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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20231226BHJP
   B60C 11/00 20060101ALI20231226BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B60C11/12 D
B60C11/00 H
B60C11/12 A
B60C11/03 100C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019225377
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021094879
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000005278
【氏名又は名称】株式会社ブリヂストン
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100186015
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 靖之
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐橋 耕平
【審査官】岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-118207(JP,A)
【文献】特開2014-073706(JP,A)
【文献】特開2019-094007(JP,A)
【文献】特開2012-171479(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性を有するトレッドの踏面に、前記トレッドの全周に亘ってタイヤ周方向に延びる一対の環状陸部に区画された環状溝が設けられているタイヤであって、
前記トレッドの踏面に設けられた、ピンサイプと、
それぞれ前記トレッドの踏面に設けられて前記ピンサイプに連なる、第1サイプ及び第2サイプと、
前記トレッドの踏面に設けられ、一端が前記環状溝に連なるとともに他端が前記ピンサイプに連なって、前記ピンサイプ、前記第1サイプ及び前記第2サイプとともにヘルムホルツ型共鳴器を構成する、狭窄溝と、を有し、
前記第1サイプと前記狭窄溝とが成す第1角度、及び、前記第2サイプと前記狭窄溝とが成す第2角度が鈍角であ
前記第1サイプと前記第2サイプとが成す第3角度が鋭角である、ことを特徴とする、タイヤ。
【請求項2】
前記ピンサイプの開口に、前記第1サイプ上、前記第2サイプ上及び前記狭窄溝上に、それぞれ頂点を有する三角錐台状の面取り部が設けられている、請求項1に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車等の、車両に装着されるタイヤとして、弾性を有するトレッドの踏面に、トレッドの全周に亘ってタイヤ周方向に延びる一対の環状陸部に区画された環状溝(周方向主溝)が設けられた構成のものが知られている。
【0003】
このようなタイヤでは、車両の走行時に、路面と環状溝との間で、気柱共鳴による騒音が発生する。そこで、トレッドの踏面にヘルムホルツ型共鳴器を設けることで、当該騒音を低減して、タイヤの静粛性を高めるようにした技術が開発されている。
例えば特許文献1には、トレッドの踏面に、環状溝に連なる枝溝と、枝溝に連なるとともに枝溝よりも容積の大きい副溝とを設け、車両の走行時に、枝溝と副溝とのトレッドの踏面への開放部分が路面によって閉塞されることで、環状溝に連なる狭窄通路と気室とを備えたヘルムホルツ型共鳴器が形成されるようにしたタイヤが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-171835号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のタイヤでは、路面に閉塞されて気室を形成する副溝は、溝長さに対して溝深さが浅い形状のものであるので、トレッドの踏面に所定の容積の副溝を設けた場合に、トレッドの踏面に占める副溝の開口面積の割合が比較的大きくなり、その分、車両の走行時における、トレッドの路面への接地面積が減少する、という問題点があった。
【0006】
本発明の目的は、ヘルムホルツ型共鳴器が設けられたトレッドの路面への接地面積を増大させることが可能なタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の要旨構成は、以下の通りである。
本発明のタイヤは、
弾性を有するトレッドの踏面に、前記トレッドの全周に亘ってタイヤ周方向に延びる一対の環状陸部に区画された環状溝が設けられているタイヤであって、
前記トレッドの踏面に設けられた、ピンサイプと、
それぞれ前記トレッドの踏面に設けられて前記ピンサイプに連なる、第1サイプ及び第2サイプと、
前記トレッドの踏面に設けられ、一端が前記環状溝に連なるとともに他端が前記ピンサイプに連なって、前記ピンサイプ、前記第1サイプ及び前記第2サイプとともにヘルムホルツ型共鳴器を構成する、狭窄溝と、を有し、
前記第1サイプと前記狭窄溝とが成す第1角度、及び、前記第2サイプと前記狭窄溝とが成す第2角度が鈍角であ
前記第1サイプと前記第2サイプとが成す第3角度が鋭角である、ことを特徴とする。
本発明のタイヤによれば、ヘルムホルツ型共鳴器の気室を形成するものとして、ピンサイプを用いるようにしたので、溝長さに対して溝深さが浅い溝状のものを用いた場合に比べて、車両走行時における、トレッドの路面への接地面積を増大させることができる。
また、本発明のタイヤによれば、第1サイプと狭窄溝とが成す第1角度、及び、第2サイプと狭窄溝とが成す第2角度を鈍角としたので、ピンサイプの開口端部分にめくれが生じることを抑制して、車両走行時における、トレッドの路面への接地面積をさらに増大させることができる。
【0008】
さらに、本発明のタイヤによれば、環状溝に連結することで比較的強度の低い狭窄溝と第1サイプないし第2サイプとの間の部分におけるピンサイプの開口端に、めくれが生じることを効果的に抑制して、車両走行時における、トレッドの路面への接地面積をさらに増大させることができる。
【0010】
本発明のタイヤでは、前記ピンサイプの開口に、前記第1サイプ上、前記第2サイプ上及び前記狭窄溝上に、それぞれ頂点を有する三角錐台状の面取り部が設けられているのが好ましい。
この構成とすることにより、ピンサイプの開口端に、めくれが生じることを効果的に抑制して、車両走行時における、トレッドの路面への接地面積をさらに増大させることができる。
【0011】
上記において、「トレッドの踏面」は、適用リムに組み付けられたタイヤ(空気入りタイヤの場合には、さらに規定内圧が充填された状態のタイヤ)を、最大負荷能力に対応した荷重を加えた状態で、路面上で転動させた際に、当該路面に接触することになる部分を意味する。
ここで、上記「適用リム」とは、タイヤが生産され、使用される地域に有効な産業規格であって、日本ではJATMA(日本自動車タイヤ協会)のJATMA YEAR BOOK、欧州ではETRTO(The European Tyre and Rim Technical Organisation)のSTANDARDS MANUAL、米国ではTRA(The Tire and Rim Association,Inc.)のYEAR BOOK等に記載されている、または将来的に記載される、適用サイズにおける標準リム(ETRTOのSTANDARDS MANUALではMeasuring Rim、TRAのYEAR BOOKではDesign Rim)を指す(即ち、上記の「適用リム」には、現行サイズに加えて将来的に上記産業規格に含まれ得るサイズも含む。「将来的に記載されるサイズ」の例としては、ETRTO Experimental Standardとして記載されているサイズを挙げることができる。)が、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、タイヤのビード幅に対応した幅のリムをいう。
また、「規定内圧」とは、上記JATMA等に記載されている、適用サイズ・プライレーティングにおける単輪の最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)を指し、上記産業規格に記載のないサイズの場合は、「規定内圧」は、タイヤを装着する車両毎に規定される最大負荷能力に対応する空気圧(最高空気圧)をいうものとする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ヘルムホルツ型共鳴器が設けられたトレッドの路面への接地面積を増大させることが可能なタイヤを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤの、トレッドの踏面の一部の展開図である。
図2図1に示すヘルムホルツ型共鳴器を拡大して示す図である。
図3】(a)は、図2におけるA-A線に沿う断面図、(b)は、図2におけるB-B線に沿う断面図、(c)は、図2おけるC-C性に沿う断面図である。
図4】変形例のヘルムホルツ型共鳴器を示す図である。
図5】他の変形例のヘルムホルツ型共鳴器を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に例示説明する。
【0015】
図1に示す本発明の一実施形態に係るタイヤ1は、例えば、乗用自動車に装着して使用されるものである。
【0016】
タイヤ1は、弾性を有するトレッド2を備えている。トレッド2は、例えば、ゴムを主体とした材料で形成されたものとすることができる。
【0017】
トレッド2は、トレッド2の全周に亘ってタイヤ周方向に延びる一対の環状陸部3を備えている。一対の環状陸部3の外周面は、それぞれトレッド2の踏面2aの一部を構成している。
【0018】
トレッド2の踏面2aには、一対の環状陸部3に区画されて、環状溝(周方向主溝)4が設けられている。環状溝4は、トレッド2の全周に亘ってタイヤ周方向に沿って連続して延びており、トレッド2の踏面2aに開口している。
環状溝4は、例えば、一対の側面と底面とを備えた断面が略台形のものとすることができるが、その断面形状は、例えばU字形などの、他の形状とすることもできる。環状溝4の断面形状は、周方向の全周に亘って略一様である。
【0019】
環状溝4は、タイヤ周方向に沿って(展開図において直線状に)延びる形態に限らず、例えばジグザグ状ないし波状に延びる形態とすることもできる。
【0020】
環状溝4の溝幅(タイヤ幅方向の開口幅)は、特に限定されないが、例えば、2~18mmとすることができる。また、環状溝4の溝深さ(タイヤ径方向の最大深さ)は、特に限定されないが、例えば、5~9mmとすることができる。
【0021】
環状溝4は、例えばトレッド2のタイヤ幅方向の中央に設けることができるが、環状溝4を設けるタイヤ幅方向の位置は種々変更可能である。また、一対の環状陸部3の形状も種々変更可能である。
【0022】
図1に示すように、本実施形態では、トレッド2の踏面2aに、一対の環状陸部3とは別の、副陸部5がさらに設けられ、環状陸部3と副陸部5との間に、環状溝4とは別の、副環状溝6が区画形成されている。
なお、タイヤ1は、トレッド2の踏面2aに、少なくとも一対の環状陸部3と、これら一対の環状陸部3間に区画された1本の環状溝4が設けられた構成であればよく、副陸部5ないし副環状溝6を設けない構成とすることもできる。また、副陸部5及び副環状溝6を設ける場合であっても、その数ないし形状等は、種々変更可能である。さらに、副陸部5は、例えばラグ溝などの、他の溝が設けられた構成とすることもできる。
【0023】
タイヤ1は、例えば、空気入りタイヤに構成することができる。
空気入りタイヤは、例えば、トレッド2に加えて、トレッド2の両側部に連なる一対のサイドウォール部と、それぞれ対応するサイドウォール部の内周縁部分に設けられた一対のビード部と、を備えた構成とすることができる。
また、空気入りタイヤは、例えば、内部構造として、一対のビード部の間でトロイダル状に延びるラジアル構造のカーカスと、カーカスの径方向外側に配置されるベルトと、を備えた構成とすることができる。
【0024】
なお、タイヤ1は、空気入りタイヤに限らず、弾性を有するトレッド2を有していれば、例えばソリッドタイヤなどの、非空気入りタイヤとすることもできる。
【0025】
トレッド2には、ヘルムホルツ型共鳴器10が設けられている。
本実施の形態では、複数のヘルムホルツ型共鳴器10が、トレッド2の、環状溝4と副環状溝6との間の環状陸部3に、周方向に間隔を空けて設けられている。なお、図1においては、2つのヘルムホルツ型共鳴器10のみが示されているが、トレッド2の全周に亘って、複数のヘルムホルツ型共鳴器10が、周方向に等しい間隔を空けて並べて設けられている。
【0026】
図2に示すように、ヘルムホルツ型共鳴器10は、ピンサイプ11、狭窄溝12、第1サイプ13及び第2サイプ14を有している。狭窄溝12、第1サイプ13及び第2サイプ14は、ピンサイプ11の軸心を中心として三股状に配置されている。
【0027】
ピンサイプ11は、トレッド2の踏面2aに設けられている。
【0028】
ここで、「ピンサイプ」は、トレッドの踏面に開口するとともに、踏面に対してタイヤ径方向内側に向けて凹んだ凹形状のものであって、タイヤ径方向に垂直な方向の最大幅よりも、トレッドの踏面からタイヤ径方向内側への最大深さの方が大きいもの、を意味する。
特に、「ピンサイプ」は、タイヤ径方向に垂直な方向の最大幅が5mm以下であるのが好ましい。
【0029】
図2図3(a)に示すように、本実施形態では、ピンサイプ11は、直径が5mmの、円形の開口11aと、開口11aと同径の円筒状の側面11bと、開口11aと同形状の底面11cとを有し、開口11aからタイヤ径方向内側に向けた底面11cまでの深さが5mmよりも大きい円柱形となっている。
このような構成により、ピンサイプ11を、ヘルムホルツ型共鳴器10の気室を構成するための所定の容積を有するものとしつつ、その開口11aの面積を、タイヤ径方向に垂直な方向の最大幅よりもトレッドの踏面からタイヤ径方向内側への最大深さの方が小さい凹形状のものに比べて、より小さくすることができる。
【0030】
本実施形態では、ピンサイプ11を、円形の開口11aを有する円柱形のものとしているが、タイヤ径方向に垂直な方向の最大幅よりも、トレッド2の踏面2aからタイヤ径方向内側への最大深さの方が大きいものであれば、例えば、側面11bが開口11aよりも大経となる拡径部分を有し、当該拡径部分において最大幅となる形状や、開口が三角形となる三角柱形のものなど、その形状は種々変更可能である。
【0031】
狭窄溝12は、トレッド2の踏面2aに設けられている。狭窄溝12は、一端において環状溝4の内面に開口しており、他端においてピンサイプ11に連なっている。すなわち、狭窄溝12は、ピンサイプ11を環状溝4の内部に連通させる通路となっている。
狭窄溝12の溝幅は、ピンサイプ11の最大幅よりも狭くなっており、また、狭窄溝12の溝深さは、ピンサイプ11の深さよりも浅くなっている。狭窄溝12は、ピンサイプ11と環状溝4との間においてヘルムホルツ型共鳴器10のネックとしての機能を生じる部分であり、その容積は、ピンサイプ11の容積よりも、十分に小さくなっている。
【0032】
図2図3(b)に示すように、本実施形態では、狭窄溝12は、溝幅よりも溝深さの方が大きい、断面が矩形の溝状となっており、タイヤ幅方向及びタイヤ周方向の両方に対して傾斜して延びている。
なお、狭窄溝12の断面形状は種々変更可能である。また、狭窄溝12の延びる方向も、例えばタイヤ幅方向に沿って延びるなど、種々変更可能である。
【0033】
第1サイプ13は、トレッド2の踏面2aに設けられ、一端においてピンサイプ11に連なっている。第2サイプ14は、トレッド2の踏面2aに設けられ、一端においてピンサイプ11に連なっている。
【0034】
ここで、「サイプ」とは、溝幅が1mm以下の溝を意味する。
【0035】
図2図3(c)に示すように、本実施形態では、第1サイプ13及び第2サイプ14は、それぞれ溝幅よりも溝深さの方が大きい、断面が矩形の溝状となっており、タイヤ幅方向及びタイヤ周方向の両方に対して傾斜して延びている。
【0036】
本実施形態では、狭窄溝12、第1サイプ13及び第2サイプ14は、それぞれ互いに同一の断面形状となっており、その溝幅は1mmである。
【0037】
上記構成のヘルムホルツ型共鳴器10では、車両の走行時に、ピンサイプ11が路面に閉塞されて気室が形成され、狭窄溝12が路面に閉塞されて環状溝4に連なる狭窄通路(ネック)が形成される。
【0038】
上記構成のヘルムホルツ型共鳴器10を備えた本実施形態のタイヤ1によれば、車両の走行時に、路面と環状溝4との間で発生する気柱共鳴による騒音を、ヘルムホルツ型共鳴器10により低減することができる。これにより、タイヤ1の静粛性を高めることができる。
また、本実施形態のタイヤ1によれば、ヘルムホルツ型共鳴器10の気室を形成するものとして、ピンサイプ11を用いるようにしたので、ヘルムホルツ型共鳴器10の気室を形成するものとして、溝長さに対して溝深さが浅い溝状のものを用いた場合に比べて、車両の走行時における、ヘルムホルツ型共鳴器10が設けられたトレッド2の路面への接地面積を増大させることができる。
さらに、本実施形態のタイヤ1によれば、ヘルムホルツ型共鳴器10の気室を形成するものとして、ピンサイプ11を用いるようにしたので、開口面積に比してより大きな容積の気室を確保することができるので、ヘルムホルツ型共鳴器10を十分な容積の気室を備えたものとして、タイヤ1の静粛性をより高めることができる。
【0039】
さらに、本実施形態のタイヤ1によれば、上記構成のヘルムホルツ型共鳴器10がピンサイプ11に連なる第1サイプ13及び第2サイプ14を備えることにより、環状溝4の路面21に閉塞された範囲において生じる気柱共鳴による騒音を低減しつつ、トレッド2の路面に対するグリップ力を高めることができる。
【0040】
上記構成のヘルムホルツ型共鳴器10の共鳴周波数fは、ピンサイプ11の容積(ピンサイプ11が路面に閉塞されて形成される気室の容積)をV(cm3)、狭窄溝12の断面積(狭窄溝12が路面に閉塞されて形成される狭窄通路の断面積)をS(cm2)、狭窄溝12の、環状溝4からピンサイプ11までの経路長(狭窄溝12が路面に閉塞されて形成される狭窄通路の経路長)をL(cm)、音速をcとしたときに、f=(c/2π)×(S/VL)1/2、で表すことができる。ヘルムホルツ型共鳴器10は、車両の走行時に、路面と環状溝4との間で発生する、共鳴周波数fの気柱共鳴を低減することができるように、上記式に基づき、ピンサイプ11の容積V、狭窄溝12の断面積S、狭窄溝12の開口12aからピンサイプ11までの経路長Lが、適宜設定される。
【0041】
なお、狭窄溝12の環状溝4への開口の外部周辺における空気の付加的な振動を補正するために、上記式において、狭窄溝12の、環状溝4からピンサイプ11までの経路長Lに代えて、実効長L´=L+αを用いるようにしてもよい。なお、αの値は、狭窄溝12の断面積Sないし断面形状に応じて設定される定数である。
【0042】
図2に示すように、本実施形態のタイヤ1では、第1サイプ13と狭窄溝12とが成す第1角度θ1、第2サイプ14と狭窄溝12とが成す第2角度θ2及び第1サイプ13と第2サイプ14とが成す第3角度θ3のうち、少なくとも2つが鈍角となるように、狭窄溝12、第1サイプ13及び第2サイプ14が配置されている。
【0043】
このような構成により、ピンサイプ11の開口端に鋭角に区画された部分を少なくして、車両の走行時に、路面に接したピンサイプ11の開口端部分に、めくれが生じることを抑制することができる。これにより、車両の走行時における、トレッド2の路面への接地面積をさらに増大させることができる。
【0044】
本実施形態では、第1角度θ1と第2角度θ2とが、それぞれ鈍角となっており、第3角度θ3は鋭角となっている。
このような構成とすることにより、環状溝4に連結することで比較的強度の低い狭窄溝12と第1サイプ13ないし第2サイプ14との間の部分におけるピンサイプ11の開口端部分の強度を高めて、車両の走行時に、路面に接したピンサイプ11に、めくれが生じることを、さらに効果的に抑制することができる。これにより、車両の走行時における、トレッド2の路面への接地面積を、さらに増大させることができる。
【0045】
図4に変形例として示すように、第1角度θ1、第2角度θ2及び第3角度θ3の全てを鈍角した構成とすることもできる。
このような構成とすることにより、ピンサイプ11の開口端に、鋭角に区画された部分が生じないようにして、車両の走行時に、路面に接したピンサイプ11の開口端部分に、めくれが生じることを、さらに効果的に抑制することができる。これにより、車両の走行時における、トレッド2の路面への接地面積を、さらに増大させることができる。
【0046】
図5に変形例として示すように、ピンサイプ11の開口11aに、三角錐台状の面取り部20を設けた構成とすることもできる。この場合、面取り部20の開口は三角形状となっており、第1サイプ13上、第2サイプ14上及び狭窄溝12上に、頂点が位置するように配置されている。なお、三角錐台状の面取り部20の下方側の頂点はピンサイプ11の軸心に位置している。
面取り部20はピンサイプ11の開口を構成するので、面取り部20のタイヤ径方向に垂直な方向の最大幅は、ピンサイプ11のトレッド2の踏面2aからタイヤ径方向内側への最大深さよりも小さくされる。
【0047】
このような構成とすることにより、面取り部20が設けられない場合に比べて、狭窄溝12、第1サイプ13ないし第2サイプ14と、ピンサイプ11の開口とが成す角度をより大きくして、車両の走行時に、路面に接したピンサイプ11の開口端部分に、めくれが生じることを、さらに効果的に抑制することができる。これにより、車両の走行時における、トレッド2の路面への接地面積を、さらに増大させることができる。
【0048】
なお、ピンサイプ11を、開口が三角形となる三角錐状に形成することもできる。
このような構成によっても、上記と同様に、狭窄溝12、第1サイプ13ないし第2サイプ14と、ピンサイプ11の開口とが成す角度をより大きくして、車両の走行時に、路面に接したピンサイプ11の開口端部分に、めくれが生じることを、さらに効果的に抑制することができる。
【0049】
図1に示すように、タイヤ1は、トレッド2に、副ヘルムホルツ型共鳴器30を備えた構成とすることもできる。本実施形態では、タイヤ周方向に間隔を空けて並ぶ一対のヘルムホルツ型共鳴器10の間に、それぞれ副ヘルムホルツ型共鳴器30が設けられている。
【0050】
副ヘルムホルツ型共鳴器30は、ヘルムホルツ型共鳴器10のピンサイプ11と同一形状の副ピンサイプ31と、ヘルムホルツ型共鳴器10の狭窄溝12と同一の断面形状の副狭窄溝32と、ヘルムホルツ型共鳴器10の第1サイプ13と同一の断面形状の副サイプ33と、を有している。
副ピンサイプ31は、ピンサイプ11よりも、環状溝4の側にタイヤ幅方向にずれて配置されており、副狭窄溝32の長さは狭窄溝12の長さよりも短くなっている。副サイプ33は副狭窄溝32の延長線上に配置されており、その長さは副狭窄溝32の長さよりも長くなっている。
【0051】
上記構成の副ヘルムホルツ型共鳴器30においても、車両の走行時に、副ピンサイプ31が路面に閉塞されて気室が形成され、副狭窄溝32が路面に閉塞されて環状溝4に連なる狭窄通路(ネック)が形成される。したがって、車両の走行時に、路面と環状溝4との間で発生する気柱共鳴による騒音を、副ヘルムホルツ型共鳴器30によっても低減することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0053】
例えば、前記実施形態において、タイヤ1を、乗用自動車に装着して使用されるものとしたが、これに限らず、タイヤは、例えば、ライトトラック、バス、二輪車、トラクター等の農業用車両、ダンプカー等の工事用又は建設用車両、電動自転車などの、種々の自動車に装着して用いられるものであってもよい。
【0054】
また、前記実施形態においては、一方の環状陸部3に複数のヘルムホルツ型共鳴器10を設けた構成としているが、これに限らず、例えば他方の環状陸部3や副陸部5に、複数のヘルムホルツ型共鳴器10を設けた構成とするなど、トレッド2における複数のヘルムホルツ型共鳴器10の配置は任意に設定することができる。
【0055】
さらに、ヘルムホルツ型共鳴器10が設けられる環状陸部3は、トレッド2のショルダー部を構成するものであってもよい。
【符号の説明】
【0056】
1:タイヤ、2:トレッド、3:環状陸部、4:環状溝、5:副陸部、6:副環状溝6、
10:ヘルムホルツ型共鳴器、11:ピンサイプ、11a:開口、11b:側面、
11c:底面、12:狭窄溝、13:第1サイプ、14:第2サイプ、20:面取り部、
30:副ヘルムホルツ型共鳴器、31:副ピンサイプ、32:副狭窄溝、θ1:第1角度、θ2:第2角度、θ3:第3角度
図1
図2
図3
図4
図5