(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】モールドのクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/72 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
B29C33/72
(21)【出願番号】P 2019218638
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【氏名又は名称】小松 靖之
(72)【発明者】
【氏名】荒井 博康
【審査官】和瀬田 芳正
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-168795(JP,A)
【文献】特開2008-062633(JP,A)
【文献】特開2016-007845(JP,A)
【文献】特開2014-079664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ加硫時に使用されるモールドをクリーニングする、モールドのクリーニング方法であって、
前記モールドの内面は、タイヤ外面の凸包外面を形成するモールド基準面と、前記モールド基準面から突出し、タイヤ外面の凹部を形成する複数のモールド凸部と、を備え、
前記複数のモールド凸部の前記モールド基準面からの最大高さより有効焦点範囲が長いパルスレーザーを、前記複数のモールド凸部が前記有効焦点範囲に含まれるように、前記モールド基準面に略直交する方向から前記モールドの内面に向かって照射
し、
前記パルスレーザーを発光するレーザー装置を、前記モールド基準面に沿って移動させることで、前記モールドの内面のうち前記パルスレーザーが照射される位置を変動させ、
前記モールドは、タイヤ外面のうちトレッド外面を形成するセクターモールドであり、
前記レーザー装置を、前記セクターモールドの内面のうちタイヤ幅方向に対応する方向で前記モールド基準面に沿って移動させることで、前記セクターモールドの内面のうち前記パルスレーザーが照射される位置を変動させる、モールドのクリーニング方法。
【請求項2】
タイヤ加硫時に使用されるモールドをクリーニングする、モールドのクリーニング方法であって、
前記モールドの内面は、タイヤ外面の凸包外面を形成するモールド基準面と、前記モールド基準面から突出し、タイヤ外面の凹部を形成する複数のモールド凸部と、を備え、
前記複数のモールド凸部の前記モールド基準面からの最大高さより有効焦点範囲が長いパルスレーザーを、前記複数のモールド凸部が前記有効焦点範囲に含まれるように、前記モールド基準面に略直交する方向から前記モールドの内面に向かって照射し、
前記パルスレーザーを発光するレーザー装置を、前記モールド基準面に沿って移動させることで、前記モールドの内面のうち前記パルスレーザーが照射される位置を変動させ、
前記モールドは、タイヤ外面のうちサイドウォール外面を形成するサイドモールドであり、
前記レーザー装置を、前記サイドモールドの内面のうちタイヤ径方向に対応する方向で前記モールド基準面に沿って移動させることで、前記サイドモールドの内面のうち前記パルスレーザーが照射される位置を変動させる、モールドのクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールドのクリーニング方法、及び、モールド基準面の特定方法、に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤ加硫時に使用されるモールドをレーザーによりクリーニングするクリーニング方法が知られている。特許文献1には、この種のモールドのクリーニング方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
モールドのクリーニング方法としては、プラスチックビーズやドライアイスなどの粒体をモールドに衝突させるブラストクリーニングが知られている。しかしながら、モールド表面に微細な凹凸がある場合に、粒体が凹部に入り込まず、十分に洗浄できないことがある。これに対して特許文献1に記載されているようなレーザーによるクリーニングでは、微細な凹凸があってもレーザーが凹部に入り込み、凹部内を洗浄できる。しかしながら、レーザーの照射位置及び照射方向によっては、レーザーが凸部に遮られることで、凹部内にレーザーが行き届かない場合がある。そのため、全ての凹凸を把握し、その各位置に対して垂直となるようにレーザーを照射すればよいが、レーザーの照射位置及び照射方向の制御が複雑になるという問題がある。
【0005】
本発明は、モールドの微細な凹凸の有無によらず、簡単な制御でレーザーによるクリーニングを実現可能な、モールドのクリーニング方法、及び、モールド基準面の特定方法、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様としてのモールドのクリーニング方法は、タイヤ加硫時に使用されるモールドをクリーニングする、モールドのクリーニング方法であって、前記モールドの内面は、タイヤ外面の凸包外面を形成するモールド基準面と、前記モールド基準面から突出し、タイヤ外面の凹部を形成する複数のモールド凸部と、を備え、前記複数のモールド凸部の前記モールド基準面からの最大高さより有効焦点範囲が長いパルスレーザーを、前記複数のモールド凸部が前記有効焦点範囲に含まれるように、前記モールド基準面に略直交する方向から前記モールドの内面に向かって照射する。
【0007】
本発明の1つの実施形態として、前記パルスレーザーを発光するレーザー装置及び前記モールドの少なくとも一方を移動させることで、前記モールドの内面のうち前記パルスレーザーが照射される位置を変動させる。
【0008】
本発明の1つの実施形態として、前記レーザー装置を、前記モールド基準面に沿って移動させることで、前記モールドの内面のうち前記パルスレーザーが照射される位置を変動させる。
【0009】
本発明の1つの実施形態として、前記モールドは、タイヤ外面のうちトレッド外面を形成するセクターモールドであり、前記レーザー装置を、前記セクターモールドの内面のうちタイヤ幅方向に対応する方向で前記モールド基準面に沿って移動させることで、前記セクターモールドの内面のうち前記パルスレーザーが照射される位置を変動させる。
【0010】
本発明の1つの実施形態として、前記モールドは、タイヤ外面のうちサイドウォール外面を形成するサイドモールドであり、前記レーザー装置を、前記サイドモールドの内面のうちタイヤ径方向に対応する方向で前記モールド基準面に沿って移動させることで、前記サイドモールドの内面のうち前記パルスレーザーが照射される位置を変動させる。
【0011】
本発明の第2の態様としての基準面の特定方法は、タイヤ加硫時に使用されるモールドの内面のうち、タイヤ外面の凸包外面を形成するモールド基準面を、前記モールドの内面の断面形状に関する情報に基づき、凸包アルゴリズムを用いて特定する。
【0012】
本発明の1つの実施形態として、前記凸包アルゴリズムはグラハムスキャンである。
【0013】
本発明の1つの実施形態として、前記モールドは、タイヤ外面のうちトレッド外面を形成するセクターモールドである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、モールドの微細な凹凸の有無によらず、簡単な制御でレーザーによるクリーニングを実現可能な、モールドのクリーニング方法、及び、モールド基準面の特定方法、を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係るモールドのクリーニング方法を適用可能なモールドを用いて形成される空気入りタイヤの一例を示すタイヤ幅方向断面図である。
【
図2】
図1に示すタイヤの加硫工程の様子を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態としてのモールドのクリーニング方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図3の形状測定工程の概要を示す概要図である。
【
図5】
図3のモールド基準面特定工程の概要を示す概要図である。
【
図6】
図3のレーザー洗浄工程の概要を示す概要図である。
【
図7】
図3のレーザー洗浄工程を実行可能な洗浄システムの一例を示す図である。
【
図8】比較例としてのレーザー洗浄工程の概要を示す概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るモールドのクリーニング方法、及び、モールド基準面の特定方法、について図面を参照して例示説明する。各図において共通する部材・部位には同一の符号を付している。
【0017】
図1は、本発明に係るモールドのクリーニング方法を適用可能なモールドを用いて形成される空気入りタイヤの一例としての空気入りタイヤ1(以下、単に「タイヤ1」と記載する。)を示す図である。
図1は、タイヤ1についての、中心軸を含む平面でのタイヤ幅方向断面を示す。まず、タイヤ1の概要について説明する。
【0018】
図1に示すように、タイヤ1は、トレッド部1aと、このトレッド部1aのタイヤ幅方向Aの両端部からタイヤ径方向Bの内側に延びる一対のサイドウォール部1bと、各サイドウォール部1bのタイヤ径方向Bの内側の端部に設けられた一対のビード部1cと、を備えている。本実施形態のタイヤ1は、チューブレスタイプのラジアルタイヤであるが、その構成は特に限定されない。ここで「トレッド部1a」は、タイヤ幅方向Aにおいて両側のトレッド端TEにより挟まれる部分を意味する。また、「ビード部1c」とは、タイヤ径方向Bにおいて後述するビード部材3が位置する部分を意味する。そして「サイドウォール部1b」とは、トレッド部1aとビード部1cとの間の部分を意味する。なお、「トレッド端TE」とは、タイヤを適用リムに装着し、規定内圧を充填し、最大負荷荷重を負荷した状態での接地面のタイヤ幅方向最外側の位置を意味する。
【0019】
ここで、「適用リム」とは、空気入りタイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim
Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA(The Tire and Rim Association,Inc.)のYEAR BOOK等に記載されているまたは将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指す(即ち、上記の「適用リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含む。「将来的に記載されるサイズ」の例としては、ETRTO 2013年度版において「FUTURE DEVELOPMENTS」として記載されているサイズを挙げることができる。)が、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、空気入りタイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。
【0020】
また、「規定内圧」とは、上記のJATMA YEAR BOOK等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいい、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。
【0021】
また、「最大負荷荷重」とは、適用サイズのタイヤにおける上記JATMA等の規格のタイヤ最大負荷能力、又は、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤを装着する車両ごとに規定される最大負荷能力に対応する荷重を意味する。
【0022】
タイヤ1は、ビード部材3、カーカス4、傾斜ベルト5、周方向ベルト6、トレッドゴム7、サイドゴム8、及び、インナーライナ9、を備えている。ビード部材3は、ビードコア3a及びビードフィラ3bを備える。
【0023】
トレッドゴム7は、トレッド部1aのタイヤ径方向Bの外側の面(以下、「トレッド外面」と記載する。)を構成しており、本実施形態のトレッド外面には、タイヤ周方向C(
図1等参照)に延在する周方向溝や、タイヤ幅方向Aに延在する幅方向溝、周方向溝及び幅方向溝よりも細いスリット状のサイプ、タイヤ性能(例えば氷雪性能)に関わるその他の微細な凹部等、の各種の凹部20が形成されている。つまり、本実施形態のトレッド外面は、各種の凹部20によりトレッドパターンが形成されている。
【0024】
サイドゴム8は、サイドウォール部1bのタイヤ幅方向Aの外側の面(以下、「サイドウォール外面」と記載する。)を構成しており、上述のトレッドゴム7と一体で形成されている。本実施形態のように、サイドウォール外面には、タイヤ周方向Cに延在するリッジ部、タイヤ周方向Cに延在する溝部、微細な凹部等、の各種の凹部21が形成されていてもよい。このようなサイドウォール外面の各種の凹部21は、例えば、装飾パターンとして利用することができるが、その用途は装飾パターンに限られない。
【0025】
ここで、
図1に示すタイヤ1において、タイヤ外面の凸包外面L1を定義する。「凸包」とは、2次元においては、与えられた点をすべて包含する最小の凸多角形を意味する。また、「凸包」とは、3次元においては、与えられた点をすべて包含する最小の凸多面体を意味する。したがって、タイヤ外面の凸包外面L1は、トレッド外面の凹部20及びサイドウォール外面の凹部21には追従せずに、タイヤ1のタイヤ外面を連続させて形成される面であり、タイヤ外面を凹部20及び21に追従することなく覆う膜のような形状となる。換言すれば、トレッド外面の凹部20及びサイドウォール外面の凹部21は、タイヤ幅方向断面において、凸包外面L1よりもタイヤ内面側に窪んでいる。
【0026】
なお、
図1に示すタイヤ1は、本発明に係るモールドのクリーニング方法を適用可能なモールドを用いて形成される空気入りタイヤの一例であり、上述の構成に限定されない。
【0027】
次に、
図1に示すタイヤ1を形成する加硫工程について説明する。
図2は、タイヤ1を生成するための加硫工程の様子を示す図である。
図2では、説明の便宜上、タイヤ1のもととなる生タイヤ101のビード部材3(
図1参照)等の各種構成要素を省略して描いている。
【0028】
図2に示すように、未加硫の生タイヤ101は、モールド10とブラダー15との間に形成される加硫空間30の内部に収容される。モールド10は、セクターモールド11と、下側サイドモールド12と、上側サイドモールド13と、を備える。
【0029】
生タイヤ101は、タイヤ1のトレッド部1aとなるトレッド原形部101a、及び、タイヤ1のサイドウォール部1bとなるサイドウォール原形部101b、を有する。
【0030】
セクターモールド11は、生タイヤ101のトレッド原形部101aの外面を形成するトレッドパターン形成面11aと、このトレッドパターン形成面11aと反対側の傾斜面11bと、を有する。トレッドパターン形成面11aには、トレッドパターンを形成する各種の凹凸が形成されている。トレッドパターン形成面11aは、セクターモールド11の内面を構成している。
【0031】
下側サイドモールド12は、生タイヤ101の一方のサイドウォール原形部101bの外面を形成するサイドウォール形成面12aを有する。サイドウォール形成面12aには、サイドウォール外面の凹凸を形成する各種の凹凸が形成されていてもよい。サイドウォール形成面12aは、下側サイドモールド12の内面を構成している。さらに、上側サイドモールド13は、生タイヤ101の他方のサイドウォール原形部101bの外面を形成するサイドウォール形成面13aを有する。サイドウォール形成面13aには、サイドウォール外面の凹凸を形成する各種の凹凸が形成されていてもよい。サイドウォール形成面13aは、上側サイドモールド13の内面を構成している。
【0032】
アウターリング14は、セクターモールド11の傾斜面11bに当接する摺動傾斜面14aを有する。
【0033】
まず、加硫工程では、未加硫の生タイヤ101をセクターモールド11、下側サイドモールド12及び上側サイドモールド13の内側にセットする。こののち、アウターリング14が下降されると、アウターリング14の摺動傾斜面14aとセクターモールド11の傾斜面11bとが摺動する。これにより、セクターモールド11は、生タイヤ径方向(形成されるタイヤ1のタイヤ径方向と同じ方向)の内側に移動する。また、アウターリング14の下降と共に、上側サイドモールド13も下降する。これにより、下側サイドモールド12と上側サイドモールド13との対向距離が近づく。これによって、セクターモールド11と、下側サイドモールド12と、上側サイドモールド13と、が生タイヤ101に向けて移動し、セクターモールド11と、下側サイドモールド12と、上側サイドモールド13と、は互いに強固に密着させられて、密閉された加硫空間30が形成される。
【0034】
加硫時には、加熱及び加圧された流体がブラダー15に吹き込まれることにより、生タイヤ101の内側でブラダー15が膨張する。生タイヤ101は、膨張したブラダー15によって、セクターモールド11、下側サイドモールド12、及び上側サイドモールド13に型付けされる。これにより、セクターモールド11のトレッドパターン形成面11aの凹凸が、生タイヤ101のトレッド原形部101aの外面に転写される。また、下側サイドモールド12及び上側サイドモールド13それぞれのサイドウォール形成面12a及び13aに凹凸が形成されている場合についても、その凹凸が生タイヤ101のサイドウォール原形部101bの外面に転写される。このようにして、タイヤ1のトレッド外面のトレッドパターン、及び、タイヤ1のサイドウォール外面の各種凹凸、が形成される。
【0035】
なお、セクターモールド11、下側サイドモールド12、上側サイドモールド13及びアウターリング14は、金属(例えば、スチール、アルミ合金等)を材料として用いて、各種の形成加工(鋳造、機械加工、焼結、積層造形等)により製作される。
【0036】
次に、本発明に係るモールドのクリーニング方法の一例について説明する。
図3は、本発明に係るモールドのクリーニング方法の一例としての、モールド10のクリーニング方法を示すフローチャートである。
図3に示すように、モールド10のクリーニング方法は、形状測定工程S1と、モールド基準面特定工程S2と、レーザー洗浄工程S3と、を含む。
図4は、形状測定工程S1の概要を示す概要図である。
図5は、モールド基準面特定工程S2の概要を示す概要図である。
図6、
図7は、レーザー洗浄工程S3の概要を示す概要図である。
図8は、比較例としてのレーザー洗浄の概要を示す概要図である。以下、
図3~
図8を参照して、各工程S1~S3の詳細について説明する。
【0037】
図4に示すように、形状測定工程S1では、タイヤ加硫時に使用されるモールド10の3次元形状を測定する。具体的に、形状測定工程S1では、モールド10の断面外形を順次測定し、各断面の外形を連結することにより、モールド10の内面に形成されている各種凹凸の3次元形状を測定することができる。そのため、セクターモールド11の場合、トレッドパターン形成面11aに形成された各種凹凸の形状を測定することができる。また、下側サイドモールド12及び上側サイドモールド13の場合、サイドウォール形成面12a及び13aに形成された各種凹凸の形状を測定することができる。なお、
図4は、セクターモールド11を、タイヤ幅方向Aに対応する断面で見た場合の外形を模式的に示す模式図である。
図4に示す例では、セクターモールド11のタイヤ幅方向Aに対応する断面外形を、タイヤ周方向Cに対応する方向(
図4~
図6では符号「C」で表記)に沿って順次測定し、それら断面外形を連結することで、セクターモールド11のトレッドパターン形成面11aの3次元形状を測定する。
図4ではセクターモールド11を例示しているが、下側サイドモールド12及び上側サイドモールド13であっても同様である。以下、セクターモールド11と、下側サイドモールド12及び上側サイドモールド13と、を特に区別しない場合は、単に「モールド10」と記載する。
【0038】
図4に示す例では、形状測定装置40を用いてモールド10の断面外形を測定している。形状測定装置40は、例えば、レーザーを送受信する送受信部を備える構成とすることができる。形状測定装置40は、発光したレーザーが対象物に反射して戻り受光されるまでの時間を測定することで、対象物の位置を特定できる。但し、形状測定装置40は、レーザーを用いる構成に限られず、モールド10の3次元形状を測定できれば、その構成は特に限定されない。なお、形状測定装置40において用いるレーザーは、後述するレーザー洗浄工程S3で用いられるレーザーと比較して、照射エネルギー密度が小さいものである。
【0039】
ここで、モールド10の内面は、モールド基準面50と、このモールド基準面50から突出する複数のモールド凸部51と、を備える。「モールド基準面50」とは、タイヤ外面の凸包外面L1(
図1参照)を形成する面である。「モールド凸部51」とは、モールド基準面50から突出し、タイヤ外面の凹部(
図1のタイヤ1の凹部20及び21等)を形成する突出部である。つまり、モールド10の内面のモールド凸部51が生タイヤ101(
図2参照)の外面に転写されることで、タイヤ外面の凹部が形成される。
【0040】
図5に示すように、モールド基準面特定工程S2では、タイヤ加硫時に使用されるモールド10の内面のうち上述したモールド基準面50を特定する。
【0041】
図4に示すように、形状測定工程S1では、モールド10の内面の凹凸を測定することができる。モールド基準面特定工程S2では、形状測定工程S1において測定された断面形状に関する情報に基づき、上述のモールド基準面50を特定する。より具体的に、モールド基準面特定工程S2では、形状測定工程S1において測定された断面形状に関する情報に基づき、凸包アルゴリズムを用いて、同断面におけるタイヤ外面の凸包外面L1に対応するモールド基準線50aを特定する。そして、各断面におけるモールド基準線50aを連結することで、モールド基準面50を得ることができる。
【0042】
なお、「凸包アルゴリズム」とは、上述した「凸包」を抽出するアルゴリズムである。凸包アルゴリズムとしては、例えば、ギフト包装法、分割統治法、QuickHull、グラハムスキャン、Monotone Chainなどがある。本実施形態では、グラハムスキャンを用いることで、各断面のモールド基準線50aを抽出し、モールド基準面50を特定している。
【0043】
図6に示すように、レーザー洗浄工程S3では、パルスレーザー用いてモールド10の内面を洗浄する。パルスレーザーをモールド10に照射すると、エネルギーの吸収によりモールド10の表面の除去対象物が蒸発すると共に表面に急激にプラズマが生成される。その衝撃波及び熱膨張圧で除去対象物をモールド10から剥離させることができる。具体的に、レーザー洗浄工程S3では、パルスレーザーを、モールド基準面50に略直交する方向からモールド10の内面に向かって照射する。「モールド基準面50に略直交する方向」とはモールド基準面50に対して直交する直交方向、及び、この直交方向に対して5°以下の範囲で傾斜している方向、を意味する。このレーザー洗浄工程S3で用いるパルスレーザーの有効焦点範囲Xは、モールド10の複数のモールド凸部51のモールド基準面50からの最大高さHmaxより長い。モールド凸部51のモールド基準面50からの高さHとは、モールド凸部51のモールド基準面50に直交する直交方向の高さを意味する。具体的に、本実施形態の最大高さHmaxは、20mm未満であり、有効焦点範囲Xは20mmである。したがって、このパルスレーザーをモールド基準面50に略直交する方向からモールド10の内面に向かって照射する場合、任意のモールド凸部51が有効焦点範囲Xに含まれるように、すなわち、本実施形態では有効焦点範囲Xの先端位置をモールド基準面50に合わせれば、任意のモールド凸部51が有効焦点範囲X内となるため、パルスレーザーにより洗浄することができる。
【0044】
また、レーザー洗浄工程S3では、パルスレーザーを発光するレーザー装置60及びモールド10の少なくとも一方を移動させることで、モールド10の内面のうちパルスレーザーが照射される位置を変動させる。本実施形態では、
図6に示すように、レーザー装置60を、モールド基準面50に沿って移動させることで、モールド10の内面のうちパルスレーザーが照射される位置を変動させる。より具体的に、本実施形態のレーザー装置60は、レーザー発光源60aからの距離150mm~170mmの20mmの範囲が有効焦点範囲Xとなる。そのため、レーザー装置60は、モールド基準面50に対して直交する直交方向においてレーザー発光源60aとモールド基準面50との間の距離が170mmを維持するように、モールド基準面50に沿って移動される。これにより、モールド基準面50から突設される任意のモールド凸部51を、パルスレーザーの有効焦点範囲X内におさめることができる。
【0045】
図8は、比較例としてのレーザー洗浄工程を示す図である。
図8に示すレーザー洗浄工程では、モールド基準面50を利用しない。そのため、計測測定工程で測定されたモールド10の内面の形状に関する情報に基づき、各モールド凸部51の各点でレーザーを垂直に照射するように、レーザー装置60´を複雑に移動させる。このような制御は極めて複雑である。
【0046】
これに対して、
図6に示すレーザー洗浄工程S3では、モールド基準面特定工程S2で特定されたモールド基準面50を利用して、レーザー装置60の移動を制御する。そのため、レーザー装置60の移動制御が簡単となり、モールド10のクリーニングに要する時間についても短縮できる。
【0047】
特に、タイヤ外面のうちトレッド外面を形成するセクターモールド11をレーザー洗浄する場合は、レーザー装置60を、セクターモールド11の内面のうちタイヤ幅方向Aに対応する方向(
図4~
図6では符号「A」で表記)でモールド基準面50に沿って移動させることで、セクターモールド11の内面のうちパルスレーザーが照射される位置を変動させる。つまり、タイヤ幅方向Aに対応する方向の全域をレーザー洗浄し、これをタイヤ周方向Cに対応する方向に順次ずらしていくことで、セクターモールド11の内面の全域を洗浄する。このようにすれば、タイヤ周方向Cに対応する方向の位置によらず、レーザー装置60のタイヤ幅方向Aに対応する方向の動作を単純化できる。
【0048】
また、タイヤ外面のうちサイドウォール外面を形成するサイドモールド(本実施形態では下側サイドモールド12又は上側サイドモールド13)をレーザー洗浄する場合は、レーザー装置60を、サイドモールドの内面のうちタイヤ径方向Bに対応する方向(
図4~
図6では符号「B」で表記)でモールド基準面50に沿って移動させることで、サイドモールドの内面のうちパルスレーザーが照射される位置を変動させる。つまり、タイヤ径方向Bに対応する方向の全域をレーザー洗浄し、これをタイヤ周方向Cに対応する方向に順次ずらしていくことで、サイドモールドの内面の全域を洗浄する。このようにすれば、タイヤ周方向Cに対応する方向の位置によらず、レーザー装置60のタイヤ径方向Bに対応する方向の動作を単純化できる。
【0049】
なお、レーザー装置60は、市販のパルスレーザー発振機を使用すればよい。照射するパルスレーザーの照射スポット径についても特に限定されない。発光されるパルスレーザーの照射エネルギー密度に応じて適宜設定されればよい。
【0050】
最後に、
図7を参照して、上述したレーザー洗浄工程S3を実行する洗浄システム200の一例について説明する。
図7に示す洗浄システム200は、レーザー装置60と、このレーザー装置60を保持し、レーザー装置60を移動可能なロボットアーム61と、モールド10のセクターモールド11を所定方向に搬送する第1搬送装置62と、モールド10の下側サイドモールド12及び上側サイドモールド13を所定方向に搬送する第2搬送装置63と、下側サイドモールド12及び上側サイドモールド13を回動させる回動装置64と、を備える。第1搬送装置62の搬送路62a上にはセクターモールド11が支持されており、ロボットアーム61の近傍を通過する際に、レーザー装置60によりレーザー洗浄される。また、第2搬送装置63の搬送路63a上には下側サイドモールド12又は上側サイドモールド13が支持されており、ロボットアーム61の近傍を通過する際に、レーザー装置60によりレーザー洗浄される。回動装置64は、レーザー装置60により下側サイドモールド12又は上側サイドモールド13の一部の洗浄が完了すると、下側サイドモールド12又は上側サイドモールド13を回動する。これにより、レーザー装置60は、下側サイドモールド12又は上側サイドモールド13の別の一部を洗浄することができる。
【0051】
図7に示すような洗浄システム200を用いれば、既存のロボットアーム61を用いて、モールド10を効率的に洗浄することができる。
【0052】
本発明に係るモールドのクリーニング方法、及び、モールド基準面の特定方法、は上述した実施形態に示す具体的な工程に限られず、特許請求の範囲を逸脱しない限り、種々の変更・組み合わせが可能である。例えば、
図3に示すクリーニング方法は、形状測定工程S1、モールド基準面特定工程S2及びレーザー洗浄工程S3を含むが、他の工程を含んでいてもよい。例えば、モールド基準面50に対して略直交する方向からレーザー照射を行ってレーザー洗浄した後に、モールド基準面50に対して傾斜する別の方向からレーザー照射してレーザー洗浄する工程を含んでもよい。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、モールドのクリーニング方法、及び、モールド基準面の特定方法、に関する。
【符号の説明】
【0054】
1:タイヤ、 1a:トレッド部、 1b:サイドウォール部、 1c:ビード部、 3:ビード部材、 4:カーカス、 5:傾斜ベルト、 6:周方向ベルト、 7:トレッドゴム、 8:サイドゴム、 9:インナーライナ、 10:モールド、 11:セクターモールド、 11a:トレッドパターン形成面、 11b:傾斜面、 12:下側サイドモールド、 12a:サイドウォール形成面、 13:上側サイドモールド、 13a:サイドウォール形成面、 14:アウターリング、 14a:摺動傾斜面、 15:ブラダー、 20:凹部、 21:凹部、 30:加硫空間、 40:形状測定装置、 50:モールド基準面、 50a:モールド基準線、 51:モールド凸部、 60、60´:レーザー装置、 60a:レーザー発光源、 61:ロボットアーム、 62:第1搬送装置、 62a:搬送路、 63:第2搬送装置、 63a:搬送路、 64:回動装置、 101:生タイヤ、 101a:トレッド原形部、 101b:サイドウォール原形部、 200:洗浄システム、 A:タイヤ幅方向、タイヤ幅方向に対応する方向、 B:タイヤ径方向、タイヤ径方向に対応する方向、 C:タイヤ周方向、タイヤ周方向に対応する方向、 H:モールド凸部の基準面からの高さ、 Hmax:複数のモールド凸部の基準面からの最大高さ、 L1:凸包外面、 TE:トレッド端、 X:有効焦点範囲