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特許7409895アルミニウムフィン材、熱交換器、および、アルミニウムフィン材の製造方法
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  • 特許-アルミニウムフィン材、熱交換器、および、アルミニウムフィン材の製造方法 図1A
  • 特許-アルミニウムフィン材、熱交換器、および、アルミニウムフィン材の製造方法 図1B
  • 特許-アルミニウムフィン材、熱交換器、および、アルミニウムフィン材の製造方法 図1C
  • 特許-アルミニウムフィン材、熱交換器、および、アルミニウムフィン材の製造方法 図1D
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  • 特許-アルミニウムフィン材、熱交換器、および、アルミニウムフィン材の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】アルミニウムフィン材、熱交換器、および、アルミニウムフィン材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 19/04 20060101AFI20231226BHJP
   F28F 1/12 20060101ALI20231226BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20231226BHJP
   F28F 13/18 20060101ALI20231226BHJP
   C23C 26/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
F28F19/04 Z
F28F1/12 G
F28F1/32 H
F28F13/18 A
F28F13/18 B
F28F13/18 Z
C23C26/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020022778
(22)【出願日】2020-02-13
(65)【公開番号】P2021127855
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】角田 亮介
(72)【発明者】
【氏名】館山 慶太
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-052184(JP,A)
【文献】特開2019-174088(JP,A)
【文献】特開2019-100675(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28F 19/04
F28F 1/12
F28F 1/32
F28F 13/18
C23C 26/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム板と、前記アルミニウム板の表面に形成された疎水性皮膜層と、前記疎水性皮膜層の表面に形成された親水性皮膜層と、を備え、
前記疎水性皮膜層は、アクリル樹脂とポリテトラフルオロエチレン粒子とを含み、
前記疎水性皮膜層に含まれる前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の少なくとも一部が、前記疎水性皮膜層に存在しつつも前記親水性皮膜層を貫通し、前記親水性皮膜層の表面から突出していることを特徴とするアルミニウムフィン材。
【請求項2】
前記親水性皮膜層から突出している前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の突出面積の比率(=前記突出面積/前記親水性皮膜層の表面の面積×100)は、0.1~30.0%であることを特徴とする請求項1に記載のアルミニウムフィン材。
【請求項3】
前記親水性皮膜層は、アクリル樹脂を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウムフィン材。
【請求項4】
前記親水性皮膜層の表面に形成された潤滑性皮膜層をさらに備え、
前記潤滑性皮膜層は、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩からなる群より選択される1種以上を含む樹脂組成物からなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウムフィン材。
【請求項5】
前記アルミニウム板と前記疎水性皮膜層との間に下地処理層をさらに備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のアルミニウムフィン材。
【請求項6】
請求項1または請求項2に記載のアルミニウムフィン材からなるフィンを備えることを特徴とする熱交換器。
【請求項7】
アクリル樹脂とポリテトラフルオロエチレン粒子とを含む疎水性皮膜層をアルミニウム板の表面に形成する工程と、
前記疎水性皮膜層の表面に親水性皮膜層を形成する工程と、を含み、
前記親水性皮膜層を形成する工程において、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の少なくとも一部が前記親水性皮膜層の表面から突出した状態とすることを特徴とするアルミニウムフィン材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムフィン材、熱交換器、および、アルミニウムフィン材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器は、ルームエアコン、パッケージエアコン、冷凍ショーケース、冷蔵庫、オイルクーラ、ラジエータなどの様々な分野の製品に用いられている。
そして、これらの熱交換器のフィンとして使用されるアルミニウムフィン材は、通風抵抗の低減、水飛びの防止の観点から、表面には親水性皮膜が形成されている。
【0003】
しかしながら、長年にわたって熱交換器を駆動させると、アルミニウムフィン材の親水性皮膜の表面に、大気中に浮遊している塵埃が付着してしまう。その結果、通風抵抗の増加、付着した塵埃を起点するカビの発生、熱交換器が居住環境に設置される場合は快適性の低下といった様々な問題が生じる可能性がある。
【0004】
そこで、アルミニウムフィン材に関して、塵埃の付着を防止する観点から、以下のような技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、フッ素樹脂粒子を焼付塗膜(親水性皮膜)中に含有させたアルミニウムフィン材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-90105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に係る技術は、焼付塗膜(親水性皮膜)にフッ素樹脂粒子を含有させる構成であるが、このような構成とすると、フッ素樹脂粒子自体の疎水性によって、親水性皮膜の親水性が低下してしまい、高いレベルの親水性を確保することは困難である。
【0007】
本発明は、前記問題に鑑みてなされたものであり、優れた親水性と防汚性とを発揮するアルミニウムフィン材、熱交換器、および、アルミニウムフィン材の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るアルミニウムフィン材は、アルミニウム板と、前記アルミニウム板の表面に形成された疎水性皮膜層と、前記疎水性皮膜層の表面に形成された親水性皮膜層と、を備え、前記疎水性皮膜層は、アクリル樹脂とポリテトラフルオロエチレン粒子とを含み、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の少なくとも一部が、前記親水性皮膜層の表面から突出している。
また、本発明に係る熱交換器は、本発明に係るアルミニウムフィン材からなるフィンを備える。
また、本発明に係るアルミニウムフィン材の製造方法は、アクリル樹脂とポリテトラフルオロエチレン粒子とを含む疎水性皮膜層をアルミニウム板の表面に形成する工程と、前記疎水性皮膜層の表面に親水性皮膜層を形成する工程と、を含み、前記親水性皮膜層を形成する工程において、前記ポリテトラフルオロエチレン粒子の少なくとも一部が前記親水性皮膜層の表面から突出した状態とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係るアルミニウムフィン材、および、熱交換器は、優れた親水性と防汚性とを発揮できる。
また、本発明に係るアルミニウムフィン材の製造方法は、優れた親水性と防汚性とを発揮できるアルミニウムフィン材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】アルミニウム板の表面に下地処理層が形成された状態のアルミニウムフィン材の断面模式図である。
図1B】下地処理層の表面に疎水性皮膜層が形成された状態のアルミニウムフィン材の断面模式図である。
図1C】疎水性皮膜層の表面に親水性皮膜層が形成された状態のアルミニウムフィン材の断面模式図である。
図1D】親水性皮膜層の表面に潤滑性皮膜層が形成された状態のアルミニウムフィン材の断面模式図である。
図2】走査電子顕微鏡を用いて得られたアルミニウムフィン材(試験材)の表面の画像である。
図3】親水性評価における接触角の測定方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明に係るアルミニウムフィン材(以下、適宜「フィン材」という)、熱交換器、アルミニウムフィン材の製造方法を実施するための形態について、詳細に説明する。
【0012】
[アルミニウムフィン材]
図1Dに示すように、本実施形態に係るフィン材10は、アルミニウム板1と、アルミニウム板1の表面に形成された疎水性皮膜層3と、疎水性皮膜層3の表面に形成された親水性皮膜層4と、を備える。また、本実施形態に係るフィン材10は、親水性皮膜層4の表面に形成された潤滑性皮膜層5をさらに備えていてもよい。また、本実施形態に係るフィン材10は、アルミニウム板1と疎水性皮膜層3との間に下地処理層2をさらに備えていてもよい。
そして、本実施形態に係るフィン材10の疎水性皮膜層3は、ポリテトラフルオロエチレン粒子(以下、適宜「PTFE粒子」とする)3aを含んでいる。このPTFE粒子3aの少なくとも一部は、図2の走査電子顕微鏡の画像から明らかなように、親水性皮膜層4および潤滑性皮膜層5の表面から突出している。つまり、図1に示すように、疎水性皮膜層3は、PTFE粒子3aとアクリル樹脂3bとを含んだ起伏のある層からなると推測される。そして、PTFE粒子3aの少なくとも一部が突出するように、この疎水性皮膜層3の上に親水性皮膜層4が形成されていると考えられる。言い換えると、PTFE粒子3aの少なくとも一部は、疎水性皮膜層3に存在しつつも親水性皮膜層4を貫通していると考えられる。
なお、本実施形態に係るフィン材10の各皮膜層は、通常、アルミニウム板10の両面側に形成されているが、一部または全部の皮膜層がアルミニウム板10の片面側にのみ形成されていてもよい。
以下、各構成について詳細に説明する。
【0013】
[アルミニウム板]
アルミニウム板は、純アルミニウムまたはアルミニウム合金からなる。そして、アルミニウム板としては、熱伝導性および加工性の観点から、JIS H 4000:2014に規定されている1000系のアルミニウムを好適に用いることができる。より具体的には、アルミニウム板として合金番号1050、1070、1200のアルミニウムが好ましく用いられる。
ただし、アルミニウム板として、適宜、2000系ないし9000系のアルミニウム合金を用いてもよい。
【0014】
アルミニウム板の板厚は、フィン材の用途や仕様などに応じて適宜決定すればよい。具体的には、アルミニウム板の板厚は、フィンへの加工性、フィンの強度、熱伝導性などを適切に確保する観点から、0.08mm以上0.3mm以下とするのが好ましい。アルミニウム板の板厚が0.08mm以上であれば、一般的なフィン材に求められる程度の強度を確保することができる。一方、アルミニウム板の板厚が0.3mm以下であれば、フィンへの加工性を確保することができる。
【0015】
[疎水性皮膜層]
疎水性皮膜層は、フィン材の疎水性を高め、防汚性を発揮させるための層である。また、疎水性皮膜層は、水分(結露水など)、酸素、塩化物イオンをはじめとするイオン種などのアルミニウム板側への浸入を予防し、アルミニウム板の腐食や臭気を発生するアルミ酸化物の生成などを抑制するという役割を果たす層である。
そして、疎水性皮膜層は、アクリル樹脂とPTFE粒子とを含む。
【0016】
(疎水性皮膜層:アクリル樹脂)
疎水性皮膜層に含まれるアクリル樹脂とは、アクリル酸・メタクリル酸、および、これらの誘導体を重合させたものである。
疎水性皮膜層は、後記するPTFE粒子を除くと主にアクリル樹脂によって構成される。そして、疎水性皮膜層におけるアクリル樹脂の含有量は、例えば、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0017】
(疎水性皮膜層:PTFE粒子)
疎水性皮膜層に含まれるPTFE粒子(polytetrafluoroethylene粒子)とは、テトラフルオロエチレンの重合体の樹脂からなる粒子である。
そして、このPTFE粒子は、少なくとも一部が後記する親水性皮膜層の表面から突出するような状態となっている。
【0018】
(疎水性皮膜層:PTFE粒子の突出状態)
図1Cに示すように、PTFE粒子3aの少なくとも一部が親水性皮膜層4の表面から突出するような状態となっていることによって、この突出部分がフィン材10に対する塵埃の付着を防止し、優れた防汚性を発揮することができる。
なお、図1Dに示すように、親水性皮膜層4の表面だけでなく潤滑性皮膜層5の表面からもPTFE粒子3aが突出するような状態となっていてもよいが、フィン(熱交換器)として使用される際には、潤滑性皮膜層5は除去されている。よって、少なくとも親水性皮膜層4の表面からPTFE粒子3aが突出している状態となっていれば、優れた防汚性は十分に確保される。
【0019】
(疎水性皮膜層:PTFE粒子の突出面積の割合)
親水性皮膜層から突出しているPTFE粒子の突出面積の比率(親水性皮膜層表面の上面視においてPTFE粒子が突出している部分の面積の比率)、より具体的には、「PTFE粒子の突出面積/親水性皮膜層の表面の面積×100」は、0.1%以上が好ましく、0.3%以上、0.8%以上、1.0%以上、1.2%以上がより好ましい。PTFE粒子の突出面積の比率が所定値以上であることによって、防汚性を向上させることができる。
また、PTFE粒子の突出面積の比率は、30.0%以下が好ましく、29.0%以下、25.0%以下、20.0%以下、15.0%以下、14.0%以下がより好ましい。PTFE粒子の突出面積の比率が所定値以下であることによって、親水性の低下を回避することができる。
なお、PTFE粒子の突出面積は、走査電子顕微鏡(SEM)を用いて測定することができる。そして、PTFE粒子の突出面積の割合は、その突出面積と、測定対象とした親水性皮膜層の全面積に基づいて算出することができる。
【0020】
(疎水性皮膜層:PTFE粒子の含有量)
疎水性皮膜層におけるPTFE粒子の含有量は、0.05質量%以上が好ましく、0.10質量%以上、0.25質量%以上、0.30質量%以上がより好ましい。PTFE粒子の含有量が所定値以上であることによって、優れた防汚性を発揮することができる。
また、疎水性皮膜層におけるPTFE粒子の含有量は、10.00質量%以下が好ましく、8.00質量%以下、6.00質量%以下、4.00質量%以下、2.50質量%以下、1.50質量%以下が好ましい。PTFE粒子の含有量が所定値を超えると、PTFE粒子に基づく疎水性が向上し過ぎてしまい、親水性が低下してしまうおそれがある。
【0021】
PTFE粒子の平均粒子径(粒子径は面積円相当径)は、特に限定されないものの、例えば、0.1μm以上5μm以下であるのが好ましく、0.5μm以上3μm以下であるのがより好ましい。
なお、PTFE粒子の粒子径は、走査電子顕微鏡(SEM)や電子線マイクロアナライザ(EPMA)によって測定することができる。
【0022】
(疎水性皮膜層:皮膜量)
疎水性皮膜層の皮膜量は、0.05mg/dm以上が好ましく、0.08mg/dm以上、0.10mg/dm以上がより好ましい。疎水性皮膜層の皮膜量が所定値以上であることによって、より優れた防汚性を発揮することができる。
また、疎水性皮膜層の皮膜量は、8.00mg/dm以下が好ましく、6.00mg/dm以下、5.00mg/dm以下がより好ましい。疎水性皮膜層の皮膜量が所定値を超えると、親水性が低下するおそれがあり、高いレベルの親水性を確保できなくなる可能性がある。
なお、疎水性皮膜層の大半が前記したアクリル樹脂とPTFE粒子で構成されることから、疎水性皮膜層の皮膜量とは、アクリル樹脂とPTFE粒子の形成量と言い換えることもできる。
【0023】
疎水性皮膜層の皮膜量は、疎水性皮膜層の成膜に用いる塗料組成物の濃度や、成膜に用いるバーコーターNo.の選択などによって調整することができる。また、疎水性皮膜層の皮膜量は、蛍光X線、赤外膜厚計、皮膜剥離による質量測定などで測定することが可能である。
なお、後記する親水性皮膜層および潤滑性皮膜層の皮膜量の調整方法、ならびに、測定方法は、前記した疎水性皮膜層と同様である。
【0024】
[親水性皮膜層]
親水性皮膜層は、フィン材の親水性を高めるための層である。親水性皮膜層が設けられることによって、フィン材の表面に付着する結露水の接触角が小さくなり、熱交換器の熱交換効率が悪化し難くなる。また、親水性が高められることによって、フィン材の表面に付着した結露水の流動性も高くなる。よって、フィン材の表面に汚染物質が付着したとしても、結露水によって容易に洗い落とされるようになり、汚染物質の除去性も向上する。
そして、親水性皮膜層は、アクリル樹脂を含むのが好ましい。
【0025】
(親水性皮膜層:アクリル樹脂)
親水性皮膜層に含まれるアクリル樹脂とは、疎水性皮膜層のアクリル樹脂と同様、アクリル酸・メタクリル酸、および、これらの誘導体を重合させたものである。
親水性皮膜層は、主にアクリル樹脂によって構成される。そして、親水性皮膜層におけるアクリル樹脂の含有量は、例えば、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましい。
【0026】
(親水性皮膜層:皮膜量)
親水性皮膜層の皮膜量は、0.5mg/dm以上が好ましく、1mg/dm以上、2mg/dm以上、3mg/dm以上がより好ましい。親水性皮膜層の皮膜量が所定値以上であることによって、良好な親水性を確保することができる。
また、親水性皮膜層の皮膜量は、10mg/dm以下が好ましく、8mg/dm以下、6mg/dm以下がより好ましい。親水性皮膜層の皮膜量が所定値以下であることによって、成膜性が良く、割れなどの欠陥が低減されるとともに、伝熱抵抗が低く抑えられるのでフィンの熱交換効率が損なわれ難い。
なお、親水性皮膜層の大半がアクリル樹脂で構成されることから、親水性皮膜層の皮膜量とは、アクリル樹脂の皮膜量(形成量)と言い換えることもできる。
【0027】
[潤滑性皮膜層]
潤滑性皮膜層は、フィン材の表面の潤滑性を高めるための層である。潤滑性皮膜層が設けられることによって、フィン材の表面の摩擦係数が低減され、フィン材をフィンに加工するときのプレス成形性などが向上する。
【0028】
潤滑性皮膜層は、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩からなる群より選択される1種以上を含む樹脂組成物からなる。ただし、潤滑性皮膜層に用いる樹脂としては、これらに限定されるものではない。カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などが挙げられる。これらの樹脂は、他の単量体との共重合などにより、ウレタン変性、アルキル変性などの公知の改質が施されていてもよい。これらの中でも特に好ましい樹脂は、ポリエチレングリコールとカルボキシメチルセルロースナトリウムとの混成の樹脂である。ポリエチレングリコールとカルボキシメチルセルロースナトリウムとの質量比は、5:5から9:1の範囲とすることが好ましい。このような組成の樹脂によると、成膜性や潤滑性が一層良好となる。
【0029】
(潤滑性皮膜層:皮膜量)
潤滑性皮膜層の皮膜量は、0.1mg/dm以上が好ましく、0.3mg/dm以上、0.5mg/dm以上、0.8mg/dm以上が好ましい。潤滑性皮膜層の皮膜量が所定値以上であることによって、良好な潤滑性が得られる。
また、潤滑性皮膜層の皮膜量は、5mg/dm以下が好ましく、3mg/dm以下、2mg/dm以下、1.5mg/dm以下が好ましい。潤滑性皮膜層の皮膜量が所定値以下であることによって、伝熱抵抗を低く抑えることができる。
【0030】
[下地処理層]
下地処理層は、無機酸化物または無機-有機複合化合物からなる。アルミニウム板上に下地処理層が設けられることによって、アルミニウム板の耐食性が高められる。また、アルミニウム板と外側に配される皮膜層との密着性が良くなる。
【0031】
無機酸化物としては、主成分としてクロム(Cr)またはジルコニウム(Zr)を含むものが好ましい。このような無機酸化物の具体例としては、リン酸クロメート処理、リン酸ジルコニウム処理、クロム酸クロメート処理、リン酸亜鉛処理、リン酸チタン酸処理などによって形成されるものが挙げられる。ただし、無機酸化物の種類は、これらの処理で形成されるものに限定されない。
【0032】
無機-有機複合化合物としては、例えば、塗布型クロメート処理や、塗布型ジルコニウム処理などによって形成されるものが挙げられる。このような無機-有機複合化合物の具体例としては、例えば、アクリル-ジルコニウム複合体などが挙げられる。
【0033】
下地処理層の付着量(CrやZrなどの金属元素の質量に換算した付着量)は、1mg/m以上が好ましく、5mg/m以上がより好ましい。下地処理層の付着量が所定値以上であることによって、良好な耐食性を発揮することができる。また、下地処理層の付着量は、100mg/m以下が好ましく、80mg/m以下がより好ましい。
なお、下地処理層の厚さは、フィン材の用途などに応じて適宜の厚さにしてよいが、1nm以上100nm以下とすることが好ましい。
【0034】
下地処理層の付着量は、下地処理層の成膜に用いる化成処理液の濃度や、成膜処理時間を調節することによって調整することができる。また、下地処理層の付着量や厚さは、蛍光X線、赤外膜厚計、溶出による質量測定などで測定することが可能である。
【0035】
[熱交換器]
本実施形態に係る熱交換器は、前記したフィン材からなるフィンを備える。そして、本実施形態に係る熱交換器は、例えば、ルームエアコン、パッケージエアコン、冷凍ショーケース、冷蔵庫、オイルクーラ、ラジエータなどに適用することができる。
なお、本実施形態に係る熱交換器のフィン以外の構成は、前記の各製品に対応した構成であって、従来公知の熱交換器と同様の構成であればよい。
【0036】
[アルミニウムフィン材の製造方法]
次に、本実施形態に係るアルミニウムフィン材の製造方法について説明する。
本実施形態に係るアルミニウムフィン材の製造方法は、基板製造工程と、皮膜層形成工程と、を含む。
【0037】
(基板製造工程)
基板製造工程では、アルミニウムまたはアルミニウム合金からなるアルミニウム板を製造する。例えば、地金を溶解し、溶湯を任意形状に凝固させて、Alなどの化学成分を所定量含有する鋳塊を得る。そして、鋳塊を必要に応じて面削し、熱間圧延や冷間圧延を施すことによってアルミニウム板を得る。なお、アルミニウム板を製造するにあたっては、鋳塊に均質化熱処理を施してもよいし、圧延時に中間焼鈍を行ってもよい。また、圧延された板材に、溶体化熱処理、調質などを施してもよい。
【0038】
(皮膜層形成工程)
皮膜層形成工程では、アルミニウム板の表面に皮膜層を形成する。詳細には、アルミニウム板の表面に必要に応じて洗浄や脱脂を施した後、清浄なアルミニウム板の表面に、下地処理層、疎水性皮膜層、親水性皮膜層、潤滑性皮膜層などの各皮膜層を順に成膜する。
なお、図1A~1Dは、皮膜層形成工程の流れを示しており、図1Aは、アルミニウム板1の表面に下地処理層2を形成した状態、図1Bは、下地処理層2の表面に疎水性皮膜層3を形成した状態、図1Cは、疎水性皮膜層3の表面に親水性皮膜層4を形成した状態、図1Dは、親水性皮膜層4の表面に潤滑性皮膜層5を形成した状態である。
【0039】
そして、図1Bから図1Cの工程は、親水性皮膜層4を形成する工程を示しているが、この工程において、ポリテトラフルオロエチレン粒子3aの少なくとも一部が親水性皮膜層4の表面から突出した状態とすることとなる。
ここで、「ポリテトラフルオロエチレン粒子3aの少なくとも一部が親水性皮膜層4の表面から突出した状態とする」態様としては、図1Cに示す状態となるように親水性皮膜層4の形成量を事前に調整して塗料組成物を塗布する態様だけでなく、親水性皮膜層4を形成した後に事後的に図1Cに示す状態とする態様も挙げられる。つまり、この親水性皮膜層4を形成する工程では、最終的に、図1Cに示すような状態(ポリテトラフルオロエチレン粒子3aの少なくとも一部が親水性皮膜層4の表面から突出した状態)となっていればよい。
【0040】
下地処理層は、化成処理液をスプレーなどで塗布したり、化成処理液にアルミニウム板を浸漬させたりした後、加熱乾燥させることによって形成することができる。
また、疎水性皮膜層、親水性皮膜層、潤滑性皮膜層は、各皮膜層用の樹脂等を溶媒に分散させて塗料組成物を得た後、その塗料組成物を、バーコーター、ロールコーターなどの塗布装置を用いて塗布し、焼付けを行うことにより成膜することができる。なお、前記した構成のアルミニウムフィン材を製造するため、疎水性皮膜層用の塗料組成物にはPTFE粒子を含有させる一方、親水性皮膜層用の塗料組成物にはPTFE粒子を含有させない。
そして、各皮膜層の塗装焼付け温度は、通常、100℃以上300℃以下の範囲で行えばよいが、疎水性皮膜層用の塗料組成物にはPTFE粒子を配合させていることから、PTFE粒子が分解しない塗装焼付け温度(例えば、100℃以上280℃以下)が好ましい。
【0041】
なお、皮膜層形成工程において使用する各皮膜を形成するための塗料組成物は、それぞれ前記した樹脂や粒子等のみに限られず、塗装性や作業性や塗膜物性等を考慮し、各種の水系溶媒や塗料添加物を添加してもよく、例えば、水溶性有機溶剤、架橋剤、界面活性剤、表面調整剤、湿潤分散剤、沈降防止剤、酸化防止剤、消泡剤、防錆剤、抗菌剤、防カビ剤等の各種の溶剤や添加剤を、単独でまたは複合して配合してもよい。
以上の工程を経ることにより、本実施形態に係るアルミニウムフィン材を製造することが可能である。
【実施例
【0042】
次に、本発明に係るアルミニウムフィン材について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。なお、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0043】
[試験材の作製]
アルミニウム板として、JIS H 4000:2014に規定されている合金番号1070の規格であって、厚さが0.1mmのアルミニウム板を使用した。このアルミニウム板の表面にリン酸クロメート処理を施して、下地処理層を形成した。なお、下地処理層の付着量は30mg/mであった。
そして、下地処理層の表面に疎水性皮膜層、親水性皮膜層、潤滑性皮膜層を、この順に形成させた。
【0044】
疎水性皮膜層は、塗料組成物を下地処理層の表面にバーコーターで塗布し、250℃以下で焼き付けることによって、皮膜量が1mg/dmの層を形成させた。
なお、試験材No.1~3、5~7の塗料組成物としては、溶媒に対して、アクリル樹脂と、層形成後の含有量が表に示す値となるように各フッ素樹脂粒子(平均粒子径:約0.1~1.0μm)と、を混合させたものを使用した。一方、試験材No.4、8の塗料組成物は、試験材No.1~3、5~7の塗料組成物と比較すると、フッ素樹脂粒子を含有させていない点のみ異なっていた。
【0045】
親水性皮膜層は、塗料組成物を疎水性皮膜層の表面にバーコーターで塗布し、250℃で焼き付けることによって、皮膜量が4mg/dmの層を形成させた。
なお、試験材No.1~7の塗料組成物としては、溶媒に対して、アクリル樹脂を混合させたものを使用した。一方、試験材No.8の塗料組成物は、試験材No.1~7の塗料組成物と比較すると、層形成後の含有量が0.35wt%となるようにPTFE粒子(平均粒子径:約0.1~1.0μm)を含有させた点のみ異なっていた。
【0046】
潤滑性皮膜層は、塗料組成物を親水性皮膜層の表面にバーコーターで塗布し、250℃で焼き付けることによって、皮膜量が1mg/dmの層を形成させた。
なお、試験材No.1~8の塗料組成物としては、溶媒に対して、ポリエチレングリコールを含有する樹脂を混合させたものを使用した。
【0047】
次に、作製した試験材について、以下の測定を実施した。
[突出面積の比率の測定]
走査電子顕微鏡(SEM)で図2に示すような試験材の表面の画像を取得し、この画像に基づいて、フッ素樹脂粒子の突出面積を求めた。そして、「画像におけるフッ素樹脂粒子の突出面積/画像全体の面積×100」によって、親水性皮膜層から突出しているフッ素樹脂粒子の突出面積の比率を算出した。
ここで、試験材は潤滑性皮膜層を備えることから、厳密には、潤滑性皮膜層から突出しているフッ素樹脂粒子の突出面積の比率を算出している。しかしながら、潤滑性皮膜層は極めて薄いため、潤滑性皮膜層から突出しているフッ素樹脂粒子の突出面積の比率と、親水性皮膜層から突出しているフッ素樹脂粒子の突出面積の比率とは、略同じ値となる。
なお、試験材No.8は、そもそも疎水性皮膜層にフッ素樹脂粒子を含有させなかったことから、突出面積の比率の測定を実施しなかった。
【0048】
次に、作製した試験材について、以下の評価を実施した。
[親水性評価]
作製した試験材について、流量0.1L/分の水道水でオーバーフローさせている水槽に8時間浸漬させた後、80℃で16時間乾燥させる操作を1サイクルとし、このサイクルを計14サイクル繰り返した。そして、試験材を室温に戻した後、評価面が上方を向くように水平に設置し、評価面に約0.5μLの純水を滴下し、接触角測定器(協和界面科学社製:CA-05型)を用いて接触角を測定した。
なお、図3に示すように、接触角θとは、試験材Tと水滴Wとのなす角である。
そして、下記の評価基準にしたがって親水性を判定した。
【0049】
(親水性:評価基準)
〇 良好 :接触角が40°以下である。
△ 概ね良好 :接触角が40°を超え60°未満である。
× 不良 :接触角が60°以上である。
【0050】
[防汚性評価]
作製した試験材の表面に対して、JISZ8901:2006で規定されている試験用粉体11種(関東ローム)、12種(カーボンブラック)のそれぞれを付着させた。
各粉体を試験材の表面に付着させた後、各試験材の表面の画像を撮影し、得られた画像に基づいて、関東ロームとカーボンブラックとの付着量の評価を5段階(5点:付着量が非常に多い、1点:付着量が非常に少ない)で実施した。
そして、防汚性については、カーボンブラックに関する点数と関東ロームに関する点数が、いずれも3点以下のものを良好(〇)と判断し、それ以外のものを不良(×)と判断した。
【0051】
表1に作製した試験材の構成、各評価結果を示す。
なお、前記した各皮膜層の皮膜量は、蛍光X線によって測定した値である。また、表1に示したフッ素樹脂粒子の含有量は、各皮膜層用の塗料組成物に用いたアクリル樹脂とフッ素樹脂粒子の添加量から算出した値である。また、使用したフッ素樹脂粒子の粒径は、SEMによって測定した値である。
【0052】
【表1】
【0053】
試験材No.1、5~7については、本発明の規定する要件を満たしていた。よって、試験材No.1、5~7は、「親水性」と「防汚性」との両方について好ましい結果が得られた。その中でも、試験材No.1、5~6は、「親水性」と「防汚性」との両方について非常に好ましい結果が得られた。
【0054】
一方、試験材No.2~4、8については、本発明の規定する要件を満たさないことから、親水性および防汚性の少なくとも一方について好ましくない結果が得られた。
【0055】
試験材No.2は、疎水性皮膜層に含まれるフッ素樹脂粒子が所定のものでなく、親水性皮膜層からフッ素樹脂粒子が突出しなかったことから、防汚性が不良という結果となった。
試験材No.3は、疎水性皮膜層に含まれるフッ素樹脂粒子が所定のものでなく、親水性皮膜層からフッ素樹脂粒子が突出しなかったことから、防汚性が不良という結果となった。
試験材No.4は、疎水性皮膜層に所定のフッ素樹脂粒子を含んでいなかったことから、防汚性が不良という結果となった。
試験材No.8は、親水性皮膜層に所定のフッ素樹脂粒子を含有していたものの、疎水性皮膜層に所定のフッ素樹脂粒子を含有していなかったことから、言い換えると、表層に近い親水性皮膜層にフッ素樹脂粒子を含有していたことから、親水性が不良という結果となった。
【0056】
そして、試験材No.1~3の結果を比較すると、以下の技術的事項が推察される。
試験材No.1は、疎水性皮膜層として「アクリル樹脂」と「PTFE粒子」とを含有させたことによって、このPTFE粒子が適度に凝集し、比較的大きなサイズの凝集粒子となったと推察する。その結果、図1に示すような大きなサイズのPTFE粒子3a(凝集粒子)となり、このPTFE粒子3aが親水性皮膜層4および潤滑性皮膜層5の表面から突出する状態(具体的には、図2に示すような状態)となったと推察する。
一方、試験材No.2、3は、疎水性皮膜層として「アクリル樹脂」と「ポリフッ化ビニリデン」または「アクリル樹脂複合化-ポリフッ化ビニリデン」を用いたが、これらのフッ素樹脂粒子は、PTFE粒子と異なり、凝集することなく小さなサイズのままであったと推察する。その結果、試験材No.2、3における各フッ素樹脂粒子は、親水性皮膜層および潤滑性皮膜層から突出することなく、表1に示すように突出面積が0%という結果となったと推察する。
つまり、試験材No.1~3の結果に基づくと、疎水性皮膜層の構成として「アクリル樹脂」と「PTFE粒子」との組み合わせが、本発明の効果(特に、優れた防汚性)を発揮する点において、非常に重要であることが確認できた。
【符号の説明】
【0057】
1 アルミニウム板
2 下地処理層
3 疎水性皮膜層
3a ポリテトラフルオロエチレン粒子(PTFE粒子)
3b アクリル樹脂
4 親水性皮膜層
5 潤滑性皮膜層
10 フィン材
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3