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特許7409870リチウムイオン電池の新規なケイ素/グラフェン・アノード用の導電性ポリマーバインダー
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の新規なケイ素/グラフェン・アノード用の導電性ポリマーバインダー
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20231226BHJP
   C08F 220/18 20060101ALI20231226BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20231226BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20231226BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20231226BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231226BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231226BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231226BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01M4/134
C08F220/18
H01M4/133
H01M4/1393
H01M4/1395
H01M4/36 E
H01M4/38 Z
H01M4/587
H01M4/62 Z
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019513352
(86)(22)【出願日】2017-08-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-11-14
(86)【国際出願番号】 EP2017071863
(87)【国際公開番号】W WO2018046384
(87)【国際公開日】2018-03-15
【審査請求日】2020-06-08
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】15/260,445
(32)【優先日】2016-09-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】ゲンチェフ・アン-クリスティン
(72)【発明者】
【氏名】ランガー・トールステン
(72)【発明者】
【氏名】ルックス・ジーモン
(72)【発明者】
【氏名】ジア・ヂゥー
(72)【発明者】
【氏名】リウ・ガオ
(72)【発明者】
【氏名】ジャオ・フイ
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】須原 宏光
【審判官】岩田 淳
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0288126(US,A1)
【文献】国際公開第2015/127224(WO,A1)
【文献】特開2015-181136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/84
H01M 10/00-10/39
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
比容量が500から2200mAh/gの間であるケイ素-グラフェン活物質と、

【化1】
(式中、m+n=1~10百万であり、かつmは0ではなく、m/n比は9/1から1/9である)
の反復単位を持つポリマー組成物を有する導電性ポリマーバインダーと
を含み、
電極がポリマーバインダー10~20質量%、ケイ素-グラフェン活物質が60から90質量%、およびグラフェン添加剤が1から30質量%から構成され、
前記導電性ポリマーバインダーが、メタクリル酸1-ピレンメチルとメタクリル酸とのコポリマーであり、前記コポリマー中に存在する前記メタクリル酸が、30から78mol%の量であり、
前記ケイ素-グラフェン活物質がグラフェン・シートと組み合わせたケイ素ナノ粒子から合成される、リチウムイオン電池に使用される複合電極。
【請求項2】
前記m/n比が7/3である、請求項1に記載の複合電極。
【請求項3】
前記コポリマー中に存在する前記メタクリル酸1-ピレンメチルが、22から70mol%の量である、請求項1に記載の複合電極。
【請求項4】
前記コポリマー中に存在する前記メタクリル酸が、10から51質量%の量であり、前記コポリマー中に存在する前記メタクリル酸1-ピレンメチルが49から90質量%の量である、請求項1に記載の複合電極。
【請求項5】
ポリマーバインダーが10から20質量%、およびケイ素-グラフェン活物質が80から90質量%から構成される、請求項1~4のいずれか一つに記載の複合電極。
【請求項6】
前記ケイ素-グラフェン活物質が、Siを10から99質量%およびCを1から90質量%含有する、請求項1~5のいずれか一つに記載の複合電極。
【請求項7】
リチウムイオン電池で使用される複合電極を作製するための方法であって、
溶媒および導電性ポリマーバインダーの溶液を形成するステップと、
前記溶液にケイ素-グラフェン活物質を添加して、スラリーを形成するステップと、
前記スラリーを混合して、均質な混合物を形成するステップと、
このように得られた前記混合物の薄膜を基材の上面に堆積するステップと、
得られた複合体を乾燥して、前記電極を形成するステップと
を含み、
前記導電性ポリマーバインダーが、式
【化2】
(式中、m+n=1~10百万であり、かつmは0ではなく、m/n比は9/1から1/9である)
の反復単位を持つポリマー組成物を有し、
電極がポリマーバインダー10~20質量%、ケイ素-グラフェン活物質が60から90質量%、およびグラフェン添加剤が1から30質量%から構成され、
前記導電性ポリマーバインダーが、メタクリル酸1-ピレンメチルとメタクリル酸とのコポリマーであり、前記コポリマー中に存在する前記メタクリル酸が、30から78mol%の量であり、
前記ケイ素-グラフェン活物質がグラフェン・シートと組み合わせたケイ素ナノ粒子から合成される、
前記方法。
【請求項8】
前記m/n比が7/3である、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記コポリマー中に存在する前記メタクリル酸1-ピレンメチルが、22から70mol%の量である、請求項またはに記載の方法。
【請求項10】
前記コポリマー中に存在する前記メタクリル酸が10から51質量%の量であり、前記コポリマー中に存在する前記メタクリル酸1-ピレンメチルが49から90質量%の量である、請求項7~9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
前記電極が、ポリマーバインダーが10から20質量%およびケイ素-グラフェン活物質が80から90質量%から構成される、請求項7~10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
前記ケイ素-グラフェン活物質が、Siを10から99質量%およびCを1から90質量%含有する、請求項7~11のいずれか一つに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府支援の陳述
本明細書に記述されかつ特許請求の範囲に記載される本発明は、一部、契約No.DE-AC02-05CH11231の下、米国エネルギー省によって供給された資金を利用して行われた。政府は、本発明において、ある一定の権利を有する。
【0002】
本開示は、一般にリチウムイオン電池に関し、より詳細には、ケイ素-グラフェンおよび導電性ポリマーバインダーの複合電極を使用するリチウムイオン電池に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン再充電可能電池は、その高いエネルギー容量および軽い重量に起因して、電気自動車(EV)およびハイブリッド電気自動車(HEV)の用途を含む様々なデバイスの有力候補である。全てのセルは、薄いセパレータによって電気的に絶縁されかつ液体輸送媒体、電解質と組み合わされた、正極(カソード)および負極(アノード)から構築される。典型的には、従来のLiイオン・セルのアノードは、少なくとも1種の活物質、即ち炭素質材料、導電性添加剤、およびポリマーバインダーを含む複合電極であり、カソードは、典型的にはやはり複合電極であって、活物質としての金属酸化物、導電性添加剤、およびポリマーバインダー、ならびに電解質を持つ複合電極である。アノードおよびカソードは共に、リチウムイオンが内部に挿入され抽出される活物質を含有する。リチウムイオンは、放電中に、電解質中を負極(アノード)から正極(カソード)まで移動し、再充電中は逆に正極(カソード)から負極(アノード)まで移動する。
【0004】
電極のデザインは、電気自動車(EV)の電池に必要なエネルギーおよび電力密度、ならびに寿命性能を実現するのに重要なポイントであった。現況技術のリチウムイオン電極は、寸法安定性のある積層体を目的として複合電極の一体性を確実にするのに、ポリマーバインダーを使用してきた。ポリマーバインダーは、リチウムの挿入および除去プロセス中、機械的電極安定性および電気伝導を維持するのに、極めて重要な機能を発揮する。使用することができる典型的なバインダーは、デンプン、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ジアセチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレングリコール、ポリアクリレート、ポリ(アクリル酸)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド、ポリエチレンe-オキシド、ポリ(フッ化ビニリデン)、およびゴム、例えばエチレン-プロピレン-ジエンモノマー(EPDM)ゴムもしくはスチレンブタジエンゴム(SBR)、これらのコポリマー、またはこれらの混合物である。典型的には、アノードおよびカソードは、異なるバインダーを必要とする。例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)は、アノード電極を作製するのに主に使用されるバインダーである。ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)は、カソード電極を作製するのに主に使用される。リチウムコバルト酸化物(LiCoO)および黒鉛粉末などの昔からの電極材料は、電気化学プロセス中に寸法安定性のある材料である。ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)などのポリマーバインダーの材料は、これらの粒子を一緒に接着しかつ積層体内での電気接続のために物理的接触を保持するのに、適している。
【0005】
この現況技術の手法は、複合電極にケイ素(Si)などのより高い容量の電極材料が導入されるまで、非常にうまく働く。ケイ素(Si)材料は、従来の黒鉛ベースのアノードよりも10倍以上大きい理論的比容量を提供することができるので、リチウムイオン電池の最も将来性あるアノード候補の1つとして広く調査されてきた。さらにケイ素は豊富にあるので、リチウムイオン電池の用途に関するその他の代替例と比較したとき、使用するのにそれほどコストがかからない。しかし、サイクリング中のSi体積変化は、複合電極内で過剰な応力および運動を創出し、表面反応を増大させてきた。特に、LiとSiとの電気化学的合金化は、最終リチウム化状態としてのLi4.4Siと、4,200mAh/gの容量をもたらした。しかし、充電中に材料がSiからLi4.4Si相に遷移するときに、ほぼ320%の体積膨張が生ずる。この高い体積変化により、複合電極の電子的一体性は崩壊し、高く連続的な表面副反応が誘発され、共に電池の高速容量減退をもたらし、全体として短縮された電池寿命になる。
【0006】
Si材料を使用するためには、Si表面安定化と一緒に、Si活物質の物品を組み立てる新しい方法を導入しなければならない。Si表面特性に関する深い知識、および電池用途に向けたSiの商業供給の増大により、電極用途に向けたさらに良好なSiアセンブリおよび安定化を調査する機会/需要がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、従来技術に関する1つまたは複数の難点および欠点を克服し、少なくとも軽減することである。本発明のこれらおよびその他の目的および特徴は、以下の開示から明らかにされよう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許第9,153,353号
【非特許文献】
【0009】
【文献】Parkら、J. Am. Chem. Soc.、2015年、137巻、2565~2571頁
【文献】Dai, H.、J. Am. Chem. Soc.、2001年、123巻、3838~3839頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、ケイ素-グラフェン材料と導電性ポリマーバインダーとを組み合わせて、リチウムイオン電池で使用される複合電極を作り出す。導電性ポリマーバインダーは、ケイ素-グラフェン・アノード材料の安定なサイクリングが可能になるよう設計される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
一実施形態では、リチウムイオン電池で使用される複合電極が提供される。電極は、比容量が500から2200mAh/gの間であるケイ素-グラフェン活物質と、メタクリル酸1-ピレンメチルおよびメタクリル酸のコポリマーである導電性ポリマーバインダーとを含む。好ましい実施形態では、コポリマー中に存在するメタクリル酸は、約30から78mol%の量であり、コポリマー中に存在するメタクリル酸1-ピレンメチルは、約22から70mol%の量である。別の好ましい実施形態では、コポリマー中に存在するメタクリル酸は、約10から51質量%の量であり、コポリマー中に存在するメタクリル酸1-ピレンメチルは、約49から90質量%の量にある。
【0012】
別の実施形態では、リチウムイオン電池で使用される複合電極を作製するための方法が提供される。方法は:溶媒および導電性ポリマーバインダーの溶液を形成するステップ;溶液にケイ素-グラフェン活物質を添加して、スラリーを形成するステップ;スラリーを混合して、均質な混合物を形成するステップ;このように得られた前記混合物の薄膜を基材の上面に堆積するステップ;および得られた複合体を乾燥して、前記電極を形成するステップを含む。導電性ポリマーバインダーは、メタクリル酸1-ピレンメチルとメタクリル酸とのコポリマーである。好ましい実施形態では、コポリマー中に存在するメタクリル酸は約30から78mol%の量であり、コポリマー中に存在するメタクリル酸1-ピレンメチルは約22から70mol%の量である。別の好ましい実施形態では、コポリマー中に存在するメタクリル酸は約10から51質量%の量であり、コポリマー中に存在するメタクリル酸1-ピレンメチルは約49から90質量%の量である。
【0013】
一実施形態では、電極は、約1質量%から20質量%までのバインダーと、約80から99質量%までのケイ素-グラフェン活物質とから構成される。ケイ素-グラフェン活物質は、Si約10から99質量%およびC約1から90質量%を含有する。別の実施形態では、グラフェン添加剤を電極に添加する。別の実施形態では、電極は、ポリマーバインダー約5から20質量%、ケイ素-グラフェン活物質約75から90質量%、およびグラフェン添加剤約1から15質量%から構成される。
【0014】
本発明のその他の目的、利点、および新規な特徴は、添付図面と合わせて考慮したときに、1つまたは複数の好ましい実施形態の以下の詳細な説明から明らかにされよう。本開示は、当業者に向けて書かれたものである。本開示は、専門家以外の者にあまり馴染みのない専門用語および略語を使用するが、当業者なら本明細書で使用される専門用語および略語に馴染みがあるであろう。
【0015】
特許または出願ファイルは、色を付けて描かれた少なくとも1つの図面を含有する。着色図面(複数可)を含む本特許または特許出願公開のコピーは、要求によって、および必要な料金の支払いによって、監督官庁により提供されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】導電性コポリマー ポリ(メタクリル酸1-ピレンメチル-co-メタクリル酸(PPy-MAA)を作製するためのプロセスを示す図である。
図2】本発明の実施形態による、(a)PPy-30mol%MAAおよび(b)PPy-78mol%MAAで作製された電極のSEM画像を示す図である。
図3(a)】ケイ素-グラフェン・アノードの電気化学性能に対する、PPy-MAAコポリマー中の様々なMAA含量の影響を示す図であって、電極積層体が10質量%の導電性ポリマーバインダーおよび90質量%の活物質から構成されるものを示す図である。
図3(b)】それぞれが30mol%のMAAと共に組み込まれた、5%PPy、10%PPy、または20%PPyをベースにしたバインダーに関する、サイクリング性能を示す図である。
図3(c)】PPy-30mol%MAA導電性ポリマーバインダーを使用した、ケイ素-グラフェン・アノードのサイクリング性能を、2種の従来のバインダー:ポリ二フッ化ビニリデン(PVDF)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)と比較して示す図である。電極積層体は、10質量%のポリマーバインダーと90質量%の活物質とから構成される。
図3(d)】第1サイクルおよび第5サイクルでのPPy-30mol%MAAセルの、定電流電圧曲線をプロットした図である。
図4(a)】10質量%の導電性ポリマーバインダー(70%PPy+30%MAA)に関して、活物質負荷の増大によりセルがどのように機能するのかを示す図である。
図4(b)】20質量%の導電性ポリマーバインダー(70%PPy+30%MAA)に関して、活物質負荷の増大によりセルがどのように機能するのかを示す図である。
図5(a)】サイクリング速度C/10(150mA/g)での、10%PPy-MAAバインダー、30%グラフェン添加剤、60%ケイ素-グラフェン・アノードの、容量対サイクル数をプロットした図である。
図5(b)】第1サイクルおよび第10サイクルで、サイクリング速度C/10(150mA/g)での、10%PPy-MAAバインダー、30%グラフェン添加剤、60%ケイ素-グラフェン・アノードの、電圧対容量をプロットした図である。
図6】PPy-MAAバインダーが、ケイ素-グラフェン・アノードの電気化学性能をどのように高めるのかを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
他に定義されない限り、本明細書で使用される全ての技術的および科学的用語には、本発明が属する分野の当業者に一般に理解されるものと同じ意味がある。本明細書に記述されるものに類似のまたは同等の任意の方法および材料を、本発明の実施または試験に使用することができるが、好ましい方法および材料について次に記述する。
【0018】
本明細書で使用される「活物質」は、リチウムイオンを貯蔵する、電極の部分を意味する。カソードの場合、活物質は、リチウム金属酸化物複合体などのリチウム含有化合物であり得る。対アノード電極の場合、活物質は、ケイ素またはリチウム化ケイ素とすることができる。
【0019】
最近、米国特許第9,153,353号(特許文献1)に記載されるように、Si複合電極を接続し安定化させるのに電気伝導性ポリマーバインダーを使用する、新しい手法が開発されてきた。米国特許第9,153,353号(特許文献1)に創出された導電性ポリマーは、負極アノードを構成するのに使用されるケイ素粒子のバインダーとして働く。それらを、スラリー・プロセスでケイ素ナノサイズ・シリコン粒子と混合し、次いで銅またはアルミニウムなどの基材上にコーティングし、その後、乾燥して被膜電極を形成する。これらの導電性ポリマーバインダーは、Si材料に関する電極デザインの新しいパラダイムを拓いており:それらは分子レベルの電気的相互作用を電極母材と活物質との間にもたらし、高容量Si材料の体積膨張に順応する。ケイ素電極のサイクリング安定性は、この手法によって著しく高まる。さらに、それ自体が導電性であるので、導電性ポリマーバインダーの使用は、導電性添加剤の必要性をなくし、または必要な導電性添加剤の量を大幅に低減させ;このことが、活物質の負荷を相当に増大させる。
【0020】
本発明者らの先の研究は、ピレンをベースにしたメタクリレート・ポリマーが、純粋なSiアノードに有効なポリマーバインダーであることを確立した(米国特許第9,153,353号(特許文献1);およびParkら、J. Am. Chem. Soc.、2015年、137巻、2565~2571頁(非特許文献1)参照)。ピレン側鎖は、ポリマー構造の柔軟な微調整を可能にしながら導電性をポリマーに与える。例えば、図1の合成スキームに示されるように、メタクリル酸(MAA)は重合を介してメタクリル酸1-ピレンメチル(PPy)に組み込まれ、導電性コポリマー、ポリ(メタクリル酸1-ピレンメチル-co-メタクリル酸)(PPy-MAA)を提供する。メタクリル酸(MAA)は、ポリマーバインダー中にカルボン酸官能基を付加して、活物質上でのバインダーの接着を強化する。
【0021】
本発明者らは、コポリマーPPy-MAAを、ケイ素-グラフェン・アノードに有効な導電性バインダーとして使用できることを見出した。ケイ素-グラフェン・アノードは、グラフェン・シートと組み合わせたケイ素ナノ粒子から典型的には合成され、その形態は、セルのサイクリング中の徹底した体積変化中に電極の電気的一体性を維持するのを助ける。本発明者らは、導電性部分(PPy)および接着部分(MAA)の両方が、ケイ素-グラフェン・アノード材料の安定したサイクリングを可能にするのに不可欠であることを見出した。
【0022】
一実施形態では、比容量が500から2200mAh/gの間であるケイ素-グラフェン活物質と、式:
【0023】
【化1】
(式中、m+n=1~10百万;およびm/n比は9/1から1/9である)
の反復単位を持つポリマー組成物を有する導電性ポリマーバインダーとを含む、複合電極を有する、リチウムイオン電池が提供される。好ましくは、m/n比が7/3である。導電性ポリマーバインダーは、メタクリル酸1-ピレンメチルとメタクリル酸とのコポリマーである。好ましくは、コポリマー中に存在するメタクリル酸は、約30から78mol%の量であり、コポリマー中に存在するメタクリル酸1-ピレンメチルは約22から70mol%の量である。好ましくは、コポリマー中に存在するメタクリル酸は、約10から51質量%の量であり、コポリマー中に存在するメタクリル酸1-ピレンメチルは約49から90質量%の量である。電極は、約1から20質量%の量であるPPy-MAAバインダーと、約80から99質量%の量であるケイ素-グラフェン活物質とから構成される。ケイ素-グラフェン活物質は、Siを約10から99質量%、およびCを約1から90質量%含有する。別の実施形態では、グラフェン添加剤を電極に添加する。別の実施形態では、電極は、ポリマーバインダー約5から20質量%、ケイ素-グラフェン活物質約75から90質量%、およびグラフェン添加剤約1から15質量%から構成される。
【0024】
別の実施形態では、リチウムイオン電池で使用される複合電極を作製するための方法が、提供される。方法は:溶媒および導電性ポリマーバインダーの溶液を形成するステップ;溶液にケイ素-グラフェン活物質を添加して、スラリーを形成するステップ;スラリーを混合して、均質な混合物を形成するステップ;このように得られた前記混合物の薄膜を、基材の上面に堆積するステップ;および得られた複合体を乾燥して、前記電極を形成するステップを含み、導電性ポリマーバインダーは、式I:
【0025】
【化2】
(式中、m+n=1~10百万;およびm/n比は9/1から1/9である)
の反復単位を持つポリマー組成物を有するものである。好ましくは、m/n比が7/3である。任意の非プロトン性溶媒を、複合電極を作製する方法で使用することができる。溶媒を使用してポリマーを溶解し、スラリーを作製し、リチウムイオン電極を製作する。使用される典型的な非プロトン溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、トルエン、およびクロロベンゼンである。典型的には、前記電極を形成するのに、得られた複合体を乾燥する際、乾燥するために選択される温度および時間は、電極の活物質および組成、スラリー溶媒、ならびに目標とする電極の厚さに基づいて設定される。一実施形態では、導電性ポリマーバインダーは、メタクリル酸1-ピレンメチルとメタクリル酸とのコポリマーである。ケイ素-グラフェン・アノードの電気化学性能に対するPPy-MAAポリマーバインダーの効果およびMAAの影響を実証するために、様々なMAA含量をPPyベースのポリマーに組み込み、試験する。例えば、ホモ-PPy、ホモ-PMAA(ポリ(メタクリル酸))、PPy-30mol%MAA、PPy-50mol%MAA、およびPPy-78mol%MAAを合成し、バインダーとして使用する。
【0026】
図2は、2種のポリマーバインダー、1種は30mol%のMAAが組み込まれたPPyベースのポリマーであり、他の1種は78mol%のMAAが組み込まれたものの、走査型電子顕微鏡(SEM)画像を示す。SEM画像に基づき、良好な多孔度は、バインダーPPy-30mol%MAAまたはPPy-78mol%MAAのいずれかを使用して得られる。このことは、これらの導電性ポリマーバインダーが、電極を作製するためのプロセス中に活物質粒子の均一分布を可能にすることを実証する。
【0027】
図3は、PPy-MAAコポリマー中の様々なMAA含量の影響が、ケイ素-グラフェン・アノードの電気化学性能に及ぶことを示し、積層体の電極組成は、10質量%の導電性ポリマーバインダーと90質量%のケイ素-グラフェン活物質とから構成される。図3のセルの全ては、約0.15mg/cmの低負荷を有する。
【0028】
図3(a)の電気化学性能データに基づけば、ケイ素-グラフェンと併せて30mol%のMAA含量が組み込まれたPPyベースのポリマーは、最良の電気化学性能を提供する。図3(a)は、PPy-30mol%MAAバインダーを使用すると、約2000mAh/gで完全容量に達し、第1サイクルでは75.29%の効率であり;第5サイクルでは96.60%の効率であることを示す。この比較的高い効率は、著しい寄生反応なしに長期安定サイクリングを確実にし、従来の非導電性ポリマーバインダーよりも明らかに有利である(図3(c)参照)。第1および第5サイクルでのPPy-30mol%MAAセルの電圧曲線が図3(d)に示され、コポリマーPPy-30mol%MAAを使用することに関連して最小限に抑えられた容量損失があることを示している。このデータに基づけば、ピレンをベースにしたメタクリレート導電性ポリマー中に30mol%MAAを含むことにより(即ち、PPy-30mol%MAA)、ケイ素-グラフェン・アノードに最良のサイクリング性能を提供することが実証されている。また、積層体の電極組成中に10質量%の導電性ポリマーバインダー含量を有することにより、最高容量を提供することと判定される(図3(b)参照)。
【0029】
高負荷積層体を製作するために、10質量%の導電性ポリマーバインダー含量(図4(a)参照)および20質量%の導電性ポリマーバインダー含量(図4(b)参照)の両方を使用して、ケイ素-グラフェン・アノードの電気化学性能に対する活物質負荷の影響を評価する。電極アーキテクチャのいかなる設計製作もない状態で、10質量%の導電性ポリマーバインダーは、約1.2mAh/cm図4(a)の、0.67mg/cmの質量負荷に該当する)の実際の容量を提供することができた。20質量%の導電性ポリマーバインダー含量では、約1mAh/cm図4(b)の、0.55mg/cmの質量負荷に該当する)の容量を提供する。
【0030】
高負荷セル性能をさらに改善するために、余分な10%グラフェン添加剤を積層体に添加する。10%PPy-MAAバインダー、30%グラフェン添加剤、60%ケイ素-グラフェン・アノードのセル・サイクリング性能を、図5に示す。C/10(150mA/g)のサイクリング速度に基づけば、4mAh/cmよりも高い面積容量が達成される(図5(a)参照)。第1および第10サイクルでの電圧プロファイルを、図5(b)に示す。
【0031】
図6は、本発明の実施形態によるPPy-MAAバインダーとケイ素-グラフェン・アノードとの間の相互作用を示し、MAA上のカルボキシレート基は、Si粒子状のOH基と強力に結合する。ピレン単位とグラフェン・シートとの間の親和性は、当技術分野で既に周知である(Dai, H.、J. Am. Chem. Soc.、2001年、123巻、3838~3839頁(非特許文献2))。図6に示されるように、MAA含有部分の組込みは結合特性をさらに高め、このことは、リチウム化および脱リチウム化での急激な体積変化中に電極一体性を維持するのに、極めて重要である。これらのPPy-MAAバインダーは、従来のポリアクリル酸(PAA)およびカルボキシメチルセルロース(CMC)バインダーの使用に比べて、より良好な結合強度、ならびにさらに改善された容量保持および効率を提供する。手短に言えば、本発明のPPy-MAAバインダーは、電子伝電性および強力な接着をケイ素-グラフェン・アノードに提供し、即ち優れたサイクリング性能を提供する。例えば、実際の容量である4mAh/cmをもたらす高負荷セルは、本発明のバインダー/ケイ素-グラフェン電極を使用することによって得ることができる。
【0032】
本開示の1つまたは複数の例は非限定的な例であり、本発明はこれらの例の変形例および均等物を包含することを意図していることを、理解すべきである。
【0033】
電極組成物:全ての電極積層体は、NMPベースのスラリー中にある導電性ポリマーバインダーおよび活性アノード材料で作製される。活性アノード材料ケイ素-グラフェンは市販されており、XG Sciences,Inc.から得ることができる。ピレンをベースにした導電性バインダーは、米国特許第9,153,353号(特許文献1)に記載されるように合成した。
【0034】
化学物質:導電性ポリマーを合成するための全ての出発化学材料は、Sigma-Aldrichから購入した。電解質は、電池・グレードのヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)を炭酸エチレン(EC)、炭酸ジエチル(DEC)、および炭酸フルオロエチレン(FEC)に溶かしたものも含めて、Novolyte Technologies(現在はBASFの一部)から購入した。Celgard 3501セパレータ膜は、Celgardから購入した。その他の化学物質はSigma Aldrichから購入し、他のいかなる精製もなしに使用した。
【0035】
電極を作製するためのプロセス:
【0036】
全ての電極積層体を、ミツトヨのドクターブレードおよびヨシミツ精機の真空ドローダウン・コータを使用して、活物質を単位面積当たりほぼ同じ負荷まで、20μmの厚さの電池・グレードのCuシート上に流延した。被膜および積層体を、溶媒のほとんどが蒸発しかつ乾燥したように見えるまで、最初に赤外線ランプの下で1時間乾燥した。被膜および積層体を、10-2torrの動的真空の下で24時間、130℃でさらに乾燥した。被膜および積層体の厚さを、精度が±1μmのミツトヨ・マイクロメータで測定した。4.8mAh/comまでのいくつかの負荷および厚さを行い、電極も、連続的に調節可能な隙間を備えたInternational Rolling Mill製のカレンダ機を使用して加圧し、および非加圧状態にした。
【0037】
コイン・セルを製作するためのプロセス:
【0038】
コイン・セルの組立ては、標準の2325コイン・セル・ハードウェアを使用して行った。1.47cmの直径のディスクを積層体から打ち抜いて、作用電極としてコイン・セル・アセンブリに使用した。リチウム箔(FMCコーポレーションから得られた)を、対電極を作製するのに使用した。対電極を、1.5cmの直径のディスクに切断した。作用電極を、コイン・セル・アセンブリの外殻の中心に配置し、2滴の30%FEC、1.2M LiPFをBASFから購入したEC/DEC=3/7電解質に溶かしたものを添加して、電極を濡らした。直径2cmのCelgard 2400多孔質ポリエチレン・セパレータを、作用電極の最上部に配置した。さらに3滴の電解質を、セパレータに添加した。対電極を、セパレータの最上部に配置した。作用電極の上方に対称的に対電極を位置合わせするのに、特に注意を払った。ステンレス鋼スペーサおよびBellevilleバネを、対電極の最上部に配置した。プラスチック・グロメットを、電極アセンブリの外縁の最上部に配置し、カナダのNational Research Councilにより製造された特注の圧着機で密接に圧着した。セル製作手順の全体は、Ar雰囲気グローブ・ボックス内で行った。
【0039】
コイン・セルを試験するためのプロセス:
【0040】
コイン・セル性能を、Maccor Series 4000電池試験システムにより、30℃の熱チャンバ内で評価した。一定の充電容量サイクリングでは、コイン・セルを、計算された特定の容量に該当するある程度まで最初にリチウム化し、次いで元の1Vまで脱リチウム化した。より低いカット・オフ電圧は、10mVに設定された。材料の容量を、理論容量、および電極内で使用される材料の量に基づいて計算した。
図1
図2a
図2b
図3(a)】
図3(b)】
図3(c)】
図3(d)】
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
図6