(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】眼振解析装置、プログラム、及び解析システム
(51)【国際特許分類】
A61B 10/00 20060101AFI20231226BHJP
A61B 3/113 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61B10/00 W
A61B3/113
(21)【出願番号】P 2023132297
(22)【出願日】2023-08-15
【審査請求日】2023-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521342670
【氏名又は名称】株式会社Parafeed
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100217984
【氏名又は名称】川條 英明
(72)【発明者】
【氏名】橋本 徹也
(72)【発明者】
【氏名】吉原 周
【審査官】山口 裕之
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2021-0004637(KR,A)
【文献】国際公開第2014/168492(WO,A1)
【文献】特開2007-020802(JP,A)
【文献】国際公開第2019/224557(WO,A2)
【文献】中村 正,「マイクロコンピュータによる眼振分析 -分析アルゴリズム-」,日本耳鼻咽喉科学会会報,1985年12月20日,Vol. 88、No.12,pp. 1694-1704
【文献】HSU Wei-Yen et al.,”An Effective Algorithm to Analyze the Optokinetic Nystagmus Waveforms from a Low-Cost Eye Tracker”,Healthcare,2022年07月10日,Vol. 10、No. 7,Article 1281、pp. 1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A61B 3/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の視線の位置の変化を経時的に表す
複数の点から構成されている波形データを取得するデータ取得手段と、
取得した前記波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、それぞれの発生タイミングを求める解析手段と、
を備え、
前記解析手段は、
前記波形データを構成する複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第一の極値検出処理と、
前記第一の極値検出処理によって検出した複数の点のうち2点を比較し、前側の点が示すタイミングと後側の点が示すタイミングの差分が閾値以下であるとき、一方の点を省き、他方の点を残す近接点除去処理と、
前記近接点除去処理によって残された複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第二の極値検出処理と、
前記第二の極値検出処理によって検出した複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きを比較し、後側の傾きの絶対値から前側の傾きの絶対値を減じた値が閾値以上であるとき、当該点を検出する傾き比較処理と、
を実行し、前記傾き比較処理によって検出した複数の点が示すタイミングのそれぞれを眼振の発生タイミングとする、
ことを特徴とする眼振解析装置。
【請求項2】
コンピュータに、
被験者の視線の位置の変化を経時的に表す
複数の点から構成されている波形データを取得するデータ取得処理と、
取得した前記波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、それぞれの発生タイミングを求める解析処理と、
を実行させるプログラムであって、
前記解析処理は、
前記波形データを構成する複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第一の極値検出処理と、
前記第一の極値検出処理によって検出した複数の点のうち2点を比較し、前側の点が示すタイミングと後側の点が示すタイミングの差分が閾値以下であるとき、一方の点を省き、他方の点を残す近接点除去処理と、
前記近接点除去処理によって残された複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第二の極値検出処理と、
前記第二の極値検出処理によって検出した複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きを比較し、後側の傾きの絶対値から前側の傾きの絶対値を減じた値が閾値以上であるとき、当該点を検出する傾き比較処理と、
を実行し、前記傾き比較処理によって検出した複数の点が示すタイミングのそれぞれを眼振の発生タイミングとする、
ことを特徴とするプログラム。
【請求項3】
少なくとも被験者の視線の位置を計測する視線計測手段と、
前記被験者の頭位を計測する頭位計測手段と、
前記被験者の視線の変化及び頭位の変化を経時的に記録する記録手段と、
前記記録手段によって記録されたデータを解析して、前記被験者の平衡機能に関する解析結果を出力する解析手段と、
を備え、
前記解析手段は、前記視線計測手段によって計測された前記被験者の視線の位置の変化を経時的に表す
複数の点から構成されている波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、少なくともそれぞれの発生タイミングを求めて前記解析結果として出力し、
前記解析手段は、
前記波形データを構成する複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第一の極値検出処理と、
前記第一の極値検出処理によって検出した複数の点のうち2点を比較し、前側の点が示すタイミングと後側の点が示すタイミングの差分が閾値以下であるとき、一方の点を省き、他方の点を残す近接点除去処理と、
前記近接点除去処理によって残された複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第二の極値検出処理と、
前記第二の極値検出処理によって検出した複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きを比較し、後側の傾きの絶対値から前側の傾きの絶対値を減じた値が閾値以上であるとき、当該点を検出する傾き比較処理と、
を実行し、前記傾き比較処理によって検出した複数の点が示すタイミングのそれぞれを眼振の発生タイミングとする、
ことを特徴とする解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼振解析装置及びプログラム、並びに、これらを用いた解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトは年齢を重ねると、平衡感覚を司る機能が低下し、ふらつき・転倒が増える。ふらつき・転倒に伴う大腿骨頸部骨折は年間15万例に及ぶと報告されており、医療介護費用が増大する一因となっている。
ヒトは、前庭と呼ばれる平衡を感知する器官を左右の内耳に有しており、左右の前庭から脳に伝達される信号に基づいて、身体のバランスを取っている。従って、前庭機能が何らかの異常を来し、前庭神経が左右不均等に刺激されると、脳が混乱して目眩を引き起こす。
【0003】
目眩に関する検査の一つとして、眼振検査が知られる。
特許文献1には、被験者の瞳孔を撮影した映像を用いて眼振解析して、撮影と並行して測定した頭位のデータに紐付ける解析システムが開示されている。特許文献1に開示されている発明は、眼球角度及び眼球速度を、水平成分、垂直成分、回旋成分に分けて解析することができる。
特許文献2には、被験者の頭位と眼球運動を計測し、被験者が目眩を自覚したタイミングから計測データを記録する記録装置が開示されている。特許文献2に開示されている発明は、眼振の頻度、眼振数、及び最大緩除相速度を解析することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-18704号公報
【文献】特開2010-207532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、眼球運動は鋸歯状の波形データとして表される。当該波形データが極値となるタイミングに眼振が発生している可能性があるものの、一部ノイズが含まれるため、厳密には極値となるタイミングの全てについて眼振が発生しているとは言えない。
上記の各特許文献に開示されている発明は、上述した知見を鑑みずに眼球運動を解析しているため、眼振について高い精度で解析することができない。
【0006】
本発明は、上記のような課題を鑑み、被験者の眼振を高い精度で解析し得る眼振解析装置及びプログラムを提供することができる。更に、本発明は、これらの眼振解析装置及びプログラムを用いた解析システムを提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、被験者の視線の位置の変化を経時的に表す複数の点から構成されている波形データを取得するデータ取得手段と、取得した前記波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、それぞれの発生タイミングを求める解析手段と、を備え、前記解析手段は、前記波形データを構成する複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第一の極値検出処理と、前記第一の極値検出処理によって検出した複数の点のうち2点を比較し、前側の点が示すタイミングと後側の点が示すタイミングの差分が閾値以下であるとき、一方の点を省き、他方の点を残す近接点除去処理と、前記近接点除去処理によって残された複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第二の極値検出処理と、前記第二の極値検出処理によって検出した複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きを比較し、後側の傾きの絶対値から前側の傾きの絶対値を減じた値が閾値以上であるとき、当該点を検出する傾き比較処理と、を実行し、前記傾き比較処理によって検出した複数の点が示すタイミングのそれぞれを眼振の発生タイミングとする、ことを特徴とする眼振解析装置が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、コンピュータに、被験者の視線の位置の変化を経時的に表す複数の点から構成されている波形データを取得するデータ取得処理と、取得した前記波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、それぞれの発生タイミングを求める解析処理と、を実行させるプログラムであって、前記解析処理は、前記波形データを構成する複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第一の極値検出処理と、前記第一の極値検出処理によって検出した複数の点のうち2点を比較し、前側の点が示すタイミングと後側の点が示すタイミングの差分が閾値以下であるとき、一方の点を省き、他方の点を残す近接点除去処理と、前記近接点除去処理によって残された複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第二の極値検出処理と、前記第二の極値検出処理によって検出した複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きを比較し、後側の傾きの絶対値から前側の傾きの絶対値を減じた値が閾値以上であるとき、当該点を検出する傾き比較処理と、を実行し、前記傾き比較処理によって検出した複数の点が示すタイミングのそれぞれを眼振の発生タイミングとする、ことを特徴とするプログラムが提供される。
【0009】
また、本発明によれば、少なくとも被験者の視線の位置を計測する視線計測手段と、前記被験者の頭位を計測する頭位計測手段と、前記被験者の視線の変化及び頭位の変化を経時的に記録する記録手段と、前記記録手段によって記録されたデータを解析して、前記被験者の平衡機能に関する解析結果を出力する解析手段と、を備え、前記解析手段は、前記視線計測手段によって計測された前記被験者の視線の位置の変化を経時的に表す複数の点から構成されている波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、少なくともそれぞれの発生タイミングを求めて前記解析結果として出力し、前記解析手段は、前記波形データを構成する複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第一の極値検出処理と、前記第一の極値検出処理によって検出した複数の点のうち2点を比較し、前側の点が示すタイミングと後側の点が示すタイミングの差分が閾値以下であるとき、一方の点を省き、他方の点を残す近接点除去処理と、前記近接点除去処理によって残された複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて負の値になる場合に、当該点を極値として検出する第二の極値検出処理と、前記第二の極値検出処理によって検出した複数の点のうち、その点を基準として前側の傾きと後側の傾きを比較し、後側の傾きの絶対値から前側の傾きの絶対値を減じた値が閾値以上であるとき、当該点を検出する傾き比較処理と、を実行し、前記傾き比較処理によって検出した複数の点が示すタイミングのそれぞれを眼振の発生タイミングとする、ことを特徴とする解析システムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
上記の発明によれば、被験者の視線の変化を表す波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振についてそれぞれの発生タイミングを求めるので、被験者の眼振を高い精度で解析し得る。
【0011】
本発明によれば、被験者の眼振を高い精度で解析し得る眼振解析装置及びプログラムが提供される。更に、本発明は、これらの眼振解析装置及びプログラムを用いた解析システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】VRデバイスを装着している被験者の様子を描いた図である。
【
図3】本発明に係る眼振解析の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】各処理の実行後の波形データを示す図である。
【
図5】各処理の実行後の波形データを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様の構成要素には同一の符号を付し、適宜に説明を省略する。
【0014】
<本発明に係る解析システムの構成について>
先ず、本発明に係る解析システムの構成について説明する。
本発明は、被験者の平衡機能に関する解析を行うシステムである。
【0015】
図1は、VRデバイス100を装着している被験者の様子を描いた図である。
本発明を実施する場合、
図1に示すとおり、被験者の頭部にVRデバイス100を装着させる。VRデバイス100は、装着している者に仮想現実(Virtual Reality)の環境を体感させる装置であり、頭部に装着されている状態においてその物の両目の前方をディスプレイで覆われる、いわゆるヘッドマウントディスプレイである。
VRデバイス100は、被験者の平衡機能を検査するための動画像を表示し、その際の視線の変化と頭位の変化とを記録して、それぞれの計測データを収集する。
【0016】
図2は、本発明に係る解析システムの構成図である。
図2に示すとおり、VRデバイス100は、表示手段110と、視線計測手段120と、頭位計測手段130と、を備える。
表示手段110は、被験者の平衡機能を検査するための動画像を表示して、被験者に当該動画像を視認させる。表示手段110は、液晶ディスプレイ装置などによって実現可能である。
視線計測手段120は、被験者の平衡機能を検査するための動画像を視認している被験者の視線を計測する。視線計測手段120は、アイトラッカー(被験者の視線を検知するセンサー)などによって実現可能である。なお、視線計測手段120によって計測される被験者の視線は、被験者の眼球の回旋軸と回旋角度の他、被験者の視線の位置(被験者が注視している位置)が含まれる。
頭位計測手段130は、被験者の平衡機能を検査するための動画像を視認している被験者の頭位を計測する。頭位計測手段130は、ジャイロセンサー(角速度を検知するセンサー)などによって実現可能である。
【0017】
図2に示すとおり、VRデバイス100は記憶装置200と通信可能に接続されており、記憶装置200は、VRデバイス100が計測したデータ(被験者の視線の変化及び頭位の変化を経時的に示すデータ)を記憶する。
【0018】
図2に示すとおり、コンピュータ装置300は、記憶装置200と通信可能に接続されている。
コンピュータ装置300は、液晶ディスプレイ装置などによって実現される表示手段310を備える。また、コンピュータ装置300は、不図示のCPU等の情報処理装置と、不図示のROMやRAM等の記憶装置と、を内蔵しており、これらのハードウェアとインストールされているソフトウェアとの協働によって、データ取得手段320と、解析手段330と、を実現する。
【0019】
コンピュータ装置300は、記憶装置200に記憶されている計測データを読み出して解析し、被験者の平衡機能に関する解析結果を表示手段310に出力することができ、本発明に係る眼振解析装置に相当する構成である。
データ取得手段320は、被験者の視線の変化を経時的に表す波形データを取得する。
解析手段330は、取得した波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、それぞれの発生タイミングを求める。
【0020】
なお、本発明の実施において、VRデバイス100、記憶装置200、及びコンピュータ装置300の間の通信は、無線通信であっても有線通信であってもよく、相互に直接的に接続されてもよく、不図示の他の装置を介して間接的に接続されてもよい。
【0021】
<本発明に係る眼振解析のフローについて>
次に、本発明に係る眼振解析のフローについて説明する。
図3は、本発明に係る眼振解析の処理手順を示すフローチャートである。
図4及び
図5は、各処理の実行後の波形データを示す図である。
【0022】
先ず、コンピュータ装置300(データ取得手段320)は、被験者の視線の変化を経時的に表す波形データを、記憶装置200から取得する(ステップS101)。
【0023】
図4(a)は、ステップS101にて取得した波形データを表している。当該波形データはノイズを多分に含むので、高い精度で眼振を解析するには、ノイズの影響を低減する必要がある。
本実施形態に係るコンピュータ装置300は、ノイズの影響を低減するため、ステップS101にて取得した波形データの平滑化を図る。具体的には、コンピュータ装置300は、ステップS101にて取得した波形データにおいて連続する複数の点(本実施形態においては3つの点)の平均値をプロットする(ステップS102)。
【0024】
図4(b)は、ステップS102にて平滑化を図った波形データを表している。
本実施形態に係るコンピュータ装置300は、当該波形データにおいて極値を示す点をピックアップする。具体的には、コンピュータ装置300は、対象のタイミングを基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて正の値になるとき当該タイミングを省き、負の値になるとき当該タイミングを残す(ステップS103)。
なお、ステップS103の処理は、本発明に係る「一回目の第一処理」に相当する。
【0025】
図4(c)は、ステップS103にてピックアップしたタイミングを示した波形データを表している。
本実施形態に係るコンピュータ装置300は、当該波形データにおいて近接する点(眼振の発生時間に比べて十分に短い時間内に発生している極値点)を省く処理を実行する。具体的には、コンピュータ装置300は、ステップS103で残したタイミングのうち、前側のタイミングと後側のタイミングの差分が閾値以下であるとき、一方のタイミングを省き、他方のタイミングを残す(ステップS104)。
なお、ステップS104の処理は、本発明に係る「一回目の第二処理」に相当する。
【0026】
図5(a)は、ステップS104にて近接する点を省いた波形データを表している。
本実施形態に係るコンピュータ装置300は、当該波形データにおいて極値を示す点をピックアップする。具体的には、コンピュータ装置300は、対象のタイミングを基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて正の値になるとき当該タイミングを省き、負の値になるとき当該タイミングを残す(ステップS105)。
なお、ステップS105の処理は、本発明に係る「二回目の第一処理」に相当する。
【0027】
図5(b)は、ステップS105にてピックアップしたタイミングを示した波形データを表している。
本実施形態に係るコンピュータ装置300は、当該波形データにおいて急速相(時系列上の後側)の傾きが、緩徐相(時系列上の前側)の傾きに比べて大きい点をピックアップする処理を実行する。すなわち、眼振の定義上、急速相の方が緩徐相に比べて被験者の視線の変化が大きくなるため、その定義に合致している点をピックアップする。
具体的には、コンピュータ装置300は、ステップS105にて検出したタイミングを基準として前側の傾きと後側の傾きを比較し、後側の傾きの絶対値から前側の傾きの絶対値を減じた値が閾値以上であるとき、当該タイミングを検出する(ステップS106)。
なお、ステップS106の処理は、本発明に係る「二回目の第二処理」に相当する。
【0028】
図5(c)は、ステップS106にてピックアップしたタイミングを示した波形データを表している。このタイミングのそれぞれが、本発明によって抽出された眼振のタイミングとなる。
なお、本実施形態では、それぞれの眼振のタイミングの視認容易性を高めるために、眼振の点を波形データのY軸方向に少し離れた場所に描画するため、sign関数を使用している。ここでsign関数とは、正の数に対して1、負の数に対して-1、0に対して0を返す関数である。
最後に、本実施形態に係るコンピュータ装置300は、ステップS106にてピックアップした眼振のタイミングを示した波形データ、すなわち
図5(c)に示す波形データを表示手段310に出力する(ステップS107)。
【0029】
上述したように、本実施形態に係るコンピュータ装置300(解析手段330)は、極値を検出する第一処理(ステップS103及びステップS105)と、第一処理で検出したタイミングの一部を省く第二処理(ステップS104及びステップS106)と、をそれぞれ交互に複数回実行して眼振の発生タイミングを求める態様としている。
このように、本実施形態に係るコンピュータ装置300は、異なる態様の第二処理を二段階に実行することによって、高い精度で眼振の発生タイミングを求めることができる。
【0030】
ただし、上記の内容は本発明の実施の一具体例であり、上記の第一処理及び第二処理に相当する処理をそれぞれ一回実行して眼振の発生タイミングを求める態様によって本発明を実施してもよいし、上記の第一処理及び第二処理に相当する処理をそれぞれ三回以上実行して眼振の発生タイミングを求める態様によって本発明を実施してもよい。
従って、コンピュータ装置300(解析手段330)は、波形データが極値となるタイミングを検出する第一処理(ステップS103及びステップS105)と、第一処理によって検出したタイミングのうち一部を省く第二処理(ステップS104及びステップS106)と、を実行して眼振の発生タイミングを求めるものと言える。
【0031】
<本発明に係るプログラムについて>
本発明に係るプログラムは、コンピュータ装置300にインストールさせることによって、被験者の視線の変化を経時的に表す波形データを取得するデータ取得処理(上記のステップS101の処理に相当)と、取得した波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、それぞれの発生タイミングを求める解析処理(上記のステップS103~ステップS106の処理に相当)と、を実行させるためのものである。
これにより、被験者の眼振を高い精度で解析可能なプログラムを実現することができる。
【0032】
<変形例>
以上に説明した本発明の実施形態は、本発明の目的と達成する範囲において、種々の変形が可能である。
【0033】
本発明の実施は、
図2に図示したシステム構成によって実現されるものに限られず、他の構成を採用してもよい。
例えば、
図2では、記憶装置200は、コンピュータ装置300の外部構成であるかのように図示したが、これに相当する構成はコンピュータ装置300に内蔵する構成であってもよい。
また、
図2では、一台のコンピュータ装置300に対して、一台のVRデバイス100を備えるかのように図示したが、一方又は双方共に複数台の装置によって実現されてもよい。
また、
図2に図示したシステム構成では、VRデバイス100によって被験者の視線を示す波形データを取得することを例示したが、別のデバイスで波形データを取得してもよい。例えば、不図示のカメラで撮影した被験者の眼球の映像を解析して上記の波形データに相当するものを生成することによって、波形データを取得してもよい。
【0034】
図3に基づいて説明した処理手順は、本発明の実施に係る一具体例であって、本発明の目的を達成する範囲において、処理の順序を入れ替える、一部の処理を省く、又は、上述の実施形態で説明していない処理を追加する、等の変更を加えてもよい。
【0035】
本実施形態は以下の技術思想を包含する。
(1)被験者の視線の変化を経時的に表す波形データを取得するデータ取得手段と、取得した前記波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、それぞれの発生タイミングを求める解析手段と、を備える眼振解析装置。
(2)前記解析手段は、前記波形データが極値となるタイミングを検出する第一処理と、前記第一処理によって検出したタイミングのうち一部を省く第二処理と、を実行して眼振の発生タイミングを求める、(1)に記載の眼振解析装置。
(3)前記解析手段は、前記第一処理と前記第二処理のそれぞれを交互に複数回実行して眼振の発生タイミングを求める、(2)に記載の眼振解析装置。
(4)一回目の前記第二処理は、一回目の前記第一処理によって検出したタイミングのうち、前側のタイミングと後側のタイミングの差分が閾値以下であるとき、一方のタイミングを省き、他方のタイミングを残す処理である、(3)に記載の眼振解析装置。
(5)二回目の前記第二処理は、二回目の前記第一処理によって検出したタイミングを基準として前側の傾きと後側の傾きを比較し、後側の傾きの絶対値から前側の傾きの絶対値を減じた値が閾値以上であるとき、当該タイミングを検出する処理である、(3)に記載の眼振解析装置。
(6)一回目の前記第一処理及び二回目の前記第一処理のいずれも、対象のタイミングを基準として前側の傾きと後側の傾きとを乗じて正の値になるとき当該タイミングを省き、負の値になるとき当該タイミングを残す処理である、(3)に記載の眼振解析装置。
(7)コンピュータに、被験者の視線の変化を経時的に表す波形データを取得するデータ取得処理と、取得した前記波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、それぞれの発生タイミングを求める解析処理と、を実行させるためのプログラム。
(8)被験者の視線を計測する視線計測手段と、前記被験者の頭位を計測する頭位計測手段と、前記被験者の視線の変化及び頭位の変化を経時的に記録する記録手段と、前記記録手段によって記録されたデータを解析して、前記被験者の平衡機能に関する解析結果を出力する解析手段と、を備え、前記解析手段は、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、少なくともそれぞれの発生タイミングを、前記解析結果として出力する、ことを特徴とする解析システム。
【符号の説明】
【0036】
100 VRデバイス
110 表示手段
120 視線計測手段
130 頭位計測手段
200 記憶装置
300 コンピュータ装置
310 表示手段
320 データ取得手段
330 解析手段
【要約】
【課題】被験者の眼振を高い精度で解析し得る眼振
解析装置及びプログラムを提供し、これらを用いた解析システムを提供する。
【解決手段】本発明は、被験者の視線の変化を経時的に表す波形データを取得するデータ取得手段(ステップS101の処理に相当)と、取得した波形データを解析して、解析対象となる所定期間内に発生した複数回の眼振について、それぞれの発生タイミングを求める解析手段(ステップS103~ステップS106の処理に相当)と、を備える。
【選択図】
図3