(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】ロボットの寿命推定装置
(51)【国際特許分類】
B25J 18/02 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
B25J18/02
(21)【出願番号】P 2019195136
(22)【出願日】2019-10-28
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100163050
【氏名又は名称】小栗 眞由美
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】江 航杰
(72)【発明者】
【氏名】陶山 峻
(72)【発明者】
【氏名】木本 裕樹
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-119320(JP,A)
【文献】特開2018-109538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 - 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直動機構を備えるロボットの寿命推定装置であって、
前記直動機構が、ガイド部材と、該ガイド部材に沿って移動する1以上のスライダとを備え、
前記ロボットを動作させるプログラムと、前記ロボットおよび該ロボットに取り付ける負荷の幾何パラメータとに基づいて、所定の時間間隔毎に各前記スライダに作用する荷重を算出する荷重算出部と、
前記時間間隔毎の前記スライダの移動距離を算出する移動距離算出部と、
前記荷重算出部により算出された前記荷重と、前記移動距離算出部により算出された前記移動距離とに基づいて、前記直動機構の寿命を算出する寿命算出部と、
算出された前記寿命を表示する表示部とを備えるロボットの寿命推定装置。
【請求項2】
前記荷重算出部により算出された前記荷重を前記プログラム上の時刻と対応づけて記憶する記憶部を備え、
前記表示部が、前記記憶部に記憶されている前記荷重を表示する請求項1に記載のロボットの寿命推定装置。
【請求項3】
前記表示部が、前記荷重を時系列に表示する請求項2に記載のロボットの寿命推定装置。
【請求項4】
前記表示部は、前記荷重が所定の荷重閾値を超えている前記プログラム上の時刻を表示する請求項2に記載のロボットの寿命推定装置。
【請求項5】
前記表示部は、前記寿命算出部により算出された前記寿命が所定の寿命閾値以下である場合に前記荷重を表示する請求項2または請求項3に記載のロボットの寿命推定装置。
【請求項6】
前記表示部は、前記寿命算出部により算出された前記寿命が所定の寿命閾値以下である場合に前記時刻を表示する請求項4に記載のロボットの寿命推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットの寿命推定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ロボットの回転軸の寿命を推定する寿命推定装置が知られている。この寿命推定装置は、回転軸を駆動するモータの電流値を監視することにより、電流値に基づいて寿命を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ロボットが直動機構を含む場合、直動機構に含まれるスライダの寿命は、直動機構を駆動するモータの電流値では算出することができない。したがって、直動機構を含むロボットの寿命を簡易かつ精度よく推定することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、直動機構を備えるロボットの寿命推定装置であって、前記直動機構が、ガイド部材と、該ガイド部材に沿って移動する1以上のスライダとを備え、前記ロボットを動作させるプログラムと、前記ロボットおよび該ロボットに取り付ける負荷の幾何パラメータとに基づいて、所定の時間間隔毎に各前記スライダに作用する荷重を算出する荷重算出部と、前記時間間隔毎の前記スライダの移動距離を算出する移動距離算出部と、前記荷重算出部により算出された前記荷重と、前記移動距離算出部により算出された前記移動距離とに基づいて、前記直動機構の寿命を算出する寿命算出部と、算出された前記寿命を表示する表示部とを備えるロボットの寿命推定装置である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】本発明の一実施形態に係る寿命推定装置を適用するロボットの一例を示す模式図である。
【
図2】
図1のロボットの直動機構の一例を示す斜視図である。
【
図3】
図2の直動機構に備えられるスライダの一例を示す正面図である。
【
図4】
図1の寿命推定装置を示すブロック図である。
【
図5】
図1の寿命推定装置のモニタに表示される表示例を示す図である。
【
図6】
図1の寿命推定装置の動作を説明するフローチャートである。
【
図7】
図1の寿命推定装置のモニタに表示される表示の変形例を示す図である。
【
図8】
図1のロボットの他の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の一実施形態に係るロボットの寿命推定装置1について、図面を参照しながら以下に説明する。
本実施形態に係るロボットの寿命推定装置1は、ロボット100の制御装置あるいはロボット100のオフラインプログラミング装置に備えられる。
【0008】
ロボット100は、例えば、
図1に示されるように、ロボット100を構成する1以上の軸に直動機構110を備えている。
図1に示されるロボット100は、床面Fに設置されるベース101、鉛直な第1軸線回りにベース101に対して
回転可能な旋回胴102、水平な第2軸線回りに旋回胴102に対して回転可能な第1アーム103を備えている。また、ロボット100は、直動機構110により第1アーム103に対して第1アーム103の長手方向に直線移動可能な第2アーム104および第2アーム104の先端に配置された3軸の手首ユニット105を備えている。
【0009】
直動機構110は、例えば、
図2に示されるように、第1アーム103に固定され、平行に配置される2本のガイドレール(ガイド部材)111と、該ガイドレール111に沿って移動可能なスライド部材112とを備えている。各ガイドレール111には、該ガイドレール111に沿って移動可能なスライダ113が2つずつ組み付けられている。
【0010】
スライド部材112は2本のガイドレール111の2つずつのスライダ113、すなわち、合計4個のスライダ113によって、ガイドレール111の長手方向に沿って移動可能に支持されている。そして、スライダ113には第2アーム104が固定されている。これにより、第2アーム104が第1アーム103に対して、第1アーム103の長手方向に直線移動可能に支持されている。
スライダ113は、
図3に示されるように、ガイドレール111との間に配置される複数の転動体114の転がりによってガイドレール111の長手方向に移動可能に案内されるものである。
【0011】
本実施形態に係る寿命推定装置1は、
図4に示されるように、動作プログラムを記憶するプログラム記憶部2と、ロボット100の幾何パラメータおよびロボット100に装着する負荷の情報を記憶するパラメータ記憶部3とを備えている。プログラム記憶部2およびパラメータ記憶部3は、メモリである。寿命推定装置1がロボット100の制御装置に備えられる場合には、プログラム記憶部2およびパラメータ記憶部3は、制御装置に備えられていてもよい。
【0012】
記憶されている動作プログラムを用いることにより、動作プログラムの実行中の各時刻におけるロボット100の姿勢、速度、加速度および各軸の移動量を算出することができる。
幾何パラメータは、ロボット100の各部の寸法および重量を含んでいる。各部の寸法には、直動機構110のスライド部材112に対する4個のスライダ113の位置情報も含まれている。負荷の情報は、ロボット100に装着しているハンド等のツールの寸法および重量、およびハンドによってワークを把持している状態ではワークの寸法および重量を含んでいる。
【0013】
また、寿命推定装置1は、動作プログラムをオフラインで実行させたときの所定の時間間隔Δtをあけた時刻Tn毎に、各スライダ113に作用する荷重を算出する荷重算出部4を備えている。
すなわち、荷重算出部4は、まず、プログラム記憶部2に記憶されている動作プログラムに基づいて、動作プログラムがオフラインで実行されたときの各時刻Tnにおけるロボット100の各軸の位置、速度および加速度を算出する。次いで、荷重算出部4は、算出されたロボット100の各軸の位置、速度および加速度と、パラメータ記憶部3に記憶されている幾何パラメータとに基づいて、スライド部材112の基準位置に作用する外力およびモーメントを算出する。
【0014】
スライド部材112の基準位置は、例えば、
図2に示されるように、スライド部材112の重心位置である。荷重算出部4は、基準位置に設定した3つの直交する座標軸x,y,zの方向に沿う外力および各座標軸x,y,z回りのモーメントを算出する。座標軸x,y,zの位置および方向は任意でよい。
そして、算出されたスライド部材112の重心位置に作用する外力およびモーメントを用いて、スライド部材112の重心位置と4つの各スライダ113の重心位置との間の寸法から各スライダ113に作用する荷重を算出する。
【0015】
荷重算出部4において、まず算出される荷重は、
図3に示されるように、ガイドレール111の長手方向(z方向)に直交するスライダ113の高さ方向(x方向)およびスライダ113の幅方向(y方向)の2方向の荷重P
Rn,P
Tnである。
そして、荷重算出部4は、各スライダ113について算出された2方向の荷重P
Rn,P
Tnに基づいて、下式(1)により、等価荷重P
Enを算出する。
【0016】
PEn=KxPRn+KyPTn ・・・(1)
ここで、
Kx,Ky:等価係数であり、直動機構に固有の値である。
寿命推定装置1は、荷重算出部4に接続され荷重算出部4において算出された等価荷重PEnを時系列に記憶する荷重記憶部(記憶部)5を備えている。
【0017】
さらに、寿命推定装置1は、プログラム記憶部2に記憶されている動作プログラムに基づいて、動作プログラム全体が実行されたときの総移動距離(移動距離)Lを下式(2)により算出する移動距離算出部6を備えている。
【数1】
ここで、
L
n:サンプリング時間Δt毎の各スライダ113の移動距離である。
kプログラムの所要時間を時間間隔Δtで除算した自然数である。
【0018】
そして、寿命推定装置1は、荷重算出部4により算出された等価荷重PEnと、移動距離算出部6により算出された総移動距離Lとに基づいて、平均荷重Pmおよび寿命Eを算出する寿命算出部7を備えている。
寿命算出部7は、各スライダ113について、下記の式(3)および式(4)により平均荷重Pmおよび寿命Eを算出する。
【0019】
【数2】
ここで、
i:スライダ113の転動体114により決まる定数
であり、直動機構110に固有の値である。
【0020】
【数3】
ここで、
f
H:硬さ係数、
f
T:温度係数、
f
C:接触係数、
f
W:荷重係数、
C:基本動定格荷重
であり、直動機構110に固有の値である。
【0021】
そして、寿命推定装置1は、寿命算出部7において算出された寿命Eが所定の閾値Thよりも短いか否かを判定する判定部8を備えている。判定部8は、4つのスライダ113について、それぞれ算出された寿命のいずれかが閾値Thよりも短いと判定した場合に、閾値Thよりも短い寿命および荷重記憶部5に記憶されている等価荷重PEnの時間変化をスライダ113毎に出力する。判定部8は、算出された寿命Eが閾値Th以上である場合には、出力を行わない。
【0022】
また、寿命推定装置1は、判定部8から出力された寿命Eおよび等価荷重P
Enの時間変化を表示するモニタ(表示部)9を備えている。
表示部9には、例えば、
図5に示されるように、寿命Eが数値により、また、等価荷重P
Enの時間変化がグラフにより表示される。寿命Eはグラフ表示してもよい。
【0023】
移動距離算出部6、荷重算出部4、寿命算出部7および判定部8はプロセッサおよびメモリであり、荷重記憶部5はメモリである。
【0024】
このように構成された本実施形態に係る寿命推定装置1の作用について以下に説明する。
本実施形態に係る寿命推定装置1によれば、
図6に示されるように、まず、カウンタnが初期化される(ステップS1)。次いで、動作プログラムが実行され(ステップS2)、時刻Tnに達したか否かが判定される(ステップS3)。
【0025】
時刻Tnに達した時点で、動作プログラムおよび幾何パラメータに基づいて、荷重算出部4により等価荷重PEn、移動距離算出部6により移動距離Lnがそれぞれ算出される(ステップS4,S5)。算出された等価荷重PEnは寿命算出部7に出力され、寿命算出部7において保持され、また、等価荷重PEnは時刻Tnと対応づけて荷重記憶部5に記憶される(ステップS6)。算出された移動距離Lnは移動距離算出部6において積算される(ステップS7)。
【0026】
カウンタnがインクリメントされ(ステップS8)、動作プログラムが終了したか否かが判定され(ステップS9)。終了していない場合には、ステップS2からの工程が繰り返される。
【0027】
ステップS9において動作プログラムが終了したと判定された場合には、移動距離算出部6において積算された総移動距離Lが寿命算出部7に出力され(ステップS10)、保持している等価荷重PEnと総移動距離Lとによって平均荷重Pmおよび寿命Eがともに寿命算出部7において算出される(ステップS11)。
そして、算出された寿命Eが所定の閾値Thよりも短いか否かが判定部8において判定され(ステップS12)、短い場合には、算出された寿命Eと、荷重記憶部5に記憶されている等価荷重PEnの時間変化が表示部9に表示される(ステップS13)。
【0028】
このように本実施形態に係る寿命推定装置1によれば、ロボット100が、モータの電流値では寿命Eを算出できない直動機構110を含む場合であっても、ロボット100の寿命Eを簡易かつ精度よく推定することができるという利点がある。
そして、算出された寿命Eが所定の閾値Thよりも短い場合に、算出された寿命Eが表示されることにより、ロボット100に大きな負荷がかかる動作プログラムであることをユーザに認識させることができる。また、同時に、等価荷重PEnの時間変化がグラフによって表示されることにより、どの時刻Tnにおいてロボット100に大きな負荷がかかっているのかをユーザに認識させることができる。
【0029】
なお、本実施形態においては、時刻Tnと等価荷重P
Enとを対応付けていることにより、等価荷重P
Enが大きくなっている時刻Tnを確認することができる。これに加えて、プログラム内の位置(行番号)を対応付けて記憶しておき、
図7に示されるように、ユーザがグラフ上においてカーソルを合わせた時刻Tkに対応するプログラムの位置および/または時刻Tkを表示することにしてもよい。これにより、ユーザは、プログラムのどの指令を修正すればよいかを迅速に認識することができる。
【0030】
また、本実施形態においては、第1アーム103と第2アーム104との間に直動機構110を有するロボット100を例示したが、これに代えて、
図8に示される床面Fとベース101との間に直動機構110を有するロボット100の他、任意の位置に直動機構110を有するロボット100に適用してもよい。
また、直動機構110以外の回転軸については、従来と同様の方法により、寿命推定を行い、直動機構110の寿命Eとの対比において、寿命Eが所定の閾値Thよりも短い軸について報知することにすればよい。
【0031】
また、本実施形態においては、ガイド部材としてガイドレール111を備える直動機構100を例示した。これに代えて、ガイド部材111としてスプライン軸を備え、スプライン軸に対してスリーブ(スライダ)が転動体により案内されるボールスプライン等を備える直動機構等に適用してもよい。この場合、数3の寿命の算出式は、直動機構に適したものを採用すればよい。
【0032】
また、本実施形態においては、算出された寿命Eが所定の閾値Thよりも短い場合に、算出された寿命および等価荷重PEnの時間変化を表示することとしたが、これに代えて、常時表示することにしてもよい。また、等価荷重PEnの時間変化のグラフにおいては、等価荷重PEnが所定の閾値Thを超えている時間範囲を明示的に表示することにしてもよい。
【符号の説明】
【0033】
1 寿命推定装置
4 荷重算出部
5 荷重記憶部(記憶部)
6 移動距離算出部
7 寿命算出部
9 表示部
100 ロボット
110 直動機構
111 ガイドレール(ガイド部材)
113 スライダ
L 総移動距離(移動距離)
PEn 等価荷重(荷重)
Th 閾値