(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】防振構造
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20231226BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
F16F15/02 C
E04H9/02 351
E04H9/02 341A
(21)【出願番号】P 2020038340
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2023-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100161506
【氏名又は名称】川渕 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(72)【発明者】
【氏名】磯田 和彦
【審査官】正木 裕也
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-240839(JP,A)
【文献】特開2008-082542(JP,A)
【文献】特開2009-085362(JP,A)
【文献】特開2018-003441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造体と、
前記構造体の上に設けられた第1ばね要素と、
前記第1ばね要素を介して前記構造体の上に設けられた第1振動体と、
前記第1振動体の上に設けられた第2ばね要素と、
前記第2ばね要素を介して前記第1振動体の上に設けられた第2振動体と、
前記構造体と前記第1振動体との間に前記第1ばね要素と並列に設けられた慣性質量装置と、を有し、
前記第1振動体の質量
M
1
は、前記第2振動体の質量
M
2
以上に設定され、
前記第1ばね要素のばね剛性
k
1
は、前記第2ばね要素のばね剛性
k
2
よりも小さく設定され、
前記第2振動体上からの加振力Fに対する基礎反力Rの比率R/Fを反力倍率とし、
前記反力倍率を大きく低下させたい特定の振動数領域の下限振動数をf
min
とし、上限振動数をf
max
とすると、下式(1)の関係となり、
前記慣性質量装置の慣性質量は、下式
(2)のように設定されることを特徴とする防振構造。
【数1】
【請求項2】
前記構造体と前記第1振動体との間に前記第1ばね要素と並列に設けられた第1減衰要素を有することを特徴とする請求項1に記載の防振構造。
【請求項3】
前記第1振動体と前記第2振動体との間に前記第2ばね要素と並列に設けられた第2減衰要素を有することを特徴とする請求項1または2に記載の防振構造。
【請求項4】
前記慣性質量装置は、回転慣性質量ダンパであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の防振構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防振構造に関する。
【背景技術】
【0002】
音楽ライブホールやダンススタジオ等の施設では、多人数客の屈伸運動による鉛直振動(いわゆるタテノリ振動)が生じることがあり、これに対応するため当該部分の床を構造躯体と絶縁した浮き床とする防振構造が知られている(例えば、特許文献1-3参照)。このような防振構造では、構造躯体を部分的に凹ませ、凹ませた凹部にばね支持された浮き床を設けている。
【0003】
浮き床は、構造躯体に対して鉛直方向にばね支持されている。タテノリ振動で振動障害が問題となる振動数は概ね2~3.5Hzとされていることから、一般的には浮き床の鉛直固有振動数を1Hz程度とし、浮き床の通常使用時の鉛直変位が1~2cm程度以下となるように浮き床の質量とばねの諸元を設定している。
しかし、固有振動数が1Hzの一般的な浮き床では、タテノリ加振振動数が2Hzであると加振力の1/3以上が浮き床を支持する構造躯体に伝達され、大幅な防振効果は期待できない。
【0004】
特許文献1に開示された防振構造では、慣性質量装置を支持ばねと並列に設置している。これにより、タテノリ振動での振動障害が問題となる振動数2~4Hzで基礎(構造躯体)に伝達される加振力を概ね1/10以下とすることができ、大幅な防振効果が期待できる。
【0005】
図8に示す防振構造100において、浮き床103上からの加振力Fに対する基礎反力Rの比率R/Fを反力倍率とし、加振振動数fと反力倍率R/Fとの関係(振動数伝達関数)を
図7に示す。
図8では、構造躯体を符号102、支持ばねkを符号105、減衰要素cを符号107、慣性質量ψを符号109で示している。慣性質量を追加することで、遮断振動数を含む加振振動数2~3Hzの反力が大きく低減され、2~4Hzで反力倍率R/Fが概ね1/10以下になることがわかる。振動数伝達関数は、調和振動(正弦波振動)を対象として、加振力の振幅に対する反力の振幅比を振動数毎に下記条件でプロットしたものである。なお、各諸元の単位系は、質量及び慣性質量がton、変位がmm、ばね剛性がkN/mm、加振力と反力がkN、減衰係数がkNm/sec、時間がsec、振動数がHz、減衰定数および比や倍率については単位のつかない無名数(無次元量)である。
【0006】
【0007】
ここでは、共振時の過大な応答を抑制するため、減衰定数h=0.05の減衰要素を付加した防振構造のモデルに対して検討する。
浮き床の固有振動数f0は、以下のように設定する。
【0008】
【0009】
特許文献2に開示された防振構造では、浮き床を上下2段構造としている。特許文献2に開示された防振構造では、構造体の上に、第1支持ばねを介して第1浮き床を設け、第1浮き床の上に第2支持ばねを介して第2浮き床を設けた積層構成とする。第1浮き床と構造体との間に、第1支持ばねと並列に回転慣性質量装置を設けている。第2支持ばねのばね定数と第1浮き床の質量とにより設定される固有振動数と、第1支持ばねのばね定数と回転慣性質量装置による回転慣性質量とにより設定される固定振動数を、いずれも所定の振動数に一致させ、この振動数において反力倍率を大きく低下させている。
【0010】
そこで、出願人は、特許文献3に開示されているように、浮き床を上下2段構造として、特定の振動数領域で反力倍率を大きく低下させつつ、高振動数領域でも従来の浮き床に比べ反力倍率を増大させない防振構造を提案している。
【0011】
その防振構造は、具体的には、構造体基礎の上に、第1支持ばねを介して第1浮き床を設け、第1浮き床の上に第2支持ばねを介して第2浮き床を設けた積層構成とする。第1浮き床と基礎との間に、第1支持ばねと並列にした減衰要素を設けることで、共振時の応答を低減することができる。また、第1浮き床と第2浮き床との間に、第2支持ばねと並列に慣性質量装置を設けることで、特定の振動数領域で反力倍率を大きく低下させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2008-082541号公報
【文献】特開2009-085362号公報
【文献】特願2019-219599号(本願出願時は未公開)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に開示された防振構造では、
図7に示すように、高振動数領域(例えば3.5Hz以上)では、慣性質量装置があるケースの方が、慣性質量装置が無いケースよりも反力倍率が大きくなり、防振効果が劣ってしまうという問題がある。
また、特許文献2に開示された防振構造では、特定の振動数では反力倍率を大きく低下させることができるが、この振動数と異なる振動数で加振された場合には、反力倍率を大きく低下させることができないという問題がある。
【0014】
特許文献3に開示された防振構造では、反力低減効果については優れた防振特性が得られるが、タテノリ振動が問題となる振動数帯域で従来の浮き床よりも変位振幅(上下の揺れ)が大きくなるという課題がある。浮き床の変位振幅が大きくなると、浮き床(第2浮き床)の上にいる観客が違和感を覚える懸念がある。
【0015】
そこで、本発明は、特定の振動数領域において反力倍率と変位振幅の両方を大幅に低減できる防振構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明に係る防振構造は、構造体と、前記構造体の上に設けられた第1ばね要素と、前記第1ばね要素を介して前記構造体の上に設けられた第1振動体と、前記第1振動体の上に設けられた第2ばね要素と、前記第2ばね要素を介して前記第1振動体の上に設けられた第2振動体と、前記構造体と前記第1振動体との間に前記第1ばね要素と並列に設けられた慣性質量装置と、を有し、前記第1振動体の質量は、前記第2振動体の質量以上に設定され、前記第1ばね要素のばね剛性は、前記第2ばね要素のばね剛性よりも小さく設定され、前記慣性質量装置の慣性質量は、下式のように設定されることを特徴とする。
【数3】
【0017】
本発明では、特定の振動数領域では、反力倍率(第2振動体上からの加振力Fに対する基礎反力Rの比率R/F)を大きく低下させつつ、加振される床の変位倍率(加振力Fが静的に作用したときの変位v0に対する加振時の変位振幅vの比率v/v0)も大幅に低減できる。
本発明では、反力倍率が極小となる遮断振動数は、慣性質量装置の慣性質量ψ1と第1ばね要素のばね剛性k1とで決定される。変位振幅が極小となる係留振動数は、第1振動体の質量M1、慣性質量装置の慣性質量ψ1、第1ばね要素のばね剛性k1および第2ばね要素のばね剛性k2で決定される。遮断振動数および係留振動数は、いずれも第2振動体の質量M2により変化しない。このため、例えば、第2振動体となる上部床(上側の第2浮き床)の重量や観客数が増減して第2振動体の質量が変化しても防振特性(特に効果的となる振動数)は、維持される。また、第1振動体の質量を第2振動体の質量以上として第1ばね要素のばね剛性を第2ばね要素のばね剛性より小さくし、遮断振動数および係留振動数を個別に定義することにより、応答低減効果を発揮する振動数範囲を広くすることができる。
第2ばね要素は、第2振動体の質量を支持するだけであるため、第1振動体の質量および第2振動体の質量の両方を支持する第1ばね要素より支持荷重が小さい。また、第2ばね要素のばね剛性k2は、第1ばね要素のばね剛性k1よりも大きく設定されるため、第2ばね要素の撓みは第1ばね要素の撓みよりも小さくなり、第1ばね要素よりも軽微で安価なばねを用いることができる。
【0018】
また、本発明に係る防振構造では、前記構造体と前記第1振動体との間に前記第1ばね要素と並列に設けられた第1減衰要素を有していてもよい。
このような構成とすることにより、共振時の応答を低減させることができる。
【0019】
また、本発明に係る防振構造では、前記第1振動体と前記第2振動体との間に前記第2ばね要素と並列に設けられた第2減衰要素を有していてもよい。
このような構成とすることにより、装置の摩擦抵抗を評価するとともに高振動数時の応答を低減させることができる。
【0020】
また、本発明に係る防振構造では、前記慣性質量装置は、回転慣性質量ダンパであってもよい。
このような構成とすることにより、慣性質量装置の小型化を図ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、特定の振動数領域において反力倍率と変位振幅の両方を大幅に低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態による防振装置の一例を示す模式図である。
【
図3】本実施形態による防振構造の加振振動数と反力倍率との関係を示すグラフである。
【
図4】本実施形態による防振構造の加振振動数と変位倍率との関係を示すグラフである。
【
図5】本実施形態による防振構造において第2浮き床の質量を2倍とした加振振動数と反力倍率との関係を示すグラフである。
【
図6】本実施形態による防振構造において第2浮き床の質量を2倍とした加振振動数と変位倍率との関係を示すグラフである。
【
図7】従来の防振構造の加振振動数と反力倍率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態による防振構造について、
図1-
図6に基づいて説明する。
図1に示すように、本実施形態による防振構造1は、構造体2と、構造体2の上方に設置された第1浮き床3(第1振動体)と、第1浮き床3の上方に設置された第2浮き床4(第2振動体)と、構造体2と第1浮き床3との間に介在する第1支持ばね5(第1ばね要素)と、第1浮き床3と第2浮き床4との間に介在する第2支持ばね6(第2ばね要素)と、構造体2と第1浮き床3との間に介在する第1減衰要素7と、構造体2と第1浮き床3との間に介在する慣性質量装置8と、第1浮き床3と第2浮き床4との間に介在する第2減衰要素9と、を有している。
本実施形態による防振構造1は、例えば、大規模な音楽ホールなどの建物に採用され、第2浮き床4の上部に人や物が載るようになっている。防振構造1では、第2浮き床4の上部で多人数客が曲に合わせて屈伸運動するなどして第2浮き床4が加振された際に、第2浮き床4に鉛直振動(いわゆるタテノリ振動)が生じることを想定している。
【0024】
構造体2は、例えば、基礎などで、RC造で構築されている。構造体2は、上方に開口する凹部21が形成されている。構造体2は、凹部21の下側となる基礎部22と、凹部21の側方に位置する側壁部23と、を有している。
基礎部22の上面は水平面に形成されている。
第1浮き床3および第2浮き床4は、それぞれ平板状に形成され、板面が水平面となる向きで構造体2の凹部21に配置されている。第1浮き床3は基礎部22の上方に重なって配置され、第2浮き床4は、第1浮き床3の上方に重なって配置されている。
【0025】
第1浮き床3は、基礎部22の上方に第1支持ばね5、慣性質量装置8および第1減衰要素7を介して配置されている。第1支持ばね5、慣性質量装置8および第1減衰要素7は、並列に設けられている。第1支持ばね5は、ばね軸方向が上下方向(鉛直方向)に配置されている。
第1浮き床3は、構造体2に対して第1支持ばね5、慣性質量装置8および第1減衰要素7の変形可能範囲において上下方向に変位可能に構成されている。
【0026】
第2浮き床4は、第1浮き床3の上方に第2支持ばね6および第2減衰要素9を介して配置されている。第2支持ばね6と第2減衰要素9とは、並列に設けられている。第2支持ばね6は、ばね軸方向が上下方向となる向きに配置されている。
第2浮き床4は、構造体2に対して上下方向に変位可能に構成されているとともに、第1浮き床3に対して第2支持ばね6および第2減衰要素9の変形可能範囲において上下方向に変位可能に構成されている。
【0027】
第1浮き床3の質量M1は、第2浮き床4の質量M2以上に設定されている(M1≧M2)。第2浮き床4の質量M2には、第2浮き床4の上にいると想定される観客や設置されると想定される什器等の質量も含まれている。
第1支持ばね5のばね剛性k1は、第2支持ばね6のばね剛性k2よりも小さく設定されている(k1<k2)。
第2支持ばね6は、第1支持ばね5よりも変位が小さく、更に第1支持ばね5よりも支持荷重が小さいため、本実施形態では、第1支持ばね5よりも軽微なばねが用いられている。
【0028】
図2に示すように慣性質量装置8は、いわゆる回転慣性質量ダンパで、直動変位(鉛直変位)をボールねじ機構81などにより回転変位に変換し回転錘82(フライホイール)を回転させる仕組みとなっている。慣性質量装置8は、回転錘82の質量に対し数百倍~数千倍もの大きな慣性質量を付与することができる。
慣性質量装置8の負担力は、回転錘82の直径D、回転慣性モーメントI
θ、質量m
s、リードL
d、装置負担力P、変位x、錘回転角θ、慣性質量ψとすると、下式で表される。
【0029】
【0030】
回転錘82の密度ρ、厚さtとすると、下式となり、慣性質量ψは錘径の4乗に比例することがわかる。
【0031】
【0032】
図1に示す慣性質量装置8の慣性質量ψ
1は、以下のように設定される。
慣性質量装置8が設けられていない(慣性質量ψ
1が無い)場合の防振構造の固有振動数をf
1とする。「反力倍率を大きく低下させたい特定の振動数領域」の下限振動数をf
minとし、上限振動数をf
maxとする。上述しているように、k
1は、第1支持ばね54のばね剛性である。反力倍率とは、第2浮き床4上からの加振力Fに対する基礎反力Rの比率R/Fを示している。
慣性質量ψ
1は、下限振動数をf
minおよび上限振動数をf
maxに対して下式を満足するように設定される。
【0033】
【0034】
なお、fminとfmaxの中間にある式は、遮断振動数fSである。遮断振動数fSを下記に示す。
【0035】
【0036】
第2支持ばね6のばね剛性k2は、「変位倍率を大きく低下させたい特定の振動数領域」が「反力倍率を低下させたい振動数領域」と同じとして、下記を満足するように設定する。変位倍率とは、加振力Fが静的加力として作用したときの第2浮き床4の変位v0に対する最大応答変位vの比v/v0を示している。
【0037】
【0038】
なお、fminとfmaxの中間にある式は、変位倍率が極小となる係留振動数fkである。係留振動数fkを下記に示す。
【0039】
【0040】
上記の本実施形態の防振構造1について、従来の防振構造の
図8と上記の式(1)で設定した諸元と対比できるよう、下記の諸元を設定する。
第1浮き床3の質量M
1=0.9M
第2浮き床4の質量M
2=0.1M
第1支持ばね5の剛性k
1=1.07k
第2支持ばね6の剛性k
2=6k
慣性質量ψ
1を除いた防振構造1の固有振動数f
1=1.03Hz
基礎部22と第1浮き床3との間の第1減衰要素7の減衰c
1=1.0c
第1浮き床3と第2浮き床4との間の第2減衰要素9の減衰c
2=1.5c
慣性質量ψ
1=0.188M
減衰を無視した際に反力倍率が極小となる遮断振動数f
Sは2.39Hzとなる。
減衰を無視した際に第2浮き床4の変位倍率が極小となる係留振動数f
kは2.55Hzとなる。
【0041】
これらの諸元は、下記の計算から設定している。浮き床が1段構造の防振構造における浮き床の固有振動数をf0とする。
【0042】
【0043】
ここでは2.5Hz近くの防振効果を重視したいため、ψ1/M=0.188とした。
なお、減衰c1=0での遮断振動数は、以下となる。
【0044】
【0045】
なお、減衰c1を付与した場合の反力倍率が極小となる遮断振動数は、2.42Hzとなり、減衰を無視した際に反力倍率が極小となる遮断振動数(2.39Hz)から微増する。
一方、第2浮き床4の揺れ(上下振幅)も同じ振動数領域で低下させたいため、第2浮き床4の変位倍率(応答変位)が極小となる係留振動数をfminとfmaxの間に設定する。
【0046】
【0047】
ここでは2.5Hz近くの防振効果を重視したいため、k2/k=6とした。
減衰c2=0での係留振動数は、以下となる。
【0048】
【0049】
本実施形態による防振構造1の加振振動数fと反力倍率R/Fとの関係(振動数伝達関数)を
図3に示し、加振振動数fと変位倍率v/v
0との関係を
図4に示す。なお、
図3には、
図7に示す従来の防振構造の慣性質量装置8があるケースおよび無いケースそれぞれの加振振動数fと反力倍率R/Fとの関係(振動数伝達関数)についても比較のため表記している。
図4には、防振構造の慣性質量装置8があるケースおよび無いケースそれぞれの加振振動数fと変位倍率v/v
0との関係についても比較のため表記している。
【0050】
本実施形態による防振構造1によれば、タテノリ振動が問題となる特定の振動数領域(2~3.5Hz)において反力が加振力の概ね1/10以下となることがわかる。また、観客が入る第2浮き床4(上部床)の揺れ(上下振動)が「加振力が静的に作用したときの第2浮き床4の変位」の概ね1/10以下となることがわかる。
図3より、反力倍率R/Fは、加振振動数2Hzにおいて、従来の1段構造で慣性質量装置8の無い浮き床では0.334であるが、これに慣性質量装置8を付加することで0.100となる。そして、本実施形態による防振構造1では、反力倍率R/Fは、加振振動数2Hzにおいて、0.108となることから、1段構造で慣性質量装置8のある浮き床とほぼ同等の反力低減効果を発揮することがわかる。
図4より、変位倍率v/v
0は、加振振動数2Hzにおいて、従来の1段構造で慣性質量装置8の無い浮き床では0.34であるが、これに慣性質量装置8を付加することで0.271とわずかに減少する。そして、本実施形態による防振構造1では、変位倍率v/v
0は、加振振動数2Hzにおいて、0.120となることから、大幅な変位低減効果を発揮することがわかる。
【0051】
次に、上記の本実施形態による防振構造の作用・効果について説明する。
上記の本実施形態による防振構造では、特定の振動数領域で反力倍率を大きく低下させつつ、加振される床の変位振幅(上下の揺れ)も大幅に低減できる。これにより、共振振動数(1.0Hz)の2~3.5倍の加振振動数(2~3.5Hz)に対し、反力倍率を1/10以下にするととも第2浮き床4の変位振幅も加振力のよる静的たわみ(変位)の概ね1/10以下にするという従来にない優れた防振特性を実現できる。なお、慣性質量装置8を用いない従来の一般的な防振機構では、共振振動数の2倍の加振振動数での反力倍率を1/3以下にすることはできなかった。
【0052】
本実施形態による防振構造では、反力倍率を極小化する遮断振動数は、慣性質量装置8の慣性質量ψ
1と第1支持ばね5のばね剛性k
1とで決定される。変位倍率が極小となる係留振動数は、第1浮き床3の質量M
1、慣性質量装置8の慣性質量ψ
1、第1支持ばね5のばね剛性k
1および第2支持ばね6のばね剛性k
2で決定される。いずれも第2浮き床4の重量や観客数(固定荷重や積載荷重)により変化しないため、第2浮き床4の重量や観客数が増減しても防振特性(特に効果的な振動数)は、維持される。また、第1浮き床3の質量M
1を第2浮き床4の質量M
2以上として第1支持ばね5のばね剛性k
1を第2支持ばね6のばね剛性k
2より小さくし、遮断振動数および係留振動数を個別に定義することにより、応答低減効果を発揮する振動数範囲を広くすることができる。
図5に第2浮き床4の質量(M
2)を上記の2倍(M
2=0.2M)とした場合の加振振動数fと反力倍率R/Fとの関係を示し、
図6に第2浮き床4の質量(M
2)を上記の2倍(M
2=0.2M)とした場合の加振振動数fと変位倍率v/v
0との関係を示す。
図5を
図3と比較し、
図6を
図4と比較すると、反力倍率R/F・変位倍率v/v
0が極小となる遮断振動数・係留振動数とも変わらず、本実施形態による防振構造の防振特性も大差ないことがわかる。
【0053】
第2支持ばね6のばね剛性k2は、第2浮き床4の質量M2を支持するだけであるため、第1浮き床3の質量M1および第2浮き床4の質量M1を支持する第1支持ばね5のばね剛性k1より支持荷重が小さい。また、第2支持ばね6のばね剛性k2は、第1支持ばね5のばね剛性k1よりも大きく設定されるため、第2支持ばね6の撓みは第1支持ばね5の撓みよりも小さくなり、第1支持ばね5よりも軽微で安価なばねを用いることができる。
【0054】
また、本実施形態による防振構造では、構造体2と第1浮き床3との間に第1支持ばね5と並列に設けられた第1減衰要素7を有していることにより、共振時の応答を低減させることができる。
【0055】
また、本実施形態による防振構造では、第1浮き床3と第2浮き床4との間に第2支持ばね6と並列に設けられた第2減衰要素9を有していることにより、装置の摩擦抵抗を評価するとともに高振動数時の応答を低減させることができる。
【0056】
また、本実施形態による防振構造では、慣性質量装置8は、回転慣性質量ダンパであることにより、慣性質量装置8の小型化を図ることができる。
【0057】
第1支持ばね5に並列する第1減衰要素7の減衰c1が小さいほど反力について遮断振動数での防振効果が高くなるが、共振時(検討例では1.0Hz近傍)の反力応答倍率(反力倍率)は、減衰に反比例して大きくなる傾向がある。そのため、本実施形態では、共振時の応答倍率を10倍以内になるように諸元を設定したが、防振特性だけに注目するのであれば、もっと減衰を小さくした方が高性能となる。
第2支持ばね5に並列する第2減衰要素7の減衰c2が小さいほど変位について係留振動数での防振効果が高くなるが、高振動数時(検討例では2.5Hz以上)での変位応答倍率が大きくなる傾向がある。そのため、本実施形態では、現状の装置で実現されている諸元を設定したが、防振特性だけに注目するのであれば、もっと減衰を小さくした方が高性能となる。
【0058】
以上、本発明による防振構造の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施形態では、ライブホール等に本提案の防振機構を適用した例について説明したが、特定の振動数で上下振動する機器の下部支持台に本提案を適用することもできる。本提案での遮断振動数と係留振動数を特定の振動数と一致させれば、機械振動により周辺が揺れる振動障害をなくせるとともに、機器自体の上下振動も生じないので機器外部との接続に問題も生じにくくなる特徴がある。
【0059】
また、上記の実施形態では、構造体2と第1浮き床3との間に、第1減衰要素7が第1支持ばね5と並列に設けられているが、構造体2と第1浮き床3との間に、第1減衰要素7が設けられていなくてもよい。
また、上記の実施形態では、第1浮き床3と第2浮き床4との間に、第2減衰要素9が第2支持ばね6と並列に設けられいるが、第1浮き床3と第2浮き床4との間に、第2減衰要素9が設けられていなくてもよい。
【0060】
また、上記の実施形態では、慣性質量装置8は、回転慣性質量ダンパとしているが、梃子と錘により慣性質量を生じる機構など、回転慣性質量ダンパ以外であってもよい。
【符号の説明】
【0061】
1 防振構造
2 構造体
3 第1浮き床(第1振動体)
4 第2浮き床(第2振動体)
5 第1支持ばね(第1ばね要素)
6 第2支持ばね(第2ばね要素)
7 第1減衰要素
8 慣性質量装置
9 第2減衰要素