(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】全固体電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0525 20100101AFI20231226BHJP
H01M 4/136 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20231226BHJP
H01M 10/0562 20100101ALI20231226BHJP
H01M 10/0585 20100101ALI20231226BHJP
H01M 50/543 20210101ALI20231226BHJP
H01M 50/588 20210101ALI20231226BHJP
H01M 50/597 20210101ALI20231226BHJP
【FI】
H01M10/0525
H01M4/136
H01M4/58
H01M10/0562
H01M10/0585
H01M50/543
H01M50/588
H01M50/597
(21)【出願番号】P 2019197374
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2022-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 宇人
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大悟
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-087346(JP,A)
【文献】特開2017-084643(JP,A)
【文献】国際公開第2019/093404(WO,A1)
【文献】特開2018-045965(JP,A)
【文献】特開2011-216235(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0525
H01M 10/0562
H01M 4/58
H01M 4/136
H01M 10/0585
H01M 50/543
H01M 50/588
H01M 50/597
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物系の固体電解質を主成分とする固体電解質層と、
前記固体電解質層の第1主面に形成され、正極活物質および負極活物質を含む正極層と、
前記固体電解質層の第2主面に形成され、正極活物質および負極活物質を含む負極層と、を備え、
前記正極層および前記負極層における前記正極活物質は、オリビン型結晶構造を持つ電極活物質であり、
前記正極層および前記負極層における前記負極活物質は、Li-Al-Ti-PO
4
系酸化物であり、
積層方向を含む断面において、前記正極層における正極活物質の
面積比率をA
1とし、前記正極層における負極活物質の
面積比率をB
1とし、前記負極層における正極活物質の
面積比率をA
2とし、前記負極層における負極活物質の
面積比率をB
2とし、S
Cathode=A
1/(A
1+B
1)とし、S
Anode=A
2/(A
2+B
2)とした場合に、
S
Cathode
>0.6かつS
Anode
<0.6の関係が成立することを特徴とする全固体電池。
【請求項2】
前記正極層および前記負極層において、前記正極活物質は、Li-Co-PO
4系酸化物であることを特徴とする請求項1記載の全固体電池。
【請求項3】
S
Cathode
>0.667かつS
Anode
≦0.5の関係が成立することを特徴とする請求項1または2に記載の全固体電池。
【請求項4】
前記正極層の端部に接続され、前記負極層とは接続されていない正極用外部電極と、
前記負極層の端部に接続され、前記正極層とは接続されていない負極用外部電極と、
前記正極用外部電極と前記負極用外部電極とを識別するためのマークと、を備えることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の全固体電池。
【請求項5】
前記正極層および前記負極層において、前記正極活物質はLiCoPO
4
であり、前記負極活物質はLi
1+x
Al
x
Ti
2-x
(PO
4
)
3
であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池が様々な分野で利用されている。このような電池の多くは、製品の信頼性、安全性等の観点から短絡検査が要求される。「短絡検査」とは、一般に、検査対象の電池の電気抵抗を測定し、電池の短絡、短絡要因の有無などを検査することをいう。昨今、二次電池の小型化が進むにつれて、電極の極性を間違えて短絡検査する可能性が生じている。電極の極性を誤って短絡検査を行なうと、想定外のキャリア移動が生じ、電池特性が劣化し、製品が管理範囲外の特性となり、検査工程起因で歩留まりが低下する。短絡試験は全数検査をすることが多く、短絡試験による歩留まり低下は無視できない問題である。
【0003】
短絡検査による歩留まり低下を抑える方法としては、正極および負極の両方に正極活物質および負極活物質の両方を含ませることにより、無極性電池とすることが挙げられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、一般的な無極性電池では、極性を気にせず実装できることも考慮されている。したがって、正極と負極の区別が無く、2つの電極における正極活物質と負極活物質との比率が同じとなっている。この場合、極性を有する電池に比べて容量密度が低下してしまう。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、短絡検査による歩留まり低下を抑制しつつ容量密度の低下を抑制することができる全固体電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る全固体電池は、酸化物系の固体電解質を主成分とする固体電解質層と、前記固体電解質層の第1主面に形成され、正極活物質および負極活物質を含む正極層と、前記固体電解質層の第2主面に形成され、正極活物質および負極活物質を含む負極層と、を備え、前記正極層における正極活物質の比率をA1とし、前記正極層における負極活物質の比率をB1とし、前記負極層における正極活物質の比率をA2とし、前記負極層における負極活物質の比率をB2とし、SCathode=A1/(A1+B1)とし、SAnode=A2/(A2+B2)とした場合に、SCathode>SAnodeの関係が成立することを特徴とする。
【0008】
上記全固体電池において、前記正極層および前記負極層において、前記正極活物質は、Li-Co-PO4系酸化物としてもよい。
【0009】
上記全固体電池において、前記正極層および前記負極層における前記負極活物質は、Li-Al-Ti-PO4系酸化物としてもよい。
【0010】
上記全固体電池において、前記正極層の端部に接続され、前記負極層とは接続されていない正極用外部電極と、前記負極層の端部に接続され、前記正極層とは接続されていない負極用外部電極と、前記正極用外部電極と前記負極用外部電極とを識別するためのマークと、が備わっていてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、短絡検査による歩留まり低下を抑制しつつ容量密度の低下を抑制することができる全固体電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】全固体電池の基本構造を示す模式的断面図である。
【
図2】複数の電池単位が積層された全固体電池の模式的断面図である。
【
図4】全固体電池の製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0014】
(実施形態)
図1は、全固体電池100の基本構造を示す模式的断面図である。
図1で例示するように、全固体電池100は、正極層10と負極層20とによって、酸化物系の固体電解質層30が挟持された構造を有する。正極層10は、固体電解質層30の第1主面上に形成されている。負極層20は、固体電解質層30の第2主面上に形成されている。
【0015】
固体電解質層30は、酸化物系固体電解質であれば特に限定されるものではないが、例えば、NASICON構造を有するリン酸塩系固体電解質を用いることができる。NASICON構造を有するリン酸塩系固体電解質は、高いイオン導電率を有するとともに、大気中で安定しているという性質を有している。リン酸塩系固体電解質は、例えば、リチウムを含んだリン酸塩である。当該リン酸塩は、特に限定されるものではないが、例えば、Tiとの複合リン酸リチウム塩(例えば、LiTi2(PO4)3)などが挙げられる。または、TiをGe,Sn,Hf,Zrなどといった4価の遷移金属に一部あるいは全部置換することもできる。また、Li含有量を増加させるために、Al,Ga,In,Y,Laなどの3価の遷移金属に一部置換してもよい。より具体的には、例えば、Li1+xAlxGe2-x(PO4)3や、Li1+xAlxZr2-x(PO4)3、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3などが挙げられる。例えば、正極層10および負極層20の少なくともいずれか一方に含有されるオリビン型結晶構造をもつリン酸塩が含む遷移金属と同じ遷移金属を予め添加させたLi-Al-Ge-PO4系材料が好ましい。例えば、正極層10および負極層20にCoおよびLiの少なくともいずれか一方を含むリン酸塩が含有される場合には、Coを予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。この場合、電極活物質が含む遷移金属の電解質への溶出を抑制する効果が得られる。正極層10および負極層20にCo以外の遷移元素およびLiを含むリン酸塩が含有される場合には、当該遷移金属を予め添加したLi-Al-Ge-PO4系材料が固体電解質層30に含まれることが好ましい。
【0016】
正極層10は、オリビン型結晶構造をもつ物質を電極活物質として含有する。負極層20も、当該電極活物質を含有している。このような電極活物質として、遷移金属とリチウムとを含むリン酸塩が挙げられる。オリビン型結晶構造は、天然のカンラン石(olivine)が有する結晶であり、X線回折において判別することができる。
【0017】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質の典型例として、Coを含むLi-Co-PO4系酸化物(例えば、LiCoPO4)などを用いることができる。この化学式において遷移金属のCoが置き換わったリン酸塩などを用いることもできる。ここで、価数に応じてLiやPO4の比率は変動し得る。なお、遷移金属として、Co,Mn,Fe,Niなどを用いることが好ましい。
【0018】
オリビン型結晶構造をもつ電極活物質は、正極層10においては、正極活物質として作用する。負極層20にもオリビン型結晶構造をもつ電極活物質が含まれる場合に、負極層20においては、その作用メカニズムは完全には判明してはいないものの、負極活物質との部分的な固溶状態の形成に基づくと推察される、放電容量の増大、ならびに、放電に伴う動作電位の上昇という効果が発揮される。
【0019】
正極層10および負極層20の両方ともオリビン型結晶構造をもつ電極活物質を含有する場合に、それぞれの電極活物質には、好ましくは、互いに同一であっても異なっていてもよい遷移金属が含まれる。「互いに同一であっても異なっていてもよい」ということは、正極層10および負極層20が含有する電極活物質が同種の遷移金属を含んでいてもよいし、互いに異なる種類の遷移金属が含まれていてもよい、ということである。正極層10および負極層20には一種だけの遷移金属が含まれていてもよいし、二種以上の遷移金属が含まれていてもよい。好ましくは、正極層10および負極層20には同種の遷移金属が含まれる。より好ましくは、両電極層が含有する電極活物質は化学組成が同一である。正極層10および負極層20に同種の遷移金属が含まれていたり、同組成の電極活物質が含まれていたりすることにより、両電極層の組成の類似性が高まるので、全固体電池100の端子の取り付けを正負逆にしてしまった場合であっても、用途によっては誤作動せずに実使用に耐えられるという効果を有する。
【0020】
負極層20に、負極活物質として公知である物質をさらに含有させてもよい。本実施形態においては、正極層10および負極層20の両方が負極活物質を含有している。電極の負極活物質については、二次電池における従来技術を適宜参照することができ、例えば、チタン酸化物、リチウムチタン複合酸化物、リチウムチタン複合リン酸塩、カーボン、リン酸バナジウムリチウムなどの化合物が挙げられる。例えば、負極活物質として、Li-Al-Ti-PO4系酸化物(Li1+xAlxTi2-x(PO4)3など)を用いることができる。
【0021】
正極層10および負極層20の作製においては、これら活物質に加えて、酸化物系固体電解質材料や、導電性材料(導電助剤)などが添加されている。本実施形態においては、これらの部材については、バインダと可塑剤を水あるいは有機溶剤に均一分散させることで電極層用ペーストを得ることができる。導電助剤として、カーボン材料などを用いることができる。導電助剤として、金属材料を用いてもよい。導電助剤の金属材料としては、Pd、Ni、Cu、Fe、これらを含む合金などが挙げられる。
【0022】
図2は、複数の電池単位が積層された全固体電池100aの模式的断面図である。全固体電池100aは、略直方体形状を有する積層チップ60と、積層チップ60の第1端面に設けられた第1外部電極40aと、当該第1端面と対向する第2端面に設けられた第2外部電極40bとを備える。
【0023】
積層チップ60の当該2端面以外の4面のうち、積層方向の上面および下面以外の2面を側面と称する。第1外部電極40aおよび第2外部電極40bは、積層チップ60の積層方向の上面、下面および2側面に延在している。ただし、第1外部電極40aと第2外部電極40bとは、互いに離間している。
【0024】
以下の説明において、全固体電池100と同一の組成範囲、同一の厚み範囲、および同一の粒度分布範囲を有するものについては、同一符号を付すことで詳細な説明を省略する。
【0025】
全固体電池100aにおいては、複数の正極層10と複数の負極層20とが、間に固体電解質層30を挟みつつ、交互に積層されている。正極層10、固体電解質層30、および負極層20の積層構造において、金属を主成分とする集電体が介在しなくてもよい。複数の正極層10の端縁は、積層チップ60の第1端面に露出し、第2端面には露出していない。複数の負極層20の端縁は、積層チップ60の第2端面に露出し、第1端面には露出していない。それにより、正極層10および負極層20は、第1外部電極40aと第2外部電極40bとに、交互に導通している。固体電解質層30は、第1外部電極40aから第2外部電極40bにかけて延在している。このように、全固体電池100aにおいては、正極層10、固体電解質層30および負極層20の積層単位と、負極層20、固体電解質層30および正極層10の積層単位とが交互に繰り返されている。それにより、全固体電池100aは、複数の電池単位が全並列積層された構造を有している。
【0026】
全固体電池100および全固体電池100aには、製品の信頼性、安全性等の観点から短絡検査が要求される。全固体電池100および全固体電池100aの小型化が進むにつれて、電極の極性を間違えて短絡検査する可能性が生じている。電極の極性を誤って短絡検査を行なうと、想定外のキャリア移動が生じ、電池特性が劣化し、製品が管理範囲外の特性となり、検査工程起因で歩留まりが低下する。短絡試験は全数検査をすることが多く、短絡試験による歩留まり低下は無視できない問題である。
【0027】
そこで、短絡検査による歩留まり低下を抑える方法として、2つの電極層のそれぞれに、正極活物質および負極活物質の両方を含ませることにより、各電極層を無極性電池とすることが考えられる。しかしながら、無極性電池では、正極活物質と負極活物質との比率が同じとなっている。この場合、極性を有する電池に比べて容量密度が低下してしまう。
【0028】
そこで、本実施形態に係る全固体電池100および全固体電池100aは、容量密度の低下を抑制しつつ短絡検査による歩留まり低下を抑制することができる構造を有している。
【0029】
まず、上述したように、全固体電池100および全固体電池100aにおいて、正極層10および負極層20の両方とも、正極活物質および負極活物質を含有している。それにより、電極の極性を間違えて短絡検査を行っても、想定外のキャリア移動が抑制され、電池特性の劣化が抑制される。したがって、短絡検査起因の歩留まり低下を抑制することができる。
【0030】
次に、正極層10において、正極活物質の比率を比率A1とし、負極活物質の比率を比率B1とする。負極層20において、正極活物質の比率を比率A2とし、負極活物質の比率を比率B2とする。正極層10における活物質に占める正極活物質の比率SCathodeは、下記式(1)のように表すことができる。負極層20における活物質に占める正極活物質の比率SAnodeは、下記式(2)のように表すことができる。全固体電池100および全固体電池100aにおいては、下記式(3)で表すように、SCathodeとSAnodeとが異なっている。また、下記式(4)で表すように、SCathodeがSAnodeよりも大きくなっている。
SCathode=A1/(A1+B1) (1)
SAnode=A2/(A2+B2) (2)
SCathode≠SAnode (3)
SCathode>SAnode (4)
【0031】
上記式(4)が成立することで、正極層10における活物質に占める正極活物質の比率が、負極層20における活物質に占める正極活物質の比率よりも大きくなる。この構成によれば、正しい極性で実装した場合に、2つの電極層で正極活物質と負極活物質との比率が同じである場合(SCathode=SAnode)と比較して、容量密度が向上する。なお、比率A1、比率B1、比率A2、比率B2は、それぞれの電極層全体に対する面積比率のことである。面積比率は、例えば積層方向の断面における面積比率とすることができる。
【0032】
以上のことから、本実施形態によれば、短絡検査による歩留まり低下を抑制しつつ容量密度の低下を抑制することができる。
【0033】
なお、SCathode>0.6かつSAnode<0.6が成立することが好ましい。
【0034】
比率A1、比率B1、比率A2、比率B2については、正極層10および負極層20の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)-EDS(エネルギー分散型X線分光器)マッピングによって観察することができる。具体的には、正極活物質および負極活物質固有の元素を観察することで、比率A1、比率B1、比率A2、比率B2を測定することができる。
【0035】
なお、
図3で例示するように、全固体電池100aの表面において、正極層10用の外部電極(第1外部電極40a)と負極層20用の外部電極(第2外部電極40b)とを目視で識別するためのマーク50が設けられていることが好ましい。例えば、第1外部電極40a寄りにマーク50が設けられていてもよく、第2外部電極40b寄りにマーク50が設けられていてもよい。
【0036】
図4は、全固体電池100aの製造方法のフローを例示する図である。
【0037】
(セラミック原料粉末作製工程)
まず、上述の固体電解質層30を構成する酸化物系固体電解質の粉末を作製する。例えば、原料、添加物などを混合し、固相合成法などを用いることで、固体電解質層30を構成する酸化物系固体電解質の粉末を作製することができる。得られた粉末を乾式粉砕することで、所望の平均粒径に調整することができる。例えば、5mmφのZrO2ボールを用いた遊星ボールミルで、所望の平均粒径に調整する。
【0038】
添加物には、焼結助剤が含まれる。焼結助剤として、例えば、Li-B-O系化合物、Li-Si-O系化合物、Li-C-O系化合物、Li-S-O系化合物,Li-P-O系化合物などのガラス成分のどれか1つあるいは複数などのガラス成分が含まれている。
【0039】
(グリーンシート作製工程)
次に、得られた粉末を、結着材、分散剤、可塑剤などとともに、水性溶媒あるいは有機溶媒に均一に分散させて、湿式粉砕を行うことで、所望の平均粒径を有する固体電解質スラリを得る。このとき、ビーズミル、湿式ジェットミル、各種混錬機、高圧ホモジナイザーなどを用いることができ、粒度分布の調整と分散とを同時に行うことができる観点からビーズミルを用いることが好ましい。得られた固体電解質スラリにバインダを添加して固体電解質ペーストを得る。得られた固体電解質ペーストを塗工することで、グリーンシートを作製することができる。塗工方法は、特に限定されるものではなく、スロットダイ方式、リバースコート方式、グラビアコート方式、バーコート方式、ドクターブレード方式などを用いることができる。湿式粉砕後の粒度分布は、例えば、レーザ回折散乱法を用いたレーザ回折測定装置を用いて測定することができる。
【0040】
(電極層用ペースト作製工程)
次に、上述の正極層10および負極層20の作製用の電極層用ペーストを作製する。例えば、電極活物質および固体電解質材料をビーズミル等で高分散化し、セラミックス粒子のみからなるセラミックスペーストを作製する。また、セラミックスペーストと板状カーボンペーストとをよく混合する。
【0041】
(積層工程)
図1で説明した全固体電池100については、電極層用ペーストをグリーンシートの両面に印刷する。印刷の方法は、特に限定されるものではなく、スクリーン印刷法、凹版印刷法、凸版印刷法、カレンダロール法などを用いることができる。薄層かつ高積層の積層デバイスを作製するにはスクリーン印刷がもっとも一般的と考えられる一方、ごく微細な電極パターンや特殊形状が必要な場合はインクジェット印刷を適用する方が好ましい場合もある。
【0042】
図2で説明した全固体電池100aについては、
図5で例示するように、グリーンシート71の一面に、電極層用ペースト72を印刷する。グリーンシート71上で電極層用ペースト72が印刷されていない領域には、逆パターン73を印刷する。逆パターン73として、グリーンシート71と同様のものを用いることができる。印刷後の複数のグリーンシート71を、交互にずらして積層し、積層体を得る。この場合、当該積層体において、2端面に交互に、電極層用ペースト72が露出するように、積層体を得る。
【0043】
(焼成工程)
次に、得られた積層体を焼成する。導電助剤としてカーボン材料を用いる場合には、カーボン材料の消失を抑制する観点から、焼成雰囲気の酸素分圧に上限を設けることが好ましい。具体的には、焼成雰囲気の酸素分圧を2×10-13atm以下とすることが好ましい。一方、酸化物系固体電解質としてリン酸塩系固体電解質を用いる場合には、リン酸塩系固体電解質の融解を抑制する観点から、焼成雰囲気の酸素分圧に下限を設けることが好ましい。具体的には、焼成雰囲気の酸素分圧を5×10-22atm以上とすることが好ましい。このように酸素分圧の範囲を定めることで、カーボン材料の消失およびリン酸塩系固体電解質の融解を抑制することができる。焼成雰囲気の酸素分圧の調整手法は、特に限定されるものではない。
【0044】
その後、積層チップ60の2端面に金属ペーストを塗布し、焼き付ける。それにより、第1外部電極40aおよび第2外部電極40bを形成することができる。あるいは、積層チップ60を、2端面に接する上面、下面、2側面で、第1外部電極40aと第2外部電極40bとが離間して露出できるような専用の冶具にセットし、スパッタにより電極を形成してもよい。形成した電極にめっき処理を施すことで、第1外部電極40aおよび第2外部電極40bを形成してもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施形態に従って全固体電池を作製し、特性について調べた。
【0046】
(実施例および比較例1~4)
Co3O4、Li2CO3、リン酸二水素アンモニウム、Al2O3、GeO2を混合し、固体電解質材料粉末としてCoを所定量含むLi1.3Al0.3Ge1.7(PO4)3を固相合成法により作製した。得られた粉末をZrO2ボールで、乾式粉砕を行った。さらに、湿式粉砕(分散媒:イオン交換水またはエタノール)にて、固体電解質スラリを作製した。得られたスラリに、バインダを添加して固体電解質ペーストを得て、グリーンシートを作製した。LiCoPO4、Coを所定量含むLi1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3を上記同様に固相合成法にて合成した。
【0047】
電極活物質および固体電解質材料を湿式ビーズミル等で高分散化し、セラミックス粒子のみからなるセラミックスペーストを作製した。次に、セラミックスペーストと導電助剤とをよく混合し、内部電極層用ペーストを作製した。なお、正極活物質として、LiCoPO4を用いた。負極活物質として、Li1+xAlxTi2-x(PO4)3を用いた。実施例では、焼成後に、SCathodeがSAnodeよりも大きくなるように、正極層10用の内部電極層用ペーストおよび負極層20用の内部電極ペーストを作製した。比較例1では、正極層10用の内部電極ペーストには負極活物質を含ませず、負極層20用の内部電極ペーストには正極活物質を含ませなかった。比較例2では、焼成後に、SAnodeがSCathodeよりも大きくなるように、正極層10用の内部電極層用ペーストおよび負極層20用の内部電極ペーストを作製した。比較例3および比較例4では、焼成後に、SCathodeがSAnodeと等しくなるように、正極層10用の内部電極層用ペーストおよび負極層20用の内部電極ペーストを作製した。
【0048】
次に、グリーンシートを複数枚重ね合わせて形成した固体電解質層の上下に内部電極層用ペーストを印刷し、□10mmにカットした角板を試料とした。この試料に対して焼成を行った。焼成温度は、700℃とした。焼成時の酸素分圧は、500℃以上で10-13atm以下とした。
【0049】
実施例および比較例1~4で得られた各全固体電池の断面をSEM-EDSマッピングによって観察した。正極活物質および負極活物質固有の元素を観察することで、正極層10における正極活物質の比率A
1、負極活物質の比率B
1、負極層20における正極活物質の比率A
2、負極活物質の比率B
2を測定した。得られた値から、S
CathodeおよびS
Anodeを算出した。結果を表1に示す。
【表1】
【0050】
表1に示すように、実施例では、SCathodeは0.667であり、SAnodeは0.500であった。比較例1では、SCathodeは1.00であり、SAnodeは0.00であった。比較例2では、SCathodeは0.500であり、SAnodeは0.667であった。比較例3では、SCathodeおよびSAnodeの両方とも0.667であった。比較例4では、SCathodeおよびSAnodeの両方とも0.500であった。
【0051】
(短絡試験)
次に、実施例および比較例1~4で得られた各全固体電池に対して短絡試験を行い、短絡試験の極性有無を確認した。具体的には、正しい極性で短絡試験を行なったサンプルと、誤った極性で短絡試験を行なったサンプルとで、正しい極性での充放電時の容量が±5%以内であれば極性無し(合格:〇)と判定し、異なっていれば極性有り(不合格:×)と判定した。結果を表1に示す。表1に示すように、実施例および比較例2~4では、「極性無し」と判定された。これは、正極層10および負極層20に、それぞれ正極活物質および負極活物質の両方が含まれていたからであると考えられる。一方、比較例1では、「極性有り」と判定された。これは、正極層10には負極活物質が含まれず、負極層20には正極活物質が含まれなかったからであると考えられる。
【0052】
(容量試験)
次に、実施例および比較例1~4で得られた各全固体電池について、実効面積に対する正反応容量を評価するため、容量を測定した。具体的には、動作電圧Aのとき、(A-0.5)Vにおける放電容量(mAh)に、開回路電圧測定から電流値Iでの定電流充電開始直後の電圧変化ΔVから算出した抵抗値R(=ΔV/I)を乗じた値C(mAh・Ω)を測定した。値Cが2500を上回れば非常に良好「◎」と判定し、値Cが1000を上回り2500以下であれば良好「〇」と判定し、値Cが1000以下であれば不良「×」と判定した。結果を表1に示す。表1に示すように、実施例では、良好「〇」と判定された。これは、SCathodeがSAnodeよりも大きく、容量が向上したからであると考えられる。一方、比較例2~4では、不良「×」と判定された。これは、SAnodeがSCathode以上となり、十分な容量が得られなかったからであると考えられる。なお、比較例1では、非常に良好「◎」と判定された。これは、正極層10には負極活物質が含まれず、負極層20には正極活物質が含まれなかったためであると考えられる。
【0053】
(総合評価)
実施例および比較例1~4について、短絡試験および容量試験において、「×」と判定されなければ、総合評価を合格「〇」と判定した。短絡試験および容量試験において、少なくともいずれかで「×」と判定されれば、総合評価を不合格「×」と判定した。結果を表1に示す。表1に示すように、実施例では、総合評価が合格「〇」と判定された。これは、SCathode≠SAnodeが成立したことで短絡試験時の極性が無く、SCathode>SAnodeの関係が成立したことで容量が向上したからであると考えられる。一方、比較例1~4では、総合評価が不合格「×」と判定された。これは、SCathode>SAnodeの関係が成立しなかったからであると考えられる。
【0054】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 正極層
20 負極層
30 固体電解質層
40a 第1外部電極
40b 第2外部電極
50 マーク
60 積層チップ
71 グリーンシート
72 電極層用ペースト
73 逆パターン
100,100a 全固体電池