(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】造形条件の設定方法、積層造形方法、積層造形システム、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
B23K 9/04 20060101AFI20231226BHJP
B29C 64/10 20170101ALI20231226BHJP
B29C 64/295 20170101ALI20231226BHJP
B29C 64/393 20170101ALI20231226BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231226BHJP
B33Y 50/02 20150101ALI20231226BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20231226BHJP
B23K 26/34 20140101ALI20231226BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B29C64/10
B29C64/295
B29C64/393
B33Y10/00
B33Y50/02
B23K9/04 Z
B23K26/21 Z
B23K26/34
(21)【出願番号】P 2020161260
(22)【出願日】2020-09-25
【審査請求日】2022-11-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】迎井 直樹
(72)【発明者】
【氏名】泉谷 瞬
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/038985(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0151714(US,A1)
【文献】特開2019-181752(JP,A)
【文献】特開2016-137663(JP,A)
【文献】特開昭61-213970(JP,A)
【文献】特開2019-89100(JP,A)
【文献】特開平7-314134(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00 - 9/32
B23K 26/00 - 26/70
B29C 64/10
B29C 64/295
B29C 64/393
B33Y 10/00
B33Y 50/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の造形形状データに基づいて、指向性のある熱源を用いて前記対象物の積層造形を行うための造形条件の設定方法であって、
前記造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整工程と、
を有し、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の前記熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とする設定方法。
【請求項2】
前記所定の角度は、前記熱源の構成に応じて設定されることを特徴とする請求項1に記載の設定方法。
【請求項3】
前記設定工程は、前記外縁部と前記内部それぞれに対する積層パターンにおいて、前記外縁部の1ビードの高さをH
B、前記内部の1ビードの高さをH
I、前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際のビードの形成順を決定するために用いる単位高さをH
Lとした場合に、
aH
L=bH
B=cH
I
a≠c、かつ、b≠c、かつ、a>c、かつ、b>c、かつ、a≧b
a、b、cは、正の整数
が成り立つように設定することを特徴とする請求項1または2に記載の設定方法。
【請求項4】
前記造形形状データが示す形状を、予め規定されている要素形状にて複数の要素形状に分解する分解工程を更に有し、
前記設定工程は、前記分解工程にて分解された複数の要素形状それぞれの外縁部と内部に対して積層パターンを設定することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の設定方法。
【請求項5】
前記設定工程は、2つの要素形状が隣接する際に、一方の要素形状の外縁部を共有し、他方の要素形状の外縁部を内部に置き換えて当該2つの要素形状の積層パターンを設定することを特徴とする請求項4に記載の設定方法。
【請求項6】
前記設定工程は、2つの要素形状が隣接する場合、積層方向における所定の層数ごとに、外縁部を内部に置き換える対象となる要素形状を入れ替えることを特徴とする請求項5に記載の設定方法。
【請求項7】
前記設定工程は、2つの要素形状が交差する場合、一方の要素形状の形成を行った後、他方の要素形状の形成を行う際に交差部分の形成が行われないように、前記2つの要素形状の形成経路を設定することを特徴とする請求項4に記載の設定方法。
【請求項8】
前記設定工程は、2つの要素形状が交差する場合、積層方向における所定の層数ごとに、前記交差部分の形成を行わない対象となる要素形状を入れ替えることを特徴とする請求項7に記載の設定方法。
【請求項9】
対象物の造形形状データに基づいて、指向性のある熱源を用いて前記対象物の積層造形を行う積層造形方法であって、
前記造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整工程と、
前記設定工程にて設定された積層パターンと、前記調整工程にて調整された形成順とに基づき、造形手段に前記対象物の積層造形を行わせる制御工程と
を有し、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の前記熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とする積層造形方法。
【請求項10】
対象物の造形形状データに基づいて、指向性のある熱源を用いて前記対象物の積層造形を行う積層造形システムであって、
前記造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定手段と、
前記設定手段にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整手段と、
前記設定手段にて設定された積層パターンと、前記調整手段にて調整された形成順とに基づき、前記対象物の積層造形を行う造形手段と
を有し、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の前記熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とする積層造形システム。
【請求項11】
コンピュータに、
対象物の造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整工程と、
を実行させ、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、造形条件の設定方法、積層造形方法、積層造形システム、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、3Dプリンタを用いた造形による部品製造のニーズが高まっており、金属材料を用いた造形の実用化に向けて研究開発が進められている。金属材料を造形する3Dプリンタの多くは、レーザや電子ビーム、アーク等の熱源を用いて金属粉体や金属ワイヤを融解および凝固させて形成する溶接金属を積層させることで積層造形物を造形している。
【0003】
例えば、特許文献1では、ポンプや圧縮機などの流体機械に設けられるインペラやロータ等の回転部材を製造する技術として、ハブとなるベース材に造形部を造形し、その後、造形部を切削してブレードを形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複雑形状を有する部材は、簡易な構成の要素形状に分解することができる。例えば、簡易な要素形状としては、円筒状、中実矩形柱状、中実円柱状、および薄板などが挙げられる。また、このような簡易な要素形状においても、その構成として外縁部と内部など、位置に応じて施工性を分類することができる。このとき、各位置に応じて溶接欠陥を抑制するための制御内容は異なってくる。つまり、積層造形を行う場合、造形対象となる対象物の形状における位置に応じて(後述する位置種別に相当する)、それらを形成する際の造形条件を調整する必要がある。
【0006】
上記課題を鑑み、本願発明は、積層造形物を構成する部位およびその周辺の形成状況に応じた造形条件を適切に設定することを可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本願発明は以下の構成を有する。
(1) 対象物の造形形状データに基づいて、指向性のある熱源を用いて前記対象物の積層造形を行うための造形条件の設定方法であって、
前記造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整工程と、
を有し、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の前記熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とする設定方法。
【0008】
また、本願発明の別の一形態として、以下の構成を有する。
(2) 対象物の造形形状データに基づいて、指向性のある熱源を用いて前記対象物の積層造形を行う積層造形方法であって、
前記造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整工程と、
前記設定工程にて設定された積層パターンと、前記調整工程にて調整された形成順とに基づき、造形手段に前記対象物の積層造形を行わせる制御工程と
を有し、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の前記熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とすることを特徴とする積層造形方法。
【0009】
また、本願発明の別の一形態として、以下の構成を有する。
(3) 対象物の造形形状データに基づいて、指向性のある熱源を用いて前記対象物の積層造形を行う積層造形システムであって、
前記造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定手段と、
前記設定手段にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整手段と、
前記設定手段にて設定された積層パターンと、前記調整手段にて調整された形成順とに基づき、前記対象物の積層造形を行う造形手段と
を有し、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の前記熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とすることを特徴とする積層造形システム。
【0010】
また、本願発明の別の一形態として、以下の構成を有する。
(4) コンピュータに、
対象物の造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整工程と、
を実行させ、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とするプログラム。
【発明の効果】
【0011】
本願発明により、積層造形物を構成する部位およびその周辺の形成状況に応じた造形条件を適切に設定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本願発明の一実施形態に係るシステムの全体構成の例を示す概略図。
【
図2】本願発明の一実施形態に係る造形制御装置の機能構成の例を示すブロック図。
【
図3】本願発明の一実施形態に係る造形制御装置の処理全体を示すフローチャート。
【
図4】本願発明の一実施形態に係る要素形状への分解を説明するための概念図。
【
図5】本願発明の一実施形態に係る積層パターンDBの構成例を示す概略図。
【
図6A】本願発明の一実施形態に係る形成経路を説明するための概略図。
【
図6B】本願発明の一実施形態に係る形成経路を説明するための概略図。
【
図6C】本願発明の一実施形態に係る形成経路を説明するための概略図。
【
図7A】本願発明の一実施形態に係る形成経路を説明するための概略図。
【
図7B】本願発明の一実施形態に係る形成経路を説明するための概略図。
【
図7C】本願発明の一実施形態に係る形成経路を説明するための概略図。
【
図8A】本願発明の一実施形態に係るトーチ制御を説明するための概略図。
【
図8B】本願発明の一実施形態に係るトーチ制御を説明するための概略図。
【
図9】本願発明の一実施形態に係るパス高さを説明するための概略図。
【
図10】本願発明の一実施形態に係る形成順を決定する流れを説明するための概略図。
【
図11A】本願発明の一実施形態に係る形成順を決定する流れを説明するための概略図。
【
図11B】本願発明の一実施形態に係る形成順を決定する流れを説明するための概略図。
【
図11C】本願発明の一実施形態に係る形成順を決定する流れを説明するための概略図。
【
図11D】本願発明の一実施形態に係る形成順を決定する流れを説明するための概略図。
【
図12】本願発明の一実施形態に係る形成順決定処理のフローチャート。
【
図13A】本願発明の一実施形態に係るパスの交差を説明するための概略図。
【
図13B】本願発明の一実施形態に係るパスの交差を説明するための概略図。
【
図14A】本願発明の一実施形態に係るパスの共有を説明するための概略図。
【
図14B】本願発明の一実施形態に係るパスの共有を説明するための概略図。
【
図14C】本願発明の一実施形態に係るパスの共有を説明するための概略図。
【
図15】本願発明の一実施形態に係る形成順を決定する流れを説明するための図。
【
図16】第2の実施形態に係る形成順決定処理のフローチャート。
【
図17】第2の実施形態に係る形成順の決定の流れを説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本願発明を実施するための形態について図面などを参照して説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本願発明を説明するための一実施形態であり、本願発明を限定して解釈されることを意図するものではなく、また、各実施形態で説明されている全ての構成が本願発明の課題を解決するために必須の構成であるとは限らない。また、各図面において、同じ構成要素については、同じ参照番号を付すことにより対応関係を示す。
【0014】
<第1の実施形態>
以下、本願発明の第1の実施形態について説明を行う。
【0015】
[システム構成]
以下、本願発明の一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本願発明に係る積層造形方法を適用可能な積層造形システムの全体構成の例を示す概略図である。
【0016】
本実施形態に係る積層造形システム1は、造形制御装置2、マニピュレータ3、マニピュレータ制御装置4、コントローラ5、および熱源制御装置6を含んで構成される。
【0017】
マニピュレータ制御装置4は、マニピュレータ3や熱源制御装置6、マニピュレータ3に対して溶加材(以降、ワイヤとも称する)を供給する不図示の溶加材供給部を制御する。コントローラ5は、積層造形システム1の操作者の指示を入力するための部位であり、マニピュレータ制御装置4に対して、任意の操作を入力可能である。
【0018】
マニピュレータ3は、例えば多関節ロボットであり、先端軸に設けたトーチ8には、ワイヤが連続供給可能に支持される。トーチ8は、ワイヤを先端から突出した状態に保持する。トーチ8の位置や姿勢は、マニピュレータ3を構成するロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。マニピュレータ3は、6軸以上の自由度を有するものが好ましく、先端の熱源の軸方向を任意に変化させられるものが好ましい。
図1の例では、矢印にて示すように、6軸の自由度を有するマニピュレータ3の例を示している。マニピュレータ3の形態は、4軸以上の多関節ロボットの他、2軸以上の直交軸に角度調整機構を備えたロボットであってもよい。
【0019】
トーチ8は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが供給される。シールドガスは、大気を遮断し、溶接中の溶融金属の酸化、窒化などを防いで溶接不良を抑制する。本実施形態で用いられるアーク溶接法としては、被覆アーク溶接や炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接やプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、造形する積層造形物に応じて適宜選定される。本実施形態では、ガスメタルアーク溶接を例に挙げて説明する。
【0020】
マニピュレータ3において、アーク溶接法が消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、電流が給電されるワイヤがコンタクトチップに保持される。トーチ8は、ワイヤを保持しつつ、シールドガス雰囲気でワイヤの先端からアークを発生する。ワイヤは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構により、不図示の溶加材供給部からトーチ8に送給される。そして、トーチ8を移動させつつ、連続送給されるワイヤを溶融及び凝固させると、ワイヤの溶融凝固体である線状のビードがベース7上に形成される。ビードが積層されることで、目的とする積層造形物Wが造形される。
【0021】
なお、ワイヤを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビームやレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビームやレーザにより加熱する場合、加熱量を更に細かく制御でき、ビードの状態をより適正に維持して、積層構造物の更なる品質向上に寄与できる。また、ワイヤの材質についても特に限定するものではなく、例えば、軟鋼、高張力鋼、アルミ、アルミ合金、ニッケル、ニッケル基合金など、積層造形物Wの特性に応じて、用いるワイヤの種類が異なっていてよい。
【0022】
マニピュレータ制御装置4は、造形制御装置2から提供される所定のプログラム群に基づいてマニピュレータ3や熱源制御装置6を駆動させ、ベース7上に積層造形物Wを造形させる。つまり、マニピュレータ3は、マニピュレータ制御装置4からの指令により、ワイヤをアークで溶融させながらトーチ8を移動させる。熱源制御装置6は、マニピュレータ3による溶接に要する電力を供給する溶接電源である。熱源制御装置6は、ビードを形成する際に電流や電圧などを切り替えることが可能である。本実施形態においてベース7は平面状のものを用いる構成を示しているが、これに限定するものではない。例えば、ベース7が円柱状にて構成され、その側面外周にビードが形成されるような構成であってもよい。また、本実施形態に係る造形形状データにおける座標系と、積層造形物Wが造形されるベース7上での座標系は対応付けられており、例えば、任意の位置を原点として、3次元における位置が規定されるように座標系の3軸が設定されていてもよく、ベース7が円柱状にて構成される場合には、円筒座標系が設定されていてもよく、場合によっては球面座標系が設定されていてもよい。なお、座標成分(以降、「座標軸」とも称する)は、直交座標系、円筒座標系、球座標系等の座標系の種類によって任意で設定してもよく、例えば、直交座標系の3軸は、空間内で互いに直交する3本の数直線として、各々X軸、Y軸、Z軸で示す。
【0023】
造形制御装置2は、例えば、PC(Personal Computer)などの情報処理装置などであってよい。後述する造形制御装置2の各機能は、不図示の制御部が、不図示の記憶装置に記憶された本実施形態に係る機能のプログラムを読み出して実行することで実現されてよい。記憶装置としては、揮発性の記憶領域であるRAM(Random Access Memory)や、不揮発性の記憶領域であるROM(Read Only Memory)やHDD(Hard Disk Drive)などが含まれてよい。また、制御部としては、CPU(Central Processing Unit)や専用回路などが用いられてよい。
【0024】
[機能構成]
図2は、本実施形態に係る造形制御装置2の機能構成を主として示すブロック図である。造形制御装置2は、入力部10、記憶部11、要素形状分解部15、積層パターン設定部16、形成順調整部17、プログラム生成部18、および出力部19を含んで構成される。入力部10は、例えば、不図示のネットワークを介して外部から各種情報を取得する。ここで取得される情報としては、例えば、CAD/CAMデータなどの積層造形を行う対象物の設計データ(以下、「造形形状データ」と称する)が挙げられる。なお、本実施形態に用いる各種情報の詳細については後述する。造形形状データは、通信可能に接続された不図示の外部装置から入力されてもよいし、造形制御装置2上にて所定の不図示のアプリケーションを用いて作成されてもよい。
【0025】
記憶部11は、入力部10にて取得された各種情報を記憶する。また、記憶部11は、本実施形態に係る要素形状および積層パターンのデータベース(DB)を保持、管理する。要素形状および積層パターンの詳細については後述する。
【0026】
要素形状分解部15は、造形形状データが示す積層造形物の形状から、予め規定された要素形状を抽出することで、1の積層造形物の形状を複数の要素形状に分解する。言い換えると、本実施形態では1の積層造形物の形状を、複数の要素形状から構成された複雑形状として扱う。
【0027】
積層パターン設定部16は、要素形状分解部15にて分解された複数の要素形状それぞれに対して、積層パターンDB14にて予め規定されている積層パターンを割り当てて設定する。より具体的には、積層パターン設定部16は、要素形状を造形するための積層パターンを、当該要素形状を構成するビードごとに設定する。
【0028】
形成順調整部17は、積層パターン設定部16にて設定された積層パターンに基づき、複数の要素形状それぞれに対して、ビードを形成する(以降、「積層する」とも称する)順番を調整する。
【0029】
プログラム生成部18は、形成順調整部17にて調整された形成順に基づき、積層造形物Wを造形するためのプログラム群を生成する。例えば、1のプログラムが、積層造形物Wを構成する1のビードに対応してよい。ここで生成されるプログラム群は、マニピュレータ制御装置4にて処理、実行されることで、マニピュレータ3や熱源制御装置6の制御が行われる。なお、マニピュレータ制御装置4にて処理可能なプログラム群の種類や仕様は特に限定するものではないが、プログラム群の生成に要するマニピュレータ3や熱源制御装置6の仕様、およびワイヤの仕様などは予め保持されているものとする。
【0030】
出力部19は、プログラム生成部18にて生成されたプログラム群をマニピュレータ制御装置4に出力する。なお、出力部19は更に、造形制御装置2が備えるディスプレイなどの不図示の出力装置を用いて、造形形状データに対する処理結果を出力するような構成であってもよい。
【0031】
[全体処理]
図3は、本実施形態に係る造形制御装置による処理全体の流れを示すフローチャートである。本処理は、例えば、造形制御装置2が備えるCPUなどの制御部が
図2に示した各部位を実現するためのプログラムを不図示の記憶装置から読み出して実行することにより実現されてよい。ここでは説明を簡単にするため、処理主体を造形制御装置2としてまとめて説明する。
【0032】
S301にて、造形制御装置2は、造形する積層造形物Wの造形形状データを取得する。上述したように、造形形状データは外部から取得されてもよいし、造形制御装置2が備える不図示のアプリケーションを用いて作成されたものが取得されてもよい。
【0033】
S302にて、造形制御装置2は、予め規定されて記憶部11に保持されている要素形状DB13を参照して、S301にて取得した造形形状データが示す形状を複数の要素形状に分解する。
【0034】
S303にて、造形制御装置2は、S302にて抽出した複数の要素形状それぞれに対して、積層パターンDB14を参照して積層パターンを導出する。更に、造形制御装置2は、複数の要素形状を造形するための形成順を導出する。本工程の詳細については、
図12等を用いて後述する。
【0035】
S304にて、造形制御装置2は、S303にて導出した積層パターンおよび形成順に基づいてマニピュレータ制御装置4にて用いられるプログラム群を生成する。
【0036】
S305にて、造形制御装置2は、S304にて生成したプログラム群をマニピュレータ制御装置4へ出力する。そして、本処理フローを終了する。
【0037】
[要素形状への分解]
図4は、造形形状データが示す積層造形物Wの形状を複数の要素形状に分解する例を説明するための概念図である。ベース7上に造形対象となる積層造形物Wの形状を示している。この積層造形物Wの形状から、2つの中実矩形柱、2つの中実円柱、および2つの薄板に分解することが可能である。なお、ここでの分解は一例であり、予め規定された要素形状に応じて、他の形状への分解が行われてよい。
【0038】
要素形状への分解は、例えば、要素形状DB13に基づいて造形制御装置2がパターンマッチングを行うことで実現されてよい。また、造形制御装置2の操作者が分解の際に用いられる要素形状の指定や割り当てを行うような構成であってもよい。また、造形制御装置2が行った分解に対して、操作者が補正を行うような構成であってもよい。
【0039】
中実矩形柱や中実円柱は、例えば、積層造形物Wの上部に重量物を積載した際の荷重を支えるために必要となる場合がある。また、薄板は、例えば、
図4に示す中実矩形柱と薄板との間に流体を流して冷却を行うための水密性を求められる場合や、中実矩形柱や中実円柱の横倒れを防止する補助的なリブとしての機能を求められる場合がある。つまり、積層造形物Wは、複数の要素形状を組み合わせた複雑形状として構成され、各要素形状に求められる役割が組み合わせに応じて異なることとなる。そのため、各部位に応じた積層造形を行うことが求められる。
【0040】
[データベース]
本実施形態においては、
図2に示したように要素形状DB13と積層パターンDB14を用いる。要素形状DB13と積層パターンDB14は、予め規定され、記憶部11にて保持、管理される。本実施形態では、造形対象となる積層造形物Wが、複数の単純な形状(以降、「要素形状」と称する)を組み合わせて構成されているものとして扱う。そのため、積層造形物Wを構成する要素形状を予め定義し、要素形状DB13にて管理する。要素形状としては、中実矩形柱、薄肉中空矩形柱、厚肉中空矩形柱、中実円柱、薄肉中空円柱、厚肉中空円柱、薄板、中実扇形柱などが挙げられるが、他の形状が含まれてもよい。また、同じ形状であっても、造形するサイズに応じてより詳細な分類が規定されていてもよい。なお、造形するサイズは、例えば、高さ、幅、厚み、縦横比などが挙げられる。
【0041】
積層パターンDB14は、要素形状DB13に規定された要素形状それぞれに対して積層造形を行う際の条件等を定義したデータベースである。
図5は、積層パターンDB14の構成例を示す。積層パターンDB14は、要素形状、位置種別、パス高さ、パス幅、溶着速度、入熱量、熱源角度、形成経路情報などが含まれる。要素形状は、要素形状DB13に対応して規定された要素形状の種類を示す。位置種別は、要素形状を構成する部位の種別を示す。一例として、中実柱は、外縁部、外縁部近傍の内部充填部、および内部充填部の部位から構成されるものとして説明するが、これに限定するものではなく、更に詳細な分類を用いてもよい。また、外縁部近傍とは、例えば、外縁部に隣接する1ビードであってもよいし、それ以上の範囲を示してもよく、特に限定するものはない。
【0042】
パス高さは、対応する位置種別を形成する際のビードの1パス当たりの高さを示す。パス幅は、対応する位置種別を形成する際のビードの1パス当たりの幅を示す。なお、1つのパスにより、1つのビードが形成されるものとする。溶着速度は、ビードを形成する際の単位時間当たりの溶融するワイヤの重量を示す。なお、溶着速度は、例えば、単位時間あたりに送給される速度、すなわちワイヤ送給速度を適用してもよい。入熱量は、ビードを形成する際の熱源による入熱量を示す。ここでは、大、中、小の3段階にて入熱量を示しているが、これ以外の水準数や数値にて示してもよい。熱源角度は、ビードを形成する際の熱源の角度を示す。なお、本実施形態において熱源角度とは指向性熱源の入射角度であり、熱源の移動方向に垂直な面において、ビードを形成する面と熱源方向とがなす角を指す。熱源の角度は任意に設定することも可能であり、トーチ8の入射角度とは必ずしも一致しない。熱源角度の設定方法は、例えばアーク溶接法を用いる場合には、磁気発生装置を用いて設定可能であり、レーザ溶接法を用いる場合にはミラーを用いて設定可能である。形成経路情報は、後述するビードの形成経路のパターンおよびその始点位置、終点位置、さらに、次のパスの始点位置への移動経路を含む。
【0043】
積層パターンDB14に定義される各種データにおいて、要素形状の外縁部は、形状再現性のために低入熱量の条件を設定する。一方、内部充填部においては、施工能率を考慮し、溶着速度が高い条件を設定する。また、外縁部近傍の内部充填部においては、ビード端部に熱を十分に供給し、融合不良の欠陥の発生を抑止するために熱源角度を下向き(90度)から一定の角度に傾けた条件を設定する。
図5の例では、5~45度の設定値を用いているが、10~35度の範囲がより好ましく、10~25度の範囲が更に好ましい。
【0044】
積層パターンが設定されると、マニピュレータ3や熱源制御装置6の仕様や、ワイヤの種類などから、実際のビードを形成するための溶着条件を決定することができる。例えば、アークによる積層方式においては、溶着量は、ワイヤの送り速度や径などと相関がある。入熱量は、熱源制御装置6から供給される電流や電圧、チップ-ベース間の距離などと相関がある。熱源角度は、トーチ角度や熱源制御装置6から供給される電流や電圧、チップ-ベース間の距離などと相関がある。また、レーザによる積層方式においては、熱源角度は、レーザの入射角度、光学系の焦点距離、対象と焦点位置の相対距離などと相関がある。なお、積層パターンや溶着条件など、積層造形物Wを造形するための各種条件をまとめて造形条件とも称する。
【0045】
[形成経路情報]
図6A~
図6C、
図7A~
図7Cは、本実施形態に係る形成経路情報にて示されるトーチ8の移動経路(ビードの形成経路)の例を示す。
図6A~
図6Cは、矩形柱に対応する形成経路情報の例を示す。
図6Aは、外縁部601を4パスにて形成する経路603と、内部充填部602を1パスにて形成する経路604を示す(計5パス)。
図6Bは、外縁部601を4パスにて形成する経路603と、内部充填部602を2パスにて形成する経路611、612を示す(計6パス)。
図6Cは、外縁部601を4パスにて形成する経路603と、外縁部近傍の内部充填部を1パスにて形成する経路621と、内部充填部を1パスにて形成する経路622を示す(計6パス)。
【0046】
図7A~
図7Cは、円柱に対応する形成経路情報の例を示す。
図7Aは、外縁部701を4パスにて時計回りに形成する経路703と、内部充填部702を1パスにて時計回りに形成する経路704を示す(計5パス)。
図7Bは、外縁部701を4パスにて時計回りに形成する経路703と、内部充填部702を1パスにて反時計回りに形成する経路711を示す(計5パス)。
図7Cは、外縁部701を4パスにて時計回りに形成する経路703と、内部充填部702を1パスにて直線にて形成する経路721を示す(計5パス)。なお、形成経路情報にて示される移動経路はこれに限定するものではなく、他の経路を用いてもよい。例えば、外縁部を1パスにて形成するような構成であってもよいし、1パスの中で溶着条件を切り替えるような構成であってもよい。
【0047】
なお、本実施形態では、中実柱においては、外縁部が先に形成され、その後、内部充填部が形成されるものとする。また、
図6A~
図6C、
図7A~
図7Cには示していないが、ビードを形成する際に、適時ウィービングを行って溶接欠陥を抑制するような形成経路情報が用いられてもよい。
【0048】
[トーチ制御]
図8Aおよび
図8Bは、本実施形態に係るトーチ8の向きの制御について説明するための図である。なお、説明を簡単にするため、ここでは、トーチ8の入射角度(トーチ角度)と熱源角度とは同じであるものとして説明する。要素形状の外縁部近傍の内部充填部に相当するビードを形成する場合を考える。このとき、ビード端部に熱を十分に供給し、融合不良の欠陥の発生を抑止するために、一定の角度にトーチ角度を傾ける。
図8Aは外縁部801間の距離が一定以上である場合に、外縁部801と平面部802からなる角の部分において、トーチ8の入射角度を45度程度傾けた例を示す。
図8Bは、外縁部811間の距離が一定以下である場合(谷部)において、トーチ8を移動方向に沿って平行移動させる代わりに、トーチ8を一定の角度に傾けながら移動方向に移動させるウィービングを行う例を示す。これにより、外縁部811と平面部812からなる角の部分において十分な熱を供給するように制御する。
【0049】
[パス高さ]
図9は、本実施形態に係る積層造形物Wのパス高さを説明するための図である。ここでは、中実矩形柱と薄板を例に挙げて、その断面を用いて説明する。ここでは、高さ方向が積層方向であるものとして説明する。
【0050】
中実矩形柱は、外縁部と内部充填部に分けることができる。このとき、
図5にて示したように積層パターンとして位置種別に応じて、ビードを形成する際の1パス当たりの高さが予め定義されている。本実施形態では、中実矩形柱の内部充填部のパス高さをH
Iにて示し、外縁部のパス高さをH
Bにて示す。同様に、薄板も1パス当たりのパス高さをH
Tにて示す。
【0051】
本実施形態においては、パス高さ間において以下の関係が成り立つように定義される。
HI≧HB
HI≧HT
これは、中実矩形柱の内部充填部においては、形成の効率(施工能率)を重視し、1パスで形成する範囲を大きくさせるためである。一方、中実矩形柱の外縁部や薄板は、形状再現性や溶着欠陥の発生の抑制を重視し、形成の精度を向上させるために、内部充填部よりも低いパス高さが設定される。一例として、HB:HI:HT=3:4:2の関係となるように設定することができる。
【0052】
このような条件下において複数のビードが積層方向に積層されることで、積層造形物Wが造形される。
図9の例の場合、中実矩形柱を造形するために外縁部は7層が積層され、内部充填部は5層が積層される。同様に、薄板を造形するために10層が積層される。なお、
図9の例において、中実矩形柱の外縁部は、積層した結果、一部が目的とする中実矩形柱の形状からはみ出すこととなるが、これは造形後に削り工程を行うことで処理されてよい。また、最上位の層については、目標とする形状となるように他の層とは異なる制御パラメータを用いるような構成であってもよい。
【0053】
また、
図9の例では、中実矩形柱の内部充填部が幅方向において4パス分の幅により形成される例を示しているがこれに限定するものではない。また、薄板も幅方向において1パス分の幅から形成される例を示しているがこれに限定するものではない。例えば、所定の厚さ(幅)以下の部位を薄肉部(例えば、薄板)として扱い、それよりも厚さが大きい部位を厚肉部として扱ってよい。
【0054】
また、
図9の例では、ベース7(積層造形物Wの形成面)が水平な場合を想定し、各層は水平な状態として示している。しかし、この構成に限定するものではなく、ベース7の形状に合わせて積層方向や層(層平面)の構成を変更してよい。例えば、上述したように、ベース7が円柱状であり、ベース7を回転させながら積層造形物Wを造形する場合には、その回転面(曲面)に合わせて積層方向や層平面の構成が規定されてよい。この場合、ベース7の積層面に対して層平面(断面方向)が平行になるような構成となる。
【0055】
[形成順決定]
図10は、積層造形物Wを構成する複数の要素形状に対し、各層の形成順を決定する際の概念を説明するための概略図である。ここでは、薄板と中実矩形柱から構成される積層造形物Wを例に挙げて説明する。
図10において、一点鎖線の部分の断面図を示す。ここでは、中実矩形柱の外縁部および内部充填部と、薄板は
図9にて示した構成と同じ構成を例に挙げて説明する。以降の図において、3次元空間とそれを示す3軸はそれぞれ対応しているものとする。なお、座標軸はX軸、Y軸、Z軸で示す。また、Z軸で示される積層方向において、各要素形状の層を下層から順に変数Nにて示す。外縁部の層数をN
Bにて示し、内部充填部の層数をN
Iにて示し、薄板の層数をN
Tにて示す。
【0056】
本実施形態では、ビードの形成順を決定する際の基準として、単位高さH
Lを用いる。単位高さH
Lは、予め定義されているものとする。また、H
Lは、要素形状のパス高さの最小値と同じか、いずれよりも小さい値が設定される。つまり、
図10の例では、中実矩形柱の外縁部のパス高さH
Bおよび内部充填部のパス高さH
I、薄板のパス高さH
Tとした場合、H
B、H
I、H
T≧H
Lとなる。
【0057】
例えば、各高さの関係は以下のように定義することができる。
aHL=bHB=cHI
a≠c、かつ、b≠c、かつ、a>c、かつ、b>c、かつ、a≧b
a,b,c:正の整数
このとき、cは1~5が好ましく、1~3がより好ましい。また、a/bは3以下の整数が好ましく、1または2がより好ましい。また、積層造形物Wを構成する複数の要素形状において、a、b、c、HB、HIは共通となるように設定されることが好ましい。
【0058】
また、各高さの関係は以下のように定義することが好ましい。
HT=HB/d
d:正の整数
つまり、HTは、HBの整数分の1となる。このとき、dは3以下であることが好ましく、1がより好ましい。
【0059】
本実施形態では、単位高さHLごとに各要素形状の形成順を判断する。着目している単位高さHLを基準として、要素形状ごとに積層高さが達していない部位の層を形成候補として抽出する。ここでの積層高さとは、ビードが積層された結果として複数のビードにより形成された高さを示す。そして、形成候補として抽出された各部位の層を形成した場合の積層高さを比較することで、その形成候補が形成する層として適切か否かを判断する。本実施形態では、形成候補に内部充填部のある層が含まれている場合、その内部充填部の層を形成した結果、外縁部の形成済みの積層高さを上回る場合は、その内部充填部の層の形成を保留する。
【0060】
図11A~
図11Dは、各層の形成順を決定する流れを説明するための図である。
図10と同じ例を用いて説明するが、各層における幅方向(X方向)のパスの区切りは省略して示している。
図11Aから
図11Dの順に処理が行われるものとする。開始時点では、いずれの部位の層に対して形成順が決定していないものとする。
【0061】
図11Aは、目安高さがH
Lの場合を示す。この時点において、まず、中実矩形柱の外縁部の第1層(N
B=1)、中実矩形柱の内部充填部の第1層(N
I=1)、および薄板の第1層(N
T=1)が形成候補として抽出される。このとき、中実矩形柱の内部充填部の第1層が形成された場合、外縁部の第1層の積層高さを超えてしまうため、中実矩形柱の内部充填部の第1層は形成候補から除外され、形成が保留される。その結果、中実矩形柱の外縁部の第1層(N
B=1)、および薄板の第1層(N
T=1)が形成されるものとして決定され、それらの形成順が決定される。ここでの中実矩形柱の外縁部の第1層と薄板の第1層の形成順は予め規定された規則に従って決定されてよい。
【0062】
図11Bは、目安高さが2H
Lの場合を示す。この時点において、まず、中実矩形柱の内部充填部の第1層(N
I=1)、および薄板の第2層(N
T=2)が形成候補として抽出される。このとき、中実矩形柱の内部充填部の第1層が形成された場合、外縁部の第1層の積層高さを超えてしまうため、中実矩形柱の内部充填部の第1層は形成候補から除外され、形成が保留される。その結果、薄板の第2層(N
T=2)が形成されるものとして決定され、
図11(a)にて決定された形成順に続く。
【0063】
図11Cは、目安高さが3H
Lの場合を示す。この時点において、まず、中実矩形柱の外縁部の第2層(N
B=2)、中実矩形柱の内部充填部の第1層(N
I=1)、および薄板の第3層(N
T=3)が形成候補として抽出される。このとき、中実矩形柱の内部充填部の第1層が形成された場合、外縁部の第1層の積層高さを超えてしまうが、形成候補である外縁部の第2層の積層高さよりも低くなる。そのため、中実矩形柱の内部充填部の第1層は形成候補から除外されず、中実矩形柱の外縁部の第2層(N
B=2)、中実矩形柱の内部充填部の第1層(N
I=1)、および薄板の第3層(N
T=3)が形成されるものとして決定される。このとき、内実矩形柱の内部充填部の第1層は、形成候補である外縁部の第2層の形成よりも後の形成順となるように決定される。ここでの中実矩形柱の外縁部の第2層と薄板の第3層の形成順は予め規定された規則に従って決定されてよい。
【0064】
図11Dは、目安高さが4H
Lの場合を示す。この時点において、まず、中実矩形柱の内部充填部の第2層(N
I=2)が形成候補として抽出される。このとき、中実矩形柱の内部充填部の第2層が形成された場合、外縁部の第2層の積層高さを超えてしまうため、中実矩形柱の内部充填部の第1層は形成候補から除外され、形成が保留される。その結果、この時点では、いずれの層の形成順も決定されないこととなる。上記の処理を繰り返すことで、各要素形状の全ての層の形成順が決定される。
【0065】
[形成順決定処理]
図12は、本実施形態に係る形成順決定処理のフローチャートであり、
図3に示した全体フローのうちのS303の工程の中で実行される処理に対応する。本処理は、例えば、造形制御装置2が備えるCPUやGPUなどの処理部が
図2に示した各部位を実現するためのプログラムを不図示の記憶装置から読み出して実行することにより実現されてよい。
【0066】
ここでは、
図10に示すように、積層造形物Wが、中実矩形柱と、薄板の要素形状から構成される例を示す。したがって、積層造形物Wを構成する要素形状の組み合わせに応じて、処理工程や判定工程は増減する。
図12に示す処理は、
図2に示した積層パターン設定部16や形成順調整部17が、記憶部11にて管理された各DBを参照して実行される。ここでは説明を簡単にするために、処理主体を造形制御装置2としてまとめて記載する。
【0067】
S1201にて、造形制御装置2は、
図3のS302にて分解された複数の要素形状それぞれに対応する積層パターンを、積層パターンDB14を参照して取得する。本例では、中実矩形柱と薄板それぞれの積層パターンが取得される。
【0068】
S1202にて、造形制御装置2は、S1201にて取得した積層パターンに基づき、抽出形状の各部位に対応するパス高さを設定する。
図9を用いて説明したように、本例では、造形制御装置2は、中実矩形柱の外縁部のパス高さH
Bおよび内部充填部のパス高さH
Iと、薄板のパス高さH
Tを設定する。
【0069】
S1203にて、造形制御装置2は、単位高さHLを設定する。上述したように、単位高さHLは、ビードの形成順を決定する際の基準となる単位である。単位高さHLの整数倍の高さ(以下、「目安高さ」と称する)ごとにビードの形成順を判定する。単位高さHLは予め規定され、記憶部11にて保持されているものとする。なお、単位高さHLは、一定の値が用いられてもよいし、積層造形物Wを構成する要素形状の組み合わせに応じて異なる値が用いられてもよい。
【0070】
S1204にて、造形制御装置2は、変数nを0にて初期化し、目安高さ(=n×HL)を設定する。
【0071】
S1205にて、造形制御装置2は、各抽出形状の層数を示す変数を初期化する。本例では、中実矩形柱の外縁部の層数を示す変数NB、中実矩形柱の内部充填部の層数を示す変数NI、および、薄板の層数を示す変数NTをそれぞれ0にて初期化する。以下の説明において、H(N)は、第N層の積層高さを示し、添え字は部位の位置を示す。例えば、HB(NB)は、外縁部における第N層の積層高さを示す。また、P(N)は、第N層のパスを示し、添え字は部位の位置を示す。例えば、PB(NB)は、外縁部における第N層のパスを示す。
【0072】
S1206にて、造形制御装置2は、造形形状データおよびS1202にて設定した各パス高さに基づき、各抽出形状の層数の上限値を設定する。本例では、中実矩形柱の外縁部の層数の上限値N
B_max、中実矩形柱の内部充填部の層数の上限値N
I_max、および、薄板の層数の上限値N
T_maxを設定する。
図10の例の場合、N
B_max=7、N
I_max=5、N
T_max=10となる。
【0073】
S1207にて、造形制御装置2は、形成候補のリストを初期化する。
【0074】
S1208にて、造形制御装置2は、NB=NB_maxか否かを判定する。NB=NB_maxである場合(S1208にてYES)、造形制御装置2の処理はS1211へ進む。一方、NB=NB_maxでない場合(S1208にてNO)、造形制御装置2の処理はS1209へ進む。
【0075】
S1209にて、造形制御装置2は、目安高さ>HB(NB)か否かを判定する。目安高さ>HB(NB)である場合(S1209にてYES)、造形制御装置2の処理はS1210へ進む。一方、目安高さ>HB(NB)でない場合(S1209にてNO)、造形制御装置2の処理はS1211へ進む。
【0076】
S1210にて、造形制御装置2は、PB(NB+1)を形成候補に設定する。
【0077】
S1211にて、造形制御装置2は、NI=NI_maxか否かを判定する。NI=NI_maxである場合(S1211にてYES)、造形制御装置2の処理はS1214へ進む。一方、NI=NI_maxでない場合(S1211にてNO)、造形制御装置2の処理はS1212へ進む。
【0078】
S1212にて、造形制御装置2は、目安高さ>HI(NI)か否かを判定する。目安高さ>HI(NI)である場合(S1212にてYES)、造形制御装置2の処理はS1213へ進む。一方、目安高さ>HI(NI)でない場合(S1212にてNO)、造形制御装置2の処理はS1214へ進む。
【0079】
S1213にて、造形制御装置2は、PI(NI+1)を形成候補に設定する。
【0080】
S1214にて、造形制御装置2は、NT=NT_maxか否かを判定する。NT=NT_maxである場合(S1214にてYES)、造形制御装置2の処理はS1217へ進む。一方、NT=NT_maxでない場合(S1214にてNO)、造形制御装置2の処理はS1215へ進む。
【0081】
S1215にて、造形制御装置2は、目安高さ>HT(NT)か否かを判定する。目安高さ>HT(NT)である場合(S1215にてYES)、造形制御装置2の処理はS1216へ進む。一方、目安高さ>HT(NT)でない場合(S1215にてNO)、造形制御装置2の処理はS1217へ進む。
【0082】
S1216にて、造形制御装置2は、PT(NT+1)を形成候補に設定する。なお、S1208~S1210の処理(中実矩形柱の外縁部に対応)、S1211~S1213の処理(中実矩形柱の内部充填部に対応)、S1214~S1216の処理(薄板に対応)の順序はこれに限定するものではなく、これらの処理の順序が入れ替わってよい。
【0083】
S1217にて、造形制御装置2は、形成候補にPB(NB+1)とPI(NI+1)の両方が含まれるか否かを判定する。両方が含まれる場合(S1217にてYES)、造形制御装置2の処理はS1220へ進む。一方、いずれかが含まれない場合は(S1217にてNO)、造形制御装置2の処理はS1218へ進む。
【0084】
S1218にて、造形制御装置2は、形成候補にPI(NI+1)が含まれるか否かを判定する。PI(NI+1)が含まれている場合(S1218にてYES)、造形制御装置2の処理はS1219へ進む。一方、PI(NI+1)が含まれていない場合(S1218にてNO)、造形制御装置2の処理はS1222へ進む。
【0085】
S1219にて、造形制御装置2は、HB(NB)<HI(NI+1)か否かを判定する。HB(NB)<HI(NI+1)である場合(S1219にてYES)、造形制御装置2の処理はS1221へ進む。一方、HB(NB)<HI(NI+1)でない場合(S1219にてNO)、造形制御装置2の処理はS1222へ進む。
【0086】
S1220にて、造形制御装置2は、HB(NB+1)<HI(NI+1)か否かを判定する。HB(NB+1)<HI(NI+1)である場合(S1220にてYES)、造形制御装置2の処理はS1221へ進む。一方、HB(NB+1)<HI(NI+1)でない場合(S1220にてNO)、造形制御装置2の処理はS1222へ進む。
【0087】
S1221にて、造形制御装置2は、PI(NI+1)を形成候補から除外する。
【0088】
S1222にて、造形制御装置2は、形成候補に含まれる各パスの形成順を決定する。ここでの形成順は、要素形状の位置種別ごとに設定された優先度に応じて決定されてもよいし、要素形状の組み合わせに応じて規定された順序に基づいて決定されてもよい。このとき、形成候補に内部充填部が含まれる場合には、外縁部よりも後に形成されることが好ましい。
【0089】
S1223にて、造形制御装置2は、形成候補に含まれる層数の値を1インクリメントする。具体的には、形成候補にPB(3)が含まれていた場合、NBの値は2(=3-1)であるため、NBの値に1を加えて3に更新する。つまり、外縁部の第3層まで形成順が決定したことを意味する。
【0090】
S1224にて、造形制御装置2は、各抽出形状に対する全層の形成順が決定したか否かを判定する。本例の場合、NB=NB_max、NI=NI_max、NT=NT_maxとなったか否かを判定する。全層の形成順が決定した場合(S1224にてYES)、本処理フローを終了する。一方、形成順が決定していない層がある場合(S1224にてNO)、造形制御装置2の処理はS1225へ進む。
【0091】
S1225にて、造形制御装置2は、nの値を1インクリメントし、目安高さ(=n×HL)を更新する。そして、造形制御装置2の処理は、S1207へ戻り、以降の処理を繰り返す。
【0092】
上記の処理フローによって決定した形成順に基づいて、マニピュレータ3や熱源制御装置6を制御するためのプログラム群が生成されることとなる。ここでの制御パラメータは、積層パターンDB14に規定された積層パターンに基づいて設定することができる。
【0093】
以上、本実施形態により、積層造形物を造形する際に、力学的特性が求められる部位の溶接欠陥の発生を抑制しつつ、積層造形物全体の施工能率を向上させることが可能となる。
【0094】
なお、上記では、外縁部の積層高さと内部充填部の積層高さとを比較し、外縁部の方が積層高さが高くなるように各層の形成順を決定していた。このとき積層高さの高低差が所定の範囲内であることがより好ましい。ここでの所定の範囲は、特に限定するものでは無いが、積層パターンに規定された外縁部と内部充填部それぞれの溶着量の差異に基づいて決定してよい。または、積層パターンに規定された外縁部と内部充填部それぞれの溶着量に基づいて単位高さHLの値を調整することで外縁部の積層高さが内部充填部の積層高さの高低差が所定の範囲以上とならないように制御してもよい。また、トーチ8からのワイヤの突き出し長さに応じて、高低差に対する所定の範囲を設定してもよい。例えば、ワイヤの突き出し長さが12~15mmであることを想定した場合、高低差が20mm以下であることが好ましい。より好ましくは高低差が15mm以下であり、更に好ましくは高低差が12mmである。このようにすることで、外縁部の溶落を防止したり、トーチ8の積層造形物Wへの干渉を防止したりすることが可能となる。
【0095】
<第2の実施形態>
本願発明の第2の実施形態として、積層造形物において、要素形状が外縁部を共有する場合やパスが交差する場合について説明する。なお、第1の実施形態と重複する箇所については説明を省略し、差分に着目して説明を行う。
【0096】
[パス交差]
図13A、
図13Bは、本実施形態に係る要素形状を形成する際のパスの交差を説明するための図であり、
図4にて示した薄板にて構成される部位を積層方向に沿って見た例を示している。各ビードを形成する際にパスを交差して形成させると、交差した部分の肉が厚くなってしまう。例えば、交差した部分の高さや幅がそれ以外の部分と異なってしまう。そのため、パスが交差する位置において、後行のパスは、先行のパスとの交差する部分にて一旦ビードの形成を停止し、交差部分を横断した位置からビードの形成を再開する。
図13Aは、横方向のパス1301が先行パスとして設定され、その後、縦方向のパス1302、1303が後行パスとして設定された例を示している。一方、
図13Bは縦方向のパス1311が先行パスとして設定され、その後、横方向のパス1302、1303が後行パスとして設定された例を示している。本実施形態では、パス交差が生じる構成に対しては、上記のような条件に基づいて形成経路や形成順を決定する。
【0097】
このようなパスの交差が発生する場合、造形後の形状を安定させるために、ビードを形成するパスの先行/後行は交互に行うことが好ましい。つまり、
図13Aのパスの順番と
図13Bのパスの順序は交互に行って積層することが好ましい。なお、ここでの交互とは、一層ごとに限定するものではなく、所定の層数(例えば、2層)ごとに行ってもよいし、周辺に位置する他の部位や要素形状に応じて調整されてもよい。
【0098】
[パス共有]
図14A、
図14B、
図14Cは、本実施形態に係る要素形状を形成する際のパスの共有を説明するための図であり、
図4にて示した中実矩形柱にて構成される部位を積層方向に沿って見た例を示している。1の積層造形物を複数の要素形状に分解した場合、その接続部分においてパスが共有するような構成となり得る。例えば、
図4に示す形状から2つの中実矩形柱を抽出した場合、
図14Aのように分解することができる。このとき、2つの中実矩形柱は互いの外縁部1401、1402にて接続されていることとなる。この接続部分を1つの外縁部として共有することで、施工効率を向上させることが可能になる。具体的には、
図14Bと
図14Cに示すように、接続部においていずれかのパスを外縁部としつつ、もう一方の外縁部を内部充填部に置き換える。
【0099】
図14Bでは、パス1411を先行パスとし、パス1412を後行パスとして設定する例を示す。一方、
図14Cは、パス1421を先行パスとし、パス1422、1423を後行パスとして設定する例を示す。これにより、外縁部の範囲を削減して、外縁部よりも溶着速度を上昇することが可能な内部充填部を形成することにより、積層効率を向上させることができる。
図14Cではパスの始終端位置を共有部に配置しているが、これらは特に限定されるものではなく、非共有部であってもよい。
【0100】
また、このようなパスの共有が発生する場合、造形後の形状を安定させるために、ビードを形成するパスの先行/後行は交互に行うことが好ましい。つまり、
図14Bのパスの順番と
図14Cのパスの順序は交互に行って積層することが好ましい。なお、ここでの交互とは、一層ごとに限定するものではなく、所定の層数(例えば、2層)ごとに行ってもよいし、周辺に位置する他の部位や要素形状に応じて調整されてもよい。
【0101】
図15は、パス共有が発生する場合において、積層造形物Wを構成する複数の要素形状に対し、各層の形成順を決定する際の概念を説明するための図である。第1の実施形態において
図10を用いて説明した構成との差分として、内実矩形柱と薄板の接続部分において、内実矩形柱側の外縁部が内部充填部に置き換わっている。それ以外の構成は、
図10を用いて説明したものと同様である。
【0102】
[処理フロー]
(形成順決定処理)
図16は、本実施形態に係る形成順決定処理のフローチャートであり、第1の実施形態にて
図12に示した処理のうち、S1217~S1220の工程に代えて行われる処理である。
図15に示すように、積層造形物Wが、中実矩形柱と薄板の要素形状から構成される例を示す。したがって、積層造形物Wを構成する要素形状の組み合わせに応じて、処理工程や判定工程は増減する。
図16に示す処理は、
図2に示した積層パターン設定部16や形成順調整部17が、記憶部11にて管理された各DBを参照して実行される。ここでは説明を簡単にするために、処理主体を造形制御装置2としてまとめて記載する。
【0103】
S1216の処理の後、造形制御装置2の処理はS1601へ進む。S1601にて、造形制御装置2は、形成候補にPB(NB+1)、PI(NI+1)、およびPT(NT+1)の全てが含まれるか否かを判定する。全てが含まれる場合(S1601にてYES)、造形制御装置2の処理はS1602へ進む。一方、いずれかが含まれない場合は(S1601にてNO)、造形制御装置2の処理はS1603へ進む。
【0104】
S1602にて、造形制御装置2は、HB(NB+1)<HI(NI+1)、または、HT(NT+1)<HI(NI+1)か否かを判定する。つまり、形成候補であるPI(NI+1)の積層高さが、他の形成候補の積層高さよりも高いか否かが判定される。本条件を満たす場合(S1602にてYES)、造形制御装置2の処理はS1221へ進む。一方、本条件を満たさない場合(S1602にてNO)、造形制御装置2の処理はS1222へ進む。
【0105】
S1603にて、造形制御装置2は、形成候補にPI(NI+1)が含まれるか否かを判定する。PI(NI+1)が含まれている場合(S1603にてYES)、造形制御装置2の処理はS1604へ進む。一方、PI(NI+1)が含まれていない場合(S1603にてNO)、造形制御装置2の処理はS1222へ進む。
【0106】
S1604にて、造形制御装置2は、形成候補にPB(NB+1)が含まれるか否かを判定する。PB(NB+1)が含まれている場合(S1604にてYES)、造形制御装置2の処理はS1605へ進む。一方、PB(NB+1)が含まれていない場合(S1604にてNO)、造形制御装置2の処理はS1606へ進む。
【0107】
S1605にて、造形制御装置2は、HB(NB+1)<HI(NI+1)か否かを判定する。HB(NB+1)<HI(NI+1)である場合(S1605にてYES)、造形制御装置2の処理はS1221へ進む。一方、HB(NB+1)<HI(NI+1)でない場合(S1605にてNO)、造形制御装置2の処理はS1607へ進む。
【0108】
S1606にて、造形制御装置2は、HB(NB)<HI(NI+1)か否かを判定する。HB(NB)<HI(NI+1)である場合(S1606にてYES)、造形制御装置2の処理はS1221へ進む。一方、HB(NB)<HI(NI+1)でない場合(S1606にてNO)、造形制御装置2の処理はS1607へ進む。
【0109】
S1607にて、造形制御装置2は、形成候補にPT(NT+1)が含まれるか否かを判定する。PT(NT+1)が含まれている場合(S1607にてYES)、造形制御装置2の処理はS1608へ進む。一方、PT(NT+1)が含まれていない場合(S1607にてNO)、造形制御装置2の処理はS1609へ進む。
【0110】
S1608にて、造形制御装置2は、HT(NT+1)<HI(NI+1)か否かを判定する。HT(NT+1)<HI(NI+1)である場合(S1608にてYES)、造形制御装置2の処理はS1221へ進む。一方、HT(NT+1)<HI(NI+1)でない場合(S1608にてNO)、造形制御装置2の処理はS1222へ進む。
【0111】
S1609にて、造形制御装置2は、HT(NT)<HI(NI+1)か否かを判定する。HT(NT)<HI(NI+1)である場合(S1609にてYES)、造形制御装置2の処理はS1221へ進む。一方、HT(NT)<HI(NI+1)でない場合(S1609にてNO)、造形制御装置2の処理はS1222へ進む。なお、S1604~S1606の処理(外縁部と内部充填部の積層高さの比較)と、S1607~S1609の処理(薄板と内部充填部の積層高さの比較)の順序はこれに限定するものではなく、逆であってもよい。
【0112】
[パス共有の変形例]
上述したようなパスが共有される場合において、ビードの形成を交互に行う場合の例を
図17に示す。ここでは、一例として各パス高さが、H
B:H
I:H
T=4:3:2の関係となるように設定されたものとして説明する。
図17に示すように、部位のパス高さに応じて、積層する際のパターン(形成経路)を入れ替えることが可能である。なお、破線は、造形形状データが示す積層造形物Wの形状を示す。本例では、薄板の第4層、第5層、第9層は、
図17に示すパターンAとなるようにパスが設定され、薄板の第1層~第3層、第6層~第8層は、
図17に示すパターンBとなるようにパスが設定される。
【0113】
なお、
図17に示すように、外縁部と薄板の幅方向(X軸方向)においてサイズが異なるような場合には、その部分に対する削り処理が可能か否かに応じてパターンを入れ替えるか否かを決定してよい。また、薄板の第5層(N
T=5)と第6層(N
T=6)のように、サイズがより大きい層を上層側に形成する場合には、上層の形成時にビードの垂れ落ちといった溶接不良が生じないことを条件としてパターンを入れ替えるか否かを決定してよい。
【0114】
以上、本実施形態により、第1の実施形態の効果に加え、パス共有がなされる積層造形物において、より施工能率を向上させることが可能となる。
【0115】
<その他の実施形態>
また、本願発明において、上述した1以上の実施形態の機能を実現するためのプログラムやアプリケーションを、ネットワーク又は記憶媒体等を用いてシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。
【0116】
また、1以上の機能を実現する回路によって実現してもよい。なお、1以上の機能を実現する回路としては、例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)が挙げられる。
【0117】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 対象物の造形形状データに基づいて、指向性のある熱源を用いて前記対象物の積層造形を行うための造形条件の設定方法であって、
前記造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整工程と、
を有し、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の前記熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とする設定方法。
この構成によれば、積層造形物を構成する部位およびその周辺の形成状況に応じた造形条件を適切に設定することが可能となる。特に、積層造形物の部位に応じた溶接欠陥の抑制が可能となる。
【0118】
(2) 前記所定の角度は、前記熱源の構成に応じて設定されることを特徴とする(1)に記載の設定方法。
この構成によれば、ワイヤの突き出し長さや装置の大きさなどの熱源の構成に応じて傾き角度を制御でき、形成済みの造形物とノズル等の装置との干渉を抑制することが可能となる。ここでいう装置とは、例えば、炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式溶接法を用いる場合には、シールドノズル等を示し、TIG溶接等の非消耗電極式溶接法を用いる場合にはトーチに加えてワイヤ送給装置等を示す。さらに、例えばレーザ溶接の場合には集光ヘッドや熱源角度設定用のミラーシステム等を示す。
【0119】
(3) 前記設定工程は、前記外縁部と前記内部それぞれに対する積層パターンにおいて、前記外縁部の1ビードの高さをHB、前記内部の1ビードの高さをHI、前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際のビードの形成順を決定するために用いる単位高さをHLとした場合に、
aHL=bHB=cHI
a≠c、かつ、b≠c、かつ、a>c、かつ、b>c、かつ、a≧b
a、b、cは、正の整数
が成り立つように設定することを特徴とする(1)または(2)に記載の設定方法。
この構成によれば、各部位のサイズ間の関係が明確になり、形成順を容易に調整可能となる。
【0120】
(4) 前記造形形状データが示す形状を、予め規定されている要素形状にて複数の要素形状に分解する分解工程を更に有し、
前記設定工程は、前記分解工程にて分解された複数の要素形状それぞれの外縁部と内部に対して積層パターンを設定することを特徴とする請求項(1)~(3)のいずれか一項に記載の設定方法。
この構成によれば、複雑形状を有する対象であっても、簡易な形状の要素に分解して容易に処理を行うことが可能となる。
【0121】
(5) 前記設定工程は、2つの要素形状が隣接する際に、一方の要素形状の外縁部を共有し、他方の要素形状の外縁部を内部に置き換えて当該2つの要素形状の積層パターンを設定することを特徴とする(4)に記載の設定方法。
低入熱の外縁部を平行して施工させる場合に欠陥が生じ易いが、この構成によれば、欠陥発生を抑制することが可能となる。
【0122】
(6) 前記設定工程は、2つの要素形状が隣接する場合、積層方向における所定の層数ごとに、外縁部を内部に置き換える対象となる要素形状を入れ替えることを特徴とする(5)に記載の設定方法。
この構成によれば、溶接欠陥が発生しやすい部位を集中させることなく、積層造形物全体の造形精度を向上させることが可能となる。
【0123】
(7) 前記設定工程は、2つの要素形状が交差する場合、一方の要素形状の形成を行った後、他方の要素形状の形成を行う際に交差部分の形成が行われないように、前記2つの要素形状の形成経路を設定することを特徴とする(4)に記載の設定方法。
この構成によれば、複雑形状を有する対象において、交差部の肉厚過剰が発生することを抑制することが可能となる。
【0124】
(8) 前記設定工程は、2つの要素形状が交差する場合、積層方向における所定の層数ごとに、前記交差部分の形成を行わない対象となる要素形状を入れ替えることを特徴とする(7)に記載の設定方法。
この構成によれば、肉厚異常が発生しやすい部位を集中させることなく、積層造形物全体の造形精度を向上させることが可能となる。
【0125】
(9) 対象物の造形形状データに基づいて、指向性のある熱源を用いて前記対象物の積層造形を行う積層造形方法であって、
前記造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整工程と、
前記設定工程にて設定された積層パターンと、前記調整工程にて調整された形成順とに基づき、造形手段に前記対象物の積層造形を行わせる制御工程と
を有し、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の前記熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とする積層造形方法。
この構成によれば、積層造形物を構成する部位およびその周辺の形成状況に応じた造形条件を適切に設定することが可能となる。
【0126】
(10) 対象物の造形形状データに基づいて、指向性のある熱源を用いて前記対象物の積層造形を行う積層造形システムであって、
前記造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定手段と、
前記設定手段にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整手段と、
前記設定手段にて設定された積層パターンと、前記調整手段にて調整された形成順とに基づき、前記対象物の積層造形を行う造形手段と
を有し、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の前記熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とする積層造形システム。
この構成によれば、積層造形物を構成する部位およびその周辺の形成状況に応じた造形条件を適切に設定することが可能となる。
【0127】
(11) コンピュータに、
対象物の造形形状データが示す形状における外縁部と内部それぞれに対して積層パターンを設定する設定工程と、
前記設定工程にて設定した積層パターンを用いて前記外縁部と前記内部それぞれを積層して形成する際の形成順を、造形時において前記外縁部のすでに積層されている高さが新たに積層しようとする前記内部の高さと比較して高くなるように調整する調整工程と、
を実行させ、
前記積層パターンにおいて、前記外縁部との境界に位置する部位を形成する際の熱源の向きは、前記熱源の移動方向に垂直な面において、前記外縁部へ所定の角度に傾けるように設定されることを特徴とするプログラム。
この構成によれば、積層造形物を構成する部位およびその周辺の形成状況に応じた造形条件を適切に設定することが可能となる。
【符号の説明】
【0128】
1…積層造形システム
2…造形制御装置
3…マニピュレータ
4…マニピュレータ制御装置
5…コントローラ
6…熱源制御装置
7…ベース
8…トーチ
10…入力部
11…記憶部
12…造形形状データ
13…要素形状DB(データベース)
14…積層パターンDB(データベース)
15…要素形状分解部
16…積層パターン設定部
17…形成順調整部
18…プログラム生成部
19…出力部
W…積層造形物