および第二の濃度を概算するように、訓練される機械学習アルゴリズムを訓練する、請求項15記載の方法。
【請求項17】
異なる光条件、および異なる温度条件からなる群より選択される異なる条件下で、工程d~fを反復する、請求項1記載の方法。
【請求項18】
細胞を、一定のまたはパルス化活性化光に供する時間を変化させることによって、不可逆的凝集状態への時間依存性転移を監視する、請求項17記載の方法。
【請求項19】
定量化された相分離または凝集を利用する相図の全てを生成する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項20】
定量化された相分離または凝集およびベースラインの相分離または凝集の間の相違の計算をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項21】
相違があらかじめ決定した閾値を超えた際、ユーザーにシグナルを伝える工程をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
少なくとも1つの光波長によって制御可能な相分離または凝集システムに補完的な光操作システムを用いることによって、偽陽性ヒットを同定する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項23】
細胞内相互作用のハイスループットマッピングまたはスクリーニングのためのシステムであって:
細胞内の受容体タンパク質が感受性である少なくとも1つの光波長で少なくとも1つのウェルを一定のまたはパルス化光条件下で照射するよう設定され、そして蛍光タンパク質が吸収可能である少なくとも1つの光波長で細胞内の複数の蛍光タンパク質を照射するよう設定された、少なくとも1つの光源、ここで、当該細胞は、少なくとも1つの光波長によって制御可能である相分離または凝集システムを発現し、当該相分離または凝集システムは、(i)ターゲットタンパク質および(ii)該ターゲットタンパク質に融合した蛍光タンパク質または該ターゲットタンパク質に付着したフルオロフォアを含む;
細胞内の複数の蛍光タンパク質の画像を捕捉するよう設定された検出装置;
少なくとも1つのプロセッサによって実行された際に:
少なくとも1つの光源が、細胞内の受容体タンパク質が感受性である少なくとも1つの光波長で少なくとも1つのウェルを照射するようにし;
少なくとも1つの光源が、蛍光タンパク質が吸収可能な少なくとも1つの光波長で少なくとも1つのウェルを照射するようにし;
検出装置から画像を受け取り;
異なるウェルにピントが合うように、顕微鏡の構成要素にウェルの位置を変化させ;
第一の強度で画像中の第一の領域を、そして第二の強度で画像の第二の領域を検出し、ここで第一の強度は第二の強度より高く;そして
第一の強度に基づき第一の領域の濃度を、そして第二の強度に基づき第二の領域の濃度を決定する
命令を含有する、メモリ
を含む、前記システム。
【請求項24】
細胞内相互作用をマッピングまたはスクリーニングするためのハイスループット法であって:
a. 複数の細胞を提供し、各細胞は、(i)ターゲットタンパク質および(ii)該ターゲットタンパク質に融合した蛍光タンパク質または該ターゲットタンパク質に付着したフルオロフォアを含む相分離または凝集システムを発現し;
b. 複数の細胞の少なくとも1つを、第一の温度でウェル中に入れ;
c. 少なくとも1つの化学的または生物学的剤を、第一の濃度でウェルに導入し;
d. 相分離または凝集システムが凝縮物を形成することを可能にし;
e. 光波長で、複数の細胞の少なくとも1つを照射して、蛍光タンパク質または付着したフルオロフォアに蛍光を生じさせ;
f. 第一の領域が凝縮物を含有し、そして第二の領域が凝縮物を含有しない、複数の細胞の第一の領域および第二の領域内の蛍光の量に基づいて、相分離または凝集を定量化し;および
g. 少なくとも1つの化学的または生物学的剤の作用下で、完全にまたは部分的に、完全バイノーダルおよびスピノーダル相境界を含む相分離または凝集システムの相境界を決定し、そしてこれらの境界の位置を監視する
工程を含む、前記方法。
【請求項25】
生体分子相互作用をin vitroでマッピングまたはスクリーニングするためのハイスループット法であって:
a. (i)ターゲットタンパク質および(ii)該ターゲットタンパク質に融合した蛍光タンパク質または該ターゲットタンパク質に付着したフルオロフォアを含むin vitro相分離または凝集システムを含む、複数の精製タンパク質を提供し;
b. 複数の精製タンパク質を、第一の温度で少なくとも1つのウェル中に入れ;
c. 少なくとも1つの化学的または生物学的剤を、第一の濃度でウェルに導入し;
d. 相分離または凝集システムを誘導して凝縮物を形成させ;
e. 光波長で、複数の精製タンパク質の少なくとも1つを照射して、蛍光タンパク質または付着したフルオロフォアに蛍光を生じさせ;
f. 第一の領域が凝縮物を含有し、そして第二の領域が凝縮物を含有しない、少なくとも1つの複数のウェルの第一の領域および第二の領域内の蛍光の量に基づいて、相分離または凝集を定量化し;および
g. 少なくとも1つの化学的または生物学的剤の作用下で、完全にまたは部分的に、完全バイノーダルおよびスピノーダル相境界を含む相分離または凝集システムの相境界を決定し、そしてこれらの境界の位置を監視する
工程を含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロスリファレンス
[0001]本出願は、その全体が本明細書に援用される、2018年9月20日出願の米国仮出願第62/734,063号の恩典を請求する。
【0002】
技術分野
[0002]本発明は、一般的に、タンパク質の誘導されたクラスター形成に、そしてより具体的には、例えばタンパク質のクラスター形成を光学的に制御することを通じて、相分離を誘導することによって、生体分子相互作用を検出するかまたは細胞内相図をマッピングするためのハイスループット手段に関する。
【0003】
配列表
[0003]本明細書とともに電子的に提出する配列表もまた、その全体が本明細書に援用される(ファイル名:PRIN-60176b_ST25.txt;生成日:2019年9月18日;ファイルサイズ:1,844バイト)。
【背景技術】
【0004】
[0004]液相-液相分離(LLPS)は、細胞の内容物を編成するための基本的な機構である。LLPSは、現在、胚(P)顆粒、ストレス顆粒、miRISC集合、およびシナプス足場などの細胞質構造を含む、広範囲の膜不含凝縮物の集合を駆動するために重要であると認識されている。LLPSはまた、核小体を含む核内構造体生合成、およびおそらく多くの他のものの根底にあるようである。関連する液相固相転移もまた、病的タンパク質凝集の多様な疾患に関連付けられる。細胞内相転移は、弱い多価相互作用から生じ、低複雑性配列およびプリオン様ドメインに緊密に関連する、天然変性タンパク質/領域(IDP/IDR)によって、しばしば仲介される。
【0005】
[0005]したがって、細胞内の相分離に影響を及ぼす剤を同定するための方法が望ましい一方、相分離自体は、根底にある生体分子修飾およびこれらを調節する剤に関する読み取り値として利用可能である。
【発明の概要】
【0006】
[0006]細胞内相互作用をマッピングまたはスクリーニングするためのハイスループット法を開示する。該方法は、少なくとも1つの光波長によって制御可能である相分離または凝集システムを発現するように設定された細胞を提供する工程を含み、ここで、相分離または凝集システムは、ターゲットタンパク質、および好ましくは蛍光タンパク質(例えばGFP、mCherry等)を含む。ターゲットタンパク質は、その相分離の振る舞いを調節する剤が、開示するスクリーニングアプローチを通じて同定される、相分離または凝集システムにおけるタンパク質であり、そして一般的に、自己相互作用(例えばFUS-FUS相互作用)またはヘテロタイプ(非自己)相互作用のネットワーク(例えばG3BP-カプリン相互作用)のいずれかを通じて、相分離を駆動可能なタンパク質である。これらの相分離または凝集システムは、活性化されると、ターゲット分子または分子クラスを相分離させるかまたは凝集させる。例えば、BRD4、FUS、およびTAF15などの核タンパク質由来の天然変性領域は液体凝縮物に相分離し、該凝縮物は、低密度ユークロマチン領域において優先的に形成され、そして成長につれて、機械的にクロマチンを排除する。
【0007】
[0007]いくつかの実施形態において、相分離または凝集システムは、optoDropletシステム(その全体が本明細書に援用される、米国公報第2017/0355977号を参照されたい)、CasDrоpシステム(その全体が本明細書に援用される、PCT/US2019/014666を参照されたい)、Coreletシステム(その全体が本明細書に援用される、US公報第2018/0251497号を参照されたい)、またはPixELLシステム(本明細書にその全体が援用される、Dineら, ”Protein Phase Separation Provides Long-Term Memory of Transient Spatial Stimuli”, Cell Systems 6, 655-663 2018年6月27日を参照されたい)であってもよい。
【0008】
[0008]いくつかの実施形態において、例えばCasDropシステムの変型を利用すると、細胞は、2つの構築物:(i)各々、少なくとも1つの光波長に感受性がある受容体タンパク質を含む、2つまたはそれより多い反復配列に融合したまたは付着した、酵素的に不活性である(dead)Cas9を含む第一の構築物、および(ii)少なくとも1つの蛍光タンパク質、および全長または一部切除(truncated)低複雑性または天然変性タンパク質領域を有する少なくとも1つの遺伝子制御タンパク質、あるいは自己相互作用を促進することが知られる他のフォールディングしたタンパク質に融合した、光感受性受容体タンパク質の同族(cognate)パートナーを含む、第二の構築物を含む、相分離または凝集システムを発現するように設定される。これらの実施形態において、ターゲットタンパク質は、遺伝子制御タンパク質の相分離の振る舞いを調節する剤が、開示するスクリーニングアプローチを通じて同定される、これらの遺伝子制御タンパク質の1つまたはそれより多くであろう。
【0009】
[0009]次いで、細胞の少なくとも1つを、ウェルに入れる。その後の何らかの時点で、2つの工程が任意の順序で起こってもよい:化学的または生物学的剤をウェルに入れてもよく、そして相分離または凝集システムを制御して、ターゲット分子に結合させ、そして凝縮物を形成する、少なくとも1つの光波長で、ウェルを照射してもよい。随意に、化学的または生物学的剤は、小分子ライブラリー由来の化合物である。随意に、化学的または生物学的剤は、遺伝子ノックアウトまたはノックダウンスクリーニングシステムの構成要素、例えばTALEN、shRNA、siRNAおよびCRISPR-KOである。
【0010】
[0010]随意に、剤をウェルに入れた後、そして細胞が照射された後、当該技術分野(例えば免疫組織化学)の当業者に知られる標準法を用いて、細胞を随意に固定するか、または場合によって染色して、後の分析のために、内部構造を固定してもよい。次いで、蛍光タンパク質および/または他のフルオロフォアが蛍光を生じることを可能にするため、生存または固定細胞を異なる波長で照射してもよい。凝縮物を含有する領域において、ならびに凝縮物を含有しない領域において、蛍光を検出してもよい。随意に、これは、蛍光タンパク質が蛍光を生じる一方で、複数の細胞の少なくとも1つの画像を捕捉する工程を伴う。
【0011】
[0011]2つの領域内で検出される蛍光の量に基づいて、相分離または凝集を定量化してもよい。蛍光の量は、2つの領域中のターゲット分子の濃度を反映する:例えば、蛍光相関分光を用いて、検量線を発展させて、当業者が強度および濃度の間で変換することを可能にしてもよい。随意に、該方法にはまた、凝縮物を含む領域中の蛍光の量に基づいて、第一の濃度を決定し、そして凝縮物を含まない領域中の蛍光の量に基づいて、第二の濃度を決定する工程も含まれる。
【0012】
[0012]随意に、該方法には、画像プロセシングソフトウェアを利用して、1つまたはそれより多い潜在的な第一の領域、および1つまたはそれより多い潜在的な第二の領域を同定する工程が含まれる。随意に、該方法には、潜在的な第一および第二の領域の少なくとも1つ内の蛍光を測定する工程が含まれる。随意に、該方法には、領域内で測定された蛍光に基づいて、領域内の濃度を決定する工程が含まれる。随意に、蛍光画像を捕捉する場合、画像を機械学習アルゴリズム、好ましくは画像の特性に基づいて濃度を概算するよう訓練されたものに送る。随意に、相分離の定量化は、所定のウェルにおける相分離する細胞の割合の決定を可能にする、画像パラメータ中の変化閾値を決定する工程を含む。随意に、画像分析アルゴリズムによって、各ウェル内で検出される生存細胞の数で構成される測定値を調べることによって、アッセイ条件に関連する毒性を決定する。
【0013】
[0013]随意に、該方法には、異なる光および/または温度条件下で、いくつかの工程を反復する工程が含まれる。反復工程には、一定のまたはパルス化された一連の光でウェルを照射して凝縮物を形成するかまたは溶解させ、細胞を照射して、蛍光タンパク質から蛍光を生じさせ、そして異なる領域における蛍光を検出する工程が含まれてもよい。
【0014】
[0014]随意に、該方法には、定量化された相分離または凝集を利用して、相図(例えばバイノーダルおよび/またはスピノーダル相境界)のいくつかまたはすべてを生じる工程が含まれてもよい。
【0015】
[0015]随意に、該方法には、ベースラインの定量化された相分離または凝集に、定量化された相分離または凝集を比較して、そして随意に、相違があらかじめ決定された閾値を超えた際にユーザーにシグナルを送る工程が含まれる。
【0016】
[0016]やはり開示するのは、細胞内相互作用のハイスループットマッピングまたはスクリーニングのためのシステムである。システムには、少なくとも2つの波長、細胞内の受容体タンパク質が感受性である1つの波長、および細胞内の蛍光タンパク質が吸収可能である1つの光波長を放出可能な1つまたはそれより多い光源が含まれる。システムにはまた、細胞内の複数の蛍光タンパク質の画像を捕捉するための検出装置も含まれる。システムにはまた、メモリおよび1つまたはそれより多いプロセッサも含まれる。メモリには、プロセッサ(単数または複数)によって実行される命令であって、命令を含有する、1つまたはそれより多いプロセッサを生じ、少なくとも1つのプロセッサによって実行された際に:1つまたはそれより多くの光源が、細胞内の受容体タンパク質が感受性である少なくとも1つの光波長でウェルを照射するとともに、蛍光タンパク質が吸収可能な少なくとも1つの光波長で少なくとも1つのウェルを照射し、検出装置から画像を受け取り、第一の強度で画像中の第一の領域を、そして第二の強度で画像の第二の領域を検出し、ここで第一の強度は第二の強度より高く、そして次いで、第一の強度に基づき第一の領域の濃度を、そして第二の強度に基づき第二の領域の濃度を決定する、前記命令が含まれる。
【0017】
[0017]やはり開示するのは、細胞内相互作用をマッピングまたはスクリーニングするための代替ハイスループット法である。該方法は、非光活性化相分離または凝集システム(例えば相分離の傾向があるタンパク質、例えば全長または一部切除低複雑性または天然変性タンパク質領域を有する遺伝子制御タンパク質(例えばFUS-FUS相互作用、またはhnRNPA1-hnRNPA1相互作用)を過剰発現するように設定されたシステム)、あるいは自己相互作用(例えばG3BP-G3BP相互作用)を促進することが知られる他のフォールディングしたタンパク質、あるいはヘテロタイプ(非自己)相互作用(例えばG3BP-カプリン相互作用)ネットワーク、あるいは相分離であって、相分離または凝集システムがターゲットタンパク質、またはターゲットタンパク質および蛍光タンパク質を含む、前記相分離を発現するように設定されている細胞を提供する工程を伴う。これらの相分離または凝集システムは、発現された際、その結果、自然に、ターゲット分子または分子クラスが相分離するかまたは凝集するようにするであろう。該方法は、これらの相分離または凝集システムが光によって活性化されないため、細胞を照射する(または反復して照射する)必要がない以外は、以前開示された方法に類似である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】[0018]図1は、開示する方法の1つの実施形態を示すフローチャートである。
図2-1】[0019]図2Aは、自動化画像分析法を用いて生成される、Coreletシステムを用いたFUSに関する、開示する方法の一部として産生されるバイノーダル相図の例である。
図2-2】[0020]図2Bは、分析する細胞の数の関数として、相分離された細胞の割合を示す、開示する方法論を用いた100の薬剤のスクリーニングからのデータ例を示す。白抜きの円は陽性対照(10ウェル)を示し、黒塗りの円は試験ウェル由来の結果であり、そしてボックスで囲んだヒットは高信頼性ヒットを示す。
図3】[0021]図3は、開示するシステムの1つの実施形態のブロック図である。
図4】[0022]図4Aは、CasDropシステム(SunTagに融合したdCas9、sfGFPおよびiLIDに融合したscFv、ならびにmChおよびsspBに融合した転写制御因子(BRD4ΔN)を含む)の相分離または凝集システムを、テロメアのためのsgRNAと同時発現させた際、明るいGFPフォーカス(410)がテロメアリピート結合因子TRF1と共局在していることが観察され、足場ターゲティングが成功したことが示されることを例示する画像である。
【0019】
[0023]図4B~4Dは、長時間、青色光で照射することによる、相分離または凝集システムの活性化に際して、BRD4ΔN-mCh-sspB液体液滴がシードされたテロメアで核形成し、そして成長することを例示する画像である(青色光照射の開始後、時間t=0秒(図4B)、t=11秒(図4C)、およびt=176秒(図4D))。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[0024]ターゲット生体分子ならびに一連の小分子および/または生物学的剤(biologics)の間の、非常に弱い相互作用を含む生体分子相互作用のハイスループット検出のための方法であって、これらの生体分子相互作用、タンパク質相分離および/または関連する不可逆的凝集に干渉する分子を同定するために用いられうる、前記方法を開示する。この技術は、細胞内の相の振る舞いの体系的な、潜在的にプロテオーム規模のマッピングを得る能力を提供する。該プロセスを、例えば、一連の異なるタンパク質配列を調査する際に用いてもよく、これは、任意の多くのバイオテクノロジー適用のための新規タイプの所望の相の振る舞いを持つ操作されたタンパク質の設計のための戦略を開発するために有用であろう。さらに、相分離は、分子間相互作用の指標であるため、相分離の検出を、関心対象の化学物質(薬剤)に関する読み取り値と同様の方式で利用してもよい。すなわち、薬剤を患者において相分離を調節するために用いなくてもよく;相分離が起こってさえいない生理学的背景において、最終的に、根底にある相互作用を妨害するためだけに、薬剤を用いてもよい。
【0021】
[0025]この技術はまた、細胞内または場合によって細胞外環境における特定の生物学的分子に対する化合物の大きなライブラリーのハイスループット高感度スクリーニング、ならびに/あるいは相分離が重要な役割を演じる疾患を治療するための化合物の大きなライブラリーのハイスループット薬剤発見スクリーニングも提供する。例えば、ユーイング肉腫を含む多様な癌は、機能亢進性転写によって駆動されると考えられ、こうした転写は、後者の場合、EWS-FLI1タンパク質融合タンパク質によって駆動される、転写凝縮物を通じて生じうる。この相の振る舞いを破壊する化合物の同定は、重要な療法戦略を提供しうる。相分離はまた、不可逆的タンパク質凝集物または異常な封入体が観察される疾患においても役割を果たすと考えられる。疾患には、限定されるわけではないが、筋委縮性側索硬化症(ALS)、アルツハイマー病、ハンチントン病、およびパーキンソン病が含まれてもよい。記載する技術は、潜在的な薬剤が、凝集物を溶解するかまたは液体化するか、密度を減少させるか、あるいは組成を変化させる潜在能力を含めて、凝集物/凝縮物集合動力学、物質特性(例えば粘弾性および形態)、および可逆性に影響を及ぼす能力の直接の観察を可能にするであろう。
【0022】
[0026]開示する発明は、ヒト細胞を含む生存細胞株内部での、ハイスループットおよび高感度スクリーニングのための方法を提供する。この技術はまた、細胞株を越えるシステムにおいて、例えばモデル生物(例えばC.エレガンス(C. elegans)などの線虫、大腸菌(E. coli)などの細菌、およびS.セレビシエ(S. cerevisiae)などの酵母、またはいくつかの実施形態において、齧歯類などのさらに大きなモデル生物を含む)内で、利用されてもよいことが想定される。精製構成要素ではなく生存細胞において本発明を利用するため、重要な利点がある。精製生物学的ターゲットを用いて典型的にはin vitroで行われる、現在の薬剤発見スクリーニング技術に比較して、生存細胞におけるスクリーニングは、少なくとも2つの別個の利点を提供する。第一に、薬剤の意図する最終的な使用のものに似た環境条件および巨大分子組成(すなわち混雑した細胞内環境)下でスクリーニングを行う。さらに、スクリーニングする薬剤は、すでに、同じ化学的修飾、プロセシング、代謝回転、および他の生体分子との競合相互作用を経ており、したがって、優れたスクリーニング能、およびさらなる徹底的な試験の必要性を伴わない、潜在的な薬剤候補の数の有意な絞り込みを可能にする。生存細胞中に存在するユニークな条件は、人工的なin vitro溶液中では生じないであろう、そしてしたがって、伝統的なin vitroスクリーニング技術のもとでは、ヒットを提供しないであろうような、有益な特異的または集合的細胞活性を促進する可能性もある。そして第二に、スクリーニングアッセイのために試験される生物学的ターゲットを単離する必要性が排除され;その代わり、単純なクローニング技術を用いて、ターゲティングされるタンパク質/RNAの発現を誘導する。さらに、ヒト細胞株におけるスクリーニングのためターゲティングされるタンパク質の発現は、すべての必要なプロセシング工程および翻訳後修飾を有するとともに、すべての異なるアイソフォームを、そして細胞に適切な濃度で有することを確実にする。
【0023】
[0027]開示する発明はまた、ターゲットタンパク質およびスクリーニングされる化合物の間の極端に弱い相互作用でさえ高感度に検出することも可能にする。記載する技術が、分子相互作用の直接検出を必要とせず、むしろ、生体分子相互作用の関連するネットワークにおける微小な変化を反映しうる、スクリーニングされる分子の非存在および存在においてマッピングされた相図のオフセットを同定するため、該方法はこうした検出を可能にする。
【0024】
[0028]開示する方法は、(I)病的凝集物中に見られるものを含む、自己相互作用タンパク質、または(II)自己相互作用ポリペプチド、例えばFUS PLDに融合した関心対象の任意のタンパク質のいずれかであってもよい、スクリーニングターゲットタンパク質を含有する、光誘導性相分離タンパク質凝縮物の発現を利用してもよい。次いで、細胞の大集団に渡るハイスループット画像化および自動化分析によって、薬剤候補ライブラリーの存在下または非存在下において、あるいは一連の遺伝的に異なる状態下で(すなわち遺伝的スクリーニング)、光誘導性凝縮物の相図を再構築しなければならない。例えば、小分子スクリーニング下で、マッピングされた相図におけるシフトは、I型の関心対象のタンパク質が、生理学的条件下でスクリーニングされる分子のいずれかと相互作用するかどうか、そしてII型の関心対象のタンパク質の場合、スクリーニングされる分子タンパク質のいずれかが、凝縮物を含有する病的凝集物において、溶解、液体化、または組成変化を誘導しうるかどうかを示唆するであろう。
【0025】
[0029]例えば当該技術分野に知られるような多様な自己相互作用タンパク質を発現することによって、生存細胞または生物内で、合成光活性化可能凝縮物を構築してもよい。あるいは、in vitro研究のため、例えば大腸菌に基づくタンパク質発現システムおよびゲルクロマトグラフィを含む既知の技術を用いて、タンパク質を発現させ、そして精製してもよい。
【0026】
[0030]次いで、タンパク質に関する相図をマッピングしてもよく、そしてこれを分析して、根底にある生体分子相互作用の熱力学に関する詳細な情報を抽出してもよい。相図は特定のタンパク質にユニークであり、そして相図は突然変異および翻訳後修飾に反応性である。
【0027】
[0031]さらに、ハイスループットデータ獲得システムに取り付けられたカメラから獲得した画像を用い、当業者に知られるアルゴリズムまたは方法論を用いて、ニューラルネットワークまたは他の機械学習アプローチを訓練してもよい。アルゴリズムをひとたび訓練したならば、各々、例えばターゲットタンパク質、および小分子ライブラリー由来の潜在的に1つの化合物を含有する、一連のウェルを用いて、ハイスループットデータ獲得システムを実行してもよい。ウェルに当てる光を調節することによって、光の状態を修飾しながら、画像を収集してもよい。これらの画像をニューラルネットにかけて、各ウェルに関して、自動的に相図を生成し、そして分析してもよい。
【0028】
[0032]図1を参照すると、細胞内相互作用をマッピングまたはスクリーニングするためのハイスループット法(100)の1つの実施形態は、始めに、少なくとも1つの光波長によって調節されることが可能な相分離または凝集システムを発現するように設定された、複数の細胞を提供する工程(110)を含む。細胞は、任意の細胞タイプであってもよいが、好ましくは哺乳動物細胞、そしてより好ましくはヒト細胞である。当業者は、多様なモデル生物(例えば線虫、細菌、酵母等)を、例えばヒト細胞の代わりに用いてもよいことを認識するであろう。
【0029】
[0033]相分離または凝集システムは、一般的に、当業者に知られる。相分離または凝集システムはまた、蛍光タンパク質を含有してもよい。
[0034]当業者に知られるように、相分離または凝集システムには、一般的に、ともに働いて、(1)例えば特定のタンパク質、分子または遺伝子をターゲティングする能力、および(2)相分離する能力を含む、多様な機能を提供する、1つまたはそれより多いタンパク質および/または核酸が含まれる。光学的に制御される相分離および凝集システムに関しては、タンパク質および/または核酸はまた、ともに働いて、第三の機能:1つまたはそれより多い光波長を用いて、相分離を制御する能力を提供する。
【0030】
[0035]いくつかの実施形態において、相分離または凝集システムは、optoDropletシステムである(米国特許公報第2017/0355977号を参照されたい)。簡潔には、optoDropletシステムは、ともに融合された2つのセグメントを含み、第一のセグメントは、少なくとも1つの光波長に感受性である光感受性タンパク質(例えばCry2、Cry2olig、PhyB、PIF、光酸素電圧感知(LOV)ドメイン、またはDronpa)であり、そして第二のセグメントは、低複雑性配列(LCS)または天然変性タンパク質領域(IDR)(例えばFUS、Ddx4、およびhnRNPA1に存在するもの)、あるいはいくつかの場合、フォールディングしたタンパク質/ドメインであってもよい。optoDropletシステムは、既知の技術を用いて産生される。optoDropletシステムは、光感受性タンパク質が感受性である光波長で、optoDropletシステムを照射することによって機能する。次いで、optoDropletは、光に曝露されている間に自己集合し、そしてLCSまたはIDRの集合が相分離(または液滴形成)を引き起こしうる。光を消すと、この相分離は逆転しうる。
【0031】
[0036]いくつかの実施形態において、相分離または凝集システムは、Coreletシステムである(米国特許公報第2018/0251497号を参照されたい)。簡潔には、Coreletシステムは2つの構築物を含む。第一の構築物は、自己集合タンパク質サブユニット(例えばフェリチン)に融合した、少なくとも1つの光波長に感受性である、光感受性タンパク質である。第二の構築物には、LCSまたはIDR、あるいはいくつかの場合フォールディングしたタンパク質/ドメインに融合した、光感受性タンパク質の同族(cognate)パートナーが含まれる。Coreletシステムは、既知の技術を用いて産生される。Coreletシステムは、まず、自己集合タンパク質サブユニットが、「コア」に自己集合することを可能にし、ここでコアが、外側に向いた光感受性タンパク質を有することによって機能する。第二の構築物は、単に近くに存在する。光に曝露された際、光感受性タンパク質が活性化し、そして第二の構築物上の同族パートナーと結合しようとこれを探し、第二の構築物のLCSまたはIDRによって囲まれた中央の「コア」を生じる。次いで、optoDropletシステム同様、LCSまたはIDR、あるいは場合によってフォールディングしたタンパク質/ドメインの集合は、相分離を引き起こしうる。
【0032】
[0037]いくつかの実施形態において、相分離または凝集システムは、PixELLシステムである(Dineら, “Protein Phase Separation Provides Long-Term Memory of Transient Spatial Stimuli”, Cell Systems 6, 655-663 June 27, 2018を参照されたい)。簡潔には、PixELLシステムは、Corelet概念のサブセットであり、そして一般的に、2つの構成要素を含むシステムを含む。各構成要素は、PixDまたはPixE(シネコシスティス属(Synechocystis)種PCC6803由来)のいずれかに融合したLCSまたはIDRを含む。PixDおよびPixEは、暗所で、巨大マルチサブユニット複合体に会合し(10:4または10:5のPixD:PixE化学量論を示すと考えられる)、青色光刺激に際して、数秒以内でPixDの二量体およびPixEの単量体に解離する。LCSまたはIDRをPixDおよびPixEに融合させることによって、暗所での複合体の形成は、多数のLCSまたはIDRを非常に近接させ、これは上述のように、相分離を引き起こしうる。PixEllシステムを、既知の技術を用いて産生してもよい。
【0033】
[0038]いくつかの実施形態において、相分離または凝集システムは、CasDropシステムである(PCT/US2019/014666を参照されたい)。CasDropシステムは、名前が示すように、Casに基づくゲノムターゲティングタンパク質を利用して、相分離(すなわち液滴形成)が起こるであろう場所をターゲティングする。CasDropシステムには、しばしば、2つの構成要素が含まれ、第一の構成要素は、第一の配列に融合したCasに基づくゲノムターゲティングタンパク質を含み、第一の配列には光感受性受容体、化学物質感受性受容体、光感受性オリゴマー化タンパク質、および/または非光感受性二量体化モジュールが含まれる。CasDropの第二の構成要素は、第一の配列で用いたものが何であれ、それに対する同族パートナー(または相補的二量体化ドメイン)に融合したLCSまたはIDRである。CasDropを、既知の技術を用いて産生してもよい。CasDropは、まず、細胞において、特定のゲノムターゲット遺伝子座、相補的一本鎖ガイドRNA、およびCasDropシステムを提供し、そして次いで、特定のゲノムターゲット遺伝子座の周囲の位置で、第一の構成要素中の第一の配列を第二の構成要素の同族パートナーに結合させる光または化学物質に、CasDropシステムを曝露することによって働く。やはり、optoDropletおよびCoreletシステムと同様、該システムは、次いで、第二の構成要素のLCSまたはIDR、および場合によってフォールディングしたタンパク質/ドメインをともに集合させ、これが相分離/液滴形成を引き起こしうる。
【0034】
[0039]いくつかの実施形態において、CasDropシステムの特定の実施を利用してもよく、この場合、相分離または凝集システムは2つの構築物:(i)各反復配列が少なくとも1つの光波長に感受性である受容体タンパク質を含む、2つまたはそれより多い反復配列に融合または付着した、酵素的に不活性であるCas9を含む第一の構築物、および(ii)少なくとも1つの蛍光タンパク質、および全長または一部切除低複雑性または天然変性タンパク質領域を有する少なくとも1つの遺伝子制御タンパク質、あるいは自己相互作用、ヘテロタイプ(非自己)相互作用ネットワーク、または相分離を促進することが知られる他のフォールディングしたタンパク質に融合した光感受性受容体タンパク質の同族パートナーを含む第二の構築物を発現可能である。
【0035】
[0040]再び図1を参照すると、次いで、細胞をウェルに入れる(120)。いくつかの実施形態において、細胞をウェルアレイ(例えば384ウェルアレイ)中の各ウェルに入れる。ウェルは典型的には、当業者に知られる装置を用いて、あらかじめ決定された温度で維持される。
【0036】
[0041]いくつかの実施形態において、相分離/凝集を誘導するために光は必要とされないことに注目されたい。光感受性相分離または凝集システムを発現する代わりに、場合によって、温度または溶液モル浸透圧濃度の変化を含む、改変された状態の関数として、相分離および/または凝集を誘導するために十分な濃度で、相分離易発性タンパク質を発現するよう、細胞が設定される。
【0037】
[0042]ユーザーの必要性に応じて、次の2つの工程を任意の順序で実行してもよい。いくつかの実施形態において、少なくとも1つの化学的または生物学的剤を、第一の濃度でウェルに導入し(130)、その後、ウェルを、相分離または凝集システムを制御可能な光波長で照射して、相分離または凝集システムが凝縮物を形成することを可能にする(140)。他の実施形態において、これらの工程を逆にする。
【0038】
[0043]いくつかの実施形態において、化学的または生物学的剤には、小分子ライブラリー由来の化合物が含まれてもよい。いくつかの実施形態において、化学的または生物学的剤には、遺伝子ノックアウトまたはノックダウンスクリーニングシステムの構成要素(例えばTALEN、shRNA、siRNAおよびCRISPR-KO)が含まれてもよい。
【0039】
[0044]いくつかの実施形態において、システムおよび方法は、当業者に知られる方式で、高度に自動化されていてもよい。例えば、商業的に入手可能なロボット自動化システムを用いて、細胞、増殖培地、および化学的または生物学的剤を多数のウェル(例えばウェル総数が10,000を超えてもよいような、多数のプレートを伴う多数の384ウェルプレート)に分配してもよい。
【0040】
[0045]再び、図1を参照すると、方法は、蛍光タンパク質またはフルオロフォアに蛍光を生じさせる少なくとも1つの波長で、細胞を照射することによって続く(150)。この光波長は、相分離または凝集システムを制御する光波長とは異なってもよい。
【0041】
[0046]いくつかの実施形態において、次いで、適切であるように、相分離または凝集システムに1つまたはそれより多いフルオロフォアを導入する/結合させる工程を含んでもよい、当業者に知られる適切な技術を用いて、細胞を固定し、そして染色する。この方法もまた、例えば固定剤および緩衝剤をウェルに分配するための商業的に入手可能なロボット自動化システムを用いることによって、自動化された方式で実行してもよい。例えば、アセトン固定剤を用いてもよく、この場合、細胞を-20℃のアセトン中、5~10分間固定してもよい。あるいは、細胞を三工程プロセスで固定し、そして透過処理してもよい:(1)3~4%のパラホルムアルデヒド中、10~20分間固定、(2)リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で短時間リンス、および(3)0.5% Triton X-100界面活性剤溶液で10分間透過処理。同様に、染色プロセス(固定および透過処理工程に続く)を、当業者に知られる適切な蛍光色素および/または抗体コンジュゲートで達成してもよい。2つの例には、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(DAPI)またはAlexa Fluor 488色素の使用が含まれる。
【0042】
[0047]次の工程は、蛍光を測定する(160)工程を伴う。当業者に知られる任意の技術を用いて、これを行ってもよい。1つの実施形態において、蛍光タンパク質が蛍光を生じている間、複数の細胞の少なくとも1つの画像を捕捉する。いくつかの実施形態において、1つまたはそれより多いプロセッサは、異なるウェルにピントが合うように、顕微鏡の構成要素がウェルの位置を変化させるようにしてもよい。
【0043】
[0048]いくつかの実施形態において、相分離および凝集を定量化するため、画像を用いてさらなるプロセシングを行う(170)。いくつかの実施形態において、画像プロセシングソフトウェアを用いて、捕捉された画像中の多様な位置で蛍光の強度を測定し、そして強度または関連する画像分析測定値を用いて、相分離および凝集を定量化してもよい。例えば、ピクセル強度の標準偏差を用いて、相分離または凝集を定量化してもよく、これは、標準偏差が相分離/凝集に際して有意に増加するはずであるためである。
【0044】
[0049]いくつかの実施形態において、相分離の定量化には、所定のウェルにおける相分離する細胞の割合の決定を可能にする、画像パラメータの変化における閾値を決定する工程が含まれてもよい。例えば、いくつかの実施形態において、最大ピクセル値を平均と比較して、ここで最大値は例えば上位5%の最高輝度ピクセルであってもよく、最大/平均にオフセットを加えた際に、以下に定義するような閾値を超えた場合、細胞が相分離していると同定されるようにする。例えば対照の95%が相分離していないと見なされるような非相分離対照によって、閾値およびオフセットを決定してもよい。
【0045】
[0050]いくつかの実施形態において、既知の画像分析アルゴリズムを用いて、各ウェル内で検出される生存細胞の数で構成される測定値を調べることによって、アッセイ条件に関連する毒性を決定する。検出される細胞の密度をシードされた密度(または非処理対照ウェルにおける密度)で割ることによって、毒性を定量化してもよい。画像分析もまた、例えば細胞核の楕円率を定量化するか、または凸包を計算して、核膜の粗さを定量化することによって、毒性に関連する形態の変化を検出してもよい。
【0046】
[0051]いくつかの実施形態において、別個の実験を行って、例えば濃度標準生体分子溶液を用い、そして場合によって蛍光相関分光(FCS)を利用して、蛍光強度を濃度に変換する検量線を生じる。
【0047】
[0052]いくつかの実施形態において、画像プロセシングソフトウェアは、凝縮物が存在する領域および凝縮物が存在しない領域を同定する既知の技術を用い、次いでこれらの2つの領域のみにおいて蛍光強度を測定する。
【0048】
[0053]いくつかの実施形態において、画像を機械学習アルゴリズムに送り、当業者に知られる技術を用いて訓練して、送られた画像に基づいて、相分離または凝集を定量化する。
【0049】
[0054]いくつかの実施形態において、異なる光および/または温度条件下で、いくつかの工程を反復する(175)。反復工程には、ウェルに光パルスを照射して、凝縮物を形成し、細胞を照射して蛍光タンパク質から蛍光を生じさせ、そして異なる領域において蛍光を検出する工程が含まれてもよい。
【0050】
[0055]いくつかの実施形態において、誘導可能な構造は、液体として出発するが、経時的に病的および不可逆的凝集物に転移しうる。これらの場合、この技術を用いて、細胞を一定のまたはパルス化された活性化光に供する時間を変化させることによって、不可逆的凝集状態への時間依存性転移を監視してもよい。いくつかの実施形態において、これは、異なるウェルに異なる曝露を経験させることによって行われる。いくつかの実施形態において、ウェルを異なる光条件に曝露し、そして完全に可逆的な凝集は、毎回、実質的に同じ開始強度標準偏差を生じる一方、不可逆的な凝集では、凝集のより多くがもはや可逆的ではなくなるにつれて、強度の変化が見られるであろうため、各期間の開始時の蛍光強度を監視する。
【0051】
[0056]方法はまた、定量化された相分離または凝集に基づく相図を生成する工程(180)も含んでもよい。当業者に理解されるであろうように、相図を生成するためには複数の試験条件が必要であろう。いくつかの実施形態において、10~100の間の試験条件を用いて、相図を発展させる。開示する方法を用いて生成される例示的相図を図2Aに示す。図2Aは、IDR対コア比に対するコア濃度としてプロットした、FUSn Coreletの相図である。アステリスク(210)は、相分離している細胞の最初の平均核値(nuclear value)を示し、一方、小さい黒塗りの円(214)は、相分離していない細胞を示す。灰色の線(212)で白抜きのひし形(213)に連結された白抜きの三角形(211)は、相分離を示す細胞の低密度(dilute)(白抜きの三角形、211)および高密度(dense)(白抜きのひし形、213)相の平均値を示す。いくつかの実施形態において、定性的に類似の相図を生成することも可能であるが、これは、他のシステムパラメータ、例えば温度またはイオン強度において、x軸が変化を示す場合であることに注目されたい。
【0052】
[0057]図2Aに関して以下のように生成した。核小体およびラミンを除いた最初のコア分布を用いて、自動化核セグメント化を達成した。相分離を示す細胞は、明確な二峰性分布を有する。セグメント化バイナリマスクのフィルタリングおよびエロ―ジョン(erosion)を通じて、画像解像度による限界を考慮した。次いで、照射された細胞に関して、高密度および低密度相マスクならびに平均ピクセル強度を決定した。最後に、濃度に対する強度のFCS較正を適用した。
【0053】
[0058]再び、図1を参照すると、方法は、ベースライン相分離または凝集に対して、定量化された相分離または凝集を比較する工程(190)を含んでもよい。いくつかの実施形態において、ベースライン相分離または凝集は、別のウェル、例えば同じウェルアレイ中にあるが、化学的または生物学的剤が添加されていないか、あるいは陽性または陰性対照剤が添加されたウェルに関して定量化された相分離または凝集であってもよい。他の実施形態において、異なる温度または光条件で、同じウェルの以前の反復に関して定量化された相分離または凝集であってもよい。
【0054】
[0059]いくつかの実施形態において、比較が定量化された相分離または凝集およびベースラインの相分離または凝集の間の、あらかじめ決定した閾値を超える相違を生じるならば、ユーザーまたはリモートデバイスに、例えば閾値を超えた剤および条件を示すシグナルを送る。
【0055】
[0060]この方式で、開示する方法は、特定の条件下で相分離を導きうる、生存細胞内の生体分子相互作用に影響を及ぼしうる潜在的な剤および条件を迅速に狭めることによって、例えば薬剤開発を補助しうる。図2Bを参照すると、100の薬剤スクリーニングからの例示的なデータが示され、分析する細胞の数の関数として、相分離した細胞の割合が示される。白抜きの円(260)は、相分離を完全に阻害することが知られる剤、ヘキサンジオールを用いて設計された、陽性対照のために用いた10ウェルを示す。黒塗りの円(261)は、試験ウェル由来の結果である。水平の点線(262)は、ヒット「カットオフ」を示し、この例に関しては、陰性対照のために用いた10ウェルの平均からの3標準偏差と定義された。垂直の点線(263)は、細胞数「カットオフ」を示し、この例に関しては、陽性対照において、分析した細胞の数の下限と定義された。水平カットオフより下の細胞はヒットを示す(264、265)。垂直カットオフ(263)の左側のヒット(264)は、潜在的な細胞毒性を示し、そして手動で評価すべきであり、そして潜在的に、より低い濃度で再スクリーニングされるものとする。周りをボックスで囲んだヒット(265)は、高信頼性ヒットを示す(陰性対照の平均から>3 SD、および十分な数の細胞を分析)。
【0056】
[0061]いくつかの実施形態において、方法にはまた、偽陽性ヒットの同定も含まれる。例えば、IDR-IDR相互作用(または同様に相分離を駆動しうるフォールディングしたタンパク質とフォールディングしたタンパク質の相互作用)をターゲティングする所望のヒットの代わりに、例えば光活性化相互作用(例えばiLID-sspb相互作用)がターゲティングされる可能性もある。これらは、相分離を促進するように設計されているプラットフォームの機能に本質的な相互作用を破壊することによって、相分離を阻害するため、偽陽性を構成するであろう。補完的光操作システムで同時にまたは二次スクリーニングを行うことによって、これらの偽陽性を同定してもよい。例えば、第一のスクリーニングがTDP43に付着したiLID-sspbを利用する場合、補完的システム、例えばTDP43に付着したCry2を用いる第二のスクリーニングを用いてもよい。この例において、2つのスクリーニングの一方のみで妨害が検出されたら、妨害は光操作破壊によるものである可能性が高く、一方、妨害がどちらのスクリーニングでも検出されたら、所望のTDP43相互作用の真の陽性ターゲティングを示すであろう。
【0057】
[0062]生存細胞で開示する技術を利用する利点がある一方、上に開示する方法をまた、精製タンパク質を利用して「in vitro」で達成してもよく、いくつかの実施形態において、該方法には、上に開示するような所定の相分離/凝集システムを含む、光活性化または非光活性化タンパク質のいずれかが含まれてもよい。精製タンパク質を用いて、生体分子相互作用をin vitroでマッピングまたはスクリーニングするためのハイスループット法を考慮する際、方法は、先に記載した方法と非常に類似の経路をたどる。方法は、ターゲットタンパク質またはターゲットタンパク質および蛍光タンパク質を含む相分離または凝集システムを含む、複数の精製タンパク質を提供することによって始まる。第一の温度で、少なくとも1つのウェルに精製タンパク質を入れ、その後、少なくとも1つの化学的または生物学的剤を第一の濃度でウェルの1つまたはそれより多くに導入する。次いで、相分離または凝集システムが適切な条件下で凝縮物を形成することを可能にし、そして次いで、蛍光タンパク質または付着したフルオロフォアに蛍光を生じさせる光波長でウェルを照射する。最後に、第一の領域が凝縮物を含有し、そして第二の領域が凝縮物を含有しないような、所定のウェルの第一の領域および第二の領域内の蛍光の量に基づいて、相分離または凝集を定量化する。
【0058】
[0063]図3を参照すると、細胞内相互作用のハイスループットマッピングまたはスクリーニングのためのシステムの実施形態を開示する。システム(300)には、細胞内の受容体タンパク質が反応する少なくとも1つの光波長でウェル(330)内の細胞(320)を照射するとともに、細胞内の複数の蛍光タンパク質または他のフルオロフォアが吸収可能であり、これらに蛍光を生じさせる、少なくとも1つの光波長で細胞(320)を照射するように設定された、1つまたはそれより多い光源(310、311)が含まれる。
【0059】
[0064]システム(300)にはまた、蛍光タンパク質または他のフルオロフォアが蛍光を生じる間、細胞内の複数の蛍光タンパク質の画像を捕捉するよう設定された少なくとも1つの検出装置(340)も含まれる。
【0060】
[0065]システム(300)にはまた、1つまたはそれより多くのプロセッサ(350)のための命令を含有するメモリ(360)も含まれる。命令は1つまたはそれより多くのプロセッサにいくつかのタスクを実行させる。最初に、命令は、少なくとも1つの光源(310)に、細胞(320)内の受容体タンパク質が感受性である、少なくとも1つの光波長を照射させる。命令はその後、細胞(320)内の蛍光タンパク質/フルオロフォアが吸収可能な少なくとも1つの光波長で、タンパク質/フルオロフォアが蛍光を生じるために十分に、少なくとも1つのウェルを照射させる。命令はまた、プロセッサ(350)に検出装置からの画像を受け取らせ、ここで、画像は、各々強度を有する実際のまたは有効な複数のピクセルを含む。例えば、走査型共焦点顕微鏡においては、単一のレーザー焦点が細胞に渡ってスキャンするにつれて、一連の検出事象から画像が生成され、したがって、生じる画像は、複数の「有効な」ピクセルを含むと考えられうるが、検出装置自体は、複数の実際のピクセルを含む画像を捕捉しないことに注目されたい。いくつかの実施形態において、写真を撮るべきであることを示すシグナルをプロセッサ(350)が送るまで、検出装置(340)は光を収集しない一方、いくつかの他の実施形態において、検出装置(340)は、連続してデータを収集し、そして画像をプロセッサに送るが、プロセッサは適切な時間に受け取った画像(例えば、光源(311)が蛍光タンパク質に蛍光を生じさせる適切な波長でウェルを照射した後、5~10ミリ秒で受け取った最初の画像)のみを考慮する。いくつかの実施形態において、タンパク質に蛍光を生じさせる照射の開始後、固定された期間、画像を採取する。
【0061】
[0066]命令はまた、複数のピクセル強度に基づいて、プロセッサに相分離または凝集を定量化させる。
[0067]いくつかの実施形態において、システム(300)にはまた、1つまたはそれより多い他の構成要素(370)、例えばディスプレイ、有線または無線通信インターフェース、任意の特定のウェルを発見し、そしてそこに移動し、そして焦点を合わせることが可能な自動化ステージも含まれる。
【0062】
[0068]以下に示すのは、相分離および凝集システムが、液滴をどのように合体させうるかの例である。図4Aを参照すると、CasDropシステム(SunTagに融合したdCas、sfGFPおよびiLIDに融合したscFv、ならびにmChおよびsspBに融合した転写制御因子(ここではBRD4ΔN))をテロメアに関するsgRNAと同時発現させると、明るいGFPフォーカス(410)が、テロメアリピート結合因子TRF1と共局在することが観察され、足場ターゲティングの成功が示される。図4B~4Dを参照すると、青色光で照射することによる、相分離または凝集システムの活性化に際して、BRD4ΔN-mCh-sspB液体液滴がシードされたテロメアで核形成し、そして成長することを示す。図4B(青色光照射後、時間t=0秒)で見られるように、いくつかの明るい赤色領域がすでに形成されている(420)。細胞の大部分に現れる、分散した赤色着色が見えなくなるように、画像は修正されている。しかし、青色光照射のt=11秒(図4C)で、分散した赤色バックグラウンドではなく、各々、わずかにより明るい赤色領域として現れる、多くの小さい液滴(430)があることがわかる。これらのわずかにより明るい領域のいくつかは、元来の明るい赤色領域(420)の周囲に見られうる。t=176秒(図4D)で、液滴が成長しそして互いに相互作用し続けるにつれて、はるかにより少ないが、はるかにより大きく、わずかにより明るい領域(440)があるように、液滴のある程度が組み合わされることがわかる。興味深いことに、テロメアから離れて核形成される液滴の数は、活性化プロトコルに敏感に依存する:青色光における迅速増加に関しては、核質全体で多くの液滴が核形成する一方、光強度傾斜プロトコルに関しては、液滴は、ほぼもっぱらテロメア遺伝子座で核形成する。この振る舞いは、相分離のための核形成障壁の古典物理学と一致する:迅速活性化に関しては、システムは短期間で徹底的に過飽和されるようになり、多くの核が形成されるための核形成障壁が低下する。他方で、増分活性化に関しては、最初は過飽和レベルが低く、シードされた部位での優先的な凝縮が可能になり、そして次いで、後の段階で、コストがかかる新規核形成よりも、存在する液滴が成長し続ける。
【0063】
[0069]開示する技術の範囲内の1つの非常に特異的なインスタンス化のシミュレーションが、この概念を確認する。シミュレーションするため、液滴形成によるクロマチンの機械的排除(mechanical exclusion)の最小モデルが必要である。
【0064】
[0070]ネオフッキアン(neo-Hookean)歪みエネルギー関係から得た球状空洞に関する圧およびサイズの間の以下の関係を考慮して、ヤング率Gの非圧縮性弾性媒体における変形率λで、空洞に対する内向き圧(inward pressure)を決定してもよい:
【0065】
【化1】
【0066】
[0071]クロマチンを変形させるエネルギーコストを反映するこの圧は、古典的核形成理論を補完して、高密度弾性マトリックスにおける液滴形成のエネルギー論を記載する。本発明者らは、弾性クロマチンマトリックスを変形させるエネルギーコストを、バルクの化学ポテンシャル獲得および表面張力コストの寄与に加えて、半径Rの球状液滴を生成する自由エネルギーコストを得る、以下の方程式を得る:
【0067】
【化2】
【0068】
[0072]式中、γは液滴の表面張力であり、Δμは過飽和溶液および液滴相中の分子の間の化学ポテンシャル相違であり、cdropは液滴内の分子の飽和バルク濃度であり、λ=R/rmeshであり、そしてrmeshはクロマチンネットワーク中の典型的な局所メッシュサイズである。rmesh<<Rであるため、変形率λは非常に大きく(パラメータの概算を参照されたい)、そして本発明者らは以下の単純化された結果を得る:
【0069】
【化3】
【0070】
[0073]臨界圧Pc=5G/6未満のΔμ・cdropの値に関しては、自由エネルギーは、大きなRに関して無限に増加し、十分に高密度なクロマチンに関しては、液滴サイズは制限されると示唆される。しかし、Δμ・cdrop>Pcの場合、液滴は制限なしに成長しうる。クロマチン密度が細胞中にあるため、弾性環境が不均一である場合、相分離には低剛性の領域が好まれ、そして分子に関してより高密度の領域を打ち負かすはずである。
【0071】
[0074]文献に基づいて、このモデルにおける重要なパラメータを概算してもよい。
[0075]in vitroの核タンパク質に関して、γ=4x10-7N/m。
【0072】
[0076]
【0073】
【化4】
【0074】
孔サイズの大まかな概算は、クロマチンサイズおよび体積分率に基づくクロマチン線維間の平均自由行程によって与えられうる:
【0075】
【化5】
【0076】
式中、rはクロマチン線維の幅であり、7nmと概算され、そしてfはクロマチンの体積分率である。分率はユークロマチンにおいておよそ0.12~0.21と電子顕微鏡によって概算されており、そしてヘテロクロマチンに関しては約0.37~0.52であり、それぞれ、約14nmおよび7nmの孔サイズを生じる。
【0077】
[0077]cdrоpは、蛍光相関分光を用いて、類似の生物模倣型Coreletシステムにおいても、そしてin vitro液滴に関しても、どちらもおよそ5~10x10-5分子/nm3であると概算されている。
【0078】
[0078]Δμは、およそ2~5κTと概算され、これは低密度および濃密(condensed)相の間の分子あたりの化学ポテンシャル差である。
[0079]Gは、マトリックスの架橋頻度に依存性であり、これを、マトリックスの体積分率の平方であるfによって概算してもよい。ラミンノックアウトに関する核の有効「ばね定数」は、1nN/μmの桁であると概算されてきており、これは、1μmの顕微的長さのスケールで割ると、平均して、核に関して約1kPaを生じるであろう。これに基づいて、約0.21の分率を持つ最も低い剛性のクロマチンは、約100Paの率を有し、そしてこの値はfに対応すると仮定してもよい。
【0079】
[0080]シミュレーションを実行するため、弾性媒体内での凝縮物熱力学に関する最小数学モデルを拡散界面形式内に実装し、これは機械的効果を伴う集合的液滴核形成、成長、および粒粗大化(coarsening)の数値研究を可能にする。核質液をdCas9-ST+scFV-sfGFP-iLID(種A)、TR-mCh-sspB(種B;TR=転写制御因子)、および他の「溶媒」分子(種C)で構成される有効な三元システムとして記載する。拡張三元正則溶液自由エネルギー汎関数を使用して、機械的ネットワーク内の液体熱力学相の振る舞いを記載する。
【0080】
[0081]
【0081】
【化6】
【0082】
式中、φiは、分子集団i∈{A、B、C}の空間依存性体積分率であり;χijは、iおよびj分子の間の相互作用の強度を制御し;
【0083】
【化7】
【0084】
は、集団iに関するネットワーク修飾表面エネルギー係数であり(以下を参照されたい);
【0085】
【化8】
【0086】
は、ネットワークの空間依存性ヤング率であり;そして
【0087】
【化9】
【0088】
は、プレシード部位で、種Aの濃度を増進させるフィールドである。液相は、φ+φ+φ=1であるように、非圧縮性と解釈される。動力学は、一般化拡散方程式
【0089】
【化10】
【0090】
によって与えられ、式中、i、j∈{A、B}であり(Cは非圧縮性によって排除される)、Miは集団iの可動性であり、そしてtは無次元の時間である。
[0082]化学ポテンシャルを局所的に調節する空間依存性バルク項(
【0091】
【化11】
【0092】
に比例する)、ならびに空間および液滴サイズ依存性界面エネルギー係数
【0093】
【化12】
【0094】
式中、λはネットワークの非存在下での表面エネルギー係数である、に、弾性媒体の効果を取り込む。ネットワークと関連する界面項は、
【0095】
【化13】
【0096】
である場合、バルクネットワーク項に比較して無視できる。したがって、界面エネルギーに対するネットワークの影響は無視してもよく(
【0097】
【化14】
【0098】
とする)、そして
【0099】
【化15】
【0100】
であるレジーム(regime)を研究する。
[0083]φ=0.1、φ=0.1、およびφ=0.8、χAC=χBC=1、λ=0.75で均質に混合した液体を初期化し、そしてランダムに配置したプレシード領域内で
【0101】
【化16】
【0102】
を、堅いプレシードコア各々の周囲に半径10のアニュラス内で
【0103】
【化17】
【0104】
を、そしてその他では
【0105】
【化18】
【0106】
を設定することにより、テロメア プレシード シミュレーションを実施した。非ゼロP値は、プレシード部位の周囲でAの局所濃度を増進させ、これは実験システムにおける、テロメアの周囲でのdCas9-ST+scFV-sfGFP-iLIDの最初の増進に類似である。iLIDとsspBの青色光誘導性ヘテロ二量体化は、A-B相互作用強度
【0107】
【化19】
【0108】
の増加と記載され、式中、
【0109】
【化20】
【0110】
は、それぞれ、不活性化状態および活性化状態相互作用強度である。τ[blue]は、青色光活性化に関する時間定数であり、これは青色光強度の増加率に反比例する。
[0084]上述のようにプレシード部位との平衡にしたがい、τ[blue]の所定の値に関して、上記方程式にしたがって、強度を増加させながら、青色光を広く適用する。液滴は、実験において観察されるように、消光率が減少するに伴い、プレシード部位により有効に局在する。シミュレーションは、プレシード部位でのAの増進した濃度は、迅速な局所核形成、および続いて拡散制限成長を促進することを立証する。成長は、近傍のAおよびB分子を誘引することによって進行し、これは、AおよびBが枯渇した、拡大する放射状ゾーンを生じる。近傍のプレシード部位の枯渇ゾーンが、プレシード間で液滴が核形成可能となる前に重なりあうならば、すべての液滴はプレシード部位に局在する。枯渇ゾーンが重なり合う前に、液滴がシステム全体で核形成するならば、長期持続液滴はまた、シード部位から離れても現れる。理想的な拡散制限成長に関しては、枯渇ゾーンの半径は、
【0111】
【化21】
【0112】
として成長し、式中、DはAおよびB分子の拡散係数であり、そしてSはその過飽和である。近傍枯渇ゾーンの重複に必要な時間は、したがって、
【0113】
【化22】
【0114】
であり、式中、dはプレシード部位間の距離である。上述のように広く適用された青色光で行われる、空間的に不均一な弾性ネットワークで、しかし
【0115】
【化23】
【0116】
式中、LおよびLはシミュレーション細胞の長さである、で、シミュレーションを行ってもよい。定数Gは、t=250(液滴核形成後)およびt=750の間に、0~0.18まで線形に増加した。機械的変形エネルギーの導入におけるこの遅延は、空間的に均質な液滴核形成、および本発明者らのネオフッキアンモデルと一致して、ネットワークの剛性に独立の初期液滴サイズ分布を生じた。非ゼロ
【0117】
【化24】
【0118】
の続く導入は、上に論じる巨大液滴サイズレジームへの転移を誘導し、ここで主要な効果は、局所の剛性にしたがったバルク化学ポテンシャルのシフト、およびより柔らかい領域における優先的な液滴成長である。上に論じるもののようにその他を行ったが、青色光を剛性ヘテロクロマチン様ドメイン内部に局所適用し、ここで、Gは、t=100(液滴核形成後)およびt=600の間で、0~0.18に線形に増加した。
【0119】
[0085]ターゲティングされるクロマチン置換を概算してもよい。特定のゲノム遺伝子座にシードされた2つの液滴が融合すると、表面張力は、生じた液滴を球体にすることを支持する。これは、2つの遺伝子座を互いに向かって誘引する力を生じ、各々をその元来の位置から、距離Δx置換する。この置換は、クロマチンの変形を誘導し、元来の位置に向かって再び該遺伝子座を引っ張る弾性的復元力を生じる;機械的平衡では、液滴表面積および遺伝子座置換の間のバランスは、表面張力γおよびクロマチンヤング率Gの相対的度合いを反映する。定量的には、半径Rの2つの液滴が融合して球体を形成した際、生じた液滴は、21/3Rの平衡半径を有する。表面張力により、球体配置から液滴を伸長させるにはエネルギー的コストがある。これは、テロメア間の力Ftensionを生じ、これは、伸長の線形順序に対して、δ=2R-21/3R-Δxであり、そして液滴が楕円形のままであるよう制約されると仮定すると、Ftension=γ(2R-21/3R-Δx)となる。Δxによって置換されるサイズrlocusの遺伝子座に対する弾性力は、弾性力ストーク法則、Felastic=-6πGrlocusΔxによって得られる。したがって、力のバランスは
【0120】
【化25】
【0121】
を生じる。
[0086]約10nmのテロメアサイズを採用すると、以前のような4x10-7N/mのγ、1μmの液滴サイズ、および10~100Paの範囲のGは、置換
【0122】
【化26】
【0123】
を生じる。
[0087]テロメアに関するsgRNAを伴わない対照実験は、BRD4液滴が、テロメアに関わらず、見かけ上ランダムな方式で現れることを示す(図2a)。総合すると、これらの結果は、細胞内相分離中の液滴局在が、プレシーディングおよび過飽和率によって動的に制御されうることを示す。CasDropシステムは、したがって、核形成足場を局在させるように機能し、それによって、sgRNAによって定義されるゲノム位置で、相分離を駆動する。
【0124】
[0088]CasDropを用いたオフターゲット核形成の研究において、比較的低いクロマチン密度の領域において液滴が形成されるようである。これを定量化するため、凝縮物ターゲティングガイドRNAを発現しない細胞を調べ、そしてクロマチン密度に関する代理としてH2B-miRFP670を用いて、液滴凝縮前に、クロマチン分布に対して、どこで液滴が形成されるかを決定してもよい。液滴が形成される領域におけるH2B強度の分布は、全核におけるH2B分布に比較して、有意により低いH2B強度にシフトすることが見出されうる。これらの2つの分布を分けると、液滴形成の傾向は、基準化H2B強度の強い関数であり、液滴が低クロマチン密度の領域に有意な優先性を示すことが明らかになる。特に、観察される傾向は、単にCasDrop構成要素の濃度の変動のためではなく、これは類似の分析が、構成要素の偏りがある分布を示さないためである。類似の傾向は、optoDropletシステムを用いて、相分離するよう駆動される異なるIDRに関する低密度クロマチンにおける液滴成長に関しても見られうる。
【0125】
[0089]また、液滴が形成された後のクロマチン密度を調べてもよい。顕著なことに、液滴が成長するにつれ、クロマチンは有意に押し出され、容易に視覚化される「穴」が生じることがわかる。
【0126】
[0090]細胞において過剰発現される多様なYFPタグ化IDR含有全長タンパク質(ORF-EYFPおよびH2B-miRFP670を含むシステムを伴う、遺伝子CCNT1、HSF1、MLLT3、RNPS1、SART1、およびTAF15に関する)で形成される凝縮物に関して、類似の振る舞いが見られるように、クロマチン排除は、光操作足場形成のアーチファクトではない。これらの知見は、核小体、カハール体(CB)、PML体、核スペックル、およびパラスペックルを含む、いくつかの内因性核凝縮物もまた、特に低密度のクロマチンと関連するという観察と一致する。したがって、凝縮物はIDRから集合して、低密度のクロマチン領域において優先的に核形成するだけでなく、核形成および成長に際して、物理的にクロマチンを排除する、広範囲の配列特徴を示す。
【0127】
[0091]クロマチンを排除する傾向がある液滴が、低クロマチン密度の領域で優先的に成長するのはなぜであるか、物理的洞察を得るため、本発明者らは、変形可能クロマチンネットワークと凝縮物の機械的相互作用を数学的にモデリングする。本発明者らは、クロマチンを排除することによって、成長する液滴が機械的ストレスを生じさせると推論した;実際に、非生物学的システムにおいて、相分離した液滴は、周囲の弾性ネットワークの存在によって強く影響を受けることが知られる。本発明者らは、拡大中の球体が弾性マトリックス中に空洞を生成する際のクロマチンにおける液滴形成を記載する、最小モデルを発展させた。液滴核形成の自由エネルギーコストΔFの単純化された表現は、以下によって与えられる:
【0128】
【化27】
【0129】
[0092]式中、Rは液滴の半径であり、γは液滴の表面張力であり、Δμは過飽和溶液中および液滴相中の分子の間の化学ポテンシャル相違であり、cdropは液滴内部の分子の飽和バルク濃度であり、そしてGは変形した周囲マトリックスの弾性(ヤング)率である。最初の2つの項は、古典的核形成理論を反映し、一方、第三項はクロマチン弾性からの機械的エネルギー寄与を反映する。表面張力の重要パラメータ、分子相互作用エネルギー、ならびにユークロマチンおよびヘテロクロマチンの剛性の概算を用いて、該モデルは、小さい液滴は柔らかい領域および堅い領域の両方で核形成しうるが、光学的に解像可能な規模までの液滴成長は、柔らかい低密度クロマチンで最もありうると予測する。正弦的に多様なクロマチンの剛性を用いた機械的モデルのシミュレーションは、剛性状況において、最小値に対する明らかな液滴優先性を示す。
【0130】
[0093]このモデルの予測は、機械的変形エネルギーが、十分に高密度のヘテロクロマチン領域、すなわち実験的に測定される液滴成長傾向の高密度端に近い領域において、臨界サイズを越えて液滴が成長することを妨げるであろうというものである。この予測を試験するため、ヘテロクロマチンタンパク質HP1αが非常に豊富である、マウス培養細胞において顕著な、主なサテライトリピート、高密度ヘテロクロマチン領域を調べてもよい。CasDropシステムを用いて、核内に活性化レーザーの焦点を当てることによって、BRD4凝縮物を局所集合させてもよい。HP1α-miRFP670標識を伴わず、BRD4液滴がユークロマチン領域において誘導される際、BRD4液滴は容易に凝縮する。しかし、ヘテロクロマチン上に直接液滴を書き込もうと試みた場合、解像可能な液滴は、末梢周辺でのみ凝縮する傾向があり;これはsgRNAターゲティングを通じたIDR-sspB構成要素の濃縮後であってもロバストに起こるため、この効果はIDR排除の結果ではない。コンパクトなヘテロクロマチンコアでの凝縮物核形成のシミュレーションは、花弁様の配置を示す。興味深いことに、いくつかの場合、HP1α-miRFP670が濃縮されたヘテロクロマチンフォーカスは、弱いHP1α-miRFP670蛍光の明らかな下位領域を示し、これは、ある程度の散在ユークロマチンを反映しうる。
【0131】
[0094]BRD4液滴をこれらのフォーカス上で核形成しようと試みた場合、時に、内部でBRD4液滴が核形成することが見出される;これらが成長するにつれて、相関しない蛍光強度から見られるように、これらはHP1αを置換し;驚くべきことに、成長するBRD4液滴は、ユークロマチン領域内に突然こぼれ出て、ヘテロクロマチンを「破裂」させることすらある。TAF15およびFUS CasDropで類似のヘテロクロマチン非混和性が定性的に観察されうる。
【0132】
[0095]総合すると、これらの振る舞いは、成長する凝縮物の周囲にあるクロマチンにおいて構築される機械的ストレスの存在に関して、強い裏付けを提供する。したがって、これらのデータは、機械的液滴排除モデルと一致するが、HP1α自体は、この機械的非混和性を強化する、さらなる望ましくない相互作用を提供しうる。
【0133】
[0096]機械的クロマチン排除のこれらの知見は、エンハンサークラスターおよび他の核凝縮物が、特異的にターゲティングされるゲノム要素を非常に近接させると仮定されてきたことを考慮すると驚くべきことである。これらの機械的効果を調べるため、本発明者らはさらに、テロメアにターゲティングされた凝縮物を調べた。上記の知見と一致して、BRD4 CasDrop凝縮物は、ターゲティングされるヘテロクロマチンテロメアと混ざらないようであり、液滴を末梢に局在させる傾向がある。しかし、2つはにもかかわらず部分的に互いに湿潤性(wet)であり、そしてしたがって接着性である。異なるテロメアに植え付けられた2つの液滴が互いに融合した際(図6a)、表面張力は、遺伝子座間の相関した動きを生じるために十分であり、そしてこれらを非常に近傍に引き寄せる。粘性効果を無視すると、テロメア置換は、液滴表面張力、γ、および有効ゲノム弾性、Gの比によって与えられるはずであり、すなわち、Δx~γ/Gであり;これらの2つのパラメータに関して概算される値は、測定値と一致する予測された置換を生じる。いくつかの場合、液滴は、会合するテロメアから離れる可能性もあり、これが次いでより遠い位置に弛緩させ、これは介在する「ばねで留められた(spring-loaded)」クロマチンを放出する液滴脱離と一致する。
【0134】
[0097]したがって、核凝縮物は、局所ゲノム環境を感知し、そしてかつ再構築することが可能である。広範囲の異なるIDR含有タンパク質は、クロマチンを排除し、これはいくつかの場合、クロマチンネットワークの大規模変形に現れる。これらのタンパク質は、その物理的特性の顕著な多様性を示し、比較的不変のもの(例えばTAF15N)から非常に塩基性のもの(例えばSRSF2IDR)および混合荷電のもの(例えばSART1);比較的疎水性のもの(例えばHSF1)から非常に親水性のもの(例えばRNPS1)の範囲に渡るIDRを示す。したがって、クロマチンの機械的排除は、相分離を駆動するタンパク質の物理化学特性に関わらず起こるようであり、そして多様なIDRリッチ核内小体内で見られる低クロマチン密度の根底にあるようである。これらの知見は、生殖質タンパク質DDX4がクロマチンを排除するようであるという以前の研究における観察と一致する。興味深いことに、DDX4凝縮物は、一本鎖RNAおよびDNAを排除せず、これらはその代わり、液滴内に強く分配される。排除されたクロマチン由来の一本鎖RNA転写物は、隣接する凝縮物内に引き寄せられるため、こうした選択性は、遺伝情報の流れを促進するのを潜在的に補助しうる。
【0135】
[0098]核凝縮物がクロマチンを排除する傾向は、不均一な核環境内で劇的な結果を有する。成長する液滴からのクロマチンの排除は、クロマチンネットワークを変形させる。弾性(または粘弾性)物質の変形は、歪みエネルギーを生じさせ、これはマトリックス内に保存される機械的エネルギーに相当する。したがって、この変形は、熱力学的に好ましくないエネルギーコストに相当し、したがって、マトリックスの弾性特性が液滴の成長動力学において重要な要因となる。非生存システムにおいて、この効果が、相分離に強く影響を及ぼす可能性もあり、そしてさらに、マトリックス弾性によって設定されるサイズの均一な液滴を生じさせうる。開示する理論的分析およびシミュレーションは、この変形エネルギーの結果として、液滴は、ゲノムのより柔らかくより低密度の領域における成長を好む傾向があるであろうことを示す。ヘテロクロマチン中で形成される小さい液滴は、最終的に溶解し、そしてより柔らかいユークロマチン領域内で液滴を成長させるためのIDR供給源として働く。本発明者らは、実験的に、ヘテロクロマチンフォーカス周囲の液滴の花弁様配置において、または稀な場合では、高密度でそして機械的により堅いヘテロクロマチン内からの液滴の突出において、この効果の驚くべき結果を観察した。この効果はしたがって、ゲノム再編成を生じさせ、そして活性遺伝子発現に関連する機械的により柔らかい低密度ゲノム領域における転写凝縮物の優先的な成長を促進するために重要である可能性がある。
【0136】
[0099]本発明者らの結果はまた、ターゲティングされた凝縮物が、離れた遺伝子座をどのようにともに結びつけうるかも明らかにした。多くのIDRリッチタンパク質は、ターゲティング「読み取り(reader)」モチーフ、例えば、BRD4に見られるブロモドメインを所持し、該ドメインは、この相分離傾向があるタンパク質を、アセチル化リジン残基を示すヒストンにターゲティングする(Deyら、2003)。CasDropシステムは、こうした内因性ターゲティングモチーフをプログラム可能なdCas9で置き換え、IDPターゲティングの生物物理的結果の切り離しを可能にする。CasDropを使用して、IDPターゲティングがどのように局所化相分離を促進するかを示してもよく、このプロセスは「拡散的捕捉」機構に緊密に関連するようであり、該機構は、IDR濃度を増幅して、局所化相分離を駆動しうる。表面張力は、ターゲティングされた液滴の合体を仲介しうる。関連する力およびゲノム変形を定量化してもよく、これは、2つまたはそれより多いターゲティングされた遺伝子座をより近接させうる。ターゲティングされたゲノム遺伝子座を「引き寄せる」この能力は、広範囲のIDR駆動性凝縮物が、ターゲティングされないゲノム要素に対して逆のことを行う、すなわち「これらを引き離す」という本発明者らの知見と対比されうる。これらの知見を合わせて、本発明者らは、凝縮物誘導性ゲノム再構築に関するクロマチンフィルターモデルを提唱し、このモデルにおいて、転写的に活性である凝縮物、例えば核小体、およびスーパーエンハンサークラスターが、二機能性の役割を果たし、ゲノムの非特異的要素を取り除く(filter out)一方、結合しているターゲティング領域を一緒に引き寄せる働きの両方を行う。
【0137】
[0100]細胞内機構および相分離の間の相互作用の研究は、始まったばかりである。しかし、この分野における進歩が続くことが、例えば細胞質凝縮物がアクトミオシン細胞骨格と相互作用する細胞質の機構の背景において、そして凝縮物がゲノムのポリマー性マトリックスおよび他の機械的要素と相互作用する核においての両方で重要であろう。多くの核凝縮物が小さいサイズの規模で形成され、局所機械的不均一性が重要になることを考慮すると、核内で、この課題は特に意味がありうる。核機械的生物学の分野は、機械的力および遺伝子発現の間の関連を同定してきている。しかし、根底にある生物物理的機構はなお大部分未知である。核凝縮物の動力学が局所機械環境に対して感受性であるという本発明者らの知見は、核凝縮物に対する影響によって、遺伝子発現に対する機械的力の影響が最終的に仲介されうることを示唆する。さらなる研究は、核力学および相分離の間に現れつつあるこれらの関連、ならびに遺伝子発現の機能的変化に対するその影響を探求するであろう。
【0138】
[0101]本明細書に開示する特定の例に関して、以下の開示する技術を用いた。
[0102]細胞培養。NIH3T3、HEK293、HEK293T、およびU2OS細胞を、ダルベッコの修飾イーグル培地(Gibco)、10%ウシ胎児血清(Atlanta Biologicals)、および10U/mLペニシリン-ストレプトマイシン(Gibco)からなる増殖培地中で培養し、そして37℃および5%CO2、加湿インキュベーター中でインキュベーションした。
【0139】
[0103]一過性トランスフェクション。HEK293、HEK293T、またはU2OS細胞を、12ウェルプレート中、およそ70%の集密度まで増殖させた後、製造者のプロトコルにしたがって、リポフェクタミン3000(Invitrogen)を用いて、プラスミドDNAでトランスフェクションした。簡潔には、トランスフェクション試薬およびDNAプラスミドをOPTI-MEM(Gibco)で希釈した。各ウェルに、総量1μg DNAを含有する100μLのトランスフェクション混合物を入れた。トランスフェクション混合物を、トランスフェクションの6~24時間後に除去した。一過性にトランスフェクションした細胞を、典型的には、トランスフェクション24~48時間後の間に画像撮影した。
【0140】
[0104]レンチウイルス形質導入。製造者のプロトコルにしたがって、FuGENE HDトランスフェクション試薬(Promega)を用いて、トランスファープラスミドpCMV-dR8.91、およびpMD2.G(9:8:1、重量比)を、6ウェルプレート中、およそ70%の集密度まで増殖させたHEK293T細胞内に同時トランスフェクションすることによって、レンチウイルスを産生した。総量3μgのプラスミドおよび9μLのトランスフェクション試薬を各ウェルに送達した。2日後、ウイルス粒子を含有する上清を採取し、そして0.45μmフィルター(Pall Life Sciences)で濾過した。上清を形質導入のために直ちに用いるか、Lenti-X濃縮装置(タカラ)を用いて10倍濃縮するか、またはアリコットで、-80℃で保存した。NIH3T3またはHEK293T細胞を12ウェルプレート中で10~20%の集密度まで増殖させ、そして濾過したウイルス上清100~1000μLを細胞に添加した。感染24時間後、ウイルスを含有する培地を、新鮮な増殖培地で置き換えた。感染した細胞を、典型的には、感染72時間以後に画像撮影した。
【0141】
[0105]細胞株生成。多数の構築物を発現する細胞株を樹立するため、必要な場合は蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)とともに、連続レンチウイルス形質導入を行った。野生型NIH3T3(またはHEK293T)細胞を、SFFVプロモーター下のdCas9-ST、およびscFv-sfGFP-iLIDを含有するレンチウイルスで形質導入した。次いで、この形質導入NIH3T3細胞株を用いて、各実験に関して示される必要な構築物を発現するため、レンチウイルス形質導入によって他の細胞株を生成した。形質導入HEK293T細胞株においてdCas9-STを発現する集団を増加させるため、高レベルのBFPおよび中程度のレベルのGFPを発現する単細胞に関するゲート化を伴う、FACS Aria Fusionフローサイトメーター(BD Biosciences)上で細胞をソーティングした。ポリクローナル細胞プールを収集し、増殖培地中で増殖させ、そして回収した。このソーティングされた細胞株を次いで、CasDrop/Cry2融合実験のため、さらなる構築物で一過性にトランスフェクションした。
【0142】
[0106]構築物。FUSN(1~214)、mCherrry、およびsspBコード配列を、pHRに基づくベクター(Shinら、2017)に挿入することによって、FUSN-mCh-sspBを最初に生成した。他のTR-mCh-sspB構築物に関しては、FUSN-mCh-sspB中のFUSNを、BRD4ΔN(462~1362)、TAF15N(1~208)をコードするDNA配列と交換した。scFv-GCN4-GFP(Addgene 60906)中のGB1およびNLSの間にiLID(Addgene 60413)を付加することによって、scFv-sfGFP-iLIDを生成した。dCas9-ST(Addgene 60910)のプロモーターをdSV40からSFFVに修飾して、発現を増進させた。mCherry、sspB(Addgene 60415)、miRFP670(Addgene 79987)、TRF1(Addgene 64164)およびHP1α(Addgene 17652)の断片をPCRによって増幅した。本明細書で用いたすべてのCry2断片は、mChからmiRFP670に交換された蛍光レポーターを除いて、以前記載されたものと同一である(Shinら、2017)。EYFP構築物に関して、FM5-EYFP(Marc Diamond研究室、UT Southwesternより恵贈)をNheIで消化し、そしてIn-Fusionクローニングキット(タカラ)を用いて、オープンリーディングフレームを5’端にサブクローニングした。FM5-ORF-mCherry-Cry2構築物を生成するため、FM5-EYFPをNheIおよびAscIで消化し、そしてQiagenゲル抽出キットを用いて、EYFPを欠くDNA主鎖をゲル精製した。mCherry-Cry2をpHr-mCherry-Cry2からPCRし、NheIおよびAscIで消化し、ゲル精製し、そしてQuickリガーゼ(NEB)を用いて、FM5主鎖内に連結した。次いで、FM5-mCherry-Cry2をNheIで消化し、そしてIn-Fusionを用いて、オープンリーディングフレームを5’端上にサブクローニングした。GenScriptによって合成したRNPS1を例外として、すべてのオープンリーディングフレーム:CCNT1(14607)、HSF1(32538)、MLLT3(49428)、SART1(38087)、TAF15(84896)、BMI1(69796)、SRSF2(84020)、PRPF6(51740)を、AddGeneから得た組換えDNAベクターからPCRした。テロメアおよび主要サテライトリピートをターゲティングするsgRNA(sgTel:TTAGGGTTAGGGTTAGGGTTA[配列番号1]およびsgMaj:CAAGAAAACTGAAAATCA[配列番号2])に関して、pLV-sgCDKN1B(Addgene 60905)をまず、BstXIおよびXhoIで消化し、その後、ゲル電気泳動および抽出を行った。次いで、配列特異的順方向プライマー(5’-CCCTTGGAGAACCACCTTGTTGGNxGTTTAAGAGCTATGCTGGAAACAGCA-3’[配列番号3]、ここでGNxは塩基対形成配列である)および共通逆方向プライマー(5’-GATCCTAGTACTCGAGAAAAAAAGCACCG-3’[配列番号4])を用いて、sgRNAのPCR断片を生成した。すべての断片を連結し、そしてIn-Fusionクローニングキット(タカラ)を用いて、最終ベクターに組み立てた。
【0143】
[0107]免疫細胞化学。PBS中の3.5%PFA(Electron Microscopy Services)を用いて、H2B-miRFP670を発現するHEK293細胞を15分間固定した。細胞をPBSで2回洗浄し、そしてPBS中の0.25%Triton-Xで20分間透過処理した。ブロッキング緩衝液(PBS、0.1%Triton-X、Vector Laboratoriesの10%正常ヤギ血清)を用いて、非特異的エピトープを1時間ブロッキングした。ブロッキング緩衝液中、以下の抗体で、一次免疫染色を4℃で一晩行った:PML(マウス、AbCam ab11826、1対50)、Coilin(ウサギ、Santa Cruz sc32860、1対100)、TDP43(ウサギ、ProteinTech 10782-2-AP、1対100)、SMN1(マウス、Santa Cruz sc-32313、1対100)、SC35(マウス、AbCam ab11826、1対1000)、およびFBL(マウス、AbCam ab4566、1対40)。次いで、細胞をPBS中の0.1%Triton-Xで3回洗浄した。Invitrogenの以下の抗体を用いて、ブロッキング緩衝液中、室温で90分間、二次免疫染色を行った:AlexaFluor 546ヤギ抗ウサギ(A11010、1対400)、AlexaFluor 546ヤギ抗マウス(A11030、1対400)。細胞をPBS中の0.1%Triton-Xで3回洗浄した。2μg/mL Hoechst色素(ThermoScientific)で、PBS中で15分間染色し、DNAを視覚化した。最後に、Hoechstを除去し、そしてPBSで置換した後、画像撮影した。一次抗体を含まない対照を実行して、一次染色の特異性を確実にした。
【0144】
[0108]顕微鏡検査。Nikon A1レーザー走査型共焦点顕微鏡上、60x液浸対物レンズ(NA 1.4)を用いて、すべての画像を撮影した。画像撮影チャンバーを37℃および5%CO2で維持する。生存細胞画像撮影のため、細胞をフィブロネクチン(Sigma-Aldrich)コーティング35mmガラス底プレート(MatTek)上にプレーティングし、そして典型的には一晩増殖させる。全体の活性化のため、細胞を通常、488nmレーザーで画像撮影するが、光操作タンパク質(iLIDおよびCry2)の高い感受性のため、青色光強度を減少させる必要がある場合は、488nmレーザー用の二色フィルターと組み合わせて、440nmレーザーを用いる。これによって、標本平面で、0.1μW未満の青色レーザー強度の減弱化が可能になる。局所活性化のため、関心対象の領域(ROI)を定義して、青色レーザーでスキャンされるべき領域をガイドする。ROIを同様に用いて、光退色(FRAP)後、蛍光回復を行う。
【0145】
[0109]画像分析。カスタムメイドのMATLABスクリプトを用いて、画像上のすべてのデータ分析を行った。簡潔には、テロメアトラッキングのため、生の画像をまずガウスフィルタに掛けてノイズを減少させ、そして次いで、ピーク強度に基づいて、テロメアに対応するピークを検出する。近接度に基づいて、一連の検出される座標から軌道を生成する。液滴またはヘテロクロマチンのいずれかの境界を同定し、そして追跡するため、MATLABにおけるエッジ検出ルーチンを用いて、セグメント化バイナリ画像を得る。分析結果を手動で検査して、有効性をチェックする。
図1
図2-1】
図2-2】
図3
図4
【配列表】
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