(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクの製造方法、及び反射型マスクの修正方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/58 20120101AFI20231226BHJP
G03F 1/24 20120101ALI20231226BHJP
G03F 1/48 20120101ALI20231226BHJP
G03F 1/52 20120101ALI20231226BHJP
C23C 14/06 20060101ALI20231226BHJP
H01L 21/302 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G03F1/58
G03F1/24
G03F1/48
G03F1/52
C23C14/06 N
H01L21/302 201B
(21)【出願番号】P 2019228507
(22)【出願日】2019-12-18
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】松井 一晃
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 洋介
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-537758(JP,A)
【文献】特開2007-273678(JP,A)
【文献】特開2010-103463(JP,A)
【文献】特開2011-238801(JP,A)
【文献】特開2015-008283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
G03F 1/00~1/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、
を有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、
前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、
前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル
、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項2】
前記第1の吸収膜は、タンタル、ケイ素、モリブデン、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項3】
前記第1の吸収膜は
、ケイ素、モリブデン、チタン、バナジウム
、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項1に記載の反射型マスクブランク。
【請求項4】
前記第1の吸収膜及び前記第2の吸収膜の少なくとも一方は、窒素、酸素及び炭素から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項1
から請求項3のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項5】
前記吸収膜全体の膜厚は、60nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項6】
前記第1の吸収膜の膜厚は、0.5nm以上6nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項
5に記載の反射型マスクブランク。
【請求項7】
前記第2の吸収膜の膜厚は、35nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項
6のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項8】
前記吸収膜の最表層は、前記第1の吸収膜であることを特徴とする請求項1から請求項
7のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項9】
前記第1の吸収膜は、前記保護膜と接していることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の反射型マスクブランク。
【請求項10】
基板と、
前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、
を有する反射型マスクであって、
前記吸収膜には、転写パターンが形成されており、
前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、
前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、
前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル
、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする反射型マスク。
【請求項11】
前記第1の吸収膜は、タンタル、ケイ素、モリブデン、チタン、バナジウム、コバルト、ニッケル、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項
10に記載の反射型マスク。
【請求項12】
前記第1の吸収膜は
、ケイ素、モリブデン、チタン、バナジウム
、ジルコニウム、ニオブ、及びハフニウムから選ばれる1種以上の元素を含有することを特徴とする請求項
10に記載の反射型マスク。
【請求項13】
前記第1の吸収膜及び前記第2の吸収膜の少なくとも一方は、窒素、酸素及び炭素から選ばれる1種以上を含有することを特徴とする請求項
10から請求項12のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項14】
前記吸収膜全体の膜厚は、60nm以下であることを特徴とする請求項
10から請求項1
3のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項15】
前記第1の吸収膜の膜厚は、0.5nm以上6nm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1
4に記載の反射型マスク。
【請求項16】
前記第2の吸収膜の膜厚は、35nm以下であることを特徴とする請求項
10から請求項1
5のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項17】
前記吸収膜の最表層は、前記第1の吸収膜であることを特徴とする請求項
10から請求項1
6のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項18】
前記第2の吸収膜の前記転写パターンが形成された側面には、前記第2の吸収膜の面内方向において最も突出した部分である凸部と、前記第2の吸収膜の面内方向において最も後退した部分である凹部とを備え、
前記第2の吸収膜の面内方向における前記凸部から前記凹部までの距離をサイドエッチング量とした場合に、前記サイドエッチング量は、5nm以下であることを特徴とする請求項
10から請求項1
7のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項19】
前記第2の吸収膜の組成とは異なる組成を有し、前記第2の吸収膜の前記転写パターンが形成された側面の少なくとも一部を覆って前記第2の吸収膜の前記側面を保護するエッチング耐性膜をさらに有することを特徴とする請求項
10から請求項1
8のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項20】
前記第1の吸収膜は、前記保護膜と接していることを特徴とする請求項10から請求項19のいずれか1項に記載の反射型マスク。
【請求項21】
請求項
10から請求項
20のいずれか1項に記載の反射型マスクの製造方法であって、
前記第1の吸収膜を電子線修正エッチングする工程と、
前記第2の吸収膜を電子線修正エッチングする工程と、を有し、
前記第1の吸収膜を電子線修正エッチングする工程では、前記第1の吸収膜を電子線修正エッチングする際に前記第2の吸収膜の側面にエッチング耐性膜を形成し、
前記第2の吸収膜を電子線修正エッチングする工程では、サイドエッチング量が5nm以下となるように、前記第2の吸収膜を電子線修正エッチングすることを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項22】
請求項
10から請求項
20のいずれか1項に記載の反射型マスクの、電子線修正エッチングによる修正方法であって、
前記第1の吸収膜を、酸素を含んだエッチングガスで電子線修正し、
前記第2の吸収膜を、酸素を含まないエッチングガスで電子線修正することを特徴とする反射型マスクの修正方法。
【請求項23】
基板と、
前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、
を有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、
前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、
前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル、テルル、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有
し、
前記吸収膜全体の膜厚は、60nm以下であり、
前記第1の吸収膜の膜厚は、0.5nm以上6nm以下の範囲内であることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項24】
基板と、
前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、
を有する反射型マスクブランクであって、
前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、
前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、
前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル、テルル、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有
し、
前記第2の吸収膜の膜厚は、35nm以下であることを特徴とする反射型マスクブランク。
【請求項25】
基板と、
前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、
を有する反射型マスクであって、
前記吸収膜には、転写パターンが形成されており、
前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、
前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、
前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル、テルル、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有
し、
前記吸収膜全体の膜厚は、60nm以下であり、
前記第1の吸収膜の膜厚は、0.5nm以上6nm以下の範囲内であることを特徴とする反射型マスク。
【請求項26】
基板と、
前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、
を有する反射型マスクであって、
前記吸収膜には、転写パターンが形成されており、
前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、
前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、
前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル、テルル、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有
し、
前記第2の吸収膜の膜厚は、35nm以下であることを特徴とする反射型マスク。
【請求項27】
基板と、
前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、
を有する反射型マスクであって、
前記吸収膜には、転写パターンが形成されており、
前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、
前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、
前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル、テルル、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有
し、
前記第2の吸収膜の前記転写パターンが形成された側面には、前記第2の吸収膜の面内方向において最も突出した部分である凸部と、前記第2の吸収膜の面内方向において最も後退した部分である凹部とを備え、
前記第2の吸収膜の面内方向における前記凸部から前記凹部までの距離をサイドエッチング量とした場合に、前記サイドエッチング量は、5nm以下であることを特徴とする反射型マスク。
【請求項28】
基板と、
前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、
を有する反射型マスクであって、
前記吸収膜には、転写パターンが形成されており、
前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、
前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、
前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル、テルル、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有
し、
前記第2の吸収膜の組成とは異なる組成を有し、前記第2の吸収膜の前記転写パターンが形成された側面の少なくとも一部を覆って前記第2の吸収膜の前記側面を保護するエッチング耐性膜をさらに有することを特徴とする反射型マスク。
【請求項29】
基板と、
前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、
を有する反射型マスクであって、
前記吸収膜には、転写パターンが形成されており、
前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、
前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、
前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル、テルル、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有する反射型マスクの製造方法であって、
前記第1の吸収膜を電子線修正エッチングする工程と、
前記第2の吸収膜を電子線修正エッチングする工程と、を有し、
前記第1の吸収膜を電子線修正エッチングする工程では、前記第1の吸収膜を電子線修正エッチングする際に前記第2の吸収膜の側面にエッチング耐性膜を形成し、
前記第2の吸収膜を電子線修正エッチングする工程では、サイドエッチング量が5nm以下となるように、前記第2の吸収膜を電子線修正エッチングすることを特徴とする反射型マスクの製造方法。
【請求項30】
基板と、
前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、
前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、
前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、
を有する反射型マスクであって、
前記吸収膜には、転写パターンが形成されており、
前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、
前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、
前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル、テルル、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有する反射型マスクの、電子線修正エッチングによる修正方法であって、
前記第1の吸収膜を、酸素を含んだエッチングガスで電子線修正し、
前記第2の吸収膜を、酸素を含まないエッチングガスで電子線修正することを特徴とする反射型マスクの修正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクの製造方法、及び反射型マスクの修正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。フォトリソグラフィにおいては、転写パターンの最小解像寸法は、露光光源の波長に大きく依存し、波長が短いほど最小解像寸法を小さくできる。このため、半導体デバイスの製造プロセスにおいて、従来の波長193nmのArFエキシマレーザー光を用いた露光光源から、波長13.5nmのEUV露光光源に置き換わってきている。
【0003】
EUV光は波長が短いので、ほとんどの物質が高い光吸収性を持つ。このため、EUV用のフォトマスク(EUVマスク)は、従来の透過型マスクと異なり、反射型マスクである(例えば、特許文献1、特許文献2)。特許文献1には、EUVリソグラフィに用いられる反射型露光マスクにおいて、下地基板上に2種類以上の材料層を周期的に積層させた多層膜を形成し、多層膜上に、窒素を含む金属膜からなるパターン、または窒化金属膜と金属膜との積層構造からなるマスクパターンを形成することが開示されている。また、特許文献2では、多層反射膜上に吸収体層として、位相制御膜と、その位相制御膜上に高屈折率材料層と低屈折率材料層とを交互に積層した積層構造体とを備えた反射型EUVマスクが開示されている。
【0004】
特許文献1では、OD(光学濃度)1.5以上、特許文献2では、吸収体層からの反射率が入射光に対して2%以下であれば、パターン転写可能な光強度コントラストが得られることが記述されている。
また、EUVリソグラフィは、上述の通り、光の透過を利用する屈折光学系が使用できないことから、露光機の光学系部材はレンズではなく、ミラーとなる。このため、EUVフォトマスクへの入射光と反射光が同軸上に設計できない問題があり、通常、EUVリソグラフィでは光軸をEUVマスクの垂直方向から6度傾けてEUV光を入射し、マイナス6度の角度で反射する反射光を半導体基板に照射する手法が採用されている。
このように、EUVリソグラフィは、光軸を傾斜させることから、EUVマスクに入射するEUV光がEUVマスクのパターン(吸収層パターン)の影を作ることにより、転写性能が悪化する「射影効果」と呼ばれる問題が発生する。
【0005】
この問題に対し、特許文献2では、位相制御膜及び低屈折率材料層として、EUVに対する消衰係数kが0.03以上の材料を採用することで、従来よりも吸収体層の膜厚を薄く(60nm以下)することが可能となり、射影効果を低減できる方法が開示されている。
また、特許文献3では、従来のタンタルが主成分の吸収膜もしくは位相シフト膜に対してEUV光に対する吸収性(消衰係数k)が高い化合物材料を採用することで、各膜の膜厚を薄くし、射影効果を低減する方法が開示されている。
【0006】
しかし、特許文献2及び特許文献3に記載された、EUV光に対する消衰係数kが高い材料は、フォトマスク作製工程の欠陥修正工程において電子線修正エッチングをする際、従来のタンタルが主成分の吸収膜と比べてエッチングレートが極めて遅いため、EUV光に対する消衰係数kが高い材料を用いたEUVマスクは、欠陥の修正が困難となる場合がある。つまり、EUV光に対する消衰係数kが高い材料を用いて形成されたEUVマスクは、射影効果を低減することは可能であるが、フォトマスク作製工程の欠陥修正工程においては電子線修正エッチングに時間を要する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2001-237174号公報
【文献】特許第6408790号
【文献】国際公開第2011/004850号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明は、薄膜吸収膜に用いられる材料がEUV光に対する消衰係数kが大きい場合であっても、電子線修正エッチングに要する時間を短縮することが可能な反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクの製造方法、及び反射型マスクの修正手法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る反射型マスクブランクは、基板と、前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、を有する反射型マスクブランクであって、前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル、テルル、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有している。
【0010】
また、本発明の一態様に係る反射型マスクは、基板と、前記基板上に形成された多層膜構造を有するEUV光を反射する反射膜と、前記反射膜上に形成された前記反射膜を保護する保護膜と、前記保護膜上に形成された二層以上の多層膜からなるEUV光を吸収する吸収膜と、を有する反射型マスクであって、前記吸収膜には、転写パターンが形成されており、前記吸収膜は、第1の吸収膜と、第2の吸収膜とを交互に積層したものであり、前記第1の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートは、前記第2の吸収膜の電子線修正時における修正エッチングレートよりも大きく、前記第2の吸収膜は、錫、インジウム、プラチナ、ニッケル、テルル、銀、及びコバルトから選ばれる1種以上の元素を含有している。
【0011】
また、本発明の一態様に係る反射型マスクの製造方法は、前述した反射型マスクの製造方法であって、前記第1の吸収膜を電子線修正エッチングする工程と、前記第2の吸収膜を電子線修正エッチングする工程と、を有し、前記第1の吸収膜を電子線修正エッチングする工程では、前記第1の吸収膜を電子線修正エッチングする際に前記第2の吸収膜の側面にエッチング耐性膜を形成し、前記第2の吸収膜を電子線修正エッチングする工程では、サイドエッチング量が5nm以下となるように、前記第2の吸収膜を電子線修正エッチングする。
また、本発明の一態様に係る反射型マスクの修正方法は、前述した反射型マスクの、電子線修正エッチングによる修正方法であって、前記第1の吸収膜を、酸素を含んだエッチングガスで電子線修正し、前記第2の吸収膜を、酸素を含まないエッチングガスで電子線修正する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、薄膜吸収膜に用いられる材料がEUV光に対する消衰係数kが大きい場合であっても、電子線修正エッチングに要する時間を短縮することが可能な反射型マスクブランク、反射型マスク、反射型マスクの製造方法、及び反射型マスクの修正手法を提供することができる。具体的には、本発明の一態様によれば、EUV光に対する消衰係数kが大きく吸収膜の薄膜化が期待できる材料ではあるが単層では電子線修正エッチングが困難な第2の吸収膜と、第2の吸収膜を構成する材料と比べてEUV光に対する消衰係数kは小さいが電子線修正エッチングが容易な第1の吸収膜とを併せて用いて積層化し、それぞれ最適な修正エッチング条件を用いることで第2の吸収膜への膜ダメージであるサイドエッチングを抑制することができ、電子線修正エッチングが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図3】EUV光の波長における各金属の光学定数を示すグラフである。
【
図4】錫からなる単層吸収膜を電子線修正エッチングした後のサイドエッチングを示す概略断面図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの多層吸収膜を電子線修正エッチングした後のサイドエッチングを示す概略断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの多層吸収膜を電子線修正エッチングしている最中のサイドエッチングを示す概略断面拡大図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの多層吸収膜を電子線修正エッチングした後のサイドエッチングの変形例を示す概略断面図である。
【
図8】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図9】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図10】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図11】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図12】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図13】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの修正工程前の構造を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)である。
【
図14】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの修正工程を示す概略断面図である。
【
図15】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの修正工程を示す概略断面図である。
【
図16】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの修正工程後の構造を示す概略平面図(a)及び概略断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明に係る反射型フォトマスクブランク(反射型マスクブランク)及び反射型フォトマスク(反射型マスク)の各構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の構造を示す概略断面図である。また、
図2は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20の構造を示す概略断面図である。ここで、
図2に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20は、
図1に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の低反射部(吸収膜)5をパターニングして形成される。
【0015】
(全体構造)
図1に示すように、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、基板1上に多層反射膜(反射膜)2、多層反射膜2上にキャッピング層(保護膜)3をこの順に備えている。これにより、基板1上には多層反射膜2及びキャッピング層3を有する反射部4が形成されている。反射部4上に低反射部(吸収膜)5を備え、低反射部5は少なくとも二層以上で構成され、そのうちの一層を吸収層(第1の吸収膜)Aとし、もう一層を吸収層(第2の吸収膜)Bとし、低反射部5の底部(最下層)と最表層(最上層)はそれぞれ吸収層Aで構成されている。
【0016】
(基板)
本発明の実施形態に係る基板1には、例えば、平坦なSi基板や合成石英基板等を用いることができる。また、基板1には、チタンを添加した低熱膨張ガラスを用いることができるが、熱膨張率の小さい材料であれば、本発明はこれらに限定されるものではない。
(反射層)
本発明の実施形態に係る多層反射膜2は、露光光であるEUV光(極端紫外光)を反射するものであればよく、EUV光に対する屈折率の大きく異なる材料の組み合わせによる多層反射膜であれば好ましい。多層反射膜2は、例えば、Mo(モリブデン)とSi(シリコン)、またはMo(モリブデン)とBe(ベリリウム)といった組み合わせの層を40周期程度繰り返し積層することにより形成したものが好ましい。
【0017】
(キャッピング層)
本発明の実施形態に係るキャッピング層3は、吸収層Aのパターン形成の際に行われるドライエッチングに対して耐性を有する材質で形成されて、後述する低反射部パターン(転写パターン)5aをエッチングして形成する際に、多層反射膜2へのダメージを防ぐエッチングストッパとして機能するものである。ここで、多層反射膜2の材質やエッチング条件によっては、キャッピング層3は設けなくてもよい。また、図示しないが、基板1上の多層反射膜2を形成していない面に裏面導電膜を形成することができる。裏面導電膜は、後述する反射型フォトマスク20を露光機に設置するときに静電チャックの原理を利用して固定するための膜である。
【0018】
(低反射部)
本発明の実施形態に係る低反射部5は、
図2に示すように、反射型フォトマスクブランク10の低反射部5の一部を除去することにより低反射部パターン5aが形成される層である。
低反射部5全体の厚さは、60nm以下であることが好ましい。低反射部5全体の厚さが60nm以下であれば、射影効果を効果的に低減することが可能となる。
また、低反射部5を構成する吸収膜Aの膜厚は、0.5nm以上6nm以下の範囲内であれば好ましく、1nm以上3nm以下の範囲内であればより好ましく、1.8nm以上2.2nm以下の範囲内であればさらに好ましい。低反射部5を構成する吸収膜Aの膜厚が上記数値範囲内であれば、フォトマスク作製工程の欠陥修正工程における電子線修正エッチングに要する時間を効果的に短縮することができる。
また、低反射部5を構成する吸収膜Bの膜厚は、35nm以下であることが好ましい。低反射部5を構成する吸収膜Bの膜厚が上記数値以下であれば、射影効果をさらに低減することが可能となる。
【0019】
また、低反射部5の最表層は、吸収膜Aであることが好ましい。低反射部5の最表層が吸収膜Aであれば、反射型フォトマスクブランク10の表面粗さRaを小さくすることができる。具体的には、反射型フォトマスクブランク10の表面粗さRaを0.3nm程度にすることができる。なお、吸収膜Aを備えない場合、即ち吸収膜Bが最表層である場合の反射型フォトマスクブランク10の表面粗さRaは、1.0nm程度である。
また、吸収膜A及び吸収膜Bの少なくとも一方は、窒素、酸素及び炭素から選ばれる1種以上を含有していてもよい。吸収膜A及び吸収膜Bの少なくとも一方が、窒素、酸素及び炭素から選ばれる1種以上を含有していれば、フォトマスク作製工程の欠陥修正工程における電子線修正エッチングに要する時間を効果的に短縮することができる。
【0020】
EUVリソグラフィにおいて、EUV光は斜めに入射し、反射部4で反射されるが、低反射部パターン5aが光路の妨げとなる射影効果により、ウェハ(半導体基板)上への転写性能が悪化することがある。この転写性能の悪化は、EUV光を吸収する低反射部5の厚さを薄くすることで低減される。低反射部5の厚さを薄くするためには、従来の材料よりEUV光に対す吸収性の高い材料、つまり波長13.5nmに対する消衰係数kの高い材料を吸収層Bに適用することが好ましい。
【0021】
図3は、各金属材料のEUV光の波長13.5nmに対する光学定数を示すグラフである。
図3の横軸は屈折率nを表し、縦軸は消衰係数kを示している。従来の吸収層の主材料であるタンタル(Ta)の消衰係数kは0.041である。それより大きい消衰係数kの化合物材料であれば、従来に比べて吸収層(低反射部)の厚さを薄くすることが可能である。消衰係数kが0.06以上であれば、吸収層Bの厚さを十分に薄くすることが可能で、射影効果を低減できる。
【0022】
上記のような光学定数(nk値)の組み合わせを満たす吸収層Bの化合物材料としては、
図3に示すように、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、インジウム(In)、コバルト(Co)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、及びテルル(Te)から選ばれる1種以上の元素を含有する材料が挙げられる。具体的には、吸収層Bの材料を酸化錫(SnO)とした場合には、錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率は、25:75~50:50の範囲内である材料が好ましい。また、吸収層Bの材料を酸化インジウム(InO)とした場合には、インジウム(In)と酸素(O)との原子数比率は、35:65~70:30の範囲内である材料が好ましい。また、吸収層Bの材料を酸化タンタル錫(SnOTa)とした場合には、錫(Sn)と酸素(O)とタンタル(Ta)との原子数比率は、10:30:60~40:40:20の範囲内である材料が好ましい。吸収層Bの材料における原子数比率が上記数値範囲内であれば、消衰係数kが大きく、従来に比べて吸収層(低反射部)の厚さを薄くすることが可能となる。
【0023】
図4は、前述の消衰係数kが0.06以上の金属の中から錫(Sn)を選択し、錫(Sn)からなる単層の吸収層Bのみで低反射部5を作製した際の電子線修正エッチング処理後における低反射部5(吸収層B)の形状を示す概略断面図である。電子線修正エッチングは、例えばフッ素系ガスのようなエッチングガスを供給しつつ、被エッチング箇所に電子線を照射することにより、フッ素のエッチャントの反応性を促進して低反射部5(吸収層B)を構成する錫(Sn)をエッチングする。しかし、錫(Sn)や前述する金属は、フッ素系ガスに対するエッチング耐性が強く、エッチングに極めて長い時間を要するため、
図4に示すようなサイドエッチングBSと呼ばれるエッチング方向(低反射部5の表面側からキャッピング層3側に向かう方向)とは垂直な方向(低反射部5の面内方向)に向かってダメージが発生する。このサイドエッチングが大きいと、電子線修正エッチングした箇所の線幅が予定した線幅に対して大きくずれるため、修正に失敗する原因の一つとなる。
【0024】
なお、
図4に示す「サイドエッチング量(サイドエッチングの幅)BW」とは、吸収層Bの低反射部パターン5aが形成された側面、即ち低反射部電子線修正エッチング箇所5bに接する側面において、吸収層Bの面内方向において最も突出した部分を凸部とし、吸収層Bの面内方向において最も後退した部分を凹部とした場合に、吸収層Bの面内方向における凸部から凹部までの距離をいう。
図4では、上述の凸部は吸収層Bのキャッピング層3と接する部分に該当し、上述の凹部は吸収層Bの表面部分に該当する。本発明の実施形態に係るサイドエッチング量BWは、5nm以下であることが好ましい。サイドエッチング量BWが5nm以下であれば、転写性能の悪化を低減することができる。
【0025】
本実施形態では、
図5に示すように、吸収層Bと比べて電子線修正のエッチングレートが速い吸収層Aと、吸収層Aを構成する材料と比べて消衰係数kが大きく、電子線修正のエッチングレートが遅い吸収層Bとが交互に積層された多層吸収膜を含む低反射部5を用いることでサイドエッチングBSを抑制し、電子線修正エッチングの成功率を向上することが可能となる。
【0026】
以下、詳しいメカニズムを、多層吸収層を含む低反射部5の一部を拡大した
図6を用いて説明する。
図6は、吸収層Aを電子線修正エッチングしている最中を示す図であり、BHは吸収層Bの側面に形成された保護層(エッチング耐性膜)である。本実施形態の多層吸収層を含む低反射部5を電子線修正エッチングする際には、エッチングガスを吸収層Aと吸収層Bで切り替える多段エッチングプロセスを用いることが好ましい。吸収層Bをエッチングする際は前述の通りフッ素系ガスを用いてエッチングを行い、吸収層Aをエッチングする際はフッ素系ガスに酸素を混合させたガスを用いてエッチングを行うことが好ましい。より詳しくは、吸収層Bをエッチングする際は酸素を含まないフッ素系ガスを用いてエッチングを行い、吸収層Aをエッチングする際は酸素を含んだフッ素系ガスを用いてエッチングを行うことが好ましい。吸収層Bに対して酸素混合ガスはエッチングガスとして働かず、デポジッション(堆積)ガスとして働くため、吸収層Bをエッチングすることは極めて低く、吸収層Bの側面に保護層BHを形成する。そのため、前述した多段エッチングプロセスを繰り返し低反射部5に用いることで、
図5に示すように、サイドエッチングBSの発生を抑えた電子線修正エッチングが可能となる。
【0027】
なお、吸収層Aをエッチングする際にフッ素系ガスに含まれる酸素の分量は、フッ素系ガス全体の量に対して、5%以上50%以下の範囲内であれば好ましい。吸収層Aをエッチングする際にフッ素系ガスに含まれる酸素の分量が上記数値範囲内であれば、吸収層Aを効率よくエッチングすることができ、且つ吸収層Bの側面に保護層BHを効率よく形成することができる。
ここで、吸収層Bをエッチングする際に用いる「酸素を含まないフッ素系ガス」とは、フッ素系ガスに酸素を添加しないことを意味するものであり、フッ素系ガス全体の量に対して、酸素が1%程度、またはそれ以下の範囲内で含んだものであってもよい。
【0028】
なお、本実施形態では、吸収膜Aのみを電子線修正する際の修正エッチングレートは、吸収膜Bのみを電子線修正する際の修正エッチングレートに対して、20倍以上100倍以下の範囲内であればよく、40倍以上80倍以下の範囲内であれば好ましく、50倍以上70倍以下の範囲内であればさらに好ましい。吸収膜Aのみを電子線修正する際の修正エッチングレートが上記数値範囲内であれば、電子線修正に要する時間を従来技術と比べて効果的に短縮することができる。
また、本実施形態では、吸収膜Bのみを電子線修正する際の修正エッチングレートは、例えば、1nm/min以上であれば好ましく、1.4nm/min以上であればより好ましく、1.6nm/min以上であればさらに好ましい。吸収膜Bのみを電子線修正する際の修正エッチングレートが上記数値範囲内であれば、電子線修正に要する時間を従来技術と比べて効果的に短縮することができる。
【0029】
保護層BHは、例えば、錫(Sn)とタンタル(Ta)とを含んだ酸化膜、窒化膜、酸窒化膜、及び炭化膜の少なくとも一種で形成された層である。具体的には、保護層BHは、例えば、酸化錫(SnO)、窒化錫(SnN)、酸窒化錫(SnON)、炭化錫(SnC)、酸化タンタル(TaO)、窒化タンタル(TaN)、酸窒化タンタル(TaON)、及び炭化タンタル(TaC)の少なくとも一種を含んで形成された層である。つまり、本実施形態では、吸収膜Bの組成とは異なる組成を有し、吸収膜Bの低反射部パターン5aが形成された側面の少なくとも一部を覆って吸収膜Bの側面を保護する保護層BHをさらに有していてもよい。
【0030】
吸収層Aの材料は、上記の多段エッチングプロセスを実現するため、フッ素系ガスと酸素とを混合したガスにより電子線修正エッチングが可能であることが望ましい。そのため、吸収層Aの材料としては、例えば、タンタル(Ta)、ケイ素(Si)、モリブデン(Mo)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、またはハフニウム(Hf)である。また、これらの材料の窒化膜、酸化膜、酸窒化膜を用いてもよい。さらに、前述した元素を1種以上含有する材料であってもよい。具体的には、吸収層Aの材料を窒化タンタル(TaN)とした場合には、タンタル(Ta)と窒素(N)との原子数比率は、20:80~50:50の範囲内である材料が好ましい。また、吸収層Aの材料を酸化タンタル(TaO)とした場合には、タンタル(Ta)と酸素(O)との原子数比率は、20:80~50:50の範囲内である材料が好ましい。また、吸収層Aの材料をタンタル(Ta)とした場合には、タンタル(Ta)の原子数比率は、100である材料が好ましい。
【0031】
(製造方法)
以下、反射型フォトマスク20の製造方法について、簡単に説明する。
まず、上述した反射型フォトマスクブランク10を構成する吸収膜Aを電子線修正エッチングする。この際、吸収膜Bの側面にエッチング耐性膜を形成する。
次に、吸収膜Bを電子線修正エッチングする。この際、サイドエッチング量が5nm以下となるように、吸収膜Bを電子線修正エッチングする。
こうして、本実施形態に係る反射型フォトマスク20を製造する。
【0032】
(変形例)
図4には、サイドエッチングBSされた吸収膜Bの面、即ちサイドエッチング面の形状について、低反射部5(吸収膜B)の表面側からキャッピング層3側に向かって一定の割合で傾斜した形態について説明したが、本発明はこれに限定されたものではない。
図7(a)~(c)に示すように、例えば、サイドエッチング面の形状は、湾曲した形態であってもよい。また、
図7(a)及び(b)に示すように、例えば、サイドエッチング量(サイドエッチングBSの幅)BWは、吸収膜Bの上面側で最も大きくてもよいし、
図7(c)に示すように、吸収膜Bの中央部で最も大きくてもよい。なお、
図7(a)~(c)では、保護層BHの記載は省略されている。
【0033】
(実施例1)
以下、本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクの各実施例について、図と表を用いて説明する。
最初に、反射型フォトマスクブランク100の作製方法について
図8を用いて説明する。
まず、
図8に示すように、低熱膨張特性を有する合成石英の基板11の上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)を一対とする積層膜が40枚積層されて形成された多層反射膜12を形成した。多層反射膜12の膜厚は280nmとした。
図8では、簡便のため、多層反射膜12は、数対の積層膜で図示されている。
【0034】
次に、多層反射膜12上に、中間膜としてルテニウム(Ru)で形成されたキャッピング層13を、膜厚が2.5nmになるように成膜した。こうして、基板11上に多層反射膜12及びキャッピング層13を有する反射部14を形成した。
次に、キャッピング層13の上に、窒化タンタル(TaN)で形成された吸収層A0を膜厚が2nmになるよう成膜した。タンタル(Ta)と窒素(N)との原子数比率は、XPS(X線光電子分光法)で測定したところ50:50であった。
【0035】
次に、吸収層AO上に、酸化錫(SnO)で形成された吸収層BOを膜厚が6nmになるよう成膜した。錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率は、XPS(X線光電子分光法)で測定したところ50:50であった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、わずかに結晶性が見られるものの、アモルファスであることがわかった。この吸収層AOと吸収層BOとを交互に積層して、5層の吸収層AOと4層の吸収層BOとからなる計9層の低反射部15を成膜した。こうして、反射部14上に吸収層AO及び吸収層BOを有する低反射部15を形成した。
次に、基板11の多層反射膜12が形成されていない側の面に窒化クロム(CrN)で形成された裏面導電膜16を100nmの厚さで成膜し、反射型フォトマスクブランク100を作製した。
基板11上へのそれぞれの膜の成膜(層の形成)は、多元スパッタリング装置を用いた。各々の膜の膜厚は、スパッタリング時間で制御した。
【0036】
次に、反射型フォトマスク200の作製方法について
図9から
図12を用いて説明する。
まず、
図9に示すように、反射型フォトマスクブランク100に備わる低反射部15の最表面上に、ポジ型化学増幅型レジスト(SEBP9012:信越化学社製)を120nmの膜厚になるようにスピンコートで成膜し、110度で10分ベークし、レジスト膜19を形成した。
次に、電子線描画機(JBX3030:日本電子社製)によってレジスト膜19に所定のパターンを描画した。その後、110度、10分ベーク処理を施し、次いでスプレー現像機(SFG3000:シグマメルテック社製)を用いて現像処理をした。これにより、
図10に示すように、レジストパターン19aを形成した。
【0037】
次に、
図11に示すように、レジストパターン19aをエッチングマスクとして、塩素系ガスとフッ素系との混合ガスを主体としたドライエッチングにより、低反射部15のパターニングを行い、吸収層パターン(低反射部パターン)を形成した。
次に、
図12に示すように残ったレジストパターン19aの剥離を行い、低反射部パターン15aを形成し、本実施例の反射型フォトマスク200を作製した。
【0038】
(修正方法)
次に、反射型フォトマスク200の電子線修正の方法について
図13から
図16を用いて説明する。
図13に反射型フォトマスク200における多層吸収膜(低反射部15)の一部を拡大した図を示す。より詳しくは、
図13(a)は、本実施例に係る反射型フォトマスク200の修正工程前の構造を示す概略平面図であり、
図13(b)は、本実施例に係る反射型フォトマスク200の修正工程前の構造を示す概略断面図である。
以下、レジストパターン19aを用いたドライエッチング処理により、形成した低反射部パターン15aに対して電子線修正エッチングを行う際の具体的な手法について説明する。なお、
図13(a)において、「L」は低反射部15が形成された領域を示し、「S」は反射部14が露出した領域を示す。
【0039】
まず、
図14に示すように、最表層である吸収層AOに対して電子線修正機(MeRiT MG45:CarlZeiss社製)を用いて、フッ素系ガスと酸素とを混合したガス雰囲気にて電子線を照射し、電子線修正エッチングを行った。この時のフッ素ガス流量は、温度にて制御されるコールドトラップ技術を用いた。本実施例では、フッ素の温度を-26℃(以降、制御温度とする)とし、酸素の温度を-43℃とした。
続いて、
図15に示すように、最表層から2層目にあたる吸収層BOに対して、同装置を用いて制御温度を0℃とし、フッ素系ガス雰囲気にて電子線を照射し電子線修正エッチングを行った。上記工程を繰り返して、
図16に示すように、多層吸収層全てを電子線修正エッチングした反射型フォトマスク200を得た。その際のサイドエッチングBSの量(サイドエッチング量BW)は、SEM(LWM9045:ADVANTEST社製)にて線幅を計測し、1nm未満であることを確認した。
【0040】
(実施例2)
吸収層AOを酸化タンタル(TaO)で形成し、膜厚が2nmになるよう成膜した。タンタル(Ta)と酸素(O)との原子数比率は、XPS(X線光電子分光法)で測定したところ50:50であった。
次に、吸収層AO上に、酸化インジウム(InO)で形成された吸収層BOを膜厚が5nmになるよう成膜した。インジウム(In)と酸素(O)との原子数比率は、XPS(X線光電子分光法)で測定したところ70:30であった。
その他の膜の形成方法とマスク作製方法とは、実施例1と同様にした。
こうして、実施例2の反射型フォトマスク200を製造した。
なお、電子線修正エッチングでは、酸化タンタル(TaO)にて形成した吸収膜AOの電子線修正時のフッ素ガス流量の制御温度を-20℃とし、酸化インジウム(InO)にて形成した吸収層BOの電子線修正時のフッ素ガス流量の制御温度を0℃とすることでサイドエッチングBSの量(サイドエッチング量BW)は1nm未満であることを確認した。
【0041】
(実施例3)
吸収層AOをタンタル(Ta)で形成し、膜厚が2nmになるよう成膜した。
次に、吸収層AO上に、酸化タンタル錫(SnOTa)で形成された吸収層BOを膜厚が8nmになるよう成膜した。錫(Sn)と酸素(O)とタンタル(Ta)との原子数比率は、XPS(X線光電子分光法)で測定したところ40:40:20であった。
その他の膜の形成方法とマスク作製方法とは、実施例1と同様にした。
こうして、実施例3の反射型フォトマスク200を製造した。
なお、電子線修正エッチングでは、タンタル(Ta)にて形成した吸収膜AOの電子線修正時のフッ素ガス流量の制御温度を-15℃とし、酸化タンタル錫(SnOTa)にて形成した吸収層BOの電子線修正時のフッ素ガス流量の制御温度を0℃とすることでサイドエッチングBSの量(サイドエッチング量BW)は2nm未満であることを確認した。
【0042】
(比較例1)
吸収層AOを、膜厚が60nmになるよう窒化タンタル(TaN)で成膜し、吸収層BOを成膜しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の反射型フォトマスク200を製造した。なお、サイドエッチングBSの量(サイドエッチング量BW)は1nm未満であることを確認した。
【0043】
(比較例2)
吸収層BOを、膜厚が30nmになるよう酸化錫(SnO)で成膜し、吸収層AOを成膜しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例2の反射型フォトマスク200を製造した。なお、サイドエッチングBSの量(サイドエッチング量BW)は15nmであることを確認した。
【0044】
実施例1~3及び比較例1~2の評価結果を、表1及び表2に示す。
本実施例では、サイドエッチング量と、修正エッチングレート比と、転写性能とについて評価した。
サイドエッチング量については、その量が「5nm」以下であれば、使用上問題がないため、合格とした。
【0045】
表1及び表2に示す修正エッチングレート比は、比較例2に係る吸収層BO、即ち「錫(Sn)と酸素(O)との原子数比率が50:50であるSnO」の電子線修正エッチングレートを「1」とした場合における相対的な電子線修正エッチングレート(低反射部15全体のエッチングレート)を示している。つまり、実施例1に係る低反射部15は、比較例2に係る低反射部15よりも30倍速く修正することができることを意味する。
修正エッチングレート比については、その量が「20(倍)」以上であれば、使用上問題がないため、合格とした。
表1及び表2では、転写性能について、射影効果が少なく、使用する上で転写性能に全く問題がない場合を「○」とし、射影効果が無視できず、使用する上で転写性能に改善が望まれる場合を「△」とした。
【0046】
【0047】
【0048】
表1及び表2に示すように、低反射部15に用いられる材料がEUV光に対する消衰係数kが大きい場合であっても、反射型フォトマスク200の電子線修正エッチングに要する時間を短縮することができた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクは、電子線修正エッチングにおいてサイドエッチングを抑制するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0050】
1…基板
2…多層反射膜(反射膜)
3…キャッピング層(保護膜)
4…反射部
5…低反射部(吸収膜)
5a…低反射部パターン(転写パターン)
5b…低反射部電子線修正エッチング箇所
10…反射型フォトマスクブランク(反射型マスクブランク)
20…反射型フォトマスク(反射型マスク)
11…基板
12…多層反射膜(反射膜)
13…キャッピング層(保護膜)
14…反射部
15…低反射部(吸収膜)
15a…低反射部パターン(転写パターン)
15b…低反射部電子線修正エッチング箇所
16…裏面導電膜
19…レジスト膜
19a…レジストパターン
100…反射型フォトマスクブランク(反射型マスクブランク)
200…反射型フォトマスク(反射型マスク)
A…吸収層(第1の吸収膜)
B…吸収層(第2の吸収膜)
BS…サイドエッチング
BH…保護層(エッチング耐性膜)
A0…吸収層(第1の吸収膜)
B0…吸収層(第2の吸収膜)
BW…サイドエッチング量(サイドエッチングの幅)
L…低反射部を備えた領域
S…反射部が露出した領域