(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】4-ヒドロキシ安息香酸2’-ヒドロキシ-(1,1’-ビナフタレン)-2-イルおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 69/84 20060101AFI20231226BHJP
C07C 67/08 20060101ALI20231226BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20231226BHJP
【FI】
C07C69/84 CSP
C07C67/08
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020092202
(22)【出願日】2020-05-27
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】▲はま▼口 正基
(72)【発明者】
【氏名】新藤 奈苗
【審査官】伊佐地 公美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-201603(JP,A)
【文献】特開2012-131960(JP,A)
【文献】特開2010-248398(JP,A)
【文献】国際公開第2019/155761(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07B
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)
【化1】
で表される4-ヒドロキシ安息香酸2’-ヒドロキシ-(1,1’-ビナフタレン)-2-イル。
【請求項2】
酸触媒の存在下、4-ヒドロキシ安息香酸と1,1’-ビ-2-ナフトールを反応させる工程を含む、請求項1に記載の4-ヒドロキシ安息香酸2’-ヒドロキシ-(1,1’-ビナフタレン)-2-イルの製造方法。
【請求項3】
4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、1,1’-ビ-2-ナフトール0.5~5.0モル当量を反応させる、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、酸触媒0.01~0.5モル当量存在させる、請求項2または3に記載の方法。
【請求項5】
酸触媒は、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸およびエタンスルホン酸から選択される1種以上である、請求項2~4のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な芳香族ジオール化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジオールを脱水縮合してなる化合物は各種樹脂の原料として有用であることが知られている。例えば、特許文献1および2には、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸とヒドロキノンを脱水縮合してなる化合物が、特許文献3には、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸と4,4’-ジヒドロキシビフェニルを脱水縮合してなる化合物が、特許文献4には、4-ヒドロキシ安息香酸とヒドロキノンを脱水縮合してなる化合物が、それぞれ、エポキシ樹脂やポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどの原料となることが提案されている(特許文献1~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-201603号公報
【文献】特開2012-111926号公報
【文献】特開2012-131960号公報
【文献】特開2010-248398号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、4-ヒドロキシ安息香酸と1,1’-ビ-2-ナフトールを脱水縮合してなる化合物については未だ知られていない。
【0005】
本発明の目的は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどの原料や、種々の樹脂材料の改質剤として有用な、4-ヒドロキシ安息香酸2’-ヒドロキシ-(1,1’-ビナフタレン)-2-イルを提供することにある。また、本発明の他の目的は、4-ヒドロキシ安息香酸2’-ヒドロキシ-(1,1’-ビナフタレン)-2-イルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕式(1)
【化1】
で表される4-ヒドロキシ安息香酸2’-ヒドロキシ-(1,1’-ビナフタレン)-2-イル。
〔2〕酸触媒の存在下、4-ヒドロキシ安息香酸と1,1’-ビ-2-ナフトールを反応させる工程を含む、〔1〕に記載の4-ヒドロキシ安息香酸2’-ヒドロキシ-(1,1’-ビナフタレン)-2-イルの製造方法。
〔3〕4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、1,1’-ビ-2-ナフトール0.5~5.0モル当量を反応させる、〔2〕に記載の方法。
〔4〕4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、酸触媒0.01~0.5モル当量存在させる、〔2〕または〔3〕に記載の方法。
〔5〕酸触媒は、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、メタンスルホン酸およびエタンスルホン酸から選択される1種以上である、〔2〕~〔4〕のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸2’-ヒドロキシ-(1,1’-ビナフタレン)-2-イル(以下、式(1)で表される芳香族ジオール化合物とも称する)は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどの原料や、種々の樹脂材料の改質剤として使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1で得られた、式(1)で表される芳香族ジオール化合物の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【
図2】実施例1で得られた、式(1)で表される芳香族ジオール化合物のMSスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、式(1)で表される4-ヒドロキシ安息香酸2’-ヒドロキシ-(1,1’-ビナフタレン)-2-イルに関する。
【化2】
【0010】
本発明の式(1)で表される芳香族ジオール化合物の製造方法は、酸触媒の存在下、4-ヒドロキシ安息香酸と1,1’-ビ-2-ナフトールを反応させる工程を含む。
【0011】
本発明の製造方法において、4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、1,1’-ビ-2-ナフトール0.5~5.0モル当量、好ましくは0.8~4.0モル当量、より好ましくは1.0~3.0モル当量反応させるのがよい。
【0012】
4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、1,1’-ビ-2-ナフトールの量が0.5モル当量を下回る場合、生成した式(1)で表される芳香族ジオール化合物と4-ヒドロキシ安息香酸が反応して生じる副生物が増加する傾向があるとともに、4-ヒドロキシ安息香酸の使用が過剰となり原料の無駄となる。1,1’-ビ-2-ナフトールの量が5.0モル当量を上回る場合、過剰量の1,1’-ビ-2-ナフトールが残存し、やはり原料の無駄となる。
【0013】
本発明において、4-ヒドロキシ安息香酸と1,1’-ビ-2-ナフトールの反応は、酸触媒の存在下で行われる。酸触媒としては、芳香族スルホン酸類、脂肪族スルホン酸類、硫酸、塩酸、リン酸および硝酸からなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中で反応性に優れ、かつ副反応が抑制される点で、芳香族スルホン酸類および脂肪族スルホン酸類が好ましく使用される。
【0014】
芳香族スルホン酸類としては、例えば、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸が挙げられる。これらの中で、反応性および入手容易性に優れる点で、p-トルエンスルホン酸が好ましい。
【0015】
脂肪族スルホン酸類としては、例えば、メタンスルホン酸およびエタンスルホン酸等が挙げられる。これらの中で、反応性および入手容易性に優れる点で、メタンスルホン酸が好ましい。
【0016】
これらの酸触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明の製造方法に使用する酸触媒の量は、特に限定されないが、通常、4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対して0.01~0.5モル当量であるのが好ましく、0.03~0.3モル当量であるのがより好ましい。
【0017】
4-ヒドロキシ安息香酸1モル当量に対し、酸触媒の量が0.01モル当量を下回る場合、反応が十分進行しない傾向がある。酸触媒の量が0.5モル当量を上回る場合、過反応物等の副生物が生成する傾向があるとともに、経済的にも不利となる。
【0018】
本発明において、4-ヒドロキシ安息香酸と1,1’-ビ-2-ナフトールの反応は、溶媒の存在下で行うのが好ましい。溶媒としては、クロロベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ニトロベンゼン、テトラヒドロフラン、4-メチルテトラヒドロピラン、ジオキサン、アニソール、ジフェニルエーテル、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラヒドロナフタレン、デカヒドロナフタレンおよび軽油からなる群から選択される1種以上が挙げられる。これらの中で、反応性に優れる点でキシレン、メシチレンおよびアニソールが好ましく、特にキシレンが好ましい。
【0019】
これらの溶媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明の製造方法に使用する溶媒の量は、4-ヒドロキシ安息香酸に対して1倍質量以上であるのが好ましく、2~40倍質量であるのがより好ましく、5~20倍質量であるのがさらに好ましい。
【0021】
4-ヒドロキシ安息香酸に対し、溶媒の量が1倍質量を下回る場合、攪拌不良が生じる傾向がある。
【0022】
4-ヒドロキシ安息香酸と1,1’-ビ-2-ナフトールの反応は、80~250℃の温度下で行うのが好ましく、100~200℃の温度下で行うのがより好ましい。反応温度が80℃を下回る場合、反応が十分に進行しない傾向があり、反応温度が250℃を上回る場合、副生物が生成する傾向があるとともに、エネルギーの損失となる。
【0023】
反応時間は、反応温度等の条件によって変動するため特に限定されないが、0.5~50時間、好ましくは1~40時間、より好ましくは3~30時間の間で適宜選択される。
【0024】
本発明において、4-ヒドロキシ安息香酸と1,1’-ビ-2-ナフトールとの反応は、窒素気流下またはバブリング下、もしくは減圧条件下で行うのが好ましい。このような条件下で反応させることによって、反応から副生する水を容易に除去し、反応を円滑に進行させることが可能となる。
【0025】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0026】
式(1)で表される芳香族ジオール化合物は、以下の方法によって分析した。
【0027】
<1H-NMRスペクトル>
サンプル7mgを重水素化ジメチルスルホキシド0.7gで溶解し、Bruker Biospin AV400M(Bruker社製)を用いて、溶液状態での1H-NMRスペクトルを測定した。
【0028】
<MSスペクトル>
Waters 2690/2996 Alliance-TQ Detectorを用いてMSスペクトルを測定した。
【0029】
<高速液体クロマトグラフィー(HPLC)>
装置: 日立Chromaster
カラム型番: L-Column
液量: 1.0mL/分
溶媒比: CH3OH/H2O(pH2.3)=10/90(14分)→2分→68/32(19分)→1分→80/20(14分)→1分→90/10(9分)、グラジエント分析
波長: 229nm
カラム温度: 40℃
【0030】
尚、式(1)で表される芳香族ジオール化合物の純度は、HPLCチャートの面積%から算出した。
【0031】
実施例1
攪拌機、温度センサーおよびディーン・スターク装置の付いた200mLの4ツ口フラスコに、4-ヒドロキシ安息香酸5.5g(0.04モル)、1,1’-ビ-2-ナフトール22.9g(0.08モル)、p-トルエンスルホン酸一水和物0.8g(0.004モル)およびキシレン110.4gを仕込み、窒素気流下138~139℃で20時間反応した。反応液をHPLC分析したところ、式(1)で表される芳香族ジオール化合物の生成率は使用した4-ヒドロキシ安息香酸のモル量に対して65.3%であった。
【0032】
反応液を室温まで冷却した後、析出固体を濾別し、固形物を得た。固形物をアセトンに溶解させ、ヘキサンと酢酸エチルの混合溶媒を使用してシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製することにより式(1)で表される芳香族ジオール化合物(純度97.9%)を得た。
【0033】
得られた式(1)で表される芳香族ジオール化合物について
1H-NMRスペクトルおよびMSスペクトルを測定した。
1H-NMRスペクトルを
図1に、MSスペクトルを
図2に示す。得られた式(1)で表される芳香族ジオール化合物は、エポキシ樹脂、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどの原料や、種々の樹脂材料の改質剤として使用できる。