(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】電子デバイスおよびその作製方法
(51)【国際特許分類】
H10K 50/17 20230101AFI20231226BHJP
C07F 9/94 20060101ALI20231226BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20231226BHJP
H10K 59/10 20230101ALI20231226BHJP
H10K 71/16 20230101ALI20231226BHJP
H10K 71/30 20230101ALI20231226BHJP
H10K 85/30 20230101ALI20231226BHJP
H10K 30/50 20230101ALI20231226BHJP
【FI】
H10K50/17
C07F9/94
H10K50/15
H10K59/10
H10K71/16
H10K71/30
H10K85/30
H10K30/50
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018186404
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-07-20
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503180100
【氏名又は名称】ノヴァレッド ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】マルクス,フンメルト
(72)【発明者】
【氏名】トーマス,ローゼノ
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0102311(US,A1)
【文献】国際公開第2016/050330(WO,A1)
【文献】特表2009-537676(JP,A)
【文献】特表2020-511006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/17
H10K 50/15
H10K 59/10
H10K 71/16
H10K 71/30
H10K 85/30
H10K 30/50
C07F 9/94
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と第2の電極との間に少なくとも1つの正孔発生層を備える電子デバイスであって、
前記正孔発生層は、ビスマスカルボキシレート錯体からなり、
前記電子デバイスは、有機ELデバイス、有機光起電性デバイス、または有機電界効果トランジスタであ
り、
前記ビスマスカルボキシレート錯体は、下記化学式(I)によって表されるビスマスカルボキシレート錯体であって、
【化1】
R1、R2、およびR3は、1から40の炭素原子を含む群から独立して選択され、
(i)前記R1、R2、およびR3の各々は、1つ以上のハロゲン原子および/または1つ以上のニトリル基によって置換され得、および/または、
(ii)前記R1、R2、およびR3の基のうちの2つ以上は、環を形成するように互いに連結し得、
前記R1、R2、およびR3の少なくとも1つは、少なくとも1つのトリフルオロメチル基を含む、電子デバイス。
【請求項2】
前記ビスマスカルボキシレート錯体は、電気的に中性である、請求項1に記載の電子デバイス。
【請求項3】
前記ビスマスカルボキシレート錯体は、単核である、請求項1または2に記載の電子デバイス。
【請求項4】
前記ビスマスカルボキシレート錯体中のビスマスは、+III価の酸化状態である、請求項1~3のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項5】
前記ビスマスカルボキシレート錯体は、カルボキシレートアニオン(carboxylate anion)であって、部分的にまたは完全にフッ化されたカルボキシレートアニオンおよび/または、少なくとも1つのニトリル基を備えるカルボキシレートアニオンを備える、請求項1~4のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項6】
前記ビスマスカルボキシレート錯体は、少なくとも1つの芳香環および/または少なくとも1つの芳香族複素環を備える少なくとも1つのカルボキシレート基を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項7】
前記R1、R2、およびR3のうち少なくとも2つは同一である、請求項
1に記載の電子デバイス。
【請求項8】
前記R1、R2、およびR3の少なくとも1つは、少なくとも1つのトリフルオロメチル基によって置換されたフェニル基、および/または、少なくとも1つのニトリル基によって置換されたフェニル基である、請求項
1~7のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項9】
前記ビスマスカルボキシレート錯体は、下記の化学式を有する、請求項1~
8のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【化2】
【請求項10】
正孔輸送層をさらに備え、前記正孔輸送層は、前記ビスマスカルボキシレート錯体からなる前記正孔発生層と直接接している、請求項1~
9のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項11】
請求項1~
10のいずれか1項に記載のデバイスを作製する方法であって、
(i)蒸気を形成するためにビスマスカルボキシレート錯体を気化させる工程と、
(ii)前記蒸気を固体支持体上に堆積させ、前記正孔発生層を形成する工程と、
を含む方法。
【請求項12】
前記固体支持体は、前もって堆積された層である、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載の有機ELデバイスを備えているディスプレイ。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
<技術分野>
本発明は、電子デバイス(electronic device)およびその作製方法に関する。
<背景技術>
自発光型デバイスである有機発光ダイオード(organic light-emitting diode;OLED)は、視野角が広く、コントラストが良好で、応答が速く、高輝度であり、駆動電圧特性に優れ、色再現性がある。通常、OLEDは、アノード、正孔輸送層(hole transport layer;HTL)、発光層(emission layer;EML)、電子輸送層(electron transport layer;ETL)およびカソードを備えており、これらが基板上に順番に積層されている。この点に関して、HTL、EMLおよびETLは、有機化合物および/または有機金属化合物から形成される薄膜である。
【0002】
アノードおよびカソードに電圧を印加すると、アノード電極から注入された正孔は、HTLを経由して、EMLに移動する。また、カソード電極から注入された電子は、ETLを経由して、EMLに移動する。正孔と電子とはEML中で再結合して、励起子を生成させる。励起子が励起状態から基底状態に落ちるとき、光が放射される。正孔および電子の注入および流動は、釣り合いが取れていなければならない。それゆえ、上述の構造を有しているOLEDは、優れた効率を有するのである。
【0003】
WO2016/050330A1およびWO2016/062368において、有機電子デバイスが開示されている。当該デバイスでは、ビスマス(Bi)‐カルボキシレート錯体が、p-ドーパント(p-dopants)として利用されている。p-ドーパントは、有機正孔輸送マトリクス材料と混合される。
【0004】
しかしながら、先行技術に開示されているデバイスは、動作電圧が高く、効率が不十分であるという問題がある。
【0005】
従って、本発明の目的は、先行技術の欠点を克服する電子デバイスおよびその作製方法を提供することである。具体的には、本発明の目的は、有機正孔輸送材料を備え、特にOLEDにおいて向上した性能(具体的には、動作電圧の低減および/または効率の向上)を有している電子デバイスを提供することである。
<発明の概要>
上述の目的は、第1の電極と第2の電極との間に少なくとも1つの正孔注入層および/または少なくとも1つの正孔発生層を備える電子デバイスであって、正孔注入層および/または正孔発生層は、ビスマスカルボキシレート錯体からなる、電子デバイスによって達成される。驚いたことに、本発明者らは、ビスマスカルボキレート錯体を何も混合されていない層(neat layer)(すなわち、正孔注入層および/または正孔発生層)として備えるデバイスは、有機マトリクス材料と混合された同じビスマスカルボキシレート錯体を備える類似のデバイスよりも、かなり良好に機能するということを見出した。
【0006】
ビスマスカルボキシレートは、電気的に中性であってもよい。これにより、電子デバイスを作製する間、具体的には真空熱蒸着(VTE)の間における取り扱いを容易とすることができる。
【0007】
ビスマスカルボキシレート錯体は、単核(mononuclear)である。単核錯体のそれぞれは、本発明の電子デバイスの作製の間、望ましい範囲の揮発性を示す。
【0008】
ビスマスカルボキシレート錯体におけるビスマスは、+III価の酸化状態であり得る。+III価の酸化状態のビスマスカルボキシレート錯体をそれぞれ用いることによって、デバイス性能を望ましくすることができる。
【0009】
ビスマスカルボキシレート錯体は、部分的に、または全部がフッ素化されたカルボキシレートアニオン(carboxylate anion)、および/または、少なくとも1つのニトリル基を含むカルボキシレートアニオンを含んでいてもよい。それぞれに置換されたカルボキシレートアニオンを用いることによって、本発明の正孔注入層/正孔発生層を有益な電気的状態とすることができる。
【0010】
ビスマスカルボキシレート錯体は、少なくとも1つの芳香族環および/または少なくとも1つの芳香族複素環を含み得る。芳香族/芳香族複素環カルボキシレートの選択のそれぞれは、本発明のビスマスカルボキシレート錯体の電気的状態を有益なものとしたり、処理特性(例えば揮発性および/または溶解性)を調整(tuning)可能としたりすることが可能である。
【0011】
ビスマスカルボキシレート錯体は、下記の式(I)によって表されてもよい。
【0012】
【0013】
式中、R1、R2、およびR3は、1から40の炭素原子を含む基(group)から、あるいは、2から30の炭素原子を含む基から、あるいは、3から20の炭素原子を含む基から、あるいは、4から16の炭素原子を含む基から、あるいは、5から12の炭素原子を含む基から独立して選択される。式中、(i)R1、R2、R3のそれぞれは、1つ以上のハロゲン原子および/または1つ以上のニトリル基と独立して置換されてもよく、および/または、(ii)2つ以上のR1、R2、およびR3は互いに連結し、環を形成してもよい。正孔注入層および/または正孔発生層において、式(I)のビスマスカルボキシレート錯体を用いる場合、そのような層を備えるデバイスにおいて望ましい動作電圧が達成され得る。
【0014】
少なくとも2つのR1、R2、およびR3は同じであってもよいし、他の例として、R1、R2、およびR3の全ては同じであってもよい。後者の実施形態は、そのような化合物は容易に合成され得るという観点から、特に有利である。
【0015】
少なくとも1つのR1、R2、およびR3は、少なくとも1つのトリフルオロメチル基を含んでもよい。ビスマスカルボキシレート錯体のカルボキシレート基におけるトリフルオロメチル基の利用は、ビスマスカルボキシレート錯体の電気的状態の調整に適している。
【0016】
少なくとも1つのR1、R2、およびR3は、少なくとも1つのトリフルオロメチル基によって置換されたフェニル基、および/または、少なくとも1つのニトリル基によって置換されたフェニル基であってもよい。フェニル基におけるトリフルオロメチル/ニトリル置換は、それぞれの化合物において電気的状態/エネルギー順位を調整することの他に、処理特性を調整するために好適な手段となり得る。
【0017】
少なくとも1つのR1、R2、およびR3は、ビス(トリフルオロメチル)フェニル基であってもよい。これらの化合物は、デバイス性能の向上のために特に好適であることが見出された。
【0018】
少なくとも1つのR1、R2、およびR3は、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基であってもよい。これらの化合物は、デバイス性能の向上のために特に好適である。
【0019】
ビスマスカルボキシレート錯体は、下記の化学式を有してもよい。
【0020】
【0021】
本発明の電子デバイス性能に対する最良の結果は、それらの錯体を用いて達成された。
【0022】
電子デバイスは、ビスマスカルボキシレート錯体からなる正孔注入層および/または正孔発生層と直接接する正孔輸送層をさらに備えてもよい。電子デバイスのそのような配置において、驚くべきことに、脱ドープされた正孔輸送マトリクス材料からなる単純な正孔輸送層によって、良好なデバイス性能が達成され得る。
【0023】
上述の目的は、本発明のデバイスの作製方法であって、(i)蒸気を形成するためにビスマスカルボキシレート錯体を気化させるステップと、(ii)正孔注入層および/または正孔発生層を形成するために蒸気を固体支持体に堆積(deposit)させるステップと、を含む作製方法によってさらに達成される。ビスマスカルボキシレート錯体を用いてドープされた正孔注入層を備える最先端の(State-of-art)デバイスは、2つのコンポーネントの共蒸着(co-deposition)ステップを含む処理を必要とする。このことは、処理再現性の観点から好ましくなく、および/または材料の選択において望まれていない制約をもたらす。これらの処理と比較して、本発明の処理はロバスト(robust)であり、隣接した正孔輸送層のための材料の選択における自由度のみならず、ビスマスカルボキシレート錯体の選択における付加的な自由度をも提供する。
【0024】
ステップ(i)における気化は、温度上昇および/または減圧によって実行され得る。この実施形態は、処理状態を、選択された材料の処理特性に合わせるために有利であり得る。
【0025】
固体支持体は、前もって堆積された層であってもよい。具体的には、固体支持体は、アノード、電子発生層、および/または、該電子発生層のトップ(top)に堆積された中間層であってもよい。
【0026】
方法は、ステップ(ii)において形成された正孔注入層および/または正孔発生層のトップに正孔輸送層を形成する、さらなるステップを含み得る。これにより、性能が向上した発明の電子デバイスを減少した労力で作製することができる。
<さらなる層>
本発明に係る電子デバイスは、既に上述された各層に加え、さらなる層を備え得る。それぞれの層の例示的な実施形態は、下記において記載される。
【0027】
[基板]
基板は、有機発光ダイオードのような電子デバイスの製造において通常使用される任意の基板であってもよい。光が基板を通して放射される場合、当該基板は、透明もしくは半透明な材料(例えば、ガラス基板または透明プラスチック基板)である。光がトップ側の表面から放射される場合、基板は透明材料であってもよく、同様に、不透明材料(例えば、ガラス基板、プラスチック基板、金属基板またはシリコン基板)の両方ともであってもよい。
【0028】
[アノード電極]
第一の電極または第二の電極は、アノード電極であってもよい。アノード電極は、当該アノード電極の形成に使用する材料を、成膜するか、あるいはスパッタリングすることによって形成してもよい。アノード電極の形成に使用する材料は、仕事関数の大きい材料であってもよい。これによって、正孔の注入が促進される。また、アノードの材料は、仕事関数の小さい物質(すなわち、アルミニウム)から選択してもよい。アノード電極は、透明電極であっても反射電極であってもよい。透明導電性酸化物(酸化インジウムスズ(ITO)、酸化インジウム亜鉛(IZO)、二酸化スズ(SnO2)、酸化アルミニウム亜鉛(AlZO)、および酸化亜鉛(ZnO)など)を用いて、アノード電極を形成してもよい。アノード電極は、金属、典型的には、銀(Ag)、金(Au)、または金属合金などを用いて形成してもよい。
【0029】
[正孔注入層]
本発明に係る正孔注入層は、ビスマスカルボキシレート錯体からなるものであってもよい。しかしながら、本発明は、電子デバイスが正孔注入層と正孔発生層との両方を備える実施形態にも関する。この場合、正孔発生層のみがビスマスカルボキシレート錯体からなるものであり得る。そのような実施形態において、正孔注入層の材料は、下記に示すような代替材料であってもよい。真空蒸着、スピンコーティング、印刷、キャスティング、スロットダイコーティング、ラングミュア‐ブロジェット(LB)堆積などによって、正孔注入層(HIL)をアノード電極上に形成してもよい。HILを真空蒸着によって形成する場合、蒸着条件は、HILの形成に用いる化合物、ならびにHILの所望の構造および熱特性によって異なりうる。しかし、一般的には、真空蒸着の条件としては、例えば、堆積温度:100℃~500℃、圧力:10-8~10-3Torr(1Torrは133.322Paに相当)、堆積速度:0.1~10nm/秒でありうる。
【0030】
HILをスピンコーティングまたは印刷によって形成する場合、塗工条件は、HILの形成に用いる当該化合物、ならびにHILの所望の構造および熱特性によって異なりうる。塗工条件としては、例えば、塗工速度:約2000rpm~約5000rpm、熱処理温度:約80℃~約200℃でありうる。塗工後の熱処理によって、溶媒が除去される。
【0031】
HILは、電子デバイスが正孔注入層に加えて正孔発生層を備え、正孔発生層はビスマスカルボキシレート錯体からなる場合、HILの形成において通常使用される任意の化合物によって形成することができる。HILの形成に用いられうる化合物の例としては、以下が挙げられる:フタロシアニン化合物(銅フタロシアニン(CuPc)など)、4,4’,4''-トリス(3-メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、TDATA、2T-NATA、ポリアニリン/ドデシルベンゼンスルホン酸(Pani/DBSA)、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)/ポリ(4-スチレンスルホナート)(PEDOT/PSS)、ポリアニリン/カンファースルホン酸(Pani/CSA)、およびポリアニリン/ポリ(4-スチレンスルホナート)(PANI/PSS)。
【0032】
そのような場合、HILは、純粋なp型ドーパントの層であってもよいし、p型ドーパントでドープされている正孔輸送マトリクス化合物から選択されてもよい。公知の酸化還元ドープされている正孔輸送材料の典型例としては、以下が挙げられる:テトラフルオロ-テトラシアノキノンジメタン(F4TCNQ;LUMO準位:約-5.2eV)でドープされている、銅フタロシアニン(CuPc;HOMO準位:約-5.2eV);F4TCNQでドープされている、亜鉛フタロシアニン(ZnPc;HOMO=-5.2eV);F4TCNQでドープされている、α-NPD(N,N’-ビス(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ビス(フェニル)-ベンジジン);2,2’-(ペルフルオロナフタレン-2,6-ジイリデン)ジマロノニトリル(PD1)でドープされている、α-NPD;2,2’,2''-(シクロプロパン-1,2,3-トリイリデン)トリス(2-(p-シアノテトラフルオロフェニル)アセトニトリル)(PD2)でドープされている、α-NPD。ドーパント濃度は、1重量%~20重量%から選択でき、より好ましくは3重量%~10重量%である。
【0033】
HILの厚さは、約1nmから約100nmの範囲であってもよい(例えば、約1nmから約25nmであってもよい)。HILの厚さが上記範囲内にある場合、HILは、駆動電圧における実質的なペナルティ(penalty)なしに、優れた正孔注入特性を発揮しうる。
【0034】
[正孔輸送層]
真空蒸着、スピンコーティング、スロットダイコーティング、印刷、キャスティング、ラングミュア‐ブロジェット(LB)堆積などによって、正孔輸送層(HTL)をHILの上に形成してもよい。HTLを真空蒸着またはスピンコーティングによって形成する場合、蒸着条件および塗工条件は、HILを形成するための条件と類似していてもよい。しかし、真空蒸着または溶液堆積の条件は、HTLの形成に用いる化合物によって異なりうる。
【0035】
HTLは、HTLの形成に通常使用される任意の化合物から形成されうる。好適に用いられる化合物は、例えば、[Yasuhiko Shirota and Hiroshi Kageyama, Chem. Rev. 2007, 107, 953-1010]に開示されている(参照により援用される)。HTLの形成に用いることのできる化合物の例としては、以下が挙げられる:カルバゾール誘導体(N-フェニルカルバゾールまたはポリビニルカルバゾールなど);ベンジジン誘導体(N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-N,N’-ジフェニル-[1,1-ビフェニル]-4,4’-ジアミン(TPD)、またはN,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N’-ジフェニルベンジジン(α-NPD)など);および、トリフェニルアミン系化合物(4,4’,4''-トリス(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(TCTA)など)。これらの化合物の中でもTCTAは、正孔を輸送することができ、さらに励起子のEML中への拡散を防止することができる。
【0036】
HTLの厚さは、約5nm~約250nmの範囲であってよく、好ましくは約10nm~約200nmであり、さらに好ましくは約20nm~約190nmであり、さらに好ましくは約40nm~約180nmであり、さらに好ましくは約60nm~約170nmであり、さらに好ましくは約80nm~約160nmであり、さらに好ましくは約100nm~約160nmであり、さらに好ましくは約120nm~約140nmである。HTLの好適な厚さは、170nm~200nmでありうる。
【0037】
HTLの厚さが上記の範囲内であれば、当該HTLは、駆動電圧における実質的なペナルティなしに、優れた正孔輸送特性を発揮しうる。
【0038】
[電子遮断層]
電子遮断層(EBL)の機能は、電子が発光層から正孔輸送層へと移動することを阻止し、それにより、電子を発光層内に閉じ込めることにある。これにより、効率、動作電圧、および/または寿命が向上する。一般的に、電子遮断層はトリアリールアミン化合物を含む。トリアリールアミン化合物のLUMO準位は、正孔輸送層のLUMO準位と比較して、真空レベルにより近くてもよい。電子遮断層のHOMO準位は、正孔輸送層のHOMO準位と比較して、真空レベルからよりかけ離れていてもよい。電子遮断層の厚さは、2nm~20nmの間から選択され得る。
【0039】
電子遮断層は、下記式Zの化合物(Z)を含む。
【0040】
【0041】
式Zにおいて、CY1およびCY2は互いに同一かまたは異なっており、それぞれ個別にベンゼン環(a benzene cycle)またはナフタレン環(a naphthalene cycle)を示し、Ar1~Ar3は互いに同一かまたは異なっており、水素;6個~30個の炭素原子を有する置換または非置換アリール基;および5個~30個の炭素原子を有する置換または非置換ヘテロアリール基からなる群からそれぞれ個別に選択され、Ar4は、置換または非置換フェニル基、置換または非置換ビフェニル基、置換または非置換テルフェニル基、置換または非置換トリフェニレン基、および5個~30個の炭素原子を有する置換または非置換ヘテロアリール基からなる群から選択され、Lは、6個~30個の炭素原子を有する置換または非置換アリーレン基である。
【0042】
電子遮断層が高三重項準位を有する場合、当該層は、三重項制御層と称されることもある。
【0043】
三重項制御層の機能は、燐光性緑色または青色発光層が使用された場合に、三重項の消失を低減することにある。これにより、燐光性発光層からの発光効率が向上する。三重項制御層は、隣接する発光層における燐光性発光体の三重項準位を上回る三重項準位を有するトリアリールアミン化合物から選択される。三重項制御層に好適な化合物、特に、トリアリールアミン化合物については、EP2722908A1に記載されている。
【0044】
[発光層(EML)]
EMLは、真空蒸着、スピンコーティング、スロットダイコーティング、印刷、キャスティング、LB堆積などによって、HTLの上に形成されてもよい。EMLを真空蒸着またはスピンコーティングによって形成する場合、蒸着条件および塗工条件は、HILを形成するための条件と類似していてもよい。しかし、蒸着条件または塗工条件は、EMLの形成に用いる化合物によって異なりうる。
【0045】
発光層(EML)は、ホストと発光体ドーパントとの組み合わせによって形成されていてもよい。ホストの例としては、以下が挙げられる:Alq3、4,4’-N,N’-ジカルバゾール-ビフェニル(CBP)、ポリ(n-ビニルカルバゾール)(PVK)、9,10-ジ(ナフタレン-2-イル)アントラセン(ADN)、4,4’,4''-トリス(カルバゾール-9-イル)-トリフェニルアミン(TCTA)、1,3,5-トリス(N-フェニルベンゾイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBI)、3-tert-ブチル-9,10-ジ-2-ナフチルアントラセン(TBADN)、ジスチリルアリーレン(DSA)、ビス(2-(2-ヒドロキシフェニル)ベンゾ-チアゾラート)亜鉛(Zn(BTZ)2)、下記G3、AND、下記化合物1および下記化合物2。
【0046】
【0047】
発光体ドーパントは、燐光性発光体であっても蛍光性発光体であってもよい。燐光性発光体および熱活性遅延蛍光(TADF)メカニズムによって発光するエミッターは効率が高いため、好まれ得る。エミッターは、低分子であっても高分子であってもよい。
【0048】
赤色発光体ドーパントの例としてはPtOEP、Ir(piq)3およびBtp2lr(acac)が挙げられるが、これらに限定されない。これらの化合物は燐光性発光体であるが、蛍光性赤色発光体ドーパントを用いることもできる。
【0049】
【0050】
燐光性緑色発光体ドーパントの例としては、Ir(ppy)3、Ir(ppy)2(acac)、Ir(mpyp)3が挙げられる(下記参照。ppyはフェニルピリジン)。蛍光性緑色発光体の例としては、化合物3がある(構造は下記参照)。
【0051】
【0052】
【0053】
燐光性青色発光体ドーパントの例としては、F2Irpic、(F2ppy)2Ir(tmd)およびIr(dfppz)3、ter-フルオレンが挙げられる(構造は下記参照)。蛍光性青色発光体ドーパントの例としては、4,4’-ビス(4-ジフェニルアミノスチリル)ビフェニル(4.4'-bis(4-diphenyl amiostyryl)biphenyl;DPAVBi)、2,5,8,11-テトラ-tert-ブチルペリレン(TBPe)および下記化合物4がある。
【0054】
【0055】
【0056】
発光体ドーパントの量は、ホストを100重量部として、約0.01から50重量部の範囲であってもよい。他の例として、発光層は発光性高分子からなるものであってもよい。EMLの厚さは、約10nmから約100nmであってもよい(例えば、約20nm~約60nm)。EMLの厚さが上記の範囲内であれば、当該EMLは、駆動電圧における実質的なペナルティなしに、優れた発光を有し得る。
[正孔遮断層]
真空蒸着、スピンコーティング、スロットダイコーティング、印刷、キャスティング、LB堆積などによって、正孔遮断層(HBL)をEMLの上に形成してもよい。この層によって、正孔がETL内へと拡散することを防止することができる。EMLが燐光性ドーパントを含んでいる場合、HBLは、三重項励起子の遮断機能(blocking function)も有していてもよい。
【0057】
HBLを真空蒸着またはスピンコーティングによって形成する場合、蒸着条件および塗工条件は、HILを形成するための条件と類似していてもよい。しかし、蒸着または塗工の条件は、HBLの形成に用いる化合物によって異なりうる。HBLの形成に通常使用される、任意の化合物を用いてよい。HBLの形成に用いられる化合物の例としては、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体およびフェナントロリン誘導体が挙げられる。
【0058】
HBLの厚さは、約5nmから約100nmの範囲である(例えば、約10nmから約30nm)。HBLの厚さが上記の範囲内であれば、当該HBLは、駆動電圧における実質的なペナルティなしに、優れた正孔遮断特性を発揮しうる。
【0059】
[電子輸送層(ETL)]
本発明に係るOLEDは、電子輸送層(ETL)を含み得る。
【0060】
様々な実施形態に係るOLEDは、電子輸送層、または電子輸送層積層(stack)であって、少なくとも1つの第1の電子輸送層および少なくとも1つの第2電子輸送層を備える電子輸送層積層、を備える。
【0061】
ETLの特定の層のエネルギー順位を好適に調整することにより、電子の注入および輸送は制御され得、正孔は効率的に遮断され得る。したがって、OLEDは長い寿命を有する。
【0062】
電子デバイスの電子輸送層は、有機電子輸送マトリクス(ETM)材料を含み得る。さらに、電子輸送層は、1つ以上のn-ドーパントを含み得る。ETMのための好適な化合物は特に制限されない。1つの実施形態において、電子輸送マトリクス化合物は、共有結合された原子からなる。好ましくは、電子輸送マトリクス化合物は、少なくとも6、より好ましくは少なくとも10の非局在化電子の共役系を含む。1つの実施形態において、非局在化電子の共役系は、例えば欧州特許文書EP1970371A1またはWO2013/079217A1において開示されたように、芳香族または芳香族複素環構造部分(moieties)において含まれ得る。
【0063】
[電子注入層(EIL)]
カソードからの電子の注入を促進可能な任意のEILは、ETL上に形成されてもよく、好ましくは、電子輸送層の上に直接形成されてもよい。EILを形成するための材料の例としては、当該技術分野で知られているリチウム8-ヒドロキシキノリノレート(LiQ)、LiF、NaCl、CsF、Li2O、BaO、Ca、Ba、Yb、Mgが挙げられる。EILを形成するための蒸着および塗工の条件は、EILの形成に使用される材料によって変わりうるものの、HILの形成用の条件と同様である。
【0064】
EILの厚さは、約0.1nmから約10nmの範囲であってもよい(例えば、0.5nmから約9nmの範囲)。EILの厚さが上記の範囲内であれば、当該EILは、駆動電圧における実質的なペナルティなしに、十分な電子注入特性を発揮しうる。
【0065】
[カソード電極]
カソード電極は、EILが設けられている場合、EILの上に形成される。カソード電極は、金属、合金、導電性化合物、またはこれらの混合物から形成されていてもよい。カソード電極の仕事関数は、小さくてもよい。例えば、カソード電極は、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、アルミニウム(Al)-リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)、イッテルビウム(Yb)、マグネシウム(Mg)-インジウム(In)、マグネシウム(Mg)-銀(Ag)などから形成されてもよい。他の例として、カソード電極は、透明導電性金属(ITOまたはIZOなど)から形成されていてもよい。
【0066】
カソード電極の厚さは、約5nmから約1000nmの範囲であってもよい(例えば、約10nmから約100nmの範囲)。カソード電極の厚さが約5nmから約50nmの範囲にある場合、金属または金属合金から形成された場合であっても、カソード電極は透明または半透明であり得る。
【0067】
カソード電極は、電子注入層または電子輸送層の一部ではないことが理解されよう。
【0068】
[電荷発生層/正孔発生層]
電荷発生層(CGL)は、二重の層からなり得る。
【0069】
典型的には、電荷発生層(CGL)は、n型電荷発生層(電子発生層)と正孔発生層とを接合しているpn接合(pn junction)である。pn接合のn側は、電子を発生させ、それらをアノードの方向において隣接する層の中へと注入する。類似して、pn接合のp側は、正孔を発生させ、それらをカソードの方向において隣接する層へと注入する。
【0070】
電荷発生層は、タンデム(tandem)デバイスにおいて、例えば、2つの電極の間に2つ以上の発光層を備えるタンデムOLEDにおいて用いられる。2つの発光層を備えるタンデムOLEDにおいて、n型電荷発生層は、アノードの近傍に配された第1の光発光層に対して電子を提供し、一方、正孔発生層は、第1の発光層とカソードとの間に配される第2の光発光層へ正孔を提供する。
【0071】
本発明によれば、電子デバイスは、正孔注入層と同様に正孔発生層を備え得る。正孔注入層がビスマスカルボキレート錯体からなる場合、正孔発生層もまたビスマスカルボキシレート錯体からなることが必須ではない。そのような場合、正孔発生層は、p型ドーパントを用いてドープされた有機マトリクス材料からなり得る。正孔発生層のための好適なマトリクス材料は、正孔注入マトリクス材料および/または正孔輸送マトリクス材料として従来から利用される材料であってもよい。また、p型によってドープされた正孔発生層用のp型ドーパントとしては、従来の材料を使用してもよい。例えば、p型ドーパントは、テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、テトラシアノキノジメタンの誘導体、ラジアレン誘導体、ヨウ素、FeCl3、FeF3、およびSbCl5からなる群から選択される1つであってもよい。また、ホストは、N,N’-ジ(ナフタレン-1-イル)-N,N-ジフェニル-ベンジジン(NPB)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD)、およびN,N’,N’-テトラナフチル-ベンジジン(TNB)からなる群から選択される1つであってもよい。
【0072】
好ましい実施形態において、正孔発生層は、式(I)の化合物からなる。
【0073】
n型電荷発生層は、何も混合されていないn-ドーパント、例えば電子陽性の金属の層であり得、または、n-ドーパントを用いてドープされた有機マトリクス材料からなり得る。1つの実施形態において、n型ドーパントは、アルカリ金属、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属、またはアルカリ土類金属化合物であり得る。別の実施形態において、金属は、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Sr、Ba、La、Ce、Sm、Eu、Tb、Dy、およびYb、からなるグループから選択された金属であり得る。より具体的には、n型ドーパントは、Cs、K、Rb、Mg、Na、Ca、Sr、Eu、およびYbからなるグループから選択されたドーパントであり得る。電子発生層のための好適なマトリクス材料は、電子注入層または電子輸送層のためのマトリクス材料として従来から使用される材料であってもよい。マトリクス材料は、例えば、トリアジン化合物、トリス(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウムのようなヒドロキシキノリン誘導体、ベンザゾール(benzazole)誘導体、およびシロール誘導体、からなるグループから選択された材料であり得る。1つの実施形態において、n型電荷発生層は、下記の化学式10の化合物を含み得る。
【0074】
【0075】
ここで、A1~A6のそれぞれは、水素、ハロゲン原子、ニトリル(-CN)、ニトロ(-NO2)、スルホニル(-SO2R)、スルホキシド(-SOR)、スルホンアミド(-SO2NR)、スルホナート(-SO3R)、トリフルオロメチル(-CF3)、エステル(-COOR)、アミド(-CONHRまたは-CONRR’)、置換または非置換の直鎖または分枝鎖C1~C12アルコキシ、置換または非置換の直鎖または分枝鎖C1~C12アルキル、置換または非置換の直鎖または分枝鎖C2~C12アルケニル、置換または非置換の芳香族または非芳香族複素環、置換または非置換アリール、置換または非置換モノアリールアミンまたはジアリールアミン、置換または非置換アラルキルアミン、などである。本明細書において、上記のRおよびR’のそれぞれは、置換もしくは非置換C1~C60アルキル、置換もしくは非置換アリール、または置換もしくは非置換5員~7員複素環、などであってもよい。
【0076】
そのようなn型電荷発生層の一例は、CNHATを備える層である。
【0077】
【0078】
正孔発生層は、n型電荷発生層のトップに配置される。
【0079】
[有機発光ダイオード(OLED)]
本発明の一態様によれば、基板;基板上に形成されたアノード電極;正孔注入層、正孔輸送層、発光層、およびカソード電極を備えた有機発光ダイオード(OLED)が提供される。
【0080】
本発明の他の態様によれば、基板;基板上に形成されたアノード電極;正孔注入層、正孔輸送層、電子遮断層、発光層、正孔遮断層、およびカソード電極を備えたOLEDが提供される。
【0081】
本発明の他の態様によれば、基板;基板上に形成されたアノード電極;正孔注入層、正孔輸送層、電子遮断層、発光層、正孔遮断層、電子輸送層、およびカソード電極を備えたOLEDが提供される。
【0082】
本発明の他の態様によれば、基板;基板上に形成されたアノード電極;正孔注入層、正孔輸送層、電子遮断層、発光層、正孔遮断層、電子輸送層、電子注入層、およびカソード電極を備えたOLEDが提供される。
【0083】
本発明の様々な実施形態によれば、基板またはトップ電極上に、上述の各層の間に配置されたOLEDの各層が提供され得る。
【0084】
一態様によれば、OLEDは、アノード電極に隣接して配置された層構造の基板を有し、アノード電極は第1正孔注入層に隣接して配置されており、第1正孔注入層は第1正孔輸送層に隣接して配置されており、第1正孔輸送層は第1電子遮断層に隣接して配置されており、第1電子遮断層は第1発光層に隣接して配置されており、第1発光層は第1電子輸送層に隣接して配置されており、第1電子輸送層はn型電荷発生層に隣接して配置されており、n型電荷発生層は正孔発生層に隣接して配置されており、正孔発生層は第2正孔輸送層に隣接して配置されており、第2正孔輸送層は第2電子遮断層に隣接して配置されており、第2電子遮断層は第2発光層に隣接して配置されており、第2発光層およびカソード電極の間には、任意に電子輸送層および/または任意に電子注入層が設けられている。
【0085】
例えば、
図2に係るOLEDは、基板(110)上にアノード(120)、正孔注入層(130)、正孔輸送層(140)、電子遮断層(145)、発光層(150)、電子遮断層(155)、電子輸送層(160)、電子注入層(180)、およびカソード電極をこの順に形成する処理によって形成され得る。
<本発明の詳細および定義>
本発明は、電子デバイスに関する。前記デバイスは、第1の電極と、第2の電極と、を備える。第1の電極と第2の電極との間に、少なくとも1つの正孔注入層および/または少なくとも1つの正孔発生層が配置される。つまり、電子デバイスは、第1の電極と第2の電極との間に、正孔注入層のみを備え得る。同様に、本発明の電子デバイスは、第1の電極と第2の電極との間に、正孔発生層のみを備え得る。同様に、本発明の電子デバイスは、第1の電極と第2の電極との間に、正孔注入層と、正孔発生層との両方を備え得る。電子デバイスが、正孔注入層を備えるのみの場合(および、正孔発生層を備えない場合)、正孔注入層は、ビスマスカルボキシレート錯体からなるものとする。同様に、電子デバイスが正孔発生層を備えるのみの場合(および、正孔注入層を備えない場合)、正孔発生層は、ビスマスカルボキシレート錯体からなるものとする。電子デバイスが正孔注入層と、正孔発生層との量を備える場合、正孔注入層のみがビスマスカルボキシレート錯体からなるものとしてもよいし、正孔発生層のみがビスマスカルボキシレート錯体からなるものとしてもよく、また、正孔注入層と正孔発生層との両方がビスマスカルボキシレート錯体からなるものとしてもよい。
【0086】
ビスマスカルボキシレート錯体からなる正孔注入層および/または電荷発生層に対して、本明細書中で使用される「からなる(consisting of)」という用語は、ビスマスカルボキシレート錯体のみが前述の層の作製のために使用されると理解されるべきである。しかしながら、「からなる(consisting of)」という用語は、適切な技術的手段によって回避することができない少量の不純物の存在を排除しない。さらに、「からなる(consisting of)」という用語は、ビスマスカルボキシレート錯体まで直接出所を追跡(traced back)できる副産物であって、真空昇華法のように当該技術分野で知られている既知の手法により何も混合されていないビスマスカルボキシレート錯体を用いた正孔注入層の形成の間に形成され得る副産物を排除しない。具体的には、この意味で用いられる場合の「からなる(consisting of)」という用語は、正孔生成層の形成の間に形成される分解生成物、またはビスマスカルボキシレート錯体の異性体の存在を排除しない。
【0087】
本発明の観点において、ビスマスカルボキシレート錯体は、少なくとも1つのビスマスイオンまたは原子と、ビスマスイオンに結合する少なくとも1つのカルボキシレート基を含む。カルボキシレート基は、一般的な化学式R-COO-(上述の定義のように、Rは、R1、R2、およびR3であり得る)を有する有機構造部分である。
【0088】
本発明の観点において、ビスマスイオンの(正の)電荷が、カルボキシレート化合物を含む、結合したリガンドの負の電荷によって釣り合いが取れている場合、ビスマスカルボキシレート錯体は電気的に中性である。
【0089】
本発明の観点において、ビスマスカルボキシレート錯体は、1つのビスマス原子またはイオンのみを含む場合、単核である。
【0090】
カルボキシレートアニオンにおける基Rは、アルキル基、アリール基、アルキルアリール基などの、置換された、または非置換の有機基である。
【0091】
部分Rにおいて含まれるカルボキシレートアニオンの少なくとも1つの水素原子は、フッ素原子によって置換されている場合、カルボキシレートアニオンは、部分的にフッ化されているとみなされる。それらの水素の全てがフッ素原子によって置換されているならば、カルボキシレートアニオンは、完全にフッ化されているとみなされる。一般的に、上述の基R(それぞれR1、R2、およびR3)は、炭素含有基である。
【0092】
本明細書中で使用される場合の「炭素含有基」という用語は、炭素原子を含む任意の有機基、具体的にはアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、ヘテロアルキル基を包含すると理解されるべきであり、具体的には、ヒドロカルビル基(hydrocarbyl)、シアノ基、ヘテロアリール基など、有機エレクトロニクスにおいて通常置換基であるような基である。
【0093】
本明細書中で用いられる「アルキル」という用語は、直鎖状アルキルに加えて、分枝鎖状アルキルおよび環状アルキルを包含する。例えば、C3-アルキルは、n-プロピルおよびイソプロピルから選択されてもよい。同様に、C4-アルキルは、n-ブチル、sec-ブチル、およびtert-ブチルを包含する。同様に、C6-アルキルは、n-ヘキシルおよびシクロ-ヘキシルを包含する。
【0094】
Cnにおける下付き数字nは、アルキル基、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、またはアリール基のそれぞれにおける炭素原子の総数に関連する。
【0095】
本明細書中で用いられる「アリール」という用語は、フェニル(C6-アリール)、およびナフタレン、アントラセン、フェナントラセン、テトラセンなどの縮合芳香族を包含する。さらに、ビフェニル、ならびにオリゴフェニルまたはポリフェニル(テルフェニルなど)を包含する。さらに、フルオレニルなどのさらなる芳香族炭化水素置換基も包含する。アリーレン、ヘテロアリーレンはそれぞれ、さらに2個の部分が結合される基を示す。
【0096】
本明細書中で用いられる「ヘテロアリール」という用語は、少なくとも1つの炭素原子がヘテロ原子、好ましくはN、O、S、B、またはSiから選択される原子に置換されているアリール基を指す。
【0097】
Cn-ヘテロアリールにおける下付き数字nは、単に、ヘテロ原子数を除く炭素原子数を指す。本文脈において、C3ヘテロアリーレン基が、ピラゾール、イミダゾール、オキサゾール、チアゾールなどの、3個の炭素原子を含む芳香族化合物であることは明らかである。
【0098】
本発明の観点において、1つの層が他の2つの層の間にあることについての「~の間("between")」という表現は、1つの層と他の2つの層のうちの1つとの間に配置され得る、さらなる層の存在を排除しない。
【0099】
本発明の観点において、2つの層が互いに直接接していることについての「直接接して("in direct contact")」という表現は、それらの2つの層の間にさらなる層が配置されないことを意味している。別の層のトップに堆積された1つの層は、この層と直接接していると見なされる。
【0100】
本発明の化合物だけでなく、本発明の有機半導電層に関しても、実験パートに記載の化合物が最も好ましい。
【0101】
本発明の電子デバイスは、有機電気ルミネセンスデバイス(OLED)、有機光起電力デバイス、または有機電界効果トランジスタであり得る。
【0102】
他の態様によると、本発明に係る有機ELデバイスは、2つ以上の発光層を備えていてもよく、好ましくは2つまたは3つの発光層を備えている。複数の発光層を備えるOLEDは、タンデムOLEDまたは積層OLEDとも称される。
【0103】
有機ELデバイス(OLED)は、ボトム・エミッション型デバイスであっても、トップ・エミッション型デバイスであってもよい。
【0104】
他の態様は、少なくとも1つの有機ELデバイス(OLED)を備えているデバイスに関する。有機発光ダイオードを備えるデバイスとしては、例えば、ディスプレイまたは照明パネルが挙げられる。
【0105】
本発明において、下記に定義された用語は、特許請求の範囲または本明細書中の他の箇所において異なる定義が与えられていない限り、これらの定義が適用される。
【0106】
本明細書に関して、マトリクス材料に関連して用いられる用語「異なっている(different)」または「異なる(differs)」は、マトリクス材料が構造式において異なっていることを意味する。
【0107】
占有された最も高い分子軌道のエネルギー準位、は、HOMOとも称され、占有されない分子軌道の最も低いエネルギー準位は、LUMOとも称され、電子ボルト(eV)単位で計測される。
【0108】
「OLED」および「有機光発光ダイオード」という用語は、同時に使用され、同一の意味を有する。本明細書中で用いられる「有機エレクトロルミネセンス(organic electroluminescent)デバイス」という用語は、有機光発光ダイオードと有機光発光トランジスタ(OLET)とを同様に含む。
【0109】
本明細書中で用いられるとき、「重量パーセント("weight percent", "wt.-%", "percent by weight", "% by weight")」およびそれらの変化形は、組成、成分、物質または薬品に関して、各電子輸送層における当該成分、物質または薬品の重量を、当該各電子輸送層自体の総重量で除し、100を乗じたものを表す。各電子輸送層および電子注入層における、全ての成分、物質および薬品の重量パーセントの値の合計は、100重量%を超過しないように選択されることがわかる。
【0110】
本明細書中で用いられるとき、「体積パーセント("volume percent", "vol.-%", "percent by volume", "% by volume")」およびそれらの変化形は、組成、成分、物質または薬品に関して、各電子輸送層における当該成分、物質または薬品の体積を、当該各電子輸送層自体の総体積で除し、100を乗じたものを表す。カソード層における、全ての成分、物質および薬品の体積パーセントの値の合計は、100体積%を超過しないように選択されることがわかる。
【0111】
本明細書において、全ての数値は、明示的であるか否かにかかわらず、用語「約」によって修飾されていると見做される。本明細書中で用いられるとき、用語「約」は、数量に生じうる変化を表す。用語「約」による修飾の有無にかかわらず、特許請求の範囲には量的な均等物が包含される。
【0112】
本明細書および添付の特許請求の範囲においては、明白にそうでない場合を除いて、単数形("a", "an", "the")には複数の対象も包含されることに注意されたい。
【0113】
用語「~を含んでいない("free of", "does not contain", "does not comprise")」は、不純物を除外するものではない。本発明によって達成される目的に関して、不純物は何らの技術的影響を与えない。
<図面の簡単な説明>
添付の図面を参照した下記の例示的実施形態の記載によれば、本発明の上述の態様および/または他の態様、ならびに本発明の利点が明白となり、また容易に理解されるであろう。
【0114】
図1は、本発明の例示的実施形態に係る有機発光ダイオード(OLED)の模式断面図である。
【0115】
図2は、本発明の例示的実施形態に係るOLEDの模式断面図である。
【0116】
図3は、本発明の例示的実施形態に係る、電荷発生層を備えるタンデムOLEDの模式断面図である。
【0117】
図4は、実施例1に係る青色OLEDの電流電圧(IV)-曲線を示す図である。
【0118】
図5は、実施例2に係る青色タンデムOLEDの電流電圧-曲線を示す図である。
<発明を実施するための形態>
これから、本発明の例示的実施形態(添付の図面に図示されている実施例)について詳細に言及する。同図面中、類似した参照番号は類似した要素を表している。本発明の態様を説明するために、図を参照しながら、以下に例示的実施形態を記載する。
【0119】
ここで、「第1の要素は第2の要素の『上に』形成または設けられている」と表現されている場合、第1の要素が第2の要素の上に直接設けられていてもよいし、その間に1つ以上の他の要素が設けられていてもよい。「第1の要素は第2の要素の『上に直接』形成または設けられている」と表現されている場合、その間に他の要素が設けられていることはない。
【0120】
図1は、本発明の例示的実施形態に係る有機発光ダイオード(OLED)100の模式断面図である。OLED100は、基板110、アノード120、正孔注入層(HIL)130、正孔輸送層(HTL)140、発光層(EML)150、電子輸送層(ETL)160を備えている。電子輸送層(ETL)160は、EML150上に直接形成される。電子輸送層(ETL)160上には、電子注入層(EIL)180が設けられている。カソード190は、電子注入層(EIL)180上に直接設けられている。
【0121】
1つの電子輸送層160の代わりに、任意に、電子輸送層積層体(ETL)を用いてもよい。
【0122】
図2は、本発明の他の例示的実施形態に係るOLED100の模式断面図である。
図2のOLED100は電子遮断層(EBL)145および正孔遮断層(HBL)155を含む点で、
図2は
図1とは異なる。
【0123】
図2を参照すると、OLED100は、基板110、アノード120、正孔注入層(HIL)130、正孔輸送層(HTL)140、電子遮断層(EBL)145、発光層(EML)150、正孔遮断層(HBL)155、電子輸送層(ETL)160、電子注入層(EIL)180、およびカソード電極190を備えている。
【0124】
図3は、本発明の他の例示的実施形態に係るタンデムOLED200の模式断面図である。
図3のOLED100はさらに電荷発生層および第2発光層を備える点で、
図3は
図2とは異なる。
【0125】
図3を参照すると、OLED200は、基板110、アノード120、第1正孔注入層(HIL)130、第1正孔輸送層(HTL)140、第1電子遮断層(EBL)145、第1発光層(EML)150、第1正孔遮断層(HBL)155、第1電子輸送層(ETL)160、n型電荷発生層(n型CGL)185、正孔発生層(p型電荷発生層;p型GCL)135、第2正孔輸送層(HTL)141、第2電子遮断層(EBL)146、第2発光層(EML)151、第2正孔遮断層(EBL)156、第2電子輸送層(ETL)161、第2電子注入層(EIL)181、およびカソード190を備えている。
【0126】
図1、
図2、
図3には示されていないが、OLED100および200を封止するために、カソード電極190上に封止層をさらに形成してもよい。さらに、上述の実施形態に様々な他の変更を適用してもよい。
【0127】
以降、本発明の1つ以上の例示的実施形態を、以下の実施例を参照しながら詳細に記載する。しかし、これらの実施例は、本発明の1つ以上の例示的実施形態の目的および範囲を限定することを意図するものではない。
【0128】
<実施例>
<包括的手順>
本発明に係る正孔注入層および/または正孔発生層を備える有機電子デバイスの技術的利益を明らかにするため、2つの発光層を有するOLEDが作製された。概念実証として、タンデムOLEDは2つの青色発光層を備えた。
【0129】
90nmのITO(Corning社から市販されている)を有する15Ω/cm2のガラス基板は、第1の電極を作製するために、150mm×150mm×0.7mmの寸法へと切断され、イソプロピルアルコールを用いて5分間、次に純水を用いて5分間超音波的に洗浄され、UVオゾンを用いて30分間再度洗浄された。
【0130】
各有機層はITO層上に10-7mbarで連続して堆積される(成分と層の厚さについては表1および2参照)。表1から3において、cは濃度を表し、dは層の厚さを表している。
【0131】
次に、カソード電極層は、10-7mbarの超高真空でアルミニウムを気化させることによって、および有機半導体層上に前記アルミニウム層を堆積させることによって形成される。5~1000nmの厚さを持つ均質なカソード電極を生成するため、0.1~10nm/秒(0.01~1Å/秒)の速さで1つ以上の金属の熱的単一共蒸着(thermal single co-evaporation)が実行される。カソード電極層の厚さは100nmである。
【0132】
デバイスは、ガラススライドを用いたデバイスのカプセル化によって、周囲のコンディションから保護される。これに関しては、窪み(cavity)を設けて、さらなる保護のためにゲッター材料も中に入れる。
【0133】
20℃の気温において、Keithley2400ソースメーターを用いて、電流電圧計測は実行され、電圧で記録された。
【0134】
<実験結果>
<デバイスの実験に用いられた材料>
下記の両表において言及される支持体材料の化学式は、下記の通りである。
【0135】
【0136】
F1は、
【0137】
【0138】
ビフェニル-4-イル(9,9-ジフェニル-9H-フルオレン-2-イル)-[4-(9-フェニル-9H-カルバゾール-3-イル)フェニル]-アミン、CAS1242056-42-3。
【0139】
F2は、
【0140】
【0141】
(欧州特許番号EP2924029で開示された)CAS1440545-22-1。
【0142】
F3は、
【0143】
【0144】
CAS721969-94-4。
【0145】
F4は、
【0146】
【0147】
CAS597578-38-6。
【0148】
LiQは、リチウム8-ヒドロキシキノリノレートである;NUBD-370およびBD-200は、青色蛍光発光体ドーパントであり、ABH-113は、青色発光体ホストである。これらの3つの物質は全て、韓国のSFCから市販されている。
【0149】
PD-2は、
【0150】
【0151】
CAS1224447-88-4。
【0152】
ZnPcは、CAS14320-04-8の亜鉛フタロシアニンである。
【0153】
当該例示のタンデムデバイスにおいて用いられる任意の中間層は、この目的のために通常利用される他の物質、例えば、下記のような構造
【0154】
【0155】
(CAS 1207671-22-4)を有するZr錯体のような他の金属錯体からも製造され得る。
【0156】
<発明に係るデバイスの積層>
<実施例1>
【0157】
【0158】
2つのデバイスは化合物を用いて作製された。それらの量および層厚を表1に示す。デバイス1(比較例)では、正孔注入層は、10nmの厚さを有するF1:B1(11.2vol%のB1)として形成された。デバイス2(本発明)では、3nmのB1(100vol%のB1)の層は、HILとして用いられた。デバイス1および2を用いて達成された実験結果を
図4に示す。
【0159】
<実施例2>
【0160】
【0161】
表2に開示された材料、それらの量、および層厚を用いて、4つの異なるデバイスが作製された。
【0162】
デバイスA(比較例)において、F1:B1がそれぞれB1の11.2vol%、12.6vol%である、10nmの正孔発生層が作製された。p-ドーパントの両濃度に対する各曲線は、実質的に同一であった。さらに、本発明のデバイスB、C、およびDが作製された。これらのデバイスにおいて、正孔発生層(p-CGL)は純粋なB1からなっていた。層厚はそれぞれ、3nm(デバイスB)、5nm(デバイスC)、および10nm(デバイスD)であった。4つのデバイスを用いて達成された結果を
図5に示す。
【0163】
図4および
図5における本発明のデバイスおよび比較例のデバイスに対する電流-電圧特性は、本発明の驚くべき効果を明らかに示している。本発明の驚くべき効果は、ビスマスカルボキシレート錯体の何も混合されていない層を備える本発明のデバイスが、同じビスマスカルボキシレート錯体を正孔輸送マトリクス化合物と混合されたドーパントとして用いている最先端のデバイスよりも、非常に低い動作電圧で理想的な電流密度(および蛍光)に達するという事実を含んでいる。この効果は、最先端のデバイスのドープされた層におけるビスマスカルボキシレート錯体の濃度にも、本発明のビスマスカルボキシレート錯体の何も混合されていない層の厚さにも影響されにくい。
【0164】
上述した記載、特許請求の範囲、および/または付随する図面において開示された各特徴は、個々およびそれらの任意の組合せの両方が、本発明を多様な形態で実現するための題材であり得る。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【
図1】
図1は、本発明の例示的実施形態に係る有機発光ダイオード(OLED)の模式断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の例示的実施形態に係るOLEDの模式断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の例示的実施形態に係る、電荷発生層を備えるタンデムOLEDの模式断面図である。
【
図4】
図4は、例1に係る青色OLEDの電流電圧(IV)-曲線を示す図である。
【
図5】
図5は、例2に係る青色タンデムOLEDの電流電圧-曲線を示す図である。