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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】掴みを改善するためのコーテッド鉗子
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/29 20060101AFI20231226BHJP
   A61B 17/30 20060101ALI20231226BHJP
   A61F 9/007 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61B17/29
A61B17/30
A61F9/007 120
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019566812
(86)(22)【出願日】2018-06-12
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-08-27
(86)【国際出願番号】 IB2018054275
(87)【国際公開番号】W WO2019003013
(87)【国際公開日】2019-01-03
【審査請求日】2021-05-20
(31)【優先権主張番号】62/525,983
(32)【優先日】2017-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】319008904
【氏名又は名称】アルコン インコーポレイティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】レト グルーブラー
【審査官】羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0296246(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0277110(US,A1)
【文献】国際公開第2011/097578(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/124467(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B
A61F
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉗子延長部と、
前記鉗子延長部の遠位終端から延びる鉗子顎部であって、
第1の把持先端を備える第1の顎部と、
第2の把持先端を備える第2の顎部であって、前記第1の把持先端及び前記第2の把持先端が、前記鉗子顎部が閉じた構成にあるときに互いに当接する、第2の顎部と、
前記第1の顎部及び前記第2の顎部のそれぞれの遠位端の少なくとも一部に配置されたコーティングであって、前記コーティングは眼の膜との摩擦係数を増加させるように構成される前記コーティングと、
を含む、鉗子顎部と
を備え、
前記第1の顎部の前記遠位端は前記第1の把持先端を含み、前記第2の顎部の前記遠位端は前記第2の把持先端を含み、
前記第1の把持先端及び前記第2の把持先端は前記コーティングを含まない、ことを特徴とする、眼科用膜鉗子。
【請求項2】
前記コーティングが前記第1の顎部及び前記第2の顎部のそれぞれの前面の少なくとも一部に配置されている、請求項1に記載の眼科用膜鉗子。
【請求項3】
前記コーティングが帯電コーティングを含む、請求項1に記載の眼科膜鉗子。
【請求項4】
前記帯電コーティングが、正に帯電した親水性アミンコーティング;負に帯電したスルホネートコーティング;多層高分子電解質コーティング;及び負に帯電したヒドロキシルコーティングからなる群から選択される少なくとも1つのコーティングを含む、請求項3に記載の眼科用膜鉗子。
【請求項5】
前記コーティングが前記第1の顎部及び前記第2の顎部のそれぞれの前面に配置され、前記前面は対応する第1の把持先端及び第2の把持先端で終端する、請求項1に記載の眼科用膜鉗子。
【請求項6】
前記第1の顎部及び前記第2の顎部は形状が弓形であり、前記第1の顎部及び前記第2の顎部はそれぞれ第1の屈曲部及び第2の屈曲部を備え、前記第1の顎部及び前記第2の顎部のそれぞれの前記第2の屈曲部は前記膜鉗子の前記遠位端を前記膜鉗子の長手方向軸に向かって湾曲させる、請求項1に記載の眼科用膜鉗子。
【請求項7】
前記第1の顎部及び前記第2の顎部のそれぞれの前記前面が前記第2の屈曲部から対応する把持先端まで延びる、請求項6に記載の眼科用膜鉗子。
【請求項8】
請求項1に記載の膜鉗子と、
作動チューブであって、前記鉗子延長部が前記作動チューブを通る、前記作動チューブと、
を含む、眼科手術器具。
【請求項9】
前記コーティングが前記第1の顎部及び前記第2の顎部のそれぞれの前面の少なくとも一部に配置されている、請求項8に記載の眼科手術器具。
【請求項10】
前記コーティングが、正に帯電した親水性アミンコーティング;負に帯電したスルホネートコーティング;多層高分子電解質コーティング;及び負に帯電したヒドロキシルコーティングからなる群から選択される少なくとも1つの帯電コーティングを含む、請求項8に記載の眼科手術器具。
【請求項11】
前記コーティングがポリジメチルシロキサンコーティングを含む、請求項8に記載の眼科手術器具。
【請求項12】
前記コーティングは、ピラーのコーティング又は吸引カップのコーティング、及びこれらの組み合わせからなる群から選択されるテクスチャード加工されたコーティングを含む、請求項8に記載の眼科手術器具。
【請求項13】
ハンドルと、
前記ハンドル及び前記作動チューブに結合されたチューブ作動アセンブリであって、前記作動チューブを前記鉗子顎部上で移動させることによって前記鉗子顎部を閉じるように動作可能であるチューブ作動アセンブリと
さらに備える、請求項8に記載の眼科手術器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2017年6月28日に出願された米国仮特許出願第62/525,983号明細書の利益を主張し、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
内境界膜(ILM)剥離及び網膜上膜(ERM)剥離は、炎症性又は静脈閉塞性疾患に続発する黄斑円孔硝子体黄斑牽引症候群、黄斑パッカー、糖尿病性黄斑浮腫、及び嚢胞性黄斑浮腫などの様々な黄斑表面疾患の有用な外科的処置である。しかしながら、ILM及びERM剥離のための外科的手技は、通常、スキルと忍耐を必要とする。外科的手技の各セグメントに使用される器具は、手順を確実に成功させるために、精密で慎重に構成された手術器具であり得る。
【0003】
外科的処置自体は、膜の縁部を掴むこと、及び膜を剥離することを含む。膜を剥離するための1つの手技は、2段階の手順であり得る。最初に、外科医が掴むために膜上に縁部が形成され得る。例として、一部の外科医は縁部を得るためにスクレーパを使用する。次に、外科医は特別な膜鉗子を使用して、膜を掴んで網膜の表面から剥がす。しかしながら、現在の技術は、膜鉗子が膜を掴むのに十分な摩擦を提供するために、網膜に垂直力を加える必要があり得る。この垂直力は、下にある網膜細胞の不注意な損傷につながる可能性がある。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
例示的な態様では、本開示は、鉗子延長部と、鉗子延長部の遠位終端から延びる鉗子顎部とを含み得る眼科用膜鉗子に関する。鉗子顎部は、第1の把持先端を含む第1の顎部と、第2の把持先端を含む第2の顎部と、鉗子顎部の遠位端に配置されたコーティングとを含み得る。コーティングは、眼の膜との摩擦係数を増加させるように構成されてもよい。第1の把持先端及び第2の把持先端は、鉗子顎部が閉じた構成にあるときに互いに当接し得る。
【0005】
別の例示的な態様では、本開示は眼科手術器具に関する。眼科手術器具は、膜鉗子及び作動チューブを含み得る。膜鉗子は、鉗子延長部と、鉗子延長部の遠位終端から延びる鉗子顎部とを含み得る。鉗子顎部は、第1の把持先端を含む第1の顎部と、第2の把持先端を含む第2の顎部と、第1の顎部及び第2の顎部のそれぞれの遠位端に形成されるコーティングとを含み得る。コーティングは、眼の膜との摩擦係数を増加させるように構成されてもよい。第1の把持先端及び第2の把持先端は、鉗子顎部が閉じた構成にあるときに互いに当接するように構成されてもよい。
【0006】
別の例示的な態様では、本開示は、眼の膜を剥離する方法に関する。この方法は、膜鉗子を患者の目に挿入すること、膜鉗子を目の網膜上の膜まで前進させること、及び膜鉗子の遠位端の把持先端の間で膜を掴むように膜鉗子を閉じることを含み得る。遠位端のコーティングは、膜鉗子が閉じられるときに膜と把持先端との間の摩擦力を増加させ得る。
【0007】
異なる態様は、以下の特徴のうちの1つ又は複数を含み得る。コーティングは、第1の顎部及び第2の顎部のそれぞれの前面の少なくとも一部に配置されてもよい。前面は把持先端を含まなくてもよい。コーティングは帯電コーティングを含んでもよい。帯電コーティングは、正に帯電した親水性アミンコーティング;負に帯電したスルホネートコーティング;多層高分子電解質コーティング;及び負に帯電したヒドロキシルコーティングからなる群から選択される少なくとも1つのコーティングを含み得る。コーティングは、ポリジメチルシロキサンコーティングを含んでもよい。コーティングは、テクスチャード加工されたコーティングを含んでもよい。テクスチャード加工されたコーティングは、ピラーコーティング又は吸引カップコーティングを含んでもよい。コーティングで覆われた鉗子顎部の表面は、第1の把持先端及び第2の把持先端を排除してもよい。コーティングは、第1の顎部及び第2の顎部のそれぞれの前面に配置されてもよく、前面は、対応する第1の把持先端及び第2の把持先端で終端する。第1の顎部及び第2の顎部はそれぞれ、形状が弓形であってもよい。第1の顎部及び第2の顎部はそれぞれ、第1の屈曲部及び第2の屈曲部を含んでもよい。第1の顎部及び第2の顎部のそれぞれにおける第2の屈曲部は、膜鉗子の遠位端を膜鉗子の長手方向軸に向かって湾曲させ得る。第1の顎部及び第2の顎部のそれぞれの前面は、第2の屈曲部から対応する把持先端まで延びていてもよい。眼科手術器具は、ハンドルと、ハンドル及び作動チューブに結合されたチューブ作動アセンブリとをさらに含み得る。チューブ作動アセンブリは、作動チューブを鉗子顎部の上で移動させることにより、鉗子顎部を閉じるように動作可能であってもよい。
【0008】
前述の一般的な記載及び以下の図面及び詳細な記載は、本質的に例示及び説明であり、本開示の範囲を限定することなく本開示の理解を提供するように意図されていることを理解されたい。その点に関して、本開示の追加の態様、特徴、及び利点は、以下から当業者には明らかであろう。
【0009】
添付の図面は本明細書で開示される実践を示し、その記載とともに本開示の原理を説明する働きをする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】開いた構成にある例示的な膜鉗子の断面図を示す。
図2】開いた構成にある例示的な膜鉗子の斜視図を示す。
図3】閉じた構成にある例示的な膜鉗子の断面図を示す。
図4】開いた構成にある別の例示的な膜鉗子の斜視図を示す。
図5】例示的な膜鉗子の膜係合面の側面図である。
図6】別の例示的な膜鉗子の膜係合面の側面図である。
図7図6の膜係合面の上面図である。
図8】別の例示的な膜鉗子の膜係合面の側面図である。
図9】例示的な膜鉗子を含む手術器具の斜視図である。
図10】例示的な硝子体網膜処置における患者の眼内に配置された膜鉗子を示す。
図11】例示的な硝子体網膜処置における患者の眼内に配置された膜鉗子を示す。
図12】例示的な硝子体網膜処置における患者の眼内に配置された膜鉗子を示す。
図13】例示的な硝子体網膜処置における膜を掴んでいるコーティングされていない膜鉗子の使用を示す。
図14】例示的な硝子体網膜処置におけるコーティングされ且つ膜を掴んでいる膜鉗子の使用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示の原理の理解を促すことを目的として、図面に示された実践を参照し、特定の言語を使用してそれらを記載する。それにもかかわらず、本開示の範囲の限定は意図されていないことが理解されるであろう。記載されたデバイス、機器、方法に対する任意の変更及びさらなる修正、並びに本開示の原理の任意のさらなる応用が、本開示が関係する技術分野の熟練者が通常想起し得るように、完全に考えられる。特に、1つ又は複数の実践を参照して記載された特徴、構成要素、及び/又はステップは、本開示の他の実践を参照して記載された特徴、構成要素、及び/又はステップと組み合わせることができることが完全に考えられる。簡単にするために、場合によっては、同じ又は同様の部品を指すために図面全体を通して同じ参照番号を使用する。
【0012】
本開示は、概して、異なる黄斑表面疾患の処置における膜剥離に使用するための手術器具に関する。本明細書に開示される例示的な実施形態によれば、網膜内に及ぶ力が低減された膜の把持を可能にするコーティングを含む膜鉗子が提供される。低減された押込み力によって、膜鉗子からの網膜への損傷が低減し得る。押込み力の低減は、膜鉗子の前面を、膜と膜鉗子との間の摩擦係数を増加させる材料でコーティングすることにより達成され得る。さらに、前面をコーティングすることにより、外科医は膜上に縁部を形成しやすくもなり得、後でその縁部を掴むことができる。
【0013】
図1及び2は、コーティング102を含む例示的な膜鉗子100を示す。図示されるように、膜鉗子100は、鉗子顎部104及び鉗子延長部106を含み得る。コーティング102は、鉗子顎部104の遠位端108にあり得る。近位端110において、鉗子顎部104は、鉗子延長部106の遠位終端112から延び得る。鉗子顎部104及び鉗子延長部106は、作動チューブ116によって定められ得る長手方向軸114に沿って延び得る。明確にするために、作動チューブ116は、図2の断面図では省略されている。鉗子顎部104及び鉗子延長部106は、特に金属又は熱可塑性樹脂を含むがこれらに限定されない任意の適切な材料から作製されてもよい。
【0014】
鉗子顎部104は、第1の顎部118及び第2の顎部120を含み得る。鉗子顎部104は、長手方向軸114に沿って延び得、第1の顎部118及び第2の顎部120のそれぞれは、長手方向軸114に対して第1の角度θで鉗子延長部106の遠位終端112から延び得る。第1の角度θは、約5°から約45°の範囲であり得る。第1の顎部118及び第2の顎部120はそれぞれ、形状が弓形であってもよい。例えば、第1の顎部118及び第2の顎部120はそれぞれ第1の屈曲部122を含み得る。第1の顎部118及び第2の顎部120の第1の屈曲部122は、第1の顎部118及び第2の顎部120の中間部分124が長手方向軸114に対して第1の角度θ未満の第2の角度θを有するように、鉗子顎部104の偏向角度を減少させ得る。例えば、第2の角度θは、第1の角度θよりも約10%から約75%小さくてもよい。例えば、第2の角度θは、約2°から約30°の範囲であり得る。しかしながら、第1の角度θ及び第2の角度θの開示された範囲外の角度も考えられる。第1の顎部118及び第2の顎部120はそれぞれ、第1の屈曲部122から長手方向に間隔を空けた第2の屈曲部126も含み得る。図示のように、第2の屈曲部126は鉗子顎部104の遠位端108にあり得る。例えば、遠位端108を長手方向軸114に向かって湾曲させるために、第2の屈曲部126は湾曲していてもよい。
【0015】
遠位端108において、第1の顎部118及び第2の顎部120はそれぞれ把持先端128を含み得る。図示のように、第1の顎部118及び第2の顎部120はそれぞれ対応する把持先端128で終端する。鉗子顎部104の第2の屈曲部126は、把持先端128を長手方向軸114に向かって湾曲させるのに十分であり得る。このように、鉗子顎部104を閉じると、把持先端128は互いに当接するように一緒に移動されて、それにより物質(例えば、図10~12及び14に示される膜1010)を把持先端128の間で掴むことができる。
【0016】
遠位端108において、第1の顎部118及び第2の顎部120はそれぞれ、前面130を含むこともできる。使用中、前面130は、把持先端128を使用して物質(例えば、図10~12及び14に示される膜1010)を掴むことができるように、物質と係合し得る。いくつかの実施形態では、前面130は、少なくとも実質的に平面、すなわち平面又は平面から5°以下であり得る。前面130は、第2の屈曲部126から延びて把持先端128で終端し得る。それぞれの遠位端108で、第1の顎部118及び第2の顎部120のそれぞれは、後面134と、後面134及び前面130を接続する(図2に示すような)側面132とを含むこともできる。後面134は、前面130の反対側にあってもよい。
【0017】
コーティング102は、前面130に配置されてもよい。図2で最もよく見ることができるように、コーティング102は側面132に配置されてもよい。コーティング102を適用することにより、鉗子顎部104と物質(例えば、図10~12及び14に示される膜1010)との間の摩擦係数が増大され得、その結果、把持先端128が物質を掴むのに必要な押込み力が減少し得る。摩擦の増加と押込みの減少の結果として、例えば、内境界膜(ILM)を除去する間に網膜感覚組織を閉じ込めるリスクが減少する。図示の実施形態では、コーティング102は、前面130及び/又は側面132を完全にはコーティングしない。代わりに、コーティング120は、前面130及び/又は側面132を部分的にコーティングする。例えば、コーティング102は前面130の約10%から約100%に及び/又は側面132の約10%から約100%に配置されてもよい。遠位端108へのコーティング102の適用には、任意の適切な技術を使用することができる。図2は、コーティング102を有する把持先端128を同じく示している。他の実践では、把持先端128は、コーティング102を含まなくてもよい。コーティング102を適用するために使用できるコーティング技術の例は、とりわけ、スプレーコーティング、蒸着、ディップコーティング、及びスピンコーティングを含むが、これに限定されない。いくつかの実施形態では、コーティング102は接着剤(図示せず)で適用されてもよい。
【0018】
鉗子延長部106は、鉗子顎部104から長手方向に延び得る。図2に示すように、鉗子延長部106は、第1の顎部118及び第2の顎部120のそれぞれの延長部136を含み得る。いくつかの例では、延長部136は、その長さに沿った1つ又は複数の位置で取り付けられてもよい。例えば、いくつかの例では、延長部136は、1つ又は複数の溶接によって接合されてもよい。或いは、鉗子延長部106は、そこから鉗子顎部104が延びる単一部材(図示せず)であってもよい。図1に示されるように、鉗子延長部106は、作動チューブ116内に少なくとも部分的に配置され得る。
【0019】
ここで、図1及び3を参照して、膜鉗子100の閉鎖を例示的な実施形態に従って記載する。図1は、開いた構成の膜鉗子100を示している。図3は、閉じた構成の膜鉗子100を示している。膜鉗子100を閉じるために、作動チューブ116及び鉗子顎部14の少なくとも一方が、他方に対して長手方向に移動され得る。例えば、作動チューブ116は、遠位端108に向かって遠位方向に移動することにより、鉗子顎部104上で少なくとも部分的に摺動することができる。作動チューブ116が遠位端108に向かって移動すると、作動チューブ116は、第1の顎部118及び第2の顎部120の近位端110と係合し、第1の顎部118及び第2の顎部120を一緒に圧縮する。第1の顎部118及び第2の顎部120の圧縮はまた、把持先端128を一緒に移動させる。作動チューブ116は、把持先端128が互いに当接して物質(例えば、図10~12及び14に示される膜1010)を把持先端128の間で掴むことができるように、鉗子顎部104上に(図3に示されるように)配置され得る。
【0020】
図4は、コーティング102を備えた膜鉗子100の別の例を示している。図示された実施形態では、コーティング102は、膜鉗子100の遠位端108を完全に覆っている。示されるように及びいくつかの実施形態によれば、コーティング102はまた、第1の顎部118及び第2の顎部120の中間部分124に沿って延びる。図4の示される例では、コーティング102は第1の屈曲部122まで延びる。図4に示すように、コーティング102は第1の顎部118及び第2の顎部120の前面130全体を覆う。コーティング102は、前面130に加えて、第1の顎部118及び第2の顎部120の把持先端128、側面132、及び後面134も覆うことができる。コーティング102によって覆われる第1及び第2の顎部118及び120の量は、例えば、コーティング102を適用するために使用されるコーティング技術に依存し得る。しかしながら、第1及び第2の顎部118及び120がコーティング102でコーティングされる範囲は、任意の所望の基準に基づいて、又は基準なしに選択することができる。すなわち、第1及び第2の顎部118及び120がコーティングされる量は、膜鉗子100の使用又はコーティング102を適用するために使用されるコーティング技術と無関係であってもよい。
【0021】
摩擦係数を増加させることができる様々な材料のいずれかをコーティング102に使用することができる。コーティング102は、コーティングされていないときの前面130の摩擦係数よりも大きい摩擦係数を有するべきである。例えば、コーティング102は、コーティングされていない前面130の摩擦係数より約5%、10%、20%、30%、40%、50%、又はそれ以上大きい摩擦係数を有してもよい。コーティング102のない前面130と比較して増加した摩擦係数を有することにより、膜鉗子100と物質(例えば、図10~12及び14に示す膜1010)との間に所望の摩擦力を得ることができ、その結果、物質を首尾よく掴むのに必要な垂直力が低減される。その結果、物質への押込みを低減することができる。
【0022】
本開示の範囲内の例示的なコーティング102は、帯電されても(例えば、正に帯電又は負に帯電)又は非帯電であってもよい。電荷を有するコーティング102を使用すると、電荷により摩擦係数が増加し得る。電荷を有する適切なコーティング102の例には、以下のものが含まれ得るが、これらに限定されない:正に帯電した親水性アミンコーティング;負に帯電したスルホネートコーティング;多層高分子電解質コーティング;及び負に帯電したヒドロキシルコーティング。いくつかの実施形態では、アミンコーティングは、「アミンリッチ」コーティングとも呼ばれる、ポリマー基材に組み込まれたアミンを有するポリマー基材を含んでもよい。いくつかの実施形態では、スルホネートコーティングは、「スルホネートリッチ」コーティングとも呼ばれる、ポリマー基材に組み込まれたスルホネートを有するポリマー基材を含んでもよい。いくつかの実施形態では、多層高分子電解質コーティングは、交互の正及び負の高分子電解質層を含んでもよい。いくつかの実施形態では、ヒドロキシルコーティングは、「ヒドロキシルリッチ」コーティングとも呼ばれる、ポリマー基材に組み込まれたヒドロキシル基を有するポリマー基材を含んでもよい。コーティング102のさらなる例には、非帯電ポリジメチルシロキサンコーティングが含まれ得る。非帯電ポリジメチルシロキサンコーティングは、材料(例えば、図10~12及び14に示される膜1010)と整列する柔らかさを有し、摩擦係数、及び、したがって摩擦力を増大し得る。コーティング102の追加の例は、ピラーコーティング又は吸引カップコーティングなど、テクスチャード加工されてもよい。いくつかの実施形態では、コーティング102は、画定された表面構造及び柔軟な挙動を有するようにテクスチャード加工されてもよい。例えば、ピラーのコーティング(ピラーコーティングとも呼ばれる)は、前面130にピラーの適用を含み、吸引カップのコーティング(吸引カップコーティングとも呼ばれる)は、前面130に吸引カップの適用を含むことができる。
【0023】
図5は、前面130に配置されたピラーコーティング500の例を示す。図示のように、ピラーコーティング500は、前面130に配置されたピラー502を含むことができる。接触面積を増大することによって、ピラー502は、摩擦係数及び結果として得られる摩擦力を増大すると考えられる。ピラー502は円筒形状又は非円筒形状を有してもよい。ピラー502は、ピラーコーティング500のベース又はトラフ504からピーク506まで延びる高さHを有することができる。高さHは、10から200ミクロンの範囲であり、幅Wは約1ミクロンから約100ミクロンの範囲であり得る(例えば、約10ミクロンから約30ミクロン)。いくつかの実践では、幅Wは、ピラーが円形断面を有する円柱である場合、ピラーの直径であり得る。しかしながら、これらの範囲外のピラー502の寸法H及びWも考えられる。
【0024】
図6及び7は、前面130に配置された吸引カップコーティング600の例を示す。凹部602を吸引カップコーティング600に形成することができる。凹部602は、物質(例えば、図10~12及び14に示される膜1010)に押し付けられるとくっつく吸引カップとして作用し得る。多数の凹部602を含むことにより、吸引カップコーティング600の接着力を高めることができる。凹部602は、約5ミクロン~約100ミクロンの凹部602間の間隔を含む任意の所望の配置で吸引カップコーティング600内で離間されてもよい。しかしながら、追加の又はより少ない凹部602が考えられる。さらに、含まれる凹部602の数は、例えば、膜鉗子100が使用される用途及び/又は凹部602の構成を含む1つ又は複数の要因に依存し得る。凹部602は、円形、正方形又は長方形の形状であってもよい。凹部602はまた、他の種類の形状を形成してもよい。凹部602は、1ミクロンから約100ミクロンの範囲の深さdと、約1ミクロンから約100ミクロン(例えば、約10ミクロンから約30ミクロン)の範囲の幅W(凹部602が円形の場合直径を規定し得る)を有してもよい。しかしながら、これらの範囲外の凹部602の深さd及び幅Wの寸法も考えられる。
【0025】
図8は、前面130に配置された例示的な多層高分子電解質コーティング800を示す。示されるように、多層高分子電解質コーティング800は、正に帯電した層802及び負に帯電した層804を含み得る。正に帯電した層802は、負に帯電した層804と交互になり得る。3つの正に帯電した層802及び2つの負に帯電した層804が示されているが、より多い又はより少ない正に帯電した層802及び/又は負に帯電した層804を例示的な実施形態に従って使用することができる。
【0026】
図9は、膜鉗子100を含む例示的な手術器具900を示す。示される実施形態では、手術器具900は、ハンドル902、チューブ作動アセンブリ904、作動チューブ116、及び膜鉗子100を含み得る。ハンドル902は、外科医が膜鉗子100を所望の位置に操作できるように、図示のような円筒形を含む任意の適切な形状を有し得る。ハンドル902は、とりわけ金属又は熱可塑性樹脂を含むがそれらに限定されない任意の適切な物質から作製されてもよい。示されていないが、ハンドル902は、握り具合を改善するためにテクスチャード加工又はローレット加工を含んでもよい。
【0027】
チューブ作動アセンブリ904は、ハンドル902と作動チューブ116との間に配置されてもよい。チューブ作動アセンブリ904は、アクチュエータ部分906、スリーブ908、及びノーズコーン910を含んでもよい。いくつかの実施形態では、アクチュエータ部分906は長手方向延長部912を含んでもよい。長手方向延長部912は、スリーブ908の一部(図示せず)にわたって延び得、手術器具900の長手方向軸914の周りに配置され得る。長手方向延長部912はそれぞれ、長手方向延長部912が長手方向軸914から離れる方向に延びる中央部分918を備えた弓形の形状であり得るように屈曲部916を含み得る。長手方向延長部912は、アクチュエータ部分906を半径方向に圧迫した後に長手方向延長部912がそれらの通常の形状(例えば、弓状の形状)を取り戻し得るように弾性を有する任意の適切な材料から作製され得る。適切な材料には、とりわけ、チタン、ステンレス鋼、ポリマー、例えば熱可塑性樹脂、又は形状記憶金属が含まれ得るがこれらに限定されない。長手方向延長部912は、アクチュエータ部分906を圧迫すると、例えば屈曲部916の直線化によって長手方向延長部912が長手方向軸214に沿って延びるように形成され得る。長手方向延長部912は、スリーブ908に結合され得る。スリーブ908及びノーズコーン910は、長手方向延長部912の長さが延長するとスリーブ908及びノーズコーン910を長手方向に移動させるように互いに結合されてもよい。スリーブ908及びノーズコーン910は、とりわけ金属又はポリマー、例えば熱可塑性樹脂を含むがこれらに限定されない任意の適切な材料から作製されてもよい。
【0028】
作動チューブ116は、ノーズコーン910に結合されてもよい。いくつかの実施形態では、作動チューブ116は、中空チューブであってもよい。作動チューブ116は、近位端920及び遠位端922を含んでもよい。作動チューブ116の近位端920は、ノーズコーン910の移動が作動チューブ116に伝達され得るようにノーズコーン910に結合され得る。作動チューブ116は、とりわけ金属又はポリマー、例えば熱可塑性樹脂を含むがそれらに限定されない任意の適切な材料から作製されてもよい。
【0029】
膜鉗子100は、作動チューブ116の遠位端922から延び得る。膜鉗子100の作動のために、チューブ作動アセンブリ904の使用を含む任意の種々の技術が使用されてもよい。手術中、チューブ作動アセンブリ904を作動させて、膜鉗子100を閉じさせることができる。例えば、アクチュエータ部分906を圧迫すると、スリーブ908及びノーズコーン910をハンドル902に対して前方に押し遣ることができる。スリーブ908及びノーズコーン910の前方移動は作動チューブ116に伝達され、図1及び3に関して上述したように、作動チューブ116の遠位端922を膜鉗子100の上に部分的に摺動させ、膜鉗子100を閉じることができる。膜鉗子100上の作動チューブ116の移動量は、例えば、弛緩状態にあるアクチュエータ部分906の外径を変えることにより制御することができる。チューブ作動アセンブリ904は、膜鉗子100の作動のための例示的な例として記載されており、本開示の実施形態は、膜鉗子100を閉じるための他の技術とともに使用され得ることが理解されるべきである。
【0030】
図10~12は、外科処置で膜鉗子100を使用する例示的な手技を示している。図10において、手術器具900が、患者の眼1002に挿入され得る。図示の実施形態では、手術器具900は、摩擦強膜1006の切開部1004を通して挿入され得る。示されていないが、照明を提供する照明器具などの追加の器具も眼1002に挿入され得る。手術器具900は眼1002の内部1008を通して網膜1012上の膜1010まで前進され得る。例えば、膜1010は内境界膜であり得る。次に図11を参照すると、手術器具900は、膜鉗子100が膜1010と接触するように移動され得る。図12に示すように、次に膜鉗子100は膜1010を掴んで網膜1012から剥がすために閉じることができる。作動チューブ116を膜鉗子100上に滑り下ろして、膜鉗子100を膜1010上で閉じることができる。コーティング102(例えば、図1に示される)により引き起こされる膜鉗子100と膜1010との間の増加した摩擦係数により、膜鉗子100が閉じられているときに膜鉗子100が膜1010を掴むのに十分な摩擦力があり、膜を網膜1012から剥がす。
【0031】
図13は、前面1302がコーティングされていない従来の膜鉗子1300を示している。膜鉗子1300は、網膜1012上に配置された膜1010を掴んでいる状態で示されている。膜鉗子1300の前面1302が膜1010を掴むためには、図13に水平矢印で示されている摩擦力1304が必要である。膜鉗子1300は、図13に垂直矢印で示される垂直力1306も膜1010に加える。摩擦力1304は、摩擦係数に垂直力1306を掛けたものに等しい。膜1010を掴むのに十分な摩擦力1304を生成するために、垂直力1306は典型的に膜1010及び膜の下にある網膜1012に押込み1308を生成する。この垂直力1306及び押込み1308は、網膜1012を損傷する可能性がある。
【0032】
図14は、前面130にコーティング102を有する膜鉗子100の使用を示す。膜鉗子100は、網膜1012に配置された膜1010を掴んでいる状態で示されている。コーティング102は摩擦係数を増加させるので、摩擦力1304は垂直力1306が低減された状態で1010を掴むのに十分であり得る。結果として、膜1010の剥離による網膜1012への損傷が低減され得、潜在的には排除される可能性さえある。
【0033】
本開示の動作及び構成は、前述の記載から明らかになると考えられる。上に示した又は記載した装置及び方法は好ましいものとして特徴付けられたが、添付の特許請求の範囲で定義される本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、様々な変更及び修正を行うことができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14