(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】生体状態モニタリングシステム、これを備えるベッドシステム、及び生体状態モニタリング方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/11 20060101AFI20231226BHJP
A61B 5/00 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
A61B5/11 100
A61B5/00 101R
(21)【出願番号】P 2020125623
(22)【出願日】2020-07-22
【審査請求日】2023-07-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099793
【氏名又は名称】川北 喜十郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154586
【氏名又は名称】藤田 正広
(74)【代理人】
【識別番号】100179280
【氏名又は名称】河村 育郎
(72)【発明者】
【氏名】轟 真佑
(72)【発明者】
【氏名】増田 重巳
(72)【発明者】
【氏名】和田 悟
(72)【発明者】
【氏名】高田 雄二
【審査官】遠藤 直恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-064350(JP,A)
【文献】特開2018-061908(JP,A)
【文献】特開2011-120667(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0005838(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01、5/06-5/22
A61G 7/00-7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベッド上の被験者の生体状態をモニタする生体状態モニタリングシステムであって、
ベッドの幅方向の一方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられ、且つ前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第1荷重を検出する第1荷重検出器と、
ベッドの幅方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられ、且つ前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第2荷重を検出する第2荷重検出器と、
第1荷重と第2荷重との差分を求めて、該差分から前記被験者の心拍状態を決定する心拍状態決定部と、
前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が小さくなるように、前記差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正する補正部とを備える生体状態モニタリングシステム。
【請求項2】
前記補正部は、第1荷重の変動と第2荷重の変動とに基づいて前記被験者の体軸の方向を決定する請求項1に記載の生体状態モニタリングシステム。
【請求項3】
第1荷重検出器と第2荷重検出器とは、ベッドの幅方向中央でベッドの長さ方向に延びる軸に関して対称に配置される請求項1又は2に記載の生体状態モニタリングシステム。
【請求項4】
第2荷重検出器はベッドの長さ方向の一方側に設けられており、
更に、ベッドの長さ方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられ、且つ前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分を含む第3荷重を検出する第3荷重検出器と、
第2荷重と第3荷重との差分を求めて、該差分から前記被験者の呼吸状態を決定する呼吸状態決定部とを備える請求項1~3のいずれか一項に記載の生体状態モニタリングシステム。
【請求項5】
前記補正部は、第2荷重と第3荷重との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が大きくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正する請求項4に記載の生体状態モニタリングシステム。
【請求項6】
第1荷重検出器はベッドの長さ方向の一方側に設けられており、
第3荷重検出器はベッドの幅方向の他方側に設けられており、
第3荷重検出器により検出される前記被験者による荷重は該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分を含み、
更に、ベッドの幅方向の一方側且つベッドの長さ方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられ、且つ前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第4荷重を検出する第4荷重検出器を備え、
前記心拍状態決定部は、第1荷重と第4荷重の和と、第2荷重と第3荷重の和との差分を求めて、該差分から前記被験者の心拍状態を決定し
前記呼吸状態決定部は、第1荷重と第2荷重の和と、第3荷重と第4荷重の和との差分を求めて、該差分から前記被験者の呼吸状態を決定する請求項4に記載の生体状態モニタリングシステム。
【請求項7】
前記補正部は、第1荷重と第4荷重の和と第2荷重と第3荷重の和との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が小さくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正し、且つ第1荷重と第2荷重の和と第3荷重と第4荷重の和との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が大きくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正する請求項6に記載の生体状態モニタリングシステム。
【請求項8】
前記補正部は、前記被験者の体軸の方向を回転して前記ベッドの長さ方向に略一致させる回転変換を行う回転行列を用いて補正を行う請求項1~7のいずれか一項に記載の生体状態モニタリングシステム。
【請求項9】
ベッドと、
請求項1~8のいずれか一項に記載の生体状態モニタリングシステムとを備えるベッドシステム。
【請求項10】
ベッド上の被験者の生体状態をモニタする生体状態モニタリング方法であって、
ベッドの幅方向の一方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられた第1荷重検出器により、前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第1荷重を検出することと、
ベッドの幅方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられた第2荷重検出器により、前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第2荷重を検出することと、
第1荷重と第2荷重との差分を求めて、該差分から前記被験者の心拍状態を決定することと、
第1荷重と第2荷重との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が小さくなるように、前記差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正することを含む生体状態モニタリング方法。
【請求項11】
更に、第1荷重の変動と第2荷重の変動とに基づいて前記被験者の体軸の方向を決定すること含む請求項10に記載の生体状態モニタリング方法。
【請求項12】
第1荷重検出器と第2荷重検出器とは、ベッドの幅方向中央でベッドの長さ方向に延びる軸に関して対称に配置される請求項10又は11に記載の生体状態モニタリング方法。
【請求項13】
第2荷重検出器はベッドの長さ方向の一方側に設けられており、
更に、ベッドの長さ方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられた第3荷重検出器により、前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分を含む第3荷重を検出することと、
第2荷重と第3荷重との差分を求めて、該差分から前記被験者の呼吸状態を決定することを含む請求項10~12のいずれか一項に記載の生体状態モニタリング方法。
【請求項14】
更に、第2荷重と第3荷重との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が大きくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正することを含む請求項13に記載の生体状態モニタリング方法。
【請求項15】
第1荷重検出器はベッドの長さ方向の一方側に設けられており、
第3荷重検出器はベッドの幅方向の他方側に設けられており、
第3荷重検出器により検出される前記被験者による荷重は該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分を含み、
更に、ベッドの幅方向の一方側且つベッドの長さ方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられた第4荷重検出器により、前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第4荷重を検出することを含み、
前記心拍状態を決定することは、第1荷重と第4荷重の和と、第2荷重と第3荷重の和との差分を求めて、該差分から前記被験者の心拍状態を決定することであり、
前記呼吸状態を決定することは、第1荷重と第2荷重の和と、第3荷重と第4荷重の和との差分を求めて、該差分から前記被験者の呼吸状態を決定することである請求項14に記載の生体状態モニタリング方法。
【請求項16】
前記第1荷重と第2荷重との差分を補正することは、第1荷重と第4荷重の和と第2荷重と第3荷重の和との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が小さくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正することであり、
前記第2荷重と第3荷重との差分を補正することは、第1荷重と第2荷重の和と第3荷重と第4荷重の和との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が大きくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正することである請求項15に記載の生体状態モニタリング方法。
【請求項17】
前記ベッドの長さ方向に対する被験者の体軸の方向の傾きに基づく補正は、前記被験者の体軸の方向を回転して前記ベッドの長さ方向に略一致させる回転変換を行う回転行列を用いて行われる請求項10~16のいずれか一項に記載の生体状態モニタリング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の荷重検出器を備える生体状態モニタリングシステム、当該システムを備えるベッドシステム、及び複数の荷重検出器を用いる生体状態モニタリング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医療や介護の分野において、荷重検出器を介してベッド上の被験者の荷重を検出し、検出した荷重に基づいて被験者の状態を判定することが提案されている。具体的には例えば、検出した荷重に基づいて被験者の呼吸数や心拍数の推定を行うことが提案されている。
【0003】
特許文献1は、濾波器を備え、被検生体の重心位置の変動出力の高い周波数成分から被検生体の心臓運動を検出し、被検生体の重心位置の変動出力の低い周波数成分から被検生体の呼吸運動を検出する、呼吸及び心臓運動測定装置を開示している。特許文献2は、就寝面上の利用者の重心位置の変化を高速フーリエ変換等によって処理することにより呼吸の変化周期を抽出して呼吸周波数として出力することのできる動作検出装置を開示している。また、本出願人に発行された特許文献3は、ベッド上の被験者の重心位置の時間的変動及び体動に関する情報を用いて、当該被験者の呼吸数を高精度に求める方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公昭61-24010号公報
【文献】特開2014-180432号公報
【文献】特許第6105703号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、荷重検出器を用いて被験者の生体状態をモニタするための代替的なシステム及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に従えば、
ベッド上の被験者の生体状態をモニタする生体状態モニタリングシステムであって、
ベッドの幅方向の一方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられ、且つ前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第1荷重を検出する第1荷重検出器と、
ベッドの幅方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられ、且つ前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第2荷重を検出する第2荷重検出器と、
第1荷重と第2荷重との差分を求めて、該差分から前記被験者の心拍状態を決定する心拍状態決定部と、
前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が小さくなるように、前記差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正する補正部とを備える生体状態モニタリングシステムが提供される。
【0007】
第1の態様の生体状態モニタリングシステムにおいて、前記補正部は、第1荷重の変動と第2荷重の変動とに基づいて前記被験者の体軸の方向を決定してもよい。
【0008】
第1の態様の生体状態モニタリングシステムにおいて、第1荷重検出器と第2荷重検出器とは、ベッドの幅方向中央でベッドの長さ方向に延びる軸に関して対称に配置されていてもよい。
【0009】
第1の態様の生体状態モニタリングシステムにおいて、第2荷重検出器はベッドの長さ方向の一方側に設けられていてもよい。また、第1の態様の生体状態モニタリングシステムは、更に、ベッドの長さ方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられ、且つ前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分を含む第3荷重を検出する第3荷重検出器を備えても良く、第2荷重と第3荷重との差分を求めて、該差分から前記被験者の呼吸状態を決定する呼吸状態決定部を備えてもよい。
【0010】
第1の態様の生体状態モニタリングシステムにおいて、前記補正部は、第2荷重と第3荷重との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が大きくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正してもよい。
【0011】
第1の態様の生体状態モニタリングシステムにおいて、第1荷重検出器はベッドの長さ方向の一方側に設けられていてもよく、第3荷重検出器はベッドの幅方向の他方側に設けられていてもよく、第3荷重検出器により検出される前記被験者による荷重は該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分を含んでもよい。また、第1の態様の生体状態モニタリングシステムは、更に、ベッドの幅方向の一方側且つベッドの長さ方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられ、且つ前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第4荷重を検出する第4荷重検出器を備えてもよく、前記心拍状態決定部は、第1荷重と第4荷重の和と、第2荷重と第3荷重の和との差分を求めて、該差分から前記被験者の心拍状態を決定してもよく、前記呼吸状態決定部は、第1荷重と第2荷重の和と、第3荷重と第4荷重の和との差分を求めて、該差分から前記被験者の呼吸状態を決定してもよい。
【0012】
第1の態様の生体状態モニタリングシステムにおいて、前記補正部は、第1荷重と第4荷重の和と第2荷重と第3荷重の和との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が小さくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正してもよく、且つ第1荷重と第2荷重の和と第3荷重と第4荷重の和との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が大きくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正してもよい。
【0013】
第1の態様の生体状態モニタリングシステムにおいて、前記補正部は、前記被験者の体軸の方向を回転して前記ベッドの長さ方向に略一致させる回転変換を行う回転行列を用いて補正を行ってもよい。
【0014】
本発明の第2の態様に従えば、
ベッドと、
第1の態様の生体状態モニタリングシステムとを備えるベッドシステムが提供される。
【0015】
本発明の第3の態様に従えば、
ベッド上の被験者の生体状態をモニタする生体状態モニタリング方法であって、
ベッドの幅方向の一方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられた第1荷重検出器により、前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第1荷重を検出することと、
ベッドの幅方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられた第2荷重検出器により、前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第2荷重を検出することと、
第1荷重と第2荷重との差分を求めて、該差分から前記被験者の心拍状態を決定することと、
第1荷重と第2荷重との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が小さくなるように、前記差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正することを含む生体状態モニタリング方法が提供される。
【0016】
第3の態様の生体状態モニタリング方法は、更に、第1荷重の変動と第2荷重の変動とに基づいて前記被験者の体軸の方向を決定すること含んでもよい。
【0017】
第3の態様の生体状態モニタリング方法において、第1荷重検出器と第2荷重検出器とは、ベッドの幅方向中央でベッドの長さ方向に延びる軸に関して対称に配置されてもよい。
【0018】
第3の態様の生体状態モニタリング方法において、第2荷重検出器はベッドの長さ方向の一方側に設けられていてもよい。また第3の態様の生体状態モニタリング方法は、更に、ベッドの長さ方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられた第3荷重検出器により、前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分を含む第3荷重を検出することを含んでも良く、第2荷重と第3荷重との差分を求めて、該差分から前記被験者の呼吸状態を決定することを含んでもよい。
【0019】
第3の態様の生体状態モニタリング方法は、更に、第2荷重と第3荷重との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が大きくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正することを含んでもよい。
【0020】
第3の態様の生体状態モニタリング方法において、第1荷重検出器はベッドの長さ方向の一方側に設けられていてもよく、第3荷重検出器はベッドの幅方向の他方側に設けられていてもよく、第3荷重検出器により検出される前記被験者による荷重は該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分を含んでもよい。また、第3の態様の生体状態モニタリング方法は、更に、ベッドの幅方向の一方側且つベッドの長さ方向の他方側においてベッド又はベッドの脚下に設けられた第4荷重検出器により、前記被験者による荷重であって、該被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分と該被験者の心拍に応じて振動する荷重成分とを含む第4荷重を検出することを含んでもよく、前記心拍状態を決定することは、第1荷重と第4荷重の和と、第2荷重と第3荷重の和との差分を求めて、該差分から前記被験者の心拍状態を決定することであってもよく、前記呼吸状態を決定することは、第1荷重と第2荷重の和と、第3荷重と第4荷重の和との差分を求めて、該差分から前記被験者の呼吸状態を決定することであってもよい。
【0021】
第3の態様の生体状態モニタリング方法において、前記第1荷重と第2荷重との差分を補正することは、第1荷重と第4荷重の和と第2荷重と第3荷重の和との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が小さくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正することであってもよく、前記第2荷重と第3荷重との差分を補正することは、第1荷重と第2荷重の和と第3荷重と第4荷重の和との前記差分に含まれる前記被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分が大きくなるように、該差分を、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づいて補正することであってもよい。
【0022】
第3の態様の生体状態モニタリング方法において、前記ベッドの長さ方向に対する前記被験者の体軸の方向の傾きに基づく補正は、前記被験者の体軸の方向を回転して前記ベッドの長さ方向に略一致させる回転変換を行う回転行列を用いて行われても良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、荷重検出器を用いて被験者の生体状態をモニタするための代替的なシステム及び方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る生体状態モニタリングシステムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、荷重検出器のベッドに対する配置を示す説明図である。
【
図3】
図3は、生体状態モニタリングシステムを用いた生体状態モニタリング方法を示すフローチャートである。
【
図4】
図4は、ベッドの四隅に配置された荷重検出器の各々からの荷重信号の様子を説明するための説明図である。中央の図は、ベッド、当該ベッド上に仰臥する被験者、及びベッドの四隅に配置された荷重検出器の位置関係を示す概略的な平面図である。右下、左下、左上、右上のグラフは、それぞれ、ベッドの右下、左下、左上、右上の隅部に配置された荷重検出器からの荷重信号の波形を示すグラフである。各グラフ中の波形は、被験者の呼吸に応じて振動する荷重成分を示す波形と、被験者の心拍に応じて振動する荷重成分を示す波形とに分離して示されている。
【
図5】
図5は、被験者の脚側に配置された荷重検出器からの荷重信号と、被験者の頭側に配置された荷重検出器からの荷重信号との差分であるY軸信号(呼吸信号)の一例を示すグラフである。
【
図6】
図6(a)、
図6(b)は、被験者の右側に配置された荷重検出器からの荷重信号と、被験者の左側に配置された荷重検出器からの荷重信号との差分であるX軸信号(心拍信号)の一例を示すグラフである。
図6(a)は被験者の体軸がベッドの長さ方向に一致している状況下で得られたX軸信号の一例を示し、
図6(b)は被験者の体軸がベッドの長さ方向に対して傾いている状況下で得られたX軸信号の一例を示す。
【
図7】
図7(a)~
図7(d)は、実施形態の生体状態モニタリングシステムの荷重検出部により検出された被験者の荷重信号の一例である。
図7(a)、
図7(b)、
図7(c)、
図7(d)はそれぞれ、被験者の右下、左下、左上、右上に配置された荷重検出器により検出された荷重信号の一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は、
図7(a)~
図7(d)に示す荷重信号の差分であるY軸信号(呼吸信号)を示すグラフである。
【
図9】
図9は、
図7(a)~
図7(d)に示す荷重信号が検出された期間と同一の期間に、
図7(a)~
図7(d)に示す荷重信号の検出が行われた被験者と同一の被験者について行った、呼吸流量計を用いた計測の結果を示すグラフである。
【
図12】
図12は、
図10(a)~
図10(d)に示す荷重信号が検出された期間と同一の期間に、
図10(a)~
図10(d)に示す荷重信号の検出が行われた被験者と同一の被験者について行った、指先血圧計を用いた計測の結果を示すグラフである。
【
図13】
図13(a)は、体軸をベッドの長さ方向に対して傾けてベッド上に位置している被験者と、ベッド下に配置された荷重検出器との位置関係を示す説明図である。
図13(b)は、
図13(a)に示す状況下での、xy平面上での点Pの移動範囲、及び点Pの軌跡に応じて描かれるx軸波形及びy軸波形の一例を示す説明図である。
【
図14】
図14(a)は、体軸をベッドの長さ方向に一致させてベッド上に位置している被験者と、ベッド下に配置された荷重検出器との位置関係を示す説明図である。
図14(b)は、
図14(a)に示す状況下での、xy平面上での点Pの移動範囲、及び点Pの軌跡に応じて描かれるx軸波形及びy軸波形の一例を示す説明図である。
【
図15】
図15(a)は、被験者の体軸がベッドの長さ方向に対して反時計回りに角度θ傾いている状況下で、実施形態の生体状態モニタリングシステムの信号補正部により描かれた点Pの軌跡の一例を示す。
図15(b)は、
図15(a)の軌跡を時計回りに角度θ回転して得られた軌跡を示す。
【
図16】
図16(a)は、
図15(a)の軌跡に応じて描かれるx軸波形の一部を示し、
図16(b)は
図15(b)の軌跡に応じて描かれる補正x軸波形の一部を示す。
【
図17】
図17(a)は、
図15(a)の軌跡に応じて描かれるy軸波形の一部を示し、
図17(b)は
図15(b)の軌跡に応じて描かれる変換y軸波形の一部を示す。
【
図18】
図18は、変形例に係るベッドシステムの全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<実施形態>
本発明の実施形態について、
図1に示す構成を有する生体状態モニタリングシステム100を、
図2に示すベッドBDとともに使用して、被験者の呼吸状態及び心拍状態をモニタする場合を例として説明する。
【0026】
以下の説明においては、直方形のベッドBDの中心を中心Oとして、中心Oを通りベッドBDの短手(幅方向)に延びる軸をベッドBDのX軸とし、中心Oを通りベッドBDの長手(長さ方向、上下方向)に延びる軸をベッドBDのY軸とする。ベッドBDの平面視において、ベッドBDの中心Oの右側をX軸の正側、左側をX軸の負側とし、ベッドBDの中心Oの下側をY軸の正側、上側をY軸の負側とする。被験者SがベッドBD上に横たわる場合は、一般にY軸に沿って横たわり、Y軸方向の負側に頭部を置き、正側に脚部を置く。
【0027】
図1に示す通り、本実施形態の生体状態モニタリングシステム100は、荷重検出部1及び生体状態決定部(制御部)3を主に有する。荷重検出部1と生体状態決定部3とは、A/D変換部2を介して接続されている。生体状態決定部3には更に記憶部4、表示部5、報知部6、及び入力部7が接続されている。
【0028】
荷重検出部1は、4つの荷重検出器1a、1b、1c、1d(第1荷重検出器、第2荷重検出器、第3荷重検出器、第4荷重検出器)を備える。荷重検出器1a、1b、1c、1dのそれぞれは、例えばビーム形のロードセルを用いて荷重を検出する荷重検出器である。このような荷重検出器は例えば、特許第4829020号や特許第4002905号に記載されている。荷重検出器1a、1b、1c、1dはそれぞれ、配線によりA/D変換部2に接続されている。
【0029】
荷重検出部1の4つの荷重検出器1a、1b、1c、1dは、被験者が使用するベッドの脚の下に配置される。具体的には例えば、荷重検出器1a、1b、1c、1dは、
図2に示す通り、ベッドBDの四隅の脚の下端部に取り付けられたキャスターCの下にそれぞれ配置される。本実施形態では、荷重検出器1a、1b、1c、1dはそれぞれ、ベッドBDの、X軸方向正側且つY軸方向正側、X軸方向負側且つY軸方向正側、X軸方向負側且つY軸方向負側、X軸方向正側且つY軸方向負側においてキャスターCの下に配置されている。
【0030】
荷重検出器1a、1bは、Y軸に対して軸対称な位置に設置され、即ちY軸から等距離に設置されている。荷重検出器1c、1dも同様にY軸に対して軸対称な位置に設置され、即ちY軸から等距離に設置されている。また、荷重検出器1a、1dは、X軸に対して軸対称な位置に設置され、即ちX軸から等距離に設置されている。荷重検出器1b、1cも同様にX軸に対して軸対称な位置に設置され、即ちX軸から等距離に設置されている。
【0031】
A/D変換部2は、荷重検出部1からのアナログ信号をデジタル信号に変換するA/D変換器を備え、荷重検出部1と生体状態決定部3にそれぞれ配線で接続されている。
【0032】
生体状態決定部(制御部)3は、荷重検出部1からの荷重信号に基づいて、被験者の生体状態、例えば呼吸状態や心拍状態を決定する。本実施形態では、生体状態決定部3は、呼吸状態を決定する呼吸状態決定部31と、心拍状態を決定する心拍状態決定部32と、心拍状態の決定に用いる信号を必要に応じて補正する信号補正部33(補正部)とを備える。生体状態決定部(制御部)3は、専用又は汎用のコンピュータであってよい。生体状態決定部3における被験者の生体状態の決定について、詳細は後述する。
【0033】
記憶部4は、生体状態モニタリングシステム100において使用されるデータを記憶する記憶装置であり、例えばハードディスク(磁気ディスク)を用いることができる。
【0034】
表示部5は、生体状態決定部3から出力される被験者の生体状態等を生体状態モニタリングシステム100の使用者に表示する液晶モニター等のモニターである。報知部6は、生体状態決定部3からの出力(生体状態に関する情報等)に基づいて所定の報知を聴覚的に行う装置、例えばスピーカを備える。入力部7は、生体状態モニタリングシステム100に対して所定の入力を行うためのインターフェイスであり、キーボード及びマウスにし得る。
【0035】
このような生体状態モニタリングシステム100を使用して、ベッド上の被験者の生体状態をモニタする方法について説明する。ここで、被験者の生体状態とは、具体的には例えば、被験者の呼吸状態及び/又は心拍状態である。
【0036】
生体状態モニタリングシステム100を使用した被験者の生体状態の決定は、
図3のフローチャートに示す通り、複数の荷重検出器により被験者の荷重を検出する荷重検出工程S1と、複数の荷重検出器からの荷重信号の間の差分を求め、当該差分から被験者の呼吸状態を決定する呼吸状態決定工程S2と、複数の荷重検出器からの荷重信号の間の差分を求め、当該差分から被験者の心拍状態を決定する心拍状態決定工程S3と、ベッドの長さ方向に対する被験者の体軸の方向の傾きに基づいて心拍状態決定工程S3で求めた差分を補正する信号補正工程S4と、決定した呼吸状態及び心拍状態を表示する表示工程S5とを主に含む。
【0037】
[荷重検出工程]
荷重検出工程S1では、荷重検出器1a、1b、1c、1dを用いてベッドBD上の被験者Sの荷重を検出する。荷重検出器1a、1b、1c、1dの各々は、ベッドBDの各脚の下に配置されているため、ベッドBDの上面に加えられる荷重は、4つの荷重検出器1a、1b、1c、1dに分散して検知される。特に、荷重の中心(重心)がベッドBDの中心Oに存在していれば、4つの荷重検出器1a、1b、1c、1dに均一に分散して検知される。
【0038】
荷重検出器1a、1b、1c、1dはそれぞれ、荷重(荷重変化)を検出してアナログ信号としてA/D変換部2に出力する。A/D変換部2は、サンプリング周期を例えば5ミリ秒として、アナログ信号をデジタル信号に変換し、デジタル信号(以下「荷重信号」)として生体状態決定部3に出力する。以下では、荷重検出器1a、1b、1c、1dから出力され、A/D変換部2においてデジタル変換された荷重信号を、それぞれ荷重信号sa、sb、sc、sdと呼ぶ。
【0039】
[呼吸状態決定工程、心拍状態決定工程]
呼吸状態決定工程S2及び心拍状態決定工程S3(両者をまとめて「生体状態決定工程」と呼ぶ)では、生体状態決定部3の呼吸状態決定部31及び心拍状態決定部32が、荷重信号sa~sdに基づいて、被験者Sの呼吸状態及び心拍状態を決定する。
【0040】
人間の呼吸は胸郭及び横隔膜を移動させて、肺を膨張及び収縮させることにより行われる。ここで吸気時、すなわち肺が膨張する時には横隔膜は下方に下がり、内臓も下方に移動する。一方で呼気時、すなわち肺が収縮する時には横隔膜は上方に上がり、内臓も上方に移動する。本発明の発明者は、呼吸に関する研究により、被験者の重心が、呼吸に応じた内臓の上下移動により、被験者の上下方向(背骨の方向)、即ち被験者の体軸の延びる方向にほぼ沿って振動することを見出した。
【0041】
以下では、被験者の重心の、被験者の呼吸に応じた、被験者の体軸方向に沿った振動を「呼吸振動」と呼ぶ。
図4に両矢印bで示す通り、被験者Sの重心Gは、呼吸振動により、被験者Sの体軸SAの方向に沿って振動している。なお、両矢印bにより示される呼吸振動の振動量(振幅)は、説明上、誇張して表わされている。
【0042】
また、本発明の発明者は、被験者の重心が被験者の体軸に直交する方向にもわずかに振動していることを見出し、この振動が、被験者の心拍に応じた振動であることを見出した。
【0043】
すなわち、本発明の発明者の知見によれば、被験者の重心は、被験者の心拍(心臓の拍動、即ち心臓の収縮と膨張)に伴って被験者の体軸方向とは異なる一軸方向に振動している。そのため、心拍は被験者の体軸方向と直交する方向の振動成分を有し、被験者の重心もまた、被験者の体軸に直交する方向にわずかに振動する成分を有する。
【0044】
以下では、被験者の重心の、被験者の心拍に応じた、被験者の体軸方向とは異なる一軸方向に沿った振動を「心拍振動」と呼ぶ。また、心拍振動に含まれる、被験者の体軸方向と直交する方向に振動する成分を心拍振動成分と呼ぶ。被験者Sの心拍振動成分を、
図4において両矢印hで示す。なお、両矢印hにより示される心拍振動成分の振動量(振幅)も、説明上、誇張して表わされている。
【0045】
本発明の発明者は、ベッド上の被験者からの荷重を検出するように配置した複数の荷重検出器からの複数の荷重信号の各々が、被験者の呼吸振動及び心拍振動に応じて特定の位相関係で変化していることに着目し、下記の原理により、複数の荷重信号間の差分を求めるだけで、被験者の重心位置を算出することなく、被験者の呼吸状態及び/又は心拍状態を決定できることを見出した。
【0046】
図4は、被験者Sが、ベッドBD上で、体軸SAがY軸と一致し、且つ呼吸振動の振動原点がベッドBDの中心Oに一致した状態で仰臥している場合の、荷重信号sa~sdの各々の、所定の5秒間における変化の様子を示す。なお、この5秒間において被験者Sに呼吸、心拍以外の体動は生じていない。
【0047】
荷重信号sa~sdの各々は、被験者の呼吸(呼吸振動)に応じて変化する荷重成分(以下、「呼吸成分」と呼ぶ)と、被験者の心拍(心拍振動。より具体的には心拍振動成分)に応じて振動する荷重成分(以下、「心拍成分」と呼ぶ)とを含む。
図4においては、説明の便宜上、荷重信号sa~sdの各々を呼吸成分と心拍成分とに周波数分離した状態で示している。
【0048】
図4の右下のグラフは、荷重検出器1aから出力された荷重信号saに含まれる呼吸成分sa
bと心拍成分sa
hとを示す。同様に、
図4の左下のグラフは荷重検出器1bから出力された荷重信号sbに含まれる呼吸成分sb
bと心拍成分sb
hとを示し、
図4の左上のグラフは荷重検出器1cから出力された荷重信号scに含まれる呼吸成分sc
bと心拍成分sc
hとを示し、
図4の右上のグラフは荷重検出器1dから出力された荷重信号sdに含まれる呼吸成分sd
bと心拍成分sd
hとを示す。
【0049】
各信号の変動の様子(信号波形の形状)は、具体的には次の通りである。
【0050】
呼吸成分sab~sdbは、いずれも被験者Sの呼吸振動に応じて振動(変動)しているため、振動の周期は互いに等しく、被験者Sの呼吸の周期を表わしている。
【0051】
被験者Sの脚側(Y軸方向の正側)に配置された荷重検出器1aからの荷重信号saに含まれる呼吸成分sa
bと、被験者Sの脚側に配置された荷重検出器1bからの荷重信号sbに含まれる呼吸成分sb
bとは同位相である。これは、前述のように被験者Sの呼吸による重心Gの移動方向が被験者Sの体軸SAの方向、即ちY軸方向にあり、Y軸方向において、荷重検出器1aと荷重検出器1bとが被験者Sの重心Gの位置に関して同じ側に位置しているためである。なお、呼吸成分sa
bと呼吸成分sb
bとが同位相となることは後述の実験例から実証されている(
図7(a)~
図7(d)参照。
図7(a)~
図7(d)は呼吸成分と心拍成分とを含む波形であるが、後述する通り、呼吸成分の振幅は心拍成分の振幅に比較して大きいため、
図7(a)~
図7(d)からは各呼吸成分同士の位相関係を読み取ることができる)。
【0052】
同様の理由により、被験者Sの頭側(Y軸方向の負側)に配置された荷重検出器1cからの荷重信号scに含まれる呼吸成分scbと、被験者Sの頭側に配置された荷重検出器1dからの荷重信号sdに含まれる呼吸成分sdbとは同位相である。
【0053】
被験者Sの脚側(Y軸方向の正側)に配置された荷重検出器1a、1bからの荷重信号sa、sbに含まれる呼吸成分sa
b、sb
bと、被験者Sの頭側(Y軸方向の負側)に配置された荷重検出器1c、1dからの荷重信号sc、sdに含まれる呼吸成分sc
b、sd
bとは、位相が互いに反転している。これは、被験者Sの呼吸による重心Gの移動方向が被験者Sの体軸SAの方向、即ちY軸方向にあり、Y軸方向において、荷重検出器1a、1bと荷重検出器1c、1dとが被験者Sの重心Gの位置に関して反対側に位置しているためである。なお、呼吸成分sa
b、sb
bと呼吸成分sb
c、sc
cとが逆位相となることは後述の実験例から実証されている(
図7(a)~
図7(d)参照)。
【0054】
心拍成分sah~sdhは、いずれも被験者Sの心拍振動成分に応じて振動(変動)しているため、振動の周期は互いに等しく、被験者Sの心拍の周期を表わす。
【0055】
被験者Sの右側(X軸方向の正側)に配置された荷重検出器1aからの荷重信号saに含まれる心拍成分sahと、被験者Sの右側に配置された荷重検出器1dからの荷重信号sdに含まれる心拍成分sdhとは同位相である。これは、前述のように、被験者Sの心拍による重心Gの移動の成分(心拍振動成分)が被験者の体軸と直交する方向、即ちX軸方向にあり、X軸方向において、荷重検出器1a、1dが、被験者Sの重心Gに関して同じ側に位置しているためである。
【0056】
同様の理由により、被験者Sの左側(X軸方向の負側)に配置された荷重検出器1bからの荷重信号sbに含まれる心拍成分sbhと、被験者Sの左側に配置された荷重検出器1cからの荷重信号scに含まれる心拍成分schとは同位相である。
【0057】
被験者Sの右側(X軸方向の正側)に配置された荷重検出器1a、1dからの荷重信号sa、sdに含まれる心拍成分sah、sdhと、被験者Sの左側(X軸方向の負側)に配置された荷重検出器1b、1cからの荷重信号sb、scに含まれる呼吸成分sbh、schとは、位相が互いに反転している。これは、被験者Sの心拍による重心Gの移動の成分(心拍振動成分)が被験者の体軸と直交する方向、即ちX軸方向にあり、X軸方向において、荷重検出器1a、1dと荷重検出器1b、1cとが被験者Sの重心Gの位置に関して反対側に位置しているためである。
【0058】
呼吸成分sab~sdbと、心拍成分sah~sdhとを比較すると、呼吸成分sab~sdbの周期が心拍成分sah~sdhの周期よりも長い。これは、人間の呼吸の回数は毎分12~20回程度であり、周期は約3~5秒(周波数は約0.2~0.33Hz)であるのに対し、人間の心拍の回数、即ち心拍数は毎分30~200回程度であり、周期は約0.3~2秒(周波数は約0.5~3.3Hz)であることに対応する。
【0059】
また、一般に、呼吸振動による重心の移動量は心拍振動による重心の移動量より大きい。したがって、呼吸成分の振幅は、心拍成分の振幅よりも大きい。
【0060】
荷重信号sa~sdの各々がこのような呼吸成分と心拍成分を含むことに基づき、荷重信号間の差分を求めることにより、被験者の呼吸状態と心拍状態を決定することができる。
【0061】
呼吸状態は、Y軸方向の一方側に配置された荷重検出器からの荷重信号と、Y軸方向の他方側に配置された荷重検出器からの荷重信号との差分を求めて、当該差分から決定することができる。具体的には例えば、Y方向正側の荷重検出器1a、1bからの荷重信号sa、sbの和と、Y方向負側の荷重検出器1c、1dからの荷重信号sc、sdの和との差分を求めてY軸信号SYを得て、Y軸信号SYから被験者Sの呼吸状態を決定する。これを式で表わすと
【数1】
である。
【0062】
荷重信号saと荷重信号sbの和においては、呼吸成分sabと呼吸成分sbbとは同位相であるため強めあい、心拍成分sahと心拍成分sbhとは逆位相であるため打消し合う。同様に、荷重信号scと荷重信号sdの和においては、呼吸成分scbと呼吸成分sdbとは同位相であるため強めあい、心拍成分schと心拍成分sdhとは逆位相であるため打消し合う。荷重信号saと荷重信号sbの和と荷重信号scと荷重信号sdの和との差分においては、呼吸成分sab、sbbと呼吸成分scb、sdbとは逆位相であるため強め合う。すなわち、被験者Sが、ベッドBD上で、体軸SAがY軸と一致し、且つ呼吸振動の振動原点がベッドBDの中心Oに一致した状態で仰臥している場合には、Y軸信号SYは、Y軸方向に振動する被験者Sの重心Gの呼吸振動のみを反映したものとなる。
【0063】
Y軸信号SY(=sa+sb-sc-sd)を
図5に示す。Y軸信号SYの振動の周期は、荷重信号sa~sdの呼吸成分sa
b~sd
bの周期に等しく、振幅は数式1からすると、呼吸成分sa
b~sd
bの振幅の絶対値の和である。なお、
図5においては、Y軸信号SYの振幅は、
図4に示す呼吸成分sa
b~sd
bの振幅の絶対値の和に比較して圧縮して描かれている。
【0064】
Y軸信号SYの周期に基づいて、被験者Sの呼吸数等を算出することができる。具体的には、Y軸信号SYの1周期が被験者Sの呼吸1回に相当する。即ち、Y軸信号SY自体が被験者Sの呼吸状態を表わす呼吸信号であり、且つY軸信号SYに基づいてより詳細な呼吸状態を決定することもできる。
【0065】
心拍状態は、X軸方向の一方側に配置された荷重検出器からの荷重信号と、X軸方向の他方側に配置された荷重検出器からの荷重信号との差分を求めて、当該差分から決定することができる。具体的には例えば、X方向正側の荷重検出器1a、1dからの荷重信号sa、sdの和と、X方向負側の荷重検出器1b、1cからの荷重信号sb、scの和との差分を求めてX軸信号を得て、X軸信号から、被験者Sの心拍状態を決定する。これを式で表わすと
【数2】
である。
【0066】
荷重信号saと荷重信号sdの和においては、心拍成分sahと心拍成分sdhとは同位相であるため強めあい、呼吸成分sabと呼吸成分sdbとは逆位相であるため打消し合う。同様に、荷重信号sbと荷重信号scの和においては、心拍成分sbhと心拍成分schとは同位相であるため強めあい、呼吸成分sbbと呼吸成分scbとは逆位相であるため打消し合う。荷重信号saと荷重信号sdの和と、荷重信号sbと荷重信号scの和との差分においては、心拍成分sah、sdhと心拍成分sbh、schとは逆位相であるため強め合う。すなわち、被験者Sが、ベッドBD上で、体軸SAがY軸と一致し、且つ呼吸振動の振動原点がベッドBDの中心Oに一致した状態で仰臥している場合には、X軸信号SXは、X軸方向に振動する被験者Sの重心Gの心拍振動成分のみを反映したものとなる。
【0067】
X軸信号SX(=sa-sb-sc+sd)を
図6(a)に示す。X軸信号SXの振動の周期は、荷重信号sa~sdの心拍成分sa
h~sd
hの周期に等しく、振幅は、数式2からすると、心拍成分sa
h~sd
hの振幅の絶対値の和である。なお、
図6(a)においては、X軸信号SXの振幅は、
図4に示す心拍成分sa
h~sd
hの振幅の絶対値の和に比較して圧縮して描かれている。
【0068】
X軸信号SXの周期から、被験者Sの心拍数等を算出することができる。具体的には、X軸信号SXの1周期が被験者Sの心拍1回に相当する。即ち、X軸信号SX自体が被験者Sの心拍状態を表わす心拍信号であり、且つX軸信号SXに基づいてより詳細な心拍状態を決定することもできる。
【0069】
なお、上記においては、生体状態決定部3が被験者Sの呼吸状態及び心拍状態を決定する原理について、被験者Sが、その体軸SAをベッドBDの中心O上でベッドBDのY軸と一致させた状態で仰臥している場合を例として説明した。しかしながら、上記の原理に基づく被験者Sの呼吸状態及び心拍状態の決定は、被験者Sの位置等が変化しても行うことができる。上記の原理に基づく被験者Sの呼吸状態及び心拍状態の決定は、被験者Sの体軸SAの方向がベッドBDのY軸方向(長手方向)に略一致した状態であれば、実行可能である。
【0070】
また、被験者Sの呼吸状態の決定は、被験者Sの体軸SAが、ベッドBDのY軸方向に対してある程度傾いている場合にも行うことができる。なぜなら、心拍振動の振幅は呼吸振動の振幅に比較して小さく、体軸SAの方向、即ち呼吸振動の振動方向がY軸に対してある程度傾いていても、呼吸振動のY軸方向成分を有意な大きさで検出することができるからである。
【0071】
一方で、上記の原理に基づく被験者Sの心拍状態の決定は、被験者Sの体軸SAが、ベッドBDのY軸方向に対して傾いている場合は以下のような問題が生じる。呼吸振動の振幅が心拍振動の振幅に比較して大きく、体軸SAの方向、即ち呼吸振動の振動方向がY軸に対して傾くと、呼吸振動のX軸成分が現れるため、心拍振動成分のみを有意な大きさで検出することが容易でなくなる。
【0072】
この場合は、信号補正部33が、心拍振動成分のみを有意な大きさで検出することができるよう、後述する方法によりX軸信号SXを補正する。
【0073】
図7(a)~
図7(d)に、本実施形態の生体状態モニタリングシステム100の荷重検出部1により、ある期間(0s~60s)に検出された荷重信号sa~sdを示す。呼吸状態決定部31は、このような荷重信号sa~sdを荷重検出部1より受け取り、これらに基づいて呼吸状態を決定する。
【0074】
呼吸状態決定部31はまず、荷重信号saと荷重信号sbの和と、荷重信号scと荷重信号sdの和との差分(sa+sb-sc-sd)を求めてY軸信号SYを算出(取得)する。算出されたY軸信号SYを
図8に示す。
【0075】
ここで、
図7(a)~
図7(d)に示す荷重信号sa~sdが検出されたある期間(0s~60s)と同一の期間に、同一の被験者Sに対して行った、呼吸流量計を用いた計測の結果(呼吸流量波形)を
図9に示す。呼吸流量計は、日本光電工業株式会社製の差圧トランスデューサTP-602Tを用いた。
【0076】
図8のY軸信号SYと、
図9の呼吸流量波形との比較に基づき、次のことが言える。
(1)Y軸信号SYの周期は、呼吸流量波形の周期に略等しい。
(2)Y軸信号SYの振幅と、呼吸流量波形の振幅との間に相関関係が存在する。具体的には、0~20秒あたりの、呼吸流量波形が略同一の振幅で振動している期間では、Y軸信号SYも略同一の振幅で振動している。35秒、50秒あたりの、呼吸流量波形の振幅が大きくなっている時刻では、Y軸信号SYの振幅も大きくなっている。30秒、45秒あたりの呼吸流量波形の振幅が小さくなっている時刻では、Y軸信号SYの振幅も小さくなっている。
【0077】
Y軸信号SYと呼吸流量波形とのこのような対応関係より、Y軸信号SYは少なくとも呼吸流量波形と同程度に被験者Sの呼吸状態を反映している(呼吸に関する情報を含んでいる)ことがわかる。そのため、Y軸信号SYに基づく呼吸数等の算出は、呼吸流量波形に基づく呼吸数等の算出と同程度又はそれ以上の精度で行うことができる。
【0078】
また、
図9に示す呼吸流量波形の面積に基づいて被験者の呼吸換気量(一回換気量)を求めることができるが、Y軸信号SYは呼吸流量波形と上述の対応関係を有するため、Y軸信号SYの波形の面積に基づいて被験者の呼吸換気量を算出することも可能である。
【0079】
図10(a)~
図10(d)に、本実施形態の生体状態モニタリングシステム100の荷重検出部1により、ある期間(20s~30s)に検出された荷重信号sa~sdを示す。心拍状態決定部32は、このような荷重信号sa~sdを荷重検出部1より受け取り、これらに基づいて心拍状態を決定する。
【0080】
心拍状態決定部32はまず、荷重信号saと荷重信号sdの和と、荷重信号sbと荷重信号scの和との差分(sa-sb-sc+sd)を求めて、X軸信号SXを算出(取得)する。算出されたX軸信号SXを
図11に示す。
【0081】
ここで、
図10(a)~
図10(d)に示す荷重信号sa~sdが検出されたある期間(20s~30s)と同一の期間に、同一の被験者Sに対して行った、指先血圧計(NIBP)を用いた計測の結果(指先血圧波形)を
図12に示す。指先血圧計は、バイオリサーチセンター株式会社製のヒト用NIBPシステム(型式ML282‐SS)を用いた。
【0082】
図11のX軸信号SXと、
図12の指先血圧波形との比較に基づき、次のことが言える。
(1)X軸信号SXの周期は、指先血圧波形の周期に略等しい。
(2)X軸信号SXの振幅と、指先血圧波形の振幅との間に相関関係が存在する。具体的には、指先血圧波形の振幅もX軸信号SXの振幅も、時間的にほとんど同一である。
【0083】
X軸信号SXと指先血圧波形とのこのような対応関係より、X軸信号SXは少なくとも指先血圧波形と同程度に被験者Sの心拍状態を反映している(心拍に関する情報を含んでいる)ことがわかる。そのため、X軸信号SXに基づく心拍数等の算出は、指先血圧波形に基づく心拍数等の算出と同程度又はそれ以上の精度で行うことができる。
【0084】
また、
図12に示す指先血圧波形に基づいて被験者の心拍出量を求めることができるが、X軸信号SXは指先血圧波形と上述の対応関係を有するため、X軸信号SXの波形に基づいて被験者の心拍出量を算出することも可能である。
【0085】
[信号補正工程]
信号補正工程S4では、信号補正部33が、被験者SのX軸信号SXの補正を行う。
【0086】
上述の通り、ベッドBD上の被験者Sの体軸SAの延びる方向が、ベッドBDのY軸方向に対して傾いている場合には、呼吸振動のX軸成分が比較的大きく現れ、心拍振動成分のみを有意な大きさで検出することが容易でなくなる。
【0087】
被験者Sの重心GがベッドBDの中心Oにあり、且つ被験者Sの体軸SAの延びる方向がベッドBDのY軸方向に対して反時計回り方向に角度θだけ傾いている状況下(
図13(a))で得られるX軸信号SXの一例を
図6(b)に示す。
図6(b)に示すX軸信号SXの波形を
図5に示すY軸信号SYの波形及び
図6(a)に示すX軸信号SXの波形と比較すると、その周期は、
図6(a)に示すX軸信号SXの波形の周期と大きく異なっており、
図5に示すY軸信号SYの波形の周期に略一致していることが分かる。すなわち、
図6(b)に示すX軸信号SXから被験者Sの心拍数等の心拍状態を決定することが容易ではないことがわかる。なお、被験者Sの体軸SAの方向がベッドBDのY軸方向に対して傾くことによってX軸信号SXの周期が呼吸振動の周期に略一致することは、後述の実験例(
図15~
図17参照)から実証されている。
【0088】
そこで信号補正部33は、被験者Sの体軸SAの延びる方向がベッドBDのY軸方向に対して傾いていると判断した場合に、呼吸振動のX軸成分が小さくなるようにX軸信号SXを補正する。このように補正されたX軸信号SXからは、心拍振動成分を有意な大きさで検出することができる。
【0089】
(1)角度θの決定
まず、信号補正部33は、被験者Sの体軸SAの延びる方向とベッドBDのY軸との間の角度θ(傾き)を決定する。決定は、具体的には例えば、次の方法により行う。
【0090】
荷重検出器1a、1b、1c、1dからの荷重信号sa、sb、sc、sdの各サンプリング時刻毎の値を、それぞれsa(t)、sb(t)、sc(t)、sd(t)とし、Y軸信号SY、X軸信号SXの各サンプリング時刻毎の値を、それぞれSX(t)、SY(t)とすると、数式1、数式2より、
【数3】
【数4】
である。
【0091】
ここで、荷重検出器1a、1dがX軸方向において同じ位置に配置されており、荷重検出器1b、1cがX軸方向において同じ位置に配置されているため、被験者Sの重心GがベッドBD上でX軸方向に移動した場合には、sa(t)とsd(t)の変化量は同一であり、sb(t)とsc(t)の変化量は同一である。したがって、SY(t)は被験者Sの重心GがX軸方向に移動した場合には右辺の各項が打消し合うため変化せず、被験者Sの重心GがY軸方向に移動した場合にのみ、重心Gの移動量に比例し且つ荷重検出器1a、1bと荷重検出器1c、1dとの間の離間距離Dyに反比例した大きさの変化を示す。
【0092】
一方、荷重検出器1a、1bはY軸方向において同じ位置に配置されており、荷重検出器1c、1dもY軸方向において同じ位置に配置されているため、被験者Sの重心GがベッドBD上でY軸方向に移動した場合には、sa(t)とsb(t)の変化量は同一であり、sc(t)とsd(t)の変化量は同一である。したがって、SX(t)は被験者Sの重心GがY軸方向に移動した場合には右辺の各項が打消し合うため変化せず、被験者Sの重心GがX軸方向に移動した場合にのみ、重心Gの移動量に比例し且つ荷重検出器1a、1dと荷重検出器1b、1cとの間の離間距離Dxに反比例した大きさの変化を示す。
【0093】
そのため、x(t)、y(t)を次のように定め、
【数5】
【数6】
xy平面上に点P(x(t)、y(t))をプロットすると、ベッドBD上での重心Gの移動とxy平面上での点Pの移動は、次の対応関係を有する。
【0094】
(一)点Pは、重心GがベッドBDの中心Oに位置する時に、xy平面の原点oに位置する。
(二)点Pは、重心GがX軸の正方向/負方向に移動した時にx軸の正方向/負方向に重心Gの移動距離に比例した距離だけ移動する。
(三)点Pは、重心GがY軸の正方向/負方向に移動した時にy軸の正方向/負方向に重心Gの移動距離に比例した距離だけ移動する。
(四)重心GのX軸方向の移動距離とこれに応じた点Pのx軸方向の移動距離との割合は、重心GのY軸方向の移動距離とこれに応じた点Pのy軸方向の移動距離との割合に等しく、共に被験者Sの体重に基づく定数となる。したがって、XY軸に対する重心Gの移動の方向と、xy軸に対する点Pの移動の方向とは互いに等しい。
以下では、点Pが、重心Gの移動に応じて上記の対応関係を有して移動することを「点Pは重心Gの移動に対応して移動する」と呼ぶ。
【0095】
このように、点Pが重心Gの移動に対応して移動するため、重心Gの呼吸振動に対応して振動する点Pの振動の方向とy軸との間の角度は、重心Gの呼吸振動の方向(即ち体軸SAの方向)とベッドBDのY軸との間の角度に等しい。よって、点Pの移動に基づいて角度θを求めることができる。
【0096】
図13(a)に示すように、被験者SがベッドBD上に、体軸SAをY軸から反時計回りに角度θだけ傾けた状態で横たわっている場合には、点Pは、被験者Sの重心Gの呼吸振動及び心拍振動に対応してxy平面上を移動し、その軌跡は、長手方向の寸法が呼吸振動の振幅に応じた大きさであり、短手方向の寸法が心拍振動成分の振幅に応じた大きさである矩形の領域R内に描かれる(
図13(b))。領域Rの長手方向はy軸から反時計回りに角度θだけ傾いている。領域R内の点Pの軌跡は、被験者Sの呼吸振動に対応して領域Rの長手方向に振動し、同時に被験者Sの心拍振動に対応して領域Rの短手方向に振動する点Pの移動の軌跡となる。
【0097】
重心Gの呼吸振動に対応して振動する点Pの振動の方向とy軸との間の角度(即ち、体軸SAとY軸との間の角度θ)を求める具体的な方法として、例えば、点Pの移動の軌跡のサンプリング周期を心拍の周期(約0.3秒~約2秒)よりも大きくし、各サンプリング点から次のサンプリング点へと向かうベクトルを求める。これらのベクトルの最頻値を求め、求めた最頻値ベクトルの方向を呼吸振動に対応して振動する点Pの振動の方向とみなして角度θを決定することができる。或いは、点Pの移動の軌跡のサンプリング周期を心拍の周期(約0.3秒~約2秒)よりも大きくし、各サンプリング点を繋ぐ近似直線を最小二乗法で求め、求めた直線の方向を呼吸振動に対応して振動する点Pの振動の方向とみなして角度θを決定してもよい。
【0098】
(2)X軸信号SXの補正
信号補正部33は、求めた角度θを所定値と比較し、角度θが所定値を超えている場合には、被験者Sの体軸SAがベッドBDのY軸に対して傾いているとみなしてX軸信号SXの補正を行う。一方、信号補正部33は、被験者Sの体軸SAとベッドBDのY軸との間の角度がこの所定値以下であれば被験者Sの体軸SAとベッドBDのY軸とは略一致しているとみなし、X軸信号SXの補正は行わない。
【0099】
X軸信号SXの補正は、具体的には次の原理により行う。
【0100】
図14(a)のように、被験者Sの体軸SAがベッドBDのY軸方向に一致している場合には、上述の通り、被験者Sの重心GのX軸方向の移動は被験者Sの心拍振動成分のみに基づき、被験者Sの重心GのY軸方向の移動は被験者Sの呼吸振動成分のみに基づく(実際には、心拍振動のY軸成分も影響しているが無視できる程度に小さい)。
【0101】
この場合、点Pは、被験者Sの重心Gの呼吸振動及び心拍振動に対応してy軸方向及びx軸方向に振動し、その軌跡は、短手方向がx軸方向に一致し、長手方向がy軸方向に一致した領域R内に描かれる(
図14(b))。領域Rの長手方向の寸法は呼吸振動の振幅に比例しており、短手方向の寸法は心拍振動成分の振幅に比例している。領域R内を移動する点Pの軌跡は、被験者Sの呼吸振動に対応して領域Rの長手方向に振動し、同時に被験者Sの心拍振動に対応して領域Rの短手方向に振動する点Pの移動の軌跡となる。
【0102】
この軌跡をx軸に投影して描かれる時間波形(xの時間的変動を表わす波形。以下、「x軸信号Sxの波形」と呼ぶ)を
図14(b)の下側に示す。上述した点Pの移動の様子から理解されるとおり、x軸信号Sxの波形の周期は心拍振動の周期に一致し、振幅は心拍振動成分の振幅に比例した大きさとなる。
【0103】
なお、x軸信号Sxの波形は、
図6(a)に示すX軸信号SXの波形と、振幅のみが異なり、周期及び位相は一致している。これは両波形が共に被験者SがベッドBDの中央に体軸SAとベッドBDのY軸とを一致させて横たわっている状況下で得られるものであり、且つ、x(t)=(Dx/2)・SX(t)(数式5)の関係を有するためである。右辺のx(t)は
図14(b)の波形の各サンプリング時刻の値であり、右辺のSX(t)は
図6(a)の波形の各サンプリング時刻の値である。
【0104】
また、上記の軌跡をy軸に投影して描かれる時間波形(yの時間的変動を表わす波形。以下、「y軸信号Syの波形」と呼ぶ)を
図14(b)の右側に示す。上述した点Pの移動の様子より理解されるとおり、y軸信号Syの波形の周期は呼吸振動の周期に一致し、振幅は呼吸振動の振幅に比例した大きさとなる。
【0105】
なお、y軸信号Syの波形は、
図5に示すY軸信号SYの波形と、振幅のみが異なり、周期及び位相は一致している。これは両波形が共に被験者SがベッドBDの中央に体軸SAとベッドBDのY軸とを一致させて横たわっている状況下で得られるものであり、且つ、y(t)=(Dy/2)・SY(t)(数式6)の関係を有するためである。右辺のy(t)は
図14(b)の波形の各サンプリング時刻の値であり、右辺のSY(t)は
図5の波形の各サンプリング時刻の値である。
【0106】
これに対して、
図13(a)のように、被験者Sの体軸SAがベッドBDのY軸方向に対して傾いている場合には、被験者Sの重心GのX軸方向の移動は、被験者Sの呼吸振動のX軸成分の影響を受ける。また、被験者Sの重心GのY軸方向の移動は、被験者Sの呼吸振動のY軸成分のみに基づくものとなる(実際には、心拍振動のY軸成分も影響しているが無視できる程度に小さい)。
【0107】
この場合、点Pは、被験者Sの重心Gの呼吸振動及び心拍振動に対応してxy平面上を移動し、その軌跡は、長手方向がy軸方向に対して傾斜した領域R内に描かれる(
図13(b))。領域R内を移動する点Pの軌跡は、被験者Sの呼吸振動に対応して領域Rの長手方向に振動し、同時に被験者Sの心拍振動に対応して領域Rの短手方向に振動する点Pの移動の軌跡となる。
【0108】
この軌跡をx軸に投影して描かれる時間波形(「x軸信号Sxの波形」)を
図13(b)の下側に示す。上述した点Pの移動の様子から理解されるとおり、x軸信号Sxの波形の周期は呼吸振動の周期に一致し、振幅は呼吸振動のX軸成分の振幅に比例した大きさとなる。
【0109】
なお、x軸信号Sxの波形は、
図6(b)に示すX軸信号SXの波形と、振幅のみが異なり、周期及び位相は一致している。これは両波形が共に被験者SがベッドBDの中央に体軸SAをベッドBDのY軸から反時計回りに角度θだけ傾けて横たわっている状況下で得られるものであり、且つx(t)=(Dx/2)・SX(t)(数式5)の関係を有するためである。
【0110】
また、上記の軌跡をy軸に投影して描かれる時間波形(「y軸信号Syの波形」)を
図13(b)の右側に示す。上述した点Pの移動の様子から理解されるとおり、y軸信号Syの波形の周期は呼吸振動の周期に一致し、振幅は呼吸振動のY軸成分の振幅に比例した大きさとなる。この波形と
図14(b)の右側の波形とを比べると、
図13(b)の波形の振幅が
図14(b)の波形の振幅よりもわずかに小さいほかは略同一の波形である。このことからも、上述の通り、体軸SAの方向、即ち呼吸振動の振動方向がY軸に対してある程度傾いていても、呼吸振動のY軸成分を有意な大きさで検出できることが分かる。
【0111】
以上より、被験者Sの体軸SAがベッドBDのY軸に対して角度θだけ傾いており、点Pの軌跡に対応するX軸信号Sxにおいて呼吸振動の成分が支配的である場合には、点Pの軌跡を角度θだけ回転して、回転後の軌跡からX軸信号Sxを取り直すことで、呼吸振動の成分を除去又は小さくできることが分かる。
【0112】
具体的には、
図13(a)に示すように、被験者Sの体軸SAがベッドBDのY軸に対して角度θだけ傾いている場合には、X軸信号SX、Y軸信号SYの各サンプリング時刻の値SX(t)、SY(t)に基づいて決定される点P(x(t)、y(t))及びその軌跡を、次の回転行列を用いて、xy平面の原点oを中心に角度θだけ回転する(点P及びその軌跡を反時計回りに角度θ回転する場合は数式7中のθの値を正とし、時計回りに角度θ回転するときは数式7中のθの値を負とする)。
【数7】
【0113】
これにより、長手方向がy軸方向に対して傾いた領域R(
図13(b))内の点P(x(t)、y(t))及びその軌跡が、長手方向がy軸方向に一致した領域R’(
図14(b))内の点P’(x’(t)、y’(t))及びその軌跡に変換(補正)される。その後、各サンプリング時刻における値がx’(t)である補正x軸信号Sx’、又は各サンプリング時刻における値がSX’(t)(=(2/Dx)・x’(t))である補正X軸信号SX’を求め、補正x軸信号Sx’又は補正X軸信号SX’から被験者Sの心拍状態を決定する。
【0114】
図15(a)に被験者Sの体軸SAが、ベッドBDのY軸から反時計回りに角度θだけ傾いている状態における、点P(x(t)、y(t))の軌跡Tの一例を示す。軌跡Tは、略矩形の領域R内に描かれており、領域Rの長手方向は、y軸から反時計回りに角度θだけ傾いている。また、この軌跡Tが描かれた期間におけるx(t)の時間的変動を示す波形(x軸信号Sxの波形。X軸信号SXと数式5とに基づいて得られた波形である)を
図16(a)に、yの時間的変動を示す波形(y軸信号Syの波形。Y軸信号SYと数式6とに基づいて得られた波形である)を
図17(a)に示す。
【0115】
図15(b)に、
図15(a)に描かれた軌跡Tを、数式7により変換(補正)して得られた軌跡T’を示す。軌跡T’は、略矩形の領域R’内に描かれており、領域R’の長手方向、短手方向は、それぞれy軸方向、x軸方向に一致している。また、この軌跡T’が描かれた期間におけるx’(t)の時間的変動を示す波形(補正x軸信号Sx’の波形)を
図16(b)に、y’(t)の時間的変動を示す波形(変換y軸信号Sy’の波形)を
図17(b)に示す。
【0116】
図16(a)と
図16(b)との比較から、周期が約4秒であり、呼吸振動の周期(約3~5秒)の範囲内にあるx軸信号Sxが、周期が約0.5秒であり、心拍振動の周期(約0.3~2秒)の範囲内にある補正x軸信号Sx’に補正されていることが分かる。この補正x軸信号Sx’から、被験者Sの心拍状態を決定することができる。
【0117】
図17(a)と
図17(b)との比較から、y軸信号Syと変換y軸信号Sy’とは、変換y軸信号Sy’の振幅がY軸信号Syの振幅に比べてわずかに大きい他は、大きな違いはない。したがって、変換y軸信号Sy’を用いて被験者Sの呼吸状態を決定してもよく、y軸信号Syを用いて被験者Sの呼吸状態を決定してもよい。変換y軸信号Sy’を用いることとすれば、変換前のy軸信号Syを複製して保存する必要がないため有利である。
【0118】
[表示工程]
表示工程S5においては、生体状態決定部3が、呼吸状態決定工程S2で決定した呼吸状態、及び心拍状態決定工程S3で決定した心拍状態を、一例として液晶モニターである表示部5に表示する。表示部5に表示される被験者Sの呼吸状態及び心拍状態は、Y軸信号SY(補正が行われた場合は変換y軸信号Sy’)及びX軸信号SX(補正が行われた場合は補正x軸信号Sx’及び/又は補正X軸信号SX)の波形であってもよく、これらに基づいて導出された呼吸数、呼吸換気量、心拍数、心拍出量等であってもよい。
【0119】
本実施形態の生体状態モニタリングシステム100及び生体状態モニタリング方法の効果を次にまとめる。
【0120】
本実施形態の生体状態モニタリングシステム100は、従来技術で行われてきたような被験者Sの重心位置の算出を行うことなく、複数の荷重検出器からの複数の荷重信号の差分を求めることで、被験者Sの呼吸状態及び心拍状態を決定することができる。したがって、システムの構成を簡易とすることができる。
【0121】
本実施形態の生体状態モニタリングシステム100及び生体状態モニタリング方法は、被験者Sの重心位置を算出することなく被験者Sの呼吸状態及び心拍状態を決定するため、演算処理の負担が少ない。
【0122】
本実施形態の生体状態モニタリングシステム100及び生体状態モニタリング方法は、被験者Sの体軸SAがベッドBDのY軸に対して傾いており、被験者Sの呼吸(重心Gの呼吸振動)がX軸信号SXに影響を及ぼしている場合であっても、信号補正部33によりX軸信号SXを補正して呼吸(呼吸振動)の影響を小さくし、心拍状態の決定を行うことができる。
【0123】
本実施形態の生体状態モニタリングシステム100及び生体状態モニタリング方法は、複数の荷重検出器からの複数の荷重信号の差分を取り、複数の荷重信号の各々に含まれる呼吸成分を強めあうことにより呼吸信号を求めている。また、複数の荷重検出器からの複数の荷重信号の差分を取り、複数の荷重信号の各々に含まれる心拍成分を強めあうことにより心拍信号を求めている。したがって、被験者SがベッドBD上の偏った位置におり、ある荷重検出器から出力される荷重信号の強度が十分でない場合であっても、十分な強度を有する呼吸信号(呼吸状態を表わす信号)及び心拍信号(心拍状態を表わす信号)を算出(取得)することができる。
【0124】
本実施形態の生体状態モニタリングシステム100及び生体状態モニタリング方法は、体軸SAがY軸に対してある程度傾いていても、良好に呼吸状態を決定することができる。
【0125】
<変形例>
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100、及び生体状態モニタリング方法において、次の変形態様を使用することもできる。
【0126】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100及び生体状態モニタリング方法においては、xy平面における点P(x(t)、y(t))の移動の軌跡に基づいて被験者Sの体軸SAの延びる方向とベッドBDのY軸方向との間の角度θを求めていたが、これには限られない。
【0127】
その他の方法として、ベッドBD上での被験者Sの重心G、及び重心Gの軌跡GTを求めて、軌跡GTに基づいて被験者Sの体軸SAの延びる方向、及び体軸SAとY軸との間の角度θを求めてもよい。ベッドBD上での被験者Sの重心Gの位置は、荷重検出器1a~1dからの荷重信号sa~sdの各サンプリング時刻における値と、ベッドBDの中心Oに対する荷重検出器1a~1dの位置とに基づいて算出することができる。軌跡GTは各サンプリング時刻における重心Gを繋ぐことで求められる。
【0128】
重心Gの軌跡GTに基づいて被験者Sの体軸SAの延びる方向を求める方法として、具体的には例えば、被験者の心拍の周期よりも大きいサンプリング周期でサンプリングした重心Gの軌跡GTに基づき、各サンプリング点から次のサンプリング点へと向かうベクトルを求める。そしてこれらのベクトルの最頻値を求め、求めた最頻値ベクトルの方向を重心Gの呼吸振動の振動方向、即ち体軸SAの方向とする。
【0129】
被験者Sの体軸SAの方向の決定及び/又は角度θの決定は、必ずしも信号補正部33で行う必要はなく、生体状態モニタリングシステム100内の任意の構成により実行し得る。一例として、呼吸状態決定部31や心拍状態決定部32が実行してもよく、生体状態決定部3の中に、別途、体軸(角度)決定部を設けてもよい。また、生体状態モニタリングシステム100の外部で決定した体軸SAの方向及び又は角度θを、入力部7等を介して入力する構成としてもよい。
【0130】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100においては、信号補正部33は、被験者Sの体軸SAの方向とベッドBDのY軸方向との間の角度θを所定値と比較し、角度θが所定値を超えている場合にX軸信号SXの補正を行っていたがこれには限られない。信号補正部33は、このような比較及び判断を行うことなく、常にX軸信号SX(及びY軸信号SY)の補正を行ってよい。被験者Sの体軸SAとベッドBDのY軸が一致しており角度θ=0の場合には、補正後の信号は補正前の信号と同一となる。
【0131】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100においては、信号補正部33において、リアルタイムで角度θを求めて、X軸信号SXを補正していたが、これには限られない。例えば、記憶部4に記憶させたX軸信号SXに対して、事後的に補正を行って、補正x軸信号Sx’及び/又は補正X軸信号SX’を求めてもよい。
【0132】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100及び生体状態モニタリング方法においては、変換y軸信号Sy’を用いて被験者Sの呼吸状態を決定してもよく、Y軸信号SYを用いて被験者Sの呼吸状態を決定してもよい。しかしながら、被験者Sの体軸SAの延びる方向とベッドBDのY軸との間の角度θが大きくなるにしたがって、Y軸信号SYの振幅は小さくなる。したがって、より振幅の大きい信号を用いることが、呼吸数等を求める上で有利であれば、変換y軸信号Sy’、又は各サンプリング時刻における値がSY’(t)(=(2/Dy)・y’(t))である変換Y軸信号SY’を補正信号とみなし、この補正信号から被験者Sの呼吸状態を決定してもよい。即ち、信号補正部33が、X軸信号SX及びY軸信号SYの両方を補正してもよい。
【0133】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100及び生体状態モニタリング方法においては、生体状態決定部3が実行する呼吸状態決定工程S2において、荷重検出器1aからの荷重信号saと荷重検出器1bからの荷重信号sbの和と、荷重検出器1cからの荷重信号scと荷重検出器1dからの荷重信号sdの和との差分を求めて、Y軸信号SYを得ていた。しかしながら、これには限られず、荷重信号saと荷重信号sbの一方と、荷重信号scと荷重信号sdの一方との差分を求めて、Y軸信号SYを得ることもできる。この場合も、差分を求めることにより、互いに逆位相である呼吸成分同士の強めあいが生じる。
【0134】
同様に、荷重信号saと荷重信号sdの一方と、荷重信号sbと荷重信号scの一方との差分を求めて、X軸信号SXを得ることもできる。この場合も、差分を求めることにより、互いに逆位相である心拍成分同士の強めあいが生じる。なおこの場合は、差分を求めることにより同位相である呼吸成分同士の打ち消し合いが生じるように、荷重信号saと荷重信号sbの差分、又は荷重信号sdと荷重信号scの差分を用いることが望ましい。
【0135】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100の生体状態決定部3は、呼吸状態決定部31が被験者Sの呼吸状態を決定した後に、心拍状態決定部32が被験者Sの心拍状態を決定しているがこれには限られない。心拍状態決定部32が被験者Sの心拍状態を先に決定してもよく、或いは呼吸状態決定部31による被験者Sの呼吸状態の決定と心拍状態決定部32による被験者Sの心拍状態の決定とを同時に(並行に)行ってもよい。
【0136】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100の生体状態決定部3は、呼吸状態決定部31と心拍状態決定部32を両方備えているがこれには限られない。生体状態決定部3は、呼吸状態決定部31と心拍状態決定部32のいずれか一方を有するのみでもよい。
【0137】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100において、荷重検出部1は4つの荷重検出器1a~1dを備えていたが、これには限られない。荷重検出部1は、少なくとも2つの荷重検出器を備えていればよい。
【0138】
荷重検出器が2つである場合は、例えば、X軸方向の正側に第1荷重検出器を設け、X軸方向の負側に第2荷重検出器を設ける。これにより、第1荷重検出器からの荷重信号と、第2荷重検出器からの荷重信号の差分を求めて、当該差分からベッドBD上の被験者Sの心拍状態を決定することができる。なお、第1荷重検出器と第2荷重検出器のY軸方向における位置は略同一とすることが望ましい。このような配置とすれば、第1荷重検出器と第2荷重検出器との中間位置に被験者Sが存在する場合には、両荷重検出器からの荷重信号の差分において、呼吸成分が良好にキャンセルされる。また、第1荷重検出器と第2荷重検出器とを、Y軸に関して対称に配置することがより望ましい。このような配置とすれば、被験者Sの体軸がY軸に一致している場合に、両荷重検出器からの荷重信号の差分において、呼吸成分が良好にキャンセルされる。
【0139】
あるいは、Y軸方向の正側に第1荷重検出器を設け、Y軸方向の負側に第2荷重検出器を設けてもよい。これにより、第1荷重検出器からの荷重信号と、第2荷重検出器からの荷重信号の差分を求めて、当該差分からベッドBD上の被験者Sの呼吸状態を決定することができる。
【0140】
荷重検出器が3つである場合は、例えば、上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100において、荷重検出器1dを除いた構成とすることができる。この場合は例えば、荷重検出器1aからの荷重信号saと荷重検出器1bからの荷重信号sbとの差分を求めて、当該差分から被験者Sの心拍状態を決定し、荷重検出器1bからの荷重信号sbと荷重検出器1cからの荷重信号scとの差分を求めて、当該差分から被験者Sの呼吸状態を決定することができる。
【0141】
この場合は、数式3、数式4に代えて
【数8】
【数9】
を用いて上記実施形態と同様の方法でX軸信号SXを補正してもよい。
【0142】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100において、荷重検出器1a、1b、1c、1dは、ビーム形ロードセルを用いた荷重センサに限られず、例えばフォースセンサを使用することもできる。
【0143】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100においては、荷重検出器1a~1dの各々は、ベッドBDの脚の下端に取り付けられたキャスターCの下に配置されていたがこれには限られない。荷重検出器1a~1dの各々は、ベッドBDの4本の脚とベッドBDの床板との間に設けられてもよいし、ベッドBDの4本の脚が上下に分割可能であれば、上部脚と下部脚との間に設けられても良い。また、荷重検出器1a~1dをベッドBDと一体に又は着脱可能に組み合わせて、ベッドBDと本実施形態の生体状態モニタリングシステム100とからなるベッドシステムBDSを構成してもよい(
図18)。なお、本明細書及び本発明において「ベッドに設けられた荷重検出器」とは、上述のようにベッドBDの4本の脚とベッドBDの床板との間に設けられた荷重検出器や、上部脚と下部脚との間に設けられた荷重検出器を意味する。
【0144】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100において、荷重検出部1とA/D変換部2との間に、荷重検出部1からの荷重信号を増幅する信号増幅部や、荷重信号からノイズを取り除くフィルタリング部を設けても良い。
【0145】
上記実施形態の生体状態モニタリングシステム100において、表示部5は、モニターに代えて、又はこれに加えて、生体状態を表わす情報を印字して出力するプリンタや、生体状態を表示するランプ等の簡易な視覚表示手段を備えてもよい。報知部6はスピーカーに代えて、又はこれに加えて、振動により報知を行う振動発生部を備えてもよい。
【0146】
本発明の特徴を維持する限り、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の形態についても、本発明の範囲内に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の生体状態モニタリングシステムによれば、構成が簡易で、処理負担の小さいシステムを用いて、呼吸状態や心拍状態等の被験者の生体状態を決定することができる。したがって、入院患者や入所者等の状態を、より安価且つ迅速に求めることのできるシステムを、病院や介護施設に提供することができる。
【符号の説明】
【0148】
1 荷重検出部、1a,1b,1c,1d 荷重検出器、2 A/D変換部、3 生体状態決定部、31 呼吸状態決定部、32 心拍状態決定部、33 信号補正部(補正部)、4 記憶部、5 表示部、6 報知部、7 入力部、100 生体状態モニタリングシステム、BD ベッド、BDS ベッドシステム、S 被験者