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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】力覚提示システム
(51)【国際特許分類】
   G08C 19/00 20060101AFI20231226BHJP
   G06F 3/01 20060101ALI20231226BHJP
   G05G 1/04 20060101ALI20231226BHJP
   G05G 5/03 20080401ALI20231226BHJP
   F16F 9/53 20060101ALI20231226BHJP
   F16F 15/03 20060101ALI20231226BHJP
   F16D 63/00 20060101ALN20231226BHJP
【FI】
G08C19/00 U
G08C19/00 N
G06F3/01 560
G05G1/04 A
G05G5/03 A
F16F9/53
F16F15/03 F
F16D63/00 P
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020134869
(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公開番号】P2022030697
(43)【公開日】2022-02-18
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】110003801
【氏名又は名称】KEY弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100149870
【弁理士】
【氏名又は名称】芦北 智晴
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 修一
(72)【発明者】
【氏名】辻 仁志
(72)【発明者】
【氏名】末廣 隆史
【審査官】菅藤 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-31976(JP,A)
【文献】特開2018-39065(JP,A)
【文献】特表2003-527784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08C 19/00
G06F 3/01
G05G 1/04
G05G 5/03
F16F 9/53
F16F 15/03
F16D 63/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作装置と従動装置とを備える力覚提示システムであって、
前記操作装置は、
操作者の操作によって動作する動作部を有する操作部と、
前記動作部の動作に連動して回転する回転部を有し、供給される電流値の変化により内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変化させて、前記回転部の回転抵抗を変化させるように構成された回転抵抗発生装置と、
前記動作部の動作に関する情報を検出する動作情報検出部と、
前記動作情報検出部が検出した動作に関する情報をトーン信号に変換する操作側トーン信号変換部と、
前記操作側トーン信号変換部が変換したトーン信号を前記従動装置へ送信する操作側送信部と、
を含み、
前記従動装置は、
前記操作側送信部が送信したトーン信号を受信する従動側受信部と、
前記従動側受信部が受信した、トーン信号に変換された動作に関する情報を復元する従動側トーン信号復元部と、
前記従動側トーン信号復元部が復元した動作に関する情報に従って動作する従動部と、
前記従動部が物体に触れることで発生する前記従動部への反力の情報を検出する反力情報検出部と、
前記反力情報検出部が検出した反力の情報又は該反力の情報に基づいて生成された情報(以下「反力関連情報」という。)をトーン信号に変換する従動側トーン信号変換部と、
前記従動側トーン信号変換部が変換したトーン信号を前記操作装置へ送信する従動側送信部と、
を含み、
前記操作装置は、
前記従動側送信部が送信したトーン信号を受信する操作側受信部と、
前記操作側受信部が受信した、トーン信号に変換された反力の情報又は反力関連情報を復元する操作側トーン信号復元部と、
前記操作側トーン信号復元部が復元した反力の情報に基づいて生成された情報に従って前記回転抵抗発生装置に供給する電流値を制御し、又は前記操作側トーン信号復元部が復元した前記反力関連情報に従って前記回転抵抗発生装置に供給する電流値を制御する制御部と、
を更に含む、ことを特徴とする力覚提示システム。
【請求項2】
操作者の操作によって動作する動作部を有する操作部と、
前記動作部の動作に連動して回転する回転部を有し、供給される電流値の変化により内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変化させて、前記回転部の回転抵抗を変化させるように構成された回転抵抗発生装置と、
前記動作部の動作に関する情報を検出する動作情報検出部と、
前記動作情報検出部が検出した動作に関する情報をトーン信号に変換するトーン信号変換部と、
前記トーン信号変換部が変換したトーン信号を送信するトーン信号送信部と、
トーン信号を受信するトーン信号受信部と、
前記トーン信号受信部が受信した、トーン信号に変換された情報を復元するトーン信号復元部と、
前記トーン信号復元部が復元した情報に基づいて生成した情報に従って前記回転抵抗発生装置に供給する電流値を制御し、又は前記トーン信号復元部が復元した情報に従って前記回転抵抗発生装置に供給する電流値を制御する制御部と、
を備えることを特徴とする操作装置。
【請求項3】
トーン信号を受信するトーン信号受信部と、
前記トーン信号受信部が受信した、トーン信号に変換された情報を復元するトーン信号復元部と、
前記トーン信号復元部が復元した情報に従って動作する従動部と、
前記従動部が物体に触れることで発生する前記従動部への反力の情報を検出する反力情報検出部と、
前記反力情報検出部が検出した反力の情報又は該反力の情報に基づいて生成された情報をトーン信号に変換するトーン信号変換部と、
前記トーン信号変換部が変換したトーン信号を送信するトーン信号送信部と、
を備えることを特徴とする従動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者から離れた遠隔地にある物体の力覚を使用者に提示する力覚提示システムに関する。特に、磁気粘性流体を利用して使用者の手指等に力覚を提示する力覚提示システムに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術は、例えば特許文献1に開示されている。同文献に開示された力覚提示装置は、主に、操作装置(特許文献1では「操作ユニット」と称している。)と従動装置(特許文献1では「従動ユニット」と称している。)で構成されている。操作装置は、操作部と、操作部の開閉操作に抗力を付与する回転抵抗発生装置と、操作部の操作量を検出するエンコーダとを備えている。回転抵抗発生装置は磁気粘性流体および磁気粘性流体に磁場を付与する電磁石を用いて構成され、電磁石に供給される電流値に応じた抗力が操作部の開閉操作に付与される。一方、従動装置は、上記エンコーダで検出された操作量に応じて動作する一対のアーム部と、アーム部が物体を掴むときに発生する反力を検出する反力検出部とを備えている。そして、従動装置の反力検出部が検出する反力の大きさに応じた値の電流が操作装置の回転抵抗発生装置に供給されることにより、操作者から離れた場所にある物体の力覚が操作者の指先に提示される。
【0003】
特許文献1には、操作装置と従動装置にそれぞれ通信手段を設け、操作部の操作量の情報と、アーム部の反力の情報と、回転抵抗発生装置に供給すべき電流値の情報とをコンピュータネットワークを介して相互に送信してもよい旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-31976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コンピュータネットワークを介して操作装置と従動装置との間で上記情報を送受信する場合、通信経路の途中に介在するサーバが上記情報を転送することとなる。
【0006】
しかしながら、サーバが上記情報を転送する際、当該サーバにおいて上記情報の書き込み処理および読み出し処理が行われるため、情報の転送に遅延が生じる。そのため、操作装置が操作された後、従動装置のアーム部が動作するまでに一定の遅延が生じる。また、従動装置のアーム部が物体から受ける反力が操作装置に反映されるまでにも一定の遅延が生じる。そして、上記の遅延が生じる結果、操作者に提示すべき力覚も操作者の操作に遅れて発現するという問題があった。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたものであり、操作者に提示すべき力覚が操作者の操作に遅れて発現するという従来技術の問題を改善することができる力覚提示システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る力覚提示システムは、操作装置と従動装置とを備える。前記操作装置は、操作者の操作によって動作する動作部を有する操作部と、回転抵抗発生装置と、前記動作部の動作に関する情報を検出する動作情報検出部と、前記動作情報検出部が検出した動作に関する情報をトーン信号に変換する操作側トーン信号変換部と、前記操作側トーン信号変換部が変換したトーン信号を前記従動装置へ送信する操作側送信部と、を含む。前記回転抵抗発生装置は、前記動作部の動作に連動して回転する回転部を有し、供給される電流値の変化により内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変化させて、前記回転部の回転抵抗を変化させるように構成されている。前記従動装置は、前記操作側送信部が送信したトーン信号を受信する従動側受信部と、前記従動側受信部が受信した、トーン信号に変換された動作に関する情報を復元する従動側トーン信号復元部と、前記従動側トーン信号復元部が復元した動作に関する情報に従って動作する従動部と、前記従動部が物体に触れることで発生する前記従動部への反力の情報を検出する反力情報検出部と、前記反力情報検出部が検出した反力の情報又は該反力の情報に基づいて生成された情報(以下「反力関連情報」という。)をトーン信号に変換する従動側トーン信号変換部と、前記従動側トーン信号変換部が変換したトーン信号を前記操作装置へ送信する従動側送信部と、を含む。前記操作装置は、さらに、前記従動側送信部が送信したトーン信号を受信する操作側受信部と、前記操作側受信部が受信した、トーン信号に変換された反力の情報又は反力関連情報を復元する操作側トーン信号復元部と、前記操作側トーン信号復元部が復元した反力の情報に基づいて生成された情報に従って前記回転抵抗発生装置に供給する電流値を制御し、又は前記操作側トーン信号復元部が復元した前記反力関連情報に従って前記回転抵抗発生装置に供給する電流値を制御する制御部と、を含む。
【0009】
本発明に係る操作装置は、操作者の操作によって動作する動作部を有する操作部と、回転抵抗発生装置と、前記動作部の動作に関する情報を検出する動作情報検出部と、前記動作情報検出部が検出した動作に関する情報をトーン信号に変換するトーン信号変換部と、前記トーン信号変換部が変換したトーン信号を送信するトーン信号送信部と、を備える。前記回転抵抗発生装置は、前記動作部の動作に連動して回転する回転部を有し、供給される電流値の変化により内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変化させて、前記回転部の回転抵抗を変化させるように構成されている。前記操作装置は、さらに、トーン信号を受信するトーン信号受信部と、前記トーン信号受信部が受信した、トーン信号に変換された情報を復元するトーン信号復元部と、前記トーン信号復元部が復元した情報に基づいて生成した情報に従って前記回転抵抗発生装置に供給する電流値を制御し、又は前記トーン信号復元部が復元した情報に従って前記回転抵抗発生装置に供給する電流値を制御する制御部と、を備える。
【0010】
本発明に係る従動装置は、トーン信号を受信するトーン信号受信部と、前記トーン信号受信部が受信した、トーン信号に変換された情報を復元するトーン信号復元部と、前記トーン信号復元部が復元した情報に従って動作する従動部と、前記従動部が物体に触れることで発生する前記従動部への反力の情報を検出する反力情報検出部と、前記反力情報検出部が検出した反力の情報又は該反力の情報に基づいて生成された情報をトーン信号に変換するトーン信号変換部と、前記トーン信号変換部が変換したトーン信号を送信するトーン信号送信部と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る力覚提示システムによれば、操作者に提示すべき力覚が操作者の操作に遅れて発現するという従来技術の問題を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係る力覚提示システムの全体を示す図である。
図2】操作ユニットの断面図である。
図3】操作ユニットの平面図である。
図4】コマンドテーブルの一例を示す図である。
図5】コマンドテーブルの一例を示す図である。
図6】回転抵抗発生装置に供給すべき電流の値(横軸)と、反力検出部が検出する反力の値(縦軸)との関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る力覚提示システムについて図面を参照しながら説明する。図1に示すように、本発明の実施形態に係る力覚提示システム100は、音声通信回線Cを介して互いにトーン信号を送信することが可能な操作装置Aと従動装置Bを備えている。この力覚提示システム100では、操作者が操作装置Aを操作することで、操作者は、遠隔地にある物体1を従動装置Bを介して疑似的に掴むことができる。すなわち、遠隔地にある物体1を掴んだときの力覚を操作装置Aにおいてリアルに再現することができる。以下、操作装置Aおよび従動装置Bの構成例について詳細に説明する。
【0014】
<操作装置について>
操作装置Aは、図1に示すように、操作ユニット10、操作側制御装置20および操作側通信部30を備えている。
【0015】
操作ユニット10は、例えば図2および図3に示すように、回転抵抗発生装置11、操作部12、回転量検出部14、ケーシング16等で構成されている。
【0016】
回転抵抗発生装置11は、内部に封入された磁気粘性流体に付与する磁場の強さを変化させることにより、回転軸(回転部)111の回転抵抗を変化させる。回転軸111は、後述する第2把持部12bの回動動作と連動し、第2把持部12bと一体に回転する。回転抵抗発生装置11の具体的な構成例については後に詳述する。
【0017】
操作部12は、操作者の操作によって変位(動作)する変位部(動作部)を有する。本実施形態では、操作部12は、操作者の指をそれぞれ挿入可能な第1把持部12aおよび第2把持部12bを備えており、第2把持部12bが上記変位部に該当する。第1把持部12aは、ケーシング16に対して固定されているが、第2把持部12bは、その基部が回転自在にケーシング16に支持された支軸17に固定されているため、その支軸17を中心として回動可能である。これらの第1把持部12aおよび第2把持部12bは、はさみの把持部に似た動作を行う。図2および図3に例示する各把持部12a,12bは楕円リング状に形成され、その両側部の上面に壁部12c1~12c4が立設されている。操作者は隣接する壁部12c2,12c3同士を指先で掴むこと等によりこの操作部12を操作することもできる。
【0018】
回転量検出部14には、例えばエンコーダが使用される。この回転量検出部14は、第2把持部12bの支軸17および前記回転軸111の回転量(基準位置からの回転角)を検出するために設けられている。回転量検出部14が検出する回転量の情報は、操作側制御装置20(図1参照)に入力される。なお、支軸17の上記基準位置は、本実施形態では、図3の実線で示すように、把持部12a,12b同士が全閉した位置にあるときの支軸17の回転位置である。
【0019】
ケーシング16は、例えば図2に示すように、円筒部材16aと、円筒部材16aの両端開口を塞ぐように設けられた円板部材16b,16cと、円筒部材16aの内部中間位置に嵌入固定された円板部材16dとで構成されている。円板部材16b,16dには、支軸17が挿通された軸穴が形成されており、支軸17はこれら軸穴に対してベアリング19を介して回転自在に支持されている。また、円板部材16cには円柱状凹部が形成されており、この凹部に回転抵抗発生装置11が嵌入固定されている。符号18は、支軸17と回転軸111を回転一体に接続するカップリングである。なお、ケーシング16の下部の円板部材16cには非磁性体が用いられることが望ましい。
【0020】
次に、回転抵抗発生装置11の具体的な構成例を図2に基づいて説明する。同図に示す回転抵抗発生装置11は、回転軸111、円板112、ヨーク114,115、コイル117、磁気粘性流体118、ケーシング116等で構成されている。
【0021】
回転軸111は、その端部が円板112の裏面112bの中心部に垂直に接続されている。回転軸111はベアリング119を介してヨーク115に設けられた軸穴120に回転自在に支持されている。なお、回転軸111には非磁性体が用いられることが望ましい。
【0022】
円板112は、磁性体からなり、回転軸111と一体に軸線回りに回転可能である。これに対し、ケーシング116、ヨーク114,115等は所定場所に設置ないし固定され回転しないようになっている。
【0023】
ヨークは、第1ヨーク114および第2ヨーク115で構成され、何れも磁性体で構成されている。第1ヨーク114は、円板112の表面112aに対して微小隙間を介して対向する対向面114aを有する。第1ヨーク114は、円筒状のケーシング116に対して嵌め込まれて固定されている。
【0024】
第2ヨーク115は、円板112の裏面112bに対して微小隙間を介して対向する対向面115aを有する。この第2ヨーク115は、回転軸111を挿通する軸穴120と、コイル117を配設するための環状の溝115bを有する。第2ヨーク115は、円筒状のケーシング116の内側に嵌め込まれて固定されている。
【0025】
符号121は、非磁性体からなる球体であり、第1ヨーク114の中心部に形成された凹部と、円板112の中心に形成された貫通穴と、回転軸111の端面の中心に形成された凹部とで形成されるスペースに収容されている。
【0026】
コイル117は、第2ヨーク115に形成された溝115bに沿って配設されている。このコイル117には、操作側制御装置20から電流が供給される。
【0027】
磁気粘性流体118は、円板112と、第1ヨーク114および第2ヨーク115との隙間に封入されている。この磁気粘性流体118は、磁性粒子を分散媒に分散させてなる液体であり、特にその磁性粒子がナノサイズの金属粒子(金属ナノ粒子)からなるものが使用できる。磁性粒子は磁化可能な金属材料からなり、金属材料に特に制限はないが軟磁性材料が好ましい。軟磁性材料としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル及びパーマロイ等の合金が挙げられる。分散媒は、特に限定されるものではないが、一例として疎水性のシリコーンオイルを挙げることができる。磁気粘性流体における磁性粒子の配合量は、例えば3~40vol%とすればよい。磁気粘性流体にはまた、所望の各種特性を得るために、各種の添加剤を添加することも可能である。
【0028】
上記構成を備える回転抵抗発生装置11において、コイル117に電流が供給されると、矢印Pに示す方向に沿って円板112、第1ヨーク114、第2ヨーク115内に磁路が形成される。この磁路は、円板112の表面112aと第1ヨーク114の対向面114aとの隙間や、円板112の裏面112bと第2ヨーク115の対向面115aとの隙間に介在する磁気粘性流体118を貫通する。これにより、磁気粘性流体118には、磁場の強さに応じた粘度(ずり応力)が発現し、円板112とヨーク114,115との間での伝達トルクが磁場の強さに応じて大きくなり、その結果、回転軸111の回転抵抗もコイル117に供給される電流値に応じて大きくなる。
【0029】
続いて、図1に示す操作側制御装置20および操作側通信部30について説明する。
【0030】
操作側制御装置20は、制御部21および電流供給部24を備えている。
【0031】
制御部21は、例えばマイクロコンピュータを用いて構成される。本実施形態では、制御部21は、後述するトーン信号変換部22およびトーン信号復元部23としても機能する。
【0032】
制御部21は、操作ユニット10の回転量検出部14から入力される情報に基づいて、第2把持部12b(支軸17および回転軸111)の変位(動作)に関する情報として回転量(基準位置からの回転角)を検出する。制御部21のトーン信号変換部22は、検出された回転量と角度設定コマンドを、例えば図4に示すような、コマンドテーブル25に従って、トーン信号に変換する。なお、本実施形態ではトーン信号としてDTMF(Dual-Tone Multi―Frequency)信号を例示する。
【0033】
コマンドテーブル25は、制御部21の記憶部(不図示)に予め記憶されている。このコマンドテーブル25では、「*0」、「*1」、・・・等のトーン信号と、「駆動オン」、「駆動オフ」、・・・等のコマンド情報が対応付けられている。例えば、第2把持部12bの回転量(基準位置からの回転角)が30°である場合、トーン信号変換部22は、コマンドテーブル25を参照して、「角度設定」コマンドに対応付けられたトーン信号「*7」を読み出し、トーン信号「*7」の前に回転量を示すトーン信号「3」「0」を追加した送信用トーン信号「3」「0」「*」「7」を生成する。そして、トーン信号変換部22は、生成した送信用トーン信号を操作側通信部30に転送する。
【0034】
また、制御部21は、操作側制御装置20に設けられた設定入力部(不図示)から入力されるコマンド情報を受け付け、受け付けたコマンド情報をトーン信号変換部22により、トーン信号に変換し、トーン信号に変換したコマンド情報を操作側通信部30に転送することもできる。本実施形態では、設定入力部(不図示)から入力可能なコマンド情報は、上述した「角度設定」コマンドのほか、従動装置Bのアーム42L,42Rの駆動オンを指示する「駆動オン」コマンド、同駆動のオフを指示する「駆動オフ」コマンド、従動装置Bのアーム42L,42Rの回転方向を指示する「回転方向 時計回り」および「回転方向 反時計回り」、従動装置Bのアーム42L,42Rの回転トルクを指示する「トルク」コマンド、従動装置Bのアーム42L,42Rの回転角加速度を指示する「角加速度」コマンド、従動装置Bのアーム42L,42Rの回転角速度を指示する「角速度」コマンド、従動装置Bのアーム42L,42Rの先端部同士の接近速度または離反速度を指示する「速度設定」コマンド、従動装置Bのアーム42L,42Rを回動させるサーボモータ46に供給する電流のデューティ比を指示する「デューティ設定」コマンド等がある。
【0035】
トーン信号復元部23は、操作側通信部30から入力されるトーン信号に変換された情報を復元する。復元は、例えば図5に示すようなコマンドテーブル26に従って行われる。このコマンドテーブル26も、制御部21の記憶部(不図示)に予め記憶されている。例えば、トーン信号復元部23がトーン信号「2」「0」「*」「7」を含むトーン信号を受信した場合、トーン信号復元部23は、コマンドテーブル26を参照して、トーン信号「*」「7」を、「*」「7」に対応付けられた「電流設定」コマンドに復元し、「*」の前の「2」「0」をコマンドの引数とみなす。本実施形態では、トーン信号「2」「0」「*」「7」は、電流供給部24が給電することができる最大電流値(例えば100mA)に対して引数%を乗じた値の電流を回転抵抗発生装置11へ供給すべきことを指示する。
【0036】
電流供給部24は、上述したように、制御部21の指示にしたがって、回転抵抗発生装置11のコイル117に電流を供給する。
【0037】
操作側通信部30は、トーン信号変換部22から転送された送信用トーン信号を通信相手に送信する送信部として機能する。また、操作側通信部30は、音声通信回線Cを介してトーン信号を受信する受信部としても機能し、受信したトーン信号をトーン信号復元部23に転送する。本実施形態では、上記通信相手は、従動側通信部60である。操作側通信部30および従動側通信部60は、互いに音声信号を送受信できるものであればよい。例えば、操作側通信部30および従動側通信部60には、スマートフォンなどの携帯端末を適用することができる。
【0038】
<従動装置について>
次に、従動装置Bについて説明する。従動装置Bは、図1に示すように、従動ユニット40、従動側制御装置50および従動側通信部60を備えている。
【0039】
従動ユニット40は、図1に示すように、従動部42、反力検出部43、ケーシング44、サーボモータ46等で構成されている。
【0040】
従動部42は、サーボモータ46によって動作する。本実施形態では、従動部42は、左右のアーム42L,42Rで構成され、所定のギヤ機構等を介してサーボモータ46によって駆動される。図1に例示するアーム42L,42Rは左右対称形状をしており、それらの先端面は互いに向かい合っている。サーボモータ46が一方に回転すると、アーム42L,42Rの先端面が互いに接近し、サーボモータ46が他方に回転すると、アーム42L,42Rの先端面が互いに離反する。両アーム42L,42Rの先端面の間に所定の大きさの物体1を挟持することができる。なお、アーム42L,42Rの先端面の中心部が描く軌跡の半径R1と、前記した操作ユニット10の第2把持部12bの壁部12c3の中心が描く軌跡の半径R2は同一半径とすることが望ましい。同一半径にすることで、物体1に触れたときの力覚を操作ユニット10側でより正確に提示しやすくなる。
【0041】
反力検出部43は、従動部42が物体1を挟持する(物体に触れる)ことにより発生する従動部42への反力を検出する。図1に例示する反力検出部43は、一方のアーム42Rに、スリット42Rbを形成し、そのスリット42Rbに隙間なく挿入された圧力センサ47等によって構成されている。この圧力センサ47によれば、左右のアーム42L,42Rが物体1を挟持する際にアーム42R内に発生する応力に応じた荷重が検出される。この検出荷重および所定のパラメータに基づいて、左右のアーム42L,42Rが物体1から受ける反力を求めることができる。
【0042】
従動側制御装置50は、制御部51およびモータ駆動回路52を備えている。
【0043】
制御部51は、例えばマイクロコンピュータを用いて構成される。本実施形態では、制御部51は、後述するトーン信号変換部53およびトーン信号復元部54としても機能する。
【0044】
制御部51のトーン信号復元部54は、従動側通信部60から転送されるトーン信号を、図4に示したようなコマンドテーブル25に従って復元する。コマンドテーブル25は、制御部51の記憶部(不図示)にも予め記憶されている。例えば、トーン信号復元部54は、従動側通信部60からトーン信号「3」「0」「*」「7」を受信した場合、コマンドテーブル25を参照して、トーン信号「*」「7」を、「*」「7」に対応付けられた「角度設定」コマンドに復元し、「*」の前の「3」「0」をコマンドの引数とみなす処理を行う。すなわち、トーン信号「3」「0」「*」「7」は、アーム42L,42Rの相対角が30°になるように(各アーム42L,42Rの基準位置からの回転角度がそれぞれ15°と-15°になるように)モータ駆動回路52に対して指令を送る。ここで、アーム42L,42Rの基準位置は、アーム42L,42Rの先端部同士が従動ユニット40の中心線上で接する位置である。
【0045】
また、制御部51は、圧力センサ47から入力される情報から従動部42が物体1から受ける反力検出し、更に、検出した反力の情報に基づいて別の情報(電流値の情報)を生成する。具体的には、図6に示すような、反力[N]と回転抵抗発生装置11に供給すべき電流値[A]との関係を参照して、従動部42が物体1から受けた反力と同じ反力(力覚)を回転抵抗発生装置11に提示させるために、コイル117に印加すべき電流値を読み出す。なお、図6に示すような、反力[N]と回転抵抗発生装置11に供給すべき電流値[A]との関係は、予め制御部51の記憶部(不図示)に記憶されている。
【0046】
制御部51のトーン信号変換部53は、読み出した上記電流値と電流設定コマンドを、例えば図6に示したようなコマンドテーブル26に従って、トーン信号に変換する。すなわち、トーン信号変換部53は、コマンドテーブル26を参照して、「電流設定」コマンドに対応付けられたトーン信号「*7」を読み出し、トーン信号「*7」の前に電流値を示すトーン信号(例えば電流供給部24の最大供給電流値に対する%を示す数値)を追加した送信用トーン信号を生成する。電流供給部24の最大供給電流値が100mAであり、コイル117に印加すべき電流値が20mAの場合、送信用トーン信号「2」「0」「*」「7」を生成する。そして、トーン信号変換部53は、生成した送信用トーン信号を従動側通信部60に転送する。
【0047】
モータ駆動回路52は、制御部51の指示にしたがってサーボモータ46の基準位置からの回転量を制御する。これにより、操作装置Aの第2把持部12bの回転量の増減に伴ってアーム42L,42Rの先端面42La,42Raの離間距離が増減される。例えば、操作部12の2つの把持部12a,12bを接近離反させるように操作すると、その動作がアーム42L,42Rにおいて再現される。本実施形態では、操作者が第1把持部12aおよび第2把持部12bに指を挿入したときの指間距離と、アーム42L,42Rの先端面42La,42Raの離間距離とが略等しくなるように設定されている。
【0048】
従動側通信部60は、トーン信号変換部53から受信するトーン信号を通信相手に送信する。また、従動側通信部60は、通信相手から受信するトーン信号をトーン信号復元部54に転送する。本実施形態では、上記通信相手は、操作側通信部30である。
【0049】
次に、以上のように構成された力覚提示システム100の使用形態の一例について説明する。以下では、操作側通信部30と従動側通信部60との間で音声通信が確立され、いつでも音声信号が送受信できる状態になっているものとして説明する。
【0050】
先ず、操作者が手動で、操作ユニット10の第2把持部12bを回動させて、把持部12a,12b同士(壁部12c2,12c3同士)を離間させる。このとき、第2把持部12bの回動に伴って、支軸17が回転するため、制御部21は、回転量検出部14から入力される信号に基づいて第2把持部12b(支軸17および回転軸111)の回転量を検出する。そして、制御部21は、検出した回転量および角度設定コマンドをトーン信号変換部22によって送信用トーン信号に変換し、変換した送信用トーン信号を操作側通信部30を通じて従動側通信部60へ送信する。なお、第2把持部12bが動作中は、検出される第2把持部12bの回転量も変化するが、回転量の変化に伴って送信用トーン信号は繰り返し生成され送信される。
【0051】
従動側通信部60は、送信側通信部から受信する上記送信用トーン信号を制御部51に転送する。制御部51は、当該送信用トーン信号をトーン信号復元部23により元の形式のデータに復元する。そして、制御部51は、従動ユニット40のアーム42L,42Rの相対的な回転角が、復元されたデータが示す回転量(回転角)になるように、モータ駆動回路52を介してサーボモータ46を駆動する。なお、制御部51は、操作装置A側からトーン信号が次々に送られてくる場合、従動ユニット40のアーム42L,42Rの相対的な回転角の目標値を順次変更する。
【0052】
つぎに、従動ユニット40のアーム42L,42Rの先端部同士の間に物体1を配置し、操作ユニット10の第2把持部12bを回動させて、把持部12a,12b同士(壁部12c2,12c3同士)を接近させる。このとき、第2把持部12bの回動に伴って、支軸17が回転するため、制御部21は、回転量検出部14から入力される信号に基づいて第2把持部12b(支軸17および回転軸111)の回転量を検出する。そして、制御部21は、検出した回転量および角度設定コマンドをトーン信号変換部22によって送信用トーン信号に変換し、変換した送信用トーン信号を操作側通信部30を通じて従動側通信部60へ送信する。
【0053】
従動側通信部60は、操作側通信部30から受信する上記トーン信号を制御部51に転送する。制御部51は、当該トーン信号をトーン信号復元部23により元の形式のデータに復元し、従動ユニット40のアーム42L,42Rの相対的な回転角が、復元されたデータが示す回転量(回転角)になるように、モータ駆動回路52を介してサーボモータ46を駆動する。
【0054】
従動ユニット40のアーム42L,42Rが物体1を挟持すると、制御部51は、圧力センサ47から入力される情報から従動部42が物体1から受ける反力検出し、コイル117に印加すべき電流値を図6に示すグラフから読み出す。制御部51のトーン信号変換部53は、読み出した上記電流値および電流設定コマンドを、コマンドテーブル26に従って、送信用トーン信号に変換し、従動側通信部60を介して操作側通信部30に送信する。
【0055】
操作側通信部30は、従動側通信部60から受信する上記送信用トーン信号を制御部21に転送する。制御部21は、当該送信用トーン信号をトーン信号復元部23により元の形式のデータに復元する。そして、制御部21は、復元されたデータが示す電流値の電流が電流供給部24から回転抵抗発生装置11のコイル117に給電されるように、電流供給部24を制御する。
【0056】
以上に説明した処理動作が力覚提示システム100において実行される結果、操作部12を操作する操作者の手指等に対して、実際に物体1を掴んだ際に得られる力覚(反力)と略同じ力覚(反力)が提示される。特に、トーン信号への変換処理およびトーン信号からの復元処理が瞬時に実行され、かつ、操作側通信部30と従動側通信部60の間の音声通信によりトーン信号が殆ど遅延なく伝送されることから、操作部12と従動部42は殆ど同時に動作する。よって、本実施形態に係る力覚提示システム100によれば、操作者に提示すべき力覚が操作者の操作に遅れて発現するという従来技術の問題を解消することができる。
【0057】
<他の実施形態>
既述した実施形態では、トーン信号変換部22,53、トーン信号復元部23,54、コマンドテーブル25,26は、制御部21,51に含まれていたが、操作側通信部30および従動側通信部60にスマートフォンなどを適用する場合は、トーン信号変換部22,53、トーン信号復元部23,54、コマンドテーブル25,26をスマートフォンのアプリ機能により実現するようにしてもよい。
【0058】
既述した実施形態では、従動装置Bの制御部51において、反力に関する情報が電流値に関する情報に変換されるが、該変換は、操作装置A側(例えば操作装置Aの制御部21)で実行されるようにしてもよい。この場合、従動側トーン信号変換部53によって反力に関する情報がトーン信号に変換され、従動側通信部60によって反力に関する情報を含むトーン信号が操作側通信部30に送信され、操作装置Aのトーン信号復元部23によってトーン信号が元の形式の反力に関する情報に復元され、制御部21によって反力に関する情報が電流値に関する情報へ変換され、電流供給部24によって電流値に関する情報が指示する値の電流が操作ユニット10のコイル117に供給されることとなる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、例えば、遠隔地にある物体の力覚を使用者に提示することのできる力覚提示システムに適用することができる。
【符号の説明】
【0060】
A 操作装置
B 従動装置
1 物体
11 回転抵抗発生装置
12 操作部
12b 第2把持部(動作部)
14 回転量検出部(動作情報検出部)
21 制御部
22 トーン信号変換部(操作側トーン信号変換部)
23 トーン信号復元部(操作側トーン信号復元部)
30 操作側通信部(操作側送信部、操作側受信部)
42 従動部
42L、42R アーム
43 反力情報検出部
51 制御部
53 トーン信号変換部(従動側トーン信号変換部)
54 トーン信号復元部(従動側トーン信号復元部)
60 従動側通信部(従動側送信部、従動側受信部)
100 力覚提示システム
111 回転軸(回転部)
118 磁気粘性流体
図1
図2
図3
図4
図5
図6