(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】電機子の製造方法および電機子の製造装置
(51)【国際特許分類】
H02K 15/12 20060101AFI20231226BHJP
H02K 15/085 20060101ALI20231226BHJP
H02K 1/16 20060101ALI20231226BHJP
H02K 3/48 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H02K15/12 D
H02K15/085
H02K1/16
H02K3/48
(21)【出願番号】P 2020013261
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-10-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【氏名又は名称】宮園 博一
(74)【代理人】
【識別番号】100202728
【氏名又は名称】三森 智裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 英明
(72)【発明者】
【氏名】神谷 友貴
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 努
(72)【発明者】
【氏名】吉川 一央
(72)【発明者】
【氏名】藤原 慎平
【審査官】尾家 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-170105(JP,A)
【文献】特開2014-045641(JP,A)
【文献】特開平01-110033(JP,A)
【文献】実開昭63-105474(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/00- 15/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイル部と、前記コイル部が配置されるスロットが設けられており、複数の電磁鋼板が積層されることにより形成された電機子コアとを備える、電機子の製造方法であって、
前記コイル部を前記スロットに配置する工程と、
前記コイル部を配置する工程の後、前記電機子コアを加熱する工程と、
前記電機子コアを加熱する工程の後、
前記電機子コアのヨーク部の外周表面に隣接する気体注入治具を介して、前記複数の電磁鋼板同士の積層方向の隙間に、加熱された前記電機子コアの温度よりも低い温度を有する気体を径方向から注入することにより、前記電機子コアを冷却する工程とを備える、電機子の製造方法。
【請求項2】
前記電機子コアを冷却する工程は、加圧された前記気体を、前記隙間に径方向から注入することにより、前記電機子コアを冷却する工程である、請求項1に記載の電機子の製造方法。
【請求項3】
前記電機子コアは、環状の
前記ヨーク部と、前記ヨーク部から径方向内側に延びる複数のティース部とを含み、
前記電機子コアを冷却する工程は、前記ヨーク部の外周表面に隣接する位置において、前記加圧された気体が導入されることにより、気圧が外部よりも高い内部空間を形成する
前記気体注入治具を介して、前記隙間に前記気体を注入することにより、前記電機子コアを冷却する工程である、請求項2に記載の電機子の製造方法。
【請求項4】
前記気体注入治具は、前記ヨーク部の径方向外側の少なくとも一部を覆うケース部と、前記内部空間からの前記気体の漏れを封止するためのシール部とを含み、
前記電機子コアを冷却する工程は、前記シール部が前記ケース部と前記ヨーク部との径方向の間または軸方向の間に配置された状態で、前記隙間に前記気体を注入することにより、前記電機子コアを冷却する工程である、請求項3に記載の電機子の製造方法。
【請求項5】
前記電機子コアを冷却する工程は、前記シール部に設けられた開口部を介して、前記隙間に前記気体を注入することにより、前記電機子コアを冷却する工程である、請求項4に記載の電機子の製造方法。
【請求項6】
前記電機子コアを冷却する工程は、径方向に見て、前記開口部を前記スロットにオーバーラップする位置に配置した状態で、前記開口部を介して、前記隙間に前記気体を注入することにより、前記電機子コアを冷却する工程である、請求項5に記載の電機子の製造方法。
【請求項7】
前記電機子コアを冷却する工程は、前記開口部からの周方向の長さが、前記ヨーク部の径方向の長さの2分の1よりも大きい、前記シール部を有する前記気体注入治具を介して、前記隙間に前記気体を注入することにより、前記電機子コアを冷却する工程である、請求項5または6に記載の電機子の製造方法。
【請求項8】
前記電機子コアを冷却する工程は、前記開口部からの周方向の長さが、前記ヨーク部の径方向の長さよりも大きい、前記シール部を有する前記気体注入治具を介して、前記隙間に前記気体を注入することにより、前記電機子コアを冷却する工程である、請求項7に記載の電機子の製造方法。
【請求項9】
前記電機子コアを冷却する工程は、前記開口部からの周方向の長さが軸方向の長さよりも大きい、前記シール部を有する前記気体注入治具を介して、前記隙間に前記気体を注入することにより、前記電機子コアを冷却する工程である、請求項5~8のいずれか1項に記載の電機子の製造方法。
【請求項10】
前記電機子コアを加熱する工程の後で、かつ、前記電機子コアを冷却する工程に先立って、複数の前記気体注入治具を等角度間隔で前記ヨーク部よりも径方向外側に配置する工程をさらに備える、請求項4~9のいずれか1項に記載の電機子の製造方法。
【請求項11】
前記電機子コアを冷却する工程は、前記気体注入治具が前記ヨーク部の外周を覆うように配置された状態で、かつ、前記電機子コアの軸方向端面に前記シール部が配置された状態で、前記隙間に前記気体を注入することにより、前記電機子コアを冷却する工程である、請求項4に記載の電機子の製造方法。
【請求項12】
前記電機子コアを加熱する工程の後で、かつ、前記電機子コアを冷却する工程に先立って、軸方向に2分割された一対の前記気体注入治具のうちの少なくとも一方が、軸方向に移動されることにより、前記一対の気体注入治具が前記ヨーク部の外周を覆うように配置され、かつ、前記電機子コアの軸方向端面に前記シール部が配置されるように、前記一対の気体注入治具を前記電機子コアに配置する工程をさらに備える、請求項11に記載の電機子の製造方法。
【請求項13】
前記電機子コアを冷却する工程は、前記隙間に前記気体を注入することに加えて、送風装置により、前記加熱された電機子コアの温度よりも低い温度を有する風を当てることにより、前記電機子コアを冷却する工程である、請求項1~12のいずれか1項に記載の電機子の製造方法。
【請求項14】
コイル部と、前記コイル部が配置されるスロットが設けられており、複数の電磁鋼板が積層されることにより形成された電機子コアとを備える、電機子の製造装置であって、
前記スロットに前記コイル部が配置された状態の前記電機子コアを加熱する加熱部と、
前記電機子コアのヨーク部の外周表面に隣接し、前記複数の電磁鋼板同士の積層方向の隙間に、加熱された前記電機子コアの温度よりも低い温度を有する気体を径方向から注入することにより、前記電機子コアを冷却する冷却部とを備える、電機子の製造装置。
【請求項15】
前記冷却部は、前記電機子コアの環状のヨーク部に隣接する位置において、加圧された前記気体が導入されることにより、気圧が外部よりも高い内部空間を形成する気体注入治具を含む、請求項14に記載の電機子の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電機子の製造方法および電機子の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電機子コアを加熱する工程を備える電機子の製造方法および電機子の製造装置が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、コイルが配置され、複数の電磁鋼板が積層されて形成されたコアを所定の温度に加熱する工程を備えるステータ(電機子)の製造方法が開示されている。このステータの製造方法では、コアとコイルとが所定の温度に加熱された後、熱硬化性樹脂であるワニスがコアとコイルとの間に滴下される。また、この所定の温度は、ステータの固有振動数がステータ以外の他の部品の固有振動数と異なる値になるように設定されている。そして、ワニスが硬化した後、コアおよびコイルが冷却されることにより、ステータが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、上記特許文献1には明確には記載されていないものの、コア(電機子コア)を冷却する工程では、一般的に、送風ファンが電機子コアの外部に設けられ、この送風ファンにより生じた風が電機子コアの外側表面に当たることにより、加熱された電機子コアが冷却される。しかしながら、上記特許文献1に記載の電機子コアは、複数の電磁鋼板が積層されて形成されているため、加熱後の複数の電磁鋼板同士の積層方向の隙間には、蓄熱した空気層が停滞していると考えられる。このため、この従来の電機子コアを冷却する方法のように、電機子コアの外側表面(軸方向端面および径方向外側の外周表面)のみを冷却しても、電機子コアの内部(複数の電磁鋼板同士の隙間)には、蓄熱し停滞した空気層があるため、電機子コアの内部の温度は低下しにくいと考えられる。したがって、従来の電機子の製造方法では、加熱された電機子コアを冷却するための時間が長時間化するという問題点があると考えられる。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、加熱された電機子コアを冷却するための時間を、短縮することが可能な電機子の製造方法および電機子の製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、この発明の第1の局面における電機子の製造方法は、コイル部と、コイル部が配置されるスロットが設けられており、複数の電磁鋼板が積層されることにより形成された電機子コアとを備える、電機子の製造方法であって、コイル部をスロットに配置する工程と、コイル部を配置する工程の後、電機子コアを加熱する工程と、電機子コアを加熱する工程の後、電機子コアのヨーク部の外周表面に隣接する気体注入治具を介して、複数の電磁鋼板同士の積層方向の隙間に、加熱された電機子コアの温度よりも低い温度を有する気体を径方向から注入することにより、電機子コアを冷却する工程とを備える。
【0008】
この発明の第1の局面による電機子の製造方法では、上記のように、複数の電磁鋼板同士の積層方向の隙間に、加熱された電機子コアの温度よりも低い温度を有する気体を径方向から注入することにより、電機子コアを冷却する。これにより、電機子コアの外側表面に風を当てることにより電機子コアを冷却する場合と異なり、隙間に蓄熱し停滞した空気層の空気と、隙間に注入された比較的温度が低い気体とを入れ換えることができる。この結果、複数の電磁鋼板の積層方向の隙間の温度を迅速に低下させることができるので、加熱された電機子コアを冷却するための時間を短縮することができる。また、冷却するための時間を短縮することができる分、複数の電機子を連続的に製造する場合には、複数の電機子コアのうちの電機子コアを冷却する工程が実施されている電機子コアの数を削減することができる。これにより、複数の電機子コアを冷却するための設備を小型化することができる。
【0009】
この発明の第2の局面における電機子の製造装置は、コイル部と、コイル部が配置されるスロットが設けられており、複数の電磁鋼板が積層されることにより形成された電機子コアとを備える、電機子の製造装置であって、スロットにコイル部が配置された状態の電機子コアを加熱する加熱部と、電機子コアのヨーク部の外周表面に隣接し、複数の電磁鋼板同士の積層方向の隙間に、加熱された電機子コアの温度よりも低い温度を有する気体を径方向から注入することにより、電機子コアを冷却する冷却部とを備える。
【0010】
この発明の第2の局面による電機子の製造装置では、上記のように構成することにより、第1の局面による電機子の製造方法と同様に、加熱された電機子コアを冷却するための時間を短縮することが可能な電機子の製造装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記のように、加熱された電機子コアを冷却するための時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第1実施形態によるステータ(回転電機)の構成を示す平面図である。
【
図2】第1実施形態によるステータの径方向に沿った断面図である。
【
図3】第1実施形態による積層された複数の電磁鋼板の構成を示す模式図である。
【
図4】第1実施形態によるスロットの構成を示す断面図である。
【
図5】第1実施形態によるコイルの構成を示す模式図である。
【
図6】第1実施形態によるステータの製造装置の構成を示すブロック図である。
【
図7】第1実施形態による加熱装置の構成を示す模式図である。
【
図8】第1実施形態による滴下装置の構成を示す模式図である。
【
図9】第1実施形態による気体注入治具の構成を示す断面図である。
【
図10】第1実施形態による加圧された気体が隙間に注入される様子を説明するための図である。
【
図11】第1実施形態による気体注入治具の構成を示す斜視図である。
【
図12】第1実施形態によるシール部の構成を示す断面図である。
【
図13】第1実施形態による送風装置の構成を示す図である。
【
図14】第1実施形態によるステータの製造工程を示すフロー図である。
【
図15】第2実施形態によるステータの製造装置(気体注入治具)の構成を示す斜視図である。
【
図16】第2実施形態による気体注入治具の構成を示す断面図である。
【
図17】第1および第2実施形態の第1変形例による気体注入治具の構成を示す断面図である。
【
図18】第1および第2実施形態の第2変形例による気体注入治具の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
[第1実施形態の構成]
(ステータの構造)
図1~
図5を参照して、第1実施形態によるステータ100の構造について説明する。なお、ステータ100は、特許請求の範囲の「電機子」の一例である。
【0015】
本願明細書では、「軸方向」および「積層方向」とは、ステータ100の中心軸線C(Z方向)に沿った方向(
図1参照)を意味する。また、「周方向」とは、ステータ100の周方向(A方向)を意味する。また、「径方向内側」とは、ステータ100の中心に向かう方向(矢印B1方向)を意味する。また、「径方向外側」とは、ステータ100の外に向かう方向(矢印B2方向)を意味する。
【0016】
図1および
図2に示すように、ステータ100は、ステータコア10と、コイル部20と、熱硬化性部材30とを備える。たとえば、ステータ100は、径方向内側に配置されるロータ101とともに、回転電機102の一部を構成する。回転電機は、モータ、ジェネレータ、または、モータ兼ジェネレータとして構成されている。なお、ステータコア10は、特許請求の範囲の「電機子コア」の一例である。
【0017】
(ステータコアの構成)
図3に示すように、ステータコア10は、複数の電磁鋼板11が、軸方向に積層されることにより形成されている。複数の電磁鋼板11は、たとえば、カシメ加工および溶接の少なくとも一方により互いに固定されている。また、複数の電磁鋼板11の積層方向の隙間には、空気層11aが形成されている。また、電磁鋼板11の軸方向の厚みt1は、空気層11aの軸方向の厚みt2よりも大きい。厚みt1は、たとえば、0.1mm以上1mm以下であり、厚みt2は、たとえば、0.01mm以上0.1mm未満である。また、ステータコア10の軸方向の長さ(Z1方向側の端面10aと、Z2方向側の端面10bとの距離)は、L1である。なお、
図3では、説明のために、厚みt1をおよび厚みt2を他の寸法に対して大きく、かつ、積層される電磁鋼板11の枚数を少なく記載している。
【0018】
図1に示すように、ステータコア10は、円環状のバックヨーク部12と、バックヨーク部12から径方向内側に向かって延びる複数のティース部13とを含む。また、バックヨーク部12の外周表面12bから径方向外側に突出する複数(たとえば、3つ)の耳部12cが設けられている。また、
図4に示すように、ステータコア10には、コイル部20が配置された複数のスロット14が設けられている。スロット14は、たとえば、軸方向の両側および径方向内側に開口している。また、スロット14は、バックヨーク部12の径方向内側の壁部12aと、周方向に隣り合うティース部13の周方向に対向する側面13aとにより形成されている。また、スロット14には、ステータコア10とコイル部20とを絶縁するための絶縁部材15が配置されている。絶縁部材15は、たとえば、シート状の絶縁紙として構成されている。なお、バックヨーク部12は、特許請求の範囲の「ヨーク部」の一例である。
【0019】
(コイルの構成)
図5に示すように、ステータ100は、複数のコイル部20を備える。なお、
図5は、複数のコイル部20の一例を示しており、コイル部20の構成は、図示の例に限られない。コイル部20は、たとえば、平角導線21(
図4参照)により形成されている。また、コイル部20は、軸方向に延びる直線状の複数の脚部22と、互いに異なるスロット14に配置される複数の脚部22同士を接続する渡り部23とを含む。渡り部23は、ステータコア10よりも軸方向外側に配置されている。そして、コイル部20は、脚部22同士、または、渡り部23同士、または、脚部22と渡り部23とが接合されることにより、電気的に接続されている。
【0020】
(熱硬化性部材の構成)
熱硬化性部材30(
図2参照)は、たとえば、常温T1(たとえば、日本工業規格に定められる常温)よりも高い温度である硬化温度T2以上に加熱された場合に、液体から固体に硬化する性質を有する。また、熱硬化性部材30は、一旦、硬化された後は、硬化された状態を維持する性質を有する材料により構成されている。また、熱硬化性部材30は、絶縁性を有する材料により構成されている。たとえば、熱硬化性部材30は、ワニスである。また、熱硬化性部材30は、たとえば、コイル部20の渡り部23同士または脚部同士22の隙間、および、コイル部20とステータコア10との隙間に配置されている。
【0021】
[第1実施形態によるステータの製造装置]
次に、
図6~
図13を参照して、ステータ100の製造装置200の構成について説明する。
【0022】
図6に示すように、第1実施形態による製造装置200は、加熱装置210と、滴下装置220と、検査装置230と、冷却装置240とを含む。
【0023】
加熱装置210は、スロット14にコイル部20が配置された状態のステータコア10を加熱するように構成されている。具体的には、
図7に示すように、加熱装置210は、熱風発生装置またはヒーターが設けられた加熱炉として構成されている。そして、加熱装置210は、コイル部20が配置されたステータコア10を収納可能に構成されている。そして、加熱装置210は、ステータコア10を収納した状態で、ステータコア10およびコイル部20を加熱するように構成されている。
【0024】
図8に示すように、滴下装置220は、ステータコア10に液状の熱硬化性部材30を滴下するように構成されている。たとえば、滴下装置220は、ステータコア10よりも軸方向の一方側から、液状の熱硬化性部材30を滴下することにより、コイル部20同士の隙間、および、ステータコア10とコイル部20との隙間の少なくとも一部に、液状の熱硬化性部材30を浸透させるように構成されている。
【0025】
検査装置230(
図6参照)は、たとえば、後述する予備加熱工程の前、および、冷却工程の後に、ステータ100の重量を測定するように構成されている。すなわち、検査装置230は、重量計として構成されている。
【0026】
冷却装置240は、板間冷却装置250と、送風装置260とを含む。板間冷却装置250は、複数の電磁鋼板11同士の積層方向の隙間(空気層11a)に、加熱されたステータコア10の温度T3(硬化温度T2以下で常温T1よりも高い温度)よりも低い温度T4を有する気体Gを径方向から注入することにより、ステータコア10を冷却するように構成されている。
【0027】
図9に示すように、板間冷却装置250は、加圧気体発生装置251と、気体注入治具252とを含む。加圧気体発生装置251は、たとえば、エアーコンプレッサーを含む。すなわち、加圧気体発生装置251は、雰囲気ガス(空気)を吸入するとともに、加圧(圧縮)した気体Gを複数のノズル251aから放出するように構成されている。たとえば、加圧気体発生装置251は、気体Gが大気圧よりも高い圧力を有するように、気体Gを加圧するように構成されている。好ましくは、加圧気体発生装置251は、0.3MPa以上の圧力(たとえば、0.35MPa)に気体Gを加圧するように構成されている。
【0028】
気体注入治具252は、加圧気体発生装置251により加圧された気体Gを、
図10に示すように、電磁鋼板11同士の隙間(空気層11a)に径方向外側から注入することにより、ステータコア10を冷却するための治具である。具体的には、気体注入治具252は、ステータコア10のバックヨーク部12に隣接する位置において、加圧された気体Gが加圧気体発生装置251のノズル251aから導入されることにより、気圧が外部よりも高い内部空間S(密閉空間)を形成するように構成されている。
【0029】
図11に示すように、気体注入治具252は、バックヨーク部12の径方向外側の少なくとも一部を覆うケース部253と、内部空間Sからの気体Gの漏れを封止するためのシール部254とを含む。また、気体注入治具252は、等角度間隔でバックヨーク部12よりも径方向外側に複数(たとえば、3つ)配置されている。たとえば、複数の気体注入治具252は、ステータコア10の耳部12cの周方向の間に、それぞれ配置されている。なお、
図11では、説明のために、コイル部20の渡り部23の図示を省略している。
【0030】
図12に示すように、ケース部253は、軸方向に見た断面が径方向内側に開口する略U字状に形成されている。また、
図9に示すように、ケース部253には、ノズル251aが取り付けられる取り付け部253aが設けられている。周方向に見た断面が径方向内側に開口する略U字状に形成されている。
【0031】
シール部254は、耐熱性(加熱されたステータコア10に耐えることが可能な性質)を有するとともに、柔軟性およびシール性(気密性)を有する材料により構成されている。たとえば、シール部254は、シリコンまたはテフロン(登録商標)等の材料により構成されている。
【0032】
そして、シール部254は、ケース部253の径方向内側に配置されており、ケース部253に形成された内部空間Sからの気体Gの漏れを封止するように構成されている。また、シール部254には、内部空間Sとステータコア10とを接続する開口部254aが設けられている。そして、板間冷却装置250は、
図10に示すように、開口部254aを介して、電磁鋼板11の隙間(空気層11a)に加圧された気体Gを注入するように構成されている。
【0033】
開口部254aは、たとえば、シール部254の周方向の中心、および、軸方向の中心を含む位置に設けられている。そして、シール部254は、開口部254aから周方向端部254bまでの周方向の長さL11および開口部254aから周方向端部254cまでの周方向の長さL12が、それぞれ、バックヨーク部12の径方向の長さL2の2分の1よりも大きく構成されている。好ましくは、シール部254の長さL11およびL12は、それぞれ、バックヨーク部12の長さL2よりも大きい。また、シール部254の周方向の全体長さ(長さL11と長さL12とを合わせた長さ)は、シール部254の軸方向の長さL13(
図9参照)よりも大きい。
【0034】
図13に示すように、送風装置260は、たとえば、送風ファン261と、送風ケース部262とを含む。そして、送風ケース部262は、気体注入治具252が取り付けられた状態のステータコア10を収容可能に構成されている。そして、送風ファン261は、送風ケース部262において、ステータコア10よりも下方に配置され、加熱されたステータコア10の温度T3よりも低い温度T5を有する風Wをステータコア10に向かって発生させるように構成されている。
【0035】
[第1実施形態によるステータの製造方法]
次に、ステータ100の製造方法について説明する。
図14には、ステータ100の各製造工程を示すフローチャートが示されている。
【0036】
(絶縁部材を配置する工程)
まず、ステップS1において、
図4に示すように、ステータコア10の各スロット14に、絶縁部材15が配置される。
【0037】
(コイル部をスロットに配置する工程)
ステップS2において、ステータコア10の各スロット14に、コイル部20が配置される。たとえば、コイル部20を構成するセグメント導体が、各スロット14に軸方向または径方向に移動されることにより、セグメント導体が、各スロット14に配置される。その後、
図5に示すように、セグメント導体同士が接合されて、ステータコア10にコイル部20が配置された状態になる。
【0038】
(第1の検査工程)
ステップS3において、コイル部20および絶縁部材15が配置されたステータコア10の検査(第1の検査)が行われる。たとえば、検査装置230により、熱硬化性部材30が設けられる前のステータコア10の重量が計測される。
【0039】
(予備加熱工程)
ステップS4において、ステータコア10が予備加熱される。たとえば、
図7に示すように、ステータコア10が加熱装置210により常温T1以上に加熱される。ここで、予備加熱とは、熱硬化性部材30が設けられる前にステータコア10が加熱されることを意味する。
【0040】
(熱硬化性部材をステータコアに配置する工程)
ステップS5において、熱硬化性部材30がステータコア10に配置される。具体的には、
図8に示すように、滴下装置220により、ステータコア10よりも軸方向の一方側から、液状の熱硬化性部材30が滴下されることによって、コイル部20同士の隙間、および、ステータコア10とコイル部20との隙間の少なくとも一部に、液状の熱硬化性部材30が浸透される。
【0041】
(ステータコアを加熱する工程)
ステップS6において、熱硬化性部材30が設けられたステータコア10が加熱(本加熱)される。たとえば、
図7に示すように、ステータコア10が加熱装置210により硬化温度T2以上に加熱される。これにより、ステータコア10およびコイル部20に設けられた熱硬化性部材30が硬化し、熱硬化性部材30がステータコア10およびコイル部20に固定される。
【0042】
(気体注入治具を配置する工程)
ステップS7において、
図11に示すように、複数の気体注入治具252が等角度間隔(たとえば、120度間隔)でバックヨーク部12よりも径方向外側に配置される。具体的には、
図9に示すように、加圧気体発生装置251により加圧された気体Gを導入するノズル251aが取り付けられたケース部253と、バックヨーク部12の外周表面12bとの径方向の間に、シール部254が配置されるように、複数の気体注入治具252がバックヨーク部12の外周表面12bに当接するように配置される。これにより、気体注入治具252内に内部空間Sが形成される。
【0043】
また、
図12に示すように、径方向に見て、シール部254の開口部254aがスロット14にオーバーラップする周方向の位置に配置されるように、複数の気体注入治具252が配置される。
【0044】
(ステータコアを冷却する工程)
ステップS8において、
図13に示すように、ステータコア10が冷却される。まず、気体注入治具252が配置された(取り付けられた)ステータコア10が送風ケース部262に配置される。
【0045】
第1実施形態では、複数の電磁鋼板11同士の積層方向の隙間の空気層11a(
図10参照)に、加熱されたステータコア10の温度T3よりも低い温度T4を有し、加圧された気体Gを径方向から注入することにより、ステータコア10が冷却される。すなわち、バックヨーク部12の外周表面12bに隣接する位置において、加圧された気体Gがケース部253内に導入されることにより、気圧が外部よりも高い内部空間Sを形成する気体注入治具252を介して、空気層11aに気体Gが注入される。
【0046】
詳細には、
図9に示すように、加圧気体発生装置251により加圧された気体Gがノズル251aを介してケース部253に導入され、内部空間Sの気圧が高くなる。そして、シール部254の開口部254aを介して、空気層11aに気体Gが注入される。すなわち、シール部254がケース部253とバックヨーク部12との径方向の間に配置された状態で、かつ、開口部254aがスロット14に径方向に見てオーバーラップする位置に配置された状態(
図12参照)で、シール部254の開口部254aを介して、気体注入治具252から空気層11aに気体Gが注入される。
【0047】
また、開口部254aから注入された気体Gは、バックヨーク部12内において径方向内側および周方向両側に進入する。そして、気体Gが電磁鋼板11の隙間に入ることにより、蓄熱した空気からなる空気層11aが複数の電磁鋼板11の隙間から追い出され、複数の電磁鋼板11の隙間の温度および隙間を構成する電磁鋼板11の温度が低下する。
【0048】
そして、
図9に示すように、バックヨーク部12内を径方向に亘って通過した気体Gは、スロット14に放出され、絶縁部材15またはコイル部20と、バックヨーク部12の壁部12aおよびティース部13の側面13aとの間を通過する。これにより、壁部12aおよび側面13aの熱が気体Gにより奪われることにより、ティース部13およびバックヨーク部12の径方向内側の部分の温度が低下する。
【0049】
そして、
図13に示すように、第1実施形態では、電磁鋼板11の隙間の空気層11aに気体Gを注入することに加えて、送風装置260により、加熱されたステータコア10の温度T3よりも低い温度T5を有する風Wを当てることにより、ステータコア10が冷却される。
【0050】
具体的には、ステータコア10の下方に配置された送風ファン261により発生された風Wがステータコア10およびコイル部20の表面に当たることにより、ステータコア10およびコイル部20の表面から熱が奪われ、ステータコア10の温度が低下する。これにより、ステータコア10およびコイル部20の全体の温度が、検査可能温度T6(たとえば、40度以下)まで低下する。
【0051】
(第2の検査工程)
ステップS9において、熱硬化性部材30が設けられたステータコア10の検査が行われる。たとえば、検査装置230により、熱硬化性部材30が設けられたステータコア10の重量が計測される。その後、ステータ100が完成される。そして、ステータ100とロータ101とが組み合わされることにより、回転電機102が完成される。
【0052】
[第2実施形態]
次に、
図15および
図16を参照して、第2実施形態によるステータ100の製造装置300および製造方法について説明する。この第2実施形態の製造装置300では、ステータコア10の軸方向の端面10aと、気体注入治具352aとの軸方向の間、および、端面10bと、気体注入治具352bとの軸方向の間に、シール部354が設けられている。なお、上記第1実施形態と同一の構造および工程については、同じ符号(ステップ番号)を付し、その説明を省略する。
【0053】
(第2実施形態によるステータの製造装置)
図15に示すように、第2実施形態によるステータ100の製造装置300は、冷却装置340を備える。そして、冷却装置340は、板間冷却装置350を含む。板間冷却装置350は、軸方向に一対の気体注入治具352aおよび352bを含む。
図16に示すように、一対の気体注入治具352aおよび352bは、それぞれ、ステータコア10の軸方向の端面10aと、気体注入治具352aとの軸方向の間、および、端面10bと、気体注入治具352bとの軸方向の間に、シール部354が設けられるように、かつ、バックヨーク部12の外周の全周を覆うように配置される。
【0054】
一対の気体注入治具352aおよび352bは、組み合わされた状態で、加圧された気体Gが導入された内部空間Sを形成するように構成されている。シール部354は、たとえば、円環状のゴム(たとえば、Оリング)により形成されている。また、ケース部353aおよびケース部353bは、軸方向に見て、円環状に形成されている。また、ケース部353aおよびケース部353bは、周方向に見て、断面が略L字状に形成されている。また、ノズル251aは、ケース部353aに設けられた取り付け部353cに取り付けられている。なお、その他の製造装置300の構成は、第1実施形態による製造装置200の構成と同様である。
【0055】
(第2実施形態によるステータの製造方法)
次に、第2実施形態によるステータ100の製造方法について説明する。第2実施形態では、
図13のフロー図に示すように、ステップS7およびS8の代わりにステップS101およびS102が実行される。
【0056】
〈気体注入治具を配置する工程〉
ステップS101において、一対の気体注入治具352aおよび352bがステータコア10に配置される。具体的には、
図16に示すように、軸方向に2分割された一対の気体注入治具352aおよび352bのうちの少なくとも一方(たとえば、気体注入治具352aのみ)が、ステータコア10に対して軸方向に移動される。これにより、
図15に示すように、一対の気体注入治具352aおよび352bがバックヨーク部12の外周を覆うように配置され、かつ、ステータコア10の軸方向の端面10aおよび10bにシール部354がそれぞれ配置される。
【0057】
〈ステータコアを冷却する工程〉
ステップS102において、一対の気体注入治具352aおよび352bがバックヨーク部12の外周を覆うように配置された状態で、かつ、ステータコア10の軸方向の端面10aおよび10bにシール部354が配置された状態で、
図16に示すように、電磁鋼板11の隙間の空気層11aに気体Gが注入されることにより、ステータコア10が冷却される。
【0058】
詳細には、一対の気体注入治具352aおよび352bにより形成される内部空間Sに加圧された気体Gが導入され、バックヨーク部12の外周表面12bの全体から、各電磁鋼板11の隙間の空気層11aに気体Gが注入される。これにより、注入された気体Gは、バックヨーク部12内において径方向内側に進入する。そして、気体Gが電磁鋼板11の隙間に入ることにより、蓄熱した空気からなる空気層11aが複数の電磁鋼板11の隙間から追い出され、複数の電磁鋼板11の隙間の温度および隙間を構成する電磁鋼板11の温度が低下する。なお、第2実施形態による製造方法は、第1実施形態による製造方法と同様である。
【0059】
[上記実施形態の製造方法の効果]
上記実施形態の製造方法では、以下のような効果を得ることができる。
【0060】
上記実施形態では、複数の電磁鋼板(11)同士の積層方向の隙間(11a)に、加熱された電機子コア(10)の温度(T3)よりも低い温度(T4)を有する気体(G)を径方向から注入することにより、電機子コア(10)を冷却する。これにより、電機子コア(10)の外側表面(12b)に風を当てることにより電機子コア(10)を冷却する場合と異なり、隙間(11a)に蓄熱し停滞した空気層(11a)の空気と、隙間(11a)に注入された比較的温度が低い気体(G)とを入れ換えることができる。この結果、複数の電磁鋼板(11)の積層方向の隙間(11a)の温度を迅速に低下させることができるので、加熱された電機子コア(10)を冷却するための時間を短縮することができる。また、冷却するための時間を短縮することができる分、複数の電機子(100)を連続的に製造する場合には、複数の電機子コア(10)のうちの電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)が実施されている電機子コア(10)の数を削減することができる。これにより、複数の電機子コア(10)を冷却するための設備(240)を小型化することができる。
【0061】
また、上記実施形態では、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)は、加圧された気体(G)を、隙間(11a)に径方向から注入することにより、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)である。このように構成すれば、加圧された気体(G)を準備することにより、電磁鋼板(11)同士の隙間(11a)に容易に気体(G)を注入することができる。
【0062】
また、上記実施形態では、電機子コア(10)は、環状のヨーク部(12)と、ヨーク部(12)から径方向内側に延びる複数のティース部(13)とを含み、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)は、ヨーク部(12)の外周表面(12b)に隣接する位置において、加圧された気体(G)が導入されることにより、気圧が外部よりも高い内部空間(S)を形成する気体注入治具(252、352a、352b)を介して、隙間(11a)に気体(G)を注入することにより、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)である。このように構成すれば、比較的複雑な形状を有する複数のティース部(13)側から電磁鋼板(11)の隙間(11a)に気体(G)を注入する場合と異なり、比較的単純な形状を有するヨーク部(12)の外周表面(12b)から電磁鋼板(11)の隙間(11a)に気体(G)を注入することができる。また、上記実施形態のように、加圧した気体(G)を気体注入治具(252、352a、352b)に導入することにより、加圧された気体(G)を発生させる装置(251)から直接的に電磁鋼板(11)の隙間(11a)に気体(G)を注入する場合と異なり、気体注入治具(252、352a、352b)により容易に電磁鋼板(11)の隙間(11a)に気体(G)を注入することができる。
【0063】
また、上記実施形態では、気体注入治具(252、352a、352b)は、ヨーク部(12)の径方向外側の少なくとも一部を覆うケース部(253、353a、353b)と、内部空間(S)からの気体(G)の漏れを封止するためのシール部(254、354)とを含み、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)は、シール部(254、354)がケース部(253、353a、353b)とヨーク部(12)との径方向の間または軸方向の間に配置された状態で、隙間(11a)に気体(G)を注入することにより、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)である。このように構成すれば、気体注入治具(252、352a、352b)から気体(G)が漏れ出すのをシール部(254、354)により防止することができるので、加圧された気体(G)をより効率的に電磁鋼板(11)の隙間(11a)に注入することができる。
【0064】
また、上記第1実施形態では、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)は、シール部(254、354)に設けられた開口部(254a)を介して、隙間(11a)に気体(G)を注入することにより、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)である。このように構成すれば、一旦、電磁鋼板(11)の隙間(11a)に注入された気体(G)が、シール部(254、354)により電機子コア(10)の径方向外側に漏れ出すのを防止することができる。この結果、注入された気体(G)が電磁鋼板(11)の隙間(11a)を径方向に貫通するように通過させることができるので、効率的に電機子コア(10)を冷却することができる。
【0065】
また、上記第1実施形態では、電機子コア(10)を冷却する工程(S8)は、径方向に見て、開口部(254a)をスロット(14)にオーバーラップする位置に配置した状態で、開口部(254a)を介して、隙間(11a)に気体(G)を注入することにより、電機子コア(10)を冷却する工程(S8)である。このように構成すれば、注入され、ヨーク部(12)内を径方向に通過した気体(G)(冷気)を、スロット(14)内において通過させることができる。この結果、気体(G)が注入された電機子コア(10)の部分に加えて、スロット(14)を構成するヨーク部(12)の径方向内側の端面(12a)およびティース部(13)の周方向側面(13a)を冷却することができる。
【0066】
また、上記第1実施形態では、電機子コア(10)を冷却する工程(S8)は、開口部(254a)からの周方向の長さ(L11、L12)が、ヨーク部(12)の径方向の長さ(L2)の2分の1よりも大きい、シール部(254、354)を有する気体注入治具(252、352a、352b)を介して、隙間(11a)に気体(G)を注入することにより、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)である。このように構成すれば、一旦、電磁鋼板(11)の隙間(11a)に注入された気体(G)が電機子コア(10)の径方向外側に漏れ出すのを、比較的周方向の長さ(L11、L12)が大きいシール部(254、354)により効果的に防止することができる。
【0067】
また、上記第1実施形態では、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)は、開口部(254a)からの周方向の長さ(L11、L12)が、ヨーク部(12)の径方向の長さ(L2)よりも大きい、シール部(254、354)を有する気体注入治具(252、352a、352b)を介して、隙間(11a)に気体(G)を注入することにより、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)である。このように構成すれば、注入された気体(G)がヨーク部(12)を径方向に貫通する場合の距離(ヨーク部(12)の径方向の長さ(L2))よりも、シール部(254、354)の周方向の長さ(L11、L12)が大きくなるので、一旦、電磁鋼板(11)の隙間(11a)に注入された気体(G)が電機子コア(10)から径方向外側に漏れ出すのを、より一層防止することができる。
【0068】
また、上記第1実施形態では、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)は、開口部(254a)からの周方向の長さ(L12)が軸方向の長さ(L13)よりも大きい、シール部(254、354)を有する気体注入治具(252、352a、352b)を介して、隙間(11a)に気体(G)を注入することにより、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)である。このように構成すれば、一旦、電磁鋼板(11)の隙間(11a)に注入された気体(G)が周方向に移動して、電機子コア(10)から径方向外側に漏れ出すのを、比較的周方向の長さ(L11、L12)が大きいシール部(254、354)により、より効果的に防止することができる。
【0069】
また、上記第1実施形態では、電機子コア(10)を加熱する工程(S6)の後で、かつ、電機子コア(10)を冷却する工程(S8)に先立って、複数の気体注入治具(252)を等角度間隔でヨーク部(12)よりも径方向外側に配置する工程(S7)をさらに備える。このように構成すれば、複数の気体注入治具(252、352a、352b)を用いて、電機子コア(10)における複数の箇所を一斉に冷却することができるので、より一層冷却時間を短縮することができる。
【0070】
また、上記第2実施形態では、電機子コア(10)を冷却する工程(S102)は、気体注入治具(352a、352b)がヨーク部(12)の外周を覆うように配置された状態で、かつ、電機子コア(10)の軸方向端面(10a、10b)にシール部(354)が配置された状態で、隙間(11a)に気体(G)を注入することにより、電機子コア(10)を冷却する工程(S102)である。このように構成すれば、ヨーク部(12)の外周の全体から電磁鋼板(11)の各隙間(11a)に気体(G)を注入することができるので、環状の電機子コア(10)を略均一に冷却することができる。この結果、電機子コア(10)のうちの温度が低下するのが比較的遅い部分が生じるのを防止することができるので、電機子コア(10)の冷却時間を、より効果的に短縮することができる。
【0071】
また、上記第2実施形態では、電機子コア(10)を加熱する工程(S6)の後で、かつ、電機子コア(10)を冷却する工程(S102)に先立って、軸方向に2分割された一対の気体注入治具(352a、352b)のうちの少なくとも一方が、軸方向に移動されることにより、一対の気体注入治具(352a、352b)がヨーク部(12)の外周を覆うように配置され、かつ、電機子コア(10)の軸方向端面(10a、10b)にシール部(354)が配置されるように、一対の気体注入治具(352a、352b)を電機子コア(10)に配置する工程(S101)をさらに備える。ここで、気体注入治具(352a、352b)のケース部(353a、353b)とヨーク部(12)(軸方向端面(10a、10b))との軸方向の間にシール部(354)を配置する際に、気体注入治具(352a、352b)のケース部(353a、353b)を径方向に移動させた場合、ケース部(353a、353b)とシール部(354)とが機械的に干渉して、シール部(354)の径方向の配置位置がずれてしまうことが考えられる。これに対して、上記実施形態のように、軸方向に2分割された一対の気体注入治具(352a、352b)のうちの少なくとも一方を、軸方向に移動すれば、気体注入治具(352a、352b)のケース部(353a、353b)とヨーク部(12)(軸方向端面(10a、10b))との軸方向に間にシール部(254、354)を配置する際に、シール部(354)が径方向にずれてしまうことを防止することができる。この結果、ケース部(353a、353b)とヨーク部(12)(軸方向端面(10a、10b))との軸方向に間にシール部(354)を配置する場合でも、適切にシール部(354)を配置することができる。
【0072】
また、上記実施形態では、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)は、隙間(11a)に気体(G)を注入することに加えて、送風装置(260)により、加熱された電機子コア(10)の温度(T3)よりも低い温度(T5)を有する風(W)を当てることにより、電機子コア(10)を冷却する工程(S8、S102)である。このように構成すれば、隙間(11a)に気体(G)を注入することに加えて、送風装置(260)により電機子コア(10)を冷却することができるので、さらに電機子コア(10)を冷却するための時間を短縮することができる。
【0073】
[上記実施形態の構造の効果]
上記実施形態の製造方法では、以下のような効果を得ることができる。
【0074】
上記実施形態では、加熱された電機子コア(10)を冷却するための時間を短縮することが可能な電機子(100)の製造装置(200、300)を提供することができる。
【0075】
また、上記実施形態では、冷却部(240)は、電機子コア(10)の環状のヨーク部(12)に隣接する位置において、加圧された気体(G)が導入されることにより、気圧が外部よりも高い内部空間(S)を形成する気体注入治具(252、352a、352b)を含む。このように構成すれば、圧された気体(G)を発生させる装置(251)から直接的に電磁鋼板(11)の隙間(11a)に気体(G)を注入する場合と異なり、気体注入治具(252、352a、352b)により容易に電磁鋼板(11)の隙間(11a)に気体を注入することができる。
【0076】
[変形例]
なお、今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0077】
(第1変形例)
たとえば、上記実施形態では、加圧気体発生装置のノズルを、気体注入治具の軸方向の端部の取り付け部に設ける例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、
図17に示す第1変形例による気体注入治具452のように、ノズル251aが取り付けられる取り付け部453aは、気体注入治具452の径方向の端部(壁部)に設けられていてもよい。
【0078】
(第2変形例)
また、第2実施形態では、一対の気体注入治具をそれぞれ、周方向に見て略L字状に形成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、
図18に示す第2変形例による気体注入治具552aおよび552bのように、気体注入治具552aを周方向に見て、略S字状に形成するとともに、気体注入治具552aを周方向に見て、略I字状に形成してもよい。この場合、気体注入治具552aは、たとえば、円盤状に形成される。
【0079】
(その他の変形例)
また、上記実施形態では、ステータおよびステータの製造方法に、本発明を適用する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、ロータおよびロータの製造方法に、本発明を適用してもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、コイル部を複数の平角導線を接合することにより、形成する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、平角導線を複数回巻回することにより、コイル部を形成してもよい。
【0081】
また、上記実施形態では、加圧された気体を、複数の電磁鋼板の隙間に注入する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、複数の電磁鋼板の隙間を減圧することにより、気体を、複数の電磁鋼板の隙間に注入してもよい。
【0082】
また、上記実施形態では、気体を、径方向外側から複数の電磁鋼板の隙間に注入する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、気体を、径方向内側から複数の電磁鋼板の隙間に注入してもよい。
【0083】
また、上記第1実施形態では、径方向に見て、開口部をスロットにオーバーラップする位置に配置する例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、径方向に見て、開口部をティースにオーバーラップする位置に配置してもよい。
【0084】
また、上記実施形態では、複数の電磁鋼板の隙間に気体を注入することに加えて、送風装置により、加熱された電機子コアの温度よりも低い温度を有する風を当てる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、送風装置を設けないで、複数の電磁鋼板の隙間に気体を注入することのみにより、ステータコアを冷却してもよい。
【0085】
また、上記第2実施形態では、一対の気体注入治具をステータコアに配置する際に、一対の気体注入治具の一方のみをステータコアに対して軸方向に移動させる例を示したが、本発明はこれに限られない。たとえば、一対の気体注入治具の両方をステータコアに対して軸方向に移動させてもよい。
【符号の説明】
【0086】
10 ステータコア(電機子コア) 11 電磁鋼板
11a 空気層(隙間) 12 バックヨーク部(ヨーク部)
12b 外周表面 14 スロット
20 コイル部 100 ステータ
200、300 製造装置 210 加熱装置(加熱部)
240、340 冷却装置(冷却部)
252、352a、352b、452、552a、552b 気体注入治具
253、353a、353b ケース部
254、354 シール部
254a 開口部 260 送風装置