(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】積層造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20231226BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20231226BHJP
B23K 9/032 20060101ALI20231226BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231226BHJP
B33Y 50/00 20150101ALI20231226BHJP
【FI】
B23K31/00 K
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K9/032 Z
B33Y10/00
B33Y50/00
(21)【出願番号】P 2020138613
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】飛田 正俊
(72)【発明者】
【氏名】吉川 旭則
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-505799(JP,A)
【文献】特開2018-001750(JP,A)
【文献】特開2018-126760(JP,A)
【文献】特開2020-001059(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 31/00
B23K 9/04
B23K 9/032
B33Y 10/00
B33Y 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記造形物の目標形状をもとに前記溶着ビードを積層させて前記造形物を造形するための積層計画を作成する積層計画工程と、
前記積層計画に基づき前記溶着ビードを繰り返し積層する造形工程と、
を含み、
前記造形工程は、
前記溶着ビードによって枠部を造形する枠部造形工程と、
前記枠部内に複数の溶着ビードを並列に形成して前記溶着ビードからなる溶着ビード層が積層された内部造形部を造形する内部造形工程と、
を有し、
前記内部造形工程において、
前記溶着ビード層を積層させる下地の形状を計測する事前計測処理と、
計測した前記下地の形状の実測値から前記下地の実測プロファイルを作成するとともに、前記積層計画から前記下地の計画プロファイルを求め、前記計画プロファイルに対する前記実測プロファイルの乖離量を算出する乖離量算出処理と、
前記下地上に前記溶着ビード層を積層させる際に、前記乖離量を低減させるべく前記積層計画における前記溶着ビード層を構成する前記溶着ビードの溶接条件を補正する事前補正処理と、
を行
い、
前記事前計測処理において、
前記枠部を含む前記枠部の内側を、前記枠部に沿って計測する、
積層造形物の製造方法。
【請求項2】
前記事前計測処理において、前記溶加材を溶融させて前記溶着ビードを形成するトーチに並設された形状センサによって前記下地の形状を計測する、
請求項1に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項3】
前記事前計測処理において、
前記形状センサを前記枠部に対して相対的に内側へ傾けて形状の計測を行う、
請求項2に記載の積層造形物の製造方法。
【請求項4】
前記内部造形工程において、
前記形状センサによって前記下地の形状を計測し、計測した前記下地の形状に基づいて、前記積層計画に基づく前記溶着ビードの溶接条件をリアルタイムで補正しながら前記溶着ビードを形成するリアルタイム補正処理を行う、
請求項2又は3に記載の積層造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、生産手段としての3Dプリンタのニーズが高まっており、特に金属材料への適用については航空機業界等で実用化に向けて研究開発が行われている。金属材料を用いた3Dプリンタは、レーザやアーク等の熱源を用いて、金属粉体や金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する。
【0003】
このような造形物を溶接で造形する技術として、特許文献1には、輪郭線部分の造形と輪郭線部分で囲われた充填部分の造形とをそれぞれ異なる溶接条件で造形することが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、建設用の鉄柱を溶接する場合に、既に溶接された溶着ビードの形状をレーザセンサによりリアルタイムで計測し、計測されたビード形状に応じてデータベースから溶接条件を選定することで、溶接トーチの狙い位置、溶接電流及び溶接電圧等を調整する方法が記載されている。
【0005】
さらに、非特許文献1には、溶融ワイヤによる積層造形において、レーザセンサで計測したビード形状に応じて、形成する溶着ビードの高さと幅を、溶接電圧と溶接速度とを制御して調整する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2018-187679号公報
【文献】特開平9-182962号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Han Q., Li Y., Zhang G. (2018) Online Control of Deposited Geometry of Multi-layer Multi-bead Structure for Wire and Arc Additive Manufacturing. In: Chen S., Zhang Y., Feng Z. (eds) Transactions on Intelligent Welding Manufacturing. Transactions on Intelligent Welding Manufacturing. Springer, Singapore
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1のように、輪郭線部分からなる外枠を事前に造形して内部を充填する造形方法において、特許文献2及び非特許文献1のように、形成した溶着ビードの形状を形状センサによって計測しながら次工程でのビード形成位置や溶接条件等をフィードバック制御することが考えられる。
【0009】
しかし、この場合、輪郭線部分からなる外枠の近傍の形状を形状センサで計測する際に、外枠が邪魔となって外枠内で溶着ビードを積層させる領域の形状を形状センサによって計測することができなくなることがある。すると、フィードバック制御によってリアルタイムに補正しながら溶着ビードを形成することが困難となり、溶着ビードの積層精度が低下してしまうおそれがある。
【0010】
そこで本発明は、形状センサによる計測結果に基づいて、高精度に溶着ビードを積層して高品質な積層造形物を製造することが可能な積層造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は下記構成からなる。
溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記造形物の目標形状をもとに前記溶着ビードを積層させて前記造形物を造形するための積層計画を作成する積層計画工程と、
前記積層計画に基づき前記溶着ビードを繰り返し積層する造形工程と、
を含み、
前記造形工程は、
前記溶着ビードによって枠部を造形する枠部造形工程と、
前記枠部内に複数の溶着ビードを並列に形成して前記溶着ビードからなる溶着ビード層が積層された内部造形部を造形する内部造形工程と、
を有し、
前記内部造形工程において、
前記溶着ビード層を積層させる下地の形状を計測する事前計測処理と、
計測した前記下地の形状の実測値から前記下地の実測プロファイルを作成するとともに、前記積層計画から前記下地の計画プロファイルを求め、前記計画プロファイルに対する前記実測プロファイルの乖離量を算出する乖離量算出処理と、
前記下地上に前記溶着ビード層を積層させる際に、前記乖離量を低減させるべく前記積層計画における前記溶着ビード層を構成する前記溶着ビードの溶接条件を補正する事前補正処理と、
を行う、
積層造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、形状センサによる計測結果に基づいて、高精度に溶着ビードを積層して高品質な積層造形物を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態の製造方法で積層造形物を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
【
図2】形状センサについて説明する概略側面図である。
【
図3】積層造形物の一例を示す積層造形物の概略断面図である。
【
図4】枠部内に一層目の溶着ビード層を造形した積層造形物の概略断面図である。
【
図5】枠部と形状センサとの位置関係を示す概略断面図である。
【
図6】事前形状計測処理を説明する製造途中の積層造形物の概略斜視図である。
【
図7】事前形状計測処理の応用例を説明する製造途中の積層造形物の概略斜視図である。
【
図8】実測値に基づいた造形途中の積層造形物を示す図であって、(A)は積層造形物の概略断面図、(B)は実測プロファイルを示す図である。
【
図9】積層計画に基づいた造形途中の積層造形物を示す図であって、(A)は積層造形物の概略断面図、(B)は計画プロファイルを示す図である。
【
図10】事前補正処理を説明する図であって、(A)は実測プロファイルと計画プロファイルとの合成図、(B)は乖離量を考慮して補正した二層目の溶着ビード層を構成する溶着ビードの断面形状を示す図である。
【
図11】事前補正処理を行って造形した積層造形物の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の積層造形物の製造に用いる製造システムの構成図である。
本構成の積層造形物の製造システム100は、積層造形装置11と、積層造形装置11を統括制御するコントローラ13と、電源装置15と、を備える。
【0015】
積層造形装置11は、先端軸にトーチ17が設けられた溶接ロボット19と、トーチ17に溶加材(溶接ワイヤ)Mを供給する溶加材供給部21とを有する。この溶接ロボット19の先端軸には、トーチ17とともに形状センサ23が設けられている。
【0016】
溶接ロボット19は、多関節ロボットであり、ロボットアームの先端軸に取り付けたトーチ17には、溶加材Mが連続供給可能に支持される。トーチ17の位置や姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。
【0017】
トーチ17は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する積層造形物に応じて適宜選定される。
【0018】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ17は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、溶加材供給部21からトーチ17に送給される。そして、トーチ17を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、ベースプレート51上に溶加材Mの溶融凝固体である線状の溶着ビードBが形成され、この溶着ビードBからなる積層造形物Wが造形される。
【0019】
図2に示すように、形状センサ23は、トーチ17に並設されており、トーチ17とともに移動される。この形状センサ23は、溶着ビードBを形成する際の下地となる部分の形状を計測するセンサである。この形状センサ23としては、例えば、照射したレーザ光の反射光を高さデータとして取得するレーザセンサが用いられる。なお、形状センサ23としては、3次元形状計測用カメラを用いてもよい。
【0020】
コントローラ13は、CAD/CAM部31と、軌道演算部33と、記憶部35と、乖離量算出部37と、補正部39と、これらが接続される制御部41と、を有する。
【0021】
CAD/CAM部31は、作製しようとする積層造形物Wの形状データ(CADデータ等)を入力又は作成する。
【0022】
軌道演算部33は、3次元形状データの形状モデルを溶着ビードBの高さに応じた複数の溶着ビード層に分解する。そして、分解された形状モデルの各層について、溶着ビードBを形成するためのトーチ17の軌道、及び溶着ビードBを形成する加熱条件(ビード幅、ビード積層高さ等を得るための溶接条件等を含む)を定める積層計画を作成する。
【0023】
乖離量算出部37は、軌道演算部33で生成された積層計画と形状センサ23によって計測された実測値とを比較する。そして、溶着ビードBを形成する際の下地となる部分における積層計画に基づく形状と実測値に基づく形状との乖離量を算出する。
【0024】
補正部39は、乖離量算出部37によって算出された乖離量に基づいて、溶着ビードBを形成する際の積層計画に基づく溶接条件を補正する。
【0025】
制御部41は、記憶部35に記憶された駆動プログラムを実行して、溶接ロボット19や電源装置15等を駆動する。つまり、溶接ロボット19は、コントローラ13からの指令により、トーチ17を移動させるとともに、溶加材Mをアークで溶融させて、ベースプレート51上に溶着ビードBを形成する。
【0026】
なお、ベースプレート51は、鋼板等の金属板からなり、基本的には積層造形物Wの底面(最下層の面)より大きいものが使用される。このベースプレート51は、板状に限らず、ブロック体や棒状等、他の形状のベースであってもよい。
【0027】
溶加材Mとしては、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ溶接及びミグ溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0028】
次に、本実施形態に係る製造方法によって造形する積層造形物の一例について説明する。
図3は、積層造形物Wの一例を示す積層造形物Wの概略断面図である。
図3に示すように、この積層造形物Wは、ベースプレート51上に溶着ビードB1を積層させて造形された枠部53を有している。さらに、この積層造形物Wは、枠部53の内部に溶着ビードB2から造形された内部造形部55を有している。この内部造形部55は、溶着ビードB2からなる溶着ビード層BLを積層させて構成されている。
【0029】
次に、積層造形物Wを造形する場合について説明する。
(枠部造形工程)
積層造形装置11のトーチ17を溶接ロボット19の駆動により移動させながら溶加材Mを溶融させる。そして、溶融した溶加材Mからなる溶着ビードB1をベースプレート51上に供給して積層させ、ベースプレート51上に積層させた溶着ビードB1からなる平面視略矩形状の枠部53を造形する。
【0030】
(内部造形工程)
枠部53の内部に溶着ビードB2を形成する。そして、この溶着ビードB2を、枠部53内における幅方向に形成する。これにより、枠部53内に、並列に形成された複数の溶着ビードB2からなる溶着ビード層BLを形成する。そして、この溶着ビード層BLを枠部53の内部で積層させて内部造形部55を造形する。
【0031】
この製造方法によれば、枠部53の造形後に、この枠部53の内部に内部造形部55を造形するので、内部造形部55を大きな断面積の溶着ビードB2によって効率よく造形することができる。
【0032】
ところで、
図4に示すように、枠部53の内部に内部造形部55を造形すべく、溶着ビードB2からなる溶着ビード層BLを積層させる際に、例えば、一層目の溶着ビード層BLを構成する各溶着ビードB2の境界部分に谷状の凹みが形成され、一層目の溶着ビード層BLの上面が凹凸形状となることがある。つまり、上層となる二層目の溶着ビード層BLを造形する際に、この溶着ビード層BLの下地となる一層目の溶着ビード層BLの上面形状が積層計画に基づく形状と乖離してしまうことがある。すると、この一層目の溶着ビード層BLに二層目の溶着ビード層BLを積層計画通りに造形したとしても積層造形物Wが目標形状に造形されなくなってしまう。
【0033】
この場合、内部造形部55を構成する溶着ビードB2を形成する際に、下地の形状をリアルタイムで計測し、この計測結果をフィードバックさせて溶着ビードB2の溶接条件を補正すればよい。しかし、
図5に示すように、枠部53の付近では、形状センサ23によって下地の形状を計測に際に、枠部53が邪魔となり、形状センサ23による形状の計測ができず、リアルタイムでのフィードバック制御が困難となる。
【0034】
このため、本実施形態では、目標形状の積層造形物Wを造形すべく、溶着ビード層BLを造形する際に、以下に説明する事前形状計測処理、乖離量算出処理及び事前補正処理を行う。ここでは、二層目の溶着ビード層BLを造形する場合を例示して説明する。
【0035】
図6は、事前形状計測処理を説明する製造途中の積層造形物Wの概略斜視図である。
図7は、事前形状計測処理の応用例を説明する製造途中の積層造形物Wの概略斜視図である。
図8は、実測値に基づいた造形途中の積層造形物Wを示す図であって、(A)は積層造形物Wの概略断面図、(B)は実測プロファイルRPを示す図である。
図9は、積層計画に基づいた造形途中の積層造形物Wを示す図であって、(A)は積層造形物Wの概略断面図、(B)は計画プロファイルPPを示す図である。
図10は、事前補正処理を説明する図であって、(A)は実測プロファイルRPと計画プロファイルPPとの合成図、(B)は乖離量を考慮して補正した二層目の溶着ビード層BLを構成する溶着ビードB2の断面形状を示す図である。
図11は、事前補正処理を行って造形した積層造形物Wの概略断面図である。
【0036】
(事前形状計測処理)
枠部造形工程による枠部53の造形後、内部造形工程によって一層目の溶着ビード層BLを造形したら(
図4参照)、二層目の溶着ビード層BLを造形する前に、
図6に示すように、造形途中の積層造形物の形状を計測する事前形状計測処理を行う。この事前形状計測処理では、溶接ロボット19を駆動させ、トーチ17に並設された形状センサ23を、二層目の溶着ビード層BLの造形予定箇所に沿って移動させる。そして、この形状センサ23によって溶着ビードB2の形成方向に沿って形状を計測する。なお、この形状センサ23による形状の計測は、溶着ビードB2の形成方向に沿う方向と異なる方向に行ってもよい。このとき、既に造形されている枠部53に形状センサ23が干渉するため、枠部53の内縁部分の形状計測が困難となることがある。このような場合は、
図7に示すように、枠部53に対して形状センサ23を相対的に内側へ傾け、形状センサ23による計測範囲を枠部53の内側に向ける。これにより、形状センサ23による計測が枠部53自体によって遮蔽されるのを回避しつつ、枠部53の内側の形状を良好に計測することができる。
【0037】
図8の(A)は、形状センサ23の実測値に基づいた造形途中の造形物の断面形状を示すものである。この実測値に基づいた断面形状では、
図8の(A)における領域S1が二層目に積層すべき溶着ビード層BLの断面形状となる。そして、この実測値の断面形状に基づいて、
図8の(B)に示すように、造形途中における造形物の実測プロファイルRPを作成する。
【0038】
(乖離量算出処理)
乖離量算出部37が、形状センサ23の実測値に基づいて作成された造形途中における造形物の実測プロファイルと、積層計画に基づいた造形途中における造形物の計画プロファイルとを比較し、計画プロファイルに対する実測プロファイルの乖離量を算出する。
【0039】
図9の(A)は、積層計画に基づいた造形途中の造形物の断面形状を示すものである。この積層計画に基づいた断面形状では、
図9の(A)における領域S2が二層目に積層すべき溶着ビード層BLの断面形状となる。そして、この積層計画の断面形状に基づいて、
図9の(B)に示すように、造形途中における造形物の計画プロファイルPPを作成する。
【0040】
図10の(A)に示すように、乖離量算出部37は、実測プロファイルRPと計画プロファイルPPとを比較し、計画プロファイルPPに対する実測プロファイルRPの乖離領域S3(
図10の(A)におけるハッチング部分)を割り出し、この乖離領域S3の断面積である乖離量を算出する。なお、乖離量算出部37は、乖離量の算出とともに、乖離位置を求める。
【0041】
(事前補正処理)
次に、補正部39が計画プロファイルPPと実測プロファイルRPとの乖離量及び乖離位置に基づいて、二層目の溶着ビード層BLを造形するための溶着ビードB2の溶接条件を補正する事前補正処理を行う。具体的には、
図10の(B)に示すように、補正部39は、計画プロファイルPPと実測プロファイルRPとの乖離量及び乖離位置を考慮し、二層目の溶着ビード層BLの表面が積層計画通りに形成されるように、溶着ビードB2の溶接条件を補正する。本例では、実際に造形した一層目の溶着ビード層BLは、積層計画に基づく計画上の一層目の溶着ビード層BLに対して断面積が小さくなっている。この場合、二層目の溶着ビード層BLを形成する溶着ビードB2の断面積を増加させるように溶接条件を補正する。なお、実際に造形した一層目の溶着ビード層BLの断面積が積層計画に基づく計画上の一層目の溶着ビード層BLよりも大きかった場合では、二層目の溶着ビード層BLを形成する溶着ビードB2の断面積を減少させるように溶接条件を補正する。この溶着ビードB2の断面積を増減させる溶接条件の補正は、溶着ビードB2を形成する際の溶接速度、溶加材Mの送給量あるいは溶接電流を調整することにより行う。なお、この補正は、例えば、過不足分をカバーする断面積を有する溶着ビードの溶接条件を、予め蓄積した溶接条件のデータベースから探索して設定するのが好ましい。
【0042】
その後、
図11に示すように、補正した溶接条件で溶着ビードB2を一層目の溶着ビード層BL上に形成し、二層目の溶着ビード層BLを造形する。すると、計画プロファイルPPと実測プロファイルRPとの乖離が補われ、補正した溶接条件で形成した溶着ビードB2からなる二層目の溶着ビード層BLの上面が積層計画に基づく形状に近似される。
【0043】
以上、説明したように、本実施形態に係る積層造形物の製造方法によれば、枠部53を造形し、その枠部53内に内部造形部55を造形するので、例えば、内部造形部55を大きな断面積の溶着ビードB2によって効率よく造形することができる。このように、枠部53内に内部造形部55を造形する積層造形物Wの製造方法において、溶着ビード層BLを積層させる下地の形状を計測して実測プロファイルRPを作成し、積層計画から下地の計画プロファイルPPを求め、この計画プロファイルPPに対する実測プロファイルRPの乖離量を算出する。そして、枠部53内の下地上に溶着ビード層BLを積層させる際に、乖離量を低減させるべく、積層計画における溶着ビード層BLを構成する溶着ビードB2の溶接条件を補正する。したがって、枠部53内における下地の形状が積層計画から求められる計画プロファイルPPと乖離していても、この下地上に積層させた溶着ビードB2からなる溶着ビード層BLを積層計画の形状に近似させることができる。これにより、枠部53があるために下地の形状をリアルタイムで計測してフィードバック制御しながら溶着ビードB2を形成することが困難であっても、内部造形部55を積層計画に合わせて良好に造形することができる。
【0044】
また、下地の形状を計測する形状センサ23は、積層計画に基づいて移動させるトーチ17に並設されているので、積層計画に基づくトーチ17の軌道を形状センサ23による計測動作に流用することができる。これにより、形状センサ23を移動させるための軌道プログラムを作成することなく、形状センサ23による下地の形状を容易に計測することができる。
【0045】
また、形状センサ23をトーチ17に並設させた場合においても、形状センサ23を枠部53に対して相対的に内側へ傾けて形状を計測することにより、枠部53に対する形状センサ23の干渉を抑えつつ枠部53の内側近傍部分の形状を良好に計測することができる。
【0046】
なお、内部造形部55を造形する内部造形工程において、例えば、枠部53によって形状の計測が邪魔されない枠部53から離れた中央位置では、溶着ビードB2の溶接条件を下地の形状に応じてリアルタイムで補正して形成してもよい。具体的には、トーチ17に並設された形状センサ23によって下地の形状を計測しつつ、計測した下地の形状に基づいて、積層計画に基づく溶着ビードB2の溶接条件をリアルタイムで補正しながらトーチ17によって溶着ビードB2を形成するリアルタイム補正処理を行ってもよい。
【0047】
このように、内部造形工程において、事前補正処理とともに、枠部53によって形状の計測が邪魔されない位置でリアルタイム補正処理を行うことにより、枠部53内の内部造形部55を良好にかつより効率的に造形することができる。
【0048】
また、事前計測処理では、リアルタイムで形状を計測してフィードバック制御するのが困難な枠部53を含む枠部53の内側を枠部53に沿って事前に計測する。したがって、枠部53の内部の全範囲の形状を事前に計測する場合と比べ、効率的に下地の特定部分の形状を計測して事前補正処理を行うことができる。
【0049】
なお、枠部53内に三層以上の溶着ビード層BLを積層させる場合では、三層目以降の溶着ビード層BLを造形する際に、事前形状計測処理、乖離量算出処理及び事前補正処理を行うのが好ましい。また、一層目の溶着ビード層BLを造形する際に、この一層目の溶着ビード層BLの下地となるベースプレート51の形状を計測し、乖離量算出処理及び事前補正処理を行ってもよい。
【0050】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0051】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードを積層させて造形物を造形する積層造形物の製造方法であって、
前記造形物の目標形状をもとに前記溶着ビードを積層させて前記造形物を造形するための積層計画を作成する積層計画工程と、
前記積層計画に基づき前記溶着ビードを繰り返し積層する造形工程と、
を含み、
前記造形工程は、
前記溶着ビードによって枠部を造形する枠部造形工程と、
前記枠部内に複数の溶着ビードを並列に形成して前記溶着ビードからなる溶着ビード層が積層された内部造形部を造形する内部造形工程と、
を有し、
前記内部造形工程において、
前記溶着ビード層を積層させる下地の形状を計測する事前計測処理と、
計測した前記下地の形状の実測値から前記下地の実測プロファイルを作成するとともに、前記積層計画から前記下地の計画プロファイルを求め、前記計画プロファイルに対する前記実測プロファイルの乖離量を算出する乖離量算出処理と、
前記下地上に前記溶着ビード層を積層させる際に、前記乖離量を低減させるべく前記積層計画における前記溶着ビード層を構成する前記溶着ビードの溶接条件を補正する事前補正処理と、
を行う、積層造形物の製造方法。
この構成の積層造形物の製造方法によれば、枠部を造形し、その枠部内に内部造形部を造形するので、例えば、内部造形部を大きな断面積の溶着ビードによって効率よく造形することができる。このように、枠部内に内部造形部を造形する積層造形物の製造方法において、溶着ビード層を積層させる下地の形状を計測して実測プロファイルを作成し、積層計画から下地の計画プロファイルを求め、この計画プロファイルに対する実測プロファイルの乖離量を算出する。そして、枠部内の下地上に溶着ビード層を積層させる際に、乖離量を低減させるべく、積層計画における溶着ビード層を構成する溶着ビードの溶接条件を補正する。したがって、枠部内における下地の形状が積層計画から求められる計画プロファイルと乖離していても、この下地上に積層させた溶着ビードからなる溶着ビード層を積層計画の形状に近似させることができる。これにより、枠部があるために下地の形状をリアルタイムで計測してフィードバック制御しながら溶着ビードを形成することが困難であっても、内部造形部を積層計画に合わせて良好に造形することができる。
【0052】
(2) 前記事前計測処理において、前記溶加材を溶融させて前記溶着ビードを形成するトーチに並設された形状センサによって前記下地の形状を計測する、(1)に記載の積層造形物の製造方法。
この構成の積層造形物の製造方法によれば、形状センサが積層計画に基づいて移動させるトーチに並設されているので、積層計画に基づくトーチの軌道を形状センサによる計測動作に流用することができる。これにより、形状センサによる下地の形状を容易に計測することができる。
【0053】
(3) 前記事前計測処理において、
前記形状センサを前記枠部に対して相対的に内側へ傾けて形状の計測を行う、(2)に記載の積層造形物の製造方法。
この構成の積層造形物の製造方法によれば、形状センサを枠部に対して相対的に内側へ傾けて形状を計測する。これにより、枠部に対する形状センサの干渉を抑えつつ枠部の内側近傍部分の形状を良好に計測することができる。
【0054】
(4) 前記内部造形工程において、
前記形状センサによって前記下地の形状を計測し、計測した前記下地の形状に基づいて、前記積層計画に基づく前記溶着ビードの溶接条件をリアルタイムで補正しながら前記溶着ビードを形成するリアルタイム補正処理を行う、(2)又は(3)に記載の積層造形物の製造方法。
この構成の積層造形物の製造方法によれば、枠部内に内部造形部を造形する際に、事前補正処理とともにリアルタイム補正処理を行う。つまり、枠部によって形状の計測が邪魔されない位置では、溶着ビードの溶接条件を下地の形状に応じてリアルタイムで補正して形成する。これにより、枠部内の内部造形部を良好にかつより効率的に造形することができる。
【0055】
(5) 前記事前計測処理において、
前記枠部を含む前記枠部の内側を、前記枠部に沿って計測する、(1)~(5)のいずれか一つに記載の積層造形物の製造方法。
この構成の積層造形物の製造方法によれば、枠部を含む枠部の内側を枠部に沿って事前に計測する。つまり、リアルタイムで形状を計測してフィードバック制御するのが困難な枠部の内側近傍部分を主に事前に計測することにより、枠部の内部の全範囲の形状を事前に計測する場合と比べ、効率的に下地の特定部分の形状を計測して事前補正処理を行うことができる。
【符号の説明】
【0056】
17 トーチ
23 形状センサ
53 枠部
55 内部造形部
B,B1,B2 溶着ビード
BL 溶着ビード層
M 溶加材
PP 計画プロファイル
RP 実測プロファイル
W 積層造形物