(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】レンズユニットおよびカメラモジュール
(51)【国際特許分類】
G02B 7/02 20210101AFI20231226BHJP
G03B 15/00 20210101ALI20231226BHJP
G03B 30/00 20210101ALI20231226BHJP
H04N 23/52 20230101ALI20231226BHJP
【FI】
G02B7/02 F
G02B7/02 D
G03B15/00 V
G03B30/00
H04N23/52
(21)【出願番号】P 2019127784
(22)【出願日】2019-07-09
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(74)【代理人】
【識別番号】100217755
【氏名又は名称】三浦 淳史
(72)【発明者】
【氏名】平田 弘之
【審査官】登丸 久寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-105791(JP,A)
【文献】特開2016-224388(JP,A)
【文献】特開2017-021086(JP,A)
【文献】国際公開第2011/105222(WO,A1)
【文献】特開2003-279824(JP,A)
【文献】実開昭59-048513(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 7/02
G03B 15/00
G03B 30/00
H04N 23/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状に形成された金属製の鏡筒と、
前記鏡筒における像側内周面に、径方向内側に向かって延びるように形成された環状の支持部と、
前記鏡筒の内側に、前記鏡筒の軸方向に沿って並べて配置された樹脂製のレンズを含む複数のレンズと、
前記鏡筒の物体側端部に装着され、前記支持部との間で、前記樹脂製のレンズを含む複数のレンズを保持する蓋部材とを備え、
前記支持部の内周側端部に、物体側に向かって突出した凸部が形成され、
最も像側の樹脂製レンズにおける、前記凸部と対向する位置に、物体側に向かって窪んだ凹部が形成され、
前記樹脂製レンズの外周面と前記鏡筒の内周面との間に、径方向における第1の隙間が設けられているとともに、前記凸部の外周面と前記凹部の側面との間に、径方向における第2の隙間が設けられており、
常温より高い温度である第1の所定温度になると、前記樹脂製レンズの外周面と前記鏡筒の内周面とが当接し、
常温より低い温度である第2の所定温度になると、前記凸部の外周面と前記凹部の側面とが当接することを特徴とするレンズユニット。
【請求項2】
円筒状に形成された金属製の鏡筒と、
前記鏡筒における像側内周面に、径方向内側に向かって延びるように形成された環状の支持部と、
前記鏡筒の内側に、前記鏡筒の軸方向に沿って並べて配置された樹脂製のレンズを含む複数のレンズと、
前記鏡筒の物体側端部に装着され、前記支持部との間で、前記樹脂製のレンズを含む複数のレンズを保持する蓋部材とを備え、
前記支持部の内周側端部に、物体側に向かって突出した凸部が形成され、
最も像側の樹脂製レンズにおける、前記凸部と対向する位置に、物体側に向かって窪んだ凹部が形成され、
前記凸部の内周面と前記凹部の内側の側面との間に、径方向における第1の隙間が設けられているとともに、前記凸部の外周面と前記凹部の外側の側面との間に、径方向における第2の隙間が設けられており、
常温より高い温度である第1の所定温度になると、前記凸部の内周面と前記凹部の内側の側面とが当接し、
常温より低い温度である第2の所定温度になると、前記凸部の外周面と前記凹部の外側の側面とが当接することを特徴とするレンズユニット。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載のレンズユニットと、前記レンズユニットで結像された画像を撮像する撮像素子とを備えることを特徴とするカメラモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズユニットおよびカメラモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車載カメラが撮影した画像データを解析し、車両、歩行者、交通標識等を認識して、ドライバーに注意、警告を促したり、自動車の走行を制御することが行われている。自動車の走行の制御については、例えば車間距離制御、駐車支援等がある。このように車載カメラは、センシングカメラ(センシング系)の機能を有するようになっている。
【0003】
車載カメラには、レンズユニット(例えば、特許文献1参照)が用いられている。特許文献1に開示されたレンズユニットでは、円筒状の鏡筒の内側に、4つのレンズが光軸方向に沿って並べて配置されている。また、レンズ間には絞り部材が配置されている。レンズおよび絞り部材は、鏡筒の像側に形成された縮径部と、鏡筒の物体側に形成された熱カシメ部との間に挟み込まれた状態で保持されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のようなレンズユニットは、撮像対象を向く側(物体側)が車外に露出し、低温の環境または高温の環境に曝される。或いは運転室内に設置された場合は、夏場や炎天下の環境など過度の高温に曝される。このため、低温(例えば-40℃)または高温(例えば105℃)の環境に置かれた場合でも、レンズユニットの光学性能が低下しないことが要求される。光学性能としては、解像度、画角、光軸、フランジバック等が所定の要件(仕様)を満たすことが求められている。
【0006】
金属製の鏡筒の内側に、樹脂製(プラスチック製)のレンズを配置した仕様のレンズユニットが存在するが、プラスチックレンズの線膨張係数(例えば6×E-5[1/K])は、金属の線膨張係数より2倍以上大きいため、例えば-40℃から105℃の範囲で光学性能を満足しなければならない場合、そのような仕様のレンズユニットを用いることができない場合があるという問題があった。しかし、プラスチックレンズは生産性に富み、非球面化が容易であるため常温での性能を向上させやすく、極めて有益な材料である。そのため、金属製鏡筒の内側にプラスチックレンズを配置した仕様のレンズユニットにおける、低温環境下および高温環境下でのレンズユニットの光学性能の低下を防ぐことが望まれている。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、金属製鏡筒の内側に樹脂製レンズが配置されたレンズユニットであって、低温時および高温時の光学性能の低下が抑制されたレンズユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明のレンズユニットは、
円筒状に形成された金属製の鏡筒と、
前記鏡筒における像側内周面に、径方向内側に向かって延びるように形成された環状の支持部と、
前記鏡筒の内側に、前記鏡筒の軸方向に沿って並べて配置された樹脂製のレンズを含む複数のレンズと、
環状に形成され、所定の樹脂製レンズに隣接して配置された金属製のスペーサと、
前記鏡筒の物体側端部に装着され、前記支持部との間で、前記樹脂製のレンズを含む複数のレンズおよび前記スペーサを保持する蓋部材とを備え、
前記スペーサの内周側端部に、像側または物体側の少なくとも一方に向かって突出した凸部が形成され、
前記樹脂製レンズにおける、前記凸部と対向する位置に、像側または物体側に向かって窪んだ凹部が形成され、
前記樹脂製レンズの外周面と前記鏡筒の内周面との間に、径方向における第1の隙間が設けられているとともに、前記凸部の外周面と前記凹部の側面との間に、径方向における第2の隙間が設けられており、
常温より高い温度である第1の所定温度になると、前記樹脂製レンズの外周面と前記鏡筒の内周面とが当接し、
常温より低い温度である第2の所定温度になると、前記凸部の外周面と前記凹部の側面とが当接することを特徴とする。
【0009】
また、本発明のレンズユニットは、
円筒状に形成された金属製の鏡筒と、
前記鏡筒における像側内周面に、径方向内側に向かって延びるように形成された環状の支持部と、
前記鏡筒の内側に、前記鏡筒の軸方向に沿って並べて配置された樹脂製のレンズを含む複数のレンズと、
前記鏡筒の物体側端部に装着され、前記支持部との間で、前記樹脂製のレンズを含む複数のレンズを保持する蓋部材とを備え、
前記支持部の内周側端部に、物体側に向かって突出した凸部が形成され、
最も像側の樹脂製レンズにおける、前記凸部と対向する位置に、物体側に向かって窪んだ凹部が形成され、
前記樹脂製レンズの外周面と前記鏡筒の内周面との間に、径方向における第1の隙間が設けられているとともに、前記凸部の外周面と前記凹部の側面との間に、径方向における第2の隙間が設けられており、
常温より高い温度である第1の所定温度になると、前記樹脂製レンズの外周面と前記鏡筒の内周面とが当接し、
常温より低い温度である第2の所定温度になると、前記凸部の外周面と前記凹部の側面とが当接することを特徴とする。
【0010】
また、本発明のレンズユニットは、
円筒状に形成された金属製の鏡筒と、
前記鏡筒における像側内周面に、径方向内側に向かって延びるように形成された環状の支持部と、
前記鏡筒の内側に、前記鏡筒の軸方向に沿って並べて配置された樹脂製のレンズを含む複数のレンズと、
前記鏡筒の物体側端部に装着され、前記支持部との間で、前記樹脂製のレンズを含む複数のレンズを保持する蓋部材とを備え、
前記支持部の内周側端部に、物体側に向かって突出した凸部が形成され、
最も像側の樹脂製レンズにおける、前記凸部と対向する位置に、物体側に向かって窪んだ凹部が形成され、
前記凸部の内周面と前記凹部の内側の側面との間に、径方向における第1の隙間が設けられているとともに、前記凸部の外周面と前記凹部の外側の側面との間に、径方向における第2の隙間が設けられており、
常温より高い温度である第1の所定温度になると、前記凸部の内周面と前記凹部の内側の側面とが当接し、
常温より低い温度である第2の所定温度になると、前記凸部の外周面と前記凹部の外側の側面とが当接することを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、常温より高い温度である第1の所定温度になると、樹脂製レンズの外周面と鏡筒の内周面とが当接し(あるいは、凸部の内周面と凹部の内側の側面とが当接し)、常温より低い温度である第2の所定温度になると、凸部の外周面と前記凹部の側面(外側の側面)とが当接する。すなわち、高温時に第1の隙間がゼロとなり、低温時に第2の隙間がゼロとなる。このため、樹脂製レンズの径方向(軸方向と直交する方向)に対する位置が規制され、樹脂製レンズの光軸からの偏心が抑制される。これにより、金属製鏡筒の内側に樹脂製レンズを配置してなるレンズユニットにおける、高温時および低温時の光学性能の低下(温度変化に伴う光学性能の劣化)を抑制できる。すなわち、レンズユニットの信頼性を向上させることができる。
【0012】
また、本発明のレンズユニットは、
円筒状に形成された金属製の鏡筒と、
前記鏡筒における像側内周面に、径方向内側に向かって延びるように形成された環状の支持部と、
前記鏡筒の内側に、前記鏡筒の軸方向に沿って並べて配置された複数のレンズと、
環状に形成され、前記レンズに隣接して配置されたスペーサと、
前記鏡筒の物体側端部に装着され、前記支持部との間で、前記レンズおよび前記スペーサを保持する蓋部材とを備え、
前記鏡筒の内側におけるレンズがガラス製レンズを含み、前記鏡筒がフェライト系ステンレスまたはマルテンサイト系ステンレスで形成され、
前記ガラス製のレンズの線膨張係数と、前記鏡筒の線膨張係数とが近似していることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の前記構成において、前記鏡筒の内側における少なくとも最も屈折力の高いレンズがガラス製のレンズであり、前記鏡筒がフェライト系ステンレスまたはマルテンサイト系ステンレスで形成され、前記ガラス製のレンズの線膨張係数と、前記鏡筒の線膨張係数とが近似していることを特徴とする。
【0014】
また、本発明の前記構成において、前記鏡筒の内側におけるレンズが全てガラス製のレンズであり、前記鏡筒がフェライト系ステンレスまたはマルテンサイト系ステンレスで形成され、前記ガラス製のレンズの線膨張係数と、前記鏡筒の線膨張係数とが近似していることを特徴とする。
【0015】
このような構成によれば、ガラス製レンズの線膨張係数と鏡筒の線膨張係数とが近似しているため、両者の差が大きい場合における、レンズユニットの光学性能の低下につながる問題の発生を防止できる。当該問題とは、高温時に、鏡筒の内周面と、ガラス製レンズの外周面との間に隙間が形成され、ガラス製レンズが径方向に移動して偏心するという問題や、低温時に、鏡筒の内周面がガラス製レンズの外周面に当接し、ガラス製レンズが変形、破損してしまうという問題である。これにより、高温時および低温時のレンズユニットの光学性能の低下を抑制し、レンズユニットの信頼性を向上させることができる。
【0016】
また、本発明の前記構成において、前記鏡筒は、黒色酸化被膜で覆われていることを特徴とする。
【0017】
このような構成によれば、黒色酸化皮膜は反射率が低いため、ゴースト、フレア等のレンズとしての不要光の反射を抑えることができる。
【0018】
また、本発明の前記構成において、前記鏡筒の径方向の肉厚が2mm以下となっていることを特徴とする。
【0019】
このような構成によれば、鏡筒の径方向の肉厚が2mm以下となっているため、鏡筒が変形し易く、ガラスレンズにかかる応力を抑えることができる。
【0020】
また、本発明の前記構成において、前記鏡筒の外周面または内周面の少なくとも一方に、軸方向における複数の段差が設けられていることを特徴とする。
【0021】
このような構成によれば、鏡筒の内周面または外周面に複数の段差が設けられており、鏡筒の肉厚が変化する場合であっても、ガラスレンズの線膨張係数と鏡筒の線膨張係数とが近似しているため、レンズユニットの光学特性の劣化を防ぐことができる。
【0022】
また、本発明の前記構成において、前記鏡筒の内側に、2つのガラス製レンズが貼り合わされた、貼り合せレンズが配置されていることを特徴とする。
【0023】
このような構成によれば、ガラス製の貼り合せレンズを有し、レンズ同士の間に貼り合わせ部(例えば貼り合わせ樹脂)が形成されている場合であっても、ガラスレンズの線膨張係数と鏡筒の線膨張係数とが近似しているため、レンズユニットの光学特性の劣化を防ぐことができる。
【0024】
また、本発明のレンズユニットは、
円筒状に形成された金属製の鏡筒と、
前記鏡筒における像側内周面に、径方向内側に向かって延びるように形成された環状の支持部と、
前記鏡筒の内側に、前記鏡筒の軸方向に沿って並べて配置された樹脂製のレンズを含む複数のレンズと、
環状に形成され、前記レンズに隣接して配置されたスペーサと、
前記鏡筒の物体側端部に装着され、前記支持部との間で、前記樹脂製のレンズを含む複数のレンズおよび前記スペーサを保持する蓋部材とを備え、
前記蓋部材は、金属材料または樹脂材料で形成され、最も物体側に位置するレンズに当接し、軸方向に弾性変形可能となっていることを特徴とする。
【0025】
このような構成によれば、最も物体側に位置するレンズに当接する蓋部材が軸方向に弾性変形可能となっているため、鏡筒および蓋部材の軸方向寸法をL1とし、鏡筒の内側に配置される部品群の軸方向寸法をL2とした場合、高温時および低温時に、L1とL2の寸法差が生じることによる、レンズユニットの光学性能の低下につながる問題の発生を防止できる。当該問題とは、例えば、高温時に、軸方向に膨張した部品群が軸方向からの力を受けてレンズ(樹脂製レンズ)が変形、破損してしまうという問題や、低温時に、軸方向に収縮した部品群が軸方向に移動可能となり、レンズと撮像素子との距離が変化してしまうという問題である。これにより、高温時および低温時のレンズユニットの光学性能の低下を抑制し、レンズユニットの信頼性を向上させることができる。
【0026】
また、本発明の前記構成において、前記蓋部材は、円筒状の筒部と、前記筒部の物体側内周面から径方向内側に向かって延びるレンズ押え部を備え、前記レンズ押え部が前記最も物体側に位置するレンズと当接する点を保持点とし、前記レンズ押え部の基端部から保持点までの径方向長さをXとし、前記レンズ押え部の軸方向における厚さをZとし、前記保持点の軸方向の寸法変化をΔとした場合、X/Zが1.0以上であり、Δが40μm以下となっていることを特徴とする。
【0027】
このような構成によれば、最も物体側に位置するレンズが保持点から力を受けて破損するのを防止できるとともに、レンズ押え部が最も物体側に位置するレンズから力を受けて破損したり永久変形するのを防止できる。
【0028】
本発明のカメラモジュールは、前記構成のレンズユニットと、前記レンズユニットで結像された画像を撮像する撮像素子とを備えることを特徴とする。このような構成によれば、カメラモジュールは、上述の本発明のレンズユニットと同様の効果を奏することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、金属製鏡筒の内側に樹脂製レンズが配置されたレンズユニットにおける、低温時および高温時の光学性能の低下を抑制し、レンズユニットの信頼性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るカメラモジュールの軸方向断面図である。
【
図2】同、レンズユニットの要部を示す軸方向断面図である。
【
図3】同、レンズユニットの要部を示す軸方向断面図(変形例その1)である。
【
図4】同、レンズユニットの要部を示す軸方向断面図(変形例その2)である。
【
図5】本発明の第2の実施の形態に係るレンズユニットの軸方向断面図である。
【
図6】本発明の第3の実施の形態に係るカメラモジュールの軸方向断面図である。
【
図7】同、鏡筒の内側に配置される部品群の軸方向断面図である。
【
図9】同、蓋部材と第1レンズとの関係を示す軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
(第1の実施の形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第1の実施の形態について説明する。
図1は、第1の実施の形態に係るレンズユニット100を備えたカメラモジュール500の軸方向断面図である。なお、
図1では、断面であることを示すハッチングを省略している。カメラモジュール500は、レンズユニット100、支持部310、および撮像素子320等を備えている。
【0032】
レンズユニット100において、第1レンズ1、第2レンズ2、第3レンズ3、第4レンズ4(第4レンズ4は、レンズ4aとレンズ4bの貼合せレンズ)、および第5レンズ5が像を結ぶ像側(結像側)の端部に、光学フィルタ8が配置されている。また、レンズユニット100の像側であって、光学フィルタ8と対向する位置には撮像素子320が配置されており、この撮像素子320は第1レンズ1~第5レンズ5で結像された画像を撮像する。
【0033】
また、レンズユニット100は、像側とは反対側の端部、すなわち物体側の端部が撮像対象を向くように配置されている。このレンズユニット100を備えるカメラモジュール500は、物体の像を像側に形成するものであり、例えば自動車に搭載される車載カメラに用いられる。車載カメラには、例えば、車両のサイドミラーに搭載されて車両の後方を撮像するリアビューカメラがある。レンズユニット100は、物体側の端部が車両の外側に露出した状態で配置されている。
【0034】
レンズユニット100は、支持部310、撮像素子320、カメラケース、配線基板、信号処理回路、フレキシブル配線シート、およびコネクタ等とともにカメラモジュール500を構成する。なお、カメラモジュール500とは、少なくともレンズユニット100と撮像素子320とを備えたものをいう。撮像素子320は、レンズユニット100の像側に配置されている。
【0035】
カメラモジュール500は次のように動作する。物体側から入射する光は、レンズユニット100のレンズ群を介して撮像素子に入射する。撮像素子は、入射した像を電気信号に変換する。信号処理回路は、撮像素子からの電気信号に対して信号処理(A/D変換、画像補正処理等)を行う。信号処理回路から出力される電気信号は、フレキシブル配線シートおよびコネクタを介して外部の電子機器に出力される。
【0036】
レンズユニット100は、鏡筒10、第1レンズ1、第2レンズ2、第3レンズ3、第4レンズ4、第5レンズ5、スペーサ61,62,63、絞り7、光学フィルタ8、および蓋部材9等を備えている。鏡筒10は、円筒状の部材であり、アルミニウム合金等の金属で形成されている。
【0037】
第1レンズ1~第5レンズ5は、略円形状の樹脂製レンズ(プラスチックレンズ)である。第1レンズ1~第5レンズ5は、それぞれの光軸を一致させた状態で、鏡筒10の内側に配置されている。鏡筒10の内周面は、物体側から像側に向かって段階的に径(内径)が小さくなっている。また、第1レンズ1~第5レンズ5は、配置位置が物体側から像側に向かうにつれて、その外径が小さくなっている。なお、鏡筒10の内周面は、例えば12角形等の多角形状としてもよい。
【0038】
スペーサ(中間環)61,62,63は、環状の部材であり、アルミニウム合金等の金属で形成されている。このスペーサ61,62,63は、鏡筒10の内側のレンズ間等に配置されている。複数のスペーサは、材質は樹脂製(プラスチック)のものを含んでも良い。なお、スペーサ62の内周面は、ねじ形状に形成されている。内周面をねじ形状とする場合、時間のかかる切削加工の加工速度を高めることができ、生産性を向上させることができるとともに、ゴーストを効果的に防止できる。
【0039】
絞り(遮光板)7は、環状の部材であり、例えば金属で形成されている。この絞り7は、鏡筒10の内側のレンズ間等に配置されている。絞り7は、透過光量を制限し、明るさの指標となるF値を決定する開口絞りである。なお、ゴーストの原因となる光線や収差の原因となる光線を遮光する遮光絞りを必要に応じて各レンズ間に配置してもよい。
【0040】
光学フィルタ8は、例えば円形状に形成された赤外線カットフィルタである。この光学フィルタ8は、特定の周波数成分を除去する目的で配置されている。光学フィルタ8は、鏡筒10の像側の端面に、物体側に向かって凹むように形成された凹部に、例えば接着により固定されている。接着剤としては、紫外線硬化樹脂等が用いられる。
【0041】
鏡筒10の最も像側の内周面には、径方向内側に向かって突出し、軸方向から見て環状となっている支持部11が設けられている。この支持部11は、第5レンズ5の外径より小さい径の開口部を有している。支持部11は、第5レンズ5の外周部における像側の面に当接している。なお、レンズの外周部とは、レンズにおける有効径の外周側に形成されている部位(フランジ部)である。有効径とは、レンズにおいて、当該レンズに設定され、かつ許容される光学特性を有し、実際にレンズとして使用可能な部分を示すものであり、レンズの光軸を中心とする円の径で表される。
【0042】
鏡筒10の最も物体側の外周面には、雄ねじ部12が設けられている。また、鏡筒10の軸方向略中央部の外周面には、径方向外側に向かって突出する鍔状のフランジ部13が設けられている。
【0043】
蓋部材(レンズ押え)9は、略円筒状に形成された蓋状の部材であり、アルミニウム合金等の金属で形成されている。蓋部材9は、第1レンズ1の外径より小さい径の開口部を有している。また、蓋部材9の像側内周面には、雄ねじ部12と螺合可能な雌ねじ部9aが設けられている。この蓋部材9は、ねじ込みにより鏡筒10の物体側の端部に装着される。その際、蓋部材9の径方向内側の端部が、第1レンズ1の外周部に当接するようになっている。これにより、鏡筒10の内部(内側)に収容される部品は、軸方向において、蓋部材9と支持部11とに挟み込まれ、各部品の間に隙間が生じないようになっている。
【0044】
鏡筒10を支持する支持部310は、円筒形状を有しており、その物体側の端部がフランジ部13の像側の面と当接している。この支持部310は、鏡筒10と撮像素子320との距離を規制している。
【0045】
図2は、レンズユニット100の断面図の要部を示している。スペーサ63の外周面と鏡筒10の内周面とは当接している。すなわち、スペーサ63の外径は、鏡筒10の内周面の径と略同一となっている。これにより、スペーサ63の径方向(軸方向と直交する方向)に対する位置は、鏡筒10の内周面によって規制されている。
【0046】
一方、第5レンズ5(樹脂製レンズ)の外径は、鏡筒10の内径より僅かに小さく形成されている。すなわち、鏡筒10の内周面と第5レンズ5の外周面との間には、径方向において隙間(クリアランス)(第1の隙間)T1が全周にわたって設けられている。隙間T1は、約0.020mm程度である。
【0047】
また、スペーサ63における像側の内周部(像側の内周端部)には、像側に向かって突出した形状を有する凸部70が設けられている。この凸部70は、軸方向から見て環状となっている。本実施の形態では、凸部70は、先端側が基端側よりも径方向内側に位置するように軸方向に対して斜めに形成されている。換言すると、凸部70は、像側に向かうほど、その内径が徐々に小さくなっている。凸部70の最も像側の面は、軸方向と直交する面となっており、第5レンズ5における凹部80の底面81と当接している。
【0048】
第5レンズ5のフランジ部の物体側内周部には、像側に一段控えて(像側に一段窪むように)形成された凹部80が設けられている。この凹部80は、凸部70と対向する位置に設けられている。また、凹部80は、軸方向から見て環状となっており、底面81と側面82とを備えている。本実施の形態では、側面82は、物体側端部が像側端部よりも径方向外側となるように軸方向に対して斜めに形成されている。換言すると、側面82は、物体側に向かうほど、その内径が徐々に大きくなっている。
【0049】
図2に示すように、凸部70の外周面71および凹部80の側面82は、互いに略平行となっており、軸方向(光軸方向)に対して傾斜し、軸方向(光軸方向)とのなす角度が約20°となっている。また、外周面71と側面82との間には、径方向において隙間(クリアランス)(第2の隙間)T2が全周にわたって設けられている。隙間T2は、約0.016mm程度である。
【0050】
本実施の形態では、鏡筒10およびスペーサ61,62,63がアルミニウム合金で形成されており、その線膨張係数(線膨張率)は2.4×E-5(24×E-6)[1/K]となっている。また、樹脂製のレンズ(第1レンズ1~第5レンズ5)の線膨張係数(線膨張率)は、6.0×E-5[1/K]となっている。すなわち、
図2において、第5レンズ5(樹脂製レンズ)の線膨張係数は、鏡筒10およびスペーサ63の線膨張係数よりも大きい。なお、線膨張係数の単位は[mm/mmK]と同意である。
【0051】
ここで、レンズユニット100が常温(例えば25℃)より高い高温(+U℃)の環境に置かれた場合について説明する。
+U℃(例えば105℃)(第1の所定温度)の環境における第5レンズ5の膨張量(径方向外側)をXとする。また、+U℃の環境における鏡筒10の膨張量(径方向外側)をY(<X)とする。このときT1=X-Yとなっている。T1、X、Yはそれぞれの中心軸を同一とした際の径方向の寸法とする。このT1のクリアランス(全周)を設けておくことで、+U℃となった際に、第5レンズ5の外周面が鏡筒10の内周面に当接してT1=0となる。このため、第5レンズ5の径方向(軸方向と直交する方向)に対する位置が規制される。すなわち、第5レンズ5のガタつき(光軸からの偏心)が抑制され、偏心量を許容値内とすることができる。これにより、高温環境に曝された場合における、レンズユニット100の光学性能(解像度性能等)の劣化が抑制される。すなわち、プラスチックレンズを金属製の鏡筒10の内側に配置したレンズユニット100の信頼性を向上させることができる。換言すると、信頼性に優れたレンズユニット100を実現することができる。
【0052】
次に、レンズユニット100が常温(例えば25℃)より低い低温(-V°)の環境に置かれた場合について説明する。
-V℃(例えば-40℃)(第2の所定温度)の環境における第5レンズ5の収縮量(径方向内側)をAとする。また、-V℃の環境におけるスペーサ63の収縮量(径方向内側)をB(<A)とする。このときT2=A-Bとなっている。T2、A、Bはそれぞれの中心軸を同一とした際の径方向の寸法とする。このT2のクリアランス(全周)を設けておくことで、-V℃となった際に、凹部80の側面82が凸部70の外周面71に当接してT2=0となる。このため、第5レンズ5の径方向(軸方向と直交する方向)に対する位置が規制され、偏心量を許容値内とすることができる。すなわち、第5レンズ5のガタつき(光軸からの偏心)が抑制される。これにより、低温環境に曝された場合における、レンズユニット100の光学性能(例えば解像度性能)の劣化が抑制される。すなわち、プラスチックレンズを金属製の鏡筒10の内側に配置したレンズユニット100の信頼性を向上させることができる。換言すると、信頼性に優れたレンズユニット100を実現することができる。
【0053】
なお、本実施の形態では、スペーサ63と、スペーサ63の像側に隣接する第5レンズ5との関係について示したが、これに限らず、スペーサ(金属製)と当該スペーサに隣接するレンズ(樹脂製レンズ)との間に、上述の凸部70と凹部80の関係を設けることができる。
例えば、スペーサ63の物体側の内周部に、物体側に向かって突出する凸部70を設け、第4レンズ4のフランジ部の像側内周部に凹部80を設けてもよい。このとき、鏡筒10の内周面と第4レンズ4の外周面との間に隙間T1を確保し、かつ凸部70の外周面71と凹部80の側面82との間に隙間T2を確保する。このように構成することで、高温時にはT1=0となり、低温時にはT2=0となって、第4レンズ4の径方向に対する位置が規制され、第4レンズ4の光軸からの偏心が抑制される。これにより、レンズユニット100の光学性能が低下せず、レンズユニット100の信頼性を向上させることができる。
【0054】
また、本実施の形態では、スペーサ63に凸部70を設けたが、
図3に示すように、鏡筒10の支持部11に凸部70を設けてもよい。凸部70は、支持部11の内周側端部から、物体側に向かって突出するように形成されている。また、凸部70の外周面71は、物体側端部が像側端部よりも径方向内側となるように軸方向に対して斜めに形成されている。
【0055】
図3において、凹部80は、第5レンズ5のフランジ部の像側内周部に形成されている。凹部80は、物体側に向かって窪んだ形状となっている。凹部80は、底面81と、側面(外側の側面)82aと、側面(内側の側面)82bとを備えている。側面82aは、像側端部が物体側端部より径方向外側となるように軸方向に対して斜めに形成されている。側面82aと外周面71とは略平行となっている。
【0056】
図3に示すように、鏡筒10の内周面と第5レンズ5の外周面との間には、径方向において隙間T1が確保されている。また、凸部70の外周面71と凹部80の側面82aとの間には径方向において隙間T2が確保されている。なお、凸部70の内周面72と凹部80の側面82bとの間の径方向における隙間は、T1よりも大きい隙間となっている。このように構成することで、高温時にはT1=0となり、低温時にはT2=0となって、第5レンズ5の径方向に対する位置が規制され、第5レンズ5の光軸からの偏心が抑制される。これにより、レンズユニット100の光学性能が低下せず、レンズユニット100の信頼性を向上させることができる。
【0057】
また、
図4に示すように、隙間T1を確保する位置を異なる位置としてもよい。本例では、凸部70の内周面72は、物体側端部が像側端部よりも径方向外側となるように軸方向に対して斜めに形成されている。また、凹部80の側面(内側の側面)82bは、像側端部が物体側端部よりも径方向内側となるように軸方向に対して斜めに形成されている。この凸部70の内周面72と凹部80の側面(内側の側面)82bとの間に、径方向において隙間T1(T1=X-Y)を確保する。なお、鏡筒10の内周面と第5レンズ5の外周面との間の径方向における隙間は、T1よりも大きい隙間となっている。
このように構成することで、高温時にはT1=0となり、低温時にはT2=0となって、第5レンズ5の径方向に対する位置が規制され、第5レンズ5の光軸からの偏心が抑制される。これにより、レンズユニット100の光学性能が低下せず、レンズユニット100の信頼性を向上させることができる。
【0058】
(第2の実施の形態)
次に、図面を参照しながら本発明の第2の実施の形態について説明する。
図5は、第2の実施の形態に係るレンズユニット100の軸方向断面図である。なお、
図5では、断面であることを示すハッチングを省略している。以下、第1の実施の形態で説明した構成と同一または相当する機能を有する構成については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0059】
本実施の形態では、第1レンズ1~第5レンズ5がガラス製レンズとなっている。ガラス製レンズの線膨張係数は、約9×E-6[1/K]である。鏡筒10を仮にアルミニウム合金製とした場合、その線膨張係数は、2.4×E-5(24×E-6)[1/K]である。すなわち、ガラス製レンズとアルミニウム合金製鏡筒とでは、線膨張係数が大きく異なっている。
【0060】
ここで、第1レンズ1をガラス製とし、鏡筒10をアルミニウム合金製とした場合に生じる問題について説明する。レンズユニット100は、所定の温度範囲(例えば-40℃から105℃)で光学性能が維持(保障)されることが要求される。しかし、高温(例えば105℃)の環境下では、第1レンズ1の膨張量(径方向外側)に比べて鏡筒10の膨張量(径方向外側)が大きいことから、第1レンズ1の外周面と鏡筒10の内周面との間に隙間が生じ、第1レンズ1がガタついてしまう(すなわち第1レンズ1が径方向に移動し、光軸から偏心してしまう)。換言すると、
図5において、径L1の拡径量が径L2の拡径量より大きいため、第1レンズ1が径方向に移動可能となり、光軸から偏心する。
また、低温(例えば-40℃)の環境下では、第1レンズ1の収縮量(径方向内側)に比べて鏡筒10の収縮量(径方向内側)が大きいことから、鏡筒10の内周面が第1レンズ1の外周面に当接して、第1レンズ1に径方向外側から過度の応力が加わり、第1レンズ1が変形、破損する。換言すると、
図5において、径L1の縮径量が径L2の縮径量より大きいため、第1レンズ1が径方向外側から力を受けてしまう。
高温時および低温時におけるこれらの問題は、レンズユニット100の光学性能の低下を招くこととなる。
【0061】
本実施の形態では、鏡筒10の材質を、体心立方晶構造を示すフェライト/マルテンサイト系のステンレス(フェライト系ステンレスまたはマルテンサイト系ステンレス)とする。フェライト/マルテンサイト系のステンレスは磁性を有する。また、酸化処理によって黒色化が可能である。また、耐食性を有し機械加工性に優れる。このため、鏡筒10の材質として最適である。鏡筒10は、黒色酸化被膜で覆われている。酸化処理は水溶性染料を添加したアルカリ性水溶液中で鏡筒10に陽極電解処理および陰極電解処理を交互に行うことで表面に酸化皮膜が形成され、得られた黒色酸化皮膜は反射率が低く、ゴースト、フレア等のレンズとしての不要光の反射を抑えることが出来る。特にステンレス鋼の表面に電解によって形成された厚みが1μm以下である酸化珪素皮膜、およびその下地皮膜と酸化珪素皮膜の合計膜厚が2.5μm以下であると反射率が低く、ゴースト、フレア等のレンズとしての不要光の反射を抑える上でより好ましい。
フェライト/マルテンサイト系のステンレスで形成された鏡筒10の線膨張係数は、9.0×E-6[1/K]から11.0×E-6[1/K]の範囲となっており、ガラスの線膨張係数に近い値となっている。
【0062】
このように鏡筒10の材質を、フェライト/マルテンサイト系のステンレスとした場合、鏡筒10の線膨張係数が9.0×E-6から11.0×E-6の範囲となり、ガラス製レンズの線膨張係数と近似する。このため、高温時(例えば105℃)に、鏡筒10とガラス製レンズの膨張量(径方向)が略同等となる。また、低温時(例えば105℃)に、鏡筒10とガラス製レンズの収縮量(径方向)が略同等となる。すなわち、高温時および低温時において、
図5で示したL1,L2が略同じ量だけ変形する。このため、上述のような問題が生じることがなく、高温時および低温時に、レンズユニット100の光学性能が低下するのを抑制できる。すなわち、レンズユニット100の信頼性を向上させることができる。また、信頼性試験前後にガラスレンズが鏡筒10内で径方向に動いて光学性能が変化することを抑制するために、鏡筒10の内径(内周面)とガラスレンズの外径(外周面)とを接着剤を用いて固定する方法があるが、本発明では接着剤を用いて固定する必要がないことから生産性にも優れる。
【0063】
なお、本実施の形態では、第1レンズ1~第5レンズ5のすべてをガラス製レンズとしたが、最も屈折力の高いレンズがガラス製となっていれば、最も屈折力の高いガラスレンズの径方向に対する移動(位置)が規制されるため、レンズユニット100の光学性能が低下するのを効果的に抑制できる。なお、レンズユニット100の信頼性を向上させるためには、最も屈折力の高いレンズのみならず、全てのレンズ(第1レンズ1~第5レンズ5)をガラス製とすることがより好ましい。
【0064】
なお、鏡筒10の線膨張係数が9.0×E-6[1/K]未満となると、鏡筒10の線膨張係数と鏡筒10内に積層されるガラスレンズ群の線膨張係数との差が許容値より大きくなり、高温時に、ガラスレンズの外周面が鏡筒10の内周面に当接して、ガラスレンズに径方向外側からの応力が加わり、ガラスレンズが変形、破損する虞がある。
また、鏡筒10の線膨張係数が11.0×E-6[1/K]より大きくなると、鏡筒10の線膨張係数と鏡筒10内に積層されるガラスレンズ群の線膨張係数との差が許容値より大きくなり、高温時に、鏡筒10の内周面とガラスレンズの外周面との間に隙間が生じて、ガラスレンズが径方向に動いて光軸から偏心し、光学性能が低下してしまう虞がある。
【0065】
フェライト/マルテンサイト系ステンレスは、体心立方晶構造のFe-Cr系ステンレスである。
フェライト系ステンレスの代表的なものはSUS430の18クロム系のステンレスである。このステンレスは、熱処理により硬化することがほとんどなく、焼なまし(軟質)状態で使用される。また、マルテンサイト系ステンレスより成形加工性および耐食性が優れており、溶接性も比較的良好であるため、一般耐食用として広く用いられている。このステンレスは、例えば、厨房用品、建築内装、自動車部品、ガス・電気器具部品等で、主に薄板および線の形で使用される。
【0066】
マルテンサイト系ステンレスの最大の特徴は、他の鉄鋼材料のように熱処理(焼入れ)をすることができ、この焼入れによってマルテンサイト組織が生じて硬化させることができる点である。鉄鋼材料の多くは成分だけでなく、この熱処理によって変幻自在ともいえる多様な性質を持つことができる。また、すべての状態で磁性がある。マルテンサイトの組織自体は、硬くて脆い性質を持つが、焼き戻しによって強度や硬さをさらに増すことができる。この系統のステンレスは組織が変態するという特色があるため、熱処理によって硬化させて利用される。代表的な鋼種として、13Crステンレス(13クロムステンレス)がある。
【0067】
また、鏡筒10の材料として、快削性に優れるフェライト系鉛含有快削ステンレス、フェライト系非鉛ステンレスを選択することもできる。代表的なものとして、下村特殊精工(株)社製のSF20F、SF20T、SF53、SF13、UT13等がある。鏡筒10の内径は高精度で切削加工をしなければならず、これらのフェライト系鉛含有ステンレス、フェライト系非鉛ステンレスは黄銅に近い被削性が得られることから、鏡筒材料として最適である。
【0068】
鏡筒10の径方向の肉厚は、ガラスレンズと鏡筒10の線膨張係数の相違に伴い発生するガラスレンズへの応力を抑えるには2mm以下が望ましい。2mm以下の場合は、鏡筒10側が変形し、ガラスレンズに対して発生する応力が低減される。鏡筒10の肉厚が厚いとガラスレンズに対して過度の応力が発生することにより、面形状が歪み、収差が生じる。結果、解像度の劣化に繋がり、その影響は光学的有効径に対して周辺部でより顕著となる。
【0069】
複数枚のレンズで構成されるレンズユニット100では、鏡筒10はレンズ形状や光線有効径、取り付けられる車両側の要求に伴って鏡筒内径部(内周面)および鏡筒外径部(外周面)に段差(軸方向における段差)が必要とされる。段差は1つ以上設けられる。この段差は鏡筒10の肉厚変化を伴っているので、ガラスレンズと鏡筒10の線膨張係数の相違がある場合は、過度の隙間や過度の応力発生に繋がり、その影響によって生じるレンズ玉の偏心や面の歪みによって光学特性に変化を来たす。よって、段差を有する鏡筒10の線膨張係数を、ガラスレンズの線膨張係数に近い値とすることで、そのような問題の発生を抑制できる。
【0070】
2枚のガラスレンズを貼り合わせることは色収差を抑え解像度を増す手段として有益な手段である。貼り合せ用の樹脂(接着剤)としてはアクリル系やエンチオール系の光硬化型樹脂が使われる。貼り合せレンズで構成されたレンズユニットでは、ガラスレンズと鏡筒10の線膨張係数に相違がある場合は、ガラスレンズに対して発生する応力が強度的に弱い貼り合せ樹脂に対してその影響が顕著となり、貼り合わせ部分が剥がれて光線が通らずレンズとしての機能を損なう虞がある。よって、内部にガラスレンズで構成された貼り合せレンズが配置された鏡筒10の線膨張係数を、ガラスレンズの線膨張係数に近い値とすることで、そのような問題の発生を抑制できる。
【0071】
(第3の実施の形態)
次に、図面を参照しながら本発明の第3の実施の形態について説明する。
図6は、第3の実施の形態に係るレンズユニット100を備えたカメラモジュール500の軸方向断面図である。なお、
図6では、断面であることを示すハッチングを省略している。以下、第1の実施の形態および第2の実施の形態で説明した構成と同一または相当する機能を有する構成については、同一の符号を付し、その説明を省略または簡略化する。
【0072】
本実施の形態では、第1レンズ1~第5レンズ5をすべてガラス製としても、すべて樹脂製(プラスチック製)としても、ガラス製のものと樹脂製のものとを混在させてもよい。
図6に示すように、支持部11と第5レンズ5が接触する点(面)と、蓋部材9と第1レンズ1が接触する点との間の寸法(軸方向)を、寸法Lとする。
【0073】
図7は、鏡筒10の内側に配置(収容)される部品(以下、部品群という)のみの軸方向断面図である。本実施の形態では、部品群は、第1レンズ1~第5レンズ5、スペーサ61,62,63、および絞り7により構成されている。
図7に示すように、第5レンズ5のフランジ部の像側の面と、第1レンズ1の物体側の面における蓋部材9(
図6参照)と当接する点との間の寸法(軸方向)、すなわち、
図6で示したLに対応する寸法を、寸法L2とする。
【0074】
図8は、部品群が配置されていない状態の鏡筒10および蓋部材9の軸方向断面図である。
図8に示すように、支持部11の物体側の面と、蓋部材9の径方向内側の端部(レンズ押え部9b)(第1レンズ1と当接する点)との間の寸法(軸方向)、すなわち、
図6で示したLに対応する寸法を、寸法L1とする。
【0075】
既述のとおり、レンズユニット100は、所定の温度範囲(例えば-40℃から105℃)で光学性能が維持(保障)されることが要求される。しかし、鏡筒10、蓋部材9、レンズ群(第1レンズ1~第5レンズ5)、スペーサ(中間環)61,62,63、絞り(遮光板)7は、それぞれ線膨張係数が異なる。少なくともレンズ群とその他の部品との線膨張係数が異なる。本実施の形態では、鏡筒10、蓋部材9、スペーサ61~63、絞り7をアルミニウム合金製(線膨張係数2.4×E-5[1/K])として説明する。
【0076】
(第1レンズ1~第5レンズ5がガラスレンズの場合)
高温(例えば105℃)の環境下では、L1の膨張量(軸方向)がL2の膨張量(軸方向)より大きい(L1>L2)。このL1とL2の寸法差により、部品群が軸方向に移動可能となる。すなわち、部品群が軸方向にガタつく(軸方向にずれる)。これにより、部品間に隙間が形成される、レンズが傾く、部品群(レンズ群)と撮像素子320(
図6参照)との間の距離が変化してしまう等の問題が生じる。
低温(例えば-40℃)の環境下では、L1の収縮量(軸方向)がL2の収縮量(軸方向)より大きい(L1<L2)。このL1とL2の寸法差により、部品群が軸方向から力(応力)を受けることとなる。これにより、レンズが変形、破損する等の問題が生じる。
【0077】
(第1レンズ1~第5レンズ5がプラスチックレンズの場合)
高温(例えば105℃)の環境下では、L2の膨張量(軸方向)がL1の膨張量(軸方向)より大きい(L2>L1)。このL1とL2の寸法差により、部品群が軸方向から力(応力)を受けることとなる。これにより、レンズが変形、破損する等の問題が生じる。
低温(-40℃)の環境下では、L2の収縮量(軸方向)がL1の収縮量(軸方向)より大きい(L2<L1)。このL1とL2の寸法差により、部品群が軸方向に移動可能となる。すなわち、部品群が軸方向にガタつく(軸方向にずれる)。これにより、部品間に隙間が形成される、レンズが傾く、部品群(レンズ群)と撮像素子320(
図6参照)との間の距離が変化してしまう等の問題が生じる。
【0078】
このように高温環境下または低温環境下において、L1とL2の寸法差が生じると、その寸法差に起因して、レンズユニット100の光学性能を低下させる問題が生じる。本実施の形態では、L1とL2の寸法差に起因する問題の発生を防ぐべく、蓋部材9の材質をりん青銅とし、蓋部材9が弾性変形可能なものとしている。蓋部材9は、ばね性に富んでいるともいえる。
【0079】
蓋部材9を弾性変形可能な樹脂材料で形成してもよい。
樹脂材料では、半芳香族ポリアミド、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)のいずれかで、ガラス繊維または炭素繊維を含有し、その含有量が30wt%以上のものが好ましく、引張り降伏応力が200MPa以上の材料がより好ましい。
樹脂系では、材料の曲げ弾性率(ヤング率)が低く、変形時に発生する応力が低いため、材料に求められる破壊強度(ここでは引張強度/降伏強度)が低くてもよい。
【0080】
蓋部材9を弾性変形可能が金属材料で形成してもよい。
金属材料ではステンレスが挙げられ、マルテンサイト系にCu、Nbを添加し析出硬化性を持たせたSUS630が好ましく、引張強度が900MPa以上の材料がより好ましい。また、アルミ合金ではアルミ展延材でAl-Mg系合金のA5052,A5053、Al-Mg-Si系合金のA6063,A6061、Al-Cu系合金のA2014,A2017、Al-Zn-Mg系合金のA7003,A7075等が挙げられ、引張強度が400Mpa以上の材料が好ましい。
ステンレスは、材料の曲げ弾性率(ヤング率)が高く、変形時に発生する応力が高いため、材料に求められる引張強度/降伏強度が高くなる。アルミ合金についても同様に、曲げ弾性率(ヤング率)によって材料に求められる引張強度/降伏強度が決定される。レンズ押え部9bは厚みを他の部位よりも薄くすることでバネ性を持たせることが可能となる。
【0081】
蓋部材9の弾性変形について説明する。
(第1レンズ1~第5レンズ5がガラスレンズの場合)
高温(例えば105℃)でのL1とL2の差分(L1-L2)を予め算出する。次に、常温において、蓋部材9の鏡筒10への装着位置が、基準装着位置からさらにL1とL2の差分(L1-L2)軸方向像側に移動した位置となるまで、蓋部材9を予め多く締め込む。基準装着位置とは、例えば、蓋部材9を鏡筒10に締め込んでいき(例えば時計回り)、蓋部材9のレンズ押え部9b(
図6参照)の径方向内側の端部が第1レンズ1に当接して蓋部材9の回転が停止する位置であり、それ以上蓋部材9を回転させると回転方向とは逆向きのトルクが発生する位置である。蓋部材9が基準装着位置より像側に位置する状態では、蓋部材9のレンズ押え部9bが軸方向物体側に弾性変形した状態(撓んだ状態)となっている。
【0082】
高温環境下でL1(
図8)がL2(
図7)より大きくなった場合、蓋部材9のレンズ押え部9bの撓み量が減るが、レンズ押え部9bが第1レンズ1に当接した状態は維持される。すなわち、蓋部材9が変形に追従する。このため、部品群が蓋部材9と支持部11との間に挟み込まれた状態が維持され、部品群の軸方向に対する移動が規制される。
また、低温環境下でL1がL2より小さくなった場合、L1とL2の寸法差分、蓋部材9のレンズ押え部9bが変形する。すなわち、蓋部材9が変形に追従する。このため、部品群が軸方向から過度な応力を受けることがない。また、常に第1レンズ1~第5レンズ5が支持部11側に押されているため、レンズの間隔がL1とL2の差分(L1-L2)によって広がることがない。よって、光学性能やフランジバックが維持されることから光学性能の劣化を抑えることが出来る。
更に、信頼性試験前後にガラスレンズが鏡筒10内で軸方向に動いて光学性能が変化することを抑制するために、鏡筒10の内径とガラスレンズ外径とを接着剤を用いて固定する方法があるが、本発明では接着剤を用いて固定する必要がないことから生産性にも優れる。
【0083】
(第1レンズ1~第5レンズ5がプラスチックレンズの場合)
低温(例えば-40℃)でのL1とL2の差分(L1-L2)を予め算出する。次に、常温において、蓋部材9の鏡筒10への装着位置が、基準装着位置からさらにL1とL2の差分(L1-L2)軸方向像側に移動した位置となるまで、蓋部材9を予め多く締め込む。蓋部材9が基準装着位置より像側に位置する状態では、蓋部材9のレンズ押え部9bが軸方向物体側に弾性変形した状態(撓んだ状態)となっている。
【0084】
低温環境下でL2(
図7)がL1(
図8)より小さくなった場合、蓋部材9のレンズ押え部9bの撓み量が減るが、レンズ押え部9bが第1レンズ1に当接した状態は維持される。すなわち、蓋部材9が変形に追従する。このため、部品群が蓋部材9と支持部11との間に挟み込まれた状態が維持され、部品群の軸方向に対する移動が規制される。
また、高温環境下でL2がL1より大きくなった場合、L2とL1の寸法差分、蓋部材9のレンズ押え部9bが変形する。すなわち、蓋部材9が変形に追従する。このため、部品群が軸方向から過度な応力を受けることがない。また、常に第1レンズ1~第5レンズ5が支持部11側に押されているため、レンズの間隔がL1とL2の差分(L1-L2)によって広がることがない。よって、光学性能やフランジバックが維持されることから光学性能の劣化を抑えることが出来る。
更に、信頼性試験前後にプラスチックレンズが鏡筒10内で軸方向に動いて光学性能が変化することを抑制するために、鏡筒10の内径とプラスチックレンズの外径とを接着剤を用いて固定する方法があるが、本発明では接着剤を用いて固定する必要がないことから生産性にも優れる。
【0085】
このように蓋部材9が弾性変形するため、高温時および低温時において、L1とL2の寸法差に起因する上述の問題が生じることがない。すなわち、高温時および低温時に、レンズユニット100の光学性能が低下するのを抑制できる。これにより、レンズユニット100の信頼性を向上させることができる。
【0086】
なお、本実施の形態では、第1レンズ1~第5レンズがすべてガラスレンズの場合と、第1レンズ1~第5レンズ5がすべてプラスチックレンズの場合について説明したが、ガラスレンズとプラスチックレンズが混在していてもよい。その場合、高温(例えば105℃)におけるL1,L2の寸法、低温(例えば-40℃)におけるL1,L2の寸法を算出して、常温での蓋部材9の鏡筒10への装着位置、すなわち蓋部材9の締め込み量を決定すればよい。
【0087】
図9に示すように、蓋部材9は、円筒状の筒部9cと、筒部9cの物体側内周面から径方向内側に向かって延びるレンズ押え部9bとを備えている。レンズ押え部9bが第1レンズ1を軸方向に保持している点(第1レンズ1と当接する点)を保持点とする。また、レンズ押え部9bの基端部から保持点までの径方向長さをXとし、レンズ押え部9bの軸方向における厚さ(軸方向の厚み)をZとし、保持点の軸方向の寸法変化(L1-L2)をΔとした場合、X/Zを1.5以上とし、Δを40μm以下とする。X/Zが1.5未満であれば、保持点に加わる応力が高くなり第1レンズ1(ガラスレンズ)を破損させる虞がある。また、Δが40μmを越えると蓋部材9に掛かる応力が高くなり、蓋部材9が破損したり永久変形をする虞がある。
【0088】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0089】
1,2,3,4,5 レンズ(第1レンズ~第5レンズ)
9 蓋部材
10 鏡筒
11 支持部
63 スペーサ
70 凸部
71 (凸部の)外周面
80 凹部
82,82a (凹部の外側の)側面
82b (凹部の外側の)側面
T1 第1の隙間
T2 第2の色摩
100 レンズユニット
500 カメラモジュール