(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】浮き上がり機構およびこれを備えた鉄筋コンクリート柱、鉄筋コンクリート構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20231226BHJP
E04C 3/34 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04C3/34
(21)【出願番号】P 2020094170
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-03-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】半澤 徹也
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-076735(JP,A)
【文献】特開2002-364206(JP,A)
【文献】特開2005-232724(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00 - 9/16
E04C 3/00 - 3/46
E04B 1/21
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に延びる柱状の躯体に設けられる浮き上がり機構であって、
上側の躯体の下面に固定される上板と、下側の躯体の上面に固定される下板と、下板の上面に突設されるとともに上板に設けられた貫通孔に対して上下方向に滑動可能に挿通配置されるシアキーと、上板と下板の間に配置されるとともに上下方向の衝撃を吸収する緩衝材とを備えることを特徴とする浮き上がり機構。
【請求項2】
請求項1に記載の浮き上がり機構を備えることを特徴とする鉄筋コンクリート柱。
【請求項3】
請求項1に記載の浮き上がり機構を備えることを特徴とする鉄筋コンクリート構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮き上がり機構およびこれを備えた鉄筋コンクリート柱、鉄筋コンクリート構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地震時に、建物に生じる転倒モーメントに対し、建物の柱脚ないしは柱中間部の引抜き(浮き上がり)を許容することで、建物自体の損傷を抑制する構造が提案されている(例えば、非特許文献1、2を参照)。
【0003】
そうした架構を具体化する手段として、例えば特許文献1では、建物基礎上に設置される鋼管柱における柱脚部に取り付けられ、当該柱のロッキングまたは浮き上がりによって減衰部材が降伏して減衰効果を発揮する接合部金物を有する建物が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「高知能建築構造システムに関する日米共同構造実験研究(その19)」、石原ほか、日本建築学会大会学術講演梗概集、2001年、pp.219-220
【文献】「柱中間部浮き上がり機構を有する架構の地震応答(その6)」、加藤ほか、日本建築学会大会学術講演梗概集、2015年、pp.1255-1256
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記の従来の特許文献1の架構は、鋼管柱を対象とした構造であるため、そのまま鉄筋コンクリート柱に適用することは難しい。このため、鉄筋コンクリート柱において、地震時の浮き上がりを許容して躯体の損傷を軽減することができる機構が求められていた。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、地震時の浮き上がりを許容して躯体の損傷を軽減することができる浮き上がり機構およびこれを備えた鉄筋コンクリート柱、鉄筋コンクリート構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る浮き上がり機構は、上下方向に延びる柱状の躯体に設けられる浮き上がり機構であって、上側の躯体の下面に固定される上板と、下側の躯体の上面に固定される下板と、下板の上面に突設されるとともに上板に設けられた貫通孔に対して上下方向に滑動可能に挿通配置されるシアキーと、上板と下板の間に配置されるとともに上下方向の衝撃を吸収する緩衝材とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る鉄筋コンクリート柱は、上述した浮き上がり機構を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る鉄筋コンクリート構造は、上述した浮き上がり機構を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る浮き上がり機構によれば、上下方向に延びる柱状の躯体に設けられる浮き上がり機構であって、上側の躯体の下面に固定される上板と、下側の躯体の上面に固定される下板と、下板の上面に突設されるとともに上板に設けられた貫通孔に対して上下方向に滑動可能に挿通配置されるシアキーと、上板と下板の間に配置されるとともに上下方向の衝撃を吸収する緩衝材とを備えるので、地震時の躯体の変動軸力によって引張力が作用するとシアキーが上側に滑動して浮き上がる。また、着座する際に生じる衝撃は緩衝材により緩和される。このため、地震時の浮き上がりを許容して躯体の損傷を軽減することができるという効果を奏する。
【0012】
また、本発明に係る鉄筋コンクリート柱によれば、上述した浮き上がり機構を備えるので、地震時の浮き上がりを許容して躯体の損傷を軽減することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係る鉄筋コンクリート構造によれば、上述した浮き上がり機構を備えるので、地震時の浮き上がりを許容して躯体の損傷を軽減することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係る浮き上がり機構およびこれを備えた鉄筋コンクリート柱、鉄筋コンクリート構造の実施の形態を示す図であり、(1)は平断面図、(2)は側断面図である。
【
図2】
図2は、本実施の形態の要部の分解斜視図である。
【
図3】
図3は、解析モデルの説明図であり、(1)は多質点系モデル、(2)は浮き上がりバネのモデル化、(3)は基準階平面である。
【
図4】
図4は、BCJ-L2×1の場合(浮き上がり無し)の解析結果であり、(1)は応答変位、(2)は層間変形角、(3)は塑性率である。
【
図5】
図5は、BCJ-L2×2の場合(浮き上がり有り)の解析結果であり、(1)は応答変位、(2)は層間変形角、(3)は塑性率である。
【
図6】
図6は、応答性状の比較図であり、(1)は浮き上がり無しの場合、(2)は浮き上がり有りの場合である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係る浮き上がり機構およびこれを備えた鉄筋コンクリート柱、鉄筋コンクリート構造の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係る鉄筋コンクリート柱10は、矩形断面の鉄筋コンクリートからなり、上側の躯体12と、下側の躯体14と、これら躯体12、14間に設けられた本実施の形態の浮き上がり機構16を備えている。躯体12、14は、コンクリート18の内部に主筋20と剪断補強筋22が配筋されたプレキャストコンクリートで構成される。なお、
図1(2)では、剪断補強筋22の図示を省略している。
【0017】
浮き上がり機構16は、
図1および
図2に示すように、上側の躯体12の下面に固定される上鋼板24(上板)と、下側の躯体14の上面に固定される下鋼板26(下板)と、下鋼板26の上面に突設されるシアキー28と、上鋼板24、下鋼板26間に配置されるとともに上下方向の衝撃を吸収する緩衝シート30(緩衝材)とを備える。上鋼板24の上面と、下鋼板26の下面には、それぞれ主筋20が溶接されている。上鋼板24、下鋼板26の側端部には、揚重時固定用のボルト孔50が設けられる。緩衝シート30は、粘弾性体を用いて構成することができる。
【0018】
シアキー28は、上鋼板24に設けられた貫通孔32、緩衝シート30に設けられた貫通孔34に対して上下方向に滑動可能に挿通配置される。シアキー28は、下鋼板26の上面中央に溶接される円形鋼管36からなる。この鋼管36の上端の開口には、鋼製蓋38が取り付いている。鋼管36の上側部分は上側の躯体12の下面に挿入配置される。常時荷重および通常の地震力に対しては、シアキー28により剪断力を伝達する。常時の鉛直圧縮力の範囲で、曲げモーメントも伝達可能である。
【0019】
なお、下側の躯体14は、柱梁接合部40において梁42と接合している。柱梁接合部40には、複数の柱主筋貫通用シース管44が上下方向に配置されている。柱主筋貫通用シース管44には主筋20が挿通配置されるともに隙間にグラウト46が充填される。下側の躯体14の下面には、主筋用の継手48が挿入され、この継手48には、柱梁接合部40の主筋20の上部が配置されている。
【0020】
上記構成の動作および作用について説明する。
例えば巨大地震の際に、建物の転倒曲げモーメントによって生じる柱10の変動軸力により引張力が作用すると、浮き上がり機構16のシアキー28の部分が上側に滑動して躯体12が浮き上がる。また、着座する際に生じる衝撃は緩衝シート30により緩和される。このため、本実施の形態によれば、地震時の躯体12の浮き上がりを許容して躯体12、14の変形を低減することができる。これにより、躯体12、14の損傷を軽減することができる。
【0021】
(実施例)
次に、本実施の形態の実施例およびその効果の検証例について説明する。
本検証で使用した解析モデルを
図3に示す。この図に示すように、解析モデルは、平面規模28m×28m、20階建てのRC(鉄筋コンクリート)壁付きラーメン構造とした。この構造は本実施例の鉄筋コンクリート構造に相当する。1階の鉄筋コンクリート柱は本実施例の浮き上がり機構16を備えている。この解析モデルには、自重を超えた引張側の変動軸力に対して耐力が頭打ちとなるマルチリニア型復元力を与えている。
【0022】
床の単位質量1ton/m2、階高4m、軒高80mで、アスペクト比は80/28=2.86、1次固有周期は1.6秒(T=0.02H、T:周期(秒)、H:軒高(m))である。架構の復元力特性は下記の参考文献1を参考に与えている。
【0023】
[参考文献1] 「大振幅地震動に対する超高層建築の応答」、杉野ほか、シンポジウム大振幅地震動に対する設計と地震対策の最新動向、2017年、pp.27-36
【0024】
入力地震動には、超高層建築の構造設計で多用される日本建築センター模擬波レベル2(BCJ-L2)を、1倍(最大356gal)および2倍として与える。前者をBCJ-L2×1倍、後者をBCJ-L2×2倍と表記する。得られた結果を
図4、
図5に示す。なお、これらの図には、比較例として浮き上がり機構による浮き上がりを考慮しない場合(図中「浮き上がり無し」)の解析結果も併せて示している。図中「浮き上がり有り」が実施例に相当する。
【0025】
図4に示すように、BCJ-L2×1倍の場合、浮き上がりは発生しておらず、浮き上がりを考慮/非考慮の各モデルの応答結果は殆ど差がない。
【0026】
図5に示すように、BCJ-L2×2倍の場合、浮き上がりを考慮したモデル(実施例)では、1階レベルの回転角のため、特に2階での層間変形角(階の相対変位を階高で除した値)は比較例に比べて大きくなる(図中矢印)。しかし、これは回転成分を含んでいるためであり、塑性率を見ると、値の大きかった中間層では寧ろ比較例に比べて低下している(図中矢印)。
【0027】
これを模式図で示すと、
図6のようになる。
図6(1)は比較例に相当し、(2)は実施例に相当する。
図6(2)に示すように、本実施例の浮き上がり機構により浮き上がりを考慮することにより、変形そのものが小さくなり、躯体の損傷の低減が図られていることが分かる。
【0028】
したがって、本実施の形態の浮き上がり機構16によって鉄筋コンクリート柱10の浮き上がりを許容することで、地震時の躯体の損傷の軽減を図ることができる。
【0029】
以上説明したように、本発明に係る浮き上がり機構によれば、上下方向に延びる柱状の躯体に設けられる浮き上がり機構であって、上側の躯体の下面に固定される上板と、下側の躯体の上面に固定される下板と、下板の上面に突設されるとともに上板に設けられた貫通孔に対して上下方向に滑動可能に挿通配置されるシアキーと、上板と下板の間に配置されるとともに上下方向の衝撃を吸収する緩衝材とを備えるので、地震時の躯体の変動軸力によって引張力が作用するとシアキーが上側に滑動して浮き上がる。また、着座する際に生じる衝撃は緩衝材により緩和される。このため、地震時の浮き上がりを許容して躯体の損傷を軽減することができる。
【0030】
また、本発明に係る鉄筋コンクリート柱によれば、上述した浮き上がり機構を備えるので、地震時の浮き上がりを許容して躯体の損傷を軽減することができる。
【0031】
また、本発明に係る鉄筋コンクリート構造によれば、上述した浮き上がり機構を備えるので、地震時の浮き上がりを許容して躯体の損傷を軽減することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明に係る浮き上がり機構およびこれを備えた鉄筋コンクリート柱、鉄筋コンクリート構造は、鉄筋コンクリート構造物に有用であり、特に、鉄筋コンクリート柱における地震時の浮き上がりを許容して躯体の損傷を軽減するのに適している。
【符号の説明】
【0033】
10 鉄筋コンクリート柱
12,14 躯体
16 浮き上がり機構
18 コンクリート
20 主筋
22 剪断補強筋
24 上鋼板(上板)
26 下鋼板(下板)
28 シアキー
30 緩衝シート(緩衝材)
32,34 貫通孔
36 鋼管
38 鋼製蓋
40 柱梁接合部
42 梁
44 シース管
46 グラウト
48 継手
50 ボルト孔