(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】エキスパンションジョイントの床カバー材、床カバー体、床用エキスパンションジョイント及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/68 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
E04B1/68 100Z
(21)【出願番号】P 2022107423
(22)【出願日】2022-07-04
(62)【分割の表示】P 2018089142の分割
【原出願日】2018-05-07
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000127639
【氏名又は名称】株式会社エービーシー商会
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 富士夫
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0080121(US,A1)
【文献】特開昭59-138640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 - 1/99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物に設けられるエキスパンションジョイントを構成するカバー材であって、構造物の床面に配された間隙を覆う被覆面部と、この被覆面部の両側に設けられていて前記間隙に臨む躯体の端部に設けられた支持部に接続する接続部を有して帯状に形成された床カバー材において、
当該床カバー材は、ゴム弾性を有する材料を用い、前記被覆面部から下方へ凹んだ凹面部と、前記被覆面部の下側であって前記凹面部の両側にそれぞれ設けられた中空部を有して弾性変形可能に形成されて
いるとともに、
前記凹面部は、その被覆面部側である上端の開口幅が狭く、それよりも下側の開口幅が広くなるように設けられた構成を有することを特徴とするエキスパンションジョイントの床カバー材。
【請求項2】
床カバー材同士を長手方向に沿って接続するときに前記床カバー材の端部間に架け渡される接続部材の取り付け部を有することを特徴とする請求項1に記載のエキスパンションジョイントの床カバー材。
【請求項3】
被覆面部の両側から凹面部の上端縁部に向けて被覆面部の上面が下り傾斜した形状に設けられていることを特徴とする
請求項1又は2に記載のエキスパンションジョイントの床カバー材。
【請求項4】
両中空部は、一端が前記凹面部の中央下部から下方へ突出した隔壁部に接続していて他端が被覆面部の両側下面に接続した枠面部に囲われてなることを特徴とする
請求項1から3の何れか一項に記載のエキスパンションジョイントの床カバー材。
【請求項5】
両中空部は、その横断面において、上部側の幅が狭く、それよりも下側の幅が広くかつ下方へ膨らんで湾曲した形状に設けられていることを特徴とする
請求項4に記載のエキスパンションジョイントの床カバー材。
【請求項6】
間隙に臨む躯体の端部に設けられた支持部に接続する床カバー材の接続部は、
中空部を囲う枠面部の側部外面に形成されていて前記支持部の側面に被さって支持部の側面を覆う側面被着部と、
前記枠面部の側部の外側で被覆面部の下面から下方へ突出していて前記支持部のガイド凹部に係合する突起片部と、
を有する形状に設けられていることを特徴とする
請求項1から5の何れか一項に記載のエキスパンションジョイントの床カバー材。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の床カバー材と、床カバー材の凹面部内に挿入設置される目地材からなる床カバー体。
【請求項8】
請求項1から6の何れか一項に記載の床カバー材、又は
請求項7に記載の床カバー体と、
構造物の床面に配された間隙に臨む躯体の端部に設けられて前記床カバー材、又は前記床カバー体の床カバー材の接続部が接続する支持部を構成するカバー材支持部材と、
を備えた床用エキスパンションジョイント。
【請求項9】
床カバー材の両側の接続部のうち一方の接続部が、間隙に臨む一方の躯体の端部に設けられたカバー材支持部材に固定され、他方の接続部が他方の躯体の端部に設けられたカバー材支持部材に接続された構成を有する
請求項8に記載の床用エキスパンションジョイント。
【請求項10】
カバー材支持部材は、床カバー材の接続部を支持して床カバー材をその長手方向に沿ってスライド可能に支持するガイド凹部を有するレール部材と、
このレール部材と一体に連結して躯体の端部に固定されるホルダー部材を備えた構成を有する
請求項8又は9に記載の床用エキスパンションジョイント。
【請求項11】
請求項8から10の何れか一項に記載された床用エキスパンションジョイントにおいて、
間隙に沿って複数の床カバー材が架設されているとともに、隣り合う床カバー材の端部間に両床カバー材の凹面部内に連結板を挿入して架け渡し、かつこれを凹面部内に固着具で留め付けて、隣り合う床カバー材同士が接続された構成を有することを特徴とする床用エキスパンションジョイント。
【請求項12】
請求項10に記載の床用エキスパンションジョイントの施工方法であって、
間隙を挟んで対面する躯体の端部に沿ってホルダー部材を取り付ける工程と、
床カバー材の接続部にレール部材を取り付ける工程と、
前記レール部材が取り付けられた床カバー材を前記ホルダー部材に取り付ける工程と、
を有する床用エキスパンションジョイントの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の中に設けられるエキスパンションジョイントの構成要素であり、躯体間に設けられた間隙(以下、「クリアランス」ともいう。)を覆って躯体上面に設けられた床面と一体の床面を形成する床カバー材と、これを用いた床用エキスパンションジョイントの構造に関する。
【背景技術】
【0002】
大型の建物は、躯体の温度変化や地震のときになどにかかる荷重の影響を避けるため、建造物を複数の躯体に分割して躯体間に間隙を設けて建てられ、各間隙には、間隙の両側の躯体同士を一体に接続したまま躯体が相互に異なる方向に変位してもそれに追随するように構成されたエキスパンションジョイントが設置されている。
【0003】
従来、建築用エキスパンションジョイントのカバー材は金属製のものが一般的であったが、可動構造が複雑で構成部品が多く、施工に手間を要し、複雑なクリアランス取り合い部に対応がしにくいなどの問題点が指摘されていた。また、金属製のカバー材は重く、天井や壁のエキスパンションジョイントでは、躯体の変動を吸収するのにともなって、万が一、カバー材が取り外れたり落下したりすると居住者や歩行者に当って怪我を誘発する虞がある点が指摘されていた。
そのため、先の震災以降、金属製のカバー材に代えて、施工性が良好で軽量な、合成樹脂材やゴム材で形成したカバー材(以下、「樹脂製カバー材」ともいう。)を採用するエキスパンションジョイントの態様が増えてきている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、樹脂製カバー材はその「柔らかい」という素材特性から、歩行や台車などの通過によって常時その表面に荷重がかかる床面のカバー材、つまり床用のエキスパンションジョイントの床カバー材には汎用的に採用されていないのが現状である。
数少ない採用例としては、例えば、屋外構造物であるプラットホームに発生する熱伸縮や地震による基礎の変位、基礎の不動沈下などを吸収するために設置された床用エキスパンションジョイントで、床カバー材としてプラットホームに設けられたクリアランスに沿って樹脂製カバー材を設置した態様のものがある(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-9449号公報
【文献】特開2008-38479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
後述のとおり、床用のエキスパンションジョイントに用いる樹脂製の床カバー材は、強度が大きくて撓みにくいことや、可動時に段差ができにくいことなどが必要とされる。
床カバー材の撓み強度を確保するために、床カバー材の下地に金属板を入れることは従来から一般的に行われており、前記プラットホームのエキスパンションジョイントにおいても、クリアランスの内部に金属板を設置し、この金属板の上面で樹脂製カバー材の底部が支持されるように設けられている。
【0007】
しかしながら、樹脂製カバー材を金属板の上面に載せて支持する態様は次のような問題がある。
すなわち、前記クリアランスの両側の躯体が近づく方向に変位し、大きな可動量でクリアランス間が狭まり、これにともなって樹脂製カバー材が幅方向に縮むと、その表面が盛り上がって凸状の段差ができ、歩行に支障をきたす事態を生じさせる虞がある。また、樹脂製カバー材の収縮時と伸長時の荷重を金属板が担う構造であるため、樹脂製カバー材の可動量が金属板の大きさに依存することとなり、大きな可動量を確保することができない。
【0008】
また、前記プラットホームのエキスパンションジョイントにおいて、クリアランスが長尺なため、複数本の樹脂製カバー材を継ぎ合わせて設置する場合に、単に樹脂製カバー材の端部同士を接触させて継ぎ合わせただけでは、クリアランスの長手方向に沿って躯体が変位して樹脂製カバー材に変位方向の荷重がかかったときに、樹脂製カバー材の端部同士が継ぎ合わせ部分で衝突して段差ができたり破損したり、或いは樹脂製カバー材が取り外れたりする虞がある。
【0009】
本発明は従来技術の有するこのような問題点に鑑み、建物の床に設けられる床用エキスパンションジョイントの床カバー材を弾性材材料で形成するにあたり、下地の金属板を用いなくともクリアランスに直に取り付けることができるように耐荷重性能が良好なものにすること、大きなクリアランスと可動量に追従できるようにすること、歩行に支障をきたす凸状の段差ができにくいようにすることを課題とする。また、本発明は、メンテナンス性が良好でエキスパンションジョイントの施工も簡易に行えるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
床用のエキスパンションジョイントの床カバー材に樹脂製カバー材を用いる場合、以下の技術的課題について検討することが不可欠である。
すなわち、第1に強度。
歩行や台車の通過などでその上面にかかる荷重に対して大きな撓みを生ずることなく歩行・通過ができること。
第2に可動。
間隙を挟んだ躯体の間隙X方向(間隙幅方向)、間隙Y方向(間隙長さ方向)及び間隙Z方向(鉛直方向)の変位に可動追従すること。あわせて、床に求められる可動量、例えばクリアランスに対して間隙X方向と間隙Y方向は1/4~1/2程度、間隙Z方向は1/5~1/3程度の可動量を保持すること。
第3に段差。
通常時に上面に人が躓くような段差がなく、可動時や可動後にも上方へ突出するような段差ができないこと。
第4に施工及びメンテナンス性。
床カバー材の取り付け、取り外しが容易であり、エキスパンションジョイントの施工も手間をかけずに行えること。
【0011】
このような技術的課題に対し、本発明では以下の仕様・条件をベースに床カバー材を形成することで、弾性材料からなる床カバー材を、建物の床用エキスパンションジョイントに汎用的に用いることができるようにした。
【0012】
先ず、強度については、人の歩行や台車の走行などによる一般的な耐荷重性能に対して支障のない断面性能を確保しつつ、床カバー材を軽量にするとともに間隙X方向と間隙Z方向への可動追従性能を付与するべく、床カバー材をその上面の中央部に下方へ凹んだ凹面部を設け、この凹面部の両側部分に縦方向に長く大きい中空断面を配置した形状に設け、弾性を有する材料のみで耐荷重が担保されるようにした。
前記凹面部は、床に面する上部の開口幅を小さくして歩行者が躓いたりピンヒールや傘の先端が刺さったりしないようにし、また、この上部の開口幅よりも凹面部内部の開口幅が大きくなる断面形状、つまり下向き略V字形に凹んだ断面形状とし、クリアランスを狭める方向に躯体が変位するのにともなって床カバー材が収縮したときに、床カバー材がクリアランス側へ潰れやすくなるようにして、上面に凸状の段差ができないようにした。
【0013】
可動については、前記のとおり、床カバー材をそ上面の中央部に凹面部、その両側に縦長の中空部を配置した断面形状に設けることで、成形素材そのものの伸びに依存するのではなく、カバー材の断面が変形することで可動するように、つまり、クリアランスが狭まる変位に対しては凹面部と両中空部が潰れて床カバー材が収縮することで、また、広がる変位に対しては前記と反対に、凹面部と両中空部がそれぞれの開口幅を広げて床カバー材が伸長することで必要な可動量が充足されるようにした。
間隙X方向の可動は、前記クリアランスに対しては1/4~1/2程度の可動量を確保するため、凹面部の形成深さ(D)と両中空部の縦方向の長さ(T)を所定の寸法比率に設けることで(
図3参照)、建物の床面に設けるエキススパンションジョイントに要求される変動量に対応できるようにした。
間隙Y方向の可動は、クリアランスに面する構造物に取り付けられた支持部に対して、床カバー材の両側の接続部を支持部に係合させてスライド自在に取り付け、また、床カバー材の両側の接続部のうちの片方を前記支持部に固定することで、クリアランスを挟む躯体相互の間隙Y方向への変位に対応して同方向への可動がなされるようにした。
また、間隙Z方向の可動は、下地として金属板を設けないことで、床カバー材が躯体相互の同方向の変位に追従して可動するようにし、前記支持部に対する接続部の係合深さを十分に確保することで、可動したときに前記支持部にスライド自在に取り付けられた側の接続部が取り外れることがないようにした。
【0014】
ここで、前記床カバー材の接続部の構造物に取り付けられた支持部への係合深さは、係合部位が深すぎると(長すぎると)、間隙Y方向への抵抗が大きくなり、施工性も悪くなって装置全体の重量も重くなる。他方、浅すぎると(短すぎると)、間隙Z方向に外れやすくなり、床カバー材に下向きの荷重がかっかたときも外れる虞がある。後述するように、床カバー材の両側の接続部の一方は支持部に固定されるが、係合部位が浅すぎると、接続部と支持部にビスを打ち込めなくなるなどの支障も生じる。かかる見地から、間隙Y方向への可動性を損なわず、間隙Z方向への可動性も確保し、かつ同方向に抜け外れず、しかも良好な施工性を確保するべく、接続部の支持部との係合深さ(TP)は、床カバー材の高さ、つまり前記両中空部の縦方向の長さ(T)の略1/2となるように設定した(
図3参照)。
【0015】
段差については、床カバー材の上面をその両側から前記凹面部に亘って下り傾斜した形状に設けることで、クリアランスが狭まる方向に躯体が変位して床カバー材が収縮したときに、凹面部の形成位置を起点として、床カバー材の上面が下向きに弾性変位し、クリアランス内に向けて潜り込むように変形させることで、可動時に床カバー材内に凸状の段差ができないようにした。
また、クリアランスに沿って床カバー材同士を継ぎ合わせたときに、クリアランスの長手方向の躯体の変位にともなって隣り合う床カバー材の端部同士が衝突して端部が上方へ捲れて段差が生じるのを防ぐため、前記両中空部の間に、床カバー材同士を長手方向に沿って接続するときに前記床カバー材の端部間に架け渡される接続部材の取り付け部を形成し、隣り合う床カバー材の端部の取り付け部に接続部材を取り付けて端部同士を接続し、床カバー材の長手方向の接続位置を揃え、前記クリアランスの長手方向の躯体の変位が生じたときは、隣り合う床カバー材同士が一体となって可動するように構成した。
また、クリアランスに面する躯体の端部は、床カバー材の支持部を構成するアルミ型材で見切り、クリアランスに床カバー材を取り付けた状態で、この見切りより床カバー材の側端部を同じ高さかそれよりも低く設けることで、クリアランスに連なる床面に段差ができないようにした。
【0016】
また、メンテナンス性については、床カバー材の接続部が接続する躯体の端部に取り付けられる支持部を、ともにアルミ型材からなる、床カバー材の接続部が係合するレール部材と躯体に固定されるホルダー部材の二つの部材で形成し、床カバー材をレール部材に取り付けた後、このレール部材を躯体に固定されたホルダー部材に固定して、レール部材に沿って床カバー材が可動するように構成した。また、レール部材をホルダー部材に固定するには、レール部材に取り付けた床カバー材の側端部を捲り上げることにより露出するレール部材のビス孔から留めネジをホルダー部材に留め付けることで行われるようにした。メンテナンスの際は前記留めネジを抜き外すことで、床カバー材がレール部材とともにホルダー部材から取り外すことができるようにし、床上でメンテナンス作業が行えるようにした。また、前記ビス孔が床カバー材の側端部で覆われるようにすることで、床カバー材を取り付けた部分の意匠性が損なわれないようにした。
【0017】
このような解決手段を採用した本発明の床カバー材と床用エキスパンションジョイントの具体的な形態は以下のとおりである。
すなわち、本発明の床カバー材は、構造物に設けられるエキスパンションジョイントを構成するカバー材であって、構造物の床面に配された間隙を覆う被覆面部と、この被覆面部の両側に設けられていて前記間隙に臨む躯体の端部に設けられた支持部に接続する接続部を有して帯状に形成された床カバー材において、
当該床カバー材は、前記被覆面部から下方へ凹んだ凹面部と、前記被覆面部の下側であって前記凹面部の両側にそれぞれ設けられた中空部を有して弾性変形可能に形成されているとともに、
前記中空部の下部を囲う枠面部の下面と前記被覆面部の上面までの間隔(中空部の上下幅:T)が前記凹面部の形成深さ(D)の略二倍(T≒2×D)となる成形寸法で前記凹面部と中空部が形成されていることを特徴とする。
【0018】
これによれば、床カバー材がその被覆面部の中央部に下方へ凹んだ凹面部、その両側の被覆面部の下側に中空部をそれぞれ配置した断面形状に設けてあるので、間隙が狭まる方向の変位に対しては、前記凹面部と両中空部が潰れて床カバー材が同方向に収縮変形することで、また、広がる方向の変位に対しては、凹面部と両中空部がそれぞれの開口幅を広げて床カバー材が同方向に伸長変形することで、間隙を挟む躯体相互の変位を吸収することができる。
そして、凹面部の形成深さ(D)と、両中空部の上下幅(T)を、〔T≒2×D〕となる寸法比率で形成することで、弾性を有する材料のみで耐荷重を担保することが可能となり、また、間隙が広がる方向に変位したときの可動量が大きく確保され、同方向に床カバー材が可動したときに、耐荷重強度を低下させることなく、かつ被覆面部内に段差を生じさせずにスムーズに伸長変形せしめることが可能となる。
具体的には、前記の如く床カバー材を形成することにより、間隙の幅が広がる方向に躯体が相対変位することにともなう床カバー材の最大伸長量(Ex)を、前記凹面部の形成深さ(D)の略二倍(Ex≒2×D)となる量に設定することができる。
【0019】
また、本発明の床カバー材は、その被覆面部から下方へ凹んだ凹面部と、前記被覆面部の下側であって前記凹面部の両側にそれぞれ設けられた中空部を有して弾性変形可能に形成されているとともに、
前記両中空部の間に、床カバー材同士を長手方向に沿って接続するときに前記床カバー材の端部間に架け渡される接続部材の取り付け部が形成されていることを特徴とする。
【0020】
この取り付け部は、両中空部の間であって凹面部の下側に形成された、ジョイントピンが挿入する挿通孔として形成することができ、長尺な間隙に複数本の床カバー材を継ぎ合わせて設置する場合に、隣り合わせの床カバー材の端部同士をそれぞれの挿通孔にジョイントピンを挿入して接続することで、床カバー材同士がそれぞれ長手方向の接続位置を揃えて取り付けられ、間隙の長手方向の躯体の変位が生じたときは隣り合う床カバー材同士が一体となって可動し、隣り合う床カバー材の端部同士が衝突して端部が上方へ捲れて段差が生じることを防止することができる。
また、床カバー材の凹面部内に連結板を挿入し、これを隣り合う床カバー材の端部間に架け渡し、凹面部上方から留めネジを連結板にネジ入れ、前記挿通孔を貫通させて連結板を隣り合う床カバー材の端部に留め付けてもよい。留めネジをネジ入れるときに、中空な挿通孔がガイドとなって留め付け作業がしやすくなる。
前記挿通孔に代わる取り付け部として、凹面部の下面から両中空部の間の部分に凹ませて設けられた凹部としてもよく、この凹部に隣り合う床カバー材の端部間に架け渡されるジョイントピンを挿入し、或いは凹部に重ねて連結板を留め付けて、床カバー材の端部同士の継ぎ合わせが行われるようにしてもよい。
【0021】
上記構成の床カバー材において、被覆面部の両側から凹面部の上端縁部に向けて被覆面部の上面が下り傾斜した形状に設けられていることを特徴とする。
【0022】
これによれば、間隙が狭まる方向に躯体が変位し、床カバー材が収縮変形したときに、凹面部の形成位置を起点として、床カバー材の上面である被覆面部が下向きに弾性変形し、間隙内に向けて潜り込むように変形させることができる。床カバー材の可動時の変形が上記の如く規制されるので、変形にともなって凸状の段差が被覆面部内にできることはなく、床カバー材の可動時や可動後に床面の歩行に支障を来すことはない。
【0023】
また、前記凹面部はその上端の開口幅が狭く、それよりも下側の開口幅の方が広くなるように設けられた構成を有することを特徴とする。
【0024】
これによれば、凹面部がその上側よりも下側の方が広い開口幅となるように、つまり下向き略V字形の断面形状に設けられているので、間隙を狭める方向に躯体が変位するのにともない床カバー材が収縮変形したときに、床カバー材が間隙側へ潰れやすくなり、被覆面部内に段差ができることをより効果的に防ぐことができる。
【0025】
また、前記両中空部は、一端が前記凹面部の中央下部から下方へ突出した隔壁部に接続していて他端が被覆面部の両側下面に接続した枠面部に囲われて、その横断面において、上部側の幅が狭く、それよりも下側の幅が広くかつ下方へ膨らんで湾曲した形状に設けられていることを特徴とする。
【0026】
これによれば、床カバー材を、その成形材料そのものの伸びに依存することなく、大きな間隙と可動量に追従したものに形成することができる。
すなわち、両中空部は、その周囲が被覆面部の下面と隔壁部の内面と枠面部の内面に囲われており、床カバー材が収縮又は伸長変形するときに、中空部は、被覆面部の下面と枠面部の端部との接続部及び枠面部の他端部と隔壁部との接続部の変形、つまり周囲を囲う面と面の分岐部である節の部分が変形することで潰れたり中空内部を広げたりする。節の部分が変形することで床カバー材が伸長したときの耐荷重の低下が抑えられ、間隙の幅が広がることに追従して凹面部とその両側の中空部の幅を効率良く広げて床カバー材を伸長させることが可能となる。
【0027】
前記構成の床カバー材の成形材料は、弾性材料を用いることができ、ゴム弾性を有する材料、例えばゴム材や合成樹脂材、エラストマーなどを用いることが好ましく、熱可塑性エストラマーを用いることがより好ましい。
【0028】
また、本発明の床カバー材は、間隙に臨む躯体の端部に設けられた支持部に接続する床カバー材の接続部を、
前記中空部を囲う枠面部の側部外面に形成されていて前記支持部の側面に被さって支持部の側面を覆う側面被着部と、
前記枠面部の側部の外側で被覆面部の下面から下方へ突出していて前記支持部のガイド凹部に係合する突起片部と、
被覆面部の幅方向外側に平坦に連なっていて前記支持部の上面に被さって支持部の上面を覆う上面被着部と、を有する形状に設けられていることが好ましい。
【0029】
これによれば、床カバー材は、その接続部に設けられた側面被着部を躯体端部に設けられた支持部の側面に被せ、かつ突起片部を支持部のガイド凹部に係合させて、接続部を支持部に装着することで取り付けることができ、側面被着部の支持部の側面に被せる深さと、突起片部のガイド凹部への係合(嵌め合わせ)深さを大きく設定することで、床カバー材に上方から大きな荷重がかかったり間隙の両側の躯体が間隙Z方向に沿って変位することにともない床カバー材が可動したりしても、接続部が支持部から取り外れるようなことはなく、大きな耐荷重強度を確保することができる。また、床カバー材の被覆面部に連ねて幅方向外側に伸びた上面被着部により、床カバー材を支持部に取り付けたときに上面被着部で支持部の上面を覆って床面上に露出しないようにすることができる。
【0030】
前述のとおり、床面には、人の歩行や台車の通過などによって、常時その表面に荷重がかかる。このような荷重に対する強度をより高めるため、前記構成の床カバー材と、床カバー材の凹面部内に挿入設置される目地材とで床カバー体を構成し、これを床面の躯体間隙に設置してエキスパンションジョイントを構成することが好ましい。目地材は、床カバー材と同様に、ゴム弾性を有する材料を用いて成形することができる。
【0031】
また、本発明の床用エキスパンションジョイントは、前記構成の床カバー材又は前記構成の床カバー体と、構造物の床面に配された間隙に臨む躯体の端部に設けられて前記床カバー材、又は床カバー体の床カバー材の接続部が接続する支持部を構成するカバー材支持部材と、を備えた構成を有することを特徴とする。
前記カバー材支持部材は、床カバー材の接続部を支持して床カバー材をその長手方向に沿ってスライド可能に支持するガイド凹部を有するレール部材と、このレール部材と一体に連結して構造物の端部に固定されるホルダー部材を備えて構成することができる。カバー材支持部材を構成するレール部材とホルダー部材は、ともに例えばアルミ型材により形成することができる。
【0032】
前記構成の床用エキスパンションジョイントは、間隙を挟んで対面する躯体の端部に沿ってホルダー部材を取り付ける工程と、床カバー材の接続部にレール部材を取り付ける工程と、前記レール部材が取り付けられた床カバー材を前記ホルダー部材に取り付ける工程と、からなる施工方法により設置することができる。
具体的には、レール部材とホルダー部材でカバー材支持部材を構成する場合、例えば以下の工程により施工することができる。
先ず、間隙を挟んで対面する両躯体の端部に沿ってホルダー部材をそれぞれ固定する。ホルダー部材の固定は、躯体端部に重ねたホルダー部材にアンカーボルトを打ち込むなどして行うことができる。
次いで、床カバー材の両側の接続部にレール部材をそれぞれ取り付ける。取り付けは、レール部材のガイド凹部に接続部を係合させることにより行わる。接続部が側面被着部と突起片部を備えた形状の床カバー材では、レール部材のガイド凹部に突起片部を差し込むとともにガイド凹部の外面に側面被着部を覆い被せて装着することでレール部材を取り付けることができる。
このとき、レール部材が取り付けられた床カバー材の両接続部の片方を、前記突起片部が係合したガイド凹部にその外側からビスを打ち込むなどしてガイドレールに固定する。接続部のもう片方は突起片部とレール部材がスライド変位し得るようしておく。
そして、床カバー材の両接続部に取り付けられたレール部材を、前記間隙の両側に固定されたホルダー部材にそれぞれ接続して、間隙の両側の躯体間に床カバー材を架け渡して取り付けることで床用エキスパンションジョイントの施工が完了する。
【0033】
前記のとおり、本発明の床カバー材は、弾性変形可能に形成された床カバー材の被覆面部に凹面部を形成し、さらに、被覆面部の下側であって前記凹面部の両側に中空部を配置した断面形状に設けることで、間隙X方向に沿って広がる変位に対して、凹面部と両中空部がそれぞれの開口幅を広がるように変形して床カバー材が伸長することで必要な可動量が充足されるようにしている。
しかしながら、エキスパンションジョイントが設置される躯体間隙の幅によっては、要求される間隙X方向の可動量が小さく、被覆面部に形成された凹面部がその開口幅を広げることで間隙X方向に沿って広がる変位を吸収することができる場合がある。その場合、前記凹面部の両側に中空部を配置した形状でなくとも、前記凹面部が潰れ又は広がることで間隙X方向の変位を、床カバー材の接続部が躯体端部に設けられた支持部に沿ってスライド移動し得るように取り付けられていることで間隙Y方向の変位を、同じく床カバー材の接続部が両躯体の支持部に対してある程度上下方向に変位が生じて外れないように取り付けられていることで間隙Z方向の変位をそれぞれ吸収することは可能である。ただし、この場合でも、床面の表面に常時かかる荷重に対する強度は高くしておく必要がある。
【0034】
よって、要求される間隙X方向の可動量によっては前述の床カバー材に代えて、構造物に設けられるエキスパンションジョイントを構成するカバー材であって、構造物の床面に配された間隙を覆う被覆面部と、この被覆面部の両側に設けられていて前記間隙に臨む躯体の端部に設けられた支持部に接続する接続部を有して帯状に形成されていて、前記被覆面部から下方へ凹んだ凹面部を有して、ゴム弾性を有する材料を用いて弾性変形可能に形成された床カバー材を用い、この床カバー材の凹面部内に挿入設置される目地材との組み合わせで床カバー体を構成し、これを床面の躯体間隙に架け渡して床用エキスパンションジョイントが構成されるようにしてもよい。
【0035】
この場合の床カバー材は、前記床カバー材と同様に、間隙X方向に沿って収縮したときに被覆面部内に段差ができないように、被覆面部の両側から凹面部の上端縁部に向けて被覆面部の上面が下り傾斜した形状に設けられていることが好ましく、また、凹面部はその上端の開口幅が狭く、それよりも下側の開口幅の方が広くなるように設けられていることが好ましい。もちろん、要求される可動量に応じて、床カバー材が被覆面部の下側であって凹面部の両側にそれぞれ中空部が設けられた断面形状としてもよい。
また、間隙に臨む躯体の端部に設けられた支持部に接続する床カバー材の接続部は、前記と同様に、床カバー材の側部外面に形成されていて前記支持部の側面に被さって支持部の側面を覆う側面被着部と、側部の外側で被覆面部の下面から下方へ突出していて前記支持部のガイド凹部に係合する突起片部と、被覆面部の幅方向外側に平坦に連なっていて前記支持部の上面に被さって支持部の上面を覆う上面被着部とを有する形状に設けることができる。
また、前記と同様に、床カバー材と目地材はともにゴム弾性を有する材料を用いて成形することができる。
また、前述の床カバー材同士を継ぎ合わす別の態様の床用エキスパンションジョイントとして、構造物の床面に配された間隙を覆う被覆面部と、この被覆面部の両側に設けられていて前記間隙に臨む躯体の端部に設けられた支持部に接続する接続部を有して帯状に形成されていて、前記被覆面部から下方へ凹んだ凹面部を有して、ゴム弾性を有する材料を用いて弾性変形可能に形成された床カバー材を用い、
前記間隙に沿って複数の床カバー材が架設されているとともに、隣り合う床カバー材の端部間に両床カバー材の凹面部内に連結板を挿入して架け渡し、かつこれを凹面部内に固着具で留め付けて、隣り合う床カバー材同士が接続された構成を有するものとしてもよい。
【0036】
本発明の床用エキスパンションジョイントによれば、地震などにより間隙の両側の躯体が相対変位し、間隙の伸縮やずれが生じた場合、両躯体の間隙X方向の変位は床面カバー材が収縮又は伸長変形することで吸収し、間隙Y方向の変位は床面カバー材が両躯体にそれぞれ取り付けられた支持部に沿ってスライド移動して吸収することができる。また、両躯体の間隙Z方向の変位は、両躯体の同方向の相対変位に追随して床カバー材が弾性変形することで吸収することができる。
間隙X方向とZ方向の変位は床カバー材が変位方向に追従して収縮又は伸長変形することで、また、Y方向の変位は床カバー材が同方向に沿ってスライド移動して吸収することができるので、間隙を挟んで両躯体がX,Y及びZの何れの方向に相対変位しても、床カバー材で間隙を覆った床面内に、間隙が露出した欠損部ができることはない。また、床カバー材が間隙X方向に沿って収縮したときにその被覆面部が凹面部を起点として下向きに変形するように設けられているので、被覆面部内に凸状の段差ができることはない。躯体の変位が生じた後でも床面は平坦に維持され、歩行者が欠損部に足を踏み入れたり段差部に躓いたりする危険はなく、歩行の安全性を確保することが可能である。また、床カバー材の凹面部内に目地材を挿入設置した構成であれば、上方からかかる荷重に対する強度をより高くすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の床用エキスパンションジョイントの一実施形態の概略構成を示した断面図である。
【
図4】
図2の床カバー材を継ぎ合わせて設置する態様を示した図である。
【
図8】床カバー材の接続部にレール部材を取り付けた状態の要部を断面で示す外観図である。
【
図9】レール部材をホルダー部材に取り付けるときの態様を示した図である。
【
図10】本発明の床用エキスパンションジョイントの他の実施形態の概略構成を示した図である。
【
図12】
図10のホルダーカバー材を取り付けるときの態様を示した図である。
【
図13】
図10のホルダーカバー材を取り外すときの態様を示した図である。
【
図14】床と内壁の取り合い部分の間隙に取り付けた床用エキスパンションジョイントの実施形態の概略構成を示した図である。
【
図15】
図14の取り合い部分に取り付けられるホルダー部材の拡大端面図である。
【
図16】床と内壁の取り合い部分の間隙に取り付けた床用エキスパンションジョイントの他の実施形態の概略構成を示した図である。
【
図17】床カバー材の端部同士を接続するときの他の態様を示した図である。
【
図18】
図17の連結板を床カバー材に取り付けた状態の端面図である。
【
図19】
図17の連結板で接続される床カバー材に取り付けられる目地材の要部外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明の技術的思想は、以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0039】
図1は本発明の一実施形態の床用エキスパンションジョイントを示している。この床用エキスパンションジョイント1は、建物の床面Fに配された間隙Gを隔てて同じ高さで相対する躯体Aの床面Faと躯体Bの床面Fbの間に、床カバー材2を架け渡して間隙Gを覆うとともに、前記床面Faと床面Fbを一続きに接続したものである。
【0040】
詳しくは、図示した床用エキスパンションジョイント1は、間隙Gの開口上面を覆う床カバー材2と、間隙Gに臨む躯体Aと躯体Bの端部に設けられた支持部3,3と、後述する床カバー材2の凹面部23内に挿入設置される目地材4とを備え、床カバー材2の両側を支持部3,3で支持して間隙Gを床カバー材2で覆うとともに、地震などで躯体A,Bが相対変位して間隙Gの伸縮やずれが生じたときに、前記変位に追従して床カバー材2が弾性変形し或いは支持部3,3に沿ってスライド移動することで変位を吸収し、床面Fが欠損部のない平坦な面に維持されるように構成されている。
【0041】
床カバー材2は、ゴム弾性を有する材料、好ましくは熱可塑性エラストマーを用いて弾性変形可能に形成された部材であり、
図2及び
図3に示されるように、間隙Gを覆う幅を有する被覆面部21と、被覆面部21の両側に設けられていて前記支持部3,3に接続する接続部22,22を有して帯状に形成してある。被覆面部21と接続部22,22はともに床カバー材2の長手方向沿って連続して形成してある。なお、以下の説明において、床カバー材2の両側、或いは被覆面部21の両側というときには、床カバー材2の短手幅方向に沿った両側部分を意味する。
【0042】
より詳しくは、被覆面部21の中央部には、当該被覆面部21の上面から下方へ凹んだ凹面部23が設けられ、また、被覆面部21の下側であって前記凹面部23の両側には中空部24,24を配置した形状に設けてある。
【0043】
前記凹面部23は、その上端の開口幅が狭く、それよりも下側の開口幅が広くなる下向き略V字形に開口した断面形状に形成されており、また、被覆面部21は両側から凹面部23の上端縁部に向けて当該被覆面部21の上面が下り傾斜した形状に設けてある。
【0044】
中空部24,24は、それぞれ一端が凹面部23の中央下部から下方へ突出した隔壁部25に接続していて他端が被覆面部21の両側下面に接続した枠面部26,26に囲われて、その横断面において、上部側の幅が狭く、それよりも下側の幅が広くかつ下方へ膨らんで湾曲した形状に設けてある。また、中空部24,24は、
図3に示されるように、中空部24,24の下部を囲う枠面部26,26の下面と被覆面部21の上面までの間隔(中空部23の上下幅:T)が、凹面部23の形成深さ(D)の略二倍(T≒2×D)となる成形寸法に設けてある。
【0045】
床カバー材2の両側に設けられた接続部22,22は、前記中空部24を囲う枠面部26の側部外面に形成されていて後述する支持部3のレール部材31の側面に被さってレール部材31の側面を覆う側面被着部27と、前記枠面部26の側部の外側で被覆面部21の下面から下方へ突出していてレール部材31のガイド凹部31dに係合する突起片部28と、被覆面部21の幅方向外側に平坦に連なっていて床カバー材2をレール部材31に取り付けた状態でレール部材31の上面に被さって覆う上面被着部29とを備えた形状に設けてある。
【0046】
図3に示されるように、枠面部26の側部外面に形成された側面被着部27は、後述するレール部材31の凸面部31jに重なる凹状面27aとレール部材31の鍵状面部31eの下端に係合する凸状面27bを有し、レール部材31のガイド凹部31d内に突起片部28を差し込んだ状態で、レール部材31の側面全体に重なって装着されるように設けてある。側面被着部27と突起片部28はその表面に突筋27c,28a,28aがそれぞれ形成され、側面被着部27の突筋27cがレール部材31の鍵状面部31eの側面に、突起片部28の突筋28a,28aがガイド凹部31dの内面に、それぞれ線状に接合することで、レール部材31に沿って床カバー材2がスライド移動するときの摺動抵抗が少なくなるように設けてある。また、被覆面部21の上面から突起片部28の下端までの長さ(TP)は、前記被覆面部21の上面と中空部24の下部を囲う枠面部26の下面までの間隔(T)の略1/2(TP≒1/2T)に設けて、突起片部28の突出長さを長く設定してあり、突起片部28をレール部材31のガイド凹部31dに差し込んで係合させた状態で突起片部28とガイド凹部31dの嵌め合わせ深さが大きくなり、被覆面部21内に下向きの荷重がかかっても、突起片部28がガイド部材31から外れにくいようになっている。
【0047】
前記凹面部23の下側に連なる隔壁部25には、床カバー材2,2同士を長手方向に沿って接続するときに床カバー材2の端部間に架け渡されるジョイントピン5の取り付け部である挿通孔25aが形成してある。これは、
図4に示されるように、間隙Gをその長手方向に沿って複数の床カバー材2同士を継ぎ合わせて設置する場合に、隣り合う床カバー材2の端部同士を、それぞれの挿通孔25a,25aにジョイントピン5を挿入して接続することで、床カバー材2,2同士がそれぞれ長手方向の接続位置を揃えて取り付けられるようにし、また、間隙Gの長手方向に沿って躯体A,Bの相対変位が生じたときに隣り合う床カバー材2,2同士が一体となって可動するようにしたものである。挿通孔25aの内面には、挿入されたジョイントピン5の外周面との接触抵抗が小さくなるように、周方向に沿って凹凸筋が設けてある。
【0048】
また、床カバー材2の被覆面部21の上面全体には防滑のための凹凸面が設けられ、凹面部23の上面にも凹凸面を設けてある。
【0049】
躯体A,Bの端部に設けられた支持部3,3は、ともにアルミ型材により形成されたレール部材31とホルダー部材32からなるカバー材支持部材により形成されている。
【0050】
カバー材支持部材を構成するレール部材31は、
図5に示されるように、主面部31aの一側にその上下端部から屈曲した上面部31bと下面部31bを突出させるとともに、主面部31aの他側の側面に当該側面から外方へ突出して上方へ鍵状に折れ曲がっていて主面部31aとの間に前記床カバー材2の突起片部28が差し込まれて係合するガイド凹部31dを形成する鍵状面部31eを一体に設けて形成してある。
前記上面部31bと下面部31cには、後述する留めネジやビスなどの固着具10を上面部31aから下面部31cに貫通させてホルダー部材32に螺合するための孔部31f,31gが形成してある。孔部31fは固着具10の頭部が貫通する大きさ、孔部31gは固着具10の軸部のみが貫通する大きさに設けてある。また、主面部31aには床カバー材2を接続するための固着具10の軸部が挿通する孔部31hを形成してある。また、前記上面部32bの上面には床カバー材2との摺動抵抗を小さくするための突筋31iを列設してあり、鍵状面部31eには側方へ湾曲した凸面部31jを設けてある。この凸面部31jは、レール部材31,31をその端部同士を継ぎ合わせて接続する場合に、両端部の前記凸面部31jの内面にジョイントピン5を挿入して架け渡すことができるように設けてある。
前記各孔部31f,31g,31hはレール部材31の長さ方向に沿って所定間隔を開け、複数形成してある。
【0051】
また、ホルダー部材32は、
図6に示されるように、躯体A,Bの端部に固定される取り付け面部32aの一側の端部に、上方へ突出した縦支持面部32bと側方へ突出した横支持面部32cを一体に設けて形成してある。
取り付け面部32aは、その面内に後述するアンカーボルト6の軸部が挿通する孔部32dが形成してあり、横支持面部32cにも後述する固着具10の軸部が挿通する孔部32eが形成してある。両孔部32d、32eは、ホルダー部材32の長さ方向に沿って所定間隔を開け、複数形成してある。
縦支持面部32bの上部には前記レール部材31の上面部31bの縁部が係合する凹部32fが形成してあり、横支持面部32cの下面には後述する補助シート9の端部が取り付けられるシート接続凹部32gを設けてある。
また、取り付け面部32aの前記縦横の支持面部32b、32cが設けられた側の端部には、断面略C字形に屈曲していてホルダー部材32,32を継ぎ合わせて設置する場合に用いるジョイントピン5の挿入枠32hを設けてあり、他側の端部には上方へ立ち上がりつつ内方へ湾曲した内折れ部32iが設けてある。前記挿入枠32hの縁部は、後述するホルダーカバー材33の一側の端部が係合し得るように設けてあり、また、前記内折れ部32iにはホルダーカバー材33の他側の端部が係合し得るように設けてある。
なお、孔部32eは、予め形成しておくのではなく、施工現場で電気ドリルを用いて形成してもよい。
【0052】
目地材4は、床カバー材2と同じ材料を用いて、
図7に示されるように、その上部4aが前記凹面部23の上端開口を塞ぐ幅に設けられてているとともに、この上部4aよりも下部4bがそれよりも幅広となる断面形状で長尺に形成してある。目地材4の略下向きC字形の断面形状を呈する下部4bは、その両側から荷重を受けたときに潰れやすいように形成されており、この下部4bを潰して細幅にした状態で床カバー材2の上方から凹面部23内に目地材4を押し込むことで、凹面部内23に容易に装着することができるようになっている。下部4bはその内部にジョイントピン5を挿入できる大きさに形成してある。また、目地材4の表面には突筋4cを複数設けてあり、この突筋4cが凹面部23の上面に設けた凹凸面に係合し引っ掛かることで凹面部23内から取り外れにくくなっている。
【0053】
これらの部材により構成される本形態のエキスパンションジョイント1の建物の床面Fへの取り付けは、以下の手順で行うことができる。
【0054】
先ず、間隙Gを挟んで相対する躯体A,Bの端部に、ホルダー部材32,32を間隙Gに沿って取り付ける。
ホルダー部材32,32の取り付けは、躯体A,Bの端部の間隙Gに面した部分に形成された凹所A1,B1にホルダー部材32の取り付け面部32aを重ね、孔部32dからアンカーボルト6を打ち込んで固定することにより行われる。なお、凹所A1,B1は、ホルダー部材32を固定した状態で前記縦支持面部32bの先端が床面Fa,Fbと略同じかそれよりも若干低くなる深さに設けて、床カバー材2を取り付けたときに床面Fに段差ができないようにする。
ホルダー部材32,32を凹所A1,B1に固定したならば、凹所A1,B1のそれぞれの側面と縦支持面部32bとの間にモルタル7を埋め込み、次いで、床面Fa,Fbの上面に表層材8を敷き重ねる。また、間隙G内に対向配置されるホルダー部材32,32のシート接続凹部32g,32gに補助シート9の端部をそれぞれ係合させて、間隙G内に補助シート9を架設しておく。
【0055】
前記ホルダー部材32,32を取り付ける処理工程の後、又はこの処理の前に或いはこれと並行して、床カバー材2の接続部22,22にレール部材31,31を取り付ける。
レール部材31の取り付けは、床カバー材2の突起片部28をレール部材31のガイド凹部31d内に差し込んで係合させるとともに、ガイド凹部31dの外面である鍵状面部31eの表面に側面被着部29を覆い被せて装着することに行われる。床カバー材2にレール部材31,31を装着した状態で、
図8に示されるように、レール部材31の上面部31bには床カバー材2の上面被着部29が重なって上面部31bの上面が覆い隠される。また、上面被着部29の縁部を把持して捲り上げることで(
図9参照)、上面部31bに形成された孔部31fを露出させることができる。
床カバー材2の接続部22,22にレール部材31,31を装着したならば、両接続部22,22の一方の接続部22とレール部材31とを一体に固定する。レール部材31の固定は、主面部31aに形成された孔部31hから前記突起片部28が係合したガイド凹部31dに固着具10を螺合して留め付けることにより行われる。他方の接続部22に装着したレール部材31は、突起片部28がガイド凹部31d内をスライド移動できるようにしておく。
【0056】
そして、床カバー材2の両接続部22,22に取り付けられたレール部材31,31を前記躯体A,Bに固定されたホルダー部材32,32に接続し、床カバー材2を躯体A,B間に架け渡して間隙Gを覆う。
レール部材31,31のホルダー部材32,32への取り付けは、先ず、ホルダー部材32の横支持面部32cにレール部材31を載せてその下面部31cを横支持面部32c上に重ねるとともに、ホルダー部材32の縦支持面部32bの上部に設けた凹部32fにレール部材31の上面部31bの縁部を係合させる。このとき、レール部材31の上面部31bと下面部31cに形成された孔部31f,31gと、ホルダー部材32の横支持面部32cに形成された孔部32eが鉛直に揃っていることを確認する。次いで、床カバー材2の上面被着部29を捲り上げ、露出したレール部材31の孔部31fから固着具10を挿入し、固着具10の先端を上下に重なり合った孔部31g,32eにあてがって螺合し、レール部材31の下面部31cとホルダー部材32の横支持面部32cを一体に留め付けて固定することにより行われる。
【0057】
そして、間隙Gを覆うように躯体A,B間に架設された床カバー材2の凹面部23内に、目地材4を挿入設置することで、本形態の床用エキスパンションジョイント1の施工が完了する。
【0058】
図10は他の実施形態の床用エキスパンションジョイントを示しており、これは、床カバー材2の支持部3を構成するカバー支持部材として、前記レール部材31とホルダー部材32に加えてホルダーカバー材33を用い、躯体A,Bに固定されるホルダー部材32の上方空間がホルダーカバー材33で覆われるように構成したものである。
【0059】
ホルダーカバー材33は、前記レール部材31及びホルダー部材32と同様にアルミ型材により形成されており、
図11に示されるように、上面部33aの両側から側面部33b,33cが下方へ屈曲した下向きコ字形の断面形状に形成されており、側面部33bの端部には前述のホルダー部材32の内折れ部32iに係合する屈曲部33d、側面部33cの端部には当該カバー材の内側で斜め上方へ突出した突片33eと前記ホルダー部材32の挿入枠32hの縁部に係合する折れ部33fをそれぞれ設けてある。
また、上面部33aには孔部33gが形成され、突片33eの前記孔部33gの直下に位置する部分にも孔部33hを形成してある。上面部33aの上面全体には防滑のための凹凸面が設けてある。
【0060】
本形態の床用エキスパンションジョイント1の施工は、前記形態で行われたモルタル8の埋め込み処理に代えて、ホルダー材32にホルダーカバー材33を取り付けることにより行われる。
ホルダーカバー材33の取り付けは、
図12に示されるように、躯体A,Bの凹所A1,B1に固定されたホルダー部材32の内折れ部32iにホルダーカバー材33の屈曲部33dを係合させるとともに、その側面部33cをホルダー部材32の主面部32aの内面に当接させた状態で、ホルダーカバー材33の上面部33aを下方へ押し込み、当該カバー材が有する弾性により前記側面部33cが主面部32aに沿って圧入することにより行われ、側面部33cの端部に設けた折れ部33fがホルダー部材32の挿入枠32hの縁部に係合することで、ホルダーカバー材33がホルダー部材32に固定される。
【0061】
ホルダーカバー材33が取り付けられたならば、その側面部33bの外側の隙間部分にシーリング材を充填して床面Fを平坦に揃え、ホルダーカバー材33の上面部33aの孔部33gにカバー体(図示せず)を取り付けて塞ぐことで、本形態の床用エキスパンションジョイント1の施工が完了する。
【0062】
また、メンテナンスの際は、
図13に示されるように、前記充填されていたシーリング材を除去して側面部33bの外側を隙間部分とした状態で、前記ホルダーカバー材33の上面部33aの孔部33gからドライバーなどの棒体12を挿入し、棒体12の先端を突片33eの孔部gに係合させた状態で、棒体12の先端で突片33eを引き上げる向きに棒体12を操作すれば、前記内折れ部32iと屈曲部33dとの係合部を軸にホルダーカバー材33が上方へ変位して、前記主面部32a内に圧入していた側面部33cが上方へ引き抜かれ、ホルダー部材32に固定されていたホルダーカバー材33を取り外すことが可能である。
なお、上面部33aの孔部33gと突片33eの孔部33hは、予めホルダーカバー材33に形成しておくのではなく、ホルダーカバー材33をホルダー部材32に取り付け、固定した後で、上面部33aと突片33eにドリルを貫通させて設けるようにしてもよい。
【0063】
図14と
図16は、さらに他の実施形態の床用エキスパンションジョイント1を示しており、ともに床と内壁の取り合い部分の間隙Gに設置する形態のものである。
床と内壁の取り合い部分に設置する場合、前記ホルダー部材32に代えて、内壁である躯体Bの凹所B1に、
図15に示されるホルダー部材34を固定し、このホルダー部材34と躯体Aに固定されたホルダー部材32に、前記形態と同様の手順で、床カバー材2に取り付けられたレール部材31,31を取り付けることで床用エキスパンションジョイント1の施工が完了する。前記形態で用いた、床カバー材2とこれを支持するレール部材31、ホルダー部材32及びホルダーカバー材33は本形態でも共用可能である。
【0064】
図17及び
図18は、床カバー材2,2の端部同士を接続して継ぎ合わす場合の他の態様を示しており、これは、凹面部23内に挿入することのできる幅の連結板11を隣り合う床カバー材2,2の端部間に架け渡し、凹面部23の上方から固着具10を連結板11にネジ入れ、凹面部23の下側の挿通孔25aを貫通させて、その下の隔壁部25に留め付けることで、連結板11を介して床カバー材2,2の端部同士が接続されるようにしたものである。固着具10をネジ入れる先に、連結板10の取り付け部である中空な挿通孔25aが位置しているので、この挿通孔25aがガイドとなって、固着具10の留め付けがしやすいようになっている。
この場合、床カバー材2の凹面部23内に設置される目地材4は、
図19に示されるように、下部4bに切り欠け部4dを設けた形状のものが用いられ、前記連結板11が留め付けられた部分に切り欠け部4dが重なるように配置して目地材4が取り付けられる。
また、床カバー材同士を継ぎ合わす別の態様の床用エキスパンションジョイントとして、構造物の床面に配された間隙を覆う被覆面部と、この被覆面部の両側に設けられていて前記間隙に臨む躯体の端部に設けられた支持部に接続する接続部を有して帯状に形成されていて、前記被覆面部から下方へ凹んだ凹面部を有して、ゴム弾性を有する材料を用いて弾性変形可能に形成された床カバー材を用い、
前記間隙に沿って複数の床カバー材が架設されているとともに、隣り合う床カバー材の端部間に両床カバー材の凹面部内に連結板を挿入して架け渡し、かつこれを凹面部内に固着具で留め付けて、隣り合う床カバー材同士が接続されていてもよい。
【0065】
これら各形態の床用エキスパンションジョイント1によれば、地震などにより間隙Gの両側の躯体A,Bが相対変位し、間隙Gの伸縮やずれが生じた場合、両躯体A,Bの間隙X方向の変位は床面カバー材2が収縮又は伸長変形することで吸収し、間隙Y方向の変位は床面カバー材2が両躯体A.Bにそれぞれ取り付けられた支持部3,3に沿ってスライド移動して吸収することができ、また、両躯体A,Bの間隙Z方向の変位は、両躯体A.Bの同方向の相対変位に追随して床カバー材2が弾性変形することで吸収することができる。
間隙X方向とZ方向の変位は床カバー材2が変位方向に追従して収縮又は伸長変形することで、また、Y方向の変位は床カバー材2が同方向に沿ってスライド移動して吸収することができるので、間隙Gを挟んで両躯体がX,Y及びZの何れの方向に相対変位しても、床カバー材2で間隙Gを覆った床面F内に欠損部ができることはない。また、床カバー材2がX方向に沿って収縮したときにその被覆面部21が凹面部22を起点として下向きに変形するように設けられているので、被覆面部21内に凸状の段差ができることはない。躯体A,Bの変位が生じた後でも床面Fは平坦に維持され、歩行者が欠損部に足を踏み入れたり段差部に躓いたりする危険はなく、歩行の安全を確保することが可能である。また、床カバー材2の凹面部23内に目地材4を挿入設置することで、上方からかかる荷重に対する強度をより高くすることができて安全である。
【0066】
なお、図示した床用エキスパンションジョイント1とその構成部材は、本発明の実施形態の一例を示すものであり、本発明はこれに限定されず、他の適宜な形態で構成することが可能である。
床カバー材2は、凹面部23の両側に中空部24,24を配置した断面形状に設けたが、間隙Gの幅が狭く、床カバー材2に要求される可動量が小さい場合には、被覆面部21内に凹面部23が形成され、中空部24,24のない断面形状の床カバー材を用いてもよい。その場合、上方からの荷重に対する強度を確保するため、凹面部23内には目地材4を挿入設置してあることが好ましい。
また、支持部3であるカバー支持部材は、レール部材31とホルダー部材32、さらにはホルダーカバー材33と複数の部材により形成したが、これらを一体に設けた部材により構成されていてもよい。
【符号の説明】
【0067】
1 床用エキスパンションジョイント、2 床カバー材、21 被覆面部、22 接続部、23 凹面部、24 中空部、3 支持部、31 レール部材、32 ホルダー部材、33 ホルダーカバー材、34 ホルダー部材、4 目地材、5 ジョイントピン、6 アンカーボルト、7 モルタル、8 表層材、9 補助シート、10 固着具、11 連結板、12 棒体、A,B 躯体、G 間隙(クリアランス)