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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】電子写真機器用導電性ロール
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/02 20060101AFI20231226BHJP
   G03G 15/16 20060101ALI20231226BHJP
   G03G 15/08 20060101ALI20231226BHJP
   G03G 15/00 20060101ALI20231226BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G03G15/02 101
G03G15/16 103
G03G15/08 221
G03G15/08 235
G03G15/00 551
F16C13/00 B
F16C13/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020052207
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021152563
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀内 健
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-089877(JP,A)
【文献】特開昭63-105074(JP,A)
【文献】実開昭57-045661(JP,U)
【文献】特開2016-164650(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/02
G03G 15/16
G03G 15/08
G03G 15/00
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯金で構成される軸体と、前記軸体の外周面上に形成された接着剤層と、前記接着剤層の外周面上に形成された導電性ゴム弾性体層と、を備え、
前記接着剤層が、下記の(a)~(c)を含むことを特徴とする電子写真機器用導電性ロール。
(a)金属イオンとキレートを形成可能な置換基を有するポリ塩化ビニリデン
(b)ガロイル基を有する化合物
(c)水溶性、水分散性、あるいは水/アルコール混合溶媒可溶性であるバインダーポリマー
【請求項2】
前記(a)の水性液のpHが、4以下であることを特徴とする請求項1に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項3】
前記(b)が、タンニン酸であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項4】
前記(c)が、アクリロニトリル-ブタジエンゴムであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項5】
前記(a)と前記(c)の含有比率が、質量比で、(a):(c)=3:7~7:3の範囲内であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【請求項6】
前記(b)の含有量が、前記(a)と前記(c)の合計100質量部に対し、30質量部以上100質量部以下であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の電子写真機器用導電性ロール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真機器用導電性ロールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリなどの電子写真機器において、感光ドラムの周囲には、帯電ロール、現像ロール、転写ロール、トナー供給ロールなどの導電性ロールが配設されている。導電性ロールとしては、芯金の外周にエポキシ樹脂を用いた接着剤層を介して導電性ゴム弾性体層を有するものが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-113776号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記構成の導電性ロールは、芯金と導電性ゴム弾性体層の間の初期の接着力には優れるものの、耐久試験後の接着力に課題があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、芯金で構成される軸体と導電性ゴム弾性体層の間の耐久試験後の接着力に優れる電子写真機器用導電性ロールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため本発明に係る電子写真機器用導電性ロールは、芯金で構成される軸体と、前記軸体の外周面上に形成された接着剤層と、前記接着剤層の外周面上に形成された導電性ゴム弾性体層と、を備え、前記接着剤層が、下記の(a)~(c)を含むことを要旨とするものである。
(a)金属イオンとキレートを形成可能な置換基を有するポリ塩化ビニリデン
(b)ガロイル基を有する化合物
(c)バインダーポリマー
【0007】
前記(a)の水性液のpHは、4以下であることが好ましい。前記(b)は、タンニン酸であることが好ましい。前記(c)は、水溶性、水分散性、あるいは水/アルコール混合溶媒可溶性であることが好ましい。前記(c)は、アクリロニトリル-ブタジエンゴムであることが好ましい。前記(a)と前記(c)の含有比率は、質量比で、(a):(c)=3:7~7:3の範囲内であることが好ましい。前記(b)の含有量は、前記(a)と前記(c)の合計100質量部に対し、30質量部以上100質量部以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る電子写真機器用導電性ロールによれば、軸体と導電性ゴム弾性体層の間の接着剤層が上記(a)~(c)を含むことから、芯金で構成される軸体と導電性ゴム弾性体層の間の耐久試験後の接着力に優れる。
【0009】
この際、上記(a)の水性液のpHが4以下であると、接着剤層と芯金で構成される軸体の間の接着性が向上する。これにより、芯金で構成される軸体と導電性ゴム弾性体層の間の耐久試験後の接着力により優れる。
【0010】
また、上記(b)がタンニン酸であると、接着剤層と芯金で構成される軸体の間の接着性および接着剤層と導電性ゴム弾性体層の間の接着性が向上する。これにより、芯金で構成される軸体と導電性ゴム弾性体層の間の耐久試験後の接着力により優れる。
【0011】
そして、上記(c)が、水溶性、水分散性、あるいは水/アルコール混合溶媒可溶性であると、上記(a)との相溶性が向上する。これにより、芯金で構成される軸体と導電性ゴム弾性体層の間の耐久試験後の接着力により優れる。このとき、上記(c)がアクリロニトリル-ブタジエンゴムであると、接着剤層と導電性ゴム弾性体層の間の接着性が向上する。これにより、芯金で構成される軸体と導電性ゴム弾性体層の間の耐久試験後の接着力により優れる。
【0012】
そして、上記(a)と上記(c)の含有比率が、質量比で、(a):(c)=3:7~7:3の範囲内であると、接着剤層と芯金で構成される軸体の間の接着性が向上する効果と、接着剤層と導電性ゴム弾性体層の間の接着性が向上する効果のバランスに優れる。
【0013】
そして、上記(b)の含有量が、上記(a)と上記(c)の合計100質量部に対し、30質量部以上100質量部以下であると、接着剤層と芯金で構成される軸体の間の接着性が向上する効果と、接着剤層と導電性ゴム弾性体層の間の接着性が向上する効果のバランスに優れる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る電子写真機器用導電性ロールの外観斜視図である。
図2図1のA-A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係る電子写真機器用導電性ロールの外観斜視図であり、図2は、本発明の一実施形態に係る電子写真機器用導電性ロールの径方向断面図であり、図1のA-A線断面図である。
【0017】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る電子写真機器用導電性ロール(以下、単に導電性ロール10ということがある)は、芯金で構成される軸体12と、軸体12の外周面上に形成された接着剤層14と、接着剤層14の外周面上に形成された導電性ゴム弾性層16と、を有する。接着剤層14は、軸体12と導電性ゴム弾性層16の両方に接している。
【0018】
軸体12は、一般に導電性を有するものであればよく、この点から材料が限定されることはないが、コストや加工性などから、鉄またはステンレスを母材とするものが用いられるとよい。軸体12は、母材のみで構成されてもよいし、母材の表面にめっきなどによって形成される金属層を1層あるいは2層以上有する構成であってもよい。この場合の金属層は、防錆性を高める、接着剤層14との密着性を高めるなどの観点から形成されるとよい。コストの観点では、軸体12は母材のみで構成されるほうが好ましいが、防錆性に優れる、接着剤層14との密着性に優れるなどの観点から、軸体12は母材の表面に金属層を1層あるいは2層以上有する構成が好ましい。軸体12の母材の表面に形成される金属層は、導電性を有する金属からなる。このような金属層の金属としては、ニッケルなどが挙げられる。
【0019】
母材の表面に形成される金属層の厚みは、防錆性に優れる、接着剤層14との密着性に優れるなどの観点から、比較的厚いほうが好ましい(具体的には、10μm以上である)が、その分、コストが高くなるため、コストの観点から、3μm以下であることが好ましい。
【0020】
軸体12の形状は、軸体を構成できる形状であれば特に限定されるものではなく、中実体よりなる丸棒状であってもよいし、内部を中空にくり抜かれた円筒状であってもよい。
【0021】
接着剤層14は、下記の(a)~(c)を含む。
(a)金属イオンとキレートを形成可能な置換基を有するポリ塩化ビニリデン
(b)ガロイル基を有する化合物
(c)バインダーポリマー
【0022】
(a)は、金属イオンとキレートを形成可能な置換基を有するポリ塩化ビニリデンである。(a)は、金属イオンとキレートを形成可能な置換基を有することで、芯金で構成される軸体12とイオン結合を形成する。これにより、接着剤層14は軸体12と十分な接着性が得られる。また、(a)は、ポリ塩化ビニリデンをベース材料とすることで、接着剤層14のガスバリア性が高くなる。これにより、接着剤層14を経由する軸体12への水分の浸入が抑えられ、湿熱環境下における耐久試験後にも、接着剤層14と軸体12の間の接着性が維持される。
【0023】
(a)の金属イオンとキレートを形成可能な置換基としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基などが挙げられる。上記置換基としては、スルホン酸基が特に好ましい。接着剤層14と芯金で構成される軸体12の間の接着性が向上するからである。そして、これにより、芯金で構成される軸体12と導電性ゴム弾性体層16の間の耐久試験後の接着力により優れるからである。
【0024】
また、(a)は、水性液のpHが4以下であることが好ましい。接着剤層14と芯金で構成される軸体12の間の接着性が向上するからである。そして、これにより、芯金で構成される軸体12と導電性ゴム弾性体層16の間の耐久試験後の接着力により優れるからである。このような置換基としては、スルホン酸基、リン酸基、カルボキシル基などが挙げられる。
【0025】
(b)は、ガロイル基を有する化合物である。(b)は、ガロイル基を有することで、芯金で構成される軸体12および導電性ゴム弾性体層16の双方と多量の水素結合を形成し、軸体12および導電性ゴム弾性体層16の双方との接着性を向上することができる。ガロイル基とは、ベンゼン環の1,2,3位の水素が水酸基に置換した構造を有する基である。ガロイル基を有する化合物としては、タンニン酸、ガロカテキン、没食子酸、ピロガロール、4-ベンジルピロガロール(2,3,4-トリヒドロキシジフェニルメタン)、エラグタンニンなどが挙げられる。これらは、(b)として1種単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらのうちでは、接着力、コストなどの観点から、タンニン酸が特に好ましい。
【0026】
(b)の含有量は、(a)と(c)の合計100質量部に対し、30質量部以上100質量部以下であることが好ましい。より好ましくは30質量部以上80質量部以下、さらに好ましくは30質量部以上60質量部以下である。(b)の上記含有量が30質量部以上であると、接着剤層14と芯金で構成される軸体12の間の接着性が向上する効果に優れる。一方、(b)の上記含有量が100質量部以下であると、接着剤層14と導電性ゴム弾性体層16の間の接着性が向上する効果に優れる。そして、(b)の上記含有量が30質量部以上100質量部以下であると、接着剤層14と芯金で構成される軸体12の間の接着性が向上する効果と、接着剤層14と導電性ゴム弾性体層16の間の接着性が向上する効果のバランスに優れる。
【0027】
(c)は、バインダーポリマーである。(c)は、接着剤層14と導電性ゴム弾性体層16の間の接着性を確保する。導電性ゴム弾性体層16との加硫接着が得られるなどの観点から、(c)は、ジエン系ゴムであることが好ましい。(c)としては、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、メタクリル酸メチル-ブタジエンゴム(MBR)、天然ゴム(NR)などが挙げられる。これらは、(c)として1種単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わされて用いられてもよい。これらのうちでは、NBRが特に好ましい。接着剤層14と導電性ゴム弾性体層16の間の接着性が向上するからである。そして、これにより、芯金で構成される軸体12と導電性ゴム弾性体層16の間の耐久試験後の接着力により優れるからである。
【0028】
(c)は、水溶性、水分散性、あるいは水/アルコール混合溶媒可溶性であるとよい。上記(a)との相溶性が向上するからである。そして、これにより、芯金で構成される軸体12と導電性ゴム弾性体層16の間の耐久試験後の接着力により優れるからである。また、接着剤層14の形成に際し、揮発性有機化合物の量を削減でき、環境に優しいものとすることができるからである。水溶性、水分散性、あるいは水/アルコール混合溶媒可溶性であるポリマーのうちでは、接着性向上などの観点から、NBRが特に好ましい。水溶性、水分散性、あるいは、水/アルコール混合溶媒可溶性である、とは、水系塗料のポリマー成分として使用できるポリマーであり、水系塗料において10質量%以上の濃度で使用できるポリマーである。水系塗料は、塗料の助要素の主成分が水である塗料の総称である。水系塗料は、水溶性樹脂系、エマルジョン系に分けられる。水に溶けている樹脂および水にコロイド状に分散している塗料とエマルジョン塗料を含めて水性塗料という。水溶性ポリマーは、固形分濃度10質量%以上で水に溶解するポリマーである。水分散性ポリマーは、固形分濃度10質量%以上で乳化剤を用いて水に分散するポリマーである。水/アルコール混合溶媒可溶性ポリマーは、固形分濃度10質量%以上で水/アルコール混合溶媒に溶解するポリマーである。水/アルコール混合溶媒のアルコールは、低炭素数(低級)の親水性アルコールであり、メタノール、エタノール、プロパノールが挙げられる。水溶性ポリマー、水分散性ポリマー、水/アルコール混合溶媒可溶性ポリマーの固形分濃度の上限は、30質量%程度とされる。
【0029】
上記(a)と上記(c)の含有比率は、質量比で、(a):(c)=3:7~7:3の範囲内であることが好ましい。接着剤層14と芯金で構成される軸体12の間の接着性が向上する効果と、接着剤層14と導電性ゴム弾性体層16の間の接着性が向上する効果のバランスに優れるからである。また、上記観点から、上記(a)と上記(c)の含有比率は、質量比で、より好ましくは、(a):(c)=4:6~6:4の範囲内である。
【0030】
接着剤層14には、必要に応じて、導電性を付与するための導電剤(電子導電剤、イオン導電剤)を含めることができる。導電剤としては、下記の導電性ゴム組成物に含有可能なものとして挙げられたものを挙げることができる。また、下記の導電性ゴム組成物と同様に、加硫剤(架橋剤)、加硫促進剤、加硫助剤(架橋助剤)、増量剤、補強剤、加工助剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、滑剤などの添加剤を1種または2種以上含めることができる。
【0031】
接着剤層14の厚さは、特に限定されるものではないが、接着剤層14の体積固有抵抗率の影響が大きくなるなどの観点から、100μm以下であることが好ましい。より好ましくは10μm以下である。また、接着力に優れるなどの観点から、1μm以上であることが好ましい。より好ましくは5μm以上である。接着剤層14の体積固有抵抗率は、特に限定されるものではないが、導電性に優れるなどの観点から、1.0×10~5.0×10Ω・cmの範囲内であることが好ましい。
【0032】
導電性ゴム弾性層16は、未架橋ゴムを含有する導電性ゴム組成物から形成される。架橋ゴムは、未架橋ゴムを架橋することにより得られる。未架橋ゴムは、極性ゴムであってもよいし、非極性ゴムであってもよい。導電性に優れるなどの観点から、未架橋ゴムは極性ゴムが好ましい。
【0033】
極性ゴムは、極性基を有するゴムであり、極性基としては、クロロ基、ニトリル基、カルボキシル基、エポキシ基などを挙げることができる。極性ゴムとしては、具体的には、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)、ウレタンゴム(U)、アクリルゴム(アクリル酸エステルと2-クロロエチルビニルエーテルとの共重合体、ACM)、クロロプレンゴム(CR)、エポキシ化天然ゴム(ENR)などを挙げることができる。極性ゴムのうちでは、体積抵抗率が特に低くなりやすいなどの観点から、ヒドリンゴム、ニトリルゴム(NBR)が好ましい。
【0034】
ヒドリンゴムとしては、エピクロルヒドリンの単独重合体(CO)、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド二元共重合体(ECO)、エピクロルヒドリン-アリルグリシジルエーテル二元共重合体(GCO)、エピクロルヒドリン-エチレンオキサイド-アリルグリシジルエーテル三元共重合体(GECO)などを挙げることができる。
【0035】
ウレタンゴムとしては、分子内にエーテル結合を有するポリエーテル型のウレタンゴムを挙げることができる。ポリエーテル型のウレタンゴムは、両末端にヒドロキシル基を有するポリエーテルとジイソシアネートとの反応により製造できる。ポリエーテルとしては、特に限定されるものではないが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを挙げることができる。ジイソシアネートとしては、特に限定されるものではないが、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0036】
導電性ゴム組成物は、塩素系ゴムを含有するものであってもよい。塩素系ゴムとしては、エピクロルヒドリンゴム、クロロプレンゴム、塩素化ブチルゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムなどが挙げられる。塩素系ゴムを含有する導電性ゴム組成物においては、脱塩素等によって塩化水素が含まれる。つまり、導電性ゴム弾性体層16には水素イオン(H)と塩素イオン(Cl)が含まれる。また、塩素系ゴムは吸水性および酸素親和性を有するため、導電性ゴム弾性体層16には水分や酸素も含まれる。導電性ゴム組成物が塩素系ゴムを含有する場合、芯金で構成される軸体12が腐食しやすくなる。本発明では、接着剤層14に、(b)としてのガロイル基を有する化合物が含まれている。(b)が塩素イオンをトラップすることができる。また、接着剤層14に、(a)としてのポリ塩化ビニリデンが含まれている。ポリ塩化ビニリデンはガスバリア性の高いものである。これにより、接着剤層14を経由する軸体12への水分の浸入が抑えられる。このため、導電性ゴム組成物は、塩素系ゴムを含有するものであっても、本発明によれば、芯金で構成される軸体12の腐食が抑えられる。
【0037】
架橋剤としては、硫黄架橋剤、過酸化物架橋剤、脱塩素架橋剤を挙げることができる。これらの架橋剤は、単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0038】
硫黄架橋剤としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、表面処理硫黄、不溶性硫黄、塩化硫黄、チウラム系加硫促進剤、高分子多硫化物などの従来より公知の硫黄架橋剤を挙げることができる。
【0039】
過酸化物架橋剤としては、パーオキシケタール、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシエステル、ケトンパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイド、ハイドロパーオキサイドなどの従来より公知の過酸化物架橋剤を挙げることができる。
【0040】
脱塩素架橋剤としては、ジチオカーボネート化合物を挙げることができる。より具体的には、キノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、6-メチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、6-イソプロピルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネート、5,8-ジメチルキノキサリン-2,3-ジチオカーボネートなどを挙げることができる。
【0041】
架橋剤の配合量としては、ブリードしにくいなどの観点から、未架橋ゴム100質量部に対して、好ましくは0.1~2質量部の範囲内、より好ましくは0.3~1.8質量部の範囲内、さらに好ましくは0.5~1.5質量部の範囲内である。
【0042】
架橋剤として脱塩素架橋剤を用いる場合には、脱塩素架橋促進剤を併用しても良い。脱塩素架橋促進剤としては、1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7(以下、DBUと略称する。)もしくはその弱酸塩を挙げることができる。脱塩素架橋促進剤は、DBUの形態として用いても良いが、その取り扱い面から、その弱酸塩の形態として用いることが好ましい。DBUの弱酸塩としては、炭酸塩、ステアリン酸塩、2-エチルヘキシル酸塩、安息香酸塩、サリチル酸塩、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸塩、フェノール樹脂塩、2-メルカプトベンゾチアゾール塩、2-メルカプトベンズイミダゾール塩などを挙げることができる。
【0043】
脱塩素架橋促進剤の含有量としては、ブリードしにくいなどの観点から、未架橋ゴム100質量部に対して、0.1~2質量部の範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.3~1.8質量部の範囲内、さらに好ましくは0.5~1.5質量部の範囲内である。
【0044】
導電性ゴム組成物には、ゴム成分以外に、導電性を高めるための導電剤(電子導電剤、イオン導電剤)を含めることができる。また、ゴム成分以外に、加硫剤(架橋剤)、加硫促進剤、加硫助剤(架橋助剤)、増量剤、補強剤、加工助剤、酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、滑剤などの添加剤を1種または2種以上含めることができる。
【0045】
電子導電剤としては、カーボンブラック、グラファイト、チタン酸カリウム、酸化鉄、導電性酸化チタン、導電性酸化亜鉛、導電性酸化スズなどが挙げられる。イオン導電剤としては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤などが挙げられる。加硫剤(架橋剤)としては、硫黄、過酸化物、ヒドロシリル架橋剤などが挙げられる。加硫助剤(架橋助剤)としては、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、ハイドロタルサイトなどが挙げられる。
【0046】
導電性ゴム弾性層16の厚さは、特に限定されるものではないが、通常、0.1~10mm程度に形成され、好ましくは1~5mmである。導電性ゴム弾性層16は、導電性に優れるなどの観点から、体積固有抵抗率が1.0×10~5.0×10Ω・cmの範囲内であることが好ましい。導電性ゴム弾性層16は、ソリッド状の非発泡体であってもよいし、スポンジ状等の発泡体であってもよい。
【0047】
導電性ロール10は、例えば次のように製造することができる。まず、軸体12の外周面上に、接着剤層14を形成する接着剤組成物を塗工し、必要に応じて乾燥させる。次いで、塗工した接着剤組成物の外周面上に、導電性ゴム弾性体層16を形成する導電性ゴム組成物を層状に成形する。導電性ゴム組成物の成形は、押出成形あるいは型成形により行うことができる。導電性ゴム組成物は、押出成形時あるいは型成形時の加熱等により、架橋・硬化される。接着剤組成物が加硫接着剤を用いた接着剤組成物からなる場合には、導電性ゴム組成物の架橋・硬化時に、接着剤組成物も併せて架橋・硬化される。これにより、軸体12の外周に接着剤層14と導電性ゴム弾性層16とをこの順で有する導電性ロール10が得られる。
【0048】
接着剤組成物は、上記(a)、上記(b)、上記(c)を少なくとも含む。接着剤組成物は、塗布性を考慮して、溶剤を用いて粘度調整することができる。溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などが挙げられる。
【0049】
以上の構成の導電性ロール10によれば、軸体12と導電性ゴム弾性体層16の間の接着剤層14が上記(a)~(c)を含むことから、芯金で構成される軸体12と導電性ゴム弾性体層16の間の耐久試験後の接着力に優れる。
【0050】
導電性ロール10は、軸体12と、接着剤層14と、導電性ゴム弾性層16を1層有するものからなるが、本発明においては、抵抗調整、成分移行防止などの理由で、他の導電性ゴム弾性層が、接着剤層14と導電性ゴム弾性層16の間あるいは導電性ゴム弾性層16の外周に1層以上設けられていてもよい。さらに、導電性ゴム弾性層16の外周には、表面を保護する、電気的特性等を付与するなどの理由で、表層が設けられていてもよいし、導電性ゴム弾性層16の表面に表面改質処理が施されていてもよい。
【0051】
表層の主材料としては、特に限定されるものではなく、ポリアミド(ナイロン)系、アクリル系、ウレタン系、シリコーン系、フッ素系のポリマーなどを挙げることができる。これらのポリマーは、変性されたものであっても良い。変性基としては、例えば、N-メトキシメチル基、シリコーン基、フッ素基などを挙げることができる。
【0052】
表層には、導電性付与のため、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト、c-TiO、c-ZnO、c-SnO(c-は、導電性を意味する。)、イオン導電剤(4級アンモニウム塩、ホウ酸塩、界面活性剤など)などの従来より公知の導電剤を適宜添加することができる。また、必要に応じて、各種添加剤を適宜添加しても良い。
【0053】
表面改質方法としては、UVや電子線を照射する方法、基層の不飽和結合やハロゲンと反応可能な表面改質剤、例えば、イソシアネート基、ヒドロシリル基、アミノ基、ハロゲン基、チオール基などの反応活性基を含む化合物と接触させる方法などを挙げることができる。
【実施例
【0054】
以下、実施例を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明はこの構成に限定されるものではない。
【0055】
(実施例1)
<接着剤組成物の調製>
PVDC50質量部、タンニン酸40質量部、水性NBR(固形分が50質量部)を混合することにより、接着剤組成物を得た。
【0056】
<導電性ゴム組成物の調製>
エピクロルヒドリンゴム(ECO)[日本ゼオン製「HydrinT3106」]100質量部と、加硫剤として硫黄[鶴見化学工業(株)製]0.5質量部と、加硫助剤として酸化亜鉛2種[三井金属工業(株)製]5.0質量部及びハイドロタルサイト[協和化学工業(株)製、商品名「DHT4A」]10.0質量部、加硫促進剤A[三新化学工業(株)製、商品名「サンセラーCZ」]1.0質量部、加硫促進剤B[大内新興化学工業(株)製、商品名「アクセルTBT」]1.0質量部、イオン導電剤としてトリブチルエチルアンモニウム・スルホビナート(第4級アンモニウム塩)1.0質量部とを、ニーダーで混練して導電性ゴム組成物を得た。
【0057】
<導電性ロールの作製>
鉄製芯金にニッケルメッキを乗せた外周に上記の接着剤組成物を塗布して乾燥させた後、接着剤組成物を塗布した芯金をパイプ状成形金型の型内にセットし、上記の導電性ゴム組成物をその型内に注入した後、180℃で30分間加熱することにより、接着剤組成物および導電性ゴム組成物を加硫・硬化させて、導電性ロールを得た。接着剤層の厚みは10μm、導電性ゴム層の厚みは3mmに調整した。
【0058】
(実施例2~5)
各成分の配合割合を変更した以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを得た。
【0059】
(実施例6~7)
(b)の種類を変更した以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを得た。
【0060】
(実施例8~9)
(c)の種類を変更した以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを得た。
【0061】
(実施例10)
導電性ゴム組成物の調製において、ヒドリンゴムに代えてNBRを用いた以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを作製した。
・NBR:日本ゼオン社製「NipolDN302」
【0062】
(実施例11)
PVDC50質量部、タンニン酸40質量部、非水性NBR50質量部を混合し、メチルエチルケトンに溶解することにより、接着剤組成物を得た。非水性NBRを用いた接着剤組成物に変更した以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを得た。
【0063】
(比較例1)
接着剤組成物の調製において、(c)成分を配合しなかった以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0064】
(比較例2~4)
接着剤組成物の調製において、(a)成分を配合しなかった以外は実施例1,8,9と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0065】
(比較例5)
接着剤組成物の調製において、(b)成分を配合しなかった以外は実施例1と同様にして、導電性ロールを作製した。
【0066】
使用した材料は、以下の通りである。
(a)成分
・PVDC(ポリ塩化ビニリデン):旭化成製「サランラテックスL232A」
(b)成分
・タンニン酸:アズワン製試薬
・4-ベンジルピロガロール:東京化成工業製試薬、2,3,4-トリヒドロキシジフェニルメタン
・ガロカテキン:和光純薬製試薬、(+)-ガロカテキン
(c)成分
・水性NBR:DIC製「ラックスター1570B」
・水性SBR:DIC製「ラックスターDM850」
・水性MBR:DIC製「ラックスター5215A」
・非水性NBR:日本ゼオン社製「NipolDN302」
【0067】
(接着性の評価)
得られた各導電性ロールの軸方向の中央部において、ゴム弾性体層の外周面から軸体の表面まで、2cm幅で周方向に2本切れ込みを入れ、さらに2本の切れ込みの間を結ぶように軸方向に1本切れ込みを入れた。次いで、軸方向の切れ込みから指をいれ、導電性ゴム弾性体層を剥くように周方向に力を加えた。これにより、剥離状態を確認した。導電性ゴム弾性体層が破断した場合を「A」、接着剤層が破断した場合を「B」、導電性ゴム弾性体層と接着剤層の間の界面剥離の場合を「C」、接着剤層と軸体の間の界面剥離の場合を「D」とした。
【0068】
(黒斑点)
得られた各導電性ロールを、70℃×95%RHの恒温恒湿環境下で10日間放置した後、導電性ロールのロール表面に黒斑点が形成されているか、目視にて調べた。黒斑点が全く観測されなかった場合を「A」、黒斑点は観測されるものの軽微で許容範囲である場合を「B」、黒斑点が顕著に観測された場合を「C」とした。
【0069】
【表1】
【0070】
比較例1は、接着剤組成物に(c)成分が含まれない。このため、接着剤層と導電性ゴム弾性体層との間の接着力が不十分で、導電性ゴム弾性体層と接着剤層の間の界面剥離が生じた。比較例2~4は、接着剤組成物に(a)成分が含まれない。このため、接着剤層と軸体との間の接着力が不十分で、接着剤層と軸体の間の界面剥離が生じた。また、これにより、軸体に水分が浸入しやすくなっているため、軸体の表面に黒斑点(腐食)が確認された。比較例5は、接着剤組成物に(b)成分が含まれない。このため、接着剤層と軸体との接着力が不十分で、接着剤層と軸体の間の界面剥離が生じた。
【0071】
一方、実施例によれば、接着剤組成物に(a)(b)(c)成分が含まれる。このため、接着剤層と軸体との間の接着力および接着剤層と導電性ゴム弾性体層との間の接着力に優れ、これらの界面での剥離は生じなかった。また、軸体の表面が接着剤層に覆われたままであるため、軸体の表面に黒斑点(腐食)は確認されなかった。
【0072】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0073】
10 電子写真機器用導電性ロール
12 軸体
14 接着剤層
16 導電性ゴム弾性体層
図1
図2