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特許7409830位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク及び位相シフトマスクの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク及び位相シフトマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/32 20120101AFI20231226BHJP
【FI】
G03F1/32
【請求項の数】 27
(21)【出願番号】P 2019206141
(22)【出願日】2019-11-14
(65)【公開番号】P2021081463
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】五来 亮平
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-215297(JP,A)
【文献】特開2012-003255(JP,A)
【文献】特開2013-068967(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクを作製するために用いられる位相シフトマスクブランクであって、
透明基板と、前記透明基板上に他の膜を介して又は介さずに形成された第一の半透明膜と、前記第一の半透明膜上に形成された第二の半透明膜と、前記第二の半透明膜上に形成された遮光膜と、を備え、
前記第一の半透明膜は、露光光に対する透過率が10%以上80%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であり、
前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜との積層膜は、露光光に対する透過率が1%以上50%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であり、
前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜と前記遮光膜との積層膜は、露光光に対する透過率が0.01%以上1%以下の範囲内であり、
前記第一の半透明膜、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜との積層膜、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜と前記遮光膜との積層膜の順で透過率が小さくなり、
前記第二の半透明膜は、ルテニウム単体又は、ルテニウムと、酸素、窒素、炭素、フッ素、ホウ素及び遷移金属から選ばれる1種類以上とで形成されていることを特徴とする位相シフトマスクブランク。
【請求項2】
前記第一の半透明膜は、透過する露光光に対して所定量の位相変化を与える機能を有し、ケイ素を含有し、且つ遷移金属、窒素、酸素及び炭素から選ばれる1種類以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項3】
前記第二の半透明膜は、位相差が-10度以上10度以下の範囲内であり、透過率が5%以上60%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項4】
前記第二の半透明膜は、ルテニウム単体、ルテニウムと窒素、又はルテニウムとニオブで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項5】
前記遷移金属は、モリブデン、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項6】
前記遷移金属は、コバルト、及びニオブから選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項7】
前記遮光膜は、クロム単体、クロム化合物、タンタル化合物、及びモリブデン化合物から選ばれる1種類以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項8】
前記クロム化合物は、クロムと、窒素及び酸素から選ばれる1種類以上とを含有することを特徴とする請求項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項9】
前記タンタル化合物は、タンタルと、窒素、ホウ素、ケイ素、酸素及び炭素から選ばれる1種類以上とを含有することを特徴とする請求項又は請求項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項10】
前記モリブデン化合物は、モリブデンと、窒素、ホウ素、ケイ素、酸素及び炭素から選ばれる1種類以上とを含有することを特徴とする請求項から請求項のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項11】
前記遮光膜は、タンタル化合物を含有することを特徴とする請求項1から請求項のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項12】
前記第二の半透明膜は、ケイ素を含まないことを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランク。
【請求項13】
波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクであって、
透明基板と、前記透明基板上に他の膜を介して又は介さずに形成された第一の半透明膜と、前記第一の半透明膜上に形成された第二の半透明膜と、前記第二の半透明膜上に形成された遮光膜と、を備え、
前記第一の半透明膜が積層された第一の半透過領域と、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜とが積層された第二の半透過領域と、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜と前記遮光膜とが積層された遮光領域と、前記第一の半透明膜、前記第二の半透明膜及び前記遮光膜のいずれも存在しない透明領域と、を有し、
前記第一の半透過領域は、露光光に対する透過率が10%以上80%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であり、
前記第二の半透過領域は、露光光に対する透過率が1%以上50%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であり、
前記遮光領域は、露光光に対する透過率が0.01%以上1%以下の範囲内であり、
前記第一の半透過領域、前記第二の半透過領域、前記遮光領域の順で透過率が小さくなり、
前記第二の半透明膜は、ルテニウム単体又は、ルテニウムと、酸素、窒素、炭素、フッ素、ホウ素及び遷移金属から選ばれる1種類以上とで形成されていることを特徴とする位相シフトマスク。
【請求項14】
前記第一の半透明膜は、透過する露光光に対して所定量の位相変化を与える機能を有し、ケイ素を含有し、且つ遷移金属、窒素、酸素及び炭素から選ばれる1種類以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の位相シフトマスク。
【請求項15】
前記第二の半透明膜は、位相差が-10度以上10度以下の範囲内であり、透過率が5%以上60%以下の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項1に記載の位相シフトマスク。
【請求項16】
前記第二の半透明膜は、ルテニウム単体、ルテニウムと窒素、又はルテニウムとニオブで形成されていることを特徴とする請求項1から請求項1のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項17】
前記遷移金属は、モリブデン、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項13から請求項16のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項18】
前記遷移金属は、コバルト、及びニオブから選ばれる1種類以上であることを特徴とする請求項13から請求項16のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項19】
前記遮光膜は、クロム単体、クロム化合物、タンタル化合物、及びモリブデン化合物から選ばれる1種類以上を含有することを特徴とする請求項1から請求項1のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項20】
前記クロム化合物は、クロムと、窒素及び酸素から選ばれる1種類以上とを含有することを特徴とする請求項1に記載の位相シフトマスク。
【請求項21】
前記タンタル化合物は、タンタルと、窒素、ホウ素、ケイ素、酸素及び炭素から選ばれる1種類以上とを含有することを特徴とする請求項1又は請求項20に記載の位相シフトマスク。
【請求項22】
前記モリブデン化合物は、モリブデンと、窒素、ホウ素、ケイ素、酸素及び炭素から選ばれる1種類以上とを含有することを特徴とする請求項1から請求項21のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項23】
前記遮光膜は、タンタル化合物を含有することを特徴とする請求項1から請求項18のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項24】
前記第二の半透明膜は、ケイ素を含まないことを特徴とする請求項13から請求項23のいずれか1項に記載の位相シフトマスク。
【請求項25】
請求項1から請求項12のいずれか1項に記載の位相シフトマスクブランクを用いる位相シフトマスクの製造方法であって、
前記位相シフトマスクブランクに備わる前記遮光膜上に第一のレジストパターンを形成し、前記第一のレジストパターンをエッチングマスクとして、前記遮光膜、前記第二の半透明膜、前記第一の半透明膜をこの順にエッチングし、透明領域を形成する工程と、
前記遮光膜上に前記第一のレジストパターンとは異なる第二のレジストパターンを形成し、前記第二のレジストパターンが覆われていない前記遮光膜をエッチングし、第二の半透過領域を形成する工程と、
前記第二の半透明膜上に前記第一のレジストパターン及び、前記第二のレジストパターンとは互いに異なる第三のレジストパターンを形成し、前記第三のレジストパターンに覆われていない前記第二の半透明膜をエッチングし、第一の半透過領域を形成する工程と、を含むことを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【請求項26】
波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクを作製するために用いられる位相シフトマスクブランクであって、
透明基板と、前記透明基板上に他の膜を介して又は介さずに形成された第一の半透明膜と、前記第一の半透明膜上に形成された第二の半透明膜と、前記第二の半透明膜上に形成された遮光膜と、を備え、
前記第一の半透明膜は、露光光に対する透過率が10%以上80%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であり、
前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜との積層膜は、露光光に対する透過率が1%以上50%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であり、
前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜と前記遮光膜との積層膜は、露光光に対する透過率が0.01%以上1%以下の範囲内であり、
前記第一の半透明膜、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜との積層膜、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜と前記遮光膜との積層膜の順で透過率が小さくなる位相シフトマスクブランクを用いる位相シフトマスクの製造方法であって、
前記位相シフトマスクブランクに備わる前記遮光膜上に第一のレジストパターンを形成し、前記第一のレジストパターンをエッチングマスクとして、前記遮光膜、前記第二の半透明膜、前記第一の半透明膜をこの順にエッチングし、透明領域を形成する工程と、
前記遮光膜上に前記第一のレジストパターンとは異なる第二のレジストパターンを形成し、前記第二のレジストパターンが覆われていない前記遮光膜をエッチングし、第二の半透過領域を形成する工程と、
前記第二の半透明膜上に前記第一のレジストパターン及び、前記第二のレジストパターンとは互いに異なる第三のレジストパターンを形成し、前記第三のレジストパターンに覆われていない前記第二の半透明膜をエッチングし、第一の半透過領域を形成する工程と、を含むことを特徴とする位相シフトマスクの製造方法。
【請求項27】
前記第一の半透過領域を形成する工程において、前記第二の半透明膜を、フッ素系ガスと塩素系ガスをそれぞれ含まない酸素系ガスでエッチングすることを特徴とする請求項25又は請求項26に記載の位相シフトマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス等の製造において使用される位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク及び位相シフトマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体加工においては、特に大規模集積回路の高集積化により、回路パターンの微細化が必要になってきており、回路を構成する配線パターンの細線化や、セルを構成する層間の配線のためのコンタクトホールパターンの微細化技術への要求が高まってきている。そのため、半導体デバイス等の製造で用いられる露光光源は、KrFエキシマレーザー(波長248nm)から、ArFエキシマレーザー(波長193nm)へと短波長化が進んでいる。
【0003】
また、ウエハ転写特性を向上させたマスクとして、例えば、位相シフトマスクがある。位相シフトマスクでは、透明基板を透過するArFエキシマレーザー光と、透明基板と位相シフト膜の両方を透過するArFエキシマレーザー光との位相差(以下、単に「位相差」という。)が180度、かつ位相シフト膜の光透過率が6%というように、位相差と透過率の両方を調整することが可能である。
【0004】
例えば、位相差が180度の位相シフトマスクを製造する場合、位相差が177度付近になるよう位相シフト膜の膜厚を設定した後、位相シフト膜をフッ素系ガスにてドライエッチングすると同時に透明基板を3nm程度加工して、最終的に位相差を180度付近に調整する方法が知られている。
【0005】
ウエハ転写特性を表現する項目としては、例えば、フォトマスクを透過しウエハレジスト上でパターン像を作製するための光エネルギー分布のコントラストの勾配を表現する規格化像光強度対数勾配値(NILS:Normalized Image Log Slope)、安定してパターン作製可能な焦点からの距離を表わすフォーカス裕度(DOF:Depth Of Focus)、マスク上寸法の誤差がウエハ寸法で増幅される度合いを表現するマスクエラー増大因子(MEEF:Mask Error Enhancement Factor)が用いられる。
【0006】
先端ウエハ製造向けの位相シフトマスクにおいて、透過率が6%では十分ではなく、高透過率の位相シフトマスクが注目されている。光透過率を高くすることで、より位相シフト効果が大きくなり、特定のパターンで良好なウエハ転写特性を得ることが可能である。また、ウエハ上でのパターン寸法は、更なる微細化が求められており、より高いウエハ転写特性を得るためには、光透過率が20%以上の高透過率位相シフトマスクが望まれている。
【0007】
フォトマスクの作製においては、よりよいウエハ転写特性を求めるため、ターゲットとなるメインパターンに合わせて最適な透過率からなる位相シフトマスクを選択している(特許文献1及び特許文献2)。例えば、メインパターンがLS系パターンの場合は透過率が6%、Dot系パターンの場合は透過率が20%以上の高透過率位相シフトマスクが選ばれることが多い。
【0008】
しかしながら、フォトマスクの面内にはLS系パターンやDot系パターンなど多様なパターンが混在している場合もある。そのため、仮にメインパターンに合わせた透過率と位相差の位相シフトマスクを用いた場合には、一枚のフォトマスクでメインパターン以外のパターンを最適な透過率と位相差で作製することは極めて困難であった。つまり、従来技術では、マスク面内に様々なパターンが混在して形成された場合に、最適な透過率と位相差になるようにそれぞれのパターンを加工(調整)することができ、且つ十分なウエハ転写特性を得ることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第6432636号
【文献】特許第6341129号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、以上のような事情の元になされ、マスク面内に様々なパターンが形成された場合であっても高いウエハ転写特性を有する位相シフトマスクブランク、位相シフトマスク及び位相シフトマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであって、本発明の一態様に係る位相シフトマスクブランクは、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクを作製するために用いられる位相シフトマスクブランクであって、透明基板と、前記透明基板上に他の膜を介して又は介さずに形成された第一の半透明膜と、前記第一の半透明膜上に形成された第二の半透明膜と、前記第二の半透明膜上に形成された遮光膜と、を備え、前記第一の半透明膜は、露光光に対する透過率が10%以上80%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であり、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜との積層膜は、露光光に対する透過率が1%以上50%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であり、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜と前記遮光膜との積層膜は、露光光に対する透過率が0.01%以上1%以下の範囲内であり、前記第一の半透明膜、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜との積層膜、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜と前記遮光膜との積層膜の順で透過率が小さくなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係る位相シフトマスクは、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクであって、透明基板と、前記透明基板上に他の膜を介して又は介さずに形成された第一の半透明膜と、前記第一の半透明膜上に形成された第二の半透明膜と、前記第二の半透明膜上に形成された遮光膜と、を備え、前記第一の半透明膜が形成された第一の半透過領域と、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜とが積層された第二の半透過領域と、前記第一の半透明膜と前記第二の半透明膜と前記遮光膜とが積層された遮光領域と、前記第一の半透明膜、前記第二の半透明膜及び前記遮光膜のいずれも存在しない透明領域と、を有し、前記第一の半透過領域は、露光光に対する透過率が10%以上80%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であり、前記第二の半透過領域は、露光光に対する透過率が1%以上50%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内であり、前記遮光領域は、露光光に対する透過率が0.01%以上1%以下の範囲内であり、前記第一の半透過領域、前記第二の半透過領域、前記遮光領域の順で透過率が小さくなることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の一態様に係る位相シフトマスクの製造方法は、上述した位相シフトマスクブランクに備わる前記遮光膜上に第一のレジストパターンを形成し、前記第一のレジストパターンをエッチングマスクとして、前記遮光膜、前記第二の半透明膜、前記第一の半透明膜をこの順にエッチングし、透明領域を形成する工程と、前記遮光膜上に前記第一のレジストパターンとは異なる第二のレジストパターンを形成し、前記第二のレジストパターンが覆われていない前記遮光膜をエッチングし、第二の半透過領域を形成する工程と、前記第二の半透明膜上に前記第一のレジストパターン及び、前記第二のレジストパターンとは互いに異なる第三のレジストパターンを形成し、前記第三のレジストパターンに覆われていない前記第二の半透明膜をエッチングし、第一の半透過領域を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る位相シフトマスクブランクを用いることで、マスク面内に混在する各々のパターンに対して、最適な透過率と位相差になるようにパターンを加工することができ、加えて十分なウエハ転写特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1の実施形態に係る位相シフトマスクブランクの構成を示す断面概略図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る位相シフトマスクブランクの構成を示す断面概略図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係る位相シフトマスクブランクの構成を示す断面概略図である。
図4図1に示す位相シフトマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造工程を示す断面概略図である。
図5図2に示す位相シフトマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造工程を示す断面概略図である。
図6図3に示す位相シフトマスクブランクを用いた位相シフトマスクの製造工程を示す断面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、断面概略図は、実際の寸法比やパターン数を正確には反映しておらず、透明基板の掘り込み量や膜のダメージ量は省略してある。
本発明の位相シフトマスクブランクの好適な実施形態としては、以下に示す3つの形態が挙げられる。
【0017】
(構成)
図1は、本発明の第1の実施形態に係る位相シフトマスクブランクの構成を示す断面概略図である。図1に示す位相シフトマスクブランク10は、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクを作製するために用いられる位相シフトマスクブランクであって、露光波長に対して透明な基板(以下、単に「基板」ともいう)11と、基板11上に成膜された第一の半透明膜12と、第一の半透明膜12上に成膜された第二の半透明膜13と、第二の半透明膜13上に成膜された遮光膜14とを備えている。
【0018】
次に、図2は、本発明の第2の実施形態に係る位相シフトマスクブランクの構成を示す断面概略図である。図2に示す位相シフトマスクブランク20は、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクを作製するために用いられる位相シフトマスクブランクであって、露光波長に対して透明な基板(以下、単に「基板」ともいう)21と、基板21上に成膜された第一の半透明膜22と、第一の半透明膜22上に成膜された第二の半透明膜23と、第二の半透明膜23上に成膜された遮光膜24と、遮光膜24上に成膜されたエッチングマスク膜26とを備えている。この位相シフトマスクブランク20を用いた位相シフトマスクでは、エッチングマスク膜26が完全に除去されて、後述する位相シフトマスク上に残らない。
【0019】
次に、図3は、本発明の第3の実施形態に係る位相シフトマスクブランクの構成を示す断面概略図である。図3に示す位相シフトマスクブランク30は、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクを作製するために用いられる位相シフトマスクブランクであって、露光波長に対して透明な基板(以下、単に「基板」ともいう)31と、基板31上に成膜されたエッチングストッパー膜39と、エッチングストッパー膜39上に成膜された第一の半透明膜32と、第一の半透明膜32上に成膜された第二の半透明膜33と、第二の半透明膜33上に成膜された遮光膜34と、遮光膜34上に成膜されたエッチングマスク膜36とを備えている。この位相シフトマスクブランク30を用いた位相シフトマスクでは、エッチングマスク膜36、エッチングストッパー膜39は除去されずに、後述する位相シフトマスク上に残る。
【0020】
ここで、基板11、21、31に対する特別な制限はなく、基板11、21、31としては、例えば、石英ガラスやCaFあるいはアルミノシリケートガラスなどが一般的である。
第一の半透明膜12、22、32は、基板11、21、31上に他の膜を介して又は介さずに形成されている。
また、第一の半透明膜12、22、32は、例えば、ケイ素の酸化膜、窒化膜、酸窒化膜、もしくはケイ素および遷移金属の酸化膜、窒化膜、酸窒化膜の単層膜、又はこれらの複数層膜もしくは傾斜膜であり、組成と膜厚を適宜選択することで露光波長に対する透過率と位相差とを調整させたものである。つまり、第一の半透明膜12、22、32は、透過する露光光に対して所定量の位相変化を与える機能を有し、ケイ素を含有し、且つ遷移金属、窒素、酸素及び炭素から選ばれる1種類以上を含有するものであれば好ましい。
【0021】
遷移金属としては、モリブデンが好ましい。透過率の値は、基板11、21、31の透過率に対して、10%以上80%以下の範囲内であり、所望のウエハパターンに応じて最適な透過率を適宜選択することが可能である。位相差の値は、160度以上220度以下の範囲内、特に175度以上190度以下の範囲内が好ましい。つまり、第一の半透明膜12、22、32は、露光光に対する透過率が10%以上80%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内である。第一の半透明膜12、22、32の露光光に対する透過率が10%未満の場合には、Dot系パターンでの良好な露光性能が得られないことがある。また、第一の半透明膜12、22、32の露光光に対する透過率が80%を超える場合には、露光性能が頭打ちになり、第一の半透明膜12、22、32の膜厚が90nmを超えてくるためパターン倒れが増えることがある。また、位相差が160度以上220度以下の範囲内であれば、必要な露光性能を容易に維持することができる。
【0022】
第一の半透明膜12、22をエッチングする際は、同時に基板11、21を1nmから3nm程度掘り込み、位相シフト膜の抜け不良を防止すると共に、位相差の微調整を行うことが一般的である。したがって、基板11、21の掘り込み量を考慮して、マスク完成時に所望する値より浅い位相差で第一の半透明膜12、22を成膜する必要がある。一方、第一の半透明膜32のエッチングはエッチングストッパー膜39で止まるため、基板31を意図的に掘り込む工程を必要としない。したがって、マスク完成時に所望する値より浅い位相差で第一の半透明膜32を成膜する必要はない。
【0023】
また、第二の半透明膜13、23、33は、例えば、ルテニウムの単体膜、又はルテニウムと、酸素、窒素、炭素、フッ素、ホウ素及び遷移金属から選ばれる1種類以上の元素とを含有する単層膜、又はこちらの複数層膜である。第二の半透明膜13、23、33にルテニウムを添加することで、露光性能が向上する傾向がある。また、第二の半透明膜13、23、33にルテニウムを添加することで、第一の半透明膜12、22、32と第二の半透明膜13、23、33との積層膜の透過率だけでなく、位相差も容易に制御することができる。さらに、第二の半透明膜13、23、33にルテニウムを添加することで、第二の半透明膜13、23、33を剥離する際に、下層である第一の半透明膜12、22、32に与えるダメージを低減することができる。また、第二の半透明膜13、23、33にルテニウムを添加することで、遮光膜14、24、34を剥離する際に、下層である第二の半透明膜13、23、33に与えるダメージを低減することができる。
第二の半透明膜13、23、33におけるルテニウムの含有量は、第二の半透明膜13、23、33全体に対して、50原子%以上であれば好ましい。第二の半透明膜13、23、33におけるルテニウムの含有量が50原子%未満の場合には、上述した効果が得にくい傾向がある。
【0024】
遷移金属は、モリブデン、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる1種類以上の元素であることが好ましい。
また、第二の半透明膜13、23、33は、位相差が-10度以上10度以下の範囲内であり、透過率が5%以上60%以下の範囲内であることが好ましい。位相差が-10度以上10度以下の範囲内の範囲内であれば、位相差を容易に調整することができる。また、第二の半透明膜13、23、33の透過率が5%以上60%以下の範囲内であれば、必要な露光性能を容易に維持することができる。
位相差は、一般的に以下の式(1)で表される。
【0025】
【数1】
【0026】
したがって、露光波長に対する屈折率が1に近いルテニウムは、膜厚による位相差の変動を少なく、透過率のみを調整することが可能である。透過率の値は、第一の半透明膜12、22、32と合わせて、1%以上50%以下であり、所望のウエハパターンに応じてルテニウムの膜厚の調整により最適な透過率を適宜選択することが可能である。位相差の値は、第一の半透明膜12、22、32と合わせて160度以上220度以下の範囲内、特に175度以上185度以下の範囲内が好ましい。つまり、第一の半透明膜12、22、32と第二の半透明膜13、23、33との積層膜は、露光光に対する透過率が1%以上50%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内である。第一の半透明膜12、22、32と第二の半透明膜13、23、33との積層膜の露光光に対する透過率が1%未満の場合には、十分な位相シフト効果を得られないことがある。また、第一の半透明膜12、22、32と第二の半透明膜13、23、33との積層膜の露光光に対する透過率が50%を超える場合には、LS系パターンでの良好な露光性能が得られないことがある。また、位相差が160度以上220度以下の範囲内であれば、必要な露光性能を容易に維持することができる。
【0027】
また、遮光膜14、24、34は、クロムの単体膜、又はクロム化合物、タンタル化合物、及びモリブデン化合物から選ばれる1種類以上からなる単層膜、又はこちらの複数層膜である。クロム化合物は、クロムと、窒素及び酸素から選ばれる1種以上の元素とを含有する単層膜、又はこれらの複数層膜もしくは傾斜膜である。タンタル化合物は、タンタルと、窒素、ホウ素、ケイ素、酸素及び炭素から選ばれる1種以上の元素とを含有する単層膜、又はこれらの複数層膜もしくは傾斜膜である。モリブデン化合物は、モリブデンと、窒素、ホウ素、ケイ素、酸素及び炭素から選ばれる1種以上の元素とを含有する単層膜、又はこれらの複数層膜もしくは傾斜膜である。
【0028】
第一の半透明膜12、22、32と第二の半透明膜13、23、33と遮光膜14、24、34との積層膜は、露光光に対する透過率が0.01%以上1%以下の範囲内である。第一の半透明膜12、22、32と第二の半透明膜13、23、33と遮光膜14、24、34との積層膜の露光光に対する透過率が0.01%未満、もしくは、1%を超える場合には、十分な遮光性能を得ることができないため、露光性能が悪化することがある。
また、第一の半透明膜12、22、32、第一の半透明膜12、22、32と第二の半透明膜13、23、33との積層膜、第一の半透明膜12、22、32と第二の半透明膜13、23、33と遮光膜14、24、34との積層膜は、この順で透過率が小さくなっている。この順で透過率が小さくなれば、必要な露光性能を容易に維持することができる。
【0029】
遮光膜14、24の膜厚は、第一の半透明膜12、22と第二の半透明膜13、23との合わせた透過率により変化するが、遮光膜14、24、第一の半透明膜12、22及び第二の半透明膜13、23を合わせた露光波長に対するOD値(光学濃度)が2.0以上、より好ましくは2.8以上になるように調整する。例えば、第一の半透明膜12、22と第二の半透明膜13、23とを合わせた透過率が6%の場合では、遮光膜14、24の膜厚は、35nm以上80nm以下の範囲内、特に40nm以上75nm以下の範囲内が好ましい。
【0030】
一方、遮光膜34の膜厚も、第一の半透明膜32と第二の半透明膜33とを合わせた透過率により変化するが、エッチングマスク膜36は最終的に位相シフトマスク上に残るため、露光波長に対するOD値(光学濃度)は、遮光膜34と第一の半透明膜32と第二の半透明膜33とエッチングマスク膜36とを合わせて2.0以上、より好ましくは2.8以上になるように調整する。例えば、第一の半透明膜32と第二の半透明膜33とを合わせた透過率が6%の場合では、遮光膜34の膜厚は、35nm以上70nm以下の範囲内、特に40nm以上60nm以下の範囲内が好ましい。
【0031】
また、エッチングマスク膜26、36は、クロムの単体膜、又はクロム化合物、タンタル化合物、モリブデン化合物、及びケイ素から選ばれる1種以上の元素と、酸素及び窒素から選ばれる1種以上の元素とを含有する単層膜、又はこれらの複数層膜もしくは傾斜膜である。エッチングマスク膜26、36の膜厚は、2nm以上30nm以下の範囲内、特にエッチングマスク膜26、36のドライエッチングの際のレジストダメージを低減し、レジストの薄膜化を実現するためには、15nm以下が好ましい。更に、成膜時のピンホールや、エッチング時や洗浄時での膜消失を防止するためには、エッチングマスク膜26、36の膜厚は、3nm以上が好ましい。
【0032】
また、エッチングストッパー膜39は、アルミニウム、ハフニウム及びケイ素から選ばれる1種類以上の元素と、酸素、窒素及びフッ素から選ばれる1種類以上の元素とを含有する単層膜、又はこれらの複数層膜もしくは傾斜膜であり、好ましくはケイ素とアルミニウムとを含む混合膜の単層膜である。ここで、ケイ素とアルミニウムとを含む混合膜とは、酸化アルミニウム(Al)と、SiOや窒化ケイ素(Si)とを混合させた材料で形成された膜のことである。露光光に対する透過率は80%以上、特に90%以上が好ましい。また膜厚は、3nm以上20nm以下の範囲内、特に十分なエッチング耐性と透過率とを両立するためには、5nm以上15nm以下の範囲内が好ましい。
【0033】
上述した第一の半透明膜12、22、32、第二の半透明膜13、23、33、遮光膜14、24、34、エッチングマスク膜26、36、エッチングストッパー膜39は、いずれも公知の方法により成膜することができる。最も容易に均質性に優れた膜を得る方法としては、スパッタ成膜法が好ましく挙げられるが、本実施形態ではスパッタ成膜法に限定する必要はない。
【0034】
ターゲットとスパッタガスは膜組成によって選択される。例えば、クロムを含有する膜の成膜方法としては、クロムを含有するターゲットを用い、アルゴンガス等の不活性ガスのみ、酸素等の反応性ガスのみ、又は不活性ガスと反応性ガスとの混合ガス中で反応性スパッタリングを行う方法を挙げることができる。スパッタガスの流量は膜特性に合わせて調整すればよく、成膜中一定としてもよいし、酸素量や窒素量を膜の厚み方向に変化させたいときは、目的とする組成に応じて変化させてもよい。また、ターゲットに対する印加電力、ターゲットと基板との距離、成膜チャンバー内の圧力を調整してもよい。また、例えば、ケイ素と金属とを含有する膜の成膜では、ターゲットとして、ケイ素と金属との含有比を調整したターゲットを単独で使用してもよいし、ケイ素ターゲット、金属ターゲット、及びケイ素と金属とからなるターゲットから複数のターゲットを適宜選択してもよい。
本実施形態に係る位相シフトマスク100、200、300は、上述した本実施形態に係る位相シフトマスクブランク10、20、30が有する各々の膜を所望のパターンにパターニング又は除去することにより得られる。
【0035】
(製造方法)
本実施形態に係る位相シフトマスクブランク10、20、30を用いる位相シフトマスクの製造方法は、位相シフトマスクブランク10、20、30に備わる遮光膜14、24、34の上に第一のレジストパターン15、25、35を形成し、第一のレジストパターン15、25、35をエッチングマスクとして、遮光膜14、24、34、第二の半透明膜13、23、33、第一の半透明膜12、22、32をこの順にエッチングして透明領域を形成する工程と、遮光膜14、24、34の上に第一のレジストパターン15、25、35とは異なる第二のレジストパターン17、27、37を形成し、第二のレジストパターン17、27、37が覆われていない遮光膜14、24、34をエッチングして第二の半透過領域を形成する工程と、第二の半透明膜13、23、33の上に第一のレジストパターン15、25、35と第二のレジストパターン17、27、37とは異なる第三のレジストパターン18、28、38を形成し、第三のレジストパターン18、28、38に覆われていない第二の半透明膜13、23、33をエッチングして第一の半透過領域を形成する工程と、を含んでいる。
【0036】
以下、本発明の位相シフトマスク及び位相シフトマスクの製造方法の好適な実施形態を具体的に挙げる。
図4は、図1に示す位相シフトマスクブランク10を用いた位相シフトマスク100の製造工程を示す断面概略図である。図4(a)は、遮光膜14上にレジスト膜を塗布し、描画を施し、その後に現像処理を行い、第一のレジストパターン15を形成する工程を示す。図4(b)は、第一のレジストパターン15に沿って酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)により遮光膜14をパターニングする工程を示す。図4(c)は、遮光膜14のパターンに沿って酸素ドライエッチング(O系)により第二の半透明膜13をパターニングする工程と、残存した第一のレジストパターン15を剥離除去した後、洗浄する工程と、を示す。図4(d)は、遮光膜14及び第二の半透明膜13のパターンに沿ってフッ素系ドライエッチング(F系)により第一の半透明膜12をパターニングする工程を示す。図4(e)は、第二のレジストパターン17を新たに形成する工程を示す。図4(f)は、第二のレジストパターン17に覆われていない領域の遮光膜14を酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)により除去する工程を示す。図4(g)は、第二のレジストパターン17を剥離除去した後、第三のレジストパターン18を新たに形成する工程を示す。図4(h)は、第三のレジストパターン18に覆われていない領域の第二の半透明膜13を酸素ドライエッチング(O系)により除去する工程を示す。図4(i)は、残存した第三のレジストパターン18を剥離除去した後、洗浄する工程を示す。こうして、本実施形態に係る位相シフトマスク100を製造する。
【0037】
こうして製造された位相シフトマスク100は、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクであって、基板11と、基板11上に他の膜を介して又は介さずに形成された第一の半透明膜12と、第一の半透明膜12上に形成された第二の半透明膜13と、第二の半透明膜13上に形成された遮光膜14と、を備えている。また、位相シフトマスク100は、第一の半透明膜12が積層された第一の半透過領域と、第一の半透明膜12と第二の半透明膜13とが積層された第二の半透過領域と、第一の半透明膜12と第二の半透明膜13と遮光膜14とが積層された遮光領域と、第一の半透明膜12、第二の半透明膜13及び遮光膜14のいずれも存在しない透明領域と、を有している。そして、第一の半透過領域は、露光光に対する透過率が10%以上80%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内となっている。また、第二の半透過領域は、露光光に対する透過率が1%以上50%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内となっている。また、遮光領域は、露光光に対する透過率が0.01%以上1%以下の範囲内となっている。さらに、第一の半透過領域、第二の半透過領域、遮光領域の順で透過率が小さくなっている。
【0038】
次に、図5は、図2に示す位相シフトマスクブランク20を用いた位相シフトマスク200の製造工程を示す断面概略図である。図5(a)は、エッチングマスク膜26上にレジスト膜を塗布し、描画を施し、その後に現像処理を行い、第一のレジストパターン25を形成する工程を示す。図5(b)は、第一のレジストパターン25に沿ってフッ素系ドライエッチング(F系)によりエッチングマスク膜26をパターニングする工程を示す。図5(c)は、残存した第一のレジストパターン25を剥離除去した後、洗浄する工程を示す。図5(d)は、エッチングマスク膜26のパターンに沿って酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)により遮光膜24をパターニングする工程と、エッチングマスク膜26と遮光膜24のパターンに沿って酸素ドライエッチング(O系)により第二の半透明膜23をパターニングする工程と、を示す。図5(e)は、エッチングマスク膜26と遮光膜24と第二の半透明膜23のパターンに沿ってフッ素系ドライエッチング(F系)により第一の半透明膜22をパターニングする工程と、このフッ素系ドライエッチング(F系)により、最上層のエッチングマスク膜26を全面除去する工程と、を示す。図5(f)は、第二のレジストパターン27を新たに形成する工程を示す。図5(g)は、第二のレジストパターン27に覆われていない領域の遮光膜24を酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)により除去する工程を示す。図5(h)は、第二のレジストパターン27を剥離除去した後、第三のレジストパターン28を新たに形成する工程を示す。図5(i)は、第三のレジストパターン28に覆われていない領域の第二の半透明膜23を酸素ドライエッチング(O系)により除去する工程を示す。図5(j)は、残存した第三のレジストパターン28を剥離除去した後、洗浄する工程を示す。こうして、本実施形態に係る位相シフトマスク200を製造する。
【0039】
こうして製造された位相シフトマスク200は、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクであって、基板21と、基板21上に他の膜を介して又は介さずに形成された第一の半透明膜22と、第一の半透明膜22上に形成された第二の半透明膜23と、第二の半透明膜23上に形成された遮光膜24と、を備えている。また、位相シフトマスク200は、第一の半透明膜22が積層された第一の半透過領域と、第一の半透明膜22と第二の半透明膜23とが積層された第二の半透過領域と、第一の半透明膜22と第二の半透明膜23と遮光膜24とが積層された遮光領域と、第一の半透明膜22、第二の半透明膜23及び遮光膜24のいずれも存在しない透明領域と、を有している。そして、第一の半透過領域は、露光光に対する透過率が10%以上80%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内となっている。また、第二の半透過領域は、露光光に対する透過率が1%以上50%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内となっている。また、遮光領域は、露光光に対する透過率が0.01%以上1%以下の範囲内となっている。さらに、第一の半透過領域、第二の半透過領域、遮光領域の順で透過率が小さくなっている。
【0040】
次に、図6は、図3に示す位相シフトマスクブランク30を用いた位相シフトマスク300の製造工程を示す断面概略図である。図6(a)は、エッチングマスク膜36上にレジスト膜を塗布し、描画を施し、その後に現像処理を行い、第一のレジストパターン35を形成する工程を示す。図6(b)は、第一のレジストパターン35に沿って酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)によりエッチングマスク膜36をパターニングする工程を示す。図6(c)は、残存した第一のレジストパターン35を剥離除去した後、洗浄する工程を示す。図6(d)は、エッチングマスク膜36のパターンに沿ってフッ素系ドライエッチング(F系)により遮光膜34をパターニングする工程と、エッチングマスク膜36と遮光膜34のパターンに沿って酸素ドライエッチング(O系)により第二の半透明膜33をパターニングする工程と、を示す。図6(e)は、エッチングマスク膜36と遮光膜34と第二の半透明膜33のパターンに沿ってフッ素系ドライエッチング(F系)により第一の半透明膜32をパターニングする工程を示す。図6(f)は、第二のレジストパターン37を新たに形成する工程を示す。図6(g)は、第二のレジストパターン37に覆われていない領域のエッチングマスク膜36を酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)により除去する工程と、続けてエッチングマスク膜36を除去した領域の遮光膜34をフッ素系ドライエッチング(F系)により除去する工程と、を示す。図6(h)は、第二のレジストパターン37を剥離除去した後、第三のレジストパターン38を新たに形成する工程を示す。図6(i)は、第三のレジストパターン38に覆われていない領域の第二の半透明膜33を酸素ドライエッチング(O系)により除去する工程を示す。図6(j)は、残存した第三のレジストパターン38を剥離除去した後、洗浄する工程を示す。こうして、本実施形態に係る位相シフトマスク300を製造する。
【0041】
こうして製造された位相シフトマスク300は、波長200nm以下の露光光が適用される位相シフトマスクであって、基板31と、基板31上に他の膜を介して又は介さずに形成された第一の半透明膜32と、第一の半透明膜32上に形成された第二の半透明膜33と、第二の半透明膜33上に形成された遮光膜34と、を備えている。また、位相シフトマスク300は、第一の半透明膜32が積層された第一の半透過領域と、第一の半透明膜32と第二の半透明膜33とが積層された第二の半透過領域と、第一の半透明膜32と第二の半透明膜33と遮光膜34とが積層された遮光領域と、第一の半透明膜32、第二の半透明膜33及び遮光膜34のいずれも存在しない透明領域と、を有している。そして、第一の半透過領域は、露光光に対する透過率が10%以上80%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内となっている。また、第二の半透過領域は、露光光に対する透過率が1%以上50%以下の範囲内であり、位相差が160度以上220度以下の範囲内となっている。また、遮光領域は、露光光に対する透過率が0.01%以上1%以下の範囲内となっている。さらに、第一の半透過領域、第二の半透過領域、遮光領域の順で透過率が小さくなっている。
【0042】
図4(a)、図5(a)及び図6(a)の工程において、レジスト膜の材料としては、ポジ型レジストでもネガ型レジストでも用いることができるが、高精度パターンの形成を可能とする電子ビーム描画用の化学増幅型レジストを用いることが好ましい。レジスト膜の膜厚は、例えば50nm以上200nm以下の範囲内である。特に、微細なパターン形成が求められる位相シフトマスクを作製する場合、パターン倒れを防止する上で、第一のレジストパターン15、25、35のアスペクト比が大きくならないようにレジスト膜を薄膜化することが必要であり、150nm以下の膜厚が好ましい。一方、レジスト膜の膜厚の下限は、用いるレジスト材料のエッチング耐性などの条件を総合的に考慮して決定され、60nm以上が好ましい。レジスト膜として電子ビーム描画用の化学増幅型のものを使用する場合、描画の際の電子ビームのエネルギー密度は10μC/cmから100μC/cmの範囲内であり、この描画の後に加熱処理及び現像処理を施して第一のレジストパターン15、25、35を得る。
【0043】
また、図5(b)の工程において、ケイ素と、酸素及び窒素から選ばれる1種以上の元素とを含有する膜からなるエッチングマスク膜26をパターニングするフッ素系ドライエッチング(F系)の条件は、ケイ素系化合物膜をドライエッチングする際に用いられてきた公知のものであってもよく、フッ素系ガスとしては、例えば、CFやCやSFが一般的であり、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。
【0044】
また、図6(b)の工程において、クロム単体、又はクロム化合物からなるエッチングマスク膜36をパターニングする酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)の条件は、クロム化合物膜の除去に用いられてきた公知のものであってもよく、塩素ガスと酸素ガスとに加えて、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。
また、図4(c)、図5(c)及び図6(c)の工程において、第一のレジストパターン15、25、35の剥離除去は、ドライエッチングにより行うことも可能だが、一般には剥離液によりウェット剥離する。
【0045】
また、図4(b)及び図5(d)の工程において、クロム単体、又はクロム化合物からなる遮光膜14、24をパターニングする酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)の条件は、クロム化合物膜の除去に用いられてきた公知のものであってもよく、塩素ガスと酸素ガスとに加えて、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。下層の第二の半透明膜13、23と、図5(d)の場合は上層のエッチングマスク膜26は、酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。
【0046】
また、図6(d)の工程において、モリブデン化合物からなる遮光膜34をパターニングするフッ素系ドライエッチング(F系)の条件は、モリブデン化合物をドライエッチングする際に用いられてきた公知のものであってもよく、フッ素系ガスとしては、CFやCやSFが一般的であり、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。下層の第二の半透明膜33と、上層のエッチングマスク膜36は、フッ素系ドライエッチング(F系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。
【0047】
また、図4(c)、図5(d)及び図6(d)の工程において、第二の半透明膜13、23、33をパターニングする酸素系ドライエッチング(O系)の条件は、酸素ガスに加えて、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。上層の遮光膜14、24、34及びエッチングマスク膜26、36と、下層の第一の半透明膜12、22、32は、酸素系ドライエッチング(O系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。
【0048】
また、図4(d)、図5(e)及び図6(e)の工程において、第一の半透明膜12、22、32をパターニングするフッ素系ドライエッチング(F系)の条件は、ケイ素系化合物膜をドライエッチングする際に用いられてきた公知のものであってもよく、フッ素系ガスとしては、CFやCやSFが一般的であり、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。図4(d)及び図6(e)の場合は、上層の遮光膜14、24、34又はエッチングマスク膜36は、フッ素系ドライエッチング(F系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。また、図5(e)の場合は、最上層のエッチングマスク膜26は、フッ素系ドライエッチング(F系)による除去が可能であるため、第二の半透明膜23とともに全面除去される。図4(d)及び図5(e)では、同時に基板11、21を1nmから3nm程度掘り込み、各半透明膜の抜け不良を防止すると共に、位相差の微調整を行うことが一般的である。一方、図6(e)では、エッチングストッパー膜39がフッ素系ドライエッチング(F系)に対して耐性を有しているため、基板31が掘り込まれない。したがって、基板掘り込み量のパターン依存やマスク位置依存による位相差誤差が生じず、マスクの全パターン、全箇所においてより均一な位相差を実現できる。
【0049】
また、図4(e)、図5(f)及び図6(f)の工程において、描画方式は、電子ビーム描画よりも精度が落ちるレーザー描画を用いてもよく、レジスト膜を塗布し、電子ビーム描画又はレーザー描画を行い、その後に現像処理を施すことで、第二のレジストパターン17、27、37を得る。
また、図4(f)及び図5(g)の工程において、遮光膜14、24を除去する酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)の条件は、クロム化合物膜の除去に用いられてきた公知のものであってもよく、塩素ガスと酸素ガスとに加えて、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。下層の第二の半透明膜13、23、第一の半透明膜12、22、基板11、21は、いずれも酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。
【0050】
また、図6(g)の工程において、エッチングマスク膜36を除去する酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)の条件は、クロム化合物膜の除去に用いられてきた公知のものであってもよく、塩素ガスと酸素ガスとに加えて、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。下層の遮光膜34、第二の半透明膜33、第一の半透明膜32、エッチングストッパー膜39は、いずれも酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。
【0051】
また、図6(g)の工程において、遮光膜34を除去するフッ素系ドライエッチング(F系)の条件は、モリブデン化合物をドライエッチングする際に用いられてきた公知のものであってもよく、フッ素系ガスとしては、CFやCやSFが一般的であり、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。下層の第二の半透明膜33、第一の半透明膜32、エッチングストッパー膜39は、フッ素系ドライエッチング(F系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。
また、図4(g)、図5(h)及び図6(h)の工程において、描画方式は、電子ビーム描画よりも精度が落ちるレーザー描画を用いてもよく、レジスト膜を塗布し、電子ビーム描画又はレーザー描画を行い、その後に現像処理を施すことで、第三のレジストパターン18、28、38を得る。
【0052】
また、図4(h)、図5(i)及び図6(i)の工程において、第二の半透明膜13、23、33を除去する酸素系ドライエッチング(O系)の条件は、酸素ガスに加えて、必要に応じて窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスを混合してもよい。例えば、第二の半透明膜13、23、33を、フッ素系ガスと塩素系ガスをそれぞれ含まない酸素系ガスでエッチングしてもよい。下層の第一の半透明膜12、22、32、エッチングストッパー膜39、基板11、21、31は、いずれも酸素系ドライエッチング(O系)に対して耐性を有しているため、本工程では除去もしくはパターニングされずに残る。また、図6(i)では、下層のエッチングストッパー膜39が、酸素含有塩素系ドライエッチング(Cl/O系)、フッ素系ドライエッチング(F系)、酸素系ドライエッチング(O系)に対しても耐性を有している。
また、図4(i)、図5(j)及び図6(j)の工程において、第三のレジストパターン18、28、38の剥離除去は、ドライエッチングにより行うことも可能だが、一般には剥離液によりウェット剥離する。
【実施例
【0053】
以下、実施例により、本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
(実施例1)
石英基板の上に2つのターゲットを用いたDCスパッタ装置を用いて、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる第一の半透明膜を75nmの厚さで成膜した。ターゲットはモリブデンとケイ素とを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この第一の半透明膜の組成をESCAで分析したところ、Si:Mo:O:N=40:5:20:35(原子%比)であった。
【0054】
この第一の半透明膜の上にイオンスパッタ装置を用いて、ルテニウムからなる第二の半透明膜を13nmの厚さで成膜した。ターゲットはルテニウムを用い、スパッタガスはキセノンを用いた。この第二の半透明膜の組成をESCAで分析したところ、Ru=100(原子%比)であった。
この第二の半透明膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる下層遮光膜を30nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと窒素と酸素とを用いた。この下層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=50:30:20(原子%比)であった。
【0055】
この下層遮光膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる上層遮光膜を20nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと窒素と酸素とを用いた。この下層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=45:45:10(原子%比)であった。また、分光光度計にて、この第一の半透明膜と第二の半透明膜と二層構造の遮光膜とを合わせたArFエキシマレーザーの露光波長(193nm)での光学濃度(OD値)を測定したところ、3.2であった。
このようにして、石英基板の上にケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる第一の半透明膜、ルテニウムからなる第二の半透明膜、クロムと酸素と窒素とからなる二層構造の遮光膜が積層された位相シフトマスクブランクを得た。
【0056】
次に、この遮光膜上にネガ型化学増幅型電子線レジストを膜厚200nmでスピンコートし、パターンをドーズ量35μC/cmで電子ビーム描画し、110℃で10分間熱処理し、パドル現像で90秒間現像を行い、第一のレジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、二層構造の遮光膜をパターニングした。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。次に、第一のレジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄した。
【0057】
次に、ドライエッチング装置を用いて、第二の半透明膜をパターニングした。エッチングガスは酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
次に、ドライエッチング装置を用いて、第一の半透明膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。ドライエッチングは、石英基板を平均3nm掘り込んだ時点で停止した。
【0058】
次に、ポジ型レジスト膜をスピンコートし、レーザー描画装置によって描画を行った。その後、現像を行い、第二のレジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、二層構造の遮光膜を除去した。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。この際、下層の第二の半透明膜にはダメージは発生しなかった。
【0059】
次に、ポジ型レジスト膜をスピンコートし、レーザー描画装置によって描画を行った。その後、現像を行い、第三のレジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、第二の半透明膜を除去した。エッチングガスは酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。この際、下層の第一の半透明膜にはダメージは発生しなかった。
【0060】
次に、第三のレジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄し、第一の半透明膜が積層された第一の半透過領域と、第一の半透明膜と第二の半透明膜とが積層された第二の半透過領域と、第一の半透明膜と第二の半透明膜と二層構造の遮光膜とが積層された遮光領域とを備える位相シフトマスクを得た。
次に、この位相シフトマスクの透過率と位相差とをレーザーテック社製MPM193で測定したところ、ArFエキシマレーザーの露光波長(193nm)での石英基板の透過率に対する第一の半透過領域における透過率は30.0%、位相差は183度、第二の半透過領域における透過率は6.0%、位相差は180度であった。
【0061】
次に、実施例1の位相シフトマスクについて、LS系パターンを第二の半透過領域で、Dot系パターンを第一の半透過領域で作製し、Synopsys社S-Lithoを使用して、ArFエキシマレーザー露光光の波長における各光透過率に対して、NILS、DOF、MEEFを計算により求めた。表1に、そのシミュレーション結果を示す。また、表2に、比較例として、実施例1の第一の半透過領域と同じ透過率及び同じ位相差の従来の位相シフトマスク1で同一のLS系パターンとDot系パターンとを作製した場合(比較例1)と、表3に、実施例1の第二の半透過領域と同じ透過率及び同じ位相差の従来の位相シフトマスク2で同一のLS系パターンとDot系パターンとを作製した場合(比較例2)のシミュレーション結果をそれぞれ示す。表1と、表2及び表3とを比較すると、LS系パターンとDot系パターンの両方において、良好な露光性能を示すのは、実施例1の位相シフトマスクであることがわかる。より詳しくは、NILS及びDOFの値が大きい程、露光性能が高いことを示し、MEEFの値が小さい程、露光性能が高いことを示す。つまり、表2の結果は、比較例1の位相シフトマスク1では、Dot系パターンに対しては露光性能が高いが、LS系パターンに対しては露光性能が不十分であることを示している。また、表3の結果は、比較例2の位相シフトマスク1では、LS系パターンに対しては露光性能が高いが、Dot系パターンに対しては露光性能が不十分であることを示している。これに対し、表1の結果は、実施例1の位相シフトマスクであれば、LS系パターンとDot系パターンの両方で、NILS、DOF、及びMEEFの値がそれぞれ十分なものであることから、LS系パターンとDot系パターンの両方において露光性能が高いことを示している。
【0062】
以下、実施例1及び比較例1、2で作成したLS系パターン及びDot系パターンの形状等(パターン情報)を示す。
<パターン情報>
LS系パターン
・Line幅:50nm
・Pitch:100nm
Dot系パターン
・Dot径:50nm
・Pitch:100nm
【0063】
以下、実施例1及び比較例1、2で用いたシミュレーションの評価条件を示す。
<シミュレーション評価条件>
・NA:1.35
・sigma:QS X-0deg BL:40deg/Y-90deg
BL:40deg
・polarization:Azimuthally polarizaion
・Negative tone develop
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
【表3】
【0067】
以上の結果から、LS系パターンは第二の半透過領域、Dot系パターンは第一の半透過領域で作製することにより、実施例1の位相シフトマスクの露光性能を最大化することが確認された。
【0068】
(実施例2)
石英基板の上に2つのターゲットを用いたDCスパッタ装置を用いて、ケイ素と酸素と窒素とからなる第一の半透明膜を83nmの厚さで成膜した。ターゲットはケイ素を用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この第一の半透明膜の組成をESCAで分析したところ、Si:O:N=40:30:30(原子%比)であった。
【0069】
この第一の半透明膜の上にイオンスパッタ装置を用いて、ルテニウムと窒素とからなる第二の半透明膜を13nmの厚さで成膜した。ターゲットはルテニウムを用い、スパッタガスはキセノンと窒素とを用いた。この第二の半透明膜の組成をESCAで分析したところ、Ru:N=90:10(原子%比)であった。
この第二の半透明膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる下層遮光膜を40nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと窒素と酸素とを用いた。この下層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=50:30:20(原子%比)であった。
【0070】
この下層遮光膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと酸素と窒素とからなる上層遮光膜を20nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと窒素と酸素とを用いた。この下層遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:O:N=45:45:10(原子%比)であった。また、分光光度計にて、この第一の半透明膜と第二の半透明膜と二層構造の遮光膜とを合わせたArFエキシマレーザーの露光波長(193nm)での光学濃度(OD値)を測定したところ、3.2であった。
【0071】
この上層遮光膜の上にDCスパッタ装置を用いて、ケイ素と酸素とからなるエッチングマスク膜を10nmの厚さで成膜した。ターゲットはケイ素を用い、スパッタガスはアルゴンと酸素とを用いた。この遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Si:O=33:67(原子%比)であった。
このようにして、石英基板の上にケイ素と酸素と窒素とからなる第一の半透明膜、ルテニウムと窒素とからなる第二の半透明膜、クロムと酸素と窒素とからなる二層構造の遮光膜、ケイ素と酸素とからなるエッチングマスク膜が積層された位相シフトマスクブランクを得た。
【0072】
次に、このエッチングマスク膜上にネガ型化学増幅型電子線レジストを膜厚100nmでスピンコートし、パターンをドーズ量35μC/cmで電子ビーム描画し、110℃で10分間熱処理し、パドル現像で90秒間現像を行い、第一のレジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、エッチングマスク膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。次に、第一のレジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄した。
【0073】
次に、ドライエッチング装置を用いて、二層構造の遮光膜をパターニングした。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
次に、ドライエッチング装置を用いて、第二の半透明膜をパターニングした。エッチングガスは酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
【0074】
次に、ドライエッチング装置を用いて、第一の半透明膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。ドライエッチングは、石英基板を平均3nm掘り込んだ時点で停止した。また、第一の半透明膜をパターニングするエッチングにより、最上層のエッチングマスク膜も同時にエッチングされて全面除去された。
【0075】
次に、ポジ型レジスト膜をスピンコートし、レーザー描画装置によって描画を行った。その後、現像を行い、第二のレジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、二層構造の遮光膜を除去した。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。
【0076】
次に、ポジ型レジスト膜をスピンコートし、レーザー描画装置によって描画を行った。その後、現像を行い、第三のレジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、第二の半透明膜を除去した。エッチングガスは酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。
【0077】
次に、第三のレジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄し、第一の半透明膜が積層された第一の半透過領域と、第一の半透明膜と第二の半透明膜とが積層された第二の半透過領域と、第一の半透明膜と第二の半透明膜と二層構造の遮光膜とが積層された遮光領域とを備える位相シフトマスクを得た。
次に、この位相シフトマスクの透過率と位相差とをレーザーテック社製MPM193で測定したところ、ArFエキシマレーザーの露光波長(193nm)での石英基板の透過率に対する第一の半透過領域における透過率は50.0%、位相差は183度、第二の半透過領域における透過率は12.0%、位相差は183度であった。
【0078】
次に、実施例2の位相シフトマスクについて、LS系パターンを第二の半透過領域で、Dot系パターンを第一の半透過領域で作製し、Synopsys社S-Lithoを使用して、ArFエキシマレーザー露光光の波長における各光透過率に対して、NILS、DOF、MEEFを計算により求めた。表4に、そのシミュレーション結果を示す。また、表5に、比較例として、実施例2の第一の半透過領域と同じ透過率及び同じ位相差の従来の位相シフトマスク3で同一のLS系パターンとDot系パターンとを作製した場合(比較例3)と、表6に、実施例2の第二の半透過領域と同じ透過率及び同じ位相差の従来の位相シフトマスク4で同一のLS系パターンとDot系パターンとを作製した場合(比較例4)のシミュレーション結果をそれぞれ示す。表4と、表5及び表6とを比較すると、LS系パターンとDot系パターンの両方において、良好な露光性能を示すのは、実施例2の位相シフトマスクであることがわかる。より詳しくは、NILS及びDOFの値が大きい程、露光性能が高いことを示し、MEEFの値が小さい程、露光性能が高いことを示す。つまり、表5の結果は、比較例3の位相シフトマスク3では、Dot系パターンに対しては露光性能が高いが、LS系パターンに対しては露光性能が不十分であることを示している。また、表6の結果は、比較例4の位相シフトマスク4では、LS系パターンに対しては露光性能が高いが、Dot系パターンに対しては露光性能が不十分であることを示している。これに対し、表4の結果は、実施例2の位相シフトマスクであれば、LS系パターンとDot系パターンの両方で、NILS、DOF、及びMEEFの値が十分なものであることから、LS系パターンとDot系パターンの両方において露光性能が高いことを示している。
【0079】
以下、実施例2及び比較例3、4で作成したLS系パターン及びDot系パターンの形状等(パターン情報)を示す。
<パターン情報>
LS系パターン
・Line幅:50nm
・Pitch:100nm
Dot系パターン
・Dot径:50nm
・Pitch:100nm
【0080】
以下、実施例2及び比較例3、4で用いたシミュレーションの評価条件を示す。
<シミュレーション評価条件>
・NA:1.35
・sigma:QS X-0deg BL:40deg/Y-90deg
BL:40deg
・polarization:Azimuthally polarizaion
・Negative tone develop
【0081】
【表4】
【0082】
【表5】
【0083】
【表6】
【0084】
以上の結果から、LS系パターンは第二の半透過領域、Dot系パターンは第一の半透過領域で作製することにより、実施例2の位相シフトマスクの露光性能を最大化することが確認された。
【0085】
(実施例3)
石英基板の上に2つのターゲットを用いたDCスパッタ装置を用いて、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる第一の半透明膜を75nmの厚さで成膜した。ターゲットはモリブデンとケイ素とを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この第一の半透明膜の組成をESCAで分析したところ、Si:Mo:O:N=40:5:20:35(原子%比)であった。
【0086】
この第一の半透明膜の上にイオンスパッタ装置を用いて、ルテニウムからなる第二の半透明膜を13nmの厚さで成膜した。ターゲットはルテニウムを用い、スパッタガスはキセノンを用いた。この第二の半透明膜の組成をESCAで分析したところ、Ru=100(原子%比)であった。
この第二の半透明膜の上にDCスパッタ装置を用いて、タンタルと窒素とからなる遮光膜を30nmの厚さで成膜した。ターゲットはタンタルを用い、スパッタガスはアルゴンと窒素とを用いた。この遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Ta:N=70:30(原子%比)であった。
【0087】
この遮光膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと窒素とからなるエッチングマスク膜を10nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと窒素とを用いた。この遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:N=90:10(原子%比)であった。また、分光光度計にて、この第一の半透明膜と第二の半透明膜と遮光膜とエッチングマスク膜とを合わせたArFエキシマレーザーの露光波長(193nm)での光学濃度(OD値)を測定したところ、3.2であった。
このようにして、石英基板の上にケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる第一の半透明膜、ルテニウムからなる第二の半透明膜、タンタルと窒素とからなる遮光膜、クロムと窒素とからなるエッチングマスク膜が積層された位相シフトマスクブランクを得た。
【0088】
次に、このエッチングマスク膜上にネガ型化学増幅型電子線レジストを膜厚100nmでスピンコートし、パターンをドーズ量35μC/cmで電子ビーム描画し、110℃で10分間熱処理し、パドル現像で90秒間現像を行い、第一のレジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、エッチングマスク膜をパターニングした。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。次に、第一のレジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄した。
【0089】
次に、ドライエッチング装置を用いて、遮光膜をパターニングした。エッチングガスは塩素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
次に、ドライエッチング装置を用いて、第二の半透明膜をパターニングした。エッチングガスは酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
【0090】
次に、ドライエッチング装置を用いて、第一の半透明膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。ドライエッチングは、石英基板を平均3nm掘り込んだ時点で停止した。また、遮光膜、第二の半透明膜、第一の半透明膜をパターニングするエッチングでは最上層のエッチングマスク膜はエッチングされずパターンの最表面層として残る。
次に、ポジ型レジスト膜をスピンコートし、レーザー描画装置によって描画を行った。その後、現像を行い、第二のレジストパターンを形成した。
【0091】
次に、ドライエッチング装置を用いて、エッチングマスク膜を除去した。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。
次に、ドライエッチング装置を用いて、遮光膜を除去した。エッチングガスは塩素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。
【0092】
次に、ポジ型レジスト膜をスピンコートし、レーザー描画装置によって描画を行った。その後、現像を行い、第三のレジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、第二の半透明膜を除去した。エッチングガスは酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。
【0093】
次に、第三のレジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄し、第一の半透明膜が積層された第一の半透過領域と、第一の半透明膜と第二の半透明膜とが積層された第二の半透過領域と、第一の半透明膜と第二の半透明膜と遮光膜とエッチングマスク膜とが積層された遮光領域とを備える位相シフトマスクを得た。
次に、この位相シフトマスクの透過率と位相差とをレーザーテック社製MPM193で測定したところ、ArFエキシマレーザーの露光波長(193nm)での石英基板の透過率に対する第一の半透過領域における透過率は30.0%、位相差は183度、第二の半透過領域における透過率は6.0%、位相差は180度であった。
【0094】
次に、実施例3の位相シフトマスクについて、LS系パターンを第二の半透過領域で、Dot系パターンを第一の半透過領域で作製し、Synopsys社S-Lithoを使用して、ArFエキシマレーザー露光光の波長における各光透過率に対して、NILS、DOF、MEEFを計算により求めた。表7に、そのシミュレーション結果を示す。また、表8に、比較例として、実施例3の第一の半透過領域と同じ透過率及び同じ位相差の従来の位相シフトマスク5で同一のLS系パターンとDot系パターンとを作製した場合(比較例5)と、表9に、実施例3の第二の半透過領域と同じ透過率及び同じ位相差の従来の位相シフトマスク6で同一のLS系パターンとDot系パターンとを作製した場合(比較例6)のシミュレーション結果をそれぞれ示す。表7と、表8及び表9とを比較すると、LS系パターンとDot系パターンの両方において、良好な露光性能を示すのは、実施例3の位相シフトマスクであることがわかる。より詳しくは、NILS及びDOFの値が大きい程、露光性能が高いことを示し、MEEFの値が小さい程、露光性能が高いことを示す。つまり、表8の結果は、比較例5の位相シフトマスク5では、Dot系パターンに対しては露光性能が高いが、LS系パターンに対しては露光性能が不十分であることを示している。また、表9の結果は、比較例6の位相シフトマスク6では、LS系パターンに対しては露光性能が高いが、Dot系パターンに対しては露光性能が不十分であることを示している。これに対し、表7の結果は、実施例3の位相シフトマスクであれば、LS系パターンとDot系パターンの両方で、NILS、DOF、及びMEEFの値が十分なものであることから、LS系パターンとDot系パターンの両方において露光性能が高いことを示している。
【0095】
以下、実施例3及び比較例5、6で作成したLS系パターン及びDot系パターンの形状等(パターン情報)を示す。
<パターン情報>
LS系パターン
・Line幅:50nm
・Pitch:100nm
Dot系パターン
・Dot径:50nm
・Pitch:100nm
【0096】
以下、実施例3及び比較例5、6で用いたシミュレーションの評価条件を示す。
<シミュレーション評価条件>
・NA:1.35
・sigma:QS X-0deg BL:40deg/Y-90deg
BL:40deg
・polarization:Azimuthally polarizaion
・Negative tone develop
【0097】
【表7】
【0098】
【表8】
【0099】
【表9】
【0100】
以上の結果から、LS系パターンは第二の半透過領域、Dot系パターンは第一の半透過領域で作製することにより、実施例3の位相シフトマスクの露光性能を最大化することが確認された。
【0101】
(実施例4)
石英基板の上に2つのターゲットを用いたRFスパッタ装置を用いて、ケイ素とアルミニウムと酸素とからなるエッチングストッパー膜を8nmの厚さで成膜した。ターゲットはAlとSiOとを用い、スパッタガスはアルゴンを用いた。このエッチングストッパー膜の組成をESCAで分析したところ、Si:Al:O=15:25:60(原子%比)であった。
【0102】
このエッチングストッパー膜の上に2つのターゲットを用いたDCスパッタ装置を用いて、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる第一の半透明膜を77nmの厚さで成膜した。ターゲットはモリブデンとケイ素とを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この第一の半透明膜の組成をESCAで分析したところ、Si:Mo:O:N=38:5:22:35(原子%比)であった。
【0103】
この第一の半透明膜の上にイオンスパッタ装置を用いて、ルテニウムとニオブとからなる第二の半透明膜を18nmの厚さで成膜した。ターゲットはルテニウムとニオブ合金とを用い、スパッタガスはキセノンを用いた。この第二の半透明膜の組成をESCAで分析したところ、Ru:Nb=85:15(原子%比)であった。
この第二の半透明膜の上にDCスパッタ装置を用いて、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる遮光膜を15nmの厚さで成膜した。ターゲットはモリブデンとケイ素とを用い、スパッタガスはアルゴンと酸素と窒素とを用いた。この遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Si:Mo:O:N=40:20:5:35(原子%比)であった。
【0104】
この遮光膜の上にDCスパッタ装置を用いて、クロムと窒素とからなるエッチングマスク膜を10nmの厚さで成膜した。ターゲットはクロムを用い、スパッタガスはアルゴンと窒素とを用いた。この遮光膜の組成をESCAで分析したところ、Cr:N=90:10(原子%比)であった。また、分光光度計にて、この第一の半透明膜と第二の半透明膜と遮光膜とエッチングマスク膜とを合わせたArFエキシマレーザーの露光波長(193nm)での光学濃度(OD値)を測定したところ、3.2であった。
このようにして、石英基板の上にケイ素とアルミニウムと酸素とからなるエッチングストッパー膜、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる第一の半透明膜、ルテニウムとニオブとからなる第二の半透明膜、ケイ素とモリブデンと酸素と窒素とからなる遮光膜、クロムと窒素とからなるエッチングマスク膜が積層された位相シフトマスクブランクを得た。
【0105】
次に、このエッチングマスク膜上にネガ型化学増幅型電子線レジストを膜厚100nmでスピンコートし、パターンをドーズ量35μC/cmで電子ビーム描画し、110℃で10分間熱処理し、パドル現像で90秒間現像を行い、第一のレジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、エッチングマスク膜をパターニングした。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。次に、第一のレジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄した。
【0106】
次に、ドライエッチング装置を用いて、遮光膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
次に、ドライエッチング装置を用いて、第二の半透明膜をパターニングした。エッチングガスは酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。オーバーエッチングは100%行った。
【0107】
次に、ドライエッチング装置を用いて、第一の半透明膜をパターニングした。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は5mTorr、ICP電力は400W、バイアスパワーは40Wに設定した。ドライエッチングは、エッチングストッパー膜があるため、石英基板を掘り込まずに停止した。また、遮光膜、第二の半透明膜、第一の半透明膜をパターニングするエッチングでは最上層のエッチングマスク膜はエッチングされずパターンの最表面層として残った。
次に、ポジ型レジスト膜をスピンコートし、レーザー描画装置によって描画を行った。その後、現像を行い、第二のレジストパターンを形成した。
【0108】
次に、ドライエッチング装置を用いて、エッチングマスク膜を除去した。エッチングガスは塩素と酸素とヘリウムを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。
次に、ドライエッチング装置を用いて、遮光膜を除去した。エッチングガスはCFと酸素とを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。
【0109】
次に、ポジ型レジスト膜をスピンコートし、レーザー描画装置によって描画を行った。その後、現像を行い、第三のレジストパターンを形成した。
次に、ドライエッチング装置を用いて、第二の半透明膜を除去した。エッチングガスは酸素とヘリウムとを用い、ガス圧力は10mTorr、ICP電力は500W、バイアスパワーは10Wに設定した。オーバーエッチングは200%行った。
【0110】
次に、第三のレジストパターンを硫酸加水洗浄によって剥膜洗浄し、第一の半透明膜が積層された第一の半透過領域と、第一の半透明膜と第二の半透明膜とが積層された第二の半透過領域と、第一の半透明膜と第二の半透明膜と遮光膜とエッチングマスク膜とが積層された遮光領域とを備える位相シフトマスクを得た。
次に、この位相シフトマスクの透過率と位相差とをレーザーテック社製MPM193で測定したところ、ArFエキシマレーザーの露光波長(193nm)での石英基板の透過率に対する第一の半透過領域における透過率は30.0%、位相差は183度、第二の半透過領域における透過率は6.0%、位相差は180度であった。
【0111】
次に、実施例4の位相シフトマスクについて、LS系パターンを第二の半透過領域で、Dot系パターンを第一の半透過領域で作製し、Synopsys社S-Lithoを使用して、ArFエキシマレーザー露光光の波長における各光透過率に対して、NILS、DOF、MEEFを計算により求めた。表10に、そのシミュレーション結果を示す。また、表11に、比較例として、実施例4の第一の半透過領域と同じ透過率及び同じ位相差の従来の位相シフトマスク7で同一のLS系パターンとDot系パターンとを作製した場合(比較例7)と、表12に、実施例4の第二の半透過領域と同じ透過率及び同じ位相差の従来の位相シフトマスク8で同一のLS系パターンとDot系パターンとを作製した場合(比較例8)のシミュレーション結果をそれぞれ示す。表10と、表11及び表12とを比較すると、LS系パターンとDot系パターンの両方において、良好な露光性能を示すのは、実施例4の位相シフトマスクであることがわかる。より詳しくは、NILS及びDOFの値が大きい程、露光性能が高いことを示し、MEEFの値が小さい程、露光性能が高いことを示す。つまり、表11の結果は、比較例7の位相シフトマスク7では、Dot系パターンに対しては露光性能が高いが、LS系パターンに対しては露光性能が不十分であることを示している。また、表12の結果は、比較例8の位相シフトマスク8では、LS系パターンに対しては露光性能が高いが、Dot系パターンに対しては露光性能が不十分であることを示している。これに対し、表10の結果は、実施例4の位相シフトマスクであれば、LS系パターンとDot系パターンの両方で、NILS、DOF、及びMEEFの値が十分なものであることから、LS系パターンとDot系パターンの両方において露光性能が高いことを示している。
【0112】
以下、実施例4及び比較例7、8で作成したLS系パターン及びDot系パターンの形状等(パターン情報)を示す。
<パターン情報>
LS系パターン
・Line幅:50nm
・Pitch:100nm
Dot系パターン
・Dot径:50nm
・Pitch:100nm
【0113】
以下、実施例4及び比較例7、8で用いたシミュレーションの評価条件を示す。
<シミュレーション評価条件>
・NA:1.35
・sigma:QS X-0deg BL:40deg/Y-90deg
BL:40deg
・polarization:Azimuthally polarizaion
・Negative tone develop
【0114】
【表10】
【0115】
【表11】
【0116】
【表12】
【0117】
以上の結果から、LS系パターンは第二の半透過領域、Dot系パターンは第一の半透過領域で作製することにより、実施例4の位相シフトマスクの露光性能を最大化することが確認された。
【0118】
実施例1から実施例4のシミュレーション結果より、DOF、MEEFに関しては第一の半透過領域と第二の半透過領域での差は見られないが、NILSはDot系パターンでは第一の半透過領域、LS系パターンでは第二の半透過領域で形成することで良好な転写特性を得られることが可能であり、ウエハ製造に有効であることが分かる。
【0119】
以上、上記実施例により、本発明の位相シフトマスクブランクおよびこれを用いて作成される位相シフトマスクについて説明したが、上記実施例は本発明を実施するための例にすぎず、本発明はこれらに限定されるものではない。また、これらの実施例を変形することは本発明の範囲内であり、更に本発明の範囲内において他の様々な実施例が可能であることは上記の記載から自明である。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明では、位相シフトマスクブランクの組成及び膜厚及び層構造と、これを用いた位相シフトマスクの製造工程及び条件を適切な範囲で選択したので、28nm以下のロジック系デバイス、又は30nm以下のメモリ系デバイス製造に対応した、微細なパターンを高精度で形成した位相シフトマスクを提供することができる。
【符号の説明】
【0121】
10、20、30・・・位相シフトマスクブランク
11、21、31・・・露光波長に対して透明な基板(基板)
12、22、32・・・第一の半透明膜
13、23、33・・・第二の半透明膜
14、24、34・・・遮光膜
15、25、35・・・第一のレジストパターン
26、36・・・エッチングマスク膜
17、27、37・・・第二のレジストパターン
18、28、38・・・第三のレジストパターン
39・・・エッチングストッパー膜
100、200、300・・・位相シフトマスク
図1
図2
図3
図4
図5
図6