(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20231226BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20231226BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231226BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/58
H01M4/36 C
H01M4/36 E
C01G53/00 A
(21)【出願番号】P 2020047900
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】初森 智紀
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/221263(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/220972(WO,A1)
【文献】特開2019-175829(JP,A)
【文献】特表2011-526732(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/58
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径3μm~30μmのコア部(A)と、
コア部(A)を被覆してなる、層厚み600nm~5000nmの内層(B)と、
さらに内層(B)を被覆してなる、層厚み2nm~80nmの外層(C)
を有する多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
コア部(A)が、下記式(I)又は式(II):
LiNi
aCo
bMn
cM
1
xO
2・・・(I)
(式(I)中、M
1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、xは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦x≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M
1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
LiNi
dCo
eAl
fM
2
yO
2・・・(II)
(式(II)中、M
2はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。d、e、f、yは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦y≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M
2の価数)×y=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム複合酸化物二次粒子(a)からなり、
内層(B)が、下記式(III)又は式(III)':
Li
gMn
hFe
iM
3
zPO
4・・・(III)
(式(III)中、M
3はCo、Ni、Mg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。g、h、i、及びzは、0<g≦1.2、0≦h≦1.2、0≦i≦1.2、0≦z≦0.3、及びh+i≠0を満たし、かつg+(Mnの価数)×h+(Feの価数)×i+(M
3の価数)×z=3を満たす数を示す。)
Mn
h’Fe
i’M
3
z'PO
4・・・(III)'
(式(III)'中、M
3は式(III)と同義である。h'、i'、及びz'は、0≦h'≦1.2、0≦i'≦1.2、0≦z'≦0.3、及びh'+i'≠0を満たし、かつ(Mnの価数)×h'+(Feの価数)×i'+(M
3の価数)×z'=3を満たす数を示す。)で表され、かつ表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)からなり、
外層(C)が、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、及びカーボンナノファイバーから選ばれる水不溶性炭素粉末(c)からなり、
表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)の含有量と、リチウム複合酸化物二次粒子(a)の含有量との質量比((b):(a))が、5:95~55:45である多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
水不溶性炭素粉末(c)の含有量が、リチウム複合酸化物二次粒子(a)と表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)との合計含有量100質量部に対し、0.05質量部~1.7質量部である請求項1に記載の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
リチウム系ポリアニオン粒子(b)の表面における炭素(x)の担持量が、リチウム系ポリアニオン粒子(b)100質量%中に0.1質量%以上18質量%未満である請求項1又は2に記載の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
リチウム系ポリアニオン粒子(b)の表面に担持してなる炭素(x)が、セルロースナノファイバー由来の炭素(x1)又は水溶性炭素材料由来の炭素(x2)である請求項1~3のいずれか1項に記載の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
25℃での20MPa加圧時における電気伝導度が、5e
-6S/cm~5e
-2S/cmである請求項1~4のいずれか1項に記載の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
ラマン分光法によって求められるラマンスペクトルにおいて、水不溶性炭素粉末(c)由来の炭素に関わるDバンドのピーク強度(I
(D))とPO
4
3-に関わるピーク強度(I
(PO4))との強度比(I
(PO4)/I
(D))が、0.002~0.06である請求項1~5のいずれか1項に記載の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項7】
次の工程(P1)~(P2):
(P1)リチウム化合物と、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属化合物とリン酸化合物とから水熱反応物を得た後、或いは少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属化合物とリン酸化合物とから水熱反応物を得た後、炭素(x)源を混合して噴霧乾燥し、表面に炭素(x)を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)から形成されてなる造粒体(Z)を得る工程
(P2)圧縮力及びせん断力を付加した混合を行いながら、リチウム複合酸化物二次粒子(a)に造粒体(Z)を添加し、次いで水不溶性炭素粉末(c)を添加する工程
を備える請求項1~6のいずれか1項に記載の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、優れた電池特性と安全性を兼ね備えた多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
層状型リチウム・ニッケル・コバルト・マンガン複合酸化物(NMC)や層状型リチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム複合酸化物(NCA)等の層状型リチウム複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属原子層とが、酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造となっている。かかる層状型リチウム複合酸化物は、高出力及び高容量のリチウムイオン二次電池を構成できる正極活物質として使用されている。
【0003】
こうした層状型リチウム複合酸化物を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池では、リチウムイオンが層状型リチウム複合酸化物に脱離・挿入されることによって充電・放電が行われるが、充放電サイクルを重ねるにつれて容量低下が生じ、特に長期間使用すると、電池の容量低下が著しくなるおそれがある。これは、充電時にリチウム複合酸化物の遷移金属成分が電解液へ溶出することにより、かかる結晶構造の崩壊が生じやすくなることが原因であると考えられている。特に高温になるほど遷移金属の溶出量は多くなり、サイクル特性に与える影響は大きい。また、リチウム複合酸化物の結晶構造の崩壊が生じると、リチウム複合酸化物の遷移金属成分が周囲の電解液へ溶出し、熱的安定性が低下して安全性が損なわれるおそれもある。
【0004】
車載用電池に使用される電池材料には、1000サイクル以上もの多数回にわたる充放電サイクルを経ても、一定以上の電池容量を維持できるような優れた耐久性を有することが要求されており、これに応じるべく種々の開発がなされている。例えば、特許文献1には、リチウム複合酸化物粒子からなる層状型リチウム複合酸化物二次粒子の表面の一部のみにおいて、特定のリチウム系ポリアニオン粒子とリチウム複合酸化物粒子とが複合化してなるリチウムイオン二次電池用正極活物質が開示されており、これを用いたリチウムイオン二次電池において、優れた放電特性の発現を試みている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載のようなリチウムイオン二次電池用正極活物質においては、層状型リチウム複合酸化物二次粒子とリチウム系ポリアニオン粒子とが強固に複合化されていないと、低温から高温にわたる幅広い温度変化に対応し得る安定した電池特性を発揮できないおそれがあり、さらなる改善を要する状況にある。
【0007】
したがって、本発明の課題は、リチウム複合酸化物二次粒子とリチウム系ポリアニオン粒子との強固な複合化を可能とする構造を有した多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、リチウム複合酸化物二次粒子(a)からなるコア部(A)と、これを被覆してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)からなる内層(B)と、さらに内層(B)を被覆してなる水不溶性炭素粉末(c)からなる外層(C)なる堅固な多層構造を有することにより、幅広い温度変化に晒されても安定して優れた電池特性を発現することのできる多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質が得られることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、平均粒径3μm~30μmのコア部(A)と、
コア部(A)を被覆してなる、層厚み600nm~5000nmの内層(B)と、さらに内層(B)を被覆してなる、層厚み2nm~80nmの外層(C)
を有する多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
コア部(A)が、下記式(I)又は式(II):
LiNiaCobMncM1
xO2・・・(I)
(式(I)中、M1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、xは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦x≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
LiNidCoeAlfM2
yO2・・・(II)
(式(II)中、M2はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。d、e、f、yは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦y≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M2の価数)×y=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム複合酸化物二次粒子(a)からなり、
内層(B)が、下記式(III)又は式(III)':
LigMnhFeiM3
zPO4・・・(III)
(式(III)中、M3はCo、Ni、Mg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。g、h、i、及びzは、0<g≦1.2、0≦h≦1.2、0≦i≦1.2、0≦z≦0.3、及びh+i≠0を満たし、かつg+(Mnの価数)×h+(Feの価数)×i+(M3の価数)×z=3を満たす数を示す。)
Mnh’Fei’M3
z'PO4・・・(III)'
(式(III)'中、M3は式(III)と同義である。h'、i'、及びz'は、0≦h'≦1.2、0≦i'≦1.2、0≦z'≦0.3、及びh'+i'≠0を満たし、かつ(Mnの価数)×h'+(Feの価数)×i'+(M3の価数)×z'=3を満たす数を示す。)で表され、かつ表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)からなり、
外層(C)が、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、及びカーボンナノファイバーから選ばれる水不溶性炭素粉末(c)からなり、
表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)の含有量と、リチウム複合酸化物二次粒子(a)の含有量との質量比((b):(a))が、5:95~55:45である多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、次の工程(P1)~(P2):
(P1)リチウム化合物と、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属化合物とリン酸化合物とから水熱反応物を得た後、或いは少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属化合物とリン酸化合物とから水熱反応物を得た後、炭素(x)源を混合して噴霧乾燥し、表面に炭素(x)を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)から形成されてなる造粒体(Z)を得る工程
(P2)圧縮力及びせん断力を付加した混合を行いながら、リチウム複合酸化物二次粒子(a)に造粒体(Z)を添加し、次いで水不溶性炭素粉末(c)を添加する工程
を備える上記多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質によれば、リチウム複合酸化物二次粒子とリチウム系ポリアニオン粒子とが強固に複合化しつつコア部及び内層を形成し、かつ特定の水不溶性炭素粉末からなる外層がこれらを被覆してなる多層構造を有するため、低温環境下に晒されても高温環境下に晒されても、変動することなく優れた電池特性を発現するリチウムイオン二次電池を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質は、平均粒径3μm~30μmの上記コア部(A)と、
コア部(A)を被覆してなる、層厚み600nm~5000nmの上記内層(B)と、
さらに内層(B)を被覆してなる、層厚み2nm~80nmの上記外層(C)
を有する多層構造、いわゆるコア部(内部)とシェル部(表層部)とを有するコア-シェル構造の粒子である。
このように、本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質の中核としてのコア部(A)をリチウム複合酸化物二次粒子(a)が形成するなか、中間層としての内層(B)をリチウム系ポリアニオン粒子(b)が形成しながら、これらの最外殻として水不溶性炭素粉末(c)が外層(C)を形成してなる堅固な多層構造を呈しており、リチウム複合酸化物二次粒子とリチウム系ポリアニオン粒子とが強固に複合化しつつ、これらを堅固に外層(C)が被覆してなる。そのため、過酷な温度変化に対しても、リチウム複合酸化物二次粒子とリチウム系ポリアニオン粒子との複合化が乱されるのを有効に抑制することが可能になるとともに、堅固に被覆された外層(C)の存在とも相まって、高い導電率を保持することも可能となり、低温から高温にわたる幅広い温度変化に対応し得る安定した電池特性を示すことができる。
【0013】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質が有するコア部(A)は、平均粒径3μm~30μmであって、下記式(I)又は式(II):
LiNiaCobMncM1
xO2・・・(I)
(式(I)中、M1はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。a、b、c、xは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦x≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×x=3を満たす数を示す。)
LiNidCoeAlfM2
yO2・・・(II)
(式(II)中、M2はMg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。d、e、f、yは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦y≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M2の価数)×y=3を満たす数を示す。)
で表されるリチウム複合酸化物二次粒子(a)からなる。
【0014】
上記式(I)で表されるリチウムニッケル複合酸化物(いわゆるLi-Ni-Co-Mn酸化物であり、以後「NCM系複合酸化物」とも称する。)粒子、並びに上記式(II)で表されるリチウムニッケル複合酸化物(いわゆるLi-Ni-Co-Al酸化物であり、以後「NCA系複合酸化物」とも称する。)粒子は、いずれも層状岩塩構造を有する粒子である。
これらの粒子は、一次粒子が凝集することによって形成される。したがって、かかるリチウム複合酸化物二次粒子(a)についても、同様に「NCM系複合酸化物二次粒子(a)」、「NCA系複合酸化物二次粒子(a)」とも称する。
【0015】
上記式(I)中のM1は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Al、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。
また、上記式(I)中のa、b、c、xは、0.3≦a<1、0<b≦0.7、0<c≦0.7、0≦x≦0.3、かつ3a+3b+3c+(M1の価数)×x=3を満たす数である。
【0016】
上記NCM系複合酸化物二次粒子(a)において、Ni、Co及びMnは、電子伝導性に優れ、電池容量及び出力特性に寄与することが知られている。また、サイクル特性の観点からは、かかる遷移元素の一部が他の金属元素M1により置換されていることが好ましい。
【0017】
上記NCM系複合酸化物二次粒子(a)としては、具体的には、例えばLiNi0.33Co0.33 Mn0.34O2、LiNi0.8Co0.1Mn 0.1O2、LiNi0.6Co0.2Mn 0.2O2、LiNi0.33Co0.31Mn0.33Mg0.045O2、又はLiNi0.33Co0.31Mn0.33Zn0.045O2等が挙げられる。なかでも、放電容量を重視する場合には、LiNi0.8Co0.1Mn 0.1O2、LiNi0.6Co0.2Mn 0.2O2等のNi量の多い組成からなる粒子が好ましく、サイクル特性を重視する場合には、LiNi0.33Co0.33 Mn0.34O2、LiNi0.33Co0.31Mn0.33Mg0.045O2等のNi量の少ない組成からなる粒子が好ましい。
【0018】
上記式(II)中のM2は、Mg、Ti、Nb、Fe、Cr、Si、Ga、V、Zn、Cu、Sr、Mo、Zr、Sn、Ta、W、La、Ce、Pb、Bi及びGeから選ばれる1種又は2種以上の元素を示す。
また、上記式(II)中のd、e、f、yは、0.4≦d<1、0<e≦0.6、0<f≦0.3、0≦y≦0.3、かつ3d+3e+3f+(M2の価数)×y=3を満たす数である。
【0019】
上記NCA系複合酸化物二次粒子(a)は、式(I)で表されるNCM系複合酸化物粒子よりも、さらに電池容量及び出力特性に優れている。加えて、Alの含有により、雰囲気中の湿分による変質も生じ難く、安全性にも優れている。
上記NCA系複合酸化物二次粒子(a)としては、具体的には、例えばLiNi0.8Co0.1Al0.1O2、LiNi0.8Co0.15Al0.03Mg0.03O2、LiNi0.8Co0.15Al0.03Zn0.03O2等からなる粒子が挙げられる。なかでもLiNi0.8Co0.15Al0.03Mg0.03O2からなる粒子が好ましい。
【0020】
リチウム複合酸化物二次粒子(a)の一次粒子としての平均粒径は、好ましくは2000nm以下であり、より好ましくは1000nm以下である。また、上記一次粒子の平均粒径の下限値は特に限定されないが、ハンドリングの観点から、50nm以上が好ましい。
なお、リチウム複合酸化物二次粒子(a)の一次粒子の平均粒径は、SEM又はTEMの電子顕微鏡による観察において、100個の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質から測定されるリチウム複合酸化物二次粒子(a)の一次粒子の平均値を意味する。
【0021】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質が有するコア部(A)は、上記一次粒子が凝集して形成するリチウム複合酸化物二次粒子(a)からなり、コア部(A)の平均粒径は、リチウム複合酸化物二次粒子(a)と同義である。すなわち、コア部(A)の平均粒径は、3μm~30μmであって、好ましくは4μm~25μmであり、より好ましくは5μm~25μmである。
なお、リチウム複合酸化物二次粒子(a)の平均粒径(D50)は、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られる値であって、累積50%での粒径を意味する。
【0022】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質は、上記コア部(A)を被覆してなる、層厚み600nm~5000nmの内層(B)を有し、かかる内層(B)は、下記式(III)又は式(III)':
LigMnhFeiM3
zPO4・・・(III)
(式(III)中、M3は、Co、Ni、Mg、Ca、Sr、Y、Zr、Mo、Ba、Pb、Bi、La、Ce、Nd又はGdを示す。g、h、i、及びzは、0<g≦1.2、0≦h≦1.2、0≦i≦1.2、0≦z≦0.3、及びh+i≠0を満たし、かつg+(Mnの価数)×h+(Feの価数)×i+(M3の価数)×z=3を満たす数を示す。)
Mnh’Fei’M3
z'PO4・・・(III)'
(式(III)'中、M3は式(III)と同義である。h'、i'、及びz'は、0≦h'≦1.2、0≦i'≦1.2、0≦z'≦0.3、及びh'+i'≠0を満たし、かつ(Mnの価数)×h'+(Feの価数)×i'+(M3の価数)×z'=3を満たす数を示す。)で表され、前者はLi含有の粒子である一方、後者はLiを含有しない粒子ではあるものの、双方ともオリビン型構造を有するリチウム系ポリアニオン粒子(b)であり、その表面には、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を被覆するように炭素(x)が担持してなる。
【0023】
上記式(III)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(b)としては、平均放電電圧の観点から、0.5≦h≦1.2が好ましく、0.6≦h≦1.1がより好ましく、0.65≦h≦1.05がさらに好ましい。また、式(III)’で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(b)としては、同様の観点から、0.5≦h≦1.2が好ましく、0.6≦h≦1.1がより好ましく、0.65≦h≦1.05がさらに好ましい。
具体的には、例えばLiMnPO4、LiMn0.9Fe0.1PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、LiMn0.75Fe0.15Mg0.1PO4、LiMn0.75Fe0.19Zr0.015PO4、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.6Fe0.4PO4、LiMn0.5Fe0.5PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、Li0.6Mn0.84Fe0.36PO4、Mn0.7Fe0.3PO4等が挙げられる。なかでも、LiMn0.7Fe0.3PO4、LiMn0.8Fe0.2PO4、Li1.2Mn0.63Fe0.27PO4、Li0.6Mn0.84Fe0.36PO4、又はMn0.7Fe0.3PO4が好ましい。
【0024】
リチウム系ポリアニオン粒子(b)の平均粒径は、好ましくは50nm~200nmであり、より好ましくは70nm~150nmである。
なお、リチウム系ポリアニオン粒子(b)の平均粒径は、一次粒子の平均粒径であり、SEM又はTEMの電子顕微鏡による観察において測定される平均値を意味する。
【0025】
上記リチウム系ポリアニオン粒子(b)は、その表面に炭素(x)が担持されてなる。かかる炭素(x)としては、具体的には、セルロースナノファイバー由来の炭素(x1)又は水溶性炭素材料由来の炭素(x2)が挙げられ、これらが炭素源となってリチウム系ポリアニオン粒子(b)の表面に堅固に担持されてなる。
【0026】
炭素(x1)源となり得る上記セルロースナノファイバーとは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、セルロースナノファイバー由来の炭素は、周期的構造を有する。かかるセルロースナノファイバーの繊維径は、1nm~100nmであり、水への良好な分散性も有している。また、セルロースナノファイバーを構成するセルロース分子鎖では、炭素による周期的構造が形成されていることから、これが炭化されつつ、上記リチウム系ポリアニオン粒子(b)の表面に堅固に担持されることにより、これらリチウム系ポリアニオン粒子(b)に電子伝導性を付与し、電池特性に優れる有用な多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得ることができる。
【0027】
炭素(x2)源となり得る上記水溶性炭素材料とは、25℃の水100gに、水溶性炭素材料の炭素原子換算量で0.4g以上、好ましくは1.0g以上溶解する炭素材料を意味し、炭化されることで炭素として上記リチウム系ポリアニオン粒子(b)の表面に存在することとなる。かかる水溶性炭素材料としては、例えば、糖類、ポリオール、ポリエーテル、及び有機酸から選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。より具体的には、例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース等の単糖類;マルトース、スクロース、セロビオース等の二糖類;デンプン、デキストリン等の多糖類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ブタンジオール、プロパンジオール、ポリビニルアルコール、グリセリン等のポリオールやポリエーテル;クエン酸、酒石酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられる。なかでも、溶媒への溶解性及び分散性を高めて炭素材料として効果的に機能させる観点から、グルコース、フルクトース、スクロース、デキストリンが好ましく、グルコースがより好ましい。
【0028】
炭素(x)の担持量は、炭素(x)が担持されてなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)全量100質量%中に、好ましくは0.1質量%以上18質量%未満であり、より好ましくは0.2質量%~10質量%であり、さらに好ましくは0.3質量%~5質量%である。
【0029】
なお、この場合、リチウム系ポリアニオン粒子(b)中における炭素(x)の担持量とは、セルロースナノファイバー由来の炭素(x1)及び水溶性炭素材料由来の炭素(x2)の合計担持量であり、上記炭素源であるセルロースナノファイバー又は水溶性炭素材料の炭素原子換算量に相当する。かかるセルロースナノファイバー又は水溶性炭素材料の炭素原子換算量(炭素の担持量)は、内層(B)を形成してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)について、炭素・硫黄分析装置を用いて測定した炭素量として、確認することができる。
【0030】
表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)からなる内層(B)の層厚みは、堅固な多層構造を形成させる観点から、600nm~5000nmであって、650nm~5000nmが好ましく、700nm~5000nmがより好ましい。
ここで、内層(B)の層厚みとは、SEM又はTEMの電子顕微鏡による観察において、100個の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質から測定される内層(B)の層厚みの平均値を意味する。
【0031】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質において、表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)の含有量(炭素(x)の担持量を含む)と、リチウム複合酸化物二次粒子(a)の含有量との質量比((b):(a))は、リチウム複合酸化物二次粒子とリチウム系ポリアニオン粒子との複合化を強固なものとする観点から、5:95~55:45であって、(表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)の含有量基準でみて)好ましくは7:93~50:50であり、より好ましくは10:90~50:50である。
【0032】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質は、さらに上記内層(B)を被覆してなる、層厚み2nm~80nmの外層(C)を有し、かかる外層(C)は、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、及びカーボンナノファイバーから選ばれる水不溶性炭素粉末(c)からなる。上記コア部(A)に被覆してなる内層(B)を、さらに堅固に被覆してなる外層(C)が存在することにより、リチウム複合酸化物二次粒子とリチウム系ポリアニオン粒子との複合化を一層強固なものとし、本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質全体としての強度をも増強することが可能となる。また、水不溶性炭素粉末(c)によって堅固に形成された外層(C)により、温度変化への耐性を高めつつ高い導電率を確保することができ、電解液への金属の溶出をも効果的に抑制し、低温から高温にわたる幅広い温度変化に対応し得る安定した電池特性を示すことが可能となる。
【0033】
水不溶性炭素粉末(c)としては、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、及びカーボンナノファイバーから選ばれる1種であってもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、内層(B)により強固に複合化させる観点から、グラファイト、カーボンブラック、グラフェンが好ましく、グラファイト、カーボンブラックがより好ましい。
【0034】
水不溶性炭素粉末(c)の平均粒径は、10nm~10μmが好ましく、10nm~5μmがより好ましい。なお、水不溶性炭素粉末(b)の平均粒径とは、一次粒子が凝集した二次粒子の平均粒径であり、SEM又はTEMの電子顕微鏡による観察において測定される平均値を意味する。
【0035】
水不溶性炭素粉末(c)からなる外層(C)の層厚みは、堅固な多層構造を形成させる観点から、2nm~80nmであって、2nm~70nmが好ましく、2nm~40nmがより好ましい。
ここで、外層(C)の層厚みとは、内層(B)と同様、SEM又はTEMの電子顕微鏡による観察において、100個の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質から測定される内層(C)の層厚みの平均値を意味する。
【0036】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質において、水不溶性炭素粉末(c)の含有量は、リチウム複合酸化物二次粒子とリチウム系ポリアニオン粒子とを強固に複合化しつつ、かかる複合化を阻害し得る不要な微粒子の発生を有効に抑制する観点から、リチウム複合酸化物二次粒子(a)と、後述する表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)との合計含有量100質量部(炭素(x)の担持量を含む)に対し、好ましくは0.05質量部~1.7質量部であり、より好ましくは0.07質量部~1.65質量部であり、さらに好ましくは0.1質量部~1.6質量部である。
【0037】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質の平均粒径は、好ましくは4μm~30μmであり、より好ましくは5μm~30μmである。
なお、多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質の平均粒径は、レーザ回折・散乱法に基づく体積基準の粒度分布により得られる値であって、累積50%での粒径を意味する。
【0038】
また、本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質のBET比表面積は、好ましくは0.1m2/g~30m2/gであり、より好ましくは0.3m2/g~20m2/gである。
【0039】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質は、コア部(A)とこれを被覆してなる内層(B)とが、リチウム複合酸化物二次粒子とリチウム系ポリアニオン粒子との複合化を強固なものとしつつ、これらをさらに導電性に優れる水不溶性炭素粉末(c)からなる外層(C)が全体を覆うように存在する特異な多層構造を有している。そのため、リチウムイオンの挿入及び脱離に伴う正極活物質の体積変化を物理的に抑制するとともに、正極活物質から溶出する遷移金属成分を正極活物質内部に有効に閉じ込め、さらに良好な電気伝導性を有している。
具体的には、本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質の電気伝導度は、25℃での20MPa加圧時において、好ましくは5e-6S/cm~5e-2S/cmであり、より好ましくは1e-5S/cm~5e-2S/cmである。
【0040】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質における外層(C)の被覆の度合いは、ラマン分光法を用いて、本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質の表面状態を分析することによって確認することができる。
具体的には、ラマン分光法によって求められるラマンスペクトルにおいて、水不溶性炭素粉末(c)由来の炭素に関わるDバンドのピーク強度(I(D)、ピーク位置:1350cm-1付近)とPO4
3-に関わるピーク強度(I(PO4)、ピーク位置:950cm-1付近)との強度比(I(PO4)/I(D))が、好ましくは0.001~0.06であり、より好ましくは0.002~0.06である。したがって、強度比(I(PO4)/I(D))がかかる範囲内であれば、コア部(A)を被覆してなる内層(B)の表面が、外層(C)により良好に被覆されていることを示す。
【0041】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質は、強固な多層構造を有していることから、リチウム複合酸化物二次粒子からのリチウム系ポリアニオン粒子の不要な剥離が有効に抑制され、微粒子が過度に発生するのを有効に抑制されてなる。具体的には、本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質は、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定において、粒子径1μm以下の微粒子量が、好ましくは5体積%以下であり、より好ましくは4.5体積%以下であり、さらに好ましくは4体積%以下である。
【0042】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、次の工程(P1)~(P2):
(P1)リチウム化合物と、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属化合物とリン酸化合物とから水熱反応物を得た後、或いは少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属化合物とリン酸化合物とから水熱反応物を得た後、炭素(x)源を混合して噴霧乾燥し、表面に炭素(x)を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)から形成されてなる造粒体(Z)を得る工程
(P2)圧縮力及びせん断力を付加した混合を行いながら、リチウム複合酸化物二次粒子(a)に造粒体(Z)を添加し、次いで水不溶性炭素粉末(c)を添加する工程
を備える。
【0043】
本発明の製造方法が備える工程(P1)は、リチウム化合物と、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属化合物とリン酸化合物とから水熱反応物を得た後、或いは少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属化合物とリン酸化合物とから水熱反応物を得た後、炭素(x)源を混合して噴霧乾燥し、表面に炭素(x)を担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)から形成されてなる造粒体(Z)を得る工程である。すなわち、本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質が有する内層(B)を形成するリチウム系ポリアニオン粒子(b)を得るための、リチウム系ポリアニオン粒子(b)の前駆体に相当する造粒体(Z)を得る工程である。かかる造粒体(Z)は、後述する工程(P2)を経ることにより、内層(B)を形成することとなる。
【0044】
工程(P1)では、まずリチウム化合物と、少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属化合物とリン酸化合物とから、或いは少なくとも鉄化合物又はマンガン化合物を含む金属化合物とリン酸化合物とから水熱反応物を得る。前者は上記式(III)で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(b)を得る場合であり、後者は上記式(III)'で表されるリチウム系ポリアニオン粒子(b)を得る場合である。
これら所定の原料化合物から水熱反応物を得るには、具体的には、これらの原料化合物を含有するスラリー水を調製し、水熱反応に付せばよい。
【0045】
用い得るリチウム化合物としては、水酸化リチウム(例えばLiOH、LiOH・H2O)、炭酸リチウム、硫酸リチウム、酢酸リチウムが挙げられる。
【0046】
用い得る鉄化合物としては、酢酸鉄、硝酸鉄、硫酸鉄等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0047】
用い得るマンガン化合物としては、酢酸マンガン、硝酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0048】
用いる金属化合物として、上記化合物のほか、式(III)又は式(III)'に応じて適宜金属(M3)化合物(M3は、上記式(III)と同義である)を用いてもよい。かかる金属(M3)化合物として、硫酸塩、ハロゲン化合物、有機酸塩、及びこれらの水和物等を用いることができる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0049】
リン酸化合物としては、オルトリン酸(H3PO4、リン酸)、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム等が挙げられる。
なかでもリン酸を用い、これを混合物に滴下して少量ずつ加えながら混合するのが好ましく、混合した後に窒素をパージするのが好ましい。また、リン酸化合物を混合した後の混合物中における溶存酸素濃度を0.5mg/L以下とするのが好ましい。
【0050】
水熱反応の温度は、100℃以上であればよく、130℃~180℃が好ましく、圧力は0.3MPa~0.9MPaであるのが好ましく、水熱反応時間は0.1時間~48時間が好ましい。
【0051】
工程(P1)では、次いで得られた水熱反応物に炭素(x)源を混合して噴霧乾燥することにより、造粒体(Z)を得る。得られた造粒体(Z)は、焼成するのがよい。これにより、炭素(x)源が炭化されて、造粒体(Z)につき、リチウム系ポリアニオン粒子(a)の一次粒子の表面に炭素(x)が担持してなる焼成物とすることができる。用いる炭素(x)源としては、上記セルロースナノファイバー又は水溶性炭素材料が挙げられる。
【0052】
噴霧乾燥により得られる造粒体(Z)の粒径は、レーザ回折・散乱法に基づく粒度分布におけるD50値で、1~20μmであるのが好ましい。
得られた造粒体(Z)は還元雰囲気又は不活性雰囲気中において焼成するのがよい。焼成条件としては、焼成温度が400℃~800℃であり、焼成時間が10分~3時間であるのが好ましい。
【0053】
本発明の製造方法が備える工程(P2)は、圧縮力及びせん断力を付加した混合を行いながら、リチウム複合酸化物二次粒子(a)に工程(P1)で得られた造粒体(Z)を添加し、次いで水不溶性炭素粉末(c)を添加する工程である。すなわちかかる工程(P2)は、まずリチウム複合酸化物二次粒子(a)に工程(P1)で得られた造粒体(Z)を添加して圧縮力及びせん断力を付加した混合を行い、続いて水不溶性炭素粉末(c)を添加して圧縮力及びせん断力を付加した混合を行う工程、いわゆる多段工程である。
【0054】
用いるリチウム複合酸化物二次粒子(a)としては、例えば、
リチウム化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、及びマンガン化合物を含有する混合粉体を焼成し(製法a1)、得られたNCM系複合酸化物二次粒子(a)を用いてもよく、或いは
リチウム化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、及びアルミニウム化合物を含有する混合粉体を焼成し(製法a2)、得られたNCA系複合酸化物二次粒子(a)を用いてもよい。
【0055】
具体的には、製法a1の場合、まず原料化合物、例えば、ニッケル化合物、コバルト化合物、及びマンガン化合物を、所望する複合酸化物の組成となるように水に溶解させて水溶液aを得る。
次に、上記水溶液aに、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等のアルカリ剤を添加して水溶液bとし、溶解している金属成分を中和反応によって共沈させ、金属複合水酸化物を得る。次いで水溶液bを30℃~60℃の温度で30分間~120分間撹拌して、金属複合水酸化物を生成させる。
【0056】
撹拌後、水溶液bを濾過して金属複合水酸化物を回収し、水で洗浄後、乾燥するのが好ましい。
次いで、所望する複合酸化物の組成となるように、上記金属複合水酸化物とリチウム化合物を乾式混合し、酸素雰囲気下で焼成することにより、NCM系複合酸化物を得る。
最後に、得られた焼成物を水洗した後、濾過、及び乾燥してNCM系複合酸化物粒子(a)を得る。
【0057】
なお、製法a2の場合、原料化合物としてリチウム化合物、ニッケル化合物、コバルト化合物、及びアルミニウム化合物を用いる以外、製法a1と同様にしてNCA系複合酸化物二次粒子(a)を得ることができる。
【0058】
リチウム複合酸化物二次粒子(a)に工程(P1)で得られた造粒体(Z)を添加して行う、圧縮力及びせん断力を付加した混合は、インペラを備える密閉容器で行うのが好ましい。かかるインペラの周速度は、コア部(A)を良好かつ堅固に被覆してなる内層(B)を有効に形成させる観点から、好ましくは15m/s~45m/sであり、より好ましくは15m/s~35m/sである。また、混合時間は、好ましくは3分間~90分間であり、より好ましくは5分間~60分間である。
なお、インペラの周速度とは、回転式攪拌翼(インペラ)の最外端部の速度を意味し、下記式(1)により表すことができ、また圧縮力及びせん断力を付加しながら混合する処理を行う時間は、インペラの周速度が遅いほど長くなるように、インペラの周速度によっても変動し得る。
インペラの周速度(m/s)=
インペラの半径(m)×2×π×回転数(rpm)÷60・・・(1)
なお、インペラを備える密閉容器を有した装置としては、例えば乾式粒子複合化装置であるノビルタ(ホソカワミクロン社製)が挙げられる。
【0059】
工程(P2)では、次いで水不溶性炭素粉末(c)を添加して、圧縮力及びせん断力を付加した混合を行う。
用いる水不溶性炭素粉末(c)としては、上記のとおり、グラファイト、グラフェン、カーボンブラック、及びカーボンナノファイバーから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0060】
水不溶性炭素粉末(c)の添加量は、本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質において、上記水不溶性炭素粉末(c)の含有量を満たすような量であればよく、具体的には、リチウム複合酸化物二次粒子(a)と、表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)との合計添加量100質量部(炭素(x)の担持量を含む)に対し、好ましくは0.05質量部~1.7質量部であり、より好ましくは0.07質量部~1.7質量部であり、さらに好ましくは0.08質量部~1.7質量部である。
【0061】
水不溶性炭素粉末(c)を添加した際における混合は、上記と同様の装置を続いて用いればよい。
具体的には、ここでのインペラの周速度は、リチウム複合酸化物二次粒子(a)に対して効果的に外層(C)を被覆し、得られる多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質の内層(B)及び外層(C)の剥離を抑止する観点から、好ましくは15m/s~45m/sであり、より好ましくは15m/s~35m/sである。また、混合時間は、好ましくは3分間~90分間であり、より好ましくは5分間~60分間である。
【0062】
本発明の多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を正極材料として適用し、これを含むリチウムイオン二次電池としては、正極と負極と電解液とセパレータ、若しくは正極と負極と固体電解質を必須構成とするものであれば特に限定されない。
【0063】
ここで、負極については、リチウムイオンを充電時には吸蔵し、かつ放電時には放出することができれば、その材料構成で特に限定されるものではなく、公知の材料構成のものを用いることができる。たとえば、リチウム金属、グラファイト、シリコン系(Si、SiOx)、チタン酸リチウム又は非晶質炭素等の炭素材料等を用いることができる。そしてリチウムイオンを電気化学的に吸蔵・放出し得るインターカレート材料で形成された電極、特に炭素材料を用いることが好ましい。さらに、2種以上の上記の負極材料を併用してもよく、たとえばグラファイトとシリコン系の組み合わせを用いることができる。
【0064】
電解液は、有機溶媒に支持塩を溶解させたものである。有機溶媒は、通常リチウムイオン二次電池の電解液の用いられる有機溶媒であれば特に限定されるものではなく、例えば、カーボネート類、ハロゲン化炭化水素、エーテル類、ケトン類、ニトリル類、ラクトン類、オキソラン化合物等を用いることができる。
【0065】
支持塩は、その種類が特に限定されるものではないが、LiPF6、LiBF4、LiClO4及びLiAsF6から選ばれる無機塩、該無機塩の誘導体、LiSO3CF3、LiC(SO3CF3)2及びLiN(SO3CF3)2、LiN(SO2C2F5)2及びLiN(SO2CF3)(SO2C4F9)から選ばれる有機塩、並びに該有機塩の誘導体の少なくとも1種であることが好ましい。
【0066】
セパレータは、正極及び負極を電気的に絶縁し、電解液を保持する役割を果たすものである。たとえば、多孔性合成樹脂膜、特にポリオレフィン系高分子(ポリエチレン、ポリプロピレン)の多孔膜を用いればよい。
【0067】
固体電解質は、正極及び負極を電気的に絶縁し、高いリチウムイオン伝導性を示すものである。たとえば、La0.51Li0.34TiO2.94、Li1.3Al0.3Ti1.7(PO4)3、Li7La3Zr2O12、50Li4SiO4・50Li3BO3、Li2.9PO3.3N0.46、Li3.6Si0.6P0.4O4、Li1.07Al0.69Ti1.46(PO4)3、Li1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3、Li10GeP2S12、Li3.25Ge0.25P0.75S4、30Li2S・26B2S3・44LiI、63Li2S・36SiS2・1Li3PO4、57Li2S・38SiS2・5Li4SiO4、70Li2S・30P2S5、50Li2S・50GeS2、Li7P3S11、Li3.25P0.95S4を用いればよい。
【0068】
上記の構成を有するリチウムイオン二次電池の形状としては、特に制限を受けるものではなく、コイン型、円筒型,角型等種々の形状や、ラミネート外装体に封入した不定形状であってもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
[製造例1:リチウム複合酸化物二次粒子(a)の製造]
Ni:Co:Mnのモル比が1:1:1となるように、硫酸ニッケル六水和物 263g、硫酸コバルト七水和物 281g、硫酸マンガン五水和物 241g、及び水 3Lを混合した後、かかる混合液に、滴下速度300ml/分で25%アンモニア水を滴下して、pHが11の金属複合水酸化物を含むスラリーa1を得た。
次いで、スラリーa1をろ過、乾燥して、金属複合水酸化物の混合物a2を得た後、かかる混合物a2に炭酸リチウム37gをボールミルで混合して粉末混合物a3を得た。
得られた粉末混合物a3を、空気雰囲気下で800℃×5時間仮焼成して解砕した後、本焼成として空気雰囲気下で800℃×10時間焼成し、リチウム複合酸化物二次粒子(LiNi0.33Co0.33Mn0.34O2、平均粒径:10μm)を得た。
【0071】
[製造例2:表面に炭素(x)が担持してなるリチウム系ポリアニオン粒子(b)の製造]
LiOH・H2O 4071g、及び水9.657Lを混合してスラリーb1を得た。次いで、得られたスラリーb1を、25℃の温度に保持しながら3分間撹拌しつつ75%のリン酸水溶液4204gを40mL/分で滴下して、Li3PO4を含むスラリーb2を得た。
得られたスラリーb2に窒素パージして、スラリーb2の溶存酸素濃度を0.1mg/Lとした後、スラリーb2全量に対し、MnSO4・5H2O 3807g、FeSO4・7H2O 2684gを添加してスラリーb3を得た。添加したMnSO4とFeSO4のモル比(マンガン化合物:鉄化合物)は、70:30であった。
次いで、得られたスラリーb3をオートクレーブに投入し、160℃で1時間水熱反応を行った。オートクレーブ内の圧力は0.8MPaであった。水熱反応後、生成した結晶をろ過し、次いで結晶1質量部に対し12質量部の水により洗浄した。その後フィルタープレス装置で脱水し、脱水ケーキb4を得た。
脱水ケーキb4中のリチウム系ポリアニオン粒子の平均粒径は、100nmであった。
得られた脱水ケーキb4を8000g分取し、セルロースナノファイバー(FD100F、ダイセルファインケム社製)1200g、水8.5Lを添加して、固形分濃度30%のスラリーb5を得た。得られたスラリーb5を超音波攪拌機(T25、IKA社製)で10分間分散処理して全体を均一に混合させた後、スプレードライ装置(MDL-050M、藤崎電機株式会社製)を用いて乾燥温度130℃で噴霧乾燥し、造粒体b6を得た。
得られた造粒体b6を、アルゴン水素雰囲気下(水素濃度3%)、700℃で1時間焼成して、2.0質量%のセルロースナノファイバー由来の炭素が担持されたリン酸マンガン鉄リチウム二次粒子(LiMn0.7Fe0.3PO4、炭素(x)の担持量:2.0質量%、平均粒径:12μm)を得た。
【0072】
[製造例3:リチウム複合酸化物二次粒子(d)の製造]
ボールミルの混合時間を3時間とした以外、製造例1と同様にしてリチウム複合酸化物二次粒子(LiNi0.33Co0.33Mn0.34O2、平均粒径(D50):3μm)を得た。
【0073】
[製造例4:リチウム複合酸化物二次粒子(e)の製造]
ボールミルの混合時間を10分間とした以外、製造例1と同様にしてリチウム複合酸化物二次粒子(LiNi0.33Co0.33Mn0.34O2、平均粒径(D50):25μm)を得た。
【0074】
[実施例1]
製造例1で得られたリチウム複合酸化物二次粒子(a)450gと製造例2で得られたリチウム系ポリアニオン粒子(b)50gをノビルタ(ホソカワミクロン社製、NOB-130)を用いて2000rpmで10分間の複合化処理を行い、コア部(A)とこれを被覆してなる内層(B)とを有した予備粒子を得た。続けて、グラファイト(日本黒鉛社製、UP-5N)2.5gを添加し、2000rpmで5分間の複合化処理を行い、さらに内層(B)を被覆してなる外層(C)を有した多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0075】
[実施例2]
リチウム複合酸化物二次粒子(a)を350g、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を150gとした以外、実施例1と同様にして多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0076】
[実施例3]
リチウム複合酸化物二次粒子(a)を250g、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を250gとした以外、実施例1と同様にして多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0077】
[実施例4]
リチウム複合酸化物二次粒子(a)を350g、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を150gとし、グラファイトの代わりにカーボンブラック(EC-600JD、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社 一次粒子径34nm)2.5gを添加した以外、実施例1と同様にして多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0078】
[実施例5]
リチウム複合酸化物二次粒子(a)を350g、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を150gとし、グラファイトの代わりにグラフェン(XG sciences社製、xGNP、平均粒径30μm)2.5gを添加した以外、実施例1と同様にして多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0079】
[実施例6]
リチウム複合酸化物二次粒子(a)を350g、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を150g、グラファイトを0.5gとした以外、実施例1と同様にして多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0080】
[実施例7]
リチウム複合酸化物二次粒子(a)を350g、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を150g、グラファイトを7.5gとした以外、実施例1と同様にして多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0081】
[実施例8]
リチウム複合酸化物二次粒子(d)を350gとし、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を150g添加した以外、実施例1と同様にして多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0082】
[実施例9]
リチウム複合酸化物二次粒子(e)を350gとし、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を150g添加した以外、実施例1と同様にして多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0083】
[比較例1]
リチウム複合酸化物二次粒子(a)を350g、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を150g、グラファイトを10gとした以外、実施例1と同様にして多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0084】
[比較例2]
リチウム複合酸化物二次粒子(a)を350g、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を150g、グラファイトを50gとした以外、実施例1と同様にして多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0085】
[比較例3]
リチウム複合酸化物二次粒子(a)を350g、リチウム系ポリアニオン粒子(b)を150gとし、グラファイトを添加することなく複合化処理を行った以外、実施例1と同様にして、コア部(A)と内層(B)のみを有する多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0086】
[比較例4]
製造例1で得られたリチウム複合酸化物二次粒子(a)350g、製造例2で得られたリチウム系ポリアニオン粒子(b)150g、及びグラファイト(日本黒鉛社製、UP-5N)2.5gをノビルタ(ホソカワミクロン社製、NOB-130)を用いて2000rpmで10分間の一括した複合化処理を行い、リチウムイオン二次電池用正極活物質を得た。
【0087】
《リチウムイオン二次電池用正極活物質が有する各層の層厚みの測定》
実施例及び比較例で得られた各正極活物質について、内層(B)の層厚みはSEMの電子顕微鏡を用い、外層(C)の層厚みはSEMの電子顕微鏡を用いて観察し、100個の粒子の層厚みを測定して平均値を求めた。
【0088】
《リチウムイオン二次電池用正極活物質の粒度分布測定》
実施例及び比較例で得られた各正極活物質について、マイクロトラック・ベル社のMT3300EX IIを用いて粒度分布測定を行い、1μm以下の微粒子量(体積%)と平均粒径(D50)を求めた。
【0089】
《25℃での20MPa加圧時における電気伝導度の算出》
実施例及び比較例で得られた各正極活物質について、粉体抵抗装置(三菱ケミカルアナリティック社、MCP-PD51型)を用い、25℃での20MPa加圧時における電気伝導度(S/cm)を算出した。
【0090】
《ラマン分光法による強度比(I(PO4)/I(D))の測定》
実施例及び比較例で得られた各正極活物質について、ラマン分光光度計(NRS-1000、日本分光社製)を用いてラマン分光スペクトルを測定し、ピーク強度(I(D)、ピーク位置:1350cm-1付近)とPO4
3-に関わるピーク強度(I(PO4)、ピーク位置:950cm-1付近)を測定し、強度比(I(PO4)/I(D))を求めた。
【0091】
《正極スラリーの評価》
上記リチウムイオン二次電池の作製中において調製した正極スラリーにつき、250℃における粘度を粘度計(LVDI-I+, Brookfield Engineering Laboratories社)にて測定した。
なお、かかる25℃における粘度が、1000~5500mPa・sec(好ましくは1500~5000mPa・sec)であれば、用いた正極活物質において微粒子の発生が有効に低減されており、集電体への塗工性に優れた正極スラリーであると評価することができる。
【0092】
《リチウムイオン二次電池の作製1》
実施例及び比較例で得られた各正極活物質を用いて正極スラリーを調製した。具体的には、正極活物質、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比98:1:1の配合割合で混合し、得られた混合物100質量部に対して、N-メチル-2-ピロリドンを1質量部加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。
次に、上記正極スラリーを厚さ20μmのアルミニウム箔からなる集電体に塗工機を用いて塗布し、80℃で12時間の真空乾燥を行った。その後、φ14mmの円盤状に打ち抜いてハンドプレスを用いて16MPaで2分間プレスし、正極とした。
次いで、上記正極を用いてコイン型二次電池を構築した。負極には、φ15mmに打ち抜いたリチウム箔を用いた。電解液には、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPF6を1mol/Lの濃度で溶解したものを用いた。セパレータには、ポリプロピレンを用いた。これらの電池部品を露点が-50℃以下の雰囲気中にて常法により組み込み収容し、コイン型二次電池1(CR-2032)を得た。
【0093】
《電池特性の評価》
得られたコイン型二次電池1を用い、放電容量測定装置(HJ-1001SD8、北斗電工社製)にて気温45℃環境での、0.2C(34mAh/g)、3C(510mAh/g)の放電容量を測定した。
さらに、気温45℃環境での1Cでの充放電の30回繰り返しによる、下記式(2)による容量維持率(サイクル特性)を求めた。
容量維持率(%)=(30サイクル後の放電容量)/(1サイクル後の放電容量)
×100 ・・・(2)
【0094】
《リチウムイオン二次電池の作製2》
実施例及び比較例で得られた各正極活物質を用いて正極スラリーを調製した。具体的には、正極活物質、アセチレンブラック、ポリフッ化ビニリデンを質量比90:5:5の配合割合で混合し、得られた混合物100質量部に対して、N-メチル-2-ピロリドンを1質量部加えて充分混練し、正極スラリーを調製した。
次いで、リチウムイオン二次電池の作製1と同様にして、コイン型二次電池2(CR-2032)を得た。
【0095】
《電極密度及び0℃環境下の正極体積エネルギー密度の算出》
得られたコイン型二次電池2を用い、0℃における5Cの放電容量を測定した。次いで、下記式(3)から電極密度を算出するとともに、下記式(4)から0℃環境下の正極体積エネルギー密度を算出した。
電極密度(g/cm3)=
正極中の正極活物質質量(mg)/電極体積(φ14mm×厚さ(μm))
・・・(3)
0℃環境下の正極体積エネルギー密度(Wh/g)=
0℃における放電容量(mAh/g)×平均電圧(V)×電極密度(g/cm3) ・・・(4)
【0096】
【0097】
実施例で得られた多層型リチウムイオン二次電池用正極活物質は、強度比(I(PO4)/I(D))の値により、リチウム複合酸化物二次粒子とリチウム系ポリアニオン粒子とが堅固に複合化されつつ、外層(C)が良好に被覆してなる強固な多層構造が形成されていることが示された。また、電気伝導度も高い値を示すことも確認された。
そのため、比較例で得られた正極活物質に比して、電極密度及び0℃環境下の正極体積エネルギー密度及び45℃環境高温下での容量維持率について高い値を示しており、幅広い温度変化に晒されても安定して優れた電池特性を発現できることがわかる。