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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】既設トンネルの補強構造
(51)【国際特許分類】
   E21D 11/10 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
E21D11/10 A
E21D11/10 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019221505
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021092029
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000140292
【氏名又は名称】株式会社奥村組
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小出 昌克
(72)【発明者】
【氏名】福田 勝也
(72)【発明者】
【氏名】森 淳
(72)【発明者】
【氏名】楢崎 雄一
(72)【発明者】
【氏名】大野 誠
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-280089(JP,A)
【文献】特開平10-025997(JP,A)
【文献】特開平08-210098(JP,A)
【文献】特開2001-271599(JP,A)
【文献】特開2001-055898(JP,A)
【文献】特開平10-252397(JP,A)
【文献】特開2016-132961(JP,A)
【文献】特開2001-090487(JP,A)
【文献】特開平08-028193(JP,A)
【文献】特開平06-330699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湾曲断面形状部分を有するトンネルに設けられた、既設のトンネル覆工体を補強するための既設トンネルの補強構造であって、
湾曲断面形状部分を有する前記既設のトンネル覆工体の内周部分の複数箇所に配置・固定された取付け座を介することで、トンネルの延長方向に所定の間隔をおいて周方向に延設して取り付けられた、内側にパネル取付け面を備える複数の鋼製支保部材と、
トンネルの延長方向に隣接する各一対の前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に跨るようにして、前記鋼製支保部材に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材と、
前記被覆パネル部材と前記既設のトンネル覆工体との間の空間に充填され、前記鋼製支保部材と前記被覆パネル部材と前記既設のトンネル覆工体とを一体化させる硬化性材料とを含んで構成されており、
前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面となる一方のフランジ部の内側面における、横幅方向の中央部分には、周方向に所定の間隔をおいて、押付け固定部材を前記鋼製支保部材に締着させるナット部材が固着されており、
前記被覆パネル部材は、当該被覆パネル部材を前記鋼製支保部材のパネル取付け面に押付けた状態で固定するための前記押付け固定部材を用いて、周方向に連設して前記鋼製支保部材に支持させた状態で各々取り付けられており、
前記押付け固定部材は、前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に固着された前記ナット部材に、リブ座金又は締着ナットを備える固定ボルト部材を螺着して締め着けることによって、リブ座金又は定着ナットとの間に挟み込むようにして当該押付け固定部材の両側の端部を前記鋼製支保部材に締着することで、連設する複数の前記被覆パネル部材を、前記鋼製支保部材に押付けた状態で固定しており、
前記鋼製支保部材は、前記既設のトンネル覆工体の周方向において端面同士を互いに連結することで一体化される、複数の単位鋼製支保部材によって形成されており、少なくとも一カ所の接合箇所における、隣接する一対の前記単位鋼製支保部材に両端部が各々連結されて、前記鋼製支保部材の周方向の長さを調整可能な伸縮ジャッキが取り付けられており、該伸縮ジャッキによって押し拡げられた一対の端面間の間隔部分に、1又は2枚以上の長さ調整プレートが挟み込まれるようになっている既設トンネルの補強構造。
【請求項2】
前記取付け座は、前記既設のトンネル覆工体から内側に突出して固定された複数本の雄ネジボルト部材と、該雄ネジボルト部材に螺着するナット部材によって高さ調整された状態で該雄ネジボルト部材に締着固定される、複数の締着孔を有する台座プレート部材とを備えており、
前記鋼製支保部材は、前記取付け座の前記台座プレート部材に接合されることで、前記パネル取付け面の設置位置が調整された状態で、前記既設のトンネル覆工体の内周形状に沿って取り付けられている請求項1に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項3】
前記鋼製支保部材は、I形鋼又はH形鋼からなり、一方のフランジ部が前記パネル取付け面として内側に配置されると共に、他方のフランジ部が接合面部として前記取付け座の前記台座プレート部材に接して配置されるようになっており、前記取付け座は、締着孔を有する挟み込みプレート片と、ボルトナット部材とを含んでおり、前記他方のフランジ部を前記台座プレート部材と前記挟み込みプレート片との間に挟み込んだ状態で、前記ボルトナット部材を前記台座プレート部材及び前記挟み込みプレート片の締着孔に締着することによって、前記鋼製支保部材が、前記取付け座の前記台座プレート部材に接合されている請求項2に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項4】
前記挟み込みプレート片は、平板形状の挟み込み本体部と、該挟み込み本体部の前記台座プレート部材側の面の縁部分に沿って一体として取り付けられた、前記他方のフランジ部の厚さと同様の高さを有するスペーサリブとを有している請求項3に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項5】
前記既設のトンネル覆工体は、鉄筋コンクリート製セグメント又は合成セグメントによって形成されており、前記雄ネジボルト部材は、これらのセグメントのコンクリート部分に基部を埋設して固定された、アンカーボルトによるものとなっている請求項2~4のいずれか1項に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項6】
前記既設のトンネル覆工体の下部から前記空間に突出して、前記硬化性材料に埋設される下部アンカー部材が取り付けられている請求項1~5のいずれか1項に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項7】
前記既設のトンネル覆工体は、鉄筋コンクリート製セグメント又は合成セグメントによって形成されており、前記下部アンカー部材は、これらのセグメントのコンクリート部分に基部を埋設して固定された、アンカーボルトによるものとなっている請求項6に記載の既設トンネルの補強構造。
【請求項8】
請求項1記載の既設トンネルの補強構造による、既設のトンネル覆工体を補強するための既設トンネルの補強方法であって、
内側にパネル取付け面を備える複数の鋼製支保部材を、湾曲断面形状部分を有する前記既設のトンネル覆工体の内周部分の複数箇所に配置・固定された取付け座を介することで、トンネルの延長方向に所定の間隔をおいて、周方向に延設させて取り付ける支保部材設置工程と、
トンネルの延長方向に隣接する各一対の前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に跨るようにして、複数の被覆パネル部材を、前記鋼製支保部材に支持させて周方向に連設して取り付けるパネル部材設置工程と、
前記被覆パネル部材と前記既のトンネル覆工体との間の空間に、前記鋼製支保部材と前記被覆パネル部材と前記既設のトンネル覆工体とを一体化させる硬化性材料を充填する裏込め充填工程とを含んで構成される既設トンネルの補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既設トンネルの補強構造及び既設トンネルの補強方法に関し、特に、湾曲断面形状部分を有するトンネルに設けられた、既設のトンネル覆工体を補強するための既設トンネルの補強構造及び既設トンネルの補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
湾曲断面形状部分を有する既設のトンネルとして、例えば円形の断面形状を備えるシールドトンネルでは、老朽化すると、トンネルの内壁面を覆うセグメント等による一次覆工体や、一次覆工体の内側に形成されるコンクリート等による二次覆工体に、例えば周囲の地盤の圧密沈下や、海に近い地域では塩害等の影響によって、ひび割れや腐食等による損傷個所が生じる場合がある。
【0003】
このようなシールドトンネル等の湾曲断面形状部分を有する既設のトンネルの覆工体に、ひび割れや腐食等による損傷個所が生じた場合の補修方法として、既設のトンネルの覆工体の内側に、湾曲断面形状部分を有するトンネルの内周面に沿って、支保工材やコンクリート等を用いて、新たに補強用の覆工体を形成することが考えられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-271599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、既設のトンネル覆工体の内側に、湾曲断面形状部分を有するトンネルの内周面に沿って、支保工材やコンクリート等を用いて新たに補強用の覆工体を形成する際に、例えば既存のトンネル覆工体が、地下鉄等の鉄道トンネル用のものであると、補強用の覆工体を形成するための施工時間は、電車が走っていない深夜の時間帯の数時間に限られることから、数時間での作業を、繰り返して行なう必要があると共に、鉄道トンネルには、車両走行中に侵入してはならない空間区画としての車両限界があるため、その構築中の支保部材も含め、補強用の覆工体が車両限界を侵さないように形成できるようにすることが必要である。
【0006】
特に、老朽化した例えばシールドトンネルの場合には、周囲の地盤の圧密沈下等の影響によって、既設のトンネル覆工体が変形したり変位したりしていることも懸念されるため、このような変形をも吸収して、より精度良く補強用の覆工体を形成できるようにする技術の開発が望まれている。
【0007】
本発明は、湾曲断面形状部分を有するトンネルの内周面に沿って形成された既存のトンネル覆工体を補強する補強用の覆工体を、鋼製支保部材及び硬化性材料を用いて、好ましくは数時間での作業を繰り返しながら効率良く補強できると共に、より精度良く形成することのできる既設トンネルの補強構造及び補強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、湾曲断面形状部分を有するトンネルに設けられた、既設のトンネル覆工体を補強するための既設トンネルの補強構造であって、湾曲断面形状部分を有する前記既設のトンネル覆工体の内周部分の複数箇所に配置・固定された取付け座を介することで、トンネルの延長方向に所定の間隔をおいて周方向に延設して取り付けられた、内側にパネル取付け面を備える複数の鋼製支保部材と、トンネルの延長方向に隣接する各一対の前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に跨るようにして、前記鋼製支保部材に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材と、前記被覆パネル部材と前記既設のトンネル覆工体との間の空間に充填され、前記鋼製支保部材と前記被覆パネル部材と前記既設のトンネル覆工体とを一体化させる硬化性材料とを含んで構成されており、前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面となる一方のフランジ部の内側面における、横幅方向の中央部分には、周方向に所定の間隔をおいて、押付け固定部材を前記鋼製支保部材に締着させるナット部材が固着されており、前記被覆パネル部材は、当該被覆パネル部材を前記鋼製支保部材のパネル取付け面に押付けた状態で固定するための前記押付け固定部材を用いて、周方向に連設して前記鋼製支保部材に支持させた状態で各々取り付けられており、前記押付け固定部材は、前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に固着された前記ナット部材に、リブ座金又は締着ナットを備える固定ボルト部材を螺着して締め着けることによって、リブ座金又は定着ナットとの間に挟み込むようにして当該押付け固定部材の両側の端部を前記鋼製支保部材に締着することで、連設する複数の前記被覆パネル部材を、前記鋼製支保部材に押付けた状態で固定しており、前記鋼製支保部材は、前記既設のトンネル覆工体の周方向において端面同士を互いに連結することで一体化される、複数の単位鋼製支保部材によって形成されており、少なくとも一カ所の接合箇所における、隣接する一対の前記単位鋼製支保部材に両端部が各々連結されて、前記鋼製支保部材の周方向の長さを調整可能な伸縮ジャッキが取り付けられており、該伸縮ジャッキによって押し拡げられた一対の端面間の間隔部分に、1又は2枚以上の長さ調整プレートが挟み込まれるようになっている既設トンネルの補強構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
そして、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記取付け座が、前記既設のトンネル覆工体から内側に突出して固定された複数本の雄ネジボルト部材と、該雄ネジボルト部材に螺着するナット部材によって高さ調整された状態で該雄ネジボルト部材に締着固定される、複数の締着孔を有する台座プレート部材とを備えており、前記鋼製支保部材は、前記取付け座の前記台座プレート部材に接合されることで、前記パネル取付け面の設置位置が調整された状態で、前記既設のトンネル覆工体の内周形状に沿って取り付けられていることが好ましい。
【0010】
また、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記鋼製支保部材が、I形鋼又はH形鋼からなり、一方のフランジ部が前記パネル取付け面として内側に配置されると共に、他方のフランジ部が接合面部として前記取付け座の前記台座プレート部材に接して配置されるようになっており、前記取付け座は、締着孔を有する挟み込みプレート片と、ボルトナット部材とを含んでおり、前記他方のフランジ部を前記台座プレート部材と前記挟み込みプレート片との間に挟み込んだ状態で、前記ボルトナット部材を前記台座プレート部材及び前記挟み込みプレート片の締着孔に締着することによって、前記鋼製支保部材が、前記取付け座の前記台座プレート部材に接合されていることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記挟み込みプレート片が、平板形状の挟み込み本体部と、該挟み込み本体部の前記台座プレート部材側の面の縁部分に沿って一体として取り付けられた、前記他方のフランジ部の厚さと同様の高さを有するスペーサリブとを有していることが好ましい。
【0012】
さらにまた、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記既設のトンネル覆工体が、鉄筋コンクリート製セグメント又は合成セグメントによって形成されており、前記雄ネジボルト部材は、これらのセグメントのコンクリート部分に基部を埋設して固定された、アンカーボルトによるものとなっていることが好ましい。
【0013】
また、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記既設のトンネル覆工体の下部から前記空間に突出して、前記硬化性材料に埋設される下部アンカー部材が取り付けられていることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の既設トンネルの補強構造は、前記既設のトンネル覆工体が、鉄筋コンクリート製セグメント又は合成セグメントによって形成されており、前記下部アンカー部材は、これらのセグメントのコンクリート部分に基部を埋設して固定された、アンカーボルトによるものとなっていることが好ましい。
【0016】
また、本発明は、湾曲断面形状部分を有するトンネルに設けられた、既設のトンネル覆工体を補強するための既設トンネルの補強方法であって、内側にパネル取付け面を備える複数の鋼製支保部材を、湾曲断面形状部分を有する前記既設のトンネル覆工体の内周部分の複数箇所に配置・固定された取付け座を介することで、トンネルの延長方向に所定の間隔をおいて、周方向に延設させて取り付ける支保部材設置工程と、トンネルの延長方向に隣接する各一対の前記鋼製支保部材の前記パネル取付け面に跨るようにして、複数の被覆パネル部材を、前記鋼製支保部材に支持させて周方向に連設して取り付けるパネル部材設置工程と、前記被覆パネル部材と前記既存のトンネル覆工体との間の空間に、前記鋼製支保部材と前記被覆パネル部材と前記既設のトンネル覆工体とを一体化させる硬化性材料を充填する裏込め充填工程とを含んで構成される既設トンネルの補強方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明の既設トンネルの補強構造又は補強方法によれば、湾曲断面形状部分を有するトンネルの内周面に沿って形成された既存のトンネル覆工体を補強する補強用の覆工体を、鋼製支保部材及び硬化性材料を用いて、好ましくは数時間での作業を繰り返しながら効率良く補強できると共に、より精度良く形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の好ましい一実施形態に係る既設トンネルの補強構造によって補強される既存のトンネル覆工体を例示する、シールドトンネルの略示横断面図である。
図2図1のA部拡大図である。
図3】(a)は図2のB部拡大図、(b)は(a)のC-Cに沿った断面図、(c)は(a)を左側から見た正面図である。
図4】挟み込みプレート片を説明する、(a)は平面図、(b)は側面図である。
図5】鋼製支保部材の周方向の長さを調整可能な伸縮ジャッキを説明する、鋼製支保部材の略示側面図である。
図6】鋼製支保部材のパネル取付け面に固着されたナット部材を説明する、(a)は鋼製支保部材の断面図、(b)は鋼製支保部材の部分内面図である。
図7】(a)は被覆パネル部材の正面図、(b)は背面図、(c)は(b)のD-Dに沿った断面図、(d)は(c)のE部拡大図である。
図8】複数の被覆パネル部材が既設のトンネル覆工体の内壁面に沿って周方向に連設して取り付けた状態を説明する、被覆パネル部材の展開配置図である。
図9】一対の鋼製支保部材のパネル取付け面に跨るようにして、複数の被覆パネル部材を取り付ける状況を説明する、(a)は部分略示内面図、(b)は(a)のF-Fに沿った略示縦断面図、(c)は(a)のG-Gに沿った部分略示横断面図である。
図10】本発明の好ましい一実施形態に係る既設トンネルの補強構造を説明する、図2のH-Hに沿った、押付け固定部材が取り付けられた状態の部分縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の好ましい一実施形態に係る既設トンネルの補強構造10は、図1に示すように、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51として、例えば円形の断面形状を備えるシールドトンネルの内壁面51を覆う、好ましくは鉄筋コンクリート製セグメントや合成セグメントによる既設のトンネル覆工体55を、硬化性材料14(図10参照)として、好ましくは無収縮モルタル等のセメント系の硬化性材料を用いて、効率良く補強して行くための構造として採用されたものである。すなわち、本実施形態では、シールドトンネル50は、例えば地下鉄用の鉄道トンネルとして供用されており、供用の開始から相当の期間が経過していることで、老朽化によって、ひび割れや腐食等による損傷個所が生じていることから、既設トンネルの補強構造10を採用することで、損傷個所が生じた既設のトンネル覆工体55を、補強用の覆工体58(図10参照)により補強するようになっている。また、本実施形態の既設トンネルの補強構造10は、シールドトンネル50が鉄道トンネルとなっていて、施工時間が、電車が走っていない深夜の時間帯の数時間に限られる場合でも、数時間での作業を繰り返して、補強用の覆工体58を効率良く形成できるようにすると共に、補強用の覆工体58が車両限界に食い込まないように、より精度良く形成できるようにする機能を備えている。
【0020】
そして、本実施形態の既設トンネルの補強構造10は、湾曲断面形状部分を有するトンネル50として、円形の断面形状を備える鉄道トンネルを構成するシールドトンネル50に設けられた、既設のトンネル覆工体55を補強するための補強構造であって、図1及び図2に示すように、湾曲断面形状部分を有する既設のトンネル覆工体55の内周部分の複数箇所に配置・固定された取付け座12を介することで、トンネル50の延長方向X(図10参照)に所定の間隔をおいて周方向に延設して取り付けられた、内側にパネル取付け面11aを備える複数の鋼製支保部材11と、トンネル50の延長方向Xに隣接する各一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに跨るようにして(図9(a)~(c)参照)、鋼製支保部材11に支持されて周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材13と、被覆パネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の空間56に充填され、鋼製支保部材11と被覆パネル部材13と既設のトンネル覆工体55とを一体化させる硬化性材料14(図10参照)とを含んで構成される。
【0021】
また、本実施形態では、取付け座12は、図3(a)~(c)に示すように、既設のトンネル覆工体55から内側に突出して固定された複数本(本実施形態では、4本)の雄ネジボルト部材12aと、雄ネジボルト部材12aに螺着するナット部材12bによって高さ調整された状態で雄ネジボルト部材12aに締着固定される、複数の締着孔(外側締着孔)12cを有する台座プレート部材12dとを備えている。鋼製支保部材11は、取付け座12の台座プレート部材12dに接合されることで、パネル取付け面11aの設置位置が調整された状態で、既設のトンネル覆工体55の内周形状に沿って取り付けられている。
【0022】
さらに、本実施形態では、鋼製支保部材11は、I形鋼又はH形鋼(本実施形態では、I形鋼)からなり、一方のフランジ部がパネル取付け面11aとして内側に配置されると共に、他方のフランジ部が接合面部11bとして取付け座12の台座プレート部材12dに接して配置されるようになっている。取付け座12は、締着孔15b(図4(a)参照)を有する挟み込みプレート片15と、ボルトナット部材16とを含んでおり、鋼製支保部材11の他方のフランジ部11bを台座プレート部材12dと挟み込みプレート片15との間に挟み込んだ状態で、ボルトナット部材16を台座プレート部材12d及び挟み込みプレート片15の締着孔12e,15bに締着することによって、鋼製支保部材11が、取付け座12の台座プレート部材12dに接合されている。
【0023】
挟み込みプレート片15は、図4(a)、(b)にも示すように、平板形状の挟み込み本体部15aと、挟み込み本体部15aの台座プレート部材12d側の面の縁部分に沿って一体として取り付けられた、鋼製支保部材11の他方のフランジ部11bの厚さと同様の高さを備えるスペーサリブ15cとを有している。挟み込みプレート片15が、他方のフランジ部11bの厚さと同様の高さを備えるスペーサリブ15cを有していることにより、鋼製支保部材11の他方のフランジ部11bを台座プレート部材12dと挟み込みプレート片15との間に挟み込んだ状態で、ボルトナット部材16を締着孔12e,15bに締着して、鋼製支保部材11を台座プレート部材12dに接合する際に、平板形状の挟み込み本体部15aが斜めに傾くことで、安定した状態で接合できなくなるのを効果的に回避することが可能になる。
【0024】
本実施形態では、シールドトンネル50の内壁面51を覆う、既設のトンネル覆工体55は、好ましくは鉄筋コンクリート製セグメントや合成セグメントによる覆工体となっている。鉄筋コンクリート製セグメントや合成セグメントによるトンネル覆工体55は、コンクリートを露出させた部分を内側面に備えているので、このようなコンクリートが露出した部分に所定の深さでアンカー孔を削孔して、削孔したアンカー孔に、セメント系アンカーや樹脂系アンカーとして、上述の取付け座12の雄ネジボルト部材12aの基部や、後述する下部アンカー部材19の基部を埋設固定することにより、好ましくはアンカーボルトによるこれらの雄ネジボルト部材12aや下部アンカー部材を、既設のトンネル覆工体55の内側面から突出させた状態で、所定の位置に精度良く容易に固定することが可能になる。
【0025】
また、本実施形態では、鋼製支保部材11は、好ましくは亜鉛メッキされたI形鋼又はH形鋼(本実施形態では、H150×75のI形鋼)からなり、その一方のフランジ部によってパネル取付け面11aが形成されている。I形鋼による鋼製支保部材11は、図5に示すように、好ましくは予め工場等において、底部のインバートコンクリート部57(図1参照)よりも上方の、トンネル50の側壁部から上部に至るまでの既設のトンネル覆工体55の内壁面51に沿った形状を、適宜分割した形状に加工された、複数の単位支保部材11’として現場に搬入される。鋼製支保部材11は、ボルト部材等を用いた公知の方法により、既設のトンネル覆工体55の周方向において、端面同士を互いに連結することで一体化される複数の単位鋼製支保部材11’によって形成されることで、トンネル50の側壁部から上部に至るまでの内壁面51に沿って、容易に設置することができる。I形鋼による鋼製支保部材11は、トンネル50の延長方向Xに例えば900mm程度の所定の中心間ピッチで、複数リング設置される。
【0026】
複数の単位支保部材11’からなる鋼製支保部材11には、少なくとも一カ所の接合箇所に、鋼製支保部材11の周方向の長さを調整可能な伸縮ジャッキ17が取り付けられていることが好ましい。伸縮ジャッキ17は、両端部が、接合箇所における隣接する一対の単位鋼製支保部材11’に各々連結された状態で取り付けられている。伸縮ジャッキ17によって押し拡げられた一対の単位鋼製支保部材11’の端面間の間隔部分には、1又は2枚以上の長さ調整プレート18を挟み込むことができるようになっている。これによって、例えば周囲の地盤の圧密沈下等の影響によって、老朽化したシールドトンネル50の既設のトンネル覆工体55に、歪み等による変形や変位が生じている場合や、トンネル50のカーブ区間等において既設のトンネル覆工体55の周長が変化している場合に、歪み等による変形や変位を吸収したり、周長の変化に対応できるように、鋼製支保部材11の周方向に長さを実寸法に合わせるように適宜調整することが可能になる。
【0027】
また、鋼製支保部材11のパネル取付け面11aとなる一方のフランジ部の内側面には、周方向に好ましくは後述する被覆パネル部材13の連設方向Yの幅と同様の間隔をおいて(図9(a)参照)、図5及び図6(a)、(b)に示すように、後述する押付け固定部材20を鋼製支保部材11に締着させるためのナット部材21が、好ましくは横幅方向の中央部分に溶接等によって固着されている。
【0028】
そして、本実施形態では、I形鋼による鋼製支保部材11は、上述のように、湾曲断面形状部分を有する既設のトンネル覆工体55の内周部分の複数箇所に配置・固定された、4本の雄ネジボルト部材12aと、複数の締着孔12cを有する台座プレート部材12dとを含む取付け座12を介することによって、トンネル50の延長方向Xに所定の間隔をおいて、周方向に延設して精度良く安定した状態で取り付けられることになる。
【0029】
取付け座12を構成する雄ネジボルト部材12aは、例えば200mm程度の長さを有する、M16程度の太さのアンカーボルト部材となっている。雄ネジボルト部材12aは、各々の取付け座12が設置される部分において、上述のように、既設のトンネル覆工体55に削孔したアンカー孔に基部を埋設固定することによって、先端側の雄ネジ部分を50~60mm程度突出させた状態で、例えば一辺が190~200mm程度の大きさの仮想の矩形又は正方形の角部に各々配置されて、4箇所に取り付けられる。雄ネジボルト部材12aの既設のトンネル覆工体55から突出する雄ネジ部分には、一対のナット部材12bが螺着される。
【0030】
台座プレート部材12dは、好ましくは亜鉛メッキされた9mm程度の厚さの鋼製プレートからなり、例えば一辺が250~280mm程度の大きさの、矩形又は正方形の平面形状を備えるように形成されている。台座プレート部材12dには、4本の雄ネジボルト部材12aの位置に対応させて、4箇所の角部分の内側に、外側締着孔12cが4箇所に配置されて各々開口形成されている。4箇所の外側締着孔12cの内側には、例えば縦60mm程度、横105mm程度の大きさの仮想の矩形の角部に配置されて、内側締着孔12eが4箇所に配置されて各々開口形成されている。
【0031】
各々の外側締着孔12cには、雄ネジボルト部材12aの雄ネジ部分が挿通され、雄ネジ部分に螺着された一対のナット部材12bが、台座プレート部材12dを挟み込んだ状態で締着される。これによって、台座プレート部材12dを、既設のトンネル覆工体55の内側面からの高さを適宜調整すると共に、傾きを適宜調整した状態で、既設のトンネル覆工体55から離間させた状態で固定することが可能になる。なお、台座プレート部材12dが固定される所定の位置は、雄ネジボルト部材12aが埋設される位置よりも優先されることから、雄ネジボルト部材12aが所定の位置からずれて固定されている場合には、設置現場において、外側締着孔12cを広げたり開け直したりすることによって、位置のずれた雄ネジボルト部材12aの雄ネジ部分を挿通させて、台座プレート部材12dが所定の位置に精度良く取り付けられるようにすることができる。
【0032】
各々の内側締着孔12eには、台座プレート部材12dと、上述の挟み込みプレート片15の挟み込み本体部15aとの間に、鋼製支保部材11の接合面部となる他方のフランジ部11bを挟み込んだ状態で、合致した当該内側締着孔12e及び挟み込みプレート片15の締着孔15bに挿通されるボルトナット部材16が、締着されるようになっている。これによって、鋼製支保部材11を、予め所定の位置に精度良く取り付けられた台座プレート部材12dに、パネル取付け面11aの設置位置をさらに調整した状態で、既設のトンネル覆工体55の内周形状に沿って取り付けることが可能になる。
【0033】
本実施形態では、各隣接する一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに、跨るようにして取り付けられる複数の被覆パネル部材13は、各々、図7(a)~(d)に示すように、例えば20mm程度の厚さを有する、好ましくは繊維補強コンクリート製のパネル部材となっている。被覆パネル部材13は、各隣接する一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに跨る大きさとして、鋼製支保部材11のトンネル50の延長方向Xの中心間ピッチよりも若干小さい、870mm程度の延長方向Xの横幅を備えると共に、470mm程度の、周方向である連設方向Yの縦幅を備える、矩形状の平面形状を有している。
【0034】
また、被覆パネル部材13は、既設のトンネル覆工体55の内壁面51と対向して配置される背面側が、凹凸面13aとなっており、この凹凸面13aは、例えば均等に分散して配置された多数の陥没穴13bによって形成されている。本実施形態では、陥没穴13bは、六角形や円形の陥没穴となっている。被覆パネル部材13の背面側が凹凸面13aとなっていることにより、後に注入充填される無収縮モルタル14との付着面積を広くして、被覆パネル部材13の背面に無収縮モルタル14をより強固に付着させることが可能になる。また、凹凸面13aが均等に分散して配置された多数の六角形や円形の陥没穴13bによって形成されていることにより、鋭角部をなくすことで、陥没穴13b内での無収縮モルタル14の未充填箇所が生じないようにして、無収縮モルタル14を被覆パネル部材13の背面に強固に一体化させることが可能になる。
【0035】
さらに、本実施形態では、好ましくは既設のトンネル覆工体55の内壁面51と対向して配置される背面側には、アンカー部材としてのアンカー筋13e(図9(b)、図10参照)を取り付けるための、ナット部材13cが埋設固定されている。ナット部材13cは、M10程度の大きさの、フランジ付きナットとなっている。ナット部材13cは、フランジ部を繊維補強コンクリート中に埋設すると共に、雌ネジ孔を背面側に開口させて状態で、分散配置されて4箇所に固定されている。各々のナット部材13cには、L字状に折れ曲がった形状の例えばD10程度の太さのアンカー筋13eを、被覆パネル部材13と、既設のトンネル覆工体55の内壁面51との間の空間56に突出させて、着脱可能に取り付けることができる。
【0036】
複数の被覆パネル部材13は、例えば後述する押付け固定部材20を用いて、鋼製支保部材11に支持させて、図1及び図8に示すように、トンネル50のインバートコンクリート部57よりも上方の側壁部から上部に至るまでのトンネル50の内壁面51に沿って、周方向に連設して配置されることになる。連設して配置される複数の被覆パネル部材13の中央部のパネルである、トンネル50の天端部に配置される被覆パネル部材13’には、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタルを空間56に供給して充填するための、φ60程度の大きさのモルタル供給孔13dが開口形成されている。モルタル供給孔13dは、例えばソケット部材を用いて、開閉可能に閉塞しておくことができる。
【0037】
本実施形態では、被覆パネル部材13は、好ましくは繊維補強コンクリートを用いて、平坦な矩形状の平面形状を備えるように形成されている。被覆パネル部材13は、トンネル50の湾曲断面形状部分の湾曲形状に沿った、湾曲形状を備えるように形成することもできる。被覆パネル部材13を、トンネル50の湾曲断面形状部分の湾曲形状に沿った湾曲形状を備えるように形成することにより、地山側からの外力に対して、より強固なアーチアクション効果を発揮させることが可能になる。
【0038】
そして、本実施形態の既設トンネルの補強構造10では、図9(a)~(c)に示すように、トンネル50の延長方向Xに所定の中心間ピッチで、湾曲断面形状部分を有するトンネル50の内壁面51に沿って複数設置されたI形鋼による鋼製支保部材11の、各隣接する一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに跨るようにして、上述の被覆パネル部材13を、複数、周方向に連設して取り付けると共に、図10に示すように、取り付けられた被覆パネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の空間56に、硬化性材料として、好ましくは無収縮モルタル14を充填して硬化させることにより、補強用の覆工体58を形成する。
【0039】
本実施形態では、被覆パネル部材13は、図9(a)~(c)に示すように、当該被覆パネル部材13を鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに押付けた状態で固定するための、押付け固定部材20を用いて、周方向に連設して鋼製支保部材11に支持させた状態で各々取り付けられる。押付け固定部材20は、例えば1辺が60mm程度の大きさの矩形断面を有する角パイプからなり、各隣接する一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aの外側辺部の間の間隔よりも僅か長い、1100mm程度の長さを備えている。押付け固定部材20は、周方向に連設して配置された各々の被覆パネル部材13における、連設方向Yの縦幅の中央部分において、トンネルの延長方向Xに延設させると共に、隣接する一対の鋼製支保部材11の各々と垂直に交差させるようにして取り付けられる。
【0040】
押付け固定部材20は、鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに固着されたナット部材21に螺着される、例えばリブ座金や締着ナットを備える固定ボルト部材22を当該ナット部材21に締め着けることにより、リブ座金との間に挟み込むようにして両側の端部を鋼製支保部材11に締着することで、連設する被覆パネル部材13を、鋼製支保部材11に押付けた状態で各々強固に固定しておくことができる。本実施形態では、隣接する一対の鋼製支保部材11に跨るようにして設置される、周方向に連設する各々の段の被覆パネル部材13について、トンネルの延長方向Xに隣接する各一対の被覆パネル部材13を各々押え付ける押付け固定部材20を、被覆パネル部材13の縦幅方向の中央部分において上下にずらして配置することにより、これらの隣接する被覆パネル部材13の中央部に配置される鋼製支保部材11に、これらの隣接する被覆パネル部材13を各々押え付ける一対の押付け固定部材20の端部を、一本の固定ボルト部材22によって、リブ座金を介して同時に締着できるようになっている。これらの押付け固定部材20、ナット部材21、固定ボルト部材22によって被覆パネル部材13を支保することができるので、1日の作業終了後に、これらの部材の内側に被覆パネル部材13を取付けるための部材が存在しなくなって、例えば車両限界を侵すことになるのを、確実に回避することが可能になる。
【0041】
押付け固定部材20及び固定ボルト部材22を用いて、鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに被覆パネル部材13を、複数、周方向に連設して取り付けることによって、各隣接する一対の鋼製支保部材11により挟まれる部分には、取り付けられた被覆パネル部材13と、既存のトンネル覆工体55の内周面との間に、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタル14が充填される空間56が形成される。被覆パネル部材13の背面側に、アンカー筋13eを取り付けておくことで、これらのアンカー筋13eを硬化性材料14が充填される空間56に突出させておくことができる。アンカー筋13eによって、被覆パネル部材13と、空間56に充填される無収縮モルタル14との一体性を高めることができる。被覆パネル部材13と無収縮モルタル14との一体性を効果的に高める観点、及び上下の被覆パネル部材13、13間で干渉しないようする観点から、L字状に折れ曲がった形状のアンカー筋13eは、折れ曲がり方向が、トンネルの延長方向Xに沿うように配置することが好ましい(図9(b)参照)。
【0042】
また、硬化性材料14が充填される空間56には、好ましくは被覆パネル部材13を鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに取り付けるのに先立って、内部に鉄筋を配設しておくこともできる。硬化性材料14が充填される空間56の内部に鉄筋が配設されていることにより、形成される補強用の覆工体58の強度を効果的に高めることができる。
【0043】
さらに、本実施形態では、図1に示すように、湾曲断面形状部分を有する既存のトンネル覆工体55の下部から硬化性材料14が充填される空間56に突出して、硬化性材料14に埋設される下部アンカー部材19が取り付けられていることが好ましい。下部アンカー部材19は、例えばD19程度の太さの鉄筋棒からなり、硬化性材料14とトンネル覆工体55との界面のせん断耐力向上と両者の付着力向上による一体化を目的として、アンカー筋13eと同様に、L字状に折れ曲がった形状を備えている。下部アンカー部材19は、上記にように、好ましくは鉄筋コンクリート製セグメント又は合成セグメントによる既設のトンネル覆工体55のコンクリート部分に基部を埋設して固定された、アンカーボルトによるものとなっており、好ましくは折れ曲がり方向をトンネル50の周方向に沿わせた状態で、両側の側壁部の各々3箇所に固定される。既存のトンネル覆工体55の下部から硬化性材料14が充填される空間56に突出して、下部アンカー部材19が設けられていることにより、補強用の覆工体58の自重を含めた大きな荷重が作用する、補強用の覆工体58の下部と既存のトンネル覆工体55との界面を、効果的に補強し、且つ両者の連成構造を形成して強固な覆工体とすることが可能になる。
【0044】
本実施形態の既設トンネルの補強構造10によれば、上述のようにして形成された、各隣接する一対の鋼製支保部材11によって挟まれる部分の、周方向に連設して配置された被覆パネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の、1又は2以上の各空間56に、硬化性材料として好ましくは無収縮モルタル14を各々充填することにより、湾曲断面形状部分を有する既存のトンネル覆工体55の内周面を覆う補強用の覆工体58を形成することができる。
【0045】
すなわち、周方向に連設して配置された複数の被覆パネル部材13のうちの、トンネル50の上部の天端部に配置される被覆パネル部材13’には、硬化性材料14を空間56に供給するためのモルタル供給孔13dが形成されているので(図1参照)、これらのモルタル供給孔13dにモルタルの供給配管(図示せず)を接続して、無収縮モルタル14を供給することにより、被覆パネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の空間56に、無収縮モルタル14を各々充填することができる。充填した無収縮モルタル14が硬化して被覆パネル部材13と一体化した時点で、被覆パネル部材13を鋼製支保部材11に締着固定していた、固定ボルト部材22や押付け固定部材20を取り外すことにより、鋼製支保部材11、複数の被覆パネル部材13、及び硬化した無収縮モルタル14が一体となった、既存のトンネル覆工体55の内周面を覆う補強用の覆工体58が容易に形成されることになる。
【0046】
したがって、本実施形態によれば、内側にパネル取付け面11aを備える複数の鋼製支保部材11を、湾曲断面形状部分を有する既設のトンネル覆工体55の内周部分の複数箇所に配置・固定された取付け座12を介することで、トンネル50の延長方向Xに所定の間隔をおいて、周方向に延設させて取り付ける支保部材設置工程と、トンネルの延長方向Xに隣接する各一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに跨るようにして、複数の被覆パネル部材13を、鋼製支保部材11に支持させて周方向に連設して取り付けるパネル部材設置工程と、被覆パネル部材13と既存のトンネル覆工体55との間の空間に、鋼製支保部材11と被覆パネル部材13と既設のトンネル覆工体55とを一体化させる硬化性材料14を充填する裏込め充填工程とを含んで構成される既設トンネルの補強方法によって、湾曲断面形状部分を有するトンネル50に設けられた、既設のトンネル覆工体55を、効率良く且つ効果的に補強してゆくことが可能になる。
【0047】
そして、上述の構成を備える本実施形態の既設トンネルの補強構造によれば、湾曲断面形状部分を有するトンネルの内周面に沿って形成された既存のトンネル覆工体を補強する補強用の覆工体を、鋼製支保部材及び硬化性材料を用いて、好ましくは数時間での作業を繰り返しながら効率良く補強することが可能になると共に、より精度良く形成することが可能になる。
【0048】
すなわち、本実施形態の既設トンネルの補強構造によれば、湾曲断面形状部分を有する既設のトンネル覆工体55の内周部分の複数箇所に配置・固定された取付け座12を介することで、トンネル50の延長方向Xに所定の間隔をおいて取り付けられる、内側にパネル取付け面11aを備える複数の鋼製支保部材11と、隣接する各一対の鋼製支保部材11のパネル取付け面11aに跨るようにして周方向に連設して取り付けられた複数の被覆パネル部材13と、被覆パネル部材13と既存のトンネル覆工体55と間の空間56に充填される硬化性材料14とを含んで構成されている。
【0049】
これによって、本実施形態によれば、予め取付け座12の各々を、既設のトンネル覆工体55の内周部分の所定の位置に、短時間での作業を繰り返しながら精度良く取り付けておくことができ、鋼製支保部材11は、当該鋼製支保部材11に特別な加工を施すことなく、予め設置された取付け座12に支持させて精度良く取り付けることができ、複数の被覆パネル部材13は、設置された鋼製支保部材11に対して、短時間の作業を繰り返しながら周方向に連設して精度良く取り付けてゆくことができるので、例えば各隣接する一対の鋼製支保部材11によるスパン毎に硬化性材料14を充填することによって、好ましくは数時間での作業を繰り返しながら、既存のトンネル覆工体55の内周面を覆う補強用の覆工体58を効率良く形成して、既設のトンネル覆工体55を補強することが可能になると共に、補強用の覆工体58をより精度良く形成することが可能になる。
【0050】
なお、本発明は上記の実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明の既設トンネルの補強構造は、数時間での作業を繰り返しながら施工される必要は必ずしもなく、数時間での作業を繰り返しながら施工することが可能であれば良い。施工条件によっては、数時間を超える作業となっても良い。既設のトンネル覆工体が補強されるトンネルは、シールドトンネル以外の、山岳トンネルや、その他の種々の湾曲断面形状部分を有するトンネルであっても良い。既設のトンネル覆工体は、コンクリート製の他、鋼製や鋳鉄製等のものであっても良い。雄ネジボルト部材は、アンカーボルトによるもの他、溶接等によって既設のトンネル覆工体に固定されるものであっても良い。鋼製支保部材は、I形鋼やH形鋼である必要は必ずしも無く、内側にパネル取付け面を設けることが可能な、溝形鋼や山形鋼等のその他の種々の鋼製部材であっても良い。被覆パネル部材は、繊維補強コンクリート製の部材である必要は必ずしも無く、合成樹脂製や鋼製、鋳鉄製等のその他の材料からなるものであっても良い。被覆パネル部材に取り付けるアンカー部材はL字状に折れ曲がった形状である必要は必ずしも無く、直状形状のものや当該直状形状のものの先端に定着板を固着したものであってもよい。被覆パネル部材とトンネルの内壁面との間の空間に充填される硬化性材料は、無収縮モルタルの他、通常のモルタル、コンクリート、セメントミルク等のセメント系硬化材料やセメント系以外の硬化性材料であっても良い。
【符号の説明】
【0051】
10 既設トンネルの補強構造
11 鋼製支保部材(I形鋼)
11a パネル取付け面(一方のフランジ部)
11b 接合面部(他方のフランジ部)
12 取付け座
12a 雄ネジボルト部材
12b ナット部材
12c 外側締着孔
12d 台座プレート部材
12e 内側締着孔
13 被覆パネル部材
13a 凹凸面
13b 陥没穴
13c ナット部材
13d モルタル供給孔
13e アンカー筋
14 無収縮モルタル(硬化性材料)
15 挟み込みプレート片
15a 挟み込み本体部
15b 締着孔
15c スペーサリブ
16 ボルトナット部材
17 伸縮ジャッキ
18 長さ調整プレート
19 下部アンカー部材
20 押付け固定部材
21 ナット部材
22 固定ボルト部材
50 トンネル
51 内壁面
55 既設のトンネル覆工体
56 空間
57 インバートコンクリート部
58 補強用の覆工体
59 二次吹き付けコンクリート
X トンネルの延長方向
Y 被覆パネル部材の連設方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10