(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】レール位置決め装置及びレール位置決め方法
(51)【国際特許分類】
B66B 7/02 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
B66B7/02 H
(21)【出願番号】P 2020050664
(22)【出願日】2020-03-23
【審査請求日】2022-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】浜田 悠太
(72)【発明者】
【氏名】波田野 利昭
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 雅人
【審査官】八板 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-142622(JP,A)
【文献】特開昭59-124680(JP,A)
【文献】特開昭57-179815(JP,A)
【文献】特開2019-200168(JP,A)
【文献】登録実用新案第3221012(JP,U)
【文献】特開平06-072515(JP,A)
【文献】特開2015-027902(JP,A)
【文献】特開平04-223988(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 7/02
G01B 9/00-11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降路内に設置するレールを位置決めするレール位置決め装置において、
対向する2本のレール間の距離を合わせるためのレールゲージと、
前記レールゲージの左右に備えられ、対向する2本のレールを把持するレール把持部と、
前記レールゲージの左右方向中央部を回動可能に支持するベースと、
前記ベースに備えられ、壁面と接触し、左右方向に伸縮可能な左右位置調整部と、
前記左右位置調整部の左右に接続され、壁面若しくは鉄骨に接触する接触部と、
前記ベースの左右にそれぞれ備えられ、前記レールゲージの左右のそれぞれと回動可能に接続されると共に前後方向に伸縮可能な一対の前後位置調整部と、
前記昇降路の下部に設置されたレーザ鉛直器から照射されたレーザ光を受光し、受光した前記レーザ光に基づいて前記レールゲージの位置を検出する位置検出部と、
前記壁面若しくは前記鉄骨と接触する前記左右位置調整部の突っ張り力を検出する突っ張り力検出部と、
前記位置検出部及び前記突っ張り力検出部の検出値に基づいて、前記前後位置調整部及び前記左右位置調整部を制御して前記レールゲージを前記レールの設置位置に移動させる制御部と、
を備え、
前記位置検出部は、受光した前記レーザ光を収束させるビームコンプレッサを備え
、
前記制御部は、前記接触部が前記壁面若しくは前記鉄骨に接触した時、及び前記レールの移動中に前記突っ張り力が所定値以上になるように前記左右位置調整部を制御することを特徴とするレール位置決め装置。
【請求項2】
請求項
1において、
前記突っ張り力は、少なくとも前記レール位置決め装置の自重、前記レールの剛性から算出することを特徴とするレール位置決め装置。
【請求項3】
請求項1
または2において、
前記左右位置調整部と前記接触部とは、1軸以上の回転軸を備えて接続されたことを特徴とするレール位置決め装置。
【請求項4】
請求項1
または2において、
前記左右位置調整部と前記接触部とは、ユニバーサルジョイントで接続されたことを特徴とするレール位置決め装置。
【請求項5】
請求項1
または2において、
前記接触部の前記壁面と対向する面には、1本以上のピンを備えたことを特徴とするレール位置決め装置。
【請求項6】
請求項1
または2において、
前記接触部は、磁力発生する磁力発生部としたことを特徴とするレール位置決め装置。
【請求項7】
請求項1
または2において、
前記左右位置調整部と前記接触部の間に弾性体を備えたことを特徴とするレール位置決め装置。
【請求項8】
請求項1
または2において、
前記接触部は、前記左右位置調整部から着脱可能としたことを特徴とするレール位置決め装置。
【請求項9】
昇降路内に設置するレールを位置決めするレール位置決め方法において、
レール位置決め装置は、レールゲージと、前記レールゲージに備えられたレール把持部と、左右方向に伸縮し、壁面と接触して突っ張り力を発生させると共に、前記レールゲージを左右方向に移動させる左右位置調整部と、前記レールゲージを前後方向に移動させる前後位置調整部と、前記昇降路の下部に設置されたレーザ鉛直器から照射されたレーザ光を受光し、受光した前記レーザ光に基づいて前記レール位置決め装置の位置を検出する位置検出部と、前記左右位置調整部及び前記前後位置調整部を制御する制御部とを備え、
前記制御部は、
前記レール位置決め装置がレール位置決めする所定位置まで昇降した後、
前記左右位置調整部の伸縮部を伸ばし、壁面に突っ張る工程と、
前記左右位置調整部の突っ張り力が所定値以上か否か判断する工程と、
前記レール把持部で前記レールを把持する工程と、
前記位置検出部で前記レール位置決め装置の現在位置を取得する工程と、
前記前後位置調整部及び前記左右位置調整部を制御して前記レールを移動させる工程と、
前記レールが移動中に、前記左右位置調整部の突っ張り力が所定値以上か否か判断する工程と、
前記左右位置調整部が所定値以上の突っ張り力に達していない場合、前記左右位置調整部を制御して突っ張り力が所定以上となるように調整する工程と、
前記レールが所定の位置座標に在るか否かを判断する工程と、
を備え、
前記位置検出部は、受光した前記レーザ光を収束させるビームコンプレッサを備えたことを特徴とするレール位置決め方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベーターのレールの位置決めを行うレール位置決め装置及びレール位置決め方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本、北米、欧州をはじめとする先進国では、少子高齢化に伴う施工作業者の減少が問題となっており、エレベーターの据付現場においても施工作業の省力化と作業性向上が求められている。エレベーターの据付作業において、レール据付作業は、階床分の繰返し作業であるため最も時間を要する。エレベーターのレールは、乗りかごの両側に位置し、このレールに沿って乗りかごが昇降する。一般的にレール単体の長さは3~5mあり、レール据付の際には、昇降路内で個々のレールを繋ぎ合わせて立設し、連結されたレールが鉛直方向に延びるようにブラケットで昇降路の壁や鉄骨等に固定される。
【0003】
従来、レール位置決め時には、2本のレール間距離と対向度を合わせるためにレールゲージを使用し、ブラケットでレールを壁面に仮固定させる。昇降路の上部から鉛直方向に下した2本のピアノ線を基準芯とし、レールがそのピアノ線に対して所定の位置となるように、レールやブラケットの縁をハンマリングし、レールの位置を微調整した後、本固定する。レール位置決め作業は、昇降時の乗りかごの乗り心地を左右するため、作業者には、レールを高精度に位置決めする高い技能が求められる。
【0004】
そこで、非熟練作業者でも容易にレール位置決めを可能とする先行技術文献として、例えば、特許文献1に記載のエレベータガイドレールの芯出し装置がある。この特許文献1に記載されているレール芯出し装置は、レーザを用いて容易にかつ精度良くレールを芯出し固定することができるエレベータガイドレールの芯出し装置を提供することを目的としている。この目的を解決するため、特許文献1には、昇降路内でレーザ光を照射し、このレーザ光を基準としてレール部材を芯出しするエレベータガイドレールの芯出し装置において、前記昇降路下部の所定の位置にレーザ発光器を配置し、昇降路内を昇降する乗りかご作業床に支持されると共に、伸長して対向する昇降路壁に当接してベース部材を昇降路壁間に固定する伸長当接装置と、前記ベース部材に支持した前記レーザ光の受光部と、前記伸長当接装置の伸長方向と同一平面内で位置調整可能な位置調整装置と、前記位置調整装置を介して前記ベース部材に支持されると共に、前記レール部材を把持可能な把持装置を備えた構成が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載されているレール芯出し装置は、基本的に人の手により動作させることを想定しているため、動力部を備えておらず、十分な労力低減には至っていない。また、該文献のレール芯出し装置には、壁面に突っ張る伸長当接装置の先端にゴム等の弾性体で構成された当接体が取り付けられており、レールを前後左右方向に移動させてレール位置決めする際には、その当接体を壁面に押し当てた際に発生する摩擦力を利用して、装置本体のずれを防ぐ旨が記載されているが、突っ張り力の具体的な確認及び制御方法は考慮されていないため、レール位置決め動作に伴う突っ張り力の変動や壁面の状態(対向する壁面が平行ではない場合や左右で突っ張る対象面の材質が異なる場合等)によっては、突っ張り部がずれ、レール位置決め精度が保証されないという課題がある。
【0007】
本発明の目的は、壁面に突っ張ったレール位置決め装置がずれるのを抑制し、レール位置決め精度を向上させることができるレール位置決め装置及びレール位置決め方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために本発明は、昇降路内に設置するレールを位置決めするレール位置決め装置において、対向する2本のレール間の距離を合わせるためのレールゲージと、前記レールゲージの左右に備えられ、対向する2本のレールを把持するレール把持部と、前記レールゲージの左右方向中央部を回動可能に支持するベースと、前記ベースに備えられ、壁面と接触し、左右方向に伸縮可能な左右位置調整部と、前記左右位置調整部の左右に接続され、壁面若しくは鉄骨に接触する接触部と、前記ベースの左右にそれぞれ備えられ、前記レールゲージの左右のそれぞれと回動可能に接続されると共に前後方向に伸縮可能な一対の前後位置調整部と、前記昇降路の下部に設置されたレーザ鉛直器から照射されたレーザ光を受光し、受光した前記レーザ光に基づいて前記レールゲージの位置を検出する位置検出部と、前記壁面若しくは前記鉄骨と接触する前記左右位置調整部の突っ張り力を検出する突っ張り力検出部と、前記位置検出部及び前記突っ張り力検出部の検出値に基づいて、前記前後位置調整部及び前記左右位置調整部を制御して前記レールゲージを前記レールの設置位置に移動させる制御部と、を備え、前記位置検出部は、受光した前記レーザ光を収束させるビームコンプレッサを備え、前記制御部は、前記接触部が前記壁面若しくは前記鉄骨に接触した時、及び前記レールの移動中に前記突っ張り力が所定値以上になるように前記左右位置調整部を制御することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、昇降路内に設置するレールを位置決めするレール位置決め方法において、レール位置決め装置は、レールゲージと、前記レールゲージに備えられたレール把持部と、左右方向に伸縮し、壁面と接触して突っ張り力を発生させると共に、前記レールゲージを左右方向に移動させる左右位置調整部と、前記レールゲージを前後方向に移動させる前後位置調整部と、前記昇降路の下部に設置されたレーザ鉛直器から照射されたレーザ光を受光し、受光した前記レーザ光に基づいて前記レール位置決め装置の位置を検出する位置検出部と、前記左右位置調整部及び前記前後位置調整部を制御する制御部とを備え、前記制御部は、前記レール位置決め装置がレール位置決めする所定位置まで昇降した後、前記左右位置調整部の伸縮部を伸ばし、壁面に突っ張る工程と、前記左右位置調整部の突っ張り力が所定値以上か否か判断する工程と、前記レール把持部で前記レールを把持する工程と、前記位置検出部で前記レール位置決め装置の現在位置を取得する工程と、前記前後位置調整部及び前記左右位置調整部を制御して前記レールを移動させる工程と、前記レールが移動中に、前記左右位置調整部の突っ張り力が所定値以上か否か判断する工程と、前記左右位置調整部が所定値以上の突っ張り力に達していない場合、前記左右位置調整部を制御して突っ張り力が所定以上となるように調整する工程と、前記レールが所定の位置座標に在るか否かを判断する工程と、を備え、前記位置検出部は、受光した前記レーザ光を収束させるビームコンプレッサを備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、壁面に突っ張ったレール位置決め装置がずれるのを抑制し、レール位置決め精度を向上させることができるレール位置決め装置及びレール位置決め方法を提供することができる。
【0011】
上記以外の課題、構成及び効果は、以下の実施例の説明で明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1に関するレール位置決め装置100を備えたレール据付システム17の概略図である。
【
図2】
図1からレール位置決め装置100のみを取り出した図である。
【
図4】実施例1に関するレール位置決め装置のブロック図である。
【
図5】壁面が傾斜している場合におけるレール位置決め装置の状態を示す図である。
【
図6】実施例1に関するレール位置決め作業のフローチャートである。
【
図7】実施例2に係るレール位置決め装置を正面から見た一部拡大図である。
【
図8】実施例3に係るレール位置決め装置を正面から見た一部拡大図である。
【
図9】実施例4に係るレール位置決め装置を正面から見た一部拡大図である。
【
図10】実施例5に係るレール位置決め装置を正面から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図示した実施例に基づいて本発明のレール位置決め装置及びレール位置決め方法を説明する。なお、各図において、同一の構成には同一の符号を付し、説明が重複する場合は、その説明を省略する場合がある。本発明の各実施例では、図中に記載した方向を前後・上下・左右と定義する。
【0014】
本発明の各種の構成要素は必ずしも個々に独立した存在である必要はなく、一の構成要素が複数の部材から成ること、複数の構成要素が一の部材から成ること、或る構成要素が別の構成要素の一部であること、或る構成要素の一部と他の構成要素の一部とが重複すること、などを許容する。
【実施例1】
【0015】
〔レール据付システム17の全体構成〕
まず、
図1を参照し、レール据付システム17の全体構成について説明する。
図1は、実施例1に関するレール位置決め装置100を備えたレール据付システム17の概略図である。ここで実施例1では、下記事項を仮定とする。昇降路1内ではエレベーターの据付位置が既に定まっていること、最下部から最上部までのレール11が昇降路1内に搬入及び連結され、壁面2にブラケット12で固定されていない状態で存在し、昇降路1上部からワイヤ13等で吊下げられていることである。また、実施例1では、レール最下部は、ピットベース14に設置されているものとする
。レール据付システム17は、主にレール固定装置9と、レール位置決め装置100の2つの装置から構成される。
【0016】
レール位置決め装置100は、それ自体に昇降機能がないため、作業床7に設置された台座8に載置して昇降させる。レール位置決め装置100を昇降させるにあたっては、作業床7の台座8にレール位置決め装置100を載置し、ワインダ4を動作させる。ワインダ4はワインダロープ5を巻上げ、若しくは巻下げ、レール位置決め装置100が所定の位置に移動した時に停止する。そして、レール位置決め装置100が壁面2への突っ張りが完了すると、ワインダ4が動作し、作業床7がレール位置決め装置100の下方の位置になるように移動する。
【0017】
レール位置決め装置100は、レール11を所定位置まで移動させ、保持するための装置である。レール固定装置9は、レール位置決め装置100によって保持されたレール11を壁面2に固定する。そのため、レール位置決め装置100は、レール固定装置9がレール11を壁面2に固定するまで、レール11を保持する。
【0018】
レール位置決め装置100は、レールゲージ101と、レール把持部102と、前後位置調整部103と、左右位置調整部104と、ベース105と、壁面接触部106(接触部)と、制御部107と、レールの位置を検出する受光部108と、突っ張り力を検出する力覚センサ109(突っ張り力検出部)から構成される。前後位置調整部103と左右位置調整部104は、レール把持部102で把持したレール11をレール固定位置に移動させるレール位置調整部としての機能を有する。制御部107はこのレール位置調整部を制御する。
【0019】
レールゲージ101は、対向する2本のレール11間の距離を合わせるため用いられる。
【0020】
レール把持部102は、レールゲージ101の左右に備えられており、対向する2本のレール11を把持する。
【0021】
ベース105は、レールゲージ101の左右方向中央部を支点A112によって回動可能に支持する。
【0022】
左右位置調整部104は、ベース105に備えられており、壁面2と接触し、左右方向に伸縮可能となっている。また、左右位置調整部104は、突っ張り力を発生させながら、レールゲージ101を左右方向に移動させる。
【0023】
壁面接触部106は、左右位置調整部104の左右に接続されており、左右位置調整部104が発生する突っ張り力によって壁面に接触し、押圧される。
【0024】
前後位置調整部103は、ベース105の左右にそれぞれ備えられており、レールゲージ101の左右のそれぞれと支点Bによって回動可能に接続されると共に前後方向に伸縮可能となっている。前後位置調整部103は、レールゲージ101を前後方向に移動させる。
【0025】
ベース105には、前後位置調整部103の伸縮動作に合わせ、支点A112が前後方向に動くのを許容する長穴105aが形成されている。実施例1における前後位置調整部103と、左右位置調整部104は、電動、油圧、空圧等を駆動力とし、伸縮するピストン部(伸縮部)により力を発生させるリニアアクチュエータとしている。
【0026】
力覚センサ109は、左右位置調整部104と壁面接触部の間に配置され、突っ張り力(壁面からの反力)を検出する。
【0027】
レールの位置検出にあたっては、レーザ光201を用いる。
図1に示すように、昇降路1の下部には2つのレーザ鉛直器200が設置され、レーザ鉛直器200から鉛直方向に照射された2本のレーザ光201を基準芯として活用する。レーザ光201は、レールゲージ101に受光部取付板111を介して取付けられた4象限フォトディテクタ等の受光部108(位置検出部)で検出する。受光部108はレールゲージ101の位置を検出する。
【0028】
図4は、実施例1に関するレール位置決め装置のブロック図である。制御部107は、演算部と、制御プログラム等が記憶された記憶部と、記憶部に記憶された制御プログラム、受光部108の検出値、力覚センサ109の検出値に基づいて演算を行う演算部を備えている。そして、制御部107では、受光部108の検出値及び力覚センサ109の検出値に基づいて、前後位置調整部103及び左右位置調整部104を制御してレールゲージ101をレール11の設置位置に移動させる。
【0029】
制御部107は、受光部108で検出されたレーザ光201に基づいて、昇降路内における平面座標を検出し、レール11の設置位置を判断する。そして、前後位置調整部103及び左右位置調整部104を動作させる制御信号を出力する。なお、受光部108には、遠方で広がったレーザ光201を再び収束させるビームコンプレッサ等を備えると検出精度を向上させることができる。
【0030】
次に、レール位置決め装置100の動作を説明する。レール11は、乗りかご(図示せず)を挟むように対を成して昇降路1内に設置される。2本のレール11は、レール位置決め装置100のレール把持部102で把持される。レール把持部102は、レール11を把持するためのクランプ機構を備えており、レールゲージ101の両端に取付けられている。このレールゲージ101の剛体部の長さは、所定のレール間距離と等しく、また、レール把持面が平行になっているため、レール把持部102でレール11を把持すると、対を成す2本のレール間距離と平行が出る仕組みとなっている。
【0031】
レール11は、前後位置調整部103及び左右位置調整部104によって並進移動させる。レールゲージ101には、前後方向に伸縮可能な前後位置調整部103が支点B113を介して接続されており、前後位置調整部103は、ベース105に取付けられている。さらにベース105には、左右方向に伸縮可能な左右位置調整部104が取付けられており、左右位置調整部104の左右先端部の壁面接触部106を、対向する壁面2に押付けた際に発生する反力を利用することで、レール11を前後左右に動かし、所定位置まで移動させるものである。左右位置調整部104と壁面接触部の間には、力覚センサ109が備えられており、力覚センサ109は壁面への突っ張り力(反力)を検出し、左右位置調整部104の移動を制御するために用いる。レール位置決め装置100の落下を防ぐためには、左右位置調整部104による突っ張り力が所定値以上になるように制御部107で制御する必要がある。突っ張り力はレール位置決め装置100の自重、レール11の剛性を考慮する必要があることから、制御部107ではこれらを考慮し、突っ張り力の所定値を算出する。上述したように、実施例1では最下部から最上部までの複数のレール11が昇降路1内に搬入及び連結され、壁面2にブラケット12で固定されていない状態で存在している。レール把持部102で把持したレール11には、ブラケット12で固定されていない他のレール11の押付力や引き離し力が発生する。実施例1でのレール11の剛性とは、押付力や引き離し力を意味する。左右位置調整部104は、突っ張り力が所定値以上に保持しつつ、左右方向に移動してレール11を固定する左右位置を決定する。
【0032】
次に2つの前後位置調整部103の移動量をそれぞれ調整することで、レール11の捻じれも矯正することができる。なお、2つの前後位置調整部103とレールゲージ101は、支点B113を介して回動可能に接続され、レールゲージ101は、ベース105と支点A112を介して回動可能に接続されているので、前後位置調整部103に掛かる負担が低減される。
【0033】
図5は、壁面が傾斜している場合におけるレール位置決め装置の状態を示す図である。
図5では、壁面2が平行ではなく、やや傾斜した壁面となっている。
【0034】
図5に示すように、左右位置調整部104と壁面接触部106を接続する箇所に回転軸110を設置した。回転軸110は、壁面2の傾斜に合わせ、壁面接触部106を左右位置調整部に対して傾斜させる。実施例1では、左右位置調整部104と壁面接触部106とを回転軸110を介して接続するようにしたので、壁面の傾斜にならいレール位置決め装置100を突っ張ることができる。なお、回転軸110は、少なくとも1軸以上備えるようにすると良い。また、左右位置調整部104と壁面接触部106との接続箇所に、回転方向を自由に変更できるユニバーサルジョイントを用いるようにしても良い。
〔レール位置決め作業の工程〕
以下、
図6を用いて、レール位置決め作業の工程を説明する。
図6は、実施例1に関するレール位置決め作業のフローチャートである。
【0035】
ここでは、前提として、レール位置決め装置100の前後位置調整部103と左右位置調整部104の伸縮部は最小に縮まっており、また、レール位置決め装置100は、レール固定装置9の作業床7の昇降により、レールを位置決めする高さまで移動した状態であるとする(レール固定装置9によってレール位置決め装置をレール位置決めする所定位置まで昇降させる工程)。レール位置決め作業は、制御部107の記憶部に記憶された制御プログラムによって実行される。
【0036】
まず、左右位置調整部104は、伸縮するピストン部を左右方向に伸ばし、壁面接触部106を壁面2に接触させ、レール位置決め装置100を突っ張って固定する(ステップS1:左右位置調整部104の伸縮部を伸ばし、壁面に突っ張る工程)。レール位置決め装置100が壁面2への突っ張りが完了すると、ワインダ4が動作し、作業床7がレール位置決め装置100の下方の位置になるように移動する。
【0037】
左右位置調整部104の壁面2への突っ張り力を力覚センサ109で検出し、壁面2への突っ張り力が所定値以上か否か判断する(ステップS2:左右位置調整部104の突っ張り力が所定値以上か否か判断する工程)。
【0038】
次に、レール位置決め装置100のレール把持部102でレール11を把持する(ステップS3:レール把持部102でレールを把持する工程)。この際、レール把持部102が、2本のレール11に接触するように前後位置調整部103及び左右位置調整部104の位置を微調整する。
【0039】
その後、昇降路最下部に設置されたレーザ鉛直器200から照射されたレーザ光201を受光部108で受光し、レール位置決め装置100の現在位置座標を取得する(ステップS4:レール位置決め装置100の現在位置座標を取得する工程)。
【0040】
続いて、前後位置調整部103と左右位置調整部104を制御し、レール11を所定の位置座標まで移動させ(ステップS5:前後・左右位置調整部を制御してレールを移動させる工程)、レールが所定の位置座標に在るか否かを判断する(ステップS6:レール11が所定の位置座標に在るか否かを判断する工程)。レール11の移動中には、力覚センサ109で、左右位置調整部104の壁面2への突っ張り力を監視し、レール位置決め装置100が所定以上の突っ張り力か否かを判断する(ステップS7:レール11が移動中に左右位置調整部104の突っ張り力が所定値以上か否か判断する工程)。
【0041】
左右位置調整部104が所定以上の突っ張り力がある場合、ステップS5に戻り、処理を繰り返す。ステップS7において、左右位置調整部104が所定値以上の突っ張り力に達していない場合には、左右位置調整部104を制御して突っ張り力が所定以上となるように調整する(ステップS8:左右位置調整部104を制御して突っ張り力が所定以上となるように調整する工程)。
【0042】
ステップS6において、レールが所定の位置座標に在る場合には、前後位置調整部103及び左右位置調整部104の動作を停止させ、レールの位置決め作業を完了する(ステップS9:レール位置決めを完了する工程)。
【0043】
レール位置決めが完了すると、レール固定装置9を動作させ、昇降路1の壁面2を穿孔し、アンカーボルトを打ち込む(ステップS10:レール固定装置9によるレール固定作業を開始する工程)。そして、壁面2に打ち込んだアンカーボルトにブラケット12を取付け、このブラケット12にレール11を固定し、レール固定作業を完了する(ステップS11:レール固定作業を完了する工程)。
【0044】
レール固定作業が完了すると、ワインダ4を動作させてワインダロープ5を巻上げ、作業床7の台座8にレール位置決め装置100を載置する。レール位置決め装置100の載置が完了すると、左右位置調整部104を縮小する方向に動作させ、突っ張り力を開放し、左右位置調整部104を最短化する(ステップS12:左右位置調整部104を最短化する工程)。
【0045】
左右位置調整部104の最短化が完了すると、レール把持部102を動作させ、レール11の把持を解放する(ステップS13:レール把持部102を解放する工程)。レール11の把持を解放すると、レール位置決め装置100の全荷重がレール固定装置9に移る。レール11の把持を解放した後、前後位置調整部103を縮小する方向に動作させ、前後位置調整部103を最短化する(ステップS14:前後位置調整部103を最短化する工程)。そして、レール位置決め作業を終了する。
【0046】
以上の工程で、レールの位置決めと固定が終了する。上述した一連の工程について高さを変え、階床分繰返していくことで、レール11が壁面2に据付けられる。なお、実施例1では、壁面2への突っ張り力を検出する手段として、力覚センサ109を用いたが、左右位置調整部104の駆動電流を計測できる場合は、それを代替の検出手段として用いてもよい。また、上述したレール位置決め工程であるが、レール固定装置9は、必ずしも必須ではなく、レール固定作業は作業者が行い、レール位置決め作業のみ本発明のレール位置決め装置100を使用する場合も含むものとする。
【0047】
実施例1によれば、レール11が移動中に左右位置調整部104の突っ張り力が所定値以上か否か判断するようにしているので、左右位置調整部104が壁面からずれるのを抑制することができる。そして、実施例1によれば、レール位置決め動作に伴う突っ張り力の変動や壁面の状態に応じて精度良くレール設置位置を判断し、レール位置決め作業を自動化することのできるレール位置決め装置を提供することができる。
【実施例2】
【0048】
次に、実施例2について
図7を用いて説明する。
図7は、実施例2に係るレール位置決め装置を正面から見た一部拡大図である。実施例2において、実施例1と異なるところは壁面接触部106の構造にある。
【0049】
上述した実施例1では、レール位置決め装置100の壁面接触部106は、壁面2に面接触させるものであった。しかし、壁面2がコンクリート造で表面に凹凸や粉塵がある場合、壁面接触部106の単純な面接触だけでは、レールを並進移動させた際の壁面とのずれが生じてしまう場合がある。
【0050】
この課題を解決する手段として、実施例2では、
図7に示すような壁面接触部106の壁面2と対向する面に2本のピン114を取付けた。レール位置決め装置100は左右対称のため、
図7ではその半面のみ示したものである。
【0051】
実施例2において、壁面2には、事前に下穴18が穿孔されている。下穴18は、例えばレール固定装置9を用いて穿孔する。下穴18には、壁面接触部106に取付けたピン114を挿入する。ピン114は、スパイクとして作用するため、レール並進移動時に発生する反力により壁面接触部106がずれることを抑制することができる。
【0052】
実施例2によれば、壁面接触部106にピン114を設け、このピン114を壁面2に形成した下穴18に挿入するようにしているので、壁面の凹凸や粉塵によるレール位置決め装置のズレを抑制することができる。
【実施例3】
【0053】
次に、実施例3について
図8を用いて説明する。
図8は、実施例3に係るレール位置決め装置を正面から見た一部拡大図である。実施例3において、実施例1及び実施例2と異なるところは接触部の構造にある。
【0054】
実施例2では、レール位置決め装置100の壁面接触部106が突っ張る対象はコンクリート壁面であったが、鉄骨造の昇降路1も存在する。そこで、実施例3では、接触部を、実施例2に示したぴん114付の壁面接触部106に代えて、磁力を発生する磁力発生部115とした。実施例2では、磁力発生部115を鉄骨19に吸着させ、突っ張るようにした。ここで磁力発生部115は、空圧やソレノイドにより磁力のON/OFFが切り替えられるもの或いは、電磁気力を発生させるものを想定している。実施例3においても鉄骨の面が傾いている場合があるため、回転軸110を備え、接触する面にならう構造が好ましい。
【0055】
実施例3によれば、壁面接触部106を、磁力発生部115に換装し、この磁力発生部115を鉄骨に吸着するようにしているので、鉄骨造の昇降路1内がであってもレール位置決め装置のズレを抑制することができる。
【実施例4】
【0056】
次に、実施例4について
図9を用いて説明する。
図9は、実施例4に係るレール位置決め装置を正面から見た一部拡大図である。実施例4において、実施例1乃至実施例3と異なるところは突っ張り力検出部にある。実施例1乃至実施例3では、突っ張り力検出部として、左右位置調整部104の可動部先端に力覚センサ109を接続し、力覚センサ109にて突っ張り力の検出を行っていた。
【0057】
実施例4では、力覚センサ109に代えて、
図9に示すようなバネ等の弾性体116を用い、この弾性体116の変形量を変位検出部117で検出し、バネ係数と変位の積で突っ張り力を算出するようにしている。或いは、所定値以上の突っ張り力の有無のみを検出する場合は、変位検出部117は、コンタクトスイッチ等にしても構わない。
【0058】
実施例4によれば、レール位置決め動作に伴う突っ張り力の変動や壁面の状態に応じて精度良くレール設置位置を判断し、レール位置決め作業を自動化することのできるレール位置決め装置を提供することができる。
【実施例5】
【0059】
次に、実施例5について
図10を用いて説明する。
図10は、実施例5に係るレール位置決め装置を正面から見た図である。実施例5において、実施例1乃至実施例4と異なるところは、左右位置調整部104と、壁面接触部106或いは磁力発生部115の間に着脱可能な接続部118を設けたことにある。
【0060】
実施例5では、
図10に示すように、昇降路1の壁面2の片側がコンクリート造で、その対面が鉄骨の場合を想定している。
【0061】
実施例5では、左右位置調整部104と、壁面接触部106或いは磁力発生部115の間に接続部118を設け、脱着し易い構造とした。接続部118はボルト固定式でも良いが、作業性を考慮し、ピン式やワンタッチカプラ式等が好ましい。
【0062】
実施例5によれば、コンクリート造りの壁面や鉄骨といった昇降路1内の構造に種類に合わせ、最適な接触部を選択することができるので、レール位置決め装置のズレを抑制することができる。
【0063】
以上説明したように、各実施例によれば、壁面の状態や材質によらず、レール11を並進移動させた際の反力によるレール位置決め装置100の壁面接触部106のずれを防ぐことが可能になるため、レール位置決め精度と作業性の向上が図れるという効果がある。
【0064】
なお、本発明は、上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0065】
1…昇降路、2…壁面、3…吊りビーム、4…ワインダ、5…ワインダロープ、6…スリング、7…作業床、8…台座、9…レール固定装置、10…ツール台座、11…レール、12…ブラケット、13…ワイヤ、14…ピットベース、15…ロボットアーム、16…エンドエフェクタ、17…レール据付システム、18…下穴、19…鉄骨、100…レール位置決め装置、101…レールゲージ、102…レール把持部、103…前後位置調整部、104…左右位置調整部、105…ベース、106…壁面接触部、107…制御部、108…受光部、109…力覚センサ、110…回転軸、111…受光部取付板、112…支点A、113…支点B、114…ピン、115…磁力発生部、116…弾性体、117…変位検出部、118…接続部、200…レーザ鉛直器、201…レーザ光