(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ガスエンジンの制御装置及びガスエンジンシステム並びにガスエンジンの制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F02D 19/02 20060101AFI20231226BHJP
F02B 19/10 20060101ALI20231226BHJP
F02M 21/02 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
F02D19/02 D
F02B19/10 G
F02M21/02 301R
(21)【出願番号】P 2019106247
(22)【出願日】2019-06-06
【審査請求日】2022-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】田中 健吾
(72)【発明者】
【氏名】高柳 恒
(72)【発明者】
【氏名】井川 芳克
(72)【発明者】
【氏名】森 直之
(72)【発明者】
【氏名】三橋 真人
(72)【発明者】
【氏名】須藤 武志
(72)【発明者】
【氏名】長船 信之介
(72)【発明者】
【氏名】北村 陽昌
(72)【発明者】
【氏名】小山 祐生
【審査官】戸田 耕太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-209967(JP,A)
【文献】特開2004-036424(JP,A)
【文献】特開2014-92039(JP,A)
【文献】特開2006-132478(JP,A)
【文献】特開2018-119485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 19/02
F02B 19/10
F02M 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ及びピストンによって画定される主室と、噴口を有し、該噴口を介して前記主室と連通される副室と、前記副室に供給される燃料ガスの量を調節するための副室ガス調整弁と、を含むガスエンジンの制御装置であって、
少なくともエンジン負荷の増加時において、前記主室に供給される混合気の空気過剰率である主室空気過剰率λ1、点火時における前記副室内のガスの空気過剰率である副室空気過剰率λ2、及び、失火率の相関関係を示す失火率マップに基づいて、前記副室空気過剰率λ2が、前記失火率マップにおける失火領域に入らないように、前記副室ガス調整弁の開度指令値を設定するように構成された指令値設定部を備え、
前記指令値設定部は、前記主室空気過剰率λ1及び前記副室空気過剰率λ2を前記失火率マップに適用して取得される失火率が
前記失火領域に入ったとき、前記開度指令値として
ゼロを設定するように構成された
ガスエンジンの制御装置。
【請求項2】
少なくとも、前記主室に供給される前記混合気の圧力P1、前記主室空気過剰率λ1、及び、前記副室に供給される前記燃料ガスの圧力P2と前記圧力P1との差である副室差圧(P2-P1)に基づいて、前記副室空気過剰率λ2を推定するように構成された副室空気過剰率算出部を備える
請求項1に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記ガスエンジンは、複数のシリンダ及びピストンによってそれぞれ画定される複数の主室と、前記複数の主室に対応してそれぞれ設けられる複数の副室及び複数の副室ガス調整弁と、を含み、
前記副室空気過剰率算出部は、前記複数のシリンダの各々についての流量係数に基づいて、前記複数のシリンダの各々について前記副室空気過剰率λ2を推定するように構成された
請求項2に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記指令値設定部は、少なくともエンジン負荷の増加時において、前記失火率マップに基づいて、現在の主室空気過剰率λ1に対して失火率が極小となる目標副室空気過剰率λ2*を取得し、前記副室に供給される前記燃料ガスの圧力P2と前記主室に供給される前記混合気の圧力P
1との差である副室差圧(P2-P1)が、前記目標副室空気過剰率λ2*に対応する目標副室差圧となるように、前記副室ガス調整弁の開度指令値を設定するように構成された
請求項1乃至3の何れか一項に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記ガスエンジンの運転条件に応じた前記失火率マップを取得するマップ取得部を備え、
前記指令値設定部は、前記マップ取得部により取得された前記失火率マップを用いて、前記開度指令値を設定するように構成された
請求項1乃至4の何れか一項に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記運転条件は、外気温、前記主室に供給される前記混合気の温度、又は前記燃料ガスの性状の少なくとも1つを含む
請求項5に記載のガスエンジンの制御装置。
【請求項7】
シリンダ及びピストンによって画定される主室と、
噴口を有し、該噴口を介して前記主室と連通される副室と、
前記副室に供給される燃料ガスの量を調節するための副室ガス調整弁と、を含むガスエンジンと、
前記ガスエンジンを制御するための請求項1乃至6の何れか一項に記載の制御装置と、
を備えたガスエンジンシステム。
【請求項8】
シリンダ及びピストンによって画定される主室と、噴口を有し、該噴口を介して前記主室と連通される副室と、前記副室に供給される燃料ガスの量を調節するための副室ガス調整弁と、を含むガスエンジンを制御するためのプログラムであって、
少なくともエンジン負荷の増加時において、前記主室に供給される混合気の空気過剰率である主室空気過剰率λ1、点火時における前記副室内のガスの空気過剰率である副室空気過剰率λ2、及び、失火率の相関関係を示す失火率マップに基づいて、前記副室空気過剰率λ2が、前記失火率マップにおける失火領域に入らないように、前記副室ガス調整弁の開度指令値を設定する手順をコンピュータに実行させるように構成され、
前記手順では、前記主室空気過剰率λ1及び前記副室空気過剰率λ2を前記失火率マップに適用して取得される失火率が
前記失火領域に入ったとき、前記開度指令値として
ゼロを設定する
ガスエンジンの制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスエンジンの制御装置及びガスエンジンシステム並びにガスエンジンの制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
都市ガス等のガスを主燃料とするガスエンジンとして、燃焼室としての主室及び副室を備えた副室式ガスエンジンが用いられている。
【0003】
特許文献1には、シリンダ及びピストンによって画定される主室と、噴口(ノズル)を介して主室と連通される副室と、を含む副室式ガスエンジンが記載されている。
このようなガスエンジンでは、一般に、吸入行程において、主室には、給気管を介して比較的希薄な混合気が供給され、副室には、副室ガス供給管を介して燃料ガスが供給される。圧縮行程にて、副室内に理論空燃比付近の混合気が形成され、副室に設けられた点火プラグにより、副室内の混合気に着火される。そして、膨張行程において、副室で生成した火炎は、噴口を介して主室内に噴出され、主室内の混合気に火炎が伝播して主室内の燃料ガスが燃焼されるようになっている。
【0004】
また、特許文献1には、副室ガス供給管内の圧力と、主室に混合気を供給する給気管内の圧力との差圧、すなわち副室差圧に基づいて、副室ガス供給管を介した副室への燃料ガスの供給量を調節するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、副室ガスエンジンにおいて、副室への燃料ガス供給量の制御の仕方によっては、負荷投入時にエンジン回転数が大幅に低下し、エンジンの運転が安定するまでに時間を要する場合があった。即ち、負荷投入時に、主室への混合気の供給量を増やすと、主室内の空気過剰率が急激に低下し、空気過剰率が1程度(即ち、理論空燃比程度)まで低下する場合がある。このとき、例えば、特許文献1に記載のように副室差圧に基づく制御を貫くと、主室内の空気過剰率の低下に応じて、点火時における副室内の空気過剰率も急激に低下する。このため、点火時において副室内の混合気濃度が過度に高くなり、副室内失火が生じる可能性がある。副室内失火が起きると、これに起因してエンジン回転数が大幅に低下するため、回転数が回復して安定するまでに時間を要することになる。
【0007】
上述の事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態は、負荷投入時であっても安定的に運転可能なガスエンジンの制御装置及びガスエンジンシステム並びにガスエンジンの制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係るガスエンジンの制御装置は、
シリンダ及びピストンによって画定される主室と、噴口を有し、該噴口を介して前記主室と連通される副室と、前記副室に供給される燃料ガスの量を調節するための副室ガス調整弁と、を含むガスエンジンの制御装置であって、
少なくともエンジン負荷の増加時において、前記主室に供給される混合気の空気過剰率である主室空気過剰率λ1、点火時における前記副室内のガスの空気過剰率である副室空気過剰率λ2、及び、失火率の相関関係を示す失火率マップに基づいて、前記副室空気過剰率λ2が、前記失火率マップにおける失火領域に入らないように、前記副室ガス調整弁の開度指令値を設定するように構成された指令値設定部を備える。
【0009】
上記(1)の構成では、少なくともエンジン負荷の増加時(例えば、負荷投入時)において、主室空気過剰率λ1、副室空気過剰率λ2、及び、失火率の相関関係を示す失火率マップに基づいて、副室空気過剰率λ2が失火率マップの失火領域に入らないように、副室ガス調整弁の開度指令値を設定する(例えば、該開度指令値を規定値以下に小さくする等)。したがって、主室空気過剰率λ1が比較的小さい場合であっても、副室内への燃料ガスの供給量を適切に調節して、副室空気過剰率λ2が過度に小さくなるのを抑制して副室内失火を回避することができる。これにより、負荷投入時におけるエンジン回転数の大幅な低下を抑制することができ、負荷投入時であっても、安定的にエンジンを運転することができる。
なお、失火率マップの失火領域とは、失火率が高く失火が生じやすいλ1及びλ2の領域である。
【0010】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、
前記制御装置は、
少なくとも、前記主室に供給される前記混合気の圧力P1、前記主室空気過剰率λ1、及び、前記副室に供給される前記燃料ガスの圧力P2と前記圧力P1との差である副室差圧(P2-P1)に基づいて、前記副室空気過剰率λ2を推定するように構成された副室空気過剰率算出部を備える。
【0011】
上記(2)の構成によれば、少なくとも、主室に供給される混合気の圧力P1、主室空気過剰率λ1、及び、副室に供給される燃料ガスの圧力P2と圧力P1との差である副室差圧(P2-P1)に基づいて、副室空気過剰率λ2を適切に推定することができる。よって、このように取得された副室空気過剰率λ2の推定値を用いて、上述の失火率マップに基づいて、副室空気過剰率λ2が失火率マップの失火領域に入らないように副室ガス調整弁の開度指令値を設定することで、副室内への燃料ガスの供給量を適切に調節することができる。
【0012】
(3)幾つかの実施形態では、上記(2)の構成において、
前記ガスエンジンは、複数のシリンダ及びピストンによってそれぞれ画定される複数の主室と、前記複数の主室に対応してそれぞれ設けられる複数の副室及び複数の副室ガス調整弁と、を含み、
前記副室空気過剰率算出部は、前記複数のシリンダの各々についての流量係数に基づいて、前記複数のシリンダの各々について前記副室空気過剰率λ2を推定するように構成される。
【0013】
ガスエンジンが複数のシリンダ及びピストンを含む場合、副室の噴口径はシリンダごとにばらつきが存在するため、上述の副室差圧(P2-P1)が同一であっても主室から副室に流入する混合気の流量は気筒ごとにばらつく場合がある(即ち、流量係数が気筒ごとに異なる場合がある)。
この点、上記(3)の構成によれば、シリンダごとの流量係数を考慮して、複数のシリンダの各々についての前記副室空気過剰率λ2を算出するようにしたので、このように取得された副室空気過剰率λ2の推定値を用いることで、該副室空気過剰率λ2に対応する失火率をより精度良く把握することができる。よって、複数のシリンダの各々について、得られた副室空気過剰率λ2の推定値が失火率マップの失火領域に入らないように副室ガス調整弁の開度指令値を設定することで、副室内への燃料ガスの供給量をより適切に調節することができる。
【0014】
(4)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(3)の何れかの構成において、
前記指令値設定部は、少なくともエンジン負荷の増加時において、前記失火率マップに基づいて、現在の主室空気過剰率λ1に対して失火率が極小となる目標副室空気過剰率λ2*を取得し、前記副室に供給される前記燃料ガスの圧力P2と前記主室に供給される前記混合気の圧力P1との差である副室差圧(P2-P1)が、前記目標副室空気過剰率λ2*に対応する目標副室差圧となるように、前記副室ガス調整弁の開度指令値を設定するように構成される。
【0015】
上記(4)の構成によれば、失火率マップに基づいて、現在の主膣空気過剰率λ1に対応して歯科率が極小となる目標副室空気過剰率λ2*を取得し、副室差圧が目標副室空気過剰率λ2*に対応する目標副室差圧となるように副室ガス調整弁の開度指令値を設定する。したがって、このように設定された開度指令値に基づいて副室への燃料ガス供給量を調節することにより、主室空気過剰率λ1が比較的小さい場合であっても、副室空気過剰率λ2が過度に小さくなるのを抑制して副室内失火を適切に回避することができる。
【0016】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)乃至(4)の何れかの構成において、
ガスエンジンの制御装置は、
前記ガスエンジンの運転条件に応じた前記失火率マップを取得するマップ取得部を備え、
前記指令値設定部は、前記マップ取得部により取得された前記失火率マップを用いて、前記開度指令値を設定するように構成される。
【0017】
上記(5)の構成によれば、エンジンの運転条件に応じた失火率マップを用いて開度指令値を設定するようにしたので、主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2に基づいて、エンジンの運転条件に応じた失火率を取得することができる。したがって、このように取得した失火率に基づいて、副室ガス調整弁の開度指令値をより適切に設定することができる。よって、主室空気過剰率λ1が比較的小さい場合であっても、副室内への燃料ガスの供給量をより適切に調節して、副室空気過剰率λ2が過度に小さくなるのを抑制して副室内失火を回避することができる。
【0018】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、
前記運転条件は、外気温、前記主室に供給される前記混合気の温度、又は前記燃料ガスの性状の少なくとも1つを含む。
【0019】
主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2と、失火率との関係は、外気温、主室に供給される混合気の温度、又は燃料ガスの性状等のエンジンの運転条件によって異なる場合がある。この点、上記(6)の構成によれば、これらの運転条件に応じた失火率マップを用いて開度指令値を設定するようにしたので、主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2に基づいて、これらのエンジンの運転条件に応じた失火率を取得することができる。したがって、このように取得した失火率に基づいて、副室ガス調整弁の開度指令値をより適切に設定することができる。
【0020】
(7)本発明の少なくとも一実施形態に係るガスエンジンシステムは、
シリンダ及びピストンによって画定される主室と、
噴口を有し、該噴口を介して前記主室と連通される副室と、
前記副室に供給される燃料ガスの量を調節するための副室ガス調整弁と、を含むガスエンジンと、
前記ガスエンジンを制御するための上記(1)乃至(6)の何れか一項に記載の制御装置と、
を備える。
【0021】
上記(7)の構成では、少なくともエンジン負荷の増加時(例えば負荷投入時)において、主室空気過剰率λ1、副室空気過剰率λ2、及び、失火率の相関関係を示す失火率マップに基づいて、副室空気過剰率λ2が失火率マップの失火領域に入らないように、副室ガス調整弁の開度指令値を設定する(例えば、該開度指令値を規定値以下に小さくする等)。したがって、主室空気過剰率λ1が比較的小さい場合であっても、副室内への燃料ガスの供給量を適切に調節して、副室空気過剰率λ2が過度に小さくなるのを抑制して副室内失火を回避することができる。これにより、負荷投入時におけるエンジン回転数の大幅な低下を抑制することができ、負荷投入時であっても、安定的にエンジンを運転することができる。
【0022】
(8)本発明の少なくとも一実施形態に係るガスエンジンの制御プログラムは、
シリンダ及びピストンによって画定される主室と、噴口を有し、該噴口を介して前記主室と連通される副室と、前記副室に供給される燃料ガスの量を調節するための副室ガス調整弁と、を含むガスエンジンを制御するためのプログラムであって、
少なくともエンジン負荷の増加時において、前記主室に供給される混合気の空気過剰率である主室空気過剰率λ1、点火時における前記副室内のガスの空気過剰率である副室空気過剰率λ2、及び、失火率の相関関係を示す失火率マップに基づいて、前記副室空気過剰率λ2が、前記失火率マップにおける失火領域に入らないように、前記副室ガス調整弁の開度指令値を設定する手順をコンピュータに実行させるためのプログラムである。
【0023】
上記(8)のプログラムによれば、少なくともエンジン負荷の増加時(例えば負荷投入時)において、主室空気過剰率λ1、副室空気過剰率λ2、及び、失火率の相関関係を示す失火率マップに基づいて、副室空気過剰率λ2が失火率マップの失火領域に入らないように、副室ガス調整弁の開度指令値を設定する(例えば、該開度指令値を規定値以下に小さくする等)。したがって、主室空気過剰率λ1が比較的小さい場合であっても、副室内への燃料ガスの供給量を適切に調節して、副室空気過剰率λ2が過度に小さくなるのを抑制して副室内失火を回避することができる。これにより、負荷投入時におけるエンジン回転数の大幅な低下を抑制することができ、負荷投入時であっても、安定的にエンジンを運転することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、負荷投入時であっても安定的に運転可能なガスエンジンの制御装置及びガスエンジンシステム並びにガスエンジンの制御プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】一実施形態に係るガスエンジンシステムの概略図である。
【
図2】一実施形態に係るガスエンジンシステムの燃焼室周りの構造を示す概略図である。
【
図3】一実施形態に係る制御装置のブロック図である。
【
図4】一実施形態に係る失火率マップの一例である。
【
図5】一実施形態に係る副室空気過剰率の計算フローを示す図である。
【
図6】一実施形態に係る制御装置のブロック図である。
【
図7】一実施形態に係る失火率マップの一例である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
【0027】
まず、
図1及び
図2を参照して、幾つかの実施形態に係る制御装置が適用されるガスエンジン及びガスエンジンシステムについて説明する。
図1は、一実施形態に係るガスエンジンシステムの概略図である。
図2は、一実施形態に係るガスエンジンシステムの燃焼室周りの構造を示す。
なお、以下に説明する実施形態では、ガスエンジンシステムのガスエンジンは、発電機を駆動するための過給機付きガスエンジンである。但し、本発明は、以下に説明する実施形態のガスエンジンの具体的構成に限定されるものではなく、種々の構成を採用可能であり、例えば駆動対象は発電機以外の任意の被駆動装置であってもよい。
【0028】
図1に示すガスエンジンシステム1は、ガスエンジン3と、ガスエンジン3の運転を制御するための制御装置5とを備える。また、ガスエンジンシステム1は、例えば天然ガスや都市ガス等の燃料ガスと燃焼用空気との混合ガスをガスエンジン3の主室307に供給する給気ライン103と、燃料ガスの一部をガスエンジン3の副室315に供給する副室ガス供給ライン105とを備える。
【0029】
より詳細には、ガスエンジンシステム1は、ガスミキサ19に接続されて燃料ガスをガスミキサ19に供給する燃料ガス供給ライン101と、ガスミキサ19に接続されて燃焼用空気をガスミキサ19に供給する燃焼用空気供給ライン107とを備える。燃料ガス供給ライン101には、ガスミキサ19に供給される燃料ガスの流量を制御する燃料ガス供給量制御部71が設けられる。
【0030】
また、燃焼用空気供給ライン107には、ガスミキサ19に供給される燃焼用空気に含まれるゴミや塵埃などを取り除くエアクリーナ17が設けられてもよい。ガスミキサ19は、燃料ガス供給ライン101を介して供給された燃料ガスと、燃焼用空気供給ライン107を介して供給された燃焼用空気とを混合して混合ガスを生成する。
【0031】
また、ガスエンジンシステム1は、コンプレッサ11a及び排気タービン11bを含む過給機11と、上述の給気ライン103とを備える。コンプレッサ11aは、ガスミキサ19によって生成された混合ガスを昇圧し、昇圧した混合ガスをコンプレッサ11aの下流側における給気ライン103に供給する。排気タービン11bは、ガスエンジン3から排出された排ガスによって回転し、コンプレッサ11aを駆動する。
【0032】
給気ライン103は、混合ガスの流れ方向の上流側に配置された上流側給気ライン103aと、下流側に配置された給気マニホールド103bとを有する。上流側給気ライン103aには、給気マニホールド103bに供給する混合ガスの流量を制御する給気制御弁73が設けられている。この給気制御弁73は、例えばガバナスロットル弁とすることができる。また、給気マニホールド103bには、給気マニホールド103bの内部の圧力を検出する給気圧力センサ92が設けられている。
【0033】
また、ガスエンジンシステム1は、燃料ガス供給ライン101から分岐して燃料ガスの一部をガスエンジン3の副室315に供給する上述の副室ガス供給ライン105を備える。副室ガス供給ライン105には、ガスエンジン3の副室に供給する燃料ガスの流量を制御する副室ガス調整弁75が設けられている。また、副室ガス供給ライン105の燃料ガスの流れ方向の下流側には、副室ガス供給ライン105の圧力を検出する副室ガス圧力センサ94が設けられている。
【0034】
ガスエンジン3のクランクシャフト4にはフライホイール13が備えられ、フライホイール13には発電機15が直接取り付けられている。フライホイール13にはガスエンジン3の回転数を検出する回転数センサ95が設けられ、発電機15には発電機15の負荷つまりエンジン負荷を検出する負荷センサ93が設けられている。また、ガスエンジン3には、ガスエンジン3の主室307内の圧力を検出する筒内圧センサ(不図示)が設けられていてもよい。
【0035】
図2に示すように、ガスエンジン3は、シリンダ301と、シリンダ301内を往復摺動自在に嵌合されたピストン303と、を備えている。ピストン303の上面と、シリンダ301及びシリンダライナ305の内面とによって、主室(主燃焼室)307が画定される。
【0036】
また、ガスエンジン3は、主室307に接続された吸気ポート311、及び、該吸気ポート311を開閉する吸気弁313等を備えている。吸気ポート311の上流側には上述した給気ライン103が接続されている。そのため、給気ライン103を介して供給される混合ガスは、吸気ポート311を経て吸気弁313に達し、吸気弁313の開弁によって主室307に供給される。
【0037】
ガスエンジン3は、ノズルホルダー321と該ノズルホルダー321の先端部に取り付けられた副室口金317とを備え、該ノズルホルダー321の下端面と該副室口金317の内面とに囲まれた領域には副室315が形成されている。副室口金317には主室307と副室315とを連通する噴口319が複数形成されている。
【0038】
ノズルホルダー321の内部には、上述した副室ガス供給ライン105に接続された副室ガスライン323と、副室315にて副室ガスライン323によって供給された燃料ガスに点火する点火装置325とが設けられている。
【0039】
また、副室ガスライン323には、逆止弁327が備えられている。逆止弁327を介した副室315への燃料ガスの供給量は、副室ガス供給ライン105における逆止弁327の上流側の圧力と、逆止弁327の下流側との圧力差である副室差圧により決まる。ここで、逆止弁327の下流側の圧力は、例えば副室315の圧力、主室307の圧力、又は給気ライン103の圧力に基づいて求めることができる。
副室ガス調整弁75によって副室差圧を調節することで、逆止弁327を介して副室315に供給される燃料ガスの流量が制御可能となっている。なお、詳細は後述するように、副室ガス調整弁75の開度は、制御装置5によって制御されるようになっている。
【0040】
図1に示すように、制御装置5は、指令値設定部20を備えている。指令値設定部20は、後述する第1指令値算出部24、主室空気過剰率算出部26、副室空気過剰率算出部28、失火率取得部30、記憶部34、副室空気過剰率目標値設定部43等を含んでいる。
【0041】
制御装置5は、CPU、メモリ(RAM)、補助記憶装置及びインターフェース等を含んでいてもよい。制御装置5は、インターフェースを介して、各種センサ(給気圧力センサ92、副室ガス圧力センサ94、負荷センサ93、回転数センサ95等)からの情報(計測結果を示す信号)受け取るように構成されている。CPUは、このようにして受け取った情報を処理するように構成される。また、CPUは、メモリに展開されるプログラムを処理するように構成される。
【0042】
上述の指令値設定部20等は、CPUにより実行されるプログラムとして実装され、補助記憶装置に記憶されていてもよい。プログラム実行時には、これらのプログラムはメモリに展開される。CPUは、メモリからプログラムを読み出し、必要に応じて各種センサから受け取った情報を用いて、プログラムに含まれる命令を実行するようになっている。
【0043】
以下、幾つかの実施形態に係る制御装置5について、より詳細に説明する。
【0044】
制御装置5の指令値設定部20は、各種センサ(給気圧力センサ92、副室ガス圧力センサ94、負荷センサ93、回転数センサ95等)から受け取った信号や、後述する失火率マップに基づいて、副室ガス調整弁75の開度指令値を算出(設定)するように構成されている。副室ガス調整弁75は、制御装置5から開度指令値を受け取って、該開度指令値に基づいて開度が調節されるように構成されている。
【0045】
図3及び
図6は、それぞれ、一実施形態に係る制御装置5のブロック図である。
図3及び
図6に示す制御フローに基づく制御は、少なくともガスエンジン3の負荷増加時において行われる。エンジン負荷の増加時とは、定常運転時とは異なり、エンジン負荷が増加する過渡的な運転状態であるときをいい、例えば、ガスエンジン3に接続される発電機15(
図1参照)の負荷投入時等を含む。なお、
図3に示す制御フローによる制御は、ガスエンジン3の定常運転時(即ち、エンジン負荷がほぼ定常的に推移している運転状態であるとき)に行ってもよい。
【0046】
図3に示す例示的な実施形態では、指令値設定部20は、第1指令値算出部(フィードバック指令値算出部)24、主室空気過剰率算出部26、副室空気過剰率算出部28、失火率取得部30、比較部36、及び、切替器40等を含む。
【0047】
図3に示す制御装置5では、第1指令値算出部24にて、副室ガス調整弁75の開度指令値Iの候補となるフィードバック指令値I
FBが算出される。具体的には、まず、副室差圧の目標値と、実際の副室差圧(P2-P1)とが減算器22に入力され、減算器22にて、実際の副室差圧と上述の目標値との偏差(差分)が算出される。
【0048】
ここで、副室差圧とは、ガスエンジン3の副室315(
図2参照)に供給される燃料ガスの圧力P2と、主室307に供給される混合気の圧力P1との差である。
副室差圧の目標値は、エンジン回転数及びエンジン負荷に対する副室差圧のマップから取得されるようになっている。なお、予め実験等により取得された上述のマップが、制御装置5の記憶装置に格納されており、第1指令値算出部24による演算時に、記憶装置から当該マップが読み出されるようになっていてもよい。
また、実際の副室差圧(P2-P1)は、副室ガス圧力センサ94で取得される圧力P2及び、給気圧力センサ92で取得される圧力P1に基づき算出するようにしてもよい。
【0049】
減算器22で算出された副室差圧の実際値と目標値との偏差は第1指令値算出部24入力される。第1指令値算出部24は、該偏差に基づいて、副室ガス調整弁75の開度に係るフィードバック指令値IFBを算出し、切替器40に出力する。
【0050】
なお、第1指令値算出部24は、減算器22から受け取った偏差に基づいて比例・積分演算を行うことにより、フィードバック指令値IFBを算出し出力するPI制御器であってもよい。あるいは、第1指令値算出部24は、減算器22から受け取った偏差に基づいて比例・積分・微分演算を行うことにより、フィードバック指令値IFBを算出し出力するPID制御器であってもよい。
【0051】
一方、
図3に示す制御装置5では、主室空気過剰率算出部26にて、主室307に供給される混合気の空気過剰率である主室空気過剰率λ1を算出し、副室空気過剰率算出部28にて、点火時における副室315内のガスの空気過剰率である副室空気過剰率λ2を算出する。
【0052】
主室空気過剰率λ1は、給気マニホールド103bを介して主室307に供給される空気量と、燃料量とから算出することができる。主室307に供給される空気量は、例えば、エンジン回転数、給気ライン圧力、及び、体積効率マップを用いて算出することができる。また、主室307に供給される燃料量は、例えば、燃料ガス供給ライン101に設けられた燃料ガス供給量制御部71における流量等に基づいて算出することができる。
主室空気過剰率算出部26で算出された主室空気過剰率λ1は、失火率取得部30及び副室空気過剰率算出部28に出力される。
【0053】
副室空気過剰率λ2は、少なくとも、主室307に供給される混合気の圧力P1、主室空気過剰率算出部26にて算出された主室空気過剰率λ1、及び、副室315に供給される燃料ガスの圧力P2と圧力P1との差である副室差圧(P2-P1)に基づいて算出推定されるようになっている。
【0054】
ここで、
図5を参照して、副室空気過剰率λ2の計算方法についてより具体的に説明する。
図5は、一実施形態に係る副室空気過剰率λ2の計算フローを示す図である。
【0055】
図5に示すように、まず、副室差圧を計測(算出)する(ステップS1)。次に、副室315への燃料ガスの供給量を計算する(ステップS2)。次に、点火前の副室315の空気量及び燃料ガス量を計算する(ステップS4)。次に、点火時期における副室315の空気量及び燃料ガス量を計算する(ステップS6)。そして、点火時期における副室315内の空気過剰率λ2を算出する(ステップS8)。
なお、点火前とは、ピストン303が下死点近傍に位置し、主室の容積が最も大きい時期であり、点火時期とは、ピストン303が上死点近傍に位置し、主室の容積が最も小さい時期である。
【0056】
ステップS1では、副室315に供給される燃料ガスの圧力P2を副室ガス圧力センサ94で計測し、また、主室307に供給される混合気の圧力P1を給気圧力センサ92で計測する。そして、圧力P1及び圧力P2の計測結果に基づいて、副室差圧(P2-P1)を算出する。
【0057】
ステップS2では、上述の副室差圧(P2-P1)に基づいて、副室315への燃料ガスの供給量を計算する。
ステップS4では、ステップS2で計算された副室315への燃料ガス供給量、及び、副室315の容積等に基づいて、点火前の副室315の空気量及び燃料ガス量を計算する。
ステップS6では、ステップS4で算出された点火前の副室315の空気量及び燃料ガス量、主室空気過剰率算出部26で算出された主室空気過剰率λ1、及び、圧縮比等に基づいて、点火時期における副室315の空気量及び燃料ガス量を計算する。
ステップS8では、ステップS6で算出した点火時期における副室315の空気量及び燃料ガス量に基づいて、点火時における副室315内のガスの空気過剰率λ2を計算する。
【0058】
図3に示すように、副室空気過剰率算出部28で算出された副室空気過剰率λ2は、失火率取得部30に出力される。
【0059】
失火率取得部30では、主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2と、記憶部34から取得した失火率マップ200に基づいて、入力された主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2に対応する失火率Rを取得する。
【0060】
図4は、失火率マップ200の一例である。失火率マップ200は、主室空気過剰率λ1、副室空気過剰率λ2、及び、失火率Rの相関関係を示すマップである。
図4において、縦軸は主室空気過剰率λ1を示し、横軸は副室空気過剰率λ2を示す。
【0061】
また、
図4において、直線L11~L13及びL21~L23は、それぞれ、等失火率曲線を示す(なお
図4においては、等失火率曲線は直線である)。図中のR1~R3は、直線L11,L21における失火率はR1であり、直線L12,L22における失火率はR2であり、直線L13,L23における失火率はR3であることを示す。
失火率R1~R3の大小関係は、R1<R2<R3である。すなわち、直線L11よりも左側の領域A1(λ2が小さい領域)においては、λ2が小さくなるほど失火率が高くなる。また、直線L21よりも右側の領域A2(λ2が大きい領域)においては、λ2が大きくなるほど失火率が高くなる。
【0062】
図4に示す失火率マップ200において失火率がR1よりも大きい領域A1,A2は、副室内失火が起きる可能性が高い失火領域を示す。なお、失火率マップ200において失火率がR1よりも小さい領域A0は、副室内失火が起きる可能性が比較的低い安定燃焼領域である。
【0063】
すなわち、主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2が取得されていれば、失火率マップ200を参照することにより、主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2に対応する失火率Rを取得することができる。
【0064】
失火率マップ200は、予め実験的に作成されたものであってもよい。また、予め作成された失火率マップ200が、制御装置5の記憶部34に格納されていてもよい。
【0065】
失火率取得部30で取得された失火率Rは、比較部36に入力される。比較部36では、入力された失火率Rを、閾値Rthと比較する。閾値Rthは、例えば、
図4に示す失火率マップ200におけるR1であってもよい。失火率RがR1よりも大きい場合、その失火率Rは、失火領域A1,A2の領域内に入っているためである。
【0066】
比較部36で失火率Rと閾値Rthとを比較した結果、失火率Rが閾値Rthよりも大きい場合(R>Rth)、比較部36は、「ON」を示す信号を出力し、この信号を受け取った切替器40は、メモリ38から開度指令値Imem(固定値)を読み出し、これを開度指令値Iとして副室ガス調整弁75に向けて出力する。開度指令値Imemは、例えばゼロであってもよい。この場合、開度指令値Iとしてゼロ値が出力され、副室ガス調整弁75は閉止される(即ち、開度ゼロとなる)。
【0067】
一方、比較部36で失火率Rと閾値Rthとを比較した結果、失火率Rが閾値Rthよりも小さい場合(R<Rth)、比較部36は、「OFF」を示す信号を出力し、この信号を受け取った切替器40は、第1指令値算出部24から受け取ったフィードバック指令値IFBを開度指令値Iとして副室ガス調整弁75に向けて出力する。この場合、副室ガス調整弁75の開度が、フィードバック指令値IFBに一致するように調節される。
【0068】
上述した実施形態に係る制御装置5の指令値設定部20は、少なくともエンジン負荷の増加時において、上述の失火率マップ200に基づいて、副室空気過剰率λ2が、該失火率マップ200における失火領域A1,A2(
図4参照)に入らないように、副室ガス調整弁75の開度指令値Iを設定するように構成されている。
すなわち、失火率マップ200から取得された失火率Rが閾値Rthを超えて失火領域A1,A2に入ろうとしたとき、副室ガス調整弁75の開度指令値Iを規定の値(例えばゼロ)にするようになっている。
【0069】
したがって、主室空気過剰率λ1が比較的小さい場合であっても、副室315内への燃料ガスの供給量を適切に調節して、副室空気過剰率λ2が過度に小さくなるのを抑制して副室内失火を回避することができる。これにより、負荷投入時におけるエンジン回転数の大幅な低下を抑制することができ、負荷投入時であっても、安定的にエンジンを運転することができる。
【0070】
また、上述した実施形態では、制御装置5の副室空気過剰率算出部28は、少なくとも、主室307に供給される混合気の圧力P1、主室空気過剰率λ1、及び、副室315に供給される燃料ガスの圧力P2と前記圧力P1との差である副室差圧(P2-P1)に基づいて、副室空気過剰率λ2を推定するように構成される。
【0071】
上述の構成を有する副室空気過剰率算出部28によれば、副室空気過剰率λ2を適切に推定することができる。よって、このように取得された副室空気過剰率λ2の推定値を用いて、上述の失火率マップ200に基づいて、副室空気過剰率λ2が失火率マップ200の失火領域A1,A2に入らないように副室ガス調整弁75の開度指令値Iを設定することで、副室315内への燃料ガスの供給量を適切に調節することができる。
【0072】
また、指令値設定部20は、少なくともエンジン負荷の増加時において、主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2に基づいて失火率マップ200から取得される失火率Rが閾値Rthよりも大きくなったときに、副室ガス調整弁75の開度指令値Iをゼロに設定するように構成されていてもよい。
【0073】
この場合、主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2に基づいて失火率マップ200から取得される失火率Rが閾Rth値よりも大きくなったときに、副室ガス調整弁75の開度指令値Iをゼロに設定し、副室315への燃料ガスの供給を遮断する。したがって、主室空気過剰率λ1が比較的小さい場合であっても、副室315内への燃料ガスの供給を遮断することで、副室空気過剰率λ2が過度に小さくなるのを抑制して副室内失火をより確実に回避することができる。これにより、負荷投入時におけるエンジン回転数の大幅な低下を抑制することができ、負荷投入時であっても、安定的にエンジンを運転することができる。
【0074】
また、上述した実施形態において、第1指令値算出部(フィードバック指令値算出部)24は、副室差圧(P2-P1)と、該副室差圧の目標値との偏差に基づいて、副室ガス調整弁75の開度のフィードバック指令値IFBを算出するように構成されている。そして、指令値設定部20は、少なくともエンジン負荷の増加時において、主室空気過剰率λ1及び前記副室空気過剰率λ2に基づいて失火率マップ200から取得される失火率Rが閾値Rth以下のときには、フィードバック指令値IFBを副室ガス調整弁75に出力する開度指令値Iとして設定するように構成される。
【0075】
このように、上述の実施形態では、主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2に基づき失火率マップ200から取得される失火率Rが閾値Rthを超えたか否か(すなわち失火率マップ200上で失火領域A1,A2に入ったか否か)により、開度指令値Iを、メモリ38に格納された固定値(Imem,例えばゼロ)と、第1指令値算出部24によるフィードバック制御演算による算出値(フィードバック指令値IFB)との間で切り替える。
したがって、取得された失火率Rが失火領域A1,A2に入っていないとき(すなわち、失火率Rが安定燃焼領域A0にあるとき)には、フィードバック制御による開度調節により、副室315への燃料ガス供給量を細やかに調節して副室差圧を目標値に近づけることができるとともに、取得された失火率Rが失火領域A1,A2に入ったときには、開度指令値Iをゼロとすることで、燃料供給を遮断して副室内失火を確実に回避することができる。これにより、負荷投入時におけるエンジン回転数の大幅な低下を抑制することができ、負荷投入時であっても、安定的にエンジンを運転することができる。
【0076】
幾つかの実施形態では、ガスエンジン3は、複数のシリンダ301及びピストン303によってそれぞれ画定される複数の主室307と、複数の主室307に対応してそれぞれ設けられる複数の副室315及び複数の副室ガス調整弁75と、を含んでいてもよい。この場合、副室空気過剰率算出部28は、複数のシリンダ301の各々についての流量係数に基づいて、複数のシリンダ301の各々について副室空気過剰率λ2を推定するように構成されていてもよい。
【0077】
ガスエンジン3が複数のシリンダ301及びピストン303を含む場合、副室315の噴口径はシリンダ301ごとにばらつきが存在するため、上述の副室差圧(P2-P1)が同一であっても主室307から副室315に流入する混合気の流量は気筒ごとにばらつく場合がある(即ち、流量係数が気筒ごとに異なる場合がある)。
この点、上述の実施形態によれば、シリンダ301ごとの流量係数を考慮して、複数のシリンダ301の各々についての副室空気過剰率λ2を算出するようにしたので、このように取得された副室空気過剰率λ2の推定値を用いることで、該副室空気過剰率λ2に対応する失火率Rをより精度良く把握することができる。よって、複数のシリンダ301の各々について、得られた副室空気過剰率λ2の推定値が失火率マップの失火領域A1,A2に入らないように副室ガス調整弁75の開度指令値を設定することで、副室315内への燃料ガスの供給量をより適切に調節することができる。
【0078】
図6に示す例示的な実施形態では、指令値設定部20は、主室空気過剰率算出部26、副室空気過剰率目標値設定部43、副室差圧目標値算出部44、第2指令値算出部48等を含む。
【0079】
主室空気過剰率算出部26は、
図3に示す実施形態と同様、主室307に供給される混合気の空気過剰率である主室空気過剰率λ1を算出し、算出した主室空気過剰率λ1を副室空気過剰率目標値設定部43及び副室差圧目標値算出部44に出力するようになっている。
【0080】
副室空気過剰率目標値設定部43は、記憶部34から失火率マップ201を取得し、該失火率マップ201に基づいて、副室空気過剰率の目標値λ2*(目標副室空気過剰率λ2*)を取得するように構成される。
【0081】
ここで、
図7は、失火率マップ201の一例である。
図7に示す失火率マップ201は、
図4に示す失火率マップ200と基本的には同様のマップであるが、
図7に示す失火率マップ201には、さらに、失火率Rが極小の失火率Rminとなる主室空気過剰率λ1と副室空気過剰率λ2との組み合わせを示す極小失火率曲線Lminが示されている。
【0082】
副室空気過剰率目標値設定部43は、主室空気過剰率算出部26から受け取った現在の主室空気過剰率λ1と、失火率マップ201の極小失火率曲線Lminに基づいて、現在の主室空気過剰率λ1に対応する副室空気過剰率λ2の目標値λ2*を取得する。このように取得された副室空気過剰率λ2の目標値λ2*は、副室差圧目標値算出部44に出力される。
【0083】
副室差圧目標値算出部44は、副室空気過剰率λ2の目標値λ2*に対応する副室差圧の目標値を算出する。より具体的には、
図5に示すフローを逆順に行うことによって、副室空気過剰率λ2の目標値λ2*に対応する副室差圧の目標値(目標副室差圧)を算出する。
【0084】
すなわち、まず、副室空気過剰率λ2の目標値λ2*に基づいて、この目標値が得られるような、点火時期の副室315の空気量及び燃料ガス量を計算する(ステップS8参照)。そして、計算により得られた点火時期の副室315の空気量及び燃料ガス量に基づいて、これらの空気量及び燃料ガス量が得られるような、点火前の副室315の空気量及び燃料ガス量を計算する(ステップS6参照)。そして、計算により得られた点火前の副室315の空気量及び燃料ガス量に基づいて、これらの空気量及び燃料ガス量が得られるような、副室315への燃料ガス供給量を計算する(ステップS4参照)。そして、計算により得られた燃料ガス供給量に基づいて、該燃料ガス供給量を得るために必要な副室差圧の目標値(目標副室差圧)を算出する(ステップS2参照)。
【0085】
副室差圧目標値算出部44で算出された副室差圧の目標値は減算器46に入力される。減算器46には、実際の副室差圧(P2-P1)も入力され、減算器46にて、実際の副室差圧と上述の目標値との偏差(差分)が算出される。
【0086】
減算器46で算出された副室差圧の実際値と目標値との偏差は第2指令値算出部48入力される。第2指令値算出部48は、該偏差に基づいて、副室ガス調整弁75の開度に係るフィードバック指令値を算出し、これを開度指令値Iとして、副室ガス調整弁75に向けて出力する。この場合、副室ガス調整弁75の開度が、算出されたフィードバック指令値に一致するように調節される。すなわち、副室差圧が目標副室差圧となるように、また、副室空気過剰率λ2が目標副室空気過剰率λ2*に近づくように、副室ガス調整弁75の開度が制御される。
なお、第2指令値算出部48は、第1指令値算出部24と同様、PI制御器やPID制御器であってもよい。
【0087】
上述した実施形態では、指令値設定部20は、少なくともエンジン負荷の増加時において、失火率マップ201上において失火率Rが最小となる主室空気過剰率λ1と副室空気過剰率λ2との組み合わせを示す最小失火率曲線Lminに基づいて、現在の主室空気過剰率λ1に対応する副室空気過剰率λ2の目標値を取得し、副室空気過剰率λ2が該目標値に近づくように、副室ガス調整弁75の開度指令値Iを設定するように構成されている。
【0088】
したがって、このように設定された開度指令値Iに基づいて副室315への燃料ガス供給量を調節することにより、主室空気過剰率λ1が比較的小さい場合であっても、副室空気過剰率λ2が過度に小さくなるのを抑制して副室内失火を適切に回避することができる。
【0089】
幾つかの実施形態では、上述したマップ取得部32(
図3及び
図6参照)は、ガスエンジン3の運転条件(例えば、外気温、主室307に供給される混合気の温度、又は燃料ガスの性状等)に応じた失火率マップ200,201を取得するように構成されていてもよい。
【0090】
例えば、一実施形態では、記憶部34は、異なる複数の運転条件に対応する複数の失火率マップ200,201を記憶していてもよい。また、失火率取得部30(
図3参照)又は副室空気過剰率目標値設定部43(
図6参照)は、複数の失火率マップ200,201から、現在の運転条件に合う失火率マップ200,201を選択して取得するように構成されていてもよい。
【0091】
あるいは、一実施形態では、制御装置5は、記憶部34に記憶された失火率マップ200,201を現在の運転条件に合わせて補正するマップ補正部(不図示)を備えていてもよい。また、失火率取得部30(
図3参照)又は副室空気過剰率目標値設定部43(
図6参照)は、前述のマップ補正部による補正後の失火率マップ200,201を取得するようになっていてもよい。
【0092】
上述の実施形態によれば、ガスエンジン3の運転条件に応じた失火率マップ200,201を用いて開度指令値Iを設定することができるので、主室空気過剰率λ1及び副室空気過剰率λ2に基づいて、ガスエンジン3の運転条件に応じた失火率Rを取得することができる。したがって、このように取得した失火率Rに基づいて、副室ガス調整弁75の開度指令値Iをより適切に設定することができる。よって、主室空気過剰率λ1が比較的小さい場合であっても、副室315内への燃料ガスの供給量をより適切に調節して、副室空気過剰率λ2が過度に小さくなるのを抑制して副室内失火を回避することができる。
【0093】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【0094】
本明細書において、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
また、本明細書において、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
また、本明細書において、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【符号の説明】
【0095】
1 ガスエンジンシステム
3 ガスエンジン
4 クランクシャフト
5 制御装置
11 過給機
11a コンプレッサ
11b 排気タービン
13 フライホイール
15 発電機
17 エアクリーナ
19 ガスミキサ
20 指令値設定部
22 減算器
24 第1指令値算出部
26 主室空気過剰率算出部
28 副室空気過剰率算出部
30 失火率取得部
34 記憶部
36 比較部
38 メモリ
40 切替器
42 副室空気過剰率取得部
44 副室差圧目標値算出部
46 減算器
48 第2指令値算出部
71 燃料ガス供給量制御部
73 給気制御弁
75 副室ガス調整弁
92 給気圧力センサ
93 負荷センサ
94 副室ガス圧力センサ
95 回転数センサ
101 燃料ガス供給ライン
103 給気ライン
103a 上流側給気ライン
103b 給気マニホールド
105 副室ガス供給ライン
107 燃焼用空気供給ライン
200 失火率マップ
201 失火率マップ
301 シリンダ
303 ピストン
305 シリンダライナ
307 主室
311 吸気ポート
313 吸気弁
315 副室
317 副室口金
319 噴口
321 ノズルホルダー
323 副室ガスライン
325 点火装置
327 逆止弁
A0 安定燃焼領域
A1 失火領域
A2 失火領域