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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】バイオマス燃料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 5/44 20060101AFI20231226BHJP
【FI】
C10L5/44
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020152537
(22)【出願日】2020-09-11
(65)【公開番号】P2021127443
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2020022112
(32)【優先日】2020-02-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】池田 志保
(72)【発明者】
【氏名】吉田 拓也
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-229751(JP,A)
【文献】特開平06-047713(JP,A)
【文献】特開2011-153257(JP,A)
【文献】特開2002-361611(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 5/00
B09B 1/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオマスからバイオマス燃料を製造する方法であって、
バイオマス半炭化物を熱間加圧成形する工程を含み、
前記熱間加圧成形する工程の前に、ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方を前記半炭化物に添加する、バイオマス燃料の製造方法。
【請求項2】
前記ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方を添加する前に、前記半炭化物を粉砕する工程を含む、請求項1に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項3】
ギ酸及び酢酸のうち少なくとも一方の添加量が、前記半炭化物に対し、1~26wt%/dbである、請求項1又は2に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項4】
前記熱間加圧成形を100℃超200℃以下の温度で行う、請求項1~3のいずれかに記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項5】
前記バイオマス半炭化物を125~200℃の温度で熱間加圧成形する、請求項4に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項6】
らに、熱間加圧成形工程前にバイオマス原料を半炭化させる工程を含む、請求項1~5のいずれかに記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項7】
前記ギ酸及び酢酸として、前記半炭化工程中に発生する揮発物から得られるギ酸及び酢酸を使用する、請求項6に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【請求項8】
木質系バイオマスからバイオマス燃料を製造する方法であって、
バイオマス半炭化物又は未反応バイオマスを熱間加圧成形する工程を含み、
前記熱間加圧成形する工程の前に、ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方を前記半炭化物又は前記未反応バイオマスに添加する、バイオマス燃料の製造方法。
【請求項9】
前記木質系バイオマスが未反応バイオマスである、請求項8に記載のバイオマス燃料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスからバイオマス燃料を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バイオマスは、原料、燃料として利用できる生物起源の有機物である。例えば、木材、乾燥草木、農産廃棄物、畜産廃棄物、食品・飲料廃棄物、生物学的廃水処理設備や下水処理場における初沈汚泥、余剰汚泥などの有機性汚泥やその脱水汚泥などがこれに該当する。
【0003】
最近では、CO排出削減のため、石炭火力発電所におけるバイオマス混焼の試みが進められている(特許文献1)。バイオマスの中でも特に植物由来のバイオマスは、植物の成長過程で光合成により二酸化炭素から変換された炭素資源を有効利用できるため、燃料として燃焼させても全体の二酸化炭素収支で見れば大気中の二酸化炭素を増加させていないことになる(カーボンニュートラル)。
【0004】
しかし、バイオマスは石炭に比べて高含水率、低密度、低発熱量、低粉砕性、高親水性、高生分解性、高アルカリ含有などの特徴を持つことにより、直接利用が難しく、また輸送・貯蔵・ハンドリングにおいても問題がある。それらの問題を解決するための従来技術のひとつに、バイオマスの前処理法として半炭化処理と圧密成型がある。
【0005】
半炭化処理はバイオマスの質量当たりのエネルギー密度向上に加え、疎水性付与、含水率低下、生分解性低下、粉砕性向上等の効果も期待できる。特に粉砕性が向上することで、石炭火力発電所の既設粉砕機の利用と高混焼率を同時に達成できる可能性がある。具体的には、木質チップ(木質バイオマスを破砕したもの)を既設の石炭用粉砕機で石炭と一緒に粉砕する場合、混焼率2~3cal%が上限となるが、木質半炭化ペレット(木質チップを半炭化させ、圧密成形したもの)の場合は、混焼率10~30cal%が可能となるという報告がある(非特許文献1)。
【0006】
また、圧密成型は、バイオマスの体積当たりのエネルギー密度を向上させることができる。バイオマスの成型に影響を与える因子に関しては、様々な報告がある(非特許文献2)。
【0007】
上述したような半炭化処理と圧密成型により、バイオマスの燃料としての性状を向上させることができる。
【0008】
さらに、バイオマスの炭化物を粉砕し、粉砕された前記炭化物に凝集剤を混合して粒子を凝集させることで凝集物を形成し、前記凝集物を圧密成形することで炭化物固化体を得ることを特徴とする炭化物固化体の製造方法もこれまでに報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2019-59880号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】大高 円「バイオマス燃料の特徴と製造」火力原子力発電 Vol.70,No.10,78-83,(2019年)
【文献】Mostafa MEら、Renew Sustain Energy Rev(2019年)Vol.105:332-48頁
【文献】L.Caoら、Bioresource Technology Vol.185 (2015年)254-262頁
【文献】Garcia Rら、Fuel(2018年)215:290-7頁
【文献】D.Luら、Biomass Bioenergy Vol.69(2014年) 287-296頁
【文献】J.Cheng,Fら、Fuel Process. Technol.Vol.179(2018年)229-237頁
【文献】Si Yら、Energy Fuels(2016年)30:5799-808頁
【文献】Azargohar Rら、Ind Crops Prod(2019年)128:424-35頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、半炭化処理はバイオマスの成型性に強く影響し、特に乾式半炭化処理により得られるバイオマス半炭化物は成型性が低く、ハンドリング時の粉塵爆発の危険性等の問題につながるおそれがある(非特許文献2)。成型性を向上させて必要強度を得るためには成型時にバインダーが必要となり、コストアップ要因となる。
【0012】
このバイオマス半炭化物のバインダーとしては、castor bean cake(CAS)(非特許文献3、グリセロール(非特許文献4)などが知られている。また、バインダーの添加方法に関して、固体バインダーは、加熱して溶かす(非特許文献5、6)、水に溶かす(非特許文献7)等といった処理が必要となる。さらに、バイオマス試料とバインダーを十分に混合するために、15分間の撹拌を12時間ごとに少なくとも6回行うことや(非特許文献5)、20分間の撹拌後に24時間4℃環境で静置(非特許文献8)、という混合処理も必要となる場合がある。
【0013】
また、特許文献1では、バイオマス炭化物についての検討はなされているが、未反応バイオマス及び半炭化物についての検討はされていない。ここで、バイオマス炭化物、半炭化バイオマス、未反応バイオマスの違いとして、未反応バイオマス(木質)はセルロース(繊維)、ヘミセルロース、及びリグニンを含んで構成され、半炭化バイオマス(~280℃で炭化処理)は、ヘミセルロース、及びリグニンは分解されるが、セルロース(繊維)が残存している。一方で、炭化物(一般的に、400℃以上の炭化処理を行ったバイオマス)では、バイオマス中の繊維構造は炭化反応により壊れ、より炭素質になっているという違いがあり、炭化物と、半炭化バイオマス及び未反応バイオマスとを同じような処理で同様の結果が得られるかどうかは不明である。
【0014】
本発明は、上記の様な問題点に着目してなされたものであって、その目的は、半炭化バイオマス又は未反応バイオマスから、効率良く低コストで、高強度のバイオマス燃料を得る方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討を重ね、下記構成によって上記課題が解決できることを見出した。
【0016】
すなわち、本発明の一局面に係るバイオマス燃料の製造方法は、バイオマス半炭化物又は未反応バイオマスを熱間加圧成形する工程を含み、前記熱間加圧成形する工程の前に、ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方を前記半炭化物又は前記未反応バイオマスに添加することを特徴とする。
【0017】
また、前記製造方法において、前記ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方を添加する前に、前記半炭化物及び前記未反応バイオマスのうち少なくともいずれか1つを粉砕する工程を含むことが好ましい。
【0018】
さらに、ギ酸及び酢酸のうち少なくとも一方の添加量が、前記半炭化物又は前記未反応バイオマスに対し、1~26wt%/dbであることが好ましい。
【0019】
また、前記製造方法において、前記熱間加圧成形を100超200℃以下の温度で行うことが好ましい。さらに、未反応バイオマスを用いる場合は、前記未反応バイオマスを130~200℃の温度で熱間加圧成形すること、もしくは、半炭化物を用いる場合は、前記バイオマス半炭化物を125~200℃の温度で熱間加圧成形することが好ましい。
【0020】
また、前記製造方法において、バイオマス半炭化物を用いる場合、さらに、熱間加圧成形工程前にバイオマス原料を半炭化させる工程を含むことが好ましい。その場合には、前記ギ酸及び酢酸として、半炭化工程中に発生する揮発物から得られるギ酸及び酢酸を使用することが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、半炭化バイオマス又は未反応バイオマスから、効率良く低コストで、高強度のバイオマス燃料を得る方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、試験例1における各実施例及び比較例の圧壊強度比を示すグラフである。
図2図2は、試験例3における各実施例及び比較例の圧壊強度比を示すグラフである。
図3図3は、試験例4における各実施例及び比較例の圧壊強度比を示すグラフである。
図4図4は、試験例4における成型温度とバイオマス半炭化物の圧壊強度比との関係を示すグラフである。
図5図5は、試験例4における成型温度と未反応バイオマスの圧壊強度比との関係を示すグラフである。
図6図6は、試験例5における各実施例及び比較例の圧壊強度比を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
上述したように、本実施形態のバイオマス燃料の製造方法は、バイオマス半炭化物又は未反応バイオマスを熱間加圧成形する工程を含み、前記熱間加圧成形する工程の前に、ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方を前記半炭化物又は前記未反応バイオマスに添加することを特徴とする。
【0024】
このような構成により、得られるバイオマス燃料の強度を従来より大きく向上させることができる。ギ酸水溶液及び酢酸水溶液は、液体であるため半炭化物又は未反応バイオマスへの直接添加が可能で、従来技術使用されていたCAS又はグリセロールといった固形バインダーを使用する場合のような煩雑な混合処理は必要ではないため、効率的である。
【0025】
ギ酸及び/又は酢酸添加によって高強度のバイオマス燃料が得られる理由としては、150℃程度での加圧成型時に、ギ酸及び酢酸がバイオマスの構成成分(植物由来のバイオマスの場合、主にセルロース・ヘミセルロース・リグニン)に作用し、結合構造がより強固なものとなっていることが考えられる。具体的には、酸添加により、半炭化物中又は未反応バイオマス中のセルロース繊維構造の緩和、セルロース、ヘミセルロース、リグニン間の結合緩和が生じ、これを加圧成型することで、より繊維同士が近接した高強度の構造が得られるためと考えられる。
【0026】
以下、本発明の実施の形態についてより具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0027】
(バイオマス原料)
本実施形態で使用するバイオマスについては、特に限定はされないが、植物由来のバイオマスであることが好ましい。植物由来のバイオマスとは、植物由来の有機物資源をいい、木材、乾燥草木、農業系又は林業系の廃棄物が含まれる。当該バイオマスは典型的にはセルロース、ヘミセルロース及びリグニンを主成分とする。
【0028】
具体的には、例えば、間伐材、剪定枝、廃材、樹皮チップ、その他の木材、竹、草、やし殻、パームオイル残渣(EFB:Empty Fruit Bunch)、過剰生産による廃棄野菜、野菜クズ、カット野菜、果実、おが屑、麦わら、稲わら、及び籾殻等を挙げることができる。これらの植物由来バイオマスの中でも、資源量が豊富であるという観点から、木質系バイオマス、EFB等を用いることが好ましい。
【0029】
本実施形態において後述する熱間加圧成型工程に供するのは、未反応バイオマスでもバイオマス半炭化物であってもよい。本明細書において、「未反応バイオマス」とは、炭化又は半炭化等による化学反応が起こっていない状態のバイオマスを指す。ただし、例えば、バイオマスを粉砕したもの、又は、水分を蒸発させるなどの処理(含水率の調整等)を行ったものは本実施形態の「未反応バイオマス」に包含される。
【0030】
前記未反応バイオマスを用いる場合、そのまま後述の熱間加圧成型工程に供するか、あるいは、必要に応じて、破砕手段で適度な大きさに破砕してから、及び/又は、適度に水分を蒸発させてから、後述の熱間加圧成型工程に供すればよい。一方で、半炭化物を用いる場合、まずバイオマス原料を半炭化させる工程を行う。
【0031】
(半炭化工程)
本工程では、上述したようなバイオマス原料を半炭化処理に供する。本実施形態の半炭化処理は特に限定されず、乾式半炭化であっても湿式半炭化であってもよい。特に乾式半炭化物で造粒性が低い炭化物に、本実施形態が有効であるという観点から、乾式半炭化を行うことが望ましい。湿式半炭化物の成型品は、バインダー無しでも必要強度(輸送に耐えうる強度)が得られることが知られているため、本実施形態では乾式半炭化を主な対象とする。
【0032】
バイオマス原料はそのまま半炭化処理に供してもよいが、必要に応じて、破砕手段で適度な大きさに破砕してから用いてもよい。
【0033】
半炭化処理としては従来バイオマスの製造のために使用されている半炭化方法を特に限定なく使用することができる。具体的には、乾式半炭化処理の場合の一例を挙げると、不活性雰囲気下で、200~300℃の温度域で10~60分間程度、半炭化を行ってもよい。ここでいう不活性雰囲気とは、窒素、又は二酸化炭素など、バイオマス原料と反応しない気体をさす。また、炭化温度まで迅速に昇温するため、過熱水蒸気を用いてもよい。
【0034】
(ギ酸水溶液及び/又は酢酸水溶液の添加)
次いで、上記で得られたバイオマスの半炭化物又は未反応バイオマスに、ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方を添加する。
【0035】
添加の方法は特に限定されないが、ギ酸水溶液及び酢酸水溶液は液体であるため、前記半炭化物又は未反応バイオマスに直接添加することができる。ギ酸及び酢酸のうち少なくとも一方の添加量(添加率)は、前記半炭化物に対し、1~26wt%/db(ドライベース)程度であることが好ましい。なお、含水している場合、乾燥ベースのドライベース(db)に対して、ウェットベース(wb)と称することもあるが、それぞれの計算方法は後述の実施例に記載の方法を用いる。添加量が1wt%/db未満となると、成型品の強度向上率が小さく、必要強度(例えば、輸送に耐え得る強度)が得られないおそれがあり、一方で、26wt%/dbを超えると、半炭化物中又は未反応バイオマスの液体分が増加しすぎるため強度が下がる傾向があり好ましくない。より好ましい添加量の下限値は、4wt%/dbであり、より好ましい上限値は22wt%/dbである。
【0036】
ギ酸水溶液又は酢酸水溶液を使用する場合、それらの濃度は、ギ酸及び/又は酢酸の添加率が上記範囲となる濃度であれば特に限定はない。例えば、ギ酸水溶液を使用する場合、そのギ酸濃度は、30~70重量%程度であり、また、酢酸水溶液を使用する場合、その酢酸濃度は、30~70重量%程度であってもよい。
【0037】
ギ酸水溶液及び酢酸水溶液はいずれか一方を単独で使用してもよいし、両方を組み合わせて使用することもできる。
【0038】
ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方を添加した後、バイオマス半炭化物又は未反応バイオマスと混合するため、攪拌を行うことが好ましい。攪拌方法には特に限定はなく、ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方と、半炭化物又は未反応バイオマスとが均一に混合される手段であればよい。本実施形態の方法では、固形バインダーではなく水溶液を混合するため、従来法のような長時間の攪拌などは不必要であり、例えば、ビーカーの中のサンプルを、スパチュラを用いて適切な時間攪拌すれば十分である。
【0039】
さらに、本実施形態の製造方法では、ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方を添加する前に、前記半炭化物及び前記未反応バイオマスのうち少なくともいずれか1つを粉砕する工程を含むことが好ましい。それにより、ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方と前記バイオマス半炭化物又は未反応バイオマスとを混合する際に、より均一に混合することができると考えられる。
【0040】
この粉砕工程は、前記半炭化物及び前記未反応バイオマスのうち少なくともいずれか1つに対して行えばよく、例えば、未反応バイオマス又はバイオマス半炭化物に対して行ってもよいし、半炭化する前のバイオマス原料を予め粉砕しておいてもよい。
【0041】
未反応バイオマス又は半炭化物を粉砕する方法については特に限定はなく、例えば、ブレンダー、乳鉢、カッターミル、ボールミル等を用いて、粉砕することができる。
【0042】
得られる粉砕物のサイズについても特に限定はないが、より小粒径の方が成型品の強度は向上するという観点から、例えば、長径が1mm程度以下となる程度まで粉砕することが好ましい。
【0043】
なお、上記半炭化工程で得られた半炭化物は、ギ酸水溶液及び酢酸水溶液のうち少なくとも一方を添加する前に、100℃程度以下となるように冷却してから添加することが好ましい。
【0044】
さらに、本実施形態の製造方法が前記半炭化工程を含む場合、前記半炭化物に添加するギ酸水溶液及び/又は酢酸水溶液として、前記半炭化工程における反応で発生した揮発物に含まれるギ酸水溶液及び/又は酢酸水溶液を使用することもできる。それにより、新たなバインダー(ギ酸水溶液及び/又は酢酸水溶液)を添加する必要がなくなるため、製造コストの大幅な削減が期待できる。
【0045】
揮発物からのギ酸水溶液及び/又は酢酸水溶液を使用する方法については、例えば、半炭化処理を行う炉から揮発物を抜き出し、ギ酸水溶液及び/又は酢酸水溶液と、揮発物に含まれるその他の主成分(フェノール類)との沸点の違いを利用して、ギ酸水溶液及び/又は酢酸水溶液を回収することができる。
【0046】
(熱間加圧成型工程)
【0047】
上述したギ酸水溶液及び/又は酢酸水溶液の添加工程の後、熱間加圧成型を行うが、成型を行う前に、必要に応じて、得られた半炭化物を粉砕などによってさらに細かくしてから成型してもよい。それによって、半炭化物の造粒物をち密な構造にし、より強度の高い造粒物を得ることができるといった利点がある。粉砕手段及び粉砕後の大きさ等は特に限定はなく、所望する造粒物又は成型物によって適宜調整すればよい。
【0048】
本実施形態の熱間加圧成型は、100℃超200℃以下の温度範囲で行うことが好ましい。前記温度が100℃以下となると、十分な強度が得られないおそれがあり、一方で、上限は特に限定はないが、200℃を超えると必要以上の温度となり、無駄なエネルギー消費となるため200℃以下であることが好ましい。より好ましい温度範囲の下限値は120℃であり、また、より好ましい温度範囲の上限値は180℃である。
【0049】
未反応バイオマスを用いる場合、好ましくは、130~200℃の温度で熱間加圧成型を行うこと、より好ましくは、135℃以上、170℃以下で行うことが望ましい。また、バイオマス半炭化物を用いる場合、より好ましくは、125~200℃の温度で熱間加圧成型を行うこと、より好ましくは、130℃以上、170℃以下で行うことが望ましい。
【0050】
本実施形態において、上述した熱間加圧成型の温度とは、成型に用いる金型の温度を意味する。金型の温度は、熱電対を金型に直接つけて測定することにより求めたり、金型を入れた恒温槽設定温度(目標温度)を設定し、加熱時間との関係で金型温度を設定したりすることによって、調整することができる。具体的な方法としては、例えば、後述の実施例で行った方法を用いることができる。
【0051】
本実施形態の熱間加圧成型工程における成型手段又は成型条件などは、所望する成型物によって、公知の方法及び条件をそのまま、又は改変して、適宜選択することができる。成型物の形状及び大きさも所望するサイズに適宜調整すればよい。
【0052】
例えば、リングダイもしくはフラットダイ型のペレタイザを用いた押出成型、又はロール成型機を用いたブリケット成型をすることによって、バイオマス燃料を造粒又は成型することが可能である。
【0053】
本実施形態によれば、前記成型工程後の成型品の強度が優れているため、燃料として輸送及び利用する際に非常にハンドリングしやすいという利点がある。
【0054】
(バイオマス燃料)
本実施形態の方法で得られるバイオマス燃料は、様々な場面で燃料として使用できる。本実施形態の製造方法によって得られるバイオマス燃料は、従来のバイオマス固形燃料と比べても非常に強度が高く、成型性にも優れるため、産業上極めて有用である。
【0055】
以下では、本発明を、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されない。
【実施例
【0056】
(試験例1)
〔半炭化物からのバイオマス燃料の製造〕
1.半炭化処理
バイオマス原料として、木質バイオマスペレット(含水率約10%-db)を用いて、以下の条件の半炭化処理を行った(なお、含水している場合、乾燥ベースのドライベース(db)に対して、ウェットベース(wb)と称する)。
なお、それぞれの計算は以下の通りである。
・wb(wet base;%)=(サンプル重量-サンプル絶乾重量)/サンプル重量×100
・db(dry base;%)=(サンプル重量-サンプル絶乾重量)/サンプル絶乾重量×100
【0057】
装置としては、小型乾留炉(高周波誘電加熱装置 IMC-ASH-103型,アイメックス株式会社)を使用した。
【0058】
石英容器(内寸φ47.7mm、高さ140mm、内容積200ml)4本に、サンプルを約120g-wbずつ充填し、それらを黒鉛製るつぼに設置して、小型乾留炉にセットした。試験時窒素流量は2L/minとした。
【0059】
温度条件:昇温速度5℃/minで目標温度(260℃程度)まで昇温し、その後30~60分保持し、木質バイオマスの半炭化物を得た。なお、サンプル温度が目標温度の-10℃に達した時点から、保持時間の計測を開始した。
【0060】
2.半炭化物の粉砕
上記で得られた半炭化物をブレンダーで粉砕し、1mmふるい下の粉砕物を得た。
【0061】
3.ギ酸/酢酸水溶液の添加
半炭化物(粉砕品)約50g-dbに、後述の表3及び表4に示す添加率で、純水又はギ酸・酢酸水溶液を滴下又は噴霧し、まんべんなく混ざるように攪拌した。ギ酸・酢酸水溶液添加無し(純水のみを添加)の試験例を比較例とし、実施例として、ギ酸・酢酸水溶液を添加(ギ酸・酢酸添加率0~25wt%-db)した半炭化物を準備し、下記の成型試験に使用した。
【0062】
4.成型及び圧壊強度試験
金型に、上記3.で調整した各実施例及び比較例の試料を仕込み、その状態で加熱した後、下記表1に示す条件で、加圧成型器(金型:特注、油圧ポンプ:理研精機 P-8、シリンダ:理研精機 SC3.6-30)を使用して成型を行った。
【0063】
【表1】
【0064】
なお、本試験における成型前加熱温度とは、試料を仕込んだ加圧成形器(金型)を、加圧成型をする前に恒温槽で加熱した時の、恒温槽の設定温度を意味する。本試験条件では、恒温槽設定温度(目標温度)で、金型内の試料温度がその目標温度に到達するまでの時間を測定し、成型前加熱時間を所望する温度に応じてそれぞれ設定することによって、前記成型前加熱温度を調整した。
前記加圧成型器を用いた場合の各目標温度と加熱時間の関係を、下記表2に示す。
【0065】
【表2】
(*170℃において、2種類の加熱時間となっているのは、n数が複数ある場合、n=1の場合は70分を要したが、n=2の場合は金型に温度履歴が残っていたため40分で目標温度に到達したためである。)
【0066】
本試験では、恒温槽内の加圧成型器が恒温槽の設定温度に到達した後、恒温槽外で加圧成型試験を実施した。上述した加熱前成型温度を本試験では、熱間加圧成型温度(金型温度)とみなす。
【0067】
次に、得られた成型物につき、圧壊試験機(古河大塚鉄工製、「LXA-500」)、動ひずみ測定器(共和電業製、「DPM-711B」)を使用して強度を測定した。圧壊強度値(測定値)は、n=5の平均値である。また、圧壊強度比は、純粋添加時の圧壊強度を1として計算した。
【0068】
結果を表3及び表4にまとめる。なお、表における各試料のギ酸/酢酸添加率、含水率、水溶液添加率はいずれも計算値である。さらに、図1にギ酸/酢酸添加率に対する圧
壊強度比をまとめた。
【0069】
【表3】
【0070】
【表4】
【0071】
(考察)
表3~4及び図1に示されるように、ギ酸又は酢酸を添加することにより、得られるバイオマス成型物の圧壊強度が向上することが確認できた。また、表4の結果から、含水率及び水溶液添加率を一定にした場合でも、ギ酸による圧壊強度向上の効果があることが確認された。
【0072】
(試験例2)
次に、熱間加圧成型工程における温度範囲の検証を行った。
【0073】
具体的には、加圧成型前の試料と、成型前加熱温度(金型温度)を、表5に示すように130~170℃に変更した以外は、試験例1と同様にして、成型・圧壊強度試験を行った。結果を表5に示す。表中、ギ酸添加率は計算値であり、圧壊強度値は測定値(n=5の平均値)である。
【0074】
【表5】
【0075】
(考察)
表5から明らかなように、特に、熱間加圧成型時の温度が150~170℃の範囲であれば、ギ酸水溶液を添加することによって、優れた強度が得られることが確認された。
【0076】
(試験例3)
次に、半炭化物にギ酸水溶液を添加後、十分に浸透させるために静置時間が必要かどうかを確かめるため、ギ酸水溶液添加・撹拌後に、(1)1日以上密封容器内で静置させた後に成型試験を実施した場合と、(2)すぐに成型試験を実施した場合の2通りで圧壊強度の比較を行った。静置時間の有無以外の製造方法、試験方法は上記試験例1と同様にして製造・評価した。
【0077】
下記表6に、静置時間の有無、各試料のギ酸添加率(計算値)、圧壊強度値(測定値、n=5の平均値)及びその標準偏差、図2(エラーバーは2σ)にそれぞれの圧壊強度値を示す。
【0078】
【表6】
【0079】
(考察)
表6及び図2の結果から明らかなように、静置時間の有無にかかわらず、ギ酸水溶液の添加によって成型物の強度が向上することが確認できた。つまり、本発明の製造方法において、ギ酸水溶液を添加した後の静置時間は不要であり、簡便・迅速にバイオマス燃料を製造できることがわかった。
【0080】
(試験例4)
〔未反応バイオマスからのバイオマス燃料の製造〕
1.未反応バイオマスの粉砕
バイオマス原料として、木質バイオマスペレット(含水率約10%-db)をブレンダーで粉砕し、1mmふるい下の粉砕物を得た。
【0081】
2.ギ酸/酢酸水溶液の添加
未反応バイオマス(粉砕品)約50g-dbに、後述の表9に示す添加率で、純水又はギ酸・酢酸水溶液を滴下又は噴霧し、まんべんなく混ざるように攪拌した。ギ酸・酢酸水溶液添加無し(純水のみを添加)の試験例を比較例とし、実施例として、ギ酸・酢酸水溶液を添加した未反応バイオマスを準備し、下記の成型試験に使用した。
【0082】
3.成型及び圧壊強度試験
金型に、上記2.で調整した各実施例及び比較例の試料を仕込み、その状態で加熱した後、下記表7(条件A:下記評価試験Aで使用)又は表8(条件B:下記評価試験Bで使用)に示す条件で、成型を行った。なお、表7(条件A)における成型前加熱温度とは、前記試験例1の成型前加熱温度と同じ意味である。また、表8における金型温度とは、金型に設置した熱電対温度である。表8の条件Bでは、試料を仕込んだ加圧成型器を恒温槽内に設置した状態で、加圧成型試験を実施した。
表7の成型前加熱温度及び表8の金型温度のいずれも熱間加圧成型温度とみなす。
【0083】
【表7】
【0084】
【表8】
【0085】
(評価試験A)
前記条件Aで得られた成型物につき、圧壊試験機(古河大塚鉄工製、「LXA-500」)、動ひずみ測定器(共和電業製、「DPM-711B」)を使用して強度を測定した。圧壊強度値(測定値)は、n=5の平均値である。また、圧壊強度比は、純粋添加時の圧壊強度を1として計算した。
【0086】
結果を表9にまとめる。なお、表における各試料のギ酸/酢酸添加率、含水率、水溶液添加率はいずれも計算値である。さらに、図3にギ酸/酢酸添加率に対する圧壊強度比をまとめた。
【0087】
【表9】
【0088】
(考察)
表9及び図3に示されるように、ギ酸又は酢酸を添加することにより、未反応バイオマスから得られるバイオマス成型物の圧壊強度が向上することが確認できた。
【0089】
(評価試験B)
次に、熱間加圧成型工程における温度範囲の検証を行った。具体的には、半炭化バイオマス及び未反応バイオマスの試料におけるギ酸添加率、及び、熱間加圧成型に用いる金型の温度を、表10に示すように100~140℃に変更して、上記条件Bで得られた成型物につき、圧壊強度試験を行った。結果を表10及び図4~5(エラーバーは2σ)に示す。表中、ギ酸添加率は計算値であり、圧壊強度値は測定値(n=3の平均値)である。なお、半炭化物としては試験例1と同様にして得た粉砕物を、未反応バイオマスとしては試験例4と同様にして得た粉砕物を使用した。
【0090】
【表10】
【0091】
(考察)
表10及び図4~5に示されるように、バイオマス半炭化物では125℃以上、未反応バイオマスでは130℃以上の温度の熱間成型で、ギ酸添加による成型強度がより向上することがわかった。一方、バイオマス半炭化物においても、未反応バイオマスにおいても、100℃以下の温度では、十分な強度が得られず、成型ができなかった。
【0092】
(試験例5)
〔未反応バイオマスからのバイオマス燃料の製造2〕
1.原料
バイオマス原料として、セルロース粉末を用いた。
【0093】
2.ギ酸/酢酸水溶液の添加
セルロース粉末約50g-dbに、後述の表11に示す添加率で、純水又はギ酸水溶液を滴下又は噴霧し、まんべんなく混ざるように攪拌した。ギ酸水溶液添加無し(純水のみを添加)の試験例を比較例とし、実施例として、ギ酸52%水溶液及び72%水溶液を添加した未反応バイオマス(生セルロース)を準備し、下記の成型試験に使用した。
【0094】
3.成型及び圧壊強度試験
金型に、上記2.で調整した各実施例及び比較例の試料を仕込み、その状態で加熱した後、前記表7(条件A)に示す条件で、成型を行った。
【0095】
表11に各試料のギ酸添加率、含水率、水溶液添加率、圧壊強度値(n=5の平均値)、圧壊強度比(純水添加時の圧壊強度を1とする)をまとめる。さらに、図6にギ酸添加率に対する圧壊強度比をまとめた。
【0096】
【表11】
【0097】
(考察)
表11及び図6に示されるように、ギ酸を添加することにより、未反応バイオマス(生セルロース)から得られるバイオマス成型物の圧壊強度が向上することが確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6