(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】水素製造セル及び水素製造セルを用いた水素製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 9/00 20210101AFI20231226BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20231226BHJP
C25B 9/23 20210101ALI20231226BHJP
C25B 11/03 20210101ALI20231226BHJP
C25B 11/032 20210101ALI20231226BHJP
【FI】
C25B9/00 A
C25B1/04
C25B9/23
C25B11/03
C25B11/032
(21)【出願番号】P 2018246162
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000169499
【氏名又は名称】高砂熱学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(72)【発明者】
【氏名】加藤 敦史
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-074669(JP,U)
【文献】特開平06-033284(JP,A)
【文献】特開2001-342587(JP,A)
【文献】特開2003-100323(JP,A)
【文献】特開2004-315933(JP,A)
【文献】特表2005-536642(JP,A)
【文献】特開2006-233297(JP,A)
【文献】特開2009-252399(JP,A)
【文献】特開2010-053401(JP,A)
【文献】特開2014-065927(JP,A)
【文献】特開2014-125644(JP,A)
【文献】特開2014-194079(JP,A)
【文献】特開2014-210974(JP,A)
【文献】特表2014-504680(JP,A)
【文献】特表2015-536383(JP,A)
【文献】特開2016-160462(JP,A)
【文献】特開2018-028134(JP,A)
【文献】国際公開第2017/010436(WO,A1)
【文献】米国特許第04855193(US,A)
【文献】米国特許第05607785(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 - 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極触媒層が両面に形成された固体高分子電解質の両面に酸素側集電体と水素側集電体が配され、前記酸素側集電体と水素側集電体の各外側に配置した分離体で、前記酸素側集電体と水素側集電体を挟持した構成を有し、水電解によって水素を製造する水素製造セルであって、
前記水素側集電体は内部に有機的につながった多数の空隙を有しており、
前記水素側集電体の外側に配置される分離体の前記水素側集電体側の表面は平坦であり、
前記水素側集電体の外側に配置される分離体と前記水素側集電体との間には、電気分解の際に発生する反応流体の回収用の専用流路が形成されておらず、電気分解の際に発生する反応流体は、前記水素側集電体の内部の空隙を通じて回収されるように構成され、
前記水素側集電体から発生する反応流体の回収部は、前記水素側集電体における1組の対向辺部に各々形成され、
前記水素側集電体は長辺部と短辺部とを有する形状であり、前記回収部は、対向する長辺部側に各々形成されていることを特徴とする、水素製造セル。
【請求項2】
前記水素側集電体から発生する反応流体の回収部は連通口であり、
前記酸素側集電体の原料水入口、反応流体の出口となる各連通口は、前記水素側集電体の連通口よりも大きく設定されていることを特徴とする、請求項1に記載の水素製造セル。
【請求項3】
前記酸素側集電体の外側に配置される分離体と前記酸素側集電体との間には、反応流体が流れる専用流路が形成されていることを特徴とする、請求項1又は2のいずれか一項に記載の水素製造セル。
【請求項4】
前記水素側集電体の空隙率は、50%~99%であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の水素製造セル。
【請求項5】
前記回収部は、前記対向辺部において各々複数形成されていることを特徴とする、請求項
1~4のいずれか一項に記載の水素製造セル。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか一項に記載の水素製造セルを用いた水素製造方法であって、
前記酸素側集電体と水素側集電体との間に電圧を印加して、前記水素側集電体から水素ガスを発生させることを特徴とする、水素製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素製造セル及び水素製造セルを用いた水素製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、電極触媒層が両面に形成された固体高分子電解質の両面に酸素側集電体と水素側集電体が配され、当該酸素側集電体と水素側集電体の各外側に配置されたセパレータと呼ばれる、前記各集電体の外側に配置され隣接するセルを区画するシート状の分離体で、前記酸素側集電体と水素側集電体を挟持した構成を有する、水素製造セルが提案されている(特許文献1)。
【0003】
かかる場合、前記セパレータと酸素側集電体、水素側集電体との間には、各々電気分解によって発生した反応流体の専用の流路を形成するために、表面に凹凸を有する流路形成板が設けられている。またこの流路形成板を別途設けることなく、セパレータにおける前記各集電体側の表面に、反応流体の専用流路を形成するための凹凸を形成することも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記したように酸素側集電体、水素側集電体とセパレータとの間に、反応流体の流路を形成するための凹凸を有する流路形成板を設けると、その分水素製造セルの厚さが増す。セパレータの表面に反応流体の流路を形成する凹凸を形成した場合も同様である。
【0006】
この種の水素製造セルは、これを数十枚以上積層したセルスタックの状態で使用されるが、前記したような反応流体の流路を形成する凹凸の流路形成板、表面に凹凸を有するセパレータがあれば、たとえそれが1ミリ程度の厚さであっても、セルを数十枚以上積層したセルスタックであれば、全体として厚さ方向で数センチから数十センチのスペースを占めてしまう。そのため水素製造セル自体をよりコンパクト化することが望まれている。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、従来よりもセル1枚当たりの厚さを低減できる水素製造セルの構造を実現して、前記課題の解決を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明は、電極触媒層が両面に形成された固体高分子電解質の両面に酸素側集電体と水素側集電体が配され、前記酸素側集電体と水素側集電体の各外側に配置した分離体で、前記酸素側集電体と水素側集電体を挟持した構成を有し、水電解によって水素を製造する水素製造セルであって、前記水素側集電体は内部に有機的につながった多数の空隙を有しており、前記水素側集電体の外側に配置される分離体の前記水素側集電体側の表面は平坦であり、前記水素側集電体の外側に配置される分離体と前記水素側集電体との間には、電気分解の際に発生する反応流体の回収用の専用流路が形成されておらず、電気分解の際に発生する反応流体は、前記水素側集電体の内部の空隙を通じて回収されるように構成され、前記水素側集電体から発生する反応流体の回収部は、前記水素側集電体における1組の対向辺部に各々形成され、前記水素側集電体は長辺部と短辺部とを有する形状であり、前記回収部は、対向する長辺部側に各々形成されていることを特徴としている。
【0009】
発明者によれば、この種の水素製造セルに使用される水素側集電体については、内部に有機的につながった多数の空隙を有している。したがって従来のように外側に格別の反応流体専用の流路を形成せずとも、水素側集電体の空隙率を適切に確保することで、電気分解の際に発生する水素ガス、水は、当該水素側集電体の内部の空隙を通って、水素側集電体から排出してこれを回収することができることを新たに知見した。したがって、水素側集電体の外側には従来のような流路形成板や流路形成用の凹凸等を有する分離体を設ける必要はない。したがって、その分従来よりもセル1枚当たりの厚さを低減することができる。
【0010】
前記水素側集電体の空隙率は、50%~99%であることが好ましい。水素側集電体の内部の空隙を通って反応流体を排出、回収するので、この範囲の空隙率を有する水素側集電体を用いることがよい。
【0011】
前記回収部は、前記対向辺部において各々複数形成されていることがよい。複数形成することで回収効率を高めることができる。
【0012】
そして本発明においては、前記水素側集電体は長辺部と短辺部とを有する形状であり、前記回収部は、対向する長辺部側に各々形成されているので、水素側集電体の内部を移動する際の圧力抵抗を減じて、速やかに回収することができる。
【0013】
別な観点によれば、本発明は、前記した水素製造セルを用いた水素製造方法であって、前記酸素側集電体と水素側集電体との間に電圧を印加して、前記水素側集電体から水素ガスを発生させることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来よりもセル1枚当たりの厚さを低減することができる。またセルを構成する部品点数を少なくでき、またコストも低く抑えることができる。さらに後述するように、セル自体の性能を向上させ、しかもセルの寿命を従来より伸ばすことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態にかかる水素製造セルを組み入れた水素製造装置の系統の概略を示した説明図である。
【
図2】実施の形態にかかる水素製造セルの分解斜視図である。
【
図3】実施の形態にかかる水素製造セルの部分拡大水平断面図である。
【
図4】実施の形態にかかる水素製造セルの内部構造を模式的に示した説明図である。
【
図5】水素側集電体における反応流体の流れを示す説明図である。
【
図6】流路形成板における反応流体の流れを示す説明図である。
【
図7】反応流体回収部を複数有する水素側集電体の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態について説明する。
図1は、実施の形態にかかる水素製造セルを組み入れた水素製造装置1の系統の概略を示しており、この水素製造装置1は、後述の
図2~
図4に示される固体高分子形の水素製造セル10を、鉛直方向に正立させた状態で、水平方向に数十枚~数百枚を直列に接続、積層し、両側からエンドプレート2、3で挟持することによって構成された、水素製造セルスタック4を有している。
【0017】
水素製造セルスタック4の純水入口ポートP1に、原料水となるたとえば純水が供給される。具体的には、水素製造セルスタック4の原料水入口となる純水入口ポートP1に対して、酸素側の気液分離機能を有するタンク21から原料水(純水)が供給されて、水電解運転(水素製造運転)がなされる。
【0018】
より詳述すると、タンク21の底部と水素製造セルスタック4の純水入口ポートP1との間には、配管22が接続されている。そして配管22に設けられたポンプ23によって、水素製造セルスタック4の純水入口ポートP1に対して、タンク21から原料水としての純水が供給されるようになっている。配管22には、ポンプ23の下流側において逆止弁24が設けられ、さらにその下流側には、配管22内の圧力を計測する圧力計25が設けられている。純水入口ポートP1は、前記各水素製造セル10における連通口(詳細は後述する)と連通している。
【0019】
配管22には、ポンプ23の下流側において、配管22内を流れる水の一部をタンク21に戻すための戻し管26が接続されている。この戻し管26には、流量調整弁V1、熱交換器27、イオン交換樹脂塔28、フィルタ29が設けられており、これらの装置を通じて戻し水が処理されることで、タンク21内の水の水質が維持される。なおタンク21内には、タンク内の水の水位を検出する液面センサ21aが設けられている。またタンク21内には、液面センサ21aからの信号に基づいて、外部の純水供給源(図示せず)から、配管30を通じて適宜原料水となる純水の補充がなされる。またタンク21内の気層部に滞留する酸素ガスは、配管33を通じて系外に放出されたり、外部の需要先へと移送される。
【0020】
配管22を通じて純水入口ポートP1から水素製造セルスタック4に供給された原料水は、水素製造セルスタック4において電気分解され、酸素、並びに分解されなかった水が、酸素側の出口となる純水出口ポートP2から配管31を通じて、タンク21に戻され、タンク21内にて気液分離される。配管31には、配管31内の圧力を計測する圧力計32、及び電磁弁V2が設けられている。なお逆止弁24、ポンプ23、圧力計32、及び電磁弁V2はなくともよい。純水出口ポートP2は、水素製造セル10における連通口(図示せず)と連通している。
【0021】
水素製造セルスタック4の水素側出口となる水素出口ポートP3、P4には、配管41が接続され、この配管41は、水素側の気液分離機能を有するタンク42に通じている。水素出口ポートP3、P4は、水素製造セル10における連通口(図示せず)と連通している。
【0022】
タンク42とタンク21の気層部(タンク内において貯留する水の液面より上の部分であり、貯留する液面が上昇しても、液面が達することのない部分)との間には、配管43が接続されている。配管43には、電磁弁V3、バルブV4が設けられている。タンク42内には、タンク内の水の水位を検出する液面センサ42aが設けられている。
【0023】
水電解によって発生した水素は、随伴水と共に、配管41を通じてタンク42に送られ、タンク42内において気液分離される。タンク42において気液分離された後の水素ガスは、配管44を通じて、たとえば需要側や水素貯蔵タンク(高圧容器、図示せず)へ送られる。配管44には背圧弁V5が設けられ、また配管44における背圧弁V5の上流側には、放出管45が接続され、放出管45には、電磁弁V6が設けられている。
【0024】
そして水素製造セルスタック4には、直流電源5が接続されており、その出力に応じて純水入口ポートP1から供給された電解用の純水が水素イオン、酸素イオンに電気分解される。そのうち酸素イオンは水素製造セル10内の触媒上で酸素分子となり、前記したように、純水と共に純水出口ポートP2からセル外に排出され、一方電気分解によって発生した水素イオンは、随伴水を伴って水素製造セル10内の水素側に移動し、水素側触媒上で水素分子となって水素出口ポートP3、P4からセル外に排出される。
【0025】
次に実施の形態にかかる水素製造セル10について説明する。この水素製造セル10は、
図2~
図4に示したように、固体高分子電解質である電解質膜11を水素側集電体12と酸素側集電体13とで挟持した構成を有している。電解質膜11は、固体高分子膜11aの両側表面に触媒11b、11cを有している。
【0026】
水素側集電体12の外側には、分離体であるセパレータ14が配置されている。水素側集電体12の材料には、例えばカーボンペーパー、カーボン不織布等が使用され、この水素側集電体12の内部には、有機的につながった多数の空隙が形成されている。この例では、空隙率が50%以上の水素側集電体12を用いている。セパレータ14における水素側集電体12の表面は、平坦に成形されている。ここでいう平坦とは、必ずしも完全に平坦なものに限られない。水素側集電体12とセパレータ14との間で、反応流体の専用の流路が形成されない程度の溝、微小な凹凸が形成されていてもよい。但し、平坦に近ければ近いほど、それに伴って、後述するように、電極全面による均一な圧接により、本発明の効果がより一層得られる。
【0027】
酸素側集電体13の材質は、例えばチタン繊維焼結不織布やチタン焼結金属等所定の剛性を有するチタンの多孔体によって構成されている。そして酸素側集電体13の外側には、流路形成板15が配置されている。流路形成板15の外側には、分離体であるセパレータ16が配置されている。流路形成板15は、表面に多数の凹凸15aが形成されるようなエンボス加工されたプレート、メッシュ、パンチングメタル等からなる材料が使用されている。これによって、酸素側集電体13と流路形成板15との間には、縦方向、横方向のいずれの方向にも流体が流通可能な、反応流体が流れる専用の流路15bが形成される。なお流路形成板15とセパレータ16は一体に成形してもよい。すなわち、流路形成板15を使用せず、従来公知のような、一側表面に反応流路形成用の凹凸等が全面に形成されたセパレータを用いてもよい。
【0028】
図2に示すように、水素製造セル10を構成する電解質膜11、水素側集電体12と酸素側集電体13、セパレータ14、流路形成板15、セパレータ16はいずれも横長の長方形形状を有している。そして水素製造セル10を構成する各構成部材、すなわち電解質膜11、水素側集電体12と酸素側集電体13、セパレータ14、流路形成板15、セパレータ16には、いずれも以下に述べる連通口が形成されている。
【0029】
すなわち、電解質膜11には、4つのコーナー部分に連通口11d~11gが形成されている。水素側集電体12には、左上、右下のコーナー部分に連通口12d、12gが各々形成されている。酸素側集電体13には、左下、右上のコーナー部分に連通口13e、13fが各々形成されている。セパレータ14には、4つのコーナー部分に連通口14d~14gが形成されている。流路形成板15には、左下、右上のコーナー部分に連通口15e、15fが各々形成されている。セパレータ16には、4つのコーナー部分に連通口14d~14gが各々形成されている。
【0030】
そして前記した水素製造セル10を構成する各構成部材の各連通口は、相互に接続されることはなく独立している。また各構成部材においては干渉することはない。例えば、各連通口の周囲にシール材を設けたり、各構成部材における電極と対向する面、すなわち電解質膜11と対応する領域に、適宜シール材を設けたりして、水素製造セル10における各構成部材の端面から、反応流体が漏出することが防止されている。そして電解質膜11の連通口11d、11gは、水素側集電体12の連通口12d、12g、セパレータ14の連通口14d、14g、セパレータ16の連通口16d、16gと連通して、既述した水素製造セルスタック4の水素出口ポートP3、P4に通じている。水素側集電体12の連通口12d、12gは、回収部を構成する。
【0031】
同様に、電解質膜11の連通口11eは、セパレータ14の連通口14e、酸素側集電体13の連通口13e、流路形成板15連通口15e、セパレータ16の連通口16eと連通して、水素製造セルスタック4の純水入口ポートP1に通じている。また電解質膜11の連通口11fは、セパレータ14の連通口14f、酸素側集電体13の連通口13f、流路形成板15連通口15f、セパレータ16の連通口16fと連通して、水素製造セルスタック4の純水出口ポートP2に通じている。
【0032】
実施の形態にかかる水素製造セル10は以上の構成を有している。次にその作用等について説明する。原料水である純水は、水素製造セルスタック4の純水入口ポートP1から水素製造セルスタック4内の各水素製造セル10に供給される。そして直流電源5から各水素製造セル10に対して電圧を印加すると、
図4に示したように、当該純水は電気分解されて、水素側集電体12には水、水分を含有する水素ガスが発生する。そして水素側集電体12の外側表面には、格別専用の反応流体専用の流路が形成されておらず、しかも水素側集電体12は、その内部に空隙を有しているから(実施の形態においては空隙率が50%~90%である)、この水、並びに水分を含有する水素ガスは、水素側集電体12の内部を通って、
図5に示したように、連通口12d、12gに向かう。そして水、並びに水分を含有する水素ガスは、連通口12d、12gから水素製造セルスタック4の水素出口ポートP3、P4へと排出される。
【0033】
一方、水素製造セル10の酸素側集電体13では、連通口13eから供給されて電気分解されなかった純水と、発生した酸素ガスが、酸素側集電体13を出て流路形成板15側へと流出する。そして
図3、4に示したように、凹凸15aを有する流路形成板15の存在によって、酸素側集電体13と流路形成板15との間には、反応流体専用の流路15bが形成されているので、分解されなかった純水と発生した酸素ガスは、
図6に示したように、連通口15fへと向かい、水素製造セルスタック4の純水出口ポートP2へと排出される。
【0034】
以上のようにこの実施の形態にかかる水素製造セル10によれば、水素側集電体12の外側表面には従来のような流路形成板や流路形成を有する分離体のセパレータを設ける必要はないので、その分従来よりもセル1枚当たりの厚さを低減することができる。またそれに伴って部品点数の軽減や構造の簡素化を図ることができる。
【0035】
さらにまた水素側集電体12の外側表面に位置しているのは、表面に凹凸等のない平坦なセパレータであるから、剛性の極めて低い水素側集電体12を電解質膜11に対してその全面で接触させることができる。したがって電極となる電解質膜11と水素側集電体12との密着性が向上する。従来のように、水素側集電体12の外側表面に流路形成板や流路を形成するための凹凸を有するセパレータの場合には、溝の山部や凸部との線接触、点接触であったが、それと比較すると、接触面積が増大して接触抵抗が低減する。したがって水素製造セルとしての性能自体が向上する。
【0036】
しかも電解質膜11と水素側集電体12とが全面で圧接して接触するので、電極面全面で反応が進む。これによって劣化自体もが全面でほぼ均一に進行し、また実質的な電流密度も低く抑えることができる。
これに対し従来は、前記したように山部や凸部等の接触部分のみで反応が進む。その結果当該接触部分は、他の部分よりも早く劣化して電極全面を有効に使うことなく寿命を迎えてしまう。また当該接触部分では面圧が他の領域よりも高くなっており、機械的、化学的要因による膜痩せ加速が生じるため、両極の電極同士が接触するショートのリスクもあった。
この点前記した実施の形態では、電解質膜11と水素側集電体12とが全面で圧接して接触するので、そのようなリスクを大きく抑えることができる。
【0037】
さらにまた前記実施の形態にかかる水素製造セル10では、反応中のセル内に存在する水素の量を極めて少なくできるため、万が一膜破損などで水素と酸素が混合しても、燃料となる水素が少ないため燃焼に至る可能性は極めて低い。
【0038】
ところで電極サイズが大きい場合には、排水排気用、すなわち水分と水素ガスを回収、排出するめのマニホールドとして機能する連通口12d、12gを複数設ける必要がある。それは水素側集電体12の内部をこれら反応流体が流れていくため、そのときの流路抵抗が高いからである。また水や水素の発生個所から連通口までの距離があまりに長いと、局所的に膜に力がかかり、膜の変形や破損が生じる可能性もある。
【0039】
これを抑えるために、例えば
図7に示した水素側集電体51のように、連通口51d、51gを水素側集電体51の対向する長辺部側に各々複数設け、また全体として長方形形状とすることで、水素が発生する箇所から連通口51d、51gまでの距離を短くすることができる。すなわち、水素が発生する箇所から最も近い連通口51d、51gまでの最短距離を短くすることができる。
図7に示した距離Lの1/2が当該最短距離となる。因みに本発明に適した距離Lの長さは、電極全体の大きさにもよるが、例えば200mm以下であることが好ましい。なおかかる場合、酸素側の原料水入口側、酸素側の反応流体の出口側は圧損が大きいので、
図7に示したように、酸素側の連通口51h、51iは水素側の連通口51d、51gよりも大きく設定されている。
【0040】
もちろん電極面積が小さい場合、たとえば30cm
2前後の場合には、
図5に示した先の実施の形態にかかる水素製造セル10に用いた水素側集電体12のように、水素側集電体12の対角線上に位置する2つの連通口12d、12gでも十分である。
【0041】
また本発明で使用される水素側集電体は、発生した水や水素を吸収しやすい材質で構成することが好ましい。吸収性が悪いと電解質膜と水素側集電体との間に水や水素が滞留し、膜変形の原因となるためである。そこで本発明に使用される水素側集電体に適した材質としては、例えばカーボンペーパーやカーボン不織布が挙げられる。
また本発明で使用される電解質膜としては乾燥状態と湿潤状態で膜のサイズがなるべく変わらないものが適している。局所的に力がかかることを抑えるためである。したがって、かかる点から、本発明の電解質膜に適した材料としては、例えばフッ素系電解質膜、アルカリ系電解質膜、炭化水素系電解質膜等が挙げられる。
【0042】
さらにまた水素側集電体の厚みについても、それが厚いほど流路抵抗が下がり、また発生した水や水素を吸収しやすくなる。本発明に適した厚みとしては、水素側集電体を構成する材質、空隙率との関係もあるが、例えば0.2mm~2.0mm程度の厚みがあるものがよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、原料水を提供して当該原料水を電気分解によって水素を発生させる水素製造セルに有用である。
【符号の説明】
【0044】
1 水素製造装置
2、3 エンドプレート
4 水素製造セルスタック
5 直流電源
10 水素製造セル
11 電解質膜
11a 固体高分子膜
11d~11g 連通口
12 水素側集電体
12d、12g 連通口
13 酸素側集電体
13e、13f 連通口
14 セパレータ
14d~14g 連通口
15 流路形成板
15b 流路
16 セパレータ
16d~16g 連通口
P1 純水入口ポート
P2 純水出口ポート
P3、P4 水素出口ポート