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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】吸着力確認方法及び吸着力確認装置
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/32 20060101AFI20231226BHJP
   B29C 45/76 20060101ALI20231226BHJP
   B29C 45/84 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B29C33/32
B29C45/76
B29C45/84
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021522687
(86)(22)【出願日】2020-04-13
(86)【国際出願番号】 JP2020016241
(87)【国際公開番号】W WO2020241090
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-03-29
(31)【優先権主張番号】P 2019102544
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】391003989
【氏名又は名称】株式会社コスメック
(74)【代理人】
【識別番号】100091719
【弁理士】
【氏名又は名称】忰熊 嗣久
(72)【発明者】
【氏名】赤松 浩司
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-224261(JP,A)
【文献】特表2005-515080(JP,A)
【文献】国際公開第2008/105033(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/32
B29C 45/76
B29C 45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着磁コイルと、前記着磁コイルに流す電流の方向により磁極が反転される反転可能磁石と、反転不可能磁石とを、互いに近接し又は離間される対向したプレートのそれぞれに有し、前記反転可能磁石の磁力と前記反転不可能磁石の磁力によって金型が前記プレートに吸着固定される磁気クランプ装置が設けられている金型取扱装置の吸着力確認方法において、
通常着磁よりも弱い磁気吸着力を前記磁気クランプ装置が発揮するように前記着磁コイルの電流を流し、金型取扱装置を作動させた後に、前記対向するプラテンを離間して前記金型が前記プレートから剥離するかどうかの試験を行い、
剥離を検出した場合には作業者に対して吸着力を保証が出来ない旨の警告を発し、剥離を検出しない場合には通常着磁による磁気吸着力を前記磁気クランプ装置が発揮するように前記着磁コイルの電流を流すことを特徴とする吸着力確認方法。
【請求項2】
請求項1の吸着力確認方法において、通常着磁よりも弱い磁気吸着力は着磁コイルの電流を通常着磁よりも弱い電流に制御することにより行うことを特徴とする吸着力確認方法。
【請求項3】
請求項1の吸着力確認方法において、
前記金型が既に前記試験を行った金型であるかを判定し、
前記判定の結果、前記試験を行っていない金型の場合には、前記試験を行うとともに前記試験の際の磁気吸着力を測定して記憶し、
前記判定の結果、前記金型が既に前記試験を行った金型である場合には通常着磁を行うとともにその際の磁気吸着力を測定して前記試験の際の磁気吸着力と比較し、前記試験の際の磁気吸着力未満である場合には作業者に対して吸着力を保証が出来ない旨の警告を発することを特徴とする吸着力確認方法。
【請求項4】
着磁コイルと、前記着磁コイルに流す電流の方向により磁極が反転される反転可能磁石と、反転不可能磁石とを、互いに近接し又は離間される対向したプレートのそれぞれに有し、前記反転可能磁石の磁力と前記反転不可能磁石の磁力によって金型が前記プレートに吸着固定される磁気クランプ装置が設けられている金型取扱装置の吸着力確認装置において、
前記着磁コイルの電流量を制御する点弧回路と、
前記磁気クランプ装置若しくは金型取扱装置を制御するコントローラとを有し、
前記コントローラは、通常着磁よりも弱い磁気吸着力を前記磁気クランプ装置が発揮するように前記点弧回路により着磁コイルの電流を制御し、金型取扱装置を作動させた後に、前記対向するプラテンを離間して前記金型が前記プレートから剥離するかどうかの試験を行い、
剥離を検出した場合には作業者に対して吸着力を保証が出来ない旨の警告を発し、剥離を検出しない場合には通常着磁による磁気吸着力を前記磁気クランプ装置が発揮するように前記点弧回路により前記着磁コイルの電流を制御することを特徴とする吸着力確認装置。
【請求項5】
請求項4の吸着力確認装置において、
前記磁気コイルの吸着力を測定するセンサコイルを有し、
前記コントローラは、前記金型が既に前記試験を行った金型であるかを判定し、
前記判定の結果、前記試験を行っていない金型の場合には、前記試験を行うとともに前記試験の際の磁気吸着力を前記センサコイルにより測定して記憶し、
前記判定の結果、前記金型が既に前記試験を行った金型である場合には通常着磁を行うとともにその際の磁気吸着力を前記センサコイルにより測定して前記試験の際の磁気吸着力と比較し、前記試験の際の磁気吸着力未満である場合には作業者に対して吸着力を保証が出来ない旨の警告を発することを特徴とする吸着力確認装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気クランプ装置に十分な吸着力で金型が磁気吸着されていることを確認可能な吸着力確認方法及び吸着力確認装置に関する。
【0002】
射出成形機等の金型取扱装置において、金型を固定する装置として、磁気吸着力を利用した磁気クランプ装置が知られている。磁気クランプ装置は、磁性体のプレートをプラテンに取付け、金型を磁気的に固定する技術である。プレートは、極性反転不可能な磁石と可能な磁石(アルニコ磁石)とを有し、アルニコ磁石の磁気極性をコイルにより制御することにより、プレート内で閉鎖する磁気回路と、金型を経由する磁気回路との間で切り換え可能としている。
【0003】
金型は精密な位置をたもった状態で磁気クランプ装置に磁気吸着されている。また、金型は重量物であり、磁気クランプ装置から金型が剥がれると重大な事故につながる。従って、磁気クランプ装置には、金型がズレたり浮いたりすることを検出する手段が設けられている。
【0004】
例えば、特許文献1によれば、金型を固定する複数の磁気吸着ユニットと、磁気クランプ装置の動作状態を検出する検出手段とを備える。この検出手段の探りコイルが磁気吸着ユニットの主コイルの外側に装着される。これにより、磁気クランプ装置に対して金型が僅かに動くと、探りコイルに電圧が誘導されて着磁状態の異常が検出される。
【0005】
誘導電圧は、巻き線数と磁束の変化率の積の関数であり、短い時間間隔における小さな磁束変化は、大きな電圧を生じさせる。特許文献2によれば、アルニコ磁石の極性を切り換える為のコイルを、金型のズレや浮きを検出する検出用のコイルとして有効に兼用する技術が知られている。コイルの巻線数を多くして、微弱な磁束の変化を検出してノイズに比べて高い誘導起電力を発生させる。
【0006】
また、特許文献3には、コイルに誘導される電圧波形が、第1の閾値よりも所定の時間継続した場合や、第1の閾値を超える値の第2の閾値を短期間でも超える電圧が発生した場合に異常判定するものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2005-515080号公報
【文献】特許第5385544号公報
【文献】特許第5683826号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1、2及び3においては、コイルに発生した誘導電圧を測定して比較回路に設定された閾値を超えたときに金型にズレや浮きが生じたとして緊急事態を発生させる。いずれの技術においても、金型が磁気クランプ装置から金型にズレや浮きが生じて初めて検知可能とするものであり、吸着力に余裕があるのか、或いはぎりぎりの吸着力で磁気吸着されているのかを確認することはできない。
【0009】
一方、金型取扱装置のユーザが保有する金型には、磁気クランプ装置側との接触面の面積、金型の大きさ、金型の重量、金型の素材の種類等に様々なものがある。さらに、金型の接触面に生じた傷や錆による表面粗さの変化や、ゴミの付着などによっても、磁気吸着力は変わってくる。従って、磁気クランプ装置側では、磁気吸着している状態のある一つの金型が、余裕のある磁気吸着状態なのかそうでないのかは確認できないのである。
【0010】
本発明の目的は、磁気クランプ装置に磁気吸着された金型が、金型取扱装置の型開力によって磁気クランプ装置から引きはがされない十分な吸着力で磁気吸着されていることを確認可能な吸着力確認方法及び吸着力確認装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の吸着力確認方法では、着磁コイルと、前記着磁コイルに流す電流の方向により磁極が反転される反転可能磁石と、反転不可能磁石とを、互いに近接し又は離間される対向したプレートのそれぞれに有し、前記反転可能磁石の磁力と前記反転不可能磁石の磁力によって金型が前記プレートに吸着固定される磁気クランプ装置が設けられている金型取扱装置の吸着力確認方法において、通常着磁よりも弱い磁気吸着力を前記磁気クランプ装置が発揮するように前記着磁コイルの電流を流し、金型取扱装置を作動させた後に、前記対向するプラテンを離間して前記金型が前記プレートから剥離するかどうかの試験を行い、剥離を検出した場合には作業者に対して吸着力を保証が出来ない旨の警告を発し、剥離を検出しない場合には通常着磁による磁気吸着力を前記磁気クランプ装置が発揮するように前記着磁コイルの電流を流すことを特徴とする。
【0012】
また、本発明の吸着力確認装置では、着磁コイルと、前記着磁コイルに流す電流の方向により磁極が反転される反転可能磁石と、反転不可能磁石とを、互いに近接し又は離間される対向したプレートのそれぞれに有し、前記反転可能磁石の磁力と前記反転不可能磁石の磁力によって金型が前記プレートに吸着固定される磁気クランプ装置が設けられている金型取扱装置の吸着力確認装置において、前記着磁コイルの電流量を制御する点弧回路と、前記磁気クランプ装置若しくは金型取扱装置を制御するコントローラとを有し、前記コントローラは、通常着磁よりも弱い磁気吸着力を前記磁気クランプ装置が発揮するように前記点弧回路により着磁コイルの電流を制御し、金型取扱装置を作動させた後に、前記対向するプラテンを離間して前記金型が前記プレートから剥離するかどうかの試験を行い、剥離を検出した場合には作業者に対して吸着力を保証が出来ない旨の警告を発し、剥離を検出しない場合には通常着磁による磁気吸着力を前記磁気クランプ装置が発揮するように前記点弧回路により前記着磁コイルの電流を制御することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、一旦、試験着磁を行うことにより剥離するかどうかのテストを行い、その後に試験着磁電流Q2よりも大きい電流による通常着磁電流Q1で着磁することにより、余裕のある状態での吸着を保証することが出来る。
【0014】
また、本発明によれば、金型の接触面に生じた傷や錆による表面粗さの変化や、ゴミの付着などによって、磁気吸着力が低下してくる場合にも、十分な吸着力を有することを保証できるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】射出成形機と磁気クランプ装置を示す図であり、図1Aは全体図、図1B~Eは磁気クランプ装置の構成と作用を示す図である。
図2】磁気クランプ装置の回路と動作を示した図であり、図2Aは磁気クランプ装置の回路図、図2Bは電源の回路図、図2Cは波形図である。
図3】吸着力確認装置の処理フローを示す図であり、図3Aは金型一つずつに対応する処理フローであり、図3Bは最初に対応した金型を継続して使用する場合の処理フローである。
図4図4A~Cは、射出成形機と、磁気クランプ装置及び金型の取り付け状態を示す説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施例の吸着力確認装置を説明する。金型取扱装置として射出成形機1の例を示す。なお、吸着力確認装置は、射出成形機1若しくは磁気クランプ装置10、20のハードウェア資産を利用し、射出成形機1若しくは磁気クランプ装置10、20のコントローラ7上で実行される処理プログラムの形態を取っている。
図1Aにおいて射出成形機1は、金型M1、M2(図4参照)が夫々取り付けられる左右に対向したプラテン2、3と、左側のプラテン2を左右方向に前進・後退移動自在にガイド支持するガイドロッド9とを備えている。夫々のプラテン2、3には、金型を磁気吸着する磁気クランプ装置10、20が夫々取り付けられている。6は樹脂を射出するノズル、7は入力部及び液晶表示画面付きのコントローラであり、8は金型M1から射出成形物を押し出すエジェクタロッドである。また、4、5は、夫々、金型補助金具である。コントローラ7は射出成形機1と磁気クランプ装置10、20の動作を制御するものである。射出成形機1と磁気クランプ装置10、20を作成するメーカが異なるのが通常であるため、コントローラ7は射出成形機1用と磁気クランプ装置10、20用とは別体となることが多いが、本実施例では、説明の簡素化の為、一体として示している。
【0017】
図1Bは、磁気クランプ装置10を表面から見た図である。磁気クランプ装置10の表面には、多数のマグネットブロック11が配置されている。その他に、近接センサ12や磁束の変化を検出する磁束コイル(図示せず)が配置される。貫通孔13には、エジェクタロッド8が挿入される。磁気クランプ装置20は磁気クランプ装置10とほぼ同じで有り説明を省略するが、磁気クランプ装置20には、磁気クランプ装置10に設けられている貫通孔13が存在しない点で異なる。
【0018】
磁気クランプ装置10の本体は、磁性体からなるプレート(鋼製)PLであり、表面(図面、左側)に円形状の溝部14が多数設けられている。溝部14で囲まれた部位がマグネットブロック11に相当する。
【0019】
図1Cは、図1B中のX-X線の矢視図である。同図において、プレートPLは、溝部14の内周側に鋼の厚さを薄くした部分D1と、さらにその内側に鋼の厚さを厚くした円板状の内側ポールD2が一体的に設けられている。鋼の厚さを薄くした部分D1には、プレートPLの裏側から、リング状の反転不可能磁石15が嵌め込まれる。反転不可能磁石15は、その外形形状であるリングの内周側と外周側において、磁極を有しており、例えば、内周側がS極、外周側がN極である。反転不可能磁石15として、例えばネオジウム磁石を利用することができる。反転不可能磁石15の後ろ側には、円板状のアルニコ磁石16と、その外部周囲に巻かれた着磁コイル17からなる反転可能磁石18が配置される。反転可能磁石18の後ろ側には、円板状の継鉄19が嵌め込まれる。反転不可能磁石15の内周側は内側ポールD2に磁気的結合し、外周側の厚さを薄くした部分D1の外周側(外側ポールD3)に磁気的に結合している。また、アルニコ磁石16は内側ポールD2と継鉄19に磁気的に結合し、継鉄19は外側ポールD3に磁気的に結合している。また、溝部14の部分D4は、他の部分に比べてさらに薄くされており、磁気的に飽和しやすくしている。プレートPLの表面側は、プレートPLの鋼で全面が覆われた状態になるため、金型M1を装着する作業域から反転不可能磁石15および反転可能磁石18をシールすることができる。
【0020】
図1Dは磁気クランプ装置10が脱磁状態のときの様子を示している。アルニコ磁石16は、プレートPLの表面側(図面、左側)をN極とし、裏面側をS極とした永久磁石になっている。その結果、反転不可能磁石15、外側ポールD3、継鉄19、アルニコ磁石16、内側ポールD2で構成される磁気回路の中を磁束が通過する。この状態では、プレートPLの表面には磁束は漏れ出さず、金型M1を吸着することは無い。
【0021】
図1Eは磁気クランプ装置10が着磁状態のときの様子を示している。着磁コイル17に外部から直流電流を流すことにより、アルニコ磁石16の磁極を反転させる。アルニコ磁石16をプレートPLの表面をS極とし、裏側をN極とした永久磁石とする。アルニコ磁石16の極性が反転し、必要な磁束を保磁する時間だけ直流電流は流せば良い。プレートPLの表面側では、内側ポールD2に対して、反転不可能磁石15と反転可能磁石18の両方がS極として結合することになる。金型M1がプレートPLの表面に押し付けられた状態では、これらの磁束は金型M1の中を通過する。その結果、反転不可能磁石15、外側ポールD3、金型M1、内側ポールD2で構成される磁気回路と、アルニコ磁石16、外側ポールD3、金型M1、内側ポールD2で構成される磁気回路とが形成される。アルニコ磁石16は、永久磁石としては保磁力が相対的に高くないため、金型M1が失われると、反転不可能磁石15の磁力により直ちにプレートPLの表面から外方へ向けての磁力が失われる。
【0022】
図2Aは、磁気クランプ装置10のマグネットブロック11の電気回路を示している。各マグネットブロック11には、アルニコ磁石(図示せず)の磁気極性を反転させる着磁コイル17と、吸着力を測定するセンサコイル44が配置されている。センサコイル44は、アルニコ磁石を通過する磁束の変化を検出するコイルである。センサコイル44は、例えば、アルニコ磁石に巻かれている。各マグネットブロック11のセンサコイル44は直列に接続されており、磁気クランプ装置10の全体に対しての磁束の変化を検出する。
【0023】
図2Bは磁気クランプ装置10のマグネットブロック11全体の着磁コイル17を駆動する電源を示している。電源は、外部の交流電源49に対して、サイリスタ46、47により整流する。サイリスタ46は着磁する際にONになり、サイリスタ47は脱磁する際にONになる。サイリスタ46、47は、点弧角θを点弧回路48により制御される。点弧回路48は、サイリスタ46の点弧角θをコントローラ7の指示により変更可能である。点弧回路48は、サイリスタ46に対するトリガパルスTCを、交流電源49の立ち上がり時点の位相t1又は点弧角θだけずらした位相t2において発生可能である(図2C参照)。以降、位相t1の時点でトリガパルスTCを発生したときに着磁コイル17を流れる電流を「通常着磁電流」Q1と呼ぶ。また、位相t2の時点でトリガパルスTCを発生したときに流れる電流を「試験着磁電流」Q2と呼ぶことにする。これらの電流が、着磁コイル17を流れることにより(アルニコ磁石の極性が判定されて)磁気クランプ装置10が着磁状態になる。ここにおいて、着磁コイル17に「通常着磁電流」Q1が流れることにより磁気クランプ装置10が発揮する吸着力を吸着力MF1(センサコイル44で測定可能である)とし、「試験着磁電流」Q2が流れることより磁気クランプ装置10が発揮する吸着力を吸着力MF2とする。また、型開力Fは図4に示す金型M1、M2を開く射出成形機の力とし、SFを安全率としたとき、吸着力MF2は、型開力FにSFを乗じた数値以上となるようにする。本実施例においては、SFを110%とし、これを担保するために、MF2/MF1を80%とした。なお、図中、Vは電源電圧、Iは電流である。
【0024】
図3に、コントローラ7の処理フローとして実装された吸着力確認装置を示す。図3Aの吸着力確認装置は、金型1つずつに対応するプログラムとしてコントローラ7に実装されている。図4を参照して、このプログラムの図3Aの処理フローを説明する。
【0025】
左右の金型M1、M2が互いに合わされた状態で、磁気クランプ装置10、20の間に吊り下げ搬送される(図4A)。このとき、磁気クランプ装置10、20は、金型M1、M2を脱磁させた状態(磁気吸着させない磁化解除状態)である。次に、左のプラテン2を右方へ移動させて磁気クランプ装置10、20の間に金型M1、M2を挟み込む。この状態で磁気クランプ装置10、20を、脱磁状態から金型M1、M2を着磁状態へ切り換える(図4B)。このとき、磁気クランプ装置10が弱い吸着力MF2(80%着磁)の状態になるように点弧回路48を制御する(ステップ21、図3A)。このとき、「試験着磁電流」Q2を流すことによる磁気クランプ装置10の着磁を「試験着磁」と呼ぶことにする。金型M1、M2を吊っているワイヤWを夫々のプラテン2、3に設けられた金型補助金具4、5に取り付ける。なお、金型補助金具4、5を利用するのは、金型M1、M2が床に落下することを防止するためである。なお、試験着磁においては、吸着力以外の条件は通常着磁の状態と同じ条件で、金型取扱装置を作動させている。すなわち、射出成型機1の場合には、金型M1、M2には、ノズル6から樹脂が射出され、素形材(成型品)が製造されている。これは通常着磁の状態と同じ条件であって、その理由は、同じ金型を使用した場合であっても、金型により成形される素形材の材質や温度や成型品の表面積などの条件によって、素形材と金型との間の接着力(もしくは粘着力)の程度が異なり、金型M1、M2を開くために必要十分な力(「型開力F」と称する)も変化するからである。金型取扱装置がプレス機の場合には、試験着磁は製品を実際にプレスした状態で行う。また、金型取扱装置がダイカスト装置の場合も、試験着磁は製品を実際に鋳造した状態で行う。
【0026】
この状態で、射出成形機1は、プラテン2、3を離間する(図3Aのステップ22)。射出成形機1は、型開力Fや吸着力MF1や吸着力MF2よりもはるかに大きい力で、プラテン2、3を離間させ、エジェクタロッド8により成型品を押し出す。このとき、金型M1、M2がズレたり、浮いたりする状態が発生すると、金型M1、M2を流れる磁束に変化が生じてセンサコイル44に電流が流れるため、これを利用して金型M1、M2の剥がれを検出する(ステップ23)。なお、金型M1、M2の剥がれの検出は、近接センサ12によっても検出しても良い。剥がれが検出されなかった場合には、吸着力MF2は型開力Fを上回っていることが確認出来る。コントローラ7は、「通常着磁電流」Q1を流して磁気クランプ装置10が吸着力MF2よりも強い吸着力MF1(100%着磁)を発揮するように点弧回路48を制御する(ステップ24)。このときの磁気クランプ装置10の着磁を「通常着磁」と呼ぶことにする。以降、型開力Fよりも十分大きい(吸着力MF1は型開力Fに対して110%以上)吸着力により金型M1、M2がクランプされていることが保証された状態で、射出作業を継続し、成型品の量産をすることが出来る。
【0027】
一方、ステップ23において剥がれが検出された場合には、吸着力を吸着力MF2から吸着力MF1に増加させたとしても、型開力Fを10%だけ超える余裕のある状態での吸着を保証することが出来ない。コントローラ7の液晶表示画面により、作業者に対して吸着を保証が出来ない旨の警告が通知される。
【0028】
本実施例の図3Aの吸着力確認装置の処理フローによれば、一旦、試験着磁を行うことにより剥離するかどうかのテストを行い、その後に試験着磁電流Q2よりも大きい電流による通常着磁をすることにより、吸着力MF1が型開力Fを10%以上の余裕のある状態での吸着を保証することが出来る。
【0029】
図3Aの吸着力確認装置の処理フローにステップを追加して、かつて一度、射出成形機1に取り付けられた金型を、一旦取り外し、その後再度、射出成形機1に取り付けて使用する場合のプログラムとしてコントローラ7に実装された吸着力確認装置を、図3Bに示す。図3Bは、このプログラムの処理フローである。金型M1、M2を特定する型IDを入力する(ステップ31)。型IDの入力は、金型M1、M2にバーコードを貼り付けて、これを図示しないバーコードリーダで読み込んで入力しても良いし、コントローラ7の入力部から作業者が直接打ち込んでも良い。次に、過去に当該型IDを過去に取り扱ったことがあるかどうかを判定する(ステップ32)。扱ったことがなければ、試験着磁電流Q2による試験着磁を行い、磁気クランプ装置10を80%の着磁状態にする(ステップ33)。そして、この状態でプラテン2、3を離間させて型開(ステップ35)を実行する。その際に、センサコイル44により、80%の着磁による吸着力を測定する。測定した吸着力は、型IDと関連付けて初期データP0として記憶される(ステップ34)。
【0030】
図3Aと同様に、金型M1、M2の剥がれが無いかが判定される(ステップ36)。剥がれを検出することが出来なければ、磁気クランプが金型M1、M2を吸着した状態を一旦解除した後、通常着磁電流Q1を流して磁気クランプ装置10の着磁状態を通常着磁状態すなわち吸着力MF1(100%着磁)に変更する(ステップ37)。
【0031】
一方、ステップ32において、過去に当該型IDの金型を取り扱ったことがあれば、図4Bの金型M1、M2を付き合わせた状態において「通常着磁電流」Q1を流して吸着力MF1(100%着磁)で着磁する(ステップ38)。そして、センサコイル44により、センサコイル44により吸着力を測定して現在データP1を取得する。
【0032】
既に記憶されている初期データP0と現在データP1とを比較する(ステップ40)。比較の結果、現在データP1が初期データP0よりも低下していれば、110%を超える余裕のある状態での吸着を保証することが出来ない。一方、同じ若しくは超えていれば、余裕のある状態での吸着を保証できるため、その後の通常の射出成形の作業を行うことを許可する。これらの結果は、コントローラ7の液晶表示画面に表示されて作業者に通知される。作業者は、余裕のある状態での吸着を確認した上で作業を継続することが出来る。
【0033】
本実施例による図3Bの吸着力確認装置の処理フローによれば、金型の接触面に生じた傷や錆による表面粗さの変化や、ゴミの付着などによって、100%着磁を行っても磁気吸着力が低下してくる場合にも、十分な吸着力を有することを保証できるかどうかを確認できる。
【0034】
上記実施例においては、磁気クランプ装置10の着磁状態を制御するために、着磁電流の制御を行った。つまり、試験着磁電流Q2を通常着磁電流Q1よりも小さい値として、吸着力MF2が吸着力MF1の1.1倍以上になるように着磁電流Q1、Q2の大きさを制御したが、他の方法でも良い。例えば交流電源49の電圧を変化させることにより制御しても良い。
【0035】
上記実施例において、センサコイル44を着磁コイル17とは別に設けたが、特許文献2に示すように、磁極反転用コイル(着磁コイル17に相当)をセンサコイルとして切り換えて使用しても良い。磁極反転用コイルをセンサコイルとして使用する場合には、切り換えのための回路が必要となるが、巻き数が多いため感度が向上するという利点がある。
【0036】
上記実施例において、着磁時における磁気クランプ装置10の吸着力の測定と、金型がズレたり、浮いたりする所謂剥離時における磁束に変化の測定を、センサコイル44の1つで兼ねて測定していたが、夫々の事象に対して別々のセンサコイルを用いて測定しても良い。
【符号の説明】
【0037】
1 射出成形機
2、3 プラテン
4、5 金型補助金具
6 ノズル
7 コントローラ
8 エジェクタロッド
9 ガイドロッド
10、20 磁気クランプ装置
11 マグネットブロック
12 近接センサ
13 貫通孔
14 溝部
15 反転不可能磁石
16 アルニコ磁石
17 着磁コイル
18 反転可能磁石
19 継鉄
44 センサコイル
46、47 サイリスタ
48 点弧回路
49 交流電源
PL プレート

図1
図2
図3
図4