(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】コンクリート試験方法および装置
(51)【国際特許分類】
G01N 11/02 20060101AFI20231226BHJP
G01N 33/38 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G01N11/02
G01N33/38
(21)【出願番号】P 2020000321
(22)【出願日】2020-01-06
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 真次
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 圭一
【審査官】野田 華代
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-176890(JP,A)
【文献】特開2004-069363(JP,A)
【文献】特開2017-223490(JP,A)
【文献】特開平01-297529(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0132782(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 11/00-13/04
G01N 33/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未硬化のコンクリートの粘性を把握するための試験方法であって、
コンクリートの試料を収容するための収容部と、
前記収容部の側面に設けられた開口部と、
前記開口部に接続し、
前記開口部から離れるに従って下方に行く傾斜面を有し、
前記傾斜面の水平からの傾斜角度を変更可能な傾斜路と、
前記開口部に対して上下方向に移動可能に設けられ、
前記開口部を開閉可能な仕切りゲートとを備える傾斜L形フロー試験器において
前記収容部に
前記試料を充填するステップと、
前記仕切りゲートを引き上げて、
前記収容部の
前記試料を
前記開口部から
前記傾斜路に流下させるステップと、
前記傾斜路にあらかじめ設定した所定区間
を前記試料の先端が通過する通過時間を
、ストップウォッチを用いて測定するステップと、
前記傾斜面の
前記傾斜角度と
前記通過時間の関係を表す指標
として、前記傾斜角度と前記通過時間から求めた回帰直線の勾配の絶対値を把握するステップと、
あらかじめ取得した
前記勾配の絶対値と粘性の関係に、把握した
前記勾配の絶対値を当てはめて、
前記試料の粘性を評価するステップとを有することを特徴とするコンクリート試験方法。
【請求項2】
あらかじめ取得した粘性とコンクリート圧送時の管内圧力損失の関係に、評価した
前記試料の粘性を当てはめて、管内圧力損失を評価するステップをさらに有することを特徴とする請求項1に記載のコンクリート試験方法。
【請求項3】
未硬化のコンクリートの粘性を把握するための試験装置であって、
コンクリートの試料を収容するための収容部と、
前記収容部の側面に設けられた開口部と、
前記開口部に接続し、
前記開口部から離れるに従って下方に行く傾斜面を有し、
前記傾斜面の水平からの傾斜角度を変更可能な傾斜路と、
前記開口部に対して上下方向に移動可能に設けられ、
前記開口部を開閉可能な仕切りゲートとを備える傾斜L形フロー試験器と、
前記仕切りゲートを引き上げて、
前記収容部に充填された
前記試料を
前記開口部から
前記傾斜路に流下させて、
前記傾斜路にあらかじめ設定した所定区間
を前記試料の先端が通過する通過時間を測定する
ストップウォッチからなる測定手段と、
前記傾斜面の
前記傾斜角度と
前記通過時間の関係を表す指標
として、前記傾斜角度と前記通過時間から求めた回帰直線の勾配の絶対値を求める算出手段と、
あらかじめ取得した
前記勾配の絶対値と粘性の関係に、
前記算出手段で求めた前記勾配の絶対値を当てはめて、
前記試料の粘性を評価する評価手段とを有することを特徴とするコンクリート試験装置。
【請求項4】
前記評価手段は、あらかじめ取得した粘性とコンクリート圧送時の管内圧力損失の関係に、評価した
前記試料の粘性を当てはめて、管内圧力損失を評価することを特徴とする請求項3に記載のコンクリート試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中流動コンクリートの粘性を測定するのに好適なコンクリート試験方法および装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、多様な施工条件下でのコンクリート充填性確保に対応するため、一般的なスランプの範囲のコンクリートと高流動コンクリートの中間的な流動性を示すいわゆる「中流動コンクリート(締固めを必要とする高流動コンクリート)」の適用が増加している。このコンクリートにおいても、材料分離、圧送性評価などの観点から粘性の把握は非常に重要である。スランプフロー試験における500mmフロー到達時間の測定も粘性の指標として考えられるが、この試験は直径500mmの円に最初に達した時までの時間を目視で観察してストップウォッチで測定することから、中流動コンクリートのようにスランプフローが500mmをわずかに超える場合やそれに満たない場合は測定が困難となる場合がある。また、他の方法としてロート試験などもあるが、流下しなかったりする場合があり、粘性の指標となる数値が得られない場合がある。
【0003】
これに対し、粘性が高くスランプのみにより施工性の良否を判定できないコンクリートの品質管理用に考案された試験として、L形フロー試験が知られている。L形フロー試験は、JCI-SQA1(L(形)フロー試験方法(案))とJSCE-F514-2018(高流動コンクリートのL形フロー試験方法(案))に規格化されている。このL形フロー試験では、
図7(1)に示すような鉛直部1と水平部2を有するL型試験器3を用いる。
図7に示すように、鉛直部1にコンクリートの試料を充填した後、鉛直部1と水平部2を区画する仕切りゲート4を引き上げ、開口から流動する所定区間の通過時間を計測するとともに、流動が停止したときの鉛直部1の沈下量と先端までの移動量を計測する。JCI-SQA1とJSCE-F514の両規格の大きな相違点は、JCI-SQA1では試料の詰め方を1層突固めなし(A法)と2層突固め各5回(B法)のいずれかとしているが、JSCE-F514では突固めなしのみであること、JCI-SQA1ではセンサーを用いたLフロー初速度の測定方法(測定は任意)が記載されていることである。
【0004】
L形フロー試験は、スランプフロー試験と比較して、フローの測定や500mmフロー到達時間の測定(JSCE-F516-2012)という観点では、試料を一方向のみに流動させるため測定値にばらつきが少なく、測定の個人差が少ないのが特徴と考えられている。ただし最大Lフローの値を測定するだけでは、スランプフローの意義と変わらない。両規格とも、Lフロー試験装置の寸法などは同一であるが、フロー部分の長さは試験に不都合のない長さか755mm(JCI-SQA1)としている。いずれもLフロー到達時間を測定し、ストップウォッチによりスタートから任意の距離の1点(Lフロー(mm))までの通過時間を計測することとしている。LフローをLフロー到達時間で除したものをLフローの平均流動速度としており、平均流動速度は、使用材料や水結合材比などの配(調)合により値が異なる。しかし、土木学会の高流動コンクリートの配合設計・施工指針[2012年版]で示されている高流動コンクリートの500mmフロー到達時間の目標値の目安のように、Lフロー到達時間や平均流動速度には目標値の目安は定められていない。このようなことを背景として、L形フロー試験は一般に広く普及していないのが現状である。
【0005】
JCI-SQA1で示されているセンサーを用いたLフロー初速度の測定方法は、コンクリートの塑性粘度の指標となりうるとされている。この方法においては、仕切りゲートを引き上げてコンクリートが流動している時に、その先端が開口部から50mmおよび100mm地点を通過する時間を赤外線あるいは超音波センサーで計測し、その50mm区間の通過時間によりLフロー初速度を求める。この部分では、コンクリートの自重による圧力差と抵抗力が釣り合い定常状態に近い流動がみられるとされ、この部分での速度の差がコンクリートの塑性粘度の差として把握しやすいとされている。50mm~100mm地点を通過する時間は短いため、ストップウォッチでは誤差が生じやすく測定が困難であることから、非接触型のセンサーを用いることとしている。Lフロー初速度の測定は開口部から近い箇所で行うため、中流動コンクリートに対しても適用が可能であると考えられる。
【0006】
一方、L形フロー試験を利用した従来のコンクリートの試験方法として、例えば特許文献1~3が知られている。特許文献1~3の方法では、傾斜角度を付けた傾斜フロー部にコンクリート試料を流下させ、その際の試料の流下速度等を非接触型センサーで測定する。特許文献1の方法では、生コンクリート車で荷卸しされるコンクリートの粘性の大小によって施工のトラブルがないように配合の調整や修正を行う。一般に、打設中は連続して生コンクリート車が到着するため、現地で粘性を把握しても配合の修正は相当時間を要し、修正できたとしても反映されるのは数台後の生コンクリート車になってしまい、トラブルを回避できないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2004-69363号公報
【文献】特開2017-223490号公報
【文献】特開2019-117095号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】土木学会編「コンクリートライブラリー136号 高流動コンクリートの配合設計・施工指針[2012年版]
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、コンクリートの配合選定とコンクリート圧送等の施工計画の立案は、数多くの施工現場で必ず実施されるものである。配合選定の試験練りの段階で、適正な粘性の配合を簡易的に決定できれば、コンクリート圧送等の施工計画を立案し易くなるので好都合である。しかし、上記の特許文献1~3の試験方法では、いずれも非接触型センサーを用いることを前提としているため、非接触型センサーの入手、治具の作成、データ整理の煩雑さなどから、簡易的に試験を実施することが難しいという問題がある。このため、あらゆる施工現場で簡易的に実施可能で、粘性などの特性を簡易的に把握することのできる汎用性のある試験方法が望まれていた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、粘性などの特性を簡易的に把握することができるコンクリート試験方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るコンクリート試験方法は、未硬化のコンクリートの粘性を把握するための試験方法であって、コンクリートの試料を収容するための収容部と、収容部の側面に設けられた開口部と、開口部に接続し、開口部から離れるに従って下方に行く傾斜面を有し、傾斜面の水平からの傾斜角度を変更可能な傾斜路と、開口部に対して上下方向に移動可能に設けられ、開口部を開閉可能な仕切りゲートとを備える傾斜L形フロー試験器において収容部に試料を充填するステップと、仕切りゲートを引き上げて、収容部の試料を開口部から傾斜路に流下させるステップと、傾斜路にあらかじめ設定した所定区間の通過時間を測定するステップと、傾斜面の傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を把握するステップと、あらかじめ取得した指標と粘性の関係に、把握した傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を当てはめて、試料の粘性を評価するステップとを有することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る他のコンクリート試験方法は、上述した発明において、あらかじめ取得した粘性とコンクリート圧送時の管内圧力損失の関係に、評価した粘性を当てはめて、管内圧力損失を評価するステップをさらに有することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るコンクリート試験装置は、未硬化のコンクリートの粘性を把握するための試験装置であって、コンクリートの試料を収容するための収容部と、収容部の側面に設けられた開口部と、開口部に接続し、開口部から離れるに従って下方に行く傾斜面を有し、傾斜面の水平からの傾斜角度を変更可能な傾斜路と、開口部に対して上下方向に移動可能に設けられ、開口部を開閉可能な仕切りゲートとを備える傾斜L形フロー試験器と、仕切りゲートを引き上げて、収容部に充填された試料を開口部から傾斜路に流下させて、傾斜路にあらかじめ設定した所定区間の通過時間を測定する測定手段と、傾斜面の傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を求める算出手段と、あらかじめ取得した指標と粘性の関係に、把握した傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を当てはめて、試料の粘性を評価する評価手段とを有することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係る他のコンクリート試験装置は、上述した発明において、評価手段は、あらかじめ取得した粘性とコンクリート圧送時の管内圧力損失の関係に、評価した粘性を当てはめて、管内圧力損失を評価することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るコンクリート試験方法によれば、未硬化のコンクリートの粘性を把握するための試験方法であって、コンクリートの試料を収容するための収容部と、収容部の側面に設けられた開口部と、開口部に接続し、開口部から離れるに従って下方に行く傾斜面を有し、傾斜面の水平からの傾斜角度を変更可能な傾斜路と、開口部に対して上下方向に移動可能に設けられ、開口部を開閉可能な仕切りゲートとを備える傾斜L形フロー試験器において収容部に試料を充填するステップと、仕切りゲートを引き上げて、収容部の試料を開口部から傾斜路に流下させるステップと、傾斜路にあらかじめ設定した所定区間の通過時間を測定するステップと、傾斜面の傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を把握するステップと、あらかじめ取得した指標と粘性の関係に、把握した傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を当てはめて、試料の粘性を評価するステップとを有するので、粘性を簡易的に把握することができるという効果を奏する。
【0016】
また、本発明に係る他のコンクリート試験方法によれば、あらかじめ取得した粘性とコンクリート圧送時の管内圧力損失の関係に、評価した粘性を当てはめて、管内圧力損失を評価するステップをさらに有するので、コンクリート圧送時の管内圧力損失を簡易的に把握することができるという効果を奏する。
【0017】
また、本発明に係るコンクリート試験装置によれば、未硬化のコンクリートの粘性を把握するための試験装置であって、コンクリートの試料を収容するための収容部と、収容部の側面に設けられた開口部と、開口部に接続し、開口部から離れるに従って下方に行く傾斜面を有し、傾斜面の水平からの傾斜角度を変更可能な傾斜路と、開口部に対して上下方向に移動可能に設けられ、開口部を開閉可能な仕切りゲートとを備える傾斜L形フロー試験器と、仕切りゲートを引き上げて、収容部に充填された試料を開口部から傾斜路に流下させて、傾斜路にあらかじめ設定した所定区間の通過時間を測定する測定手段と、傾斜面の傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を求める算出手段と、あらかじめ取得した指標と粘性の関係に、把握した傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を当てはめて、試料の粘性を評価する評価手段とを有するので、粘性を簡易的に把握することができるという効果を奏する。
【0018】
また、本発明に係る他のコンクリート試験装置によれば、評価手段は、あらかじめ取得した粘性とコンクリート圧送時の管内圧力損失の関係に、評価した粘性を当てはめて、管内圧力損失を評価するので、コンクリート圧送時の管内圧力損失を簡易的に把握することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、本発明に係るコンクリート試験方法に用いる傾斜L形フロー試験器の実施の形態を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、コンクリートの配合を示すテーブル図である。
【
図4】
図4は、傾斜角度と30cm通過時間の関係を示す図である。
【
図5】
図5は、30cm通過時間の回帰線のXの係数の絶対値と塑性粘度の関係を示す図である。
【
図6】
図6は、塑性粘度と管内圧力損失の関係を示す図である。
【
図7】
図7(1)は、従来のL形フロー試験器を示す図、
図7(2)は、L形フロー試験状況を示す写真図である。
【
図8】
図8は、流動性と締固めの必要性の関係を示す図である(出典:非特許文献1)。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明に係るコンクリート試験方法および装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0021】
まず、本発明が対象とするコンクリート等について説明する。本発明が対象とするコンクリートは、スランプ21cm以上、スランプフロー55cm程度以下のものである。
図8の流動性と締固めの必要性の関係図(出典:非特許文献1)でいうと、本発明が対象とするコンクリートは、図の中央の「締固めを必要とする高流動コンクリート」としている部分である。本発明によって、ロート試験や50cmフロータイムが測れないコンクリートの粘性を評価する。粘性を表す指標として例えば塑性粘度がある。本発明が対象とする塑性粘度の適用範囲は10~100Pa・sで、好ましくは10~60Pa・sである。なお、スランプ21cm以下のコンクリートは、スランプの値が施工性を評価する上で重要である。また、自己充填性を有するコンクリートは、スランプフローと50cmフロータイムあるいは漏斗流下時間などが施工性評価に利用される。
【0022】
(コンクリート試験方法)
次に、本実施の形態に係るコンクリート試験方法に用いる傾斜L形フロー試験器について説明する。
図1に示すように、この傾斜L形フロー試験器10は、コンクリートの試料を収容するための収容部12と、収容部12の前側面の下側に設けられた開口部14と、開口部14に接続する傾斜路16と、仕切りゲート18と、台座20を備える。収容部12は、上面が開口し、下面が平坦な四角筒状の容器である。開口部14は矩形の開口であり、その下縁は収容部12の下面に連続している。傾斜路16は、開口部14から離れるに従って下方に行く傾斜面16Aを有する矩形断面通路である。傾斜路16の上面は開口している。傾斜路16および収容部12は、上面が平坦な台座20上に設置されており、台座20の脚部に備わる図示しない傾斜機構を操作することで、傾斜面16Aの水平からの傾斜角度θを変更可能である。仕切りゲート18は、開口部14に対して上下方向に移動可能に設けられ、開口部14を開閉可能である。
【0023】
次に、上記の傾斜L形フロー試験器10を用いたコンクリート試験方法について説明する。まず、収容部12にコンクリートの試料を投入し、台座20の傾斜機構を操作して傾斜路16の傾斜角度θを所定の角度にする。続いて、
図2に示すように、仕切りゲート18を引き上げて、収容部12の試料を開口部14から傾斜路16に流下させる。ストップウォッチを用いて、所定の区間を試料の先端が通過する通過時間を測定する。本実施の形態の測定区間は、開口部14から30cmの距離(Lフロー(mm))に設定しているが、本発明はこれに限るものではなく、これ以外の区間の距離を測定区間に設定してもよい。
【0024】
測定は、1つのコンクリート配合について傾斜面16Aの傾斜角度θの条件を変えて複数行う。これにより、傾斜角度θと通過時間の関係図を作成し、関係図から傾斜角度θと通過時間の関係を表す指標を把握する。本実施の形態の傾斜角度θは、θ=0°(水平)、10°、15°の3水準に設定しているが、本発明はこれに限るものではなく、これ以外の角度の組み合わせに設定してもよい。傾斜角度θと通過時間の関係を表す指標としては、例えば、傾斜角度θと通過時間から求めた回帰線の勾配(絶対値)を用いることができる。
【0025】
一方、本測定の前に、あらかじめ上記の指標と粘性(例えば塑性粘度)の関係を取得しておく。この関係に、上記の測定で把握した傾斜角度θと通過時間の関係を表す指標を当てはめて、試料の粘性を評価する。本実施の形態によれば、必要な機器は傾斜L形フロー試験器10、ストップウォッチ程度であり、従来の特許文献1~3のような非接触型センサーなどは必要ない。このため、本実施の形態によれば、上記の測定で指標を把握した後、粘性を簡易的に把握することができる。
【0026】
(測定実施例)
次に、本発明の効果を検証するために行った測定実施例について説明する。
図3に、試験に用いたコンクリート配合を示す。混和剤は、すべての配合で一般的なポリカルボン酸系高性能AE減水剤を用いた。
【0027】
上記の傾斜L形フロー試験器10による30cm地点の通過時間の測定結果を
図4に示す。この図においては、配合番号1~4の各プロットと回帰線と相関係数Rを示している。回帰線の数式中のyは通過時間(sec)、xは傾斜角度(度)である。いずれの配合も傾斜角度が大きくなるほど通過時間が短くなるが、配合ごとにその傾向が異なっている。セメント量が小さいものや水セメント比が大きいものは30cm地点の通過時間が短い傾向にあり、傾斜角度は3水準であるがいずれも線形での回帰分析でよい相関性が認められた。この回帰線は粘性の大小と関係があると考えられ、
図4のxの係数である勾配が大きいほど粘性が大きいと考えられる。すなわち、配合番号1ほど粘性が低く、配合番号3や配合番号4では相対的に粘性が大きいといえる。
【0028】
図4における回帰線のxの係数である勾配の絶対値と配合番号1~4の配合について回転翼型粘度計で測定された塑性粘度との関係について
図5に示す。この図においては、配合番号1~4の塑性粘度の各プロットと回帰線と相関係数Rを示している。回帰線の数式中のyは塑性粘度(Pa・s)、xは
図4における回帰線のxの係数である勾配の絶対値である。この
図5の関係性を用いて、回帰線のxの係数である勾配の絶対値より塑性粘度の概略を把握することができる。
【0029】
このように、傾斜L形フロー試験器10における傾斜角度θを水平(θ=0°)、10°、15°の3水準としたときの30cm地点の通過時間の結果を
図4のように整理することにより、配合間の相対的な粘性の大小を把握することができる。また、その時の回帰線のxの係数である勾配の絶対値から、
図5の関係を利用して塑性粘度の概略値を把握することができる。それらの粘性の傾向や塑性粘度を利用すれば、中流動コンクリートの配合設計、充填性等の評価、圧送性の評価(K値の推定)などに利用することができる。
【0030】
例えば、
図6に示すような塑性粘度とコンクリート圧送時の管内圧力損失の関係をあらかじめ取得しておき、この関係に塑性粘度を当てはめて圧送時の管内圧力損失を推定または評価することもできる。このようにすれば、圧送時の管内圧力損失を簡易的に把握することができ、圧送性の検討(圧送計画の立案)を行うことが可能である。なお、上記の
図6においては、圧送時の吐出量20、30(m
3/h)の各プロットと回帰線と相関係数Rを示している。回帰線の数式中のyは1m当たりの管内圧力損失(Mpa/m)、xは塑性粘度(Pa・s)である。
【0031】
(コンクリート試験装置)
次に、本発明に係るコンクリート試験装置の実施の形態について説明する。
図1に示すように、本実施の形態に係るコンクリート試験装置は、上記の傾斜L形フロー試験器10と、図示しない測定手段としてのストップウォッチと、算出手段と、評価手段とを備える。ストップウォッチ、算出手段、評価手段は、いずれも
図1には図示していない。
【0032】
ストップウォッチは、仕切りゲート18を引き上げて、収容部12に充填された試料を開口部14から傾斜路16に流下させて、傾斜路16にあらかじめ設定した所定区間の通過時間を測定するためのものである。
【0033】
算出手段は、傾斜面16Aの傾斜角度θと通過時間の関係を表す指標を求めるためのものである。算出手段は、例えばコンピュータなどの演算装置を用いて構成することができる。
【0034】
評価手段は、あらかじめ取得した指標と粘性の関係に、把握した傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を当てはめて、試料の粘性を評価するためのものである。評価手段は、あらかじめ取得した粘性とコンクリート圧送時の管内圧力損失の関係に、評価した粘性を当てはめて、管内圧力損失を評価する機能を有してもよい。評価手段は、例えばコンピュータなどの演算装置を用いて構成することができる。
【0035】
上記の構成を用いれば、上記のコンクリート試験方法の実施の形態と同様に、粘性を簡易的に把握することができる。すなわち、算出手段を用いて、傾斜L形フロー試験器10における傾斜角度θを水平(θ=0°)、10°、15°の3水準としたときの30cm地点の通過時間の結果を
図4のように整理することにより、配合間の相対的な粘性の大小を把握することができる。また、評価手段を用いて、その時の回帰線のxの係数である勾配の絶対値から、
図5の関係を利用して塑性粘度の概略値を把握することができる。それらの粘性の傾向や塑性粘度を利用すれば、中流動コンクリートの配合設計、充填性等の評価、圧送性の評価(K値の推定)などに利用することができる。例えば、
図6の関係を利用して圧送時の管内圧力損失を簡易的に把握することができる。
【0036】
以上説明したように、本発明に係るコンクリート試験方法によれば、未硬化のコンクリートの粘性を把握するための試験方法であって、コンクリートの試料を収容するための収容部と、収容部の側面に設けられた開口部と、開口部に接続し、開口部から離れるに従って下方に行く傾斜面を有し、傾斜面の水平からの傾斜角度を変更可能な傾斜路と、開口部に対して上下方向に移動可能に設けられ、開口部を開閉可能な仕切りゲートとを備える傾斜L形フロー試験器において収容部に試料を充填するステップと、仕切りゲートを引き上げて、収容部の試料を開口部から傾斜路に流下させるステップと、傾斜路にあらかじめ設定した所定区間の通過時間を測定するステップと、傾斜面の傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を把握するステップと、あらかじめ取得した指標と粘性の関係に、把握した傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を当てはめて、試料の粘性を評価するステップとを有するので、粘性を簡易的に把握することができる。
【0037】
また、本発明に係る他のコンクリート試験方法によれば、あらかじめ取得した粘性とコンクリート圧送時の管内圧力損失の関係に、評価した粘性を当てはめて、管内圧力損失を評価するステップをさらに有するので、コンクリート圧送時の管内圧力損失を簡易的に把握することができる。
【0038】
また、本発明に係るコンクリート試験装置によれば、未硬化のコンクリートの粘性を把握するための試験装置であって、コンクリートの試料を収容するための収容部と、収容部の側面に設けられた開口部と、開口部に接続し、開口部から離れるに従って下方に行く傾斜面を有し、傾斜面の水平からの傾斜角度を変更可能な傾斜路と、開口部に対して上下方向に移動可能に設けられ、開口部を開閉可能な仕切りゲートとを備える傾斜L形フロー試験器と、仕切りゲートを引き上げて、収容部に充填された試料を開口部から傾斜路に流下させて、傾斜路にあらかじめ設定した所定区間の通過時間を測定する測定手段と、傾斜面の傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を求める算出手段と、あらかじめ取得した指標と粘性の関係に、把握した傾斜角度と通過時間の関係を表す指標を当てはめて、試料の粘性を評価する評価手段とを有するので、粘性を簡易的に把握することができる。
【0039】
また、本発明に係る他のコンクリート試験装置によれば、評価手段は、あらかじめ取得した粘性とコンクリート圧送時の管内圧力損失の関係に、評価した粘性を当てはめて、管内圧力損失を評価するので、コンクリート圧送時の管内圧力損失を簡易的に把握することができる。
【産業上の利用可能性】
【0040】
以上のように、本発明に係るコンクリート試験方法および装置は、中流動コンクリートの粘性の測定に有用であり、特に、粘性を簡易的に把握するのに適している。
【符号の説明】
【0041】
10 傾斜L形フロー試験器
12 収容部
14 開口部
16 傾斜路
16A 傾斜面
18 仕切りゲート
20 台座