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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】難燃性スチレン系樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/10 20060101AFI20231226BHJP
   C08L 25/14 20060101ALI20231226BHJP
   C08K 5/3462 20060101ALI20231226BHJP
   C08K 5/3492 20060101ALI20231226BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20231226BHJP
   C08F 212/08 20060101ALI20231226BHJP
   C08F 220/04 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
C08L25/10
C08L25/14
C08K5/3462
C08K5/3492
C08K3/32
C08F212/08
C08F220/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020080621
(22)【出願日】2020-04-30
(65)【公開番号】P2021172799
(43)【公開日】2021-11-01
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】500199479
【氏名又は名称】PSジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【弁理士】
【氏名又は名称】神 紘一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(72)【発明者】
【氏名】野寺 明夫
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-208286(JP,A)
【文献】特開2015-113365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 25/00-25/18
C08K 5/3462
C08K 5/3492
C08K 3/32
C08F 212/08
C08F 220/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム変性スチレン系樹脂(A)を40~85質量%と、
重合樹脂(B)を5.0~30質量%と、
ピロリン酸ピペラジン及びポリリン酸ピペラジンから選択される1種又は2種以上のピペラジン化合物(c-1)並びにピロリン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン及びポリリン酸メラミンから選択される1種又は2種以上のメラミン化合物(c-2)からなる難燃
剤(C)を10~30質量%と
任意成分である添加成分と、を含有する難燃性スチレン系樹脂組成物であって
前記共重合樹脂(B)は、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、前記スチレン系単量体単位を67.0~96.0質量%含有し、前記不飽和カルボン酸系単量体単位を4.0~18.0質量%含有し、且つ、前記不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を0.0~15.0質量%含有し、
前記ゴム変性スチレン系樹脂(A)と、前記共重合樹脂(B)と、前記難燃剤(C)と、前記添加成分との合計含有量が95~100質量%であり、
前記添加成分は、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、帯電防止剤、充填剤、難燃助剤、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面処理剤、抗菌剤及び目ヤニ防止剤から選択される、難燃性スチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゴム変性スチレン系樹脂(A)中に含まれるゴム状重合体(a1)の含有量は、3~20質量%であり、かつ前記ゴム変性スチレン系樹脂(A)中に含まれるゴム状重合体(a1)の平均粒子径は、0.5~4.0μmである、請求項1の記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
前記ピペラジン化合物(c-1)と前記メラミン化合物(c-2)との質量配合比率が、前記ピペラジン化合物(c-1):前記メラミン化合物(c-2)=20:80~80:20である、請求項1又は2記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性スチレン系樹脂組成物及び該難燃性スチレン系樹脂組成物を含む成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレン系樹脂は、成形性、寸法安定性に加え、耐衝撃性に優れていることから、広範囲な用途に使用されている。中でも難燃性を付与したポリスチレン系樹脂組成物は、家電機器、OA機器を始め多岐にわたり使用されており、現在、リデュース又は軽量化から製品の薄肉化が求められている。
従来から、スチレン系樹脂に難燃性を付与するために、種々の難燃剤が提案されており、中でも安価で物性バランスに優れているブロム系難燃剤が多く使用されている。しかしながら、近年ハロゲン含有有機化合物を規制する動きが欧州を中心に活発化していること等から、ブロム元素を含まない難燃樹脂、難燃樹脂組成物の需要が高まっている。
【0003】
こうしたブロム系難燃剤の代替難燃剤として、例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂にポリリン酸アンモニウム化合物とピペラジンとを含むアミン塩を添加する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-235407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した特許文献1には、ポリスチレンについて難燃性が得られるとの記載はあるものの、それら難燃剤はポリスチレンへの分散性が悪く、衝撃強度の低下や成型品の外観不良を引き起こすなど問題点があった。そのため、OAや家電などのハウジングなどに使用することができなかった。
そこで、本発明の目的は、高い難燃性を示し、耐衝撃性、成形外観、耐熱性、剛性の優れた難燃性スチレン系樹脂組成物、及び該難燃性スチレン系樹脂組成物を含む成形品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ゴム変性スチレン系樹脂(A)と、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有する共重合樹脂(B)と、ピペラジン化合物及びメラミン化合物のそれぞれから選択される1種以上の難燃剤(C)と、を特定の割合で含有した難燃性スチレン系樹脂組成物により、驚くべきことに非常に高い難燃性と、優れた、耐衝撃性、成形外観、耐熱性及び剛性とを示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]ゴム変性スチレン系樹脂を40~85質量%(A)と、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有する共重合樹脂(B)を5.0~30質量%と、ピロリン酸ピペラジン及びポリリン酸ピペラジンから選択される1種又は2種以上のピペラジン化合物(c-1)並びにピロリン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン及びポリリン酸メラミンから選択される1種又は2種以上のメラミン化合物(c-2)からなる難燃剤(C)10~30質量%と、を含有することを特徴とする難燃性スチレン系樹脂組成物。
【0008】
[2]前記共重合樹脂(B)が、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、前記スチレン系単量体単位を67.0~96.0質量%含有し、且つ、前記不飽和カルボン酸系単量体単位を4.0~18.0質量%含有し、且つ、前記不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を0.0~15.0質量%含有する、[1]に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物。
【0009】
[3]前記ピペラジン化合物(c-1)と前記メラミン化合物(c-2)との配合比率(質量比)が、前記ピペラジン化合物(c-1):前記メラミン化合物(c-2)=20:80~ 80:20である[1]から[2]の難燃性スチレン系樹脂組成物。
【0010】
[4]上記[1]~「3」のいずれか一項に記載の難燃性スチレン系樹脂組成物を含むことを特徴とする、成形品。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い難燃性を示し、耐衝撃性、及び成形外観の優れた難燃性スチレン系樹脂組成物、並びに該難燃性スチレン系樹脂組成物を含む成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と言う。)について詳細に説明するが、本発明は以下の記載に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0013】
[難燃性スチレン系樹脂組成物]
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、ゴム変性スチレン系樹脂(A)を40~85質量%と、スチレン系単量体単位、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有する共重合樹脂(B)を5.0~30質量%と、ピロリン酸ピペラジン及びポリリン酸ピペラジンから選択される1種又は2種以上のピペラジン化合物(c-1)並びにピロリン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン及びポリリン酸メラミンから選択される1種又は2種以上のメラミン化合物(c-2)からなる難燃剤(C)10~30質量%(C)と、を含有することを特徴とする、難燃性スチレン系樹脂組成物である。
【0014】
<ゴム変性スチレン系樹脂(A):(A)成分>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、衝撃強度を高めるために、ゴム変性スチレン系樹脂(A)を使用する。ゴム変性スチレン系樹脂(A)の含有量は、難燃性スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、40~85質量%であり、好ましくは50~80質量%、より好ましくは55~75質量%である。85質量%を超えると難燃性が低下する。
【0015】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂(A)とは、スチレン系樹脂のマトリクス中にゴム状重合体(a1)の粒子が分散されたものであり、ゴム状重合体(a1)の存在下でスチレン系単量体を重合させることにより製造することができる。
【0016】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂(A)を構成するスチレン系樹脂に含まれるスチレン系単量体(a2)としては、スチレンの他に、例えば、α-メチルスチレン、α-メチルp-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、及びt-ブチルスチレン又はブロモスチレン、クロロスチレン、及びインデン等が挙げられる。特に、スチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体は、1種若しくは2種以上使用することができる。
【0017】
本実施形態のゴム変性スチレン系樹脂(A)に含まれるゴム状重合体(a1)は、内側にスチレン系樹脂を内包(サラミ構造、及びコアシェル構造を含む。)し、かつ、外側にスチレン系樹脂がグラフトされたものであってよい。
【0018】
前記ゴム状重合体(a1)としては、例えば、ポリブタジエン、ポリイソプレン、天然ゴム、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体等を使用できるが、ポリブタジエン又はスチレン-ブタジエン共重合体が好ましい。ポリブタジエンには、シス含有率の高いハイシスポリブタジエン及びシス含有率の低いローシスポリブタジエンの双方を用いることができる。また、スチレン-ブタジエン共重合体の構造としては、ランダム構造及びブロック構造の双方を用いることができる。これらのゴム状重合体(a1)は1種若しくは2種以上使用することができる。また、ブタジエン系ゴムを水素添加した飽和ゴムを使用することもできる。
【0019】
このようなゴム変性スチレン系樹脂(A)の例としては、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、AAS樹脂(アクリロニトリル-アクリルゴム-スチレン共重合体)、AES樹脂(アクリロニトリル-エチレンプロピレンゴム-スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0020】
ゴム変性スチレン系樹脂(A)がHIPS系樹脂である場合、これらのゴム状重合体(a1)の中で特に好ましいのは、シス1,4結合が90モル%以上で構成されるハイシスポリブタジエンである。該ハイシスポリブタジエンにおいては、ビニル1,2結合が6モル%以下で構成されることが好ましく、3モル%以下で構成されることが特に好ましい。
なお、該ハイシスポリブタジエンの構成単位に関する異性体としてシス1,4、トランス1,4、又はビニル1,2構造を有するものの含有率は、赤外分光光度計を用いて測定し、モレロ法によりデータ処理することにより算出できる。
また、該ハイシスポリブタジエンは、公知の製造法、例えば有機アルミニウム化合物とコバルト又はニッケル化合物を含んだ触媒を用いて、1,3ブタジエンを重合して容易に得ることができる。
【0021】
ゴム変性スチレン系樹脂(A)中に含まれるゴム状重合体(a1)の含有量は、3~20質量%が好ましく、更に好ましくは5~20質量%である。ゴム状重合体(a1)の含有量が3質量%より少ないとスチレン系樹脂の耐衝撃性が低下する。また、ゴム状重合体(a1)の含有量が20質量%を超えると難燃性が低下する。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂(A)中に含まれるゴム状重合体(a1)の含有量は、熱分解ガスクロマトグラフイーを用いて算出される値である。
【0022】
ゴム変性スチレン系樹脂(A)中に含まれるゴム状重合体(a1)の平均粒子径は、耐衝撃性や難燃性の観点から、0.5~4.0μmであることが好ましく、更に好ましくは0.8~3.5μmである。
なお本開示において、ゴム変性スチレン系樹脂(A)中に含まれるゴム状重合体(a1)の平均粒子径は、後述の[実施例]の項で説明する手順で測定される値である。
【0023】
ゴム変性スチレン系樹脂(A)の還元粘度(これは、ゴム変性スチレン系樹脂(A)の分子量の指標となる)は、0.50~0.85dL/gの範囲にあることが好ましく、更に好ましくは0.55~0.80dL/gの範囲である。0.50dL/gより小さいと衝撃強度が低下し、0.85dL/gを超えると流動性の低下により成形性が低下する。
なお本開示で、ゴム変性スチレン系樹脂(A)の還元粘度は、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で測定される値であり、より詳細には、後述の[実施例]の項で説明する手順で測定される値である。
【0024】
ゴム変性スチレン系樹脂(A)の製造方法は、特に制限されるものではないが、ゴム状重合体(a1)の存在下、スチレン系単量体(及び溶媒)を重合する塊状重合(若しくは溶液重合)、又は反応途中で懸濁重合に移行する塊状-懸濁重合、又はゴム状重合体(a1)ラテックスの存在下、スチレン系単量体を重合する乳化グラフト重合にて製造することができる。塊状重合においては、ゴム状重合体(a1)とスチレン系単量体、並びに必要に応じて有機溶媒、有機過酸化物、及び/又は連鎖移動剤を添加した混合溶液を、完全混合型反応器又は槽型反応器と複数の槽型反応器とを直列に連結し構成される重合装置に連続的に供給することにより製造することができる。
【0025】
<共重合樹脂(B):(B)成分>
本実施形態において、スチレン系単量体単位(b1)、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を含有する共重合樹脂(B)の含有量は、難燃性スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、5~30質量%であり、好ましくは8~25質量%、より好ましくは10~20質量%である。当該含有量を5質量%より少ないと、ピペラジン化合物(c-1)及びメラミン化合物(c-2)の分散性が不十分であり、衝撃強度や成形外観が低下する。一方、当該含有量を30質量%より多いと、衝撃強度が低下する。
【0026】
上記共重合樹脂(B)において、スチレン系単量体単位(b1)、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、スチレン系単量体単位(b1)の含有量は67.0~96.0質量%であることが好ましく、より好ましくは74.0~92.0質量%であり、さらに好ましくは77.0~87.0質量%の範囲である。当該含有量を67.0質量%以上とすることにより、樹脂の流動性を向上させることができ、一方、当該含有量を96.0質量%以下とすることにより、後述の不飽和カルボン酸系単量体単位及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位を所望量存在させ、これらの単量体単位による後述の効果が発現する。
【0027】
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物において、不飽和カルボン酸系単量体単位は耐熱性を向上させる役割を果たす。上記共重合樹脂(B)において、スチレン系単量体単位(b1)、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸系単量体単位の含有量は4.0~18.0質量%であることが好ましく、より好ましくは6.0~16.0質量%であり、さらに好ましくは8.0~13.0質量%である。当該含有量を4.0質量%以上とすることにより、耐熱性をより向上させることができ、一方、当該含有量を18.0質量%以下とすることにより、高い難燃性が発現できるとともに、また樹脂の流動性と機械的物性を向上させることができる。
【0028】
一般に、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル共重合樹脂を含むスチレン-メタクリル酸系樹脂は、工業的規模ではほとんどの場合、ラジカル重合で生産されているが、脱揮工程のゲル化反応を抑制するために、種々のアルコールを重合系中に添加して重合を行なう場合がある。
【0029】
本実施形態において、不飽和カルボン酸エステル系単量体は、不飽和カルボン酸系単量体との分子間相互作用によって不飽和カルボン酸系単量体の脱水反応を抑制するために、及び、樹脂の機械的強度を向上させるために用いることができる。更には、不飽和カルボン酸エステル系単量体は、耐候性、表面硬度等の樹脂特性の向上にも寄与する。
上記共重合樹脂(B)において、スチレン系単量体単位(b1)、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の合計含有量を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量は0~15質量%であることが好ましく、より好ましくは1~12質量%、さらに好ましくは2~10質量%である。当該含有量を15質量%以下とすることにより、樹脂の流動性を向上させ、且つ吸水性を抑制することができる。また、不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%とすることにより、耐熱性の向上やコスト削減をすることができるが、上記の観点から不飽和カルボン酸エステル系単量体単位の含有量を0質量%超とすることもできる。
【0030】
なお、不飽和カルボン酸系単量体単位と不飽和カルボン酸エステル系単量体単位とが隣り合わせで結合した場合、高温、高真空の脱揮装置を用いると、条件によっては脱アルコール反応が起こり、六員環酸無水物が形成される場合がある。本実施形態の共重合樹脂(B)は、この六員環酸無水物を含んでいてもよいが、流動性を低下させることから、より少ない方が好ましい。
【0031】
本実施形態において、共重合樹脂(B)中の、スチレン系単量体単位(b1)、不飽和カルボン酸系単量体単位(例えば、メタクリル酸単量体単位)及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位(例えば、メタクリル酸メチル単量体単位)の含有量は、それぞれ、プロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から求めることができる。また後述する共重合樹脂(B)における各々の単量体単位の含有量も、同様にプロトン核磁気共鳴測定にて求めることができる。
【0032】
本実施形態において、共重合樹脂(B)は、スチレン系単量体単位(b1)、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位以外の単量体単位を、本発明の効果を損なわない範囲で更に含有することを排除しないが、典型的には、スチレン系単量体単位(b1)、不飽和カルボン酸系単量体単位、及び不飽和カルボン酸エステル系単量体単位からなる。
【0033】
ここで、上記スチレン系単量体(b1)としては、特に限定されないが例えば、スチレン、α-メチルスチレン、α-メチル-p-メチルスチレン、ο-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルトルエン、エチルスチレン、イソブチルスチレン、t-ブチルスチレン、ブロモスチレン、クロロスチレン、インデン等のスチレン誘導体が挙げられる。スチレン系単量体(b1)としては、工業的観点からスチレンが好ましい。これらのスチレン系単量体(b1)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0034】
また、上記不飽和カルボン酸系単量体としては、特に限定されないが例えば、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられる。不飽和カルボン酸系単量体としては、耐熱性の向上効果が大きく、常温にて液状でハンドリング性に優れることからメタクリル酸が好ましい。これらの不飽和カルボン酸系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
さらに、上記不飽和カルボン酸エステル系単量体としては、特に限定されないが例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、耐熱性低下に対する影響が小さいことから(メタ)アクリル酸メチルが好ましい。これらの不飽和カルボン酸エステル系単量体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
本実施形態において、共重合樹脂(B)の重量平均分子量(Mw)は100,000~350,000であることが好ましく、より好ましくは120,000~300,000、さらに好ましくは140,000~240,000である。重量平均分子量(Mw)が100,000~350,000である場合、機械的強度と流動性とのバランスにより優れる樹脂が得られ、またゲル物の混入も少ない。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用い、標準ポリスレン換算で得られる値である。
【0037】
本実施形態において、共重合樹脂(B)のメルトフローレートは、0.3~3.0g/10minであることが好ましく、より好ましくは0.4~2.5g/10minであり、さらに好ましくは0.4~2.0g/10minである。上記メルトフローレートが0.3g/10min以上である場合、流動性の観点で好ましく、3.0g/10min以下である場合、樹脂の機械的強度の観点で好ましい。なお、メルトフローレートは、ISO 1133に準拠して、200℃、荷重49Nにて測定される値である。
【0038】
本実施形態において、共重合樹脂(B)の重合方法は、特に制限はないが例えば、ラジカル重合法として、塊状重合法又は溶液重合法を好適に採用できる。重合方法は、主に、重合原料(単量体成分)を重合させる重合工程と、重合生成物から未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する脱揮工程とを備える。
以下、本実施形態に用いることができる共重合樹脂(B)の重合方法について説明する。
【0039】
上記共重合樹脂(B)を得る目的で重合原料を重合させる際には、重合原料組成物中に、典型的には重合開始剤及び連鎖移動剤を含有させる。上記重合開始剤としては、有機過酸化物、例えば、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレレート等のペルオキシケタール類、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート等のペルオキシジカーボネート類、t-ブチルペルオキシアセテート等のペルオキシエステル類、アセチルアセトンペルオキシド等のケトンペルオキシド類、t-ブチルヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類等を挙げることができる。分解速度と重合速度との観点から、なかでも、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサンが好ましい。
【0040】
上記連鎖移動剤としては、例えば、α-メチルスチレンリニアダイマー、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン等を挙げることができる。
【0041】
上記共重合樹脂(B)の重合方法としては、必要に応じて、重合溶媒を用いた溶液重合を採用できる。用いられる重合溶媒としては、芳香族炭化水素類、例えば、エチルベンゼン、ジアルキルケトン類、例えば、メチルエチルケトン等が挙げられ、それぞれ、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合生成物の溶解性を低下させない範囲で、他の重合溶媒、例えば脂肪族炭化水素類等を、芳香族炭化水素類に更に混合することができる。これらの重合溶媒は、全単量体100質量部に対して、25質量部を超えない範囲で使用するのが好ましい。全単量体100質量部に対して重合溶媒が25質量部を超えると、重合速度が著しく低下し、且つ得られる樹脂の機械的強度の低下が大きくなる傾向がある。重合前に、全単量体100質量部に対して5~20質量部の割合で添加しておくことが、品質が均一化し易く、重合温度制御の点でも好ましい。
【0042】
本実施形態において、共重合樹脂(B)を得るための重合工程で用いる装置は、特に制限はなく、スチレン系樹脂の重合方法に従って適宜選択すればよい。例えば、塊状重合による場合には、完全混合型反応器を1基、又は複数基連結した重合装置を用いることができる。また脱揮工程についても特に制限はなく、塊状重合で行う場合、最終的に未反応モノマーが、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下になるまで重合を進め、かかる未反応モノマー等の揮発分を除去するために、既知の方法にて脱揮処理する。例えば、フラッシュドラム、二軸脱揮器、薄膜蒸発器、押出機等の通常の脱揮装置を用いることができるが、滞留部の少ない脱揮装置が好ましい。なお、脱揮処理の温度は、通常、190~280℃程度であり、メタクリル酸とメタクリル酸メチルとの隣接による六員環酸無水物の形成を抑制する観点から、190~260℃がより好ましい。また脱揮処理の圧力は、通常0.13~4.0kPa程度であり、好ましくは0.13~3.0kPaであり、より好ましくは0.13~2.0kPaである。脱揮方法としては、例えば加熱下で減圧して揮発分を除去する方法、及び揮発分除去の目的に設計された押出機等を通して除去する方法が望ましい。
【0043】
<難燃剤(C):(C)成分>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、当該難燃性スチレン系樹脂組成物100質量%に対して、難燃剤(C)を10~30質量%含有し、11~29質量%含有することが好ましく、12~28質量%含有することがより好ましく、15~25質量%含有することがさらに好ましい。
本実施形態における難燃剤(C)は、2種以上のリン酸アミン系化合物であり、ピロリン酸ピペラジン及びポリリン酸ピペラジンからなる群から選択される1種又は2種以上のピペラジン化合物(c-1)と、ピロリン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン及びポリリン酸メラミンからなる群から選択される1種又は2種以上のメラミン化合物(c-2)とを含有する。本発明において、ピペラジン化合物(c-1)(以下、(c-1)成分とも称する。)とメラミン化合物(c-2)(以下、(c-2)成分とも称する。)とを併用した難燃剤(C)を用いることにより、高い難燃性を示し、耐衝撃性、成形外観、耐熱性、剛性の優れた難燃性スチレン系樹脂組成物を提供できる。
【0044】
<<ピペラジン化合物(c-1)とメラミン化合物(c-2)>>
本実施形態において、ピペラジン化合物(c-1)であるピロリン酸ピペラジン及び/又はポリリン酸ピペラジンは、下記の通りである。ピロリン酸ピペラジンは特開2005-120021号公報等に記載の公知の方法に従って合成することができる。ポリリン酸ピペラジンは市販品を入手して使用することができる。ピペラジン化合物(c-1)としては、ピロリン酸ピペラジン又はポリリン酸ピペラジンのいずれか1種でも、あるいは両方を使用してもよい。
【0045】
本実施形態におけるポリリン酸ピペラジンとしては、以下の一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
(上記一般式(1)中、Mはピペラジンを表し、nは3以上1000以下の整数を表す。)
本実施形態における難燃性スチレン系樹脂組成物中におけるピペラジン化合物(c-1)の配合量は、ピペラジン化合物(c-1)とメラミン化合物(c-2)との合計量を100質量%に対して、20~80質量%、好ましくは30~70質量%、特に好ましくは40~65質量%である。その配合比にすることにより、充分な難燃性を得ることが出来る。
【0046】
本実施形態においてメラミン化合物(c-2)である、ピロリン酸ジメラミン、ピロリン酸メラミン及びポリリン酸メラミンから選択される1種又は2種以上は、市販品を入手して使用することができる。本発明においては、ピペラジン化合物(c-1)とメラミン化合物(c-2)とを併用しないと効果が得られない。
【0047】
本実施形態におけるポリリン酸メラミンとしては、以下の一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【化2】
(上記式(2)中、Lはメラミンを表し、mは3以上100以下の整数、好ましくは3以上80以下の整数、より好ましくは3以上60以下の整数を表す。)
なお、リン酸メラミンとリン酸ジメラミンとは、混練時に分解発泡するので使用困難である。成分(C)の市販品としては、例えばピロリン酸ピペラジン/ピロリン酸メラミン=60/40(質量比)のADEKA社製のFP2050、FP2100JC、FC2500が例示できる。
【0048】
<任意添加成分>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、上記(A)~(C)成分の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて従来公知の添加剤、加工助剤等の任意添加成分を添加することができる。これら添加剤、加工助剤等としては、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、帯電防止剤、充填剤、難燃助剤(フッ素系樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、又はPS、MS、AS、PMMAなどで被覆されたPTFE)等が挙げられる。
【0049】
本実施形態における酸化防止剤としては、フェノール系化合物、リン系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
【0050】
上記フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-tert-ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’-チオビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-tert-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-tert-ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-tert-ブチル-m-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6―ジ-tert-ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-第2ブチル-6-tert-ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-tert-ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、ステアリル〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、テトラキス〔3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸メチル〕メタン、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2-tert-ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-tert-ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0051】
上記リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2-tert-ブチル-4-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(デシル)モノフェニルホスファイト、ジ(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-n-ブチリデンビス(2-tert-ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジハイドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、2,2’-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-tert-ブチルフェニル)-オクタデシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2-〔(2,4,8,10-テトラキス-tert-ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ〕エチル)アミン、2-エチル-2-ブチルプロピレングリコールと2,4,6-トリ-tert-ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0052】
上記チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、及びペンタエリスリトールテトラ(β-アルキルメルカプトプロピオン酸エステル類が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0053】
上記耐候剤としては、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤等を用いることができる。
【0054】
上記紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、5,5’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)等の2-ヒドロキシベンゾフェノン類;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-tert-ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’--tert-ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-5’--tert-オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4--tert-オクチル-6-(ベンゾトリアゾリル)フェノール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’--tert-ブチル-5’-カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4-ジ-tert-ブチルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ-tert-アミルフェニル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2-エチル-2’-エトキシオキザニリド、2-エトキシ-4’-ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル-α-シアノ-β、β-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシ-5-メチルフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-s-トリアジン等のトリアリールトリアジン類が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0055】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1-オクトキシ-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ジ(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,4,4-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノ-ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-tert-オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン等のヒンダードアミン化合物が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
上記滑剤としては、脂肪族アミド系、脂肪族エステル系、脂肪酸系、脂肪酸金属塩系等を用いることができる。
【0057】
上記脂肪族アミド系の滑剤としては、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド等が挙げられる。
これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0058】
上記脂肪族エステル系の滑剤としては、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリル酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ脂肪酸オクチルエステル、ステアリン酸オクチル、牛脂脂肪酸オクチルエステル、ラウリル酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、炭素数28~30の直鎖状で分岐がない飽和モノカルボン酸(以下モンタン酸と略記する)とエチレングリコールのエステル、モンタン酸とグリセリンのエステル、モンタン酸とブチレングリコールのエステル、モンタン酸とトリメチロールエタンのエステル、モンタン酸とトリメチロールプロパンのエステル、モンタン酸とペンタエリスリトールのエステル、グリセリンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセスクイオレート、ソルビタントリオレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミテート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレート、ポリオキシエチレンソルビタントリオレート等が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0059】
上記脂肪酸系の滑剤のうち飽和脂肪酸としては、具体的には、ラウリン酸(ドデカン酸)、イソデカン酸、トリデシル酸、ミリスチン酸(テトラデカン酸)、ペンタデシル酸、パルミチン酸(ヘキサデカン酸)、マルガリン酸(ヘプタデカン酸)、ステアリン酸(オクタデカン酸)、イソステアリン酸、ツベルクロステアリン酸(ノナデカン酸)、2-ヒドロキシステアリン酸、アラキジン酸(イコサン酸)、ベヘン酸(ドコサン酸)、リグノセリン酸(テトラドコサン酸)、セロチン酸(ヘキサドコサン酸)、モンタン酸(オクタドコサン酸)、メリシン酸等が挙げられ、特に、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、12-ヒドロキシステアリン酸及びモンタン酸等が挙げられる。
上記脂肪酸系の滑剤のうち不飽和脂肪酸としては、具体的には、ミリストレイン酸(テトラデセン酸)、パルミトレイン酸(ヘキサデセン酸)、オレイン酸(cis-9-オクタデセン酸)、エライジン酸(trans-9-オクタデセン酸)、リシノール酸(オクタデカジエン酸)、バクセン酸(cis-11-オクタデセン酸)、リノール酸(オクタデカジエン酸)、リノレン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、エレステアリン酸(9,11,13-オクタデカトリエン酸)、ガドレイン酸(イコサン酸)、エルカ酸(ドコサン酸)、ネルボン酸(テトラドコサン酸)等が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0060】
上記脂肪酸金属塩系の滑剤としては、上記脂肪酸系滑剤の脂肪酸のリチウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、及びアルミニウム塩等が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0061】
上記帯電防止剤としては、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性系、グリセリン脂肪酸モノエステル等の脂肪酸部分エステル類等を用いることができる。
具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-N-(3-ドデシルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)メチルアンモニウムメソスルフェート、(3-ラウリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムメチルスルフェート、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム硝酸塩、ステアロアミドプロピルジメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウムリン酸塩、カチオン性ポリマー、アルキルスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルキル硝酸エステル塩、リン酸アルキルエステル塩、アルキルホスフェートアミン塩、ステアリン酸モノグリセリド、ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ソルビタンモノパルミテート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセリン脂肪酸エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミン脂肪酸モノエステル、アルキルジエタノールアミド、ポリオキシエチレンドデシルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド、ポリエーテルブロックコポリマー、セチルベタイン、ヒドロキシエチルイミダゾリン硫酸エステル等が挙げられる。これらは2種以上を混合して使用してもよい。
【0062】
上記充填剤としては、タルク、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、炭素繊維、マイカ、ワラストナイト、ウィスカ等を用いることができる。
【0063】
本実施形態における難燃性スチレン系樹脂組成物は、上記の添加剤及び加工助剤等の他、ブロッキング防止剤、着色剤、ブルーミング防止剤、表面処理剤、抗菌剤、目ヤニ防止剤(特開2009-120717号公報に記載のシリコーンオイル、高級脂肪族カルボン酸のモノアミド化合物、及び高級脂肪族カルボン酸と1価~3価のアルコール化合物とを反応させてなるモノエステル化合物等の目ヤニ防止剤)等の任意添加成分を含有してもよい。
【0064】
本実施形態において、添加剤、加工助剤、及び任意添加成分の合計含有量は、難燃性スチレン系樹脂組成物中、0.05~5質量%としてよい。
【0065】
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、実質的に(A)成分~(C)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。また、(A)成分~(C)成分のみ、又は(A)成分~(C)成分及び任意添加成分のみからなっていてもよい。
「実質的に(A)成分~(C)成分及び任意添加成分のみからなる」とは、難燃性スチレン系樹脂組成物の95~100質量%(好ましくは98~100質量%)が(A)成分~(C)成分であるか、又は(A)成分~(C)成分及び任意添加成分であることを意味する。
尚、本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で(A)成分~(C)成分及び任意添加成分の他に不可避不純物を含んでいてもよい。
【0066】
[難燃性スチレン系樹脂組成物の物性]
<難燃性>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物の難燃性は、UL94垂直燃焼試験(UL94-V試験)において、規格内である、即ち、V-0~V-2の難燃性クラスであることが好ましい。
なお本開示で、難燃性は、後述の[実施例]の項に記載の方法で評価することができる。
<メルトフローレート(MFR)>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物のメルトフローレートは、1グラム/10分以上であることが好ましく、より好ましくは2グラム/10分以上である。1グラム/10分未満では、流動性が低く、大型の製品や薄肉の製品が成形できない恐れがある。
なお本開示で、メルトフローレートは、ISO1133に準拠して、温度200℃、荷重49Nの条件により測定される値である。
【0067】
<シャルピー衝撃強さ>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物のシャルピー衝撃強度は、1.2kJ/m以上であることが好ましく、より好ましくは6kJ/m以上である。1.2kJ/m未満であると、OA製品内部部品等の用途では使用中に破損する懸念がある。
なお本開示で、シャルピー衝撃強度は、ISO 179に準拠して測定される値である。
【0068】
<ビカット軟化温度>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物のビカット軟化温度は、90℃以上であることが好ましく、より好ましくは92℃以上である。90℃未満であると、使用中、温度が上昇し、製品が変形してしまう恐れがある。
なお本開示で、ビカット軟化温度は、ISO 306に準拠して、荷重49N、昇温速度50℃/時間の条件により測定される値である。
【0069】
<曲げ弾性率>
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物の曲げ弾性率は2500MPa以上であることが好ましく、より好ましくは3000MPa以上である。2500MPa未満であると製品の肉厚を薄くすることができず、軽量化できない。
なお本開示で、曲げ弾性率は、ISO 178に準拠して測定される値である。
【0070】
[難燃性スチレン系樹脂組成物の製造方法]
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、各成分を任意の方法で溶融混練することによって製造することができる。例えば、ヘンシェルミキサーに代表される高速撹拌機、バンバリーミキサーに代表されるバッチ式混練機、単軸又は二軸の連続混練機、ロールミキサー等を単独で、又は組み合わせて用いる方法が挙げられる。混練の際の加熱温度は、通常、180~260℃の範囲で選択される。
【0071】
[成形品]
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機により、あるいは、得られた難燃性スチレン系樹脂組成物のペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法、及び発泡成形法等により、成形品を製造することができる。
本実施形態の難燃性スチレン系樹脂組成物を含む成形品、好ましくは、射出成形品(射出圧縮を含む)、複写機、ファックス、テレビ、ラジオ、テープレコーダー、ビデオデッキ、パソコン、プリンター、電話機、情報端末機、冷蔵庫、電子レンジ等のOA機器、家庭電化製品、電気・電子機器のハウジングや各種部品、発泡断熱材、絶縁フィルム等に好適に用いられる。
【実施例
【0072】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明の実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら制限されるものではない。
【0073】
<測定及び評価方法>
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の物性の測定及び評価は、次の方法に基づいて行った。
【0074】
(1)ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の含有量
ブタジエンセグメントの結合様式を踏まえた上で、熱分解ガスクロマトグラフイーを用いてブタジエンセグメント量を測定し、ブタジエンセグメント量からゴム状重合体(a)の含有量を算出した。単位は質量%である。
【0075】
(2)ゴム変性スチレン系樹脂中に含まれるゴム状重合体(a)の平均粒子径
四酸化オスミウムで染色したゴム変性スチレン樹脂から厚さ75nmの超薄切片を作製し、電子顕微鏡を用いて倍率10000倍の写真を撮影した。写真中、黒く染色された粒子がゴム状重合体(a)である。写真から、下記数式(N1):
平均粒子径=ΣniDri /ΣniDri (N1)
(式中、niは、粒子径Driのゴム状重合体(a)粒子の個数であり、粒子径Driは、写真中の粒子の面積から円相当径として算出した粒子径である。)
により面積平均粒子径を算出し、ゴム状重合体(a)の平均粒子径とした。本測定は、写真を200dpiの解像度でスキャナーに取り込み、画像解析装置IP-1000(旭化成社製)の粒子解析ソフトを用いて測定した。
【0076】
(3)ゴム変性スチレン系樹脂の還元粘度
還元粘度はゴム変性スチレン系樹脂の分子量の指標となる。ゴム変性スチレン系樹脂1gをメチルエチルケトン/メタノール混合溶媒(混合質量比90/10)20mLに加え、振とう機で60分かけて溶解させた。次に、R20A2型ローターを備えた日立製作所製himacCR20型遠心分離機を用い、0℃、20,000rpmで60分、遠心分離した後、上澄み液にメタノールを添加し、スチレン系樹脂を析出させた。析出物を濾過後に、乾燥させて試料とし、トルエン溶液中で30℃、濃度0.5g/dLの条件で還元粘度(dL/g)を測定した。
【0077】
(4)スチレン共重合樹脂のスチレン系単量体単位、メタクリル酸単量体単位、及びメタクリル酸メチル単量体単位の含有量
プロトン核磁気共鳴(H-NMR)測定機で測定したスペクトルの積分比から、樹脂組成を定量した。
・試料調製:樹脂ペレット30mgをd6-DMSO 0.75mLに60℃で4~6時間加熱溶解した。
・測定機器:日本電子(株)製 JNM ECA-500
・測定条件:測定温度 25℃、観測核 1H、積算回数 64回、繰り返し時間 11秒。
(スペクトルの帰属)
ジメチルスルホキシド重溶媒中で測定されたスペクトルの帰属について、0.5~1.5ppmのピークは、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及び六員環酸無水物のα-メチル基の水素、1.6~2.1ppmのピークはポリマー主鎖のメチレン基の水素、3.5ppmのピークはメタクリル酸メチルのカルボン酸エステル(-COOCH)の水素、12.4ppmのピークはメタクリル酸のカルボン酸の水素である。また、6.5~7.5ppmのピークはスチレンの芳香族環の水素である。なお、本実施例及び比較例の樹脂では六員環酸無水物の含有量が少ないため、本測定方法では通常定量化は難しい。
【0078】
(5)スチレン共重合樹脂の重量平均分子量
スチレン共重合樹脂の重量平均分子量を、下記の条件や手順で測定した。
・試料調製:テトラヒドロフランに樹脂を約0.05質量%で溶解させた。
・測定条件
機器:TOSOH HLC-8220GPC(ゲルパーミエイション・クロマトグラフィー)
カラム :super HZM-H
温度 :40℃
キャリア :THF 0.35mL/min
検出器 :RI、UV:254nm
検量線 :TOSOH製の標準PSを使用して作成。
【0079】
(6)難燃性
後述の方法で作製した試験片(b)(大きさ:127mm×12.7mm、厚み:1.5mm又は0.8mm)を用いて、50W試験炎によるUL94垂直燃焼試験(UL94-V試験)に準拠する方法で難燃性を評価した。
上記試験片(b)にガスバーナーの炎を当てて、その燃焼の程度を評価した。
なお、難燃等級には、UL94-V試験によって分類される難燃性のクラスを示した。全ての試験片で試験は5本行い、判定した。分類方法の概要は以下のとおりである。
V-0:5本の合計燃焼時間50秒以下、最大燃焼時間10秒以下、滴下綿着火なし
V-1:5本の合計燃焼時間250秒以下、最大燃焼時間30秒以下、滴下綿着火なし
V-2:5本の合計燃焼時間250秒以下、最大燃焼時間30秒以下、滴下綿着火あり
Not V:UL94の規格外
【0080】
(7)メルトフローレート(MFR)
スチレン共重合樹脂のメルトマスフローレート(g/10分)は、ISO 1133に準拠して測定した(200℃、荷重49N)。
【0081】
(8)シャルピー衝撃強さ
後述の方法で作製した試験片(b)について、ISO 179に準拠して、シャルピー衝撃強度(kJ/m)をノッチ有りで測定した。
【0082】
(9)ビカット軟化温度
ISO 306に準拠して、樹脂組成物のビカット軟化温度(℃)を測定した。荷重は49N、昇温速度は50℃/時間とした。
【0083】
(10)曲げ弾性率
曲げ弾性率(MPa)は、後述の方法で作製した試験片を用いて、ISO 178に準拠し、測定した。
【0084】
(11)表面外観
表面外観は、後述の方法で作製した試験片の一方の表面を観察し、開口が0.1mm以上の寸法の凹みが20個未満存在する場合を「OK」とし、20個以上存在する場合を「NG」と評価した。
【0085】
実施例で用いた各材料は下記の通りである。
[(A)成分]
・スチレン系樹脂(HIPS):
高衝撃ポリスチレン(HIPS)であるゴム変性スチレン系樹脂を用いた。該HIPSは、ゴム状重合体としてポリブタジエンを使用しており、上記分析方法による該HIPSの分析値は、ゴム状重合体(a)の含有量8.6質量%、ゴム状重合体(a)粒子の平均粒子径1.9μm、還元粘度0.64dL/gであった。
【0086】
[(B)成分]
[樹脂a]
スチレン(ST)71.3質量部、メタクリル酸(MAA)7.3質量部、メタクリル酸メチル(MMA)6.4質量部、エチルベンゼン15.0質量部、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン0.025質量部から成る重合原料組成液を、1.1リットル/時の速度で、容量が4リットルの完全混合型反応器に、次いで、2リットルの層流型反応器から成る重合装置に、次いで、未反応モノマー、重合溶媒等の揮発分を除去する単軸押出機を連結した脱揮装置に、連続的に順次供給し、樹脂を調製した。
重合工程における重合反応条件は、完全混合反応器は重合温度122℃、層流型反応器は重合温度120~142℃とした。脱揮された未反応ガスは、-5℃の冷媒を通した凝縮器で凝縮し、未反応液として回収した。
最終重合液中のポリマー分は、重合液を215℃、2.5kPaの減圧下で30分間乾燥後、式[(乾燥後の試料質量/乾燥前の試料質量)×100%]により測定したところ、65.6質量%であり、重量平均分子量は21.4万であった。
得られた樹脂aの組成比、物性を表1に示す。
[樹脂b~d]
下記表1に示す樹脂の性状になるように組成や重合温度条件等を調整し、樹脂aと同様の方法で樹脂b~eを得た。
得られた樹脂b~eの組成比、物性を表1に示す。
[GPPS]
・MFR2.2のポリスチレン(GPPS、PSジャパン社製、G9401)を用いた。
【0087】
【表1】
【0088】
[(C)成分]
・リン酸アミン塩A(ピロリン酸ジメラミン(c-2)/ピロリン酸ピペラジン(c-1)が質量比で40/60からなる難燃剤、ADEKA社製FP2100JC)
・リン酸アミン塩B(ピロリン酸ジメラミン(c-2)/ピロリン酸ピペラジン(c-1)が質量比で40/60からなり、さらに酸化亜鉛が約5質量%帆油面処理されている難燃剤、ADEKA社製、FP2500)
また、リン酸アミン塩A、Bは、ピペラジン化合物(c-1)及びメラミン化合物(c-2)の混合物である。
・ピロリン酸ジメラミン(下関三井化学(株)製)
・ピロリン酸ピペラジン
ピロリン酸とピペラジンとをモル比1: 1 で反応させて製造した。
ポリリン酸ピペラジン:ポリリン酸とピペラジンをモル比1: 1 で、メタノール水溶液中にて反応させて製造した。
・メラミンシアヌレート(日産化学(株)製MC-4500)
【0089】
[PTFE]
ポリテトラフルオロエチレンが50%含有したPS被覆PTFE「Shine polymer社製SN3300」
【0090】
[添加剤]
(フェノール系酸化防止剤)
・3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸ステアリル[BASF社製、Irganox1076]
(リン系酸化防止剤)
・トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト[BASF社製、Irgafos168]
【0091】
[実施例1~9]
下記表2、3に示す組成比で各成分と(A)~(C)成分100質量部に対して、PTFE0.5質量部、Irganox1076とIrgafos168を0.2質量部ずつ添加後、予備混合した。得られた予備混合物を一括混合し、二軸押出機(東芝機械社製、TEM-26SS)を用い、180℃~230℃の範囲で溶融押出を行い、混練物として難燃性スチレン系樹脂組成物のペレットを得た。この際、スクリュー回転数は150rpm、吐出量は10kg/hrであった。
このようにして得られたペレットを、ISO規格試験片タイプA金型を備え付けた日本製鋼所社製の射出成形機を用い、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出圧力(ゲージ圧40-60MPa)、射出速度(パネル設定値)50%、射出時間/冷却時間=5sec/20secで成形して試験片(a)を作製した。得られた試験片を用いて、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強さ、ビカット軟化温度の測定と成形品の表面外観を評価した。また、難燃性評価は、寸法127mm×12.7mm×厚み1.5mmのピンゲート平板金型を備え付けた日本製鋼所社製の射出成形機を用い、シリンダー温度220℃、金型温度50℃、射出圧力(ゲージ圧40-60MPa)、射出速度(パネル設定値)50%、射出時間/冷却時間=5sec/20secで成形して試験片(b)を作製し評価を実施した。結果を表2に示す。
【0092】
[比較例1~8]
比較例1~8は、表3に示すように組成を変更したこと以外は実施例と同様にして、樹脂組成物のペレットを得た。各物性の測定及び評価の結果を表3に示す。
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
表2に示すように、実施例1~9は、高い難燃性(1.5mm厚でV-0またはV-1)を有し、耐衝撃性、耐熱性、剛性、成形外観に優れることがわかる。また、分散が良いことで弾性率が高く、剛性のある材料となる。
【0096】
比較例1、2について、表3に示すように、特定の共重合がないと分散性が悪く、難燃性が得られず、成形外観が悪い。
比較例3について、表3に示すように、(B)成分の量が多いと流動性と衝撃強度が低下する。
比較例4について、表3に示すように、(C)成分の量が多いと流動性と衝撃強度が低下する。一方、比較例5のように(C)成分が少ないと難燃性が得られない。
比較例6について、表3に示すように(C)成分がピロリン酸ジメラミンのみでは、難燃性が得られず、流動性が低下し、分散が悪いため成形外観が悪い。
比較例7について、表3に示すように(C)成分がピロリン酸ピペラジンのみでは、難燃性が得られず、耐熱性が低下する。
比較例8について、表3に示すようにリン酸アミン塩Aのピロリン酸ジメラミンをメラミンシアヌレートに置き換えた場合、難燃性が得られず、メラミンシアヌレートの分散が悪いため成形外観が悪い。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明の難燃性スチレン系樹脂組成物を含む成形品は、デスクトップパソコンやノート型パソコン等のコンピューター部品、携帯電話部品、電気・電子機器、携帯情報端末、家電製品部品、自動車部品、産業資材、及び建築材等の肉厚の薄い製品、シート、フィルム等に好適に使用することができる。