(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/14 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
B41J2/14 607
B41J2/14 605
B41J2/14
B41J2/14 613
(21)【出願番号】P 2019229490
(22)【出願日】2019-12-19
【審査請求日】2022-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】501167725
【氏名又は名称】エスアイアイ・プリンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001357
【氏名又は名称】弁理士法人つばさ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 研治
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-084764(JP,A)
【文献】特開平09-141848(JP,A)
【文献】特開2014-213577(JP,A)
【文献】特開2000-052553(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0182775(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力室を有するアクチュエータ部材と、
前記アクチュエータ部材に対する一側に配置されるとともに、前記アクチュエータ部材に結合された低剛性支持部と、
前記アクチュエータ部材に対して前記一側とは反対の他側に配置されるとともに、前記アクチュエータ部材に結合された高剛性支持部と、
前記アクチュエータ部材の前記一側に配置されるとともに、前記圧力室に供給される液体の流路が形成された流路部材と、
を備え、
前記高剛性支持部は、前記アクチュエータ部材よりも大きな線膨張係数およびヤング率を有する液体噴射ヘッドのヘッド構成部材を含み、液体噴射ヘッドへの熱の入出力に対する前記アクチュエータ部材の伸縮の方向における当該高剛性支持部の熱変形を、前記熱の入出力に対して前記ヘッド構成部材が単体で前記伸縮の方向に示す熱変形よりも低減させる高剛性部を有し、
前記低剛性支持部は、
前記流路部材を含むとともに、前記伸縮の方向における剛性が、前記アクチュエータ部材よりも低
くなっており、
前記流路部材は、前記アクチュエータ部材よりも線膨張係数が大きくかつヤング率が小さい材料からなる、
液体噴射ヘッド。
【請求項2】
前記流路部材は、前記アクチュエータ部材の変形に追従した当該流路部材の変形を促す低剛性部を有する、
請求項
1に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項3】
前記アクチュエータ部材の前記他側に配置されるとともに、前記アクチュエータ部材が接合される支持面が形成されたベース部材をさらに備え、
前記高剛性支持部が、前記ヘッド構成部材として、前記ベース部材を含む、
請求項1
または2に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項4】
前記流路部材は、
前記圧力室に供給される液体の流路が形成された本体と、
前記本体に対し、液体非透過性の封止膜を介して接合された蓋部と、を備え、
前記ベース部材は、前記アクチュエータ部材に対して第1接着剤により接着され、
前記蓋部は、前記封止膜に対して第2接着剤により接着され、
前記第1接着剤は、前記第2接着剤よりも硬化後の硬度が高い、
請求項
3に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項5】
圧力室を有するアクチュエータ部材と、
前記アクチュエータ部材に対する一側に配置されるとともに、前記アクチュエータ部材に結合された低剛性支持部と、
前記アクチュエータ部材に対して前記一側とは反対の他側に配置されるとともに、前記アクチュエータ部材に結合された高剛性支持部と、
前記アクチュエータ部材の前記一側に配置された流路部材と、
前記アクチュエータ部材の前記他側に配置されるとともに、前記アクチュエータ部材が接合される支持面が形成されたベース部材と、
を備え、
前記高剛性支持部は、前記アクチュエータ部材よりも大きな線膨張係数およびヤング率を有する液体噴射ヘッドのヘッド構成部材を含み、液体噴射ヘッドへの熱の入出力に対する前記アクチュエータ部材の伸縮の方向における当該高剛性支持部の熱変形を、前記熱の入出力に対して前記ヘッド構成部材が単体で前記伸縮の方向に示す熱変形よりも低減させる高剛性部を有し、
前記低剛性支持部は、前記伸縮の方向における剛性が、前記アクチュエータ部材よりも低くなっており、
前記高剛性支持部が、前記ヘッド構成部材として、前記ベース部材を含み、
前記流路部材は、
前記圧力室に供給される液体の流路が形成された本体と、
前記本体に対し、液体非透過性の封止膜を介して接合された蓋部と、を備え、
前記ベース部材は、前記アクチュエータ部材に対して第1接着剤により接着され、
前記蓋部は、前記封止膜に対して第2接着剤により接着され、
前記第1接着剤は、前記第2接着剤よりも硬化後の硬度が高い、
液体噴射ヘッド。
【請求項6】
前記本体は、前記封止膜に対して第3接着剤により接着され、
前記第3接着剤は、前記第2接着剤よりも硬化後の硬度が高い、
請求項
4または5に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項7】
前記蓋部は、前記熱の入出力による前記アクチュエータ部材の変形の方向に弾性を有する、
請求項
4から6のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項8】
前記アクチュエータ部材の前記他側に配置されるとともに、前記圧力室に連通しかつ外部に向けて開口する噴射孔が形成されたノズル部材をさらに備え、
前記高剛性支持部が、前記ヘッド構成部材として、前記ノズル部材を含む、
請求項1から
7のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッド。
【請求項9】
請求項1~
8のいずれか一項に記載の液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドが取り付けられたキャリッジと、
前記キャリッジを被記録媒体に対して予め定められた相対位置に支持可能に構成された支持機構と、
を備える、液体噴射記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式の液体噴射記録装置では、インクタンクから、インクジェットヘッドへインクを供給し、インクジェットヘッドに設けられた複数のノズル孔から、記録紙等の被記録媒体に向けてインクを噴射することで、画像または文字等の記録を行う。
【0003】
特許文献1には、インクジェットヘッドに備わるセラミック材料製のインクポンプ部材に、金属製のノズル部材との熱膨張特性の違いに起因して生じる圧縮または引っ張り応力を低減する技術が開示されている。具体的には、インクポンプ部材またはノズル部材との関係から適宜の熱膨張特性を持たせた熱膨張特性調整部材を、インクポンプ部材およびノズル部材と重ね合わせ、一体的に接合するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体噴射ヘッドないし液体噴射記録装置では、液体噴射ヘッドの更なる小型化および精細化等の傾向を背景に、アクチュエータ部材に生じる応力の低減を通じてアクチュエータ部材の強度の低下を補い、アクチュエータ部材の損傷を抑制することが望まれる。液体噴射ヘッドに熱の入出力があると、これに応じた熱変形がアクチュエータ部材に生じることがある。このアクチュエータ部材の熱変形による損傷も、抑制が望まれる対象として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一形態では、圧力室を有するアクチュエータ部材と、アクチュエータ部材に対する一側に配置されるとともに、アクチュエータ部材に結合された低剛性支持部と、アクチュエータ部材に対して一側とは反対の他側に配置されるとともに、アクチュエータ部材に結合された高剛性支持部と、を備える液体噴射ヘッド(第1および第2の液体噴射ヘッド)が提供される。本形態に係る液体噴射ヘッドにおいて、高剛性支持部は、アクチュエータ部材よりも大きな線膨張係数およびヤング率を有する液体噴射ヘッドのヘッド構成部材を含み、液体噴射ヘッドへの熱の入出力に対するアクチュエータ部材の伸縮の方向における当該高剛性支持部の熱変形を、熱の入出力に対してヘッド構成部材が単体で伸縮の方向に示す熱変形よりも低減させる高剛性部を有し、低剛性支持部は、伸縮の方向における剛性が、アクチュエータ部材よりも低く設定される。
ここで、特に、本形態に係る第1の液体噴射ヘッドは、アクチュエータ部材の一側に配置されるとともに、圧力室に供給される液体の流路が形成された流路部材をさらに備え、低剛性支持部が流路部材を含み、この流路部材は、アクチュエータ部材よりも線膨張係数が大きくかつヤング率が小さい材料からなる。
また、本形態に係る第2の液体噴射ヘッドは、アクチュエータ部材の一側に配置された流路部材と、アクチュエータ部材の他側に配置されるとともに、アクチュエータ部材が接合される支持面が形成されたベース部材とを、さらに備え、高剛性支持部が、ヘッド構成部材としてベース部材を含み、流路部材は、圧力室に供給される液体の流路が形成された本体と、この本体に対し、液体非透過性の封止膜を介して接合された蓋部と、を備え、ベース部材は、アクチュエータ部材に対して第1接着剤により接着され、蓋部は、封止膜に対して第2接着剤により接着され、第1接着剤は、第2接着剤よりも硬化後の硬度が高い。
【0007】
他の形態では、上記形態に係る液体噴射ヘッド(第1または第2の液体噴射ヘッド)と、液体噴射ヘッドが取り付けられたキャリッジと、キャリッジを被記録媒体に対して予め定められた相対位置に支持可能に構成された支持機構と、を備える液体噴射記録装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本開示では、液体噴射ヘッドへの熱の入出力に対してアクチュエータ部材に生じる局所的な応力の集中を抑制することが可能である。よって、アクチュエータ部材の熱変形による損傷を抑制することができ、液体噴射ヘッドおよび液体噴射記録装置の製品寿命の確保ないし延長に資する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係るプリンタの内部構造を概略的に示す斜視図である。
【
図2】
図2は、同上実施形態に係るプリンタに備わるインクジェットヘッドの平面図であり、インクジェットヘッドの構成を、ヘッドカバーを取り外した状態で示す。
【
図3】
図3は、同上実施形態に係るインクジェットヘッド(ヘッドカバーを含む)の分解斜視図である。
【
図4】
図4は、
図2に示したA-A線による断面図であり、インクジェットヘッドの具体的な構成を示す。
【
図5】
図5は、本開示の一実施形態により得られる効果の一例を説明する模式図である。
【
図6】
図6は、同上実施形態により得られる効果の他の例を説明する模式図である。
【
図7】
図7は、同上実施形態に係るインクジェットヘッドの変形例の構成を、
図4と同様の断面により示す。
【
図8】
図8は、同上実施形態に係るインクジェットヘッドの他の変形例の構成を、
図4と同様の断面により示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の実施の形態について、以下に図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
[プリンタ1の全体構成]
図1は、本開示の一実施形態に係るプリンタ1の内部構造を、斜視図により概略的に示す。プリンタ1は、本実施形態に係る「被記録媒体」である記録紙Mに対し、インクにより画像または文字等の記録(印刷)を行うインクジェット方式のプリンタである。ここに、インクは、本実施形態に係る「液体」に相当する。
【0012】
プリンタ1は、一対の搬送機構2a,2bと、インクタンク3と、インクジェットヘッド4と、供給チューブ5と、走査機構6と、を備える。これらの部品または部材は、
図1に点線によりその外形を模式的に示す筺体10に収容されている。ここで、以下に参照される各図では、部品または部材の大きさを図示の便宜上適宜変更しており、それらの部品等の相互またはプリンタ1全体に対する比率は、実際の縮尺を正確に示すものではない。
【0013】
プリンタ1は、本実施形態に係る「液体噴射記録装置」に相当し、インクジェットヘッド4は、本実施形態に係る「液体噴射ヘッド」に相当する。
【0014】
(搬送機構2a,2b)
搬送機構2a,2bは、記録紙Mを搬送方向d(本実施形態では、
図1に示すX方向)に沿って搬送する。搬送機構2a,2bはそれぞれ、グリッドローラ21およびピンチローラ22を備えるとともに、図示しない駆動機構を備える。グリッドローラ21およびピンチローラ22は、いずれもその回転軸が互いに平行にかつY方向(記録紙Mをその幅方向に横断する方向であり、記録紙Mの搬送方向dに対して垂直な方向)に沿うように配設されている。駆動機構は、グリッドローラ21を駆動し、これを軸周りに、つまり、Z-X面内で回転させる機構であり、動力源として、例えば、電気モータを備える。ピンチローラ22は、グリッドローラ21に対して径方向に押し付けられ、グリッドローラ21との間に、記録紙Mを挟持する。本実施形態では、電気モータとグリッドローラ21とが、プーリ等の適宜の動力伝達媒体を介して接続されている。
【0015】
(インクタンク3)
インクタンク3は、インクを色別に収容する。本実施形態では、インクタンク3として、複数の色、例えば、イエロー(Y)、マゼンダ(M)、シアン(C)およびブラック(K)の4色のインクを個別に収容する、4種類のインクタンク3Y、3M、3C、3Kが設けられている。これらのインクタンク3Y,3M,3C,3Kは、筺体10の内部において、X方向に並べて配置されている。インクタンク3Y,3M,3C,3Kは、いずれも収容するインクの色以外については同一の構成である。よって、以下の説明では、色による区別をせず、インクタンク3と総称する。
【0016】
(インクジェットヘッド4)
インクジェットヘッド4は、供給チューブ5を介してインクタンク3と接続されている。本実施形態において、インクジェットヘッド4は、複数の噴射孔(例えば、
図4に符号45hにより模式的に示す)を有し、インクタンク3から供給チューブ5を介して受容したインクを、これら複数の噴射孔45hから、記録紙Mに向けて液滴の状態で噴射する。噴射されたインクが記録紙Mの表面に付着して、画像または文字等の記録が行われる。本実施形態では、複数のインクジェットヘッド4が設けられ、これら複数のインクジェットヘッド4が、後に述べる1つのキャリッジ33に固定されている。インクジェットヘッド4のそれぞれに対し、イエロー、マゼンダ、シアンおよびブラックのうち1色のインクが供給される。これに限らず、1つのインクジェットヘッド4に対し、2色またはそれ以上の色のインクを供給する構成とすることも可能である。
【0017】
(走査機構6)
走査機構6は、インクジェットヘッド4を、記録紙Mの幅方向(つまり、Y方向)に移動、つまり、走査させる。走査機構6は、Y方向に延設された一対のガイドレール31,32と、ガイドレール31,32上を移動可能に支持されたキャリッジ33と、キャリッジ33をY方向に移動させる駆動機構34と、を備える。駆動機構34は、動力源として電気モータ341を備えるとともに、図示しない一対のプーリに掛け渡された無端ベルト342と、を備える。キャリッジ33が無端ベルト342に取り付けられており、電気モータ341の動力が無端ベルト342を介してキャリッジ33に伝達されることで、キャリッジ33がガイドレール31,32上をY方向に移動する。
【0018】
キャリッジ33は、本実施形態に係る「キャリッジ」に相当し、走査機構6は、本実施形態に係る「支持機構」を構成する。
【0019】
本実施形態では、走査機構6によりキャリッジ33をY方向に移動させることで、キャリッジ33およびインクジェットヘッド4を記録紙Mに対して相対的に(具体的には、Y方向に)移動可能とする。このような形式は、シャトル式と呼ばれる。本実施形態に係る「支持機構」は、これに限らず、キャリッジおよびインクジェットヘッドを予め定められた位置に固定するものであってもよい。つまり、本実施形態に係るプリンタは、シャトル式に限らず、キャリッジおよびインクジェットヘッドの位置が固定され、被記録媒体のみが移動可能に構成された、いわゆるワンパス式またはシングルパス式のプリンタであってもよい。
【0020】
[インクジェットヘッド4の概略構成]
図2および
図3を参照して、インクジェットヘッド4の構成についてさらに説明する。
図2は、インクジェットヘッド4の構成を、噴射孔45hを介するインクの吐出方向にみた平面図により、
図3は、インクジェットヘッド4の構成を、分解斜視図により、夫々示す。
図2は、インクジェットヘッド4の構成を、後に述べるヘッドカバー41および上ベースプレート42を取り外した状態で示す。
図2および
図3において、Z軸に沿って上下または鉛直方向が定められ、Z軸に沿う正の向きに上方が、負の向きに下方が、夫々定められるものとする。つまり、同図におけるインクの吐出方向は、下向き、換言すれば、Z軸に沿って負の方向である。
【0021】
インクジェットヘッド4は、
図3に示すように、概して、ヘッドカバー41と、上ベースプレート42と、流路部材43と、ヘッドチップ44と、ノズルプレート45と、下ベースプレート46と、を備える。
【0022】
(ヘッドチップ44)
ヘッドチップ44は、アクチュエータプレート441と、アクチュエータプレート441に対する一側に配置され、アクチュエータプレート441に接合されたカバープレート442と、を備える。本実施形態では、アクチュエータプレート441とカバープレート442との接合は、接着剤による。
【0023】
アクチュエータプレート441は、チタン酸ジルコン酸塩(PZT)等のセラミック材料からなる圧電基板により構成されている。アクチュエータプレート441は、ノズルプレート45の噴射孔45hに連通する複数の溝(噴射チャネルないし吐出チャネルと呼ばれる)を有し、記録紙Mへの記録(印刷)に際し、インクが導入された噴射チャネル内の圧力を、噴射チャネルを形成するアクチュエータプレート441の壁部(以下、特に「駆動壁」という場合がある)の圧電効果により電気的に変化させる。これにより、圧力を変化させた噴射チャネル内のインクが噴射孔45hに向けて噴射チャネルから押し出され、噴射孔45hを介して外部に噴射される。本実施形態では、アクチュエータプレート441の溝として、噴射孔45hに連通する噴射チャネル以外に、噴射孔45hとは連通しない非噴射チャネルないしダミーチャネルが形成されている。噴射チャネルと非噴射チャネルとは、溝が延びる方向に対して垂直な方向に交互に設けられるとともに、アクチュエータプレート441の壁部により互いに隔てられている。
【0024】
アクチュエータプレート441は、本実施形態に係る「アクチュエータ部材」に相当し、アクチュエータプレート441に形成される「溝」(具体的には、噴射チャネルとして機能する溝)は、本実施形態に係る「圧力室」に相当する。
【0025】
カバープレート442は、アクチュエータプレート441と同じ材料、つまり、PZT等のセラミック材料からなる。カバープレート442は、アクチュエータプレート441と、流路部材43と、の間に介在して、流路部材43を介して供給されるインクを、アクチュエータプレート441の噴射チャネルと非噴射チャネルとのうち、噴射チャネルに選択的に流入させるためのものである。カバープレート442に適用可能な材料は、アクチュエータプレート441と同じものに限らず、アクチュエータプレート442とは異なる材料であってもよい。そのような材料として、セラミック材料以外に、インクに対する非透過性を有する材料(例えば、樹脂)を例示することができる。
【0026】
インクジェットヘッド4は、さらに、図示しない電子制御盤を備えており、アクチュエータプレート441の駆動壁に圧電効果を生じさせる電圧を、この電子制御盤により制御可能に構成されている。電子制御盤とアクチュエータプレート441の駆動壁(具体的には、駆動壁上に形成された電極)とがフレキシブル基板443を介して接続され、電子制御盤により制御される電圧を、フレキシブル基板44を介して駆動壁上の電極に印可することが可能である。
【0027】
(ノズルプレート45)
ノズルプレート45は、インクの吐出時に噴射孔45hとして機能する複数の連通孔を有する。本実施形態において、これら複数の連通孔は、流路部材43の内部をインクが流れる方向、換言すれば、流路部材43の導入ポート43intから排出ポート43extに向かう方向(
図2に示すX方向)に並んで配置されている。ノズルプレート45は、下ベースプレート46に取り付けられた状態で、噴射孔45hを有する面が下ベースプレート46の開口を介して下ベースプレート46の表面Sf側、つまり、下方に臨み、インクを下方に(換言すれば、Z軸に沿って負の方向に)噴射可能である。本実施形態では、ノズルプレート45は、ヘッドチップ44および下ベースプレート46のいずれに対しても接着剤により接合されている。
【0028】
ノズルプレート45は、本実施形態に係る「ノズル部材」に相当する。
【0029】
(流路部材43)
流路部材43は、内部に複数の流路(インク供給路p1、インク排出路p2)が形成されており、ヘッドチップ44ないしアクチュエータプレート441(具体的には、噴射チャネルである溝)に対し、これら複数の流路を介してインクを導入させる。流路部材43は、導入ポート43intと、排出ポート43extと、を備え、インクタンク3から供給されたインクを、導入ポート43intを介してインク供給路p1に受容するとともに、供給されたインクの一部を、インク排出路p2から排出ポート43exhを介して排出させる。本実施形態は、流路部材43は、ヘッドチップ44に対して接着剤により接合されている。
【0030】
流路部材43は、本実施形態に係る「流路部材」に相当し、流路(特にインク供給路p1)は、本実施形態に係る「液体の流路」に相当する。
【0031】
(下ベースプレート46)
下ベースプレート46は、ヘッドカバー41と結合され、ヘッドカバー41との間に、ヘッドチップ44、流路部材43およびノズルプレート45の接合体(以下「ヘッドチップ接合体」という場合がある)が収められる収容室Hを形成する。本実施形態では、下ベースプレート46は、底部461と、その周囲を全周に亘って包囲する側部462と、を有し、底部461および側部462により下ベースプレート46の中央に凹部46rが形成され、この凹部46rに、ヘッドチップ接合体が収容される。つまり、本実施形態では、下ベースプレート46の凹部46rにより、ヘッドチップ接合体の収容室Hが形成される。下ベースプレート46は、底部461をその厚み方向に貫通する孔(以下「貫通孔」という)またはスリットを有し、ノズルプレート45の噴射孔45hから噴射されたインクは、この貫通孔を介してインクジェットヘッド4の外部へ出る。先に述べたように、下ベースプレート46は、ノズルプレート45ないしヘッドチップ接合体に対して接着剤により接合される。インクジェットヘッド4の組立時において、下ベースプレート46接合用の接着剤は、噴射時にインクを通過させる貫通孔をその全周に亘って包囲するように塗布される。
【0032】
下ベースプレート46は、本実施形態に係る「ベース部材」に相当する。さらに、下ベースプレートの底部461は、本実施形態に係る「支持面」を形成するものであり、底部461の内面が「支持面」に相当する。
【0033】
(上ベースプレート42)
上ベースプレート42は、下ベースプレート46とヘッドカバー41との間に介装され、ヘッドチップ接合体が収容された収容室Hの開口を塞ぐとともに、ヘッドチップ接合体を収容室Hに封止する。上ベースプレート42は、その両端部がヘッドカバー41および下ベースプレート46の短辺の側面よりも外側にまで延出する。インクジェットヘッド4は、ヘッドカバー41および下ベースプレート46から延出する上ベースプレート42の両端部がキャリッジ33に固定されることで、上ベースプレート42を媒介としてキャリッジ33に対して支持される。
【0034】
(ヘッドカバー41)
ヘッドカバー41は、先に述べた電子制御盤を収めた状態で、下ベースプレート46と結合される。
【0035】
[インクジェットヘッド4の詳細構成]
図4は、
図2に示したA-A線による断面図であり、インクジェットヘッド4の具体的な構成を示す。本実施形態では、
図2に示すように、1つのインクジェットヘッド4の内部でインクを流通させる経路を、導入ポート43intおよび排出ポート43extを互いに異にする2つの系統に分けて構成するが、
図4は、図示の便宜上、これらのうち、一方の系統のみの構成を示す。図示しない他方の系統の構成は、同図中一点鎖線により示す中心線を基準とした線対称の関係にある以外は、図示のものと同様である。
【0036】
先に述べたように、インクジェットヘッド4は、インクの噴射孔45hから遠い側から順に、流路部材43と、ヘッドチップ44(アクチュエータプレート441およびカバープレート442)と、ノズルプレート45と、下ベースプレート46と、を備える。流路部材43とヘッドチップ44(具体的には、カバープレート442)、ヘッドチップ44(具体的には、アクチュエータプレート441)とノズルプレート45は、いずれも接着剤により接合され、一体の接合体(ヘッドチップ接合体)4aを形成する。さらに、このようにして形成されたヘッドチップ接合体4aは、下ベースプレート46に対して接着剤により接合されている。
図6は、ヘッドチップ44と流路部材43とを接合する接着剤を、符号a1により、ヘッドチップ44と下ベースプレート46とを接合する接着剤、つまり、ヘッドチップ接合体4aと下ベースプレート46とを接合する接着剤を、符号a2により、夫々示す。
【0037】
接着剤a2は、本実施形態に係る「第1接着剤」に相当する。
【0038】
ヘッドチップ44のアクチュエータプレート441は、噴射に際してインクに圧力を付与する圧力室を有する。アクチュエータプレート441において、ノズルプレート45の方向に向く面に、
図4のY方向に延びる複数の噴射チャネルCe(Ce1,Ce2)が形成され(同図中、二点鎖線により概略的に示す)、これら複数の噴射チャネルCe1,Ce2のそれぞれが、圧力室として機能する。本実施形態では、噴射チャネルCe1,Ce2は、Y方向に2列に分けて設けられ、各列において、複数の噴射チャネルCe(例えば、
図6の紙面に向かって左側の列に並ぶ噴射チャネルCe1)がX方向に並べて設けられるとともに、各列の噴射チャネルCe1,Ce2のそれぞれは、Y方向に延設されている。
【0039】
流路部材43は、各列の噴射チャネルCe1,Ce2が並ぶ方向、つまり、
図4に示すX方向に延びるインク供給路p1およびインク排出路p2を有する。本実施形態において、インク供給路p1およびインク排出路p2は、いずれも流路部材43にスリットの形態で備わり、インク供給路p1およびインク排出路p2が延びる方向は、互いに平行である。噴射チャネルCe1,Ce2が延びる
図4のY方向において、中央のスリットがインク供給路p1を形成し、その両側のスリットがインク排出路p2を形成する。インク供給路p1は、導入ポート43intと連通して、インクを各列の噴射チャネルCe1,Ce2に供給し、インク排出路p2は、排出ポート43extと連通して、噴射チャネルCe1,Ce2から出たインクをそれぞれの列毎に回収し、排出ポート43extに導出する。
【0040】
さらに、本実施形態において、流路部材43は、インクの流路であるインク供給路p1およびインク排出路p2を形成する本体431と、インク供給路p1およびインク排出路p2を塞ぐ蓋部432と、に分割され、本体431と蓋部432とは、インクに対して非透過性の膜(以下「封止膜」という)fを介して互いに接合されている。本体431と封止膜fとの接合、蓋部432と封止膜fとの接合は、いずれも接着剤による。
図4は、本体431と封止膜fとを接合する接着剤を、符号a31により、蓋部432と封止膜fとを接合する接着剤を、符号a32により、夫々示す。
【0041】
接着剤a31は、本実施形態に係る「第3接着剤」に相当し、接着剤a32は、「第2接着剤」に相当する。
【0042】
ノズルプレート45は、ノズルプレート45をその厚み方向(
図4に示すZ方向)に貫通する複数の連通孔を有する。これら複数の連通孔のそれぞれが、アクチュエータプレート441の噴射チャネルCe1,Ce2と連通し、インクの噴射孔45hとして機能する。本実施形態では、1つのノズルプレート45において、噴射チャネルCe1,Ce2が並ぶそれぞれの列に対応させて、合計2列の噴射孔45hが設けられている。
【0043】
ここで、インクジェットヘッド4を構成する要素(つまり、流路部材43、ヘッドチップ44、下ベースプレート46)は、互いに異なる材料からなり、インクジェットヘッド4は、これらの異なる材料からなる構成要素を、主に接着剤(接着剤a1,a2,a3)により互いに接合することで構成される。そして、これらの構成要素が、材料の違いにより互いに異なる線膨張係数およびヤング率を有することに起因して、インクジェットヘッド4に対する熱の入出力があった場合に、構成要素毎に異なる熱変形を示すこととなる。インクジェットヘッド4に対する熱の入出力が生じる原因として、プリンタ1の設置場所または輸送途中における環境の変化、具体的には、気温の変化等が挙げられる。
【0044】
インクジェットヘッド4の構成要素が互いに異なる熱変形を示す結果、その変形の方向または大きさ等に応じて、アクチュエータプレート441(本実施形態では、アクチュエータプレート441とカバープレート442とが互いに同じ材料からなるため、ヘッドチップ44)に応力の集中が生じる場合がある。本実施形態に係るアクチュエータプレート441を構成するPZT等のセラミック材料は、変形、特に引っ張り変形による応力に対して脆弱な性質を有する。よって、アクチュエータプレート441において、特にこの引っ張り方向に過度に大きな応力が生じることが抑制されることが望ましい。
【0045】
本実施形態に係るインクジェットヘッド4の構成要素に適用可能な材料として、次の一例を掲げる。流路部材43に適用可能な材料は、下記に限らず、インクに対する耐性を有するものであれば、いかなる樹脂材料も適用することが可能である。
下ベースプレート46:ステンレス鋼
ノズルプレート45:ステンレス鋼
ヘッドチップ44(アクチュエータプレート441、カバープレート442):PZT(チタン酸ジルコン酸塩)
流路部材43(本体431、蓋部432):PPS(ポリフェニレンサルファイド樹脂)
【0046】
図5および
図6は、インクジェットヘッド4に対する熱の入出力があった場合に、アクチュエータプレート441(本実施形態では、ヘッドチップ44)が示す熱変形の幾つかの例を示す。
図5(a)は、流路部材43に対し、アクチュエータプレート441が内向きに凹となる熱変形を示した場合であり、
図6(a)は、アクチュエータプレート441が外向きに凸となる熱変形を示した場合である。
【0047】
図5(a)および
図6(a)の熱変形が生じる場合の例として、プリンタ1が置かれる環境での温度上昇時を掲げることができる。そして、このような熱変形は、
図5(a)に示す例では、アクチュエータプレート441に接合されるノズルプレート45の線膨張係数が、アクチュエータプレート441よりも大きいことにより助長される傾向にある。他方で、
図6(a)に示す例では、ノズルプレート45の線膨張係数が、アクチュエータプレート441よりも小さいことにより助長される傾向にある。アクチュエータプレート441の熱変形は、熱の入力時(つまり、加熱時)に限らず、熱の出力時(つまり、冷却時)においても生じる場合がある。
【0048】
ここで、
図5(a)および
図6(a)に示すように、アクチュエータプレート441の熱変形による膨張が流路部材43により部分的に抑止される状況にあると、アクチュエータプレート441に応力、つまり、引っ張り応力の集中が生じる。具体的には、アクチュエータプレート441のうち、流路部材43との接合部(特にその隅部分)R1,R2に集中が生じる。
図5(a)に示す例(接合部R1)では、ノズルプレート45側で引っ張り応力の集中が生じ、
図6(a)に示す例(接合部R2)では、流路部材43側で引っ張り応力の集中が生じる。
【0049】
これに加え、本実施形態では、アクチュエータプレート441(PZT)が、線膨張係数およびヤング率がいずれも大きい下ベースプレート46(ステンレス鋼)と接合されていることから、インクジェットヘッド4に対する熱の入出力により、下ベースプレート46にアクチュエータプレート441よりも大きな熱変形が生じる。この場合に、アクチュエータプレート441が、下ベースプレート46により強制的に引っ張られたり、圧縮されたりする。このことも、アクチュエータプレート441に過度に大きな応力が生じることの原因となり得る。
【0050】
これに対し、本実施形態では、アクチュエータプレート441の自然な熱変形を促すことにより、アクチュエータプレート441に無理な変形が生じることを回避して、応力の集中を抑制し、過度に大きな応力がかかることを防止する。
【0051】
具体的には、インクジェットヘッド4を、アクチュエータプレート441の一側の低剛性支持部と、他側の高剛性支持部と、に区分し、これらの支持部をアクチュエータプレート441に結合する。本実施形態では、アクチュエータプレート441に対し、下ベースプレート46が配置されるのと同じ側で高剛性支持部を構成し、これとは反対側で低剛性支持部を構成する。
【0052】
高剛性支持部は、アクチュエータプレート441よりも大きな線膨張係数およびヤング率を有するインクジェットヘッド4の構成部材(つまり、ヘッド構成部材)を含む構造として特徴付けられ、本実施形態では、このヘッド構成部材として、下ベースプレート46を含む。さらに、高剛性支持部は、高剛性部を備え、この高剛性部により、インクジェットヘッド4への熱の入出力に対するアクチュエータプレート441の伸縮の方向における高剛性支持部の熱変形を、同じ熱の入出力に対して下ベースプレート46がそれ単体でアクチュエータプレート441の伸縮の方向に示す熱変形よりも低減させる。
【0053】
本実施形態では、ヘッドチップ接合体4aを下ベースプレート46と接合させる接着剤a2により、高剛性部を構成する。接着剤a2は、硬化後の硬度が比較的に高い性質を有する接着剤(以下「硬質接着剤」という場合がある)であり、本実施形態では、流路部材43の蓋部432を封止膜fと接合させる接着剤(以下「軟質接着剤」という場合がある)a32よりも硬化後の硬度が高い。これにより、インクジェットヘッド4への熱の入出力に対する下ベースプレート46自体の熱変形を抑制する。本実施形態では、硬質接着剤a2により高剛性部を構成するが、これに限らず、下ベースプレート46自体の熱変形を抑制可能な程度に高い剛性またはヤング率を有する部材を追加し、下ベースプレート46と重ね合わせ、互いに接合させるようにしてもよい。この追加の部材は、下ベースプレート46よりも低い線膨張係数を有するのが好ましい。
【0054】
ここで、硬質接着剤a2は、下ベースプレート46と比較して、線膨張係数が同程度であるものの、ヤング率が小さい。例えば、下ベースプレート46の材料であるステンレス鋼の線膨張係数が、1.70E-05であるのに対し、硬質接着剤a2の線膨張係数は、5.00E-05であり、下ベースプレート46の材料であるステンレス鋼のヤング率が、1.90E+05であるのに対し、硬質接着剤a2のヤング率は、5.38E+03である。しかし、接着剤a2が限られた範囲でかつ薄く塗布されることから、線膨張係数よりも硬度の高さが顕著に働くことで、下ベースプレート46の熱変形を抑制することができる。
【0055】
他方で、低剛性支持部は、アクチュエータプレート441の伸縮の方向における剛性を、アクチュエータプレート441自体よりも低減させる構成を有する。そのような構成として、本実施形態では、流路部材43の蓋部432を封止膜fと接合させる接着剤(つまり、軟質接着剤)a32を採用する。ここで、軟質接着剤a32は、硬質接着剤a2よりも硬度が低いばかりでなく、流路部材43の本体431を封止膜fと接合させる接着剤a31よりも硬化後の硬度が低い。これにより、インクジェットヘッド4に対する熱の入出力があった場合に、アクチュエータプレート441と流路部材43との間の変形量の違いを、軟質接着剤a31により吸収し、アクチュエータプレート441の自然な熱変形を促すことが可能である。
【0056】
図5(b)は、
図5(a)に示す熱変形をアクチュエータプレート441に生じさせる熱の入出力があった場合に、本実施形態に係る低剛性支持部がなす作用を模式的に示す。本実施形態では、アクチュエータプレート441とその熱変形の抑止要因となる流路部材43(具体的には、抑止効果のより大きな蓋部432)との接合に、比較的低硬度の軟質接着剤a32を採用することで、低剛性支持部をアクチュエータプレート441の熱変形に対して追従可能とし、熱の入出力に対するアクチュエータプレート441の自然な熱変形を促す。
【0057】
図6(b)に示す熱変形を生じさせる熱の入出力に対しても同様であり、アクチュエータプレート441と流路部材43との接合に軟質接着剤a32を採用することで、低剛性支持部をアクチュエータプレート441の熱変形に対して追従可能とする。
【0058】
そして、ヘッドチップ接合体4aと下ベースプレート46との接合に、比較的高硬度の硬質接着剤a2を採用することで、熱の入出力に対する下ベースプレート46自体の熱変形を抑制可能とし、変形が抑制された下ベースプレート46を支えとして、アクチュエータプレート441に過度な応力の集中を生じさせる熱変形が生じることを抑制する。
【0059】
[動作]
(プリンタ1の動作)
本実施形態では、プリンタ1により、記録紙Mに対する画像および文字等の印刷を行う。初期状態として、
図1に示した4種類のインクタンク3には、対応する色(4色)のインクが充分に封入される。さらに、インクジェットヘッド4には、対応する色のインクが充填される。
【0060】
初期状態において、プリンタ1を作動させると、搬送機構2a,2bのグリッドローラ21が回転し、記録紙Mがグリッドローラ21とピンチローラ22と間に挟持され、搬送方向d(X方向)に搬送される。このような搬送動作と同時に、駆動機構34の電気モータ341が駆動し、図示しないプーリを回転させることにより、無端ベルト342を介してキャリッジ33を移動させる。キャリッジ33は、ガイドレール31,32により案内されて、記録紙Mの幅方向(Y方向)に往復移動する。このように、記録紙Mとキャリッジ33との相対的な位置関係が変化するなかで、インクジェットヘッド4から記録紙Mにインクを適宜吐出させることで、記録紙Mに対する画像および文字等の印刷が達成される。
【0061】
(インクジェットヘッド4の動作)
インクジェットヘッド4において、導入ポート43intから排出ポート43extに向かうインクの流路(インク供給路p1)が形成され、その流路から分岐する溝(噴射チャネルCe1,Ce2)を介して、複数の噴射孔45hのそれぞれにインクが供給される。ここで、導入ポート43intを介してこの流路に導入されたインクのうち、一部は、排出ポート43extに向けて流路(インク排出路p2)を流れ、他の一部は、記録時に噴射孔45hに導入されて、記録紙Mに向けて噴射される。
【0062】
[作用および効果]
本実施形態に係る液体噴射ヘッド(インクジェットヘッド4)は、以上の構成を有し、以下に、本実施形態により得られる効果について説明する。
【0063】
第1に、アクチュエータプレート441、本実施形態では、ヘッドチップ44の一側(流路部材43が配置される側)に低剛性支持部を配置するとともに、他側(下ベースプレート46が配置される側)に高剛性支持部を配置し、これらの支持部をアクチュエータプレート441と結合したことで、アクチュエータプレート441またはこれを含むヘッドチップ接合体4aを支持する構造の剛性バランスの適正化を図り、インクジェットヘッド4に対する熱の入出力によりアクチュエータプレート441に生じる応力を抑制または低減することが可能となる。これにより、アクチュエータプレート441の熱変形による損傷(例えば、アクチュエータプレート441がセラミック材料からなる場合に、その破壊)を抑制し、もって、インクジェットヘッド4およびプリンタ1の製品寿命の確保ないし延長を図ることが可能となる。
【0064】
第2に、ヘッドチップ接合体4aと下ベースプレート46との接合に、比較的高硬度の硬質接着剤a2を採用するとともに、流路部材43の蓋部432と封止膜fとの接合に、比較的低硬度の軟質接着剤a32を採用したことで、高剛性支持部および低剛性支持部のそれぞれに対し、容易に所要の剛性を持たせることが可能となる。そして、本実施形態によれば、接着剤a2,a32の種類または特性の選択により、新たな部品の追加を要することなく、容易に剛性バランスの適正化を図ることが可能となる。
【0065】
さらに、流路部材43の本体431と封止膜fとの接合に、比較的高硬度の接着剤a31を採用したことで、他の接着剤(硬質接着剤a2,軟質接着剤a32)の選択により剛性バランスの適正化を図りながら、流路(インク導入路p1、インク排出路p2)の液密性を確保することが可能である。
【0066】
[変形例の説明]
(第1変形例)
先の例では、低剛性支持部に、アクチュエータプレート441よりも低い剛性を持たせるため、流路部材43自体とは異なる要素を採用し、流路部材43の蓋部432と封止膜fとを、比較的低硬度の軟質接着剤a32により接合した。低剛性支持部に持たせる剛性の低下は、これに限らず、低剛性支持部に含まれる流路部材43自体の剛性を低減させことによっても可能である。
【0067】
図7は、本実施形態に係るインクジェットヘッド4の変形例の構成を、
図4と同様の断面により示す。
【0068】
流路部材43の剛性は、流路部材43を構成する材料の選択によっても低減可能であるし、流路部材43の形状の適正化によっても低減可能である。後者の例として、例えば、流路部材43の一部、具体的には、アクチュエータプレート441の熱変形に追従する流路部材43の変形の妨げとなる構造要素に、他の箇所よりも薄肉に形成された薄肉部を設け、当該妨げとなる構造要素に、弾性を持たせる。本実施形態では、アクチュエータプレート441の熱変形による伸縮の方向に対して平行な方向に延びる構造要素に、上方薄肉部c1を設ける。これにより、流路部材43(具体的には、蓋部432)の薄肉化を通じて流路部材43の剛性を低減させ、アクチュエータプレート441の熱変形に対して追従可能とする。
【0069】
この変形例では、上方薄肉部c1が、本実施形態に係る「低剛性部」を構成する。
【0070】
(第2変形例)
図8は、本実施形態に係るインクジェットヘッド4の他の変形例を、
図4と同様の断面により示す。
【0071】
図8に示す例では、
図7に示す例と同様に、流路部材43の一部、具体的には、アクチュエータプレート441の熱変形による伸縮の方向に対して垂直な方向に延びる構造要素に、他の箇所よりも薄肉に形成された薄肉部(以下「側方薄肉部」という)c2を設け、流路部材43を、アクチュエータプレート441に生じる熱変形の方向に柔軟な形状とする。これにより、流路部材43の剛性を低減させ、アクチュエータプレート441の熱変形に対して追従可能とする。
【0072】
この変形例では、側方薄肉部c2が、本実施形態に係る「低剛性部」を構成する。
【0073】
以上の説明では、アクチュエータプレート441よりも線膨張係数およびヤング率がいずれも大きいヘッド構成部材として、ステンレス鋼を材料とする下ベースプレート46を採用した。さらに、先に述べたように、本実施形態では、下ベースプレート46だけでなく、ノズルプレート45も、ステンレス鋼を材料とし、アクチュエータプレート441よりも大きな線膨張係数およびヤング率を有することから、下ベースプレート46に併せてノズルプレート45も、高剛性支持部のヘッド構成部材に該当するものとみることが可能である。つまり、ノズルプレート45と下ベースプレート46とを硬質接着剤で固めたり、他の高剛性部と重ね合わせて、接合させたりするなどして、アクチュエータプレート441の熱変形を抑止する支えとすることが可能である。
【0074】
そして、これに限らず、ノズルプレート45と下ベースプレート46とのうち、一方をヤング率がより小さい材料からなるものとして、他方のみをヘッド構成部材とすることも可能である。この場合の例として、下ベースプレート46をステンレス鋼から作製する一方、ノズルプレート45を、ステンレス鋼よりもヤング率が小さい材料(例えば、ポリイミド)から作製する。
【0075】
以上の記載から導出可能な概念の幾つかを、以下に列挙する。
(1)圧力室を有するアクチュエータ部材と、
前記アクチュエータ部材に対する一側に配置されるとともに、前記アクチュエータ部材に結合された低剛性支持部と、
前記アクチュエータ部材に対して前記一側とは反対の他側に配置されるとともに、前記アクチュエータ部材に結合された高剛性支持部と、
を備え、
前記高剛性支持部は、前記アクチュエータ部材よりも大きな線膨張係数およびヤング率を有する液体噴射ヘッドのヘッド構成部材を含み、液体噴射ヘッドへの熱の入出力に対する前記アクチュエータ部材の伸縮の方向における当該高剛性支持部の熱変形を、前記熱の入出力に対して前記ヘッド構成部材が単体で前記伸縮の方向に示す熱変形よりも低減させる高剛性部を有し、
前記低剛性支持部は、前記伸縮の方向における剛性が、前記アクチュエータ部材よりも低い、
液体噴射ヘッドである。
(2)前記アクチュエータ部材の前記一側に配置されるとともに、前記圧力室に供給される液体の流路が形成された流路部材をさらに備え、
前記低剛性支持部が、前記流路部材を含む、
上記(1)の液体噴射ヘッドである。
(3)前記流路部材は、前記アクチュエータ部材よりも線膨張係数が大きくかつヤング率が小さい材料からなる、
上記(2)の液体噴射ヘッドである。
(4)前記流路部材は、前記アクチュエータ部材の変形に追従した当該流路部材の変形を促す低剛性部を有する、
上記(2)または(3)の液体噴射ヘッドである。
(5)前記アクチュエータ部材の前記他側に配置されるとともに、前記圧力室に連通しかつ外部に向けて開口する噴射孔が形成されたノズルプレートをさらに備え、
前記高剛性支持部が、前記ヘッド構成部材として、前記ノズルプレートを含む、
上記(1)から(4)のいずれかの液体噴射ヘッドである。
(6)前記アクチュエータ部材の前記他側に配置されるとともに、前記アクチュエータ部材が接合される支持面が形成されたベース部材をさらに備え、
前記高剛性支持部が、前記ヘッド構成部材として、前記ベース部材を含む、
上記(1)から(5)のいずれかの液体噴射ヘッドである。
(7)前記アクチュエータ部材の前記一側に配置された流路部材をさらに備え、
前記流路部材は、
前記圧力室に供給される液体の流路が形成された本体と、
前記本体に対し、液体非透過性の封止膜を介して接合された蓋部と、を備え、
前記ベース部材は、前記アクチュエータ部材に対して第1接着剤により接着され、
前記蓋部は、前記封止膜に対して第2接着剤により接着され、
前記第1接着剤は、前記第2接着剤よりも硬化後の硬度が高い、
上記(6)の液体噴射ヘッドである。
(8)前記本体は、前記封止膜に対して第3接着剤により接着され、
前記第3接着剤は、前記第2接着剤よりも硬化後の硬度が高い、
上記(7)の液体噴射ヘッドである。
(9)前記蓋部は、前記熱の入出力による前記アクチュエータ部材の変形の方向に弾性を有する、
上記(7)または(8)の液体噴射ヘッドである。
(10)上記(1)から(9)のいずれかの液体噴射ヘッドと、
前記液体噴射ヘッドが取り付けられたキャリッジと、
前記キャリッジを被記録媒体に対して予め定められた相対位置に支持可能に構成された支持機構と、
を備える、液体噴射記録装置である。
【符号の説明】
【0076】
1…プリンタ、10…筺体、2a,2b…搬送機構、21…グリッドローラ、22…ピンチローラ、3…インクタンク、33…キャリッジ、4…インクジェットヘッド、41…ヘッドカバー、42…上ベースプレート、43…流路部材、43int…導入ポート、43ext…排出ポート、44…ヘッドチップ、441…アクチュエータプレート、442…カバープレート、46…下ベースプレート、M…記録紙、d…搬送方向、p1…インク供給路、p2…インク排出路、a1,a2,a31,a32…接着剤、Ce1,Ce2…噴射チャネル、f…封止膜。