(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-25
(45)【発行日】2024-01-09
(54)【発明の名称】メッシュ部材、篩及びスクリーン版
(51)【国際特許分類】
B41N 1/24 20060101AFI20231226BHJP
D03D 15/533 20210101ALI20231226BHJP
D06M 11/74 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
B41N1/24
D03D15/533
D06M11/74
(21)【出願番号】P 2020506555
(86)(22)【出願日】2019-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2019009973
(87)【国際公開番号】W WO2019176933
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2018047095
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018047096
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】本島 信一
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第2011-0118757(KR,A)
【文献】実公昭46-015597(JP,Y1)
【文献】特開昭63-015795(JP,A)
【文献】国際公開第2009/028379(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第106948168(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107988808(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M10/00-16/00
D06M19/00-23/18
B07B1/00-15/00
B41N1/00-99/00
D03D1/00-27/18
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクリーン紗であるメッシュ部材であって、
メッシュ織物と、
前記メッシュ織物の表面に形成された、樹脂と単層カーボンナノチュー
ブとを含む被覆層と、
を有
し、
前記被覆層は、厚さが0.1μm以上1.0μm以下であり、
前記被覆層の体積抵抗値が0.01Ω・cm以上1×10
4
Ω・cm以下であり、
前記単層カーボンナノチューブの含有量が、前記被覆層100質量%に対して、0.3質量%以上2.0質量%以下である、ことを特徴とするメッシュ部材。
【請求項2】
請求項
1に記載のメッシュ部材が用いられていることを特徴とするスクリーン版。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電を抑制できるメッシュ部材に関する。
【背景技術】
【0002】
メッシュ織物が使用されるメッシュ部材としては、篩分けに用いられる篩の篩網や、スクリーン印刷に用いられるスクリーン版のスクリーン紗がある。近年では、これらのスクリーン紗や篩網について様々な技術が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、篩い抜け効率に優れる篩網が開示されている。この文献に開示される篩網では、篩網の本体部をなす基材の表面に、シランモノマーで被覆された無機微粒子とバインダー成分とを含む凹凸層を形成するとともに、凹凸層表面の算術平均粗さRaを5nm以上100nm以下としている。凹凸層表面の算術平均粗さを、前述した所定の値とすることにより、粉体と基材とが接触する面積を小さくし、基材に対する粉体の付着を抑制している。このため、粉体が通過する開口部の目詰まりが抑制され、粉体の篩い抜け効率が向上する。
【0004】
特許文献2には、印刷用メッシュ本体に非晶質炭素膜層を形成するとともに、非晶質炭素膜層に撥水層又は撥水・撥油層を形成することで、メッシュの印刷ペーストに対する離型性を向上させる技術が開示されている。また、この技術では、炭素(C)、水素(H)、及びケイ素(Si)を主成分とする非晶質炭素膜層を使用することで、乳剤との接着性を向上している。
【0005】
特許文献3には、第1の孔が形成された金属素材の第1の層部材と、第1の孔よりも大きい第2の孔が形成された樹脂素材の第2の層部材と、が積層したスクリーン版により、微細なペーストバンプを高精度に形成する技術が開示されている。この技術では、第2の層部材に無機物や有機物フィラーを含有することにより、機械的、物理的な強度を向上している。
【0006】
特許文献4には、分散された短繊維を含む樹脂シートにおいて、樹脂シートの一部を、短繊維を残して樹脂部分のみを除去することで、樹脂シートの強度を確保する技術が開示されている。この技術では、短繊維として、カーボンナノチューブが用いられている。
【0007】
また、特許文献5には、内紗に形成される第1の乳剤の外側に、第1の乳剤よりも硬く硬化した第2の乳剤を形成することで、印刷位置のズレを抑制する技術が開示されている。この技術では、第1の乳剤と第2の乳剤において、ポリビニルアルコール(フィラー)の含有量を調整することで、乳剤の硬さを調整している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2010-188294号公報
【文献】特許第5802752号公報
【文献】特開2014-108617号公報
【文献】特開2013-248828号公報
【文献】特開2010-042612号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
篩で使用される篩網は、篩分けの際に粉体が繰り返し接触することより帯電してしまうことがある。篩網が帯電すると、粉体が篩網に付着したり粉体が凝集したりし、結果として、粉体が篩網を通過しにくくなる。このため、篩網には、帯電しにくいことが求められる。
【0010】
また、スクリーン版で使用されるスクリーン紗は、繰り返しスクリーン印刷が行われることにより(スキージが繰り返し接触することで)帯電することがある。スクリーン紗が帯電すると、被印刷物に転移されたインクがにじんだり跳ねたりする。また、スクリーン紗は、スクリーン紗を版枠に張る過程で帯電することもあり、このような過程でスクリーン紗が帯電すると、埃、塵などのゴミや接着剤がスクリーン紗に付着することがある。このため、スクリーン紗には、帯電しにくいことが求められる。
【0011】
本発明は、帯電を抑制することができるメッシュ部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] メッシュ織物と、前記メッシュ織物の表面に形成された、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンを含む被覆層と、を有することを特徴とするメッシュ部材。
[2] 前記カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブであることを特徴とする[1]に記載のメッシュ部材。
[3] 前記被覆層は、厚さが0.1μm以上1.0μm以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のメッシュ部材。
[4] 前記被覆層の体積抵抗値が0.01Ω・cm以上1×108Ω・cm以下であることを特徴とする[1]から[3]のいずれか一つに記載のメッシュ部材。
[5] 前記メッシュ部材が篩網であることを特徴とする[1]から[4]のいずれか一つに記載のメッシュ部材。
[6] [5]に記載のメッシュ部材が用いられていることを特徴とする篩。
[7] 前記メッシュ部材がスクリーン紗であることを特徴とする[1]から[4]のいずれか一つに記載のメッシュ部材。
[8] [7]に記載のメッシュ部材が用いられていることを特徴とするスクリーン版。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、帯電を抑制できるメッシュ部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図3】篩網の第1の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図4】篩網の第2の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図8】スクリーン版の製造方法を説明するフローチャートである。
【
図9】篩網を通過した粉体の量と時間の関係を示すグラフである。
【
図10】篩網に付着した粉体の量を示すグラフである。
【
図11】カーボンナノチューブの含有量と体積抵抗値の関係を示すグラフである。
【
図12】印刷枚数と摩擦帯電圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態のメッシュ部材は、メッシュ織物と、メッシュ織物の表面に形成された被覆層を有し、被覆層には、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンが含有されている。このような構成を備える本実施形態のメッシュ部材は、帯電を抑制することができる。
【0016】
ここで、本実施形態において、メッシュ織物とは、繊維を所定の織組織に織ることで得られ、繊維と繊維の間に孔(貫通孔)が設けられている織物を指す。また、本実施形態において、メッシュ部材とは、メッシュ織物から形成され、メッシュ織物に設けられている複数の孔(貫通孔)が塞がれることなく維持されている部材を指す。なお、メッシュ部材は、メッシュ織物のみから形成されている必要はなく、後述する被覆層などの他の構成を含んでいてもよい。
【0017】
具体的なメッシュ部材としては、例えば、篩に用いられる篩網や、スクリーン版に用いられるスクリーン紗を挙げることができる。以下では、メッシュ部材が篩網である実施形態(第1実施形態)と、メッシュ部材がスクリーン紗である実施形態(第2実施形態)について説明する。
【0018】
(第1実施形態)
本実施形態は、メッシュ部材が篩網である実施形態である。本実施形態の篩網は、網体と、網体の表面に形成される被覆層を有している。なお、網体は、上述したメッシュ織物(繊維を所定の織組織に織ることで得られ、繊維と繊維の間に孔(貫通孔)が設けられている織物)に対応する。
【0019】
網体を構成する材料(繊維)は、後述する被覆層を表面に形成できるものであればよい。このような材料としては、例えば、各種樹脂から形成される繊維、合成繊維、綿や麻や絹などの天然繊維や、ガラスやセラミックスや金属などの無機材料から形成される繊維が挙げられる。これらの材料は、1種又は2種以上を組み合わせて用いてもよく、例えば、網体を構成する繊維の表層部と中心部を異なる材料で構成してもよい。
【0020】
各種樹脂としては、合成樹脂や天然樹脂が挙げられる。その一例としては、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、EVA樹脂、ポリメチルペンテン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフッ化ビニリデン樹脂、ベクトラン(登録商標)、PTFEなどの熱可塑性樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリヒドロキシブチレート樹脂、修飾でんぷん樹脂、ポリカプロラクト樹脂、ポリブチレンサクシネート樹脂、ポリブチレンアジペートテレフタレート樹脂、ポリブチレンサクシネートテレフタレート樹脂、ポリエチレンサクシネート樹脂などの生分解性樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシアクリレート樹脂、アクリルウレタン樹脂、ウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂、ポリスチレンエラストマー、ポリエチレンエラストマー、ポリプロピレンエラストマー、ポリウレタンエラストマーなどのエラストマーおよび漆などの天然樹脂などが挙げられる。
【0021】
網体に設けられる孔(繊維と繊維の間に設けられる孔)の形状やサイズは、粉体を篩分ける方法に応じ、適宜選択することができる。例えば、粉体を構成する粒子のうち、特定のサイズの粒子のみを篩分ける場合には、特定のサイズの粒子のみが通過できるサイズの孔を網体に形成することができる。また、粉体を構成する粒子のうち、特定の形状の粒子のみを篩分ける場合には、特定の形状の粒子のみが通過できる形状の孔を網体に形成することができる。
【0022】
網体の表面には、被覆層が形成されている。被覆層は、網体の表面の少なくとも一部分に形成されていれば、篩網の帯電を抑制できる。帯電を抑制することに加え、粉体の篩抜け効率を向上するには、網体の表面のうち、粉体が接触する位置に形成されていればよい。帯電を抑制し、粉体の篩い抜け効率をさらに向上する観点からは、網体の表面全体に形成されていることが好ましい。
【0023】
網体の表面に形成される被覆層は、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンを含む。
【0024】
カーボンナノチューブは、炭素原子により構成される六員環が平面内で互いに結合して形成されるグラフェンシートを、巻いて筒状にした構造体である。カーボンナノチューブとしては、1枚のグラフェンシートを巻いた単層カーボンナノチューブ(SWNT)、2枚のグラフェンシートを同心円状に巻いた二層カーボンナノチューブ(DWNT)、3枚以上のグラフェンシートを同心円状に巻いた多層カーボンナノチューブ(MWNT)を挙げることができる。これらのカーボンナノチューブうち単層カーボンナノチューブを用いることが好ましい。単層カーボンナノチューブが用いられる場合、二層カーボンナノチューブや多層カーボンナノチューブが用いられる場合と比較して、カーボンナノチューブの含有量が少量であっても帯電しにくく、篩い抜け効率を向上しやすい。このため、単層カーボンナノチューブが用いられる場合には、被覆層の透明性が確保されやすい。また、カーボンナノチューブの表面は酸化処理により水酸基(-OH基)が形成されていることが特に好ましい。カーボンナノチューブが被覆層中に分散された状態で被覆層を乾燥固化することで、水酸基を有することにより、被覆層と網体との密着性が高まり、耐久性が向上する。また、後述するバインダーの種類によっては、電子線等で架橋することにより、カーボンナノチューブ表面の水酸基と、バインダーの成分の水酸基とが脱水縮合反応により、強度、耐久性に優れた被覆層を得ることができる。
【0025】
カーボンナノチューブの含有量は、例えば、被覆層100質量%に対し、0.05質量%以上10質量%以下とすることができ、0.3質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上1.0質量%であることが特に好ましい。カーボンナノチューブの含有量の上限値は、被覆層の物性の変化(例えば、被覆層の強度の低下)や被覆層の網体に対する密着性の低下を抑制する観点から、3.0質量%以下であることが好ましい。カーボンナノチューブの含有量の下限値は、帯電を抑制して、篩抜け効率を向上する観点から、0.3質量%以上であることが好ましい。
【0026】
特に、カーボンナノチューブとして単層のカーボンナノチューブを用いる場合には、単層のカーボンナノチューブの含有量を、0.3質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましい。単層カーボンナノチューブの含有量が、0.3質量%以上2.0質量%以下であることにより、被覆層の物性の変化(例えば、被覆層の強度の低下)や被覆層の網体に対する密着性の低下を抑制できることに加え、含有量が当該範囲内にある多層カーボンナノチューブを用いる場合と比較して、帯電をさらに抑制できる。また、単層のカーボンナノチューブの含有量が当該範囲(0.3質量%以上2.0質量%以下)である場合には、被覆層の透明性を確保しやすくなる。
【0027】
カーボンナノチューブの長さや直径は、特に限定されない。カーボンナノチューブの直径は、例えば、0.4nm以上6nm以下とすることができる。また、カーボンナノチューブの長さは、1μm以上1000μm以下とすることができ、さらに1μm以上50μm以下とすることができる。なお、カーボンナノチューブの直径や長さは、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて測定することができる。
【0028】
カーボンナノチューブは、例えば、斉藤・板東「カーボンナノチューブの基礎」(P23~P57、コロナ社出版、1998年発行)に記載のアーク放電法、レーザ蒸発法および熱分解法等により作製することができる。また、純度を高めるために、更に水熱法、遠心分離法、限外ろ過法、および酸化法を用いて精製してもよい。なお、カーボンナノチューブとしては、市販のカーボンナノチューブを用いることもできる。
【0029】
グラフェンは、炭素原子により構成される六員環が平面内で互いに結合して形成される構造体である。グラフェンとしては、十分な導電性を持たせて帯電をより抑制できる観点から、還元型の酸化グラフェンを用いることが好ましい。なお、グラフェンの製造方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法で製造することができる。また、還元型の酸化グラフェンは、表面に酸素官能基(酸素を含む官能基)を有する酸化グラフェンを還元したものであり、例えば、国際公開第2014/112337号に記載の方法で製造することができる。
【0030】
グラフェンの含有量は、例えば、被覆層100質量%に対し、0.5質量%以上5.0質量%以下とすることができ、0.5質量%以上3.0質量%以下とすることが好ましい。グラフェンの含有量が0.5質量%以上であることにより、0.5質量%未満である場合と比較し、帯電防止の効果が大きくなる。また、グラフェンの含有量が5.0質量%以下であることにより、5.0質量%を超える場合と比較して、被覆層の透明性を確保しやすくなる。
【0031】
被覆層を、網体の表面に固定する方法は、特に限定されるものではない。例えば、被覆層にバインダーを含有することで、被覆層を網体の表面に固定することができる。
【0032】
バインダーとしては、例えば、アクリル樹脂,ポリエステル樹脂,ポリウレタン樹脂,フェノール樹脂,エポキシ樹脂,アクリルウレタン樹脂,ビニルエステル樹脂等などの樹脂を挙げることができる。これらのバインダーが被覆層に含まれることにより、網体の表面に被覆層が固定されやすくなるとともに、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンが被覆層から脱落しにくくなる。網体と被覆層との密着性を向上する観点からは、バインダーは、アクリル樹脂および/またはポリエステル樹脂であることが好ましい。なお、バインダーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができ、例えば、網体の表面に第1のバインダーが配置され、第1のバインダーの表面に第1のバインダーとは異なる第2のバインダーが配置される被覆層であってもよい。
【0033】
バインダーの含有量は、被覆層100質量%に対し、80質量%以上99.5質量%以下とすることができ、網体と被覆層との密着性を向上する観点やバインダーの物性(例えば、被覆層の強度)を保持する観点から、90質量%以上98質量%以下とすることが好ましい。
【0034】
被覆層は、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンやバインダーの他に、界面活性剤、架橋剤などの他の成分を含有することが出来る。
【0035】
界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン、アルキルポリグルコシドなどのノニオン系界面活性剤やドデシル硫酸ナトリウム、デオキシコール酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤を挙げることができる。被覆層に界面活性剤が含まれることで、網体への被覆層(被覆層の原料)の濡れ性が向上し、均一な厚みの被覆層が形成されやすい。これらの界面活性剤のうち、ノニオン系界面活性剤を用いることが好ましい。被覆層にノニオン系界面活性剤が含まれる場合、被覆層にアニオン系界面活性剤が含まれる場合と比較して、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンの分散性がより高くなり均一な被覆層となる。
【0036】
界面活性剤の含有量は、被覆層100質量%に対し、0.01質量%以上2.0質量%以下とすることができ、網体への被覆層(被覆層の原料)の濡れ性を向上する観点や被覆層の物性(例えば、被覆層の強度)を保持する観点から、0.1質量%以上1.0質量%以下とすることが好ましい。
【0037】
架橋剤としては、例えば、イソシアネート基を含むイソシアネート系架橋剤、オキサゾリン基を含むオキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド基を含むポリカルボジイミド系架橋剤、アミン系化合物を含むアミン系架橋剤などを挙げることができる。これら架橋剤を用いるにあたり、紫外線、電子線、X線等により架橋する方法も使用できる。バインダー(例えば、電子線硬化樹脂や紫外線硬化樹脂)に架橋剤が含まれる場合、バインダーが架橋する。バインダーが架橋すると、被覆層の強度が向上するため、被覆層に粉体などが接触することで生じる、被覆層の摩耗や離脱を抑制できる。このため、被覆層や被覆層に含まれる物質が粉体に混入する、いわゆるコンタミネーションを抑制することができる。また、バインダーが架橋すると、被覆層に含まれる物質が被覆層の外部に放出されることに加えて、被覆層に接触する物質(例えば、篩網製造時に使用され得る溶剤に含まれる物質や篩分けを行う粉体に含まれる物質など)が被覆層に取り込まれることを抑制できる。このため、製造過程や粉体の篩分け過程において、被覆層の物性(例えば、被覆層の体積抵抗値)が変化することを抑制できる。従って、帯電が抑制された状態を維持しやすくなる。加えて、粉体の篩い抜け効率が向上した状態を維持しやすくなる。
【0038】
架橋剤の含有量は、例えば、被覆層100質量%に対し、0.5質量%以上20質量%以下とすることができ、被覆層の物性(例えば、被覆層の体積抵抗値)の変化を抑制する観点から、1.0質量%以上10質量%以下とすることが好ましい。
【0039】
被覆層の厚みは、0.1μm以上1.0μm以下とすることが好ましく、0.1μm以上0.5μm以下とすることがより好ましい。被覆層の厚みが0.1μm以上であることにより、被覆層の厚みが0.1μm未満である場合と比較して、被覆層を網体の表面に保持しやすくなる。また、被覆層の厚みが1.0μm以下であることにより、1.0μmを超える場合と比較して、網体に設けられる孔をより塞ぎにくい。例えば、被覆層の厚みが1.0μm以下である場合、目開きに影響する樹脂バリを抑制することができ、網体に設けられる孔が塞がれにくい。被覆層の厚みは、篩網の任意の3箇所以上における篩網の断面を用いて、被覆層の厚みを走査電子顕微鏡(SEM)でそれぞれ測定し、測定した被覆層の厚みを加算平均した値である。
【0040】
被覆層の体積抵抗値は、0.01Ω・cm以上1×108Ω・cm以下であることが好ましく、0.01Ω・cm以上1×105Ω・cm以下であることがより好ましく、1Ω・cm以上1×104Ω・cm以下であることが特に好ましい。なお、粉体の種類やふるいの条件に応じたさらに好ましい範囲が得られるよう、0.01Ω・cm以上1×108Ω・cm以下の範囲内で体積抵抗値をさらに選択することができる。また、被覆層の厚みに応じて、体積抵抗値を0.01Ω・cm以上1×108Ω・cm以下の範囲内でさらに選択することができる。例えば、被覆層の厚みが1μmである場合、体積抵抗値は0.1Ω・cm以上1×105Ω・cm以下とすることが好ましく、被覆層の厚みが0.1μmの場合、体積抵抗値は0.01Ω・cm以上1×104Ω・cm以下とすることが好ましい。被覆層の体積抵抗値が0.01Ω・cm以上である場合、体積抵抗値が0.01Ω・cm未満である場合と比較して、少ないカーボンナノチューブ及び/又はグラフェンの含有量となるため、被覆層の透明性が確保されやすい。また、少ないカーボンナノチューブ及び/又はグラフェンの含有量となるため、被覆層の物性が変化(例えば、被覆層の強度が低下)しにくく、被覆層の網体への密着性が低下しにくい。また、被覆層の体積抵抗値が1×108Ω・cm以下である場合、体積抵抗値が1×108Ω・cmを超える場合と比較して、帯電防止性能が発揮されやすくなり、篩抜け効率がより向上しやすい。被覆層の体積抵抗値は、被覆層に含有されるカーボンナノチューブ及び/又はグラフェンの含有量を変更することなどにより調整することができる。なお、一般的に、体積抵抗値が低くなるほど帯電しにくくなる。
【0041】
被覆層の体積抵抗値は、下記(1)式を用いて算出することができる。
上記(1)式において、ρ
vは、被覆層の体積抵抗値(Ω・cm)を示し、ρ
sは、被覆層の表面抵抗値(Ω/□)を示し、tは、被覆層の厚み(cm)を示す。
また、被覆層の体積抵抗値ρ
sは、JISK7194(1994年)に準じて測定した値であり、被覆層の厚みtは、篩網の任意の3箇所以上における篩網の断面を用いて、被覆層の厚みを走査電子顕微鏡(SEM)でそれぞれ測定し、測定した被覆層の厚みを加算平均した値である。
【0042】
本実施形態の篩網は、従来公知の手法により、篩枠に固定して篩として用いることができる。篩枠としては、従来公知のものを用いることができるが、例えば、金属、鋳物、樹脂、木材などの材料から構成される筒状の部材を版枠として用いることができる。
【0043】
本実施形態の網体を用いて篩分けられる粉体は、特に限定されるものではない。例えば、でんぷん粉、シリカ、粉体塗料、トナー、電池材料、銅粉等を挙げることができる。粉体を構成する粒子の粒子径は、特に限定するものではないが、例えば、体積平均粒子を1μm以上1000mm以下とすることができる。なお、体積平均粒子径とは、レーザ回折散乱法における体積換算での中位径(D50)として測定される粒子径をいう。
【0044】
ここで、本実施形態の篩網の具体的な構成の一例を、
図1及び
図2を用いて説明する。
図1は、本実施形態の篩網1の概略図であり、
図2は、
図1に示す篩網1のA-A断面図である。なお、網体2や被覆層3の組成や物性については、上述しているため、詳細な説明は省略する。また、X軸およびY軸は互いに直交する軸であり、Z軸は、X軸およびY軸のそれぞれと直交する軸である。X軸、Y軸、Z軸の関係は、後述する
図5~7において同様である。
【0045】
本実施形態の篩網1は、
図1及び
図2に示すように、網体2と網体2の表面に形成される被覆層3を有している。なお、網体2の表面には、被覆層3が形成されているため、
図1では、網体2を破線で示している。
【0046】
網体2は、複数の緯糸2aと複数の経糸2bにより構成されている。複数の緯糸2aは、X―Y平面において、所定の間隔をあけて平行に並べられており、複数の経糸2bは、X―Y平面において、緯糸2aに対して垂直に並べられるとともに、所定の間隔をあけて平行に並べられている。複数の緯糸2aと複数の経糸2bは、Z軸方向において交互に浮き沈みして織られており、平織の織組成を構成している。なお、網体2の織組成は、特に限定されるものではなく、綾織、朱子織などを用いることができる。
【0047】
本実施形態の篩網1において、緯糸2a及び経糸2bの直径や、開口率(X-Y平面内における網体2の面積(孔Pの面積を含む)に対する、X-Y平面内における孔Pの面積の割合)は、粉体の種類や粉体を構成する粒子の粒径、使用環境などにより適宜選択することができる。例えば、緯糸2a,経糸2bの直径は、20μm以上1000μm以下とすることができ、開口率(%)は、5%以上90%以下とすることができる。
【0048】
隣り合う2つの緯糸2aと隣り合う2つの経糸2bに囲まれる空間には、孔Pが形成されている。孔Pには、粉体を構成する粒子の少なくとも一部の粒子が通過する。孔Pの形状やサイズは、粉体を篩分ける方法に応じ、適宜選択することができる。例えば、孔PのX軸方向における高さやY軸方向における幅の長さは、20μm以上1000μm以下とすることができる。
【0049】
網体2の表面(つまり、緯糸2a及び経糸2bの表面)は、
図1及び
図2に示すように、バインダーと炭素材料3aを含む被覆層3で被覆されている。被覆層3に含まれるバインダーは、炭素材料3aを被覆層3に固定するとともに、被覆層3を網体2の表面に固定する。被覆層3に含まれる炭素材料3aは、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンであり、
図2に示すように、バインダーからその一部分が露出した状態やバインダーの内部に全てが取り込まれた状態でバインダーに固定されている。被覆層3には、バインダーと炭素材料3aの他に、架橋剤や界面活性剤が含まれてもよい。
【0050】
被覆層3は、厚みtを有している。厚みtは、特に限定されるものではないが、被覆層3の厚みtによって孔Pのサイズや形状が変化するため、その変化を考慮して、粉体が篩い抜けられるよう適宜選択することができる。
【0051】
以上説明した本実施形態の篩網では、網体の表面に、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンを含む被覆層が形成されている。この被覆層を含む篩網は、篩網が帯電することを抑制できる。このため、本実施形態の篩網は、粉体が付着することを抑制できるとともに、粉体の凝集を抑制できる。従って、網体に設けられる孔が閉塞されることを抑制でき、粉体が網体に形成される孔を通過しやすい。つまり、本実施形態によれば、帯電を抑制でき、粉体の篩い抜け効率に優れた篩網を提供できる。加えて、本実施形態の篩網は、粉体が接触し続けたとしても帯電しにくいため、粉体の篩い抜け効率が向上した状態を維持し続けることができる。
【0052】
また、本実施形態の篩網は、網体の表面に形成される被覆層に、重金属などの人体に害を及ぼす物質を含有することなく、篩い抜け効率を向上できる。このため、篩い抜け効率を向上できるだけでなく、人体に害を及ぼす物質が粉体に混入する、いわゆるコンタミネーションを抑制しやすい。
【0053】
次に、本実施形態の篩網の製造方法について説明する。
【0054】
まず、第1の製法方法について、
図3を用いて説明する。
【0055】
ステップS101では、被覆層の原料となる塗液を得る。塗液は、カーボンナノチューブとグラフェンの少なくともいずれか一方と溶媒を混合することで得ることができる。混合方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。バインダーや架橋剤や界面活性剤などの、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェン以外の成分を被覆層に含有する場合には、塗液に、これらの成分を含有することができる。塗液に用いられる溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、トルエン、アセトン、メチルエチルケトンなどを挙げることができる。
【0056】
ステップS102では、網体を得る。網体は、繊維と繊維の間に孔(貫通孔)が形成されるように、糸(繊維)を製織することで得ることができる。
【0057】
ステップS102で得られた網体は、そのまま後述するステップS103の処理に用いてもよいが、ステップS103の処理の前に、ステップS101の処理で得た塗液が網体の表面に密着しやすくなるよう、前処理されてもよい。前処理としては、例えば、コロナ放電処理やプラズマ放電処理や、火炎処理や、クロム酸や過塩素酸などの酸化性酸水溶液や水酸化ナトリウムなどを含むアルカリ性水溶液による親水化処理を挙げることができる。
【0058】
ステップS103では、ステップS102の処理で得た網体に対し、ステップS101の処理で得た塗液を塗布する。網体に塗液を塗布する方法としては、例えば、ディップコート法や、スプレーコート法や、マイクログラビアコート法や、グラビアコート法を挙げることができ、これらの方法を2つ以上組わせて用いる事もできる。
【0059】
ステップS104では、ステップS103の処理で網体に塗布された塗液を乾燥する。塗液を乾燥することで溶媒が除去され、網体の表面に被覆層が形成される。塗液の乾燥方法は、網体の材料や塗液の成分に応じて適宜設定することができるが、例えば、温風や熱風を用いて乾燥する方法を挙げることができる。
【0060】
以上説明したステップS101~S104の処理により、本実施形態の篩網を製造することができる。なお、第1の製法方法において、ステップS101の処理とステップS102の処理の順序は、特に限定されず、ステップS102の処理後にステップS101の処理を行ってよく、これらの処理を同時に行ってもよい。
【0061】
次に、第2の製法方法について、
図4を用いて説明する。
【0062】
ステップS201では、被覆層の原料となる塗液を得る。塗液の取得方法は、第1の製法方法のステップS101と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0063】
ステップS202では、網体の原料である繊維に対し、塗液を塗布する。網体の原料(繊維)は、ステップS202の処理の前に、ステップS201の処理で得た塗液が網体の原料(繊維)の表面に密着しやすくなるよう、前処理されてもよい。なお、塗液の塗布方法は、第1の製法方法のステップS103と同じであり、前処理は、第1の製法方法における網体の前処理と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0064】
ステップS203では、網体の原料(繊維)に塗布された塗液を乾燥する。塗液を乾燥することで溶媒が除去され、網体の原料の表面に被覆層が形成される。塗液の乾燥方法は、第1の製法方法のステップS104と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0065】
ステップS204では、被覆層が形成された網体の原料(繊維)を用いて網体を得る。具体的には、繊維と繊維の間に孔(貫通孔)が形成されるように、糸(繊維)を製織する。
【0066】
以上説明したステップS201~S204の処理により、本実施形態の篩網を製造することができる。
【0067】
なお、篩は、本実施形態の篩網を公知の手法により篩枠に固定することで製造することができる。篩網を篩枠に固定するには、例えば、接着剤を用いることができる。
【0068】
(第2実施形態)
次に、メッシュ部材がスクリーン紗である実施形態ついて説明する。
【0069】
本実施形態のスクリーン紗は、メッシュ織物と、メッシュ織物の表面に形成される被覆層を有し、被覆層には、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンが含有されている。本実施形態において、メッシュ織物や被覆層には、第1実施形態で説明した網体(メッシュ織物)や被覆層を用いることができる。
【0070】
以下、本実施形態のスクリーン紗の具体的な構成の一例を、
図5及び
図6を用いて説明する。
図5は、本実施形態のスクリーン紗11の概略図であり、
図6は、
図5に示すスクリーン紗11のB-B断面図である。なお、以下の説明では、第1実施形態と同じ構成については、詳細な説明を省略する。
【0071】
本実施形態のスクリーン紗11は、メッシュ織物12と、メッシュ織物12の表面に形成される被覆層13を有している。
【0072】
メッシュ織物12は、
図1に示す網体2(第1実施形態の網体)と同様に、複数の緯糸12aと複数の経糸12bにより構成されており、平織の織組成を構成している。なお、メッシュ織物12の織組成は、特に限定されるものではない。
【0073】
複数の緯糸12aと複数の経糸12bを構成する材料(繊維)は、被覆層13を表面に形成できるものであればよく、第1実施形態で説明した材料を用いることができる。例えば、緯糸12aと複数の経糸12bを構成する材料(繊維)としては、合成繊維を用いることができる。合成繊維としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステル等のポリエステル、ナイロン、ポリフェニルサルフォン(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)から形成される合成繊維を用いることができる。これらの繊維は、2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0074】
隣り合う2つの緯糸12aと隣り合う2つの経糸12bに囲まれる空間には、孔P’が形成されている。スクリーン印刷を行う過程では、スクリーン紗11に設けられる複数の孔P’のうち、後述する遮蔽膜が形成される領域に設けられる孔P’は、遮蔽膜により閉塞される。また、スクリーン紗11に設けられる複数の孔P’のうち、遮蔽膜に形成される開口から露出する領域に設けられる孔P’には、インクが充填されて保持される。そして、孔P’に保持されたインクが被印刷物に転移されることで、スクリーン印刷が行われる。緯糸12a及び経糸12bの直径は、第1実施形態で説明した網体2と同様に、例えば、20μm以上1000μm以下とすることができる。また、メッシュ織物12の開口率は、第1実施形態で説明した網体2と同様に、例えば、5%以上90%以下とすることができる。
【0075】
メッシュ織物12の表面(緯糸12a及び経糸12bの表面)には、炭素材料13aを含む被覆層13が形成されている。スクリーン紗11において、被覆層13は、メッシュ織物12の表面全体に形成されているが、少なくとも、メッシュ織物12表面の少なくとも一部分に形成されていれば、スクリーン紗11の帯電を抑制できる。帯電を抑制することに加え、スクリーン紗11の印刷精度を向上するには、少なくとも遮蔽膜に形成される開口から露出するメッシュ織物12の領域において、被覆層13が形成されていることが好ましい。
【0076】
被覆層13に含まれる炭素材料13aは、カーボンナノチューブ及び/又はグラフェンである。カーボンナノチューブ及びグラフェンは、第1実施形態で説明しているため詳細な説明を省略する。
【0077】
ここで、スクリーン紗11に形成される後述する遮蔽膜の開口は、例えば、スクリーン紗11の表面に形成した樹脂層(感光性樹脂からなる層)の特定の領域のみに紫外線を照射し、紫外線が照射されない領域を取り除くことで形成される。このため、スクリーン紗11の紫外線(UV)の反射率が高すぎると光の乱反射が生じやすくなり、樹脂層における目的とする領域以外の領域に反射光(紫外線)が照射され、遮蔽膜の開口の形成精度が低下してしまうことがある。しかしながら、本実施形態のスクリーン紗11では、炭素材料13aを含む被覆層13がメッシュ織物12に形成されているため、光の乱反射を抑制することができる。従って、本実施形態のスクリーン紗11は、被覆層13を有していないスクリーン紗11と比較して、遮蔽膜の開口の形成精度を向上しやすい。
【0078】
一方で、スクリーン紗11の光の反射率が低すぎると、スクリーン紗11における光の乱反射が生じにくくなり、遮蔽膜の形成に時間がかかることがある。遮蔽膜の形成に時間がかかると、スクリーン版の生産性が低下しやすくなる。被覆層13が着色されると、スクリーン紗11の光の反射率が大きく低下して、スクリーン紗11における光の乱反射が生じにくくなり、スクリーン版の生産性が低下しやすくなる。このため、本実施形態のスクリーン紗11では、被覆層13が透明性を有していることが好ましい。炭素材料13aとして単層カーボンナノチューブを用いた場合、多層カーボンナノチューブを用いた場合と比較して被覆層13の透明性を確保しやすい。このため、炭素材料13aとしては、単層カーボンナノチューブを用いることが好ましい。例えば、単層のカーボンナノチューブが、全光線透過率が80%以上90%未満になるような濃度であればより透明性が確保され、より好ましくは85%以上90%未満である。
【0079】
例えば、遮蔽膜の開口の形成精度を向上する観点からは、スクリーン紗11の光の反射率は、ピーク波長375nmにおける光の吸収率が8%以下とすることが好ましい。なお、本明細書において、スクリーン紗11の光の反射率とは、スクリーン紗11(被覆層13が形成されたメッシュ織物12)にZ軸方向から入射される光の量に対する、スクリーン紗11で反射してスクリーン紗11(被覆層13が形成されたメッシュ織物12)の外部に射出される光の量の割合であり、例えば、分光光度計(V-670、日本分光株式会社)を用いて測定することができる。
【0080】
炭素材料13aがカーボンナノチューブである場合、炭素材料13aの含有量は、被覆層100質量%に対し、0.05質量%以上10質量%以下とすることができ、0.3質量%以上3.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上2.0質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以上2.0質量%以下であることが特に好ましい。炭素材料13a(カーボンナノチューブ)の含有量の上限値は、被覆層13の物性の変化(例えば、被覆層13の強度の低下)を抑制するとともに、被覆層13のメッシュ織物12に対する密着性の低下を抑制する観点から、3.0質量%以下であることが好ましい。炭素材料13a(カーボンナノチューブ)の含有量の下限値は、帯電防止性能を持続する観点から、0.3質量%以上であることが好ましい。
【0081】
特に、炭素材料13aとして単層のカーボンナノチューブを用いる場合には、単層のカーボンナノチューブの含有量を、0.3質量%以上2.0質量%以下とすることが好ましい。単層カーボンナノチューブの含有量が0.3質量%以上2.0質量%以下であることにより、被覆層13の物性の変化や被覆層13のメッシュ織物12に対する密着性の低下を抑制できることに加え、含有量が当該範囲内にある多層カーボンナノチューブを用いる場合と比較して、スクリーン紗11の帯電を抑制し続けやすくなる。また、単層のカーボンナノチューブの含有量が当該範囲(0.3質量%以上2.0質量%以下)である場合には、被覆層13の透明性を確保しやすくなる。
【0082】
カーボンナノチューブの長さや直径は、特に限定されず、第1実施形態で説明した長さや直径のカーボンナノチューブを用いることができる。
【0083】
一方、炭素材料13aがグラフェンである場合、炭素材料13aの含有量は、例えば、被覆層100質量%に対し、0.5質量%以上5.0質量%以下とすることができ、0.5質量%以上3.0質量%以下とすることが好ましい。炭素材料13a(グラフェン)の含有量が0.5質量%以上であることにより、0.5質量%未満である場合と比較し、帯電防止の効果が大きくなる。また、炭素材料13a(グラフェン)の含有量が5.0質量%以下であることにより、5.0質量%を超える場合と比較して、被覆層の透明性を確保しやすくなる。
【0084】
炭素材料13aが含有される被覆層13を、メッシュ織物12の表面に固定する方法は、特に限定されるものではないが、第1実施形態と同様に、被覆層13にバインダーを含有する方法を用いることができる。バインダーの成分や含有量は、第1実施形態と同じであるため、詳細な説明は省略する。
【0085】
被覆層3は、カーボンナノチューブやバインダーの他に、界面活性剤、架橋剤などの他の成分を含有することができる。界面活性剤及び架橋剤について、その成分や含有量は、第1実施形態と同じであるため詳細な説明は省略する。なお、被覆層13にバインダーと架橋剤が含まれる場合、被覆層13に含まれるバインダーが架橋する。バインダーが架橋すると、バインダー同士の密着性が向上するため、被覆層13に含まれる物質が被覆層13の外部に放出されたり、被覆層13に接触する物質(例えば、スクリーン紗11の製造過程で使用され得る溶剤やスクリーン印刷の過程で使用されるインクに含まれる物質など)が被覆層13に取り込まれたりすることを抑制できる。このため、製造過程や印刷過程において被覆層13の物性(例えば、体積抵抗値)が変化することを抑制でき、架橋剤が含まれていない場合と比較して、スクリーン紗11の帯電をさらに抑制し続けやすくなる。
【0086】
被覆層13の厚みt’は、第1実施形態と同様に、0.1μm以上1.0μm以下とすることが好ましく、0.1μm以上0.5μm以下とすることがより好ましい。
【0087】
被覆層13の体積抵抗値は、0.01Ω・cm以上1×108Ω・cm以下であることが好ましく、1Ω・cm以上1×108Ω・cm以下であることがより好ましく、1Ω・cm以上1×104Ω・cm以下であることが特に好ましい。被覆層13の体積抵抗値は、被覆層の厚みに応じて、体積抵抗値を0.01Ω・cm以上1×108Ω・cm以下の範囲内でさらに選択することができる。例えば、被覆層13の厚みが1μmである場合、体積抵抗値は1Ω・cm以上1×108Ω・cmとすることが好ましく、被覆層13の厚みが0.1μmの場合、体積抵抗値は1Ω・cm以上1×107Ω・cm以下とすることが好ましい。被覆層13の体積抵抗値が0.01Ω・cm以上である場合、体積抵抗値が0.01Ω・cm以上未満である場合と比較して、少ない炭素材料13aの含有量となるため、被覆層13の透明性が確保されやすい。また、少ない炭素材料13aの含有量となるため、被覆層13の物性が変化(例えば、被覆層13の強度が低下)しにくく、被覆層13のメッシュ織物12への密着性が低下しにくい。また、被覆層13の体積抵抗値が1×108Ω・cm以下である場合、体積抵抗値が1×108Ω・cmを超える場合と比較して、スクリーン紗11の帯電自体を抑制しやすくなる。被覆層13の体積抵抗値は、被覆層13に含有される炭素材料13aの含有量を変更することなどにより調整することができる。
【0088】
被覆層13の体積抵抗値は、上記(1)式を用いて算出することができる。
【0089】
本実施形態のスクリーン紗11は、
図7に示すように、スクリーン版100を構成する部材の一つとして用いることができる。スクリーン版100は、版枠101と、版枠101に張られるスクリーン紗11と、スクリーン紗11の表面に形成される遮蔽膜102と、を有する部材である。
【0090】
版枠101は、矩形状のフレームであり、所定の張力で張られたスクリーン紗11を保持する部材である。版枠101の材料は、特に限定されないが、例えば、金属、鋳物、樹脂、木材を用いることができる。スクリーン紗11を版枠101に固定する手段としては、例えば、接着剤を用いることができる。
【0091】
遮蔽膜102は、所定の印刷パターンに対応する形状の開口Oを設けるための膜である。開口Oは、遮蔽膜102をZ軸方向に貫通している。遮蔽膜102の原料としては、例えば、光の照射によって硬化する感光性樹脂(フォトレジスト)を用いることができる。感光性樹脂としては、ジアゾ系樹脂、ラジカル系樹脂、スチルバソ系樹脂などを使用することができ、使用できる感光性樹脂は、硬化機構によって限定されない。遮蔽膜102の厚さは、被印刷物に形成する印刷パターンの膜厚を考慮して、適宜設定することができる。
【0092】
スクリーン版100を用いてスクリーン印刷を行う場合、遮蔽膜102に設けられる開口Oにインクを充填し、開口O内に配置されるスクリーン紗11によりインクを保持させる。そして、スキージー(不図示)などを用いてスクリーン紗11を被印刷物に接触させた後、被印刷物に接触したスクリーン紗11を被印刷物から離し、開口O内のインクを被印刷物に転移することで、スクリーン印刷が行なわれる。
【0093】
以上説明した本実施形態のスクリーン紗11は、メッシュ織物12の表面に、カーボンナノチューブ13aを含む被覆層13が形成されている。この被覆層13を含むスクリーン紗11は、繰り返しスクリーン印刷を行ったとしても帯電しにくい。また、この帯電を抑制する効果は、長期間維持される。このため、スクリーン紗11の帯電によって生じる、インクのにじみや跳ねを抑制し続けることができる。
【0094】
本実施形態のスクリーン紗11は、第1実施形態の第1の製造方法と同様に、メッシュ織物に対して被覆層の原料となる塗液を塗布し、塗布された塗液を乾燥することで製造することができる。また、本実施形態は、第1実施形態の第2の製造方法と同様に、メッシュ織物の原料(繊維)に対して被覆層の原料となる塗液を塗布及び乾燥して被覆層を形成し、被覆層が形成されたメッシュ織物の原料(繊維)を用いてメッシュ織物を形成することにより製造できる。
【0095】
次に、本実施形態のスクリーン紗を用いてスクリーン版を得る方法を、
図8を用いて説明する。なお、スクリーン版の製造方法は、以下に示す製造方法に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。
【0096】
ステップS301では、所定の張力が加えられた状態で、本実施形態のスクリーン紗を版枠に張る。版枠にスクリーン紗を張るには、紗張機を使用することができる。具体的には、スクリーン紗の4辺方向における部位を、それぞれ紗張機のクランプにて挟持し、このクランプを機械式や空気の圧力を利用して引っ張り、所定の張力、所定のバイアス角度に調節し、所定の張力が加わった状態でスクリーン紗を版枠に固定する。スクリーン紗11に加える所定の張力としては、例えば、21N/cm~36N/cmの範囲とすることができる。
【0097】
ステップS302では、版枠に張られたスクリーン紗の表面に樹脂層を形成する。樹脂層は、後述するステップS303~S305の処理を経て、遮蔽膜を構成する。樹脂層として、例えば、上述した感光性樹脂を用いることができる。樹脂層の形成方法は、特に限定されるものではなく、固体(例えば、フィルム)の感光性樹脂をスクリーン紗11の表面に貼る方法や、溶媒を含む液体の感光性樹脂をスクリーン紗11の表面に塗布し、これを乾燥して溶媒を蒸発・除去する方法を用いることができる。樹脂層の厚みは、上述した遮蔽膜の厚みを考慮して適宜設定することができる。
【0098】
ステップS303の処理では、所定の印刷パターンに対応する形状のマスクを、樹脂層の表面に貼る。マスクは、紫外線の透過を防止できるものであればよく、例えば、フィルムやガラスを用いることができる。
【0099】
ステップS304の処理では、マスクが貼り付けられた樹脂層に対して紫外線を照射する。これにより、マスクによって紫外線が照射されない部位を除き、樹脂層が硬化する。
【0100】
ステップS305の処理では、樹脂層を現像し、マスクと、樹脂層における紫外線が照射されていない部位(硬化していない部位)を除去する。紫外線が照射されていない部位が除去されることで、所定の印刷パターンに対応する形状の開口が設けられる遮蔽膜がスクリーン紗の表面に形成される。
【0101】
これらのステップS301~S305の処理により、スクリーン版を製造することができる。
【実施例】
【0102】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0103】
まず、メッシュ部材が篩網である実施例について説明する。
【0104】
(実施例1(篩網))
ポリエステル樹脂と、アクリル樹脂と、ノニオン系界面活性剤(エボニック社製:WET 510)と、架橋剤(オキサゾリン系架橋剤)と、単層カーボンナノチューブ(長さ:1μm以上20μm以下)を水に分散したカーボンナノチューブ分散液と、水を混合し、塗液を得た。ナイロンからなる、直径50μmの繊維を用意した。この繊維を経糸及び緯糸として、メッシュ数(1インチ当たりにおける糸の本数)200(本/inch)で平織りに製織して網体を得た。得られた網体に対してコロナ処理を行った。コロナ処理した網体を、塗液に浸漬し、塗液を網体に塗布した。網体に塗布された塗液を熱風を用いて乾燥し、網体の表面に被覆層を形成した。被覆層が形成された網体を、実施例1の篩網とした。
【0105】
(実施例2(篩網))
塗液に含まれる単層カーボンナノチューブの含有量を変更するとともに、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂の含有量を変更したこと以外は実施例1と同様の条件で、実施例2の篩網を得た。
【0106】
(実施例3(篩網))
塗液に含まれるカーボンナノチューブ分散液にかえて、多層カーボンナノチューブ(長さ:26μm)を水に分散したカーボンナノチューブ分散液を用いるとともに、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂の含有量を変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で、実施例3の篩網を得た。
【0107】
(比較例1(篩網))
実施例1と同様の方法で網体を取得した。取得した網体を比較例1の篩網とした。
【0108】
実施例及び比較例の篩網における被覆層の組成を、表1に示す。また、被覆層の厚みと被覆層の体積抵抗値を、表1に示す。なお、被覆層の厚みtは、篩網の任意の3箇所における篩網の断面を用いて、被覆層の厚みを走査電子顕微鏡(SEM)でそれぞれ測定し、測定した被覆層の厚みを加算平均することにより得た。また、被覆層の体積抵抗値は、JISK7194(1994年)に準じて測定した被覆層の表面抵抗値ρsと、得られた被覆層の厚みtを、上記(1)式に当てはめて得た。
【0109】
【0110】
[ふるい抜け性評価]
テストシフターTS-245(東京製粉機製作所製)を用い、縦20cm、横20cmとなるように実施例及び比較例の篩網をそれぞれ木枠に張り、1200gのでんぷん粉(ホクレン(株)製,体積平均粒子径40μm)を投入し、テストシフターを運転させ、10秒毎の篩い抜け量を計測した。テストシフターの運転を開始してから240秒間の結果を
図9に示す。
【0111】
図9に示すように、テストシフターの運転を開始してから30秒後には、実施例1~3の篩網は、比較例1の篩網と比較して、篩を通過したでんぷん粉が多くなっていた。また、テストシフターの運転を開始してから240秒後には、実施例1~3の篩網は、比較例1の篩網と比較して、80g以上も多くのでんぷん粉を通過した。この結果から、実施例1~3の篩網は、帯電を抑制でき、粉体の篩い抜け効率に優れることが理解できた。
【0112】
また、単層カーボンナノチューブが用いられる実施例1の篩網では、テストシフターの運転を開始してから240秒後には、1000g以上もでんぷん粉が通過し、単層カーボンナノチューブが用いられる実施例2の篩網では、テストシフターの運転を開始してから30秒後には、1000g以上もでんぷん粉が通過していた。それに対し、多層カーボンナノチューブを用いられる実施例3の篩網では、テストシフターの運転を開始してから240秒後には400g程度しかでんぷん粉が通過していなかった。これらの結果から、カーボンナノチューブの含有量が同程度である場合、多層カーボンナノチューブを用いるよりも、単層カーボンナノチューブが用いた方が、より帯電しにくく、篩い抜け効率がより向上できる理解できた。また、これらの結果から、体積抵抗値が1×109Ω・cmから0.25Ω・cmまで小さくなるにつれて、帯電を抑制しやすくなり、篩い抜け効率がより向上していくことが理解できた。
【0113】
[付着性評価]
実施例1及び比較例1の篩網それぞれを10cm角にカットし、でんぷん粉を振りかけた。その後、軽く衝撃を加え、でんぷん粉を篩網から落下させた。でんぷん粉が付着する前後の篩網の重量を測定し、篩網に付着したでんぷん粉の重量を算出した。結果を
図10に示す。
【0114】
図10から理解できるように、実施例1の篩網は、比較例1の篩網と比較して、衝撃を加えた後に付着していたでんぷん粉が250mg以上も少なった。これらの結果から、実施例1の篩網は、比較例1の篩網よりも、帯電を抑制しやすく、でんぷん粉が付着しにくいことが理解できた。
【0115】
(参考例1)
ポリエステル樹脂と、アクリル樹脂と、ノニオン系界面活性剤(エボニック社製:WET 510)と、単層カーボンナノチューブ(長さ:1μm以上20μm以下)を水に分散したカーボンナノチューブ分散液と、水を混合し、単層カーボンナノチューブの含有量が異なる4種の塗液を得た。得られた塗液それぞれを、バーコーターでフィルムに塗布した。それぞれのフィルムに塗布された塗液を、熱風を用いて乾燥し、被覆層が形成された4枚のフィルムを得た。
【0116】
(参考例2)
参考例1で用いたカーボンナノチューブ分散液にかえて、多層カーボンナノチューブ(長さ:26μm)を水に分散したカーボンナノチューブ分散液を用いたこと以外は、参考例1と同様の条件で、多層カーボンナノチューブの含有量が異なる4種の塗液を得た。得られた塗液それぞれを、バーコーターでフィルムに塗布した。それぞれのフィルムに塗布された塗液を、熱風を用いて乾燥し、被覆層が形成された4枚のフィルムを得た。
【0117】
参考例の各フィルムに形成される被覆層について、体積抵抗値を測定した。なお、体積抵抗値は、実施例1と同様の条件で測定した。結果を
図11に示す。
【0118】
図11に示すように、単層カーボンナノチューブが用いられる参考例1のフィルムでは、カーボンナノチューブを0.3質量%以上含有させれば、帯電防止性能が発揮されやすくなる体積抵抗値(1×10
8Ω・cm以下)の被覆層が得られた。一方、多層カーボンナノチューブが用いられる参考例2のフィルムでは、カーボンナノチューブを2.0質量%よりも多く含有させなければ、帯電防止性能が発揮されやすくなる体積抵抗値(1×10
8Ω・cm以下)の被覆層が得られなかった。この結果から、単層カーボンナノチューブが用いられるメッシュ部材は、多層カーボンナノチューブが用いられるメッシュ部材と比較して、カーボンナノチューブが少量であっても、帯電しにくいことが理解できた。
【0119】
また、参考例1~2のフィルムに形成される被覆層を目視で確認したところ、参考例1のフィルムでは、帯電防止性能が発揮されやすくなる体積抵抗値(1×108Ω・cm以下)の被覆層が透明であったのに対し、参考例2のフィルムでは、帯電防止性能が発揮されやすくなる体積抵抗値(1×108Ω・cm以下)の被覆層は黒色に着色されていた。この結果から、単層カーボンナノチューブが用いられる参考例1のフィルムでは、帯電防止性能が発揮されやすくなる体積抵抗値(1×108Ω・cm以下)の被覆層が形成されたとしても、透明性が確保されやすいことが理解できた。一方、多層カーボンナノチューブが用いられる参考例2のフィルムでは、帯電防止性能が発揮されやすくなる体積抵抗値(1×108Ω・cm以下)の被覆層が形成されると、透明性が確保されにくいことが理解できた。
【0120】
[全光線透過率評価]
ヘイズメーターNDH2000(日本電色工業)を用い、参考例1の各フィルムに関し、全光線透過率を測定した。単層のカーボンナノチューブを0.1質量%で全光線透過率が89.48%、2.0質量%で全光線透過率が81.25%であった。この結果より、単層のカーボンナノチューブについて、全光線透過率が80%以上90%未満になるような濃度であれば透明性がより確保されやすくなり、より好ましくは85%以上90%未満であることが理解できた。
【0121】
次に、本実施形態のメッシュ部材がスクリーン紗である実施例について説明する。
【0122】
(実施例1(スクリーン紗))
ポリエステル樹脂と、アクリル樹脂と、ノニオン系界面活性剤(エボニック社製:WET 510)と、単層カーボンナノチューブ(長さ:1μm以上20μm以下)を水に分散したカーボンナノチューブ分散液と、水を混合し、塗液を得た。ポリエチレンテレフタレートからなる、直径35μmの繊維を用意した。この繊維を経糸及び緯糸として、メッシュ数(1インチ当たりにおける糸の本数)305(本/inch)で平織りに製織してメッシュ織物を得た。得られたメッシュ織物に対してコロナ処理を行った。コロナ処理したメッシュ織物を、塗液に浸漬し、塗液をメッシュ織物に塗布した。メッシュ織物に塗布された塗液を熱風を用いて乾燥し、メッシュ織物の表面に被覆層を形成した。被覆層が形成されたメッシュ織物を、実施例1のスクリーン紗とした。
【0123】
(比較例1(スクリーン紗))
実施例1と同様の方法でメッシュ織物を取得し、このメッシュ織物に対してSUS304でスパッタリングした蒸着膜(カーボンナノチューブ及びグラフェンを含有しない)を形成した市販品のメッシュ織物を、比較例1のスクリーン紗とした。
【0124】
(比較例2(スクリーン紗))
実施例1と同様の方法でメッシュ織物を取得した。取得したメッシュ織物を、比較例2のスクリーン紗とした。
【0125】
実施例及び比較例のスクリーン紗における被覆層の組成を、表2に示す。また、被覆層の厚みと被覆層の体積抵抗値を、表1に示す。なお、被覆層の厚みtは、スクリーン紗の任意の3箇所におけるスクリーン紗の断面を用いて、被覆層の厚みを走査電子顕微鏡(SEM)でそれぞれ測定し、測定した被覆層の厚みを加算平均することにより得た。また、被覆層の体積抵抗値は、JISK7194(1994年)に準じて測定した被覆層の表面抵抗値ρsと、得られた被覆層の厚みtを、上記(1)式に当てはめて得た。
【0126】
【0127】
[帯電防止性能評価]
実施例1及び比較例1のスクリーン紗それぞれを、4辺方向における部位を紗張機のクランプにて挟持し、0.90mm(30.4N/cm)の張力で、アルミ製の版枠に張った。版枠に張られたスクリーン紗それぞれに、ジアゾ系感光性樹脂(王子タック株式会社製、製品名:AX-81)をバケットを用いて塗布し、塗布された感光性樹脂を乾燥させた。さらに、感光性樹脂の塗布及び乾燥を繰り返し、樹脂層の厚さを10μmとした。その後、樹脂層の上面にマスクを貼り付けて露光及び現像することによって、所定の印刷パターンに対応する形状の開口が形成される遮蔽膜をスクリーン紗の表面に形成し、スクリーン版を得た。
【0128】
得られたスクリーン版を用いて、スクリーン印刷を5000枚行った。スクリーン印刷は、押込み量(スキージの先端が被印刷物に接触する位置を基準として、スキージを下降した距離)を1mmに、クリアランス(スクリーン紗と被印刷物との間の距離)を2.0mmに、印刷速度を200mm/秒にして行った。スクリーン印刷を行う前とスクリーン印刷を1000枚行う毎に、インクを拭き取り、メチルエチルケトンを染み込ませたウエスで擦りながら洗浄し、エアーでメチルエチルケトンを吹き飛ばして、さらに乾燥させ、実施例1及び比較例1のスクリーン紗の摩擦耐電圧を測定した。結果を
図12に示す。
【0129】
図12に示すように、実施例1のスクリーン紗は、スクリーン印刷を5000枚行った後の摩擦耐電圧が-0.01kV程度であったのに対し、比較例のスクリーン紗は、スクリーン印刷を5000枚行った後の摩擦耐電圧が-1.4kV程度もあった。また、実施例1のスクリーン紗は、スクリーン印刷を5000枚行ったとしても摩擦帯電圧が-0.03kV程度しか変化していないのに対し、比較例1のスクリーン紗は、摩擦耐電圧が-1.1kVも変化していた。これらの結果から、実施例1のスクリーン紗は、スクリーン印刷を行ったとしても帯電しにくく、帯電によって生じるインクのにじみや跳ねを抑制できることが理解できた。つまり、実施例1のスクリーン紗は、帯電を抑制し続けられることが理解できた。
【0130】
[紫外線反射率評価]
実施例1および比較例2のスクリーン紗における光の反射率を、分光光度計(V-670、日本分光株式会社)を用いて測定した。測定には、ピーク波長が375nmの紫外線を用いた。測定の結果、実施例1の光の反射率が7.23%であり、比較例2の光の反射率が8.26%であった。実施例1では比較例2と比べて、光の反射率が約1%低下しており、このことから、実施例1のスクリーン紗は、比較例1のスクリーン紗と比較して、露光時に乱反射を低下させ、細い線を含む所定の印刷パターンが形成されやすくなる(遮蔽膜の開口精度が向上しやすい)ことがわかった。
【0131】
次に、グラフェンを含む被覆層が形成されたメッシュ部材の実施例について説明する。
【0132】
(実施例1)
ポリエステル樹脂と、アクリル樹脂と、ノニオン系界面活性剤(エボニック社製:WET 510)と、架橋剤(オキサゾリン系架橋剤)と、グラフェンを水に分散したグラフェン分散液と、水を混合し、塗液を得た。ナイロンからなる、直径50μmの繊維を用意した。この繊維を経糸及び緯糸として、メッシュ数(1インチ当たりにおける糸の本数)200(本/inch)で平織りに製織してメッシュ織物を得た。得られたメッシュ織物に対してコロナ処理を行った。コロナ処理したメッシュ織物を、塗液に浸漬し、塗液をメッシュ織物に塗布した。メッシュ織物に塗布された塗液を熱風を用いて乾燥し、メッシュ織物の表面に被覆層を形成した。被覆層が形成されたメッシュ織物を、実施例1のメッシュ部材とした。
【0133】
(比較例1)
ポリエステル樹脂とアクリル樹脂を混合した塗液を得た。実施例1と同様の方法で、メッシュ織物を得た。得られたメッシュ織物に対してコロナ処理を行った。コロナ処理したメッシュ織物を、塗液に浸漬し、塗液をメッシュ織物に塗布した。メッシュ織物に塗布された塗液を熱風を用いて乾燥し、メッシュ織物の表面に被覆層を形成した。被覆層が形成されたメッシュ織物を、比較例1のメッシュ部材とした。
【0134】
実施例及び比較例のメッシュ部材における被覆層の組成を、表3に示す。また、被覆層の厚みと被覆層の体積抵抗値を、表3に示す。なお、被覆層の厚みt、被覆層の体積抵抗値は、上記と同様に測定した。
【0135】
【0136】
表3に示すように、実施例1のメッシュ部材は、比較例1のメッシュ部材と比較して、被覆層の体積抵抗値が低かった。この結果から、実施例1のメッシュ部材は、帯電を抑制できることが理解できた。