(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】モールド電気機器
(51)【国際特許分類】
H01L 23/29 20060101AFI20231226BHJP
H01L 23/31 20060101ALI20231226BHJP
C08G 59/18 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
H01L23/30 B
C08G59/18
(21)【出願番号】P 2020112004
(22)【出願日】2020-06-29
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】天羽 悟
(72)【発明者】
【氏名】小林 金也
【審査官】河合 俊英
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-170267(JP,A)
【文献】国際公開第2011/040030(WO,A1)
【文献】特開2016-169362(JP,A)
【文献】国際公開第2014/181456(WO,A1)
【文献】特開2017-028159(JP,A)
【文献】特開2009-044092(JP,A)
【文献】特開2006-237047(JP,A)
【文献】特開2014-180846(JP,A)
【文献】特開2019-214736(JP,A)
【文献】特開2015-071761(JP,A)
【文献】特開2008-195782(JP,A)
【文献】特開2015-168701(JP,A)
【文献】特開2012-255116(JP,A)
【文献】特開2014-009357(JP,A)
【文献】特開2008-187015(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/29
C08G 59/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モールド樹脂層と、
絶縁層とを有し、
前記絶縁層は、
側鎖に複数のアルコール性水酸基を有するフェノキシ樹脂またはエポキシ樹脂と、
ビニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群から選ばれる少なくとも一つの官能基及び一つのイソシアネート基とを有する多官能モノマーと、
複数のマレイミド基を構造中に有するマレイミド化合物との混合物および/ または反応生成物を有する高絶縁性樹脂であ
り、
同一厚さにおける絶縁破壊電圧が、前記モールド樹脂層よりも前記絶縁層の方が高いモールド電気機器。
【請求項2】
請求項1に記載のモールド電気機器において、
前記絶縁層の厚さが、
前記モールド樹脂層よりも薄いモールド電気機器。
【請求項3】
請求項1に記載のモールド電気機器において、
前記絶縁層は、
前記高絶縁性樹脂と、
フィルム、多孔質、織布、もしくは不織布の絶縁基材との多層構造または含浸構造を有する複合材料であるモールド電気機器。
【請求項4】
請求項
3に記載のモールド電気機器において、
前記絶縁基材は、
ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、アラミド樹脂、液晶ポリマー、セルロースのいずれか一つの成分を有するモールド電気機器。
【請求項5】
請求項
1に記載のモールド電気機器において、
前記モールド樹脂層は、
破砕シリカ、溶融シリカを有するエポキシ樹脂組成物の硬化物であるモールド電気機器。
【請求項6】
請求項1に記載のモールド電気機器において、
内蔵部品を有するモールド電気機器。
【請求項7】
請求項
6に記載のモールド電気機器において、
前記内蔵部品は、
1次コイル、シールドコイル、2次コイルであるモールド電気機器。
【請求項8】
請求項
6に記載のモールド電気機器において、
前記内蔵部品は、
電界緩和シールドであるモールド電気機器。
【請求項9】
請求項
1に記載のモールド電気機器において、
前記絶縁層を有する巻線で、コイルが形成されているモールド電気機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モールド電気機器に関する。
【背景技術】
【0002】
静止器、遮断機、回転機といったモールド電気機器においては小型化、軽量化が進行している。これに伴い、機器の配線や部品の高密度化、絶縁層の薄肉化が進行している。そのため、モールドワニスには狭小空間への絶縁材料の充填性を増すための低粘度化が求められている。また、金属やセラミック部品を被覆するモールドワニスの硬化物には、クラックの発生を抑制するための高じん性化、低熱膨張化も求められる。更にモールドワニスには、ロスコストの削減を目的として優れた保存安定性も求められる。
【0003】
エポキシ樹脂の硬化物は、耐熱性、接着性、耐薬品性、機械的強度などに優れており、静止器、遮断機、回転機といった電気機器のモールドワニスとして好ましく用いられる。しかしながら、エポキシ樹脂そのものは比較的粘度が高く、その硬化物は固くて脆い性質がある。これを改善するためにエポキシ樹脂に種々の添加剤を配合したモールドワニスが開発されてきた。
【0004】
特許文献1には、エポキシ樹脂とその硬化剤である酸無水物に、低粘度化に寄与するビニルモノマーと、高熱伝導化と低熱膨張化に寄与する破砕状結晶質シリカと溶融シリカ、高靭性化によるクラックの抑制に寄与する、コアシェルゴム粒子を複合化したモールドワニスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載のモールドワニスは、保存安定性に優れ、低粘度であり注型性に優れ、その硬化物は複数の有機・無機フィラー等の相乗効果によって破壊じん性、低熱膨張性、耐熱性がともに優れ、各種モールド電気機器の絶縁体として好適であった。しかし、モールド電気機器の絶縁層を薄肉化して更に機器の小型、軽量化を推し進めるためには、絶縁層の絶縁破壊電圧を更に増すことが必要であった。
【0007】
本発明の目的は、モールドワニスの保存安定性や低粘度性、破壊じん性、低熱膨張性、耐熱性を損なうことなく、絶縁層の破壊電圧を向上したモールド電気機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の好ましい一例としては、モールド樹脂層と、絶縁層とを有し、
前記絶縁層は、側鎖に複数のアルコール性水酸基を有するフェノキシ樹脂またはエポキシ樹脂と、ビニル基、アクリレート基、及びメタクリレート基からなる群から選ばれる少なくとも一つの官能基及び一つのイソシアネート基とを有する多官能モノマーと、複数のマレイミド基を構造中に有するマレイミド化合物との混合物および/または反応生成物を有する高絶縁性樹脂であるモールド電気機器があげられる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モールドワニスの保存安定性や低粘度性、破壊じん性、低熱膨張性、耐熱性を損なうことなく、絶縁層の破壊電圧を向上したモールド電気機器を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の複合絶縁構造の一例を示す断面模式図。
【
図2】本発明の別の複合絶縁構造の例を示す断面模式図。
【
図3】本発明の絶縁層をモールド樹脂層の表面に設置した例を示す断面模式図。
【
図4】高絶縁性樹脂層の膜厚と絶縁破壊電圧の関係を示す図。
【
図5】絶縁層の膜厚と絶縁破壊電圧の関係を示す図。
【
図6】ポリイミドフィルムの膜厚と絶縁破壊電圧の関係を示す図。
【
図7】絶縁層の膜厚と絶縁破壊電圧の関係を示す図。
【
図8】モールド単層サンプルの厚さと絶縁破壊電圧の関係を示す図。
【
図9】絶縁層を内包する模擬モールド変圧器を示す図。
【
図10】絶縁層を内包する模擬固体絶縁開閉器を示す図。
【
図11】高絶縁性樹脂層を有する巻線の断面模式図。
【
図12】実施例、比較例に用いたモールドワニスの成分、その粘度を示した表1を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者は、上述した本発明の目的を達成すべく、主に絶縁層の複合化の観点からモールド樹脂層の高耐電圧化の検討を試みた。その結果、側鎖に複数の水酸基を有する長鎖二官能エポキシ樹脂またはフェノキシ樹脂(以下、両方を含めてフェノキシ樹脂と略す)と、分子中に複数のマレイミド基を有するマレイミド化合物と、前記フェノキシ樹脂が有する水酸基と化学結合可能なイソシアネート基を一つと、前記マレイミド化合物と化学結合可能なビニル基、アクリレート基、メタクリレート基からなる群から選ばれる少なくとも一つの官能基を分子中に有する多官能モノマーである多官能イソシアネート化合物の混合物、および/または、上記少なくとも3成分の反応生成物(以下、高絶縁性樹脂と称す)の硬化被膜が、一般的なモールド樹脂やポリイミド樹脂よりも高い絶縁破壊電圧を示すことを見出した。
【0012】
更に、ポリイミドフィルムや、アラミド不織布等の絶縁基材に高絶縁性樹脂を塗布または含浸して、多層構造または含侵構造を有する複合材料としての絶縁層1の単位厚さ当りの絶縁破壊電圧が、複合化前のポリイミドフィルムや、アラミド不織布よりも高耐電圧化することを見出した。更に、モールド樹脂層内部、表面に絶縁層1を設置した複合絶縁構造において、モールド樹脂単独の絶縁構造に比べて、絶縁破壊電圧が飛躍的に増大することを見出し、本発明に至った。
【0013】
本発明のモールド電気機器では、内蔵部品と、この部品を覆うモールド樹脂層との間、またはモールド樹脂層内部、またはモールド樹脂層表面から選ばれる、少なくとも1か所に絶縁層1単層、または複数層を設ける。即ち、絶縁及び構造体としての機能を有するモールド樹脂層と、モールド樹脂層の絶縁破壊電圧を増す機能を有する絶縁層1とを独立した層として絶縁構造中に設ける。このようにすることで、モールドワニスの保存安定性、低粘度性、硬化性や、その硬化物であるモールド樹脂層の破壊じん性、低熱膨張性および耐熱性などを損なうことなく、絶縁層1全体としての絶縁破壊電圧を向上することができる。モールド電気機器は、電気部材をエポキシ樹脂やポリエステル樹脂などの絶縁材料の樹脂でモールドされた電気機器をいう。電気部材としては、モールド変圧器、モールド遮断機、絶縁開閉器、電動機、絶縁母線などをいう。
【0014】
以下、図面に基づいて本発明の複合絶縁構造について、より詳細に説明する。
図1は、本発明の複合絶縁構造の一例を示す断面模式図である。内蔵部品2上に絶縁基材3と高絶縁性樹脂層4からなる絶縁層1を有し、絶縁層1上にモールド樹脂層5を有する複合絶縁構造の例である。絶縁層1の形成方法には特に制限はないが、例えば内蔵部品上に絶縁基材を巻くことで絶縁層1を形成する。または塗装によって絶縁層1を形成する。次いで高絶縁性樹脂層となる塗料を塗装等によって形成し、その後に乾燥、硬化して形成する方法がある。または、絶縁基材3と高絶縁性樹脂層4を複合化したフィルム状の絶縁層1を内蔵部品に巻きまわす方法などが挙げられる。内蔵部品の形状に合わせて形成方法は任意に選択することができる。
【0015】
図1に示すように、絶縁層1の厚さはモールド樹脂層5より薄い。後述するように、モールド樹脂層5と同じ厚さ絶縁層1は、モールド樹脂層5より絶縁破壊電圧が高くなる。モールド樹脂層5より薄い絶縁層1を形成しても、代わりに絶縁層1と同じ厚さのモールド樹脂層5を加えたモールド樹脂層5のみを内蔵部品の表面に形成した場合よりも、絶縁破壊電圧が高いモールド電気機器を得ることができる。
【0016】
図2は、本発明の別の複合絶縁構造の例を示す断面模式図である。本例の絶縁層1は、絶縁基材3の両面に、高絶縁性樹脂層4を有し、絶縁層1はモールド樹脂層内に埋設された構造を有する。その製造方法としては、絶縁層1により内蔵部品2を覆う絶縁筒を形成した後、内蔵部品2と絶縁層1とをモールド樹脂層5で一体的に成型する方法を例として挙げることができる。
【0017】
図3は、高絶縁性樹脂を絶縁性の織布、不織布に含侵して制作した絶縁層1をモールド樹脂層5の表面に設置した例を示す断面模式図である。その製造方法としては、予め熱プレスによって成型、硬化した絶縁層1を内蔵部品の外周に配し、絶縁層1内にモールド樹脂層を形成する方法が例として挙げられる。各図で説明した絶縁層1の設置場所、絶縁層1の厚さ、単層または多層化、複数の絶縁層1の設置等の絶縁構成は、任意に選択できる。概ね、絶縁層1のトータルの膜厚が増すほど、複合絶縁構造の絶縁破壊電圧は増すものである。
【0018】
次いで本発明で用いる絶縁材料について説明する。
高絶縁性樹脂は、モールド樹脂層5の結着材であるエポキシ樹脂や酸無水物、更にラジカル重合性の樹脂成分と化学結合が可能な、材料構成とすることが好ましく用いられ、そのような材料の中から特に単位厚さ当りの絶縁破壊電圧がモールド樹脂層よりも高い材料であることが特に好ましい。そのような例としては、(A)側鎖に複数のアルコール性水酸基を有するフェノキシ樹脂100重量部、(B)複数のマレイミド基を分子中に有するマレイミド化合物を5重量部以上、30重量部以下、(C)分子中に前記アルコール性水酸基と化学結合可能な1つのイソシアネート基と、前記分子中に複数のマレイミド基を有するマレイミド化合物と化学結合可能なビニル基、アクリレート基、メタクリレート基とを有する多官能イソシアネート化合物を2重量部以上、60重量部以下の範囲で含有する混合物、及びその反応生成物を挙げることができる。
【0019】
フェノキシ樹脂は、比較的分子量が高く、高絶縁性樹脂に成膜性を付与するとともにセラミックスや各種金属との接着性の向上、モールド樹脂に含有されるエポキシ樹脂や酸無水物化物との化学的結合の形成、即ちモールド樹脂層との高接着化に寄与する。
【0020】
多官能マレイミド化合物は、ポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂、アラミド樹脂との接着性向上に寄与するとともに、高絶縁性樹脂に硬化性を付与する働きを有する。多官能イソシアネート化合物は、フェノキシ樹脂と多官能マレイミド化合物の両方と化学結合できることから、高絶縁性樹脂の硬化を促進して耐熱性の向上に寄与する成分である。
【0021】
このような構成の高絶縁性樹脂は、メチルエチルケトンやシクロヘキサノン、テトラヒドロフラン等の溶媒に溶解してワニス化できるので、内蔵部品やフィルム状の絶縁基材への塗布や含侵が容易に行える利点がある。
【0022】
前述のような有機溶媒に溶解した高絶縁性樹脂のワニスは、ディッピング、スプレー、バーコーター、カーテンコーター等の既存の塗装法により、内蔵部品や絶縁基材上に成膜することができる。塗布後の乾燥条件は、ワニス化溶媒の沸点を勘案して選択する必要があるが、テトラヒドロフランを用いた例では50℃で30分程度、メチルエチルケトンを用いた例では、80℃で30分程度、シクロヘキサノンを用いた例では160℃で30分程度の乾燥を施すことが好ましい。
【0023】
高絶縁性樹脂の硬化条件は、180℃で1時間程度が好ましく、十分に硬化した高絶縁性樹脂はポリイミド樹脂やポリアミドイミド樹脂、アラミド樹脂、各種金属と高い接着性を示す。尚、ラジカル重合開始剤等の重合触媒を高絶縁性樹脂に配合した場合には、触媒の重合開始温度に合わせて任意に硬化温度、硬化時間を調整することができる。
【0024】
更に本発明の使用材料について詳しく述べる。フェノキシ樹脂としては、常温で固体であり、成膜性を有する高分子量タイプの樹脂が好ましく用いられる。その基本構造は、ビスフェノールA型、ビスフェノールF型、ビスフェノールS型、或いは前述の基本構造の共重合型を例示することができる。
【0025】
より具体的には、日鉄ケミカル&マテリアル(株)製YP-50(ビスフェノールA型フェノキシ樹脂、スチレン換算重量平均分子量73000)、YP-70(ビスフェノールA型/ビスフェノールF型共重合フェノキシ樹脂、スチレン換算重量平均分子量55000)、YPS-007A30(ビスフェノールA型/ビスフェノールS型共重合フェノキシ樹脂、スチレン換算平均分子量49000)、等が挙げられる。これらフェノキシ樹脂に液状エポキシ樹脂を配合して未硬化状態の高絶縁性樹脂に粘着性を付与してもよい。粘着性を付与した高絶縁性樹脂を用いた絶縁層1は、比較的低い温度で内蔵部品等の上に設置できるため、絶縁層1を内包するモールド電気機器の製造性を増すことができる。
【0026】
マレイミド化合物としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(Cas.No.13676-54-5)、フェニルメタンマレイミド(Cas.No.67784-74-1)、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド(Cas.No.9922-55-7)、3,3‘-ジメチルー5,5’-ジエチル-4,4‘-ジフェニルメタンビスマレイミド(Cas.No.105391-33-1)、1,6’-ビスマレイミド(2,2,4-トリメチル)ヘキサン(Cas.No.39979-46-9)等を挙げることができる。前述のマレイミド化合物は、溶解性に優れており高絶縁性樹脂のワニス化に適している。
【0027】
多官能イソシアネート化合物としては、ビニルイソシアネートのうちビニル基の反応性が高い、2-イソシアナトエチルメタクリレート(Cas.No.30674-80-7)、2-イソシアナトエチルアクリレート(Cas.No.13641-96-8)、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(Cas.No.886577-76-0)、2-(2-メタクリロオキシエチルオキシ)エチルイソシアネート(Cas.No.107023-60-9)等を挙げることができる。多官能イソシアネート化合物の中でも、分子中にイソシアネート基を1つ有する化合物を選択することで、高絶縁性樹脂のワニスのゲル化を防止することができる。
【0028】
高絶縁性樹脂には、更にイソシアネート基とアルコール性水酸基との反応を促進するウレタン化触媒を添加することが好ましい。ウレタン化触媒は、フェノキシ樹脂100重量部に対して0.0002以上、0.1重量部以下の範囲で用いられ、高絶縁性樹脂のワニス化の際にフェノキシ樹脂と多官能イソシアネート化合物との反応を促進して、フェノキシ樹脂の溶解性を増す機能を有する。これにより高絶縁性樹脂のワニスの高濃度化、溶解速度の向上、溶解温度の低温下に寄与できることから高絶縁性樹脂層4の製造の効率を向上することができる。
【0029】
ウレタン化触媒の具体例としては、ジラウリン酸ジブチル錫等の金属塩、トリエチルアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン等の三級アミンなどが挙げられる。
【0030】
次いで絶縁基材について説明する。前述のように高絶縁性樹脂層4は、絶縁基材と複合化することによって絶縁基材そのものの絶縁俳諧電圧を増す効果を有する。また、高絶縁性樹脂層4単独で用いるよりも絶縁基材上に含侵、塗布して用いた方が、モールド電気機器の製造工程でのハンドリング性が良くなる利点がある。
【0031】
絶縁基材の端的な例としては、各種フィルム、多孔質、織布、不織布が挙げられるが、その変形例には、巻き線上のエナメル被膜、具体的にはポリイミド被膜、ポリアミドイミド被膜、ポリエルテルイミド被膜等も含まれる。これら絶縁基材の材質に関しては、基材の表面処理による濡れ性の調整を考慮するならば特に制限はない。耐熱性の観点からは、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリエステルイミド樹脂、アラミド樹脂、液晶ポリマー、セルロース、ガラス等の溶融温度が高い、または溶融性を持たない材料が好ましく用いられる。
【0032】
本発明の複合絶縁構造を有するモールド電気機器に適用するモールド樹脂材料には特に制限はないが、絶縁破壊電圧とともに、絶縁材料に破壊じん性、低熱膨張性、耐熱性等の信頼性を付与するためには、有機・無機フィラーを配合した低粘度なモールドワニスの硬化物をモールド樹脂層に適用することが好ましい。
【0033】
特に好ましい例として以下のモールドワニスおよびその硬化物を挙げることができる。
本発明では、常温で液状のエポキシ樹脂の当量が200g/eq以下であるエポキシ樹脂とラジカル重合開始剤とを含有する主剤Aと、常温で液状の酸無水物と、エポキシ樹脂と酸無水物との硬化反応を促進するエポキシ樹脂硬化触媒を含有する硬化剤Bと、ラジカル重合禁止剤を含有するスチレンと、常温で液状の酸無水物と、N-フェニルマレイミドを含有する反応誘起剤Cの3液からなるモールドワニスを好ましく用いることができる。さらに、本モールドワニスはコアシェルゴム粒子と、破砕状結晶質シリカと、溶融シリカと、分散剤、カップリング剤等を含有してもよい。以下、モールドワニスの構成材料について説明する。
【0034】
(1)エポキシ樹脂
本発明で用いられるエポキシ樹脂としては、好ましくは、ビスフェノールA型またはビスフェノールF型エポキシ樹脂である。より好ましいエポキシ樹脂としては、エポキシ当量が200g/eq以下のものが、ワニス粘度の低減の観点から好ましい。
【0035】
具体的には、DIC(株)製EPICLON840(エポキシ当量180~190g/eq、粘度9000~11000mP・s/25℃)、EPICLON850(エポキシ当量183~193g/eq、粘度11000~15000mP・s/25℃)、EPICLON830(エポキシ当量165~177g/eq、粘度3000~4000mP・s/25℃)三菱化学(株)製jER827(エポキシ当量180~190g/eq、粘度9000~11000mP・s/25℃)、jER828(エポキシ当量184~194g/eq、粘度12000~15000mP・s/25℃)、jER806(エポキシ当量160~170g/eq、粘度1500~2500mP・s/25℃)、jER807(エポキシ当量160~175g/eq、粘度3000~4500mP・s/25℃)等が挙げられる。
【0036】
耐熱性の観点からはビスフェノールA型エポキシ樹脂を用いることが好ましく、低粘度化の観点からはビスフェノールF型エポキシ樹脂の使用が好ましい。また、両特性バランスをとるため、これらのエポキシ樹脂はブレンドして用いることもできる。
【0037】
(2)酸無水物
酸無水物としては、常温で液状である酸無水物を用いる事が好ましい。その例としては、日立化成工業(株)製HN-2000(酸無水物当量166g/eq、粘度30~50mPa・s/25℃)、HN-5500(酸無水物当量168g/eq、粘度50~80mPa・s/25℃)、MHAC-P(酸無水物当量178g/eq、粘度150~300mPa・s/25℃)、DIC(株)製EPICLON B-570H(酸無水物当量166g/eq、粘度40mPa・s/25℃)等を挙げることができる。
【0038】
(3)反応誘起剤C
反応誘起剤Cとしては、重合禁止剤を10~100ppm含有するスチレンと、N-フェニルマレイミドと、(2)に記載した酸無水物との混合物が好ましい。特に該スチレンが14~18wt%、N-フェニルマレイミドが24~30wt%、該酸無水物が53~61wt%であり、該スチレンとN-フェニルマレイミドとのモル比が等モルないしは、誤差5モル%の範囲で混合することが好ましい。本範囲で混合することによって、N-フェニルマレイミドは該スチレン及び該酸無水物の混合溶液に溶解し、室温が低い冬季保管時にもN-フェニルマレイミドの析出を防止できるほか、室温が高い夏季保管時の自己重合も抑制できるので保存安定性に優れた反応誘起剤Cを製造することができる。
【0039】
主剤A、硬化剤B、反応誘起剤Cの配合比率について説明する。採取した主剤Aに含まれるエポキシ樹脂の当量数を1とした際には、酸無水物の当量数が0.95~1の範囲となるように硬化剤B及び反応誘起剤Cを採取し、配合する。これによってエポキシ樹脂と酸無水物間の硬化反応の不足を防止することができる。また、反応誘起剤Cの配合量は、主剤Aが含有するエポキシ樹脂と、硬化剤Bが含有する酸無水物と、反応誘起剤Cが含有する該スチレンと、該酸無水物と、N-フェニルマレイミドの総量に対して5~15質量%の範囲とすることが高じん性化の観点から好ましい。
【0040】
(4)エポキシ樹脂硬化触媒
本発明のエポキシ樹脂と酸無水物との硬化反応を促進するエポキシ樹脂硬化触媒の例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、テトラメチルブタンジアミン、トリエチレンジアミン等の3級アミン類、ジメチルアミノエタノール、ジメチルアミノペンタノール、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N-メチルモルフォリン等のアミン類、又、セチルトリメチルアンモニウムブロマイド、セチルトリメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムアイオダイド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムアイオダイド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムブロマイド、アリルドデシルトリメチルアンモニウムブロマイド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムブロマイド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロライド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムアセチレート等の第4級アンモニウム塩、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-メチル-4-エチルイミダゾール、1-ブチルイミダゾール、1-プロピル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-アジン-2-メチルイミダゾール、1-アジン-2-ウンデシル等のイミダゾール類、アミンとオクタン酸亜鉛やコバルト等との金属塩、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7、N-メチル-ピペラジン、テトラメチルブチルグアニジン、トリエチルアンモニウムテトラフェニルボレート、2-エチル-4-メチルテトラフェニルボレート、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)-ウンデセン-7-テトラフェニルボレート等のアミンテトラフェニルボレート、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、アルミニウムトリアルキルアセトアセテート、アルミニウムトリスアセチルアセトアセテート、アルミニウムアルコラート、アルミニウムアシレート、ソジウムアルコラート等が挙げられる。
【0041】
エポキシ硬化触媒の添加量は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.2質量部以上、2.0質量部以下の範囲とすることが好ましく、これにより高速硬化が可能になる。
【0042】
(5)ラジカル重合開始剤
ラジカル重合触媒の例としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルのようなベンゾイン系化合物、アセトフェノン、2、2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノンのようなアセトフェノン系化合物、チオキサントン、2、4-ジエチルチオキサントンのようなチオキサンソン系化合物、4、4’-ジアジドカルコン、2、6-ビス(4’-アジドベンザル)シクロヘキサノン、4、4’-ジアジドベンゾフェノンのようなビスアジド化合物、アゾビスイソブチロニトリル、2、2-アゾビスプロパン、m、m’-アゾキシスチレン、ヒドラゾン、のようなアゾ化合物、2、5-ジメチル-2、5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、2、5-ジメチル-2、5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ジクミルパーオキシド、t-ブチルパーオキシマレイン酸、n-ブチル-4,4-ビス(t-ブチルパーオキシ)バレラート、2、5-ジメチル-2、5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン、ジクミルパーオキシサイドのような有機過酸化物等が挙げられる。中でも保存安定性の観点からは10時間半減期温度が100℃以上であるラジカル重合開始剤を好ましく用いるものである。
【0043】
ラジカル重合触媒の添加量は、該スチレンとN-フェニルマレイミドの総量を100質量部として、0.3質量部以上、1.0質量部以下の範囲とすることが、硬化反応時のゲル化時間の調整の観点から好ましい。
【0044】
(6)シリカ
本発明の主剤A及び硬化剤Bには破砕状結晶質シリカ及び溶融シリカを含むことが樹脂硬化物の耐クラック性、高熱伝導性、低熱膨張性の観点から好ましい。
【0045】
破砕状結晶質シリカは、低熱膨張性、高熱伝導性を有し、価格も安価であることから複合微粒子のとして好ましい。その好ましい平均粒径は5μm以上、25μm以下である。そのようなシリカの例としては、林化成(株)製SQ-H22、SQ-H18、(株)龍森製CRYSTALITEシリーズ等がある。
【0046】
溶融シリカは、破砕状結晶質シリカに比べて、熱伝導率が小さく、熱膨張率が小さく、モールドワニスへの増粘効果も小さい。したがってモールドワニスに求める特性を考慮して破砕状結晶性シリカと併用することが好ましい。溶融シリカの好ましい平均粒径は5μm以上、25μm以下である。そのようなシリカの例としては、電気化学工業(株)製FD-5D、FB-12D、FB-20D等がある。
【0047】
(7)コアシェルゴム粒子
コアシェルゴム粒子はクラックの進展を最小限に抑制するものである。また、コアシェルゴム粒子はエポキシ樹脂に対して分散性が優れていることも選択の基準になっている。
【0048】
コアシェルゴム粒子の例としては、Rohm&Haas社製、商品名パラロイドEXL2655(平均粒径200nm)、ガンツ化成(株)製、商品名スタフィロイドAC3355(平均粒径0.1~0.5μm)、ゼフィアックF351(平均粒径0.3μm)等が挙げられる。このように、コアシェルゴム粒子の平均粒径を0.1μmm以上、1μm以下とすることが好ましい。
【0049】
破砕状結晶質シリカ、溶融シリカ、コアシェルゴム粒子で構成する有機・無機フィラーの配合量は、主剤A、硬化剤Bに対して、それぞれ73~89質量%の範囲で用いることが好ましい。73質量%以下では有機・無機フィラーの効果である熱伝導性、靭性、冷熱衝撃性、低熱膨張性、耐熱性等の特性が低下する。一方、その配合量が89質量%を超えるとワニス粘度の著しい増大を招く。
【0050】
有機・無機フィラー中の成分構成は、破砕状結晶質シリカが33質量%~97質量%、溶融シリカが0~65質量%、コアシェルゴム粒子が1~3質量%の範囲が好ましく用いられる。これらフィラーの組成範囲は目的とする物性に合わせて調整することが好ましい。また、モールドワニス全量に対して5質量%以下であればマイカを添加しても良い。本範囲であれば、ワニスの増粘を抑制しつつ、モールド層の耐熱性を改善できる。
【0051】
(8)カップリング剤
カップリング剤としては、各種のシラン系、チタネート系カップリング剤が使用できる。そのようなカップリング剤の例としては、シラン系カップリング剤としては、信越化学工業(株)製KBM-402、KBM-403、KBM-502、KBM-504等のエポキシシラン、ビニルシランが好ましい例として挙げられる。チタネート系カップリング剤としては、日本曹達(株)製S-151、S-152、S-181等を挙げる事が出来る。
【0052】
(9)分散剤
分散剤としては、各種のノニオン系界面活性剤が好ましく、その例としてはビックケミージャパン(株)製、BYK-W903、BYK-W980、BYK-W996、BYK-W9010等を挙げる事が出来る。
【0053】
これらのカップリング剤、分散剤は、有機・無機フィラーの表面に化学結合または吸着してその表面を改質することによってワニス粘度の低減に寄与する。従って過剰に配合しても、有機・無機フィラーの表面に化学結合または吸着できず、更なる低粘度効果は期待できない。また、過剰な配合は樹脂硬化物のガラス転移温度、熱分解開始温度を低下させることから好ましくない。以上のことからカップリング剤、分散剤の配合量は、有機・無機フィラー総量100質量部に対して、それぞれ0.2~1質量部の範囲で用いることが好ましい。
【0054】
(実施例)
以下に、実施例および比較例を示して本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例は本発明の具体的な説明のためのものであって、本発明の範囲がこれに限定されるものではなく、特許請求の範囲の発明思想の範囲内において自由に変更可能である。なお、
図12の表1における材料組成比は重量比である。
【0055】
試薬および評価方法を以下に示す。
(1)供試試料
jER828:三菱化学(株)製ビスフェノールA型エポキシ樹脂、エポキシ等量約190g/eq。
【0056】
jER807:三菱化学(株)製ビスフェノールF型エポキシ樹脂、エポキシ当量約170g/eq。
【0057】
HN-5500:日立化成(株)製3-又は4-メチル-ヘキサヒドロ無水フタル酸、酸無水物当量168g/eq。
【0058】
2E4MZ-CN:四国化成工業(株)製1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、エポキシ硬化触媒。
【0059】
25B:日油(株)製1、2、5-ジメチル-2、5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ラジカル重合開始剤、10時間半減期温度128.4℃。
【0060】
XJ-7:(株)龍森製結晶性破砕状シリカ、粒径約6.3μm、破砕状結晶質シリカ。
【0061】
FB-20D:電気化学工業(株)製溶融シリカ、粒径約22μm、溶融シリカ。
【0062】
KBM-503:信越化学工業(株)製3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、カップリング剤。
【0063】
KBM-403:信越化学工業(株)製3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、カップリング剤。
【0064】
KS603:信越化学工業(株)製、シリコーン系消泡剤。
【0065】
BTA731:ダウ・ケミカル・カンパニー製コアシェルゴム粒子:平均粒径0.1~0.5μm。
【0066】
BYK-W-9010:ビックケミージャパン(株)製分散剤。
【0067】
スチレン:東京化成工業(株)製スチレン、ラジカル重合禁止剤として30ppmの4-tert-ブチルカテコールを含有する。
【0068】
N-フェニルマレイミド:東京化成工業(株)製N-フェニルマレイミド。
【0069】
YP-50:新日鉄住金化学(株)製フェノキシ樹脂、高絶縁性樹脂の成膜成分として使用。
【0070】
メチルエチルケトン:富士フィルム和光純薬(株)製、高絶縁性樹脂の溶媒として使用。
【0071】
2-イソシアナトエチルメタクリレート:昭和電工(株)製カレンズ(登録商標)MOI、高絶縁性樹脂中のYP-50の側鎖にメタクリレート基を導入する変性剤として使用。
【0072】
N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン:サンアプロ(株)製ウレタン化触媒(Polycat8)、YP-50の変性触媒に使用。
【0073】
BMI-1000:大和化成工業(株)製4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、高絶縁性樹脂の架橋成分として使用。
【0074】
4-tert-ブチルピロカテコール:富士フィルム和光純薬(株)製、ラジカル重合禁止剤として使用。
【0075】
ポリイミドフィルム:東レ・デュポン(株)製、カプトン(登録商標)、
アラミド不織布:デュポン帝人アドバンスドペーパー(株)、ノーメックス(登録商標)410。
【0076】
(2)高絶縁性樹脂ワニスの作製
500mLのポリ瓶に、YP-50(フェノキシ樹脂)を50g、BMI-1000(マレイミド化合物)を8.8g、2-イソシアナトエチルメタクリレート(多官能イソシアネート化合物)を6.8g、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン(ウレタン化触媒)を0.02g、4-tert-ブチルピロカテコール(ラジカル重合禁止剤)0.001g、メチルエチルケトン(溶媒)を200g採取し、密閉した後、室温にて約15hロータリーミキサーにて攪拌して、内容物を溶解し、濃度約25wt%の高絶縁性樹脂ワニスを作製した。
【0077】
(3)高絶縁性樹脂の絶縁破壊電圧評価用サンプルの作製
厚さ1mm、一辺100mmの銅板上に、前記の高絶縁性樹脂ワニスを塗布した。次いで80℃の恒温槽中で30分間、銅板上の高絶縁性樹脂ワニスを乾燥した。次いで乾燥後のサンプルを180℃の恒温槽中で1時間加熱して、高絶縁性樹脂層を硬化し、絶縁破壊電圧評価用サンプルを得た。本手順に従い、高絶縁性樹脂ワニスの塗布膜厚を変えて、種々の厚さの高絶縁性樹脂層を有するサンプルを作製した。
【0078】
(4)絶縁層1Aの作製
厚さ5μm、一辺150mmのポリイミドフィルムを厚さ3mm、1辺200mmのガラス板にポリイミドテープを用いて張り付けた。本ポリイミドフィルム上に高絶縁性樹脂ワニスを塗布し、80℃で30分間乾燥し、次いで180℃で1時間加熱して高絶縁性樹脂層を硬化し、2層構造を有する絶縁層1Aを得た。本手順に従い、高絶縁性樹脂ワニスの塗布膜厚を変えて、種々の厚さの高絶縁性樹脂層を有する絶縁層1Aのサンプルを作製した。
【0079】
(5)絶縁層1Bの作製
厚さ250μm、幅100mm、長さ100mmのアラミド不織布に、高絶縁性樹脂ワニスをディップ法によって含侵した。80℃で30分間乾燥した後、高絶縁性樹脂ワニス塗布部分を1辺100mmのサイズに切り出し、離型処理を施した鏡板2枚の間に挟みに、真空プレス装置で、約10torr下、圧力1.5MPa、温度180℃の条件で成型し、硬化して含侵構造を有する絶縁層1Bを作製した。本手順に従い、高絶縁性樹脂ワニスの含侵量を変えて、種々の厚さの高絶縁性樹脂層を有する絶縁層1Bのサンプルを作製した。
【0080】
(6)モールドワニスの調整
所定の配合比で各成分を配合し、(株)シンキー製AR-100型自転・公転式ミキサーで3分間攪拌してワニスを作製した。
図12の表1は、実施例、比較例に用いたモールドワニスの成分、その粘度を示した表である。
【0081】
(7)モールド単層サンプルの作製
先に作製したモールドワニスを60℃に予熱した。厚さ1mm、幅140mm、長さ120mmの注型スペースを有する金型を80℃に予熱し、前記モールドワニスを金型に流し込み、真空脱泡した。脱泡条件は80℃、1mmHgで10分とした。同様にして厚さ2mm、幅140mm、長さ120mmの注型スペースを有する金型にモールドワニスを流し込み、真空脱泡した。
【0082】
本金型を恒温槽に移動し、大気中で100℃/5時間、170℃/10時間の2段階加熱で硬化した。金型を解体して幅140mm、長さ約120mm、厚さ1mm及び2mmのモールド単層サンプルを作製した。
【0083】
(8)複合絶縁モールドサンプルの作製
種々の厚さを有するフィルム状の絶縁層1Aのサンプルを一辺100mmに切断加工した。厚さ1mm、幅140mm、長さ120mmの注型スペースを有する金型の内壁に切断後の絶縁層1Aをポリイミドテープで張り付けた。その後、金型を80℃に余熱し、60℃に余熱したモールドワニスを金型内に流し込み、真空脱泡した。脱泡条件は80℃、1mmHgで10分とした。本金型を恒温槽に移動し、大気中で100℃/5時間、170℃/10時間の2段階加熱で硬化した。金型を解体して幅140mm、長さ約120mm、厚さ1mm、片面に絶縁層1Aを有する複合絶縁モールドサンプルを作製した。同様にして高絶縁性樹脂層の厚さが異なる絶縁層1Aを有する複合絶縁サンプルを作製した。
【0084】
(4)モールドワニス粘度の測定
ワニスの粘度は、E型粘度計を用いて60℃における値を観測した。
【0085】
(5)絶縁破壊電圧の評価方法
先に作製した樹脂板を用いてJIS規格(C2110)に準拠して絶縁破壊電圧を観測した。高電圧が印加される電極には直径20mmの真鍮製の球状電極、接地側の電極にはSUS製の平板電極を用いた。両電極に間にサンプルフィルムまたはモールドサンプルを挟み、電気絶縁油(フロリナート、FC-3283)中で東京変圧器(株)製、絶縁耐力試験装置(100kV/10kA、商用周波数50Hz)を用いて、昇圧速度2kV/秒、遮断電流8mAの条件で絶縁破壊電圧を観測した。
【実施例1】
【0086】
銅板上に形成した高絶縁性樹脂層4の膜厚と絶縁破壊電圧の関係を
図4に示した。直線近似によって厚さ25μm時の絶縁破壊電圧を求めた結果、その値は約7.7kVと、薄膜材料としては高い絶縁性を有することが確認された。本材料系は絶縁性に優れており、高絶縁性樹脂として適していた。
【実施例2】
【0087】
厚さ5μmのポリイミドフィルム上に高絶縁性樹脂層を形成した絶縁層1Aの膜厚と絶縁破壊電圧の関係を
図5に示した。直線近似によって厚さ25μm時の絶縁破壊電圧を求めた結果、その値は約8.2kVと、薄膜材料としては高い絶縁性を有することが確認された。高絶縁性樹脂層4とポリイミド製の絶縁基材との複合絶縁である絶縁層1Aは、高絶縁性樹脂層単独よりも絶縁破壊電圧が増すと思われる結果を得た。絶縁層1Aは、絶縁性に優れており、高絶縁性材料として好適であった。
【0088】
(比較例1)
ポリイミドフィルムの膜厚と絶縁破壊電圧の関係を
図6に示した。直線近似によって厚さ25μm時の絶縁破壊電圧を求めた結果、その値は約5.9kVであり、本発明で用いる高絶縁性樹脂、絶縁層1Aよりも絶縁破壊電圧が低いと思われる結果を得た。
【実施例3】
【0089】
アラミド不織布に高絶縁性樹脂を含侵した絶縁層1Bの膜厚と絶縁破壊電圧の関係を
図7に示した。合わせてアラミド不織布自体の絶縁破壊電圧を
図7に併記した。直性近似により求めた厚さ300μmの絶縁破壊電圧を比較すると、絶縁層1Bは約14.7kVであるのに対して、アラミド不織布では約10.5kVを示した。高絶縁性樹脂とアラミド不織布を複合化した絶縁層1Bは、アラミド不織布よりも高い絶縁破壊電圧を示し、高絶縁性材料として好適であると思われる結果を得た。
【0090】
(比較例2)
モールド単層サンプルの厚さと絶縁破壊電圧の関係を
図8に示した。観測点数は5点であり、その平均値を記載した。厚さ1mmにおける絶縁破壊電圧は32kVであり、厚さ2mmにおける絶縁破壊電圧は45kVであった。本値は、一般的なモールド樹脂と同程度の絶縁破壊電圧であった。
【実施例4】
【0091】
高絶縁性樹脂層の厚さが20μm、ポリイミドフィルム基材の厚さが5μmである絶縁層1Aを内包する厚さ1mmの複合絶縁モールドサンプルの絶縁破壊電圧を観測した結果を
図8に併記した。観測点数は5点であり、その平均値は、48kV/mmと高く、2mm厚のモールド単層サンプルよりも絶縁破壊電圧が高いことが判明した。
【0092】
1mm厚のモールド単層サンプルと比較すると、複合絶縁構造を有するモールドサンプルは、絶縁破壊電圧が50%増加した。以上の結果から複合絶縁構造をモールド電気機器に採用することによって、絶縁層の高耐電圧化がなされること、これに基づき絶縁層の薄肉化や、機器の小型、軽量化の可能性が示唆された。
【実施例5】
【0093】
高絶縁性樹脂層の厚さが50μm、ポリイミドフィルム基材の厚さが5μmである絶縁層1Aを内包する厚さ1mmの複合絶縁モールドサンプルの絶縁破壊電圧を観測した結果を
図8に併記した。観測点数は5点であり、その平均値は、50kVを示した。実施例4との比較から絶縁層1Aの厚膜化が、複合絶縁構造を有するモールドサンプルの更なる高耐電圧化に寄与することが確認された。厚い絶縁層1Aを有する複合絶縁構造のモールド電気機器の採用は、絶縁層の更なる高耐電圧化に基づく絶縁層の薄肉化、機器の小型、軽量化に寄与するものである。
【実施例6】
【0094】
絶縁基材である厚さ50μmのポリイミドフィルムの両面に厚さ25μmの高絶縁性樹脂層を有する絶縁層1と、表1(
図12)に示したモールドワニスを総量で21kgを準備した。モールド変圧器の内蔵部品である1次コイル6、シールドコイル7、2次コイル8に絶縁層1を巻きまわした。
【0095】
次いで所定の金型内にコイル及び電極等の内蔵部品を組付け、金型を80℃に余熱した。60℃に余熱したモールドワニス約21kgを1mmHg、15分の条件で脱泡した後、前記金型に流し込み、3mmHg、15分の脱泡条件で真空脱泡した。本金型を大気中で80℃/20時間、140℃/10時間の2段加熱で硬化し、1夜炉内で自然冷却した。型をはずした模擬モールド変圧器にはクラックは発生せず、絶縁層1をモールド樹脂層内部に設置することが可能であることが確認された。
【0096】
以上のように
図9に示すモールド樹脂層の高耐電圧化に寄与する絶縁層1を内包する模擬モールド変圧器を作製することができる。
【実施例7】
【0097】
絶縁基材である厚さ50μmのポリイミドフィルムの両面に厚さ25μmの高絶縁性樹脂層を有する絶縁層1と、表1(
図12)に示したモールドワニスを総量で31.5kgを準備した。開閉器の内蔵部品のうち高い電界がかかる電界緩和シールド9上に絶縁層1を巻きまわした。
【0098】
模擬固体絶縁開閉器を成形する型に、各種部品を組み付け、型を80℃に予熱した。モールドワニス31.5kgを60℃に予熱して、1mmHg、15分の条件で脱泡した後、前記型にモールドワニスを3mmHg、80℃条件で真空注型した。その後、大気中で80℃/20時間、140℃/10時間の2段階で硬化し、1夜炉内で自然冷却した。型をはずした模擬固体絶縁開閉器にはクラックは発生せず、絶縁層1をモールド樹脂層内部に設置することが可能であることが確認された。
【0099】
以上のように
図10に示すモールド樹脂層の高耐電圧化に寄与する絶縁層1を内包する模擬固体絶縁開閉器を作製することができる。
【実施例8】
【0100】
実施例8は、導体である心線15の表面に、厚さ50μmのポリイミド製のエナメル層を有する巻線に、上述した実施例の高絶縁性樹脂層を形成した例である。本実施例では、厚さ50μmのポリイミド製のエナメル層の表面に、高絶縁性樹脂ワニスを、ダイスを用いて塗布し、80℃で30分間乾燥し、180℃で1時間加熱して高絶縁性樹脂層を硬化した。
【0101】
乾燥、硬化後の高絶縁性樹脂層の厚さは20μmであった。高絶縁性樹脂層を有する巻線の断面模式図を
図11に示した。実施例2と比較例1の比較から、本複合絶縁構造を有する巻線は、その破壊電圧がポリイミド製のエナメル層を有する巻線に比べて絶縁破壊電圧が高い。本実施例の巻線を、モールド変圧器のコイルや、固着ワニスで巻線を固着するモーターのステーター、またはローターに適用することによってモールド電気機器の一層の高耐圧化が期待される。
【0102】
以上、説明したように、本実施例によれば、従来のモールドワニスの注型性、破壊じん性、低熱膨張性、耐熱性を損なうことなく、絶縁層の破壊電圧を向上したモールド電気機器を提供できることが示された。
【符号の説明】
【0103】
1…絶縁層、2…内蔵部品、3…絶縁基材、4…高絶縁性樹脂層、5…モールド樹脂層、6…1次コイル、7…シールドコイル、8…2次コイル、9…電界緩和シールド、10…固定電極、11…真空バルブ、12…ベロース、13…稼働電極、14…金属電極(ブッシング)、15…心線、16:エナメル層